(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180202
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】樹脂フィルム、樹脂フィルムの製造方法および位相差フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20231213BHJP
C08L 1/26 20060101ALI20231213BHJP
C08L 35/00 20060101ALI20231213BHJP
C08L 39/04 20060101ALI20231213BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
G02B5/30
C08L1/26
C08L35/00
C08L39/04
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168679
(22)【出願日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2022093284
(32)【優先日】2022-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】東 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 寛教
(72)【発明者】
【氏名】中西 貞裕
(72)【発明者】
【氏名】長原 一平
(72)【発明者】
【氏名】北川 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】藤井 靖芳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正泰
(72)【発明者】
【氏名】小峯 拓也
【テーマコード(参考)】
2H149
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
2H149AA02
2H149AA18
2H149AB01
2H149AB02
2H149AB26
2H149DA01
2H149DA02
2H149DA12
2H149DA18
2H149DA39
2H149DA40
2H149DB25
2H149DB28
2H149FA02X
2H149FA12Y
2H149FD04
2H149FD05
2H149FD06
2H149FD26
2H149FD47
4F071AA09
4F071AA37X
4F071AF31Y
4F071AG12
4F071AG28
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA02
4F071BB02
4F071BB07
4F071BC01
4F071BC12
4J002AB03W
4J002BH02Y
4J002BJ00X
4J002GP00
(57)【要約】
【課題】優れた外観を有し、逆波長分散特性を有する位相差フィルムの製造に好適に用いられ得る樹脂フィルムおよびその製造方法と、該樹脂フィルムを用いた位相差フィルムの製造方法とを提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態による樹脂フィルムは、正の複屈折を示す樹脂と、負の複屈折を示す樹脂とを含有しており、一方面と他方面との屈折率差が下記式(I)を満足している。該屈折率差≦|樹脂フィルムの厚み×0.00001|・・・(I)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正の複屈折を示す樹脂と、負の複屈折を示す樹脂とを含有する樹脂フィルムであって、
樹脂フィルムにおける一方面と他方面との屈折率差が、下記式(I)を満足する、樹脂フィルム:
前記屈折率差≦|樹脂フィルムの厚み×0.00001|・・・(I)。
【請求項2】
ナノ相分離構造が形成されている、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
溶媒含有率が10質量%以下である、請求項1または2に記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
厚みが400μm以下である、請求項1または2に記載の樹脂フィルム。
【請求項5】
正の複屈折を示す樹脂と負の複屈折を示す樹脂とを溶媒に溶解して樹脂溶液を調製する工程と、
前記樹脂溶液を支持基材上に塗布して第1塗膜を形成する工程と、
前記第1塗膜を加熱して乾燥させて、厚み200μm以下の第1ドライ膜を形成する工程と、
前記樹脂溶液を前記第1ドライ膜上に塗布して第2塗膜を形成する工程と、
前記第2塗膜を加熱して乾燥させて、厚み200μm以下の第2ドライ膜を形成する工程と、を含む、樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂溶液を前記第2ドライ膜上に塗布して第3塗膜を形成する工程と、
前記第3塗膜を加熱して乾燥させて、厚み200μm以下の第3ドライ膜を形成する工程と、をさらに含む、請求項5に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の樹脂フィルムの製造方法によって製造される樹脂フィルムを延伸する工程を含む、位相差フィルムの製造方法。
【請求項8】
延伸前の樹脂フィルムのRth(450)/Rth(550)が1.00未満であり、
位相差フィルムのRe(450)/Re(550)は、0.90未満であり、
前記延伸前の樹脂フィルムのRth(450)/Rth(550)と、前記位相差フィルムのRe(450)/Re(550)との差が0.06以上である、請求項7に記載の位相差フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルム、樹脂フィルムの製造方法および位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置およびエレクトロルミネセンス(EL)表示装置(例えば、有機EL表示装置、無機EL表示装置)に代表される画像表示装置が急速に普及している。有機EL表示装置では、λ/4板を含む円偏光板を有機ELセルの視認側に配置することにより、外光反射や背景の映り込み等の問題を防ぐことが知られている(例えば、特許文献1および2)。
【0003】
上記円偏光板に用いるλ/4板に関しては、広い波長領域にわたって優れた反射防止特性を実現する観点から、長波長域ほど位相差が大きい、いわゆる逆波長分散特性を示す位相差フィルムが求められている。このような要望に対して、正の複屈折を示すセルロース系樹脂および負の複屈折を示すエステル系樹脂を含有し、面内位相差が逆波長分散特性を示す位相差フィルムが提案されている(例えば、特許文献3)。このような特許文献3に記載の位相差フィルムは、セルロース系樹脂およびエステル系樹脂が溶解された樹脂溶液を支持基材上に塗布した後、加熱により溶媒を蒸発させて樹脂フィルムを形成し、樹脂フィルムを延伸して製造される。しかし、このような製造方法では、延伸前の樹脂フィルムに気泡が内包される場合があり、樹脂フィルムの外観には改善の余地が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-311239号公報
【特許文献2】特開2002-372622号公報
【特許文献3】特開2021-140095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的とするところは、優れた外観を有し、逆波長分散特性を有する位相差フィルムの製造に好適に用いられ得る樹脂フィルムおよびその製造方法と、当該樹脂フィルムを用いた位相差フィルムの製造方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明の実施形態による樹脂フィルムは、正の複屈折を示す樹脂と負の複屈折を示す樹脂とを含有しており、該樹脂フィルムにおける一方面と他方面との屈折率差は下記式(I)を満足している。
上記屈折率差≦|樹脂フィルムの厚み×0.00001|・・・(I)
[2]1つの実施形態は、上記樹脂フィルムにおいてナノ相分離構造が形成されている、上記項目[1]に記載の樹脂フィルムである。
[3]1つの実施形態は、上記樹脂フィルムにおける溶媒含有率が10質量%以下である、上記項目[1]または[2]に記載の樹脂フィルムである。
[4]1つの実施形態は、厚みが400μm以下である、上記項目[1]から[3]のいずれかに記載の樹脂フィルムである。
[5]本発明の別の局面による樹脂フィルムの製造方法は、正の複屈折を示す樹脂と負の複屈折を示す樹脂とを溶媒に溶解して樹脂溶液を調製する工程と;該樹脂溶液を支持基材上に塗布して第1塗膜を形成する工程と;該第1塗膜を加熱して乾燥させて、厚み200μm以下の第1ドライ膜を形成する工程と;上記樹脂溶液を該第1ドライ膜上に塗布して第2塗膜を形成する工程と;該第2塗膜を加熱して乾燥させて、厚み200μm以下の第2ドライ膜を形成する工程と;を含んでいる。
[6]1つの実施形態は、上記樹脂溶液を上記第2ドライ膜上に塗布して第3塗膜を形成する工程と;該3塗膜を加熱して乾燥させて、厚み200μm以下の第3ドライ膜を形成する工程と;をさらに含んでいる、上記項目[5]に記載の樹脂フィルムの製造方法である。
[7]本発明のさらに別の局面による位相差フィルムの製造方法は、上記項目[5]または[6]に記載の樹脂フィルムの製造方法によって製造される樹脂フィルムを延伸する工程を含んでいる。
[8]1つの実施形態は、延伸前の樹脂フィルムのRth(450)/Rth(550)が1.00未満であり、位相差フィルムのRe(450)/Re(550)が0.90未満であり、上記延伸前の樹脂フィルムのRth(450)/Rth(550)と、上記位相差フィルムのRe(450)/Re(550)との差が0.06以上である、上記項目[7]に記載の位相差フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、優れた外観を有し、逆波長分散特性を有する位相差フィルムの製造に好適に用いられ得る樹脂フィルムおよびその製造方法を実現でき、当該樹脂フィルムを用いた位相差フィルムの製造方法を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の代表的な実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
(用語および記号の定義)
本明細書における用語および記号の定義は下記の通りである。
(1)屈折率(nx、ny、nz)
「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。
(2)面内位相差(Re)
「Re(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した面内位相差である。例えば、「Re(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差である。Re(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Re(λ)=(nx-ny)×dによって求められる。
(3)厚み方向の位相差(Rth)
「Rth(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した厚み方向の位相差である。例えば、「Rth(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差である。Rth(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Rth(λ)=(nx-nz)×dによって求められる。
(4)Nz係数
Nz係数は、Nz=Rth/Reによって求められる。
(5)面内複屈折(Δn)
「Δn(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した面内複屈折である。例えば、「Δn(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内複屈折である。面内複屈折(Δn)は、式:Δn=nx-nyから求められる。
【0010】
A.樹脂フィルムの概要
本発明の実施形態による樹脂フィルムは、正の複屈折を示す樹脂(以下、正の複屈折樹脂と称する場合がある。)と、負の複屈折を示す樹脂(以下、負の複屈折樹脂と称する場合がある。)と、を含有している。樹脂フィルムにおける一方面と他方面との屈折率差は、樹脂フィルムの厚み(μm)に0.00001を掛けた値の絶対値以下であり、下記式(I)を満足している。
上記屈折率差≦|樹脂フィルムの厚み×0.00001|・・・(I)
本発明者らは、樹脂フィルムの両面の屈折率差と樹脂フィルムに内包される気泡とが相関し、樹脂フィルムの両面の屈折率差を樹脂フィルムの厚みとの関係から特定の上限以下に調整すると、樹脂フィルムに内包される気泡が低減できることを見出し、本発明を完成させた。本発明の1つの実施形態によれば、樹脂フィルムの両面の屈折率差が上記式(I)を満足しているので、樹脂フィルムに内包される気泡を低減でき、樹脂フィルムの外観の向上を図ることができる。また、樹脂フィルムの両面の屈折率差が上記式(I)を満足していると、樹脂フィルムを延伸したときに、位相差フィルムに逆波長分散特性を安定して発現できる。そのため、樹脂フィルムを、逆波長分散特性を有する位相差フィルムの製造に好適に用いることができる。また、上記樹脂フィルムに内包される気泡が低減されているので、上記樹脂フィルムから製造される位相差フィルムにおいて、位相差ムラを低減できる。
【0011】
樹脂フィルムの表面(一方面または他方面)の屈折率は、23℃における波長594nmの光で測定した値であって、例えばJIS K7142に準拠して測定される。樹脂フィルムの表面(一方面および他方面)は、代表的には、光学的に異方性であり、面内複屈折Δnを有する。樹脂フィルムの表面が複屈折を有する場合、樹脂フィルムの表面の屈折率は、TE偏光およびTM偏光における屈折率を測定し、それらの平均屈折率を算出して求められる。平均屈折率は、〔2×(TE偏光での屈折率)+(TM偏光での屈折率)〕/3により算出される。
【0012】
1つの実施形態では、樹脂フィルムにおいてナノ相分離構造が形成されている。このような構成によれば、樹脂フィルムを延伸して製造される位相差フィルムに、逆分散特性(位相差値が測定光の波長に応じて大きくなる逆分散の波長依存性)を安定して付与できる。
本明細書において、「ナノ相分離構造」とは、電子密度の異なる2成分がナノオーダー(代表的には数十nmレベル)のドメインサイズで相分離した構造を意味する。正の複屈折樹脂および負の複屈折樹脂は、海島構造であってもよく、共連続構造であってもよい。ナノ相分離構造の確認手段としては、例えば、透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)および、X線小角散乱(SAXS)が挙げられ、好ましくは、樹脂フィルムの断面のTEM観察が挙げられる。樹脂フィルムにナノ相分離構造が形成されている場合、樹脂フィルムの断面のTEM観察において、電子密度の異なる2種のドメインを確認でき、すべてのドメインのサイズ(最大長さ)が100nm未満であることを確認できる。より具体的には、樹脂フィルムの厚み方向の中央付近(樹脂フィルムの厚みを100%としたときに、樹脂フィルムの厚み方向の中央から±20%の領域)をサンプリングし、重金属染色を含む超薄切片法により、樹脂フィルムの断面をTEM(例えば、HT7820,日立社製)により観察する(断面TEM観察)。これによって、ナノ相分離構造を確認できる。
【0013】
1つの実施形態では、樹脂フィルムにおける溶媒含有率が、10質量%以下、好ましくは8.0質量%以下、より好ましくは6.5質量%以下である。溶媒含有率が上記上限以下であれば、樹脂フィルムに内包される気泡をさらに低減できる。なお、樹脂フィルムにおける溶媒含有率は、低いほど好ましく、代表的には1.0質量%以上である。
【0014】
1つの実施形態では、樹脂フィルムの厚みは、400μm以下、好ましくは350μm以下、より好ましくは300μm以下であり、例えば150μm以上、好ましくは200μm以上である。樹脂フィルムの厚みが上記下限以上であると、樹脂フィルムの厚みが上記下限未満である場合と比べて、樹脂フィルムが気泡を内包しやすい。しかし、上記の実施形態では、樹脂フィルムの両面の屈折率差が上記式(I)を満足するように調整されているので、樹脂フィルムの厚みが上記下限以上であっても、樹脂フィルムが気泡を内包することを抑制でき、樹脂フィルムの外観の向上を図ることができる。
【0015】
B.樹脂フィルムの製造方法の概要
上記した樹脂フィルムは、代表的には、下記の製造方法により製造される。
1つの実施形態による樹脂フィルムの製造方法は、正の複屈折樹脂と負の複屈折樹脂とを溶媒に溶解して樹脂溶液を調製する工程(溶液調製工程)と;樹脂溶液を支持基材上に塗布して支持基材上に第1塗膜を形成する工程(第1塗布工程)と;第1塗膜を加熱して乾燥させて厚み200μm以下の第1ドライ膜を形成する工程(第1乾燥工程)と;樹脂溶液を第1ドライ膜上に塗布して第2塗膜を形成する工程(第2塗布工程)と;第2塗膜を加熱して乾燥させて厚み200μm以下の第2ドライ膜を形成する工程(第2乾燥工程)と;を含んでいる。厚みが200μmを超過する樹脂フィルムを、1回の樹脂溶液の塗布および乾燥により形成すると、樹脂フィルム(特に樹脂フィルムにおける支持基材側の部分)に気泡が内包される場合がある。本発明の1つの実施形態では、樹脂溶液の塗布および塗膜の乾燥を繰り返し、厚み200μm以下のドライ膜を積層して樹脂フィルムを製造する。この場合、塗膜の厚みが相対的に薄いので、各乾燥工程において塗膜(第1塗膜または第2塗膜)の内部に生じた気泡が、塗膜から円滑に除去される。そのため、樹脂フィルムに気泡が内包されることを抑制できる。また、各乾燥工程において塗膜(第1塗膜または第2塗膜)を十分かつ均一に加熱できるので、樹脂フィルムにおける両面の屈折率差を、上記式(I)を満足するように安定して調整できる。
【0016】
C.溶液調製工程
溶液調製工程では、正の複屈折を示す樹脂(正の複屈折樹脂)と負の複屈折を示す樹脂(負の複屈折樹脂)とを溶媒に溶解する。
「正の複屈折を示す」とは、ポリマーを延伸等により配向させた場合に、その延伸方向と直交する方向の屈折率が相対的に小さくなることをいう。換言すると、延伸方向の屈折率が大きくなることをいう。「負の複屈折を示す」とは、ポリマーを延伸等により配向させた場合に、その延伸方向の屈折率が相対的に小さくなることをいう。換言すると、延伸方向と直交する方向の屈折率が大きくなることをいう。
【0017】
C―1.正の複屈折を示す樹脂(正の複屈折樹脂)
正の複屈折樹脂としては、本発明の効果が得られる限りにおいて制限されず、例えば、セルロース、セルロース誘導体等のセルロース系樹脂を用いることができる。セルロース誘導体としては、例えば、セルロースにおける水酸基の少なくとも一部がエーテル化されたセルロースエーテル、同様に水酸基の少なくとも一部がエステル化されたセルロースエーテルエステルが挙げられる。正の複屈折樹脂は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
セルロース系樹脂は、代表的には、β-グルコース単位が直鎖状に重合した高分子であって、下記式(1)に示す構成単位を有している。
【化1】
(式(1)中、R
1~R
3のそれぞれは、水素原子または炭素数1~12の置換基を示す)。
【0019】
上記式(1)においてR1~R3で示される炭素数1~12の置換基として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デカニル基、ドデカニル基、イソブチル基、t-ブチル基などのアルキル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基;ベンジル基などのアラルキル基;アセチル基、プロピオニル基などのアシル基;シアノエチル基などのシアノアルキル基;アミノエチル基などのアミノアルキル基;2-ヒドロキシエチル基、3-ヒドロキシプロピル基などのヒドロキシアルキル基;が挙げられる。
上記式(1)においてR1~R3は、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
上記式(1)のR1~R3のそれぞれとして、好ましくは、水素原子、および、炭素数1~12のアルキル基が挙げられ、より好ましくは、水素原子、および、炭素数1~4のアルキル基が挙げられ、さらに好ましくは、水素原子、および、エチル基が挙げられる。
【0020】
セルロース系樹脂の置換度(以下、DSという。)は、代表的には1.5以上2.95以下、好ましくは1.8以上2.8以下である。DSとは、セルロース系樹脂において水酸基が置換されている割合であって、100%置換している場合DSは3である。DSは、第十七改正日本薬局方に記載のように、ガスクロマトグラフィーのピーク面積から算出できる。
【0021】
セルロース系樹脂の標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、例えば、1×103以上1×106以下、好ましくは、5×103以上2×105以下である。セルロース系樹脂のMnは、ゲル・パ-ミエイション・クロマトグラフィ-(GPC)により測定した溶出曲線より算出できる。セルロース系樹脂のMnが上記の範囲であれば、位相差層の機械特性および/または成形加工性の向上を図ることができる。
【0022】
セルロース系樹脂は、相対的にガラス転移温度(Tg)が低く、エステル系樹脂は、相対的にTgが高い。セルロース系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば140℃以下、好ましくは135℃以下であり、例えば120℃以上、好ましくは125℃以上である。セルロース系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、DSC(Differential Scanning Calorimetry)等の熱分析装置によって測定できる。
【0023】
セルロース系樹脂の具体例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロースなどのアルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロース;ベンジルセルロースなどのアラルキルセルロース;シアノエチルセルロースなどのシアノアルキルセルロース;カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロースなどのカルボキシアルキルセルロース;カルボキシメチルメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロースなどのカルボキシアルキルアルキルセルロース;アミノエチルセルロースなどのアミノアルキルセルロースが挙げられる。セルロース系樹脂は、単独でまたは組み合わせて使用できる。
セルロース系樹脂のなかでは、好ましくは、アルキルセルロースが挙げられ、より好ましくはエチルセルロースが挙げられる。
【0024】
正の複屈折樹脂の使用割合は、正の複屈折樹脂および負の複屈折樹脂の総和を100質量%としたときに、代表的には50質量%を超過し、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。正の複屈折樹脂の使用割合が上記下限以上であれば、正の複屈折樹脂および負の複屈折樹脂からナノ相分離構造を形成できる。なお、正の複屈折樹脂の使用割合の上限は、代表的には90質量%以下である。
【0025】
C―2.負の複屈折を示す樹脂(負の複屈折樹脂)
負の複屈折樹脂としては、本発明の効果が得られる限りにおいて制限されず、例えば、下記式(2)に示す構成単位と、下記式(3)に示す構成単位とを有するエステル系樹脂を用いることができる。負の複屈折樹脂は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【化2】
(式(2)中、R
4は、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R
5aは、炭素数1~12のアルキル基、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、または、チオール基から選択される1種を示し;R
5bは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R
6は、水素原子、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、フェニル基、チオール基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1~12のアルコキシ基、または、炭素数1~12のアルキル基から選択される種を示す。)
【化3】
(式(3)中、R
7は、ヘテロ原子として窒素原子もしくは酸素原子を1つ以上含む5員環複素環残基または6員環複素環残基(前記5員環複素環残基および前記6員環複素環残基は他の環状構造と縮合環構造を形成してもよい)を示す。)
【0026】
上記式(2)に示す構成単位は、ケイ皮酸エステル残基単位である。上記式(2)においてR4で示される炭素数1~12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、エチルヘキシル基が挙げられる。上記式(2)のR4のなかでは、好ましくは、炭素数1~4のアルキル基が挙げられ、より好ましくは、エチル基、イソブチル基が挙げられる。
上記式(2)のR5aのなかでは、好ましくは、炭素数1~12のアルキル基、シアノ基が挙げられ、より好ましくは、炭素数1~4のアルキル基、シアノ基が挙げられ、さらに好ましくはシアノ基が挙げられる。
上記式(2)のR5bのなかでは、好ましくは、水素原子、炭素数1~4のアルキル基が挙げられる。
上記式(2)のR6は、ベンゼン環に1つのみ結合してもよく、ベンゼン環に2つ以上結合してもよい。上記式(2)のR6のなかでは、好ましくは、カルボン酸基、ヒドロキシ基が挙げられる。
【0027】
上記式(2)に示す構成単位(ケイ皮酸エステル残基単位)の具体例としては、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸n-プロピル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソプロピル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸n-ブチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソブチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸s-ブチル残基単位、α-シアノ-2,4-ジヒドロキシケイ皮酸メチル残基単位などのα-シアノ-ヒドロキシケイ皮酸エステル残基単位;α-シアノ-4-カルボキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-4-カルボキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-2,3-ジカルボキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-2,3-ジカルボキシケイ皮酸エチル残基単位などのα-シアノ-カルボキシケイ皮酸エステル残基単位;α-シアノ-2-カルボキシ-3-ヒドロキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-2-カルボキシ-3-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位などのα-シアノ-カルボキシ-ヒドロキシケイ皮酸エステル残基単位;3-メチル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸メチル残基単位、3-エチル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エチル残基単位などの3-アルキル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位;3-メチル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸メチル残基単位、3-エチル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エチル残基単位などの3-アルキル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位;2-シアノ-3-メチル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸メチル残基単位、2-シアノ-3-エチル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エチル残基単位などの2-シアノ-3-アルキル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位;2-シアノ-3-メチル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸メチル残基単位、2-シアノ-3-エチル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エチル残基単位などの2-シアノ-3-アルキル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位が挙げられる。
【0028】
エステル系樹脂は、上記式(2)に示す構成単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。上記式(2)に示す構成単位のなかでは、好ましくは、α-シアノ-ヒドロキシケイ皮酸エステル残基単位、α-シアノ-カルボキシケイ皮酸エステル残基単位、3-アルキル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位、3-アルキル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位が挙げられる。
【0029】
エステル系樹脂における上記式(2)の構成単位の含有割合は、例えば21モル%以上であり、例えば70モル%以下、好ましくは60モル%以下、より好ましくは49モル%以下である。エステル系樹脂における各構成単位の含有割合は、例えば、1H-NMRにより測定できる。
【0030】
上記式(3)においてR7で示される環構造の具体例としては、1-ビニルピロール残基単位、2-ビニルピロール残基単位、1-ビニルインドール残基単位、9-ビニルカルバゾール残基単位、2-ビニルキノリン残基単位、4-ビニルキノリン残基単位、N-ビニルフタルイミド残基単位、N-ビニルスクシンイミド残基単位、2-ビニルフラン残基単位、2-ビニルベンゾフラン残基単位が挙げられ、好ましくは、9-ビニルカルバゾール残基単位、N-ビニルフタルイミド残基単位が挙げられる。
【0031】
エステル系樹脂は、上記式(3)に示す構成単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
エステル系樹脂における上記式(3)の構成単位の含有割合は、例えば21モル%以上、好ましくは35モル%以上であり、例えば70モル%以下、好ましくは60モル%以下である。
【0032】
エステル系樹脂は、好ましくは、上記(2)および(3)に示す構成単位に加えて、下記式(4)に示す構成単位をさらに有する。
【化4】
(式(4)中、R
8およびR
9のそれぞれは、水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または、炭素数3~6の環状アルキル基から選択される1種を示す)。
上記式(4)において、R
8およびR
9で示される炭素数1~12の直鎖状アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などが挙げられる。
上記式(4)において、R
8およびR
9で示される炭素数3~12の分岐状アルキル基として、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などが挙げられる。
上記式(4)において、R
8およびR
9で示される炭素数3~6の環状アルキル基として、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
上記式(4)においてR
8およびR
9は、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
上記式(4)におけるR
8のなかでは、好ましくは、水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基が挙げられ、より好ましくは、水素原子、メチル基が挙げられる。
上記式(4)におけるR
9のなかでは、好ましくは、炭素数3~12の分岐状アルキル基が挙げられ、より好ましくは、炭素数3~8の分岐状アルキル基が挙げられる。
【0033】
上記式(4)に示す構成単位は、代表的にはアクリル樹脂残基単位である。上記式(4)に示す構成単位の具体例として、アクリル酸残基単位、メタクリル酸残基単位、2-エチルアクリル酸残基単位、2-プロピルアクリル酸残基単位、2-イソプロピルアクリル酸残基単位、2-ペンチルアクリル酸残基単位、2-ヘキシルアクリル酸残基単位、アクリル酸メチル残基単位、アクリル酸エチル残基単位、アクリル酸n-プロピル残基単位、アクリル酸イソプロピル残基単位、アクリル酸n-ブチル残基単位、アクリル酸イソブチル残基単位、アクリル酸sec-ブチル残基単位、アクリル酸n-ペンチル残基単位、アクリル酸イソペンチル残基単位、アクリル酸sec-ペンチル残基単位、アクリル酸3-ペンチル残基単位、アクリル酸ネオペンチル残基単位、アクリル酸n-へキシル残基単位、アクリル酸イソへキシル残基単位、アクリル酸ネオへキシル残基単位、メタクリル酸メチル残基単位、メタクリル酸エチル残基単位、メタクリル酸n-プロピル残基単位、メタクリル酸イソプロピル残基単位、メタクリル酸n-ブチル残基単位、メタクリル酸イソブチル残基単位、メタクリル酸sec-ブチル残基単位、メタクリル酸n-ペンチル残基単位、メタクリル酸イソペンチル残基単位、メタクリル酸sec-ペンチル残基単位、メタクリル酸3-ペンチル残基単位、メタクリル酸ネオペンチル残基単位、メタクリル酸n-へキシル残基単位、メタクリル酸イソへキシル残基単位、メタクリル酸ネオへキシル残基単位、2-エチルアクリル酸メチル残基単位、2-エチルアクリル酸エチル残基単位、2-エチルアクリル酸n-プロピル残基単位、2-エチルアクリル酸イソプロピル残基単位、2-エチルアクリル酸n-ブチル残基単位、2-エチルアクリル酸イソブチル残基単位、2-エチルアクリル酸sec-ブチル残基単位などが挙げられ、好ましくはアクリル酸イソブチル残基単位が挙げられる。
【0034】
エステル系樹脂は、上記式(4)に示す構成単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
エステル系樹脂における上記式(4)の構成単位の含有割合は、例えば0モル%以上、好ましくは1モル%以上であり、例えば30モル%以下である。
【0035】
エステル系樹脂は、上記式(2)から(4)以外の単量体残基単位を含有してもよい。そのような単量体残基単位としては、例えば、スチレン残基、α-メチルスチレン残基などのスチレン類残基;ビニルナフタレン残基;酢酸ビニル残基、プロピオン酸ビニル残基などのビニルエステル類残基;メチルビニルエーテル残基、エチルビニルエーテル残基、ブチルビニルエーテル残基などのビニルエーテル残基;N-メチルマレイミド残基、N-シクロヘキシルマレイミド残基、N-フェニルマレイミド残基などのN-置換マレイミド残基;アクリロニトリル残基;メタクリロニトリル残基;フマル酸エステル残基;フマル酸残基;エチレン残基、プロピレン残基などのオレフィン類残基が挙げられる。
【0036】
エステル系樹脂の標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、例えば、1×103以上5×106以下、好ましく、5×103以上3×105以下である。エステル系樹脂のMnは、ゲル・パ-ミエイション・クロマトグラフィ-(GPC)により測定した溶出曲線より算出できる。エステル系樹脂のMnが上記の範囲であれば、位相差層の機械特性および/または成形加工性の向上を図ることができる。
【0037】
エステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば220℃以下、好ましくは210℃以下であり、例えば180℃以上、好ましくは190℃以上である。エステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、DSC(Differential Scanning Calorimetry)等の熱分析装置によって測定できる。
【0038】
このようなエステル系樹脂の具体例としては、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-メタクリル酸エステル共重合体が挙げられる。
【0039】
C-3.溶媒
溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;フェノール、クロロフェノールなどのフェノール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、メシチレン、ジメトキシベンゼンなどの芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、シクロペンタノン(CPN)、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドンなどのケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;ブタノール、t-ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオールなどのアルコール系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル系溶媒;1,3-ジオキソラン、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;二硫化炭素、エチルセロソルブ、ブチルセルソルブ、および、これらの混合溶媒が挙げられる。
【0040】
溶媒のなかでは、好ましくは混合溶媒が挙げられる。混合溶媒の組み合わせとしては、エステル系溶媒/芳香族炭化水素類、エーテル系溶媒/芳香族炭化水素類、エステル系溶媒/エーテル系溶媒、エステル系溶媒/アルコール系溶媒、エステル系溶媒/ケトン系溶媒、2種のエーテル系溶媒、2種のエステル系溶媒が挙げられる。
【0041】
正の複屈折樹脂と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離(以下、HSP距離*正の複屈折樹脂と称する場合がある。)は、例えば12.00以下、好ましくは11.30以下、より好ましくは11.20以下である。HSP距離*正の複屈折樹脂が上記上限以下であれば、樹脂フィルムにおける延伸配向性の向上を図ることができる。HSP距離*正の複屈折樹脂は、例えば、下記式(II)により算出できる。なお、HSP距離*正の複屈折樹脂の下限は、代表的には、6.0以上である。
式(II):
HSP距離*正の複屈折樹脂=[4(δd2-δd1)2+(δp2-δp1)2+(δh2-δh1)2]0.5
(式(II)中、δd1は溶媒の分子間の分散力エネルギーを示し;δd2は正の複屈折樹脂の分子間の分散力エネルギーを示し;δp1は溶媒の分子間の双極子相互作用エネルギーを示し;δp2は正の複屈折樹脂の分子間の双極子相互作用エネルギーを示し;δh1は溶媒の分子間の水素結合エネルギーを示し;δh2は正の複屈折樹脂の分子間の水素結合エネルギーを示す。)
【0042】
負の複屈折樹脂と溶媒とのHSP距離(以下、HSP距離*負の複屈折樹脂と称する場合がある。)は、例えば6.5以下、好ましくは6.0以下であり、例えば2.0以上である。HSP距離*負の複屈折樹脂は、例えば、下記式(III)により算出できる。
式(III):
HSP距離*負の複屈折樹脂=[4(δd3-δd1)2+(δp3-δp1)2+(δh3-δh1)2]0.5
(式(III)中、δd3は負の複屈折樹脂の分子間の分散力エネルギーを示し;δp3は負の複屈折樹脂の分子間の双極子相互作用エネルギーを示し;δh3は負の複屈折樹脂の分子間の水素結合エネルギーを示し;δd1、δp1およびδh1のそれぞれは、上記式(II)と同様の溶媒の分子間のエネルギーを示す。)
【0043】
{HSP距離*正の複屈折樹脂-HSP距離*負の複屈折樹脂}2は、例えば60以下、好ましくは55以下、より好ましくは50以下、さらに好ましくは45以下、とりわけ好ましくは30以下である。このような構成によれば、正の複屈折樹脂と負の複屈折樹脂とを含有する樹脂フィルムの延伸により、位相差フィルムに逆分散特性を十分に発現することができる。{HSP距離*正の複屈折樹脂-HSP距離*負の複屈折樹脂}2の下限は、代表的には10以上である。
【0044】
混合溶媒として、より好ましくは、エステル系溶媒/芳香族炭化水素類が挙げられ、さらに好ましくは、酢酸エチル/トルエンが挙げられ、とりわけ好ましくは酢酸エチル60質量%/トルエン40質量%が挙げられる。溶媒がこのような混合溶媒であると、樹脂フィルムにおいてより安定してナノ相分離構造を形成できる。
【0045】
上記した正の複屈折樹脂および負の複屈折樹脂を上記した溶媒に溶解するには、代表的には、正の複屈折樹脂および負の複屈折樹脂を溶媒に添加して所定時間撹拌した後、静置して脱泡する。
撹拌時間としては、例えば5分以上、好ましくは10分以上であり、例えば3時間以下、好ましくは1時間以下である。
脱泡時間(静置時間)としては、例えば、30分以上、好ましくは1時間以上であり、例えば5時間以下、好ましくは3時間以下である。
【0046】
これによって、正の複屈折樹脂および負の複屈折樹脂が溶解した樹脂溶液が調製される。樹脂溶液における固形分濃度は、例えば1質量%以上、好ましくは5質量%以上であり、例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
【0047】
樹脂溶液には、上記した樹脂成分に加えて、添加剤を任意の適切な割合で添加してもよい。添加剤として、例えば、ヒンダ-ドフェノ-ル系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ヒドロキシルアミン系酸化防止剤、ビタミンE系酸化防止剤、その他酸化防止剤などの酸化防止剤;ヒンダ-ドアミン系光安定剤;ベンゾトリアゾ-ル、ベンゾフェノン、トリアジン、ベンゾエ-トなどの紫外線吸収剤;界面活性剤;高分子電解質;導電性錯体;顔料;染料;帯電防止剤;アンチブロッキング剤;滑剤が挙げられる。
【0048】
D.第1塗布工程
次いで、樹脂溶液を支持基材上に塗布して、第1塗膜を形成する。
塗布方法は、特に制限されず、任意の適切な法を採用できる。塗布方法としては、例えば、ドクタ-ブレ-ド法、バ-コ-タ-法、スリップコ-タ-法、リバースグラビアコート法、マイクログラビア法、スピンコート法、刷毛塗り法、ロールコート法、フレキソ印刷法が挙げられる。塗布方法は、使用される樹脂溶液の組成や種類、樹脂フィルムに所望される特性等に応じて適宜設定され得る。
【0049】
支持基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、トリアセチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、エポキシ系樹脂などの高分子基材、ガラス板、石英基板などのガラス基材、アルミ、ステンレス、フェロタイプなどの金属基材、セラミックス基板などの無機基材が挙げられ、好ましくは、高分子基材、金属基材が挙げられ、より好ましくはPET基材が挙げられる。
【0050】
これによって、第1塗膜が形成される。第1塗膜は、第1ドライ膜の所望の厚みに応じて、任意の適切なウェット厚みを採用できる。第1塗膜のウェット厚みは、例えば200μm以上2000μm以下、好ましくは500μm以上1500μm以下である。
【0051】
E.第1乾燥工程
次いで、支持基材上の第1塗膜を加熱して、第1ドライ膜を形成する。第1乾燥工程の乾燥温度(第1乾燥温度)は、例えば35℃以上165℃以下であり、第1乾燥工程の乾燥時間(第1乾燥時間)は1分以上30分以下である。第1乾燥工程は、1段階で実施されてもよく、多段階で実施されてもよい。第1乾燥工程は、好ましくは多段階で実施される。第1乾燥工程が多段階で実施される場合、1段目の乾燥温度を、例えば35℃以上65℃以下、好ましくは45℃以上65℃以下に設定し、1段目の乾燥時間を、例えば1分以上30分以下、好ましくは1分以上8分以下に設定する。その後、第1乾燥工程の段数が増える毎に、乾燥温度を、例えば10℃~130℃、好ましくは10℃~40℃上昇させる。2段目以降の各段の乾燥時間は、代表的には、1段目の乾燥時間よりも短く、好ましくは20秒以上20分以下、より好ましくは30秒以上5分以下である。第1乾燥工程の段数は、好ましくは2段以上4段以下であり、より好ましくは3段以下である。第1乾燥工程における最高温度は、例えば165℃以下、好ましくは130℃未満、より好ましくは120℃未満、さらに好ましくは115℃以下である。
【0052】
これによって、支持基材上に第1ドライ膜が形成される。第1ドライ膜の厚みは、好ましくは180μm以下、より好ましくは160μm以下、さらに好ましくは130μm以下であり、例えば50μm以上である。
【0053】
F.第2塗布工程
次いで、樹脂溶液を第1ドライ膜上に、上記した塗布方法により塗布して、第2塗膜を形成する。第2塗膜は、第2ドライ膜の所望の厚みに応じて、任意の適切なウェット厚みを採用できる。第2塗膜のウェット厚みは、例えば200μm以上2000μm以下、好ましくは500μm以上1500μm以下である。
【0054】
G.第2乾燥工程
次いで、支持基材、第1ドライ膜および第2塗膜を一括して加熱し、第2ドライ膜を形成する。第2乾燥工程における乾燥温度(第2乾燥時間)は、例えば35℃以上165℃以下であり、第2乾燥工程における乾燥時間(第2乾燥時間)は1分以上30分以下である。第2乾燥工程は、1段階で実施されてもよく、多段階で実施されてもよい。第2乾燥工程は、好ましくは多段階で実施される。第2乾燥工程が多段階で実施される場合、1段目の乾燥温度を、例えば35℃以上65℃以下、好ましくは45℃以上65℃以下に設定し、1段目の乾燥時間を、例えば1分以上30分以下、好ましくは1分以上8分以下に設定する。その後、第2乾燥工程の段数が増える毎に、乾燥温度を、例えば10℃~130℃、好ましくは10℃~40℃上昇させる。2段目以降の各段の乾燥時間は、代表的には、1段目の乾燥時間よりも短く、好ましくは20秒以上20分以下、より好ましくは30秒以上5分以下である。第2乾燥工程の段数は、好ましくは2段以上4段以下であり、より好ましくは3段以下である。第2乾燥工程における最高温度は、例えば165℃以下、好ましくは130℃未満、より好ましくは120℃未満、さらに好ましくは115℃以下である。
【0055】
これによって、第1ドライ膜に積層される第2ドライ膜が形成される。第2ドライ膜の厚みは、好ましくは180μm以下、より好ましくは160μm以下、さらに好ましくは130μm以下であり、例えば50μm以上である。その後、必要に応じて、第2乾燥工程で形成された第2ドライ膜を、第1ドライ膜と同様に冷却する。これにより、上記第2乾燥工程により形成されたナノ相分離構造を固定化できる。
【0056】
H.第n塗布工程および第n乾燥工程
樹脂フィルムの製造方法は、樹脂溶液を第2ドライ膜上に塗布して第3塗膜を形成する工程(第3塗布工程)と;第3塗膜を加熱して乾燥させて、厚み200μm以下の第3ドライ膜を形成する工程(第3乾燥工程)と;をさらに含んでいてもよい。第3塗布工程の条件は、例えば第2塗布工程の条件と同じであり、第3乾燥工程の条件は、例えば第2乾燥工程の条件と同じである。また、上記では、樹脂フィルムの製造方法において、塗布工程および乾燥工程を2回または3回繰り返す実施形態を説明したが、塗布工程および乾燥工程の繰り返し回数は、特に制限されず4回以上であってもよい。樹脂フィルムの製造方法は、例えば、第1塗布工程~第n塗布工程と、第1乾燥工程~第n乾燥工程とを含んでいる。nは、代表的には2以上10以下の整数を示す。
【0057】
以上によって、少なくとも第1ドライ膜および第2ドライ膜を備える樹脂フィルムが製造される。
樹脂フィルムの支持基材と反対側の表面(一方面;エア面)の屈折率(23℃、波長594nm)は、例えば1.46以上、好ましくは1.49以上であり、例えば1.55以下、好ましくは1.52以下である。樹脂フィルムの支持基材側の表面(他方面;剥離面)の屈折率(23℃、波長594nm)は、例えば1.46以上、好ましくは1.49以上であり、例えば1.55以下、好ましくは1.52以下である。
【0058】
樹脂フィルムは、厚み方向の位相差に関して逆波長分散特性を示すことが好ましい。樹脂フィルムは、例えばRth(450)/Rth(550)<1.00の関係を満たし、好ましくは0.60<Rth(450)/Rth(550)<0.98の関係、より好ましくは0.80<Rth(450)/Rth(550)<0.98の関係を満たす。上記関係を満たす樹脂フィルムによれば、面内位相差に関して逆波長分散特性を示す位相差フィルムが好適に得られ得る。
【0059】
I.位相差フィルムの製造方法
上記A項~H項に記載の樹脂フィルムは、位相差フィルムの製造方法に好適に採用され得る。本発明の1つの実施形態による位相差フィルムの製造方法は、上記B項~H項に記載の樹脂フィルムの製造方法によって製造される樹脂フィルムを延伸する工程(延伸工程)を含んでいる。樹脂フィルムは、支持基材から剥離された後に位相差フィルムの製造方法に適用されてもよく、支持基材に支持された状態で位相差フィルムの製造方法に適用されてもよい。
【0060】
位相差フィルムの製造方法は、好ましくは、延伸工程の前に、樹脂フィルムを、上記乾燥工程の最高温度よりも高いアニール温度で加熱する工程(アニール工程)をさらに含んでいる。アニール温度は、例えば110℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、例えば180℃以下、好ましくは165℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは140℃以下である。アニール時間は、例えば1分以上、好ましくは5分以上、さらに好ましくは15分以上であり、例えば60分以下、好ましくは45分以下である。その後、必要に応じて、アニールされた樹脂フィルムを、例えば30℃以下、好ましくは室温(23℃)に冷却する。
【0061】
次いで、延伸工程において、樹脂フィルムを延伸する。延伸方法は、任意の適切な方法が採用され得る。自由端延伸、固定端延伸、自由端収縮、固定端収縮などの様々な延伸方法を、単独で用いることも、同時もしくは逐次で用いることもできる。延伸方向に関しても、長さ方向、幅方向、厚さ方向、斜め方向等、様々な方向や次元に行なうことができる。
【0062】
延伸方法の具体例としては、固定端一軸延伸、自由端一軸延伸、および斜め延伸が挙げられる。固定端一軸延伸は、例えば、テンター式延伸装置を用いて長尺状の樹脂フィルムを長手方向に搬送しながら、長手方向と直交する方向(幅方向)に延伸することによって行われ得る。自由端一軸延伸は、例えば、周速の異なるロール間に長尺状の樹脂フィルムを通して長手方向に延伸することによって行われ得る。斜め延伸は、例えば、長尺状の樹脂フィルムを長手方向に対して角度θの方向に連続的に斜め延伸することによって行われ得る。斜め延伸を採用することにより、フィルムの長手方向に対して角度θの配向角(角度θの方向に遅相軸)を有する長尺状の位相差フィルムが得られ得る。このような延伸方法のなかでは、好ましくは固定端一軸延伸が挙げられる。
樹脂フィルムは、1段階又は2段階以上で延伸されてもよく、特に2段階で延伸されることが好ましい。2段階延伸による位相差フィルムの製造方法は、樹脂フィルムを幅方向に延伸する第1延伸工程と;第1延伸工程後の樹脂フィルムを、第1延伸工程と同じ方向に延伸する第2延伸工程と;を含む製造方法が挙げられる。
【0063】
1つの実施形態において、樹脂フィルムは、延伸前に予熱される。予熱温度は、樹脂フィルムに含まれる材料のTgに関連して変動し、最も低いTgをもつ材料のTg:(Tg1)に着目して設定される。(Tg1)は、例えば、セルロース系樹脂のTgである。予熱温度は、例えば(Tg1)-20℃以上、好ましくは(Tg1)-10℃以上であり、例えば(Tg1)+50℃以下、好ましくは(Tg1)+40℃以下である。
延伸温度も予熱温度と同様であり、例えば、(Tg1)-20℃以上、好ましくは(Tg1)-10℃以上であり、例えば(Tg1)+50℃以下、好ましくは(Tg1)+40℃以下である。
延伸速度は、例えば、1mm/秒以上、好ましくは2mm/秒以上であり、例えば200mm/秒以下、好ましくは100mm/秒以下である。延伸倍率(樹脂フィルムが2段階で延伸される場合、第1延伸工程の延伸倍率と第2延伸工程の延伸倍率との積)は、例えば、2.0倍以上、好ましくは2.5倍以上であり、例えば8.0倍以下、好ましくは7.5倍以下である。
【0064】
1つの実施形態において、位相差フィルムの製造方法は、延伸工程後の樹脂フィルムを延伸方向に熱収縮させる工程(熱収縮工程)をさらに含んでいる。
熱収縮温度も予熱、延伸温度と同様に(Tg1)に関して設定され、例えば(Tg1)-20℃以上、好ましくは(Tg1)-15℃以上であり、例えば(Tg1)+45℃以下、好ましくは(Tg1)+35℃以下である。熱収縮温度は、より好ましくは延伸温度以下である。収縮率は、代表的には1%以上5%以下である。
【0065】
以上によって、位相差フィルムが製造される。
位相差フィルムは、正の複屈折樹脂(上記セルロース系樹脂)および負の複屈折樹脂(上記エステル系樹脂)を含んでいる。位相差フィルムの厚み方向の位相差の波長分散特性は、正の複屈折樹脂および負の複屈折樹脂の各々の厚み方向の位相差の波長分散特性を合成したものとして把握され得る。よって、厚み方向の位相差に関してフラットな波長分散特性を有し、かつ、nx>nzの屈折率特性を示す上記セルロース系樹脂と、正の波長分散特性を有し、かつ、nx<nzの屈折率特性を示す上記エステル系樹脂とを上記割合で含むことにより、厚み方向の位相差に関して逆波長分散特性を有し、かつ、nx>nzの屈折率特性を示す樹脂フィルムが好適に得られ得る。
【0066】
位相差フィルムは、代表的には、nx>ny≧nzの屈折率特性を示す。「ny=nz」とは、nyとnzとが完全に同一である場合だけでなく、nyとnzとが実質的に同一である場合も包含する。屈折率特性がnx>ny=nzである位相差フィルムは、「ポジティブAプレート」等と称される場合がある。屈折率特性がnx>ny>nzである位相差フィルムは、「ネガティブBプレート」等と称される場合がある。
【0067】
位相差フィルムは、代表的にはλ/4板として機能する。位相差フィルムのRe(550)は、例えば90nm~200nmであり、また例えば100nm~200nmであり、また例えば120nm~160nmであり、また例えば130nm~150nmである。
位相差フィルムの面内複屈折Δn(550)は、例えば0.0020以上、好ましくは0.0030以上、より好ましくは0.0040以上であり、例えば0.0070以下、好ましくは0.0060以下、より好ましくは0.0055以下である。
位相差フィルムのNz係数は、例えば0.9~3であり、また例えば0.9~2.5であり、また例えば0.9~1.5であり、また例えば0.9~1.3である。このような関係を満たすことにより、偏光子と組み合わせて画像表示装置に用いた場合に、非常に優れた反射色相を達成し得る。
【0068】
位相差フィルムは、代表的には、面内位相差に関して、優れた逆分散波長特性を示す。位相差フィルムのRe(450)/Re(550)は、樹脂フィルムのRth(450)/Rth(550)よりも小さい。位相差フィルムのRe(450)/Re(550)は、例えば0.90未満、好ましくは0.88以下であり、例えば0.70以上、好ましくは0.80以上である。樹脂フィルムのRth(450)/Rth(550)と、位相差フィルムのRe(450)/Re(550)との差は、例えば0.06以上、好ましくは0.07以上であり、例えば0.10以下である。
【0069】
位相差フィルムは、代表的には、セルロース系樹脂およびエステル系樹脂を含有する樹脂フィルムを延伸した延伸フィルムである。1つの実施形態において、延伸フィルム(位相差フィルム)は、セルロース系樹脂およびエステル系樹脂を含有する樹脂フィルムを、所定方向に固定端一軸延伸することにより調製される。このような位相差フィルムには、上記したナノ相分離構造が形成されている。これによって、位相差フィルムは、延伸方向および延伸方向と直交する方向において、優れた屈曲性を有している。特に、ナノ相分離構造を有する位相差フィルムは、ナノ相分離構造を有しない位相差フィルム(例えば、樹脂延伸フィルム、液晶ポリマーフィルム)と比較して、延伸方向と直交する方向の屈曲性が顕著に優れている。
【0070】
延伸方向における位相差フィルムのMIT回数は、例えば800回以上、好ましくは1000回以上、より好ましくは1500回以上であり、例えば、2500回以下である。なお、MIT回数は、JIS P 8115に準拠して測定できる(以下同様)。
延伸方向と直交する方向における位相差フィルムのMIT回数は、例えば400回以上、好ましくは500回以上、より好ましくは600回以上、さらに好ましくは1000回以上、とりわけ好ましくは1300回以上であり、例えば、2000回以下である。
【0071】
位相差フィルムの厚みは、例えば10μm以上、好ましくは20μm以上であり、例えば100μm以下、好ましくは90μm以下、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは60μm以下である。
【0072】
位相差フィルムは、枚葉状であってもよく長尺状であってもよい。本明細書において「長尺状」とは、幅に対して長さが十分に長い細長形状を意味し、例えば、幅に対して長さが10倍以上、好ましくは20倍以上の細長形状を含む。長尺状の位相差フィルムは、ロール状に巻回可能である。
【実施例0073】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。各特性の測定方法は以下の通りである。
【0074】
(1)厚みの測定
リニアゲージ(PEACOCK社製、製品名「DG-205 type pds-2」)を用いて測定した。
【0075】
(2)屈折率の測定
実施例および比較例で得られた樹脂フィルムの各表面の屈折率について、メトリコン社製プリズムカプラ(モデル2010)によって測定した。より詳しくは、支持基材から剥離した樹脂フィルムの樹脂面ならびに空気面に対して、メトリコン社製プリズムカプラ(モデル2010)を用いて、結合プリズムを通して波長594nmのレーザー光を入射し、TE偏光およびTM偏光における屈折率を測定した。これら屈折率の平均屈折率を〔2×(TE偏光での屈折率)+(TM偏光での屈折率)〕/3により算出して、樹脂フィルムの各表面の屈折率とした。その結果を表1に示す。
【0076】
(3)位相差値の測定
実施例および比較例で得られた樹脂フィルムおよび位相差フィルムの位相差値について、Axoscan(Axometrics社製)を用いて自動計測した。測定波長は、450nmまたは550nmであり、測定温度は23℃であった。
【0077】
(4)外観(気泡)評価
実施例および比較例で得られた樹脂フィルムの外観を目視観察によって観察し、下記の基準で評価した。その結果を表1に示す。
〇:フィルム面内に気泡が観察されない。
×:フィルム面内に気泡が観察される。
【0078】
(5)溶媒含有率の測定
実施例および比較例で得られた樹脂フィルムの溶媒含有率を質量減少法によって測定した。より詳しくは、支持基材から剥離した樹脂フィルムの質量Aを測定した。その後130℃60分以上で絶乾を行い、23℃120分保管した樹脂フィルムの質量Bをした。質量Aから質量Bを差し引きした値を溶剤含有量Cとした。溶剤含有量C÷質量A×100を溶剤含有率とした。その結果を表1に示す。
【0079】
<<製造例1;負の複屈折性を示すエステル系樹脂(9-ビニルカルバゾール/α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソブチル/アクリル酸イソブチル)の合成>>
容量50mLのガラスアンプルに9-ビニルカルバゾール12.20g、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソブチル7.74g、アクリル酸イソブチル4.05g、重合開始剤である2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン0.453gおよびメチルエチルケトン36.00gを入れ、窒素置換と抜圧を繰り返したのち減圧状態で熔封した。このアンプルを54℃の恒温槽に入れ、24時間保持することによりラジカル重合を行った。重合反応終了後、アンプルから重合物を取り出し、テトラヒドロフラン100gを加え、このポリマー溶液を800gのメタノール/水混合溶剤(質量比80/20)中に滴下して析出させ、ろ過した後、ろ過物を110gのメタノール/水混合溶剤(質量比90/10)で5回洗浄、ろ過した。得られた樹脂を80℃で10時間真空乾燥することにより、負の複屈折性を示すケイ皮酸エステル共重合体22.3gを得た。得られた重合体の数平均分子量は50,000であり、残基単位の比率は、9-ビニルカルバゾール残基単位50モル%、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソブチル残基単位25モル%、アクリル酸イソブチル残基単位25モル%であった。
【0080】
[実施例1および2、比較例3]
エチルセルロース(正の複屈折樹脂、ダウ・ケミカル社製、エトセル スタンダード(ETHOCEL standard)100、数平均分子量Mn=58,000、重量平均分子量Mw=180,000、Mw/Mn=3.2、全置換度DS=2.51)と、製造例1で得られたエステル系樹脂(負の複屈折樹脂)とを、エチルセルロース:エステル系樹脂=80:20(質量比)となるように、酢酸エチル/トルエン=60/40(質量比)の混合溶媒に溶解して、固形分濃度16質量%の樹脂溶液を得た。
次いで、樹脂溶液を、ディスパーミキサーによって30分間撹拌した後、2時間静置して脱泡した。脱泡後の樹脂溶液を、アプリケータにより、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(支持基材、東洋紡社製、コスモシャインA4610)上に塗布して、第1塗膜を形成した。
次いで、第1塗膜を、オーブンにて、65℃/6分間、85℃/1分間、110℃/2分間の条件で3段乾燥した後、室温(23℃)において30分間静置した。これによって、第1ドライ膜を形成した。第1ドライ膜の厚みを表1に示す。
次いで、脱泡後の樹脂溶液を、アプリケータにより、第1ドライ膜上に塗布して、第2塗膜を形成した。
次いで、第2塗膜を、オーブンにて、65℃/6分間、85℃/1分間、110℃/2分間の条件で3段乾燥した後、室温(23℃)において30分間静置した。これによって、第2ドライ膜を形成した。第2ドライ膜の厚みを表1に示す。
以上によって、第1ドライ膜および第2ドライ膜が支持基材側からこの順に積層された樹脂フィルムを得た。次いで、樹脂フィルムを支持基材から剥離した。なお、樹脂フィルムの支持基材と反対側の表面(第1ドライ膜の表面)を樹脂フィルムの一方面とし、樹脂フィルムの支持基材側の表面(第2ドライ膜の表面)を樹脂フィルムの他方面とした。
次いで、樹脂フィルムを、再度オーブンにて、130℃/30分間アニールした。その後、樹脂フィルムを、160℃/1分間の条件で予熱した後、延伸温度160℃、延伸速度5mm/秒の条件で、3倍に固定端横延伸して、位相差フィルムを得た。位相差フィルムの屈折率特性は、nx>ny>nzを示していた。位相差フィルムの厚みを表1に示す。
【0081】
[比較例1および2]
上記エチルセルロース(正の複屈折樹脂)と、製造例1で得られたエステル系樹脂(負の複屈折樹脂)とを、エチルセルロース:エステル系樹脂=80:20(質量比)となるように、酢酸エチル/トルエン=60/40(質量比)の混合溶媒に溶解して、固形分濃度16質量%の樹脂溶液を得た。
次いで、樹脂溶液を、ディスパーミキサーによって30分間撹拌した後、2時間静置して脱泡した。脱泡後の樹脂溶液を、アプリケータにより、上記PETフィルム(支持基材)上に第1塗膜を形成した。
次いで、第1塗膜を、オーブンにて、65℃/6分間、85℃/1分間、110℃/2分間の条件で3段乾燥した後、室温(23℃)において30分間静置した。これによって、第1ドライ膜を形成した。第1ドライ膜の厚みを表1に示す。
以上によって、第1ドライ膜からなる樹脂フィルムを得た。次いで、樹脂フィルムを支持基材から剥離した。次いで、樹脂フィルムを、再度オーブンにて、130℃/30分間アニールした。その後、樹脂フィルムを、160℃/1分間の条件で予熱した後、延伸温度160℃、延伸速度5mm/秒の条件で、3倍に固定端横延伸して、位相差フィルムを得た。位相差フィルムの屈折率特性は、nx>ny>nzを示していた。位相差フィルムの厚みを表1に示す。
【0082】
【0083】
[評価]
表1から明らかなように、樹脂フィルムを、樹脂溶液の塗布および塗膜の乾燥を複数回繰り返して調製すると、樹脂フィルムの一方面と他方面との屈折率差を、上記式(I)を満足するように調整できる。これによって、樹脂フィルムに内包する気泡を低減でき、樹脂フィルムの外観を向上できることがわかる。また、当該樹脂フィルムを延伸することによって、優れた逆波長分散特性を有する位相差フィルムを製造できることがわかる。
本発明の実施形態による樹脂フィルムの製造方法によって得られる樹脂フィルムは、位相差フィルムの製造に好適に用いられ、位相差フィルムは、液晶表示装置およびEL表示装置等の画像表示装置、特に有機EL表示装置において好適に用いられ得る。