(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180465
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、及び、液体を吐出する装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20231214BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B41J2/14 603
B41J2/16 503
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093814
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】益田 俊顕
(72)【発明者】
【氏名】平林 拓磨
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF68
2C057AG14
2C057AG44
2C057AG75
2C057AP02
2C057AP14
2C057AP25
2C057BA04
2C057BA14
2C057DB03
2C057DB04
(57)【要約】
【課題】液体吐出ヘッドのダンパの破損を抑制する。
【解決手段】アクチュエータ基板70に保持される電気機械変換素子を駆動して圧力室内の液体をノズルから吐出する液体吐出ヘッドであって、前記アクチュエータ基板とダンパ保持基板65との間に配置されるダンパ66を有し、前記ダンパは、前記アクチュエータ基板及び前記ダンパ保持基板のうちの一方に接着剤90で接合され、前記ダンパが接合される対象を接合対象基板としたとき、前記ダンパには、前記接合対象基板70の接着面と対向する対向領域に凹み又は貫通孔66aが形成されている。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータ基板に保持される電気機械変換素子を駆動して圧力室内の液体をノズルから吐出する液体吐出ヘッドであって、
前記アクチュエータ基板とダンパ保持基板との間に配置されるダンパを有し、
前記ダンパは、前記アクチュエータ基板及び前記ダンパ保持基板のうちの一方に接着剤で接合され、
前記ダンパが接合される対象を接合対象基板としたとき、前記ダンパには、前記接合対象基板の接着面と対向する対向領域に凹み又は貫通孔が形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
アクチュエータ基板に保持される電気機械変換素子を駆動して圧力室内の液体をノズルから吐出する液体吐出ヘッドであって、
前記アクチュエータ基板とダンパ保持基板との間に配置されるダンパと、
前記アクチュエータ基板及び前記ダンパ保持基板のうちの一方である接合対象基板と前記ダンパとの間を接着する接着剤とを有し、
前記接合対象基板には、前記ダンパの接着面と対向する対向領域に凹部が形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記接合対象基板には、前記ダンパの前記凹み又は前記貫通孔が形成されていない接着面部分と対向する対向領域に、凹部が形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項3に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記凹部は、前記ダンパの前記凹み又は前記貫通孔との対向領域まで延出していることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記アクチュエータ基板及び前記ダンパ保持基板のうちの他方の基板には、前記ダンパの前記貫通孔と対向する対向領域に、凹部が形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項5に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記貫通孔の開口面積が、前記他方の基板の前記凹部の開口面積よりも大きいことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記接着剤にはフィラーが含まれていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項7に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記ダンパの厚さは前記フィラーの最大径よりも大きいことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記ダンパの前記凹み又は前記貫通孔は、開口形状が前記ダンパ保持基板の基板面に沿って直線形状、円形又は多角形であるものを含むことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項10】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記ダンパの前記凹み又は前記貫通孔は、前記接合対象基板の接着面と対向する対向領域内で、前記凹み又は前記貫通孔が形成されていないダンパ部分を取り囲むように、形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項11】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記ダンパの前記凹み又は前記貫通孔は、深さ方向に向かって先細るテーパ形状を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項12】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記ダンパは、コンプライアンスが7×10-17[m/N]以上であり、ヤング率が3[GPa]以上200[GPa]以下であり、厚みが2[μm]以上10[μm]以下であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項13】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記ダンパは、複数の層からなる積層構造であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項14】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを含むことを特徴とする液体吐出ユニット。
【請求項15】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを備えることを特徴とする液体を吐出する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、及び、液体を吐出する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アクチュエータ基板に保持される電気機械変換素子を駆動して圧力室内の液体をノズルから吐出する液体吐出ヘッドが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アクチュエータ基板を構成する共通液室部材とダンパプレート(ダンパ保持基板)との間にダンパが配置された液体吐出ヘッドが開示されている。ダンパはダンパプレートとともにダンパ部材を構成しており、共通液室部材に対して接合される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の液体吐出ヘッドにおいて、ダンパをアクチュエータ基板やダンパ保持基板と接着剤により接着する場合、接着剤に含まれるフィラーや異物などによってダンパが破損することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明は、アクチュエータ基板に保持される電気機械変換素子を駆動して圧力室内の液体をノズルから吐出する液体吐出ヘッドであって、前記アクチュエータ基板とダンパ保持基板との間に配置されるダンパを有し、前記ダンパは、前記アクチュエータ基板及び前記ダンパ保持基板のうちの一方に接着剤で接合され、前記ダンパが接合される対象を接合対象基板としたとき、前記ダンパには、前記接合対象基板の接着面と対向する対向領域に凹み又は貫通孔が形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ダンパの破損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態における液体吐出ヘッドの外観斜視説明図。
【
図4】同液体吐出ヘッドのフレーム部材を除いた分解斜視説明図。
【
図5】同液体吐出ヘッドの流路部分の断面斜視説明図。
【
図6】同液体吐出ヘッドの流路部分の拡大断面斜視説明図。
【
図9】一般的な従来の液体吐出ヘッドにおけるノズル板、流路板、振動板部材、共通流路部材、ダンパ部材、フレーム部材の積層状態を示す説明図。
【
図10】
図9における符号Aで示す部分の断面構造を、模式的に示した拡大図。
【
図11】(a)は、実施形態における液体吐出ヘッドにおいて、共通流路部材の隔壁とダンパ板とダンパフレーム基板の隔壁との接合部の断面構造を、模式的に示した説明図。(b)は、同図(a)におけるダンパ板及びダンパフレーム基板からなるダンパ部材をダンパ板側から見たときの模式図。
【
図12】(a)は、ダンパ板に直線形状の貫通孔が形成された例における液体吐出ヘッドにおいて、共通流路部材の隔壁とダンパ板とダンパフレーム基板の隔壁との接合部の断面構造を、模式的に示した説明図。(b)は、同図(a)におけるダンパ板及びダンパフレーム基板からなるダンパ部材をダンパ板側から見たときの模式図。
【
図13】ダンパ板の貫通孔が島部を取り囲むように形成された例における液体吐出ヘッドにおいて、ダンパ板及びダンパフレーム基板からなるダンパ部材をダンパ板側から見たときの模式図。
【
図14】ダンパ板の貫通孔が深さ方向に向かって先細るテーパ形状を有する例における液体吐出ヘッドにおいて、共通流路部材の隔壁とダンパ板とダンパフレーム基板の隔壁との接合部の断面構造を、模式的に示した説明図。
【
図15】ダンパフレーム基板の凹部が深さ方向に向かって先細るテーパ形状を有する例における液体吐出ヘッドにおいて、共通流路部材の隔壁とダンパ板とダンパフレーム基板の隔壁との接合部の断面構造を、模式的に示した説明図。
【
図16】変形例において、共通流路部材の隔壁とダンパ板とダンパフレーム基板の隔壁との接合部の断面構造を、模式的に示した説明図。
【
図17】変形例におけるダンパ板に貫通孔が形成されていない例の接合部の断面構造を、模式的に示した説明図。
【
図18】実施形態のヘッドモジュールの分解斜視説明図。
【
図19】実施形態のヘッドモジュールのノズル面側から見た分解斜視説明図。
【
図21】印刷装置のヘッドユニットの一例の平面説明図。
【
図24】液体吐出ユニットの一例の要部平面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を、液体を吐出する装置に設けられる液体吐出ヘッドに適用した一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態における液体吐出ヘッドの外観斜視説明図である。
図2は、同液体吐出ヘッドの分解斜視説明図である。
図3は、同液体吐出ヘッドの断面斜視説明図である。
図4は、同液体吐出ヘッドのフレーム部材を除いた分解斜視説明図である。
図5は、同液体吐出ヘッドの流路部分の断面斜視説明図である。
図6は、同液体吐出ヘッドの流路部分の拡大断面斜視説明図である。
図7は、同液体吐出ヘッドの流路部分の平面説明図である。
【0009】
本実施形態の液体吐出ヘッド1は、ノズル板10、個別流路部材である流路板20、振動板部材30、共通流路部材50、ダンパ部材60、フレーム部材80、駆動回路102を実装したフレキシブル配線基板101を備えている。
【0010】
ノズル板10を構成するノズル基板、流路板20及び振動板部材30を構成する基板、共通流路部材50を構成するサブフレーム基板、及びダンパ部材60を構成するダンパ基板は、いずれも単結晶Siウェハを基板材料としている。これらの基板は、MEMSや半導体デバイスの微細加工技術によってSiウェハ上に複数のチップ(液体吐出ヘッド)を同時に作製し、チップ化後の各基板を接合して液体吐出ヘッド1となる。
【0011】
図4及び
図5に示すように、ノズル板10には、液体(液滴)を吐出する複数のノズル11が設けられている。複数のノズル11は二次元状にマトリクス配置され、
図7に示すように、第1方向F、第2方向S及び第3方向Tの三方向に並んで配置されている。
【0012】
図5及び
図6に示すように、流路板20は、複数のノズル11にそれぞれ連通する複数の個別液室である圧力室21と、複数の圧力室21にそれぞれ通じる複数の個別供給流路22と、複数の圧力室21にそれぞれ通じる複数の個別回収流路23とを有している。
図7に示すように、一つの圧力室21とこれに通じる個別供給流路22及び個別回収流路23とを併せて個別流路25という。
【0013】
振動板部材30は、圧力室21の変形可能な壁面である振動板31を形成し、振動板31には圧電素子40が一体に設けられている。また、振動板部材30には、個別供給流路22に通じる供給側開口32と、個別回収流路23に通じる回収側開口33とが形成されている。圧電素子40は、電気機械変換素子であり、振動板31を変形させて圧力室21内の液体を加圧する圧力発生手段である。
【0014】
なお、流路板20と振動板部材30とは、互いに別部材であることに限定されるものではない。例えば、SOI(Silicon On Insulator)基板を使用して流路板20及び振動板部材30を同一部材で一体に形成することができる。つまり、シリコン基板上に、シリコン酸化膜、シリコン層、シリコン酸化膜の順に成膜されたSOI基板を使用し、シリコン基板を流路板20とし、シリコン酸化膜、シリコン層及びシリコン酸化膜とで振動板31を形成することができる。この構成では、SOI基板のシリコン酸化膜、シリコン層及びシリコン酸化膜の層構成が振動板部材30となる。このように、振動板部材30は流路板20の表面に成膜された材料で構成されるものを含む。
【0015】
共通流路部材50は、2以上の個別供給流路22に通じる複数の共通供給流路支流52と、2以上の個別回収流路23に通じる複数の共通回収流路支流53とを、ノズル11の第2方向Sに交互に隣接して形成している。共通流路部材50には、個別供給流路22の供給側開口32と共通供給流路支流52を通じる供給口54となる貫通孔と、個別回収流路23の回収側開口33と共通回収流路支流53を通じる回収口55となる貫通孔とが形成されている。
【0016】
また、共通流路部材50は、複数の共通供給流路支流52に通じる1または複数の共通供給流路本流56と、複数の共通回収流路支流53に通じる1または複数の共通回収流路本流57とを形成している。
【0017】
ダンパ部材60は、共通供給流路支流52の供給口54と対面する(対向する)供給側ダンパ62と、共通回収流路支流53の回収口55と対面する(対向する)回収側ダンパ63とを有している。
【0018】
共通供給流路支流52及び共通回収流路支流53は、同じ部材である共通流路部材50に交互に並べて配列された溝部を薄板からなるダンパとしてのダンパ板66で封止することにより構成している。そして、共通供給流路支流52と対応するダンパ板66によって供給側ダンパ62が、共通回収流路支流53と対応するダンパ板66によって回収側ダンパ63がそれぞれ構成される。
【0019】
なお、ダンパ板66としては、有機溶剤に強い金属薄膜または無機薄膜を用いることが好ましく、その厚みは10[μm]以下が好ましい。また、ダンパ板66は複数層からなる積層構造を有するのが好ましい。また、ダンパ板66は、ダンパとして必要な機能を満たすうえで、コンプライアンスが7×10-17[m/N]以上であり、ヤング率が3[GPa]以上200[GPa]以下であり、厚みが2[μm]以上10[μm]以下であるのが好ましい。
【0020】
本実施形態の液体吐出ヘッド1には、ノズル11からの液体吐出時に生じる液体流路(例えば個別供給流路22)の圧力変動が、他のノズル11からの液体吐出に与える影響(例えばクロストーク)を抑制するために、ダンパ部材60が設けられている。ダンパ部材60が適切にダンパ機能を発揮することで、液体吐出時の振動(圧力変動)が液体を介して伝播して、隣接するノズルの液体吐出に影響するというクロストークの発生を抑制でき、各ノズル11からの液体吐出精度を安定させることができる。
【0021】
図8は、本実施形態におけるダンパ部材60を示す斜視図である。
図8に示すように、ダンパ部材60は、矩形板状の部材からなるダンパ保持基板としてのダンパフレーム基板65から主に構成され、ダンパフレーム基板65には、その長辺に沿って、共通流路部材50の共通供給流路本流56と共通回収流路本流57とに連通する貫通孔61A,61Bが形成されている。ダンパフレーム基板65の貫通孔61A,61Bに挟まれた領域に供給側ダンパ62及び回収側ダンパ63が形成され、これによりダンパ部材60が構成されている。
【0022】
ここで、従来の液体吐出ヘッドにおける問題点について説明する。
図9は、一般的な従来の液体吐出ヘッド1'におけるノズル板10、流路板20、振動板部材30、共通流路部材50、ダンパ部材60、フレーム部材80の積層状態を示す説明図である。
図9において、流路板20、振動板部材30、共通流路部材50によって、アクチュエータ基板としての圧電素子保持基板70が構成されている。
図9に示すような一般的なダンパ部材60は、ダンパ板66の変位を可能とするための変位空間(空隙)64が形成されたダンパフレーム基板65にダンパ板66を重ね合わせ、両者を接着剤により接合して構成される。この空隙64は、ダンパフレーム基板65に形成された複数の隔壁69によって仕切られ、形成されている。
【0023】
図9において、共通流路部材50にも、ダンパ板66の変位(振動)を可能にするための複数の空隙58が形成されている。この空隙58は、共通流路部材50に形成された複数の隔壁59によって仕切られ、形成されている。ダンパフレーム基板65の空隙64と共通流路部材50の空隙58とは、ダンパ板66を介して互いに対向するように配置されている。
【0024】
図10は、
図9における符号Aで示す部分、すなわち、圧電素子保持基板70を構成する共通流路部材50の隔壁59と、ダンパ板66と、ダンパフレーム基板65の隔壁69との接合部の断面構造を、模式的に示した拡大図である。
図10に示すように、接合対象基板である共通流路部材50(圧電素子保持基板70)の隔壁59の部分(接着面)と当該部分に対向するダンパ板66の対向領域との間は、接着剤90によって互いに接着される。ここで用いられる接着剤90としては、接着性を向上させるため、あるいは、接着強度を向上させるため等の目的により、充填剤であるフィラー91を含んだものを用いることが好ましい。本実施形態で用いる接着剤90には、それぞれ球形状を呈した複数個のフィラー91が含まれており、その最大粒径は10[μm]である。
【0025】
図10に示すように、フィラー91の径が大きく、隔壁59とダンパ板66との間にフィラー91が挟まれるような事態が生じると、フィラー91によってダンパ板66に対して局所的な応力が作用し、
図10の符号Bで示すような亀裂が生じて、ダンパ板66が破損してしまうという問題点がある。この問題点は、フィラー91に限らず、何等かの異物が混入した場合において、その異物がフィラー91と同じく隔壁59とダンパ板66との間に挟まれるような事態が生じると、同様に発生し得る。
【0026】
図11(a)は、本実施形態における液体吐出ヘッド1において、共通流路部材50の隔壁59とダンパ板66とダンパフレーム基板65の隔壁69との接合部の断面構造を、模式的に示した説明図である。
図11(b)は、
図11(a)におけるダンパ板66及びダンパフレーム基板65からなるダンパ部材60をダンパ板66側から見たときの模式図である。
【0027】
本実施形態の液体吐出ヘッド1は、
図11(a)に示すように、ダンパ板66と共通流路部材50(圧電素子保持基板70)との接合部において、ダンパ板66には貫通孔66aが形成されている。これにより、従来の液体吐出ヘッド1'におけるダンパ板66と共通流路部材50との間では挟まってしまうようなフィラー91や異物が介在する場合であっても、本実施形態の液体吐出ヘッド1であれば、当該フィラー91や異物の少なくとも一部は貫通孔66aの中に入り込むことができ、これらの間に挟まらないようにすることができる。したがって、本実施形態によれば、フィラー91や異物がダンパ板66と共通流路部材50との間に挟まる確率を下げることができるので、ダンパ板66の破損を抑制することができる。
【0028】
また、このような貫通孔66aをダンパ板66に設けることで、ダンパ板66と接着剤90との接着面積を広げることができる。その結果、ダンパ板66を含むダンパ部材60と、接着剤90によりこれと接着される接合対象基板である共通流路部材50(圧電素子保持基板70)との接着強度を高めることもできる。
【0029】
なお、本実施形態では、ダンパ板66に貫通孔66aを設けた例で説明しているが、接合部における共通流路部材50と対向するダンパ板66の対向領域に、貫通孔66aに代えて、凹みを形成する構成であってもよい。この構成であっても、フィラー91や異物の少なくとも一部が凹みの中に入り込むことで、フィラー91や異物がダンパ板66と共通流路部材50との間に挟まる確率を下げることができ、ダンパ板66の破損を抑制することができる。また、凹みを設ける場合も、貫通孔66aを設ける場合と同様、ダンパ板66と接着剤90との接着面積を広げることができるので、ダンパ板66を含むダンパ部材60と、接着剤90によりこれと接着される共通流路部材50(圧電素子保持基板70)との接着強度を高めることもできる。
【0030】
また、本実施形態においては、
図11(a)に示すように、ダンパ板66に形成される貫通孔66aと対向するように、他方の基板であるダンパフレーム基板65の隔壁69に凹部69aが形成されている。すなわち、本実施形態において、接着剤90によりダンパ板66と接着される接合対象基板である共通流路部材50(圧電素子保持基板70)とは反対側に位置する他方の基板であるダンパフレーム基板65には、ダンパ板66の貫通孔66aと対向する対向領域に、凹部69aが形成されている。これによれば、接着剤90がダンパ板66の貫通孔66aを介してダンパフレーム基板65の凹部69aにも入り込むことができる。したがって、ダンパフレーム基板65を含むダンパ部材60と接着剤90との接着面積が広がり、ダンパ部材60と共通流路部材50(圧電素子保持基板70)との接着強度を更に高めることができる。
【0031】
特に、本実施形態では、
図11(a)及び(b)に示すように、ダンパ板66の貫通孔66aの開口面積が、ダンパフレーム基板65の凹部69aの開口面積よりも大きく形成されている。そのため、貫通孔66aと凹部69aとの間には段差が生まれ、接着面積が更に広がり、より高い接着強度を実現することができる。
【0032】
本実施形態における貫通孔66aの開口形状は、
図11(b)に示すように、六角形状であるが、これに限らず、三角形、四角形、五角形、七角形など、六角形以外の多角形状であってもよいし、円形や楕円形などであってもよい。また、貫通孔66aの開口形状は、
図12(a)及び(b)に示すように、ダンパフレーム基板65の基板面(
図12(b)の紙面)に沿って直線形状であってもよい。
【0033】
また、本実施形態では、
図11(b)に示すように、互いに離間して形成された複数個の貫通孔66aが二次元方向に分散して配置されているが、これに限らず、複数個の貫通孔66aの少なくとも一部がお互いに接続された構成であってもよい。
【0034】
また、本実施形態において、
図13に示すように、ダンパ板66の貫通孔66aは、共通流路部材50(圧電素子保持基板70)の隔壁59の部分(接着面)と対向する対向領域内で、当該貫通孔66aが形成されていないダンパ部分(島部)66bを取り囲むように、形成してもよい。これによれば、ダンパ板66の島部66bを接着する接着剤90の余剰分を貫通孔66aの中に取り込んで、接着剤90の余剰分が隔壁59からはみ出しにくくなる効果が得られる。
【0035】
また、本実施形態において、ダンパ板66の貫通孔66aは、
図14の符号T1で示すように、深さ方向に向かって先細るテーパ形状を有するようにしてもよい。この場合、フィラー91や異物が貫通孔66aの、より内側、より深い箇所まで入り込みやすくなり、ダンパ板66の破損のリスクをさらに低減させることができる。同様に、ダンパフレーム基板65の隔壁69の凹部69aも、
図15の符号T2で示すように、深さ方向に向かって先細るテーパ形状を有するようにしてもよい。この場合も、フィラー91や異物が凹部69aの、より内側、より深い箇所まで入り込みやすくなり、ダンパ板66の破損のリスクをさらに低減させることができる。
【0036】
〔変形例〕
次に、上述した実施形態における液体吐出ヘッド1において、共通流路部材50の隔壁59とダンパ板66とダンパフレーム基板65の隔壁69との接合部の一変形例について説明する。
図16は、本変形例において、共通流路部材50の隔壁59とダンパ板66とダンパフレーム基板65の隔壁69との接合部の断面構造を、模式的に示した説明図である。
【0037】
本変形例においては、
図16に示すように、上述した実施形態の液体吐出ヘッド1における接合対象基板である共通流路部材50(圧電素子保持基板70)の隔壁59の部分に、凹部59aが形成されている。詳しくは、本変形例における共通流路部材50の隔壁59の部分には、ダンパ板66の貫通孔66aが形成されていない部分と対向するように、凹部59aが形成されている。これにより、従来の液体吐出ヘッド1'におけるダンパ板66と共通流路部材50との間では挟まってしまうようなフィラー91や異物が介在する場合であっても、本変形例の液体吐出ヘッド1であれば、当該フィラー91や異物の少なくとも一部は、ダンパ板66の貫通孔66aの中だけでなく、共通流路部材50の凹部59aの中にも入り込むことができる。したがって、本変形例によれば、フィラー91や異物がダンパ板66と共通流路部材50との間に挟まる確率を下げることができるので、ダンパ板66の破損を抑制することができる。
【0038】
また、このような凹部59aを共通流路部材50に設けることで、共通流路部材50と接着剤90との接着面積を広げることができる。その結果、ダンパ部材60と共通流路部材50(圧電素子保持基板70)との接着強度を更に高めることもできる。
【0039】
なお、本変形例において、共通流路部材50の凹部59aは、ダンパ板66の貫通孔66aとの対向領域まで延出するように形成してもよい。この場合、共通流路部材50とダンパ板66との距離が最短となる箇所を少なくでき、フィラー91や異物がダンパ板66と共通流路部材50との間に挟まる確率を更に下げることができる。よって、ダンパ板66の破損をより抑制することができる。
【0040】
なお、本変形例では、上述した実施形態と同様、ダンパ板66に貫通孔66aが形成されている例であるが、共通流路部材50に凹部59aを設けることによる効果は、ダンパ板66に貫通孔66aが形成されていない場合であっても同様に得ることができる。
【0041】
例えば、
図17に示すように、共通流路部材50(圧電素子保持基板70)において、貫通孔66aが形成されていないダンパ板66を用い、そのダンパ板66の接着面と対向する対向領域に凹部59aを形成した構成としてもよい。この構成であっても、従来の液体吐出ヘッド1'におけるダンパ板66と共通流路部材50との間では挟まってしまうようなフィラー91や異物が介在する場合、当該フィラー91や異物の少なくとも一部は、共通流路部材50の凹部59aの中に入り込むことができ、これらの間に挟まらないようにすることができる。したがって、
図17の例も、フィラー91や異物がダンパ板66と共通流路部材50との間に挟まる確率を下げることができ、ダンパ板66の破損を抑制することができる。また、凹部59aを共通流路部材50に設けることにより接着面積を広げることもできるので、ダンパ部材60と共通流路部材50(圧電素子保持基板70)との接着強度を高めることもできる。
【0042】
特に、
図17の例では、ダンパ板66に貫通孔66aを形成しないため、ダンパ板66の剛性を落とすことがなく、ダンパ板66の剛性を確保しやすいというメリットがある。また、
図17の例では、ダンパフレーム基板65にも凹部69aを形成しないため、ダンパフレーム基板65の剛性を落とすこともなく、ダンパフレーム基板65の剛性も確保しやすいというメリットがある。
【0043】
次に、上述した各液体吐出ヘッド1を備えた液体吐出ユニットについて説明する。
図18、
図19に示すように液体吐出ユニット100は、液体吐出ヘッド1、複数の液体吐出ヘッド1を保持するベース部材103、液体吐出ヘッド1のノズルカバーとなるカバー部材113を備えている。さらに液体吐出ユニット100は、放熱部材104、複数の液体吐出ヘッド1に対して液体を供給する流路を形成しているマニホールド105、フレキシブル配線基板101に接続されるプリント基板(PCB)106、モジュールケース107を備えている。
【0044】
次に、上述した各液体吐出ヘッド1を備えた液体を吐出する装置について説明する。
図20、
図21に示すように、液体を吐出する装置である印刷装置500は、被記録媒体である連続体510を搬入する搬入手段501、搬入手段501によって搬入された連続体510を印刷手段505に向けて案内搬送する案内搬送手段503を備えている。また印刷装置500は、連続体510に対して液体を吐出して画像を形成する印刷動作を行う印刷手段505、液体が付着した連続体510を乾燥させる乾燥手段507、連続体510を搬出する搬出手段509等を備えている。
【0045】
連続体510は、搬入手段501の元巻きローラ511から送り出され、搬入手段501、案内搬送手段503、乾燥手段507、搬出手段509がそれぞれ有するローラによって案内及び搬送され、搬出手段509の巻き取りローラ591に巻き取られる。連続体510は、印刷手段505において搬送ガイド部材559上を液体吐出ユニットであるヘッドユニット550に対向して搬送され、ヘッドユニット550から吐出される液体によって画像が印刷される。
【0046】
印刷装置500は、ヘッドユニット550に上述した液体吐出ユニット100A,100Bを備えており、各液体吐出ユニット100A,100Bはそれぞれ共通ベース部材552上に設けられている。
各液体吐出ユニット100A,100Bは、連続体搬送方向と直交する方向における液体吐出ヘッド1の並び方向をヘッド配列方向とするとき、液体吐出ユニット100Aのヘッド列1A1,1A2の組で同じ色の液体を吐出する。同様に、液体吐出ユニット100Aのヘッド列1B1,1B2の組、液体吐出ユニット100Bのヘッド列1C1,1C2の組、液体吐出ユニット100Bのヘッド列1D1,1D2の組で、それぞれ所望の色の液体を吐出する。
【0047】
次に、液体を吐出する装置である印刷装置の他の例を
図22及び
図23に基づいて説明する。
液体を吐出する装置としての印刷装置400はシリアル型印刷装置であり、主走査移動機構493によってキャリッジ403が主走査方向に向けて往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を有している。ガイド部材401は左右の側板491A,491Bに掛け渡されており、キャリッジ403を移動可能に保持している。キャリッジ403は、駆動プーリ406と従動プーリ407との間に掛け渡されたタイミングベルト408を介して、主走査モータ405の駆動力を伝達されて主走査方向に往復移動される。
【0048】
キャリッジ403には、液体吐出ヘッド1及びヘッドタンク441を一体的に有する液体吐出ユニット440が搭載されている。ここで液体吐出ヘッド1は、例えばイエロ(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また液体吐出ヘッド1は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配列し、液体吐出方向を下方とした状態で装着されている。液体吐出ヘッド1は、液体循環装置と接続されており、液体吐出ヘッド1には所望の色の液体が循環供給される。
【0049】
印刷装置400は、被記録媒体である用紙410を搬送する搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動する副走査モータ416を有している。無端状ベルトである搬送ベルト412は搬送ローラ413とテンションローラ414との間に掛け渡されており、用紙410を吸着して液体吐出ヘッド1に対向する位置で搬送する。吸着は、静電吸着あるいはエア吸引等によって実施される。搬送ベルト412は、副走査モータ416の駆動力をタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して伝達されることにより、副走査方向に周回移動される。
【0050】
キャリッジ403の主走査方向の一方側であって搬送ベルト412の側方には、液体吐出ヘッド1の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。維持回復機構420は、例えば液体吐出ヘッド1ノズル面をキャッピングするキャップ部材421、ノズル面を払拭するワイパ部材422等で構成されている。また、主走査移動機構493、維持回復機構420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
【0051】
上述した構成の印刷装置400では、用紙410が搬送ベルト412によって吸着され、搬送ベルト412の周回移動により用紙410が副走査方向に搬送される。このとき、キャリッジ403を主走査方向に移動させつつ画像信号に応じて液体吐出ヘッド1を駆動することにより、停止している用紙410に液体を吐出して画像を形成する。
【0052】
次に、上述した液体吐出ユニット440を
図24に基づいて説明する。
液体吐出ユニット440は、液体を吐出する装置である印刷装置400を構成している各部材のうち、各側板491A,491B及び背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493、キャリッジ403、液体吐出ヘッド1等によって構成されている。
なお、この液体吐出ユニット440の例えば側板491Bに、上述した維持回復機構420をさらに取り付けた液体吐出ユニットを構成することも可能である。
【0053】
次に、液体吐出ユニットの他の例を、
図25に基づいて説明する。
図25に示す液体吐出ユニット450は、流路部品444が取り付けられた液体吐出ヘッド1と、流路部品444に接続されたチューブ456を有している。流路部品444はカバー442の内部に配置されており、流路部品444の上部には液体吐出ヘッド1と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。なお、流路部品444に代えてヘッドタンク441を含む構成も可能である。
【0054】
上述した液体吐出ヘッド1を含む、液体吐出ユニット100,100A,100B,440,450、及び液体を吐出する装置である印刷装置400,500では、上述した液体吐出ヘッド1における作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
【0055】
本発明において、使用される液体はヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく特に限定されないが、常温・常圧下において、または加熱・冷却により粘度が30[mPa・s]以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やタンパク質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、これ等を含む溶液や懸濁液やエマルション等である。これ等は、例えばインクジェット用インク、表面処理液、三次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0056】
液体を吐出するエネルギ発生源として、圧電アクチュエータ(積層型圧電素子及び薄膜型圧電素子)、発熱抵抗体等の電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極とからなる静電アクチュエータ等を使用するものが含まれる。
【0057】
「液体吐出ユニット」は、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体が含まれる。例えば「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構、液体循環装置の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたもの等が含まれる。
ここで一体化とは、例えば液体吐出ヘッドと機能部品や機構が、締結、接着、係合等によって互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと機能部品や機構が互いに着脱可能であってもよい。
【0058】
液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとヘッドタンクとが一体化されているもの、両者がチューブ等で互いに接続されて一体化されているものがある。ここで、これ等の液体吐出ユニットの液体吐出ヘッドとヘッドタンクとの間に、フィルタを含むユニットを追加することも可能である。
【0059】
また液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジとが一体化されているもの、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構とが一体化されているものがある。また液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させ、液体吐出ヘッドと走査移動機構とが一体化されているものがある。
【0060】
液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構とが一体化されているものがある。また液体吐出ユニットとして、ヘッドタンクまたは流路部品が取り付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続され、液体吐出ヘッドと供給機構とが一体化されているものがある。このチューブを介して、液体貯留源の液体が液体吐出ヘッドに供給される。
【0061】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。供給機構は、チューブ単体及び装填部単体も含むものとする。
【0062】
本発明では、液体吐出ユニットについて液体吐出ヘッドとの組み合わせで説明しているが、液体吐出ユニットには上述した液体吐出ヘッドを含むヘッドモジュールやヘッドユニットと上述したような機能部品や機構が一体化されたものも含まれる。
【0063】
液体を吐出する装置には、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、ヘッドモジュール、ヘッドユニット等を備え、液体吐出ヘッドを駆動させて液体を吐出させる装置が含まれる。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけではなく、液体を気体中や液体中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0064】
液体を吐出する装置は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に関わる手段、その他の前処理装置や後処理装置等にも含むことができる。例えば液体を吐出する装置としては、インクを吐出させて被記録媒体に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出する立体造形装置(三次元造形装置)が挙げられる。
【0065】
また液体を吐出する装置は、吐出された液体によって文字や図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体では意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0066】
上述した液体が付着可能なものとは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するものや付着して浸透するもの等を意味する。具体例としては、用紙、フィルム、布等の被記録媒体、電子基板、圧電素子等の電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セル等の媒体が挙げられ、特に限定しない限り液体が付着する全てのものが含まれる。液体が付着可能なものの材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等、液体が一時的でも付着可能であれば、どのような材質のものであってもよい。
【0067】
液体を吐出する装置には、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する構成を含むが、異動する対象は何れか一方には限定されない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置が共に含まれる。
【0068】
また、液体を吐出する装置としては他にも、用紙の表面を改質する等の目的で用紙の表面に処理液を塗布するために用紙表面に対して処理液を吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置等が挙げられる。
【0069】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を例示したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0070】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する
[第1態様]
第1態様は、アクチュエータ基板(例えば圧電素子保持基板70)に保持される電気機械変換素子(例えば圧電素子40)を駆動して圧力室21内の液体(例えばインク)をノズル11から吐出する液体吐出ヘッド1であって、前記アクチュエータ基板とダンパ保持基板(例えばダンパフレーム基板65)との間に配置されるダンパ(例えばダンパ板66)を有し、前記ダンパは、前記アクチュエータ基板及び前記ダンパ保持基板のうちの一方に接着剤90で接合され、前記ダンパが接合される対象を接合対象基板(例えばアクチュエータ基板である圧電素子保持基板70の共通流路部材50)としたとき、前記ダンパには、前記接合対象基板の接着面と対向する対向領域に凹み又は貫通孔66aが形成されていることを特徴とするものである。
従来の液体吐出ヘッドでは、ダンパがアクチュエータ基板やダンパ保持基板に対して接着剤により接着される場合がある。この場合、アクチュエータ基板及びダンパ保持基板のうちダンパに接着剤で接着される方の基板(接合対象基板)とダンパとの間に、接着剤に含まれるフィラーや外部から混入した異物(製造過程で生じた削りカス、破片等)が介在することがある。このようなフィラーや異物が介在すると、フィラーや異物がダンパと接合対象基板との間に挟まって、ダンパに局所的な応力が作用し、ダンパが割れる(クラック)などのダンパの破損を生じるおそれがある。
本態様におけるダンパには、接合対象基板の接着面と対向する対向領域に、凹み又は貫通孔が形成されている。これによれば、このような凹み又は貫通孔が形成されていないダンパと接合対象基板との間では挟まってしまうようなフィラーや異物であっても、そのフィラーや異物が当該凹み又は貫通孔の中に入り込み、ダンパと接合対象基板との間に挟まらないようにすることができる。したがって、フィラーや異物がダンパと接合対象基板との間に挟まる確率を下げることができるので、ダンパの破損を抑制することができる。
【0071】
[第2態様]
第2態様は、アクチュエータ基板(例えば圧電素子保持基板70)に保持される電気機械変換素子(例えば圧電素子40)を駆動して圧力室21内の液体(例えばインク)をノズル11から吐出する液体吐出ヘッド1であって、前記アクチュエータ基板とダンパ保持基板(例えばダンパフレーム基板65)との間に配置されるダンパ(例えばダンパ板66)と、前記アクチュエータ基板及び前記ダンパ保持基板のうちの一方である接合対象基板(例えばアクチュエータ基板である圧電素子保持基板70の共通流路部材50)と前記ダンパとの間を接着する接着剤90とを有し、前記接合対象基板には、前記ダンパの接着面と対向する対向領域に凹部59aが形成されていることを特徴とするものである。
本態様における接合対象基板には、ダンパの接着面と対向する対向領域に凹部が形成されているので、このような凹部が形成されていない接合対象基板とダンパとの間では挟まってしまうようなフィラーや異物であっても、そのフィラーや異物が当該凹部の中に入り込み、ダンパと接合対象基板との間に挟まらないようにすることができる。したがって、フィラーや異物がダンパと接合対象基板との間に挟まる確率を下げることができるので、ダンパの破損を抑制することができる。
【0072】
[第3態様]
第3態様は、第1態様において、前記接合対象基板には、前記ダンパの前記凹み又は前記貫通孔が形成されていない接着面部分と対向する対向領域に、凹部59aが形成されていることを特徴とするものである。
本態様における接合対象基板には、ダンパの接着面と対向する対向領域に凹部が形成されているので、このような凹部が形成されていない接合対象基板とダンパとの間では挟まってしまうようなフィラーや異物であっても、そのフィラーや異物が当該凹部の中に入り込み、ダンパと接合対象基板との間に挟まらないようにすることができる。したがって、フィラーや異物がダンパと接合対象基板との間に挟まる確率を下げることができるので、ダンパの破損を抑制することができる。
【0073】
[第4態様]
第4態様は、第3態様において、前記凹部は、前記ダンパの前記凹み又は前記貫通孔との対向領域まで延出していることを特徴とするものである。
これによれば、接合対象基板とダンパとの距離が最短となる箇所を少なくでき、フィラーや異物がダンパと接合対象基板との間に挟まる確率を更に下げることができる。よって、ダンパの破損をより抑制することができる。
【0074】
[第5態様]
第5態様は、第1、第3又は第4態様において、前記アクチュエータ基板及び前記ダンパ保持基板のうちの他方の基板(例えばダンパフレーム基板65)には、前記ダンパの前記貫通孔と対向する対向領域に、凹部69aが形成されていることを特徴とするものである。
これによれば、接着剤がダンパの貫通孔を介して他方の基板の凹部にも入り込むことができる。したがって、他方の基板及びダンパが互いに接合されてなる接合部材と接着剤との接着面積が広がり、当該接合部材と接合対象基板との接着強度を更に高めることができる。
【0075】
[第6態様]
第6態様は、第5態様において、前記貫通孔の開口面積が、前記他方の基板の前記凹部の開口面積よりも大きいことを特徴とするものである。
これによれば、ダンパの貫通孔と前記他方の基板の凹部との間に段差が生まれ、接着面積が更に広がり、より高い接着強度を実現することができる。
【0076】
[第7態様]
第7態様は、第1乃至第6態様のいずれかにおいて、前記接着剤にはフィラーが含まれていることを特徴とするものである。
本態様によれば、接着性を向上させるため、あるいは、接着強度を向上させるため等の目的により、接着剤にフィラーが含まれている場合でも、フィラーによるダンパの破損を抑制することができる。
【0077】
[第8態様]
第8態様は、第7態様において、前記ダンパの厚さは前記フィラーの最大径よりも大きいことを特徴とするものである。
本態様によれば、フィラーによるダンパの破損を抑制することができる。
【0078】
[第9態様]
第9態様は、第1乃至第8態様のいずれかにおいて、前記ダンパの前記凹み又は前記貫通孔は、開口形状が前記ダンパ保持基板の基板面に沿って直線形状、円形又は多角形であるものを含むことを特徴とするものである。
これによれば、前記ダンパの前記凹み又は前記貫通孔の開口形状を適宜選択することができる。
【0079】
[第10態様]
第10態様は、第1乃至第9態様のいずれかにおいて、前記ダンパの前記凹み又は前記貫通孔は、前記接合対象基板の接着面と対向する対向領域内で、前記凹み又は前記貫通孔が形成されていないダンパ部分を取り囲むように、形成されていることを特徴とするものである。
これによれば、前記凹み又は前記貫通孔が形成されていないダンパ部分を接着する接着剤の余剰分をダンパの凹み又は貫通孔の中に取り込んで、接着剤の余剰分が接合対象基板の接着面外へはみ出しにくくなる。
【0080】
[第11態様]
第11態様は、第1乃至第10態様のいずれかにおいて、前記ダンパの前記凹み又は前記貫通孔は、深さ方向に向かって先細るテーパ形状を有することを特徴とするものである。
これによれば、フィラーや異物がダンパの凹み又は貫通孔の、より内側、より深い箇所まで入り込みやすくなり、ダンパの破損のリスクをさらに低減させることができる。
【0081】
[第12態様]
第12態様は、第1乃至第11態様のいずれかにおいて、前記ダンパは、コンプライアンスが7×10-17[m/N]以上であり、ヤング率が3[GPa]以上200[GPa]以下であり、厚みが2[μm]以上10[μm]以下であることを特徴とするものである。
これによれば、ダンパとして必要な機能を十分に満たすことができる。
【0082】
[第13態様]
第13態様は、第1乃至第12態様のいずれかにおいて、前記ダンパは、複数の層からなる積層構造であることを特徴とするものである。
これによれば、ダンパ特性の調整が容易である。
【0083】
[第14態様]
第14態様は、液体吐出ユニットであって、第1乃至第13態様のいずれかの液体吐出ヘッドを含むことを特徴とするものである。
本態様によれば、液体吐出ヘッドのダンパの破損が抑制された液体吐出ユニットを提供することができる。
【0084】
[第15態様]
第15態様は、液体を吐出する装置であって、第1乃至第13態様のいずれかの液体吐出ヘッド、又は、第14態様の液体吐出ユニットを備えることを特徴とするものである。
本態様によれば、液体吐出ヘッドのダンパの破損が抑制された液体を吐出する装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0085】
1,1':液体吐出ヘッド
10 :ノズル板
11 :ノズル
20 :流路板
21 :圧力室
22 :個別供給流路
23 :個別回収流路
25 :個別流路
30 :振動板部材
31 :振動板
32 :供給側開口
33 :回収側開口
40 :圧電素子
50 :共通流路部材
52 :共通供給流路支流
53 :共通回収流路支流
54 :供給口
55 :回収口
56 :共通供給流路本流
57 :共通回収流路本流
58 :空隙
59 :隔壁
59a :凹部
60 :ダンパ部材
61A,61B:貫通孔
62 :供給側ダンパ
63 :回収側ダンパ
64 :空隙
65 :ダンパフレーム基板
66 :ダンパ板
66a :貫通孔
69 :隔壁
69a :凹部
70 :圧電素子保持基板
80 :フレーム部材
90 :接着剤
91 :フィラー
100 :液体吐出ユニット
400 :印刷装置
410 :用紙
420 :維持回復機構
440 :液体吐出ユニット
441 :ヘッドタンク
450 :液体吐出ユニット
500 :印刷装置
550 :ヘッドユニット
【先行技術文献】
【特許文献】
【0086】