IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-アウトガス評価方法 図1
  • 特開-アウトガス評価方法 図2
  • 特開-アウトガス評価方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181095
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】アウトガス評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20231214BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20231214BHJP
   G01N 30/08 20060101ALI20231214BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20231214BHJP
   G01N 30/04 20060101ALI20231214BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20231214BHJP
   G01N 1/22 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
G01N30/88 G
G01N30/06 G
G01N30/08 G
G01N30/72 A
G01N30/04 A
G01N30/04 P
G01N1/00 101R
G01N1/22 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078805
(22)【出願日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2022094586
(32)【優先日】2022-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】矢野 正樹
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA02
2G052AA03
2G052AA39
2G052AB22
2G052AD02
2G052AD22
2G052AD42
2G052BA14
2G052CA13
2G052EB11
2G052GA24
2G052GA27
2G052JA08
(57)【要約】
【課題】アウトガス、更には、硫化物である二硫化炭素を主の目的成分として、かつ、空気や水素などを多く含んだ試料ガスを分析対象として、より低濃度まで評価出来る方法を提供することを目的とする。
【解決手段】目的成分を含む試料ガスを採取する採取工程と、前記試料ガスを、熱分解炉に注入して、熱分解し、得られた熱分解試料をアウトガスとしてガスクロマトグラフに送出する熱分解工程と、前記ガスクロマトグラフに備わる分離カラムの先端部を冷却し、前記先端部に前記アウトガスを捕捉する捕捉工程と、前記先端部を加熱し、捕捉していた前記アウトガスを開放して前記分離カラムの主要部に送出する開放工程と、前記分離カラムの主要部に送出された前記アウトガスを構成成分毎に分離し、質量分析計に送出する分離工程と、前記構成成分毎に時間差で前記構成成分を検出し、前記目的成分を定量する定量工程とを有することを特徴とするアウトガス評価方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的成分を含む試料ガスを採取する採取工程と、
前記試料ガスを、熱分解炉に注入して熱分解し、得られた熱分解試料をアウトガスとしてガスクロマトグラフに送出する熱分解工程と、
前記ガスクロマトグラフに備わる分離カラムの先端部を冷却し、前記先端部に前記アウトガスを捕捉する捕捉工程と、
前記先端部を加熱し、捕捉していた前記アウトガスを開放して前記分離カラムの主要部に送出する開放工程と、
前記分離カラムの主要部に送出された前記アウトガスを構成成分毎に分離し、質量分析計に送出する分離工程と、
前記構成成分毎に時間差で前記構成成分を検出し、前記目的成分を定量する定量工程と、を有することを特徴とする、アウトガス評価方法。
【請求項2】
前記試料ガスの前記採取工程における採取と、前記熱分解工程における注入に、ガスタイトシリンジを用いることを特徴とする、請求項1に記載のアウトガス評価方法。
【請求項3】
前記アウトガスが、二硫化炭素を含むことを特徴とする、請求項1に記載のアウトガス評価方法。
【請求項4】
前記目的成分が、二硫化炭素であることを特徴とする、請求項1に記載のアウトガス評価方法。
【請求項5】
前記熱分解工程における熱分解の温度が、200℃未満であることを特徴とする、請求項1に記載のアウトガス評価方法。
【請求項6】
前記捕捉工程における冷却の温度が、-200℃以上、-140℃以下であることを特徴とする、請求項1に記載のアウトガス評価方法。
【請求項7】
前記試料ガスの水素濃度が、1vol%を超えることを特徴とする、請求項1に記載のアウトガス評価方法。
【請求項8】
前記定量工程において前記目的成分の定量が標準ガスを用いて行われ、
前記標準ガスが、真空捕集瓶、及び、20℃における蒸気圧が30kPa以上である標準物質を用いて調製されることを特徴とする、請求項1に記載のアウトガス評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウトガス評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックや接着剤などの有機材料をはじめ、段ボールや梱包材などからも放出される揮発性の化学物質は、アウトガス(揮発ガス)と呼ばれ、近年、このアウトガスを原因として、人体への悪影響のみならず、各種製品における不具合の発生が懸念されている。
例えば、低分子環状シロキサンは、電子機器類において、導通部位で滞留し、その周辺に付着して酸化分解され、シリカ(SiO)となり、このシリカが電気を通さず、接触不良や導通不良を起こす事例が報告されている。
【0003】
また、硫化水素(HS)、二硫化炭素(CS)、及び、硫化カルボニル(COS)などの硫化物(硫化物系ガス)は、金属腐食の原因物質となり、特に、電極や配線などに銀が含まれるLED(発光ダイオード)において、銀が硫化銀(AgS)に変化することで、光度・全光束が低下する事例の報告が急増している。
不具合事例の報告が急増している硫化物は、その発生源として、工場や車などの排気ガスが広く知られているものの、LEDの腐食事例では、段ボールが原因となっているケースも多く見られ、段ボールに含まれる還元性硫黄が大気中の湿気(水)と反応し、微量の硫化水素が生成することによるトラブルが発生している。
【0004】
そのため、これらの微量アウトガス、中でも硫化物の種類や濃度を正確に分析し、発生源を特定すること、ガス放出の長期的傾向を把握すること、及び、硫化物が含まれない材料を選定することなどが重要であり、より低濃度まで分析可能な評価方法の開発が待ち望まれている。
【0005】
ところで、非特許文献1には、気体採取用シリンジ、ガス採取袋、ガス捕集瓶、ガス捕集缶で採取された試料ガス、即ち、燃焼、化学反応などに伴って、煙道、煙突、ダクトなどに排出される排ガス中の硫化水素濃度を、原子蛍光検出器(AED)を搭載したガスクロマトグラフ分析装置により、0.05~50volppmの定量範囲で求める、排ガス中の硫化水素分析方法が開示されている。
【0006】
また、非特許文献2には、吸収瓶法、真空捕集瓶、又は、捕集バッグ法で採取された試料ガス、即ち、各種化学製品の製造工程、燃焼、その他の化学反応、作業工程などにおいて、煙道、煙突、ダクトなどに排出される排ガス中の二硫化炭素濃度を、炎光光度検出器(FPD)を搭載したガスクロマトグラフ分析装置により、0.2~10volppmの定量範囲で求める、排ガス中の二硫化炭素分析方法が開示されている。
【0007】
上記の通り、非特許文献1に記載された硫化水素の定量範囲の下限が0.05volppmであるのに対し、非特許文献2に記載された二硫化炭素の定量範囲の下限が0.2volppmであり、特に、二硫化炭素については、より低濃度まで分析可能な評価方法の開発が希求されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】JIS_K_0108:2010_排ガス中の硫化水素分析方法
【非特許文献2】JIS_K_0091:1998_排ガス中の二硫化炭素分析方法
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明では、このような要求に対し、上記の従来技術が有する問題に鑑み、本発明者は、アウトガス、更には、硫化物である二硫化炭素を主の目的成分として、かつ、空気や水素などを多く含んだ試料ガスを分析対象として、より低濃度まで分析可能な評価方法を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、採取した試料ガスに含まれる微量アウトガス、ひいては、微量の二硫化炭素を熱分解炉で完全に気体とした後、冷却されたガスクロマトグラフの分離カラムの先端部で捕捉(トラップ)することにより、空気や水素などと確実に分離され、かつ、分離カラムの主要部を通過することにより、アウトガスが成分毎に分離され、最終的に、目的成分について、従来技術に比べて低濃度の評価が出来ることを見出し、発明の完成に至った。
【0011】
本発明の第1の態様は、目的成分を含む試料ガスを採取する採取工程と、前記試料ガスを、熱分解炉に注入して熱分解し、得られた熱分解試料をアウトガスとしてガスクロマトグラフに送出する熱分解工程と、前記ガスクロマトグラフに備わる分離カラムの先端部を冷却し、前記先端部に前記アウトガスを捕捉する捕捉工程と、前記先端部を加熱し、捕捉していた前記アウトガスを開放して前記分離カラムの主要部に送出する開放工程と、前記分離カラムの主要部に送出された前記アウトガスを構成成分毎に分離し、質量分析計に送出する分離工程と、前記構成成分毎に時間差で前記構成成分を検出し、前記目的成分を定量する定量工程とを有することを特徴とするアウトガス評価方法である。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様における試料ガスの前記採取工程での採取と、前記熱分解工程における注入に、ガスタイトシリンジを用いることを特徴とするのアウトガス評価方法である。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1の態様におけるアウトガスが、二硫化炭素を含むことを特徴とするアウトガス評価方法である。
【0014】
本発明の第4の態様は、第1の態様における目的成分が、二硫化炭素であることを特徴とするアウトガス評価方法である。
【0015】
本発明の第5の態様は、第1の態様における熱分解工程での熱分解の温度が、200℃未満であることを特徴とするアウトガス評価方法である。
【0016】
本発明の第6の態様は、第1の態様における捕捉工程での冷却の温度が、-200℃以上、-140℃以下であることを特徴とするアウトガス評価方法である。
【0017】
本発明の第7の態様は、第1の態様における試料ガスの水素濃度が、1vol%を超えることを特徴とするアウトガス評価方法である。
【0018】
本発明の第8の態様は、第1の態様における定量工程において、前記目的成分の定量が標準ガスを用いて行われ、前記標準ガスが、真空捕集瓶、及び、20℃における蒸気圧が30kPa以上である標準物質を用いて調製されることを特徴とするアウトガス評価方法である。
【発明の効果】
【0019】
アウトガス、更には、硫化物である二硫化炭素を主の目的成分として、かつ、空気や水素などを多く含んだ試料ガスを分析対象として、より低濃度まで評価することが可能となり、工業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る、アウトガス評価方法の全体像を示した操作フロー図である。
図2】本発明の一実施形態に係る、実施例1と比較例1の差を示したm/z=76のマスクロマトグラムである。
図3】本発明の一実施形態に係る、実施例2で得られたm/z=76のマスクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る、アウトガス評価方法について、その概略から説明する。また、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を、不当に限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更が可能である。
なお、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0022】
1.概略
本実施形態では、熱分解炉、及び、冷却装置が付属したガスクロマトグラフ質量分析装置を用い、かつ、このガスクロマトグラフ質量分析装置は、ガスクロマトグラフ(GC)と質量分析計(MS)から構成される。
一般に、ガスクロマトグラフは、多くの成分が含まれる試料ガスを分離カラムに通して分析する装置であり、キャリアガスには、ヘリウム(He)などの不活性ガスが用いられ、固定相には、中空キャピラリーの内壁に保持したポリシロキサン系のほか、ポリエチレングリコール系の液相などが用いられる。
各成分は、分離カラムを通過中に、固定相への親和性、溶解性、及び、吸着性などの違いにより分離された後、検出器である質量分析計(MS)に到達し、質量分析計において成分はイオン化され、質量数(m/z)に応じて検出される。
そして、得られたマスクロマトグラムから、主に有機成分の同定(定性)、及び、定量分析が可能である。
【0023】
更に、本実施形態では、採取したアウトガスを試料ガスとして熱分解炉により熱分解して、熱分解試料とした後、ガスクロマトグラフに送出し、冷却装置により冷却された分離カラムの先端部(以降、単に「先端部」とも称する)、即ち、分離カラムの入口側の端部において、二硫化炭素を含むアウトガスを固化させて捕捉する一方で、空気や水素などは捕捉させずに、分離カラムの末端部(以降、単に「末端部」とも称する)、即ち、分離カラムの出口側の端部から先に通過させている。また、所定時間が経過した後、冷却を解除し、固化により捕捉していた二硫化炭素を含むアウトガスを開放し、分離カラムの主要部(以降、単に「主要部」とも称する)に送出させている。
これにより、二硫化炭素をはじめ、硫化水素、硫化カルボニルなど、目的成分として想定される成分の分析精度を向上させることが出来る。
【0024】
2.各工程
図1は、本発明の一実施形態に係る、アウトガス評価方法の全体像を示す操作フロー図であり、以降、操作フロー図の順序に従って説明する。
【0025】
<採取工程>
アウトガスを試料ガスとして採取する工程である。
【0026】
その採取には、フッ素樹脂バッグ、アルミラミネートバッグ、及び、ポリエステルバッグなどのガス採取袋のほか、ガスタイトシリンジなどが用いられる。例えば、工場の排気ガスには、業種によって高濃度の水素が含まれる場合もあるため、静電気による爆発の危険を回避する上で、ガスタイトシリンジでの採取を行うのが好ましい。
また、揮発性物質を吸着剤で吸着する場合、吸着剤によっては、吸着した揮発性物質を100%脱離出来ないことがあるので、注意が必要である。
【0027】
<熱分解工程>
採取工程に続き、採取した試料ガスを熱分解炉に導入し、熱分解して得られた熱分解試料をガスクロマトグラフに送出する工程である。
【0028】
熱分解炉の加熱方式としては、例えば、フィラメントで加熱するフィラメント型、合金製試料ホイルを高周波磁界で加熱する誘導加熱型、及び、加熱炉型などが挙げられる。
この工程では、熱分解することにより、採取した試料ガスに含まれる微量アウトガス、ひいては、微量の二硫化炭素を完全に気体とし、得られた熱分解試料をガスクロマトグラフに送出することが出来る。
【0029】
また、熱分解温度は、200℃未満であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることが特に好ましい。
【0030】
<捕捉工程>
熱分解工程に続き、ガスクロマトグラフのオーブン内に備わる分離カラムの先端部を冷却し、先端部にアウトガスを捕捉する工程である。
【0031】
熱分解試料の送入と同時に、先端部における長さ方向の一部を冷却し、通過する熱分解試料を冷却する。
本実施形態では、この冷却により、ガスクロマトグラフに送入される熱分解試料のうち、微量アウトガスに係る成分、ひいては、微量の二硫化炭素を固化させて先端部に捕捉する一方で、空気や水素などをキャリアガスと共に末端部から先に送出させる。
【0032】
先端部の冷却装置(方式)としては、先端部を任意の温度に制御出来れば、特に限定されないが、例えば、ペルチェ冷却、液体窒素冷却などが挙げられる。また、先端部における冷却範囲も、特に限定されないが、少なくとも、長さ10mm程度の範囲を冷却するのが好ましい。
【0033】
冷却温度としては、微量アウトガスに係る成分、ひいては、微量の二硫化炭素を先端部で捕捉しながらも、空気や水素などを捕捉せずに、末端部から先に送出可能な温度に設定するのが好ましい。
例えば、先端部に液体窒素を吹き付けて冷却する場合には、吹き付ける液体窒素の温度を制御する。これにより、熱分解試料のうち、微量アウトガスに係る成分、ひいては、微量の二硫化炭素を先端部に捕捉しつつ、空気や水素などを先に分離カラム内を通過させる。
【0034】
冷却温度は、微量アウトガス、ひいては、微量の二硫化炭素のほか、空気や水素など、試料ガスを構成する成分の物理定数、例えば、融点や沸点などで一義的に決まるものではなく、ガス流量や冷却方式などの条件によって変動し得る。そのため、成分の種類に応じて、空気や水素などから、微量アウトガス、ひいては、微量の二硫化炭素を分離可能な冷却温度を、予め求めておくことが好ましい。
【0035】
即ち、微量アウトガス、ひいては、微量の二硫化炭素のほか、空気や水素など、それぞれの標準ガスを準備し、これらを先端部に送出して、冷却温度を適宜変更することで、各ガスが先端部に捕捉される温度帯を把握し、各ガスを分離可能な冷却温度を求めることが出来る。
なお、冷却温度とは、先端部を冷却する温度であり、例えば、先端部に冷却ガスを吹き付ける場合には、冷却ガスの温度を示す。
【0036】
また、冷却温度としては、試料ガスが微量アウトガス、ひいては、微量の二硫化炭素のほか、空気や水素などを含む場合であれば、-200℃以上、-140℃以下であることが好ましく、-198℃以上、-165℃以下であることがより好ましく、-196℃以上、-170℃以下であることが特に好ましい。
【0037】
冷却状態を保持する時間(冷却時間)は、微量アウトガス、ひいては、微量の二硫化炭素のほか、空気や水素などを検出する時間の間隔に相当し、適宜変更するのが好ましい。冷却時間は、特に限定されないが、本実施形態では、0.5~3分とするのが好ましい。
【0038】
<開放工程>
捕捉工程に続き、先端部を加熱し、アウトガスを開放して分離カラムの主要部に送出する工程である。
【0039】
ガスクロマトグラフのオーブン内の循環加熱空気を用いて、先端部を加熱して冷却を解除することにより、固化していた微量アウトガス、ひいては、微量の二硫化炭素を再び気体に戻して開放し、主要部に送出することが出来る。
【0040】
<分離工程>
開放工程に続き、アウトガスを成分毎に分離し、質量分析計に送出する工程である。
【0041】
開放された微量アウトガス、ひいては、微量の二硫化炭素は、ヘリウムなどのキャリアガスにより、分離カラムの主要部に送出され、例えば、硫化物であれば、硫化カルボニル、硫化水素、及び、二硫化炭素の順に分離され、更に、末端部から排出された後、質量分析計に送出される。
【0042】
<定量工程>
分離工程に続き、成分毎に時間差で検出し、目的成分を定量する工程である。
【0043】
質量分析部では、試料ガスに含まれる成分を質量電荷比に応じて分離すると共に、その成分を特定する。
本実施形態では、アウトガス、更には、硫化物である二硫化炭素を主として、検出することとなる。
その結果、図2、3で示されるような「横軸を保持時間(分)、縦軸をイオン強度」とするマスクロマトグラムが得られる。
【0044】
なお、得られるマスクロマトグラムは、分離カラムの主要部における保持時間の短い側から、例えば、硫化物であれば、まず、硫化カルボニルのピークが現れ、それに続いて、所定時間を経てから硫化水素のピーク、更には、二硫化炭素のピークが現れることとなる 。
【0045】
また、アウトガス、更には、硫化物である二硫化炭素を主の目的成分として、マスクロマトグラムの比較や、濃度算出に必要な検量線の作成など、評価を行う際に用いられる標準ガスを形成する標準物質としては、例えば、二硫化炭素標準溶媒(蒸気圧:40kPa(20℃))、硫化水素標準原ガス(蒸気圧:1568kPa(15℃))、及び、硫化カルボニル標準原ガス(蒸気圧:1255kPa(25℃))などが挙げられ、これらの物質を用いて標準ガスを調製する。
【実施例0046】
以下、本発明の一実施形態に係る、アウトガス評価方法について、実施例などにより、詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例などに限定されるものではない。
【実施例0047】
<標準ガスの調製>
まず、真空捕集瓶を用いて、二硫化炭素の標準ガス(1volppm)を調製した。
即ち、表1に示す様に、内部を真空にした1L真空捕集瓶に、標準物質となる二硫化炭素(ジーエルサイエンス株式会社製)を2.5μL注入し、零位調整標準ガス(空気)(高圧ガス工業株式会社製)で大気圧にして、標準原ガス(1002volppm)を調製した後、標準原ガスを上記の空気で10倍希釈して、標準1段希釈ガス(100.2volppm)を調製し、標準1段希釈ガスを同様に希釈して、標準2段希釈ガス(10.02volppm)を調製し、更に、標準2段希釈ガスを同様に希釈して、標準ガス(1.002volppm)を調製した。また、ガス体積は、22℃として計算した。
【0048】
<本評価法の検証1>
次に、本評価法の検証を、標準ガス及び模擬試料ガスを使用して検証する。
先ず、標準ガスを作業室内の空気で5倍希釈して、模擬試料ガス(0.2volppm相当)を調製した。
そして、調製した標準ガス、及び、模擬試料ガスに含まれる二硫化炭素を、ガスクロマトグラフ質量分析法により、表2に示す条件で測定した。
得られたマスクロマトグラムを図2に示し、比較例1との違いを示す。
【実施例0049】
<本評価法の検証2>
実試料を使用して本評価法の評価を実施する。
先ず、標準ガス、及び、ガスタイトシリンジを用いて採取した工場の排気ガス(水素濃度が1vol%を超えるもの)である試料ガス-1~4に含まれる二硫化炭素を、実施例1に記載のガスクロマトグラフ質量分析法の条件で測定した。
得られたマスクロマトグラムを図3に示す。
【0050】
(比較例1)
熱分解炉と冷却装置が用いられていない非特許文献1、2を想定し、標準ガスに含まれる二硫化炭素を、熱分解炉と冷却装置を用いなかったこと以外は、実施例1に記載のガスクロマトグラフ質量分析法の条件で測定した。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
3.総評
図2図3に上記実施例、比較例で得られたマスクロマトグラムの結果を示す。図2は、実施例1と比較例1の差を示したm/z=76のマスクロマトグラムで、図3は実施例2で得られたm/z=76のマスクロマトグラムである。
図2図3において、横軸は「保持時間(分)」で、縦軸は「イオン強度」である。
【0054】
先ず、図2のマスクロマトグラムが示す様に、本発明の範囲内である実施例1では、二硫化炭素と空気が完全に分離出来ており、標準ガス、及び、模擬試料ガスに含まれる二硫化炭素のピークがシャープな形状を保っているのに対し、本発明の範囲から逸脱した比較例1では、空気に含まれる成分との分離が不十分であり、標準ガスに含まれる二硫化炭素のピークがブロードな形状となっているのが、はっきりと見て取れる。
【0055】
上記に加え、更に、図3のマスクロマトグラムが示す様に、本発明の範囲内である実施例2では、実施例1における模擬試料ガス(0.2volppm相当)に含まれる二硫化炭素のピークに対し、それよりも低濃度の試料ガス-1~4に含まれる二硫化炭素のピークを、どの試料ガスにおいても、水素が1vol%を超えて共存していたにも関わらず、はっきりと確認することが出来た。
【0056】
上記の結果から、本発明を用いたならば、他の成分との分解能が極めて優れており、非特許文献2に記載された二硫化炭素の定量範囲の下限である0.2volppmに比べて、もっと低濃度の領域まで分析可能であることは明らかである。
【0057】
また、本発明の技術範囲は、上記の一実施形態などで説明した態様に制限されるものではない。上記の一実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることが有り得る。なお、上記の一実施形態などで説明した要件は、適宜、組み合わせることが出来る。更に、法令で許容される限り、本明細書で引用した全ての文献の内容を援用し、本文の記載の一部とするものである。
図1
図2
図3