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特開2023-180980PM2.5の炎症誘導性を評価する方法、およびその利用
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  • 特開-PM2.5の炎症誘導性を評価する方法、およびその利用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180980
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】PM2.5の炎症誘導性を評価する方法、およびその利用
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094692
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】390011442
【氏名又は名称】株式会社マンダム
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】河野 まおり
(72)【発明者】
【氏名】高石 雅之
(72)【発明者】
【氏名】池田 英史
(72)【発明者】
【氏名】石原 康宏
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA07
4B063QQ89
4B063QR56
4B063QR72
4B063QS25
4B063QS33
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】新規なPM2.5の炎症誘導性を評価する方法、およびその利用技術を提供する。
【解決手段】CXCケモカイン、CXCケモカイン受容体、CCケモカイン、および、CCケモカイン受容体からなる群より選択される少なくとも1種の指標に基づいて、PM2.5の炎症誘導性を評価する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PM2.5の炎症誘導性を評価する方法であって、
評価対象のPM2.5をケラチノサイト細胞および/または角膜上皮細胞に接触させる接触工程と、
前記細胞における以下の(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも1種の指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を測定する測定工程と、
を有する、PM2.5の炎症誘導性を評価する方法。
(a)CXCケモカイン
(b)CXCケモカイン受容体
(c)CCケモカイン
(d)CCケモカイン受容体
【請求項2】
請求項1に記載の方法により、炎症誘導性を有すると評価されたPM2.5と、炎症抑制物質の候補物質とを、ケラチノサイト細胞および/または角膜上皮細胞に接触させる接触工程と、
前記細胞における以下の(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも1種の指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を測定する測定工程と、
を有する、PM2.5に起因する炎症を抑制する物質のスクリーニング方法。
(a)CXCケモカイン
(b)CXCケモカイン受容体
(c)CCケモカイン
(d)CCケモカイン受容体
【請求項3】
以下の(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも1種の指標の遺伝子またはタンパク質に特異的に結合するプローブを備えている、PM2.5の炎症誘導性を評価するための評価キット。
(a)CXCケモカイン
(b)CXCケモカイン受容体
(c)CCケモカイン
(d)CCケモカイン受容体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PM2.5の炎症誘導性を評価する方法、およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染の問題が深刻化し、呼吸器系のみならず、皮膚および目への影響が懸念されている。大気汚染物質の代表として挙げられるPM2.5(微小粒子状物質)は、自動車の排気ガスまたは工場からの排煙などに由来する微粒子状物質であり、皮膚および目に付着した後に当該組織に浸透することによって炎症を誘導し、当該組織を構成する細胞を損傷させることが知られている。
【0003】
これまでに、PM2.5に誘発される皮膚トラブルおよび呼吸器系疾患の増悪を抑制する成分がスクリーニングされている(特許文献1および特許文献2)。
【0004】
PM2.5によって炎症が誘発されるメカニズムとしては、転写因子であるAryl hydrocarbon receptor(AhR)にPM2.5が作用することによって活性酸素種が発生し、当該活性酸素種のシグナル伝達経路の下流に存在するサイトカイン(例えば、PGE2、およびIL-8)の産生が誘導され、当該サイトカインによって炎症が誘発されるメカニズムが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再表2018/225718号公報
【特許文献2】特開2020-125281号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Peng F. et al., “Potential role of PM2.5 in melanogenesis” Environment International, 2019 Nov;132:105063
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、PM2.5の炎症誘導性については、十分に理解されておらず、PM2.5の炎症誘導性(例えば、皮膚および目に対するPM2.5の炎症誘導性)について、さらなる検討の余地があった。
【0008】
本発明は、上述の問題に鑑みなされたものであって、PM2.5が炎症を誘導する未知のメカニズムを明らかにし、当該メカニズムに基づいた、新規なPM2.5の炎症誘導性を評価する方法、およびその利用技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の発明を包含する。
【0010】
〔1〕PM2.5の炎症誘導性を評価する方法であって、
評価対象のPM2.5をケラチノサイト細胞および/または角膜上皮細胞に接触させる接触工程と、上記細胞における以下の(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも1種の指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を測定する測定工程と、を有する、PM2.5の炎症誘導性を評価する方法:
(a)CXCケモカイン
(b)CXCケモカイン受容体
(c)CCケモカイン
(d)CCケモカイン受容体。
【0011】
〔2〕〔1〕に記載の方法により、炎症誘導性を有すると評価されたPM2.5と、炎症抑制物質の候補物質とを、ケラチノサイト細胞および/または角膜上皮細胞に接触させる接触工程と、上記細胞における以下の(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも1種の指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を測定する測定工程と、
を有する、PM2.5に起因する炎症を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)CXCケモカイン
(b)CXCケモカイン受容体
(c)CCケモカイン
(d)CCケモカイン受容体。
【0012】
〔3〕以下の(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも1種の指標の遺伝子またはタンパク質に特異的に結合するプローブを備えている、PM2.5の炎症誘導性を評価するための評価キット:
(a)CXCケモカイン
(b)CXCケモカイン受容体
(c)CCケモカイン
(d)CCケモカイン受容体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、新規なPM2.5の炎症誘導性を評価する方法、およびその利用技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】PM2.5に接触させた後の、ケラチノサイト細胞におけるCXCケモカイン、および、CCケモカインの定量結果を示すグラフである。
図2】PM2.5に接触させた後の、角膜上皮細胞におけるCXCケモカイン、および、CCケモカインの定量結果を示すグラフである。
図3】炎症誘導性を有するPM2.5および被験物質に接触させた後の、三次元皮膚モデル細胞におけるCXCケモカインの定量結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。本発明は、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「X~Y」は、「X以上Y以下」を意図する。
【0016】
〔1.PM2.5の炎症誘導性を評価する方法〕
本発明の一実施形態に係るPM2.5の炎症誘導性を評価する方法は、評価対象のPM2.5をケラチノサイト細胞および/または角膜上皮細胞に接触させる接触工程と、上記細胞における以下の(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも1種の指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を測定する測定工程と、を有する;(a)CXCケモカイン、(b)CXCケモカイン受容体、(c)CCケモカイン、(d)CCケモカイン受容体。
【0017】
PM2.5は、採取された時期および/または場所によって、含有する金属イオン等の組成が異なることが知られている。本発明者らは、上記課題について鋭意検討し、異なる場所で採取されたPM2.5に関して、炎症を強く誘導することが知られているケモカインおよび/またはケモカイン受容体の発現に与える影響を調べた結果、特定のPM2.5が、炎症を強く誘導することが知られているケモカインおよび/またはケモカイン受容体の発現に影響を及ぼすことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0018】
特に、従来、PM2.5は、サイトカインを介して炎症を誘導することが知られていたが、ケモカインおよび/またはケモカイン受容体との関連は報告がなく、全くの新規知見である。サイトカインのみならず、ケモカインおよび/またはケモカイン受容体の産生も誘導するPM2.5は、毒性が高いと推測される。したがい、本発明によれば、サイトカインだけでなく、ケモカインおよび/またはケモカイン受容体の産生も誘導する、より悪性度が高い(皮膚への悪影響が大きい)PM2.5を評価し得る点で、技術的意義が大きいといえる。それゆえ、本発明は、PM2.5に関連する病気等の脅威の低減に繋がることから、例えば、持続可能な開発目標(SDGs)の目標3(あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する)の達成に貢献し得る。
【0019】
本発明の一実施形態に係る「PM2.5の炎症誘導性を評価する方法」は、「PM2.5のケモカインおよび/またはケモカイン受容体の発現誘導性を評価する方法」であってもよい。
【0020】
本発明において、PM2.5により誘導される炎症としては、限定されるものではないが、例えば、皮膚、目(例えば、角膜、結膜、眼瞼など)、および呼吸器(例えば、肺、気管支など)などの器官で発症する炎症を挙げることができる。ケラチノサイト細胞および角膜上皮細胞などの上皮細胞は、上述した器官の表層に多く存在する。それ故に、上記構成であれば、より精度高く、PM2.5の炎症誘導性を評価することができる。
【0021】
〔1-1.接触工程〕
接触工程は、評価対象のPM2.5を、ケラチノサイト細胞および/または角膜上皮細胞に接触させる工程である。
【0022】
(PM2.5)
PM2.5とは、大気中に浮遊している、粒径が2.5μm以下の粒子のことをいう。より具体的に、PM2.5は、粒径が2.5μm以下の粒子を分離できる分粒装置を用いて、大気中に浮遊する粒子から粒径が2.5μmよりも大きい粒子を除去した後に採取される粒子であってもよい。
【0023】
評価対象のPM2.5は、所望の地点で採取されたものであってもよく、所望の地点で採取された粒子から粒径が2.5μmよりも大きい粒子を除去して得られるものであってもよく、市販製品であってもよい。
【0024】
(細胞)
本発明の一実施形態において用いられる細胞は、ケラチノサイト細胞および/または角膜上皮細胞である。
【0025】
当該細胞は、例えば、生体から採取された野生型の細胞、生体から採取された細胞を株化した細胞、これらの形質転換細胞、組織モデル(例えば、三次元皮膚モデル)に含まれる生体から採取された野生型の細胞、組織モデル(例えば、三次元皮膚モデル)に含まれる生体から採取された細胞を株化した細胞、または、組織モデル(例えば、三次元皮膚モデル)に含まれるこれらの形質転換細胞であってもよい。また、用いられる細胞が多層化された市販の三次元モデルであってもよい。
【0026】
本発明の一実施形態において用いられる細胞の由来としては、哺乳動物であれば特に限定されず、例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ等が挙げられるが、ヒトであることが好ましい。
【0027】
(接触方法)
上記細胞をPM2.5に接触させる方法は、特に限定されず、公知の方法であってよい。例えば、細胞を培養する培地に、PM2.5を添加してインキュベーションする方法、または、当該細胞にPM2.5を直接添加する方法等が挙げられる。
【0028】
培地に被験物質を添加してインキュベーションする方法は、用いられる細胞の種類に応じて適宜に選択することができ、かかる方法としては、単層静置培養法、浮遊培養法、回転培養法、三次元担体培養法等が挙げられる。
【0029】
上記培地としては、用いられる細胞が生育するのに適した成分(例えば、グルコース、アミノ酸、ペプトン、ビタミン、細胞増殖促進因子(例えば、細胞成長因子、ホルモン、結合タンパク質、細胞接着因子、脂質)、血清(例えば、FBS、FCS等)、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等)を含む培地を用いることができる。上記培地は、市販されている培地であってもよい。細胞の培養に用いられる培地としては、例えば、MEM培地、DMEM培地、Ham’s F-12培地等が挙げられる。用いられる細胞がケラチノサイト細胞である場合、EpiLife培地等が用いられ得る。用いられる細胞が角膜上皮細胞である場合、EMEM培地等が用いられ得る。
【0030】
また、インキュベーション温度、および二酸化炭素濃度等の条件は、用いられる細胞に応じて適宜設定される。例えば、ケラチノサイト細胞を用いる場合、かかる細胞は、通常、4~6体積%二酸化炭素を含む雰囲気中で、36.0~38.0℃、好ましくは36.5~37.5℃でインキュベーションすればよく、角膜上皮細胞を用いる場合、かかる細胞は、通常、4~6体積%二酸化炭素を含む雰囲気中で、36.0~38.0℃、好ましくは36.5~37.5℃でインキュベーションすればよい。
【0031】
被験物質に接触させる細胞の数は、(i)試験データの信頼性の観点から、PM2.5を含む培地100μLあたり、それぞれ1×10細胞以上が好ましく、1×10細胞以上がより好ましく、(ii)細胞の間隔を確保し、細胞が密になりすぎないようにする観点から、1×10細胞以下が好ましく、1×10細胞以下がより好ましい。
【0032】
細胞にPM2.5を直接添加する方法としては、特に限定されず、塗布、パッチ、滴下、噴霧等であってよい。細胞に接触させるPM2.5の量は、PM2.5の種類、および/または、用いる細胞の種類に応じて適宜設定することができる。
【0033】
なお、細胞は、当該細胞をPM2.5により引き起こされる生理学的事象を測定するのに適した状態に維持するために、当該細胞に適した条件下で、予めインキュベーションしておいてもよい。
【0034】
本発明の一実施形態において、細胞をPM2.5に接触させる接触時間は、限定されない。細胞内シグナル伝達に要する時間を考慮すれば、細胞をPM2.5に接触させる接触時間は、好ましくは1時間以上であり、より好ましくは6時間以上であり、また、細胞毒性の影響を考慮して、好ましくは24時間以内であり、より好ましくは12時間以内である。
【0035】
〔1-2.培養工程〕
本発明の一実施形態に係る評価方法は、必要に応じて、上記接触工程の後に、PM2.5に接触させた細胞を、PM2.5を含まない培地中で所定時間培養する培養工程をさらに含んでもよい。
【0036】
接触工程において細胞をPM2.5に接触させることにより、指標となる遺伝子および/またはタンパク質の生産に変化が生じ、当該変化が測定可能なレベルに到達するまでには、一定の時間がかかる場合がある。この場合は、接触工程の後に、培養工程を行うことが好ましい。
【0037】
細胞を培養する培養方法は、特に限定されず、用いられる細胞の種類に応じて適宜に選択することができ、かかる方法としては、単層静置培養法、浮遊培養法、回転培養法、三次元担体培養法等が挙げられる。
【0038】
上記培地としては、上記接触工程について説明したものと同じ培地を用いることができる。また、インキュベーション温度、二酸化炭素濃度等の条件は、上記接触工程について説明したものと同じ条件を用いることができる。
【0039】
培養時間は、用いられる細胞および測定する指標に応じて適宜設定され得るが、例えば、転写開始に要する時間を考慮して、1時間以上であり、より好ましくは6時間以上であり、また、細胞毒性の影響を考慮して、好ましくは24時間以内であり、より好ましくは12時間以内である。
【0040】
〔1-3.測定工程〕
測定工程は、上記接触工程においてPM2.5に接触させた細胞における、少なくとも1種の指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を測定する工程である。
【0041】
(指標)
本発明の一実施形態において用いられる指標は、以下の(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも1種であり、測定工程では、当該指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量が測定される:
(a)CXCケモカイン
(b)CXCケモカイン受容体
(c)CCケモカイン
(d)CCケモカイン受容体。
【0042】
CXCケモカインは、CXCケモカインファミリーを意図しており、αケモカイン(またはそのファミリー)とも称する。CXCケモカインとしては、例えば、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCL6、CXCL8(IL-8)、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL16、CXCL17等が挙げられる。これらのCXCケモカインの中では、CXCL1、CXCL12、および、CXCL8が、指標として特に好ましい。
【0043】
CXCケモカイン受容体は、CXCケモカイン受容体ファミリーを意図しており、例えば、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCL6等が挙げられる。これらのCXCケモカイン受容体の中では、CXCR1、CXCR2、CXCR4、および、CXCR7が、指標として特に好ましい。
【0044】
CCケモカインは、CCケモカインファミリーを意図しており、βケモカイン(またはそのファミリー)とも称する。CCケモカインとしては、CCL1、CCL2、CCL3、CCL3L3、CCL3L1、CCL4L2、CCL4、CCL4L1、CCL5、CCL7、CCL8、CCL11、CCL13、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17、CCL18、CCL19、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28等が挙げられる。これらのCCケモカインの中では、CCL2、CCL3、および、CCL4が、指標として特に好ましい。
【0045】
CCケモカイン受容体は、CCケモカイン受容体ファミリーを意図しており、例えば、CCR1、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CCRL2、NCCRP1等が挙げられ。これらのCCケモカイン受容体の中では、CCR2、CCR4、および、CCR5が、指標として特に好ましい。
【0046】
上記指標となるタンパク質および遺伝子のアクセッション番号を、以下の表1~表4に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
(測定方法)
指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を測定する方法は、特に限定されず、指標となるタンパク質の産生、または、遺伝子の発現を測定する公知の方法であってよい。遺伝子の発現量の測定は、例えば、mRNAの発現を測定する方法を挙げることができる。
【0052】
mRNAの発現を測定する方法としては、例えば、細胞からtotal RNAを抽出して、リアルタイムRT-PCR法、RNA分解酵素プロテクションアッセイ法、ノーザンブロット解析法、ドットブロット法、RNA-sequence解析、マイクロアレイ、FISH(fluorescence in situ hybridization)等により測定する方法が挙げられる。
【0053】
タンパク質の発現を測定する方法としては、例えば、ウエスタンブロット法、免疫沈降法、ELISA法、RIA法、EIA法、バイオアッセイ法等が挙げられる。
【0054】
上述した測定方法は、in vitroまたはex vivoで行うこともでき、in vivoで行うこともできる。また、複数の遺伝子および/またはタンパク質等の発現量を測定する場合、それらの発現量は、例えば、それぞれ別個に測定してもよく、まとめて同時に測定してもよい。
【0055】
〔1-4.評価工程〕
本発明の一実施形態に係る評価方法は、上記測定工程において測定された遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量に基づき、PM2.5の炎症誘導性を評価する評価工程をさらに含んでもよい。
【0056】
より具体的に、評価工程において、PM2.5に接触させた後の細胞における指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量と、対照の細胞における指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量とを比較することで、当該PM2.5の炎症誘導性を評価することができる。
【0057】
対照としては、限定されず、
PM2.5に接触させる前の細胞(対照A)、
既知の炎症誘導性を有しないPM2.5に接触させた後の細胞(対照B)、
既知の炎症誘導性を有しない物質に接触させた後の細胞(対照C)、
既知の炎症誘導性を有するPM2.5に接触させた後の細胞(対照D)、
既知の炎症誘導性を有する物質に接触させた後の細胞(対照E)、
等を用いることができる。
【0058】
例えば、対照A、対照Bまたは対照Cを対照とする場合、PM2.5に接触させた後の細胞における遺伝子発現量またはタンパク質産生量が、これらの対照(対照A~C)における遺伝子発現量またはタンパク質産生量と比べて同等、または少ない場合、PM2.5が炎症誘導性を有しない、または有するが少ないと評価することができる。一方、PM2.5に接触させた後の細胞における遺伝子発現量またはタンパク質産生量が、これらの対照(対照A~C)における遺伝子発現量またはタンパク質産生量と比べて多い場合、PM2.5が炎症誘導性を有すると評価することができる。
【0059】
例えば、対照Dまたは対照Eを対照とする場合、PM2.5に接触させた後の細胞における遺伝子発現量またはタンパク質産生量が、これらの対照(対照D~E)における遺伝子発現量またはタンパク質産生量と比べて同等、または多い場合、PM2.5が炎症誘導性を有すると評価することができる。一方、PM2.5に接触させた後の細胞における遺伝子発現量またはタンパク質産生量が、これらの対照(対照D~E)における遺伝子発現量またはタンパク質産生量と比べて少ない場合、PM2.5が炎症誘導性を有しない、または有するが低いと評価することができる。
【0060】
なお、本願明細書において、発現量または産生量が少ないとは、PM2.5に接触させた後の細胞における指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量が、対照における発現量または産生量と比較して、1.0倍未満であり、好ましくは1/2以下であり、より好ましくは1/5以下であり、最も好ましくは1/10以下であることを指す。
【0061】
また、本願明細書において、発現量または産生量が多いとは、PM2.5に接触させた後の細胞における指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量が、対照における発現量または産生量と比較して、1.0倍超であり、好ましくは2.0倍以上であり、より好ましくは5.0倍以上であり、最も好ましくは10倍以上であることを指す。
【0062】
〔2.PM2.5に起因する炎症を抑制する物質のスクリーニング方法〕
本発明の一実施形態に係るPM2.5に起因する炎症を抑制する物質のスクリーニング方法は、本発明の一実施形態に係るPM2.5の炎症誘導性を評価する方法(上述した〔1〕に記載の方法)により、炎症誘導性を有すると評価されたPM2.5(本項目では、以降「炎症誘導性を有するPM2.5(X)」と表記する)と、被験物質である炎症抑制物質の候補物質(本項目では、以降「被験物質(Y)」と表記する)とを、ケラチノサイト細胞および/または角膜上皮細胞に接触させる接触工程と、上記細胞における以下の(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも1種の指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を測定する測定工程と、を有する;(a)CXCケモカイン、(b)CXCケモカイン受容体、(c)CCケモカイン、(d)CCケモカイン受容体。
【0063】
本発明に係るPM2.5に起因する炎症を抑制する物質のスクリーニング方法によれば、PM2.5に起因する炎症を抑制する物質をスクリーニングすることができる。
【0064】
本発明の一実施形態に係る「PM2.5に起因する炎症を抑制する物質のスクリーニング方法」は、「PM2.5に起因するケモカインおよび/またはケモカイン受容体の発現誘導を制御(例えば、抑制)する物質のスクリーニング方法」であってもよい。
【0065】
当該スクリーニング方法において用いられる細胞、接触方法、接触時間、指標、および測定方法は、上述のPM2.5の炎症誘導性を評価する方法において用いられるものと同様である。したがって、ここでは、その説明を省略する。
【0066】
PM2.5に起因する炎症を抑制する物質の候補物質(被験物質(Y))としては、特に限定されず、化合物であってもよいし、組成物であってもよい。組成物としては、例えば、化粧品、医薬品などが挙げられる。また、化合物としては、上記化粧品または医薬品に含まれる各成分が挙げられる。
【0067】
当該スクリーニング方法は、上述のPM2.5の炎症誘導性を評価する方法と同様に、必要に応じて、炎症誘導性を有するPM2.5(X)と、被験物質(Y)とを、ケラチノサイト細胞および/または角膜上皮細胞に接触させる接触工程の後に、PM2.5(X)および被験物質(Y)に接触された細胞を、PM2.5(X)および被験物質(Y)を含まない培地中で所定時間培養する培養工程をさらに含んでもよい。当該培養工程の構成は、上述のPM2.5の炎症誘導性を評価する方法において用いられる構成と同様であり得るので、ここではその説明を省略する。
【0068】
当該スクリーニング方法は、接触工程の後、または、培養工程の後に、ケラチノサイト細胞および/または角膜上皮細胞における上述した(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも1種の指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量を測定する測定工程を有する。当該測定工程は、上述のPM2.5の炎症誘導性を評価する方法において用いられる構成と同様であり得るので、ここではその説明を省略する。
【0069】
当該スクリーニング方法は、上記測定工程において測定された遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量に基づき、被験物質(Y)がPM2.5に起因する炎症を抑制する物質であるか否かを評価する評価工程をさらに含んでもよい。
【0070】
より具体的に、評価工程において、PM2.5(X)および被験物質(Y)に接触させた後の細胞における指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量と、対照の細胞における指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量とを比較することで、被験物質(Y)がPM2.5(X)に起因する炎症を抑制する物質であるか否かを評価することができる。
【0071】
対照としては、限定されず、
炎症誘導性を有するPM2.5(X)および被験物質(Y)に接触させる前の細胞(対照A’)、
既知の炎症誘導性を有しないPM2.5に接触させた後の細胞(対照B’)、
既知の炎症誘導性を有しない物質に接触させた後の細胞(対照C’)、
既知の炎症誘導性を有するPM2.5に接触させた後の細胞(対照D’)、
既知の炎症誘導性を有する物質に接触させた後の細胞(対照E’)、
等を用いることができる。
【0072】
例えば、対照A’、対照B’または対照C’を対照とする場合、PM2.5(X)および被験物質(Y)に接触させた後の細胞における遺伝子発現量またはタンパク質産生量が、これらの対照(対照A’~C’)における遺伝子発現量またはタンパク質産生量と比べて同等、または少ない場合、被験物質(Y)がPM2.5(X)に起因する炎症を抑制する物質であると評価することができる。
【0073】
例えば、対照D’または対照E’を対照とする場合、PM2.5(X)および被験物質(Y)に接触させた後の細胞における遺伝子発現量またはタンパク質産生量が、これらの対照(対照D’~E’)における遺伝子発現量またはタンパク質産生量と比べて同等、または多い場合、被験物質(Y)がPM2.5(X)に起因する炎症を抑制する物質でないと評価することができる。
【0074】
なお、本願明細書において、発現量または産生量が少ないとは、PM2.5(X)および被験物質(Y)に接触させた後の細胞における指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量が、対照における発現量または産生量と比較して、1.0倍未満であり、好ましくは1/2以下であり、より好ましくは1/5以下であり、最も好ましくは1/10以下であることを指す。
【0075】
また、本願明細書において、発現量または産生量が多いとは、PM2.5(X)および被験物質(Y)に接触させた後の細胞における指標の遺伝子発現量および/またはタンパク質産生量が、対照における発現量または産生量と比較して、1.0倍超であり、好ましくは2.0倍以上であり、より好ましくは5.0倍以上であり、最も好ましくは10倍以上であることを指す。
【0076】
〔3.PM2.5の炎症誘導性を評価するための評価キット〕
本発明の一実施形態に係るPM2.5の炎症誘導性を評価するための評価キットは、以下の(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも1種の指標の遺伝子またはタンパク質に特異的に結合するプローブを備えている;(a)CXCケモカイン、(b)CXCケモカイン受容体、(c)CCケモカイン、(d)CCケモカイン受容体。
【0077】
より具体的に、本発明の一実施形態に係るPM2.5の炎症誘導性を評価するための評価キット(例えば、マイクロアレイ用キット、PCR用キット)は、以下の(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも1種の指標のmRNAまたはタンパク質に特異的に結合するプローブを備えている;(a)CXCケモカイン、(b)CXCケモカイン受容体、(c)CCケモカイン、(d)CCケモカイン受容体。
【0078】
本発明の一実施形態に係る「PM2.5の炎症誘導性を評価するための評価キット」は、「PM2.5のケモカインおよび/またはケモカイン受容体の発現誘導性を評価するための評価キット」であってもよい。
【0079】
mRNAに特異的に結合するプローブとしては、当該mRNAに特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチド等が挙げられる。また、タンパク質に特異的に結合するプローブとしては、当該タンパク質に特異的に結合する抗体等が挙げられる。
【0080】
上記プローブは、任意の固相に固定化して用いることもできる。このため、本評価キットは、上記プローブを固定化した、マイクロアレイチップ、DNAチップ、タンパク質チップ等として提供するものであってもよい。上記固相としては、プローブを固定化できるものであれば特に制限されないが、ガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ、キャピラリー等の基板を挙げることができる。
【0081】
本発明に係る評価キットは、さらに、プローブに捕捉されたmRNAまたはタンパク質を定量するために、当該mRNAまたはタンパク質に特異的に結合する第2のプローブであって、標識化されている第2のプローブを備えていてもよい。第2のプローブとしては、mRNAに特異的にハイブリダイズする標識化されたポリヌクレオチド、タンパク質に特異的に結合する標識化された抗体を挙げることができる。なお、標識化する方法としては、特に限定されず、例えば、蛍光色素などを用いて標識化することができる。
【実施例0082】
〔1:細胞における、PM2.5との接触によるタンパク質の発現量解析〕
(PM2.5)
PM2.5の炎症誘導性を評価する試料として、採取地点が異なる、(A)、(B)、(C)、(D)の4種類のPM2.5を用いた。
【0083】
なお、別途解析にて、PM2.5-(A)、PM2.5-(C)は、皮膚等にて炎症を引き起こす物質(例えば、有機炭素)の含有量が少ない、「炎症誘導性が弱い」PM2.5であり、PM2.5-(B)、PM2.5-(D)は、皮膚等にて炎症を引き起こす物質(例えば、有機炭素)の含有量が多い、「炎症誘導性が強い」PM2.5であることを確認している。
【0084】
(細胞の培養)
三次元皮膚モデル(LabCyteEPI-MODEL、株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング製、ケラチノサイト細胞を多層化したモデル)を、37℃、5%CO雰囲気下にて、EPI-MODEL培地(株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング製)で24時間培養した。また、三次元角膜モデル(LabCyte CORNEA-MODEL、株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング製、角膜上皮細胞を多層化したモデル)を、37℃、5%CO雰囲気下にて、CORNEA-MODEL培地(株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング製)で24時間培養した。
【0085】
培養を開始してから24時間後に、細胞上清を回収し、指標であるタンパク質(CXCL1、CCL3、CCL4)の発現量を、市販のキット(ProcartaPlexイムノアッセイキット、ThermoFisher社製)を用いて解析した。
【0086】
対照として、三次元皮膚モデルまたは三次元角膜モデルを、PM2.5を含まない培地で培養し、無処置の細胞試料(図1、2中に示す「unt」)を得た。
【0087】
図1に示すように、三次元皮膚モデルにおいて、「炎症誘導性が弱い」PM2.5-(A)、PM2.5-(C)と接触させた場合に比して、「炎症誘導性が強い」PM2.5-(B)、PM2.5-(D)と接触させた場合に、指標であるタンパク質の発現量の顕著な増加が認められた。
【0088】
図2に示すように、三次元角膜モデルにおいて、「炎症誘導性が弱い」PM2.5-(A)、PM2.5-(C)と接触させた場合に比して、「炎症誘導性が強い」PM2.5-(B)、PM2.5-(D)と接触させた場合に、指標であるタンパク質の発現量の顕著な増加が認められた。
【0089】
〔2:細胞における、炎症誘導性を有すると評価されたPM2.5および被験物質との接触によるmRNAの発現量の変動解析〕
(細胞の培養)
三次元皮膚モデル(LabCyteEPI-MODEL、株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング製)を、37℃、5%CO雰囲気下にて、EPI-MODEL培地(株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング製)で24時間培養した。
【0090】
水のみを含む水溶液1を作製した(図3の「untreated」に対応)。被験物質(具体的には、炎症抑制効果を有することが知られているトロロックス)を含まず、かつ、PM2.5-(B)を含む水溶液2を作製した(図3の「PM2.5_B w/o compd」に対応)。被験物質(具体的には、炎症抑制効果を有することが知られているトロロックス)を含み、かつ、PM2.5-(B)を含む水溶液3を作製した(図3の「PM2.5_B w/ compd」に対応)。
【0091】
水溶液1~3の各々を、上記で作製した三次元皮膚モデルを含むウェル内の培地に添加し、37℃、5%CO雰囲気下で6時間インキュベートした。
【0092】
6時間のインキュベート後に、各々のウェルから三次元皮膚モデル細胞を回収し、指標となる遺伝子(CXCL1、IL-8)のmRNA発現量の変動を、リアルタイムRT-PCR法により解析した。なお、細胞からのトータル RNA抽出は市販のキット(Maxwell RSC simplyRNA cellsキット、Promega社製)を、リアルタイムRT-PCR法は市販のキット(SuperScript RTキット、ThermoFisher社製)を用いて行った。
【0093】
図3に示すように、三次元皮膚モデルをPM2.5-(B)のみと接触させた場合(図3の「PM2.5_B w/o compd」)に、無処置の細胞試料(図3の「untreated」)に比して、指標である遺伝子のmRNAの発現量の顕著な増加が認められた。一方、三次元皮膚モデルをPM2.5-(B)および被験物質と接触させた場合(図3の「PM2.5_B w/ compd」)に、PM2.5-(B)のみと接触させた細胞試料(図3の「PM2.5_B w/o compd」)に比して、指標である遺伝子のmRNAの発現量の顕著な減少が認められた。
【0094】
本実施例から、本発明の一実施形態に係るPM2.5に起因する炎症を抑制する物質のスクリーニング方法は、PM2.5に起因する炎症を抑制する物質を正確にスクリーニングできることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、大気汚染の評価に関する分野、より具体的にPM2.5の評価に関する分野に利用することができる。
図1
図2
図3