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特開2023-181098正極活物質、ナトリウムイオン二次電池、正極活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181098
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】正極活物質、ナトリウムイオン二次電池、正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20231214BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20231214BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20231214BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20231214BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/485
H01M10/054
C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079423
(22)【出願日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2022094489
(32)【優先日】2022-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】片岡 理樹
(72)【発明者】
【氏名】田口 昇
【テーマコード(参考)】
4G048
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB01
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL13
5H029AM03
5H029AM07
5H029CJ08
5H029HJ13
5H050AA07
5H050BA15
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB12
5H050DA02
5H050GA05
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】ナトリウムイオン二次電池の正極活物質として、Mn-Ni系の金属酸化物を用いた場合であっても、充放電に伴う結晶構造の変化を抑制して充放電サイクル特性を向上させ、かつ、充分な出力特性を確保することを可能にする正極活物質、これを用いたナトリウムイオン二次電池、および正極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】ナトリウムイオン電池の正極活物質であって、Na(MnNi)O(但し、1/2<p<1,x+y+z=1,A=Al,Ti,V,Cu,Mg,Fe)で示されるP2型結晶構造の金属酸化物であって、前記P2型結晶構造が渦状に歪んだ層構造を成すことを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムイオン二次電池の正極活物質であって、
Na(MnNi)O
(但し、1/2<p<1,x+y+z=1,A=Al,Ti,V,Cu,Mg,Fe)
で示されるP2型結晶構造の金属酸化物であって、
前記P2型結晶構造が渦状に歪んだ層構造を成すことを特徴とする正極活物質。
【請求項2】
Cu線源を用いたX線回折法によって得られた前記正極活物質の16°(2θ)付近におけるピークの半値幅が1.8°以上であることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
請求項1または2に記載の正極活物質と、負極活物質、電解質と、を有することを特徴とするナトリウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記負極活物質は、NaLiTi12で示される金属酸化物であることを特徴とする請求項3に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項5】
請求項1または2に記載の正極活物質の製造方法であって、
Na(MnNi)O
(但し、1/2<p<1,x+y+z=1,A=Al,Ti,V,Cu,Mg,Fe)
で示されるP2型結晶構造の金属酸化物である正極活物質原料を用いて、メカニカルミリング処理を行い、前記正極活物質を生成するミリング処理工程を有し、前記正極活物質は、前記正極活物質原料よりも結晶化度が低いことを特徴とする正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記ミリング処理工程では、ボールミルによってメカニカルミリング処理を行うことを特徴とする請求項5に記載の正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウムイオン二次電池の正極活物質、ナトリウムイオン二次電池、および正極活物質の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン二次電池は、最も普及した二次電池として知られている。しかしながら、リチウムイオン二次電池で電荷担体として利用されるリチウム元素がレアメタルであること、及び資源が地域的に偏在していることから、その代替となる新たな二次電池の開発が望まれている。
【0003】
新たな二次電池の候補として、ナトリウムイオン二次電池が注目されている(例えば、特許文献1を参照)。ナトリウムイオン二次電池は、特に、電荷単体として豊富に存在するナトリウム元素を用いる点、及び鉄やマンガン等のベースメタルを含んだ正極材料の候補が多い点などから、資源的制約の少ない二次電池として有望であるとされている。
【0004】
ナトリウムイオン二次電池を構成する負極活物質は、リチウムイオン二次電池の負極活物質として多用されるグラファイトがナトリウムイオンを大量貯蔵できないため使用できないため、グラファイトのアモルファス同素体であるハードカーボンが有力視されている。しかしながら、ハードカーボンを負極活物質として用いると、低電位での動作となるため、反応性の高い金属ナトリウムが析出(デンドライト生成)しやすく、安全性に懸念があった。
【0005】
このため、ナトリウムイオン二次電池の負極活物質として、ハードカーボンよりも動作電位が高く、金属ナトリウムが析出しづらい金属酸化物が見出されている(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2に開示された発明によれば、NaLiTi12で示される構造の金属酸化物を負極活物質として用いることによって、ハードカーボンなどと比較して動作電位が高くなり、安全性の高いナトリウムイオン二次電池を実現可能であるとされている。
【0006】
一方で、こうしたNaLiTi12で示される構造の金属酸化物を負極活物質として用いる場合、これと組み合わせる正極活物質も動作電位が高いものを用いる必要がある。ナトリウムイオン二次電池に用いる動作電位が高い正極活物質の一例としては、Mn-Ni系の金属酸化物が検討されている。
例えば、Na2/3Mn2/3Ni1/3で示されるMn-Ni系の金属酸化物は、酸化物系の正極活物質の中では、高い電位での充放電が可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-225525号公報
【特許文献2】国際公開第2020-090172号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したMn-Ni系の金属酸化物をナトリウムイオン二次電池に用いた場合、充放電に伴うNaイオンの脱離時に結晶構造の変化が顕著であった。このため、充放電サイクル特性の劣化が大きいという課題があった。また、充放電サイクル特性の劣化を抑制するために、Naイオンの挿入量、脱離量を少なくすると、充分な容量が確保できないという課題が生じる。
【0009】
この発明は上記課題に鑑みて提案されたものであり、ナトリウムイオン二次電池の正極活物質として、Mn-Ni系の金属酸化物を用いた場合であっても、充放電に伴う結晶構造の変化を抑制して充放電サイクル特性を向上させ、かつ、充分な充放電容量を確保することを可能にする正極活物質、これを用いたナトリウムイオン二次電池、および正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態の正極活物質は、以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1は、ナトリウムイオン二次電池の正極活物質であって、Na(MnNi)O(但し、1/2<p<1,x+y+z=1,A=Al,Ti,V,Cu,Mg,Fe)で示されるP2型結晶構造の金属酸化物であって、前記P2型結晶構造が歪んだ層構造を成すことを特徴とする。
【0011】
本実施形態の正極活物質によれば、歪んだ層構造をもつNa(MnNi)Oからなる正極活物質は、焼結製造後の結晶化度の高いNa(MnNi)Oからなる正極活物質原料を、物理的な応力の印加によって層構造を意図的に乱れさせ、歪ませて結晶化度を低下させることにより、ナトリウムイオン二次電池に適用した際に、充放電に伴うNaイオンの脱離時の結晶構造の変化を抑制できると考えられる。こうしたNaイオンの脱離時の結晶構造の変化を抑制できる歪んだ層構造をもつNa(MnNi)Oからなる正極活物質にすることで、ナトリウムイオン二次電池のサイクル寿命(充放電特性の劣化)を改善することができる。
【0012】
(2)本発明の態様2は、態様1の正極活物質において、Cu線源を用いたX線回折法によって得られた前記正極活物質の16°(2θ)付近におけるピークの半値幅が1.8°以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明の一実施形態のナトリウムイオン二次電池は、以下の手段を提案している。
(3)本発明の態様3は、態様1または2の正極活物質と、負極活物質、電解質と、を有することを特徴とする。
【0014】
(4)本発明の態様4は、態様3のナトリウムイオン二次電池において、前記負極活物質は、NaLiTi12で示される金属酸化物であることを特徴とする。
【0015】
本発明の一実施形態の正極活物質の製造方法は、以下の手段を提案している。
(5)本発明の態様5は、態様1または2の正極活物質の製造方法であって、Na(MnNi)O(但し、1/2<p<1,x+y+z=1,A=Al,Ti,V,Cu,Mg,Fe)で示されるP2型結晶構造の金属酸化物である正極活物質原料を用いて、メカニカルミリング処理を行い、前記正極活物質を生成するミリング処理工程を有し、前記正極活物質は、前記正極活物質原料よりも結晶化度が低いことを特徴とする。
【0016】
(6)本発明の態様6は、態様5の正極活物質の製造方法であって、前記ミリング処理工程では、ボールミルによってメカニカルミリング処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ナトリウムイオン二次電池の正極活物質として、Mn-Ni系の金属酸化物を用いた場合であっても、充放電に伴う結晶構造の変化を抑制して充放電サイクル特性を向上させ、かつ、充分な容量特性を確保することを可能にする正極活物質、これを用いたナトリウムイオン二次電池、および正極活物質の製造方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】P2型結晶構造を説明する模式図である。
図2】本実施形態の正極活物質(ミリング後)を示すTEM像である。
図3】本実施形態の正極活物質と、焼結生成後の正極活物質原料のXRDピークを示すピーク図である。
図4】検証例1の結果を示すグラフである。
図5】検証例2の結果を示すグラフである。
図6】検証例3の結果を示すグラフである。
図7】検証例4の結果を示すグラフである。
図8】検証例4の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の正極活物質、これを用いたナトリウムイオン二次電池、および正極活物質の製造方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0020】
(正極活物質)
本発明の一実施形態の正極活物質について説明する。
本実施形態の正極活物質(正極材料)は、ナトリウムイオン二次電池に用いられ、負極活物質としてNaLiTi12で示される金属酸化物を用いた場合の正極活物質に特に好適に用いることができる。
【0021】
正極活物質は、Na(MnNi)O(但し、1/2<p<1,x+y+z=1,A=Al,Ti,V,Cu,Mg,Fe)で示されるP2型結晶構造の金属酸化物である。
P2型結晶構造は、図1に示すように、ナトリウムイオンが酸素イオンで囲まれる三角プリズム型構造の中心サイトを占有し、積層構造が2層繰り返し構造になっている。
【0022】
本実施形態の正極活物質は、図2に示すTEM像のように、Na(MnNi)OのP2型結晶構造が、歪んだ層構造を成している。これば、後述する正極活物質の製造方法で説明するように、結晶化度の高い焼結合成したNa(MnNi)Oをメカニカルミリングによって物理的に応力を加えて、結晶化度を低減させることによって形成される。これにより、P2型結晶構造の層構成が一部で崩れて、図2に示す歪んだ層構造をもつNa(MnNi)Oからなる正極活物質が形成される。
【0023】
本実施形態の歪んだ層構造をもつNa(MnNi)Oからなる正極活物質(ミリング後)のX線回折法(XRD)によって得られたピーク、および、焼結製造後のNa(MnNi)Oからなる正極活物質原料(ミリング前)のピークを、図3に纏めて示す。
【0024】
図3によれば、本実施形態の正極活物質(ミリング後)は、焼結製造後の正極活物質原料(ミリング前)と比べて、XRDのピークが不明瞭なブロード化されたピークに変化している。これは、本実施形態の正極活物質が、焼結製造後の正極活物質原料をメカニカルミリングすることによって、結晶化度が低下しているためである。
【0025】
例えば、本実施形態の歪んだ層構造をもつNa(MnNi)Oからなる正極活物質は、Cu線源を用いたX線回折法によって得られた16°(2θ)付近におけるピークの半値幅が1.8以上である。比較として、焼結製造後の結晶化度の高い正極活物質原料(ミリング前)の16°(2θ)付近におけるピークの半値幅が0.21以下である。
【0026】
本実施形態の歪んだ層構造をもつNa(MnNi)Oからなる正極活物質は、焼結製造後の結晶化度の高いNa(MnNi)Oからなる正極活物質原料を、物理的な応力の印加によって層構造を意図的に乱れさせ、歪ませて結晶化度を低下させることにより、ナトリウムイオン二次電池に適用した際に、充放電に伴うNaイオンの脱離時の結晶構造の変化を抑制できると考えられる。
【0027】
こうしたNaイオンの脱離時の結晶構造の変化を抑制できる歪んだ層構造をもつNa(MnNi)Oからなる正極活物質にすることで、ナトリウムイオン二次電池のサイクル寿命(充放電特性の劣化)を改善することができる。
【0028】
なお、本実施形態の正極活物質は、上述したような歪んだ層構造をもつ結晶化度の低いMn-Ni系の金属酸化物であれば、Na(MnNiAl)O、Na(MnNiTi)O、Na(MnNi)O、Na(MnNiCu)O、Na(MnNiMg)O、Na(MnNiFe)O(いずれも、1/2<p<1,x+y+z=1)のいずれの組成の金属酸化物であってもよい。
【0029】
(ナトリウムイオン二次電池)
本実施形態のナトリウムイオン二次電池は、上述したような歪んだ層構造をもつ結晶化度の低いNa(MnNi)O(但し、1/2<p<1,x+y+z=1,A=Al,Ti,V,Cu,Mg,Fe)からなる金属酸化物を含む正極活物質と、負極活物質と、電解質と、電極(集電体)とを含む。ナトリウムイオン二次電池の層構成は、公知のものであればよい。
【0030】
本実施形態のナトリウムイオン二次電池の負極活物質(負極材料)としては、スピネル型構造を有するナトリウムチタン酸化物(NaLiTi12)が挙げられる。ナトリウムチタン酸化物は安定な酸化物であり、且つ比較的高いナトリウム吸蔵-脱離電位を有することから、金属ナトリウムのデンドライト生成が起こらない、安全性の高い負極活物質である。
【0031】
より具体的には、上述した特許文献2に記載されたナトリウムチタン酸化物を負極活物質として好ましく用いることができる。
【0032】
本実施形態のナトリウムイオン二次電池は、正極活物質として、上述した歪んだ層構造をもつ、結晶化度の低いNa(MnNi)Oからなる金属酸化物を用いることによって、充放電に伴うNaイオンの脱離時の結晶構造の変化を抑制できる。これにより、
ナトリウムイオン二次電池のサイクル寿命(充放電特性の劣化)を改善し、耐久性の高いナトリウムイオン二次電池を実現することができる。
【0033】
(正極活物質の製造方法)
次に、上述した正極活物質の製造方法を説明する。
本実施形態の正極活物質を製造する際には、まず、Na(MnNi)Oからなる金属酸化物を生成するための原料を混合する(原料混合工程)。例えば、組成式中のAとしてAlを用いる場合、水酸化アルミニウム粉末(Al(OH))、水酸化ナトリウム粉末(NaOH)、三酸化マンガン(Mn)、水酸化ニッケル(Ni(OH))をボールミルに投入し、所定時間混合して原料混合粉末を得る。
【0034】
次に、得られた原料混合粉末を、例えば電気炉を用いて900~1000℃程度に加熱し、2~5時間程度保持する。これを室温まで冷却することによって、正極活物質原料が焼結生成される(原料生成工程)。こうして得られた正極活物質原料は、Na(MnNiAl)O(1/2<p<1,x+y+z=1)の組成式で表される、結晶化度の高いMn-Ni系金属酸化物である。
【0035】
次に、得られた正極活物質原料を、例えば、ボールミルに入れて応力を加えて、結晶化度を低下させる(ミリング処理工程)。一例として、正極活物質原料を、例えば、内容量が100ml程度のボールミルに入れて、酸化ジルコニウム製のボールを用いて、数時間程度、ボールミルを回転させることによって、正極活物質原料の結晶化度を低下させ、歪んだ層構造をもつNa(MnNi)Oからなる本実施形態の正極活物質を得ることができる。
【0036】
なお、上述した実施形態では、正極活物質原料として、(Na(MnNiAl)O)らなる金属酸化物を生成しているが、これ以外にも、組成式中のAlに代えて、Ti,V,Cu,Mg,Feなどにすることもできる。例えば、Tiにする場合には酸化チタン粉末(TiO)、Vにする場合には酸化バナジウム粉末(V、V)、Cuにする場合には酸化銅粉末(CuO)、Mgにする場合には酸化マグネシウム粉末(MgO)をそれぞれ用いることができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態を説明したが、こうした実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。こうした実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0038】
以下、本発明の効果を検証した検証例を説明する。
検証にあたって、まず、正極活物質を作成した。
(原料混合)
以下のモル質量比(金属元素あたり)の原料粉末を、遊星ボールミル(P-6型:フリッチュ・ジャパン株式会社)を用いて、回転数500rpmで2時間混合し、原料粉末を得た。
原料粉末のモル質量比 NaOH:Mn:Ni(OH):A=67:67-x:33-y:x+y
但し、A=Al(OH)、TiO、V、CuO、MgOのうち、それぞれ1種
【0039】
(原料粉末焼成)
上述した5種(A=Al,Ti,V,Cu,Mg)の原料粉末を、電気炉を用いて焼成した。
焼成条件:大気中で950℃まで1時間で昇温、その後、950℃で3時間保持したのち、炉内で300℃まで冷却した。炉内温度300℃で焼成物を取り出し、露点温度-50℃のドライチャンバー(チャンバー内温度20℃)で室温(20℃)まで冷却して、正極活物質原料を得た。なお、以下のナトリウムイオン二次電池の比較例では、この正極活物質原料を比較例の正極活物質として用いた。
【0040】
(ミリング処理)
上述した正極活物質原料1gを分取し、直径4mmの酸化ジルコニウム製ボール40gとともに、内容量が80mlのボールミル内に収容した。そして、回転数300~500rpmで2~40時間混合し、正極活物質原料にメカニカルミリング処理を施して、本発明例の正極活物質を得た。
【0041】
(検証例1)
上述した本発明例の正極活物質(ミリング処理2h後,40h後)及び比較例の正極活物質(ミリング処理前)について、X線全散乱測定によるPDF(Pair Distribution Function)解析を行った。
この結果を図4に示す。
【0042】
PDF解析では、結晶性の高い試料ほど長距離(rの大きな範囲)まで明確な相関が得られるが、焼成後の試料を2時間ミリング処理を行うと、ある程度層構造を維持したまま、一部の層に歪を導入した正極活物質を形成できることが分かった。また、40時間ミリング処理を行うと、層構造は殆ど崩れてしまうことが分かった。
【0043】
次に、上述した正極活物質を用いて、ナトリウムイオン二次電池を作成した。
(電極作製)
正極活物質:ケッチェンブラック(KB):ポリフッ化テトラエチレン(PTFE)を質量比で84:4:4の割合で混合した後、アルミニウム製のメッシュに圧着し、減圧下で220℃に加熱して10時間乾燥して、正極を得た。
【0044】
(電池組立て)
上述した正極、金属Naからなる負極、セパレータとしてポリプロピレン製の微多孔膜、電解質として濃度1モルのNaPFのエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒を用いた。これらをCR2032型のボタン電池形状のナトリウムイオン二次電池として組み立てた。
【0045】
以下、本発明例は、ミリング処理を経た正極活物質を正極に用い、比較例は、ミリング処理前の正極活物質原料を正極に用いて、それぞれの検証例のナトリウムイオン二次電池(以下、単にNa電池と称する)とした。
【0046】
(検証例2)
本発明例のNa電池正極材料、比較例のNa電池正極材料を用いて、2.5~4.2Vの充放電範囲で充放電特性を調べた。本発明のNa電池正極材料の初期容量は118mAh/g、平均電位は3.4V(vs_Na/Na)、比較例のNa正極材料の初期容量は88mAh/g、平均電位は3.45V(vs_Na/Na)であった。
こうした検証例2の結果を図5に示す。
【0047】
図5に示す結果によれば、同一の充放電カットオフ電位、同一の電流密度の試験において、ミリング処理を行った正極活物質を正極に用いた本発明例のNa電池は、ミリング処理を行なわない正極活物質原料を正極に用いた比較例のNa電池と比べて、電池容量、およびサイクル特性が大幅に改善することが確認された。
【0048】
(検証例3)
本発明例のNa電池に関して、正極活物質のミリング処理時間と充放電特性との関係を調べた。この結果を図6に示す。
図6に示す結果によれば、ミリング処理時間は、ボールミルの回転数と処理時間が一定の範囲であることが好ましく、ミリング処理時間が長くなると、層構造の崩れが大きくなり、充放電特性が低下することが分かった。
【0049】
(検証例4)
本発明例の正極活物質として、Na(MnNi)OにおけるAをCuにした、Na2/3(Mn0.67Ni0.23Cu0.1)Oで示される組成物のミリング処理後の正極活物質を用いたNa電池の充放電特性を調べた。2.5~4.2Vの充放電範囲での試験においては結果を図7に、また、2.5~4.5Vの充放電範囲での結果を図8にそれぞれ示す。
【0050】
図7に示す結果によれば、初期容量128mAh/g、平均電位3.19V(vs_Na/Na)で40サイクル時の電池容量維持率は89%であった。また、図8によれば、初期容量:136mAh/g、平均電位3.23V(vs_Na/Na)で40サイクル時の電池容量維持率は90%であった。これにより、Cuを含むMn-Ni系金属酸化物をミリング処理したNa電池であっても、優れたサイクル特性を有することが確認できた。
【0051】
(検証例5)
表1に、本発明例1~22の各試料(焼成後ミリング処理)の組成、およびメカニカルミリング処理におけるボールミルの回転速度、ミリング処理時間を示す。また、比較例1~4の各試料(焼成試料)の組成を示す。
そして、得られた各試料の初期放電容量、平均電位、容量維持率、16°(2θ)付近におけるピーク半値幅、充電電位、および放電電位をそれぞれ測定した。この結果を表1(本発明例)、表2(比較例)にそれぞれ示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
表1、表2に示す各試料の測定結果によれば、ミリング処理を行った本発明例は、比較例に対して全体的にピーク半値幅が大きく、結晶化度が低くなっていることが確認された。そして、ミリング処理によって結晶化度が低くした本発明例の各試料は、初期放電容量および容量維持率が高く、優れた充放電サイクル特性を有することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の正極活物質、ナトリウムイオン二次電池、正極活物質の製造方法によれば、リチウムイオン二次電池のようなレアメタルを使用しない二次電池として、安全性が高く、かつ、充放電サイクル特性に優れたナトリウムイオン二次電池の提供に寄与する。従って、産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8