(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180749
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】予測モデルの学習装置及び学習方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/02 20060101AFI20231214BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20231214BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20231214BHJP
【FI】
G01N33/02
G01N30/72 A
G06N20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094299
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金子(國武) 友里
(72)【発明者】
【氏名】大野 直土
(57)【要約】
【課題】ノンターゲット分析結果を用いてモデルパラメータの学習を実行した場合でも、飲食品の品質の予測精度を向上させることができる予測モデルの学習装置などを提供することを目的とする。
【解決手段】学習装置1は、ガスクロマトグラフィー質量分析法によって収集した分析データにおける質量電荷比m/zを直交2次元座標の縦軸とし、保持時間RTを横軸とするとともに、信号強度Intensを座標値の点の明度で表した画像データを教師データとして用いてCNNのモデルパラメータの学習を実行する。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲食品の品質を予測する予測モデルの学習装置であって、
クロマトグラフを含む機器を用いて前記飲食品を測定することで収集された第1パラメータである保持時間、第2パラメータである信号強度及び第3パラメータを含む複数種類の値からなるクロマトグラムデータを画像化した画像データを、教師データとして取得する教師データ取得部と、
当該教師データを用いる教師あり機械学習法により前記予測モデルのモデルパラメータを学習する学習部と、
を備え、
前記画像データでは、前記クロマトグラムデータのうち、いずれか2種類の値が2次元座標値に設定され、残りのいずれか1種類以上の値を、色を構成する複数の第4パラメータの少なくとも1つに変換した値が、前記2次元座標値を示す点の表示状態に設定されていることを特徴とする予測モデルの学習装置。
【請求項2】
請求項1に記載の予測モデルの学習装置において、
前記複数の第4パラメータは、下記の(A1)~(A3)のいずれかであることを特徴とする予測モデルの学習装置。
(A1)明度、色相、彩度
(A2)RGB表色系におけるR値、G値、B値
(A3)減法混色におけるC値、M値、Y値、K値
【請求項3】
飲食品の品質を予測する予測モデルの学習装置であって、
クロマトグラフを含む機器を用いて前記飲食品を測定することで収集された第1パラメータである保持時間、第2パラメータである信号強度及び第3パラメータを含む複数種類の値からなるクロマトグラムデータのうち、いずれか3種類以上の値を要素とするマトリックスデータを教師データとして取得する教師データ取得部と、
当該教師データを用いる教師あり機械学習法により前記予測モデルのモデルパラメータを学習する学習部と、
を備えることを特徴とする予測モデルの学習装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の予測モデルの学習装置において、
前記第3パラメータは、質量電荷比又は波長であることを特徴とする予測モデルの学習装置。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の予測モデルの学習装置において、
前記飲食品の前記品質は、前記飲食品としての調味料の種類であることを特徴とする予測モデルの学習装置。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の予測モデルの学習装置において、
前記飲食品の前記品質は、前記飲食品における異原料又は微生物のコンタミネーションの有無であることを特徴とする予測モデルの学習装置。
【請求項7】
請求項6に記載の予測モデルの学習装置において、
前記飲食品は、発酵食品であることを特徴とする予測モデルの学習装置。
【請求項8】
飲食品の品質を予測する予測モデルのモデルパラメータを演算処理装置によって学習する学習方法であって、
前記演算処理装置は、
クロマトグラフを含む機器を用いて前記飲食品を測定することで収集された第1パラメータである保持時間、第2パラメータである信号強度及び第3パラメータを含む複数種類の値からなるクロマトグラムデータを画像化した画像データを、教師データとして取得する教師データ取得ステップと、
当該教師データを用いる教師あり機械学習法により前記モデルパラメータを学習する学習ステップと、
を実行し、
前記画像データでは、前記クロマトグラムデータのうち、いずれか2種類の値が2次元座標値に設定され、残りのいずれか1種類以上の値を、色を構成する複数の第4パラメータの少なくとも1つに変換した値が、前記2次元座標値を示す点の表示状態に設定されていることを特徴とする予測モデルの学習方法。
【請求項9】
飲食品の品質を予測する予測モデルのモデルパラメータを演算処理装置によって学習する学習方法であって、
前記演算処理装置は、
クロマトグラフを含む機器を用いて前記飲食品を測定することで収集された第1パラメータである保持時間、第2パラメータである信号強度及び第3パラメータを含む複数種類の値からなるクロマトグラムデータのうち、いずれか3種類以上の値を要素とするマトリックスデータを教師データとして取得する教師データ取得ステップと、
当該教師データを用いる教師あり機械学習法により前記モデルパラメータを学習する学習ステップと、
を実行することを特徴とする予測モデルの学習方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品の品質を予測する予測モデルの学習装置及び学習方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲食品の品質を予測する予測モデルの学習方法として、特許文献1に記載されたものが知られている。この学習方法では、予測モデルのモデルパラメータが以下に述べるように学習される。まず、コーヒー生豆を焙煎して粉砕することにより、焙煎粉砕コーヒー豆が調製され、これらの焙煎粉砕コーヒー豆を官能評価することにより、合格品及び不合格品が判定される。
【0003】
また、コーヒー生豆を水蒸気蒸留することにより香気成分が抽出され、KD濃縮された後、酢酸エチルを用いて1mLの定容液が得られる。次いで、ハロゲン系異臭成分として、TCA(トリクロロアニソール)などを用いて、GC-MSクロマトピーク面積値比較による絶対検量線法により、上記定容液からコーヒー生豆中のハロゲン系異臭成分(TCP,TCA,TBP,TBAの4成分)の分析結果(定量値)が取得される。
【0004】
次いで、上記分析結果を組み合わせて、21個の変数が算出され、これらの21個の変数がレーダーチャート形式でグラフ化され、これらのグラフからjpg形式の画像データが作成される。そして、学習用の画像データとして合格品及び不合格品の画像データを用いて、ディープラーニングにより、予測モデルのモデルパラメータが学習される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の予測モデルの学習方法は、対象となる4成分のターゲット分析結果を用いた学習方法であるので、寄与成分が同定されている予測モデルに対しては有効である。これに対して、多成分が共存する食品、特に発酵食品の場合、未知成分が多く存在するとともに、それらの未知成分も官能に寄与する結果、上記従来の学習方法による予測モデルの場合、飲食品の品質の予測精度が制限されてしまう可能性がある。
【0007】
この問題を解消するために、上記従来の予測モデルの学習方法においてノンターゲット分析結果を用いた場合、以下に述べるような問題が発生するおそれがある。すなわち、GC-MSの検出データにおいてピークデータを定量的に取得するには、取得者に対して熟練の技術が要求される関係上、取得者の技術が低い場合には、ピークデータを定量的に得られなくなるおそれがある。
【0008】
また、分析装置の経年劣化及び分析装置の変更などに起因して、同じサンプルであっても分析結果における保持時間及び信号強度が変化してしまうことがあり、それに起因して、分析結果の再現性が低下してしまう。以上の理由により、従来の学習方法によれば、ノンターゲット分析結果を用いてモデルパラメータの学習を実行した場合、予測モデルの予測精度の低下を招いてしまう。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、ノンターゲット分析結果を用いてモデルパラメータの学習を実行した場合でも、飲食品の品質の予測精度を向上させることができる予測モデルの学習装置などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、飲食品の品質を予測する予測モデルの学習装置であって、クロマトグラフを含む機器を用いて飲食品を測定することで収集された第1パラメータである保持時間、第2パラメータである信号強度及び第3パラメータを含む複数種類の値からなるクロマトグラムデータを画像化した画像データを、教師データとして取得する教師データ取得部と、教師データを用いる教師あり機械学習法により予測モデルのモデルパラメータを学習する学習部と、を備え、画像データでは、クロマトグラムデータのうち、いずれか2種類の値が2次元座標値に設定され、残りのいずれか1種類以上の値を、色を構成する複数の第4パラメータの少なくとも1つに変換した値が、2次元座標値を示す点の表示状態に設定されていることを特徴とする。
【0011】
この予測モデルの学習装置によれば、クロマトグラムデータを画像化した画像データが教師データとして取得され、この教師データを用いる教師あり機械学習法により予測モデルのモデルパラメータが学習される。このクロマトグラムデータは、クロマトグラフを含む機器を用いて飲食品を測定することで収集された第1パラメータである保持時間、第2パラメータである信号強度及び第3パラメータを含む複数種類の値からなるものである。さらに、画像データでは、クロマトグラムデータのうち、いずれか2種類の値が2次元座標値に設定され、残りのいずれか1種類以上の値を、色を構成する複数の第4パラメータの少なくとも1つに変換した値が、2次元座標値を示す点の表示状態に設定されている。
【0012】
したがって、そのような画像データを教師データとして用いることによって、ノンターゲット分析結果を用いた場合でも、ピークデータを定量的に取得する必要がなくなる。同じ理由により、分析装置の経年劣化及び分析装置の変更などに起因して、同じサンプルのノンターゲット分析結果において保持時間及び信号強度が変化した場合でも、その影響を受けにくくなる。以上の理由により、ノンターゲット分析結果を用いてモデルパラメータの学習を実行した場合でも、学習後の予測モデルにおいて飲食品の品質の予測精度を向上させることができる。なお、本明細書における「教師データの取得」は、教師データを読み込んだり、教師データを作成したり、教師データを外部から受信したりすることを含む。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の予測モデルの学習装置において、複数の第4パラメータは、下記の(A1)~(A3)のいずれかであることを特徴とする。
(A1)明度、色相、彩度
(A2)RGB表色系におけるR値、G値、B値
(A3)減法混色におけるC値、M値、Y値、K値
なお、後述するように、本発明の複数の第4パラメータは、色を構成するパラメータであればよく、上記(A1)~(A3)に特に限定されるものではない。
【0014】
この予測モデルの学習装置によれば、クロマトグラムデータのうち、3種類又は4種類のパラメータの変化によって画像データを表すことができる。したがって、そのような画像データを教師データとして用いることによって、ノンターゲット分析結果を用いてモデルパラメータの学習を実行した場合でも、学習後の予測モデルにおいて飲食品の品質の予測精度を向上させることができる。
【0015】
また、上記目的を達成するために、請求項3に係る発明は、飲食品の品質を予測する予測モデルの学習装置であって、クロマトグラフを含む機器を用いて飲食品を測定することで収集された第1パラメータである保持時間、第2パラメータである信号強度及び第3パラメータを含む複数種類の値からなるクロマトグラムデータのうち、いずれか3種類以上の値を要素とするマトリックスデータを教師データとして取得する教師データ取得部と、教師データを用いる教師あり機械学習法により予測モデルのモデルパラメータを学習する学習部と、を備えることを特徴とする。
【0016】
この予測モデルの学習装置によれば、マトリックスデータが教師データとして取得され、この教師データを用いる教師あり機械学習法により予測モデルのモデルパラメータが学習される。この場合、マトリックスデータは、クロマトグラフを含む機器を用いて飲食品を測定することで収集された保持時間、信号強度及び第3パラメータを含む複数種類の値からなるクロマトグラムデータのうち、いずれか3種類以上のデータを要素とするものである。
【0017】
したがって、そのようなマトリックスデータを教師データとして用いることによって、ノンターゲット分析結果を用いた場合でも、ピークデータを定量的に取得する必要がなくなる。同じ理由により、分析装置の経年劣化及び分析装置の変更などに起因して、同じサンプルのノンターゲット分析結果において保持時間及び信号強度が変化した場合でも、その影響を受けにくくなる。以上の理由により、ノンターゲット分析結果を用いてモデルパラメータの学習を実行した場合でも、学習後の予測モデルにおいて飲食品の品質の予測精度を向上させることができる。
【0018】
請求項4に係る発明は、請求項1~3のいずれか1項に記載の予測モデルの学習装置において、第3パラメータは、質量電荷比又は波長であることを特徴とする。
【0019】
この予測モデルの学習装置によれば、質量分析計、フォトダイオードアレイ検出器、赤外分光光度計、ラマン分光光度計又は分光蛍光光度計などを用いて、第3パラメータを検出することができる。
【0020】
請求項5に係る発明は、請求項1~3のいずれか1項に記載の予測モデルの学習装置において、飲食品の品質は、飲食品としての調味料の種類であることを特徴とする。
【0021】
この予測モデルの学習装置によれば、学習済みの予測モデルを用いて、調味料の種類を精度よく予測することが可能になる。
【0022】
請求項6に係る発明は、請求項1~3のいずれか1項に記載の予測モデルの学習装置において、飲食品の品質は、飲食品におけるコンタミネーションの有無であることを特徴とする。
【0023】
この予測モデルの学習装置によれば、学習済みの予測モデルを用いて、飲食品におけるコンタミネーションの有無を精度よく予測することが可能になる。その結果、コンタミネーションの有無に起因する飲食品の風味の変化や飲食品偽装の有無などを精度よく予測することができる。
【0024】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の予測モデルの学習装置において、飲食品は、発酵食品であることを特徴とする。
【0025】
この予測モデルの学習装置によれば、学習済みの予測モデルを用いて、発酵食品におけるコンタミネーションの有無を精度よく予測することが可能になる。その結果、コンタミネーションの有無に起因する発酵食品の風味の変化などを精度よく予測することができる。
【0026】
前述した目的を達成するために、請求項8に係る発明は、飲食品の品質を予測する予測モデルのモデルパラメータを演算処理装置によって学習する学習方法であって、演算処理装置は、クロマトグラフを含む機器を用いて飲食品を測定することで収集された第1パラメータである保持時間、第2パラメータである信号強度及び第3パラメータを含む複数種類の値からなるクロマトグラムデータを画像化した画像データを、教師データとして取得する教師データ取得ステップと、教師データを用いる教師あり機械学習法によりモデルパラメータを学習する学習ステップと、を実行し、画像データでは、クロマトグラムデータのうち、いずれか2種類の値が2次元座標値に設定され、残りのいずれか1種類以上の値を、色を構成する複数の第4パラメータの少なくとも1つに変換した値が、2次元座標値を示す点の表示状態に設定されていることを特徴とする。
【0027】
また、前述した目的を達成するために、請求項9に係る発明は、飲食品の品質を予測する予測モデルのモデルパラメータを演算処理装置によって学習する学習方法であって、演算処理装置は、クロマトグラフを含む機器を用いて飲食品を測定することで収集された第1パラメータである保持時間、第2パラメータである信号強度及び第3パラメータを含む複数種類の値からなるクロマトグラムデータのうち、いずれか3種類以上の値を要素とするマトリックスデータを教師データとして取得する教師データ取得ステップと、教師データを用いる教師あり機械学習法によりモデルパラメータを学習する学習ステップと、を実行することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る予測モデルの学習装置の構成を模式的に示す図である。
【
図2A】教師データとしての画像データの一例を示す図である。
【
図3】予測モデルの学習処理を示すフローチャートである。
【
図4】学習後の予測モデルの検証結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る予測モデルの学習装置及び学習方法について説明する。本実施形態の学習装置は、以下に述べる学習手法により、予測モデルのモデルパラメータを学習するものである。なお、以下の説明では、予測モデルのモデルパラメータを学習することを、適宜、「予測モデルの学習」という。
【0030】
本実施形態の場合、予測モデルは、後述するように、飲食品としての調味料の分析データから作成した画像データを特徴量(説明変数)とし、調味料の種類を目的変数として予測するものである。すなわち、本実施形態の予測モデルは、分類モデルとして構成されている。
【0031】
図1に示すように、本実施形態の学習装置1は、パーソナルコンピュータタイプのものであり、ディスプレイ1a、装置本体1b及び入力インターフェース1cなどを備えている。装置本体1bは、HDDなどのストレージ、プロセッサ及びメモリ(RAM、ROMなど)などを備えている(いずれも図示せず)。
【0032】
この装置本体1bのストレージ内には、後述する学習処理を実行するためのアプリケーションソフトがインストールされており、装置本体1bのメモリ内には、データベースが記憶されている。このデータベースには、以下に述べる10種類の調味料の分析データから作成された画像データが含まれている。なお、本実施形態では、学習装置1が教師データ取得部、学習部及び演算処理装置に相当する。
【0033】
この場合、10種類の調味料は、マヨネーズ、味噌、出汁、みりん、砂糖、ケチャップ、チューブ入りしょうが、粉チーズ、醤油及びウスターソースで構成されている。また、分析データは、これらの調味料の市販品を4ヶ月毎に3回サンプリングし、ガスクロマトグラフィー質量分析法によって分析(測定)したものである。
【0034】
さらに、画像データは、以上の分析データを画像化したものであり、この場合、例えば醤油の分析データを画像化した画像データは、
図2Aに示すものとなる。この
図2Aに示すように、画像データは、分析データにおける質量電荷比m/zを2次元の直交座標の縦軸とし、保持時間RTを横軸とするとともに、信号強度Intensを座標値の点の明度で表したものである。なお、
図2Bは、信号強度Intensを明度に変換した場合の両者の関係を表したものであり、図中の数値は常用対数値である。
【0035】
また、入力インターフェース1cは、学習装置1を操作するためのキーボード及びマウスなどで構成されており、オペレータ(図示せず)による入力インターフェース1cの操作により、以下に述べるように学習処理が実行される。
【0036】
次に、
図3を参照しながら、本実施形態の学習装置1によって実行される予測モデルの学習処理の内容について説明する。この学習処理の場合、前述した10種類の調味料の種類毎に以下に述べるように、予測モデルの学習が実行される。
【0037】
この場合、予測モデルとしては、CNN(Convolutional Neural Network)が用いられる。以下、醤油の画像データを教師データとした場合の予測モデルの学習を例にとって説明する。
【0038】
同図に示すように、まず、教師データが読み出される(
図3/STEP1)。この場合、教師データとしては、学習装置1のメモリ内に記憶されている醤油のラベル付きの画像データのうち、所定割合(例えば75%)のデータがランダムに読み出される。
【0039】
次いで、モデル学習が実行される(
図3/STEP2)。具体的には、醤油のラベル付きの教師データすなわち画像データがCNNに入力された後、CNNの全結合層の出力と、教師データとの平均二乗誤差が損失関数として算出され、これに基づく誤差逆伝播法により、CNNの重み及びバイアスが学習される。以上の学習処理がメモリからランダムに読み出された教師データの全てに対して実行される。
【0040】
本実施形態では、以上の学習法により、醤油のラベル付きの画像データを教師データとして予測モデルの学習が実行される。さらに、以上と同様の学習方法により、醤油以外の前述した9種類の調味料の画像データを教師データとして、予測モデルの学習が実行される。それにより、本実施形態では、予測モデルとして、前述した10種類の調味料を分類する分類モデルが構築される。
【0041】
次に、本実施形態の学習処理を以上のように実行した後の分類モデルの分類精度の検証結果について説明する。この場合、本出願人は、検証用のデータとして、前述した10種類の調味料において、29個のデータを新たにサンプリングした。その際、醤油とウスターソースの検証用のデータとしては、メーカーの異なる2種類のものをサンプリングした。さらに、醤油の検証用のデータは、醤油を50倍に希釈したデータを含むものとした。
【0042】
以上の29個のサンプルデータを前述した
図2と同様の形式で画像データに変換し、これらの画像データを学習済みの分類モデルに入力した所、
図4に示す検証結果が得られた。この
図4は、29個の検証結果のうち、15個のサンプルデータの検証結果を示している。
【0043】
図4において、11個の特徴変数_1~11は、CNNの全結合層への入力を示しており、分類結果は、分類モデルの出力結果を表しており、サンプルラベルは、サンプルデータのラベルを表している。
【0044】
この
図4を参照すると明らかなように、15個のサンプルデータにおいて、分類結果はサンプルラベルと一致しており、分類モデルの正解率が100%であることが判る。すなわち、分類モデルにおいて高い分類精度が得られていることが判る。特に、サンプルNo.11のデータは、醤油を50倍に希釈した検証用のデータを用いた場合のものであるが、この場合においても、分類結果はサンプルラベルと一致していることが判る。すなわち、醤油を50倍に希釈した場合でも、それを醤油として正しく分類できることが判る。
【0045】
以上のように、本実施形態の学習装置1によれば、
図2Aに示すような画像データを教師データとして予測モデルのモデルパラメータが学習される。それにより、ノンターゲット分析結果を用いてモデルパラメータの学習を実行した場合でも、ピークデータを定量的に取得する必要がなくなる。同じ理由により、分析装置の経年劣化及び分析装置の変更などに起因して、同じサンプルのノンターゲット分析結果において保持時間及び強度が変化した場合でも、その影響を受けにくくなる。以上の理由により、学習後の予測モデルにおいて、調味料の分類精度を向上させることができる。
【0046】
なお、第1実施形態は、学習装置1のメモリに記憶されている画像データを教師データとして用いた例であるが、これに代えて、学習装置1において、分析データを分析装置から受信した後、その分析データから画像データを作成するように構成してもよい。
【0047】
また、第1実施形態は、画像データとして、質量電荷比m/zを2次元の直交座標の縦軸とし、保持時間RTを横軸とするとともに、信号強度Intensを座標値の点の明度で表したもの(
図2A参照)を用いた例であるが、本発明の画像データは、これに限らず、クロマトグラムデータのうち、いずれか2種類の値が2次元座標値に設定され、残りのいずれか1種類以上の値を、色を構成する複数の第4パラメータの少なくとも1つに変換した値が、2次元座標値を示す点の表示状態に設定されているものであればよい。
【0048】
この場合、複数の第4パラメータとしては、例えば、下記の(A1)~(A3)のいずれかが考えられる。
(A1)明度、色相、彩度
(A2)RGB表色系におけるR値、G値、B値
(A3)減法混色におけるC値、M値、Y値、K値
【0049】
例えば、画像データとして、
図2Aの画像データにおいて、座標値の点が、信号強度Intensを明度に変換した値に代えて、信号強度Intensを色相又は彩度に変換した値によって表示されたものを用いてもよい。さらに、画像データとして、
図2Aの画像データにおいて、座標値の点が、信号強度IntensをRGB表色系におけるR値、G値及びB値のいずれかに変換した値によって表示されたもの、又は、減法混色におけるC値、M値、Y値及びK値のいずれかに変換した値によって表示されたものを用いてもよい。
【0050】
さらに、画像データにおいて、保持時間RT及び質量電荷比m/zの一方を上記(A1)~(A3)のうちのいずれか1つのパラメータに変換した値によって表示された座標値の点とし、保持時間RT及び質量電荷比m/zの他方を横軸又は縦軸の座標値とし、信号強度Intensを縦軸又は横軸の座標値として構成してもよい。
【0051】
また、画像データにおいて、クロマトグラムデータにおける信号強度Intens及び保持時間RT以外のパラメータとして、質量電荷比m/zに代えて、波長を用いてもよい。さらに、画像データにおいて、クロマトグラムデータにおける信号強度Intens、保持時間RT以外のパラメータとして、質量電荷比m/z及び波長の一方に代えて、又はこれらに加えて、以下に述べるパラメータを用いてもよい。
【0052】
例えば、分離装置としてガスクロマトグラフを用いた場合には、キャリアガスの種類、成分及び流量の少なくとも1つをパラメータとして用いてもよい。その場合には、画像データにおいて、キャリアガスの種類、成分及び流量の少なくとも1つを、上記複数の第4パラメータの少なくとも1つに変換した値によって表示された座標値の点としてもよく、2次元の直交座標の縦軸又は横軸の座標値としてもよい。また、検出時のカラム温度、流速及び圧力の少なくとも1つをパラメータとして用いてもよく、その場合にも、それらのパラメータを画像データにおいて上記と同様に表してもよい。
【0053】
さらに、分離装置として液体クロマトグラフ又はイオンクロマトグラフなどを用いた場合には、溶離液の種類、成分及び流量の少なくとも1つをパラメータとして用いてもよい。その場合には、画像データにおいて、溶離液の種類、成分及び流量の少なくとも1つを、上記複数の第4パラメータの少なくとも1つに変換した値によって表示された座標値の点としてもよく、2次元の直交座標の縦軸又は横軸の座標値としてもよい。また、溶離液の混合割合及び塩類・イオン化促進剤濃度の少なくとも1つをパラメータとして用いてもよく、その場合にも、それらのパラメータを画像データにおいて上記と同様に表してもよい。
【0054】
これに加えて、カラムの担体成分、長さ及び温度の少なくとも1つをパラメータとして用いてもよい。その場合には、画像データにおいて、カラムの担体成分、長さ及び温度の少なくとも1つを、上記複数の第4パラメータの少なくとも1つに変換した値によって表示された座標値の点としてもよく、2次元の直交座標の縦軸又は横軸の座標値としてもよい。
【0055】
さらに、サンプル量、希釈倍率及び保持時間における信号強度のサンプリング間隔の少なくとも1つをパラメータとして用いてもよい。その場合には、画像データにおいて、サンプル量、希釈倍率及び保持時間における信号強度のサンプリング間隔の少なくとも1つを、上記複数の第4パラメータの少なくとも1つに変換した値によって表示された座標値の点としてもよく、2次元の直交座標の縦軸又は横軸の座標値としてもよい。
【0056】
また、複数の第4パラメータは、(A1)~(A3)に限らず、色を構成するものであればよい。例えば、XYZ表色系におけるX値、Y値及びZ値を複数の第4パラメータとして用いてもよい。
【0057】
さらに、第1実施形態は、画像データとして、縦軸及び横軸が2次元の直交座標系に構成されたものを用いた例であるが、これに代えて、縦軸及び横軸が2次元の斜交座標系に構成されたものを用いてもよい。
【0058】
また、第1実施形態は、予測モデルとしてCNNを用いた例であるが、これに代えて、VGGNet(Visual Geometry Group Network)、FixRes(Fixing ResNet)、HRNet(High-Resolution Network)、DenseNet(Densely Connected Convolutional Networks )、又は、オートエンコーダ(Autoencoder)を用いてもよく、教師あり画像解析アルゴリズムであればよい。
【0059】
次に、本発明の第2実施形態に係る予測モデルの学習装置について説明する。本実施形態の学習装置の場合、第1実施形態の学習装置1と比較して、学習装置などの構成は同一であり、学習時に用いる教師データ及び教師あり機械学習法のみが異なっているので、以下、これらの異なる点について説明する。
【0060】
本実施形態の学習装置では、教師データとして、マトリックスデータを用いるとともに、教師あり機械学習法として、例えば、ランダムフォレストを用いることによって、分類モデルが構築される。なお、教師あり機械学習法としては、ランダムフォレストに代えて、サポートベクターマシン又はニューラルネットワークなどを用いてもよい。また、マトリックスデータの要素は、以下に述べるように構成される。
【0061】
例えば、分離装置としてガスクロマトグラフを用いた場合には、マトリックスデータにおいて、信号強度Intens及び保持時間RT以外の要素として、質量電荷比m/z及び波長の一方を用いてもよく、さらに、これらに代えて又はこれらに加えて、キャリアガスの種類、成分及び流量の少なくとも1つを用いてもよい。
【0062】
さらに、分離装置として液体クロマトグラフ又はイオンクロマトグラフなどを用いた場合には、マトリックスデータにおいて、信号強度Intens及び保持時間RT以外の要素として、質量電荷比m/z及び波長の一方を用いてもよく、さらに、これらに代えて又はこれらに加えて、溶離液の種類、成分及び流量の少なくとも1つを用いてもよい。
【0063】
また、マトリックスデータにおいて、信号強度Intens及び保持時間RT以外の要素として、上述した要素に代えて又は上述した要素に加えて、カラムの担体成分、長さ及び温度の少なくとも1つを用いてもよく、サンプル量、希釈倍率及び保持時間における信号強度のサンプリング間隔の少なくとも1つを用いてもよい。
【0064】
なお、以上の第2実施形態のように、マトリックスデータ及び教師あり機械学習法を用いて、予測モデルの学習を実施した場合と、第1実施形態のように、画像データ及びCNNを用いて、予測モデルの学習を実施した場合を比較すると、過学習を抑制できる点と、画像データの特徴量を良好に検出できることで学習精度を高めることができるという点で、第1実施形態の手法の方が有利である。
【0065】
また、第1及び第2実施形態は、学習装置としてパーソナルコンピュータタイプのものを用いた例であるが、これに代えて、学習装置としてサーバーなどを用いてもよい。
【0066】
一方、第1及び第2実施形態は、予測モデルを調味料の種類を分類する分類モデルとして構築した例であるが、本発明の学習装置及び学習方法により、以下のような予測モデルも構築可能である。
【0067】
<微生物のコンタミネーションの判別>
・醤油における酸膜酵母汚染の有無を判別するモデル
・減塩醤油における乳酸菌の有無を判別するモデル
・清酒における火落ち菌汚染の有無を判別するモデル
【0068】
<飲食品偽装の判別>
・飲食品の原料におけるコンタミネーションの有無を判別するモデル(例えば、牛肉に豚肉などの異なる種類の肉が混入しているか否かを判別するモデル)
・スパイス又はコーヒー豆などにおける産地を判別するモデル
【0069】
<嗜好飲食品の判別>
・食材に対する調味料又は酒類の相性を判別するモデル(ペアリングの適性を判別するモデル)
・個人の飲食品の嗜好を判別するモデル(個人が飲食品を好きであるか否かを判別するモデル)
【0070】
<飲食品の工程・調合管理>
・発酵食品の発酵管理状態を判別するモデル(例えば、発酵・熟成が出荷可能な状態まで進行しているか否かを判別するモデル)
・合わせ調味料における調合を判別するモデル(例えば、原料を正しく調合できているか否かを判別するモデル)
【0071】
<飲食品の品質管理>
・飲食製品の出荷前における適正を判別するモデル(例えば、発酵状態又は調合状態が適正であるか否かを判別するモデル、製品におけるコンタミネーションの有無を判別するモデル)
・製造ロット間を比較した際の同一性を判別するモデル(この場合、例えば、利き味、ビールの醸造又は杜氏を自動的に判別することが可能になる)
・市販製品がリニューアルされたか否かを判別するモデル
【符号の説明】
【0072】
1 学習装置(教師データ取得部、学習部及び演算処理装置)