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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180843
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】発破方法、及び石灰石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   E21B 23/00 20060101AFI20231214BHJP
   F42B 3/10 20060101ALI20231214BHJP
   E21B 33/12 20060101ALI20231214BHJP
   F42D 1/22 20060101ALI20231214BHJP
   F42D 3/04 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
E21B23/00
F42B3/10
E21B33/12
F42D1/22
F42D3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094473
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】前田 泰孝
(72)【発明者】
【氏名】岡本 直樹
(57)【要約】
【課題】発破時に生じる低周波音を低減することが可能な発破方法を提供すること。
【解決手段】発破孔10の底部に設置された雷管20の上に、親ダイ22及び増ダイ24を装填した後、込物28を発破孔10に充填する装填工程と、発破孔10において発破を行う発破工程と、を有する発破方法であって、装填工程では、込物28のうち少なくとも一部を、袋体に充填された状態で発破孔10の内部に固定する、発破方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発破孔の底部に設置された雷管の上に、親ダイ及び増ダイを装填した後、込物を前記発破孔に充填する装填工程と、前記発破孔において発破を行う発破工程と、を有する発破方法であって、
前記装填工程では、前記込物の少なくとも一部を、袋体に充填された状態で前記発破孔の内部に固定する、発破方法。
【請求項2】
前記装填工程では、前記増ダイと前記袋体との間に空隙部が設けられるように前記袋体を前記発破孔の内部に固定する、請求項1に記載の発破方法。
【請求項3】
前記発破孔の底面から前記増ダイの上面までの長さに対する前記空隙部の長さの比が0.2~0.6である、請求項2に記載の発破方法。
【請求項4】
前記装填工程では、前記発破孔に前記増ダイを装填した後にチューブ状の空袋を挿入し、前記空袋の上端側の開口から前記空袋に前記込物を充填して、前記発破孔の内部に固定された前記袋体を得る、請求項1~3のいずれか一項に記載の発破方法。
【請求項5】
前記装填工程では、前記袋体の上端を前記発破孔の外側に配置された支持体に固定する、請求項4に記載の発破方法。
【請求項6】
前記装填工程では、前記込物の一部を前記袋体と前記発破孔の内壁面の間に充填する、請求項1~3のいずれか一項に記載の発破方法。
【請求項7】
前記込物全体に対する前記袋体に充填された前記込物の質量比は、0.1~0.5である、請求項1~3のいずれか一項に記載の発破方法。
【請求項8】
前記込物は繰り粉を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の発破方法。
【請求項9】
石灰石鉱山の岩盤に前記発破孔を形成する発破孔形成工程を有し、
前記発破工程で発破を行って石灰石原石を得る、請求項1~3のいずれか一項に記載の発破方法。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか一項に記載の発破方法を石灰石鉱山で行って得られた石灰石原石の粒度を調整する工程を有する、石灰石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一側面は、発破方法、及び石灰石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、発破とは、鉱山又は採石場の原石切り出しに加えて、トンネル工事、コンクリート構造物の解体工事、及び道路開設工事等において、岩盤等を破砕する工程を意味する。最近では、ビルの地下掘削工事、電力区及び管路工事、並びに地下鉄工事等、僻地のみならず都心地でも発破が行われている。
【0003】
発破は、岩石単体を爆破する小規模のものから、数万トンの岩盤を爆破する大規模のものまで多様であり、その対象物に適した方法が用いられている。岩盤の発破方法としては、岩盤に発破孔を穿孔し、発破孔の内部に爆薬と込物を充填して発破する一般的な発破方法(シングルチャージ発破)、振動減少のために爆薬と込物を交互に配列して発破する方法(デッキチャージ発破)、爆薬と込物との間に空隙部を設けて発破する方法(エアーデッキ発破)等が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2017-503993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発破の際に発生する低周波音は、騒音の要因となるため、作業環境の改善及び周辺地域の環境維持の観点から、低減することが望ましい。そこで、本開示は、発破時に生じる低周波音を低減することが可能な発破方法、及び石灰石の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、発破孔の底部に設置された雷管の上に、親ダイ及び増ダイを装填した後、込物を発破孔に充填する装填工程と、発破孔において発破を行う発破工程と、を有する発破方法であって、装填工程では、込物の少なくとも一部を、袋体に充填された状態で発破孔の内部に固定する、発破方法を提供する。
【0007】
上記発破方法では、込物の少なくとも一部を、袋体に充填された状態で、雷管、親ダイ、及び増ダイが装填された発破孔の内部に固定する。込物が袋体に充填されているため、あたかも大きな岩石で発破孔がキャップされた状態となることから、発破によって生じた衝撃波が発破孔の開口から外部に伝播することを抑制し、衝撃波を破砕に有効に利用することができる。このため、発破時に生じる低周波音(100Hz以下)を低減して、作業環境を改善するとともに、鉱山周辺の民家等へ騒音を十分に低減することができる。また、爆薬を有効利用することが可能となり、火薬原単位を小さくしてコスト低減を図ることができる。
【0008】
本発明は、上述の発破方法を石灰石鉱山で行って得られた石灰石原石の粒度を調整する工程を有する、石灰石の製造方法を提供する。この石灰石の製造方法では、上述の発破方法で発破を行うため、発破時に生じる低周波音を低減することができる。また、爆薬を有効利用することが可能となり、石灰石の製造コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0009】
発破時に生じる低周波音を低減することが可能な発破方法、及び石灰石の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る発破方法を説明するための図である。
図2】発破孔における込物の充填状態を示す図である。
図3】発破孔に固定された袋体とその近傍を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、場合により図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0012】
一実施形態に係る発破方法は、発破孔を形成する工程と、発破孔の底部に雷管を設置した後、親ダイ及び増ダイをこの順で装填する工程と、込物を発破孔に充填する工程と、発破孔において発破を行う工程と、を有する。この発破方法は、例えば鉱山で鉱石を採掘するために行ってもよいし、トンネル工事、地下掘削工事、又は地下鉄工事等、各種の工事で行ってもよい。発破孔を形成する工程において、発破孔は、例えば穿孔機等の重機を用いて形成することができる。
【0013】
図1の例では、発破孔10は岩盤40に形成されている。岩盤40は鉱山(例えば石灰石鉱山)の岩盤であってよい。この例では、発破孔10は鉛直方向に対して若干傾斜しているがこれに限定されない。例えば、発破孔10は鉛直方向に延在していてもよいし、水平方向に延在していてもよい。岩盤40の切羽面41に沿って発破孔10を複数並べて設けてもよい。発破孔10の穿孔径(内径)は70~150mmであってよく、80~130mmであってもよい。抵抗Rは2~6mであってよく、3~5mであってもよい。穿孔径に対する抵抗Rの比は、30~60であってよい。隣り合う発破孔10の間隔(孔間)は、2~8mであってよく、3~6mであってもよい。抵抗Rに対する当該間隔の比は、0.5~4であってよく、1~2であってもよい。
【0014】
発破孔10を形成した後、発破孔10の開口12から雷管20を導入し、発破孔10の底面に雷管20を設置する。雷管20としては、例えば、電気式雷管、非電気式雷管、電子式雷管等が使用できる。雷管20の脚線(不図示)は、発破孔10の外側に配置された発破器30に連結されていてよい。次に、親ダイ22を開口12から導入して発破孔10の内部に装填する。親ダイ22は、伝爆薬又は起爆用ダイナマイトと称されるものであり、増ダイ24を十分に爆発させる機能を有する。親ダイ22としては、例えば、キャストブースター、ダイナマイト、及び含水爆薬が挙げられる。
【0015】
次に、増ダイ24を発破孔10の開口12から導入して発破孔10の内部に装填する。増ダイ24(本体爆薬)としては、例えば、アンホ爆薬(硝安油剤爆薬)、及び含水爆薬(バルクエマルション爆薬)等が用いられる。このうち、アンホ爆薬(ANFO爆薬)は、主成分として硝酸アンモニウムを含み、燃料油が混合された硝安爆薬の一種である。コスト低減の観点から、増ダイ24としてアンホ爆薬を用いてもよい。
【0016】
バルクエマルション爆薬は、乳化まで行った中間原料(エマルションマトリックス)と、発泡剤とを混合しながら発破孔10の内部に装填する。そうすると、発破孔10の内部で、中間原料と発泡剤とが化学反応して発泡・鋭感化し、爆薬(増ダイ24)として機能するようになる。
【0017】
発破孔10に増ダイ24を装填した後、発破孔10に装填された増ダイ24の上に込物28を充填する。込物28と増ダイ24との間に空隙部26が設けられるように込物28を充填することが好ましい。このように発破孔10に空隙部26を設ける発破方法はエアーデッキ発破ともいう。このような空隙部26を有することによって、爆発によって生じたエネルギーが空隙部26内で反射するため、起砕効果を向上し、低周波の発生及び飛び石を低減することができる。また、爆薬を空隙部26に置換して、爆薬使用量を低減することができる。また、二次波の発生によって、粒度が小さい砕石を得ることができる。
【0018】
込物28の少なくとも一部は、図2に示すように袋体35に充填される。袋体35の材質は特に制限されず、込物28が充填可能であり、充填量が増えるにつれて膨張するものであることが好ましい。このような袋体35は、発破孔10の内部に円滑に固定することができる。袋体35は、例えばプラスチック製、ゴム製又はエラストマー製のものであってよい。プラスチックとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリ塩化ビニル、及びナイロン等が挙げられる。ゴムとしては、例えば、天然ゴム、ニトリルゴム、シリコンゴム、スチレンブタジエンゴム、ウレタンゴム、及びフッ素ゴム等が挙げられる。エラストマーとしては、オレフィン系、塩化ビニル系、ウレタン系ものが挙げられる。
【0019】
袋体35にはチューブ状(中空状)のものを用いてよい。例えば、チューブの先端を結んで閉止して空袋を形成し、空袋の先端側から発破孔10に挿入する。所定の深さまで挿入したら、空袋の基端側(上端側)から込物28aを充填する。込物28aの充填には、空袋に導入した込物28aを空袋の先端側(下端側)に押し込むため、込棒等の棒材等を用いてもよい。このようにして込物が充填された袋体35を得る。袋体35に込物28aを十分に詰め込むことによって、袋体35は発破孔10の内部に固定される。これによって、増ダイ24と込物28a(袋体35)との間に、空隙部26を設けることができる。
【0020】
発破孔10の内部に固定された袋体35によって、発破孔10は、あたかも大きな岩石でキャップされたような状態になる。発破孔10に装填される込物28のうちの一部を袋体35に充填し、他部を発破孔10の内部における袋体35の外側に充填してよい。そうすると、図3に示すように、袋体35と発破孔10の内壁面10Aとの間に、袋体35の上に充填された込物28bが入り込んで袋体35と内壁面10Aとの間に挟まる。このような込物28bは、袋体35を介して、袋体35に充填された込物28aと噛み合い、袋体35が発破孔10の下方に落下するのを抑制する。このため、発破作業を一層安定的に行うことができる。また、空隙部26を強固に密閉することができるため、発破によって生じる衝撃波を十分有効に破砕に利用することができる。
【0021】
込物28全体に対する袋体35に充填された込物28aの質量比は、0.05以上であってよく、0.1以上であってもよい。これによって、キャップとしての機能が十分に発揮されることから、発破によって生じた衝撃波が発破孔の開口から外部に伝播することを一層抑制し、衝撃波を破砕に一層有効に利用することができる。込物28全体に対する袋体35に充填された込物28aの質量比は、0.5以下であってよく、0.4以下であってもよい。これによって、発破の準備に所要する作業時間を十分に短くすることができる。
【0022】
袋体35の上端35Aは、図2に示すように、発破孔10の外部に配置された支持体50に結びつけてもよい。これによって、袋体35が下方に落下することを十分に防止することができる。支持体50は、例えば砂袋であってよい。支持体50は、図1の地上面42(自由面)の任意の位置に配置されてもよい。
【0023】
込物28としては、発破孔10を穿孔機等の重機で掘削したときに生じた繰り粉52(削り屑)を用いてもよいし、別途準備した砕砂、又は砕石(骨材を含む)等を用いてもよい。繰り粉52は粒径が小さいため、従来のように袋体35を用いることなくそのまま込物として使用すると、発破孔10の密閉効果が不十分になる場合があり、発破時の込物の吹き上がり、並びに、鉱山設備及び周辺民家への飛び石が発生するおそれがあった。これに対し、本実施形態では、繰り粉52を袋体35に入れて用いていることから、粒径の小さい繰り粉52を込物28として利用しても上記の問題を回避でき、さらに低周波音を低減して発破を行うことができる。また、込物28がこのような繰り粉52を含むことによって、発破に要するコストを低減することができる。具体的には、込物28に用いる砕石の使用量を削減できるとともに、砕石の搬入作業及び保管の手間を低減することができる。込物28に用いられる繰り粉52の粒径は、30mm以下であってよく、10mm以下であってもよい。このような小さい粒径を有する繰り粉52を込物28として用いることができる。この粒径は、例えばノギスを用いて測定することができる。球形ではない繰り粉52の粒径は、ノギスで測定される測定値のうち最大値である。
【0024】
発破孔10の全体長さLに対する、袋体35(込物が充填されている部分)の長さLbの比(Lb/L)は、0.01以上であってよく、0.02以上であってもよい。これによって、発破によって生じた衝撃波が発破孔10の開口12から外部に伝播することを十分に抑制し、衝撃波を破砕に十分有効に利用することができる。Lb/Lは0.2以下であってよく、0.1以下であってもよい。これによって、袋体35を発破孔10内に十分安定的に保持することができる。全体長さL及び長さLbは、発破孔10の長手方向に沿って測定される。
【0025】
図1に戻り、発破孔10の全体長さLに対する、空隙部26の長さ(空隙長:L2)の比(L2/L)は、0.1以上であってよく、0.15以上であってもよい。これによって、発破時の低周波音及び飛び石を十分に低減することができる。また、爆薬使用量を十分に低減することができる。また、発破後の砕石の粒度を十分小さく且つバラツキを小さくすることができる。L2/Lは、0.4以下であってよく、0.3以下であってもよい。これによって、発破効率の低下を抑制することができる。空隙長L2は、発破孔10の長手方向に沿って測定される。
【0026】
発破孔10の全体長さLに対する、込物28の装填長さ(込物長:L3)の比(L3/L)は、0.15以上であってよく、0.2以上であってよく、0.25以上であってもよい。これによって、発破によって生じた衝撃波が発破孔10の開口12から外部に伝播することを十分に抑制し、衝撃波を破砕に十分有効に利用することができる。L3/Lは、0.45以下であってよく、0.4以下であってもよい。これによって、発破効率の低下を抑制するとともに、発破の準備に所要する時間を低減することができる。込物長L3は、発破孔10の長手方向に沿って測定される。
【0027】
発破孔10の底面から増ダイ24の上面までの長さ(薬長:L1)に対する空隙長L2の比(L2/L1)は、0.2~0.6であってよく、0.3~0.55であってよい。これによって、爆薬の使用量を十分に低減して、発破の効率を十分に高くすることができる。また、発破時の低周波音及び飛び石を十分に低減することができる。また、発破後の砕石の粒度を十分小さく且つバラツキを小さくすることができる。薬長L1は、発破孔10の長手方向に沿って測定される。
【0028】
図1に示すように、底部から雷管20、親ダイ22、増ダイ24、及び込物28がこの順に設置された発破孔10が完成したら、発破を行う。雷管20と地上面42上に設置される発破器30とは、脚線(不図示)で接続されている。図1に示すような発破孔10を複数準備して複数の発破孔10を用いて同時又は連続的に発破を行ってよい。各発破孔10に設けられた発破器30からの通電により雷管20が発火・起爆して親ダイ22が起爆し、親ダイ22の起爆により増ダイ24が起爆して岩盤40が爆破され、発破が成立する。
【0029】
本実施形態の発破孔10を用いた発破方法では、込物28のうち一部の込物28aが袋体35に充填された状態で、雷管20、親ダイ22、及び増ダイ24が装填された発破孔10の内部に固定されている。込物28の一部(込物28a)が袋体35に充填されているため、あたかも大きな岩石で発破孔10がキャップされた状態となる。そして、袋体35と発破孔10の内壁面10Aは、袋体35の外部にある込物28bによって噛み合っている。このため、袋体35が発破孔10の内部に強固に固定される。したがって、発破によって生じた衝撃波が発破孔10の開口12から外部に伝播することを十分に抑制し、衝撃波を破砕に十分有効に利用することができる。このため、発破時に生じる低周波音を十分に低減して、作業環境を改善するとともに、鉱山周辺の民家等へ騒音を十分に低減することができる。また、爆薬を有効利用することが可能となり、火薬原単位を小さくしてコスト低減を図ることができる。さらに、発破時の飛び石の量も低減できるため、安全性を向上することもできる。
【0030】
一実施形態に係る石灰石の製造方法は、上述の発破方法を石灰石鉱山で行って石灰石原石を採取し、石灰石原石の粒度調整を行って石灰石を製造する工程を有する。粒度調整は、原石を粉砕機(クラッシャー)で粉砕した後、篩(スクリーン)を用いて行ってよい。これによって粒度が十分に小さく且つ十分に揃った石灰石を得ることできる。このようにして得られた石灰石の用途としては、生石灰(用途:建材、製紙、加温剤、乾燥剤等)の原料、消石灰(農業用等)の原料、及びセメント原料が挙げられる。セメント原料用の石灰石の粒径は、例えば30mm以下であってよい。生石灰用及び消石灰用の石灰石の粒径は、例えば100mm以下であってよい。これらの粒径も、例えばノギスを用いて測定することができる。
【0031】
上記発破方法、及び上記石灰石の製造方法では、衝撃波を破砕に有効に利用していることから、低い製造コストで石灰石を製造することができる。また、粒度が小さく且つ揃った石灰石を得ることができる。このような石灰石を、例えばセメント原料として用いれば、例えば原料ミル等の各粉砕機の負荷が低減され、効率よくセメントを製造することができる。
【0032】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、空隙部26を設けたエアーデッキ発破であるが、これに限定されず、空隙部を形成しないシングルチャージ発破又はデッキチャージ発破であってもよい。また、上記実施形態では袋体35の上端35Aが支持体50に結び付けられていたが、これは必ずしも必須ではない。袋体35の上端を発破孔10の外部まで引き出すことは必須ではなく、袋体35の全てが発破孔10の内部に埋設されるように発破孔10の内部に固定されてもよい。このような構造であっても、袋体35は発破孔10の内壁面10Aとの摩擦力によって、発破孔10の内部に安定的に固定される。
【0033】
本開示は、例えば以下の内容を含む。
[1]発破孔の底部に設置された雷管の上に、親ダイ及び増ダイを装填した後、込物を前記発破孔に充填する装填工程と、前記発破孔において発破を行う発破工程と、を有する発破方法であって、
前記装填工程では、前記込物の少なくとも一部を、袋体に充填された状態で前記発破孔の内部に固定する、発破方法。
[2]前記装填工程では、前記増ダイと前記袋体との間に空隙部が設けられるように前記袋体を前記発破孔の内部に固定する、[1]に記載の発破方法。
[3]前記発破孔の底面から前記増ダイの上面までの長さに対する前記空隙部の長さの比が0.2~0.6である、[2]に記載の発破方法。
[4]前記装填工程では、前記発破孔に前記増ダイを装填した後にチューブ状の空袋を挿入し、前記空袋の上端側の開口から前記空袋に前記込物を充填して、前記発破孔の内部に固定された前記袋体を得る、[1]~[3]のいずれか一つに記載の発破方法。
[5]前記装填工程では、前記袋体の上端を前記発破孔の外側に配置された支持体に固定する、[1]~[3]のいずれか一つに記載の発破方法。
[6]前記装填工程では、前記込物の一部を前記袋体と前記発破孔の内壁面の間に充填する、[1]~[5]のいずれかに記載の発破方法。
[7]前記込物全体に対する前記袋体に充填された前記込物の質量比は、0.1~0.5である、[1]~[6]のいずれか一つに記載の発破方法。
[8]前記込物は繰り粉を含む、[1]~[7]のいずれか一つに記載の発破方法。
[9]石灰石鉱山の岩盤に前記発破孔を形成する発破孔形成工程を有し、前記発破工程で発破を行って石灰石原石を得る、[1]~[8]のいずれか一つに記載の発破方法。
[10]上記[1]~[9]のいずれか一つに記載の発破方法を石灰石鉱山で行って得られた石灰石原石の粒度を調整する工程を有する、セメント原料用石灰石の製造方法。
【実施例0034】
実施例及び比較例を参照して本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0035】
発破方法、総薬量の条件等が異なる複数の発破実験を行った。エアーデッキ発破については、薬長L1、空隙長L2及び込物長L3を変えて発破実験を行った。これによって、発破効率(総薬量/鉱量)、作業時間、発破時に発生する所定音量以上の低周波音の発生率、脚線の損傷の有無、及び脚線の易回収性を評価した。具体的な手順と評価方法は以下のとおりとした。
【0036】
各実施例及び各比較例では、以下の材料を用いた。
雷管:ORICA製、商品名:UT600
親ダイ(キャストブースター):ORICA社製、商品名:Yinguang Booster
増ダイ(アンホ爆薬):セメント工場火薬類製造所において、硝酸アンモニウムに軽油を吹き付けて製造した。
ポリエチレン製のチューブ(厚み:0.09~0.11mm、折径:150mm):石川社製、商品名:PE紙管巻
【0037】
(実施例1:エアーデッキ発破)
石灰石鉱山において岩盤の切羽高H:11.0m、抵抗R:3.8mの地点に、孔間4.0mで等間隔に直径95mmの発破孔を計6個掘削した。発破孔の掘削には、油圧クローラードリルを用いた。発破孔の全体長さLは、いずれも表1に示すとおりであった。6個の発破孔は、一直線状に並ぶように掘削した。掘削で生じた繰り粉は発破孔の近くに静置した。発破孔の底面上に、脚線が接続された雷管を設置した。脚線の上端は、発破孔の開口の外側(地上面)に設置された発破器に接続した。雷管を覆うように親ダイを、親ダイの上側に増ダイを、それぞれ装填した。増ダイは、発破孔の底面から増ダイの上面までの薬長L1が6.1mとなるように装填した。
【0038】
続いて、ポリエチレン製のチューブ(ポリチューブ)の一端を固結びして、当該一端を下方にしてポリチューブを発破孔内に挿入した。ポリチューブの他端(上端)側から込棒を挿入し、ポリチューブの下端部の結び目から地上面までの長さ(込物長L3)が3.8mとなるように発破孔への挿入深さを調整した。ポリチューブの上端側の開口から、込物として繰り粉(粒径:10mm以下)を8kg導入し、ポリチューブ内に繰り粉を充填した。
【0039】
ポリチューブの繰り粉が充填されていない部分(上部)の空気を抜きながら上部を捩じることでポリチューブの上端の開口を閉止した。ポリチューブの上部を、発破孔の外側に配置された砂袋に巻き付けて固定した。このようにして、発破孔内に袋体を設置した。その後、ポリチューブに充填したものと同等の繰り粉を発破孔に導入して袋体の上に繰り粉を約24kg充填した。これによって、袋体の外側にも繰り粉を充填した。すなわち、袋体における繰り粉の充填部分の側面と発破孔の内壁面との間、及び袋体の繰り粉の充填部分の上端部から発破孔の開口(地上面)の間に繰り粉を充填した。
【0040】
込物全体(袋体に充填された込物と袋体の外部に充填された込物の合計)に対する、袋体に充填された込物の質量比は、約0.3であった。発破孔の内部に固定された袋体の下端と、増ダイの上面との間隔、すなわち空隙部の発破孔の長手方向に沿う長さ(空隙長L2)は、2.9mであった。砂袋に巻き付けて固定された袋体の上部に張力はかかっておらず、袋体自体が発破孔の内壁面との摩擦力によって強固に固定されていた。
【0041】
発破孔に親ダイを装填し始めた時点から、発破孔の開口(地上面)まで繰り粉を充填してポリチューブの上端を砂袋に固定するまでに要した時間を、一孔当たりの作業時間として測定した。測定結果は表2に示すとおりであった。その後、発破器を用いて、6個の発破孔を同時に発破した。6個の発破孔の総薬量(親ダイ+増ダイ)、発破によって破砕された鉱量(石灰石の量)、発破孔一個当たりの鉱量、鉱量当たりの総薬量は、表2に示すとおりであった。
【0042】
発破の際に、所定音量以上の低周波音が発生するか否かを次のようにして評価した。低周波音測定器(リオン株式会社製、商品名:精密騒音計NL-62)を、6個の発破孔のうち、中央にある2つの発破孔から900m離れた地点(民家の屋外)に設置して低周波音(100Hz以下)の音量を測定した。発破時に低周波音(100Hz以下)の音量が85dB以上であった場合を、低周波音の発生「有り」、85dB未満であった場合を「無し」と評価した。結果は、表2に示すとおりであった。
【0043】
発破前の目視検査で雷管と発破器を接続する脚線に損傷がなく、且つ、発破器による発破が予定どおり行われた場合を、雷管と発破器を接続する脚線の損傷「無し」と評価した。一方、発破前の目視検査で雷管と発破器を接続する脚線に損傷が有るか、又は、発破器を起動しても発破しなかった場合を、脚線の損傷「有り」と評価した。評価結果は表2に示すとおりであった。
【0044】
発破後に、脚線の回収を短時間で円滑に行うことができた場合を「A」、脚線の回収に長時間を要した場合を「B」とした。評価結果は表2に示すとおりであった。
【0045】
(実施例2~5:エアーデッキ発破)
石灰石鉱山の切羽高H、孔数、発破孔の全体長さL、薬長L1、空隙長L2、及び込物長L3の少なくとも一つを表1に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてエアーデッキ発破を行った。各評価結果は表2に示すとおりであった。
【0046】
(比較例1:シングルチャージ発破)
石灰石鉱山の岩盤の切羽高H5.0m、抵抗R2.6mの地点に、油圧クローラードリルを用いて直径95mmの発破孔を掘削した。発破孔の全体長さLは表1に示すとおりとした。発破孔の底面上に、脚線が接続された雷管を設置した。脚線の上端は、発破孔の開口の外側(地上面)に設置された発破器に接続した。発破孔の底面上に設置した雷管を覆うように親ダイを、親ダイの上側に増ダイをそれぞれ装填した。増ダイは、発破孔の底面から増ダイの上面までの薬長L1が3.4mとなるように装填した。発破孔の総薬量(親ダイ+増ダイ)は表2に示すとおりであった。
【0047】
続いて、空隙部を設けることなく、増ダイの上に込物として繰り粉を発破孔の開口(地上面)まで導入して充填した。込物長L3は表1に示すとおりであった。このようにして得られた発破孔を用いて実施例1と同様にして発破を行い、実施例1と同様にして各評価を行った。評価結果は表2に示すとおりであった。
【0048】
(比較例2:デッキチャージ発破)
石灰石鉱山の岩盤の切羽高H8.0m、抵抗R2.8mの地点に、油圧クローラードリルを用いて直径95mmの発破孔を掘削した。発破孔の全体長さLは表1に示すとおりとした。発破孔の底面上に、脚線が接続された雷管を設置した。脚線の上端は、発破孔の開口の外側(地上面)に設置された発破器に接続した。発破孔の底面上に設置した雷管を覆うように親ダイを、親ダイの上側に増ダイを、それぞれ装填した。
【0049】
続いて、空隙部を設けることなく、増ダイの上に込物として骨材を発破孔の開口(地上面)まで導入して充填した。充填した込物の上に、空隙部を設けることなく、増ダイ及び込物を充填した。このようにして、雷管/親ダイ/増ダイ/込物/増ダイ/込物の順で、発破孔内に、雷管、爆薬及び込物を配置した。作業時間の終点は、2層目の込物の充填が完了したときとした。表1には、雷管と親ダイ及び親ダイ(ともに2層分)との合計の長さを薬長L1として示し、込物(2層分)の合計の長さを込物長L3として示した。込物としては、比較例1で用いたものと同じ骨材を用いた。このようにして得られた発破孔を用いて実施例1と同様にして発破を行い、実施例1と同様にして各評価を行った。評価結果は表2に示すとおりであった。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
表1及び表2に示すとおり、実施例の方が比較例よりも、総薬量/鉱量の値が小さく、火薬原単位を小さくすることができた。いずれの実施例でも発破時に吹き上がりは生じず、袋体によって十分な閉塞効果が得られることが確認された。その結果、いずれの実施例でも、低周波音の音量は85dB未満であった。各実施例の発破をそれぞれ複数回行っても、85db以上の低周波音は検知されなかった。一方、比較例1,2では、85db以上の低周波音が検知された。比較例1,2の発破をそれぞれ複数回行って、85db以上の低周波音が発生する確率を求めた。その結果、比較例1では24%、比較例2では42%の確率で85db以上の低周波音が発生した。
【0053】
これらの結果から、各実施例の発破方法では、発破によって生じた衝撃波が発破孔の開口から外部に伝播することが抑制され、衝撃波が破砕に有効に利用されていることが確認できた。また、いずれの実施例においても、雷管の脚線に発破不可となるような損傷はなく、また、発破後は脚線を円滑に回収作業が行うことができた。また、各実施例の発破作業では大塊が発生することもなく、各種用途に有用な石灰石を製造することができた。各実施例では、ポリチューブに繰り粉を充填する作業を行ったが、作業時間を十分に短く維持することができた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
発破時に生じる低周波音を低減することが可能な発破方法、及び石灰石の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0055】
10…発破孔、10A…内壁面、12…開口、20…雷管、22…親ダイ、24…増ダイ、26…空隙部、28,28a,28b…込物、30…発破器、35…袋体、35A…上端、40…岩盤、41…切羽面、42…地上面、50…支持体、52…繰り粉。
図1
図2
図3