(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181669
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】フレーク状物質の操作方法、及びフレーク状物質を用いた物品の生産方法
(51)【国際特許分類】
B32B 37/10 20060101AFI20231218BHJP
B32B 9/00 20060101ALN20231218BHJP
【FI】
B32B37/10
B32B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094928
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】町田 友樹
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 桃子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 岳人
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA14B
4F100AA37B
4F100AK01A
4F100AK15A
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100DE02B
4F100EJ172
4F100EJ422
4F100EJ502
4F100GB41
4F100JM02B
4F100JM03B
(57)【要約】
【課題】新規なフレーク状物質の操作方法を提供する。
【解決手段】本発明は、フレーク状物質の操作方法であって、(2)基板上に静置されているフレーク状物質に、第1の樹脂フィルムにより先端部を覆われた第1のプローブを接地し、押圧してフレーク状物質をピックアップする工程;(3)第1のプローブによりピックアップされたフレーク状物質の第1のプローブとは反対側の面の上に、第2の樹脂フィルムにより先端部を覆われた第2のプローブを接地し、押圧する工程;ならびに(4)第1のプローブと第2のプローブとを引き離すことにより、第1のプローブによりピックアップされたフレーク状物質を第2のプローブへと引き渡す工程を含み、ここで(i)非押圧時の第2の樹脂フィルムの厚みBと第1の樹脂フィルムの厚みAとの厚み比(厚みB/厚みA)が1未満である操作方法である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーク状物質の操作方法であって、
(1)第1の樹脂フィルムにより先端部を覆われた第1のプローブ、及び
第2の樹脂フィルムにより先端部を覆われた第2のプローブを準備する工程;
(2)基板上に静置されている上記フレーク状物質に、上記第1の樹脂フィルムにより先端部を覆われた上記第1のプローブを接地し、押圧して上記フレーク状物質をピックアップする工程;
(3)上記(2)工程において、上記第1のプローブによりピックアップされた上記フレーク状物質の上記第1のプローブとは反対側の面の上に、上記第2の樹脂フィルムにより先端部を覆われた上記第2のプローブを接地し、押圧する工程;ならびに、
(4)上記第1のプローブと上記第2のプローブとを引き離すことにより、上記第1のプローブによりピックアップされた上記フレーク状物質を、上記第2のプローブへと引き渡す工程を含み、
ここで、(i)非押圧時の上記第2の樹脂フィルムの厚みBと上記第1の樹脂フィルムの厚みAとの厚み比(厚みB/厚みA)が1未満である、
上記操作方法。
【請求項2】
上記厚み比(厚みB/厚みA)が0.8以下である、請求項1に記載の操作方法。
【請求項3】
上記フレーク状物質が2次元物質である、請求項1に記載の操作方法。
【請求項4】
上記第1の樹脂フィルムと上記第2の樹脂フィルムが何れもポリ塩化ビニル系樹脂フィルムである、請求項1に記載の操作方法。
【請求項5】
上記第1のプローブの先端部と上記第2のプローブの先端部の材質がシリコーン系樹脂であり、
上記フレーク状物質がグラフェン又は六方晶系窒化硼素である、請求項4に記載の操作方法。
【請求項6】
上記第1の樹脂フィルムが、(A-a)ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部、及び(A-b)可塑剤α質量部を含むポリ塩化ビニル系樹脂から形成されており、
上記第2の樹脂フィルムが、(B-a)ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部、及び(B-b)可塑剤β質量部を含むポリ塩化ビニル系樹脂から形成されており、
ここでα>βである、請求項1に記載の操作方法。
【請求項7】
フレーク状物質を含む物品の生産方法であって、
請求項1~6の何れか1項に記載の操作方法を使用して上記フレーク状物質を操作することを含む、上記生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレーク状物質、典型的にはグラフェンや六方晶系窒化硼素などの2次元物質の操作方法、及び、該操作方法を用いたフレーク状物質を用いた物品の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレーク状物質、典型的にはグラフェンや六方晶系窒化硼素などの2次元物質は、途方もない可能性を秘めた新材料として注目されている。フレーク状物質を用いて微小構造、典型的にはナノスケールの微小構造を形成する方法、フレーク状物質を用いた物品が提案されている。
【0003】
フレーク状物質を用いた物品を生産する際には、フレーク状物質を反転させることが必要となることがある。フレーク状物質を反転させるには、ピックアップしたフレーク状物質をプローブ(probe)間でやり取りするのが便宜である。
そして、プローブ間でフレーク状物質をやり取りするためには、
(1)引き渡す側のプローブは、ピックアップしたフレーク状物質の引き渡す側のプローブとは反対側の面に、引き受ける側のプローブを接地、押圧するまでは、確実にフレーク状物質をホールドすること(ピックアップが行われた後から引き渡しまでの間、引き渡す側のプローブがフレーク状物質を意図せずリリースすることがないこと)、及び、
(2)両プローブを引き離し、フレーク状物質を引き渡す際には、引き渡す側のプローブは、確実にフレーク状物質をリリースし、かつ引き受ける側のプローブは、確実にフレーク状物質をホールドすること(引き渡しの際、引き渡す側のプローブがフレーク状物質を意図せずホールドし続けることがなく、かつ引き渡しが行われた後、引き受ける側のプローブがフレーク状物質を意図せずリリースすることがないこと)
が必要である。
しかし、上記(1)、(2)の要件を充足することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Momoko Onodera et al., 2020 Japanese Journal of Applied Physics 59, 010101(2020)
【非特許文献2】Yusai Wakafuji et al., Nano Letters 2020, 20, pp.2486-2492
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、新規なフレーク状物質の操作方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究した結果、引き渡す側のプローブの先端部の覆い及び引き受ける側のプローブの先端部の覆いとして、厚み違いの樹脂フィルムを用いることにより上記課題が達成され得ることを見出した。
【0008】
即ち、本発明の諸態様は以下の通りである。
[1].
フレーク状物質の操作方法であって、
(1)第1の樹脂フィルムにより先端部を覆われた第1のプローブ、及び
第2の樹脂フィルムにより先端部を覆われた第2のプローブを準備する工程;
(2)基板上に静置されている上記フレーク状物質に、上記第1の樹脂フィルムにより先端部を覆われた上記第1のプローブを接地し、押圧して上記フレーク状物質をピックアップする工程;
(3)上記(2)工程において、上記第1のプローブによりピックアップされた上記フレーク状物質の上記第1のプローブとは反対側の面の上に、上記第2の樹脂フィルムにより先端部を覆われた上記第2のプローブを接地し、押圧する工程;ならびに、
(4)上記第1のプローブと上記第2のプローブとを引き離すことにより、上記第1のプローブによりピックアップされた上記フレーク状物質を、上記第2のプローブへと引き渡す工程を含み、
ここで、(i)非押圧時の上記第2の樹脂フィルムの厚みBと上記第1の樹脂フィルムの厚みAとの厚み比(厚みB/厚みA)が1未満である、
上記操作方法。
[2].
上記厚み比(厚みB/厚みA)が0.8以下である、上記[1]に記載の操作方法。
[3].
上記フレーク状物質が2次元物質である、上記[1]または[2]に記載の操作方法。
[4].
上記第1の樹脂フィルムと上記第2の樹脂フィルムが何れもポリ塩化ビニル系樹脂フィルムである、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の操作方法。
[5].
上記第1のプローブの先端部と上記第2のプローブの先端部の材質がシリコーン系樹脂であり、
上記フレーク状物質がグラフェン又は六方晶系窒化硼素である、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の操作方法。
[6].
上記第1の樹脂フィルムが、(A-a)ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部、及び(A-b)可塑剤α質量部を含むポリ塩化ビニル系樹脂から形成されており、
上記第2の樹脂フィルムが、(B-a)ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部、及び(B-b)可塑剤β質量部を含むポリ塩化ビニル系樹脂から形成されており、
ここでα>βである、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の操作方法。
[7].
フレーク状物質を含む物品の生産方法であって、
上記[1]~[6]のいずれか1項に記載の操作方法を使用して上記フレーク状物質を操作することを含む、上記生産方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフレーク状物質の操作方法は、プローブ間でフレーク状物質を首尾良くやり取りするための2つの要件:
(1)引き渡す側のプローブは、ピックアップしたフレーク状物質の引き渡す側のプローブとは反対側の面に、引き受ける側のプローブを接地、押圧するまでは、確実にフレーク状物質をホールドすること(ピックアップが行われた後から引き渡しまでの間、引き渡す側のプローブがフレーク状物質を意図せずリリースすることがないこと)、及び、
(2)両プローブを引き離し、フレーク状物質を引き渡す際には、引き渡す側のプローブは、確実にフレーク状物質をリリースし、かつ引き受ける側のプローブは、確実にフレーク状物質をホールドすること(引き渡しの際、引き渡す側のプローブがフレーク状物質を意図せずホールドし続けることがなく、かつ引き渡しが行われた後、引き受ける側のプローブがフレーク状物質を意図せずリリースすることがないこと)
を充足することができる。
つまり、本発明のフレーク状物質の操作方法を使用することにより、プローブ間におけるフレーク状物質のやり取りを確実に行うことができる。
そのため、本発明のフレーク状物質の操作方法は、フレーク状物質、典型的にはグラフェンや六方晶系窒化硼素などの2次元物質を含む物品を、工業的に生産性良く製造しようとする際に非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明のフレーク状物質の操作方法の好ましい一実施形態における、樹脂フィルムにより先端部を覆われたプローブを示す概念図である。
【
図2】
図2は、本発明のフレーク状物質の操作方法の好ましい一実施形態における工程(2)~(4)の操作手順を示す概念図である。
【
図3-1】
図3-1は、実施例の例4の操作手順(前半)を示す概念図である。
【
図3-2】
図3-2は、実施例の例4の操作手順(後半)を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において「樹脂」の用語は、2種以上の樹脂を含む樹脂混合物や、樹脂以外の成分を含む樹脂組成物をも含む用語として使用する。
【0012】
本明細書において「フィルム」の用語は、「シート」と相互交換的に又は相互置換可能に使用する。
本明細書において、「フィルム」及び「シート」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできるものに使用する。「板」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできないものに使用する。「フィルム」及び「シート」は、特に断らない限り、全体に均一な厚みを有する。
また本明細書において、ある層と他の層とを順に積層することは、それらの層を直接積層すること、及び、それらの層の間にアンカーコートなどの別の層を1層以上介在させて積層することの両方を含む。
【0013】
本明細書において数値範囲に係る「以上」の用語は、ある数値又はある数値超の意味で使用する。例えば、20%以上は、20%又は20%超を意味する。
数値範囲に係る「以下」の用語は、ある数値又はある数値未満の意味で使用する。例えば、20%以下は、20%又は20%未満を意味する。
また数値範囲に係る「~」の記号は、ある数値、ある数値超かつ他のある数値未満、又は他のある数値の意味で使用する。ここで、他のある数値は、ある数値よりも大きい数値とする。例えば、10~90%は、10%、10%超かつ90%未満、又は90%を意味する。
更に、数値範囲の上限と下限とは、任意に組み合わせることができるものとし、任意に組み合わせた実施形態が読み取れるものとする。例えば、ある特性の数値範囲に係る「通常10%以上、好ましくは20%以上である。一方、通常40%以下、好ましくは30%以下である。」や「通常10~40%、好ましくは20~30%である。」という記載から、そのある特性の数値範囲は、一実施形態において10~40%、20~30%、10~30%、又は20~40%であることが読み取れるものとする。
【0014】
実施例以外において、又は別段に指定されていない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用されるすべての数値は、「約」という用語により修飾されるものとして理解されるべきである。
特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限しようとすることなく、各数値は、有効数字に照らして、及び通常の丸め手法を適用することにより解釈されるべきである。
【0015】
本明細書において、形状や幾何学的条件を特定する用語、例えば、平行、直交、及び垂直などの用語については、厳密に意味するところに加え、実質的に同じ状態も含むものとする。
【0016】
本明細書において、「2次元物質」の用語は、厳密に意味するところ(厚みが原子1個分から数個分の物質)に加え、厳密に意味するところの2次元物質が2層から数十層積層している積層体をも含む用語として使用する。
【0017】
本発明のフレーク状物質の操作方法は、
(1)第1の樹脂フィルムにより先端部を覆われた第1のプローブ、及び
第2の樹脂フィルムにより先端部を覆われた第2のプローブを準備する工程;
(2)基板上に静置されている上記フレーク状物質に、上記第1の樹脂フィルムにより先端部を覆われた上記第1のプローブを接地し、押圧して上記フレーク状物質をピックアップする工程;
(3)上記(2)工程において、上記第1のプローブによりピックアップされた上記フレーク状物質の上記第1のプローブとは反対側の面の上に、上記第2の樹脂フィルムにより先端部を覆われた上記第2のプローブを接地し、押圧する工程;及び、
(4)上記第1のプローブと上記第2のプローブとを引き離すことにより、上記第1のプローブによりピックアップされた上記フレーク状物質を、上記第2のプローブへと引き渡す工程を含み、
ここで(i)上記第2の樹脂フィルムの厚みBと上記第1の樹脂フィルムの厚みAとの厚み比(厚みB/厚みA)が1未満である、上記操作方法である。
以下、各工程について説明する。
【0018】
工程(1)
工程(1)は、第1の樹脂フィルムにより先端部を覆われた第1のプローブ、及び第2の樹脂フィルムにより先端部を覆われた第2のプローブを準備する工程である。
【0019】
工程(1)では、第1の樹脂フィルムや第2の樹脂フィルムとして用いる樹脂フィルムを、適宜な大きさに裁断した後、第1のプローブや第2のプローブとして用いるプローブの先端部を覆うように設置し、貼着させる。樹脂フィルムの裁断サイズは、プローブの先端部、すなわち、フレーク状物質のピックアップ及び引き渡しの際に当該物質が接触する可能性がある部分が完全に覆われている限りは、特に限定されない。
該貼着を行う方法は、上記樹脂フィルムが操作中に上記プローブから剥離/脱落することがないようにする観点から適宜選択することができる。
【0020】
上記貼着を行う方法としては、特に限定されないが、例えば、以下の方法を挙げることができる:
上記樹脂フィルムを上記プローブの先端部に自己粘着させる方法、
上記樹脂フィルムと上記プローブの先端部との間に粘着剤/接着剤を介在させる方法、
上記樹脂フィルムを上記プローブの先端部に密着させた後、上記樹脂フィルムの端部を上記プローブの土台等に治具を用いて、あるいは接着テープを用いて固定する方法、及び
これらの組み合わせなどの方法。
上記貼着を行う際に、上記樹脂フィルム、又は/及び上記プローブを、所望に応じて、適宜な温度に予熱してもよい。この予熱温度は、用いられる材質によって異なり、特に限定されないが、例えば40℃~200℃であってよい。
上記貼着を行う前に、上記樹脂フィルムの表面、又は/及び上記プローブの先端部の表面を、イソプロパノール、エタノール、アセトンなどの適宜な溶剤で洗浄してもよい。
【0021】
第1のプローブや第2のプローブとして用いるプローブについて説明する。
図1は、樹脂フィルムにより先端部を覆われたプローブの好ましい一実施形態を示す概念図である。
この好ましい一実施形態に係るプローブは、金属製の土台1、その上に配置されたガラス製の中間部材2、更にその上にポリジメチルシロキサン製のドーム形状の先端部3を含む。
土台1は中心に穿孔4を有しており、図示された矢印の方向に、穿孔4を通して上記プローブ越しに操作しようとするフレーク状物質を観察することができる。
そして、樹脂フィルム5はプローブの先端部3に自己粘着しており、更に樹脂フィルム5の端部はプローブの中間部材2に接着テープ(図示せず)を用いて固定されている。
【0022】
図1に示した樹脂フィルムおよびプローブの形及び材質は、一つの好ましい例示として理解されるべきであり、本発明はこれに限定されない。これは以降の図面についても同様に当てはまる。
例えば、土台1は中間部材2を安定して保持し、これを自在に操作することができる限り、その形状および材質は特に限定されず、金属製に替えて硬質の樹脂製であってもよい。また、中間部材2は、先端部3の平面部以上の面積を有し、これを安定的に保持することができる限り、その状および材質は特に限定されず、ガラス製に替えて透明の樹脂製であってもよい。
【0023】
上記プローブの先端部の形状は、樹脂フィルムで先端部を覆う際に、該プローブの先端部と該樹脂フィルムとの間に隙間が生じないようにする観点から、適宜選択することができる。プローブの先端部は、少なくともその頂部近傍において曲面を有することが好ましい。また、プローブの先端部は、その頂部と逆側の底部において、先端部を支持する中間部材との密着性を保つことができるように、その少なくとも一部、好ましくは底部の外縁部全周が平面を形成していることが好ましい。あるいは、プローブの先端部は、その頂部と逆側の底部の全体が平面を形成していてもよい。
プローブの先端部の形状は、樹脂フィルムで先端部を覆う際に、該プローブの先端部と該樹脂フィルムとの間に隙間が生じないようにする観点から、ドーム形状が好ましい。明細書で言及される「ドーム形状」は、略全体が曲面から構成された外面を有し、好ましくは90度以下の鋭角部を一切含まない外面を有するものを指す。例えば、ドーム形状は、略半球体または略半楕円体の少なくとも一部を成す形状であってよい。ドーム形状の先端部の曲率半径は、特に限定されないが、例えば、通常100μm以上~10cm以下であってよく、または200μm以上~5cm以下であってよく、もしくは300μm以上~1cm以下であってよく、もしくは400μm以上~0.5cm以下であってよい。
【0024】
上記プローブの先端部の材質は、本発明の各工程における温度、工程(3)における押圧及び透明性の観点から適宜選択することができる。
プローブの先端部の材質は、好ましくは、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、及びポリジフェニルシロキサン、並びにこれらの変性体などのシリコーン系樹脂であってよい。
【0025】
第1のプローブと第2のプローブとは、略同一のもの(材質が略同一であり、かつ形状が略同一)のものを用いてもよく、互いに異なる材質、形状のものを用いてもよい。
第1のプローブと第2のプローブとは、工程(4)において第1のプローブから第2のプローブへとフレーク状物質を引き渡す際の支配因子を少なくして操作結果の予測性を高め、確実に引き渡すことができるようにする観点から、略同一のもの(材質が略同一であり、かつ形状が略同一のもの)を用いることが好ましい。第1のプローブと第2のプローブとは、材質および形状が完全に同一のものであってよい。また、第1のプローブと第2のプローブとは、材質および形状が完全に同一のドーム形状を有するものであってよい。
【0026】
以下、第1の樹脂フィルムや第2の樹脂フィルムとして用いる樹脂フィルムについて説明する。
該樹脂フィルムは、上記フレーク状物質の種類を勘案し、本発明の各工程をトラブルなく行えるようにする観点から適宜選択することができる。
【0027】
上記樹脂フィルムとしては、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル・アクリル酸エチル共重合体、及びビニルシクロヘキサン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体等のアクリル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリ4-メチルペンテン-1等のポリオレフィン系樹脂、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンカーボネート、及びポリプロピレンカーボネート等のポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、エチレン・ノルボルネン共重合体等の環状炭化水素系樹脂、トリアセチルセルロース等のセルロースエステル系樹脂、ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリマー型ウレタンアクリレート系樹脂、並びに、ポリイミド系樹脂などの樹脂フィルムをあげることができる。
これらのフィルムは無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、及び二軸延伸フィルムを包含する。またこれらのフィルムは、これらの1種又は2種以上を、2層以上積層した積層フィルムを包含する。
【0028】
上記樹脂フィルムとしては、上記フレーク状物質が2次元物質である場合には、これらの中で、ポリ塩化ビニル系樹脂、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンカーボネート、及びポリプロピレンカーボネート等のポリカーボネート系樹脂、並びにポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、及びメタクリル酸メチル・アクリル酸エチル共重合体等のアクリル系樹脂が好ましく、ポリ塩化ビニル系樹脂がより好ましい。
【0029】
第1の樹脂フィルムと第2の樹脂フィルムとは同じ樹脂からなるフィルムであってもよく、違う樹脂からなるフィルムであってもよい。
【0030】
第1の樹脂フィルムは、好ましくはポリ塩化ビニル系樹脂フィルムであってよい。
第2の樹脂フィルムは、好ましくはポリ塩化ビニル系樹脂フィルムであってよい。
第1の樹脂フィルムと第2の樹脂フィルムは、何れも、好ましくはポリ塩化ビニル系樹脂フィルムであってよい。
【0031】
上記樹脂フィルムの厚みは、製膜する際の生産性、及びフレーク状物質を操作する際の取り扱い性の観点から、適宜選択することができる。
上記樹脂フィルムの厚みは、製膜する際の生産性、及びフレーク状物質を操作する際の取り扱い性の観点から、通常0.5~300μm、好ましくは1~200μm、より好ましくは5~150μmであってよい。
【0032】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを構成するポリ塩化ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル(塩化ビニル単独重合体);塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、塩化ビニル・マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル・エチレン共重合体、塩化ビニル・プロピレン共重合体、塩化ビニル・スチレン共重合体、塩化ビニル・イソブチレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル・スチレン・無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル・スチレン・アクリロニトリル三元共重合体、塩化ビニル・ブタジエン共重合体、塩化ビニル・イソプレン共重合体、塩化ビニル・塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン・酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル・アクリロニトリル共重合体、及び塩化ビニル・各種ビニルエーテル共重合体等の塩化ビニルと塩化ビニルと共重合可能な他のモノマーとの塩化ビニル系共重合体;並びに、後塩素化ポリ塩化ビニル等のこれらの塩素化体などをあげることができる。
代替的な一実施形態としては、塩素化ポリエチレン等の、化学構造がポリ塩化ビニルと類似する塩素化ポリオレフィンを用いてもよい。
これらの中で、ポリ塩化ビニル(塩化ビニル単独重合体)が好ましい。
上記ポリ塩化ビニル系樹脂としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0033】
上記ボリ塩化ビニル系樹脂は、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物に通常使用される他の樹脂を、更に含むものであってよい。
該他の樹脂の配合割合は、本発明の目的に反しない限り特に制限されない。該他の樹脂の配合割合は、通常0~40質量%、好ましくは0~20質量%であってよい。
【0034】
上記他の樹脂としては、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体;エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体;エチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体等のエチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂;並びに、メタクリル酸エステル・スチレン/ブタジエンゴムグラフト共重合体、及びメタクリル酸エステル/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体等のコアシェルゴムなどをあげることができる。
上記他の樹脂としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0035】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂は、本発明の各工程を比較的低い温度領域で行うことができるようにする観点、及びフィルムに製膜する際の加工性の観点から、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物に通常使用される可塑剤を、更に含ませることが好ましい。
【0036】
上記可塑剤の例としては、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、イタコン酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤、及びエポキシ系可塑剤などをあげることができる。
【0037】
上記可塑剤の他の例としては、多価アルコールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-へキサンジオール、1,6-へキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどを用い、多価カルボン酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、トリメリット酸、ピメリン酸、スベリン酸、マレイン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などを用い、必要により一価アルコール、モノカルボン酸をストッパーに使用したポリエステル系可塑剤をあげることができる。
【0038】
上記フタル酸エステル系可塑剤としては、例えば、フタル酸ジブチル、フタル酸ブチルヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジウンデシル、フタル酸ジトリデシル、フタル酸ジラウリル、フタル酸ジシクロヘキシル、及びテレフタル酸ジオクチルなどをあげることができる。
【0039】
上記トリメリット酸エステル系可塑剤としては、例えば、トリ(2-エチルヘキシル)トリメリテート、トリ(n-オクチル)トリメリテート、及びトリ(イソノニル)トリメリテートなどをあげることができる。
【0040】
上記アジピン酸エステル系可塑剤としては、例えば、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、及びアジピン酸ジイソデシルなどをあげることができる。
【0041】
上記エポキシ系可塑剤としては、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化脂肪酸オクチルエステル、及びエポキシ化脂肪酸アルキルエステルなどをあげることができる。
【0042】
上記可塑剤としては、その他、トリメリット酸系可塑剤、シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤、テトラヒドロフタル酸ジエステル系可塑剤、グリセリンエステル系可塑剤、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジエステル系可塑剤、イソソルバイドジエステル系可塑剤、ホスフェート系可塑剤系、アゼライン酸系可塑剤、セバシン酸系可塑剤、ステアリン酸系可塑剤、クエン酸系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、ビフェニルテトラカルボン酸エステル系可塑剤、及び塩素系可塑剤などをあげることができる。
【0043】
上記可塑剤としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0044】
上記可塑剤の配合量は(これを使用する場合)、上記ボリ塩化ビニル系樹脂と上記他の樹脂との合計を100質量部として、可塑剤の使用効果を確実に得る観点から、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは30質量部以上であってよい。
一方、上記可塑剤の配合量は、上記ボリ塩化ビニル系樹脂と上記他の樹脂との合計を100質量部として、可塑剤のブリードアウトなどのトラブルを抑制する観点から、通常120質量部以下、好ましくは80質量部以下、より好ましくは60質量部以下であってよい。
【0045】
上記ボリ塩化ビニル系樹脂は、フィルムに製膜する際の加工安定性の観点から、ハイドロタルサイト化合物、ゼオライト化合物、及び金属石鹸などの塩素捕捉剤;並びに/または、リン系、フェノール系、及び硫黄系などの酸化防止剤を更に含むものであってよい。
上記塩素捕捉剤及び/又は上記酸化防止剤の配合量(両者の合計の配合量)は(これを使用する場合)、上記ボリ塩化ビニル系樹脂と上記他の樹脂との合計を100質量部として、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.5~3質量部であってよい。
【0046】
上記ボリ塩化ビニル系樹脂は、本発明の目的に反しない限度において、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物に通常使用される物質を更に含むものであってもよく、含まないものであってもよい。
上記ボリ塩化ビニル系樹脂に含む得る任意成分としては、例えば、ヒンダードアミン系などの光安定剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系などの紫外線吸収剤、β-ジケトン化合物、過塩素酸塩類、多価アルコール、顔料、滑剤、架橋剤、帯電防止剤、防曇剤、プレートアウト防止剤、表面処理剤、難燃剤、充填剤、蛍光剤、防黴剤、殺菌剤、金属不活性剤、離型剤、及び加工助剤などをあげることができる。
これらの任意成分の配合量は、ボリ塩化ビニル系樹脂と上記他の樹脂との合計を100質量部としたとき、通常20質量部以下、あるいは0~10質量部であってよい。
【0047】
上記ボリ塩化ビニル系樹脂を用いてポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを製膜する方法は、所望の厚み、及び上記ボリ塩化ビニル系樹脂の特性を勘案し、適宜選択することができる。
上記製膜方法としては、例えば、Tダイ押出製膜方法、カレンダーロール圧延製膜方法、及び溶剤キャスト製膜方法などをあげることができる。
【0048】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの厚みは、製膜する際の生産性、及びフレーク状物質を操作する際の取り扱い性の観点から、適宜選択することができる。
上記ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの厚みは、製膜する際の生産性、及びフレーク状物質を操作する際の取り扱い性の観点から、通常0.5~300μm、好ましくは1~200μm、より好ましくは5~150μmであってよい。
【0049】
工程(2)
工程(2)は、第1の樹脂フィルムにより先端部を覆われた第1のプローブを使用して、フレーク状物質をピックアップする工程である。
【0050】
工程(2)では、基板上に静置されている上記フレーク状物質に、第1の樹脂フィルムにより先端部を覆われた第1のプローブを接地し、押圧して上記フレーク状物質をピックアップする。
第1の樹脂フィルムは、第1のプローブを接地し、押圧して上記フレーク状物質をピックアップする際に、少なくともフレーク状物質が接する部分をカバーする程度に第1のプローブの先端部を覆っている必要がある。第1の樹脂フィルムは、通常、第1のプローブの先端部の頂部近傍を含めて、その凸部の表面積の少なくとも30%に接するように覆っていてよく、その凸部の表面積の少なくとも50%に接するように覆っていることが好ましい。
【0051】
工程(2)では、上記フレーク状物質を、ピックアップされる前に適宜な温度に制御(加熱又は冷却)することが好ましい。
上記フレーク状物質の温度の制御は、例えば、上記基板又は上記基板が設置されている土台を加熱又は冷却することにより行うことができる。上記フレーク状物質の制御すべき温度は、フレーク状物質の材質、第1の樹脂フィルムの厚み、及び材質を勘案し、確実にフレーク状物質をピックアップする観点から、適宜決定することができる。
上記フレーク状物質の制御すべき温度は、通常は、予備実験を行って決定する。後述する実施例における、参考例は、予備実験の典型的な1例である。
【0052】
工程(2)では、所望に応じて、上記フレーク状物質に接地し、押圧する前に、第1の樹脂フィルム及び第1プローブを、適宜な温度に制御(加熱又は冷却)してもよい。
第1の樹脂フィルム及び第1プローブの温度制御は、例えば、第1プローブの土台(
図1における1)を加熱又は冷却することにより行うことができる。
工程(2)におけるフレーク状物質ならびに/または第1の樹脂フィルム及び第1プローブの制御温度は、特に限定されないが、通常40~150℃、好ましくは45~110℃、より好ましくは50~100℃であってよい。
【0053】
工程(2)において、基板上に静置されている上記フレーク状物質に、第1の樹脂フィルムにより先端部を覆われた第1のプローブを接地し、押圧する際の力は、第1の樹脂フィルムの材質及び厚み、上記フレーク状物質の種類、並びに第1のプローブの機械的強度を勘案し、適宜決定することができる。
工程(2)において、基板上に静置されている上記フレーク状物質に、第1の樹脂フィルムにより先端部を覆われた第1のプローブを接地し、押圧する際の力は、通常0.0005~5N、好ましくは0.001~1N、より好ましくは0.01~0.1Nであってよい。
【0054】
上記フレーク状物質は、フレーク状の形状を有していること以外は特に制限されない。
上記フレーク状物質としては、例えば、2次元物質、及び2次元物質の集合体であってフレーク状の形状を有する物質などをあげることができる。
上記フレーク状物質は、典型的な一実施形態において、2次元物質であってよい。
上記2次元物質としては、特に限定されないが、例えば、以下を挙げることができる:
グラフェン、酸化グラフェン、及び六方晶系窒化硼素などの単原子層物質(厚みが原子1個分の物質);
二硫化モリブデン(MoS2)、及び二セレン化ニオブ(NbSe2)などの単分子層(厚みが原子2個~数個分の物質);
遷移金属と1個以上のカルコゲン元素(例えば、硫黄、セレン、及びテルルなど)とを含む遷移金属カルコゲニド、遷移金属ジカルコゲニド;
2次元層状に形成されたペロブスカイト型化合物(例えば、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、及びチタン酸バリウム(BaTiO3)など);
並びに、これらの1種又は2種以上が2層~数十層積層している積層体、例えば、多層のグラフェンが積層されたグラファイト。
上記フレーク状物質の平面視サイズは、第1のプローブにてピックアップ可能なものである以外は特に限定されず、例えば最長部において1μm~3cmであってよく、あるいは、最長部において2μm~1cmであってよく、最長部において5μm~5mmであってよく、または最長部において10μm~3mmであってよい。
【0055】
上記基板としては、特に限定されないが、例えば、シリコン基板(Si基板)、シリコン基板の表面の上に二酸化珪素膜を形成した基板(SiO2/Si基板)、シリコンカーバイト基板(SiC基板)、並びに、ソーダライムガラス、硼珪酸ガラス、及び石英ガラスなどの無機ガラスの基板などをあげることができる。
【0056】
本工程の好ましい追加の実施形態として、フレーク状物質(典型的には2次元物質)の積層体をピックアップすることもできる。
この追加の実施形態は、(i)基板上に静置されている第1のフレーク状物質に、第1の樹脂フィルムにより先端部を覆われた第1のプローブを接地し、押圧して第1のフレーク状物質をピックアップすること、(ii)第2のフレーク状物質(基板上に静置)を、第1のフレーク状物質の第1のプローブとは反対側の面に接地・押圧して、基板からピックアップし、それによってフレーク状物質の2層積層体をピックアップすること、および(iii)任意選択で、さらに(ii)の操作を1回または複数回繰り返すことによってフレーク状物質の3層以上の積層体をピックアップすることを含み得る。この追加の実施形態における温度制御や押圧力の制御などは、上述されたものが同様に採用され得る。
このような実施形態により、単層のフレーク状物質(典型的には2次元物質)のピックアップだけでなく、複数層の積層体を成す形でフレーク状物質をピックアップすることが可能であり、また、これを第2のプローブに引き渡した後に他の基板上に配置することにより、反転させたフレーク状物質の積層体を成功裏に得ることもできる。
ここで、上記第2のフレーク状物質は、上記第1のフレーク状物質の平面視の面積以下の面積を有する(例えば、第1のフレーク状物質の平面視の面積の約100%未満または約95%以下または約90%以下または約85%以下または約80%以下の面積を有する)ものであってもよい。逆に上記第1のフレーク状物質が、上記第2のフレーク状物質の平面視の面積以下の面積を有する(例えば、第2のフレーク状物質の平面視の面積の約100%未満または約95%以下または約90%以下または約85%以下または約80%以下の面積を有する)ものであってもよい。あるいは、上記第1のフレーク状物質と上記第2のフレーク状物質の平面視の面積が同一であってもよい。この第1及び第2のフレーク状物質の平面視の面積の大小関係は、フレーク状物質の3層以上の積層体を得る場合の隣接する各層のフレーク状物質の平面視の面積の大小関係にも同様に適用され得る。
【0057】
工程(3)
工程(3)は、(2)工程において、第1のプローブによりピックアップされた上記フレーク状物質の第1のプローブとは反対側の面の上に、第2の樹脂フィルムにより先端部を覆われた第2のプローブを接地し、押圧する工程である。
第2の樹脂フィルムは、フレーク状物質の上記反対側の面の上に第2のプローブを接地し、押圧する際に、少なくともフレーク状物質が接する部分をカバーする程度に第2のプローブの先端部を覆っている必要がある。第2の樹脂フィルムは、通常、第2のプローブの先端部の頂部近傍を含めて、その凸部の表面積の少なくとも30%に接するように覆っていてよく、その凸部の表面積の少なくとも50%に接するように覆っていることが好ましい。
【0058】
工程(3)では、上記フレーク状物質の一方の面の上に、第1の樹脂フィルムが接地し、他方の面の上に第2の樹脂フィルムが接地しているときに、上記フレーク状物質、第1の樹脂フィルム、及び第2の樹脂フィルムの温度を、適宜な温度に制御することが好ましい。
工程(3)におけるフレーク状物質、第1の樹脂フィルム及び第2の樹脂フィルムの制御温度は、第1の樹脂フィルムの材質及び厚み、第2の樹脂フィルムの材質及び厚み、並びにフレーク状物質の種類を勘案し、適宜決定することができる。工程(3)の制御温度は、特に限定されないが、通常50~200℃、好ましくは70~120℃、より好ましくは80~110℃であってよい。
工程(3)の制御温度は、第1の樹脂フィルム及び第2の樹脂フィルムとして略同材質のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを用い、該ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの厚みが5~150μmであり、フレーク状物質が2次元物質である場合には、好ましくは70~120℃、より好ましくは80~110℃であってよい。
【0059】
工程(3)における、(2)工程において第1のプローブによりピックアップされた上記フレーク状物質の第1のプローブとは反対側の面の上に、第2の樹脂フィルムにより先端部を覆われた第2のプローブを接地し、押圧する際の力は、第1の樹脂フィルムの材質及び厚み、第2の樹脂フィルムの材質及び厚み、上記フレーク状物質の種類、並びに第1のプローブ及び第2のプローブの機械的強度を勘案し、適宜決定することができる。
工程(3)における、(2)工程において第1のプローブによりピックアップされた上記フレーク状物質の第1のプローブとは反対側の面の上に、第2の樹脂フィルムにより先端部を覆われた第2のプローブを接地し、押圧する際の力は、通常0.0005~5N、好ましくは0.001~1N、より好ましくは0.01~0.1Nであってよい。
【0060】
工程(4)
工程(4)は、第1のプローブと第2のプローブとを引き離すことにより、第1のプローブによりピックアップされた上記フレーク状物質を、第2のプローブへと引き渡す工程である。
【0061】
工程(4)において上記第1のプローブから第2のプローブへと上記フレーク状物質を安定的に引き渡す観点から、上記(i)非押圧時の第2の樹脂フィルムの厚みBと第1の樹脂フィルムの厚みAとの厚み比(厚みB/厚みA)は、通常1未満、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.7以下、更に好ましくは0.6以下である。
ここでの各樹脂フィルムの厚みは、常温常圧(温度25℃、1気圧)下、非押圧状態で測定される厚みである。
【0062】
本発明者らの研究によれば、第1の樹脂フィルムの材質と第2の樹脂フィルムの材質とが大きく異なるものであっても、これらの樹脂フィルムの厚みが同一であるならば、上記要件(2)(両プローブを引き離し、フレーク状物質を引き渡す際には、引き渡す側のプローブは、確実にフレーク状物質をリリースし、かつ引き受ける側のプローブは、確実にフレーク状物質をホールドすること、すなわち、引き渡しの際、引き渡す側のプローブがフレーク状物質を意図せずホールドし続けることがなく、かつ意図しないところでリリースすることがなきこと)を充足することは容易なことではないことが分かっている。
【0063】
ところが、上記(i)第2の樹脂フィルムの厚みBと第1の樹脂フィルムの厚みAとの厚み比(厚みB/厚みA)を通常1未満、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.7以下、更に好ましくは0.6以下となるようにすることにより、上記要件(2)を容易に充足できるようになり、ピックアップしたフレーク状物質をプローブ間で確実にやり取りできたことは、驚くべきことである。
【0064】
本発明者らは鋭意研究した結果、樹脂フィルム(典型的にはポリ塩化ビニル系樹脂フィルム)のゴム状態から溶融状態への相転移温度(熱機械分析(TMA)の圧縮プローブによる測定)は、材質が同じであっても、樹脂フィルムの厚みを大きくすると低温側へ大きくシフトすることを見出した。理論に拘束される意図はないが、上記(i)第2の樹脂フィルムの厚みBと第1の樹脂フィルムの厚みAとの厚み比(厚みB/厚みA)を通常1未満とするとき(すなわち第1の樹脂フィルムの厚みAが第2の樹脂フィルムの厚みBよりも大きいとき)、これらの樹脂フィルムの両方が同一材料で形成されている態様において、第1の樹脂フィルムの相転移温度は第2の樹脂フィルムの相転移温度よりも低温側へシフトした状態となる。この結果、所定の温度で第1の樹脂フィルムの相状態と第2の樹脂フィルムの相状態とが少なくとも部分的に異なる状態となり、このような状態が第1のプローブから第2のプローブへのフレーク状物質の安定的な引き渡しに寄与し得ると考えられる。
このように樹脂フィルムによるフレーク状物質のピックアップ/リリースの好適な温度は、樹脂フィルムの相状態と強く関係している。そのため、本発明の操作方法にて、各樹脂フィルムの厚み、ならびに各樹脂フィルム及びこれと接するフレーク状物質の温度制御を適切に行うことにより、ピックアップしたフレーク状物質をプローブ間で確実にやり取りできたと考察している。
【0065】
工程(4)において、第1のプローブから第2のプローブへと上記フレーク状物質を確実に引き渡す観点から、同じ厚みの樹脂フィルムを製膜して比較したとき、第1の樹脂フィルムの材料を用いてなる樹脂フィルムが上記フレーク状物質をピックアップ/リリースするのに好適な温度よりも、第2の樹脂フィルムの材料を用いてなる樹脂フィルムが上記フレーク状物質をピックアップ/リリースするのに好適な温度の方が高くなるようにすることは、好ましい実施形態の1つである。
【0066】
第1の樹脂フィルム及び第2の樹脂フィルムの何れについてもポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを使用する場合、工程(4)において、第1のプローブから、第2のプローブへと上記フレーク状物質を確実に引き渡す観点から、第1の樹脂フィルムとして使用するポリ塩化ビニル系樹脂フィルム中の可塑剤配合量α(質量部)と第2の樹脂フィルムとして使用するポリ塩化ビニル系樹脂フィルム中の可塑剤配合量β(質量部)との関係は、通常α≧β、好ましくはα>β、より好ましくはα≧(β+20)、更に好ましくはα≧(β+50)であってよい。
ここで、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム中のポリ塩化ビニル系樹脂の配合量(上記他の樹脂を含む実施態様にあっては、ポリ塩化ビニル系樹脂と他の樹脂との合計の配合量)を100質量部とする。
【0067】
本発明の物品の生産方法を使用して生産される物品は、フレーク状物質を用いた物品である。このような物品としては、例えば、透明電極、タッチパネル、発光電気化学セル、トランジスタ、集積回路、半導体、不揮発メモリ、太陽電池、蓄電デバイス、ガスセンサー、赤外線センサー、紫外線発光デバイス、熱伝導デバイス、絶縁デバイス、及び超電導デバイスなどをあげることができる。
【実施例0068】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの製造例
(α1)重合度1000のポリ塩化ビニル単独重合体100質量部と、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)40質量部とからなるポリ塩化ビニル樹脂組成物を、溶剤(シクロヘキサン)に溶解し、ポリ塩化ビニル樹脂組成物溶液を得た後、該ポリ塩化ビニル樹脂組成物溶液を、無機ガラス板の面の上に、アプリケータを使用して塗布、乾燥して、厚み5μmのポリ塩化ビニル系樹脂フィルム(α1)を得た。このとき、得られるポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの厚みが5μmとなるように、上記ポリ塩化ビニル樹脂組成物溶液の濃度及びアプリケータを適宜変更/調節した。
【0070】
(α2)得られるポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの厚みが15μmとなるようにしたこと以外は、上記(α1)と同様にしてポリ塩化ビニル系樹脂フィルム(α2)を得た。
【0071】
(α3)得られるポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの厚みが50μmとなるようにしたこと以外は、上記(α1)と同様にしてポリ塩化ビニル系樹脂フィルム(α3)を得た。
【0072】
(α4)得られるポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの厚みが100μmとなるようにしたこと以外は、上記(α1)と同様にしてポリ塩化ビニル系樹脂フィルム(α4)を得た。
【0073】
(α5)得られるポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの厚みが150μmとなるようにしたこと以外は、上記(α1)と同様にしてポリ塩化ビニル系樹脂フィルム(α5)を得た。
【0074】
(β1)重合度1000のポリ塩化ビニル単独重合体100質量部とフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)120質量部とからなるポリ塩化ビニル樹脂組成物を、溶剤(シクロヘキサン)に溶解し、ポリ塩化ビニル樹脂組成物溶液を得た後、該ポリ塩化ビニル樹脂組成物溶液を、無機ガラス板の面の上に、アプリケータを使用して塗布、乾燥して、厚み1μmのポリ塩化ビニル系樹脂フィルム(β1)を得た。このとき、得られるポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの厚みが1μmとなるように、上記ポリ塩化ビニル樹脂組成物溶液の濃度及びアプリケータを適宜変更/調節した。
【0075】
(β2)フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)の配合量を80質量部に変更したこと以外は、上記(β1)と同様にしてポリ塩化ビニル系樹脂フィルム(β2)を得た。
【0076】
(β3)フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)の配合量を40質量部に変更したこと以外は、上記(β1)と同様にしてポリ塩化ビニル系樹脂フィルム(β3)を得た。
【0077】
(β4)フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)を配合しなかったこと以外は、上記(β1)と同様にしてポリ塩化ビニル系樹脂フィルム(β4)を得た。
【0078】
例1-1
同一のプローブを2個準備し、使用した。該プローブは、
図1に概念図を示す形態である。金属製の土台の上にガラス製の中間部材、更にその上にポリジメチルシロキサン製のドーム形状(直径1.5mmの半球状)の先端部を有している。また土台は中心に穿孔を有しており、穿孔を通して上記プローブ越しに操作しようとするフレーク状物質を観察することができるようになっている。
第1の樹脂フィルムには、上述のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの製造で得た厚み100μmのポリ塩化ビニル系樹脂フィルム(α4)を用いた。
第2の樹脂フィルムには、上述のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの製造で得た厚み15μmのポリ塩化ビニル系樹脂フィルム(α2)を用いた。
【0079】
以下の説明では、理解容易のため
図2を参照する。
(1)適宜の大きさ(4mm×4mm)に切断した第1の樹脂フィルム6を、第1のプローブ(準備した2個のプローブの1個)の先端部7を覆うように(先端部の凸部の表面積の過半を覆うように)被せて自己粘着させ、更に第1の樹脂フィルムの端部を第1のプローブの中間部材に接着テープを使用して固定した。同様に、第2の樹脂フィルム8を、第2のプローブ(準備した2個のプローブのもう1個)の先端部9を覆うように(先端部の凸部の表面積の過半を覆うように)被せて自己粘着させ、更に第2の樹脂フィルム8の端部を第2のプローブの中間部材に接着テープ(図示せず)を使用して固定した。
こうして、第1の樹脂フィルム6により先端部7を覆われた第1のプローブ、及び第2の樹脂フィルム8により先端部9を覆われた第2のプローブを準備した。
【0080】
(2)次に、SiO
2/Si基板上に静置されている2次元物質(六方晶系窒化硼素)10(最長部において長さ40μm程度)を温度55℃に加熱した後、工程(1)で準備した第1の樹脂フィルム6により先端部7を覆われた第1のプローブを使用し、押圧してピックアップした(
図2(a)の上側)。
【0081】
(3)次に、上記(2)において第1のプローブによりピックアップされた2次元物質(六方晶系窒化硼素)10の第1のプローブとは反対側の面の上に、上記(1)で準備した第2の樹脂フィルム8により先端部9を覆われた第2のプローブ(
図2(a)の下側)を接地し、押圧した(
図2(b))。
このとき、第2のプローブ側から加熱し、2次元物質(六方晶系窒化硼素)10、第1の樹脂フィルム6、第2の樹脂フィルム8の温度を95℃に制御した。
【0082】
(4)続いて、第1のプローブと第2のプローブとを引き離した。第1のプローブによりピックアップされた2次元物質(六方晶系窒化硼素)10は、第2のプローブへと引き渡された(
図2(c))。
【0083】
(5)上記(1)~(4)を20回繰り返した。
全ての試行において、第1のプローブによりピックアップされた2次元物質(六方晶系窒化硼素)10は、第2のプローブへと引き渡されたことが目視にて確認された(引き渡し確率100%)。
【0084】
例1-2~1-18
第1の樹脂フィルムとして、上述の「ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの製造例」で得られた表1に示す厚みを有するポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを用い、かつ、第2の樹脂フィルムとして、上述の「ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを製造例」で得られた表1に示す厚みを有するポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを用いると共に、工程(3)の制御温度を表1に示す温度にしたこと以外は、例1-1と同様に各工程を実施し、2次元物質の引き渡し試験を行った。結果(引き渡し確率)を表1に示す。
【0085】
【0086】
表1に示された結果から、本発明に従い第2の樹脂フィルムの厚みBと第1の樹脂フィルムの厚みAとの厚み比(厚みB/厚みA)を1未満に調整したときには、そのような調整がされていないときと比べて、高い引き渡し確率が達成されたことが分かった。
【0087】
例2
フレーク状物質として、厚み50nmのフレーク状の形状をしたグラファイト(最長部において長さ40μm程度)を用いたこと以外は、例1-1と同様に各工程を実施し、2次元物質の引き渡し試験を行った。引き渡し確率は100%であった。
【0088】
例3
フレーク状物質として、厚み50nmのフレーク状の形状をした二硫化モリブデン(MoS2)(最長部において長さ40μm程度)を用いたこと以外は、例1-1と同様に各工程を実施し、2次元物質の引き渡し試験を行った。引き渡し確率は100%であった。
【0089】
例4
同一のプローブを2個準備し、使用した。該プローブは、
図1に概念図を示す形態である。金属製の土台の上にガラス製の中間部材、更にその上にポリジメチルシロキサン製のドーム形状(直径1.5mmの半球状)の先端部を有している。また土台は中心に穿孔を有しており、穿孔を通して上記プローブ越しに操作しようとするフレーク状物質を観察することができるようになっている。
第1の樹脂フィルムには、上述のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの製造で得た厚み100μmのポリ塩化ビニル系樹脂フィルム(α4)を用いた。
第2の樹脂フィルムには、上述のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの製造で得た厚み15μmのポリ塩化ビニル系樹脂フィルム(α2)を用いた。
【0090】
以下の説明では、理解容易のため
図2を参照する。
(1)適宜の大きさ(4mm×4mm)に切断した第1の樹脂フィルム6を、第1のプローブ(準備した2個のプローブの1個)の先端部7を覆うように(先端部の凸部の表面積の過半を覆うように)被せて自己粘着させ、更に第1の樹脂フィルムの端部を第1のプローブの中間部材に接着テープを使用して固定した。同様に、第2の樹脂フィルム8を、第2のプローブ(準備した2個のプローブのもう1個)の先端部9を覆うように(先端部の凸部の表面積の過半を覆うように)被せて自己粘着させ、更に第2の樹脂フィルム8の端部を第2のプローブの中間部材に接着テープ(図示せず)を使用して固定した。
こうして、第1の樹脂フィルム6により先端部7を覆われた第1のプローブ、及び第2の樹脂フィルム8により先端部9を覆われた第2のプローブを準備した。
【0091】
(2)次に、SiO2/Si基板上に静置されている2次元物質(六方晶系窒化硼素)10(最長部において長さ40μm程度)を温度55℃に加熱した後、工程(1)で準備した第1の樹脂フィルム6により先端部7を覆われた第1のプローブを使用し、ピックアップした。
【0092】
(2-2)次に、工程(2)でピックアップした2次元物質(六方晶系窒化硼素)10よりも少し面積の小さい(すなわち、面積が前者の90%程度である)2次元物質(六方晶系窒化硼素)11(SiO
2/Si基板15上に静置されている)を温度55℃に加熱した後、2次元物質(六方晶系窒化硼素)10の第1のプローブとは反対側の面に接地・押圧(
図3-1(a))して、このSiO
2/Si基板15からピックアップした(
図3-1(b))。
同様の作業を繰り返し、2次元物質(六方晶系窒化硼素)10~14(この順に面積が小さくなる)の5枚を全体として山型となるように積層し、ピックアップした(
図3-1(c))。
【0093】
(3)次に、工程(2-2)において作成した2次元物質(六方晶系窒化硼素)10~14からなる積層体の2次元物質(六方晶系窒化硼素)14側の面の上に、工程(1)で準備した第2の樹脂フィルム8により先端部9を覆われた第2のプローブを接地し、押圧した(
図3-2(d))。
このとき、第2のプローブ側から加熱し、2次元物質(六方晶系窒化硼素)10~14からなる積層体、第1の樹脂フィルム6、第2の樹脂フィルム8の温度を100℃に制御した。
【0094】
(4)次に、第1のプローブと第2のプローブとを引き離した。
第1のプローブによりピックアップされた2次元物質(六方晶系窒化硼素)10~14からなる積層体は、第2のプローブへと引き渡された(
図3-2(e))。
【0095】
(5)次に、第2のプローブの天地を反転し、温度150℃に加熱したSiO2/Si基板15の面の上に、2次元物質(六方晶系窒化硼素)10~14からなる積層体を接地し、押圧した。
【0096】
(6)続いて、第2のプローブとSiO
2/Si基板15とを引き離した。
2次元物質(六方晶系窒化硼素)10~14からなる積層体は、2次元物質(六方晶系窒化硼素)10側の面がSiO
2/Si基板15の面と接するように、SiO
2/Si基板15の面の上に設置された(
図3-2(f))。
つまり、2次元物質(六方晶系窒化硼素)10~14からなる積層体を、SiO
2/Si基板15の面の上に、作成時とは反転した状態で設置することができた。
【0097】
参考例1-1
適宜の大きさ(4mm×4mm)に切断した樹脂フィルム(上記ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム(β1))を、プローブの先端部を覆うように被せて自己粘着させ、更に樹脂フィルムの端部をプローブの中間部材に接着テープを使用して固定した。該プローブは、
図1に概念図を示す形態のものである。金属製の土台の上にガラス製の中間部材、更にその上にポリジメチルシロキサン製のドーム形状(直径1.5mmの半球状)の先端部を有している。また土台は中心に穿孔を有しており、穿孔を通して上記プローブ越しに操作しようとする上記フレーク状物質を観察することができるようになっている。
【0098】
所定の温度に加熱したSiO2/Si基板上に静置されている2次元物質(六方晶系窒化硼素)を、樹脂フィルムにより先端部を覆われたプローブを該2次元物質に接地し、押圧した後、上記SiO2/Si基板と上記プローブとを引き離し、上記2次元物質のピックアップを試みた。試行は繰り返し20回行い、ピックアップできた確率を求めた。
【0099】
樹脂フィルムにより先端部を覆われたプローブによりピックアップされた2次元物質(六方晶系窒化硼素)(最長部において長さ40μm程度)の、該2次元物質のプローブ側とは反対側の面を、所定の温度に加熱したSiO2/Si基板の面の上に接地し、押圧した後、上記SiO2/Si基板と上記プローブとを引き離し、上記2次元物質のリリースを試みた。試行は繰り返し20回行い、リリースできた確率を求めた。
【0100】
上記試行によるピックアップおよびリリースの確率の結果を表2に示す。
表中、HPは、70%を超える確率でピックアップできたことを意味する。
mpは、ピックアップできた確率が30~70%であったことを意味する。
HRは、70%を超える確率でリリースできたことを意味する。
mrは、リリースできた確率が30~70%であったことを意味する。
【0101】
参考例1-2~1-4
樹脂フィルムとして表2に示すものを使用した(すなわち可塑剤の配合量を変化させた)こと以外は、参考例1-1と同様に操作及びピックアップ/リリースの試験を行った。結果を表2に示す。
【0102】
参考例2-1~2-3
樹脂フィルムとして表2に示すものを使用した(すなわち樹脂フィルムの厚みを変化させた)こと以外は、参考例1-1と同様に操作及びピックアップ/リリースの試験を行った。結果を表2に示す。
【0103】
【0104】
表2に示された結果から、樹脂フィルムとしてポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを使用する場合、可塑剤の配合量を多くすると、高確率でピックアップ可能な温度、高確率でリリース可能な温度が少し低くなること、さらには、樹脂フィルムの厚みを大きくすると、高確率でピックアップ可能な温度、高確率でリリース可能な温度が大幅に低くなることが分かった。
【0105】
本特許出願は、その出願後、出願が公開されるまでに学術雑誌(Japanese Journal of Applied Physics)に投稿され公表される予定である、タイトル“All-dry flip-over stacking of 2D crystal flakes based on polymer-to-polymer transfer using polyvinyl chloride”(Momoko Onodera, et al.)なる科学論文の公表予定内容をベースとしている。この論文は、本特許出願の提出時点にて既に学術雑誌に投稿されており、その内容は完成されているので、当該論文の全ての記載事項は、引用により本明細書の内容として取り込まれるものとする。
また、上記非特許文献1、2の開示事項の全てもまた、引用により本明細書の内容として取り込まれるものとする。