(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180451
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】振動計測器
(51)【国際特許分類】
G01S 13/58 20060101AFI20231214BHJP
A61B 5/113 20060101ALI20231214BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
G01S13/58 200
A61B5/113
A61B5/11 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093787
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】笹原 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】城本 一馬
【テーマコード(参考)】
4C038
5J070
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VA15
4C038VB32
4C038VB33
4C038VC20
5J070AB17
5J070AB24
5J070AC02
5J070AC06
5J070AD01
5J070AE09
5J070AH23
5J070AH31
5J070AH35
5J070AK22
5J070BA01
(57)【要約】
【課題】小型で且つ精度の高い振動計測ができる振動計測器を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る振動計測器301は、被計測物50の表面50aへ電波60を発射し、電波60が表面50aで反射した反射波を受信する電波式センサ11と、開口部12aで開口された空洞部12b、及び開口部12aを表面51aにあてがったときに所定距離をもって電波式センサ11を表面50aと対峙させる固定部12cを有するカバー12と、を備え、カバー12の開口部12aの縁は、開口部12aを表面50aにあてがったときに一部のみ表面50aに接触する形状であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被計測物の表面へ電波を発射し、前記電波が前記表面で反射した反射波を受信する電波式センサと、
開口部で開口された空洞部、及び前記開口部を前記表面にあてがったときに所定距離をもって前記電波式センサを前記表面と対峙させる固定部を有するカバーと、
を備え、
前記カバーの前記開口部の縁は、前記開口部を前記表面にあてがったときに一部のみ前記表面に接触する形状であることを特徴とする振動計測器。
【請求項2】
被計測物の表面へ電波を発射し、前記電波が前記表面で反射した反射波を受信する電波式センサと、
開口面積が小さい方の小開口部に前記電波式センサを固定し、開口面積が大きい方の大開口部を前記表面にあてがったときに所定距離をもって前記電波式センサを前記表面と対峙させるホーン構造の固定部と、
を備える振動計測器。
【請求項3】
前記空洞部に、前記電波式センサ側に開口面積が小さい方の小開口部が、前記カバーの開口部側に開口面積が大きい方の大開口部があるように配置されたホーン構造をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の振動計測器。
【請求項4】
前記固定部を移動させ、前記所定距離を調整する調整部をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の振動計測器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電波式センサを用いた振動計測器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に電波式センサを用いた生体の呼吸、心拍、血流などを計測する原理は、呼吸や心拍による体表面の数mm~数μmの微細な距離変動を電波の位相変動として、その周期を求める方法である。
【0003】
電波式センサの種類でドップラ方式では、移動偏移で生じる位相変化を電圧としその周期から生体のバイタル情報を生成する方法や FMCW方式においては、反射物(被計測物・生体)までの反射距離にて生じる距離周波数(ビート信号)の微小角位相偏移の周期から生体のバイタル信号を生成する。
【0004】
またパルス方式(UWB)など 既知の電波式センサは、反射波に重畳される微小な位相偏移を用いている。
【0005】
例えば、ISM帯域24GHzや60GHzの電波を用いたセンサ(ドップラ方式センサ又は周波数をリニアに可変するFMCW方式センサ)で電波をアンテナから放射し対象物に反射した電波を受信アンテナにて受信する。このときの位相の周期的変動や受信電力の周期的大きさ変化などから呼吸や心拍数などを計測する。距離を離した電波は、体の向きや姿勢などで顕著にその測定結果は変化する。その場合の被計測物(生体)までの距離は、1m~3mと比較的長い距離を示しその距離は、電波の空間損失(減衰量)に比例し 距離が長くなると減衰量が増す事になる。
【0006】
この変化が周期算出に影響し、信頼度を損ねる結果となるため、処理時間を変えながら周期を作成する方法が開示されている(例えば、特許文献1を参照。)。この様にバイタル信号の計測は非常に微細で周囲の影響を受けやすく、様々な対応策が挙げられている。これは、電波の反射の状態が固定されないために環境が変わることが原因となっている。
【0007】
被計測物(生体)までの距離を短くし、電波を用いたセンサをウェアラブルアイテムとし、運動中の人体を非接触でバイタル計測すること(被測定物に近接して計測すること)も開示されている(例えば、特許文献2を参照。)。特許文献2では、手首、フィットネス機材に電波式センサをバンドなどで固定してバイタル信号の計測を行う実施例があげられている。計測原理などは、特許文献1と同様であり、類似した処理方法を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-175031号公報
【特許文献2】特許第5628520号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
電波式センサを用いた非接触バイタルセンサには、以下に説明するように、電波式センサから被計測物(生体)までの距離を正確に設定しなければならないという課題があった。
【0010】
被計測物(生体)の微小な偏移量の計測は、被計測物(生体)までの距離に非常に敏感であり、当該距離を制御できないと計測信頼度や計測結果の真値などに不確定な要素が増すことになる。
例えば、電波式センサのFMCW方式は、24GHzの場合、0.75m(75cm)以下の距離は距離分解ができないため、アンテナを被測定物に接近させる構造の計測器を構成することが困難である。仮に無理やり近接させた場合、DCとの分離が出来なくなり正常な計測ができなくなる。
また、電波の特徴として多重反射(マルチパス)などの影響で電波同士が互いに打ち消し合うことで電力のヌル点(波長の整数倍で生じる電波の消失)などが生じる為、アンテナと被計測物までの距離があっても波長の整数倍であると不安定な状態となり、正常な計測ができなくなる。
一方、ドップラ方式のセンサの場合、被計測物に近接させることができるが、アンテナと被計測物の距離によりヌル点が生じることは同じである。
【0011】
アンテナを被測定物との距離は、距離分離分解能、最小探知距離、電波の反射特性など電波法や電波の特性などで定義される。
例えば、距離の分離分解能は“光速(c)/占有帯域幅”で定義され、最小探知距離は“分離分解能/2”となる。
【0012】
このため、電波式センサを用いた非接触バイタルセンサには、アンテナと被計測物との距離を正確に設定することが求められるという上記課題がある。
【0013】
ところが、上記課題を解決すべく、アンテナと被計測物との距離を正確に設定してアンテナと被計測物とを設置したとしても、次のような課題が生まれる。
(課題A)
被計測物にから反射する電波は、その角度や距離(微妙な距離変化)に応じて反射状態も敏感に変わるため、常に同じ条件で計測を継続させることができず、精度の高い測定が困難という課題がある。
(課題B)
例えば、被計測物が時間的にその位置が変わった場合、正確な測定ができないことがある。具体的には、FMCW方式の場合、被計測物特定の距離ビンにてレンジFFTを行うが、被計測物の位置が変わるとその距離ビンが時間と共に変化し、ピークの位相を捉えることが難しくなり、精度の高い測定が困難という課題がある。
(課題C)
アンテナと被計測物との距離による電波の減衰により正確な測定ができないことがある。具体的には、微小に変移する位相を捉えてその周期からバイタルサインを得るバイタル計測において電波式センサが得る電波の反射特性は、
人体の歩行 >> 静止した人体の呼吸 >> 心臓の鼓動振動
とだんだん小さくなる。その比率は、人体歩行などを0dBとすると静止した人体の呼吸で-20dB、更に心臓の鼓動となると-30dBとなる。つまり、電波式センサは、移動する人体に比べて数/1000とかなり小さな信号を計測することとなる。
このような場合、電波センサのNFを良くする為にアンテナ利得を上げることが知られている。つまり、測定精度を高めるためには、大型のアンテナを備え、更にLNA(低雑音増幅器)など採用するので、測定器を小型化することが困難という課題がある。
【0014】
また、電波は広がりを持って放射され、距離に応じてその広がりも広くなる。従って、被計測物以外の反射物も同一面に存在していると、被計測物からの反射以外にその反射物からの反射も合わせて受信することになる。これは、DU比(計測したい物と計測したくない物の比)を悪化させる原因となる。
このような場合、アンテナの指向性を狭くすることが知られているが、指向性の狭いアンテナは大きさが大型である。つまり、大型のアンテナを備えるため、測定器を小型化することが困難という課題がある。
【0015】
つまり、従前のように、ある程度の距離を設定してアンテナと被計測物とを設置すると、精度の高い測定が困難となり、その測定値の精度を高めるためにはアンテナが大型になり、測定器の小型化が困難という相反する課題があった。
【0016】
そこで、本発明は、当該課題を解決するために、小型で且つ精度の高い振動計測ができる振動計測器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明に係る振動計測器は、被計測物の表面と電波式センサとを近接させた状態とし、当該表面との距離を固定する構造物に電波式センサを固定することとした。
【0018】
具体的には、本発明に係る振動計測器は、
被計測物の表面へ電波を発射し、前記電波が前記表面で反射した反射波を受信する電波式センサと、
開口部で開口された空洞部、及び前記開口部を前記表面にあてがったときに所定距離をもって前記電波式センサを前記表面と対峙させる固定部を有するカバーと、
を備え、
前記カバーの前記開口部の縁は、前記開口部を前記表面にあてがったときに一部のみ前記表面に接触する形状であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る振動計測器は、
被計測物の表面へ電波を発射し、前記電波が前記表面で反射した反射波を受信する電波式センサと、
開口面積が小さい方の小開口部に前記電波式センサを固定し、開口面積が大きい方の大開口部を前記表面にあてがったときに所定距離をもって前記電波式センサを前記表面と対峙させるホーン構造の固定部と、
を備える。
【0020】
本振動計測器は、被計測物の表面と電波式センサとの距離の変動がない。つまり、予め当該距離を、距離分離分解ができ、ヌル点を回避できる距離に設定しておき、本振動計測器を当該表面にあてがうことで、被計測物の表面と電波式センサとの距離を常に同じ状態で計測できる。また、本振動計測器を当該表面にあてがうので被計測物が移動したとしても、それとともに前記距離を保ったまま本振動計測器も移動するので、精度の高い測定が可能である。
このため、アンテナを大きくする必要が無いので、本振動計測器のサイズを小さくできる。
【0021】
従って、本発明は、小型で且つ精度の高い振動計測ができる振動計測器を提供することができる。また、カバーの一部だけが被計測物の表面に接する構造なので、計測時に前記表面の振動への影響をできるだけ小さくすることができる。
【0022】
本発明に係る振動計測器は、前記空洞部に、前記電波式センサ側に開口面積が小さい方の小開口部が、前記カバーの開口部側に開口面積が大きい方の大開口部があるように配置されたホーン構造をさらに備えることが好ましい。ホーン構造により電波が拡散しないので、測定精度をさらに高めることができる。
【0023】
本発明に係る振動計測器は、前記固定部を移動させ、前記所定距離を調整する調整部をさらに備えることが好ましい。被計測物により前記距離が異なる場合でも、被計測物に応じて前記距離を調整することができる。
【0024】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、小型で且つ精度の高い振動計測ができる振動計測器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明に係る振動計測器を説明する図である。
【
図2】本発明に係る振動計測器を説明する図である。
【
図3】本発明に係る振動計測器を説明する図である。
【
図4】本発明に係る振動計測器を説明する図である。
【
図6】本発明に係る振動計測器での計測例を説明する図である。
【
図7】本発明に係る振動計測器を説明する図である。
【
図8】本発明に係る振動計測器の運用例を説明する図である。
【
図9】本発明に係る振動計測器の運用例を説明する図である。
【
図10】本発明に係る振動計測器の運用例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0028】
(実施形態1)
図1は、本実施形態の振動計測器301を説明する図(断面図)である。振動計測器301は、
被計測物50の表面50aへ電波60を発射し、電波60が表面50aで反射した反射波を受信する電波式センサ11と、
開口部12aで開口された空洞部12b、及び開口部12aを表面51aにあてがったときに所定距離をもって電波式センサ11を表面50aと対峙させる固定部12cを有するカバー12と、
を備え、
カバー12の開口部12aの縁は、開口部12aを表面50aにあてがったときに一部のみ表面50aに接触する形状であることを特徴とする。
【0029】
カバー12は、内部が空洞部12bとなっている。
振動計測器301は、電波式センサ11のアンテナ面から被計測物(生体)50の表面50aと間に機械的構造物(カバー12と、これに備わっている固定部12c)を用いてカバー12の開口面から電波式センサ11のアンテナ面までの距離を固定する。なお、カバー12の開口面とは、次の面を指す。
【0030】
カバー12は、開口部12aを表面50aにあてがったときに一部のみ(例えば、数箇所の脚12d)が表面50aに接触する。この脚12dの先端で形成される平面を「開口面」とする。
なお、本明細書では、「カバー12の開口面から電波式センサ11のアンテナ面までの距離」や「電波式センサ11のアンテナ面と被計測物50の表面50aとの間の距離」のような記載がある。表面50aは振動しており、正確には両者は異なるが、表面50aの振動幅は前者に比べて無視できるくらい小さいので両者は同義である。
以降の説明において、「カバー12の開口面から電波式センサ11のアンテナ面までの距離」や「電波式センサ11のアンテナ面と被計測物50の表面50aとの間の距離」のことを「距離オフセット」と記載することがある。
【0031】
電波式センサ11のアンテナ端からカバー12の開口面までの距離は、FMCW方式でであれば最小探知距離以上、つまり距離周波数で距離ビンを生じさせることができる距離である。また、ドップラ方式は距離による制限が無いが、反射電力で検波電圧の飽和やDCオフセットなど問題が生じるので、波長に対して当該距離を設定することが望ましい。いずれの方式でも当該距離は、波長/2を目安に設定することが好ましい。
例えば、電波の周波数が60GHzである場合、数cm~数mm(例えば2cm)である。
【0032】
なお、
図1では、開口部12aの縁が山形になっており、開口部12aを表面50aにあてがったときにカバー12と表面50aとの間に空隙12eが生まれる。空隙12eにより、開口部12aの縁の全てで被計測物50の表面50aを押さえつけない様にし、被計測物50の表面50aの動き50cを抑圧しない構造となる。
例えば、被計測物50が生体であった場合、動き50cは、被計測物50内にある血管50bの脈により発生する周期的な動きである。
【0033】
(実施形態2)
図2は、本実施形態の振動計測器302を説明する図(断面図)である。振動計測器302は、
被計測物50の表面50aへ電波60を発射し、電波60が表面50aで反射した反射波を受信する電波式センサ11と、
開口面積が小さい方の小開口部13aに電波式センサ11を固定し、開口面積が大きい方の大開口部13bを表面50aにあてがったときに所定距離をもって電波式センサ11を表面50aと対峙させるホーン構造の固定部12c1と、
を備える。
【0034】
本実施形態では、実施形態1の振動計測器301と異なる部分のみ説明する。振動計測器302は、カバー12の代替としてホーン構造の固定部12c1を備える。固定部12c1は、ホーン構造の大開口部13bの開口面から電波式センサ11のアンテナ面までの距離を固定する機能と、電波の広がりを狭くしてアンテナ利得を向上させる、いわゆるホーンアンテナ構造としての機能の両方を兼ね備える。
なお、大開口部13bの開口面とは、大開口部13bで形成される平面を「開口面」とする。
【0035】
固定部12c1のホーン構造は、金属、電波吸収体、金属メッキされたプラスチック、セラミック等、またカーボンなどを混入した誘電体材料で形成される。
【0036】
(実施形態3)
図3は、本実施形態の振動計測器303を説明する図(断面図)である。振動計測器303は、実施形態1で説明した振動計測器301と実施形態2で説明した振動計測器302とを組み合わせたような構造を持つ。つまり、振動計測器303は、実施形態1で説明した振動計測器301の固定部12cが、電波式センサ11側に開口面積が小さい方の小開口部13a、カバー12の開口部側に開口面積が大きい方の大開口部13bがあるように配置されたホーン構造の固定部12c1であることを特徴とする。
【0037】
振動計測器303も、ホーン構造の大開口部13bの開口面から電波式センサ11のアンテナ面までの距離を固定する機能と、電波の広がりを狭くしてアンテナ利得を向上させる機能の両方を兼ね備える。
【0038】
(実施形態4)
図4は、本実施形態の振動計測器304を説明する図(断面図)である。振動計測器304は、実施形態3で説明した振動計測器303に、固定部12c1を移動させ、前記所定距離を調整する調整部12fをさらに備える。
図4では、振動計測器303に調整部12fを備える構造を説明するが、
図1の振動計測器301に調整部12fを備える構造でもよい。
【0039】
調整部12fは、電波式センサ11のアンテナ端とカバー12の開口面との距離(距離オフセット)を調整する機能を有する。距離オフセットが小さい場合、電波の多重反射などで複雑な反射がある。その結果、測定結果にDCオフセットや傾斜(トレンド)が現れることがある。このような場合、電波式センサ11の位置を物理的に移動させることで測定結果が改善することがある。
また、ドップラ方式などの場合、調整部12fで距離オフセットを変え、ヌル点を回避させることができる。
【0040】
(実施形態5)
本実施形態では、実施形態1から4で説明した振動計測器30X(X=1~4)を用いた振動計測方法を説明する。
振動計測器30Xは、電波の広がりを抑制し且つ距離オフセットを短くして体動の影響が少ない部位の振動をミリ波で計測することで血流(脈拍)を観測する。体動の影響が少ない部位とは、腹部又は胸部である。
また、計測は、
図5に示した人体で脈拍(血管)の見やすい箇所を選んでその部位に近い場所で行う。
【0041】
前述のように、振動計測器30Xは、小型軽量の構造物で構成させ、距離オフセットを固定とする構造を有している。構造で距離オフセットを固定する必要性は、電波の条件(伝送距離や条件)を固定することによる微細な計測の安定化のためである。
例えば、ミリ波の電波60GHzを採用した場合、占有帯域幅が最大9GHz許容されている。その場合、距離の分離分解能は3.3cmであり、最小探知距離は1.6cmである。つまり、距離オフセットを1.6cm以上に設定することで距離ビンが得られDCとの分離が可能となる。
【0042】
オフセット距離を1.6cmとすれば、振動計測器30Xを薄型とすることができ、しかも非接触で計測可能なので、着衣の上から計測すること、機器に固定したセンサやベッドのマットに埋め込んだ状態で計測することができる。このため、振動計測器30Xは、電波の空間損失を少なくし計測結果の信頼度を向上させることができる。なお、上述のセンサが固定される「機器」とは、後述する
図10に示す様なトイレの便座、ソファ、車のシート、その他の人体が固定されて姿勢を維持できる機器である。
【0043】
また、近接距離で距離ビンを設けるには距離分解能を向上させることが必要であり、ミリ波(60GHz)の帯域を積極的に用いることが好ましい。60GHzは、最小探知距離が短く、距離分解能が24GHzに比べて向上するため、距離オフセットを短くでき、電波の広がりを抑えてDU比を改善することができる。
さらに、アンテナの角度を狭くすること、あるいはホーン構造を採用することで計測精度の向上を図ることができる。
【0044】
例えば、振動計測器30Xに周波数60GHz帯のFMCW方式の電波式センサ11を用い、周波数58GHz~63GHzを32μsで掃引し、2MHzでADサンプリングをした場合、ナイキスト周波数における距離は96cmとなる。この場合、
図6(A)に示す様に距離オフセットDを4cmとすると、
図6(B)のFFT結果のように距離ビンは43番目にて4cmとなる。つまり、振動計測器30Xは、電波式センサ11から距離4cmにある被計測物(生体)50の表面50aの振動を計測することができる。
【0045】
また、振動計測器30Xは、カバー12で周囲の雑音を遮断しているので、周囲の環境雑音は見られない又は少ない。
【0046】
この場合、FFTを211で行ったとき距離分解能(ビンあたりの距離)は、約0.5mmとなる。
【0047】
振動計測器30Xは、43番目の距離ビンにおいてレンジFFTを行う事でバイタル計測ができている。バイタル信号の計測については、微小角偏移を採用している。
【0048】
ここでは、距離オフセット、すなわち距離ビンの固定と、距離オフセットの短縮で、電波の減衰量を減らし微細な振動(変化)を計測し易くなる。
【0049】
(具体的な実施例1)
図7は、振動計測器30Xの実装例である。ホーン構造を備えるか否かで高さが異なる。
図7(A)は、振動計測器301であり、ホーン構造を備えず、厚みが薄い。一方、
図7(B)は振動計測器302~304であり、ホーン構造を備えるため、厚みが厚くなっている。なお、厚みとは
図7のZ方向のことである。
振動計測器30Xは、周波数60GHzの電波式センサ11を採用しているので厚みが8mmや17mmと、薄型にすることができる。
【0050】
(具体的な実施例2)
図8は、振動計測器30Xを可搬型機器や移動可能な機器101に備えさせた実施例を説明する図である。機器101は、振動計測器30Xを被計測物(生体)50に近づけ、バイタル測定を行う。
【0051】
(具体的な実施例3)
図9は、振動計測器30Xを寝具102のマットに埋め込んだ実施例を説明する図である。
図9(A)は、そのマット上に被計測物(生体)50が寝てることを表している図である。
図9(B)のように、振動計測器30Xの解放面は、被計測物(生体)50の背中部分にあたる様に配置されている。
【0052】
図9(C)は、振動計測器30Xが計測した振動(被計測物50の呼吸数)を説明する図である。横軸はサンプル数(時間)、縦軸は振動の大きさ(パワー)を示している。期間(a)では呼吸数は18brpmであり、普通呼吸である。期間(b)では呼吸数は0brpmであり、無呼吸である。期間(c)では深い呼吸と浅い呼吸が混ざった状態である。深い呼吸数は11brpmであり、浅い呼吸数は22brpmである。期間(d)では呼吸数は46brpmであり、早い呼吸である。
このように、振動計測器30Xは呼吸の状態から眠りの状態や状況を計測することができる。
【0053】
(具体的な実施例4)
図10は、被計測物(生体)50が直接肌に接するトイレ、ソファ、椅子、その他の備品103に振動計測器30Xを設置した実施例を説明する図である。備品103には、複数の箇所に振動計測器30Xを設置してもよい。
図10(A)は、被計測物50が備品103に座り、バイタル測定を行っている様子を表した図である。
【0054】
図10(B)は、本実施例での測定結果である。横軸は時間、縦軸は振動の大きさを示している。振動計測器を複数設置している場合、それぞれが計測した振動の大きさの平均を表示してもよい。
図10(C)は、
図10(B)の測定結果をフーリエ変換した図である。横軸は周波数、縦軸は縦軸振動の大きさを示している。このように、被計測物50の複数の部位にセンサを配置し、その静脈流における微細な鼓動の位相差を求めることで血圧を計測し、その鼓動サイクルで脈拍数を計測することができる。
【0055】
(定義など)
本明細書において、「非接触」とは、振動計測器30Xの開口面と被計測物50の表面50aとの間が数mmでも離れている場合、又は直接接触している場合の双方を意味する。ただし、どちらの場合であっても、電波式センサ11と振動計測器30Xの開口面とは距離オフセットだけ離れている。
【0056】
呼吸を観測する場合、振動計測器30Xを被計測物50の表面50aから離して計測することが望ましい。一方、体内の心臓運動、心拍や血流などを観測する場合、振動計測器30Xを被計測物50の表面50aに押し付けることが好ましい。
【0057】
被計測物50は、人に限らず、動物なども含まれる。
振動計測器30Xのサイズに制限がない場合、電波式センサ11が出力する電波について、周波数を限定しなくてもよい。電波の周波数が高い程、振動計測器30Xの小型化が可能であるが、逆に周波数が低い方が電波の損失などが小さくなるという有利な点もある。
【0058】
(発明の効果)
本発明に係る振動計測器は、電波式センサを距離オフセットだけ被計測物の表面から離して計測するため、従来の課題とされた距離が離れる為に生じる電波減衰量を少なくでき、微細な動きによる体表面の変動や体内の心臓の動きや血流の動き等を検出し易くなる。
また、本発明に係る振動計測器の電波式センサがFMCW方式の場合、被計測物までの距離が固定される事で距離ビンを固定でき、微小角偏移の計測での信号処理が容易になるなどの利点がある。
【0059】
さらに、ホーン構造を備えることで被計測物における特定の部位に電波を照射しやすくなり、選択した部位ごとに計測ができるという利点がある。例えば、
図8のように、本振動計測器を固定する、あるいは他の機器で本振動計測器の位置を変えるなどを行うことで、測定箇所(測定部位)を容易に変えることができる。また、
図10のように、本振動計測器を複数台用いることで心拍の動きと血流(脈伯)鼓動のずれ時間から血圧を算出することができる。
【0060】
また、
図9のように、本振動計測器と被測定物の表面との間に空隙を設けることで比較的大きな遷移量をもつ呼吸(肺運動)の波形を取得することができる。この波形から呼吸の状態を表すことも可能なり人体の状況を読み取ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、生体(例えば人や動物)の被計測物の呼吸や心拍、血流、脈拍、血圧などの計測を非接触で行う、バイタルセンサに適用することができる。また、被計測物は生体に限らず、微小振動を発生する表面の振動数を測定する測定器に適用できる。
【符号の説明】
【0062】
11:電波式センサ
12:カバー
12a:開口部
12b:空洞部
12c、12c1:固定部
12d:脚
12e:空隙
12f:調整部
50:被計測物
50a:表面
50b:血管
50c:動き
60:電波
101:機器
102:寝具
103:備品
301~304、30X:振動計測器