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特開2023-180874化合物及びその製造方法、蛍光標識剤、物質の標識方法、並びに有機蛍光材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180874
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】化合物及びその製造方法、蛍光標識剤、物質の標識方法、並びに有機蛍光材料
(51)【国際特許分類】
   C07D 493/04 20060101AFI20231214BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C07D493/04 101A
C07D493/04 CSP
C09K11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094528
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】岡田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】堀口 元規
(72)【発明者】
【氏名】王 子茉
(72)【発明者】
【氏名】神谷 秀博
【テーマコード(参考)】
4C071
【Fターム(参考)】
4C071AA01
4C071AA08
4C071BB01
4C071CC12
4C071DD04
4C071EE05
4C071FF15
4C071GG01
4C071GG03
4C071HH28
4C071KK01
4C071LL05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】有機蛍光色素として用いることができる化合物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物が提供される。

[式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、又は置換アミノ基を示す。R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基を示す。R、R、R、及びRからなる群より選ばれる2個は、互いに結合して、それぞれが結合する炭素原子とともに環を形成していてもよい。2個ずつ存在するR、R、R、及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される、化合物。
【化1】

[式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、又は置換アミノ基を示す。
、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基を示す。R、R、R、及びRからなる群より選ばれる2個は、互いに結合して、それぞれが結合する炭素原子とともに環を形成していてもよい。
2個ずつ存在するR、R、R、及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項2】
請求項1に記載の化合物の製造方法であって、
下記式(2)で表される化合物及び下記式(3)で表される化合物を含む混合溶液に電解反応を適用する工程を含む、化合物の製造方法。
【化2】

[式(2)中、R及びRは、前記と同義である。]
【化3】

[式(3)中、R、R、R、及びRは、前記と同義である。]
【請求項3】
請求項1に記載の化合物を含む、蛍光標識剤。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物を物質に結合する工程を含む、物質の標識方法。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物を含む、有機蛍光材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物及びその製造方法、蛍光標識剤、物質の標識方法、並びに有機蛍光材料に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光材料を活用した分析・イメージング・センシング技術は、基礎から応用に渡る広範な研究領域において必要不可欠なものとなっている。数ある蛍光材料の中でも、有機蛍光色素は、発光特性、生体適合性等の観点から自在に分子構造のチューニングが可能であることから、極めて有用性が高くなっている。例えば、非特許文献1~3には、様々な分子構造を有する有機蛍光色素が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】M.Shimizu,Y.Takeda,M.Higashi,T.Hiyama,Angew.Chem.,Int.Ed.2009,48,3653-3656.
【非特許文献2】M.Shimizu,Chem.Rec.2021,21,1-18.
【非特許文献3】J.Kim,J.H.Oh,D.Kim,Org.Biomol.Chem.2021,19,933-946.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、有機蛍光色素として用いることができる新規な化合物及びその製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、[1]に記載の化合物、[2]に記載の化合物の製造方法、[3]に記載の蛍光標識剤、[4]に記載の物質の標識方法、及び[5]に記載の有機蛍光材料を提供する。
【0006】
[1]下記式(1)で表される、化合物。
【化1】

[式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、又は置換アミノ基を示す。
、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基を示す。R、R、R、及びRからなる群より選ばれる2個は、互いに結合して、それぞれが結合する炭素原子とともに環を形成していてもよい。2個ずつ存在するR、R、R、及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよい。]
[2][1]に記載の化合物の製造方法であって、下記式(2)で表される化合物及び下記式(3)で表される化合物を含む混合溶液に電解反応を適用する工程を含む、化合物の製造方法。
【化2】

[式(2)中、R及びRは、前記と同義である。]
【化3】

[式(3)中、R、R、R、及びRは、前記と同義である。]
[3][1]に記載の化合物を含む、蛍光標識剤。
[4][1]に記載の化合物を物質に結合する工程を含む、物質の標識方法。
[5][1]に記載の化合物を含む、有機蛍光材料。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、有機蛍光色素として用いることができる新規な化合物及びその製造方法が提供される。また、このような化合物によれば、様々な溶媒中で蛍光を発現する。いくつかの態様の化合物は、500nmを超える発光波長を示す。さらに、本発明によれば、このような化合物を用いた、蛍光標識剤、物質の標識方法、及び有機蛍光材料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0009】
本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0010】
本明細書中、以下で例示する材料は、特に断らない限り、条件に該当する範囲で、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。各成分の含有量は、各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、当該複数の物質の合計量を意味する。
【0011】
[共通用語]
以下、本明細書で共通して用いられる用語は、特記しない限り、以下の意味である。
【0012】
「ハロゲン原子」としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられる。
【0013】
「アルキル基」は、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、又は環状アルキル基(シクロアルキル基)のいずれであってもよい。直鎖アルキル基の炭素原子数は、通常1~20であり、1~10、1~6、又は1~4であってもよい。分岐アルキル基の炭素原子数は、通常3~20であり、3~10、3~6、又は3~4であってもよい。環状アルキル基の炭素原子数は、通常3~20であり、3~10又は3~6であってもよい。アルキル基は、置換基を有していてもよい。なお、アルキル基の炭素原子数には、置換基の炭素原子数は含まれない。
【0014】
直鎖アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-ドデシル基、n-ヘキサデシル基等が挙げられる。
【0015】
分岐アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、2-エチルヘキシル基、3,7-ジメチルオクチル基、2-ヘキシルデシル基、2-オクチルドデシル基、2-デシルテトラデシル基等が挙げられる。
【0016】
環状アルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等が挙げられる。
【0017】
置換基を有するアルキル基としては、例えば、メトキシエチル基、ベンジル基、トリフルオロメチル基、パーフルオロヘキシル基、クロロメチル基が挙げられる。
【0018】
「アルコキシ基」は、直鎖アルコキシ基、分岐アルコキシ基、又は環状アルコキシ基(シクロアルコキシ基)のいずれであってもよい。直鎖アルコキシ基の炭素原子数は、通常1~20であり、1~10、1~6、又は1~4であってもよい。分岐アルコキシ基の炭素原子数は、通常3~20であり、3~10、3~6、又は3~4であってもよい。環状アルコキシ基の炭素原子数は、通常3~20であり、3~10又は3~6であってもよい。アルコキシ基は、置換基を有していてもよい。なお、アルコキシ基の炭素原子数には、置換基の炭素原子数は含まれない。
【0019】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、n-ヘキサデシルオキシ基等の直鎖アルコキシ基;イソプロピルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、3,7-ジメチルオクチルオキシ基、2-ヘキシルデシルオキシ基、2-オクチルドデシルオキシ基、2-デシルテトラデシルオキシ基等の分岐アルコキシ基;シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の環状アルコキシ基が挙げられる。
【0020】
「アリール基」は、芳香族炭化水素から環を構成する炭素原子に直接結合する水素原子1個を除いた基である。芳香族炭化水素の炭素原子数は、通常6~60であり、6~20又は6~10であってよい。アリール基は、置換基を有していてもよい。なお、アリール基の炭素原子数には、置換基の炭素原子数は含まれない。
【0021】
芳香族炭化水素には、ベンゼン、ベンゼンを含む炭化水素縮合環化合物、ベンゼン及びベンゼンを含む炭化水素縮合環化合物からなる群から選ばれる2個以上が直接結合した化合物が含まれる。
【0022】
アリール基としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントラセニル基、2-アントラセニル基、9-アントラセニル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、2-フルオレニル基、3-フルオレニル基、4-フルオレニル基、4-フェニルフェニル基が挙げられる。
【0023】
「置換アミノ基」は、第2級アミノ基又は第3級アミノ基であってよい。置換アミノ基が有する基としては、アルキル基、アリール基等が挙げられる。これらの基は置換基を有していてもよい。置換アミノ基が有する基が複数存在する場合、それらは同一で異なっていてもよく、互いに結合して、それぞれが結合する窒素原子とともに環を形成していてもよい。
【0024】
「置換基」は、有機化学の分野で一般的に取り得る基である。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、置換アミノ基等が挙げられる。
【0025】
本明細書において、Meはメチル基を表し、Phはフェニル基を表す。また、DMFはN,N-ジメチルホルムアミドを表し、DMSOはジメチルスルホキシドを表す。
【0026】
本明細書において、室温は25℃を表す。
【0027】
[化合物]
本実施形態の化合物は、式(1)で表される化合物である。
【0028】
【化4】
【0029】
式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基(-OH)、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基(-NH)、又は置換アミノ基を示す。R及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよいが、化合物の合成及び対称性の観点から、互いに同一であることが好ましい。R及びRは、水素原子、ヒドロキシ基、アルキル基、アルコキシ基、及び置換アミノ基からなる群より選ばれる1種であってよい。R及びRは、化合物の発光波長の長波長化の観点から、アルキル基又は水素原子であってよく、水素原子であってもよい。
【0030】
及びRにおけるハロゲン原子は、塩素原子であってよい。
【0031】
及びRにおけるアルキル基は、直鎖アルキル基又は分岐アルキル基であってよく、直鎖アルキル基であってもよい。アルキル基は、炭素原子数1~6のアルキル基であってよく、メチル基であってもよい。
【0032】
及びRにおけるアルコキシ基は、直鎖アルコキシ基又は分岐アルコキシ基であってよく、直鎖アルコキシ基であってもよい。アルコキシ基は、炭素原子数1~6のアルコキシ基であってよく、メトキシ基であってもよい。
【0033】
及びRにおける置換アミノ基は、第2級アミノ基又は第3級アミノ基であってよく、第2級アミノ基であってもよい。置換アミノ基は、炭素原子数1~6のアルキル基を有する第2級アミノ基であってもよい。
【0034】
式(1)中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基を示す。R、R、R、及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよい。R、R、R、及びRからなる群より選ばれる2個は、互いに結合して、それぞれが結合する炭素原子とともに環を形成していてもよい。2個ずつ存在するR、R、R、及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよいが、化合物の合成及び対称性の観点から、互いに同一であることが好ましい。R、R、R、及びRにおいて、アルキル基及びアリール基の数は、少なくとも1個(1個以上)であってよく、少なくとも3個(3個以上)であってもよい。
【0035】
、R、R、及びRにおけるアルキル基は、直鎖アルキル基又は分岐アルキル基であってよく、直鎖アルキル基であってもよい。アルキル基は、炭素原子数1~6のアルキル基であってよく、メチル基であってもよい。
【0036】
、R、R、及びRにおけるアリール基は、炭素原子数6~10の芳香族炭化水素から環を構成する炭素原子に直接結合する水素原子1個を除いた基であってよく、フェニル基であってもよい。
【0037】
式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、式(1-1)~式(1-6)で表される化合物等が挙げられる。
【0038】
【化5】
【0039】
[化合物の製造方法]
本実施形態の化合物の製造方法は、式(2)で表される化合物及び式(3)で表される化合物を含む混合溶液に電解反応を適用し、式(1)で表される化合物を得る工程を含む。
【0040】
【化6】
【0041】
式(2)中、R及びRは、前記と同義である。
【0042】
式(2)で表される化合物の具体例としては、2,5-ジヒドロキシテレフタルアルデヒド、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジアルキル、2,5-ジヒドロキシ-N,N’-ジアルキルテレフタル酸アミド、1,4-ジアシル-2,5-ジヒドロキシベンゼン等が挙げられる。
【0043】
【化7】
【0044】
式(3)中、R、R、R、及びRは、前記と同義である。
【0045】
式(3)で表される化合物のR、R、R、及びRにおいて、アルキル基及びアリール基の数は、少なくとも1個(1個以上)であってよく、少なくとも3個(3個以上)であってもよい。言い換えれば、式(3)で表される化合物は、一置換アルケン、二置換アルケン、三置換アルケン、及び四置換アルケンからなる群より選ばれる少なくとも1種であってよく、三置換アルケン及び四置換アルケンからなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。なお、二置換アルケンは、1,1-二置換アルケン(末端アルケン)であることが好ましい。
【0046】
式(3)で表される化合物の具体例としては、スチレン及びその誘導体等の一置換アルケン;イソブテン、α-メチルスチレン、2-エチル-1-ブテン、メチレンシクロヘキサン、メチレンシクロペンタン、メチレンシクロブタン、メチレンシクロプロパン、1,1-ジフェニルエチレン、ジベンゾフルベン、スチルベン等の二置換アルケン;2-メチル-2-ブテン、1-メチル-1-シクロヘキセン、1-メチル-1-シクロペンテン、シトロネル酸等の三置換アルケン;2,3-ジメチル-2-ブテン、1,2-ジメチルシクロヘキセン、1,2-ジメチルシクロペンテン等の四置換アルケンなどが挙げられる。これらの中でも、式(3)で表される化合物は、合成の観点から、2-メチル-2-ブテン又は2,3-ジメチル-2-ブテンであってよい。
【0047】
式(3)で表される化合物の添加量は、式(2)で表される化合物1当量に対して、例えば、2当量以上、5当量以上、又は8当量以上であってよい。当該割合が大きいほど、反応性に優れる傾向にある。当該割合は、副反応の抑制の観点から、例えば、20当量以下であってよい。
【0048】
混合溶液は、溶媒をさらに含んでいてもよい。溶媒としては、電解反応を適用できるのであれば特に制限されないが、例えば、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロアルカン溶媒;アセトニトリル等のニトリル溶媒などが挙げられる。溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。これらの中でも、溶媒は、収率の観点から、ニトロアルカン溶媒であってよい。ニトロアルカン溶媒は、ニトロメタンであってよい。すなわち、溶媒は、一実施形態において、ニトロメタンであってよい。
【0049】
溶媒の総量に対する、式(2)で表される化合物及び式(3)で表される化合物の総量の濃度は、モル濃度(mol/L)で、例えば、0.1mmol/L~5mol/Lであってよく、0.5mmol/L~3mol/L又は1mmol/L~1mol/Lであってもよい。
【0050】
混合溶液は、電解反応における導電性を高める観点から、支持電解質をさらに含んでいてもよい。支持電解質としては、電解反応を適用できるのであれば特に制限されないが、例えば、アルカリ金属(Li等)イオン等のカチオン部位と、過塩素酸イオン等のアニオン部位との組み合わせである塩などが挙げられる。これらの中でも、収率の観点から、カチオン部位はリチウムイオンであってよく、アニオン部位は過塩素酸イオンであってよい。すなわち、支持電解質は、一実施形態において、過塩素酸リチウムであってよい。
【0051】
溶媒の総量に対する支持電解質の濃度は、モル濃度(mol/L)で、例えば、0.5~10mol/Lであってよく、1~8mol/L又は2~5mol/Lであってよい。
【0052】
混合溶液は、種々の添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、有機酸等が挙げられる。
【0053】
有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、トリフルオロ酢酸等が挙げられる。有機酸を使用することにより、生成物である式(1)で表される化合物の収率が向上する傾向にある。これらの中でも、有機酸は、酢酸であってもよい。
【0054】
本実施形態の化合物の製造方法においては、式(2)で表される化合物及び式(3)で表される化合物、並びに、必要に応じて、溶媒、支持電解質、添加剤等を含む混合溶液に電解反応を適用する。電解反応は、式(2)で表される化合物を電気化学的に酸化する反応(電解酸化反応)であり得る。
【0055】
電解反応は、例えば、電極を備える電解槽を用いて行うことができる。電解槽においては、陽極(作用電極)及び陰極(補助電極)の少なくとも2つの電極を備える。電解槽としては、2つの電極が同一の槽内に設置される一室型電解槽(無隔膜電解槽)、2つの電極が異なる槽内に設置される二室型電解槽(隔膜付電解槽)等が挙げられる。本実施形態の化合物の製造方法においては、一室型電解槽(無隔膜電解槽)を用いることが好ましい。
【0056】
電解反応は、陽極(作用電極)及び陰極(補助電極)の二電極法によるものであってよく、参照電極を加えた三電極法によるものであってもよい。陽極及び陰極としては、例えば、グラッシーカーボン、カーボンフェルト、白金、金、パラジウム、グラファイト、ITO(酸化インジウムスズ)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)等からなる電極が挙げられる。これらの中でも、収率の観点から、陽極はカーボンフェルトであってよく、陰極は白金であってよい。参照電極としては、例えば、可逆水素電極(RHE)、銀-塩化銀電極(Ag/AgCl)、Ag/Ag電極(例えば、銀-硝酸銀(Ag/Ag))、カロメル電極(SCE)、パラジウム-水素電極(Pd/H)等が挙げられる。これらの中でも、参照電極は、銀-塩化銀電極(Ag/AgCl)であってよい。
【0057】
電解反応を行う雰囲気は、特に制限されないが、酸素分子による副反応を避ける観点から、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であってよい。
【0058】
混合溶液を電解槽に投入後、混合液に対して電位を印加することによって、電解反応を適用させる(進行させる)ことができる。印加する電位は、一定であっても、変動させてもよい。電解反応は、印加する電位が一定である定電位電解であってよい。
【0059】
混合液に印加する電位は、任意に設定することができるが、印加する電位が低すぎると、式(2)で表される化合物を充分に酸化することができない場合があり、印加する電位が高すぎると、生成物までも酸化されてしまう場合がある。混合液に印加する電位は、例えば、銀-塩化銀電極(Ag/AgCl)に対して、1~5Vであってよい。混合液に印加する電位は、銀-塩化銀電極(Ag/AgCl)に対して、1.2V以上、1.3V以上、又は1.5V以上であってもよく、3V以下、2V以下、又は1.8V以下であってもよい。
【0060】
電解反応における通電量は、式(2)で表される化合物に対して、0.1~20F/mol、1~10F/mol、又は3~5F/molであってよい。
【0061】
電解反応は、一実施形態において、以下の電極材料を用いて、以下の電解条件で行うことが好ましい。このような条件で電解反応を行うことで、式(1)で表される化合物の収率向上が期待できる。
・陽極:カーボンフェルト
・陰極:白金
・印加電位:1.5~1.8V(vs.Ag/AgCl)の定電位
・通電量:3~5F/mol
【0062】
このようにして、式(2)で表される化合物及び式(3)で表される化合物を含む混合溶液に電解反応を適用することにより、副反応を抑制しつつ、式(1)で表される化合物を効率よく得ることができる。
【0063】
本実施形態の化合物の製造方法は、得られた式(1)で表される化合物を精製する工程をさらに含んでいてもよい。精製法としては、例えば、ろ過、抽出、結晶化、蒸留、各種クロマトグラフィー等の通常用いられる精製法が挙げられる。これらの精製法は、単独で又は複数を適宜組み合わせてもよい。
【0064】
[蛍光標識剤]
本実施形態の蛍光標識剤は、上記の式(1)で表される化合物を含む。
【0065】
式(1)で表される化合物は、蛍光標識剤として使用することができる。式(1)で表される化合物によって蛍光標識される物質は、特に制限されないが、例えば、ペプチド、タンパク質、核酸、脂質、糖鎖等の生理活性物質;アガロース、セルロース等の高分子(高分子担体);天然樹脂、合成樹脂等の樹脂(樹脂担体)などであってよい。
【0066】
[物質の標識方法]
本実施形態の物質の標識方法は、上記の式(1)で表される化合物を物質(式(1)で表される化合物によって蛍光標識される物質)に結合する工程を含む。
【0067】
式(1)で表される化合物と物質との間で形成される結合としては、例えば、化学的結合、物理的結合等が挙げられる。式(1)で表される化合物を物質に化学的結合させる方法としては、例えば、式(1)で表される化合物が有する基(例えば、ホルミル基)と、この基と反応可能な官能基(例えば、アミノ基)を有する物質とを反応させる方法が挙げられる。この場合、付加・脱水反応を経由して、N=C結合を形成することが予想される。式(1)で表される化合物と物質とは、直接結合していてもよく、リンカー(連結基)を介して結合していてもよい。物質と結合している式(1)で表される化合物は、物質と結合していない式(1)で表される化合物と発光波長が異なると推測されることから、物質を標識することが可能となる。
【0068】
[有機蛍光材料]
本実施形態の有機蛍光材料は、上記の式(1)で表される化合物を含む。
【0069】
有機蛍光材料は、天然樹脂、合成樹脂等の樹脂をさらに含んでいてもよい。本実施形態の有機蛍光材料は、蛍光パターニング材料、蛍光スイッチング材料、蛍光センサー材料等として、様々な用途に応用することができる。
【実施例0070】
以下、本発明について実施例を挙げてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0071】
化合物の構造は、核磁気共鳴(NMR)分光法等の公知の方法で、その構造を確認した。化合物の発光特性は、分光光度計等の公知の方法で、その特性を確認した。
【0072】
NMR測定は、測定試料を重クロロホルム(CDCl)に溶解させ、NMR装置(日本電子株式会社(JEOL)製、JNM-ECA500)を用いて測定した。
【0073】
化合物の蛍光特性(励起波長(λex)、蛍光波長(λem)、及び蛍光量子収率(Φf))は、測定試料を各種溶媒に溶解させ、分光蛍光光度計(日本分光株式会社(JASCO)製、FP-8300)を用いて測定した。なお、測定用溶液は、10-5~10-4mol/L程度の濃度のものを用いた。また、蛍光量子収率(Φf)は、当該分光蛍光光度計に、積分球ユニット(日本分光株式会社(JASCO)製、ILF-835型)を用いることによって測定した。
【0074】
(実施例1)
<化合物(1-1)の合成>
【化8】
【0075】
化合物(2-1)は、2,5-ジメトキシベンゼン-1,4-ジカルボキシアルデヒド(シグマアルドリッチ社)を出発原料とし、メトキシ基の脱メチル化を行うことによって合成した。一室型電解槽に、20mLの3mol/Lの過塩素酸リチウム/ニトロメタン溶液を加え、当該溶液をArバブリングした。続いて、一室型電解槽に、0.050mmolの化合物(2-1)、化合物(2-1)に対して10モル当量の化合物(3-1)(東京化成工業株式会社)、及び915μL(0.8mol/L)の酢酸を加えて、混合溶液を調製した。次に、陽極にカーボンフェルトを、陰極に白金を用いて、1.5~1.8V(vs.Ag/AgCl)の定電位条件で電解反応を行った。4F/molを通電した後の混合液を水で希釈し、酢酸エチルで抽出した。続いて、有機相を減圧濃縮し、カラムクロマトグラフィーによって目的生成物である化合物(1-1)を得た(収率53%)。化合物(1-1)のNMRの測定結果を以下に示す。また、化合物(1-1)の各溶媒における蛍光特性の測定結果を表1に示す。
【0076】
HNMR(500MHz,CDCl):δ10.33(2H,d,J=2.86Hz),3.49(2H,qui,J=28.07Hz),1.51(6H,d,J=2.29Hz),1.34(6H,d,J=10.88Hz),1.13(6H,dd,J=12.60,6.87Hz).
13C{H}NMR(125MHz,CDCl):δ189.4,155.7,155.5,134.3,134.3,120.5,120.5,91.5,91.4,44.8,44.7,28.6,22.5,15.9,15.7.
【0077】
【表1】
【0078】
(実施例2)
<化合物(1-2)の合成>
【化9】
【0079】
化合物(2-1)を化合物(2-2)(東京化成工業株式会社)に変更した以外は、実施例1と同様に電解反応を行い、目的生成物である化合物(1-2)を得た(収率14%)。化合物(1-2)のNMRの測定結果を以下に示す。また、化合物(1-2)の各溶媒における蛍光特性の測定結果を表2に示す。
【0080】
HNMR(500MHz,CDCl):δ10.78(2H,d,J=43.53Hz),3.28(2H,dqua,J=12.89,20.62,18.90Hz),1.56(6H,s),1.40(6H,d,J=3.44Hz),1.24(6H,dd,J=7.16,4.01,3.44Hz).
13C{H}NMR(125MHz,CDCl):δ168.7,168.7,149.6,149.5,130.6,130.2,118.7,112.4,112.3,85.1,84.9,34.8,34.7,27.5,27.5,25.7,25.7,15.9,15.7.
【0081】
【表2】
【0082】
(実施例3)
<化合物(1-3)の合成>
【化10】
【0083】
化合物(2-3)は、ジカルボン酸体である化合物(2-2)を出発原料とし、メタノールと反応させてエステル化を行うことによって合成した。化合物(2-1)を化合物(2-3)に変更した以外は、実施例1と同様に電解反応を行い、目的生成物である化合物(1-3)を得た(収率59%)。化合物(1-3)のNMRの測定結果を以下に示す。また、化合物(1-3)の各溶媒における蛍光特性の測定結果を表3に示す。
【0084】
HNMR(500MHz,CDCl):δ3.90(6H,d,J=4.01Hz),3.40(2H,dqua,J=14.32,21.19Hz),1.46(6H,d,J=14.89Hz),1.35(6H,d,J=21.19Hz),1.09(6H,dd,J=6.87,4.01Hz).
13C{H}NMR(125MHz,CDCl):δ165.7,165.6,151.8,151.8,135.4,135.2,114.7,114.7,89.6,89.6,52.0,52.0,45.9,28.4,28.3,22.5,22.5,16.4,16.3.
【0085】
【表3】
【0086】
(実施例4)
<化合物(1-4)の合成>
【化11】
【0087】
化合物(2-4)は、ジカルボン酸体である化合物(2-2)を出発原料とし、Lett.Org.Chem.2017,14,764-768に記載の方法に準じて合成した。化合物(2-1)を化合物(2-4)に変更した以外は、実施例1と同様に電解反応を行い、目的生成物である化合物(1-4)を得た(収率28%)。化合物(1-3)のNMRの測定結果を以下に示す。また、化合物(1-4)の各溶媒における蛍光特性の測定結果を表4に示す。
【0088】
HNMR(500MHz,CDCl):δ8.04(2H,d,J=5.15Hz),3.82(2H,qua,J=21.19Hz),3.38(4H,m,J=69.88Hz),1.63(4H,m,J=37.23Hz),1.49(6H,s),1.32(6H,d,J=16.04Hz),1.15(6H,dd,J=12.60,6.87Hz),0.99(6H,t,J=7.40Hz).
13C{H}NMR(125MHz,CDCl):δ164.4,164.3,150.5,150.4,135.7,135.7,115.9,115.9,90.8,90.7,45.4,45.3,41.2,28.5,28.5,22.7,22.7,16.7,16.6,11.6,11.5.
【0089】
【表4】
【0090】
(実施例5)
<化合物(2-5)の合成>
【化12】
【0091】
ジカルボン酸体である化合物(2-2)を出発原料とし、メタノールと反応させてエステル化を行うことによって化合物(A)を得た。次いで、化合物(A)をヨードメタンと反応させて、フェノール水酸基のメトキシ基への変換を行うことによって化合物(B)を得た。次いで、化合物(B)のエステルの加水分解を行うことによって、化合物(C)を合成した。
【0092】
【化13】
【0093】
合成した化合物(C)をメチルリチウムと反応させて、カルボキシル基のアセチル基への変換を行うことによって化合物(D)を得た。なお、化合物(C)から化合物(D)への反応は、Bull.Korean Chem.Soc.2005,26,9に記載の反応条件を参考にして行った。次いで、三臭化ホウ素を用いて、化合物(D)のメトキシ基の脱メチル化を行うことによって化合物(2-5)を得た。収率は、トータル収率で16%であった。
【0094】
<化合物(1-5)の合成>
【化14】
【0095】
化合物(2-1)を化合物(2-5)に変更した以外は、実施例1と同様に電解反応を行い、目的生成物である化合物(1-5)を得た(収率30%)。化合物(1-5)のNMRの測定結果を以下に示す。また、化合物(1-5)の各溶媒における蛍光特性の測定結果を表5に示す。
【0096】
HNMR(500MHz,CDCl):δ3.52(2H,dqui,J=20.62,20.62Hz),2.60(6H,d,J=4.58Hz),1.44(6H,d,J=6.87Hz),1.32(6H,d,J=28.64Hz),1.07(3H,d,J=7.45Hz),1.01(3H,d,J=6.87Hz).
13C{H}NMR(125MHz,CDCl):δ199.2,199.0,152.2,152.1,134.9,134.6,122.1,121.9,89.9,89.8,45.1,44.8,32.8,32.6,28.4,22.6,16.2,16.0.
【0097】
【表5】
【0098】
(実施例6)
<化合物(1-6)の合成>
【化15】
【0099】
化合物(3-1)を化合物(3-2)(東京化成工業株式会社)に変更した以外は、実施例1と同様に電解反応を行い、目的生成物である化合物(1-6)を得た(収率28%)。化合物(1-6)のNMRの測定結果を以下に示す。また、化合物(1-6)は化合物(1-1)と類似の構造を有していることから、化合物(1-6)の各溶媒における蛍光特性は、化合物(1-1)と同様の蛍光特性を示すことが予測される。
【0100】
HNMR(500MHz,CDCl):δ10.40(2H,s),1.34(12H,s),1.32(12H,s).
13C{H}NMR(125MHz,CDCl):δ189.8,155.9,136.9,121.5,93.5,47.8,22.9,22.2.
【0101】
以上のとおり、本発明の化合物が、有機蛍光色素として用いることができることが確認された。また、化合物(1-1)及び化合物(1-5)は、発光波長が長波長化しており、特に、化合物(1-1)は、各溶媒において、500nmを超える発光波長を示すことが判明した。