IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 藤森工業株式会社の特許一覧

特開2023-181136液晶ポリマーフィルムの製造方法、液晶ポリマーフィルム、高周波回路基板材料の製造方法、および高周波回路基板の製造方法
<>
  • 特開-液晶ポリマーフィルムの製造方法、液晶ポリマーフィルム、高周波回路基板材料の製造方法、および高周波回路基板の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181136
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】液晶ポリマーフィルムの製造方法、液晶ポリマーフィルム、高周波回路基板材料の製造方法、および高周波回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20231214BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20231214BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B32B27/36
C08J7/04 Z CFD
H05K1/03 610H
H05K1/03 630H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094967
(22)【出願日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2022093792
(32)【優先日】2022-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【弁理士】
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】正木 明
(72)【発明者】
【氏名】水口 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】笠原 純也
【テーマコード(参考)】
4F006
4F100
【Fターム(参考)】
4F006AA35
4F006AB35
4F006BA01
4F006CA08
4F006EA05
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK41J
4F100AK46A
4F100AK46J
4F100AL01A
4F100AL01B
4F100AL01J
4F100AR00A
4F100AR00B
4F100AT00
4F100BA02
4F100CC032
4F100CC03B
4F100EH172
4F100EH17B
4F100EH202
4F100EH20B
4F100EH462
4F100EH46B
4F100GB43
4F100JA11A
4F100JA11B
4F100JG05
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】強度に優れた液晶ポリマーフィルムの製造方法およびその方法で製造された液晶ポリマーフィルム、高周波回路基板材料の製造方法、並びに、高周波回路基板の製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の表面に、液状の熱可塑性液晶ポリマーを用いて熱可塑性液晶ポリマー層12を形成して液晶ポリマーフィルム10を得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムと、熱可塑性液晶ポリマー層とを備える液晶ポリマーフィルムの製造方法であって、
熱可塑性液晶ポリマーフィルムの表面に、液状の熱可塑性液晶ポリマーを用いて熱可塑性液晶ポリマー層を形成する工程を有する、液晶ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性液晶ポリマー層を形成する工程が、熱可塑性液晶ポリマー溶液を塗布する工程である、請求項1に記載の液晶ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性液晶ポリマー層を形成する工程が、溶融した熱可塑性液晶ポリマーを押出する工程である、請求項1に記載の液晶ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性液晶ポリマー溶液は、ダイコート、グラビアコート、スクリーン印刷、およびインクジェットからなる群より選択される方法で塗布される、請求項2に記載の液晶ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムが、溶融押出、延伸、インフレーション法、および溶液キャスト法からなる群より選択される方法で製造される、請求項1に記載の液晶ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、液晶ポリエステルまたは液晶ポリエステルアミドのフィルムであり、前記熱可塑性液晶ポリマー層は、液晶ポリエステルまたは液晶ポリエステルアミドの層である、請求項1に記載の液晶ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の液晶ポリマーフィルムの製造方法により製造される液晶ポリマーフィルム。
【請求項8】
前記熱可塑性液晶ポリマー層を形成して得られた前記液晶ポリマーフィルムのTD方向の弾性率が、前記熱可塑性液晶ポリマー層を形成する前の前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムのTD方向の弾性率よりも大きい値を有する、請求項7に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項9】
前記熱可塑性液晶ポリマー層を形成して得られた前記液晶ポリマーフィルムの線膨張係数(CTE)の異方性が、前記熱可塑性液晶ポリマー層を形成する前の前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの線膨張係数(CTE)の異方性よりも小さい値を有する、請求項7に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項10】
高周波回路基板材料の製造に用いられる、請求項7に記載の液晶ポリマーフィルム。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1項に記載の液晶ポリマーフィルムの製造方法により液晶ポリマーフィルムを製造する工程と、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの前記熱可塑性液晶ポリマー層とは反対側の面に銅箔を積層する工程とを有する、高周波回路基板材料の製造方法。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか1項に記載の液晶ポリマーフィルムの製造方法により液晶ポリマーフィルムを製造する工程と、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの前記熱可塑性液晶ポリマー層とは反対側の面に銅箔を積層する工程と、前記銅箔から回路を形成する工程とを有する、高周波回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリマーフィルムの製造方法およびその方法で製造された液晶ポリマーフィルム、高周波回路基板材料の製造方法、並びに、高周波回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、樹脂多層基板の製造において、液晶ポリマー樹脂層の厚みが不足する領域に液晶ポリマー塗料を塗布することが記載されている。
特許文献2には、電子部品が一体化された液晶ポリマーを主成分として含む樹脂シートの一部分に、同じ熱可塑性樹脂を含むペーストを塗布することが記載されている。
特許文献3には、熱可塑性樹脂層の面にパウダー状の熱可塑性樹脂素材の分散液を塗布する場合に、熱可塑性樹脂素材の主材料が液晶ポリマーで、熱可塑性樹脂層の主材料と同一であることが記載されている。
特許文献4には、導体パターンが配置された液晶ポリマーを主材料とする樹脂層の主表面に、液晶ポリマーの粉体を含むペーストを塗布することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2014/109139号
【特許文献2】国際公開第2015/029783号
【特許文献3】国際公開第2017/061423号
【特許文献4】国際公開第2017/217126号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液晶ポリマー(LCP)は異方性を有するため、フィルムが裂けやすく、生産や取扱いが難しい。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、強度に優れた液晶ポリマーフィルムの製造方法およびその方法で製造された液晶ポリマーフィルム、高周波回路基板材料の製造方法、並びに、高周波回路基板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと、熱可塑性液晶ポリマー層とを備える液晶ポリマーフィルムの製造方法であって、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの表面に、液状の熱可塑性液晶ポリマーを用いて熱可塑性液晶ポリマー層を形成する工程を有する、液晶ポリマーフィルムの製造方法を提供する。
【0007】
前記熱可塑性液晶ポリマー層を形成する工程が、熱可塑性液晶ポリマー溶液を塗布する工程であることが好ましい。
【0008】
前記熱可塑性液晶ポリマー層を形成する工程が、溶融した熱可塑性液晶ポリマーを押出する工程であることが好ましい。
【0009】
前記熱可塑性液晶ポリマー溶液は、ダイコート、グラビアコート、スクリーン印刷、およびインクジェットからなる群より選択される方法で塗布されることが好ましい。
【0010】
前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムが、溶融押出、延伸、インフレーション法、および溶液キャスト法からなる群より選択される方法で製造されることが好ましい。
【0011】
前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、液晶ポリエステルまたは液晶ポリエステルアミドのフィルムであり、前記熱可塑性液晶ポリマー層は、液晶ポリエステルまたは液晶ポリエステルアミドの層であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、前記液晶ポリマーフィルムの製造方法により製造される液晶ポリマーフィルムを提供する。
【0013】
前記熱可塑性液晶ポリマー層を形成して得られた前記液晶ポリマーフィルムのTD方向の弾性率が、前記熱可塑性液晶ポリマー層を形成する前の前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムのTD方向の弾性率よりも大きい値を有することが好ましい。
【0014】
前記熱可塑性液晶ポリマー層を形成して得られた前記液晶ポリマーフィルムの線膨張係数(CTE)の異方性が、前記熱可塑性液晶ポリマー層を形成する前の前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの線膨張係数(CTE)の異方性よりも小さい値を有することが好ましい。
【0015】
前記液晶ポリマーフィルムは、高周波回路基板材料の製造に用いられることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、前記液晶ポリマーフィルムの製造方法により液晶ポリマーフィルムを製造する工程と、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの前記熱可塑性液晶ポリマー層とは反対側の面に銅箔を積層する工程とを有する、高周波回路基板材料の製造方法を提供する。
【0017】
さらに、本発明は、前記液晶ポリマーフィルムの製造方法により液晶ポリマーフィルムを製造する工程と、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの前記熱可塑性液晶ポリマー層とは反対側の面に銅箔を積層する工程と、前記銅箔から回路を形成する工程とを有する、高周波回路基板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、強度に優れた液晶ポリマーフィルムの製造方法およびその方法で製造された液晶ポリマーフィルムを提供することができる。また、得られた液晶ポリマーフィルムを用いて、誘電特性に優れた高周波回路基板材料および高周波回路基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の液晶ポリマーフィルムの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、好適な実施形態に基づいて、本発明を説明する。
【0021】
図1は、液晶ポリマーフィルム10の一例を模式的に示す。
【0022】
液晶ポリマーフィルム10は、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の表面に、液状の熱可塑性液晶ポリマーを用いて形成される熱可塑性液晶ポリマー層12を有する。
【0023】
液晶ポリマーフィルム10の製造方法は、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の表面に、液状の熱可塑性液晶ポリマーを用いて熱可塑性液晶ポリマー層12を形成する工程を有する。
【0024】
熱可塑性液晶ポリマーフィルム11は、溶融押出、延伸、インフレーション法、および溶液キャスト法からなる群より選択される方法で製造することができる。熱可塑性液晶ポリマーフィルム11は、単層でも形状を維持することが可能な強度を有することが好ましい。必要に応じて、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11が支持された状態で塗布等の加工を実施してもよい。
【0025】
熱可塑性液晶ポリマーフィルム11は、液晶性を有する熱可塑性樹脂のフィルムであれば特に限定されないが、液晶ポリエステルまたは液晶ポリエステルアミドのフィルムであることが好ましい。
【0026】
熱可塑性液晶ポリマー層12は、液状の熱可塑性液晶ポリマーを用いて形成される層であればよい。特に限定されないが、熱可塑性液晶ポリマー溶液を塗布して得られる塗布層、溶融した熱可塑性液晶ポリマーを押出して得られる押出層などが挙げられる。
【0027】
熱可塑性液晶ポリマーの塗布層は、特に限定されないが、熱可塑性液晶ポリマー溶液を、ダイコート、グラビアコート、スクリーン印刷、およびインクジェットからなる群より選択される方法で塗布することにより形成することができる。
【0028】
熱可塑性液晶ポリマーの押出層は、特に限定されないが、Tダイ等を用いて形成することができる。熱可塑性液晶ポリマーの溶融には、特に限定されないが、スクリュー等を備えた押出機を用いることができる。
【0029】
熱可塑性液晶ポリマー層12は、液晶性を有する熱可塑性樹脂の層であれば特に限定されないが、液晶ポリエステルまたは液晶ポリエステルアミドの層であることが好ましく、液晶ポリエステルまたは液晶ポリエステルアミドの塗布層または押出層であってもよい。
【0030】
熱可塑性液晶ポリマーの塗布層の形成に用いられる熱可塑性液晶ポリマー溶液は、液晶性を有する熱可塑性樹脂の溶液であれば特に限定されないが、液晶ポリエステルまたは液晶ポリエステルアミドの溶液であることが好ましい。
【0031】
熱可塑性液晶ポリマーフィルム11および熱可塑性液晶ポリマー層12は、同じ熱可塑性液晶ポリマーを用いてもよく、異なる熱可塑性液晶ポリマーを用いてもよい。両方が液晶ポリエステルであってもよく、両方が液晶ポリエステルアミドでもよく、液晶ポリエステルと液晶ポリエステルアミドとの組み合わせでもよい。
【0032】
液晶ポリエステルは、液晶ポリマーの主鎖が繰り返してエステル結合を有してもよい。液晶ポリエステルアミドは、液晶ポリマーの主鎖が繰り返してエステル結合およびアミド結合を有してもよい。
【0033】
熱可塑性液晶ポリマー層12は、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の少なくとも片面に形成することができる。液晶ポリマーフィルム10の一面に熱可塑性液晶ポリマーフィルム11が配置されるには、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の片面のみに熱可塑性液晶ポリマー層12が形成されることが好ましい。液晶ポリマーフィルム10の両面に熱可塑性液晶ポリマー層12が形成されてもよい。
【0034】
熱可塑性液晶ポリマー層12を形成する際に、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11がロール・トゥ・ロール方式で搬送されてもよい。熱可塑性液晶ポリマー層12は、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の全面にわたって形成されてもよく、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の幅方向の両端を除いた領域など、一部の領域に形成されてもよい。
【0035】
塗布、溶融押出等に用いられる液状の熱可塑性液晶ポリマーは、粒子を含まないことが好ましく、特に、熱可塑性液晶ポリマー層12の膜厚より大きい粒径を含まないことが好ましい。
【0036】
塗布に用いられる熱可塑性液晶ポリマー溶液は、溶媒可溶性の熱可塑性液晶ポリマーを溶媒に溶解させた溶液であることが好ましい。
【0037】
熱可塑性液晶ポリマー溶液に用いられる溶媒としては、熱可塑性液晶ポリマーを溶解できる溶媒であればよく、特に限定されないが、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、カーボネート系溶媒、アミド系溶媒、ニトリル系溶媒、含硫化合物系溶媒などの極性溶媒が挙げられ、非プロトン性の極性溶媒であってもよい。
【0038】
エーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル(DEE)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等が挙げられる。
ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。
エステル系溶媒としては、酢酸エチル(EA)等の非環状エステル系溶媒、γ-ブチロラクトン等の環状エステル系溶媒(ラクトン系溶媒)が挙げられる。
カーボネート系溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)等が挙げられる。
【0039】
アミド系溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、N-メチルピロリドン(NMP)等が挙げられる。
ニトリル系溶媒としては、アセトニトリル(AN)、プロピオニトリル、スクシノニトリル等が挙げられる。
含硫化合物系溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等が挙げられる。
【0040】
熱可塑性液晶ポリマー溶液を塗布して熱可塑性液晶ポリマー層12を形成する際に、塗布後の溶媒を乾燥させる条件は、溶媒が十分に乾燥する状態が実現できれば特に限定されず、適宜設定することが可能である。
【0041】
塗布後の溶媒を乾燥させる温度としては、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11と熱可塑性液晶ポリマー層12との層間密着性を高めるために、所定の温度以上とすることが好ましい。例えば、熱可塑性液晶ポリマー層12内の液晶ポリマー分子間、更には熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の液晶ポリマーと熱可塑性液晶ポリマー層12の液晶ポリマーとの間でエステル交換による重合反応が起こる温度で加熱されることが好ましい。より具体的には、例えば、180℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、250℃以上が更に好ましい。また、液晶ポリマーの酸化劣化を抑制する観点から、溶媒を乾燥させる温度としては、350℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。
【0042】
また、塗布後の溶媒を乾燥させる時間としては、特に限定されないが、溶媒が十分に乾燥する状態が実現される観点から、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。また、液晶ポリマーの酸化劣化を抑制する観点から、溶媒を乾燥させる時間としては、5時間以下が好ましく、3時間以下がより好ましい。
【0043】
液状の熱可塑性液晶ポリマーを用いて形成された熱可塑性液晶ポリマー層12を有する液晶ポリマーフィルム10は、熱可塑性液晶ポリマー層12を形成する前の熱可塑性液晶ポリマーフィルム11よりも強度が優れている。例えば、液晶ポリマーフィルム10のTD方向の弾性率が、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11のTD方向の弾性率よりも大きい値を有することが好ましい。
【0044】
液状の熱可塑性液晶ポリマーを用いて形成された熱可塑性液晶ポリマー層12を有する液晶ポリマーフィルム10は、熱可塑性液晶ポリマー層12を形成する前の熱可塑性液晶ポリマーフィルム11よりも異方性が緩和されていることが好ましい。例えば、液晶ポリマーフィルム10の線膨張係数(CTE)の異方性が、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の線膨張係数(CTE)の異方性よりも小さい値を有することが好ましい。
【0045】
線膨張係数(CTE)等の物性の異方性は、フィルム面上で直交する二方向の物性の差、例えば、MD方向の値とTD方向の値との差の絶対値で表すことができる。二方向の物性値が互いに等しい場合は、異方性がゼロになる。二方向の物性値が異なる場合は、異方性が正の値になる。
【0046】
熱可塑性液晶ポリマーフィルム11を溶融押出等で形成するときのTD方向およびMD方向と、熱可塑性液晶ポリマー層12を液状の熱可塑性液晶ポリマーから形成するときのTD方向およびMD方向とは、同一でもよく、異なってもよい。
【0047】
熱可塑性液晶ポリマー層12を塗布により形成する場合、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11に対する処理方法は特に限定されず、適宜設定することが可能である。例えば、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の片面に、2回以上にわたり、熱可塑性液晶ポリマー溶液を塗布して、2層以上の熱可塑性液晶ポリマー層12を積層してもよい。熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の両面に、同時または逐次に熱可塑性液晶ポリマー溶液を塗布して、熱可塑性液晶ポリマー層12を形成してもよい。
【0048】
熱可塑性液晶ポリマー層12を溶融押出により形成する場合、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11に対する処理方法は特に限定されず、適宜設定することが可能である。例えば、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の片面に、2回以上にわたり、溶融した熱可塑性液晶ポリマーを押出して、2層以上の熱可塑性液晶ポリマー層12を積層してもよい。また、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の両面に、同時または逐次に溶融した熱可塑性液晶ポリマーを押出して熱可塑性液晶ポリマー層12を形成してもよい。
【0049】
熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の両面に熱可塑性液晶ポリマー層12を形成する場合、それぞれの熱可塑性液晶ポリマー層12の形成方法は、同一でもよく、異なってもよい。同一の熱可塑性液晶ポリマーフィルム11に対し、一方の面には塗布により熱可塑性液晶ポリマー層12を形成し、他方の面には溶融押出により熱可塑性液晶ポリマー層12を形成してもよい。
【0050】
液晶ポリマーフィルム10の用途は、特に限定されないが、例えば、高周波回路基板材料の製造用途であり、より具体的には、高周波対応の回路等の基板、絶縁材等の製造、および、これらの材料を用いた各種製品等の製造に用いることができる。高周波回路基板材料の積層構造は特に限定されないが、樹脂フィルム等の絶縁材の少なくとも片面に、銅箔等の導体層を有してもよい。
【0051】
液晶ポリマーフィルム10は、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の片面のみに熱可塑性液晶ポリマー層12を有し、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11上に銅箔13等の導体層が積層されてもよい。この場合、銅箔13等の導体層を用いて、回路等を形成することができる。
【0052】
銅箔13等の導体層から高周波回路を形成する方法は特に限定されないが、エッチング、フォトリソグラフィー等が挙げられる。導体層の回路パターンは特に限定されないが、配線パターン、アンテナパターン等が挙げられる。液晶ポリマーフィルム10にレーザー等により孔を形成し、この孔に導電性ペースト、メッキ等を用いて基板を貫通した導体部を形成してもよい。
【0053】
熱可塑性液晶ポリマーフィルム11は、熱可塑性液晶ポリマー層12よりも誘電特性に優れていることが好ましく、例えば、誘電率および誘電正接の値が熱可塑性液晶ポリマー層12よりも低いことが好ましい。銅箔13等の導体層が熱可塑性液晶ポリマーフィルム11側に配置されることにより、より高周波特性に優れた回路等を形成することができる。熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の熱可塑性液晶ポリマー層12を形成した面とは反対側の面に銅箔13を積層してもよい。
【0054】
熱可塑性液晶ポリマーフィルム11および熱可塑性液晶ポリマー層12の膜厚は、特に限定されないが、誘電特性に優れている方の膜厚が厚い方が好ましい。また、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の誘電特性の方が優れている場合、熱可塑性液晶ポリマー層12の膜厚は、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の異方性を緩和することができる最小の膜厚であることがより好ましい。
【0055】
例えば、熱可塑性液晶ポリマー層12の膜厚は0.5μm以上であることが好ましく、約1μm、約2μm、約3μm、約4μm、約5μm、あるいはそれ以上などでもよい。
【0056】
より具体的には、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の膜厚が10μm以上30μm未満である場合、熱可塑性液晶ポリマー層12の膜厚は0.5μm以上8μm以下であることが好ましい。
【0057】
また、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の膜厚が30μm以上60μm未満である場合、熱可塑性液晶ポリマー層12の膜厚は0.5μm以上20μm以下であることが好ましく、0.5μm以上15μm以下であることがより好ましい。
【0058】
また、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の膜厚が60μm以上90μm未満である場合、熱可塑性液晶ポリマー層12の膜厚は0.5μm以上30μm以下であることが好ましく、0.5μm以上20μm以下であることがより好ましい。
【0059】
また、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の膜厚が90μm以上である場合、熱可塑性液晶ポリマー層12の膜厚は0.5μm以上50μm以下であることが好ましく、0.5μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0060】
熱可塑性液晶ポリマーフィルム11は、現行または次世代の高速・高容量通信に使用される高周波数に利用可能な誘電特性を有することが好ましい。高周波数としては、2GHzより高い周波数が好ましく、具体例としては、3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯、90~300GHz帯、またはそれ以上の高周波数帯が挙げられる。これらの周波数帯は、例えば±0.5GHz程度や±1GHz程度の幅を有してもよい。
【0061】
熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の高周波数における誘電特性としては、例えば、測定周波数10GHzにおける誘電正接が0.002以下であることが好ましい。液晶ポリマーは、誘電特性に優れる樹脂の中でも、ポリイミド等と比べて吸水性が低く、フッ素樹脂と比べて銅箔との密着性に優れるため、高周波回路基板材料として好ましい。
【0062】
以上説明したように、液晶ポリマーフィルム10は、熱可塑性液晶ポリマーフィルム11の少なくとも片面に、液状の熱可塑性液晶ポリマーを用いて熱可塑性液晶ポリマー層12を形成することにより、誘電特性および引裂耐性を兼ね備えた樹脂フィルムとすることができる。
【0063】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。改変としては、実施形態における構成要素の追加、置換、省略、その他の変更が挙げられる。
【実施例0064】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0065】
(比較例の液晶ポリマーフィルム)
比較例の液晶ポリマーフィルムは、Tダイを用いて溶融押出法により製造された熱可塑性液晶ポリエステルのフィルムである。この(熱可塑性液晶ポリマー層が形成されていない)熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、少なくともTD方向が手で簡単に裂けてしまう程度に引裂耐性に劣っている。このため、比較例の液晶ポリマーフィルムは、少なくともTD方向の弾性率を測定することができないほど強度が低く、基板材料に用いるには不十分であった。
【0066】
(実施例1の液晶ポリマーフィルム)
溶融押出法により製造された熱可塑性液晶ポリエステルのフィルムの片面に、溶媒可溶性の熱可塑性液晶ポリエステルのポリマー溶液(溶媒:N-メチルピロリドン)を塗布して、100℃で10分間乾燥後、230℃で60分間焼成して、液晶ポリマーフィルムを作製した。前記ポリマー溶液を塗布して形成された熱可塑性液晶ポリマー層の膜厚は約10μmであり、液晶ポリマーフィルムの膜厚は56~58μmであった。
【0067】
実施例1の液晶ポリマーフィルムでは、熱可塑性液晶ポリエステルのフィルムと熱可塑性液晶ポリマー層との密着性は高く、剥離することはできなかった。このような高い密着性が実現したのは、焼成時に、熱可塑性液晶ポリマーフィルム内の分子と熱可塑性液晶ポリマー層内の分子との間でエステル交換反応が起こり、化学的な結合が生じたためと考えられる。
【0068】
(線膨張係数の測定)
得られた液晶ポリマーフィルムから、幅4mm、長さ15mmのサンプルを切り出して測定サンプルとし、熱機械分析装置((株)日立ハイテクサイエンス製、製品名「TMA7100」)を用いて測定した。測定サンプルに付加する引張荷重は、該サンプルの膜厚に応じて設定した。具体的には、膜厚40~60μmの場合は荷重100mN、膜厚75~95μmの場合は荷重150mNに設定した。測定サンプルの温度変化に応じた寸法変化から線膨張係数を測定した。測定サンプルの温度変化は、30℃から250℃まで昇温速度15℃/分で加熱し、250℃で10分間保持した後、30℃まで降温速度15℃/分で冷却し、30℃で5分間保持した後、300℃まで昇温速度10℃/分で再度加熱する方法とした。
【0069】
比較例の液晶ポリマーフィルムの線膨張係数(CTE)は、MD方向で-14ppm/K、TD方向で101ppm/K、CTEの異方性は115ppm/Kであった。
実施例1の液晶ポリマーフィルムの線膨張係数(CTE)は、MD方向で-9ppm/K、TD方向で72ppm/K、CTEの異方性は81ppm/Kであった。
このように、熱可塑性液晶ポリマー溶液を塗布して得られた液晶ポリマーフィルムでは、CTEの異方性の値が小さく、異方性を緩和することができた。
【0070】
(弾性率の測定)
得られた液晶ポリマーフィルムから、幅4mm、長さ20mmのサンプルを切り出して測定サンプルとし、動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製、製品名「ARES-G2」)を用いて測定した。測定温度は、10~300℃(昇温速度5℃/分)とし、周波数1Hzでひずみ0.3%を加え、応答としてのせん断応力の波形およびそれらの位相差から弾性率を測定した。
【0071】
熱可塑性液晶ポリマー溶液を塗布して得られた実施例1の液晶ポリマーフィルムの弾性率は、MD方向で17GPa、TD方向で1.8GPaであった。これにより、実施例1の液晶ポリマーフィルムは、少なくともTD方向において、熱可塑性液晶ポリマー溶液を塗布する前の熱可塑性液晶ポリマーフィルムよりも大きい値の弾性率を有することが確認された。
【0072】
(実施例2の液晶ポリマーフィルム)
溶媒可溶性の熱可塑性液晶ポリマー溶液を塗布して、100℃で10分間乾燥後、焼成条件を、熱可塑性液晶ポリマーフィルム内の分子と熱可塑性液晶ポリマー層内の分子との間でエステル交換反応がより起こりやすい、270℃で150分間とした以外は、実施例1と同様の方法で液晶ポリマーフィルムを作製した。得られた液晶ポリマーフィルムの線膨張係数(CTE)は、MD方向で-1ppm/K、TD方向で17ppm/K、CTEの異方性は18ppm/Kであった。また、得られた液晶ポリマーフィルムの弾性率は、MD方向で13GPa、TD方向で8.4GPaであった。これにより、実施例2の液晶ポリマーフィルムは、少なくともTD方向において、熱可塑性液晶ポリマー溶液を塗布する前の熱可塑性液晶ポリマーフィルムよりも大きい値の弾性率を有することが確認された。
【0073】
(実施例3の液晶ポリマーフィルム)
熱可塑性液晶ポリマー層の膜厚を約15μm、液晶ポリマーフィルムの膜厚を70~72μmとなるように製膜した以外は、実施例2と同様の方法で液晶ポリマーフィルムを作製した。得られた液晶ポリマーフィルムの線膨張係数(CTE)は、MD方向で-6ppm/K、TD方向で17ppm/K、CTEの異方性は23ppm/Kであった。また、得られた液晶ポリマーフィルムの弾性率は、MD方向で18GPa、TD方向で11GPaであった。これにより、実施例3の液晶ポリマーフィルムは、少なくともTD方向において、熱可塑性液晶ポリマー溶液を塗布する前の熱可塑性液晶ポリマーフィルムよりも大きい値の弾性率を有することが確認された。
【符号の説明】
【0074】
10…液晶ポリマーフィルム、11…熱可塑性液晶ポリマーフィルム、12…熱可塑性液晶ポリマー層、13…銅箔。
図1