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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180372
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】成分分析装置、成分分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20231214BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
G01N24/00 G
G01N21/64 Z
G01N24/00 100Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093615
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】與名本 欣樹
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043CA05
2G043DA01
2G043DA08
2G043EA01
2G043EA17
2G043FA09
2G043KA02
2G043LA01
2G043MA01
(57)【要約】
【課題】光学的磁気共鳴法を実施する装置に搭載することができ、かつ、センサ表面の付着物を除去しうる清浄化機構を搭載し、センサ表面の汚染が除去されたことを判定できる、光学的核磁気共鳴装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る成分分析装置において、センサは電子スピン共鳴を起こす電子スピンを有する欠陥を内部に有しており、前記電子スピンの向きは、光学的に検出可能であり、前記センサの洗浄時においてオゾン発生デバイスと酸素ラジカル生成デバイスを駆動する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分分析装置であって、
試料に接触して前記試料の核磁場を検出するセンサと、
オゾンを発生する、オゾン発生デバイスと、
オゾンを分解して酸素ラジカルを生成する、酸素ラジカル生成デバイスと、
を備え、
前記センサは、前記試料の核スピンと電子スピン共鳴を起こす電子スピンを有し、
前記電子スピンの向きは、光学的に検出可能であり、
前記オゾン発生デバイスと前記酸素ラジカル生成デバイスは、前記センサの洗浄時に駆動される
ことを特徴とする成分分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の成分分析装置であって、
前記成分分析装置はさらに、前記オゾン発生デバイスと前記酸素ラジカル生成デバイスを制御するコントローラを備え、
前記コントローラは:
前記センサと前記試料が接触していない状態において、前記センサが前記電子スピン共鳴を用いた核磁気共鳴による成分測定を実施した結果を取得し、
前記結果にしたがって、以下のいずれかの判定を行う:
前記センサを前記酸素ラジカルによって洗浄完了したか否か、または
前記センサを前記酸素ラジカルによって再洗浄する必要があるか否か、
ことを特徴とする成分分析装置。
【請求項3】
請求項2記載の成分分析装置であって、
前記コントローラは、前記センサを前記酸素ラジカルによって洗浄完了した後に続いて前記核磁気共鳴による成分測定を実施する際には、前記酸素ラジカル生成デバイスを駆動させているか否かによらず前記成分測定を実施する
ことを特徴とする成分分析装置。
【請求項4】
請求項1記載の成分分析装置であって、
前記成分分析装置はさらに、
前記センサに対してマイクロ波を照射するマイクロ波放出デバイス、
前記センサに対して静磁場を印加する磁石、
前記電子スピンの向きを読み取るために用いるレーザ光を前記センサに対して照射するレーザ光源、
前記センサに対して前記レーザ光を照射したとき前記センサから放出される蛍光を集光するレンズ、
前記蛍光の強度を計測する検出器、
を備える
ことを特徴とする成分分析装置。
【請求項5】
請求項1記載の成分分析装置であって、
前記成分分析装置はさらに、
前記電子スピン共鳴を用いた核磁気共鳴による成分測定をする際に前記試料を収容する測定チャンバ、
前記センサを洗浄する際に前記センサを収容する洗浄チャンバ、
前記センサを前記測定チャンバと前記洗浄チャンバとの間で移動させる機構、
を備え、
前記オゾン発生デバイスと前記酸素ラジカル生成デバイスは、前記洗浄チャンバ内に配置されている
ことを特徴とする成分分析装置。
【請求項6】
請求項4記載の成分分析装置であって、
前記成分分析装置はさらに、
前記マイクロ波放出デバイスと前記センサのペアを2以上載置した可動支持部材、
前記可動支持部材と前記オゾン発生デバイスと前記酸素ラジカル生成デバイスを制御するコントローラ、
を備え、
前記コントローラは:
前記酸素ラジカルによって洗浄を実施する第1位置に第1の前記ペアが配置されるように前記可動支持部材を移動させた後、前記第1のペアに対して洗浄を実施し、
前記第1のペアに対する洗浄が完了した後、前記第1のペアに対して核磁気共鳴による成分測定を実施する第2位置に前記第1のペアが配置されるように前記可動支持部材を移動させるとともに、第2の前記ペアが前記第1位置に配置されるように前記可動支持部材を移動させる
ことを特徴とする成分分析装置。
【請求項7】
請求項6記載の成分分析装置であって、
前記可動支持部材は、回転軸を中心にして回転する回転板、または、直線方向に移動するベルト状の部材、のいずれかによって構成されている
ことを特徴とする成分分析装置。
【請求項8】
請求項1記載の成分分析装置であって、
前記オゾン発生デバイスと前記酸素ラジカル生成デバイスは、
2つの紫外線波長を出射することができる光源、
または、
1つの紫外線波長を出射する光源とオゾンを発生する放電管、
のいずれかによって構成されている
ことを特徴とする成分分析装置。
【請求項9】
請求項1記載の成分分析装置であって、
前記オゾン発生デバイスと前記酸素ラジカル生成デバイスは、2つの紫外線波長を出射することができる光源によって構成されており、
前記光源は、前記センサを収容するチャンバの外に配置されており、
前記成分分析装置はさらに、前記光源が出射した光を前記チャンバ内に導光する光路を備える
ことを特徴とする成分分析装置。
【請求項10】
請求項1記載の成分分析装置であって、
前記センサは、ダイヤモンド材料によって構成されている
ことを特徴とする成分分析装置。
【請求項11】
成分分析装置が有するセンサの洗浄方法であって、
前記センサは、試料の核スピンと電子スピン共鳴を起こす電子スピンを有し、
前記電子スピンの向きは、光学的に検出可能であり、
前記洗浄方法は:
前記センサが収容されたチャンバ内部でオゾンを発生させ、
前記チャンバ内部で、オゾンを分解して酸素ラジカルを生成させる、
ことを特徴とする成分分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学式核磁気共鳴法を用いて試料の成分を分析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ダイヤモンドを用いた光学式核磁気共鳴技術が提案された。ダイヤモンド中に存在する窒素-空孔の複合欠陥(NVセンタと呼ばれる)上に存在する電子スピンは、波長532nmの光を吸収して、赤色の蛍光を出す性質がある。この電子スピンは、外部からの印加静磁場がない場合には、約2.87GHzのマイクロ波を照射すると、電子スピンがこのマイクロ波を吸収して励起状態になる。これに伴い、波長約532nmの光を照射した際の赤色の蛍光の強度は減少する。これは電子スピン共鳴現象と呼ばれる。一方、外部からの印加静磁場が存在する場合には、吸収するマイクロ波の波長が、その印加静磁場の値に比例するので、電子スピン共鳴現象が起こるマイクロ波波長が約2.87GHzから変化する。よって、約532nmの光を照射した際の赤色の蛍光の強度の、照射するマイクロ波の波長依存性を測定することにより、ダイヤモンドのNVセンタが感じている磁場強度が定量化できる。さらに、マイクロ波および約532nmの照射光を、時間的に連続な照射ではなく、パルス照射にすることにより、磁場強度をより高感度に検出することができる。このパルス照射法を用いると、静磁場だけではなく、特定の周波数の交流磁場を検出することが可能となる。
【0003】
ダイヤモンドのNVセンタ付近に水素やフッ素などを含む分子が存在する場合、水素やフッ素などの原子核が形成する交流の核磁場が検出できる。この核磁場を検出する方法を核磁気共鳴法という。本明細書において用いる核磁気共鳴法を通常の核磁気共鳴法と区別するために、本明細書における方法を光学的核磁気共鳴法と呼ぶことにする。光学的核磁気共鳴法は、検出した交流の核磁場の時間変化を周波数に変換することにより、核磁場の周波数を算出することができる。この周波数から、水素やフッ素などを含む分子の分子構造を決定することができる。また、検出した核磁場の大きさから、分子の存在量を定量化することが可能となる。光学式核磁気共鳴法は、通常の核磁気共鳴法よりも検出感度が優れていることが知られている。
【0004】
特許文献1では、NVセンタを含むダイヤモンドで形成したナノピラーをプローブ顕微鏡先端に設置し、そのナノピラーを測定対象試料上で走査することにより、磁場強度の2次元画像を取得することを記載している。同文献はさらに、そのナノピラーに付着した異物を除去する方法を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US2015/0253355
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、検出器であるナノピラーに異物が付着した際に、そのナノピラーを用いて別途用意したダイヤモンド上を走査することにより、異物を物理的に除去する清浄化法を記載している。しかし、ダイヤモンド表面におけるごく微量(例えば分子数層程度)の付着物を除去すること、および、その付着物が除去されたか否かを確認することについては、特許文献1を含めこれまで報告されていない。
【0007】
光学式核磁気共鳴法を用いる際には、測定試料を、ダイヤモンド中のNVセンタの付近に設置しなければならない。これは、光学式核磁気共鳴法においては、測定試料中の測定対象である水素やフッ素などと、ダイヤモンド中のNVセンタとの間の距離が近いほど検出感度が向上するからである。したがって、ダイヤモンドの表面に測定試料を密着させる必要がある。
【0008】
しかし、ダイヤモンドを真空下に放置し、もしくは不活性ガス下以外の環境で放置すると、そのダイヤモンドの表面には、環境中の水分や有機物が付着する。この表面付着物が存在すると、ダイヤモンド表面に測定試料を近接させても、測定試料とダイヤモンド表面の間には、表面付着物の厚み分だけ間隙ができる。この間隙により、光学的核磁気共鳴法の検出感度は低下する。この表面付着物が水素やフッ素などを含む場合は、光学的核磁気共鳴法の測定データ上において、測定試料からの核磁場信号に加えて、表面付着物からの核磁場信号が加わる。この表面付着物からの核磁場信号は望ましくない信号であり、測定データの解釈を困難にする外乱である。よって、ダイヤモンドに測定試料を密着させる前に、ダイヤモンド表面の付着物を除去しておく必要がある。
【0009】
従来は、ダイヤモンド表面の付着物を除去するための清浄化手法として、硫酸と硝酸の混合溶液や、硫酸と過酸化水素水の混合溶液内で一定時間加熱する酸溶液洗浄法が用いられてきた。この方法をもちいると、ダイヤモンド表面の付着物は除去できる。しかし一方で、ダイヤモンド表面に残存する酸の残渣を取り除くための、酸溶液洗浄後に実施される有機溶媒洗浄や純水洗浄によって、再度ダイヤモンド表面に有機物や水分が付着する。したがって、酸溶液洗浄法を適用した場合には、ダイヤモンド表面には有機物や水分が付着することが避けられない。よって、ダイヤモンド表面と測定試料を密着させても、その間には付着物による間隙が存在するので、光学的核磁気共鳴法の検出感度の低下が避けられない。また、酸溶液洗浄法は、酸を処理するための専用設備が必要であるので、光学的核磁気共鳴装置に搭載することは難しい。
【0010】
つまり、光学的核磁気共鳴装置に搭載できダイヤモンド表面のその場清浄化が可能、かつ、ダイヤモンド表面の付着物を除去しうる清浄化法は確立されていない。また、ダイヤモンド表面の付着物が、光学的核磁気共鳴法の測定データに与える影響を無視しうる程度に低減されているかどうかを確認する術も確立されていない。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、光学的磁気共鳴法を実施する装置に搭載することができ、かつ、センサ表面の付着物を除去しうる清浄化機構を搭載し、センサ表面の汚染が除去されたことを判定できる、光学的核磁気共鳴装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る成分分析装置において、センサは電子スピン共鳴を起こす電子スピンを有する欠陥を内部に有しており、前記電子スピンの向きは、光学的に検出可能であり、前記センサの洗浄時においてオゾン発生デバイスと酸素ラジカル生成デバイスを駆動する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る成分分析装置によれば、センサ表面の付着物を光学的磁気共鳴装置上で除去することができ、かつ、センサ表面の清浄度を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】成分分析装置100の構成を示す側面模式図である。
図2】光学的核磁気共鳴測定チャンバ101の別構成例を示す側面模式図である。
図3】マイクロ波放出デバイス102の別構成例を示す斜視図である。
図4】マイクロ波放出デバイス102の別構成例を示す側面模式図である。
図5】酸素ラジカル発生デバイスの別構成例を示す側面模式図である。
図6】酸素ラジカル発生デバイスの別構成例を示す側面模式図である。
図7】成分分析装置100が光学的核磁気共鳴を用いて試料の成分を測定する手順を説明するフローチャートである。
図8】ダイヤモンド表面を清浄化するために一般的に用いられている光学的核磁気共鳴の測定手順を説明するフローチャートである。
図9】従来の測定手順において異物が付着した状態を示す側面模式図である。
図10】実施形態の測定手順においてダイヤモンド103の上に測定試料1001を載置した状態を示す側面模式図である。
図11】酸素ラジカルを用いたダイヤモンド表面の清浄化の実験条件を示す。
図12図11で示した実験条件において清浄化処理を施したダイヤモンド表面に対する、純水をプローブとして用いた接触角実験の結果を、横軸を清浄化処理時間、縦軸を接触角として示す。
図13】酸素ラジカルを用いた清浄化処理を施して、その表面の付着物を除去したダイヤモンドを大気中に放置した場合における、ダイヤモンド表面に付着する有機物および水分の量を、光学的核磁気共鳴測定から定量化した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施の形態1>
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態を説明する。本実施形態では、酸素存在下の元で酸素ラジカル発生デバイスを用いて、ダイヤモンド表面の付着物を除去する工程と、光学式核磁気共鳴測定によって、ダイヤモンド表面の清浄度を判定する工程と、測定試料をダイヤモンド上に密着させて測定試料の光学式核磁気共鳴測定を実施する工程を備えている。
【0016】
本実施形態で用いる酸素ラジカル発生デバイスは、波長約185nmおよび波長約254nmを放出する紫外線光源を例として説明するが、波長254nmを放出する紫外線光源もしくはLED(Light Emitting Diode)と、オゾンを発生させる放電管との組み合わせを用いてもよい。紫外線光源もしくはLEDは光学的核磁気共鳴測定チャンバ内部に設置してもよいし、チャンバ外部に設置した紫外線光源もしくはLEDから、光学的核磁気共鳴測定チャンバまで光を誘導してもよい。さらにまた、紫外線光源もしくはLEDは、光学的核磁気共鳴測定チャンバの近傍に設置した、清浄化チャンバの中に設けられていてもよい。
【0017】
図1は、本実施形態に係る成分分析装置100の構成を示す側面模式図である。光学的核磁気共鳴測定チャンバ101内部において、マイクロ波放出デバイス102上にダイヤモンド103(核磁場センサ)を設置する。マイクロ波放出デバイス102とダイヤモンド103の上方には、紫外線を放出する紫外線光源104を設置している。ダイヤモンド103の下方にはレンズ105が配置されている。レンズ105を介して波長532nmのレーザ1061がレーザ光源106からダイヤモンド103に対して照射される。レーザ照射によってダイヤモンド103から放出される赤色蛍光107は、レンズ105を介して検出器108によって検出される。検出器108は、この蛍光強度を計測することによりダイヤモンド103内部の電子スピンの向きを測定する。ダイヤモンド103の近傍には、ダイヤモンド103に対して静磁場を印加する磁石109が設置されている。コントローラ200は、成分分析装置100が備える各構成要素を制御する。
【0018】
本発明においては、ダイヤモンド103の表面の清浄化のために酸素ラジカルを利用する。したがって、紫外線光源104から紫外線を照射する時には、光学的核磁気共鳴測定チャンバ101の内部に、酸素分子が存在する必要がある。よって、光学的核磁気共鳴測定チャンバ101の内部は大気雰囲気と同等の雰囲気でもよいし、あるいは、排気機構および酸素を含むガスを導入する機構を備えていてもよい。
【0019】
紫外線光源104は、そこから出射される紫外線の波長が約185nmと約254nmを含んでいるか、または出射する波長をこれらの間で切り替えることができるように構成するとよい。185nmの紫外線が酸素と反応してオゾンが発生し、そのオゾンと254nmの紫外線が反応することによってオゾンを分解して酸素ラジカルを発生させてダイヤモンド103を洗浄する。このように2種類の紫外線を照射する光源を用いてオゾンと酸素ラジカルを発生させる場合は、オゾン発生デバイスと酸素ラジカル発生デバイスは実質的に一体であると考えることができる。
【0020】
図2は、光学的核磁気共鳴測定チャンバ101の別構成例を示す側面模式図である。図1においては、ダイヤモンド103の表面を清浄化するための紫外線光源104は、光学的核磁気共鳴測定チャンバ101内部に収容されているが、図2のように、光学的核磁気共鳴測定チャンバ101とは別に、紫外線光源104を設置した清浄化用チャンバ201を設けてもよい。ダイヤモンド103を清浄化用チャンバ201の内部で清浄化し、その後に可動機構202を用いて、ダイヤモンド103を光学的核磁気共鳴測定チャンバ101に移動させ、光学的核磁気共鳴測定チャンバ101内部のマイクロ波放出デバイス102の上にダイヤモンド103を設置する。図2において、光学的核磁気共鳴測定チャンバ101と清浄化用チャンバ201との間は、空間的に接続されていてもよいし、接続されていなくともよい。すなわちダイヤモンド103をチャンバ間で移動できればよい。
【0021】
図3は、マイクロ波放出デバイス102の別構成例を示す斜視図である。マイクロ波放出デバイス102は必ずしもその位置が固定式である必要はなく、可動式であってもよい。例えば、図3のように、回転軸301を中心軸として回転する可動支持部材302(回転板)の上にマイクロ波放出デバイス102を複数設置し、さらにそのマイクロ波放出デバイス102の上にダイヤモンド103を設置しておき、可動支持部材302を向き303の方向に回転させる。可動支持部材302の上には紫外線光源104が設置されており、その紫外線光源104の直下に移動したダイヤモンド103に対して紫外線305が照射され、これによりオゾン(および酸素ラジカル、以下同様)が発生してダイヤモンド103の表面が清浄化される。さらに可動支持部材302が回転すると、紫外線で清浄化されたダイヤモンド103もともに回転して、紫外線照射領域から外れ、測定位置に移動する。測定位置に移動したダイヤモンド103の上に、測定試料306が設置され、光学的核磁気共鳴測定が実施される。これを繰り返すことにより、時間的に連続して光学的核磁気共鳴測定を実行することが可能となる。可動支持部材302(および後述の401)はコントローラ200によって制御することができる。
【0022】
図4は、マイクロ波放出デバイス102の別構成例を示す側面模式図である。マイクロ波放出デバイス102は、図4のように、ベルト状の可動支持部材401に設置されたものでもよい。可動支持部材401の上にはマイクロ波放出デバイス102が複数設置されており、かつ、そのマイクロ波放出デバイス102の上にはダイヤモンド103が設置されている。この可動支持部材401が直線方向402に動き、紫外線光源104の直下に到達した際に、紫外線光源104からダイヤモンド103の表面に対して紫外線305が照射される。これによりオゾンが発生してダイヤモンド103の表面は清浄化される。可動支持部材401がさらに動き、清浄化されたダイヤモンド103は紫外線光源104の紫外線照射領域から外れ、測定位置に移動する。測定位置に移動したダイヤモンド103の上に測定試料306が設置され、光学的核磁気共鳴測定が実施される。これを繰り返すことにより、時間的に連続して光学的核磁気共鳴測定を実行することが可能となる。
【0023】
図5は、酸素ラジカル発生デバイスの別構成例を示す側面模式図である。紫外線光源104に替えて、例えば図5に示す、波長約254nmの紫外線を放出するLEDもしくは紫外線光源501と、オゾンを発生するための放電管502との組み合わせによって構成することもできる。放電管502は、光学的核磁気共鳴測定チャンバ101の外に設置して、配管を通じてオゾンを光学的核磁気共鳴測定チャンバ101の中に導入するように構成してもよい。
【0024】
図6は、酸素ラジカル発生デバイスの別構成例を示す側面模式図である。図6に示すように、波長約185nmおよび約254nmの紫外線を放出する紫外線電源601から、ファイバ602(光路)を用いて紫外線を導光し、光学的核磁気共鳴測定チャンバ101の上部に空けた穴603を介してダイヤモンド103に対して紫外線を照射してもよい。
【0025】
核磁気共鳴法は、磁気シールドによって覆われたチャンバ内で実施することが多い。磁気シールドは一般に高価な金属によって形成されるので、装置全体を大型化しにくい事情がある。そうするとチャンバもこれにともなって小型化される傾向があり、紫外線光源をチャンバ内に配置するためのスペースが確保できない場合がある。図6の構成はそのような場合においてもオゾン発生デバイスを構築できる利点がある。
【0026】
図7は、成分分析装置100が光学的核磁気共鳴を用いて試料の成分を測定する手順を説明するフローチャートである。本フローチャートの各ステップは、コントローラ200が成分分析装置100の各構成要素を制御することにより実施される。以下図7の各ステップについて説明する。
【0027】
S701において、ダイヤモンド103を光学的核磁気共鳴測定チャンバ101内に設置されたマイクロ波放出デバイス102の上に設置する。
【0028】
S702において、紫外線光源104から波長約185nmおよび約254nmの紫外線を、ダイヤモンド103に対して照射し、ダイヤモンド103を清浄化処理する。清浄化処理後、紫外線光源104からの照射を止める。
【0029】
S703において、清浄化したダイヤモンド103の光学的核磁気共鳴測定を実施し、測定結果を測定データとして記録する。光学的核磁気共鳴測定は、ダイヤモンド103の内部に存在するNVセンタにおける電子スピン共鳴を利用して試料の成分を分析する手法であり、具体的内容は背景技術欄で述べているのでここでは詳細は説明しない。
【0030】
S704において、S703により取得した光学的核磁気共鳴測定データに基づき、ダイヤモンド103の表面に、有機物や水分などの付着物が残存しているかどうかを判定する。すなわちダイヤモンド103を洗浄完了したか否か(または再洗浄する必要があるか否か)を判定する。ダイヤモンド103上に付着物の存在が確認された場合には、S702へ戻り、再度紫外線光源104を用いた清浄化処理を実施する。ダイヤモンド103上に付着物の存在が確認されない場合は、ダイヤモンド103の表面の付着物は光学的核磁気共鳴測定データに対して影響がない量にまで除去されていると判断し、S705へ進む。
【0031】
S705において、測定試料をダイヤモンド103の上部に密着させる。
【0032】
S706において、光学的核磁気共鳴測定を実施し、測定試料の光学的核磁気共鳴測定データを取得する。本ステップにおいては、オゾン発生デバイスと酸素ラジカル発生デバイスは、駆動してもよいし駆動しなくてもよい。
【0033】
図8は、ダイヤモンド表面を清浄化するために一般的に用いられている光学的核磁気共鳴の測定手順を説明するフローチャートである。本発明における測定手順と比較するために、図8に示す一般的手順を説明する。
【0034】
S801において、ダイヤモンド103を、光学的核磁気共鳴装置の外に存在する有機ドラフトなどの専用洗浄設備を用いて、酸溶液(例えば硫酸と硝酸の混合溶液)で洗浄清浄化処理する。S802において、S801の後にダイヤモンド103の表面に残存している酸溶液の残渣を、アセトンなどの有機溶媒を用いた超音波洗浄により洗浄し、さらに純水を用いて洗浄する。S803において、ダイヤモンド103を光学的核磁気共鳴測定チャンバ101内に設置されたマイクロ波放出デバイス102の上に設置する。S804において、測定試料をダイヤモンド103の上部に密着させる。S805において、測定試料の光学的核磁気共鳴測定データを取得する。
【0035】
図8の測定手順においては、ダイヤモンド103の表面に、S802において用いたアセトンなどの有機溶媒および純水が付着する。これが測定結果に対してノイズとなって測定精度が低下する。
【0036】
図9は、従来の測定手順において異物が付着した状態を示す側面模式図である。図9に示すように、S804においてダイヤモンド103の上に測定試料901を設置すると、付着物902がダイヤモンド103と測定試料901の間に存在するので、ダイヤモンド103と測定試料901との間に間隙が生じ、光学的核磁気共鳴の検出感度が低減する。また、付着物902に含有される水素原子からの信号が、測定試料901からの信号に混在することになるので、これが光学的核磁気共鳴の信号の外乱となる。
【0037】
図10は、本実施形態の測定手順においてダイヤモンド103の上に測定試料1001を載置した状態を示す側面模式図である。図7の光学的核磁気共鳴の測定プロトコルにおいては、溶液を用いずにダイヤモンド103の表面を清浄化することができ、かつ、その清浄度を光学的核磁気共鳴から判断でき、付着物が残存する場合には、完全に清浄化するまでS702の清浄化処理を施すことができる。したがって、S705において測定試料をダイヤモンド103の上に設置した時には、図10に示すように、ダイヤモンド103の表面には付着物が存在しないので、測定試料1001とダイヤモンド103は密着することができる。
【0038】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る成分分析装置100は、ダイヤモンド103上の付着物を酸素ラジカルによって除去した後に、光学的核磁気共鳴測定でダイヤモンド103表面の清浄を判定する。付着物の影響が光学的核磁気共鳴測定データに影響ないこと、つまり、ダイヤモンド表面の付着物が確実に除去されていることを確認した後に、測定試料をダイヤモンド103上に密着させる。これにより、ダイヤモンド103と測定試料の間の間隙を低減して両者を確実に密着させることができる。これにより光学的核磁気共鳴測定の検出感度が向上するとともに、付着物に起因する光学的核磁気共鳴測定データの外乱を低減することができる。
【0039】
<実施の形態2>
本発明の実施形態2では、成分分析装置100が備える構成要素の別構成例について説明する。その他の構成要素は実施形態1と同じであるので、本実施形態2においては説明を省略する。
【0040】
マイクロ波放出デバイス102は、プリント基板で構成されていてもよいし、ワイヤで形成された小型のマイクロ波放出アンテナでもよい。マイクロ波放出デバイス102は必ずしもダイヤモンド103の下方に存在する必要はなく、ダイヤモンド103に対してマイクロ波が照射できる配置に設置されていればよい。
【0041】
紫外線光源104は、必ずしもダイヤモンド103の上に配置されている必要はなく、放出される紫外線が望ましくはダイヤモンド103に照射される配置に設置されていればよい。
【0042】
レンズ105は必ずしもダイヤモンド103の下方に存在しなくとも、ダイヤモンド103へレーザ1061が照射でき、かつ、赤色蛍光107が集光できる配置に設置されていればよい。レンズ105と検出器108の間には任意の光学素子が存在していてもよく、レンズ105と検出器108は光学的核磁気共鳴測定チャンバ101の外側に存在していてもよい。
【0043】
磁石109は永久磁石でもよいし、電磁石でもよい。レーザ1061の波長は、必ずしも532nmには限定されず、センサ材料が蛍光放出する波長であればよい。
【0044】
<実施の形態3>
本発明の実施形態3では、酸素ラジカルを用いたダイヤモンド表面の清浄化効果を具体的に説明する。成分分析装置100の構成は実施形態1~2と同じであるので、本実施形態3においては説明を省略する。
【0045】
図11は、酸素ラジカルを用いたダイヤモンド表面の清浄化の実験条件を示す。紫外線の強度は1.2mW/cmから9.6mW/cm、紫外線を放出する紫外線光源とダイヤモンド表面との距離は0.5cmおよび1.2cmであるが、これらの値は任意である。ただし、清浄化に要する時間は1時間以内が望ましいので、紫外線強度は4.8mW/cm2以上、紫外線光源とダイヤモンドとの距離は1.2cm以下が好適である。紫外線強度がより強い場合には、紫外線強度とダイヤモンドの距離は1.2cmよりも長くてもよい。
【0046】
図12は、図11で示した実験条件において清浄化処理を施したダイヤモンド表面に対する、純水をプローブとして用いた接触角実験の結果を、横軸を清浄化処理時間、縦軸を接触角として示す。酸溶液を用いて洗浄清浄化処理を施した直後のダイヤモンド表面で測定した接触角の値、すなわち清浄ダイヤモンド表面での接触角の値1201から、ダイヤモンドの清浄表面の接触角は、約12度であることが分かる。この値はダイヤモンドの表面の凹凸にも依存するので、かならずしも12度にならないこともある。
【0047】
このダイヤモンドを大気中で1週間放置した後には、ダイヤモンド表面の接触角は約50度と大きくなった。この変化は大気中の有機物がダイヤモンド表面に付着したことに起因している。この値は放置する環境に依存するので、必ずしも約50度にならないこともある。
【0048】
条件1101と1102は、表面に付着物が存在するダイヤモンドに対して紫外線のみを照射(すなわち、酸素ラジカルが発生しない)することにより清浄化処理を実施するものである。接触角の値1202と1203はこれらに対応する。このときの接触角は紫外線の強度に依存せずにほぼ一定の値となったので、紫外線のみの照射ではダイヤモンド表面の付着物は除去できず、清浄化されていないことが分かる。
【0049】
条件1105は、表面に付着物が存在するダイヤモンドに対してオゾンのみを暴露するものである。接触角の値1206はこれに対応する。このときの接触角は緩やかに減少する傾向を示した。ただし、この減少率の変化から、ダイヤモンド表面が完全に清浄化されるまでに要する時間、つまり接触角が約12にまで減少するために要する時間を計算すると数カ月以上の長期間であり、清浄化工程には適さない。
【0050】
条件1104は、波長約185nmと約254nmの紫外線の照射(すなわち、酸素ラジカルを用いて処理)するものである。接触角の値1205はこれに対応する。紫外線ランプとダイヤモンド表面との距離が1.2cmの場合には約60分で接触角の測定値が約12度となり、清浄化面の値とほぼ等しくなる。つまり、酸素ラジカルを用いた清浄化処理の場合には、ダイヤモンド表面の付着物が短時間で除去できることが分かる。
【0051】
条件1103は、さらに紫外線ランプとダイヤモンド表面との距離を0.5cmに短縮したものである。接触角の値1204はこれに対応する。このときは、約15分で接触角の測定値が約12度となる。よって、この紫外線ランプとダイヤモンドとの間の距離が短いほど、より短時間でダイヤモンド表面が清浄化できることが分かる。
【0052】
図13は、酸素ラジカルを用いた清浄化処理を施して、その表面の付着物を除去したダイヤモンドを大気中に放置した場合における、ダイヤモンド表面に付着する有機物および水分の量を、光学的核磁気共鳴測定から定量化した結果を示す。光学的核磁気共鳴測定は、有機物、および、水に含まれる水素原子を検出している。図13の光学的核磁気共鳴測定スペクトルにおいて、横軸は水素原子の核スピンが形成する核磁場の周波数であり、縦軸は水素原子の存在量に相当する。この光学的核磁気共鳴スペクトルの測定は、ダイヤモンドを清浄化した後に、大気中で0時間、12時間、120時間放置した後に、光学的核磁気共鳴装置チャンバに入れ、清浄化処理を実施せずに実施したものである。
【0053】
スペクトル1301は、0時間放置の結果であるが、信号は見えていないことから、ダイヤモンド表面への付着物の量は、この光学的核磁気共鳴測定の検出限界以下であることが分かる。スペクトル1302は、12時間放置の結果であるが、200kHzの付近にピークが存在する。このピークは、ダイヤモンド表面の付着物に含まれる水素原子に起因するので、12時間大気下で放置することにより、ダイヤモンド表面に大気中に存在する有機物や水分が付着したことが分かる。スペクトル1303は120時間放置した後に測定したものであり、スペクトル1302と同じ200kHzの位置にピークが存在しており、また、そのピークは増大している。よって、スペクトル1303のピークは、スペクトル1302と同様の起源、すなわち、ダイヤモンド表面の付着物に含まれる有機物や水素に起因するものであり、かつ、その付着量が放置時間とともに増加していることを意味している。スペクトル1304は、スペクトル1303を与えるダイヤモンドに対して、本発明の酸素ラジカルを用いた清浄化処理を施した後に測定した、光学的核磁気共鳴測定結果である。スペクトル1304にはピークが存在しないので、本清浄化処理によってダイヤモンド表面の付着物が除去されたことが分かる。
【0054】
図13に示す結果によれば、本発明の効果として、付着物が表面に存在するダイヤモンドに対して、酸素ラジカルを用いた清浄化処理を施すことにより、付着物を除去することができ、かつ、その清浄化度の判定が可能となることが分かる。したがって光学的核磁気共鳴測定データの質の向上を図ることができる。
【0055】
<本発明の変形例について>
以上の実施形態において、図1の紫外線光源104、および、図6の紫外線電源601について、放出される紫外線の波長は、約185nmおよび約254nm、もしくは約254nmであることを説明したが、紫外線波長がこれに限定されず、少なくともオゾンが生成する波長である約185nm以下の紫外線、およびオゾンから酸素ラジカルを生成する波長約254nm付近の紫外線であればよい。
【0056】
以上の実施形態において、ダイヤモンド103と試料は必ずしも機械的に厳密に直接接触しなくともよく、核磁場を検出できればごく少量の距離があってもよい。例えば数nm程度の間隙がダイヤモンド103と試料との間にあってもよい。したがって、ダイヤモンド103と試料が接触しているとは、このような核磁場を検出可能な配置関係を包含するものであることを付言しておく。
【0057】
以上の実施形態において、センサ材料としてダイヤモンドを例示したが、本発明の対象はこれに限るものではない。すなわち、光学式核磁気共鳴法を用いることができるその他種別のセンサ材料を洗浄する際に、本発明を適用することもできる。すなわち、試料に接触して試料の核磁場を検出する核磁場センサとして使用できるのであれば、ダイヤモンド103に代えてその他の材料を用いることができる。
【0058】
以上の実施形態において、コントローラ200は、その機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアによって構成することもできるし、その機能を実装したソフトウェアを演算装置(例えばCentral Processing Unit、Graphics Processing Unitなど)その他のコンピュータが実行することによって構成することもできる。
【符号の説明】
【0059】
100:成分分析装置
101:光学的核磁気共鳴測定チャンバ
102:マイクロ波放出デバイス
103:ダイヤモンド
104:紫外線光源
105:レンズ
106:レーザ光源
107:赤色蛍光
108:検出器
109:磁石
図1
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図6
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図10
図11
図12
図13