(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181148
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】磁気軸受用磁気回路装置
(51)【国際特許分類】
F16C 32/04 20060101AFI20231214BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
F16C32/04 Z
H01F7/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095671
(22)【出願日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2022093856
(32)【優先日】2022-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(72)【発明者】
【氏名】太田 博之
【テーマコード(参考)】
3J102
【Fターム(参考)】
3J102AA01
3J102BA01
3J102CA26
3J102DA09
3J102DA16
3J102DA21
3J102DA28
3J102FA03
3J102FA20
(57)【要約】
【課題】複数の永久磁石からなる永久磁石リングと軟磁性体リングとを備えた磁気軸受用磁気回路装置において、永久磁石リングの軸方向端面付近の磁場の周方向均一度を向上させる。
【解決手段】磁気軸受用磁気回路装置は、複数の異方性永久磁石11が周方向に配置されて成る永久磁石リングと、前記永久磁石リングの外周面に接する第1軟磁性体リング12と、前記永久磁石リングの内周面に接する第2軟磁性体リング13とを備える。前記複数の異方性永久磁石の各々は、当該異方性永久磁石の中心Cを通って径方向に延びる直線と平行に磁化されており、前記永久磁石リングの外周面は全体が同極であり、前記永久磁石リングの内周面は全体が同極であって前記永久磁石リングの外周面とは逆の極性であり、前記第1軟磁性体リング及び前記第2軟磁性体リングの少なくとも一方に、軸方向の溝12a、13aが形成されている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の異方性永久磁石が周方向に配置されて成る永久磁石リングと、
前記永久磁石リングの外周面に接する第1軟磁性体リングと、
前記永久磁石リングの内周面に接する第2軟磁性体リングと
を備え、
前記複数の異方性永久磁石の各々は、当該異方性永久磁石の中心を通って径方向に延びる直線と平行に磁化されており、
前記永久磁石リングの外周面は全体が同極であり、前記永久磁石リングの内周面は全体が同極であって前記永久磁石リングの外周面とは逆の極性であり、
前記第1軟磁性体リング及び前記第2軟磁性体リングの少なくとも一方に、軸方向の溝が形成されている、
磁気軸受用磁気回路装置。
【請求項2】
前記溝が前記永久磁石リングとの接触面に設けられている、請求項1に記載の磁気軸受用磁気回路装置。
【請求項3】
前記溝の深さが、当該溝が形成された前記第1軟磁性体リング又は前記第2軟磁性体リングの径方向厚さの15%~35%の範囲にある、請求項1又は2に記載の磁気軸受用磁気回路装置。
【請求項4】
前記溝の数が、前記永久磁石リングを構成する異方性永久磁石の個数の整数倍である、請求項1又は2に記載の磁気軸受用磁気回路装置。
【請求項5】
前記第1軟磁性体リングにおいては、周方向に隣り合う2つの前記異方性永久磁石の接触面と径方向に対向するように前記溝が形成され、
前記第2軟磁性体リングにおいては、前記複数の異方性永久磁石の各々における中心部と径方向に対向するように前記溝が形成されている、
請求項2に記載の磁気軸受用磁気回路装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気軸受用磁気回路装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導磁気軸受は、リング状の超電導体部とリング状の永久磁石部とを有し、永久磁石が発生する磁場と超電導体による磁束ピン止め効果により、全方向無制御で安定した磁気浮上力を利用した軸受である。一般的な転がり軸受と比較すると、軸受の潤滑等のメンテナンスが不要、高寿命、粉塵が発生しない、高速回転が可能、などの利点がある。また、摺動、機械的摩擦が無いことにより、機械的損失が発生せず高効率を実現できるという利点がある。
【0003】
特許文献1に記載の超電導軸受装置は、回転軸と、前記回転軸に固定された第1磁石部と、前記回転軸に前記第1磁石部から軸方向に所定間隔を隔てて固定された第2磁石部とを有する回転体部と、前記第1磁石部と前記第2磁石部との間であって前記回転軸の周囲に配置され、かつ、前記第1磁石部に対向する第1対向面と前記第2磁石部に対向する第2対向面とを有する超電導体と、前記超電導体を冷却することによりピン止め効果を発現させる冷却部とを有する固定体部とを備えている。前記第1磁石部は、前記回転軸の周囲に配置され、かつ、前記第1対向面と対向する第1磁極面を有する第1永久磁石を有し、前記第2磁石部は、前記回転軸の周囲に配置され、かつ、前記第2対向面と対向する第2磁極面を有する第2永久磁石を有し、前記第1磁極面の極性と前記第2磁極面の極性とが逆極性である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の永久磁石からなる永久磁石リングと軟磁性体リングとを備えた磁気軸受用磁気回路装置において、永久磁石リングの軸方向端面付近の磁場が周方向に沿って均一でない場合、回転効率の低下につながる。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、複数の永久磁石からなる永久磁石リングと軟磁性体リングとを備えた磁気軸受用磁気回路装置において、永久磁石リングの軸方向端面付近の磁場の周方向均一度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、一実施形態に係る磁気軸受用磁気回路装置は、複数の異方性永久磁石が周方向に配置されて成る永久磁石リングと、前記永久磁石リングの外周面に接する第1軟磁性体リングと、前記永久磁石リングの内周面に接する第2軟磁性体リングとを備える。前記複数の異方性永久磁石の各々は、当該異方性永久磁石の中心を通って径方向に延びる直線と平行に磁化されており、前記永久磁石リングの外周面は全体が同極であり、前記永久磁石リングの内周面は全体が同極であって前記永久磁石リングの外周面とは逆の極性であり、前記第1軟磁性体リング及び前記第2軟磁性体リングの少なくとも一方に、軸方向の溝が形成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数の永久磁石からなる永久磁石リングと軟磁性体リングとを備えた磁気軸受用磁気回路装置において、永久磁石リングの軸方向端面付近の磁場の周方向均一度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】検討例に係る磁気軸受用磁気回路装置の正面図である。
【
図4】磁気軸受用磁気回路装置の周方向位置と磁場との関係を表すグラフである。
【
図5】一実施形態に係る磁気軸受用磁気回路装置の正面図である。
【
図10】磁気軸受用磁気回路装置の周方向位置と磁場との関係を表す、別のグラフである。
【
図11】磁気軸受用磁気回路装置の周方向位置と磁場との関係を表す、さらに別のグラフである。
【
図12】スリットサイズと磁場のばらつきとの関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0011】
まず、本発明の発明者は、以下に述べるとおり鋭意検討を行った。
【0012】
超電導磁気軸受における超電導体として、捕捉磁場や浮上力に優れた市販の第2種超電導バルク磁石(YBCO、GdBCO、EuBCOなど)が用いられる。また、超電導磁気軸受における永久磁石として、強い磁気応力を得るために、抗磁力が強く、発生磁場の強い永久磁石であるNdFeB系やSmCo系の希土類焼結磁石が使用されることが多い。
【0013】
NdFeB系やSmCo系の希土類焼結磁石は、どちらも原料の粉を磁場中で配向させて成形しその後焼結して製造される。磁気特性の一つである残留磁束密度を向上させるには、配向時に理想的には全ての粉が同じ向きを向くことが重要であり、そのため、磁石の配向の向きは平行になっている。
【0014】
超電導磁気軸受の径方向寸法が比較的大きくなると、リング状の永久磁石部を単一の永久磁石により形成することは難しくなる。そのため、複数の永久磁石を周方向に並べることにより、リング状の永久磁石部を構成することになる。
【0015】
複数の磁石を周方向に並べてリングを構成し、各磁石の磁化方向が略径方向となるようにするのが一つの方法である。超電導磁気軸受においては、各磁石の軸方向端面付近に発生する径方向の磁場が利用される。磁石の配向方向が全てリングの径方向を向いたラジアル配向が理想的である。
【0016】
しかし、前述した、平行配向の異方性焼結磁石を用いると、各磁石の或る部分、例えば中央部においては磁化方向がリングの径方向と平行(磁化方向と径方向とのなす角度が0度)であったとしても、中央部から周方向に離れるにつれて磁化方向と径方向とのなす角度が大きくなる。リングを構成する永久磁石の個数をn個とすると、周方向に隣り合う2つの永久磁石のうち、一方の永久磁石の磁化方向と他方の永久磁石の磁化方向とがなす角度は、(360/n)度である。
【0017】
ところで、リング状の永久磁石部により生じる、同永久磁石部の軸方向端面付近の磁場が、周方向に沿って均一でない場合、回転軸の回転中に磁場の変動あるいは脈動が磁気摩擦として発生することから、回転効率の低下さらには発熱につながる。
【0018】
平行配向の異方性焼結磁石を複数用いてリングを構成した場合、前述のとおり、周方向に隣り合う2つの永久磁石の磁化方向が当該2つの永久磁石の接触面付近において交差する。そのため、磁石の軸方向端面付近に発生する磁場が周方向に沿って均一ではない。また、複数の永久磁石を使用する場合、個々の磁石間に磁気特性のばらつきがあり、周方向の磁場均一度のさらなる低下につながる。
【0019】
従来、磁場の周方向均一度を高めるために、例えば純鉄や炭素鋼などの軟磁性体製のリングをリング状磁石部の内周側及び外周側にそれぞれ配置し、軟磁性体製のリング内に磁束を通す方法がある。しかし、磁場を均一にしようと軟磁性体製のリングの径方向厚さ(外半径と内半径の差)を大きくすると磁場強度が低下し、径方向厚さを小さくすると均一度がさほど向上しないという問題がある。
【0020】
図1及び
図2に示すように、磁気軸受用磁気回路装置100は、永久磁石リング10と、永久磁石リング10の外周面及び内周面に接するようにそれぞれ設けられ軟磁性体製である外周側軟磁性体リング112及び内周側軟磁性体リング113とを備えている。永久磁石リング10は、いずれも略円弧形状であってサイズも略同じである32個の永久磁石11がリング状に並べられて成る。永久磁石11は、その全体が、中心Cを通り径方向に延びる直線と平行な方向に磁化された異方性永久磁石である。全ての永久磁石11において外周面の極性は同じであり、内周面の極性も同じであって外周面の極性とは逆の極性である。例えば、外周面がN極であり、内周面がS極である。周方向に隣り合う2つの永久磁石の磁化方向がなす角度は、360/32=11.25度である。
【0021】
図3は、
図1の永久磁石11の、径方向に延びるZ-Z´線に沿った断面図である。符号W1は、永久磁石11の径方向の厚さ(外半径と内半径の差)を示す。符号W12は、外周側軟磁性体リング112の径方向の厚さ(外半径と内半径の差)を示す。符号W13は、内周側軟磁性体リング113の径方向の厚さ(外半径と内半径の差)を示す。また、
図1の紙面上3時位置にある、周方向に隣り合う2つの永久磁石11の接触面を0度位置とし、0度位置から反時計方向に45度ずれた位置を45度位置とする。
【0022】
符号P1は、後述する第1の仮想円の0度位置から45度位置までの円弧である。第1の仮想円は、中心が磁気軸受用磁気回路装置100の軸上にあり、半径が、外周側軟磁性体リング112の径方向の厚さW12を2で割った値を磁気軸受用磁気回路装置100の外半径から引いた値である。そして、この第1の仮想円は、外周側軟磁性体リング112の軸方向端面から軸方向外側に5mm(符号H1)離れた位置にある。
【0023】
符号P2は、後述する第2の仮想円の0度位置から45度位置までの円弧である。第2の仮想円は、中心が磁気軸受用磁気回路装置100の軸上にあり、半径が、内周側軟磁性体リング113の径方向の厚さW13を2で割った値を磁気軸受用磁気回路装置100の内半径に加えた値である。そして、この第2の仮想円は、内周側軟磁性体リング113の軸方向端面から軸方向外側に5mm(符号H2)離れた位置にある。
【0024】
永久磁石11として、SmCo系の希土類焼結磁石(出願人の製造によるR33Hグレード)を用い、外周側軟磁性体リング112及び内周側軟磁性体リング113には炭素鋼S45Cを用いた。
【0025】
図4に、円弧P1及びP2に沿った磁場の変化を示す。横軸は、円弧P1及びP2における0度位置から45度位置までの角度を示し、縦軸は、各円弧上の角度位置における測定磁場の大きさ|B|を、各円弧全体の平均磁場強度で割った値を示す。折れ線G1は円弧P1上の磁場を示し、折れ線G2は円弧P2上の磁場を示している。
【0026】
図4から、複数の永久磁石をリング状に組んでなるリング状の永久磁石部の軸方向端面付近に発生する磁場が、周方向に沿って均一とはいえないことが分かる。具体的には、磁場のピークが、折れ線G1から分かるように、円弧P1上では隣り合う2つの永久磁石の接触面付近(0度位置付近、11.25度位置付近、22.5度位置付近、33.75度位置付近、45度位置付近)で発生していることが分かる。他方、折れ線G2から分かるように、円弧P2上では各永久磁石の周方向中央部付近(5.625度位置付近、16.875度位置付近、28.125度位置付近、39.375度位置付近)で発生していることが分かる。
【0027】
以上のような検討結果を踏まえた実施形態を以下に説明する。
【0028】
図5及び
図6に示すように、磁気軸受用磁気回路装置1は、いずれも略円弧形状であってサイズも略同じである32個の永久磁石11がリング状に並べられて成る永久磁石リング10を備えている。この点は、
図1及び
図2に示した磁気軸受用磁気回路装置100と同様である。
【0029】
磁気軸受用磁気回路装置1はさらに、永久磁石リング10の外周面及び内周面に接するようにそれぞれ設けられ軟磁性体製である外周側軟磁性体リング12及び内周側軟磁性体リング13を備えている。外周側軟磁性体リング12の内周面には、周方向に隣り合う2つの永久磁石11の接触面と径方向に対向する位置に、軸方向に延びるスリット(溝)12aが32個形成されている。さらに、内周側軟磁性体リング13の外周面には、永久磁石11の中心Cと径方向に対向する位置に、軸方向に延びる複数のスリット13aが32個形成されている。
【0030】
図5において、磁気軸受用磁気回路装置1の外径D1は200mmであり、内径D2は160mmである。すなわち、磁気軸受用磁気回路装置1の径方向の厚さ(外半径と内半径の差)は20mmである。また、
図7において、永久磁石リング10の径方向の厚さW1は10mmであり、外周側軟磁性体リング12の径方向の厚さW2及び内周側軟磁性体リング13の径方向の厚さW3はいずれも5mmである。また、磁気軸受用磁気回路装置1の軸方向寸法T1は20mmである。
【0031】
図8は、磁気軸受用磁気回路装置1の部分拡大図である。スリット12a及び13aは断面半円状であり、それぞれの半径R1及びR2は1.25mmである。両スリットの軸方向長さは20mmであり、すなわち、軟磁性体リングの軸方向一端面から他端面まで通じている。
ここで、両スリットの深さ1.25mmは、両軟磁性体リングの径方向寸法5mmの25%であるため、スリットサイズ25%と称する。
【0032】
図1に戻ると、符号P3は、後述する第3の仮想円の0度位置から45度位置までの円弧である。第3の仮想円は、前述した第1の仮想円及び第2の仮想円の同心円であり、半径が、磁気軸受用磁気回路装置100の内半径と、内周側軟磁性体リング113の径方向の厚さW13と、永久磁石11の径方向の厚さW1を2で割った値との和である。そして、この第3の仮想円は、永久磁石11の軸方向端面から軸方向外側に5mm離れた位置にある。
【0033】
図5及び
図9の符号P4は、後述する第4の仮想円の0度位置から45度位置までの円弧である。第4の仮想円は、中心が磁気軸受用磁気回路装置1の軸上にあり、半径が、磁気軸受用磁気回路装置1の内半径(内径D2を2で割った値)と、内周側軟磁性体リング13の径方向の厚さW3と、永久磁石11の径方向の厚さを2で割った値との和である。そして、この第4の仮想円は、永久磁石11の軸方向端面から軸方向外側に5mm(符号H3)離れた位置にある。
【0034】
永久磁石11として、SmCo系の希土類焼結磁石(出願人の製造によるR33Hグレード)を用い、外周側軟磁性体リング12及び内周側軟磁性体リング13には炭素鋼S45Cを用いた。
【0035】
図10に、円弧P3及びP4上の磁場を示す。横軸は、円弧P3及びP4における0度位置から45度位置までの角度を示し、縦軸は、各円弧上の角度位置における測定磁場の大きさ|B|を、各円弧全体の平均磁場強度で割った値を示す。折れ線G3は円弧P3上の磁場を示し、折れ線G4は円弧P4上の磁場を示している。磁気軸受用磁気回路装置1は周期的な構成となっているため、磁場の測定範囲を0度位置から45度位置までとした。
【0036】
図10から、スリットサイズ25%のスリットを設けた場合(折れ線G4)には、スリットがない場合(折れ線G3)に比べ、磁場の脈動が小さくなっており、磁場の均一度が向上していることが確認できる。
【0037】
図11に、
図10と同様の折れ線G4を示すとともに、
図5に示した磁気軸受用磁気回路装置1において、スリットサイズを10%及び40%とした場合の円弧P4上の磁場をそれぞれ折れ線G5及びG6として示す。スリットサイズ25%のスリットを設けた場合には、スリットサイズ10%及び40%の場合に比べて、磁場の脈動が小さくなっていることが確認できる。
【0038】
図12に、スリットサイズと磁場の脈動との関係を示す。横軸はスリットサイズを示し、縦軸は、円弧P4における最大発生磁場から最小発生磁場を引いた値(単位:Gauss)を示す。この結果から、スリットサイズが大き過ぎるか小さ過ぎると磁場の均一度が向上しないことが分かる。また、スリットサイズを15%から35%とすることで、発生磁場の最大値と最小値との差が4Gaussを下回り、磁場の均一度が向上することが確認できる。したがって、スリットサイズは15%程度から35%程度の範囲内にあることが望ましい。
【0039】
以上のように、軟磁性体リングに対し軸方向に延びるスリット(溝)を周期的に設けることで、磁場の周方向均一度を向上させることができる。
【0040】
また、磁場強度を向上させるべく軟磁性体リングの径方向厚さを小さくすると、磁場の周方向均一度が低下する傾向がある。上記実施形態によれば、2つの軟磁性体リングのいずれも径方向厚さが永久磁石リングの径方向厚さの半分程度で済むため、磁場強度の向上と磁場の周方向均一度の向上とを両立させることができる。
【0041】
スリットは、軟磁性体リングの永久磁石との接触面に設けることが好ましい。スリットの位置は、永久磁石リングの外周面に接する軟磁性体リングにおいては、周方向に隣り合う2つの磁石の接触面付近が好ましく、永久磁石リングの内周面に接する軟磁性体リングにおいては、各磁石の中心部と径方向に対向する位置付近が好ましい。
スリットは、外周側の軟磁性体リング及び内周側の軟磁性体リングの両方に設けてもよいし、いずれか一方にのみ設けてもよい。
スリットの軟磁性体リングに対する径方向および周方向の大きさは、大きすぎるとかえって磁場の均一度を悪化させてしまうため、軟磁性体リングの径方向厚さの15%から35%程度が望ましい。
また、スリットの数は、永久磁石リングにおける永久磁石の個数nの整数倍が望ましい。スリットの軸方向視形状は、半円に限られず、三角形、四角形などの任意の形状とすることができる。スリットは、軟磁性体リングの軸方向一端面から軸方向他端面まで全域に設けてもよいし、部分的に設けてもよい。
【0042】
上記実施形態に係る磁気軸受用磁気回路装置は、永久磁石と超電導体が作用し合う超電導磁気軸受のみならず、永久磁石同士が作用し合う磁気軸受及び永久磁石と電磁石が作用し合う磁気軸受を含む磁気軸受一般に適用可能である。
【0043】
これまでに説明した実施形態に関し、以下の付記を開示する。
[付記1]
複数の異方性永久磁石が周方向に配置されて成る永久磁石リングと、
前記永久磁石リングの外周面に接する第1軟磁性体リングと、
前記永久磁石リングの内周面に接する第2軟磁性体リングと
を備え、
前記複数の異方性永久磁石の各々は、当該異方性永久磁石の中心を通って径方向に延びる直線と平行に磁化されており、
前記永久磁石リングの外周面は全体が同極であり、前記永久磁石リングの内周面は全体が同極であって前記永久磁石リングの外周面とは逆の極性であり、
前記第1軟磁性体リング及び前記第2軟磁性体リングの少なくとも一方に、軸方向の溝が形成されている、
磁気軸受用磁気回路装置。
[付記2]
前記溝が前記永久磁石リングとの接触面に設けられている、付記1に記載の磁気軸受用磁気回路装置。
[付記3]
前記溝の深さが、当該溝が形成された前記第1軟磁性体リング又は前記第2軟磁性体リングの径方向厚さの15%~35%の範囲にある、付記1又は2に記載の磁気軸受用磁気回路装置。
[付記4]
前記溝の数が、前記永久磁石リングを構成する異方性永久磁石の個数の整数倍である、付記1又は2に記載の磁気軸受用磁気回路装置。
[付記5]
前記第1軟磁性体リングにおいては、周方向に隣り合う2つの前記異方性永久磁石の接触面と径方向に対向するように前記溝が形成され、
前記第2軟磁性体リングにおいては、前記複数の異方性永久磁石の各々における中心部と径方向に対向するように前記溝が形成されている、
付記2に記載の磁気軸受用磁気回路装置。
【0044】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0045】
1、100 磁気軸受用磁気回路装置
10 永久磁石リング
11 永久磁石
12、13、112、113 軟磁性体リング
12a、13a 溝