(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181231
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体、及び増粘組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 69/10 20060101AFI20231214BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20231214BHJP
A61K 8/88 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C08G69/10
C09K3/00 103G
A61K8/88
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023176703
(22)【出願日】2023-10-12
(62)【分割の表示】P 2023534979の分割
【原出願日】2023-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2022044604
(32)【優先日】2022-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】岡 康孝
(72)【発明者】
【氏名】土肥 知樹
(72)【発明者】
【氏名】笹本 茜
(72)【発明者】
【氏名】宮本 正紀
(57)【要約】
【課題】本発明によれば、より長い時間一定以上の粘度を保持することができる増粘組成物に用いる、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体、及びその架橋体を含む増粘組成物を提供することができる。
【解決手段】本発明の架橋体は、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体であり、前記変性ポリアスパラギン酸が、ポリアスパラギン酸に、アミノ基とカルボキシ基を有する化合物を付加したものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体であって、
前記変性ポリアスパラギン酸が、ポリアスパラギン酸に、アミノ基とカルボキシ基を有する化合物を付加したものであり、
前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物はアミノ基を分子内に1つのみ有する化合物であり、
多官能アミンを架橋剤として用いて、前記変性ポリアスパラギン酸またはその塩を架橋してなる変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
【請求項2】
前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物がアミノ酸、アミノ酸のカルボン酸塩、及びアミノ酸エステルからなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
【請求項3】
前記変性ポリアスパラギン酸が、ポリコハク酸イミド(PSI)と前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物との反応物である、請求項1に記載の変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
【請求項4】
前記多官能アミンが、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン及びエーテル系ジアミンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
【請求項5】
前記変性ポリアスパラギン酸が、
ポリコハク酸イミド(PSI)と、
前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物と、
第1官能基(a1)と第2官能基(a2)とを有する化合物(A:a1-A1-a2)と、
の反応物である、請求項1に記載の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
【請求項6】
前記第1官能基(a1)がアミノ基(NH2-)であり、
前記第2官能基(a2)がアミノ基(NH2-)及びホスホノオキシ基((OH)2P(=O)-O-)からなる群から選択される1種以上であり、
前記第2官能基(a2)がアミノ基(NH2-)である場合、前記第1官能基(a1)より、ポリコハク酸イミド(PSI)と反応性が低い、請求項5に記載の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
【請求項7】
前記第1官能基(a1)がアミノ基(NH
2-)であり、
前記第2官能基(a2)がアミノ基(NH
2-)であり、
前記化合物(A)において、前記第2官能基(a2)のアミノ基が、下記式(1)に表す構造中のアミノ基である、請求項5に記載の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
【化1】
(式(1)中、Gがカルボン酸基又はその塩を表す。)
【請求項8】
多官能エポキシ(B)を架橋剤として用いて、前記変性ポリアスパラギン酸またはその塩を架橋してなる、請求項5に記載の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
【請求項9】
架橋度が、0.5~10モル%である、請求項1に記載の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
【請求項10】
前記変性ポリアスパラギン酸の塩が、有機塩基からなる塩又はアルカリ金属塩である、請求項1に記載の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
【請求項11】
請求項1~10の何れか1項に記載の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体を含むことを特徴とする増粘組成物。
【請求項12】
水をさらに含む請求項11に記載の増粘組成物。
【請求項13】
前記増粘組成物の合計100質量%に対して、前記変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体の含有量が0.05~10質量%である請求項11に記載の増粘組成物。
【請求項14】
請求項11に記載の増粘組成物と、
化粧料有効成分と、
を含む化粧料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体、及び増粘組成物に関する。
本願は、2022年3月18日に、日本に出願された特願2022-044604号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
化粧品用増粘剤にはカルボマーが市場で最も多く使用されている。他の増粘剤にはないカルボマーの特徴として非常に高い増粘性と肌に塗る際のさっぱりとした触感が挙げられる。カルボマーはポリアクリル酸系ポリマーである。
ポリアスパラギン酸は化学構造がポリアクリル酸と類似しており同様の機能を発現でき、且つ生分解性を有することから環境負荷の小さい代替材料として期待される。また、多価アミン化合物によって鎖同士が部分的に架橋されたポリアスパラギン酸(塩)が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、増粘剤としての応用を試みている架橋型ポリアスパラギン酸は水中に配合して増粘溶液を作成した際、経時で粘度が低下する問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、アミノ酸などのアミノ基とカルボキシ基を有する化合物を付加した変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体を用いることで、より長い時間一定以上の粘度を保持することができる増粘組成物を提供することを目的とする。また、その増粘組成物に含まれる変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の内容は、以下の実施態様[1]~[15]を含む。
[1] 変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体であって、
前記変性ポリアスパラギン酸が、ポリアスパラギン酸に、アミノ基とカルボキシ基を有する化合物を付加したものであることを特徴とする変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
[2] 前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物がアミノ酸、アミノ酸のカルボン酸塩、及びアミノ酸エステルからなる群から選択される1種以上である、[1]に記載の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
[3] 前記変性ポリアスパラギン酸が、ポリコハク酸イミド(PSI)と前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物との反応物である、[1]又は[2]に記載の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
[4] 多官能アミンを架橋剤として用いて、前記変性ポリアスパラギン酸またはその塩を架橋してなる、[3]に記載の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
[5] 前記多官能アミンが、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン及びエーテル系ジアミンからなる群から選択される少なくとも1種である、[4]に記載の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
[6] 前記変性ポリアスパラギン酸が、
ポリコハク酸イミド(PSI)と、
前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物と、
第1官能基(a1)と第2官能基(a2)とを有する化合物(A:a1-A1-a2)と、
の反応物である、[1]又は[2]に記載の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
[7] 前記第1官能基(a1)がアミノ基(NH
2-)であり、
前記第2官能基(a2)がアミノ基(NH
2-)及びホスホノオキシ基((OH)
2P(=O)-O-)からなる群から選択される1種以上であり、
前記第2官能基(a2)がアミノ基(NH
2-)である場合、前記第1官能基(a1)より、ポリコハク酸イミド(PSI)と反応性が低い、[6]に記載の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
[8] 前記第1官能基(a1)がアミノ基(NH
2-)であり、
前記第2官能基(a2)がアミノ基(NH
2-)であり、
前記化合物(A)において、前記第2官能基(a2)のアミノ基が、下記式(1)に表す構造中のアミノ基である、[6]又は[7]に記載の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
【化1】
(式(1)中、Gがカルボン酸基又はその塩を表す。)
[9] 多官能エポキシ(B)を架橋剤として用いて、前記ポリアスパラギン酸またはその塩を架橋してなる、[6]~[8]の何れかに記載の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
[10] 架橋度が、0.5~10モル%である、[1]~[9]の何れかに記載の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
[11] 前記変性ポリアスパラギン酸の塩が、有機塩基からなる塩又はアルカリ金属塩である、[1]~[10]の何れかに記載の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体。
[12] [1]~[11]の何れかに記載の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体を含むことを特徴とする増粘組成物。
[13] 水をさらに含む[12]に記載の増粘組成物。
[14] 前記増粘組成物の合計100質量%に対して、前記変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体の含有量が0.05~10質量%である[13]に記載の増粘組成物。
[15] [12]~[14]の何れかに記載の増粘組成物と、
化粧料有効成分と、
を含む化粧料組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、より長い時間一定以上の粘度を保持することができる増粘組成物、及びその増粘組成物に含まれる変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0009】
「~」は「~」という記載の前の値以上、「~」という記載の後の値以下を意味する。
【0010】
(変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体)
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体(「本実施形態の架橋体」と言うことがある。)において、前記変性ポリアスパラギン酸が、ポリアスパラギン酸に、アミノ基とカルボキシ基を有する化合物を付加したものである。本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸は、ポリコハク酸イミド(PSI)と前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物との反応物であることが好ましい。付加する化合物がカルボキシ基を有することで、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体を増粘組成物としたときの増粘性が向上する。
【0011】
<変性ポリアスパラギン酸またはその塩>
本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸は、アミノ基とカルボキシ基を有する化合物を用いて、ポリコハク酸イミド(PSI)を開環して得られるものであることが好ましい。
【0012】
〔ポリコハク酸イミド(PSI)〕
本実施形態に係るポリコハク酸イミド(PSI)は、以下式(2)に表すポリマーである。
【0013】
【0014】
ポリコハク酸イミド(PSI)の製造方法については特に限定されないが、例えば、アスパラギン酸をリン酸の存在下で真空中170~190℃で加熱、脱水縮合することにより製造される。更に高分子量のポリコハク酸イミド(PSI)を得る場合には、上記のようにして得られたポリコハク酸イミド(PSI)をジシクロヘキシルカルボジイミド等の縮合剤で処理すればよい。ポリコハク酸イミド(PSI)の分子量は、特に限定されない。例えば、重量平均分子量で2万以上であることが好ましく、5万以上であることがより好ましく、7万以上であることがさらに好ましい。ポリコハク酸イミド(PSI)の分子量は、50万以下であることが好ましく、20万以下であることがより好ましい。この場合の重量平均分子量は、GPC法によるポリスチレンを標準物質とした換算値である。
【0015】
〔アミノ基とカルボキシ基を有する化合物〕
本実施形態に係るアミノ基とカルボキシ基を有する化合物は、アミノ酸、アミノ酸のカルボン酸塩、及びアミノ酸エステルからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
また、アミノ基とカルボキシ基を有する化合物、その酸性塩を原料として用いてもよい。前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物の酸性塩としては、リシン塩酸塩、オルニチン塩酸塩、アルギニン塩酸塩等の塩酸塩や同様の硫酸塩が挙げられる。
【0016】
上記アミノ酸の具体例としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン等の脂肪族アミノ酸;セリン、スレオニン等のオキシアミノ酸;メチオニン、システイン、シスチン等の含硫アミノ酸;アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸;リジン、オルニチン、アルギニン等の塩基性アミノ酸:フェニルアラニン、チロシン等の芳香族アミノ酸;トリプトファン、ヒスチジン、プロリン、オキシプロリン等の複素環アミノ酸;アスパラギン、グルタミン等のアミド基を有するアミノ酸等が挙げられる。これらはL体、D体、DL体にかかわらず使用することができる。
【0017】
上記アミノ酸は、下記式(3)で表す化合物であることが好ましい。
【0018】
【0019】
(上記式中、Rが水素原子、炭素原子数が1~5のアルキル基、炭素原子数が1~5のアルコキシ基を表す。前記炭素原子数が1~5のアルキル基及び炭素原子数が1~5のアルコキシ基は、更に他の有機基で置換してもよい。この有機基としては例えば、アミノ基、カルボキシ基などが挙げられる。nが1~3の整数であることが好ましい。Rが水素原子、メチル基、エチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。)
【0020】
上記アミノ酸のカルボン酸塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が挙げられる。上記アミノ酸のカルボン酸塩が、ナトリウム塩、カリウム塩、又はカルシム塩等であることが好ましい。
【0021】
上記アミノ酸エステルとしては、上記アミノ酸のアルキルエステル、シクロアルキルエステル、ベンジルエステル等が挙げられる。
【0022】
上記アミノ酸のカルボン酸塩又は上記アミノ酸エステルは、下記式(4)で表す化合物であることが好ましい。
【0023】
【0024】
(上記式中、Xが、アルキル基、シクロアルキル基、ベンジル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属を表し;R及びnは、前記一般式(3)と同じである。Xは、メチル基、エチル基などのアルキル基;アルカリ金属であることが好ましい。nが1~3の整数であることが好ましい。なお、Xがアルカリ金属、アルカリ土類金属である場合、上記式(4)中の「-CO-O-X」とは、カルボン酸塩の意味である。)
【0025】
「アミノ酸エステルの製造方法」
本実施形態に係るアミノ酸エステル類の製造方法は、特に制限されない。本実施形態に係るアミノ酸エステル類は、一般的には、アミノ酸を硫酸、塩酸等の鉱酸触媒の存在下、過剰のアルコール中で加熱して製造される。
【0026】
〔変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法〕
本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法としては、アミノ基とカルボキシ基を有する化合物との反応によるポリコハク酸イミド(PSI)の開環反応方法が挙げられる。ポリコハク酸イミド(PSI)と前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物とを反応させることにより、ポリコハク酸イミド(PSI)のイミド環は開環する。前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物の使用量を、ポリコハク酸イミド(PSI)の単量体単位の当量に対して、1倍当量未満使用して開環反応を行なう場合は、一般的には、未反応イミド環が残存する。
【0027】
前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物が、アミノ酸エステルであることが好ましい。前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物としてアミノ酸エステルを用いる場合、本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩は、アミノ酸エステル変性ポリアスパラギン酸またはその塩(「アミノ酸エステル変性物」ということがある)である。本実施形態に係るアミノ酸エステル変性物の製造方法としては、ポリコハク酸イミド(PSI)と前記アミノ酸エステルとを反応させることにより、ポリコハク酸イミド(PSI)のイミド環は開環する。
【0028】
上記未反応イミド環が残存したままでも良いし、他のアミノ基とカルボキシ基を有する化合物を用いてさらに開環反応を行なっても良い。また、所望により、上記未反応イミド環を、エタノールアミン、システアミン、ジブチルアミン等の置換アミンで開環しても良い。
【0029】
「有機溶剤」
本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法において、有機溶剤は、ポリコハク酸イミド(PSI)及びアミノ基とカルボキシ基を有する化合物を実質的に溶解するものであれば、及び又は、反応の進行を実質的に阻害しないものであれば、特に制限されない。
【0030】
上記有機溶剤の具体例としては、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の非プロトン性極性有機溶剤が挙げられる。これらは単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0031】
「アミノ基とカルボキシ基を有する化合物の使用量」
本実施形態に係るアミノ基とカルボキシ基を有する化合物の使用量は、有機溶剤に実質的に溶解すれば、及び又は、反応の進行を実質的に阻害しなければ、特に制限されない。前記使用量は、一般的には、ポリコハク酸イミド(PSI)の単量体単位の当量に対して、0.1~10倍当量が用いられ、0.1~1.0倍当量が好ましい。
【0032】
「塩基性触媒」
本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法において、任意に用いる塩基性触媒は、反応速度を実質的に促進するものであれば、特に制限されない。上記塩基性触媒の具体例としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン(DABCO)等の脂肪族3級アミン;N-メチルモルホリン等の脂環式3級アミン;ジメチルアニリン、ジエチルアニリン等の芳香族3級アミン;及びテトラメチルグアニジン等が挙げられる。これらは単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0033】
「塩基性触媒の使用量」
本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法において、塩基性触媒の使用量は、反応速度を実質的に促進すれば、特に制限されない。上記した塩基性触媒の使用量は、一般的には、アミノ基とカルボキシ基を有する化合物の当量に対して、0~2倍当量を用いる。アミノ酸エステルが鉱酸塩の場合には、さらに、中和当量分の塩基を加える。
【0034】
「反応温度」
本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法において、反応温度は、反応の進行を実質的に維持できれば、特に制限されない。上記反応温度は、一般的には、5~150℃の温度範囲から選択され、通常、室温が選択される。上記反応温度は、5~150℃の温度範囲から、使用するアミノ基とカルボキシ基を有する化合物に最適な温度を選択することもできる。
【0035】
「反応系の濃度」
本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法において採用する反応系の濃度は、反応の進行を実質的に維持できれば、特に制限されない。上記反応系の濃度は、ポリコハク酸イミド(PSI)の濃度を基準として選択され、一般的には、ポリコハク酸イミド(PSI)濃度は1~50重量%の濃度範囲から選択される。上記反応系の濃度は、ポリコハク酸イミド(PSI)濃度は1~50重量%の範囲から、使用するアミノ基とカルボキシ基を有する化合物に最適な濃度を選択することもできる。
【0036】
<変性ポリアスパラギン酸またはその塩の単離方法>
本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法において採用される反応終了後に反応液から生成重合体を単離する方法は、実質的に、反応生成物を所望の純度で単離できるものであれば、特に制限されない。上記単離方法は、公知・公用のいずれの方法によってもよい。一般的には、濃縮、再結晶、又は再沈澱等の公知・公用の単離操作が採用される。
【0037】
上記単離方法の具体例としては、例えば、以下の工程A1~工程A3を含む方法等が挙げられる。
工程A1:反応終了後に、適当な温度において、反応生成物が溶解している反応液に、過剰の貧溶媒(例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等)を加え、反応生成物の結晶を析出する。
工程A2:工程1で析出した反応生成物の結晶を、デカンテーション、濾過又は吸引濾過等により単離する。
工程A3:工程2で単離した該結晶を溶解しない貧溶媒で充分に洗浄後、乾燥する。
他の具体例としては、例えば、例えば、以下の工程B1~工程B3を含む方法等が挙げられる。
工程B1:反応終了後に、適当な温度において、反応生成物が溶解している反応液を、前記と同じ過剰の貧溶媒に加え、反応生成物の結晶を析出する。
工程B2:工程1で析出した反応生成物の結晶を、前記工程A2と同様にして単離する。
工程B3:工程2で単離した結晶を、前記工程A3と同様にして洗浄し、乾燥する。
【0038】
本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法において、得らえた変性ポリアスパラギン酸またはその塩を単離せず、反応後の混合液をそのまま用いて、後述の架橋反応に参加してもよい。また、必要に応じて、溶媒以外の一部未反応原料のみを除去し、後述の架橋反応に参加してもよい。また、混合液の溶媒を増減して、濃度を調整してもよい。
【0039】
<架橋体の構造>
本実施態様に係る、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体(本実施形態の架橋体ということがある。)、多官能アミンを架橋剤として用いて架橋したポリアスパラギン酸またはその塩である。本実施態様に係る架橋体が、ポリアスパラギン酸骨格を有し、ポリアスパラギン酸鎖同士が多官能により連結された構造を有している。前記架橋体の架橋度が、1.0~5.0モル%であることが好ましい。
【0040】
本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸は、アスパラギン酸のペプチド結合により形成されるポリマーである。ポリアスパラギン酸の主鎖中のアミド結合は、α結合でもβ結合でもかまわない。また、これら結合様式は、構造単位毎に同じでもよく、異なっていてもよい。なお、変性アスパラギン酸のアミノ基と、変性アスパラギン酸のα位のカルボキシ基と結合した場合がα結合であり、アスパラギン酸のβ位のカルボキシ基と結合した場合がβ結合である。変性ポリアスパラギン酸の側鎖は、-CH2-COOH(α結合の場合)又は-COOH(β結合の場合)で表される。本実施態様の架橋体においては、例えば、多官能アミンがジアミンである場合、ある変性ポリアスパラギン酸鎖上の側鎖に存在するカルボキシ基と、別のポリアスパラギン酸鎖上の側鎖に存在するカルボキシ基とが、ジアミンのアミノ基とそれぞれアミド結合を形成することで、ポリアスパラギン酸鎖同士が架橋されている。
【0041】
多官能アミンがジアミンである場合、前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物との反応で得られた本実施態様の変性ポリアスパラギン酸において、前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物由来のカルボキシ基(「付加由来カルボキシ基」という。)も、鎖上の側鎖に存在する。本実施態様の架橋体においては、前記付加由来カルボキシ基と、別のポリアスパラギン酸鎖上の側鎖に存在するカルボキシ基とが、ジアミンのアミノ基とそれぞれアミド結合を形成することで、ポリアスパラギン酸鎖同士が架橋されてもよい。また、前記付加由来カルボキシ基と、別のポリアスパラギン酸鎖上の側鎖に存在する付加由来カルボキシ基とが、ジアミンのアミノ基とそれぞれアミド結合を形成することで、ポリアスパラギン酸鎖同士が架橋されてもよい。
【0042】
本実施態様の架橋体においては、変性ポリアスパラギン酸の側鎖上のカルボキシ基の一部がこのような架橋を形成している。ポリアスパラギン酸の側鎖上のカルボキシ基の別の一部(残部全体であってもよい)は、遊離のカルボン酸であっても、塩を形成していてもよい。その塩が特に限定されなく、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、トリエチルアミン、N-メチルモルホリン、トリエタノールアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の有機塩基からなる塩などが挙げられる。その中に、ポリアスパラギン酸の塩の具体例として、例えば、ポリアスパラギン酸のナトリウム塩が挙げられる。
【0043】
変性されていないポリアスパラギン酸側鎖のカルボキシ基は、主鎖のアミド結合中の-NH-と結合してイミド環を形成することができる。このため、主鎖の一部には、イミド環が存在していてもよい。つまり、本実施態様の架橋体中の一部の構成単位中における主鎖部分は、上記のようにして形成されたイミド環の一部を形成していてもよい。なお、本実施態様において「部分的に架橋された」とは、ポリアスパラギン酸の側鎖上のカルボキシ基の一部が架橋を形成していることを指す。
【0044】
また、本実施態様の架橋体における架橋により互いに連結された個々の変性ポリアスパラギン酸鎖の重量平均分子量は、4万以上であることが好ましく、8万以上であることがより好ましく、10万以上であることがさらに好ましい。変性ポリアスパラギン酸鎖の重量平均分子量が大きいほど、増粘効果が大きくなる。これらの重量平均分子量は、例えば、変性ポリアスパラギン酸を作製するための原料として後述のようにポリコハク酸イミド(PSI)を使用する場合、原料として使用するポリコハク酸イミド(PSI)を加水分解して得られたポリアスパラギン酸の塩をGPCで測定することにより、標準物質であるプルラン換算値として求めることができる。
【0045】
<架橋体の製造方法>
本実施態様に係る、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体の製造方法(本実施形態の架橋体の製造方法ということがある。)は特に限定されないが、例えば、本実施形態の変性ポリアスパラギン酸またはその塩と多官能アミン化合物とを反応した後、水溶液中でpHを調整しながら反応生成物の加水分解反応を行うことで得ることができる。あるいは、水溶液中で本実施形態の変性ポリアスパラギン酸またはその塩と多官能アミンとを反応させつつ加水分解することで得ることができる。この際に一部の構成単位においてはイミド環が残っていてもよい。
【0046】
〔多官能アミン〕
本実施態様に係る多官能アミンとしては、好ましくは1級及び/又は2級アミノ基を少なくとも2個有するアミンである。
ジアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;キシレンジアミン等の芳香環を含む脂肪族ジアミン;ノルボルネンジアミン等の脂環式ジアミン;1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン等のエーテル系ジアミン;リジン、オルニチンに代表されるような側鎖にアミノ基を持つアミノ酸類及びその誘導体;シスチン、シスタミン等に代表されるような、モノアミノ化合物がジスルフィド結合によりつながったもの及びその誘導体;等があげられる。これらのうち好ましいものは、ポリマー分解物の安全性が高いリジン、オルニチン、シスチン、シスタミン及びその誘導体である。誘導体としてはリジン、オルニチンの環状二量体であるジケトピペラジン類、リジン、オルニチン、シスチンのエステル類があげられる。
【0047】
ジアミン以外の多官能アミン化合物としては、例えば、トリス(2-アミノエチル)アミンやトリス(3-アミノプロピル)アミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等があげられる。
【0048】
本実施形態の変性ポリアスパラギン酸またはその塩と多官能アミンを反応させる方法としては、例えば、有機溶剤中で行う方法がある。本実施形態に係る多官能アミンがジアミンである場合の例を用いて、説明する。
有機溶剤中で本実施形態の変性ポリアスパラギン酸またはその塩とジアミンを反応させる方法では、本実施形態の変性ポリアスパラギン酸またはその塩を非プロトン性極性有機溶剤中に溶解した後、ジアミン、又は、ジアミンの該有機溶剤溶液を滴下する。前記非プロトン性極性有機溶剤としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等が挙げられる。この時、本実施形態の変性ポリアスパラギン酸またはその塩を溶解するのに用いられる有機溶剤の量は特に限定されないが、通常、ポリマー濃度が1~50質量%にして使用する。
【0049】
本実施形態の変性ポリアスパラギン酸またはその塩とジアミンを反応させる温度は、特に限定されないが、例えば、室温~80℃である。
【0050】
上記反応の条件(反応温度、反応時間、反応濃度、ジアミンの使用量等)は特に限定されないが、撹拌が困難となる程度まで反応がゲル化した後も本実施形態の変性ポリアスパラギン酸またはその塩とジアミンの反応を進行させるため、反応温度を維持した方が良い。
【0051】
反応で生成した本実施形態の架橋体の前駆体の単離には、公知の通常の単離操作、例えば、再結晶、再沈、濾過、濃縮等の操作を用いることができる。
【0052】
生成した本実施形態の架橋体の前駆体を単離した後、単離架橋体の前駆体のイミド環の加水分解反応を行なう。また、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法において、使用するアミノ基とカルボキシ基を有する化合物は、好ましくアミノ酸エステルである。その場合、得られた変性ポリアスパラギン酸またはその塩において、前記アミノ酸エステル由来のエステル部を有する。生成した本実施形態の架橋体の前駆体を単離した後、前記加水分解反応において、前記アミノ酸エステル由来のエステル部も加水分解反応を行う。
加水分解は、以下のことが実現できれば、その反応条件(反応系、pH、温度、ポリマー濃度、アルカリの種類、アルカリの濃度等)は特に限定されない。
【0053】
本実施形態の架橋体の前駆体の加水分解の反応系は、通常、水溶液中に本実施形態の架橋体の前駆体を懸濁させる方法で行うが、水と混和する各種有機溶剤を含有してもよい。水と混和する各種有機溶剤の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類、アセトン、テトラヒドロフランが挙げられる。架橋ポリコハク酸イミド(PSI)の加水分解時のpHは、通常、8.0~11.5が好ましく、9.0~11.0がより好ましい。この数値を、高くするほどイミド環の加水分解の効率が大きくなり、低くするほど望ましくない主鎖のアミド結合の加水分解の程度が小さくなる。架橋ポリコハク酸イミド(PSI)の加水分解時のポリマー濃度は、一般に、水が多いほど反応が速くなるが、生産性を考慮する場合は、ポリマー濃度で0.5~10質量%で行うのが好ましい。
【0054】
本実施形態の架橋体の前駆体の加水分解に用いることができるアルカリの具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;トリエチルアミン、N-メチルモルホリン、トリエタノールアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の有機塩基があげられる。
【0055】
本実施形態の架橋体の前駆体の加水分解に用いるアルカリは、通常、その水溶液として用いる。その濃度は、以下の濃度であれば特に限定されないが、5~48%が好ましく、10~30%がより好ましい。
・実質的に、イミド環の加水分解の効率が充分で、主鎖のアミド結合の加水分解の程度が小さく、pHの管理が可能であることが実現できる濃度。
この数値を、高くするほどイミド環の加水分解の効率が大きくなり、低くするほど望ましくない主鎖のアミド結合の加水分解の程度が小さくなる。
【0056】
本実施形態の架橋体の前駆体の加水分解反応で生成した、本実施態様の架橋体の単離には、公知の通常の単離操作、例えば、再結晶、再沈、濾過、濃縮等の操作を用いることができる。
【0057】
本実施形態の架橋体の製造方法において、まず、前記変性ポリアスパラギン酸またはその塩を製造してから、前記変性ポリアスパラギン酸またはその塩と多官能アミンとを反応させて架橋体を生成してもよい。また、以下のように、例えば、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の生成反応と、架橋反応とを同時に行ってもよい。
【0058】
変性ポリアスパラギン酸またはその塩の生成反応と、架橋反応とを同時に行った場合。ポリコハク酸イミド(PSI)と、前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物と、多官能アミンとの反応順(添加順)は、特に限定されなく、例えば、以下の3つの製造方法が挙げられる。
(I)ポリコハク酸イミド(PSI)と、前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物と反応させて、前記ポリアスパラギン酸またはその塩(P1)を得る工程と、上記工程で得た反応物(P1)と多官能アミンとを反応させる工程とを含む製造方法(以後、方法(I))。
(II)ポリコハク酸イミド(PSI)と、前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物とを先に混合して反応させながら、続いて、多官能アミンを一定の速度で添加する製造方法(以後、方法(II))。
(III)ポリコハク酸イミド(PSI)と、前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物と、多官能アミンとを混合してから反応させる製造方法(以後、方法(III))。
方法(I)又は方法(II)が好ましく、方法(I)がより好ましい。
【0059】
また、本実施態様の架橋体の大きさ(平均粒径)は特に限定されないが、好ましくは150μm以下であり、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは80μm以下である。平均粒径を150μm以下にすることで、増粘溶液の透明性が優れる、触感が滑らかになる等の利点が得られる。
【0060】
〔架橋度〕
本実施態様に係る多官能アミンの使用量は、所望の架橋度に応じて適宜選択すればよい。例えば、前述のジアミンとポリコハク酸イミド(PSI)を用いる製造方法の例の場合、生成した架橋体に高吸水性を付与する観点からは、ジアミンの使用量はポリコハク酸イミド(PSI)の換算モル数100モルに対して、0.5~25モルであり、好ましくは1.0~20モルであり、より好ましくは1.5~15モルであり、さらに好ましく2.0~10モルである。ジアミンの使用量は、ポリコハク酸イミド(PSI)の換算モル数100モルに対して、3モルである場合、単に、「ジアミンの使用量が3モル%」とする。ジアミンの使用量上記の範囲にすると、本実施態様の増粘組成物がより長い時間一定以上の粘度を保持することができる。ここで、ポリコハク酸イミド(PSI)の換算モル数とは、前述のポリコハク酸イミド(PSI)の合成方法の場合、使用する原料であるアスパラギン酸のモル数の意味である。
また、ポリコハク酸イミド(PSI)に対する多官能アミンの使用量(モル%)は、本発明の「架橋度」をいう。架橋度の単位は、「モル%」を用いる。
本実施態様に係る架橋体がジアミンとポリコハク酸イミド(PSI)を用いる製造方法で製造される場合、本実施態様に係る架橋体の架橋度は、加水分解前の架橋ポリコハク酸イミド(PSI)の架橋度から得られる。本実施態様に係る架橋体の架橋度は、0.5~25モル%であり、好ましくは1.0~20モル%であり、より好ましくは1.5~15モル%であり、さらに好ましく2.0~10モル%である。
【0061】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体(以後、「本実施形態の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体」、或いは「本実施形態の架橋体」と言う。)において、前記変性ポリアスパラギン酸は、ポリコハク酸イミド(PSI)と、前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物と、第1官能基(a1)と第2官能基(a2)とを有する化合物(A:a1-A1-a2)と、の反応物である。
【0062】
<変性ポリアスパラギン酸またはその塩>
本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩は、アミノ基とカルボキシ基を有する化合物及び化合物(A:a1-A1-a2)を用いて、ポリコハク酸イミド(PSI)を開環して得られるものであることが好ましい。前記化合物(A:a1-A1-a2)が第1官能基(a1)と第2官能基(a2)とを有する。
【0063】
〔ポリコハク酸イミド(PSI)〕
本実施形態に係るポリコハク酸イミド(PSI)は、第1実施形態に説明した「ポリコハク酸イミド(PSI)」と同様なポリコハク酸イミド(PSI)を用いることができる。
【0064】
〔アミノ基とカルボキシ基を有する化合物〕
本実施形態に係るアミノ基とカルボキシ基を有する化合物は、第1実施形態に説明した「アミノ基とカルボキシ基を有する化合物」と同様なアミノ基とカルボキシ基を有する化合物を用いることができる。この化合物がカルボキシ基を有することで、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体を増粘組成物としたときの増粘性が向上する。
【0065】
〔化合物(A)〕
本実施形態に係る化合物(A)の第1官能基(a1)がアミノ基(NH2-)であることが好ましい。第1官能基(a1)のアミノ基がNH2-CH2-のアミノ基であることがより好ましい。
【0066】
本実施形態に係る化合物(A)の第2官能基(a2)がアミノ基(NH2-)又はホスホノオキシ基((OH)2P(=O)-O-)基であることが好ましく、第2官能基(a2)がアミノ基(NH2-)であることがより好ましい。
【0067】
本実施形態に係る化合物(A)の第1官能基(a1)がアミノ基(NH2-)であり、かつ、第2官能基(a2)もアミノ基(NH2-)である場合、本実施形態に係る化合物(A)は、前述の第1実施形態に係る多官能アミンであっても良い。また、前述の多官能アミンと同様に、本実施形態に係る化合物(A)が多官能アミンである場合、ジアミン化合物であることが好ましい。また、本実施形態に係るジアミン化合物の具体例も、第1実施形態に記載の具体例と同じであっても良い。
【0068】
本実施形態に係る化合物(A)の第1官能基(a1)がアミノ基(NH2-)であり、かつ、第2官能基(a2)もアミノ基(NH2-)である場合、前記第2官能基(a2)のアミノ基が、下記式(1)に表す構造中のアミノ基であることが更に好ましい。
【0069】
【化5】
(式(1)中、Gがカルボン酸基又はその塩を表す。)
Gがカルボン酸基の塩の場合、当該塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アミン塩等の有機塩基塩、リシン塩、アルギニン塩等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。中でも好ましい塩はアルカリ金属塩であり、より好ましい塩としてはナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。
【0070】
本実施形態に係る化合物(A)の第1官能基(a1)がアミノ基(NH2-)であり、本実施形態に係る化合物(A)の第2官能基(a2)もアミノ基(NH2-)である場合、前記化合物(A)の前記第2官能基のアミノ基が、前記第1官能基のアミノ基より、ポリコハク酸イミド(PSI)との反応性が低いことが好ましい。すなわち、このような化合物(A)としては、それぞれのアミノ基を含む端末構造が異なるジアミン等が挙げられる。例えば、非対称のジアミン等が挙げられる。
【0071】
本実施形態に係る化合物(A)の第1官能基(a1)がNH2-CH2-のアミノ基であり、第2官能基(a2)のアミノ基が、上記式(1)に表す構造中のアミノ基である例としては、以下の式(5)に表す化合物が挙げられる。
【0072】
【0073】
(式中、n=1~10、好ましく2~8、より好ましく3~5)
【0074】
本実施形態に係る化合物(A)が上記式(5)に表す化合物のカルボン酸基の塩であってもよい。その場合、当該塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アミン塩等の有機塩基塩;リシン塩、アルギニン塩等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。中でも好ましい塩はアルカリ金属塩であり、より好ましい塩としてはナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。
【0075】
本実施形態に係る化合物(A)の第1官能基(a1)がアミノ基であり、かつ第2官能基(a2)もアミノ基である場合、第1官能基(a1)がNH2-CH2-のアミノ基であり、第2官能基(a2)のアミノ基が、上記式(1)に表す構造中のアミノ基である化合物(A)の例としては、以下の式(6)に表す化合物が挙げられる。
【0076】
【0077】
(式中、Lが2価連結基を表し、-CH2-, C=Oなどの2価連結基の1種以上を表すことが好ましく、-CH2-を表すことがより好ましい。nが1~10、好ましく2~8、より好ましく3~5の整数を表す。)
【0078】
本実施形態に係る化合物(A)が上記式(6)に表す化合物のカルボン酸基の塩であってもよく、その場合、当該塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アミン塩等の有機塩基塩;リシン塩、アルギニン塩等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。中でも好ましい塩はアルカリ金属塩であり、より好ましい塩としてはナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。
【0079】
本実施形態に係る化合物(A)の第1官能基(a1)がアミノ基であり、かつ第2官能基(a2)がホスホノオキシ基((OH)2P(=O)-O-)基である場合、以下の式(7)に表す化合物が挙げられる。
【0080】
【0081】
(式中、Lが2価連結基を表し、-CH2-,-(C=O)-などの2価連結基の1種以上を表すことが好ましく、-CH2-を表すことがより好ましい。nが1~10、好ましく2~8、より好ましく3~5の整数を表す。)
【0082】
本実施形態に係る化合物(A)が上記式(7)に表す化合物のホスホノオキシ基の塩であってもよい。その場合、当該塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アミン塩等の有機塩基塩;リシン塩、アルギニン塩等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。中でも好ましい塩はアルカリ金属塩であり、より好ましい塩としてはナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。
【0083】
本実施形態に係る化合物(A)としては、リシン、オルニチン及びアルギニン等が挙げられる。
また、本実施形態に係る化合物(A)がアミノ基を含む場合、前記化合物(A)の酸性塩を原料として用いてもよい。前記化合物(A)の酸性塩としては、リシン塩酸塩、オルニチン塩酸塩、アルギニン塩酸塩等の塩酸塩や同様の硫酸塩が挙げられる。
【0084】
また、本実施形態に係る化合物(A)としては、ジペプチドを用いることができる。上記ジペプチドとしては、例えば、グリシン-リシン(イソペプチド結合)、アラニン-リシン(イソペプチド結合)、グリシン-オルニチン(イソペプチド結合)、アラニン-オルニチン(イソペプチド結合)等のC末端に塩基性アミノ酸残基を有するジペプチド;リシン-グリシン、リシン-アラニン、オルニチン-グリシン、オルニチン-アラニン等のN末端に塩基性アミノ酸残基を有するジペプチド等が挙げられる。
中では、例えば、グリシン-リシンが、以下の式(8)で表すジペプチドであり、リシン-グリシンが、以下式(9)で表すジペプチドである。
【0085】
【0086】
〔変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法〕
本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法としては、前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物と前記化合物(A:a1-A1-a2)との反応によるポリコハク酸イミド(PSI)の開環反応方法が挙げられる。ポリコハク酸イミド(PSI)と、前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物及び前記化合物(A)(a1-A1-a2)と、を反応させることにより、ポリコハク酸イミド(PSI)のイミド環は開環する。
【0087】
前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物が、アミノ酸エステルであることが好ましい。前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物としてアミノ酸エステルを用いる場合、本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩は、アミノ酸エステル変性ポリアスパラギン酸またはその塩(「アミノ酸エステル変性物」ということがある)である。本実施形態に係るアミノ酸エステル変性物の製造方法としては、前記アミノ酸エステルと前記化合物(A)(a1-A1-a2)との反応によるポリコハク酸イミド(PSI)の開環反応方法が挙げられる。ポリコハク酸イミド(PSI)と、前記アミノ酸エステル及び前記化合物(A)(a1-A1-a2)と、を反応させることにより、ポリコハク酸イミド(PSI)のイミド環は開環する。
【0088】
「有機溶剤」
本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法において、有機溶剤は、以下の化合物を実質的に溶解するものであれば、また、反応の進行を実質的に阻害しないものであれば、特に制限されない。上記の化合物は、ポリコハク酸イミド(PSI)、アミノ基とカルボキシ基を有する化合物、及び前記化合物(A)を含む。
【0089】
上記有機溶剤の具体例としては、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の非プロトン性極性有機溶剤が挙げられ、これらは単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0090】
「アミノ基とカルボキシ基を有する化合物の使用量」
本実施形態に係るアミノ基とカルボキシ基を有する化合物の使用量は、有機溶剤に実質的に溶解すれば、及び又は、反応の進行を実質的に阻害しなければ、特に制限されない。前記使用量は、一般的には、ポリコハク酸イミド(PSI)の単量体単位の当量に対して、0.1~10倍当量が用いられ、0.1~1.0倍当量が好ましい。
【0091】
「塩基性触媒」
本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法において、任意に用いる塩基性触媒は、第1実施形態の変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法において記載したものと同じであっても良い。
【0092】
「塩基性触媒の使用量」
本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法において、塩基性触媒の使用量は、第1実施形態の変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法において記載したものと同じである。
【0093】
「反応温度」
本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法において、反応温度は、第1実施形態の変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法において記載したものと同じであっても良い。
【0094】
「反応系の濃度」
本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法において採用する反応系の濃度は、反応の進行を実質的に維持できれば、特に制限されない。上記反応系の濃度は、ポリコハク酸イミド(PSI)の濃度を基準として選択され、一般的には、ポリコハク酸イミド(PSI)濃度は1~50重量%の濃度範囲から選択される。上記反応系の濃度は、ポリコハク酸イミド(PSI)濃度は1~50重量%の範囲から、使用するアミノ基とカルボキシ基を有する化合物に最適な濃度を選択することもできる。使用する前記化合物(A)の濃度は、後述架橋度などによって適宜で選択することができる。
【0095】
<変性ポリアスパラギン酸またはその塩の単離方法>
本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法において採用される反応終了後に反応液から生成重合体を単離する方法は、第1実施形態の変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法において記載したものと同じであっても良い。
【0096】
本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法において、得らえた変性ポリアスパラギン酸またはその塩を単離せず、反応後の混合液をそのまま用いて、後述の架橋反応に参加してもよい。また、必要に応じて、溶媒以外の一部未反応原料のみを除去し、後述の架橋反応に参加してもよい。また、混合液の溶媒を増減して、濃度を調整してもよい。
【0097】
<架橋体の構造>
本実施形態の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体(本実施形態の架橋体と言うことがある)は、本実施形態にかかる変性ポリアスパラギン酸またはその塩と、多官能エポキシ(B)と、の反応物である。前記変性ポリアスパラギン酸またはその塩が、前記第1官能基(a1)とポリコハク酸イミド(PSI)とを付加反応して形成したPSI-a1(A)結合を含む。本実施形態の架橋体が、前記第2官能基(a2)と多官能エポキシ(B)と反応して形成したB-a2(A)結合を含む。前記架橋体が、PSI-a1-A1-a2-B-a2-A1-a1-PSIで表す架橋構造(PABAP)を含む。
【0098】
〔多官能エポキシ(B)〕
本実施形態に係る多価エポキシ化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテルおよびブタンジオールジグリシジルエーテル等の(C2-C6)アルカンポリオール及びポリ(アルキレングリコール)のポリグリシジルエーテル;ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、エリスリトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールエタンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、1,2,3,4-ジエポキシブタン、1,2,4,5-ジエポキシペンタン、1,2,5,6-ジエポキシヘキサン、1,2,7,8-ジエポキシオクタン、1,4-及び1,3-ジビニルベンゼンエポキシド等の(C4-C8)ジエポキシアルカン及びジエポキシアルアルカン;4,4‘-イソプロピリデンジフェノールジグリシジルエーテル(ビスフェノールAジグリシジルエーテル)及びヒドロキノンジグリシジルエーテル等の(C6-C15)ポリフェノールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
また、ナガセケムテックス製の多官能エポキシ化合物EX-810、EX-861、EX-313、EX-614B、EX-512等が挙げられる。
【0099】
(架橋体の製造方法)
本実施形態の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体の製造方法(以後、「本実施形態の架橋体の製造方法」をいうことがある。)は、まず、本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩を加水分解反応し、加水分解後の変性ポリアスパラギン酸またはその塩(「加水分解変性物」ということがある。)を得る工程と、前記加水分解変性物と、多官能エポキシ(B)と、水若しくは含水溶媒において、反応させて架橋体を生成する工程と、を含む。前記変性ポリアスパラギン酸またはその塩、多官能エポキシ(B)は、本実施形態の架橋体において記載したものと同じものであり、これらの好ましい例も同じである。
【0100】
本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩を製造する際に、前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物としてアミノ酸エステルを用いる場合、本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩は、アミノ酸エステル変性ポリアスパラギン酸またはその塩(「アミノ酸エステル変性物」ということがある)である。本実施形態の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体の製造方法は、前記アミノ酸エステル変性物を用いることが好ましい。本実施形態の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体の製造方法は、前記アミノ酸エステル変性物を用いる場合、本実施形態の架橋体の製造方法は、まず、前記アミノ酸エステル変性物を加水分解反応し、アミノ酸変性物を得る工程と、前記アミノ酸変性物と、多官能エポキシ(B)と、水若しくは含水溶媒において、反応させて架橋体を生成する工程と、を含む。
【0101】
本実施形態の、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体の製造方法(以後、本実施形態の架橋体の製造方法をいうことがある。)は、本実施形態に係る変性ポリアスパラギン酸またはその塩と、多官能エポキシ(B)と、水若しくは含水溶媒において、反応させて架橋体を生成する工程と、を含んでも良い。
【0102】
本実施形態の架橋体の製造方法において、まず、前記変性ポリアスパラギン酸またはその塩を製造してから、前記変性ポリアスパラギン酸またはその塩と多官能エポキシ(B)とを反応させて架橋体を生成してもよい。また、変性ポリアスパラギン酸またはその塩の生成反応と、架橋反応とを同時に行ってもよい。例えば、以下の方法(i)~(iii)が挙げられる。
【0103】
(i)ポリコハク酸イミド(PSI)と、前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物と、化合物(A)と反応させて、前記変性ポリアスパラギン酸またはその塩(P1)を得る工程と、上記工程で得た反応物(P1)と多官能エポキシ化合物とを反応させる工程とを含む製造方法(以後、方法(i))。
(ii)ポリコハク酸イミド(PSI)と、前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物と、化合物(A)とを先に混合して反応させながら、続いて、多官能エポキシ化合物を一定の速度で添加する製造方法(以後、方法(ii))。
(iii)ポリコハク酸イミド(PSI)と、前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物と、化合物(A)と、多官能エポキシ化合物とを混合してから反応させる製造方法(以後、方法(iii))。
得られた変性ポリアスパラギン酸架橋体の構造を制御することが容易である観点から、方法(i)又は方法(ii)が好ましく、方法(i)がより好ましい。
【0104】
上記方法(i)を例として、本実施形態の製造方法を詳細に説明する。
方法(i)において、反応物(P1)を得る工程では、前述の本実施形態の変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法で得られた変性ポリアスパラギン酸またはその塩を加水分解して、加水分解後の変性ポリアスパラギン酸またはその塩を得る工程を含むことが好ましい。加水分解後の変性ポリアスパラギン酸またはその塩は、反応物(P1)として、後の工程において、多官能エポキシ化合物とさせることができる。
また、前述の本実施形態の変性ポリアスパラギン酸またはその塩の製造方法で得られた変性ポリアスパラギン酸またはその塩が、前記アミノ酸エステル変性物である場合、反応物(P1)を得る工程では、前記アミノ酸エステル変性物を加水分解して、前記アミノ酸変性物を得る工程を含むことが好ましい。前記アミノ酸変性物は、反応物(P1)として、後の工程において、多官能エポキシ化合物とさせることが好ましい。
【0105】
方法(i)において、反応物(P1)を得る工程では、以下の方法であってもよい。 前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物と化合物(A)を先に水に溶解することが好ましい。例えば、1質量部の化合物(A)に対して、0.2~2.0質量部の前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物が好ましく、0.5~1.5質量部の前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物がより好ましい。1質量部の化合物(A)に対して、5~50質量部の水が好ましく、7~15質量部の水がより好ましい。その水溶液にポリコハク酸イミド(PSI)を混合する。配合比は、10質量部のポリコハク酸イミド(PSI)に対して、化合物(A)の質量部が0.5~20質量部であることが好ましく、1~15質量部であることがより好ましく、1.5~10質量部であることが更に好ましい。10質量部のポリコハク酸イミド(PSI)に対して、前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物の質量部が0.5~20質量部であることが好ましく、1~15質量部であることがより好ましく、1.5~10質量部であることが更に好ましい。
【0106】
配合後の混合物において、NaOH、アミンなどの有機・無機塩基化合物を添加して、水溶液のpHを8~13に調整することが好ましく、水溶液のpHを9~12に調整することがより好ましい。
得られた生成物において、化合物(A)が付加されたユニットの割合は全ユニットに対して2~50%であることが好ましく、5~35%であることがより好ましく、8~25%であることが更に好ましい。化合物(A)が付加されたユニットの割合は、プロトンNMRにおける、ポリアスパラギン酸主鎖骨格中の-CH2-のプロトン由来のピークの積分値Iaと、化合物(A)中の-CH2-のプロトン由来のピークの積分値Ibと前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物中の-CH2-のプロトン由来のピークの積分値Icの比(Ib/(Ia+Ib+Ic))から求められる。
得られた生成物において、前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物が付加されたユニットの割合は全ユニットに対して50~99であることが好ましく、60~95であることがより好ましく、70~90であることが更に好ましい。前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物が付加されたユニットの割合は、プロトンNMRにおける、ポリアスパラギン酸主鎖骨格中の-CH2-のプロトン由来のピークの積分値Iaと、化合物(A)中の-CH2-のプロトン由来のピークの積分値Ibと前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物中の-CH2-のプロトン由来のピークの積分値Icの比Ic/(Ia+Ib+Ic)から求められる。
【0107】
方法(i)において、反応物(P1)と多官能エポキシ化合物とを反応する工程では、反応物(P1)100質量部に対して、多官能エポキシ化合物の配合量が0.5~10質量部であることが好ましく、1.0~5.0質量部であることがより好ましい。
反応物(P1)としては、反応物(P1)の生成工程において得た反応液から、反応物(P1)を単離してなる固体状の反応物(P1)を用いることができる。その場合、多官能エポキシ化合物を配合する前に、反応物(P1)の水溶液を先に調製することが好ましい。
反応物(P1)としては、反応物(P1)生成工程において得た反応液から、反応物(P1)を単離せず、そのまま溶液状態で、多官能エポキシ化合物を配合することができる。
【0108】
反応物(P1)と多官能エポキシ化合物との反応温度は、30℃~100℃であることができる。40~80℃であることが好ましく、50~70℃であることがより好ましい。反応時間は、例えば、60℃である場合、10分~600分であることができる。20~300分であることがより好ましい。
【0109】
反応で生成した、本実施形態の変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体の単離には、公知の通常の単離操作、例えば、再結晶、再沈、濾過、濃縮等の操作を用いることができる。
【0110】
また、本実施態様の架橋体の大きさ(平均粒径)は特に限定されないが、例えば、増粘組成物の用途では、好ましくは150μm以下であり、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは80μm以下である。平均粒径を150μm以下にすることで、増粘溶液の透明性が優れる、触感が滑らかになる等の利点が得られる。
【0111】
〔架橋度〕
本実施態様に係るポリコハク酸イミド(PSI)に対して、前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物、化合物(A)、多官能エポキシ(B)の使用量は、所望の架橋度に応じて適宜選択すればよい。例えば、前述の方法(i)を用いる製造方法の例の場合、ポリコハク酸イミド(PSI)と前記アミノ基とカルボキシ基を有する化合物と化合物(A)と配合比及びを上述の範囲で調整し、さらに、多官能エポキシ(B)を調整することで、架橋度を制御することができる。最終で生成したポリアスパラギン酸架橋体の用途によるが、例えば、高い吸水性と保水性が必要な用途では、ポリコハク酸イミド(PSI)において、化合物(A)が付加されたユニットの割合(付加率)は全ユニットに対して1~30%であることが好ましく、2~25%であることがより好ましく、3~20%であることが更に好ましい。前記付加率は、NMRより測定することができる。
【0112】
(増粘組成物)
本発明の一実施形態(以後、本実施形態)の増粘組成物は、前記第1実施形態の架橋体及び前記第2実施形態の架橋体からなる群から選択される1種以上(本実施形態に係る架橋体ということがある。)を含むことが好ましい。
【0113】
<水>
本実施形態の増粘組成物は、水を含まなくてもよい。例えば、後述の方法で得られた本実施形態増粘組成物に対して、さらに、乾燥処理などを行い、粉末状の増粘組成物を得ることができる。本実施形態の増粘組成物は、本実施形態に係る架橋体のみからなってもよい。すなわち、本実施形態に係る架橋体の以外に、他の成分を実質的に含まなくてもよい。「他の成分を実質的に含まない」意味は、例えば、その増粘組成物において、架橋体の含有量が95.0~100質量%であり、98.0~100質量%であることが好ましく、99.0~100質量%であることがより好ましく、100%であることがさらに好ましい。
【0114】
本実施形態の増粘組成物は、水を含んでもよい。例えば、前述の方法で得られた本実施形態増粘組成物を、脱水処理を行ず、そのまま、使用してもよい。本実施形態の水としては、例えば、イオン交換水などが挙げられる。
また、増粘組成物が水を含む場合、「水を含む増粘組成物」を「増粘溶液」と言うこともある。
水を含む増粘組成物(増粘溶液)の合計100質量%に対して、前記架橋体の含有量が0.05~10質量%であることが好ましく、0.1~7.0質量%であることがより好ましく、0.3~5.0質量%であることがさらに好ましく、0.5~3.0質量%であることが特に好ましい。
【0115】
増粘組成物が水を含む場合には、そのpH値が4.5~10.0の範囲であることが好ましく、5.0~9.0の範囲であることがより好ましい。
pH値の調製方法としては、特に限定がなく、酸性物質や塩基性物質を用いて調製する方法が挙げられる。酸の具体例としては、クエン酸などの有機酸が挙げられる。塩基の具体例としては、アンモニアなどの有機塩基性化合物や水酸化ナトリウムなどの無機塩基性化合物が挙げられる。
【0116】
<その他の成分>
本実施形態の増粘組成物は、さらに、その他の成分を含んでもよい。例えば、化粧品有効成分などが挙げられる。また、化粧品によく使用される添加剤、例えば、界面化成剤、安定剤、保湿剤などが挙げられる。
【0117】
<増粘組成物の調製方法>
本実施形態の増粘組成物を調製する方法としては、例えば、前述の本実施形態に係る架橋体を所定の量で秤量し、必要があれば、水、又はその他の成分を所定の量を添加し、攪拌して調製する方法が挙げられる。
本実施形態の増粘組成物が水を含む場合、先に、本実施形態に係る架橋体の水分散液を調製し、必要があれば、他の成分と混合してもよい。
本実施形態の増粘組成物が水を含まない場合、固体状の架橋体を所定の量で秤量し、必要があれば、他の固形成分と混合してもよい。あるいは、先に架橋体と水とを含む分散液を調製し、必要があれば、他の成分と混合して混合液を作成し、乾燥処理を行ってから調製してもよい。
【0118】
(化粧料組成物)
本実施形態に係る化粧料組成物は、前述増粘組成物と化粧料有効成分とを含む。化粧料有効成分としては、例えば、高級アルコール、低級アルコール、多価アルコール、pH調整剤、界面活性剤、金属イオン封鎖剤、酸化防止剤、物理的及び化学的日焼け止め剤、ビタミン類、皮膚保護剤、油脂、炭化水素油剤、保湿剤、制汗剤、洗浄剤、香料、化粧料用着色剤、抗菌剤、殺菌剤、感触向上剤及び泡安定化剤、他の増粘剤などが挙げられる。本実施形態に係る化粧料組成物は、さらに水を含んでもよい。
本実施形態に係る化粧料組成物が水を含む場合、化粧料組成物の合計100質量%に対して、本実施形態に係る架橋体の含有量が0.05~10質量%であることが好ましく、0.1~7.0質量%であることがより好ましく、0.3~5.0質量%であることがさらに好ましく、0.5~3.0質量%であることが特に好ましい。
【0119】
(変性ポリアスパラギン酸またはその塩の架橋体のその他の用途)
前記第1実施形態の架橋体及び前記第2実施形態の架橋体からなる群から選択される1種以上(本実施形態に係る架橋体ということがある。)は、オムツ・衛生用品などの吸収性物品の吸収体を構成する吸水性組成物として使用することができる。本実施形態に係る架橋体は、上記吸水性組成物として使用される場合、大きさ(平均粒径)が好ましくは1~5000μmであり、より好ましくは10~1000μmであり、さらに好ましくは100~800μmである。
また、本実施形態に係る架橋体は、増粘組成物として使用することができる。本実施形態に係る架橋体は、上記吸水性組成物として使用される場合、大きさ(平均粒径)が好ましくは150μm以下であり、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは80μm以下である。
【実施例0120】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
(原料)
アスパラギン酸:YIXING QIANCHENG BIO-ENGINEERING社製、99.97%純度
リン酸:関東化学社製、85%純度
ジメチルホルムアミド:関東化学社製、99.5%純度
ヘキサメチレンジアミン(HDA):関東化学社製、98%純度
エタノール:関東化学社製、99.5%純度
イソプロパノール:関東化学社製、99.7%純度
メタノール:関東化学社製、99.8%純度
水酸化ナトリウム:関東化学社製、48%純度
β-アラニンエチル塩酸塩:東京化成工業製、98%純度
L-リジンメチルエステル二塩酸塩:東京化成工業製、98%純度
トリエチルアミン:関東化学社製、99%純度
多官能エポキシ化合物:ナガセケムテックス製、EX-810
【0121】
(合成例1)
<ポリコハク酸イミド(PSI)の合成>
アスパラギン酸160部と85%リン酸83部を乳鉢で混合し、トレイに移し替えて、190℃、1.3kPa、6時間反応させた。反応混合物を粉砕した後、蒸留水を用いて、ろ液が中性になるまで洗浄し、80℃にて真空乾燥することにより、重量平均分子量7万のポリコハク酸イミド(PSI)115部を得た。
【0122】
<ポリコハク酸イミド(PSI)の重量平均分子量の測定>
ポリコハク酸イミド(PSI)の重量平均分子量は、GPC法(示差屈折計)によるポリスチレン換算値を求めた。測定には、G1000HHRカラム、G4000HHRカラム、及びGMHHR-Hカラム(TSKgel(登録商標)、東ソー株式会社)を使用した。溶離液には、10mM臭化リチウムを含むジメチルホルムアミドを使用した。
【0123】
(合成例2)
<β-アラニンエチルエステル/L-リジンメチルエステル変性体の合成>
合成例1で得られたポリコハク酸イミド(PSI)10部をジメチルホルムアミド40部に混合し、60℃で5時間撹拌して溶解した。溶液を40℃に加温しながら、β-アラニンエチルエステル塩酸塩12.7部とトリエチルアミン10部を添加し、40℃に保ったまま8時間反応した。L-リジンメチルエステル二塩酸塩14.4部とトリエチルアミン13.1部を添加し、40℃に保ったまま8時間反応した。反応溶液中のトリエチルアミン塩酸塩を濾別した後、イソプロパノール1300部に投入し、沈殿物を回収した。沈殿物をイソプロパノール600部で1時間洗浄し、濾別回収した沈殿物を60℃にて真空乾燥することにより、β-アラニンエチルエステル/L-リジンメチルエステル変性体14.1部を得た。
【0124】
(合成例3)
(β-アラニンナトリウム/L-リジンナトリウム変性体の合成)
β-アラニンエチルエステル/L-リジンメチルエステル変性体10部をイオン交換水15部に分散させた。20%水酸化ナトリウム9.3部を2時間で滴下した後、15時間反応させた。イソプロパノール600部に投入し、沈殿物を濾別回収した後、さらにイソプロパノール350部で洗浄した。濾別回収した沈殿物を60℃にて真空乾燥することにより、β-アラニンナトリウム/リジンナトリウム変性体10.8部を得た。
【0125】
(実施例1)
<β-アラニンエチルエステル変性ジアミン架橋体の合成>
合成例1で得られたポリコハク酸イミド(PSI)5.0部をジメチルホルムアミド20部に混合し、60℃で5時間撹拌して溶解した。溶液を40℃に加温しながら、β-アラニンエチルエステル塩酸塩7.1部とトリエチルアミン5.6部を添加し、40℃に保ったまま8時間反応した。反応溶液中のトリエチルアミン塩酸塩を濾別した後、再度40℃に加温した。ヘキサメチレンジアミン0.78部とジメチルホルムアミド0.78部を混合した溶液を滴下し、40℃に保ったまま6時間反応した。得られたゲルを細かく粉砕した後、酢酸エチル350部に加えて1時間洗浄した。濾別した後、さらに酢酸エチル350部で1時間洗浄し、60℃にて真空乾燥することにより、β-アラニンエチルエステル変性ジアミン架橋体8.6部を得た。
【0126】
<β-アラニン変性ジアミン架橋体の合成>
上記得られた、β-アラニンエチルエステル変性架橋体4.5部をエタノール21部、イオン交換水10部に分散させた。48%水酸化ナトリウム1.2部を添加した後、15時間反応させた。pHを測定しながら10%メタンスルホン酸水溶液をpH5.0になるまで滴下した。エタノール650部に投入し、沈殿物を濾別回収した後、さらにエタノール350部で洗浄した。濾別回収した沈殿物を60℃にて真空乾燥することにより、β-アラニンナトリウム変性架橋体3.7部を得た。乾燥した生成物を乳鉢で粉砕し、ステンレスふるい(JIS Z-8801)を用いて20~40μmとなるようにメッシュ・パスして本発明のβ-アラニン変性ジアミン架橋体を得た。
【0127】
<増粘溶液の作製と粘度評価>
得えられた架橋体1.5部とイオン交換水98.5部を混合した後、水酸化ナトリウムを添加してpHを5.0に調整した。本実施例の水を含む増粘組成物(増粘溶液L1)を得た。
回転式レオメーター MCR102でせん断粘度を測定した後、増粘溶液L1を40℃の恒温機内で保存した。7日間保存した後に測定した粘度が初期粘度の60%以上を保持している場合を○、60%未満になっているものを×と評価した。
【0128】
(実施例2)
<β-アラニン/L-リジン変性エポキシ架橋体の合成>
合成例3で得られたβ-アラニンナトリウム/L-リジンナトリウム変性体2.0部をイオン交換水3.0部に溶解した。多官能エポキシ化合物EX-810(ナガセケムテックス製)の20%水溶液0.16部を混合し、60℃で2時間反応した。得られたゲル組成物を60℃にて真空乾燥した。さらにエタノール50部、イオン交換水20部の混合液に投入し、20%メタンスルホン酸水溶液をpH5.0になるまで滴下した。エタノール350部に投入し、沈殿物を濾別回収した後、さらにエタノール200部で洗浄した。60℃にて真空乾燥することにより、β-アラニン/L-リジン変性エポキシ架橋体2.0部を得た。乾燥した生成物を乳鉢で粉砕し、ステンレスふるい(JIS Z-8801)を用いて20~40μmとなるようにメッシュ・パスして本発明のポリマーを得た。
【0129】
<増粘溶液の作製と粘度評価>
得えられた架橋体1.5部とイオン交換水98.5部を混合した後、水酸化ナトリウムを添加してpHを5.0に調整した。本実施例の水を含む増粘組成物(増粘溶液L2)を得た。
回転式レオメーター MCR102でせん断粘度を測定した後、増粘溶液L2を40℃の恒温機内で保存した。7日間保存した後に測定した粘度が初期粘度の60%以上を保持している場合を○、60%未満になっているものを×と評価した。
【0130】
(比較例1)
<ポリアスパラギン酸ジアミン架橋体の合成>
ポリコハク酸イミド(PSI)10部をジメチルホルムアミド40部に混合し、60℃で5時間撹拌して溶解した。溶液を40℃に加温しながら、ヘキサメチレンジアミン0.36部とジメチルホルムアミド3.23部を混合した溶液を滴下し、40℃に保ったまま8時間反応した。得られたゲルをイオン交換水500部に加え、ミキサーで粉砕した。濾別した後、メタノール150部で1時間洗浄し、60℃にて真空乾燥することにより、架橋ポリコハク酸イミド(PSI)10.1部を得た。得られた架橋ポリコハク酸イミド(PSI)3.0部をメタノール67部、イオン交換水33部に分散させた。48%水酸化ナトリウム8.0部とメタノール8.0部を混合した溶液を10分割し30分ごとに添加した後、15時間反応させた。反応液をメタノール1300部に投入し、沈殿物を濾別回収した後、さらにメタノール350部で洗浄した。60℃にて真空乾燥した。乾燥した生成物を乳鉢で粉砕し、ステンレスふるい(JIS Z-8801)を用いて20~40μmとなるようにメッシュ・パスして、ポリアスパラギン酸ジアミン架橋体12部を得た。
【0131】
<増粘溶液の作製と粘度評価>
得えられた架橋体1.5部とイオン交換水98.5部を混合した後、水酸化ナトリウムを添加してpHを5.0に調整した。本比較例の水を含む増粘組成物(増粘溶液cL1)を得た。
回転式レオメーター MCR102でせん断粘度を測定した後、増粘溶液cL1を40℃の恒温機内で保存した。7日間保存した後に測定した粘度が初期粘度の60%以上を保持している場合を○、60%未満になっているものを×と評価した。
【0132】
【0133】
(考察)
表1に示すように、アミノ基とカルボキシ基を有する化合物で変性した変性ポリアスパラギン酸の架橋体は、変性していないポリアスパラギン酸の架橋体と比較して優れた粘度安定性が観測された。ポリアスパラギン酸は側鎖のカルボキシ基が主鎖のアミド結合に対し求核反応を起こすことで主鎖の切断が起こると言われている。その結果、粘度が経時で低下する。変性ポリアスパラギン酸の架橋体は側鎖のカルボキシ基を主鎖のアミド結合から遠ざけることによって、主鎖の切断を抑制でき粘度安定性が向上したと推定される。