(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180203
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】位相差フィルムおよび位相差フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20231213BHJP
C08L 1/26 20060101ALI20231213BHJP
C08L 35/00 20060101ALI20231213BHJP
C08L 39/04 20060101ALI20231213BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
G02B5/30
C08L1/26
C08L35/00
C08L39/04
C08J5/18 CEP
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168680
(22)【出願日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2022093272
(32)【優先日】2022-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100150212
【弁理士】
【氏名又は名称】上野山 温子
(72)【発明者】
【氏名】中西 貞裕
(72)【発明者】
【氏名】長原 一平
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 寛教
(72)【発明者】
【氏名】東 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】北川 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】藤井 靖芳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正泰
(72)【発明者】
【氏名】小峯 拓也
【テーマコード(参考)】
2H149
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
2H149AA02
2H149AA18
2H149AB01
2H149AB15
2H149BA02
2H149DA02
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2H149DA18
2H149DB28
2H149EA03
2H149FA02Y
2H149FA12Y
2H149FA53Y
2H149FD04
2H149FD05
2H149FD25
2H149FD30
4F071AA09
4F071AA33X
4F071AA37X
4F071AA86X
4F071AE04
4F071AF31Y
4F071AG28
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA02
4F071BB02
4F071BB07
4F071BC01
4F071BC12
4J002AB03W
4J002BH02Y
4J002BJ00X
4J002GP00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い複屈折を有し、逆波長分散特性を示す位相差フィルムを提供する。
【解決手段】特定の構成単位を有するセルロ-ス系樹脂30重量%~99重量%と特定の構成単位エステル系樹脂1重量%~70重量%とを含む樹脂成分と、ガラス転移温度が50℃以上であるアクリル系可塑剤と、を含む樹脂フィルムの延伸フィルムである、位相差フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)に示す構成単位を有するセルロ-ス系樹脂30重量%~99重量%と下記式(2)に示す構成単位、下記式(3)に示す構成単位、および下記式(4)に示す構成単位を有するエステル系樹脂1重量%~70重量%とを含む樹脂成分と、ガラス転移温度が50℃以上であるアクリル系可塑剤と、を含む樹脂フィルムの延伸フィルムである、位相差フィルム:
【化1】
(式(1)中、R
1~R
3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~12の置換基を示す;)
【化2】
(式(2)中、R
4は、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R
5aは、炭素数1~12のアルキル基、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、または、チオール基から選択される1種を示し;R
5bは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R
6は、水素原子、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、フェニル基、チオール基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1~12のアルコキシ基、または、炭素数1~12のアルキル基から選択される1種を示す;)
【化3】
(式(3)中、R
7は、ヘテロ原子として窒素原子もしくは酸素原子を1つ以上含む5員環複素環残基または6員環複素環残基(該5員環複素環残基および該6員環複素環残基は他の環状構造と縮合環構造を形成してもよい)を示す;)
【化4】
(式(4)中、R
8およびR
9はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または炭素数3~6の環状アルキル基から選択される1種を示す)。
【請求項2】
測定波長590nmにおける複屈折Δn(590)、測定波長450nmにおける面内位相差Re(450)、および測定波長550nmにおける面内位相差Re(550)が下記式(a)を満たす、請求項1に記載の位相差フィルム。
Δn(590)≧0.0140×(Re(450)/Re(550))-0.0092・・・(a)
【請求項3】
前記アクリル系可塑剤の含有量が、前記樹脂成分100重量部に対し、1重量部~30重量部である、請求項1または2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
前記アクリル系可塑剤が、(メタ)アクリル酸エステルおよびスチレン系モノマーを含むモノマー成分の共重合体を含む、請求項1または2に記載の位相差フィルム。
【請求項5】
前記延伸フィルムの延伸方向と直交する方向におけるMIT回数が、400回以上である、請求項1または2に記載の位相差フィルム。
【請求項6】
下記式(1)に示す構成単位を有するセルロ-ス系樹脂30重量%~99重量%と下記式(2)に示す構成単位、下記式(3)に示す構成単位、および下記式(4)に示す構成単位を有するエステル系樹脂1重量%~70重量%とを含む樹脂成分と、ガラス転移温度が50℃以上であるアクリル系可塑剤と、を含む樹脂フィルムを、該樹脂成分中の配向性を持つ樹脂のうち最も低いガラス転移温度を持つ樹脂のガラス転移温度(Tg1)に対し、Tg1-20℃~Tg1+50℃の温度範囲で2.2倍以上の延伸倍率で延伸することを含む、位相差フィルムの製造方法:
【化5】
(式(1)中、R
1~R
3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~12の置換基を示す;)
【化6】
(式(2)中、R
4は、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R
5aは、炭素数1~12のアルキル基、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、または、チオール基から選択される1種を示し;R
5bは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R
6は、水素原子、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、フェニル基、チオール基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1~12のアルコキシ基、または、炭素数1~12のアルキル基から選択される1種を示す;)
【化7】
(式(3)中、R
7は、ヘテロ原子として窒素原子もしくは酸素原子を1つ以上含む5員環複素環残基または6員環複素環残基(該5員環複素環残基および該6員環複素環残基は他の環状構造と縮合環構造を形成してもよい)を示す;)
【化8】
(式(4)中、R
8およびR
9はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または炭素数3~6の環状アルキル基から選択される1種を示す)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムおよび該位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置およびエレクトロルミネセンス(EL)表示装置(例えば、有機EL表示装置、無機EL表示装置)に代表される画像表示装置が急速に普及している。有機EL表示装置では、λ/4板を含む円偏光板を有機ELセルの視認側に配置することにより、外光反射や背景の映り込み等の問題を防ぐことが知られている(例えば、特許文献1および2)。
【0003】
上記円偏光板に用いるλ/4板に関しては、広い波長領域にわたって優れた反射防止特性を実現する観点から、長波長域ほど面内位相差が大きい、いわゆる逆波長分散特性を示す位相差フィルムが求められている。このような要望に対して、正の複屈折を示すセルロース系樹脂および負の複屈折を示すエステル系樹脂を含有し、逆波長分散特性を示す位相差フィルムが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-311239号公報
【特許文献2】特開2002-372622号公報
【特許文献3】特開2021-140095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3の逆波長分散特性を示す位相差フィルムの製造においては、原反フィルムを高い延伸倍率で安定的に延伸することに課題がある。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、高い複屈折を有し、逆波長分散特性を示す位相差フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの局面によれば、下記式(1)に示す構成単位を有するセルロ-ス系樹脂30重量%~99重量と下記式(2)に示す構成単位、下記式(3)に示す構成単位、および下記式(4)に示す構成単位を有するエステル系樹脂1重量%~70重量%とを含む樹脂成分と、ガラス転移温度が50℃以上であるアクリル系可塑剤と、を含む樹脂フィルムの延伸フィルムである、位相差フィルムが提供される。
【化1】
(式(1)中、R
1~R
3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~12の置換基を示す;)
【化2】
(式(2)中、R
4は、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R
5aは、炭素数1~12のアルキル基、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、または、チオール基から選択される1種を示し;R
5bは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R
6は、水素原子、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、フェニル基、チオール基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1~12のアルコキシ基、または、炭素数1~12のアルキル基から選択される1種を示す;)
【化3】
(式(3)中、R
7は、ヘテロ原子として窒素原子もしくは酸素原子を1つ以上含む5員環複素環残基または6員環複素環残基(該5員環複素環残基および該6員環複素環残基は他の環状構造と縮合環構造を形成してもよい)を示す;)
【化4】
(式(4)中、R
8およびR
9はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または炭素数3~6の環状アルキル基から選択される1種を示す)。
1つの実施形態において、上記位相差フィルムの測定波長590nmにおける複屈折Δn(590)、測定波長450nmにおける面内位相差Re(450)、および測定波長550nmにおける面内位相差Re(550)が下記式(a)を満たす。
Δn(590)≧0.0140×(Re(450)/Re(550))-0.0092・・・(a)
1つの実施形態において、上記アクリル系可塑剤の含有量が、上記樹脂成分100重量部に対し、1重量部~30重量部である。
1つの実施形態において、上記アクリル系可塑剤が、(メタ)アクリル酸エステルおよびスチレン系モノマーを含むモノマー成分の共重合体を含む。
1つの実施形態において、上記延伸フィルムの延伸方向と直交する方向におけるMIT回数が、400回以上である。
本発明の別の局面によれば、上記式(1)に示す構成単位を有するセルロ-ス系樹脂30重量%~99重量%と上記式(2)に示す構成単位、上記式(3)に示す構成単位、および上記式(4)に示す構成単位を有するエステル系樹脂1重量%~70重量%とを含む樹脂成分と、ガラス転移温度が50℃以上であるアクリル系可塑剤と、を含む樹脂フィルムを、該樹脂成分中の配向性を持つ樹脂のうち最も低いガラス転移温度を持つ樹脂のガラス転移温度(Tg1)に対し、Tg1-20℃~Tg1+50℃の温度範囲で2.2倍以上の延伸倍率で延伸することを含む、位相差フィルムの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、所定のセルロース系樹脂と所定のエステル系樹脂とをそれぞれ所定の割合で含み、かつ、ガラス転移温度(Tg)が50℃以下のアクリル系可塑剤を含む樹脂フィルムを原反フィルムとして用いる。当該樹脂フィルムはアクリル系可塑剤を含むことに起因して高い延伸倍率で安定的に延伸することが可能であることから、高い複屈折を有し、逆波長分散特性を示す位相差フィルムを安定的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例および比較例で得られた位相差フィルムの複屈折と波長分散との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。なお、本明細書中で、数値範囲を表す「~」は、その上限および下限の数値を含む。また、本明細書において、「重量」とある場合は、重さを意味するSI単位系の「質量」と同義である。
【0011】
(用語および記号の定義)
本明細書における用語および記号の定義は下記の通りである。
(1)屈折率(nx、ny、nz)
「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。
(2)複屈折(Δn(λ))
「Δn(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した面内複屈折である。面内複屈折(Δn)は、式:Δn=nx-nyから求められる。
(3)面内位相差(Re)
「Re(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した面内位相差である。例えば、「Re(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差である。Re(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Re(λ)=(nx-ny)×dによって求められる。
(4)厚み方向の位相差(Rth)
「Rth(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した厚み方向の位相差である。例えば、「Rth(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差である。Rth(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Rth(λ)=(nx-nz)×dによって求められる。
(5)Nz係数
Nz係数は、Nz=Rth/Reによって求められる。
(6)角度
本明細書において角度に言及するときは、当該角度は基準方向に対して時計回りおよび反時計回りの両方を包含する。したがって、例えば「45°」は時計回りまたは反時計回りの45°を意味する。
(7)本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「メタクリルおよび/またはアクリル」の意味である。
【0012】
A.位相差フィルム
本発明の実施形態による位相差フィルムは、式(1)に示す構成単位を有するセルロ-ス系樹脂30重量%~99重量%と式(2)に示す構成単位、式(3)に示す構成単位、および式(4)に示す構成単位を有するエステル系樹脂1重量%~70重量%とを含む樹脂成分と、ガラス転移温度(Tg)が50℃以上であるアクリル系可塑剤と、を含む樹脂フィルムを延伸することによって得られる延伸フィルムである。延伸対象の樹脂フィルムは、目的に応じて、任意の適切な添加成分をさらに含んでいてもよい。樹脂フィルムの延伸方法、すなわち、位相差フィルムの製造方法については、B項で詳述する。
【0013】
位相差フィルムは、代表的には、nx>ny≧nzの屈折率特性を示す。「ny=nz」とは、nyとnzとが完全に同一である場合だけでなく、nyとnzとが実質的に同一である場合も包含する。屈折率特性がnx>ny=nzである位相差フィルムは、「ポジティブAプレート」等と称される場合がある。屈折率特性がnx>ny>nzである位相差フィルムは、「ネガティブBプレート」等と称される場合がある。
【0014】
位相差フィルムの測定波長590nmにおける複屈折(Δn(590))は、好ましくは0.0031以上、より好ましくは0.0035以上である。位相差フィルムのΔn(590)は、例えば、0.01以下であり得る。
【0015】
位相差フィルムの面内位相差は、用途等に応じて任意の適切な値であり得る。1つの実施形態において、位相差フィルムはλ/4板として機能し得る。この場合、位相差フィルムのRe(550)は、例えば90nm~200nm、好ましくは100nm~190nm、より好ましくは110nm~170nm、さらに好ましくは130nm~160nmである。
【0016】
位相差フィルムのNz係数は、好ましくは0.9~3、より好ましくは0.9~2.5、さらに好ましくは0.9~1.5、特に好ましくは0.9~1.3である。このような関係を満たすことにより、偏光子と組み合わせて円偏光板として画像表示装置に用いた場合に、非常に優れた反射色相を達成し得る。
【0017】
位相差フィルムは、代表的には、面内位相差に関して、測定光の波長に応じて大きくなる逆分散波長特性を示す。位相差フィルムは、代表的にはRe(450)/Re(550)<1の関係を満たし、例えばRe(450)/Re(550)<0.95の関係、より好ましくはRe(450)/Re(550)<0.93の関係、さらに好ましくはRe(450)/Re(550)<0.90の関係、さらにより好ましくはRe(450)/Re(550)<0.88の関係、さらにより好ましくは0.80<Re(450)/Re(550)<0.87の関係を満たす。このような関係を満たす位相差フィルムを偏光子と組み合わせて円偏光板として画像表示装置に用いた場合、非常に優れた反射防止特性を実現することができる。
【0018】
位相差フィルムは、好ましくはΔn(590)、Re(450)、およびRe(550)が下記式(a)を満たす。式(a)を満たす位相差フィルムは、高い複屈折(Δn)と逆波長分散特性とを両立し得る。
Δn(590)≧0.0140×(Re(450)/Re(550))-0.0092・・・(a)
【0019】
1つの実施形態において、位相差フィルムには、ナノ相分離構造が形成されている。詳しくは後述するが、上記セルロース系樹脂は、相対的にガラス転移温度(Tg)が低く、上記エステル系樹脂は、相対的にTgが高い。このような樹脂を含む樹脂フィルムを用いることにより、位相差フィルムに、セルロース系樹脂による残存応力低減効果と、エステル系樹脂による収縮量低減効果とをバランスよく付与することができる。また、ナノ相分離構造が形成されていることにより、高温高湿環境下(例えば、110℃かつ85%RH(相対湿度))における位相差フィルムの急激な収縮が抑制され得、結果として、位相差フィルムにクラックが生じることが抑制され得る。さらに、位相差フィルムにおいてナノ相分離構造が形成されていると、逆分散位相差フィルムとしての機能を安定して確保できる。
【0020】
本明細書において、「ナノ相分離構造」とは、電子密度の異なる2成分がナノオーダー(代表的には数十nmレベル)のドメインサイズで相分離した構造を意味する。セルロース系樹脂およびエステル系樹脂は、海島構造であってもよく、共連続構造であってもよい。ナノ相分離構造の確認手段としては、例えば、透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)および、X線小角散乱(SAXS)が挙げられ、好ましくは、位相差フィルムの断面のTEM観察が挙げられる。TEM観察については実施例において詳述する。位相差フィルムにナノ相分離構造が形成されている場合、位相差フィルムの断面のTEM観察において、電子密度の異なる2種のドメインを確認でき、すべてのドメインのサイズ(最大長さ)が100nm未満であることを確認できる。
【0021】
位相差フィルムは、延伸方向および延伸方向と直交する方向において、優れた屈曲性を有している。例えば、位相差フィルムは、ポリカーボネート系樹脂フィルム、液晶ポリマーフィルム等から構成される従来の位相差フィルムと比較して、延伸方向と直交する方向の屈曲性が顕著に優れている。位相差フィルムがこのように優れた屈曲性を有する理由は定かではないが、位相差フィルムの以下の構成、すなわち、上記セルロース系樹脂と上記エステル系樹脂とを所定の含有割合で含むこと、アクリル系可塑剤を含むこと、ナノ相分離構造が形成されていること等の1つ以上に起因すると推測される。
【0022】
延伸方向における位相差フィルムのMIT回数は、例えば800回以上、好ましくは1000回以上、より好ましくは1500回以上であり、例えば、2500回以下である。なお、MIT回数は、JIS P 8115に準拠して測定できる(以下同様)。
延伸方向と直交する方向における位相差フィルムのMIT回数は、例えば400回以上、好ましくは500回以上、より好ましくは600回以上、さらに好ましくは1000回以上、とりわけ好ましくは1300回以上であり、例えば、2000回以下である。
【0023】
位相差フィルムの厚みは、例えば10μm~80μmであり、好ましくは10μm~60μm、より好ましくは10μm~30μmである。本発明の実施形態の製造方法で得られる位相差フィルムは、高い面内複屈折を有することから、小さい厚みで実用上十分な面内位相差を有し得る。
【0024】
位相差フィルムは、枚葉状であってもよく、長尺状であってもよい。位相差フィルムは、好ましくは長尺状である。本明細書において「長尺状」とは、幅に対して長さが十分に長い細長形状を意味し、例えば、幅に対して長さが10倍以上、好ましくは20倍以上の細長形状を含む。長尺状の位相差フィルムは、ロール状に巻回可能である。
【0025】
A-1.樹脂成分
樹脂成分は式(1)に示す構成単位を有するセルロ-ス系樹脂30重量%~99重量%と式(2)に示す構成単位、式(3)に示す構成単位、および式(4)に示す構成単位を有するエステル系樹脂1重量%~70重量%とを含む。このような構成単位を有することに起因して、当該セルロース系樹脂は正の複屈折を示し、当該エステル系樹脂は、負の複屈折を示す。正の複屈折を示す樹脂と負の複屈折とを示す樹脂とを所定の含有割合で含む樹脂成分を用いることにより、優れた光学特性を有する位相差フィルムが得られ得る。
【0026】
ここで、「正の複屈折を示す」とは、ポリマーを延伸等により配向させた場合に、その延伸方向と直交する方向の屈折率が相対的に小さくなることをいう。換言すると、延伸方向の屈折率が大きくなることをいう。「負の複屈折を示す」とは、ポリマーを延伸等により配向させた場合に、その延伸方向の屈折率が相対的に小さくなることをいう。換言すると、延伸方向と直交する方向の屈折率が大きくなることをいう。
【0027】
樹脂成分は、本発明の効果が得られる限りにおいて、任意の適切な他の熱可塑性樹脂(ただし、A-2項に記載のアクリル系可塑剤に該当するものを除く)をさらに含んでもよい。樹脂成分における当該セルロース系樹脂および当該エステル系樹脂の合計含有割合は、好ましくは95重量%~100重量%、例えば100重量%であり得る。
【0028】
A-1-1.セルロース系樹脂
本発明の実施形態による位相差フィルムにおいて用いられるセルロース系樹脂は、代表的には、β-グルコース単位が直鎖状に重合した高分子であって、下記式(1)に示す構成単位を有している。
【化5】
(式(1)中、R
1~R
3のそれぞれは、水素原子または炭素数1~12の置換基を示す)。
【0029】
上記式(1)においてR1~R3で示される炭素数1~12の置換基として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デカニル基、ドデカニル基、イソブチル基、t-ブチル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基;アセチル基、プロピオニル基等のアシル基;シアノエチル基等のシアノアルキル基;アミノエチル基等のアミノアルキル基;2-ヒドロキシエチル基、3-ヒドロキシプロピル基等のヒドロキシアルキル基;が挙げられる。
上記式(1)においてR1~R3は、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
上記式(1)のR1~R3のそれぞれとして、好ましくは、水素原子、および、炭素数1~12のアルキル基が挙げられ、より好ましくは、水素原子、および、炭素数1~4のアルキル基が挙げられ、さらに好ましくは、水素原子、および、エチル基が挙げられる。
【0030】
セルロース系樹脂の置換度(以下、DSという。)は、代表的には1.5以上2.95以下、好ましくは1.8以上2.8以下である。DSとは、セルロース系樹脂において水酸基が置換されている割合であって、100%置換している場合DSは3である。DSは、第十七改正日本薬局方に記載のように、ガスクロマトグラフィーのピーク面積から算出できる。
【0031】
セルロース系樹脂の標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、例えば、1×103以上1×106以下、好ましくは、5×103以上2×105以下である。セルロース系樹脂のMnは、ゲル・パ-ミエイション・クロマトグラフィ-(GPC)により測定した溶出曲線より算出できる。セルロース系樹脂のMnが上記の範囲であれば、樹脂フィルムの機械特性および/または成形加工性の向上を図ることができる。
【0032】
セルロース系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば140℃以下、好ましくは135℃以下であり、例えば120℃以上、好ましくは125℃以上である。セルロース系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、DSC(Differential Scanning Calorimetry)等の熱分析装置によって測定できる。
【0033】
セルロース系樹脂の具体例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース等のアルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース;ベンジルセルロース等のアラルキルセルロース;シアノエチルセルロース等のシアノアルキルセルロース;カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等のカルボキシアルキルセルロース;カルボキシメチルメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース等のカルボキシアルキルアルキルセルロース;アミノエチルセルロース等のアミノアルキルセルロースが挙げられる。セルロース系樹脂は、単独でまたは組み合わせて使用できる。
セルロース系樹脂のなかでは、好ましくはアルキルセルロースが挙げられ、より好ましくはエチルセルロースが挙げられる。
【0034】
樹脂成分における上記セルロース系樹脂の含有割合は、代表的には30重量%~99重量%であり、好ましくは30重量%~90重量%であり、より好ましくは40重量%~80重量%である。セルロース系樹脂の含有割合が30重量%未満の場合または99重量%を超える場合は、位相差の制御が困難である。
【0035】
1つの実施形態において、樹脂成分におけるセルロース系樹脂の含有割合は、セルロース系樹脂およびエステル系樹脂の総和を100重量%としたときに、代表的には50重量%を超過し、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。セルロース系樹脂の含有割合が上記下限以上であれば、セルロース系樹脂およびエステル系樹脂が安定してナノ相分離構造を形成できる。なお、セルロース系樹脂の含有割合の上限は、セルロース系樹脂およびエステル系樹脂の総和を100重量%としたときに、代表的には99重量%以下であり、好ましくは90重量%以下である。
【0036】
A-1-2.エステル系樹脂
本発明の実施形態による位相差フィルムにおいて用いられるエステル系樹脂は、代表的には、下記式(2)に示す構成単位、下記式(3)に示す構成単位、および下記式(4)に示す構成単位を有している。
【化6】
(式(2)中、R
4は、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R
5aは、炭素数1~12のアルキル基、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、または、チオール基から選択される1種を示し;R
5bは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R
6は、水素原子、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、フェニル基、チオール基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1~12のアルコキシ基、または、炭素数1~12のアルキル基から選択される1種を示す。)
【化7】
(式(3)中、R
7は、ヘテロ原子として窒素原子もしくは酸素原子を1つ以上含む5員環複素環残基または6員環複素環残基(上記5員環複素環残基および上記6員環複素環残基は他の環状構造と縮合環構造を形成してもよい)を示す。)
【化8】
(式(4)中、R
8およびR
9はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または、炭素数3~6の環状アルキル基から選択される1種を示す)。
【0037】
上記エステル系樹脂は、式(2)~(4)で示される残基単位を含むことから、負の複屈折の発現性が大きく、厚みが小さくても高い位相差を発現し得ることから、位相差フィルムの薄膜化に寄与し得る。
【0038】
上記式(2)に示す構成単位は、ケイ皮酸エステル残基単位である。上記式(2)においてR4で示される炭素数1~12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、エチルヘキシル基が挙げられる。上記式(2)のR4のなかでは、好ましくは、炭素数1~4のアルキル基が挙げられ、より好ましくは、エチル基、イソブチル基が挙げられる。
上記式(2)のR5aのなかでは、好ましくは、炭素数1~12のアルキル基、シアノ基が挙げられ、より好ましくは、炭素数1~4のアルキル基、シアノ基が挙げられ、さらに好ましくはシアノ基が挙げられる。
上記式(2)のR5bのなかでは、好ましくは、水素原子、炭素数1~4のアルキル基が挙げられる。
上記式(2)のR6は、ベンゼン環に1つのみ結合してもよく、ベンゼン環に2つ以上結合してもよい。上記式(2)のR6のなかでは、好ましくは、カルボン酸基、ヒドロキシ基が挙げられる。
【0039】
上記式(2)に示す構成単位(ケイ皮酸エステル残基単位)の具体例としては、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸n-プロピル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソプロピル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸n-ブチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソブチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸s-ブチル残基単位、α-シアノ-2,4-ジヒドロキシケイ皮酸メチル残基単位等のα-シアノ-ヒドロキシケイ皮酸エステル残基単位;α-シアノ-4-カルボキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-4-カルボキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-2,3-ジカルボキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-2,3-ジカルボキシケイ皮酸エチル残基単位等のα-シアノ-カルボキシケイ皮酸エステル残基単位;α-シアノ-2-カルボキシ-3-ヒドロキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-2-カルボキシ-3-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位等のα-シアノ-カルボキシ-ヒドロキシケイ皮酸エステル残基単位;3-メチル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸メチル残基単位、3-エチル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エチル残基単位等の3-アルキル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位;3-メチル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸メチル残基単位、3-エチル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エチル残基単位等の3-アルキル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位;2-シアノ-3-メチル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸メチル残基単位、2-シアノ-3-エチル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エチル残基単位等の2-シアノ-3-アルキル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位;2-シアノ-3-メチル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸メチル残基単位、2-シアノ-3-エチル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エチル残基単位等の2-シアノ-3-アルキル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位が挙げられる。
【0040】
エステル系樹脂は、上記式(2)に示す構成単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。上記式(2)に示す構成単位のなかでは、好ましくは、α-シアノ-ヒドロキシケイ皮酸エステル残基単位、α-シアノ-カルボキシケイ皮酸エステル残基単位、3-アルキル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位、3-アルキル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位が挙げられる。
【0041】
上記式(3)においてR7で示される環構造の具体例としては、1-ビニルピロール残基単位、2-ビニルピロール残基単位、1-ビニルインドール残基単位、9-ビニルカルバゾール残基単位、2-ビニルキノリン残基単位、4-ビニルキノリン残基単位、N-ビニルフタルイミド残基単位、N-ビニルスクシンイミド残基単位、2-ビニルフラン残基単位、2-ビニルベンゾフラン残基単位が挙げられ、好ましくは、9-ビニルカルバゾール残基単位、N-ビニルフタルイミド残基単位が挙げられる。
【0042】
エステル系樹脂は、上記式(3)に示す構成単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0043】
上記式(4)において、R8およびR9で示される炭素数1~12の直鎖状アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。
上記式(4)において、R8およびR9で示される炭素数3~12の分岐状アルキル基として、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
上記式(4)において、R8およびR9で示される炭素数3~6の環状アルキル基として、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
上記式(4)においてR8およびR9は、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
上記式(4)におけるR8のなかでは、好ましくは、水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基が挙げられ、より好ましくは、水素原子、メチル基が挙げられる。
上記式(4)におけるR9のなかでは、好ましくは、炭素数3~12の分岐状アルキル基が挙げられ、より好ましくは、炭素数3~8の分岐状アルキル基が挙げられる。
【0044】
上記式(4)に示す構成単位は、代表的にはアクリル樹脂残基単位である。上記式(4)に示す構成単位の具体例として、アクリル酸残基単位、メタクリル酸残基単位、2-エチルアクリル酸残基単位、2-プロピルアクリル酸残基単位、2-イソプロピルアクリル酸残基単位、2-ペンチルアクリル酸残基単位、2-ヘキシルアクリル酸残基単位、アクリル酸メチル残基単位、アクリル酸エチル残基単位、アクリル酸n-プロピル残基単位、アクリル酸イソプロピル残基単位、アクリル酸n-ブチル残基単位、アクリル酸イソブチル残基単位、アクリル酸sec-ブチル残基単位、アクリル酸n-ペンチル残基単位、アクリル酸イソペンチル残基単位、アクリル酸sec-ペンチル残基単位、アクリル酸3-ペンチル残基単位、アクリル酸ネオペンチル残基単位、アクリル酸n-へキシル残基単位、アクリル酸イソへキシル残基単位、アクリル酸ネオへキシル残基単位、メタクリル酸メチル残基単位、メタクリル酸エチル残基単位、メタクリル酸n-プロピル残基単位、メタクリル酸イソプロピル残基単位、メタクリル酸n-ブチル残基単位、メタクリル酸イソブチル残基単位、メタクリル酸sec-ブチル残基単位、メタクリル酸n-ペンチル残基単位、メタクリル酸イソペンチル残基単位、メタクリル酸sec-ペンチル残基単位、メタクリル酸3-ペンチル残基単位、メタクリル酸ネオペンチル残基単位、メタクリル酸n-へキシル残基単位、メタクリル酸イソへキシル残基単位、メタクリル酸ネオへキシル残基単位、2-エチルアクリル酸メチル残基単位、2-エチルアクリル酸エチル残基単位、2-エチルアクリル酸n-プロピル残基単位、2-エチルアクリル酸イソプロピル残基単位、2-エチルアクリル酸n-ブチル残基単位、2-エチルアクリル酸イソブチル残基単位、2-エチルアクリル酸sec-ブチル残基単位等が挙げられ、好ましくはアクリル酸イソブチル残基単位が挙げられる。
【0045】
エステル系樹脂は、上記式(4)に示す構成単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0046】
エステル系樹脂における各構成単位の含有割合は、全構成単位100mol%に対し、式(2)で示される構成単位の含有割合が21mol%以上49mol%以下、式(3)で示される構成単位の含有割合が35mol%以上60mol%以下、式(4)で示される構成単位の含有割合が1mol%以上30mol%以下であることが好ましい。これにより、位相差特性により優れた位相差フィルムが得られ得る。ここで、エステル系樹脂の組成比は、1H-NMRにより測定することができる。
【0047】
エステル系樹脂は、上記式(2)~(4)以外の単量体残基単位を含有してもよい。そのような単量体残基単位としては、例えば、スチレン残基、α-メチルスチレン残基等のスチレン類残基;ビニルナフタレン残基;酢酸ビニル残基、プロピオン酸ビニル残基等のビニルエステル類残基;メチルビニルエーテル残基、エチルビニルエーテル残基、ブチルビニルエーテル残基等のビニルエーテル残基;N-メチルマレイミド残基、N-シクロヘキシルマレイミド残基、N-フェニルマレイミド残基等のN-置換マレイミド残基;アクリロニトリル残基;メタクリロニトリル残基;フマル酸エステル残基;フマル酸残基;エチレン残基、プロピレン残基等のオレフィン類残基が挙げられる。
【0048】
エステル系樹脂の標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、例えば、1×103以上5×106以下、好ましく、5×103以上3×105以下である。エステル系樹脂のMnは、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(GPC)により測定した溶出曲線より算出できる。エステル系樹脂のMnが上記の範囲であれば、樹脂フィルムの機械特性および/または成形加工性の向上を図ることができる。
【0049】
エステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば220℃以下、好ましくは210℃以下であり、例えば180℃以上、好ましくは190℃以上である。エステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、DSC(Differential Scanning Calorimetry)等の熱分析装置によって測定できる。
【0050】
上記エステル系樹脂の具体例としては、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-メタクリル酸エステル共重合体が挙げられる。
【0051】
樹脂成分における上記エステル系樹脂の含有割合は、代表的には1重量%~70重量%であり、好ましくは10重量%~70重量%であり、より好ましくは20重量%~60重量%である。エステル系樹脂の含有割合が1重量%未満の場合または70重量%を超える場合は、位相差の制御が困難である。
【0052】
A-2.アクリル系可塑剤
アクリル系可塑剤としては、Tgが50℃以上であるアクリル系ポリマーが用いられ得る。このようなアクリル系可塑剤は上記樹脂成分との相溶性に優れ、また、樹脂フィルムのTgを大きく低下させることなく、延伸性を向上させることができる。アクリル系可塑剤のTgの上限は、本発明の効果が得られる限りにおいて制限されない。
【0053】
アクリル系可塑剤の標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、例えば1,000~100,000、好ましくは1,000~50,000、より好ましくは1,000~20,000である。アクリル系可塑剤のMwは、ゲル・パ-ミエイション・クロマトグラフィ-(GPC)により測定した溶出曲線より算出できる。重量平均分子量が上記範囲内である場合、ブリードアウトや安定性の低下の問題を回避しつつ、可塑剤としての効果を好適に発揮し得る。
【0054】
上記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分は、(メタ)アクリル酸エステルを含み、目的に応じて(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な任意の適切な共重合モノマーをさらに含み得る。
【0055】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸-tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸-3-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル、γ-(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル-2-パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロメチル-2-パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキサデシルエチル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルは、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等の官能基を有するものであってもよい。(メタ)アクリル酸エステルは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
共重合モノマーとしては、例えば、スチレン、αメチルスチレン、アルキル化αメチルスチレン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、t-ブチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマー;(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸等のビニルカルボン酸モノマーまたはこれらの酸無水物モノマー;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニルモノマー;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレン等のハロゲン化ビニルモノマー;酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソブチレン等のアルケン類;ハロゲン化アルケン類;メタクリル酸アリル、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、ジメタクリル酸モノエチレングリコール、ジメタクリル酸テトラエチレングリコール、ジメタクリル酸テトラエチレングリコール、ジビニルベンゼン、メタクリル酸グリシジル等の多官能性モノマー等が挙げられる。共重合モノマーは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
1つの実施形態において、アクリル系可塑剤は、(メタ)アクリル酸エステルおよびスチレン系モノマーを含むモノマー成分の共重合体(アクリル-スチレン系ポリマー)である。アクリル-スチレン系ポリマーは、上記樹脂成分との相溶性に優れ、かつ、高いTgを示す傾向にある。
【0058】
アクリル系可塑剤としては、例えば、東亜合成社製のUH-2170(Tg=60℃)、UC-3000(Tg=65℃)、UC-3080(Tg=133℃)、UF-5041(Tg=77℃)、UG-4035(Tg=52℃)、UG-4040(Tg=63℃)、UG-4070(Tg=58℃)等を用いることができる。
【0059】
樹脂フィルム(結果として、位相差フィルム)におけるアクリル系可塑剤の配合量は、樹脂成分100重量部に対して、例えば1重量部~30重量部、好ましくは1重量部~20重量部、より好ましくは1重量部~10重量部である。当該配合量が上記範囲を超えて少ない場合、延伸性の向上効果が過少であり得る。また、当該配合量が上記範囲を超えて多い場合、ブリードアウトやフィルムの白濁の懸念が生じ得る。
【0060】
A-3.添加成分
添加成分は、目的に応じて適切に選択され得る。添加成分の具体例としては、ヒンダ-ドフェノ-ル系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ヒドロキシルアミン系酸化防止剤、ビタミンE系酸化防止剤、その他酸化防止剤等の酸化防止剤;ヒンダ-ドアミン系光安定剤;ベンゾトリアゾ-ル、ベンゾフェノン、トリアジン、ベンゾエ-ト等の紫外線吸収剤;界面活性剤;高分子電解質;導電性錯体;顔料;染料;帯電防止剤;アンチブロッキング剤;滑剤が挙げられる。
【0061】
樹脂フィルム(結果として、位相差フィルム)における添加成分の含有量はそれぞれ、樹脂成分100重量部に対して、例えば0.01重量部~10重量部、好ましくは0.1重量部~10重量部である。
【0062】
A-4.位相差フィルムの用途
上記位相差フィルムは、画像表示装置に適用され得る。画像表示装置の代表例としては、液晶表示装置、エレクトロルミネセンス(EL)表示装置(例えば、有機EL表示装置、無機EL表示装置)が挙げられる。
【0063】
有機EL表示装置に用いられる場合、位相差フィルムはλ/4として偏光子と共に円偏光板を構成し、有機EL素子の視認側に配置されることにより、反射防止機能を発揮し得る。円偏光板において、位相差フィルムはその遅相軸方向が偏光子の吸収軸方向に対して例えば40°~50°、好ましくは42°~48°、より好ましくは約45°の角度をなすように配置される。このような構成を有する円偏光板は、非常に優れた円偏光特性(結果として、非常に優れた反射防止特性)を発揮し得る。
【0064】
偏光子は、代表的には、二色性物質(例えば、ヨウ素)を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成されている。偏光子は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光子の単体透過率は、例えば41.0%以上、好ましくは43.0%~46.0%であり、より好ましくは44.5%~46.0%である。偏光子の偏光度は、好ましくは97.0%以上であり、より好ましくは99.0%以上であり、さらに好ましくは99.9%以上である。
【0065】
偏光子の厚みは、例えば30μm以下であり、好ましくは15μm以下であり、より好ましくは1μm~12μmであり、さらに好ましくは2μm~10μmであり、さらにより好ましくは2μm~8μmである。
【0066】
B.位相差フィルムの製造方法
本発明の別の局面によれば、位相差フィルムの製造方法が提供される。本発明の実施形態による位相差フィルムの製造方法は、上記式(1)に示す構成単位を有するセルロ-ス系樹脂30重量%~99重量%と上記式(2)に示す構成単位、上記式(3)に示す構成単位、および上記式(4)に示す構成単位を有するエステル系樹脂1重量%~70重量%とを含む樹脂成分と、Tgが50℃以上であるアクリル系可塑剤と、を含む樹脂フィルムを延伸することを含む。樹脂フィルムは、上記樹脂成分および上記アクリル系可塑剤を含み、任意に添加成分をさらに含む樹脂組成物をフィルム状に成形することによって得られ得る。本発明の実施形態による位相差フィルムの製造方法によれば、A項に記載の位相差フィルムが好適に得られ得る。
【0067】
1つの実施形態において、位相差フィルムの製造方法は、A項に記載の樹脂成分およびアクリル系可塑剤を溶媒に溶解して、樹脂溶液を調製する工程と;該樹脂溶液を基材上に塗工する工程と;基材上の塗膜を加熱して樹脂フィルムを調製する工程と;樹脂フィルムを延伸する工程と;を含む。位相差フィルムの製造方法は、必要に応じて、樹脂フィルムを延伸する工程の後に、樹脂フィルムを延伸方向に熱収縮させる工程をさらに含んでもよい。
【0068】
まず、樹脂成分と、アクリル系可塑剤と、必要に応じて任意の添加成分とをA項で説明した含有割合となるように、溶媒に溶解する。
溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;フェノール、クロロフェノール等のフェノール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、メシチレン、ジメトキシベンゼン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、シクロペンタノン(CPN)、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ブタノール、t-ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等のアルコール系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル系溶媒;1,3-ジオキソラン、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;二硫化炭素、エチルセロソルブ、ブチルセルソルブ、および、これらの混合溶媒が挙げられる。
【0069】
溶媒のなかでは、好ましくは混合溶媒が挙げられる。混合溶媒の組み合わせとしては、エステル系溶媒/芳香族炭化水素類、エーテル系溶媒/芳香族炭化水素類、エステル系溶媒/エーテル系溶媒、エステル系溶媒/アルコール系溶媒、エステル系溶媒/ケトン系溶媒、2種のエーテル系溶媒、2種のエステル系溶媒が挙げられる。
【0070】
セルロース系樹脂と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離(以下、HSP距離*セルロース系と称する場合がある。)は、例えば12.00以下、好ましくは11.30以下、より好ましくは11.20以下である。HSP距離*セルロース系が上記上限以下であれば、位相差フィルムにおける延伸配向性の向上を図ることができる。HSP距離*セルロース系は、例えば、下記式(I)により算出できる。なお、HSP距離*セルロース系の下限は、代表的には、6.0以上である。
式(I):
HSP距離*セルロース系=[4(δd2-δd1)2+(δp2-δp1)2+(δh2-δh1)2]0.5
(式(I)中、δd1は溶媒の分子間の分散力エネルギーを示し;δd2はセルロース系樹脂の分子間の分散力エネルギーを示し;δp1は溶媒の分子間の双極子相互作用エネルギーを示し;δp2はセルロース系樹脂の分子間の双極子相互作用エネルギーを示し;δh1は溶媒の分子間の水素結合エネルギーを示し;δh2はセルロース系樹脂の分子間の水素結合エネルギーを示す。)
【0071】
エステル系樹脂と溶媒とのHSP距離(以下、HSP距離*エステル系と称する場合がある。)は、例えば6.5以下、好ましくは6.0以下であり、例えば2.0以上である。HSP距離*エステル系は、例えば、下記式(II)により算出できる。
式(II):
HSP距離*エステル系=[4(δd3-δd1)2+(δp3-δp1)2+(δh3-δh1)2]0.5
(式(II)中、δd3はエステル系樹脂の分子間の分散力エネルギーを示し;δp3はエステル系樹脂の分子間の双極子相互作用エネルギーを示し;δh3はエステル系樹脂の分子間の水素結合エネルギーを示し;δd1、δp1およびδh1のそれぞれは、上記式(I)と同様の溶媒の分子間のエネルギーを示す。)
【0072】
(HSP距離*セルロース系-HSP距離*エステル系)2は、例えば60以下、好ましくは55以下、より好ましくは50以下、さらに好ましくは45以下、とりわけ好ましくは30以下である。(HSP距離*セルロース系-HSP距離*エステル系)2が上記上限以下であれば、位相差フィルムの逆分散性を安定して確保することができる。(HSP距離*セルロース系-HSP距離*エステル系)2の下限は、例えば10以上である。
【0073】
混合溶媒として、より好ましくは、エステル系溶媒/芳香族炭化水素類が挙げられ、さらに好ましくは、酢酸エチル/トルエンが挙げられ、とりわけ好ましくは酢酸エチル60質量%/トルエン40質量%が挙げられる。溶媒がこのような混合溶媒であると、樹脂フィルム(結果として、位相差フィルム)において、セルロース系樹脂およびエステル系樹脂がより安定してナノ相分離構造を形成できる。
【0074】
樹脂溶液における固形分濃度は、例えば1質量%以上、好ましくは5質量%以上であり、例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
【0075】
樹脂溶液は、好ましくは、所定時間撹拌された後に、静置されて脱泡される。
撹拌時間としては、例えば5分以上、好ましくは10分以上であり、例えば3時間以下、好ましくは1時間以下である。脱泡時間(静置時間)としては、例えば、30分以上、好ましくは1時間以上であり、例えば5時間以下、好ましくは3時間以下である。
【0076】
次いで、樹脂溶液を基材(代表的には樹脂フィルム)上に塗工する。塗工方法としては、任意の適切な手段が採用され得る。塗工方法として例えばアプリケータが挙げられる。これによって、基材上に、樹脂溶液の塗膜が形成される。
【0077】
塗膜の厚みは、例えば30μm~500μm、好ましくは50μm~300μm、より好ましくは70μm~200μmである。
【0078】
次いで、基材上の塗膜を加熱して樹脂フィルムを調製する。加熱温度は、例えば35℃以上165℃以下であり、加熱時間は1分以上100分以下である。より詳しくは、このような加熱工程は、165℃以下で加熱する一次加熱工程(乾燥工程)と、110℃以上で加熱する二次加熱工程(アニール工程)とを含む。
【0079】
乾燥工程は、1段階で実施されてもよく、多段階で実施されてもよい。乾燥工程は、好ましくは多段階で実施される。乾燥工程が多段階で実施される場合、1段目の乾燥工程の加熱温度を、例えば35℃以上65℃以下、好ましくは45℃以上65℃以下に設定し、1段目の乾燥工程の加熱時間を、例えば1分以上30分以下、好ましくは1分以上8分以下に設定する。その後、乾燥工程の段数が増える毎に、加熱温度を、例えば10℃~130℃、好ましくは10℃~40℃上昇させる。2段目以降の各段の加熱時間は、代表的には、1段目の乾燥工程の加熱時間よりも短く、好ましくは20秒以上20分以下、より好ましくは30秒以上5分以下である。乾燥工程の段数は、好ましくは2段以上4段以下であり、より好ましくは3段以下である。乾燥工程における最高温度は、例えば165℃以下、好ましくは130℃未満、より好ましくは120℃未満、さらに好ましくは115℃以下である。
【0080】
その後、必要に応じて、乾燥工程で加熱された塗膜を、例えば30℃以下、好ましくは室温(23℃)に冷却する。乾燥後の塗膜を一旦冷却すると、上記の乾燥工程により形成されたナノ相分離構造を固定化でき、次のアニール工程においてナノ相分離構造を変えることなく保持し得る。次いで、アニール工程において、塗膜を加熱する。アニール工程の加熱温度は、代表的には乾燥工程の最高温度よりも高い。アニール工程の加熱温度は、例えば110℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、例えば180℃以下、好ましくは165℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは140℃以下である。アニール工程の加熱時間は、例えば1分以上、好ましくは5分以上、さらに好ましくは15分以上であり、例えば60分以下、好ましくは45分以下である。
【0081】
これによって、基材上に樹脂フィルムが形成される。次いで、樹脂フィルムを基材から剥離する。
【0082】
樹脂フィルムの厚みは、例えば70μm~200μm、好ましくは70μm~150μmである。
【0083】
次いで、樹脂フィルムを延伸する。1つの実施形態において、樹脂フィルムを、長手方向に搬送しながら、搬送方向と直交する幅方向に延伸(固定端横延伸)する。
【0084】
延伸倍率は、好ましくは2.2倍以上、より好ましくは2.3倍~8.0倍、さらに好ましくは2.5倍~5.0倍である。A項に記載の樹脂成分とアクリル系可塑剤とを含む樹脂フィルムは、延伸性に優れることから、高い延伸倍率を適用することができる。
【0085】
延伸速度は、例えば、1mm/秒以上、好ましくは2mm/秒以上であり、例えば200mm/秒以下、好ましくは100mm/秒以下である。
【0086】
延伸温度は、位相差フィルムに所望される面内位相差および厚み、使用される樹脂の種類、樹脂フィルムの厚み、延伸倍率等に応じて変化し得る。延伸温度は、樹脂フィルムに含まれる材料のTgに関連して変動し、樹脂成分中の配向性を持つ樹脂のうち最も低いTgを持つ樹脂のガラス転移温度(Tg1)に対し、例えばTg1-20℃~Tg1+50℃、好ましくはTg1-20℃~Tg1+40℃、より好ましくはTg1-10℃~Tg1+40℃である。延伸温度が当該範囲であれば、安定に延伸することができる。Tg1は、例えば、セルロース系樹脂のTgである。
【0087】
樹脂フィルムは、好ましくは、延伸前に予熱される。予熱温度も延伸温度と同様にTg1に関して設定される。予熱温度は、例えば、Tg1-20℃以上、好ましくはTg1-10℃以上であり、例えばTg1+50℃以下、好ましくはTg1+40℃以下である。予熱温度は、代表的には延伸温度よりも高く、好ましくは延伸温度よりも5℃以上高い。
【0088】
必要に応じて、延伸した樹脂フィルムを延伸方向に熱収縮させる過程を含んでも良い。熱収縮温度も予熱、延伸温度と同様にTg1に関して設定され、例えばTg1-20℃以上、好ましくはTg1-15℃以上であり、例えばTg1+45℃以下、好ましくはTg1+35℃以下である。熱収縮温度は、より好ましくは延伸温度以下である。収縮率は、代表的には1%以上5%以下である。
【実施例0089】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。各特性の測定方法は以下の通りである。なお、特に明記しない限り、実施例および比較例における「部」および「%」は重量基準である。
(1)厚み
ダイヤルゲージ(PEACOCK社製、製品名「DG-205 type pds-2」)を用いて測定した。
(2)面内位相差(Re(λ))
Axoscan(Axometrics社製)を用いて測定波長λnmの面内位相差を自動計測した。測定温度は23℃であった。
(3)複屈折(Δn(λ))
上記(2)で測定した測定試料の波長590nmにおける面内位相差を、測定試料の厚みで割ることによりΔn(590)を算出した。
(4)ガラス転移温度(Tg)
樹脂およびフィルムのガラス転移温度は、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製示差走査熱量計「DSC6220」を用いて測定した。約10mgの樹脂試料を同社製アルミパンに入れて密封し、50mL/分の窒素気流下、昇温速度20℃/分で30℃から200℃まで昇温した。3分間温度を保持した後、30℃まで20℃/分の速度で冷却した。30℃で3分保持し、再び250℃まで20℃/分の速度で昇温した。2回目の昇温で得られたDSCデータより、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度である、補外ガラス転移開始温度を求め、それをガラス転移温度(Tg)とした。
(4)MIT試験
MIT試験は、JIS P 8115に準拠して行った。具体的には、位相差フィルムを、延伸方向が幅方向(TD方向)、延伸方向と直交する方向が長手方向(MD方向)となるように、長さ15cmおよび幅1.5cmに切り出して、測定試料とした。測定試料をMIT耐折疲労試験機BE-202型(テスター産業社製)に取り付け(荷重1.0kgf、クランプのR:0.38mm)、長手方向(MD方向)について、試験速度90cpmおよび折り曲げ角度90°で繰り返し折り曲げを行い(折り曲げラインの伸びる方向はTD方向)、測定試料が破断した時の折り曲げ回数をMIT回数とした。
【0090】
[合成例1]ケイ皮酸エステル共重合体(9-ビニルカルバゾール/α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソブチル/アクリル酸イソブチル)の合成
容量50mLのガラスアンプルに9-ビニルカルバゾール12.20g、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソブチル7.74g、アクリル酸イソブチル4.05g、重合開始剤である2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン0.453gおよびメチルエチルケトン36.00gを入れ、窒素置換と抜圧を繰り返したのち減圧状態で熔封した。このアンプルを54℃の恒温槽に入れ、24時間保持することによりラジカル重合を行った。重合反応終了後、アンプルから重合物を取り出し、テトラヒドロフラン100gを加え、このポリマー溶液を800gのメタノール/水混合溶剤(重量比80/20)中に滴下して析出させ、ろ過した後、ろ過物を110gのメタノール/水混合溶剤(重量比90/10)で5回洗浄、ろ過した。得られた樹脂を80℃で10時間真空乾燥することにより、負の複屈折性を示すケイ皮酸エステル共重合体22.3gを得た。得られたケイ皮酸エステル共重合体の数平均分子量は50,000であり、残基単位の比率は、9-ビニルカルバゾール残基単位50モル%、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソブチル残基単位25モル%、アクリル酸イソブチル残基単位25モル%であった。また、ケイ皮酸エステル共重合体のTgは、約198℃であった。
【0091】
以下に記載する通り、実施例および比較例において、樹脂フィルムを作製および延伸して位相差フィルムを得たが、位相差フィルムを作製する際の延伸倍率としては、樹脂フィルムに対して、事前に種々の延伸倍率で延伸を試行し、2/3以上の確率で破断なく延伸できた延伸倍率を用いた。
【0092】
[実施例1]
エチルセルロース(ダウ・ケミカル社製、エトセル スタンダード(ETHOCEL standard)100、数平均分子量Mn=58,000、重量平均分子量Mw=180,000、Mw/Mn=3.2、全置換度DS=2.51、Tg=約130℃)80gと、合成例1で得られたケイ皮酸エステル共重合体20gと、アクリル系可塑剤(アクリル-スチレンポリマー、東亜合成社製、「UG-4070」、Tg=58℃、Mw=9,700)5g(樹脂成分100部に対して5部)とを、酢酸エチル/トルエン=60/40(質量比)の混合溶媒に溶解して、固形分濃度16質量%の樹脂溶液を得た。
次いで、樹脂溶液を、ディスパーミキサーによって30分間撹拌した後、2時間静置して脱泡した。脱泡後の樹脂溶液を、アプリケータにより、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4610)上に塗工した。
次いで、塗膜を、オーブンにて、65℃/6分間、85℃/1分間、110℃/2分間の条件で3段乾燥した後、室温(23℃)において60分間静置した。その後、乾燥後の塗膜を、再度オーブンにて、130℃/60分間アニールし、PETフィルムから剥離して、厚み110μmの樹脂フィルムを得た。得られた樹脂フィルムのTgを測定した結果、Tgは125.8℃であった。
次いで、樹脂フィルムを、165℃/1分間の条件で予熱した後、延伸温度155℃、延伸速度2mm/秒の条件で、2.8倍に固定端横延伸した。その後、延伸した樹脂フィルムを、収縮温度155℃で、幅方向に2%収縮させて、位相差フィルム(厚み39μm)を得た。
【0093】
上記位相差フィルムの屈折率特性は、nx>ny>nzを示していた。また、位相差フィルムの厚み方向の中央付近(具体的には、位相差フィルムの厚みを100%としたときに、位相差フィルムの厚み方向の中央から±20%の領域)をサンプリングし、重金属染色を含む超薄切片法により、位相差フィルムの断面をTEM(HT7820,日立社製)により観察した(断面TEM観察)ところ、すべてのドメインのサイズ(最大長さ)が100nm未満であるナノ相分離構造が形成されていることが確認された。また、上記位相差フィルムをMIT試験に供したところ、MD方向におけるMIT回数は400回を超えていた。
【0094】
[実施例2]
アクリル系可塑剤(東亜合成社製、「UG-4070」、Tg=58℃、Mw=9,700)の配合量を樹脂成分100部に対して2部にしたこと、および、延伸倍率を2.3倍にしたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルム(厚み48μm)を得た。得られた位相差フィルムの屈折率特性は、nx>ny>nzを示していた。また、位相差フィルムの厚み方向の中央付近を上記と同様にサンプリングおよび断面TEM観察したところ、すべてのドメインのサイズ(最大長さ)が100nm未満であるナノ相分離構造が形成されていることが確認された。また、上記位相差フィルムをMIT試験に供したところ、MD方向におけるMIT回数は400回を超えていた。
【0095】
[比較例1]
樹脂溶液にアクリル系可塑剤を配合しなかったこと、および、延伸倍率を2.0倍にしたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルム(厚み55μm)を得た。
【0096】
[比較例2]
アクリル系可塑剤として、オールアクリルポリマー(東亜合成社製、「UG-4010」、Tg=-57℃、Mw=2,900)を用いたこと、延伸温度を150℃にしたこと、および、延伸倍率を2.0倍にしたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルム(厚み55μm)を得た。
【0097】
実施例および比較例で得られた位相差フィルムの複屈折および面内位相差を測定した。結果を表1に示す。また、各位相差フィルムの複屈折と波長分散との関係を
図1に示す。
【表1】
【0098】
表1に示す通り、Tgが50℃以上であるアクリル系可塑剤を含む樹脂フィルムを用いて作製された実施例の位相差フィルムは、比較例の位相差フィルムよりも高い延伸倍率で延伸することができ、高いΔnを示した。また、
図1に示す通り、実施例の位相差フィルムは、式(a)を満たしており、高い複屈折(Δn)と逆波長分散特性とを両立することが分かる。