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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181727
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】ウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20231218BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20231218BHJP
   B23K 26/067 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
H01L21/304 611Z
B23K26/53
B23K26/067
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095025
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】野本 朝輝
【テーマコード(参考)】
4E168
5F057
【Fターム(参考)】
4E168AE02
4E168CA06
4E168CB07
4E168CB23
4E168DA02
4E168DA24
4E168DA32
4E168EA02
4E168HA01
4E168JA13
5F057AA42
5F057BA01
5F057BB06
5F057CA02
5F057DA22
5F057FA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】GaNのウェーハを製造する際に切り代を低減するウェーハの製造方法を提供する。
【解決手段】第1面及びその反対側に位置する第2面を有する窒化ガリウムのインゴット又は窒化ガリウムの単結晶基板である被加工物から、第1面及び第2面間の距離未満の厚さを有するウェーハの製造方法であって、被加工物を透過する波長を有するパルス状のレーザービームを第2面とは反対側から第1面に照射してレーザービームの集光点を被加工物の所定の深さ位置に位置付けた状態で、被加工物と集光点とを所定の方向に沿って相対的に移動させることで、被加工物に分離層を形成する分離層形成ステップと、分離層を起点に被加工物からウェーハを分離する分離ステップと、を備える。分離層形成ステップにおける所定の方向は、(0001)面において下記の(1)で表される結晶方位との間で形成される角度が5°以下である。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と、該第1面の反対側に位置する第2面と、をそれぞれ有する窒化ガリウムのインゴット又は窒化ガリウムの単結晶基板である被加工物から、該第1面及び該第2面間の距離未満の厚さを有するウェーハを製造するウェーハの製造方法であって、
該被加工物の該第2面を吸引保持する保持ステップと、
該保持ステップの後、該被加工物を透過する波長を有するパルス状のレーザービームを該第2面とは反対側から該第1面に照射して該レーザービームの集光点を該被加工物の所定の深さ位置に位置付けた状態で、該被加工物と該集光点とを所定の方向に沿って相対的に移動させることで、該被加工物に分離層を形成する分離層形成ステップと、
該分離層形成ステップの後、該分離層を起点に該被加工物から該ウェーハを分離する分離ステップと、
を備え、
該分離層形成ステップにおける該所定の方向は、(0001)面において下記の(1)で表される結晶方位との間で形成される角度が5°以下であることを特徴とするウェーハの製造方法。
【数1】
【請求項2】
該保持ステップの後、且つ、該分離層形成ステップの前に、該集光点を該所定の深さ位置に位置付けると共に、該被加工物の外周縁に沿って円環状に該レーザービームを照射することで、該被加工物の外周領域に分離層を形成する円環状加工ステップを更に備えることを特徴とする請求項1に記載のウェーハの製造方法。
【請求項3】
該分離層形成ステップでは、該所定の方向に沿う様に正六角形状に該被加工物と該集光点とを相対的に移動させた後、該集光点を該被加工物の径方向の中央側に移動させた上で、該所定の方向に沿う様に六角形状に該被加工物と該集光点とを相対的に移動させることを特徴とする請求項1又は2に記載のウェーハの製造方法。
【請求項4】
該分離層形成ステップでは、該レーザービームを複数のレーザービームに分岐させて、該複数のレーザービームの各々の集光点を第1方向に沿って並ぶ様に配置した上で、該第1方向に直交する第2方向を、該所定の方向とすることを特徴とする請求項1に記載のウェーハの製造方法。
【請求項5】
該分離層形成ステップでは、複数の集光点を該第2方向に沿って移動させた後、該複数の集光点の該第2方向への移動の軌跡を含む移動領域と該第1面から見て部分的に重なる様に該複数の集光点を該第1方向に沿ってずらした状態で、該複数の集光点を該第2方向に沿って移動させることを特徴とする請求項4に記載のウェーハの製造方法。
【請求項6】
該分離層形成ステップにおいて、該第1方向に沿って並ぶ複数の集光点の間隔は、5μm以上20μm以下であることを特徴とする請求項4に記載のウェーハの製造方法。
【請求項7】
該分離層形成ステップにおいて形成される該分離層は、複数の改質領域を含み、
該第1方向に沿って並んで形成される該複数の改質領域同士の間隔をa(μm)とし、且つ、該複数の集光点と該被加工物とを該第2方向に沿って相対的に移動させることにより該第2方向に沿って並んで形成される該複数の改質領域同士の間隔をb(μm)とした場合に、(b/a)で表されるアスペクト比は0.5以上3.0以下であることを特徴とする請求項6に記載のウェーハの製造方法。
【請求項8】
該分離層形成ステップにおいて、該被加工物に照射される該レーザービームは、バーストモードで該被加工物に照射されることを特徴とする請求項1に記載のウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1面と、該第1面の反対側に位置する第2面と、をそれぞれ有する窒化ガリウムのインゴット又は窒化ガリウムの単結晶基板である被加工物から、第1面及び第2面間の距離未満の厚さを有するウェーハを製造するウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)は、ワイドバンドギャップ半導体と呼ばれており、シリコン(Si)と比較して略3倍のバンドギャップを有する。この比較的大きいGaNのバンドギャップを利用して、パワーデバイス、LED等のデバイスが製造されている。
【0003】
GaNの単結晶基板(即ち、ウェーハ)は、通常、GaNのインゴットをスライスすることで製造される。ウェーハの製造には、例えば、外周部ではなく内周部に切り刃が設けられた円環状のスライサが用いられる(特許文献1参照)。
【0004】
しかし、ウェーハの厚さ(例えば、0.15mm)に対して、スライサの切り刃の厚さは比較的大きい(例えば、0.3mm)ので、切り代及びウェーハを合わせると1枚のウェーハ当たり60%から70%程度が切り代として廃棄される。この様に、切り刃を使用すると、切り代及びウェーハの合計に対する切り代の比率(即ち、廃棄率)が比較的高くなるので、不経済である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-84469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は係る問題点に鑑みてなされたものであり、GaNのインゴットからGaNのウェーハを製造する際に、切り代を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、第1面と、該第1面の反対側に位置する第2面と、をそれぞれ有する窒化ガリウムのインゴット又は窒化ガリウムの単結晶基板である被加工物から、該第1面及び該第2面間の距離未満の厚さを有するウェーハを製造するウェーハの製造方法であって、該被加工物の該第2面を吸引保持する保持ステップと、該保持ステップの後、該被加工物を透過する波長を有するパルス状のレーザービームを該第2面とは反対側から該第1面に照射して該レーザービームの集光点を該被加工物の所定の深さ位置に位置付けた状態で、該被加工物と該集光点とを所定の方向に沿って相対的に移動させることで、該被加工物に分離層を形成する分離層形成ステップと、該分離層形成ステップの後、該分離層を起点に該被加工物から該ウェーハを分離する分離ステップと、を備え、該分離層形成ステップにおける該所定の方向は、(0001)面において下記の(1)で表される結晶方位との間で形成される角度が5°以下であるウェーハの製造方法が提供される。
【数1】
【0008】
好ましくは、ウェーハの製造方法は、該保持ステップの後、且つ、該分離層形成ステップの前に、該集光点を該所定の深さ位置に位置付けると共に、該被加工物の外周縁に沿って円環状に該レーザービームを照射することで、該被加工物の外周領域に分離層を形成する円環状加工ステップを更に備える。
【0009】
また、好ましくは、該分離層形成ステップでは、該所定の方向に沿う様に正六角形状に該被加工物と該集光点とを相対的に移動させた後、該集光点を該被加工物の径方向の中央側に移動させた上で、該所定の方向に沿う様に六角形状に該被加工物と該集光点とを相対的に移動させる。
【0010】
また、好ましくは、該分離層形成ステップでは、該レーザービームを複数のレーザービームに分岐させて、該複数のレーザービームの各々の集光点を第1方向に沿って並ぶ様に配置した上で、該第1方向に直交する第2方向を、該所定の方向とする。
【0011】
また、好ましくは、該分離層形成ステップでは、複数の集光点を該第2方向に沿って移動させた後、該複数の集光点の該第2方向への移動の軌跡を含む移動領域と該第1面から見て部分的に重なる様に該複数の集光点を該第1方向に沿ってずらした状態で、該複数の集光点を該第2方向に沿って移動させる。
【0012】
また、好ましくは、該分離層形成ステップにおいて、該第1方向に沿って並ぶ複数の集光点の間隔は、5μm以上20μm以下である。
【0013】
また、好ましくは、該分離層形成ステップにおいて形成される該分離層は、複数の改質領域を含み、該第1方向に沿って並んで形成される複数の改質領域同士の間隔をa(μm)とし、且つ、該複数の集光点と該被加工物とを該第2方向に沿って相対的に移動させることにより該第2方向に沿って並んで形成される該複数の改質領域同士の間隔をb(μm)とした場合に、(b/a)で表されるアスペクト比は0.5以上3.0以下である。
【0014】
また、好ましくは、該分離層形成ステップにおいて、該被加工物に照射される該レーザービームは、バーストモードで該被加工物に照射される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様に係る製造方法では、被加工物を透過する波長を有するパルス状のレーザービームの集光点を、被加工物の所定深さ位置に位置付けた状態で、被加工物と集光点とを所定の方向に相対的に移動させることで、被加工物に分離層を形成する(分離層形成ステップ)。
【0016】
そして、分離層を起点に被加工物からウェーハを分離する(分離ステップ)。レーザービームを用いることで、分離層の厚さは、例えば、60μm(即ち、0.06mm)程度にできるので、切り刃を用いる場合に比べて、被加工物の厚さ方向における切り代を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】製造方法のフロー図である。
図2】インゴットの斜視図である。
図3】レーザー加工装置の概要図である。
図4図4(A)はレーザービームLの概要図であり、図4(B)はレーザービームLの概要図である。
図5】保持ステップを示す側面図である。
図6】分離層形成ステップを示す平面図である。
図7】複数の集光点の移動領域の重なりを示す平面図である。
図8図8(A)は分離ステップを示す図であり、図8(B)はインゴットから分離されたウェーハ等を示す図である。
図9】分離層形成ステップの変形例を示す図である。
図10】第2の実施形態に係る製造方法のフロー図である。
図11】円環状加工ステップを示す平面図である。
図12】改質領域間に十分なクラックが形成されなかった単結晶基板の写真である。
図13】複数の改質領域を模式的に示す図である。
図14】c軸方向に比較的大きなクラックが形成された単結晶基板の写真である。
図15】改質領域間に十分にクラックが形成された単結晶基板の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。図1は、GaNのインゴット(被加工物)11から、インゴット11よりも薄いGaNの単結晶基板(即ち、ウェーハ15)(図8(B)参照)を製造する製造方法のフロー図である。
【0019】
第1の実施形態では、図1に示す保持ステップS10、分離層形成ステップS20、及び、分離ステップS30を順に行うことで、ウェーハ15を製造する。まず、図2を参照して、インゴット11について説明する。図2は、インゴット11の斜視図である。
【0020】
インゴット11は、六方晶の結晶構造を有するGaNの単結晶である。但し、インゴット11の導電型は、特段限定されない。インゴット11は、マグネシウム(Mg)、ベリリウム(Be)等のp型不純物を含むp型であってもよく、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)等のn型不純物を含むn型であってもよい。
【0021】
本実施形態のインゴット11は、4インチ(約100mm)の径と、500μmの厚さと、を有するが、径及び厚さはこの値に限定されない。インゴット11は、第1面11aと、厚さ方向11cにおいて第1面11aの反対側に位置し第1面11aと平行な第2面11bと、を有する。第1面11aは、下記(2)に示すc面に対応する。
【0022】
【数2】
【0023】
本明細書では、ミラー指数を用いて、結晶面及び結晶方位を特定する。特定の結晶面は()を用いて表現され、結晶構造の対照性に起因して互いに等価である結晶面は{}を用いて表現される。同様に、特定の結晶方位は[]を用いて表現され、互いに等価である結晶方位は〈〉を用いて表現される。
【0024】
第1面11a(c面)に対して垂直且つ上向きの結晶方位は、下記(3)で表される。この結晶方位は、c軸と呼ばれ、インゴット11の厚さ方向11cに対応する。
【0025】
【数3】
【0026】
本実施形態のインゴット11は、その側面に複数の平坦面を有する。より具体的には、インゴット11は、互いに直交する位置関係にある第1側面13a及び第2側面13bを有する。第1側面13aは、下記(4)に示す結晶面に対応し、第2側面13bは、下記(5)に示す結晶面に対応する。
【0027】
【数4】
【0028】
【数5】
【0029】
第1面11aと第1側面13aとが交わる第1オリエンテーションフラット(以下、第1OF13aと略記する)は、下記(6)の結晶方位と平行である。
【0030】
【数6】
【0031】
また、第1面11aと第2側面13bとが交わる第2オリエンテーションフラット(以下、第2OF13bと略記する)は、下記(7)の結晶方位と平行である。
【0032】
【数7】
【0033】
次に、図3を参照し、インゴット11に対してレーザー加工を施すためのレーザー加工装置2について説明する。図3は、レーザー加工装置2の概要図である。図3では、複数の構成要素を、機能ブロックや簡略化された形状で示す。
【0034】
図3に示すX軸方向(加工送り方向、第2方向、所定方向)、Y軸方向(割り出し送り方向、第1方向)、及び、Z軸方向(高さ方向)は、互いに直交している。
【0035】
なお、本明細書において、X軸方向は、互いに逆向きの+X方向及び-X方向と平行である。同様に、Y軸方向は、互いに逆向きの+Y方向及び-Y方向と平行であり、Z軸方向は、互いに逆向きの+Z方向及び-Z方向と平行である。
【0036】
レーザー加工装置2は、円盤状のチャックテーブル4を有する。チャックテーブル4は、ステンレス鋼等の金属で形成された円盤状の枠体を有する。枠体の中央部には枠体の径よりも小径の円盤状の凹部(不図示)が形成されている。この凹部には、多孔質セラミックスで形成された円盤状の多孔質板が固定されていている。
【0037】
枠体には、所定の流路(不図示)が形成されており、所定の流路には、管部(不図示)等を介して真空ポンプ等の吸引源(不図示)が接続されている。吸引源で生じた負圧が多孔質板に伝達されると、多孔質板の上面には負圧が生じる。
【0038】
枠体の環状の上面と、多孔質板の円形の上面とは、略面一且つ略平坦となっており、インゴット11を吸引保持するための保持面4aとして機能する。保持面4aはXY平面と平行に配置されている。
【0039】
チャックテーブル4の下部には、チャックテーブル4を回転させる回転駆動機構(不図示)が設けられている。回転駆動機構は、Z軸方向に沿う所定の回転軸を回転中心としてチャックテーブル4を所定角度回転させることができる。
【0040】
チャックテーブル4及び回転駆動機構は、水平方向移動機構(不図示)で支持されている。水平方向移動機構は、それぞれボールねじ式のX軸方向移動機構及びY軸方向移動機構を含み、X軸方向及びY軸方向に沿ってチャックテーブル4及び回転駆動機構を移動させることができる。
【0041】
保持面4aの上方には、レーザービーム照射ユニット6が設けられている。レーザービーム照射ユニット6は、レーザービーム発生ユニット8を有する。レーザービーム発生ユニット8は、レーザー発振器10を含む。
【0042】
レーザー発振器10は、例えば、レーザー媒質としてNd:YAG、Nd:YVO等を有する。レーザー発振器10からは、GaNのインゴット11を透過する波長(例えば、1064nm)を有するパルス状(例えば、数十MHz)のレーザービームLが出射する。
【0043】
レーザー発振器10から出射されたレーザービームLは、音響光学変調器(AOM:Acousto-Optic Modulator)12においてバーストモードのレーザービームLに変換される。
【0044】
音響光学変調器12は、音響光学変調器12に入力される電気信号に従って動作し、当該信号に従ってレーザービームLを所定の時間だけ偏向させる。これにより、レーザービームLが所定の時間だけ間引かれた状態のレーザービームLが、音響光学変調器12から出力調整ユニット14へ出射される。
【0045】
図4(A)は、レーザー発振器10から音響光学変調器12へ入射するパルス状のレーザービームLの概要図であり、図4(B)は、音響光学変調器12から出力調整ユニット14へ入射するパルス状のレーザービームLの概要図である。
【0046】
なお、図4(A)及び図4(B)において、横軸は時間を示し、縦軸は出力の大きさを示す。レーザービームLは、音響光学変調器12において、図4(B)に示す様に、複数のパルスを含むパルス群12aが所定の周期Tで繰り返されるバーストモードのレーザービームLに変換される。
【0047】
パルス群12a間の間隔に対応する時間間隔tは、例えば、数十μsから数百μsである。なお、パルス群12aを繰り返しの単位とするパルス群12a間の周期Tの逆数(即ち、繰り返し周波数)は、例えば、50kHzである。
【0048】
図3に戻って、レーザービームLは、その後、減衰器(アッテネータ)等を含む出力調整ユニット14により適切な出力に調整された後、分岐ユニット16で空間的に分岐される。
【0049】
本実施形態の分岐ユニット16は、LCOS-SLM(Liquid Crystal on Silicon - Spatial Light Modulator)(不図示)を有するが、LCOS-SLMに代えて、回折格子が用いられてもよい。
【0050】
分岐ユニット16を経たレーザービームLは、コリメータレンズ(不図示)、ミラー18等を経て、照射ヘッド20へと導かれる。照射ヘッド20は、集光レンズ(不図示)を有する。集光レンズは、保持面4aで吸引保持されたインゴット11の所定の深さ位置に、レーザービームLを集光させる。
【0051】
図3に示すレーザービームLは、分岐ユニット16により複数のレーザービームLC1、LC2、LC3、LC4及びLC5に分岐されており、レーザービームLC1からLC5の各々の集光点P(P、P、P、P、P)は、インゴット11の所定の深さ位置においてY軸方向に沿って並ぶ様に配置される。
【0052】
Y軸方向に沿って並ぶ複数の集光点Pの間隔は、例えば、5μm以上20μm以下の所定値に設定される。なお、図3に示す例では、説明の便宜上、レーザービームLの分岐数を5としているが、分岐数は5に限定されない。分岐数は、2以上16以下であってよく、好適な一例における分岐数は、10である。
【0053】
レーザービーム照射ユニット6の筐体(不図示)には、被写体を撮像する撮像ユニット(不図示)が設けられている。撮像ユニットは、Z軸方向に沿って下方に光を発する発光デバイス(不図示)を有する。
【0054】
発光デバイスは、光源として機能するLED(Light Emitting Diode)等の発光素子を含む。撮像ユニットは、発光デバイスから照射された光の反射光を、レンズ(不図示)を介して受光する撮像素子(不図示)を更に有する。発光デバイスからの光は、可視光線の波長を有する。
【0055】
撮像素子は、発光デバイスからの光の波長を光電変換可能である。撮像素子は、CCD(Charge-Coupled Device)イメージセンサ又はCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)イメージセンサ等である。発光デバイス、レンズ、撮像素子等は、可視光で被写体を撮像する顕微鏡カメラユニットを構成する。
【0056】
上述のチャックテーブル4、回転駆動機構、水平方向移動機構、レーザービーム照射ユニット6等の動作は、不図示の制御ユニットにより制御される。制御ユニットは、例えば、CPU(Central Processing Unit)に代表されるプロセッサ(処理装置)と、メモリ(記憶装置)と、を含むコンピュータによって構成されている。
【0057】
メモリは、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の主記憶装置と、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等の補助記憶装置と、を含む。
【0058】
補助記憶装置には、所定のプログラムを含むソフトウェアが記憶されている。このソフトウェアに従い処理装置等を動作させることによって、制御ユニットの機能が実現される。次に、図1に示す手順に従って、第1の実施形態に係るウェーハ15の製造方法について説明する。
【0059】
図5は、インゴット11の第2面11bを保持面4aで吸引保持する保持ステップS10を示す側面図である。保持ステップS10では、第2面11bが保持面4aに接し、第1面11aが上方に露出する態様で、インゴット11が保持面4aで吸引保持される。
【0060】
また、保持ステップS10では、吸引保持後に、撮像ユニットで第1面11a側を撮像することで、レーザー加工装置2のX軸方向に対する第1OF13aのズレを特定する。その後、このズレを打ち消す様に、回転駆動機構でチャックテーブル4を回転させることで、第1OF13aをX軸方向と略平行にする。
【0061】
保持ステップS10の後、第1面11aの上方(即ち、第2面11bとは反対側)から第1面11aに向かってバーストモードのレーザービームLを照射して、第1面11aから所定の深さ位置に分離層11dを形成する。
【0062】
図6は、分離層形成ステップS20を示す平面図である。なお、図6では、理解を容易にするために、複数の集光点Pの2つは比較的大きな丸で示されており、この2つの集光点Pの間に位置するいくつかの集光点は省略されている。
【0063】
分離層形成ステップS20では、インゴット11の所定の深さ位置11e(図3図8(A)参照)においてY軸方向に沿って並ぶ様に各集光点Pを配置した上で、複数の集光点Pと、インゴット11(即ち、チャックテーブル4)とを、相対的にX軸方向(所定方向)に沿って移動させる。
【0064】
本実施形態の分離層形成ステップS20では、複数の集光点Pを相対的に+X方向に移動させた後、複数の集光点Pを相対的に-X方向に移動させる。この様に、+X方向の移動と、-X方向の移動と、を交互に繰り返す。
【0065】
図6では、インゴット11中における複数の集光点Pの移動経路を破線矢印で示す。なお、複数の集光点Pを、+X方向及び-X方向に交互に移動させることに代えて、+X方向のみに移動させてもよく、-X方向のみに移動させてもよい。
【0066】
複数の集光点Pとインゴット11との相対的な移動方向がX軸方向に沿う場合、当該移動方向は、下記の(8)に示す結晶方位と平行になる。
【0067】
【数8】
【0068】
なお、(8)に示す2つの結晶方位は、下記の(9)に示す様に、六方晶の結晶構造を有するインゴット11において、6つの等価な結晶方位のうちの2つである。
【0069】
【数9】
【0070】
ところで、複数の集光点Pとインゴット11との相対的な移動方向は、(8)で特定される結晶方位と完全に平行でなくてもよく、c面(上述の(2)参照)において(8)で特定される結晶方位との間で形成される角度が5°以下であってもよい。この場合でも、分離層11dが形成されることを出願人は実験において確認している。
【0071】
分離層形成ステップS20で使用される加工条件の一例を下記に示す。
【0072】
波長 :1064nm
加工送り速度 :875mm/s
割り出し送り量 :106μm(即ち、インデックス量)
繰り返し周波数 :50kHz
バースト数 :10(パルス群12aに含まれるパルス数)
分岐数 :10(レーザービームLの分岐数)
パス数 :1
各集光点のスポット径:約5μm
集光点の深さ位置 :第1面11aから170μm
【0073】
なお、この加工条件において、10個の集光点において隣接する集光点の間隔は、例えば、12.5μmに設定される。また、10個の集光点Pが配置される場合、12.5μm×9の範囲にレーザービームLが照射されるので、Y軸方向に沿って配置された複数の集光点Pの照射は、112.5μmとなる(図7参照)。
【0074】
複数の集光点PをX軸方向に沿って相対的に移動させた場合、複数の集光点Pの移動の軌跡は、実線で示す第1移動領域22aに含まれる。複数の集光点PをX軸方向に沿って移動させた後、照射ヘッド20とチャックテーブル4とをY軸方向に沿って相対的に移動させることで、上述の所定のインデックス量だけ割り出し送りを行う。
【0075】
この状態で、複数の集光点Pを相対的にX軸方向に沿って同様に移動させる。割り出し送り後の複数の集光点Pの移動の軌跡は、破線で示す第2移動領域22b(図7参照)に含まれる。図7に示す様に、第1移動領域22aと、第2移動領域22bとは、第1面11aから見て重なり領域22cで部分的に重なる。
【0076】
図7は、第1移動領域22a及び第2移動領域22bの重なりを示す平面図である。上述の加工条件下では、Y軸方向における重なりの幅が6.5μmである。なお、この様な重なり領域22cは、第1面11aのY軸方向の端部に位置する2つの移動領域を除いて、各移動領域のY軸方向の両側に形成される。
【0077】
ところで、複数の集光点Pの各々の近傍では、多光子吸収によりインゴット11の結晶性が変化する。例えば、多光子吸収が生じた領域では、多光子吸収が生じていない領域に比べて機械的強度が低下した改質領域が形成される。
【0078】
加えて、改質領域からXY平面方向に沿って亀裂(クラック)が伸展する。なお、加工条件に依っては、クラックは改質領域からZ軸方向に沿って伸展することもある。本実施形態では、インゴット11内部において改質領域及びクラックが形成された領域を分離層11dと称する。
【0079】
分離層形成ステップS20の後、図8(A)及び図8(B)に示す様に分離装置32を用いて、インゴット11を、ウェーハ15と、他のインゴット17と、に分離する(分離ステップS30)。図8(A)を参照して、分離装置32について説明する。
【0080】
分離装置32は、上述のチャックテーブル4と略同径のチャックテーブル34を有する。チャックテーブル34の構造は、チャックテーブル4と略同じであり、チャックテーブル34の上面は、インゴット11を吸引保持する保持面34aとして機能する。チャックテーブル34の上方には、分離ユニット36が設けられている。
【0081】
分離ユニット36は、長手部がZ軸方向に沿って配置された円柱状の可動部38を有する。可動部38には、Z軸方向移動機構(不図示)が連結されており、可動部38は、Z軸方向に沿って移動可能である。Z軸方向移動機構は、例えば、ボールねじ式の移動機構であるが、他のアクチュエータで構成されてもよい。
【0082】
可動部38の底部には、円盤状の吸引ヘッド40が設けられている。吸引ヘッド40は、チャックテーブル34と同様に、枠体及び多孔質板を有する。枠体及び多孔質板の下面は、略面一且つXY平面と略平行に配置されており、保持面40aとして機能する。
【0083】
図8(A)は、分離ステップS30を示す図である。分離ステップS30では、分離層11dが形成されたインゴット11の第2面11bをチャックテーブル34の保持面34aで吸引保持すると共に、吸引ヘッド40の保持面40aで第1面11aを吸引保持する。
【0084】
次いで、インゴット11に外力を付与する。外力の付与は、例えば、インゴット11の側面に対して分離層11dの高さ位置に楔(不図示)を打ち込むことで行われる。楔はインゴット11側面の一箇所だけでなく、インゴット11の周方向に沿って複数箇所打ち込む方が好ましい。
【0085】
外力を付与することで、分離層11dが形成されている深さ位置11eにおいて、XY平面方向にクラックが更に延伸される。なお、楔の打ち込みに代えて、インゴット11に対して超音波(即ち、20kHzを超える周波数帯域の弾性振動波)を印加することで、外力を付与してもよい。
【0086】
超音波を印加する場合、吸引ヘッド40の保持面40aで第1面11aを吸引保持する前に、第1面11a側に純水等の液体を介して超音波を印加する。具体的には、超音波が印加された液体をノズルからインゴット11に噴射する、又は、液体を介してホーンから第1面11a側に超音波を印加する。
【0087】
なお、第1面11a側の全体に一度に外力を印加すると、好ましくない割れが発生することを出願人は実験において確認している。そこで、ノズル又はホーンを用いる場合、まず、第1面11a側における直径5mmから50mm程度の局所的な領域に、超音波を利用して外力を印加する。
【0088】
次いで、ノズル又はホーンと、チャックテーブル34と、を相対的に移動させることで、第1面11a側の他の領域に外力を印加する。この様に、外力を印加する領域を第1面11a側において徐々に広げることで、改質領域間のクラックを第1面11aに沿って伸展させることができる。
【0089】
外力の付与により、隣接する改質領域間でクラック同士がつながり、分離層11dの機械的強度は、インゴット11の分離層11d以外の領域に比べて更に弱くなる。それゆえ、外力を付与しない場合に比べて小さい力でインゴット11からウェーハ15を分離できる。
【0090】
外力を付与した後、吸引ヘッド40を上昇させる(即ち、+Z方向に移動させる)。これにより、分離層11dを起点にインゴット11からウェーハ15が分離される。図8(B)は、インゴット11から分離されたウェーハ15等を示す図である。なお、吸引ヘッド40の上昇と並行して、上述した外力の付与を行ってもよい。
【0091】
分離層11dは、厚さ方向11cにおいて50μmから60μm程度(例えば、58μm)の厚さを有し、この分離層11dの厚さが上述の切り代に対応する。インゴット11をレーザー加工することで、スライサを用いる場合に比べて、インゴット11の厚さ方向11cにおける切り代を低減できる。
【0092】
それゆえ、インゴット11からウェーハ15を製造する際のウェーハ15の生産性が向上する。なお、ワイヤーソーを用いた場合であっても、切り代は少なくとも150μm程度必要になる。それゆえ、本実施形態の製造方法は、ワイヤーソーを用いた場合と比べても優位である。
【0093】
なお、上述の例では、インゴット11の所定の深さ位置11eに複数の集光点Pを配置して分離層11dを形成することを説明したが、インゴット11に代えて、GaNの単結晶基板(被加工物)の所定の深さ位置に分離層11dを形成し、この単結晶基板からウェーハ15を分離することもできる。
【0094】
この場合、分離後のウェーハ15の厚さ(即ち、c軸方向の長さ)よりも厚いGaNの単結晶基板を用いればよい。つまり、ウェーハ15の厚さは、GaNの単結晶基板のc軸方向の両面(第1面及び第2面)間の距離未満の厚さとなる。
【0095】
(変形例)次に、分離層形成ステップS20の変形例について説明する。図9は、分離層形成ステップS20の変形例を示す図である。変形例に係る分離層形成ステップS20では、上述の加工送り速度での複数の集光点Pとインゴット11との相対的な移動が、X軸方向に沿う直線状ではなく、正六角形状である。係る点が、第1の実施形態と異なるが、他の点は、第1の実施形態と同じである。
【0096】
例えば下記の(10)、(11)、(12)、(13)、(14)及び(15)の順に複数の集光点Pを相対的に移動させる。この様な加工は、例えば、水平方向移動機構によりチャックテーブル4の直線的な移動と、回転駆動機構によるチャックテーブル4の回転と、を適宜組み合わせることで実現できる。
【0097】
【数10】
【0098】
【数11】
【0099】
【数12】
【0100】
【数13】
【0101】
【数14】
【0102】
【数15】
【0103】
1つの正六角形を描く様に複数の集光点Pを相対的に移動させた後、複数の集光点Pをインゴット11の径方向の中央側に上述の所定のインデックス量だけ移動させた上で、同様に、(10)から(15)の順に複数の集光点Pを相対的に移動させる。
【0104】
これにより、複数の集光点Pの移動領域は、図9に示す様に、同心状に配置された複数の正六角形状となる。なお、(9)に示す様に、(10)から(15)の全ては、(1)で示す結晶方位に含まれる。
【0105】
当該変形例では、レーザー加工の開始時に、(10)に示す方向に複数の集光点Pを移動させるが、複数の集光点Pを正六角形状に相対的に移動させることができれば、(10)から(15)のどの結晶方位からレーザー加工を開始してもよい。
【0106】
また、複数の集光点Pとインゴット11との相対的な移動方向は、(1)で特定される結晶方位と完全に平行でなくてもよく、c面において(1)で特定される結晶方位との間で形成される角度が5°以下であってもよい。
【0107】
例えば、(10)で特定される結晶方位に沿って複数の集光点Pとインゴット11とを相対的に移動させる場合に、この相対的な移動方向は、c面において(10)で特定される結晶方位との間で形成される角度を5°以下とすることも可能である。
【0108】
(11)から(15)で特定される結晶方位に沿って複数の集光点Pとインゴット11とを相対的に移動させる場合も同様である。なお、インゴット11に代えて、GaNの単結晶基板においても、同様に、当該変形例を適用できる。
【0109】
(第2の実施形態)次に、図10及び図11を参照し、第2の実施形態について説明する。図10は、第2の実施形態に係るウェーハ15の製造方法のフロー図であり、図11は、円環状加工ステップS15を示す平面図である。
【0110】
第2の実施形態に係る製造方法は、保持ステップS10の後、且つ、分離層形成ステップS20の前に、インゴット11の外周縁11fに沿って円環状にレーザービームLを照射する円環状加工ステップS15を更に備える。
【0111】
なお、本実施形態において、外周縁11fに沿って円環状にレーザービームLを照射するとは、第1OF13a及び第2OF13aの存在により欠けた第1面11aの縁が円形となる様に補完されたと見なした上で、第1面11aの円形の縁に沿う様にレーザービームLを照射することを意味する。
【0112】
円環状加工ステップS15でも、複数の集光点Pは、分離層形成ステップS20で分離層11dを形成するときと同じ所定の深さ位置11eに位置付けられる。円環状加工ステップS15では、まず、インゴット11の所定の深さ位置11eにおいてY軸方向に沿う様に複数の集光点Pを並べて配置する。
【0113】
なお、このとき、最も外側に位置する1つの集光点は、例えば外周縁11fから所定の距離24だけインゴット11の径方向の内側に位置する。所定の距離24は、例えば、4μm以上8μm以下であり、好適な一例は、5μm以上6μm以下である。
【0114】
この状態で、図11に示す矢印方向に、所定の回転速度でチャックテーブル4を1回転させる。1回転させた後、複数の集光点Pをインゴット11の径方向の内側に移動させる。具体的には、チャックテーブル4をY軸方向に沿って所定のインデックス量26だけ割り出し送りする。所定のインデックス量26は、例えば、106μmである。
【0115】
チャックテーブル4の所定の回転速度は、例えば、複数の集光点Pでの周速が上述の加工送り速度と略等しくなる様に適宜調整される。チャックテーブル4の所定の回転速度は、後述する好適なアスペクト比(b/a)を実現する様に調整されてもよい。
【0116】
この様にして円環状加工ステップS15では、インゴット11の外周領域28にも分離層11dを形成する。なお、図11では、チャックテーブル4を3回転させて3つの環状の分離層11dを同心円状に形成する例を示すが、回転数は3に限定されない。
【0117】
他の加工条件(波長、繰り返し周波数、バースト数、分岐数、パス数、各集光点のスポット径、集光点の深さ位置)は、例えば、第1の実施形態と同じとする。これにより、円環状加工ステップS15の後、スムーズに分離層形成ステップS20を実行できる。
【0118】
分離層形成ステップS20において、分離層11dが形成されると、Ga原子とN原子との結合が切り離されてN(窒素分子)となり、窒素ガスが生じる。
【0119】
仮に、円環状加工ステップS15を経て外周領域28に分離層11dが形成されていない場合、分離層形成ステップS20において形成された窒素ガスにより、インゴット11の径方向の内側に異常な体積膨張領域が形成される可能性がある。
【0120】
第2の実施形態では、外周領域28に形成された分離層11dが、分離層形成ステップS20でインゴット11の径方向の内側に生じる窒素ガスをインゴット11外に逃がすパスとして機能する。
【0121】
それゆえ、インゴット11の径方向の内側での異常な体積膨張を抑制できる。また、外周領域28に分離層11dを形成することで、望ましくない方向(例えば、c軸方向)へのクラックの伸展を抑制すると共に、インゴット11のc面における外側へのクラックの伸展を促進できる。
【0122】
(実験例)次に、分離層形成ステップS20において、隣接する集光点の間隔と、加工送り速度と、を変えた場合の実験結果を、図12から図15を用いて説明する。実験例では、上述のレーザー加工装置2を用いて、GaNの単結晶基板を加工した。
【0123】
波長、繰り返し周波数、バースト数、パス数、各集光点のスポット径、集光点の深さ位置、及び、集光点の間隔は、第1の実施形態と同じとしたが、加工送り速度(mm/s)及びパルスエネルギー(μJ)は、適宜変更した。
【0124】
但し、図12に示す単結晶基板の加工時には、レーザービームLの分岐数を6とし、図14及び図15に示す単結晶基板の加工時には、レーザービームLの分岐数を10とした。
【0125】
また、図12、14及び図15の各々に示す単結晶基板の加工時には、割り出し送り量を112.5μmとし、並列的な3つの直線状領域にレーザー加工を施した。但し、重なり領域22c(図7参照)を形成しない様にレーザー加工を施した。
【0126】
図12は、改質領域11h間に十分なクラックが形成されなかった単結晶基板の写真である。当該写真は、レーザー加工後の単結晶基板の第1面11a側を可視光カメラで撮影することで得た。なお、後述する図14及び図15の写真も同様に、可視光カメラで撮影することで得た。
【0127】
図12に示す画像の中心部を横方向に横切る直線は、撮像視野の中心を横切る様に表示する参照線30である。帯状の直線状領域11gは、(1)で示す結晶方位に沿ってレーザー加工が施された領域である。
【0128】
当該画像において、黒丸で表示されている領域には、改質領域11hが形成されており、改質領域11h間の明るい領域には、クラック11iが形成されている。
【0129】
図13は、複数の改質領域11hを模式的に示す図である。距離aは、Y軸方向に沿って並んだ複数の改質領域11h同士の間隔(Y軸方向に沿って並んだ複数の集光点P同士の間隔に対応する)であり、単位はμmである。
【0130】
また、距離bは、X軸方向に沿って並んだ複数の改質領域11h同士の間隔(X軸方向に沿って並んだ複数の集光点P同士の間隔に対応する)であり、単位はμmである。距離bは、加工送り速度(即ち、複数の集光点Pとインゴット11との相対的な移動速度)及び繰り返し周波数に応じて定まる。
【0131】
実験によると、(b/a)で表されるアスペクト比に応じて、加工の良否が決まることが明らかになった。具体的には、アスペクト比(b/a)が3.0を超えると改質領域11h同士が離れるので、図12に示す様にXY平面方向に十分にクラック11iが伸展しない。
【0132】
また、アスペクト比(b/a)が0.5未満となると、改質領域11h同士が近づき図14に示す様にXY平面方向にクラック11iが比較的十分に伸展するが、Z軸方向に比較的大きなクラック11jが形成される。
【0133】
図14は、c軸方向に比較的大きなクラック11iが形成された単結晶基板の写真である。なお、クラック11iは、Z軸方向(深さ方向)に延伸しており、図14に示す写真では、焦点が合わず輪郭ややぼやけている。
【0134】
これに対して、アスペクト比(b/a)が0.5以上3.0以下である場合、XY平面方向にクラック11iを比較的十分に伸展させ、且つ、Z軸方向に比較的大きなクラック11iが形成されることを防止できる。
【0135】
図15は、改質領域11h間に十分にクラック11iが伸展し、且つ、Z軸方向に比較的大きなクラック11iが形成されなかった単結晶基板の写真である。なお、アスペクト比(b/a)は、0.8以上2.5以下であってもよく、1.0以上1.4以下であってもよい。
【0136】
上述の実施形態、変形例、及び、実験結果に従うと、レーザー加工装置2を用いて被加工物に分離層11dを形成することで、スライサを用いる場合に比べて被加工物の厚さ方向における切り代を低減できる。
【0137】
その他、上述の実施形態等に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0138】
2:レーザー加工装置、4:チャックテーブル、4a:保持面
6:レーザービーム照射ユニット、8:レーザービーム発生ユニット
10:レーザー発振器、12:音響光学変調器、12a:パルス群
11:インゴット(被加工物)、11a:第1面、11b:第2面、11c:厚さ方向
11d:分離層、11e:深さ位置、11f:外周縁
11g:直線状領域、11h:改質領域、11i、11j:クラック
13a:第1側面、13b:第2側面
第1オリエンテーションフラット(第1OF):13a
第2オリエンテーションフラット(第2OF):13a
14:出力調整ユニット、16:分岐ユニット、18:ミラー、20:照射ヘッド
15:ウェーハ、17:他のインゴット
22a:第1移動領域、22b:第2移動領域、22c:重なり領域
24:距離、26:インデックス量、28:外周領域、30:参照線
32:分離装置、34:チャックテーブル、34a:保持面
36:分離ユニット、38:可動部、40:吸引ヘッド、40a:保持面
、L、L、LC1、LC2、LC3、LC4、LC5:レーザービーム
P、P、P、P、P、P:集光点
S10:保持ステップ、S15:円環状加工ステップ
S20:分離層形成ステップ、S30:分離ステップ
a、b:距離、t:時間間隔、T:周期
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15