(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180420
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】金属部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 26/033 20110101AFI20231214BHJP
B21D 26/021 20110101ALI20231214BHJP
【FI】
B21D26/033
B21D26/021
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093723
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】加地 暁
(72)【発明者】
【氏名】高野 恒男
(72)【発明者】
【氏名】本間 孝志
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA17
4E137BA01
4E137BA04
4E137BA05
4E137BA06
4E137BA07
4E137BB01
4E137BB03
4E137CA16
4E137DA02
4E137EA10
4E137EA26
4E137GA01
4E137GA06
4E137GA12
4E137GA15
(57)【要約】
【課題】本発明の主たる目的は、外部から加圧流体を注入する必要がなく、簡便な装置を用いて行うことができるハイドロフォーミング技法を提供することにある。
【解決手段】本発明の金属部品の製造方法は、固形状のワックスが内側に充填された金属製の素材管2を、分割した金型3,4の間に配置すること、および、分割した金型3,4の間に素材管2を配置した後、金型3,4を型締めした状態でワックスを融解させ、膨張したワックス7により生じる内圧を素材管2に負荷し、次いで素材管2を変形させること、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形状のワックスが内側に充填された金属製の素材管を、分割した金型の間に配置すること、および、
分割した金型の間に前記素材管を配置した後、前記金型を型締めした状態で前記ワックスを融解させ、前記ワックスの膨張により生じる内圧を前記素材管に負荷し、次いで前記素材管を変形させること、
を含む、金属部品の製造方法。
【請求項2】
分割した金型の間に前記素材管を配置したとき、軸押し用のピストンを挿入するためのシリンダーが前記金型に形成される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
更に、前記ワックスを融解させる前に、前記シリンダーに挿入された前記ピストンで前記ワックスを押し込むことを含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記金型を型締めした状態で前記ワックスを融解させるとともに、前記シリンダーに挿入された前記ピストンで前記素材管を管軸方向に押し込む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ピストンの内部にはワックス溜めのための空間が形成され、前記ワックス溜めにも固形状のワックスが充填されている、請求項2に記載の製造方法。
【請求項6】
分割した金型の間に前記素材管を配置した状態で型締めしたとき、前記素材管が密閉空間に収容される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
固形状のワックスの融解に伴う膨張により生じる内圧の働きのみによって前記素材管を変形させる、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記素材管の開口面を塞ぐキャップが、前記素材管に装着されている、請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ワックスとして、第一ワックスと、前記第一ワックスと相溶せず、かつ、前記第一ワックスより融解温度が高い第二ワックスとを使用する、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
成形時に前記第一ワックスのみが融解する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
成形時の一段階では前記第一ワックスのみが融解し、その後の成形段階の少なくとも一つでは前記第二ワックスも融解する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
前記第一ワックスおよび前記第二ワックスのいずれか一方が、極性基を有する化合物を主成分とするワックスからなり、他方が、炭化水素を主成分とするワックスからなる、請求項9に記載の製造方法。
【請求項13】
前記第一ワックスおよび前記第二ワックスのいずれか一方が、ヒドロキシ脂肪酸アミド、脂肪酸アミドおよび脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有するワックスからなり、他方が、炭化水素を主成分とするワックスからなる、請求項9に記載の製造方法。
【請求項14】
前記第一ワックスと前記第二ワックスとを視覚的に識別可能とするために、前記第一ワックスおよび前記第二ワックスのいずれか一方または両方に着色剤が添加されている、請求項9に記載の製造方法。
【請求項15】
固形状のワックスとともに金属製の素材板を、分割した金型の間に配置すること、および、
分割した金型の間に前記素材板を配置した後、前記金型を型締めした状態で前記ワックスを融解させ、前記ワックスの膨張により生じる内圧を前記素材板に負荷し、次いで前記素材板を変形させること、
を含む、金属部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の部品製造において、ハイドロフォーミングは部品の軽量化、高い機械的強度、部品数削減等の利点があり、注目されている技術である。
ハイドロフォーミングの典型例を
図12に示す。まず、分割した上下の金型103,104の間に金属製の素材管102を配置する。その後、金型103,104を型締めし、素材管102の内側に注入した液体によって内圧をかけるとともにピストン106,106で管軸方向に軸押しδを負荷する。これにより管軸方向の伸びを抑えながら、金型103,104の内面形状を反映した金属部品を成形できる(特許文献1)。
【0003】
ハイドロフォーミングによれば、例えば、T字管の成形も可能である。
図13に示すように、分割した金型107,108の間に素材管102を配置し、その後型締めした状態で液導入孔109,109から素材管102の内側に液体を注入して内圧をかけ、素材管102を両側からピストン106,106で押し込む。これにより管軸方向に圧縮荷重を負荷でき、高さhのT字形状110を成形できる(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-275972号公報
【特許文献2】特開平10-175028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のハイドロフォーミングにおいては、軸押し用のピストンに開けた導入孔を通して外部から高圧の加圧流体が素材管の内部に注入される。加圧流体の注入には、複雑な装置や設備を要するため、従来のハイドロフォーミングは簡便な手法ではない。
【0006】
本発明の主たる目的は、外部から加圧流体を注入する必要がなく、簡便な装置を用いて行うことができるハイドロフォーミング技法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、固形状のワックスが内側に充填された金属製の素材管を、分割した金型の間に配置すること、および、分割した金型の間に前記素材管を配置した後、前記金型を型締めした状態で前記ワックスを融解させ、前記ワックスの膨張により生じる内圧を前記素材管に負荷し、次いで前記素材管を変形させること、を含む、金属部品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、外部から加圧流体を注入する必要がなく、簡便な装置を用いて行うことができるハイドロフォーミング技法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、金属製の素材管を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、素材管の内側に固形状のワックスが充填されたものを模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、分割した金型の間に
図2の素材管が配置されたときを模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、軸押しをしながら素材管を成形する様子を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、ワックス溜めのための空間が形成されたピストンを模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、
図5のピストンの内部の空間に固形状のワックスが充填されたものを模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は、
図6のピストンをシリンダーに挿入したときを模式的に示す断面図である。
【
図8】
図8は、
図6のピストンで軸押しをしながら素材管を成形する様子を模式的に示す断面図である。
【
図9】
図9は、素材管の内側に第一ワックスおよび第二ワックスが充填されたものを模式的に示す断面図である。
【
図10】
図10は、金型を型締めしたときに素材管が密閉空間に収容された様子を模式的に示す断面図である。
【
図11】
図11は、分割した金型の間に固形状のワックスとともに金属製の素材板が配置されたときを模式的に示す断面図である。
【
図12】
図12は、従来公知のハイドロフォーミングの一例を示す模式図である。
【
図13】
図13は、従来公知のハイドロフォーミングの他の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
典型的な実施形態に係る金属部品の製造方法は、以下の(i)および(ii)を少なくとも含む。
(i)固形状のワックスが内側に充填された金属製の素材管を、分割した金型の間に配置すること。
(ii)分割した金型の間に該素材管を配置した後、該金型を型締めした状態で該ワックスを融解させ、該ワックスの膨張により生じる内圧を該素材管に負荷し、次いで該素材管を変形させること。
【0011】
この製造方法においては、金型を型締めした状態で素材管の内側に充填された固形状のワックスを融解させる。このときのワックスの膨張により生じる内圧を利用して該素材管を成形するため、外部から加圧流体を注入する必要がない。このようにあらかじめ充填した固形状のワックスの融解に伴う膨張により生じる内圧で素材管を成形することで、従来のハイドロフォーミングと同様に種々の形状および用途に適用可能な金属部品を製造できる。よって、簡便な装置を用いて行うことができるハイドロフォーミング技法が提供される。
【0012】
以下、本発明のいくつかの実施形態について適宜図面を参照しながら説明する。図面における寸法比は、説明の便宜上のものであり、実際のものとは異なる場合がある。また、図面において、同一の構成については同じ符号を用いて示し、重複する構成について説明を省略することがある。
【0013】
1.第一実施形態
第一実施形態においては、
図1に示すような金属製の素材管2を準備し、
図2に示すように素材管2の内側に固形状のワックス1を充填する。例えばワックスを充填するためには、融解したワックスを素材管2の内側に流し込むことができる。その後ワックスを固化することで、固形状のワックス1を素材管2の内側に充填することができる。充填されたワックスの密度を高め、成形時の内圧を高くするために、充填時に融解させたワックスを固化する前に脱泡することが好ましい。
【0014】
次いで、
図3に示すように、固形状のワックス1が内側に充填された素材管2を金型3,4の間に配置する。この一例では、素材管2を挟んだ状態で金型3,4を閉じたときに軸押し用のシリンダー5,5が形成される金型を用いる。すなわち、分割した金型3,4の間に素材管2を配置したとき、軸押し用のピストンを挿入するための空間であるシリンダー5,5が金型に形成される。
【0015】
次いで、
図4に示すように金型3,4を型締めし、その状態でワックスを融解させるとともに、シリンダーに挿入されたピストン6,6で軸押しすることにより素材管2を変形させる。金型3,4は、素材管2を配置する前に予め加熱されていてもよいし、素材管2を配置した後から加熱を始めてもよい。金型3,4を型締めした後でワックスの温度が融解温度を超えるように、金型3,4の温度が設定または制御される。融解したワックス7は固形状態から大きく膨張するため、型締めした金型3,4の間に配置した素材管2の内側で内圧が生じる。この内圧を素材管2に付与するとともに、両端から管軸方向に各ピストン6で素材管2を押し込むことで、素材管2を変形させることができる。
【0016】
この一例においては、素材管2は金型3,4の内面に沿った形状に変形する。ただし、所望の金属部品の形状にもよるが、他の一例においては、金型の内面形状の少なくとも一部が素材管に反映され、素材管が変形することがある。例えば、従来技術の
図13で示したようなT字形状やベローズ形状の金属部品を製造する場合、金型の内面形状の一部が素材管に反映され、所望の形状の金属部品が得られることもある。
したがって、金型の内面の形状や素材管の変形の具体的態様は
図4に示す例に何ら限定されるものではなく、所望の金属部品の形状や成形時の便宜を考慮して決定される。
【0017】
金型の加熱は、例えば、加熱した熱盤を金型に接触させることにより行い得る。金型にヒーターを内蔵させてもよい。
金型は型締めのための要素を有してもよい。該要素は、加熱中の金型の開きを抑止できるものであればよい。該要素としては、金型の開きを抑止する目的のためにハイドロフォーミング技術において一般的に使用されているものが適用され得る。また、金型には位置決めのためのピン、該ピンのための穴が形成されてもよい。
また、この一例において金型3,4はそれぞれ一つの部材からなるが、他の例において複数個の部材を組み合わせて金型としてもよい。
【0018】
一例において、更に、ワックスを融解させる前に、素材管の内側の固形状のワックスをピストンで押し込むことができる。融解の前に固形状のワックスをピストンで押し込むことで、固形状のワックスが密に充填される結果、成形時に素材管に負荷される内圧を高めやすくなる。
素材管を所望の金属部品の形状に成形した後には、管内からワックスが除去される。融解したワックスを排出する手法は特に限定されない。例えば、端部の開口から融解したワックスを排出すればよい。再利用のために融解したワックスを回収容器内に排出してもよい。
【0019】
2.第二実施形態
第二実施形態では、
図5に示すような内部にワックス溜めのための空間8を形成したピストン9が用いられる。ピストン9が金型のシリンダーに挿入される前に、
図6に示すようにワックス溜めに固形状のワックス1が充填される。
空間8へのワックスの充填方法の詳細は、素材管2へのワックスの充填方法について説明した内容と同じである。空間8に充填された固形状のワックスは、素材管の内側に充填された固形状のワックスと同種類でもよく、異なる種類でもよい。
【0020】
次いで、
図7に示すように、固形状のワックス1が充填された素材管2を、分割した金型10,11の間に配置した後、ワックス溜めに固形状のワックス1が充填されたピストン9,9を金型のシリンダーに挿入する。この例においては、第一実施形態の金型3,4(
図3,
図4)に比べ金型10,11の管軸方向の寸法が長く、各ピストン9をシリンダー内に挿入したとき、各ピストン9のワックス溜めの大部分がシリンダー内に位置するように設計されている。好ましくは、各ピストン9のワックス溜めの全体が金型のシリンダー内に位置するようにしてもよい。
【0021】
次いで、
図8に示すように金型10,11を型締めし、その状態でワックスを融解させるとともに、各ピストン9で両端から管軸方向に軸押しすることにより素材管2を変形させることができる。成形時には、素材管2の内側に充填されたワックスに加えて、各ピストン9のワックス溜めに充填された固形状のワックスも融解する。そのため第一実施形態に比べ、融解するワックスの総量が多いため、融解による体積増加量も大きい。結果、素材管2により大きな変形量を与えることができる。
【0022】
3.各種の実施形態
(素材管)
素材管の材質は、各種金属の単体または合金であり得る。金属板の材質の好適例には炭素鋼、合金鋼、アルミニウム合金、純チタン、チタン合金、ニッケルクロム合金、マグネシウム合金が含まれる。素材管の開口面の形状は、種々の幾何学的形状であり得るが、典型的には円形、丸角の四角形等である。
【0023】
(ワックス)
ワックスは30℃以下の温度で固形状であればよい。ワックスの種類に限定はない。使用可能なワックスとして、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスのような石油ワックス;フィッシャー・トロプシュ・ワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、脂肪酸アミドワックス、ヒドロキシ脂肪酸アミドワックス、脂肪酸エステルワックスのような合成ワックス;石油ワックスや合成ワックスを化学的に変成させてなる酸化パラフィンワックスや酸化ポリオレフィンワックスのようなワックス;これらのワックスに合成樹脂をブレンドしたワックス;異種ワックスをブレンドしたワックスが挙げられる。
【0024】
(互いに相溶しない2種のワックスを用いる態様(1))
一例において、第一ワックスと、該第一ワックスと相溶せず、かつ、該第一ワックスより融解温度が高い第二ワックスとが使用され得る。この場合、成形時に第一ワックスのみが融解するように金型温度が設定され得る。成形時には主として第一ワックスの融解による膨張が内圧発生に寄与するため、2つのワックスの量比によって成形時の内圧を制御できる。
例えば
図9に示すように、第一ワックス12と第二ワックス13を充填すれば、第一ワックス12が融解したときに、その融液は第二ワックス13の周囲に回り込む。そのため、素材管2に加わる内圧は均一となる。
【0025】
一例において、第一ワックスおよび第二ワックスのいずれか一方は、極性基を有する化合物を主成分とするワックスからなり、他方が、炭化水素を主成分とするワックスからなる。極性基を有する化合物を主成分とするワックスである、ヒドロキシ脂肪酸アミドワックス、脂肪酸アミドワックスおよび脂肪酸エステルワックスは、ポリエチレンワックスと相溶性を示さないが、ヒドロキシ脂肪酸アミドワックスと脂肪酸アミドワックスは相溶する。
このように、第一ワックスおよび第二ワックスは、これらの一方がヒドロキシ脂肪酸アミド、脂肪酸アミドおよび脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有するワックスであり、他方はポリエチレンワックス、石油ワックス、フィッシャー・トロプシュ・ワックスおよびポリプロピレンワックスのような炭化水素を主成分とするワックスであり得る。
【0026】
第一ワックスと第二ワックスは互いに相溶しない。すなわち、第一ワックスおよび第二ワックスの各融解物どうしは、均一に混ざり合わずに相分離する。そのため、使用後はこれら融解物を分離させて再利用することが容易である。例えば、第一ワックス材料のみを融解させることにより、両者を分離することができる。融解した第一ワックスと融解した第二ワックスの比重が異なるときは、比重差を利用してこれらを分離できる。
【0027】
一例において、第一ワックスと第二ワックスを色の違いによって視覚的に識別可能とするために、顔料または染料のような着色剤を用いることができる。着色剤は第一ワックスと第二ワックスのいずれか一方に添加してもよいし、両方に添加してもよい。
第一ワックスと第二ワックスの色を異ならしめることで、取り違えを防止できる。第一ワックスと第二ワックスを分別する作業においても、第一部分と第二部分の色が異なっていると好都合である。
【0028】
(互いに相溶しない2種のワックスを用いる態様(2))
他の例において、第一ワックスおよび第二ワックスを使用したとき、成形の第一段階では第一ワックスのみが融解し、成形の第二段階では更に第二ワックスも融解するように金型温度を設定できる。第一段階では主として第一ワックスの融解による膨張が内圧発生に寄与し、第二段階ではそれに加えて第二ワックスの融解による膨張が内圧に寄与する。
この一例のように成形時の一段階では第一ワックスのみが融解し、その後の成形段階の少なくとも一つで第二ワックスも融解することがあり得る。
【0029】
(膨張しない充填剤の使用)
一例において、ワックスの膨張量を制御するために、成形温度まで加熱したときに殆ど膨張しない充填剤がワックスに配合され得る。かかる充填剤としては、特に限定されるものではないが、典型的には無機充填剤が挙げられる。無機充填剤としては、例えば、ガラスバルーン、ガラスビーズ、アルミニウム球のような金属球が挙げられる。
【0030】
(軸押ししない態様)
素材管を十分に変形させるためには軸押しすることが好ましいが、軸押しは必ずしも必須ではない。例えば、所望の金属部品を得るために必要な素材管の変形量が小さい場合には、金型を密閉型とし、ワックスの融解に伴う膨張によって生じる内圧の働きのみによって素材管を変形させてもよい。密閉型の金型とは、型締めしたときにシリンダーが該金型に形成されず、かつ、素材管が収容される空間が密閉空間となる金型である。
【0031】
例えば
図10に示すように、分割した金型14,15の間に素材管2を配置した状態で型締めしたとき、素材管2が密閉空間に収容される。金型14,15は、素材管2に反映される内面のくぼみが第一実施形態の金型3,4(
図3,
図4)や第二実施形態の金型10,11(
図7,
図8)と比較して小さい。この一例のように所望の形状の金属部品を得るために必要な変形量が小さい場合、ワックスの融解に伴う膨張によって生じる内圧の働きのみによって素材管を変形させることもできる。
【0032】
図10に示す一例では、ワックスの融解に伴う膨張による内圧を生じさせやすくするために、キャップ16,16が素材管の両端部に装着されている。各キャップ16は、素材管の開口面を塞ぐことができればよく、特に限定されるものではない。各キャップ16は、素材管2の管軸方向の端部にできた金型との隙間や空間を埋めることができる。そのため、金型14,15の型締め後に融解したワックスを各キャップ16によって素材管の内側に留めることができ、内圧が発生しやすくなる。
ただし、キャップは必ずしも常に必要ではない。例えば、素材管の端部の開口面を金型との接触面で塞いで融解したワックスの流出を防止できる場合や、付与すべき変形量との関係で融解したワックスの流出を無視できる場合、キャップは不要である。
【0033】
4.変形実施形態
変形実施形態では、素材管からではなく、金属製の素材板19から金属部品が製造される。例えば
図11に示すように密閉型の金型17,18の密閉空間に固形状のワックス1と素材板19を収容する。素材板19は、固形状のワックス1と金型17の隙間に配置する。金型を型締めし、その状態でワックスを融解させると、ワックスの膨張によって生じる内圧の働きにより、素材板19が金型17の内面に沿った形状に変形する。
【0034】
融解したワックスが素材板19と金型17の隙間に流出すること、あるいは、金型の外へ流出することを防止するため、固形状のワックス1の表面をバリア層20で被覆することができる。
バリア層20の材料は、ワックスの膨張によって生じる内圧を受けたときに弾性的および/または塑性的に変形する性質を有するものであればよい。例えば、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレンおよびフッ素樹脂のようなポリマーや、シリコーンゴムやアクリルゴムのようなエラストマーが挙げられる。バリア層20は、このような材料からなるフィルムを固形状のワックス1の表面に巻き付けることで形成してもよいし、あるいは、このような材料で固形状のワックス1の表面をコーティングすることにより形成してもよい。
【0035】
5.実施形態のまとめ
本発明の好ましい実施形態には以下が含まれるが、限定するものではない。
[実施形態1]固形状のワックスが内側に充填された金属製の素材管を、分割した金型の間に配置すること、および、分割した金型の間に前記素材管を配置した後、前記金型を型締めした状態で前記ワックスを融解させ、前記ワックスの膨張により生じる内圧を前記素材管に負荷し、次いで前記素材管を変形させること、を含む、金属部品の製造方法。
[実施形態2]分割した金型の間に前記素材管を配置したとき、軸押し用のピストンを挿入するためのシリンダーが前記金型に形成される、実施形態1に係る製造方法。
[実施形態3]更に、前記ワックスを融解させる前に、前記シリンダーに挿入された前記ピストンで前記ワックスを押し込むことを含む、実施形態2に係る製造方法。
[実施形態4]前記金型を型締めした状態で前記ワックスを融解させるとともに、前記シリンダーに挿入された前記ピストンで前記素材管を管軸方向に押し込む、実施形態2または3に係る製造方法。
[実施形態5]前記ピストンの内部にはワックス溜めのための空間が形成され、前記ワックス溜めにも固形状のワックスが充填されている、実施形態2~4のいずれかに係る製造方法。
[実施形態6]分割した金型の間に前記素材管を配置した状態で型締めしたとき、前記素材管が密閉空間に収容される、実施形態1に係る製造方法。
[実施形態7]固形状のワックスの融解に伴う膨張により生じる内圧の働きのみによって前記素材管を変形させる、実施形態6に係る製造方法。
[実施形態8]前記素材管の開口面を塞ぐキャップが、前記素材管に装着されている、実施形態6または7に係る製造方法。
[実施形態9]前記ワックスとして、第一ワックスと、前記第一ワックスと相溶せず、かつ、前記第一ワックスより融解温度が高い第二ワックスとを使用する、実施形態1~8のいずれかに係る製造方法。
[実施形態10]成形時に前記第一ワックスのみが融解する、実施形態9に係る製造方法。
[実施形態11]成形時の一段階では前記第一ワックスのみが融解し、その後の成形段階の少なくとも一つでは前記第二ワックスも融解する、実施形態9に係る製造方法。
[実施形態12]前記第一ワックスおよび前記第二ワックスのいずれか一方が、極性基を有する化合物を主成分とするワックスからなり、他方が、炭化水素を主成分とするワックスからなる、実施形態9~11のいずれかに係る製造方法。
[実施形態13]前記第一ワックスおよび前記第二ワックスのいずれか一方が、ヒドロキシ脂肪酸アミド、脂肪酸アミドおよび脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有するワックスからなり、他方が、炭化水素を主成分とするワックスからなる、実施形態9~12のいずれかに係る製造方法。
[実施形態14]前記第一ワックスと前記第二ワックスとを視覚的に識別可能とするために、前記第一ワックスおよび前記第二ワックスのいずれか一方または両方に着色剤が添加されている、実施形態9~13のいずれかに係る製造方法。
[実施形態15]固形状のワックスとともに金属製の素材板を、分割した金型の間に配置すること、および、分割した金型の間に前記素材板を配置した後、前記金型を型締めした状態で前記ワックスを融解させ、前記ワックスの膨張により生じる内圧を前記素材板に負荷し、次いで前記素材板を変形させること、を含む、金属部品の製造方法。
【0036】
以上、本発明を具体的な実施形態に即して説明したが、各実施形態は例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書に記載された各実施形態は、発明の効果が奏される範囲内で、様々に変形することができ、かつ、実施可能な範囲内で、他の実施形態により説明された特徴と組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の一態様によれば、外部から加圧流体を注入する必要がなく、簡便な装置を用いて行うことができるハイドロフォーミング技法が提供される。
【符号の説明】
【0038】
1 固形状のワックス
2 素材管
3 金型(上型)
4 金型(下型)
5 シリンダー
6 ピストン
7 融解したワックス
8 ワックス溜めのための空間
9 ピストン
10 金型(上型)
11 金型(下型)
12 第一ワックス
13 第二ワックス
14 金型(上型)
15 金型(下型)
16 キャップ
17 金型(上型)
18 金型(下型)
19 素材板
20 バリア層