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  • 特開-基板およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181638
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/005 20120101AFI20231218BHJP
   B24B 37/07 20120101ALI20231218BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20231218BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20231218BHJP
   G03F 1/60 20120101ALI20231218BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
B24B37/005 Z
B24B37/07
B24B37/00 H
H01L21/304 621D
G03F1/60
C03C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094880
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎗田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】原田 大実
(72)【発明者】
【氏名】松井 晴信
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正樹
【テーマコード(参考)】
2H195
3C158
4G059
5F057
【Fターム(参考)】
2H195BB27
2H195BC27
2H195BC28
3C158AA07
3C158AA11
3C158BA02
3C158BA04
3C158BB02
3C158BC02
3C158CA01
3C158CA06
3C158CB01
3C158CB10
3C158DA02
3C158EA01
3C158EB01
3C158ED04
3C158ED24
3C158ED26
4G059AA11
4G059AC03
5F057AA05
5F057AA28
5F057BA30
5F057BB40
5F057DA03
5F057EA01
5F057EA07
5F057EA33
(57)【要約】
【課題】深さ5nm未満の凹状欠陥が抑制され、EUVL用のマスクブランクス用として好適な基板の製造方法を提供すること。
【解決手段】研磨パッドを備えた上定盤を有する研磨装置を用いて最終研磨を行う基板の製造方法であって、主表面が上定盤側を向くように基板を研磨装置に保持し、前記基板の主表面に研磨スラリーを同伴しながら、上定盤を回転させて前記基板を研磨した後、上定盤を回転させたまま上昇させて研磨した基板の主表面から上定盤を離す工程を含む基板の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨パッドを備えた上定盤を有する研磨装置を用いて最終研磨を行う基板の製造方法であって、
主表面が上定盤側を向くように基板を研磨装置に保持し、前記基板の主表面に研磨スラリーを同伴しながら、上定盤を回転させて前記基板を研磨した後、上定盤を回転させたまま上昇させて研磨した基板の主表面から上定盤を離す工程を含む基板の製造方法。
【請求項2】
前記研磨した基板の主表面から上定盤を離す際の上定盤の回転数が、0.5~50rpmである請求項1記載の基板の製造方法。
【請求項3】
前記研磨した基板の主表面から上定盤を離す際の上定盤の上昇速度が、0.1~50mm/秒である請求項1または2記載の基板の製造方法。
【請求項4】
前記研磨スラリーの20℃における粘度が、0.5~30mPa・sである請求項1または2記載の基板の製造方法。
【請求項5】
前記研磨スラリーが、砥粒成分を5~50質量%含む請求項1または2記載の基板の製造方法。
【請求項6】
前記研磨スラリーが、砥粒成分としてコロイド状シリカ粒子を含む請求項1または2記載の基板の製造方法。
【請求項7】
ガス吸着法により測定される比表面積から算出される前記コロイド状シリカ粒子の平均一次粒子径が、5nm以上50nm以下である請求項6記載の基板の製造方法。
【請求項8】
前記研磨スラリーのpHが、8~11である請求項1または2記載の基板の製造方法。
【請求項9】
前記基板が、SiO2を主成分とするマスクブランクス用ガラス基板である請求項1または2記載の基板の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の製造方法によって得られ、1μm×1μmの領域の表面形状を原子間力顕微鏡で測定して得られる、極座標形式のパワースペクトル密度PSD(f,θ)を空間周波数10μm-1以上100μm-1以下の範囲で平均化したPSD_AVE(θ)の最大値が、0.05nm4以下であるマスクブランクス用ガラス基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板およびその製造方法に関し、さらに詳述すると、特に、マスクブランクス用基板として好適に用いられるガラス基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトリソグラフィによるパターンの微細化が進むにつれ、フォトマスク用基板として用いられるガラス基板の欠陥密度や欠陥サイズ、面粗さ、平坦度等の品質要求がより一層厳しくなっている。とりわけ、基板上の欠陥に関しては、以前は問題とならなかったような極めて微小な欠陥までもがパターン形成を乱す原因となり、また、欠陥検査機の感度の向上により、そのような微小欠陥の検出が可能となっており、これらの低減が求められている。
【0003】
近年、従来の紫外線によるフォトリソグラフィよりさらに微細なパターンの形成を実現するため、Extreme Ultra Violet(以下、「EUV」と略す。)光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィ(以下、「EUVL」と略す。)が注目されている。EUV光とは、波長が0.2~100nm程度の軟X線領域または真空紫外領域の波長帯域の光であり、EUVLで用いられる転写マスクとしては、反射型マスクが実用されている。このようなEUVLの反射型マスクに用いられるマスクブランクス用基板に求められる表面品質は特に厳しく、深さ5nm未満の凹状欠陥であっても、露光時にパターン形成を乱す原因となってしまう。
【0004】
このようなマスクブランクス用基板の表面品質は、研磨工程の最終段(以下、最終研磨と称する。)の実施方法が大きく影響する。例えば、特許文献1では、表面の最大山と最小山の高低差が50μm以下のパッド表面を有するスウェード系パッドを使用し、1~60g/cm2の研磨荷重でガラス基板を研磨することで、凹状欠点の発生を抑え、優れた表面平滑性を得る方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、研磨布の面積をS1(m2)とし、ガラス素材の表面の表面積をS2(m2)とし、研磨される前記ガラス素材の枚数をN(枚)としたとき、Q=N×S2/S1で表される値Qが、0.05以上0.2以下であり、研磨布は、外径がD(m)の略円形であり、研磨定盤のガラス素材に対する回転数をω(rpm)とし、前記研磨スラリーの供給量をP(L/min)としたとき、A=(2π(D/2)2ω)/Pで表されるAを、1以上15以下とすることにより、凹状欠点数のばらつきを有意に抑制することが可能な、マスクブランク用のガラス基板を製造する方法が提案されている。
【0006】
一方、特許文献3では、基板の2つの主表面を、回転する上定盤および下定盤の各研磨パッドにそれぞれ当接させながら、キャリアで基板を保持する両面研磨装置で仕上げ研磨工程を行う基板の製造方法が開示されており、両面研磨装置の下定盤は、研磨パッド上および内部に、研磨砥粒が固化してできた固形物や基板を研磨したときに発生する加工片などの異物が滞留しやすいため、基板の主表面を両面研磨装置の上定盤側で研磨することで、仕上げ研磨工程に起因する新たな欠陥が発生することを抑制する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-012164号公報
【特許文献2】特開2017-134108号公報
【特許文献3】特開2017-170588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載されているように、表面の最大山と最小山の高低差が50μm以下のパッド表面を有するスウェード系パッドを使用し、1~60g/cm2の研磨荷重で最終研磨を行えば、従来のフォトマスク用表面欠点検査機でも検出し得る半値幅60~150nmの凹状欠点の発生を抑えることが可能であるが、深さ5nm未満の凹状欠陥の発生を抑制するには不十分である。
【0009】
また、特許文献2に記載されているように、研磨布の面積に対するガラス基板の表面積の比率やスラリー流量を制御することや、特許文献3に記載されているように、基板の主表面が両面研磨装置の上定盤側となるように仕上げ研磨をすることでは、研磨中に基板の主表面と接触し、深さ5nm未満の凹状欠陥を発生しうる異物の存在を完全に無くすことは実際的には不可能であるため、根本的な解決策とは言い難い。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、基板、特に、深さ5nm未満の凹状欠陥が抑制され、EUVL用のマスクブランクス用として好適な基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために、研磨パッドを備えた研磨装置において基板の仕上げ研磨工程の中の最終段の研磨(以下、「最終研磨」と略す。)を行う際、加工終了時の上定盤の動作に着目して鋭意検討した。その結果、基板の主表面が上定盤側を向くようにして基板を研磨装置に保持し、上定盤を回転させて基板を研磨した後、上定盤を停止させることなく回転させたまま研磨した基板の主表面から離すことが有用であることを見出した。この方法により、上定盤の回転を停止させてから上定盤側の研磨パッドを基板表面から離す従来の加工方法と比較して、基板表面に発生する深さ5nm未満の凹状欠陥を低減できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
1. 研磨パッドを備えた上定盤を有する研磨装置を用いて最終研磨を行う基板の製造方法であって、
主表面が上定盤側を向くように基板を研磨装置に保持し、前記基板の主表面に研磨スラリーを同伴しながら、上定盤を回転させて前記基板を研磨した後、上定盤を回転させたまま上昇させて研磨した基板の主表面から上定盤を離す工程を含む基板の製造方法、
2. 前記研磨した基板の主表面から上定盤を離す際の上定盤の回転数が、0.5~50rpmである1記載の基板の製造方法、
3. 前記研磨した基板の主表面から上定盤を離す際の上定盤の上昇速度が、0.1~50mm/秒である1または2記載の基板の製造方法、
4. 前記研磨スラリーの20℃における粘度が、0.5~30mPa・sである1または2記載の基板の製造方法、
5. 前記研磨スラリーが、砥粒成分を5~50質量%含む1または2記載の基板の製造方法、
6. 前記研磨スラリーが、砥粒成分としてコロイド状シリカ粒子を含む1または2記載の基板の製造方法、
7. ガス吸着法により測定される比表面積から算出される前記コロイド状シリカ粒子の平均一次粒子径が、5nm以上50nm以下である6記載の基板の製造方法、
8. 前記研磨スラリーのpHが、8~11である1または2記載の基板の製造方法、
9. 前記基板が、SiO2を主成分とするマスクブランクス用ガラス基板である1または2記載の基板の製造方法、
10. 9記載の製造方法によって得られ、1μm×1μmの領域の表面形状を原子間力顕微鏡で測定して得られる、極座標形式のパワースペクトル密度PSD(f,θ)を空間周波数10μm-1以上100μm-1以下の範囲で平均化したPSD_AVE(θ)の最大値が、0.05nm4以下であるマスクブランクス用ガラス基板
を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上定盤の回転を停止させてから上定盤側の研磨パッドを基板表面から離す従来の加工方法と比較して、基板表面に発生する深さ5nm未満の凹状欠陥を低減することが可能となり、EUVL用のマスクブランクス用基板として好適な、高い表面品質を有する基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の基板の製造方法の一実施形態に用いる両面研磨装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
[基板の製造方法]
本発明の基板の製造方法は、研磨パッドを備えた上定盤を有する研磨装置を用いて基板の最終研磨を行う際、主表面が上定盤側を向くように基板を研磨装置に保持し、研磨スラリーを同伴しながら上定盤を回転させて基板を研磨した後、上定盤を回転させたまま上昇させて研磨した基板の主表面から上定盤の研磨パッドを離す工程を含むものであり、これにより、深さ5nm未満のごく浅い凹欠陥の発生を低減できるものである。
【0016】
ここで、本発明において、最終研磨とは、例えば、合成石英ガラスインゴットを成形、アニール、スライス加工、面取り、ラッピングして得られる原料基板表面を粗研磨するための粗研磨工程、粗研磨した基板の表面の平坦度を測定する平坦度測定工程、局所研磨をする局所研磨工程に順次供して得られ、局所研磨で表面に生じた傷を取り去った原料基板の表面粗さを整えるための仕上げ研磨工程中の最終段の研磨等が挙げられる。
【0017】
(1)研磨装置
本発明で用いられる研磨装置としては、研磨パッドを備えた上定盤を有し、この上定盤を基板の主表面に着盤させて基板を研磨した後、研磨した基板の主表面から上定盤の研磨パッドを離す機構を備えたものであれば特に制限されず、例えば、研磨パッドを備えた上定盤を有する片面研磨装置、それぞれ研磨パッドを備えた上定盤と下定盤を有する両面研磨装置等が挙げられるが、研磨効率の点から、両面研磨装置が好ましい。
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の基板の製造方法の一実施形態を説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係る基板の製造方法で用いられる両面研磨装置10が示されている。図1に示されるように、この研磨装置10には、回転軸1を有すると共に下面に研磨パッド2を備えた上定盤3が垂直方向に昇降可能に設けられており、これと対向して、回転軸4を有すると共に上面に研磨パッド(図示せず)を備えた下定盤5が設けられており、この下定盤5の回転軸4の周りには、複数個のキャリア6が互いに等間隔に設けられている。各キャリアには、基板(ワークともいう)7を保持するためのワークホール8が複数個形成されており、各ワークホールには基板が一枚ずつ保持されている。キャリア6の厚さは、基板の厚さよりも薄くなるように形成されており、上定盤3を降下させて、上定盤3と下定盤5とで基板7を挟んだ状態で、上下定盤3,5と基板7との間に、研磨スラリー(図示せず)を供給しながら、上定盤3を上定盤3の回転軸1により所定の回転速度で太矢印a方向に回転させ、下定盤5を下定盤5の回転軸4により太矢印b方向に回転させると共に、キャリア6をそれぞれ細矢印cまたはd方向に回転させることで基板7が研磨されるものである。なお、本実施形態では、下定盤には複数個のキャリアが設けられているが、少なくとも1個あればよく、ワークホールも複数個設けられているが、少なくとも1個あればよい。キャリア及びワークホールをそれぞれ複数個設ける場合の数は特に限定されず、研磨装置や基板の大きさ等に応じて適宜選定することができる。また、上定盤3及び下定盤5についても、それぞれ反対方向に回転させてもよい。さらに、上定盤の回転、基板への着盤、基板の研磨の順序は特に限定されず、例えば、上定盤7をまず回転させ、次いで、着盤と同時に研磨するようにしてもよいし、上定盤7の回転と着盤を同時に行い、研磨するようにしてもよいし、上定盤7をまず着盤させ、次いで、回転と研磨を行うようにしてもよく、研磨装置や要求される研磨の程度等に応じて適宜変更することができる。
【0019】
このような研磨機構においては、研磨中の基板の主表面には、上定盤からの荷重による垂直方向の力と、上定盤やキャリアの回転による水平方向の力の2成分の合力が加わる。研磨終了時に上定盤側の研磨パッドが基板の主表面に接触した状態で上定盤の回転が完全に停止する場合、基板の主表面に加わる力の合成ベクトルは、上定盤の回転速度が減速するにしたがって基板に対して水平方向から垂直方向へ偏るようになる。このとき、基板の主表面と上定盤側の研磨パッドの間に研磨スラリー中の砥粒よりも高い効率で基板表面を研削し得る何らかの異物が存在する場合、その異物から基板の主表面に与えられる力積の垂直方向の成分は基板の主表面内の限られた領域内に集中することになり、結果として、局所的な凹構造を基板の主表面に残すこととなる。
【0020】
一方、本発明の製造方法では、研磨終了時に、上定盤が回転したまま基板の主表面から上定盤側の研磨パッドを離すが、この場合、基板の主表面と上定盤側の研磨パッドの間に砥粒よりも高い効率で基板表面を研削し得る何らかの異物が存在したとしても、その異物から基板の主表面に与えられる力積の垂直方向の成分は、基板の主表面内の限られた領域に集中することがないため、局所的な凹構造を基板の主表面内に残しにくく、結果として、凹状欠陥を低減させることができる。
【0021】
上定盤を基板の主表面から離すときの上定盤の回転速度は特に限定されないが、基板の傷の入りやすさの観点から、好ましくは0.5~50rpm、より好ましくは1~30rpm、さらに好ましくは5~20rpmである。なお、上定盤の回転方向は特に制限されないが、両面研磨装置を用いる場合、下定盤の回転方向とは逆方向が好ましい。
【0022】
研磨終了時に上定盤側の研磨パッドと基板の主表面を離す際の上定盤の上昇速度は、上昇速度があまりにも遅いと研磨スラリーが基板主表面上で蒸発して凸状欠陥となること、一方で、上昇速度があまりにも速いと上定盤側の研磨パッドに基板が貼り付きやすくなることを考慮すると、好ましくは0.1~50mm/秒、より好ましくは0.5~20mm/秒、さらに好ましくは1~10mm/秒である。
【0023】
なお、上定盤の上昇前、すなわち、研磨中の上定盤および下定盤の回転速度、研磨圧等のその他の研磨条件は、通常の条件を採用できる。
【0024】
(2)研磨スラリー
本発明で用いられる研磨スラリーの粘度は、研磨スラリー中の砥粒が、基板の主表面と上定盤側の研磨パッドの間により多く、かつ、均一に広がって基板の主表面が異物から受ける力積の垂直方向の成分を分散させる効果を得やすくすることを考慮すると、20℃における粘度が、好ましくは0.5~30mPa・s、より好ましくは0.5~10mPa・s、さらに好ましくは1~5mPa・sである。なお、上記研磨スラリーの粘度は、市販の粘度計を使用することができ、例えば、東機産業(株)製TVC-7型粘度計により測定することができる。
【0025】
上記研磨スラリー中の砥粒成分の濃度は、研磨スラリー中の砥粒が基板の主表面と上定盤側の研磨パッドの間により多く存在して基板の主表面が異物から受ける力積の垂直方向の成分を分散させる効果を得やすくすることを考慮すると、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。一方で、砥粒同士の凝集体が形成されやすくなることによる凹状欠陥の発生を抑制することを考慮すると、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。
【0026】
上記研磨スラリーに含まれる砥粒成分としては、コロイド状シリカ粒子が好ましく、このコロイド状シリカ粒子が水に分散されたコロイダルシリカを研磨スラリーの原料として使用することができる。コロイダルシリカは、市販品を用いることができ、市販のコロイダルシリカとしては、例えば、扶桑化学工業(株)製のGPシリーズ、PLシリーズ、BSシリーズ等が挙げられる。
コロイド状シリカ粒子の合成法は特に制限されるものではないが、金属のコンタミネーションを低減する観点から、アルコキシシラン等の有機シリケート化合物等を加水分解することによって生成させた高純度のものが好ましい。
【0027】
上記コロイド状シリカ粒子の平均一次粒子径は、研磨後の基板表面に残留した研磨スラリー中のコロイド状シリカ粒子の除去のしやすさや、表面粗さおよび凹状欠陥の低減と、研磨効率とを両立させる観点から、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましい。なお、コロイド状シリカ粒子の平均一次粒子径は、ガス吸着法により測定された比表面積(例えば、BET比表面積)から算出することができる。この場合、比表面積は、研磨スラリーとする前のコロイダルシリカを用い、コロイド状シリカ粒子を乾燥状態として測定することができる。
【0028】
上記研磨スラリーのpHは、コロイド状シリカ粒子の良好な分散安定性を得るため、8以上が好ましく、8.5以上がより好ましい。一方、研磨中の基板のエッチング量を抑え、凹状欠陥の発生を抑制する観点から、研磨スラリーのpHは、11以下が好ましく、10.5以下がより好ましい。
【0029】
(3)研磨パッド
本発明の製造方法で用いられる研磨パッドは特に限定されないが、基板の面質を重視する観点から、軟質なスェード系パッドが好ましい。
【0030】
(4)研磨対象基板
本発明の製造方法では、研磨対象となる基板の大きさや厚みは特に制限されないが、フォトマスクブランクス用である場合、現行のEUVLの露光装置で使用することを考慮すると、通常のフォトマスクブランクス用基板で用いられる6インチ角基板が好ましく、例えば、四角形状の152mm×152mm×6.35mmの6025基板等が挙げられる。また、丸形状の基板では6インチφ、8インチφ、12インチφのもの等が挙げられる。
【0031】
基板の厚さは、5mmより薄いものは、研磨終了時に上定盤を上昇させる際、上定盤側の研磨パッドに基板が貼りつきやすい傾向があり、上定盤が回転した状態で上定盤側の研磨パッドと基板の主表面を離すことが難しい場合がある。一方で、基板の厚みが5mm以上であれば、基板は、自重によって下定盤側の研磨パッド上に残るため、本発明の製造方法を適用するのに好ましい。基板の厚さの上限は特に限定されないが、10mm以下が好ましく、8mm以下がより好ましい。
【0032】
本発明の製造方法に適用される基板の素材は、特に制限されるものではないが、EUVLでの露光工程に用いられる場合、熱膨張係数の小さい基板を用いる必要があることから、SiO2を主成分とするガラス基板が好ましい。SiO2を主成分とするガラス基板としては特に制限されないが、例えば、合成石英ガラスにチタニアを5~10質量%の割合でドープしたチタニアドープ合成石英ガラス基板等が挙げられる。また、本発明の製造方法は、その他同様な手法で得られる、ソーダライムガラス基板、シリコンウェーハ基板、サファイヤ基板、ガリウムナイトライド基板、タンタル酸リチウム基板等にも適用が可能である。SiO2を主成分とするガラス基板、とりわけチタニアドープ合成石英ガラス基板は、マスクブランクス用ガラス基板として好適に用いることができる。
【0033】
(5)製造工程
本発明の製造方法は、上述したとおり、例えば、合成石英ガラスインゴットを成形、アニール、スライス加工、面取り、ラッピングして得られる原料基板表面を粗研磨する粗研磨工程、粗研磨した原料基板の表面の平坦度を測定する平坦度測定工程、局所研磨をする局所研磨工程の後の仕上げ研磨工程に適用されるものであるが、局所研磨工程によって原料基板の傷が一段の仕上げ研磨工程では除去し切れない場合には、より高い表面品質を得るために、局所研磨工程と本発明の最終研磨の間に、基板表面を鏡面加工するための予備研磨工程を実施し、複数段の仕上げ研磨工程としてもよい。なお、合成石英ガラスインゴットは、製造する基板に応じた組成のものを用いればよく、例えば、チタニアドープ合成石英ガラス基板を製造する場合、所定濃度のチタニアをドープした合成石英ガラスインゴットを用いることができる。
【0034】
粗研磨工程は、遊星運動を行う両面研磨機等にて、砥粒として、例えば、酸化セリウム粒子、酸化ジルコニウム粒子、コロイド状シリカ粒子等を含む研磨剤を用いて実施することができる。
【0035】
粗研磨工程に次いで、平坦度測定工程で基板表面の平坦度が測定されるが、後続の局所研磨工程の加工時間を低減するため、142mm×142mmの領域の平坦度(TIR)は、粗研磨工程終了後の時点で100~1000nmの範囲にあることが好ましい。平坦度の測定は、市販のフォトマスク用フラットネステスター、例えば、Tropel社製 UltraFlat等を用いて実施することができる。
【0036】
局所研磨工程は、予め測定した基板表面の測定データを元に基板表面における各部位での研磨量を決定し、基板表面における各部位での研磨量を制御できるものであればその方法は限定されない。例えば、小型回転加工ツールを用いる部分研磨法、研磨剤を含んだ磁性流体を用いるMagnetо Rheоlоgical Finishing(MRF)法、ガスクラクターイオンビーム(GCIB)やプラズマエッチングによる方法等から選択できる。小型回転加工ツールを用いる部分研磨法では、研磨量は、ツールを動かす速度によって制御される。すなわち、研磨量を多くしたい場合は、ツールが基板表面を通過する速度を遅くし、すでに目標形状に近く、研磨量が少なくてよい場合は、逆にツールが基板表面を通過する速度を速くして研磨量を制御すればよい。
【0037】
前記小型回転加工ツールの加工部は、特に制限されるものではないが、リュータ式の回転加工ツールを用いたものを採用することが好ましい。
ここで、ガラスへの研磨ダメージを軽減する等の観点から、ガラスと接触する回転加工ツールの素材は、硬度A50~75(JISK6253に準拠)のポリウレタン、フェルトバフ、ゴム、セリウムパッド等から選択できるが、ガラス表面を研削できるものであれば、これらの種類に限定されるものではない。
また、回転加工ツールの研磨加工部の形状も、特に制限されるものではなく、例えば、円またはドーナツ型、円柱型、砲弾型、ディスク型、たる型等が挙げられる。
【0038】
局所研磨工程後の基板表面の任意の142mm×142mmの領域の平坦度(TIR)は、100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。また、その形状は、後段の仕上げ研磨の条件に応じて、凸型、凹型等、仕様に応じて任意に選択できる。
局所研磨工程後、仕上げ研磨工程において本発明の最終研磨を行うことで研磨した基板を得ることができる。
【0039】
[研磨した基板]
本発明で得られる基板は、上述した本発明の基板の製造方法を適用することで、任意の1μm×1μmの領域の表面形状を原子間力顕微鏡で測定して得られる、極座標形式のパワースペクトル密度PSD(f,θ)を空間周波数10μm-1以上100μm-1以下の範囲で平均化したPSD_AVE(θ)の最大値が、好ましくは0.05nm4以下とすることができる。このような基板は、深さ5nm未満の凹状欠陥が低減されており、EUVL用のマスクブランクス用基板として好適である。
ここで、原子間力顕微鏡としては、従来公知のものから適宜選択して用いることができ、その具体例としては、オックスフォード・インストゥルメンツ社製Cypher ES等が挙げられる。
【0040】
なお、角度方向パワースペクトル密度は、ガラス基板の表面形状Z(Px,Py)の離散フーリエ変換F(u,v)から算出される。F(u,v)は、次の式(1)により計算される。
【0041】
【数1】
【0042】
ここで、Nx,Nyは、ガラス基板の表面形状測定時におけるx,y方向の測定点数である。Px,Pyは、各測定点のx,y方向の位置を示す整数であり、Px=0,1,・・・,Nx-1、Py=0,1,・・・,Ny-1の値をとる。対して、u,vは、u=-1/2,-1/2+1/Nx,・・・,1/2、v=-1/2,-1/2+1/Ny,・・・,1/2の値をとる。
F(u,v)をx,y方向の測定ピッチΔx,Δyと測定領域の面積A=(NxΔx)×(NyΔy)で次の式(2)のように規格化することで、パワースペクトル密度P(u,v)を得ることができる。
【0043】
【数2】
【0044】
この規格化がなければ、異なる測定領域や測定ピッチの条件から算出されたパワースペクトル密度を単純に比較することはできない。
一方、空間周波数f(u,v)と角度θは、それぞれ次の式(3)、(4)で表される。
【0045】
【数3】
【0046】
【数4】
【0047】
極座標形式のPSD(f,θ)は、P(u,v)を式(3)、(4)により座標変換したものである。
さらに、極座標形式のPSD(f,θ)を空間周波数fが10μm-1以上100μm-1以下の範囲で平均化したPSD_AVE(θ)は、次の式(5)で表される。
【0048】
【数5】
【0049】
ここで、Nfは、次の式(6)を満たす測定点の数である。
【0050】
【数6】
【0051】
上記PSD_AVE(θ)の最大値は、研磨後の基板の主表面に成膜を行う前に洗浄した際に、基板主表面のエッチングが進み、凹構造が増幅して欠陥検査装置で検出しうる凹状欠陥となることを避ける観点から、好ましくは0.05nm4以下であり、より好ましくは0.04nm4以下である。
【実施例0052】
以下、実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0053】
[実施例1~4]
スライスされたチタニアドープ合成石英ガラス基板原料(6インチ角、厚さ6.35mm)を、遊星運動を行う両面ラップ機にてラッピングした後、遊星運動を行う両面研磨機にて粗研磨を行った。粗研磨した基板の表面の平坦度を測定し、小型回転加工ツールによる局所研磨を行った後、遊星運動を行う両面研磨機にて砥粒としてコロイド状シリカ粒子を含む研磨剤を用いて予備の仕上げ研磨を行うことによって原料基板を用意した。
【0054】
予備の仕上げ研磨を行った原料基板に対して、スウェード系研磨布を上定盤および下定盤に貼った両面研磨装置にて最終研磨を実施した。最終研磨工程では、砥粒成分として平均一次粒子径が16nmのコロイド状シリカ粒子を25質量%含み、pHが9.4に調整された研磨スラリーを用いた。
主表面が上定盤側を向くようにして10枚の基板7を図1に示す研磨装置10の下定盤5のキャリア6に形成されたワークホール8中に配置し、30分間の研磨時間で主表面の研磨取り代が100nmとなるように荷重と上定盤3および下定盤5の回転数を適宜調整して研磨を実施した後、上定盤3の回転を止めることなく、上定盤3が回転した状態のまま上昇させ、上定盤3側の研磨パッド2を研磨した基板の主表面から離した。上定盤3側の研磨パッド2を研磨した基板の主表面から離す際の上定盤3の回転数、上昇速度、研磨スラリーの粘度を下記表1に示す。
【0055】
研磨後の基板を洗浄し、乾燥してから、マスクブランクス基板用欠陥検査装置(レーザーテック(株)製)を用いて基板の主表面の欠陥検査を実施し、欠陥発生箇所を原子間力顕微鏡で観察して、深さが5nm未満の凹状欠陥の個数を計測した。研磨した基板10枚を観察して、1枚あたりの平均の欠陥個数を求めた。
また、基板の主表面内の1μm×1μmの領域の表面形状を原子間力顕微鏡で測定することにより、極座標形式のパワースペクトル密度PSD(f,θ)を空間周波数10μm-1以上100μm-1以下の範囲で平均化したPSD_AVE(θ)の最大値を算出した。研磨した基板10枚を測定して各基板の最大値の平均を算出した。結果を表1に併記する。
【0056】
【表1】
【0057】
[比較例1~3]
研磨を実施した後、上定盤の回転を止め、上定盤の回転が止まった状態で上定盤を上昇させて上定盤側の研磨パッドを基板の主表面から離した以外は実施例1~4と同様にして基板の最終研磨を行い、評価した。結果を表2に併記する。
【0058】
【表2】
図1
【手続補正書】
【提出日】2023-06-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の基板の製造方法の一実施形態を説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係る基板の製造方法で用いられる両面研磨装置10が示されている。図1に示されるように、この研磨装置10には、回転軸1を有すると共に下面に研磨パッド2を備えた上定盤3が垂直方向に昇降可能に設けられており、これと対向して、回転軸4を有すると共に上面に研磨パッド(図示せず)を備えた下定盤5が設けられており、この下定盤5の回転軸4の周りには、複数個のキャリア6が互いに等間隔に設けられている。各キャリアには、基板(ワークともいう)7を保持するためのワークホール8が複数個形成されており、各ワークホールには基板が一枚ずつ保持されている。キャリア6の厚さは、基板の厚さよりも薄くなるように形成されており、上定盤3を降下させて、上定盤3と下定盤5とで基板7を挟んだ状態で、上下定盤3,5と基板7との間に、研磨スラリー(図示せず)を供給しながら、上定盤3を上定盤3の回転軸1により所定の回転速度で太矢印a方向に回転させ、下定盤5を下定盤5の回転軸4により太矢印b方向に回転させると共に、キャリア6をそれぞれ細矢印cまたはd方向に回転させることで基板7が研磨されるものである。なお、本実施形態では、下定盤には複数個のキャリアが設けられているが、少なくとも1個あればよく、ワークホールも複数個設けられているが、少なくとも1個あればよい。キャリア及びワークホールをそれぞれ複数個設ける場合の数は特に限定されず、研磨装置や基板の大きさ等に応じて適宜選定することができる。また、上定盤3及び下定盤5についても、それぞれ反対方向に回転させてもよい。さらに、上定盤の回転、基板への着盤、基板の研磨の順序は特に限定されず、例えば、上定盤をまず回転させ、次いで、着盤と同時に研磨するようにしてもよいし、上定盤の回転と着盤を同時に行い、研磨するようにしてもよいし、上定盤をまず着盤させ、次いで、回転と研磨を行うようにしてもよく、研磨装置や要求される研磨の程度等に応じて適宜変更することができる。