IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 出光興産株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180554
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20231214BHJP
   C10M 143/10 20060101ALN20231214BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20231214BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20231214BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M143/10
C10N20:02
C10N40:25
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093943
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蓬田 知行
(72)【発明者】
【氏名】楠本 竜也
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104CA11C
4H104DA02A
4H104LA01
4H104PA42
(57)【要約】
【課題】マルチグレードエンジン油の各種規格値を満足しつつ、更に優れた低温流動性を有するヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】ASTM D3238(n-d-M法による石油の炭素分布と構造グループ解析のための標準試験法)で規定される%Cが、90以上の基油(A)と、重量平均分子量(Mw)が、58万未満の水素化スチレン-ジエンポリマー(b)を含む粘度指数向上剤(B)と、を含み、150℃におけるHTHS粘度が、3.5mPa・s以上であり、-35℃におけるCCS粘度が、6,200mPa・s以下であり、-40℃におけるMRV粘度が、60,000mPa・s以下である、ヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物を及びそれを用いた潤滑方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ASTM D3238で規定される%Cが、90以上の基油(A)と、重量平均分子量(Mw)が、58万未満の水素化スチレン-ジエンポリマー(b)を含む粘度指数向上剤(B)と、を含み、
150℃における高温高せん断粘度(150℃におけるHTHS粘度)が、3.5mPa・s以上であり、
-35℃における低温クランキング粘度(-35℃におけるCCS粘度)が、6,200mPa・s以下であり、
-40℃における低温ポンピング粘度(-40℃におけるMRV粘度)が、60,000mPa・s以下である、
ヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物。
【請求項2】
前記水素化スチレン-ジエンポリマー(b)の、前記潤滑油組成物全量基準(100質量%)の含有量が、1.5質量%以上である、請求項1に記載のヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物。
【請求項3】
前記水素化スチレン-ジエンポリマー(b)の、分子量分布(Mw/Mn)が、1.0以上2.0未満である、請求項1又は2に記載のヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の潤滑油組成物を用いる、ヘビーデューティーディーゼルエンジンの潤滑方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関等に用いられる潤滑油組成物には、寒冷地帯でのエンジン始動時から、ごく初期の走行時(エンジン始動直後の走行時)の低温での潤滑性能及びエンジン稼働時の高温高負荷での潤滑性能と、広い温度範囲での潤滑性能が求められる。このため、潤滑油組成物は低温での粘度及び高温での粘度の変化が少ないことが要求される。これらの要求を達成するためマルチグレードエンジン油があり、粘度についてSAE J 300-201501に規定されている。マルチグレードエンジン油は、150℃における高温高せん断粘度(150℃におけるHTHS粘度)、低温クランキング粘度(CCS粘度)、低温ポンピング粘度(MRV粘度)等が、前記規定に適合することが求められる。
例えば、特許文献1には、特定の基油を用いて、低温流動性、蒸発性及び酸化安定性を改善することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-137952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、基油として特定の合成油を用いていることから、使用する材料が限定されている。また、極低温地域においては低温流動性を更に改善する要求もある。本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、マルチグレードエンジン油の各種規格値を満足しつつ、更に優れた低温流動性を有するヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の基油に対し、特定の粘度指数向上剤を配合したヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物により、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、下記[1]及び[2]を提供する。
[1] ASTM D3238(n-d-M法による石油の炭素分布と構造グループ解析のための標準試験法)で規定される%Cが、90以上の基油(A)と、重量平均分子量(Mw)が、58万未満の水素化スチレン-ジエンポリマー(b)を含む粘度指数向上剤(B)と、を含み、
150℃における高温高せん断粘度(150℃におけるHTHS粘度)が、3.5mPa・s以上であり、
-35℃における低温クランキング粘度(-35℃におけるCCS粘度)が、6,200mPa・s以下であり、
-40℃における低温ポンピング粘度(-40℃におけるMRV粘度)が、60,000mPa・s以下である、
ヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物。
[2] [1]に記載の潤滑油組成物を用いる、ヘビーデューティーディーゼルエンジンの潤滑方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、マルチグレードエンジン油の各種規格値を満足しつつ、更に優れた低温流動性を有するヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称することがある。)について説明する。
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「A~B」及び「C~D」が記載されている場合、「A~D」及び「C~B」の数値範囲も、本発明の範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は、特に断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
また、本明細書において、実施例の数値は、上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
なお、本明細書において、例えば、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の双方を示す語として用いており、他の類似用語や同様の標記についても、同じである。
【0009】
[ヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物]
本実施形態のヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物は、ASTM D3238(n-d-M法による石油の炭素分布と構造グループ解析のための標準試験法)で規定される%Cが90以上の基油(A)と、重量平均分子量(Mw)が58万未満の水素化スチレン-ジエンポリマー(b)を含む粘度指数向上剤(B)と、を含み、150℃における高温高せん断粘度(150℃におけるHTHS粘度)が3.5mPa・s以上であり、-35℃における低温クランキング粘度(-35℃におけるCCS粘度)が、6,200mPa・s以下であり、-40℃における低温ポンピング粘度(-40℃におけるMRV粘度)が、60,000mPa・s以下である。
【0010】
前記のように、マルチグレードエンジン油は、150℃における高温高せん断粘度(150℃におけるHTHS粘度)、低温クランキング粘度(CCS粘度)、低温ポンピング粘度(MRV粘度)等が、規格値に適合することが求められる。
本実施形態の潤滑油組成物は、後記する鉱油(A)と後記する粘度指数向上剤(B)を含み、150℃における高温高せん断粘度(150℃におけるHTHS粘度)、低温クランキング粘度(CCS粘度)、低温ポンピング粘度(MRV粘度)が、マルチグレードエンジン油の規格値を満足しつつ、ASTM D5133に記載される温度走査法を用いた潤滑油の低温、低せん断速度、粘度/温度依存性の標準試験法で測定される-40℃の粘度(以下、「ASTM D5133で測定された-40°Cの粘度」と記載する。)を小さくすることができ、優れた低温流動性を有することが分かった。そして、本実施形態の潤滑油組成物が有する各種性状が、ヘビーデューティーディーゼルエンジン用に特に好適であることが分かった。
【0011】
<150℃におけるHTHS粘度>
本実施形態のヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は、3.5mPa・s以上である。3.5mPa・s未満であると、油膜の形成が不十分となり、潤滑油組成物としての機能を果たさない。
上限値としては、低温流動性を改善するため、4.0mPa・s以下であることが好ましい。150℃におけるHTHS粘度は、例えば実施例に記載の方法で測定することができる。
【0012】
<-35℃におけるCCS粘度>
本実施形態のヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物の-35℃におけるCCS粘度は、6,200mPa・s以下である。6,200mPa・sを超えると低温流動性が改善しない。低温流動性を改善するため、5,500mPa・s以下であることが好ましく、5,000mPa・s以下であることがより好ましく、4,900mPa・s以下であることが更に好ましい。下限値は特に限定されるものではない。-35℃におけるCCS粘度は、例えば実施例に記載の方法で測定することができる。
【0013】
<-40℃におけるMRV粘度>
本実施形態のヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物の-40℃におけるMRV粘度は、60,000mPa・s以下である。6,000mPa・sを超えると低温流動性が改善しない。低温流動性を改善するため、40,000mPa・s以下であることが好ましく、30,000mPa・s以下であることがより好ましい。下限値は特に限定されるものではない。-40℃におけるMRV粘度は、例えば実施例に記載の方法で測定することができる。
【0014】
以下、本実施形態のヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物に含まれる各成分について説明する。
【0015】
<基油(A)>
本実施形態で用いる基油(A)は、ASTM D3238(n-d-M法による石油の炭素分布と構造グループ解析のための標準試験法)で規定される%Cが90以上である。%Cは、90未満であると低温流動性を十分に改善することができない。
%Cは、低温流動性を改善できるため、91以上であることが好ましい。
【0016】
%Cは、低温流動性を改善できるため、1以下であることが好ましい。
%Cは、低温流動性を改善できるため、10未満であることが好ましく、9未満であることがより好ましい。下限値は特に限定されないが、入手容易性の観点から3以上であることが好ましい。
【0017】
本明細書において、%C、%C及び%Cは、ASTM D3238(n-d-M法による石油の炭素分布と構造グループ解析のための標準試験法)で規定される、パラフィン分、ナフテン分、及び芳香族分の割合(百分率)を意味する。
【0018】
前記基油(A)の、ヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物の全量(100質量%)基準の含有量は、低温流動性を改善できるため、50.0質量%以上80.0質量%以下であることが好ましく、55.0質量%以上79.0質量%以下であることがより好ましく、60.0質量%以上78.0質量%以下であること更に好ましい。
【0019】
本実施形態で用いる基油(A)としては、米国石油協会(API:American Petroleum Institute)の基油カテゴリーのグループII又はIIIに分類される基油が好ましく、グループIIIに分類される基油がより好ましい。
【0020】
前記基油(A)の動粘度及び粘度指数は、上限値は省燃費性を良好なものとする観点から、下限値は蒸発による潤滑油組成物の損失を低減し、油膜保持性を確保する観点から、以下の範囲とすることが好ましい。
【0021】
前記基油(A)の40℃における動粘度(動粘度(40℃))は、13.0mm/s以上が好ましく、15.0mm/s以上がより好ましく、18.0mm/s以上がより更に好ましい。上限値としては、25.0mm/s以下が好ましく、23.0mm/s以下がより好ましく、22.0以下が更により好ましい。
【0022】
前記基油(A)の100℃における動粘度(動粘度(100℃))は、3.5mm/s以上が好ましく、3.7mm/s以上がより好ましく、3.8mm/s以上が更に好ましく、上限値としては、5.0mm/s以下が好ましい。
【0023】
前記基油(A)の粘度指数は、120以上が好ましい。上限値は特に限定されない。
前記40℃における動粘度、前記100℃における動粘度、及び前記粘度指数は、例えば実施例記載の方法により測定又は算出することができる。
また、前記基油(A)が2種以上の基油を含有する混合基油である場合、混合基油の動粘度及び粘度指数が上記範囲内にあることが好ましい。
【0024】
<粘度指数向上剤(B)>
本実施形態で用いる粘度指数向上剤(B)は、重量平均分子量(Mw)が58万未満の水素化スチレン-ジエンポリマー(b)を含む。重量平均分子量が58万以上の水素化スチレン-ジエンポリマー(b)を含むと、低温流動性が悪化してしまう。
【0025】
本実施形態で用いる粘度指数向上剤(B)は、固形分を希釈油により希釈したものであり、固形分として前記水素化スチレン-ジエンポリマー(b)を含有する。
前記希釈油としては、通常潤滑油組成物の基油として用いられるものであれば、特に制限なく使用することができるが、前記の基油カテゴリーのグループI又はIIIに分類される基油が好ましい。特にグループIIIに分類される基油であることが好ましい。
【0026】
(水素化スチレン-ジエンポリマー(b))
本実施形態で用いる水素化スチレン-ジエンポリマー(b)は、重量平均分子量(Mw)が58万未満である。Mwが58万以上であると、優れた低温流動性が得られない。
【0027】
本実施形態で用いる水素化スチレン-ジエンポリマー(b)の重量平均分子量(Mw)は、低温流動性を改善するために、56万未満であることが好ましく、55万未満であることが更に好ましい。下限値としては、10万以上であることが好ましく、12万以上であることがより好ましく、14万以上であることが更に好ましい。
【0028】
本実施形態で用いる水素化スチレン-ジエンポリマー(b)の、分子量分布(Mw/Mn)は、低温流動性を改善するために、1.0以上2.0未満であることが好ましい。
本明細書において、各成分の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値であり、例えば実施例に記載の方法で測定することができる。
【0029】
本実施形態で用いる水素化スチレン-ジエンポリマー(b)は、スチレン及びジエンに由来する構成単位をそれぞれ有する共重合体であればよい。
【0030】
ジエンとしては、非共役ジエンであっても、共役ジエンであってもよいが、共役ジエンであることが好ましく、イソプレン又はブタジエンがより好ましい。
【0031】
前記水素化スチレン-ジエンポリマー(b)の、前記ヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物全量基準(100質量%)における含有量は、低温流動性を改善するために、1.5質量%以上であることが好ましく、1.6質量%以上であることがより好ましく、1.7質量%以上であることが更に好ましく、上限値としては、5.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以下であることがより好ましく、3.0質量%以下であることが更に好ましく、2.5質量%以下であることがより更に好ましく、2.2質量%以下であることが特に好ましい。
【0032】
ヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物に含まれる粘度指数向上剤の固形分としては、水素化スチレン-ジエンポリマー(b)のみであっても良いし、二種以上を組み合わせても良い。二種以上を組み合わせる場合には、ポリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0033】
<流動点降下剤(C)>
本実施形態のヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物は、更に流動点降下剤(C)を含んでいてもよい。流動点降下剤(C)を含むことで、低温流動性をより改善することができる。
前記流動点降下剤としては、例えば、ポリメタクリレート、アルキル化芳香族化合物、フマレートと酢酸ビニルの共重合体、エチレンと酢酸ビニルの共重合体が用いられ、重量平均分子量(Mw)が40,000~200,000のポリメタクリレートが好ましく用いられる。また、前記流動点降下剤として用いられるこれらの重合体の重量平均分子量(Mw)としては、好ましくは5万以上15万以下であり、より好ましくは5万以上10万以下である。
分子量分布(Mw/Mn)は、低温流動性を改善するために、1.3以上2.0未満であることが好ましく、1.6以上1.8以下であることがより好ましい。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
前記流動点降下剤(C)の、前記潤滑油組成物全量基準(100質量%)における含有量は、特に限定されるものではないが、0.1質量%以上1.0質量%以下の割合で用いられる。
【0035】
<その他の成分>
本実施形態のヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上記成分以外のその他の成分を含有してもよい。
前記その他の成分としての添加剤として、特にヘビーデューティ用途として用いられるものは、例えば、金属系清浄剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、消泡剤、分散剤、金属不活性化剤等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
(金属系清浄剤)
前記金属系清浄剤としては、例えば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属原子を含有する有機酸金属塩化合物が挙げられ、具体的には、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属原子を含有する、金属サリシレート、金属フェネート、及び金属スルホネート等が挙げられる。
【0037】
高温清浄分散性を向上する観点、及び基油への溶解性の観点から、カルシウムサリシレート、カルシウムフェネート、カルシウムスルホネート、マグネシウムサリシレート、マグネシウムフェネート、及びマグネシウムスルホネートから選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0038】
これらの金属系清浄剤は、中性塩、塩基性塩、過塩基性塩及びこれらの混合物のいずれであってもよい。塩基価は特に限定されない。
【0039】
(酸化防止剤)
前記酸化防止剤としては、例えば、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤等が挙げられる。
アミン系酸化防止剤としては、例えば、ジフェニルアミン、炭素数3~20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0040】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、イソオクチル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
(耐摩耗剤)
前記耐摩耗剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)が好ましい。
【0042】
(消泡剤)
前記消泡剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン等のシリコーン油、フルオロシリコーン油、フルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
(分散剤)
前記分散剤としては、非ホウ素変性コハク酸イミド及びホウ素変性コハク酸イミドから選択される1種以上を用いることができ、非ホウ素変性コハク酸イミドから選択される1種以上と、ホウ素変性コハク酸イミドから選択される1種以上とを組み合わせることが好ましい。
【0044】
(金属不活化剤)
前記金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
前記その他の成分の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で適宜調整することができる。本実施形態のヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物は、基油(A)、粘度指数向上剤(B)及び必要に応じて添加する流動点降下剤(C)のみを含有していてもよいが、その他成分を含有している場合には、その他成分の合計の含有量は、ヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、0.1質量%以上30.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以上20.0質量%以下であることがより好ましく、8.0質量%以上15.0質量%以下であることがより更に好ましい。
【0046】
[潤滑油組成物の物性値]
(40℃における動粘度)
本実施形態のヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物の40℃における動粘度(動粘度(40℃))は、65.0mm/s以上85.0mm/s以下であることが好ましい。40℃における動粘度は、例えば実施例に記載の方法で測定することができる。
【0047】
(100℃における動粘度)
本実施形態のヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物の100℃における動粘度(動粘度(100℃))は、油膜形成性を維持し、高い耐摩耗性を達成するために、9.3mm/s以上16.3mm/s以下であることが好ましく、11.5mm/s以上16.0mm/s以下であることがより好ましい。100℃における動粘度は、例えば実施例に記載の方法で測定することができる。
【0048】
(粘度指数)
本実施形態のヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物の粘度指数は、低温流動性を改善するため、更には広い温度領域で油膜形成性を維持し、高い耐摩耗性を達成するために、150以上であることが好ましく、170以上であることがより好ましく、180以上であることが更に好ましく、188以上であることがより更に好ましい。上限値は、特に限定されないが、250以下であることが好ましい。
粘度指数は、例えば実施例に記載の方法で測定することができる。
【0049】
(流動点)
本実施形態のヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物の流動点は、低温流動性を改善するため、-70.0℃以上-35.0℃以下であることが好ましく、-66.0℃以上-40.0℃以下であることがより好ましく、-63.0℃以上-42.0℃以下であることが更に好ましい。流動点は、例えば実施例に記載の方法で測定することができる。
【0050】
<潤滑油組成物の用途>
本実施形態のヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物は、低温流動性に優れる。
本実施形態のヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物は、ヘビーデューティディーゼルエンジン用として使用される。ヘビーデューティーディーゼルエンジンは、大型トラック、大型バス、建設機械及び農業機械など、過酷な使用条件で動作する各種車両及び機械に搭載されるディーゼルエンジンであり、低温流動性に優れる潤滑油組成物を必要とするものである。
【0051】
[エンジンの潤滑方法]
本実施形態のヘビーデューティーディーゼルエンジンの潤滑方法は、前記のヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物を用いるヘビーデューティーディーゼルエンジンの潤滑方法である。
本実施形態のヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物は、低温流動性を改善し、広い温度範囲で優れた潤滑性能を発揮するため、本実施形態のヘビーデューティーディーゼルエンジンの潤滑方法によれば、広い動作環境において優れた潤滑性能をヘビーデューティーディーゼルエンジンに付与し得る。
【0052】
[提供される本発明の一態様]
本発明の一態様によれば、下記[1]~[4]が提供される。
[1] ASTM D3238で規定される%Cが、90以上の基油(A)と、重量平均分子量(Mw)が、58万未満の水素化スチレン-ジエンポリマー(b)を含む粘度指数向上剤(B)と、を含み、150℃における高温高せん断粘度(150℃におけるHTHS粘度)が、3.5mPa・s以上であり、-35℃における低温クランキング粘度(-35℃におけるCCS粘度)が、6,200mPa・s以下であり、-40℃における低温ポンピング粘度(-40℃におけるMRV粘度)が、60,000mPa・s以下である、ヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物。
[2] 前記水素化スチレン-ジエンポリマー(b)の、前記潤滑油組成物全量基準(100質量%)の含有量が、1.5質量%以上である、[1]に記載のヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物。
[3] 前記水素化スチレン-ジエンポリマー(b)の、分子量分布(Mw/Mn)が、1.0以上2.0未満である、[1]又は[2]に記載のヘビーデューティーディーゼルエンジン用潤滑油組成物。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の潤滑油組成物を用いる、ヘビーデューティーディーゼルエンジンの潤滑方法。
【実施例0053】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた各成分及び得られた潤滑油組成物の各種性状は、下記方法によって測定した。
【0054】
(1)動粘度
ASTM D455に準拠し、40℃における動粘度(動粘度(40℃))、100℃における動粘度(動粘度(100℃))を測定した。
(2)粘度指数
ASTM D2270に準拠して測定した。
(3)-35℃における低温クランキング粘度(-35℃におけるCCS粘度)
-35℃におけるクランキング粘度粘度(CCS粘度(-35℃))は、ASTM D 5293に準拠して測定した。
【0055】
(4)150℃における高温高せん断粘度(150℃におけるHTHS粘度))
150℃におけるHTHS粘度(HTHS粘度(150℃))は、ASTM D 4683に準拠して測定又は算出した。
(5)-40℃における低温ポンピング粘度(-40℃におけるMRV粘度)
-40℃における低温ポンピング粘度(MRV粘度(-40℃))は、ASTM D 4684に準拠して測定した。
(6)流動点
流動点は、JIS K2269-1987.3に記載の方法に準拠して測定した。
【0056】
(7)ASTM D5133に記載される温度走査法を用いた潤滑油の低温、低せん断速度、粘度/温度依存性の標準試験法で測定される-40℃の粘度
ASTM D5133に記載される温度走査法を用いた潤滑油の低温、低せん断速度、粘度/温度依存性の標準試験法に準拠して、-40℃の粘度を測定した。30,000mPa・s以下を合格とした。
【0057】
(8)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)
Mw、Mn及びMw/Mnは、JIS K 7252-4:2016及びJIS K 7252-2:2016に準拠して決定した。測定については、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によって測定した。GPC法は、東ソー製 HLC-8321GPC/HTを用い、カラムとしては東ソー製GMHHR-H(S)HTを2本直列に連結して用いて測定した。測定溶媒は、トリクロロベンゼンを使用し、カラム温度を145℃、流速を1.0ml/minとした。
【0058】
(9)環分析(%C、%C及び%C
環分析n-d-M法にて算出した芳香族(アロマティック)分の割合(百分率)を%C、ナフテン分の割合(百分率)を%C、パラフィン分の割合(百分率)を%Cとして示し、ASTM D3238(n-d-M法による石油の炭素分布と構造グループ解析のための標準試験法)で規定されるものである。
【0059】
(実施例1~4及び比較例1~5)
基油(A)、粘度指数向上剤(B)、流動点降下剤(C)及びその他添加剤として下記のもを用いた。
【0060】
<基油(A)>
基油(A):表1に記載の物性値を有する基油1~4を用いた。
【0061】
【表1】
【0062】
表中、「< 1」は、%Cが1未満であることを意味する。
【0063】
<粘度指数向上剤(B)>
粘度指数向上剤(B):水素化スチレン-ジエンポリマー(b)又は対比用の水素化スチレン-ジエンコポリマーとして、Mw及びMw/Mnが下記の値である水素化スチレン-ジエンコポリマーを、希釈油中に下記の粘度指数向上剤全量基準(100質量%)の含有量で含む粘度指数向上剤1~6を用いた。表2及び3における粘度指数向上剤1~6の含有量は、粘度指数向上剤1~6の潤滑油組成物全量基準(100質量%)の含有量を意味する。また、以下に示す希釈油は、米国石油協会(API:American Petroleum Institute)基油カテゴリーを指している。
【0064】
粘度指数向上剤1:水素化スチレン-ジエンコポリマー(Mw=450,000、Mw/Mn=1.6)、含有量=15.0質量%、希釈油=グループ III
粘度指数向上剤2:水素化スチレン-ジエンコポリマー(Mw=550,000、Mw/Mn=1.5)、含有量=13.8質量%、希釈油=グループ I
粘度指数向上剤3:水素化スチレン-ジエンコポリマー(Mw=150,000,Mw/Mn=1.1)、含有量=7.6質量%、希釈油=グループ III
粘度指数向上剤4:水素化スチレン-ジエンコポリマー(Mw=600,000、Mw/Mn=1.9)、含有量=10.7質量%、希釈油=グループ I
粘度指数向上剤5:水素化スチレン-ジエンコポリマー(Mw=600,000、Mw/Mn=1.9)、含有量=10.7質量%、希釈油=グループ III
粘度指数向上剤6:水素化スチレン-ジエンコポリマー(Mw=690,000、Mw/Mn=1.8)、含有量=9.0質量%、希釈油=グループ I
【0065】
<流動点降下剤(C)>
流動点降下剤(C):流動点降下剤として、ポリメタクリレート(VISCOPLEX 1-500 (EVONIK社製))を用いた。
【0066】
<その他添加剤>
金属系清浄剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、消泡剤、分散剤等
【0067】
表2及び表3に記載の各基油に対して、表2及び表3に記載の各成分を表2及び表3に記載の含有量、となるよう加えて、十分に混合し、潤滑油組成物を得た。
水素化スチレン-ジエンポリマーの、各潤滑油組成物全量基準(100質量%)の含有量を表2及び3に記載した。
表中の空欄は、組成物が該当する成分を含有していないことを意味する。
実施例1~4及び比較例1~5の潤滑油組成物の各種性状を表2及び3に示した。
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
表2からわかるように、本発明の構成を全て満たす実施例1~4の潤滑油組成物は、ASTM D5133で測定された-40°Cの粘度が低く、-35℃におけるCCS粘度や-40℃におけるMRV粘度が規格値を満たしつつも、更に低温流動性に優れることが分かった。
一方、表3に記載した、粘度指数向上剤(B)を含まない比較例1~3の潤滑油組成物は、ASTM D5133で測定された-40°Cの粘度は大きな値となり、低温流動性が劣ることが分かった。基油(A)を含まない比較例4及び5の潤滑油組成物は、ASTM D5133で測定された-40°Cの粘度も大きくなり、実施例1~4の潤滑油組成物より低温流動性が劣ることが分かった。