(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180811
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】電気化学センサ及び電気化学センサの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/48 20060101AFI20231214BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
G01N27/48 311
G01N27/30 B
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094415
(22)【出願日】2022-06-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】横山 正史
(72)【発明者】
【氏名】栗原 香
(72)【発明者】
【氏名】栄長 泰明
(72)【発明者】
【氏名】村田 道生
(72)【発明者】
【氏名】赤井 和美
(57)【要約】
【課題】作用電極としてのダイヤモンド電極と、参照電極としてのダイヤモンド電極と、を備え、オゾンを所定濃度で含む被験液中のオゾン濃度をリニアスイープボルタンメトリーにより高精度で測定可能な電気化学センサを提供する。
【解決手段】作用電極としての第1ダイヤモンド電極と、参照電極としての第2ダイヤモンド電極と、を備え、第1ダイヤモンド電極及び第2ダイヤモンド電極を、オゾンを所定濃度で含む被験液に接触させて行うリニアスイープボルタンメトリー測定により得られるボルタモグラムにおいて、被験液におけるオゾン濃度に対応するピークが観測される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用電極としての第1ダイヤモンド電極と、
参照電極としての第2ダイヤモンド電極と、を備え、
前記第1ダイヤモンド電極及び前記第2ダイヤモンド電極を、オゾンを所定濃度で含む被験液に接触させて行うリニアスイープボルタンメトリー測定により得られるボルタモグラムにおいて、前記被験液におけるオゾン濃度に対応する電流ピークが観測される
電気化学センサ。
【請求項2】
前記第1ダイヤモンド電極及び前記第2ダイヤモンド電極を前記被験液に接触させた状態で、前記第1ダイヤモンド電極の電位を、前記第2ダイヤモンド電極の電位に対して0.1V/secの速度で掃引するリニアスイープボルタンメトリー測定を行うことで得られる電流のピーク値を、前記第1ダイヤモンド電極の平面積及び前記オゾン濃度で割った値の絶対値である感度が2μA/(cm2・ppm)以上である請求項1に記載の電気化学センサ。
【請求項3】
前記被験液における前記オゾン濃度に対応する前記電流ピークが、前記第1ダイヤモンド電極の電位を、前記第2ダイヤモンド電極の電位に対して0.1V/secの速度で掃引するリニアスイープボルタンメトリー測定において、-0.3V~-0.9V(vs.第2ダイヤモンド電極)の電位範囲内に観測される請求項1に記載の電気化学センサ。
【請求項4】
前記被験液における前記オゾン濃度が少なくとも1.0ppm以上であれば、前記リニアスイープボルタンメトリー測定により得られる前記ボルタモグラムにおいて、前記電流ピークが観測される請求項1に記載の電気化学センサ。
【請求項5】
前記第1ダイヤモンド電極の平面積が1mm2以上100mm2以下である請求項1に記載の電気化学センサ。
【請求項6】
前記被験液における前記オゾン濃度が同一の濃度の条件下で前記リニアスイープボルタンメトリー測定を複数回行った際、各リニアスイープボルタンメトリー測定を行うことで得られる前記電流のピーク値を用いて算出した前記感度のバラツキが30%以下である請求項2に記載の電気化学センサ。
【請求項7】
支持基板上に、少なくとも、作用電極としての第1ダイヤモンド電極及び参照電極としての第2ダイヤモンド電極を配設する工程と、
前記第1ダイヤモンド電極に対して、所定の表面処理を行う工程と、を有し、
前記所定の表面処理を行う工程では、
オゾンを10ppm以上の濃度で含む処理液を用意する工程と、
前記第1ダイヤモンド電極及び前記第2ダイヤモンド電極を前記処理液に接触させた状態で、前記第1ダイヤモンド電極の電位を、前記第2ダイヤモンド電極の電位に対して所定の速度で掃引し、前記第1ダイヤモンド電極の表面で電気化学反応を生じさせる工程と、を行う
電気化学センサの製造方法。
【請求項8】
前記電気化学反応を生じさせる工程を、複数回行う請求項7に記載の電気化学センサの製造方法。
【請求項9】
前記電気化学反応を生じさせる工程を、前記処理液が前記第1ダイヤモンド電極の表面に対して流動している状態で行う請求項7に記載の電気化学センサの製造方法。
【請求項10】
前記電気化学反応を生じさせる工程を、前記第1ダイヤモンド電極及び前記第2ダイヤモンド電極を前記処理液中に接触させた状態で、前記第1ダイヤモンド電極の電位を、前記第2ダイヤモンド電極の電位に対して所定の速度で掃引するリニアスイープボルタンメトリー測定として行った際、得られるボルタモグラムにピークが現れない条件下で行う請求項7に記載の電気化学センサの製造方法。
【請求項11】
前記電気化学反応を生じさせる工程では、前記第1ダイヤモンド電極の電位を、0.05V/sec以上の速度で掃引する請求項7に記載の電気化学センサの製造方法。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか1項に記載の電気化学センサを搭載した、オゾンを所定濃度で含む被験液中のオゾン濃度を測定する電気化学センサシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気化学センサ及び電気化学センサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オゾンを所定濃度で含む被験液中のオゾン濃度を測定する電気化学センサとして、作用電極をダイヤモンド電極で構成し、参照電極を銀/塩化銀電極で構成したものが提案されている。ダイヤモンド電極とは、導電性基板と、導電性基板上に形成され、多結晶ダイヤモンドで構成される電極膜と、を備える電極である。また、銀/塩化銀電極とは、銀の表面を塩化銀で覆い、それを飽和塩化カリウム水溶液などの塩化物水溶液中に浸したものである。ここで、銀/塩化銀電極は、系に塩化物イオンを含む溶液を存在させる必要があり、溶液管理が難しい。また、銀/塩化銀電極は、ガラス部材を有していることから、取扱いにも注意を要する。さらにまた、銀/塩化銀電極を用いる場合、小型の電気化学センサを得にくいという課題もある。そこで、作用電極に加えて参照電極もダイヤモンド電極で構成した電気化学センサが提案されている(例えば特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、銀/塩化銀電極の取り扱いの難しさ等の課題は解決されている。しかしながら、特許文献1に記載のセンサを用いて、オゾンを所定濃度で含む被験液中のオゾン濃度を、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)により測定した場合、オゾン濃度の測定精度が低いという課題がある。
【0005】
本開示の目的は、作用電極としてのダイヤモンド電極と、参照電極としてのダイヤモンド電極と、を備え、オゾンを所定濃度で含む被験液中のオゾン濃度をリニアスイープボルタンメトリーにより高精度で測定可能な電気化学センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、
作用電極としての第1ダイヤモンド電極と、
参照電極としての第2ダイヤモンド電極と、を備え、
前記第1ダイヤモンド電極及び前記第2ダイヤモンド電極を、オゾンを所定濃度で含む被験液に接触させて行うリニアスイープボルタンメトリー測定により得られるボルタモグラムにおいて、前記被験液におけるオゾン濃度に対応する電流ピークが観測される
電気化学センサが提供される。
【0007】
本開示の他の態様によれば、
支持基板上に、少なくとも、作用電極としての第1ダイヤモンド電極及び参照電極としての第2ダイヤモンド電極を配設する工程と、
前記第1ダイヤモンド電極に対して、所定の表面処理を行う工程と、を有し、
前記所定の表面処理を行う工程では、
オゾンを10ppm以上の濃度で含む処理液を用意する工程と、
前記第1ダイヤモンド電極及び前記第2ダイヤモンド電極を、前記処理液に接触させた状態で、前記第1ダイヤモンド電極の電位を、前記第2ダイヤモンド電極の電位に対して所定の速度で掃引し、前記第1ダイヤモンド電極の表面で電気化学反応を生じさせる工程と、を行う
電気化学センサの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、作用電極としてのダイヤモンド電極と、参照電極としてのダイヤモンド電極と、を備え、オゾンを所定濃度で含む被験液中のオゾン濃度をリニアスイープボルタンメトリーにより高精度で測定可能な電気化学センサ、この電気化学センサの製造方法、及びこの電気化学センサを搭載した電気化学センサシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一態様に係る電気化学センサの概略斜視図である。
【
図2】
図1に示す電気化学センサのA-A線断面図である。
【
図3】ダイヤモンド結晶を成長させる際に用いられる気相成長装置の概略図である。
【
図4】(a)は、導電性基板と電極膜とを備える積層基板の裏面に凹状の溝を形成した様子を示す断面図であり、(b)は、凹状の溝に沿って積層基板を破断してダイヤモンド電極を取得する様子を示す模式図である。
【
図5】本開示の一態様に係る電気化学センサシステムの概略構成を示す模式図である。
【
図6】本開示の一態様に係る制御部のブロック構成図である。
【
図7】サンプル1のセンサを用いてLSV測定を行った際に得られたボルタモグラムである。
【
図8】サンプル2のセンサを用いてLSV測定を行った際に得られたボルタモグラムである。
【
図9】サンプル3のセンサを用いてLSV測定を行った際に得られたボルタモグラムである。
【
図10】サンプル4のセンサを用いてLSV測定を行った際に得られたボルタモグラムである。
【
図11】サンプル5のセンサを用いてLSV測定を行った際に得られたボルタモグラムである。
【
図12】サンプル6のセンサを用いてLSV測定を行った際に得られるボルタモグラムであって、被験液中のオゾン濃度に対応する電流ピークが観測されることを示すグラフ図である。
【
図13】
図12に示すボルタモグラムの電流のピーク値に基づいて作成した検量線を示す図である。
【
図14】サンプル7~10のセンサを用いてLSV測定を行い、得られた電流のピーク値に基づいて作成した検量線を示す図である。
【
図15】作用電極及び参照電極が、本開示の表面処理を施していないダイヤモンド電極で構成されている従来のセンサを用いてLSV測定を行った際に得られるボルタモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<本発明者等が得た知見>
従来より、少なくとも作用電極及び参照電極がチップ状のダイヤモンド電極で構成されている電気化学センサを用いて、オゾン(O3)を所定濃度で含む被験液中のO3濃度を測定することが提案されている。ダイヤモンド電極とは、導電性基板と、導電性基板上に形成され、多結晶ダイヤモンドで構成される電極膜と、を備える電極である。O3濃度の測定では、まず、電気化学センサを用いてリニアスイープボルタンメトリー(LSV)測定を行ってO3濃度に対応する電流値を測定し、そして、電流値とO3濃度との相関関係を示す検量線を用い、LSV測定で得られた電流値をO3濃度に換算する。しかしながら、作用電極及び参照電極のいずれもがダイヤモンド電極で構成されている従来の電気化学センサでは、O3濃度の測定精度が低いという課題があった。
【0011】
図15に、作用電極及び参照電極がダイヤモンド電極で構成されている従来の電気化学センサを用いて、O
3を所定濃度で含む被験液に対してLSV測定を行った際に得られたボルタモグラム(電位-電流曲線)の一例を示す。
図15に示すように、従来の電気化学センサを用いてLSV測定を行った際、得られるボルタモグラムにおいて、電流ピークが観測できない。
【0012】
従来の電気化学センサでは、LSV測定により得られるボルタモグラムにおいて、電流ピークが観測されないことから、検量線の作成を以下のように行っている。まず、基準電位を仮決めする。そして、作用電極及び参照電極を、O3濃度が既知の液(以下、「標準液」とも称する)に、液が静止した状態で接触させ、作用電極と参照電極との間に基準電位を印加した際に流れる電流値を測定する。O3濃度が異なる複数の標準液に対しても、同様に、作用電極及び参照電極が標準液に接触した状態で、作用電極と参照電極との間に基準電位を印加した際に流れる電流値を測定する。このようにして得られた複数の電流値から、電流値とO3濃度との相関関係を示す検量線を作成する。
【0013】
また、従来の電気化学センサでは、LSV測定により得られるボルタモグラムにおいて、電流ピークが観測されないことから、検量線を用いたO3濃度の評価を以下のように行っている。O3濃度が未知の静止状態の被験液に作用電極及び参照電極を接触させた状態で、作用電極と参照電極との間に、検量線の作成時に仮決めした基準電位と同じ電位を印加した際に流れる電流値を測定する。この測定した電流値を、検量線を用いてO3濃度に換算する。
【0014】
しかしながら、このような電気化学センサでは、通常、参照電極は電気的にフローティング状態となっていることから、参照電極の電位は浮動電位である。このため、作用電極と参照電極との間に印加した電位が、実際には、基準電位からずれている(シフトしている)ことがある。その結果、検量線の作成時やO3濃度の評価時に用いた電流値が、実際には、作用電極と参照電極との間に基準電位を印加した際に流れた電流値ではないことがあり、電流値に測定誤差が生じることがある。O3濃度の評価時において、電流値に測定誤差が生じると、検量線を用いたO3濃度の評価で得られるO3濃度に誤差が生じてしまう。また、検量線の作成時において、電流値に測定誤差が生じると、正確な検量線を作成できず、結果、得られるO3濃度にも誤差が生じてしまう。また、O3濃度の評価時及び検量線の作成時のいずれにおいても、電流値に測定誤差が生じている場合、得られるO3濃度の誤差が大きくなってしまう。
【0015】
このように、作用電極及び参照電極がダイヤモンド電極で構成されている従来の電気化学センサでは、得られる電流値は印加する電位に依存する。しかしながら、上述のように参照電極の電位が浮動電位であるため、得られるO3濃度に誤差が生じやすく、O3濃度の測定精度が低くなる。
【0016】
本発明者等は、上記課題について鋭意研究を行った。その結果、作用電極及び参照電極がダイヤモンド電極で構成されている電気化学センサであっても、作用電極に対して、所定の表面処理を行うことで、このような電気化学センサを用い、O3を所定濃度で含む被験液に対してLSV測定を行った際、得られるボルタモグラムにおいて、電流ピークを観測できるようになることをはじめて見出した。LSV測定により得られるボルタモグラムにおいて、電流ピークが観測されることで、検量線の作成及びO3濃度の評価を、電流ピークに基づいて行うことができる、すなわち、検量線の作成及びO3濃度の評価を、電位に依存することなく行うことができる。その結果、作用電極及び参照電極がダイヤモンド電極で構成されている電気化学センサであっても、O3濃度を高精度で測定できるようになる。このことは、本発明者等が見出した新規な知見である。
【0017】
本開示は、発明者等が得た上述の課題や知見に基づいてなされたものである。
【0018】
<本開示の一態様>
以下、本開示の一態様として、O
3を所定濃度で含む被験液(以下、単に「被験液」とも称する)中のO
3濃度、例えば水道水を原水として作製したオゾン水中の溶存オゾン濃度を、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)により測定する電気化学センサについて、
図1及び
図2を参照しながら説明する。
【0019】
(1)電気化学センサの構成
図1及び
図2に示すように、本態様に係る電気化学センサ10(以下、「センサ10」とも称する)は、支持基板11(以下、「基板11」とも称する)を備えている。基板11は、後述の作用電極15、参照電極16、及び対電極17等を支持する基板である。基板11は、シート状(板状)部材として構成されている。基板11は、例えば絶縁性を有する複合樹脂、セラミック、ガラス、プラスチック等の絶縁性材料で形成することができる。基板11は、例えば、ガラスエポキシ樹脂やポリエチレンテレフタレート(PET)で形成されていることが好ましい。また、基板11は、作用電極15、参照電極16、及び対電極17等が設けられることとなる面が絶縁性を有するように構成された半導体基板や金属基板であってもよい。基板11の平面形状は例えば長方形状とすることができる。基板11は、所定の物理的強度及び機械的強度、例えば被験液中のO
3濃度を測定している間は、折れ曲がったり、破損したりすることがない強度を有している。
【0020】
基板11が有する2つの主面のうちいずれか一方の主面(以下、「基板11の上面」とも称する)上には、基板11の長手方向における一端部から他端部側に向かって、3本の配線(電気配線)12,13,14が互いに離間して配設されている。配線12~14の形成材料としては、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)等の各種貴金属、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、チタン(Ti)等の各種金属、これらの貴金属又は金属を主成分とする合金、上記貴金属、金属、又は合金の酸化物、カーボン等が例示される。配線12~14は、同一の材料を用いて形成されていてもよく、それぞれが異なる材料を用いて形成されていてもよい。配線12~14は、サブトラクティブ法やセミアディティブ法等により形成することができる。また、配線12~14は、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷等の印刷法や、蒸着法等により形成することもできる。
【0021】
配線12の一端部には、導電性の接合材18(
図2参照)を介して、作用電極15が電気的に接続されている。配線13の一端部には、導電性の接合材18を介して、参照電極16が電気的に接続されている。配線14の一端部には、導電性の接合材18を介して、対電極17が電気的に接続されている。接合材18としては、導電性ペースト(導電性接着剤)や導電性テープ等を用いることができる。
【0022】
作用電極15、参照電極16、及び対電極17は、それぞれ、ダイヤモンド電極(以下、「BDD電極」とも称する)で構成されている。BDD電極とは、多結晶ダイヤモンド膜等で構成された電極膜21と、導電性基板22(以下、「基板22」とも称する)と、を備えるチップ状の電極(電極チップ)である。BDD電極は、基板22の裏面から導通をとる縦型電極として構成されている。ここでいう「基板22の裏面」とは、基板22が有する2つの主面のうち、電極膜21が設けられた面とは反対側の面である。本明細書では、作用電極15としてのBDD電極を、第1ダイヤモンド電極15(第1BDD電極15)とも称し、参照電極16としてのBDD電極を、第2ダイヤモンド電極16(第2BDD電極16)とも称し、対電極17としてのBDD電極を、第3ダイヤモンド電極17(第3BDD電極17)とも称する。また、第1BDD電極15、第2BDD電極16、及び第3BDD電極17をまとめて電極群100と称することもある。第1BDD電極15、第2BDD電極16、及び第3BDD電極17の詳細は、後述する。
【0023】
第1BDD電極15と配線12との接合部の周囲、第2BDD電極16と配線13との接合部の周囲、及び第3BDD電極17と配線14との接合部の周囲は、それぞれ、絶縁性樹脂19(
図2参照)で封止されている。絶縁性樹脂19は、熱硬化性樹脂又は紫外線硬化性樹脂で構成することができる。熱硬化性樹脂又は紫外線硬化性樹脂としては、エポキシ系の絶縁樹脂、ノボラック系の絶縁樹脂等を用いることができる。絶縁性樹脂19は、例えば、硬化前の液状の絶縁性樹脂(以下、「液状樹脂」とも称する)を、各接合材18の周囲と、第1BDD電極15、第2BDD電極16、及び第3BDD電極17のそれぞれの周囲と、に塗布し、加熱又は紫外線照射により液状樹脂を硬化させることで設けることができる。なお、液状樹脂の塗布及び硬化は、第1BDD電極15と配線12とを電気的に接続し、第2BDD電極16と配線13とを電気的に接続し、第3BDD電極17と配線14とを電気的に接続した後に行われる。液状樹脂は、例えば、接合材18、第1BDD電極15の側面、第2BDD電極16の側面、及び第3BDD電極17の側面を露出させることなく覆うように塗布する。また、液状樹脂は、第1BDD電極15の表面、第2BDD電極16の表面、及び第3BDD電極17の表面には付着しないように塗布する。なお、「第1BDD電極15の表面」、「第2BDD電極16の表面」、「第3BDD電極17の表面」とは、それぞれ、各電極が有する電極膜21の表面を意味し、具体的には、電極膜21が有する2つの主面のうち、基板22と接する面とは反対側の面を意味する。「第1BDD電極15の表面」、「第2BDD電極16の表面」、「第3BDD電極17の表面」は、被験液中のO
3の検出に寄与する面(検出面)であるともいえる。
【0024】
配線12~14は、電極群100を被験液や後述の処理液に接触させた際に、被験液等が配線12~14に接触することがないように、絶縁性の材料等で形成された防水部材20により覆われている。なお、防水部材20は、配線12~14がそれぞれ有する2つの端部のうち、各電極に接続された端部とは異なる端部を露出させるように構成されている。
【0025】
上述のように、センサ10では、作用電極15、参照電極16、及び対電極17のいずれも、電極膜21と、導電性基板22と、を備えるBDD電極で構成されている。
【0026】
電極膜21は、基板22が有する2つの主面のうちいずれか一方の主面上に設けられている。本明細書では、電極膜21が設けられる基板22の主面を、「基板22の結晶成長面」とも称する。電極膜21は、基板22の結晶成長面全域にわたって設けられている。電極膜21は、表面(露出面)で、所定の電気化学反応(例えば、O3の酸化還元反応)を生じさせる。
【0027】
電極膜21は多結晶ダイヤモンドで構成されている。具体的には、電極膜21は、ドーパントとしてのホウ素(B)元素を含むダイヤモンド結晶、すなわち、p型の導電性を有するダイヤモンド結晶で構成される多結晶膜(多結晶ダイヤモンド膜)である。ダイヤモンド結晶とは、炭素(C)原子がダイヤモンド結晶構造と呼ばれるパターンで配列している結晶である。また、電極膜21は、Bがドープされたダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)膜であってもよい。電極膜21におけるB濃度は、二次イオン質量分析(Secondary Ion Mass Spectrometry(SIMS))で測定でき、例えば5×1019cm-3以上5×1021cm-3以下とすることができる。SIMSとは、電極膜21の表面にビーム状のイオン(一次イオン)を照射した際に発生するイオン(二次イオン)を質量分析計で検出して所定の物質の濃度を測定する手法である。
【0028】
電極膜21は、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition(CVD))法や、物理蒸着(Physical Vapor Deposition(PVD))法等により成長させる(堆積させる、合成する)ことができる。CVD法としては、タングステンフィラメントを用いた熱フィラメント(ホットフィラメント)CVD法、プラズマCVD法等が例示され、PVD法としては、イオンビーム法やイオン化蒸着法等が例示される。電極膜21の厚さは、例えば0.5μm以上10μm以下、好ましくは1μm以上6μm以下、より好ましくは2μm以上4μm以下とすることができる。
【0029】
導電性基板22としては、低抵抗材料で構成された平板状の基板が用いられる。基板22として、シリコン(Si)を主元素として構成され、ホウ素(B)等のp型のドーパントを所定濃度で含む基板、例えばp型の単結晶Si基板を用いることができる。基板22として、p型の多結晶Si基板を用いることもできる。基板22におけるB濃度は、例えば5×1018cm-3以上1.5×1020cm-3以下、好ましくは5×1018cm-3以上1.2×1020cm-3以下とすることができる。基板22におけるB濃度が上記範囲内であることにより、基板22の比抵抗を低くしつつ、基板22の製造歩留の低下や性能劣化を回避することができる。
【0030】
基板22の厚さは例えば350μm以上とすることができる。これにより、直径が6インチや8インチである市販の単結晶Si基板を、バックラップ(back rap)して厚さ調整することなく、基板22としてそのまま用いることが可能となる。その結果、BDD電極の生産性を高め、製造コストを低減することが可能となる。基板22の厚さの上限は特に限定されないが、現在一般的に市場に流通しているSi基板の厚さは、直径が12インチの単結晶Si基板で775μm程度である。このため、現在の技術における基板22の厚さの上限は例えば775μm程度とすることができる。
【0031】
基板22として、Siを主元素として構成された基板(Si基板)以外の基板を用いることもできる。例えば、基板22として、炭化シリコン基板(SiC基板)等のSiの化合物を用いて構成された基板を用いることもできる。
【0032】
なお、基板22として、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)等を主元素として構成された金属基板を用いることも考えられる。しかしながら、金属基板を用いた場合、リーク電流が生じやすいことから、基板22として、Si基板やSiの化合物を用いて構成された基板を用いる方が好ましい。
【0033】
第1BDD電極15、第2BDD電極16、及び第3BDD電極17の外形(平面形状)は、それぞれ、基板22の主面に対して垂直方向上方から各電極を見た際に矩形状、例えば長方形状に成形されている。なお、第1BDD電極15、第2BDD電極16、及び第3BDD電極17は、それぞれ、同一の平面形状に成形されていても良く、異なる平面形状に成形されていても良い。
【0034】
第1BDD電極15の平面積は、例えば1mm2以上100mm2以下である。なお、第1BDD電極15の平面積とは、基板22の主面に対して垂直方向上方から第1BDD電極15を見た際の第1BDD電極15の面積である。上述のように、電極膜21は、基板22の結晶成長面全域にわたって設けられていることから、第1BDD電極15の平面積は、第1BDD電極15が有する電極膜21の平面積、すなわち、被験液中のO3の検出に寄与する面の面積となる。
【0035】
第1BDD電極15の平面積が1mm2以上であることで、後述の破断を用いた手法により、第1BDD電極15を精度よく安定して容易に作製することができる。また、第1BDD電極15のハンドリング性の低下及び実装安定性の低下を抑制することもできる。また、後述のLSV測定を行った際に得られるボルタモグラムにおいて、電流ピーク(O3の還元電流のピーク)を観測でき、O3濃度を高精度で測定するために必要な感度を有するセンサ10が得られる。また、LSV測定時に流れる電流が過小になることを回避でき、結果、S/N比(=作用電極15を流れる電流(信号電流)/ノイズ電流の比)の低下も回避できる。なお、第1BDD電極15の平面積が1mm2未満である場合、後述の破断を用いた手法により、第1BDD電極15を精度よく安定して作製することが難しい。
【0036】
また、第1BDD電極15の平面積が100mm2以下であることで、第1BDD電極15を備えるセンサ10の大型化を回避できる、すなわち、小型のセンサ10を得やすくなる。なお、第1BDD電極15の平面積が100mm2を超える場合、センサ10の大型化を回避できず、小型のセンサ10を得にくくなる。
【0037】
第2BDD電極16の平面積及び第3BDD電極17の平面積は、特に限定されないが、それぞれ、例えば1mm2以上100mm2以下である。第2BDD電極16の平面積とは、基板22の主面に対して垂直方向上方から第2BDD電極16を見た際の第2BDD電極16の面積であり、第3BDD電極17の平面積とは、基板22の主面に対して垂直方向上方から第3BDD電極17を見た際の第3BDD電極17の面積である。
【0038】
第2BDD電極16及び第3BDD電極17の平面積が、それぞれ、1mm2以上であることで、後述の破断を用いた手法により、第2BDD電極16及び第3BDD電極17を、精度よく安定して容易に作製することができる。また、第2BDD電極16及び第3BDD電極17のハンドリング性の低下及び実装安定性の低下を抑制することもできる。第2BDD電極16及び第3BDD電極17の平面積が、それぞれ、100mm2以下であることで、センサ10の大型化を回避できる、すなわち、小型のセンサ10を得やすくなる。
【0039】
なお、第1BDD電極15、第2BDD電極16、及び第3BDD電極17は、それぞれ、同一の平面積を有していてもよく、また、上述の平面積の範囲内であれば、異なる平面積を有していてもよい。本態様では、第1BDD電極15、第2BDD電極16、及び第3BDD電極17が、それぞれ、同一の平面積を有する例について説明する。
【0040】
後述するように、第1BDD電極15に対して、所定の表面処理が行われている。具体的には、電極群100(すなわち、第1BDD電極15、第2BDD電極16、及び第3BDD電極17)を、O3を10ppm以上の濃度で含む処理液に接触させた状態で、第1BDD電極15の電位を、第2BDD電極16の電位に対して所定の速度で掃引し、第1BDD電極15の表面(検出面)で所定の電気化学反応を生じさせる処理が行われている。
【0041】
第1BDD電極15に対して所定の表面処理が行われていることで、センサ10を用いたLSV測定、すなわち、電極群100を被験液に接触させて行うLSV測定により得られるボルタモグラムが、被験液中のO3濃度に対応する電流ピークを有することとなる。例えば、電極群100を被験液に接触させた状態で、第1BDD電極15の電位を、第2BDD電極16の電位に対して0.1V/secの速度で一方向(正方向又は負方向)に掃引するLSV測定を行った際、得られるボルタモグラムにおいて、被験液中のO3濃度に対応する電流(反応電流、O3の還元電流)のピークが観測される。上記ボルタモグラムで観測される電流のピーク値は、被験液中のO3濃度に応じて変化する。
【0042】
なお、LSV測定は、電極群100を、静止状態の被験液に接触させた状態で行われる。本明細書における「被験液の静止状態」とは、「第1BDD電極15の表面で生じる電気化学反応の度合いが、被験液中を拡散して電極群100の表面へ到達するO3の量によって、実質的に支配されるような状態」のことをいう。この被験液の静止状態下でLSV測定を開始すると、電極群100の周辺に存在するO3が、電気化学反応の進行に伴って徐々に消費され、最終的には枯渇することになる。そのため、電気化学反応により生じる電流量は、LSV測定開始後の時間経過に伴って徐々に減少し、その結果、電流値のプロットには所定のピークが現れることとなる。このことから、本明細書における「被験液の静止状態」とは、「所定の条件下でLSV測定し、第1BDD電極15の表面で生じる電気化学反応の電流値をプロットした際に、実施例等に示す所定のピークが現れるような状態」のことである、と言い換えることもできる。なお、被験液が静止していない状態(被験液が流動している状態)でLSV測定を開始すると、電極群100の周囲の被験液が入れ替わることによって電極群100の周辺へO3が新たに補充されることとなり、電流値は減少することなく、値をプロットしても所定のピークは現れなくなる。
【0043】
また、本明細書では、「センサ10を用いたLSV測定により得られるボルタモグラム」を、単に「センサ10のボルタモグラム」とも称し、「被験液中のO3濃度に対応する電流ピーク」を、単に「電流ピーク」とも称する。また、本明細書において、「ボルタモグラムがピークを有する」、「ボルタモグラムにおいてピークが観測される」とは、ボルタモグラムにおいて、正側又は負側のいずれかの側に向けて凸状に突出する頂部が存在することを意味する。センサ10のボルタモグラムでは、例えば負側に向けて凸状に突出した頂部(すなわちピーク)が観測されることとなる。また、電極群100を静止状態の被験液に接触させた状態で、第1BDD電極15の電位を、第2BDD電極16の電位に対して所定の速度(例えば0.1V/sec)で掃引するLSV測定を行った際に得られるボルタモグラムでは、すなわち、センサ10のボルタモグラムでは、電流ピークが、例えば-0.3V~-0.9V(vs.第2BDD電極16)の電位範囲内に観測される。
【0044】
センサ10を用いたLSV測定では、検量線の作成を以下のように行う。まず、O3濃度が既知の被験液(標準液)を用意し、電極群100を標準液に接触させた状態で、第1BDD電極15の電位を、第2BDD電極16の電位に対して所定の速度で掃引するLSV測定を行い、電流ピーク値を測定する。O3濃度が異なる複数の標準液に対しても、同様のLSV測定を行い、電流ピーク値を測定する。そして、得られた複数の電流ピーク値から、電流ピーク値とO3濃度との相関関係を示す検量線を作成する。センサ10のボルタモグラムでは、電流ピークが観測されることから、測定した電流ピーク値に基づいて、検量線を作成できる。すなわち、電位に依存することなく検量線を作成できる。これにより、浮動電位である第2BDD電極16の電位が変動した場合であっても、正確な検量線を作成でき、結果、得られるO3濃度に誤差が生じにくくなる。なお、本発明者等は、センサ10を用いたLSV測定で得られる電流ピーク値は、被験液中のO3濃度との間に一定の相関関係を示すことを確認済みである。
【0045】
また、センサ10を用いたLSV測定では、O3濃度の評価を以下のように行う。まず、電極群100を、O3濃度が未知の被験液に接触させた状態で、第1BDD電極15の電位を、第2BDD電極16の電位に対して所定の速度で掃引するLSV測定を行い、電流ピーク値を測定する。そして、検量線を用い、測定した電流ピーク値をO3濃度に換算する。センサ10のボルタモグラムでは、電流ピークが観測されることから、測定した電流ピーク値に基づいて、検量線を用いたO3濃度の評価を行うことができる。すなわち、検量線を用いたO3濃度の評価を、電位に依存することなく行うことができる。その結果、浮動電位である第2BDD電極16の電位が変動した場合であっても、得られるO3濃度に誤差が生じにくくなる。
【0046】
ここで、O3濃度の評価では、検量線の作成時におけるLSV測定条件と極力同じ条件でLSV測定を行うことが肝要である。すなわち、O3濃度の評価に用いるセンサ10は、検量線の作成時に用いたセンサ10と同一であることが望ましい。O3濃度の評価時と検量線の作成時とで異なるセンサ10を用いる場合であっても、電極群100の仕様をできるだけ揃える、例えば、第1BDD電極15間、第2BDD電極16間、及び第3BDD電極17間で、できるだけ製造ロットが同一の電極を用いることが望ましく、また、被験液の量や温度、測定中のセンサ10の配置、測定時の掃引速度等の条件を極力揃えることが望ましい。これにより、O3濃度の測定誤差を確実に小さくできる。
【0047】
また、上述のように、LSV測定により得られる電流ピーク値に基づいて、検量線の作成及び検量線を用いたO3濃度の評価を行うことで、検量線の作成時とO3濃度の評価時との間で第2BDD電極16の電位にずれが生じている場合であっても、得られるO3濃度に誤差が生じにくくなる。
【0048】
このように、センサ10のボルタモグラムでは、電流ピークが観測されることから、測定した電流ピーク値に基づいて、検量線の作成及びO3濃度の評価を行うことができる。すなわち、センサ10によれば、電位に依存することなく、検量線の作成及びO3濃度の評価を行うことができる。その結果、浮動電位である第2BDD電極16の電位が変動した場合であっても、得られるO3濃度に誤差が生じにくくなる。すなわち、作用電極15及び参照電極16がBDD電極で構成されるセンサ10であっても、センサ10を用いたLSV測定により、被験液中のO3濃度を高精度で測定できる。
【0049】
また、第1BDD電極15に対して所定の表面処理が行われていることで、センサ10は、高い感度、例えば飽和感度(すなわち、そのセンサ10が有する最大の感度)を有することができる。なお、センサ10の飽和感度は、センサ10が有する各電極の電極膜21を構成するBDD結晶の結晶粒径や配向性、電極膜21におけるドーパントのドープ量等の結晶特性や、電極サイズ、センサ10の仕様(例えば、各電極の配置)等によって決まり、センサ10毎に異なる。センサ10の感度(飽和感度)は、例えば2μA/(cm2・ppm)以上である。
【0050】
なお、ここでいう「センサ10の感度」は、センサ10を用いて所定のLSV測定を行うことにより得られる電流ピーク値を、第1BDD電極15の平面積及び被験液中のO3濃度で割った値(=電流ピーク値/(第1BDD電極15の平面積・O3濃度))の絶対値である。また、ここでいう「所定のLSV測定」としては、電極群100を、O3を0.1ppm以上の濃度で含む被験液に接触させた状態で、第1BDD電極15に電位を、第2BDD電極16の電位に対して0.1V/secの速度で掃引して行うLSV測定が例示される。
【0051】
センサ10の感度が2μA/(cm2・ppm)以上であることで、センサ10のボルタモグラムにおいて、電流ピークを観測しやすくなり、電流ピーク値の測定誤差を小さくできる。すなわち、センサ10の感度が2μA/(cm2・ppm)以上であれば、センサ10は、O3濃度を高精度で測定するために必要十分な感度を有しているといえる。また、センサ10の感度が2μA/(cm2・ppm)以上であることで、センサ10の作製過程において、微小電流を検知するための特殊な電気回路の形成が不要になる。その結果、センサ10の作製が容易になるとともに、センサ10の構成を簡素化でき、小型のセンサ10を得やすくなる。
【0052】
センサ10の感度は、高い方が望ましい。すなわち、センサ10の感度の値は大きい方が望ましい。上述のように、電極膜21を構成するBDD結晶の結晶粒径や配向性、ドーパントのドープ量等の結晶特性や、電極サイズ、各電極の配置等によって、得られるセンサ10の感度にばらつきが生じる。また、上述のように、センサ10の感度が少なくとも2μA/(cm2・ppm)以上であれば、ボルタモグラムにおいて電流ピークを観測できる。このため、センサ10の感度は、ある程度以上でありさえすれば良く、用いるセンサ10における飽和感度が得られるように、第1BDD電極15に対して所定の表面処理が行われていることが重要である。なお、センサ10の感度の上限は、経験的に8μA/(cm2・ppm)程度である。
【0053】
また、センサ10が高い感度を有することで、例えば、センサ10の感度が2μA/(cm2・ppm)以上であることで、O3濃度が低い被験液であっても、センサ10のボルタモグラムにおいて、電流ピークを観測でき、O3濃度を高精度で測定できる。例えば、センサ10によれば、被験液中のO3濃度が少なくとも1.0ppm以上、好ましくは、少なくとも0.5ppm以上、より好ましくは、少なくとも0.3ppm以上、さらに好ましくは、少なくとも0.1ppm以上であれば、LSV測定を行うことで得られるボルタモグラムにおいて、電流ピークを観測でき、O3濃度を高精度で測定できる。
【0054】
また、後述するように、センサ10の感度が飽和感度に達するまで、第1BDD電極15に対して所定の表面処理を行った後に、同処理を、追加で複数回行うことにより、センサ10の感度を(飽和状態で)長時間保持することが可能となる。すなわち、センサ10は、安定した感度を有することとなる。「センサ10が安定した感度を有する」とは、センサ10の感度のバラツキが小さいことを意味する。例えば、センサ10では、感度のバラツキが30%以下、好ましくは20%以下である。
【0055】
なお、ここでいう「感度のバラツキ」とは、以下の手順で算出した値である。すなわち、まず、センサ10を用い、被験液中のO3濃度が同一の条件下でLSV測定をn回(n:2~10(回))行い、電流ピーク値をそれぞれ取得する。取得した電流ピーク値を用いてセンサ10の感度(S1,S2,・・・,Sn)をそれぞれ算出し、また、算出したセンサ10の感度の平均値S(ave)を算出する。そして、下記の(式1)から、センサ10の感度のバラツキを算出する。なお、下記(式1)中、S(max)は、算出したセンサ10の感度の最大値であり、S(min)は、算出したセンサ10の感度の最小値である。
【0056】
(式1)
センサの感度のバラツキ(%)={(S(max)-S(min))/S(ave)}×100
【0057】
センサ10が安定した感度を有することで、例えば、センサ10の感度のバラツキが30%以下であることで、センサ10を用いて、O3濃度を繰り返し測定する場合であっても、得られるO3濃度に誤差が生じにくくなる。すなわち、センサ10を複数回使用する場合であっても、被験液中のO3濃度を高精度で測定できる。
【0058】
また、センサ10は、上述の高い感度と、上述の安定した感度と、を兼ね備えることが好ましい。これにより、センサ10を複数回使用する場合であっても、被験液中のO3濃度を確実に高精度で測定できる。
【0059】
(2)電気化学センサの製造方法
続いて、上述の電気化学センサ10の製造方法について説明する。
【0060】
[BDD電極の作製]
まず、第1BDD電極15(作用電極15)、第2BDD電極16(参照電極16)、及び第3BDD電極17(対電極17)を作製する。
【0061】
まず、導電性基板22として、例えば平面視で円形の外形を有する平板状の単結晶Si基板を用意する。そして、基板22が有する2つの主面のうち、ダイヤモンド結晶を成長(堆積)させることとなる面(すなわち、基板22の結晶成長面)に対して、ダイヤモンドの核発生密度を高める傷付け(スクラッチ)処理を大気中で行う。スクラッチ処理とは、結晶成長面に加工ダメージを入れる処理、例えば、数μm程度のダイヤモンド砥粒(ダイヤモンドパウダー)等を用いて結晶成長面に引っかき傷(スクラッチ)を付ける処理である。スクラッチ処理に代えて、又は、スクラッチ処理に加えて、種付け(シーディング)処理を行ってもよい。シーディング処理とは、例えば数nm~数十μm程度のダイヤモンド粒子(好ましくはダイヤモンドナノ粒子)を分散させた溶液(分散液)を結晶成長面に塗布したり、分散液中に基板22を浸漬したりすることにより、ダイヤモンド粒子(種)を結晶成長面に付着させる処理である。
【0062】
スクラッチ処理又はシーディング処理が終了したら、例えばタングステンフィラメントを用いた熱フィラメントCVD法により、基板22の結晶成長面上に多結晶ダイヤモンドを成長(堆積)させて電極膜21を形成する。
【0063】
ダイヤモンド結晶は、例えば
図3に示すような熱フィラメントCVD装置300を用いて成長させることができる。熱フィラメントCVD装置300は、成長室301が内部に構成され、石英等の耐熱性材料からなる気密容器303を備えている。成長室301内には、基板22を保持するサセプタ308が設けられている。
【0064】
気密容器303の側壁には、ガス供給管332a~332dが接続されている。ガス供給管332a~332dには、ガス流の上流側から順に、流量制御器341a~341d、バルブ343a~343dがそれぞれ設けられている。ガス供給管332a~332dの下流端には、ガス供給管332a~332dから供給された各ガスを成長室301内に供給するノズル349a~349dがそれぞれ接続されている。ガス供給管332aから、窒素(N2)ガスがノズル349aを介して成長室301内へ供給される。ガス供給管332bから、水素(H2)ガスがノズル349bを介して成長室301内へ供給される。ガス供給管332cから、B含有ガスがノズル349cを介して成長室301内へ供給される。B含有ガスとしては、トリメチルボロン(B(CH3)3、略称:TMB)ガス、ジボラン(B2H6)ガス等が例示される。ガス供給管332dから、C含有ガスがノズル349dを介して成長室301内へ供給される。C含有ガスとしては、メタン(CH4)ガス、エタン(C2H6)ガス等が例示される。気密容器303の他の側壁には、成長室301内を排気する排気管330が設けられている。排気管330にはポンプ331が設けられている。気密容器303内には、成長室301内の温度を測定する温度センサ309が設けられている。また、気密容器303内にはタングステンフィラメント310と、タングステンフィラメント310を保持するとともに、図示しない電源に接続される一対の電極(例えばモリブデン(Mo)電極)311a,311bと、がそれぞれ設けられている。熱フィラメントCVD装置300が備える各部材は、コンピュータとして構成されたコントローラ380に接続されており、コントローラ380上で実行されるプログラムによって後述する処理手順や処理条件が制御されるように構成されている。
【0065】
まず、B含有ガスとC含有ガスとを含む各種ガスが供給可能に構成された成長室301(気密容器303)内へ、基板22を投入(搬入)し、サセプタ308上に保持する。続いて、電極311a,311b間に電流を流してタングステンフィラメント310の加熱を開始する。タングステンフィラメント310が加熱されることで、サセプタ308上に保持した基板22も加熱される。また、成長室301内を排気しつつ、成長室301内へのH2ガス、B含有ガス(例えばTMBガス)、C含有ガス(例えばCH4ガス)の供給を開始する。このとき、必要に応じて成長室301内へN2ガスを供給してもよい。タングステンフィラメント310の加熱、すなわち、基板22の加熱、成長室301内の排気、及び成長室301内への各種ガスの供給は、少なくともダイヤモンド結晶の成長が終了するまでの間は継続する。
【0066】
基板22の温度が所定の温度(ダイヤモンド結晶の成長温度)になると、B含有ガス及びC含有ガスが分解(熱分解)し、所定の活性種が生成される。所定の活性種が基板22の結晶成長面上に供給されることで、基板22上にB元素を含むダイヤモンド結晶(多結晶ダイヤモンド)が成長する。なお、基板22の温度がダイヤモンド結晶の成長温度に達すると、基板22の温度がダイヤモンド結晶の成長温度に維持されるように、タングステンフィラメント310の温度を制御する。
【0067】
ダイヤモンド結晶を成長させる際の条件としては、下記の条件が例示される。
成長室内の圧力:5Torr以上50Torr以下(665Pa以上6650Pa以下)、好ましくは、10Torr以上35Torr以下(1330Pa以上4655Pa以下)
C含有ガスの供給量に対するB含有ガスの供給量の比率(B含有ガス/C含有ガス):0.003%以上0.8%以下
成長温度:600℃以上1000℃以下、好ましくは、650℃以上800℃以下
フィラメント温度:1800℃以上2500℃以下、好ましくは、2000℃以上2200℃以下
成長時間:200分以上500分以下、好ましくは、300分以上500分以下
H2ガスの供給量に対するC含有ガス供給量の比率(C含有ガス/H2ガス):2%以上5%以下
【0068】
上述の条件でダイヤモンド結晶を成長させることで、基板22上に多結晶ダイヤモンドからなる電極膜21が積層されてなる積層基板30a(
図4(a)参照)を得ることができる。
【0069】
ダイヤモンド結晶の成長が終了した後、成長室301内への各ガスの供給、及びタングステンフィラメント310の加熱を停止する。そして、成長室301内の温度が所定温度まで降温したら、積層基板30aを成長室301内から気密容器303の外部に搬出する。
【0070】
続いて、積層基板30aを所定形状(例えばチップ状)に分割し、電極膜21と基板22とを備えるBDD電極を作製する。具体的には、まず、
図4(a)に示すように、積層基板30aの裏面、すなわち、基板22の裏面から凹状の溝31(例えばレーザ加工溝、スクライブ溝、ダイシング溝)を形成する。なお、「基板22の裏面」とは、基板22が有する2つの主面のうち電極膜21が設けられた面とは反対側の面である。溝31は、レーザスクライブやレーザダイシング等のレーザ加工法、機械加工法、エッチング等の公知の手法を用いて形成することができる。
【0071】
レーザ加工法により溝31を形成する際のレーザ光の照射条件の一例として、下記の条件が挙げられる。
レーザ光:532nm、5W、10kHz、スポット径2μm
走査速度:5mm/sec以上20mm/sec以下、好ましくは7mm/sec以上15mm/sec以下
スキャン回数:3回以上10回以下
【0072】
また、溝31を形成する際は、基板22を厚さ方向に貫くことがないように、すなわち、電極膜21まで達しないように、溝31の深さを調整する。溝31の深さの調整は、例えばレーザ光のスキャン回数(レーザ光照射回数)を調整することにより行うことができる。溝31を形成する際は、基板22の最薄部の厚さが例えば10μm以上になるように、溝31の深さを調整することが好ましい。これにより、電極膜21の変質を抑制することができ、その結果、センサ10の感度の低下を回避できる。なお、ここでいう「基板22の最薄部の厚さ」とは、溝31を形成した後の基板22の最薄部の厚さを意味する。また、ここでいう「電極膜21の変質」とは、電極膜21において、炭素同士の結合形態が、sp3結合構造(ダイヤモンド構造)ではなく、sp2結合構造(グラファイト構造)になっていることを意味する。
【0073】
また、溝31の形成パターンを調整することで、得られるBDD電極の平面積を調整することができる。したがって、溝31を形成する際は、溝31の形成パターンを、得られるBDD電極の平面積が上述の所定の平面積になるようなパターンとする。
【0074】
続いて、
図4(b)に示すように、溝31に沿って、電極膜21を外方に折り曲げる方向に積層基板30aを折り曲げ、基板22を破断する。これにより、積層基板30aは、複数の小片に分割されることとなる。そして、この小片が、電極膜21と基板22とを備えるBDD電極になる。その後、必要に応じて、得られた積層基板30aの小片、すなわちBDD電極を洗浄してもよい。
【0075】
なお、溝31を形成する際、積層基板30aの表面(電極膜21側)から溝31を形成することも考えられる。しかしながら、多結晶ダイヤモンドで構成される電極膜21は高硬度であるため、積層基板30aの表面からレーザ加工法や機械加工法等により溝31を形成することは困難である。
【0076】
また、積層基板30aをドライエッチング等により、電極膜21及び基板22を所定の形状に成形して積層基板30aを分割する手法も考えられる。しかしながら、多結晶ダイヤモンドで構成された高硬度の電極膜21を備える積層基板30aを、ドライエッチング等により所定の形状に分割することは非常に困難である。また、ドライエッチングにより、電極膜21に変質領域が生じる場合もある。
【0077】
[電気化学センサの作製]
得られたBDD電極を用いてセンサ10を作製する。
【0078】
まず、支持基板11を用意する。そして、基板11上に、所定パターンの配線12~14を設ける。なお、配線12~14が予め設けられた基板11を用意してもよい。また、配線12と電気的に接続するように、配線12の一端部に導電性の接合材18を設け、接合材18上に第1BDD電極15を配設する。また、配線13と電気的に接続するように、導電性の接合材18を配線13の一端部に設け、接合材18上に第2BDD電極16を配設する。また、配線14と電気的に接続するように、配線14の一端部に導電性の接合材18を設け、接合材18上に第3BDD電極17を配設する。第1BDD電極15、第2BDD電極16、及び第3BDD電極17を配設する際、電極膜21が上側になるように(すなわち、導電性基板22が支持基板11と対向するように)、各電極をそれぞれ配置する。これにより、第1BDD電極15、第2BDD電極16、及び第3BDD電極17は、接合材18を介して、基板11上にそれぞれ固定されるとともに、配線12~14にそれぞれ電気的に接続されることとなる。
【0079】
そして、液状樹脂を、第1BDD電極15と配線12との接合部の周囲、第2BDD電極16と配線13との接合部の周囲、及び第3BDD電極17と配線14との接合部の周囲にそれぞれ塗布する。なお、液状樹脂は、例えば、各接合材18、第1BDD電極15の側面、第2BDD電極16の側面、及び第3BDD電極17の側面を露出させることなく覆うように塗布する。また、液状樹脂は、第1BDD電極15の表面、第2BDD電極16の表面、及び第3BDD電極17の表面には付着しないように塗布する。その後、液状樹脂を、加熱又は紫外線照射により硬化させる。これにより、第1BDD電極15、第2BDD電極16、及び第3BDD電極17の側面は、絶縁性樹脂19で封止されることとなる。
【0080】
そして、配線12~14を防水部材20で覆う。これにより、
図1及び
図2に示すようなセンサ10が得られる。
【0081】
続いて、第1BDD電極15に対して、所定の表面処理を行う。なお、この表面処理は、センサ10を用いたLSV測定による被験液中のO3濃度の測定の前処理と考えることもできる。
【0082】
本態様における表面処理では、
O3を10ppm以上の濃度で含む処理液を用意するステップ(ステップA)と、
電極群100(すなわち、第1BDD電極15、第2BDD電極16、及び第3BDD電極17)を、O3を10ppm以上の濃度で含む処理液に接触させた状態で、第1BDD電極15の電位を、第2BDD電極16の電位に対して所定の速度で掃引し、第1BDD電極15の表面で所定の電気化学反応を生じさせるステップ(ステップB)と、
を行う。
【0083】
<ステップA>
O3を10ppm以上の濃度で含む処理液(オゾン水)を用意する。なお、処理液におけるO3濃度の上限は、特に限定されないが、例えば30ppm程度以下とすることができる。30ppmを超える濃度でO3を含む処理液を用いた場合、後述のステップBにおいて電極群100を処理液に接触させた際に、第1BDD電極15、第2BDD電極16、及び第3BDD電極17の周辺の部材が酸化しやすくなる。また、周辺部材が酸化する際に所定の電流が発生することがある。この酸化に起因する電流が、後述のステップBにおける電気化学反応に起因する電流と干渉した場合、後述の電位掃引時の最大通電電流値に誤差が生じることがある。その結果、第1BDD電極15に対する表面処理が不充分になることがある。
【0084】
<ステップB>
ステップAが終了したら、ステップBを行う。すなわち、電極群100を、O3を10ppm以上の濃度で含む処理液に接触させた状態で、第1BDD電極15の電位を、第2BDD電極16の電位に対して所定の速度で掃引し、第1BDD電極15の表面で電気化学反応(例えばO3の還元反応)を生じさせる。これにより、第1BDD電極15の表面(検出面)を、O3濃度の測定(O3の検出)に適した面に変化させることができる。その結果、作用電極15及び参照電極16がBDD電極で構成されるセンサ10であっても、センサ10のボルタモグラムにおいて、電流ピークを観測できるようになる。このことは、本発明者等によって初めて見出された新規知見である。
【0085】
なお、処理液中のO3濃度が10ppm未満である場合、ステップBを行っても、第1BDD電極15の表面が、O3濃度の測定に適した面に充分に変化しない。その結果、センサ10のボルタモグラムにおいて、電流ピークを観測できないことがある。
【0086】
ステップBは、処理液が、第1BDD電極15の表面に対して流動している状態で行う。本明細書における「処理液の流動状態」とは、電極群100の周囲の処理液が入れ替わることによって電極群100の周辺へO3が新たに補充される状態のことをいう。このことから、本明細書における「処理液の流動状態」とは、「所定の条件下でLSV測定し、第1BDD電極15の表面で生じる電気化学反応の電流値をプロットした際に、実施例等に示す所定のピークが現れない状態」のことである、と言い換えることもできる。
【0087】
例えば、ステップBは、容器内に収容された充分な量の処理液に電極群100を接触(浸漬)させた状態で、電極群100の周囲のO3濃度が10ppm以上に維持されるように、処理液を攪拌しながら行う。また例えば、ステップBは、容器内の処理液に電極群100を接触させた状態で、電極群100の周囲のO3濃度が10ppm以上に維持されるように、所定濃度のオゾン水を容器内に連続的に補充(供給)しながら行ってもよい。また例えば、ステップBは、容器内の処理液に電極群100を接触させた状態で、電極群100の周囲のO3濃度が10ppm以上に維持されるように、公知のオゾン生成器を用い、容器内でO3を連続的に生成しながら行ってもよい。また例えば、ステップBは、容器内の処理液に電極群100を接触させた状態で、電極群100の周囲のO3濃度が10ppm以上に維持されるように、処理液を攪拌するとともに、所定濃度のオゾン水を容器内に連続的に又は間欠的に補充しながら行ってもよい。また例えば、ステップBは、容器内の処理液に電極群100を接触させた状態で、電極群100の周囲のO3濃度が10ppm以上に維持されるように、処理液を攪拌するとともに、公知のオゾン生成器を用い、容器内でO3を連続的に又は間欠的に生成しながら行ってもよい。
【0088】
第1BDD電極15の表面で電気化学反応を生じさせることで、電極群100の周辺に存在するO3が、電気化学反応の進行に伴って徐々に消費される。上述のように、ステップBを、処理液が、第1BDD電極15の表面に対して流動している状態で行うことで、電極群100の周囲の処理液が入れ替わることによって電極群100の周辺へO3が新たに補充されることとなる。その結果、電極群100の周辺のO3濃度を常に10ppm以上に保つことができる。したがって、第1BDD電極15の表面を、O3濃度の測定に適した面に、確実にかつ充分に変化させることができる。
【0089】
また、ステップBにおいて、第1BDD電極15の電位を掃引する速度(以下、「ステップBにおける掃引速度」とも称する)は、例えば0.05V/sec以上、好ましくは0.1V/sec以上にすることができる。ステップBにおける掃引速度が0.05V/sec以上であることで、第1BDD電極15の表面を、O3濃度の測定に適した面に、確実にかつ充分に変化させることができる。その結果、センサ10のボルタモグラムにおいて、電流ピークを確実に観測できるようになる。ステップBにおける掃引速度が0.1V/sec以上であることで、第1BDD電極15の表面を、O3濃度の測定に適した面に、より確実にかつより充分に変化させることができる。なお、ステップBにおける掃引速度の上限は特に限定されないが、例えば1V/sec程度にすることができる。ステップBにおける掃引速度が1V/secを超えると、ステップBの実施中(ステップBにおける電位掃引中)に第1BDD電極15の表面で生じる電気化学反応の電流値をプロットすることで得られるボルタモグラムにおいて、電流ピークの半値幅が広くなり、電流ピークが分かりにくくなる(鋭いピークが観測できない)。その結果、後述するセンサ10の感度が飽和感度に達したか否かの判定をしづらくなる。
【0090】
ステップBのその他の条件として、下記の条件が例示される。
処理液の温度:5℃以上30℃以下
掃引方向:所定の一方向(正方向又は負方向のいずれかの方向)
電位範囲:0V~-1.5V
【0091】
ステップBを1回でも行うことで、センサ10のボルタモグラムにおいて、電流ピークを観測できるようになる。また、ステップBを1回でも行うことで、センサ10の感度を高めることができる。例えば、センサ10の感度を2μA/(cm2・ppm)以上にできる。
【0092】
また、ステップBは、複数回行う、すなわち所定回数繰り返すことが好ましい。これにより、センサ10の感度を飽和感度まで確実に高めることができる。また、ステップBは、センサ10の感度が飽和感度に達するまで繰り返すことがより好ましい。センサ10の感度が飽和感度に達したか否かは、ステップBにおける電位掃引中に第1BDD電極15の表面で生じる電気化学反応の電流値をプロットすることで得られるボルタモグラムにおいて、電位掃引時の最大通電電流値が飽和に達したか否かで判断することができる。このため、ステップBは、このボルタモグラムを取得し、そして、電位掃引時の最大通電電流値を確認しながら行うことが好ましい。センサ10の感度が飽和感度に達するまでのステップBの実施回数は、センサ10の仕様や処理液中のO3濃度等により変動する。
【0093】
ステップBは、センサ10の感度が飽和感度に達した後に、追加で、複数回(例えば10回程度)行うことがさらに好ましい。これにより、センサ10(の感度)が劣化しにくくなり、センサ10の感度を飽和状態で長時間保持することが可能となる。すなわち、飽和感度に達したセンサ10の感度を安定させることができる。例えば、センサ10の感度のバラツキを30%以下にできる。その結果、LSV測定の再現性がより高まる。
【0094】
また、ステップBを繰り返し行う場合、ステップBは必ずしも連続で行う必要はない。例えば、ステップBの繰り返し処理の途中で作業を中断し、時間を置いた後、ステップBの繰り返し処理の続きを行ってもよい。これによっても、ステップBを連続して行った場合と同様の効果が得られる。
【0095】
(3)電気化学センサシステムの構成
次に、上述の電気化学センサ10を搭載した電気化学センサシステムについて、
図5を参照しながら説明する。
【0096】
図5に示すように、本態様に係る電気化学センサシステム(以下、「システム200」とも称する)は、センサ10と、電位印加部201と、制御部202と、を備えている。
【0097】
電位印加部201は、第1BDD電極の電位を、第2BDD電極の電位に対して所定の速度で掃引可能に構成されている。また、電位印加部201は、第1BDD電極と第2BDD電極との間に所定の電位を印加可能にも構成されている。このような電位印加部201として、公知の種々のポテンショスタット等を用いることができる。
【0098】
センサ10及び電位印加部201は、コンピュータとして構成された制御部(制御装置、コントローラ)202に接続されている。
図6に示すように、制御部202は、CPU(Central Processing Unit)202a、RAM(Random Access Memory)202b、記憶部202c、ディスプレイ等として構成された出力部202d、及び、無線あるいは有線を用いる通信部202eを備えたコンピュータ(スマートフォン、タブレット、PC等)として構成されている。CPU202a、RAM202b、記憶部202c、出力部202d、通信部202eは、内部バス202fを介して互いにデータ交換が可能なように構成されている。
【0099】
記憶部202cは、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)等の不揮発性メモリデバイスにより構成されている。記憶部202c内には、制御部202の動作等を制御する制御プログラムやその動作に際して用いられるデータファイル等が、読み出し可能に格納されている。以下、制御プログラムやデータファイル等を総称して、単に、プログラムともいう。RAM202bは、CPU202aによって読み出されたプログラムやデータ等が一時的に保持されるメモリ領域(ワークエリア)として構成されている。記憶部202cから読み出した制御プログラムをCPU202aが実行することにより、上述のセンサ10を用いてLSV測定を行った際、得られるボルタモグラムにおける電流ピーク値のデータを、無線あるいは有線等の通信部202eを介して、センサ10から取得したり、取得した電流ピーク値のデータを記憶部202c内に読み出し可能に格納したり、取得した電流ピーク値のデータを、出力部202dに向けて出力して表示させる。
【0100】
(4)効果
本態様によれば、以下に示す1つ又は複数の効果が得られる。
【0101】
(a)本態様におけるセンサ10では、第1BDD電極15(作用電極15)に対して、所定の表面処理が行われている。具体的には、電極群100(すなわち、第1BDD電極15、第2BDD電極16、及び第3BDD電極17)を、O3を10ppm以上の濃度で含む処理液に接触させた状態で、第1BDD電極15の電位を、第2BDD電極16の電位に対して所定の速度で掃引し、第1BDD電極15の表面で所定の電気化学反応を生じさせる処理を、第1BDD電極15に対して行っている。これにより、センサ10のボルタモグラムにおいて、被験液中のO3濃度に対応する電流ピークが観測されるようになる。センサ10のボルタモグラムにおいて、電流ピークが観測されることで、測定した電流ピーク値に基づいて、検量線の作成及び検量線を用いたO3濃度の評価を行うことができる。すなわち、センサ10のボルタモグラムにおいて、電流ピークが観測できることで、電位に依存することなく、検量線の作成及びO3濃度の評価を行うことができる。その結果、浮動電位である第2BDD電極16(参照電極16)の電位が変動した場合であっても、O3濃度の測定値に誤差が生じにくくなる。すなわち、作用電極15及び参照電極16がBDD電極で構成されているセンサ10であっても、センサ10を用いたLSV測定により、被験液中のO3濃度、例えば水道水を原水として作製したオゾン水中の溶存オゾン濃度を高精度で測定できる。
【0102】
(b)センサ10は高い感度、例えば飽和感度を有している。例えば、センサ10は、2μA/(cm2・ppm)以上の感度を有している。これにより、センサ10のボルタモグラムにおいて、電流ピークを観測しやすくなり、電流ピーク値の測定誤差を小さくできる。また、O3濃度が低い被験液であっても、センサ10のボルタモグラムにおいて、電流ピークを観測でき、O3濃度を高精度で測定できる。
【0103】
(c)センサ10は、安定した感度を有している。例えば、センサ10では、感度のバラツキが30%以下である。これにより、センサ10を用いて、O3濃度を繰り返し測定する場合であっても、得られるO3濃度に誤差が生じにくくなる。すなわち、センサ10を複数回使用する場合であっても、被験液中のO3濃度を高精度で測定できる。
【0104】
(d)第1BDD電極15に対して所定の表面処理(上述のステップB)を行うことにより、センサ10の感度を高めることができる。例えば、センサ10の感度を飽和感度まで高めることができる。また、上述のステップBを複数回行うことで、センサ10の感度を飽和感度まで確実に高めることができる。
【0105】
(e)上述のステップBを、センサ10の感度が飽和感度に達した後に、追加で複数回行うことで、センサ10の感度を、飽和状態で長時間保持することが可能となる。すなわち、センサ10の感度を安定させることができる。例えば、センサ10の感度のバラツキを30%以下にできる。
【0106】
(f)上述のステップBを、O3を10ppm以上の濃度で含む処理液を用いて行うことで、第1BDD電極15の表面を、O3濃度の測定に適した面に変化させることができる。これにより、作用電極15及び参照電極16がBDD電極で構成されるセンサ10であっても、LSV測定により得られるボルタモグラムにおいて電流ピークを観測できるセンサ10が得られる。
【0107】
なお、一般の半導体表面に対して、従来から希硫酸等の酸を含む液を用いて処理する技術が知られている。しかしながら、希硫酸等の酸を含む液を処理液として用いて第1BDD電極15に対してステップBに相当する表面処理を行ったところ、センサの感度を充分に高めることができず、感度も安定化しなかった。また、このようなセンサを用いて、被験液に対してLSV測定を行った際、得られるボルタモグラムにおいて、電流ピークを観測できなかった。
【0108】
(g)上述のステップBを、処理液が第1BDD電極15の表面に対して流動している状態で行うことで、第1BDD電極15の周囲に存在する処理液中のO3濃度を常に10ppm以上の濃度に保つことができる。これにより、第1BDD電極15の表面を、O3濃度の測定に適した面に、確実にかつ充分に変化させることができる。
【0109】
(h)上述のステップBにおける掃引速度が0.05V/sec以上であることで、第1BDD電極15の表面を、O3濃度の測定に適した面に、確実にかつ充分に変化させることができる。
【0110】
なお、本態様では、水道水を原水として作製したオゾン水中の溶存オゾン濃度を、センサ10を用いたLSV測定により測定する例について説明した。すなわち、本態様では、被験液が水道水を原水として作製したオゾン水である例について説明した。この場合、水道水中のカルキ(次亜塩素酸カルシウム)がセンサの感度に干渉する懸念がある。そこで、本発明者等は、センサ10の感度が、塩素(次亜塩素酸)の影響を受けるか否かを確認する実験を行った。
【0111】
まず、被験液として、水道水を原水として作製したオゾン水(サンプルA)と、水道水を原水として作製したオゾン水に次亜塩素酸(3.5ppm)を所定濃度で添加した水溶液(サンプルB)と、を用意した。UV吸光度計を用い、サンプルA,BのO3濃度をそれぞれ測定した。サンプルAのO3濃度は3.8mg/Lであり、サンプルBのO3濃度は3.1mg/Lであった。このように、サンプルA,BのO3濃度は、ほぼ同程度である。そして、サンプルA,Bに対して、センサ10を用いて同一条件下でLSV測定を行い、電流ピーク値を測定した。サンプルAの電流ピーク値は-11.7μA/cm2であり、サンプルBの電流ピーク値は-11.6μA/cm2であった。これらの結果から、次亜塩素酸の有無に関わらず、LSV測定により得られる電流ピーク値はほぼ一致することが分かる。すなわち、センサ10の感度は、オゾン水中の塩素(次亜塩素酸)の影響を受けないことを確認した。
【0112】
また、オゾン水は、衛生用途だけではなく、水道局の高度浄水処理や半導体基板の洗浄等の大規模プラントでも使用されることがある。O3の溶解度は、オゾン水のpHによって変化するため、使用目的によってはオゾン水のpHが制御されることがある。そこで、本発明者等は、センサ10の感度が、オゾン水のpHの影響を受けるか否かを確認する実験を行った。
【0113】
まず、水道水を原水として作製したオゾン水に、pHを異ならせた1molのリン酸緩衝液(PB)を10vol%添加し(O3/0.1M PB(pH制御))、pHが5,6,7,8の4種類のオゾン水を用意した。そして、これら4種類のオゾン水に対して、センサ10を用いて同一条件下でLSV測定を行ってO3濃度を測定した。また、上記4種類のオゾン水に対して、UV吸光度計を用いてO3濃度を測定した。その結果、pHを変えても、LSV測定により得られた電流ピーク値から算出したO3濃度の値と、UV吸光度計で測定したO3濃度の値とが、ほぼ一致することを確認した。この実験から、センサ10の感度は、pHの影響を受けないこと、すなわち、センサ10の感度は、オゾン水のpHに依存しないことが分かる。
【0114】
(5)変形例
本態様は、以下の変形例のように変形することができる。なお、以下の変形例の説明において、上述の態様と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。また、上述の態様及び以下の変形例は任意に組み合わせることができる。
【0115】
(変形例1)
例えば、第1BDD電極15に対して行う表面処理では、
O3を10ppm以上の濃度で含む処理液を用意するステップ(ステップA)と、
電極群100(すなわち、第1BDD電極15、第2BDD電極16、及び第3BDD電極17)を、O3を10ppm以上の濃度で含む処理液に接触させた状態で、第1BDD電極15と第2BDD電極16との間に所定の電位を印加した状態を所定時間維持し、第1BDD電極15の表面で所定の電気化学反応を生じさせるステップ(ステップC)と、
を行ってもよい。
【0116】
すなわち、上述のステップBに代えて、ステップCを行ってもよい。
【0117】
ステップCを行う際の条件として、以下の条件が例示される。
処理液の温度:5℃以上30℃以下
印加電位:-1V~-5Vの範囲内の所定電位、好ましくは-2V~-4Vの範囲内の所定電位
【0118】
ステップCも、ステップBと同様に、処理液が第1BDD電極15の表面に対して流動している状態で行う。これにより、電極群100の周囲の処理液が入れ替わり、電極群100の周辺へO3が新たに補充されることとなる。その結果、電極群100の周辺のO3濃度を常に10ppm以上に保つことができる。このようなステップCを行うことによっても、第1BDD電極15の表面を、O3濃度の測定に適した面に変化させることができる。
【0119】
また、ステップCは、センサ10の感度が飽和感度に達するまで行うことが好ましい。すなわち、センサ10の感度が飽和感度に達するまで、第1BDD電極15と第2BDD電極16との間に所定の電位を印加した状態を維持することが好ましく、更には、所定の電位を印加した状態を、センサ10の感度が飽和感度に達した後もしばらく維持することが望ましい。例えば、ステップCにおける電位印加時間は、センサ10の感度を飽和感度にまで高めることが可能な十分に長い時間とすることが好ましい。ステップBでは、繰り返しボルタモグラムを取得することで、電位掃引時の最大通電電流値の変化の様子からセンサ10の感度が飽和感度に達したか否かを容易に判定することができたが、ステップCでは、センサ10の感度が飽和感度に達したか否かの感知(判定)が難しい。そこで、ステップCの場合は、センサ10の感度が飽和感度に達したか否かの判定を、第1BDD電極15に対する積算電荷量を目安にして行う。センサ10の感度が飽和感度に達するまでに必要な積算電荷量は、センサ10の仕様や処理液中のO3濃度等により変動するため、目標とする積算電荷量は十分に余裕を持った値に設定する必要がある。一例として、ステップCでは、第1BDD電極15に対する積算電荷量が0.05mC/cm2以上、好ましくは0.08mC/cm2以上になるまで、第1BDD電極15と第2BDD電極16との間に所定の電位を印加した状態を維持する。これにより、センサ10の感度を飽和感度にまで高めることができる。また、センサ10の感度を飽和状態で長時間保持すること、すなわち、センサ10の感度を安定させることもできる。すなわち、高い感度と安定した感度とを兼ね備えるセンサ10が得られる。
【0120】
なお、ステップCを、第1BDD電極15に対する積算電荷量が例えば0.5mC/cm2を超えるまで行っても、センサ10の感度を飽和感度にまで高める効果、及びセンサ10の感度を安定させる効果は頭打ちになる一方で、センサ10の生産性が低下してしまう。このため、ステップCは、第1BDD電極15に対する積算電荷量が例えば0.05mC/cm2以上0.5mC/cm2以下、好ましくは0.08mC/cm2以上0.5mC/cm2以下になる範囲内で行うことが好ましい。
【0121】
本変形例においても、作用電極15及び参照電極16がBDD電極で構成されるセンサ10であっても、所定のLSV測定により得られるボルタモグラムにおいて、被験液中のO3濃度に対応する電流ピークを観測できるセンサ10が得られ、上述の態様と同様の効果が得られる。
【0122】
(変形例2)
上述の態様や変形例では、センサ10が、第1BDD電極15と、第2BDD電極16と、第3BDD電極17と、を備える例、すなわち、作用電極15、参照電極16、及び対電極17がBDD電極で構成される例について説明したが、これに限定されない。対電極17は、BDD電極以外の電極であってもよい。例えば、対電極17は、Pt、Au、Cu、Pd、Ni、Ag等の金属で形成された電極やカーボン電極等であってもよい。この場合、対電極17は、サブトラクティブ法やセミアディティブ法等により配線14と一体に形成されていてもよい。本変形例においても、第1BDD電極15に対して所定の表面処理が行われていることで、上述の態様や変形例1と同様の効果が得られる。
【0123】
(変形例3)
上述の態様や変形例では、BDD電極が縦型電極である例、すなわち、BDD電極の裏面から導通をとる例について説明したが、これに限定されない。電極膜21の表面に、半田や銀ペースト等を用いて導通配線を接続し、BDD電極の表面から導通をとってもよい。また、BDD電極の表面から導通をとる場合、電極膜21を支持する基板として、導電性基板22の代わりに、セラミック基板や高抵抗材料で形成された基板を用いることもできる。
【0124】
なお、電極膜21の表面から導通をとる場合、LSV測定時に半田や銀ペースト等が被験液に接触しないように、半田や銀ペーストを熱硬化性樹脂又は紫外線硬化性樹脂で覆う必要がある。しかしながら、硬化前の樹脂は液状(ペースト状)であることから、電極膜21の表面のうち、O3の検出に寄与する面(すなわち、熱硬化性樹脂又は紫外線硬化性樹脂で覆われていない箇所の面)の面積を所定の面積に調整することが難しい。このため、複数のセンサ10間で、LSV測定で得られる電流ピーク値に誤差が生じやすくなる。複数のセンサ10間での測定精度のバラツキを小さくできる観点から、BDD電極は、上述のように基板22の裏面から導通をとる縦型電極として構成されている方が好ましい。
【0125】
以上、本開示の態様及び変形例を具体的に説明した。但し、本開示は上述の態様や変形例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0126】
<他の態様>
上述の態様や変形例では、センサ10を用いて行うLSV測定により得られるボルタモグラムが、被験液中のO3濃度に対応するピークを有する例について説明したが、これに限定されない。すなわち、センサ10を用いて、サイクリックボルタンメトリー(CV測定)を行うことにより得られるボルタモグラム(サイクリックボルタモグラム)においても、LSV測定を行う場合と同様に、被験液中のO3濃度に対応する電流ピークを観測できる。結果、センサ10を用いて、CV測定を行う場合であっても、上述の態様や変形例と同様の効果が得られる。
【0127】
また、上述の態様や変形例では、ステップB(第1BDD電極15に対して行う表面処理)において、電位の掃引方向が所定の一方向である例について説明したが、これに限定されない。ステップBにおいて、第2BDD電極16の電位に対する第1BDD電極15の電位の掃引を、所定範囲で往復してもよい。例えば、ステップBでは、電極群100を、O3を10ppm以上の濃度で含む処理液に接触させた状態で、第1BDD電極15の電位を、第2BDD電極16に電位に対して、所定の速度で、所定の電位まで負方向(逆方向)に掃引した後、元の電位まで正方向(順方向)に掃引してもよい。この場合であっても、上述の態様と同様に、第1BDD電極15の表面で所定の電気化学反応を生じさせ、第1BDD電極15の表面(検出面)を、O3濃度の測定に適した面に変化させることができる。結果、上述の態様や変形例と同様の効果が得られる。
【実施例0128】
以下、上述の態様の効果を裏付ける実験結果について説明する。
【0129】
<サンプル1>
導電性基板として単結晶Si基板を用意し、単結晶Si基板の結晶成長面となる面に対してスクラッチ処理を行い、その後、
図3に示すCVD装置を用い、単結晶Si基板の結晶成長面上に多結晶ダイヤモンドからなる電極膜を成長させて、単結晶Si基板と電極膜とを備える積層基板を作製した。そして、積層基板の裏面から所定パターンの凹状の溝を形成した。この溝に沿って積層基板を分割し、平面積が24.08mm
2の第1BDD電極(作用電極)を作製した。同様に、第2BDD電極(参照電極)及び第3BDD電極(対電極)を作製した。第2BDD電極及び第3BDD電極の作製では、凹状の溝の形成パターンを変えて、平面積を上述の態様に記載した条件範囲内の所定の面積に調整したこと以外は、第1BDD電極と同様の手順及び条件で作製した。
【0130】
得られた第1BDD電極、第2BDD電極、及び第3BDD電極を用い、上述の態様に記載した手法で電気化学センサを作製した。センサを作製する際、上述の態様におけるステップA,Bを行った。ステップAでは、O3を10ppmの濃度で含む処理液を用意した。また、ステップBでは、第1~第3BDD電極を流動状態の処理液に接触させた状態で、第1BDD電極の電位を、第2BDD電極の電位に対して0.1V/secの速度で掃引した。ここでは、第1BDD電極の電位を、0Vから-1.3Vまで負方向に掃引した。また、ここでは、ステップBを1回だけ行った。ステップBにおけるその他の条件は、上述の態様に記載した条件範囲内の所定の条件とした。このようにして得たセンサを、サンプル1とする。
【0131】
<サンプル2~5>
サンプル2は、上述のステップBを5回繰り返したこと以外は、サンプル1と同様の手順、条件で作製した。サンプル3は、上述のステップBを15回繰り返したこと以外は、サンプル1と同様の手順、条件で作製した。サンプル4は、上述のステップB(すなわち、第1BDD電極に対する表面処理)を不実施としたこと以外は、サンプル1と同様の手順、条件で作製した。サンプル5は、上述のステップAにおいて、O3を10ppm未満の濃度で含む処理液を用意し、上述のステップBを、O3を10ppm未満の濃度で含む処理液を用いて、15回繰り返したこと以外は、サンプル1と同様の手順、条件で作製した。
【0132】
<サンプル6>
サンプル6は、凹状の溝の形成パターンを調整して平面積が12.00mm2の第1BDD電極を作製したことと、ステップBを15回繰り返したこと以外は、サンプル1と同様の手順、条件で作製した。
【0133】
<サンプル7~10>
サンプル7は、凹状の溝の形成パターンを調整して平面積が4.00mm2の第1BDD電極を作製したことと、ステップBを15回繰り返したこと以外は、サンプル1と同様の手順、条件で作製した。サンプル8は、凹状の溝の形成パターンを調整して平面積が5.88mm2の第1BDD電極を作製したことと、ステップBを15回繰り返したこと以外は、サンプル1と同様の手順、条件で作製した。サンプル9は、凹状の溝の形成パターンを調整して平面積が11.76mm2の第1BDD電極を作製したことと、ステップBを15回繰り返したこと以外は、サンプル1と同様の手順、条件で作製した。サンプル10は、凹状の溝の形成パターンを調整して平面積が50.24mm2の第1BDD電極を作製したことと、ステップBを15回繰り返したこと以外は、サンプル1と同様の手順、条件で作製した。
【0134】
<評価>
サンプル1を用いて、第1~第3BDD電極を、O
3を6ppmの濃度で含む、静止状態の被験液に接触させた状態で、第1BDD電極の電位を、第2BDD電極の電位に対して、0.1V/secの速度で、0Vから-1.3Vまで負方向に掃引するLSV測定を行った。
図7に、サンプル1を用いたLSV測定により得られたボルタモグラムを示す。また、サンプル2を用いて、第1~第3BDD電極を、O
3を4ppmの濃度で含む静止状態の被験液に接触させた状態で、第1BDD電極の電位を、第2BDD電極の電位に対して、0.1V/secの速度で、0Vから-1.3Vまで負方向に掃引するLSV測定を行った。
図8に、サンプル2を用いたLSV測定により得られたボルタモグラムを示す。また、サンプル3を用いて、第1~第3BDD電極を、O
3を5ppmの濃度で含む静止状態の被験液に接触させた状態で、第1BDD電極の電位を、第2BDD電極の電位に対して、0.1V/secの速度で、0Vから-1.3Vまで負方向に掃引するLSV測定を行った。
図9に、サンプル3を用いたLSV測定により得られたボルタモグラムを示す。また、サンプル4を用いて、第1~第3BDD電極を、O
3を5ppmの濃度で含む静止状態の被験液に接触させた状態で、第1BDD電極の電位を、第2BDD電極の電位に対して、0.1V/secの速度で、0Vから-1.3Vまで負方向に掃引するLSV測定を行った。
図10に、サンプル4を用いたLSV測定により得られたボルタモグラムを示す。また、サンプル5を用いて、第1~第3BDD電極を、O
3を5ppmの濃度で含む静止状態の被験液に接触させた状態で、第1BDD電極の電位を、第2BDD電極の電位に対して、0.1V/secの速度で、0Vから-1.3Vまで負方向に掃引するLSV測定を行った。
図11に、サンプル5を用いたLSV測定により得られたボルタモグラムを示す。なお、
図7~
図11に示すボルタモグラムの横軸は、第2BDD電極の電位を基準にした電位である。
【0135】
また、
図7~
図9にそれぞれ示すサンプル1~3のボルタモグラムからセンサの感度を算出した。サンプル1の感度は2.4μA/(cm
2・ppm)であり、サンプル2の感度は5.19μA/(cm
2・ppm)であり、サンプル3の感度は5.81μA/(cm
2・ppm)であった。
【0136】
図7~
図9に示すように、サンプル1~3のボルタモグラムでは、電流ピークが観測される。このことから、ステップBを1回でも行うことで、作用電極及び参照電極がBDD電極で構成されている電気化学センサであっても、センサのボルタモグラムにおいて、電流ピークを観測できることが分かる。また、サンプル1から、ステップBを1回でも行うことで、センサの感度を2μA/(cm
2・ppm)以上にできることも分かる。
【0137】
また、
図8、
図9に示すように、サンプル2,3のボルタモグラムでは、
図7に示すサンプル1のボルタモグラムに比べて、電流ピークが高くなっている(電流ピークが鋭くなっている)。また、サンプル2,3のセンサの感度は、サンプル1のセンサの感度よりも高くなっている。これらから、ステップBを複数回繰り返すことで、センサの感度を飽和感度(付近)まで高めることができ、センサのボルタモグラムにおいて、電流ピークを観測しやすくなることが分かる。
【0138】
図10に示すように、サンプル4のボルタモグラムでは、電流ピークが観測されない。このことから、ステップBを不実施とした場合、すなわち、第1BDD電極に対する表面処理を行わなかった場合、作用電極及び参照電極がBDD電極で構成されている電気化学センサを用いたLSV測定により得られるボルタモグラムにおいて、電流ピークを観測できないことが分かる。
【0139】
図11に示すように、サンプル5のボルタモグラムでは、電流ピークが観測されない。このことから、ステップBを、O
3を10ppm未満の濃度で含む処理液を用いて行っても、得られるボルタモグラムにおいて、電流ピークを観測できないことが分かる。これは、O
3を10ppm未満の濃度で含む処理液を用いてステップBを行っても、第1BDD電極の表面が、O
3濃度の測定に適した面に充分に変化しないためと考えられる。
【0140】
次に、サンプル6を用い、O
3濃度が異なる複数の被験液に対してLSV測定を行った。すなわち、サンプル6を用いて、第1~第3BDD電極を、O
3を所定の濃度で含む静止状態の被験液に接触させた状態で、第1BDD電極の電位を、第2BDD電極の電位に対して、0.1V/secの速度で、0Vから-1.3Vまで負方向に掃引するLSV測定をそれぞれ行った。
図12に、サンプル6を用いたLSV測定により得られたボルタモグラムを示す。
図12に示すボルタモグラムの横軸は、第2BDD電極の電位を基準にした電位である。
【0141】
図12から、サンプル6を用いて、O
3を所定濃度で含む静止状態の被験液に対してLSV測定を行った際、得られるボルタモグラムにおいて、被験液中のO
3濃度に対応する電流ピークが観測されることが確認できる。すなわち、サンプル6では、被験液中のO
3濃度に応じて、電流ピーク値が変わることが確認できる。また、
図12から、サンプル6のセンサでは、被験液中のO
3濃度が少なくとも1.8ppm程度以上(1.83ppm)であれば、センサのボルタモグラムにおいて、電流ピークが観測されることが確認できる。すなわち、サンプル6のセンサでは、O
3濃度が低い被験液であっても、センサのボルタモグラムにおいて、電流ピークを観測できることが確認できる。
【0142】
また、
図13に、
図12に示した電流のピーク値に基づいて作成したサンプル6の検量線を示す。
図13から、検量線は非常に良い直線性を示すことが分かる。このことから、第1BDD電極に対して所定の表面処理を行うことで、作用電極及び参照電極がBDD電極で構成されている電気化学センサであっても、被験液中のO
3濃度を高精度で測定できることが分かる。
【0143】
また、サンプル3,6~10を用い、各サンプルを用いたLSV測定により得られた電流ピーク値からセンサの感度(飽和感度)を算出した。なお、本発明者等は、サンプル3,6~10は、いずれも、LSV測定により得られるボルタモグラムにおいて、電流ピークが観測されることを確認済みである。
【0144】
各サンプルの算出した感度は、電極面積の順に並べると、以下に示す通りであった。
サンプル7(電極面積:4.00mm2):5.09μA/(cm2・ppm)
サンプル8(電極面積:5.88mm2):4.28μA/(cm2・ppm)
サンプル9(電極面積:11.76mm2):5.55μA/(cm2・ppm)
サンプル6(電極面積:12.00mm2):4.07μA/(cm2・ppm)
サンプル3(電極面積:24.08mm2):4.26μA/(cm2・ppm)
サンプル10(電極面積:50.24mm2):6.16μA/(cm2・ppm)
上記感度の算出結果から、センサの感度は、第1BDD電極の平面積に依存しないことが分かる。
【0145】
また、サンプル7~10についても、各サンプルを用いたLSV測定により得られた電流ピーク値とO
3濃度との関係を示す検量線を作成した。サンプル7~10を用いたLSV測定により得られる電流ピーク値から作成した検量線を
図14に示す。
図14の横軸の「O
3濃度」とは、UV吸光度計(紫外可視分光光度計、アズワン株式会社製、型番:ASUV-1100)を用いて測定した被験液(標準液)中のO
3濃度である。
図14から、サンプル7~10のいずれにおいても、各サンプルを用いたLSV測定で得られる電流ピーク値は、被験液中のO
3濃度との間に一定の相関関係を示し、正確な検量線を作成できることが分かる。
【0146】
なお、
図13及び
図14に示すサンプル6~10の各検量線の近似式は、以下に示す通りであった。
サンプル6:y=4.0663x+3.5493
サンプル7:y=5.0908x+1.7896
サンプル8:y=4.2786x+2.5615
サンプル9:y=5.5454x+3.1271
サンプル10:y=6.1579x+2.6297
【0147】
<本開示の好ましい態様>
以下、本開示の好ましい態様について付記する。
【0148】
(付記1)
本開示の一態様によれば、
作用電極としての第1ダイヤモンド電極と、
参照電極としての第2ダイヤモンド電極と、を少なくとも備え、
前記第1ダイヤモンド電極及び前記第2ダイヤモンド電極を、オゾンを所定濃度で含む静止状態の被験液に接触させて行うリニアスイープボルタンメトリー測定により得られるボルタモグラムにおいて、前記被験液におけるオゾン濃度に対応する電流ピークが観測される
電気化学センサが提供される。
【0149】
(付記2)
本開示の他の態様によれば、
作用電極としての第1ダイヤモンド電極と、
参照電極としての第2ダイヤモンド電極と、を備え、
前記第1ダイヤモンド電極及び前記第2ダイヤモンド電極を、オゾンを所定濃度で含む静止状態の被験液に接触させた状態で、前記第1ダイヤモンド電極の電位を、前記第2ダイヤモンド電極の電位に対して0.1V/secの速度で掃引してリニアスイープボルタンメトリー測定を行った際、得られるボルタモグラムにおいて、前記被験液におけるオゾン濃度に対応する電流ピークが観測される
電気化学センサが提供される。
【0150】
(付記3)
付記1又は2に記載のセンサであって、好ましくは、
前記第1ダイヤモンド電極及び前記第2ダイヤモンド電極を前記被験液に接触させた状態で、前記第1ダイヤモンド電極の電位を、前記第2ダイヤモンド電極の電位に対して0.1V/secの速度で掃引してリニアスイープボルタンメトリー測定を行った際に得られる電流のピーク値を、前記第1ダイヤモンド電極の平面積及び前記オゾン濃度で割った値の絶対値である感度が2μA/(cm2・ppm)以上である。
【0151】
(付記4)
付記1~3のいずれか1項に記載のセンサであって、好ましくは、
前記被験液における前記オゾン濃度に対応する前記電流ピークが、前記第1ダイヤモンド電極の電位を、前記第2ダイヤモンド電極の電位に対して0.1V/secの速度で掃引するリニアスイープボルタンメトリー測定において、-0.3V~-0.9V(vs.第2ダイヤモンド電極)の電位範囲内に観測される。
【0152】
(付記5)
付記1~4のいずれか1項に記載のセンサであって、好ましくは、
前記被験液における前記オゾン濃度が少なくとも1.0ppm以上、好ましくは、少なくとも0.5ppm以上、より好ましくは、少なくとも0.3ppm以上、さらに好ましくは、少なくとも0.1ppm以上であれば、前記リニアスイープボルタンメトリー測定により得られる前記ボルタモグラムにおいて、前記電流ピークが観測される。
【0153】
(付記6)
付記1~4のいずれか1項に記載のセンサであって、好ましくは、
前記被験液における前記オゾン濃度が少なくとも1.8ppm以上であれば、前記リニアスイープボルタンメトリー測定により得られる前記ボルタモグラムにおいて、前記電流ピークが観測される。
【0154】
(付記7)
付記1~6のいずれか1項に記載のセンサであって、好ましくは、
前記第1ダイヤモンド電極の平面積が1mm2以上100mm2以下である。
【0155】
(付記8)
付記3に記載のセンサであって、好ましくは、
前記被験液における前記オゾン濃度が同一の濃度の条件下で前記リニアスイープボルタンメトリー測定を複数回行った際、各リニアスイープボルタンメトリー測定で得られた前記電流のピーク値を用いて算出した前記感度のバラツキが30%以下である。
【0156】
(付記9)
本開示のさらに他の態様によれば、
支持基板上に、少なくとも、作用電極としての第1ダイヤモンド電極及び参照電極としての第2ダイヤモンド電極を配設する工程と、
前記第1ダイヤモンド電極に対して、所定の表面処理を行う工程と、を有し、
前記所定の表面処理を行う工程では、
オゾンを10ppm以上の濃度で含む処理液を用意する工程と、
前記第1ダイヤモンド電極及び前記第2ダイヤモンド電極を、前記処理液に接触させた状態で、前記第1ダイヤモンド電極の電位を、前記第2ダイヤモンド電極の電位に対して所定の速度で掃引し、前記第1ダイヤモンド電極の表面で電気化学反応を生じさせる工程と、を行う
電気化学センサの製造方法が提供される。
【0157】
(付記10)
本開示のさらに他の態様によれば、
支持基板上に、少なくとも、作用電極としての第1ダイヤモンド電極及び参照電極としての第2ダイヤモンド電極を配設する工程と、
前記第1ダイヤモンド電極に対して、所定の表面処理を行う工程と、を有し、
前記所定の表面処理を行う工程では、
オゾンを10ppm以上の濃度で含む処理液を用意する工程と、
前記第1ダイヤモンド電極及び前記第2ダイヤモンド電極を、前記処理液に接触させた状態で、前記第1ダイヤモンド電極と前記第2ダイヤモンド電極との間に所定の電位を印加した状態を所定時間維持し、前記第1ダイヤモンド電極の表面で電気化学反応を生じさせる工程と、を行う
電気化学センサの製造方法が提供される。
【0158】
(付記11)
付記9に記載の方法であって、好ましくは、
前記電気化学反応を生じさせる工程を、複数回行う(繰り返す)。
【0159】
(付記12)
付記9~11のいずれか1項に記載の方法であって、好ましくは、
前記電気化学反応を生じさせる工程を、前記処理液が前記第1ダイヤモンド電極の表面に対して流動している状態で行う。
【0160】
(付記13)
付記9~12のいずれか1項に記載の方法であって、好ましくは、
前記電気化学反応を生じさせる工程を、前記第1ダイヤモンド電極及び前記第2ダイヤモンド電極を前記処理液中に接触させた状態で、前記第1ダイヤモンド電極の電位を、前記第2ダイヤモンド電極の電位に対して所定の速度で掃引するリニアスイープボルタンメトリー測定として行った際、得られるボルタモグラムにピークが現れない条件下で行う。
【0161】
(付記14)
付記9に記載の方法であって、好ましくは、
前記電気化学反応を生じさせる工程では、前記第1ダイヤモンド電極の電位を、0.05V/sec以上の速度で掃引する。
【0162】
(付記15)
付記10に記載の方法であって、好ましくは、
前記電気化学反応を生じさせる工程を、前記第1ダイヤモンド電極に対する積算電荷量が0.05mC/cm2以上になるまで行う。
【0163】
(付記16)
本開示のさらに他の態様によれば、
付記1~8のいずれか1項に記載の電気化学センサを搭載した、オゾンを所定濃度で含む被験液中のオゾン濃度を測定する電気化学センサシステムが提供される。
前記第1ダイヤモンド電極及び前記第2ダイヤモンド電極を前記被験液に接触させた状態で、前記第1ダイヤモンド電極の電位を、前記第2ダイヤモンド電極の電位に対して0.1V/secの速度で掃引するリニアスイープボルタンメトリー測定を行うことで得られる電流のピーク値を、前記第1ダイヤモンド電極の平面積及び前記オゾン濃度で割った値の絶対値である感度が2μA/(cm2・ppm)以上である請求項1に記載の電気化学センサ。
前記被験液における前記オゾン濃度に対応する前記電流ピークが、前記第1ダイヤモンド電極の電位を、前記第2ダイヤモンド電極の電位に対して0.1V/secの速度で掃引するリニアスイープボルタンメトリー測定において、-0.3V~-0.9V(vs.第2ダイヤモンド電極)の電位範囲内に観測される請求項1に記載の電気化学センサ。
前記被験液における前記オゾン濃度が少なくとも1.0ppm以上であれば、前記リニアスイープボルタンメトリー測定により得られる前記ボルタモグラムにおいて、前記電流ピークが観測される請求項1に記載の電気化学センサ。
前記被験液における前記オゾン濃度が同一の濃度の条件下で前記リニアスイープボルタンメトリー測定を複数回行った際、各リニアスイープボルタンメトリー測定を行うことで得られる前記電流のピーク値を用いて算出した前記感度のバラツキが30%以下である請求項2に記載の電気化学センサ。
前記電気化学反応を生じさせる工程を、前記第1ダイヤモンド電極及び前記第2ダイヤモンド電極を前記処理液中に接触させた状態で、前記第1ダイヤモンド電極の電位を、前記第2ダイヤモンド電極の電位に対して所定の速度で掃引するリニアスイープボルタンメトリー測定として行った際、得られるボルタモグラムにピークが現れない条件下で行う請求項7に記載の電気化学センサの製造方法。