(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181803
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドのメンテナンス装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20231218BHJP
B41J 2/14 20060101ALN20231218BHJP
【FI】
B41J2/165 401
B41J2/165 101
B41J2/14 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095147
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100127111
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 修一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 謙太
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA14
2C056EC07
2C056EC22
2C056EC38
2C056FA04
2C056FA10
2C056HA05
2C056JA21
2C056JB04
2C056JB15
2C057AG15
2C057AM16
2C057AN01
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】ノズル詰まりから高速に復帰可能な液体吐出ヘッドのメンテナンス装置。
【解決手段】内部に配置された圧電素子の収縮によって液滴を吐出する複数のノズルが配列されたノズル列を有する液体吐出ヘッドと、ノズル列が形成されたノズル形成面を覆うように液体吐出ヘッドに着脱可能なキャップ部材と、ノズル形成面と、キャップ部材とによって囲まれた空間に充填された洗浄液に振動を付与する振動付与手段と、キャップ部材が液体吐出ヘッドに装着され洗浄液が充填された状態で、振動付与手段を制御して洗浄液を振動させてノズルの洗浄を行うメンテナンス手段と、を有し、振動付与手段は空間に充填された洗浄液をノズルを介して液体吐出ヘッド内に引き込むように動作させることを特徴とする液体吐出ヘッドのメンテナンス装置。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に配置された圧電素子の収縮によって液滴を吐出する複数のノズルが配列されたノズル列を有する液体吐出ヘッドと、
前記ノズル列が形成されたノズル形成面を覆うように前記液体吐出ヘッドに着脱可能なキャップ部材と、
前記ノズル形成面と、前記キャップ部材とによって囲まれた空間に充填された洗浄液に振動を付与する振動付与手段と、
前記キャップ部材が前記液体吐出ヘッドに装着され前記洗浄液が充填された状態で、前記振動付与手段を制御して前記洗浄液を振動させて前記ノズルの洗浄を行うメンテナンス手段と、を有し、
前記振動付与手段は前記空間に充填された前記洗浄液を前記ノズルを介して前記液体吐出ヘッド内に引き込むように動作させることを特徴とする液体吐出ヘッドのメンテナンス装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドのメンテナンス装置であって、
前記振動付与手段は、異なる駆動波形を組み合わせて前記圧電素子を振動させることを特徴とする液体吐出ヘッドのメンテナンス装置。
【請求項3】
内部に配置された圧電素子の収縮によって液滴を吐出する複数のノズルが配列されたノズル列を有する液体吐出ヘッドと、
前記ノズル列が形成されたノズル形成面を覆うように前記液体吐出ヘッドに着脱可能なキャップ部材と、
前記ノズル形成面と、前記キャップ部材とによって囲まれた空間に充填された洗浄液に振動を付与する振動付与手段と、
前記キャップ部材が前記液体吐出ヘッドに装着され前記洗浄液が充填された状態で、前記振動付与手段を制御して前記洗浄液を振動させて前記ノズルの洗浄を行うメンテナンス手段と、を有し、
前記振動付与手段は、前記洗浄液を循環させるように動作させることを特徴とする液体吐出ヘッドのメンテナンス装置。
【請求項4】
請求項3に記載の液体吐出ヘッドのメンテナンス装置であって、
前記振動付与手段は、前記ノズル列において互いに隣接するノズルで逆方向の駆動波形を前記圧電素子に印加することで前記洗浄液を循環させるように動作することを特徴とする液体吐出ヘッドのメンテナンス装置。
【請求項5】
請求項3に記載の液体吐出ヘッドのメンテナンス装置であって、
前記振動付与手段は、前記ノズル列において所定範囲内の複数のノズルを1まとまりとするノズル群を同一の駆動波形で制御するとともに、前記ノズル群と隣接する他のノズル群において前記駆動波形とは逆方向の駆動波形で制御することで前記洗浄液を循環させるように動作する液体吐出ヘッドのメンテナンス装置。
【請求項6】
請求項3乃至5の何れか1つに記載の液体吐出ヘッドのメンテナンス装置であって、
前記振動付与手段は、前記洗浄液の循環方向を所定の条件によって切り替えるように制御することを特徴とする液体吐出ヘッドのメンテナンス装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は液体吐出ヘッドのメンテナンス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクジェットプリンター等の液体を記録媒体に吐出することで画像を表示する画像形成装置が知られている。また、このようなインクジェットプリンターには、インクを液滴として吐出するための液体吐出ヘッドが備えられている。
【0003】
このような液体吐出ヘッドにおいて、液体吐出ヘッドのノズルの目詰まりによる吐出不良が生じることが知られており、液体吐出ヘッドのノズル面を洗浄液等の液体に浸漬させてこのような目詰まりを防止するメンテナンス装置あるいはメンテナンス方法が知られていた(例えば特許文献1~3等参照)。
このような吐出ヘッドのノズルの目詰まりは、多くはインク内の顔料の沈降によって生じることが多く、インクの攪拌や循環によって沈降を防ぐとともに再分散させることで抑制できることが知られている。
しかしながら、特に産業領域のインクジェットプリンターでは、フィルムや有色素材に印刷する際の色再現性の向上のための白インクや、光沢感を持たせるシルバーインクのように沈降しやすい顔料(例えば酸化チタン等)が用いられることが多く、一般的なブラック、シアン、マゼンタ、イエローのCMYK系の顔料に比較して沈殿して固まるケーキングと呼ばれる現象が生じやすい。
このようなケーキングが生じると、再分散は難しく、インクジェットプリンターに標準的に設けられている通常のメンテナンス動作での回復は困難である。
【0004】
特に、ケーキングが液体吐出ヘッド内部で生じたときには、ヘッド内の流路やノズルが詰まり、正常に印刷できなくなるため、液体吐出ヘッドの交換作業を要することとなり、ダウンタイムが生じてしまうこととなる他、交換費用の増大等、コスト増加が懸念される。
そこで、こうしたケーキングに対しても復旧可能なメンテナンス装置として、液体吐出ヘッドのノズル形成面をインクとは異なる洗浄液に浸漬させ、洗浄液とインクとの濃度差による拡散現象を利用して洗浄するメンテナンス方法が考案されているが、復旧までに長時間を要するという課題も生じていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる技術的課題に対してなされたものであり、通常のメンテナンス動作では正常吐出まで回復できない液体吐出ヘッドのノズル詰まりを短期間で解消するためのメンテナンス装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の液体吐出ヘッドのメンテナンス装置は、内部に配置された圧電素子の収縮によって液滴を吐出する複数のノズルが配列されたノズル列を有する液体吐出ヘッドと、前記ノズル列が形成されたノズル形成面を覆うように前記液体吐出ヘッドに着脱可能なキャップ部材と、前記ノズル形成面と、前記キャップ部材とによって囲まれた空間に充填された洗浄液に振動を付与する振動付与手段と、前記キャップ部材が前記液体吐出ヘッドに装着され前記洗浄液が充填された状態で、前記振動付与手段を制御して前記洗浄液を振動させて前記ノズルの洗浄を行うメンテナンス手段と、を有し、前記振動付与手段は前記空間に充填された前記洗浄液を前記ノズルを介して前記液体吐出ヘッド内に引き込むように動作させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、通常のメンテナンス動作では正常吐出まで回復できない液体吐出ヘッドのノズル詰まりを短期間で解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】制御装置の機能攻勢を示すブロック図である。
【
図3】液体吐出ヘッドの構成の一例を示す図である。
【
図4】
図3に示した液体吐出ヘッドの内部構成の一例を示す図である。
【
図5】液体吐出ヘッドに用いられるインクの沈殿について示す図である。
【
図6】メンテナンス装置を用いたヘッドのメンテナンス動作の一例を示す図である。
【
図7】液体吐出ヘッドの浸漬法によるメンテナンス動作の参考例を示す図である。
【
図8】本実施形態における液体吐出ヘッドのメンテナンス中の駆動方法の一例を示す図である。
【
図10】隣接するノズルを逆方向に動作させることで洗浄液を循環する駆動方法の一例を示す図である。
【
図11】
図10で示した駆動方法の制御信号の一例を示す図である。
【
図12】
図10で示した駆動方法の他の制御の一例を示す図である。
【
図13】複数のノズルを1まとまりのノズル群として扱う場合の制御の一例を示す図である。
【
図14】循環方向を逆転させる際の制御の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施形態について図面を用いて順次説明する。実施形態において、同一機能や同一構成を有するものには同一の符号を付し、重複説明は適宜省略する。図面は一部構成の理解を助けるために部分的に省略あるいは簡素化して記載する場合もある。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態として適用可能な液体吐出ヘッドを備える画像形成装置100の構成の一例を示す図である。なお、本実施形態では画像形成装置100としてシリアル型のインクジェット記録装置を説明するが、かかる構成に限定されるものではない。
画像形成装置100は、所謂インクジェットプリンターとして機能し、搬送ベルト12上に載置されて移動する記録媒体である用紙Pに対して、キャリッジ3が主走査方向であるX方向に移動可能なように主ガイド部材1によって保持されている。
【0011】
ここで「用紙」としたが、材質は紙に限定されるものではなく、OHP、布、ガラス、基板を含んで良く、インク滴その他の液体吐出ヘッドから吐出される液滴が付着可能な記録媒体であればよい。また画像形成、記録、印字、印写、印刷は同義語としても良く、画像形成装置が行う「画像形成」は、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に付与することだけではなく、パターンのような意味を持たない画像を媒体に付与することや、単に液滴を媒体上に塗布することも含む。
また、「インク」は一般的にインクと称されるものの他、記録液、定着処理液を含む、画像形成可能な全ての液体の総称としてインクとして取り扱う。こうした所謂インク以外の例としては例えばDNA試料、レジスト、パターン材料、樹脂が含まれる。
また、「画像」とは平面上に形成されたものに限らず、液滴をもって立体的に形成されたものや、立体的に形成されたものに付与された画像をも含んで良い。
【0012】
画像形成装置100はまた、キャリッジ3をX方向へと移動させるための駆動源たる主走査モータ5と、駆動プーリ6と従動プーリ7との間に巻きかけられたタイミングベルト8と、を有しており、主走査モータ5の回転によってキャリッジ3がX方向に移動する。
【0013】
画像形成装置100は、キャリッジ3に取り付けられてキャリッジ3と一体に動作する液体吐出ヘッドである記録ヘッド4を有している。こうした記録ヘッド4は、例えばイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)のYMCK各色のインク滴を吐出可能なインクヘッドであり、色に合わせて複数設けられて良い。なお、
図1においてはキャリッジ3に対して複数の記録ヘッド4a、4bが設けられている構成について示している。
【0014】
画像形成装置100のキャリッジ3の主走査方向の一方側、
図1における+X方向側には、搬送ベルト12の側方に記録ヘッド4の維持回復を行うためのメンテナンス装置として維持回復機構20が設けられている。
また、他方側である-X方向側には、記録ヘッド4からの空吐出を行う際に、記録ヘッド4から吐出されるインクQを受ける空吐出受け27が配置されている。
【0015】
また、画像形成装置100は、キャリッジ3の主走査方向に沿って、所定のパターンを形成したエンコーダスケール23と、キャリッジ3に取り付けられてエンコーダスケール23のパターンを読み取る透過型フォトセンサであるエンコーダセンサ24と、を有している。かかるエンコーダスケール23とエンコーダセンサ24とはリニアエンコーダとして主走査エンコーダを構成する。このような主走査エンコーダによって画像形成装置100は、キャリッジ3の主走査方向における位置を検知する。
【0016】
搬送ベルト12は、主走査方向と直行する副走査方向、すなわち
図1におけるY方向に、用紙Pを移動可能なように載置された搬送手段であって、ベルトガイド13と、ベルトガイド13の軸に取り付けられたプーリ18と、プーリ18と副走査モータ16とに巻きかけられたベルト17と、によって、Y方向に用紙Pを移動可能である。
このとき、エンコーダセンサ26が、所定のパターンを形成したエンコーダスケール25を読み取ることによって、副走査方向においても、副走査エンコーダを構成していて、副走査エンコーダによって画像形成装置100は、副走査方向における用紙Pの位置を検知可能である。
【0017】
画像形成装置100は、上述の各部の制御を行うための制御部500を有している。
制御部500は、
図2にそのブロック図を示すように、制御部500及び画像形成装置100全体の制御を司るCPU501と、CPU501が実行するプログラム、その他の固定データを格納するROM502と、画像データなどを一時格納するRAM503と、を有している。
制御部500は、PC等の上位装置600との間でデータの転送を行うためのホストI/F506と、記録ヘッド4を駆動制御する画像出力制御部511と、エンコーダセンサ24、26からの検出信号を基に主走査エンコーダと副走査エンコーダとを制御するエンコーダ解析部512と、を有している。
制御部500は、主走査モータ5を駆動する主走査モータ駆動部513と、副走査モータ16を駆動する副走査モータ駆動部514と、各種センサ及びアクチュエータ517との間のI/O516と、を有している。
【0018】
画像出力制御部511は、印刷データを生成するデータ生成手段、記録ヘッド4を駆動制御するための駆動波形を出力する駆動波形発生手段、駆動波形から所要の駆動信号を選択するためのヘッド制御信号及び印刷データを転送するデータ転送手段等を備えている。
画像出力制御部511は、これらの各手段によって生成された各出力データ(駆動波形、ヘッド制御信号、印刷データ)を記録ヘッド4を駆動制御するためのヘッド駆動回路であるヘッドドライバ510に出力することで、記録ヘッド4から吐出される液滴を制御して印刷データに応じた画像が印刷されることとなる。
【0019】
本実施形態のキャリッジ3には、2つの記録ヘッド4が搭載されている。記録ヘッド4は、
図3に示すように、複数のノズル48が所定の間隔で並べられた2つのノズル列Na、Nbを有している。
本実施形態においては、特に
図3において左側に示した記録ヘッド4aのうち一方のノズル列Naはブラック(K)の液滴を、他方のノズル列Nbはシアン(C)の液滴を吐出する。また、
図3において右側に示した記録ヘッド4bのうち一方のノズル列Naはマゼンタ(M)の液滴を、他方のノズル列Nbはイエロー(Y)の液滴を、それぞれ吐出する。このような色分けは、かかる組み合わせに限定されるものではなく、例えば1つの記録ヘッド4に4列のノズル列を設けるとしても良いし、2つ以上のノズル列で同色の液滴を吐出することとしても良い。
【0020】
記録ヘッド4は、本実施形態においてはかかるノズル列Na、Nbをそれぞれ異なる駆動波形によって駆動されるノズル群として扱う。
このような記録ヘッド4の内部構造について
図4に示す。
図4から明らかなように、記録ヘッド4は、その内部にインクQを格納可能なヘッドタンク41と、ヘッドタンク41からノズル48のそれぞれに向かって伸びた供給流路43の途上に設けられた共通液室42と、を有している。換言すると、共通液室42から、開口部であるノズル48に向かう複数の供給流路43が延びている。
また、記録ヘッド4は、供給流路43の壁面を振動板44を介して押圧することで、供給流路43の体積を変動させて内部のインクQを吐出させるための振動付与機構である圧電素子45を有している。
圧電素子45は、電圧の印加によって収縮する圧電アクチュエータであり、ヘッドドライバ510からの電気信号に基づいて収縮あるいは伸長し、振動板44を移動させることで供給流路43の壁面位置が変動し、もって供給流路43の体積を変動させる。
【0021】
図4は、記録ヘッド4に形成された複数のノズル48のうち1つに着目し、圧電素子45を含むその断面構造について説明するための図である。なお、上図において破線で示した供給流路43の拡大図が下図である。
図4に示すように、供給流路43の終端には開口部としてノズル48がそれぞれに設けられており、供給流路43を流れるインクQは、圧電素子45の動作に従ってノズル48から排出される。
本実施形態においては、1つのノズル48に対し1つの圧電素子45を設ける態様として示したが、かかる構成に限定されるものではなく、複数のノズルが1つの供給流路43に形成され、1つの圧電素子45の動作により複数のノズルからインクQが吐出される構成であっても良い。
【0022】
さて、インクQに白インクやシルバーインクなどの沈降する比重の大きい顔料成分を用いる場合には、ケーキングと呼ばれる沈殿現象が生じることが知られている。
図5の左図に示すように、インクQにおいては、インクQ中の顔料60が、十分に攪拌されて一様に分布した状態が理想的な使用状態である。しかしながら、液中においては時間経過とともに顔料60の成分の比重に応じて沈殿が生じ、
図5の右図に示すように、インクQ内の顔料60が沈降し、底面に堆積して固まる現象が生じてしまう場合がある。
このようにインクQ中の顔料60が沈殿し、自然に固まってしまった状態をケーキングと呼称している。
【0023】
通常、こうした沈殿が生じた場合にも軽度であればインクQを再度攪拌することで、また
図5の左図のような攪拌直後の状態に戻すことが可能である。そのため、インクジェット式の画像形成装置において、定期的にユーザーがインクQを内蔵するカートリッジを振動させることでカートリッジ内のインクQを攪拌させて沈降を防いだり、記録ヘッド4の内部のインクQを攪拌あるいは排出や循環させることで沈降を防ぐメンテナンス方法が、広く行われていた。
しかしながら、一度顔料60が固まってしまうと、再分散が困難であり、攪拌したとしても一様に分布した状態を作り出すことが難しくなることもまた知られており、このようなケーキング現象を予防あるいはケーキング現象から復帰する方法が強く求められていた。
【0024】
さて、こうしたケーキングがノズル48の近辺、
図6に示すように液体吐出ヘッド内、例えば供給流路43内部にて発生してしまった場合には、ケーキングした顔料60によって、供給流路43が塞がれてしまうので、ノズル48からのインクQの吐出が行えず、通常のメンテナンス方法での回復が困難である。
このように狭い供給流路43に顔料60が堆積した場合には、正常な状態に戻すために記録ヘッド4の交換作業が必要となる場合も多い。また、マシンエラーが生じたとしてもユーザーがすぐに対応することの難しい長期休暇中等にマシンエラーが生じたときにもケーキングは発生しやすく、さらにノズル48の詰まりが発生すると正常な印刷が困難になり、ダウンタイムが生じてユーザーの不利益を生じてしまう。
【0025】
そこで、本発明では、通常のメンテナンス動作では正常吐出まで回復できない液体吐出ヘッドのノズル詰まりを短期間で解消するため、記録ヘッド4のメンテナンス装置である維持回復機構20を設けている。
また、維持回復機構20に記録ヘッド4を移動させるとともに、制御部500は記録ヘッド4の制御を行うことで、顔料60のケーキングを解消してノズル48の詰まりを解消するメンテナンス手段として機能する。
かかる維持回復機構20の動作について、
図6を用いて説明する。
【0026】
まず、維持回復機構20は、
図6(a)に示すように洗浄液Rを保持するとともに記録ヘッド4のノズル面47を覆うように着脱可能なキャップ部材21と、キャップ部材21を支持するバネ部材22と、
図1で示すようなノズル面47を払拭するワイパ部材27と、を有している。
キャップ部材21は、
図6(b)に示すように、洗浄液Rが充填されたときに洗浄液Rを保持することができるように、上部が解放された箱状になっており、記録ヘッド4のノズル面47に取り付けられることで、ノズル48に対して洗浄液Rを浸潤させることができる。
バネ部材22は、キャップ部材21を上方に付勢するとともに、後述する圧電素子45の振動を緩衝することができる。
洗浄液Rは、本実施形態ではインクQとは異なる液体であって、インクQよりも濃度が薄く、濃度差による拡散現象によってケーキングの拡散がより進行するような液体が好ましい。
【0027】
従来、
図7に示すように、同様のキャップ部材210を用いてノズル面211を洗浄液Rに浸し、長時間放置することで洗浄液Rの拡散現象によって徐々に記録ヘッド内のケーキングを除去し、ノズル詰まりを回復させるメンテナンス方法が知られていた。
しかしながら、単にキャップ部材210をノズル面211に取り付けて洗浄液Rを浸漬する方法では、拡散させきるまでには数時間~数週間かかる場合があり、
図7(b)に示すようにケーキングを解消するまでには長時間放置させる必要があった。
これは、インクQが充填されている記録ヘッド内において、ケーキングが生じた位置に到達するまで洗浄液Rが置換されていくのにかかる時間と、洗浄液Rが拡散作用によってケーキングを解消するまでの時間とが必要なためである。
このような洗浄液RとインクQとの置換を高速化するためには、他にも記録ヘッド内部のインクQを全吐出させる空吐出等も考えられているものの、何れにせよ長時間を要してしまっていた。
【0028】
そこで、本実施形態では、
図6(c)に示すように、洗浄液Rに浸漬した状態でさらにヘッドドライバ510が圧電素子45を駆動させることで、ケーキングしてしまった顔料60に振動を付与し、拡散を促進するとともに、ノズル48の内部へ向かって洗浄液Rを送り込むように動作させることで、供給流路43内部においてインクQと洗浄液Rとの置換を加速して、従来の空吐出や浸漬法によるノズルクリーニング方式よりも高速に正常吐出を回復することができる(
図6(d))。
【0029】
図8に具体的な記録ヘッド4の圧電素子45に対する駆動電圧波形と、かかる電圧波形によって生じるノズル48断面での液面の変化の典型的な例を示す。
なお、かかる振動は、例えばインクQの吐出の際にも同様の波形で同様の液面の変動が得られている。
駆動電圧が低く、圧電素子45がニュートラルな初期状態においては、インクQは供給流路43内部の圧力に従ってノズル48に対してメニスカス形状に引っ込んだ状態を維持している。なお、かかる初期状態においてもインクQと洗浄液Rとは互いの濃度差によって混合しあうが、本実施形態では図示のために一定の界面が存在するかのように示している。
ここで、圧電素子45の印加電圧を向上すると、圧電素子45が伸長して供給流路43内の圧力が上昇し、インクQがノズル48から吐出される。
言い換えると、インクQと洗浄液Rとの界面は下方へと移動する。
さらに、電圧印加を元の状態に戻すと、圧電素子45が収縮して供給流路43の容積が広がることでインクQと洗浄液Rとの界面は上方へと移動する。このとき、印加される電圧は初期状態と同値であっても、インクQが吐出された分だけ供給流路43内部の圧力は減少しており、初期状態に比較して洗浄液Rが進入しやすくなっているので、初期状態よりも界面が上昇した状態で維持される。なお、このとき実際にはノズル48の近辺では、洗浄液Rだけではなく洗浄液Rと吐出されたインクQとの混合液が充填されているはずである。
【0030】
ヘッドドライバ510は、記録ヘッド4が維持回復機構20に取り付けられた状態において、このような圧電素子45への電圧印加を繰り返すことで、キャップ部材21に充填された洗浄液Rを振動させ、拡散効果を加速する。
さらにこのとき、インクQと洗浄液Rとの界面が上下動することによって、攪拌のような作用も生じて、さらに洗浄液Rがノズル48内部に進入して供給流路43内部におけるインクQの希釈・洗浄液Rへの置換が進むこととなる。
このように、制御部500を構成するヘッドドライバ510は一定の駆動波形を与えることで、圧電素子45に所定の振動を与え、圧電素子45は充填された洗浄液Rをノズル48を介して記録ヘッド4内に引き込むように動作させる。
このように、ヘッドドライバ510は、本実施形態において圧電素子45を駆動することでキャップ部材21とノズル面47との間に生じた空間に充填された洗浄液Rに振動を付加する振動付与手段として機能する。
【0031】
さて、
図8においては説明の簡素化のため、ヘッドドライバ510が圧電素子45を駆動する駆動電圧は一定の振幅・一定の周期で動作する波形で示したが、かかる振動によって洗浄液RとインクQとの混合を誘発するためには、界面の上下動をランダムにし、攪拌効果をより促進することも考えられる。
そこで、
図9に示すようにヘッドドライバ510が圧電素子45に与える駆動電圧は、複数の周期や振幅の異なる駆動波形を組み合わせて1つの駆動波形とし、圧電素子45にランダムな振動をさせることとしても良い。また、ここでいう「ランダム」とは周期性がないものの他、振幅が様々に変動するものを含み、また乱流の発生する時間間隔に対して十分に長期であって圧電素子45の動作時間において周期性を持たないとみなせる程度の長周期の振動を含んでも良い。また、一定時間あるいは一定回数、特定の周波数または特定の周期の波形で駆動した後、異なる周波数または異なる特定の周期で一定時間あるいは一定回数駆動する構成を含んでも良い。
このような構成とすれば、供給流路43内部の圧力変動もランダムになることで記録ヘッド4内部において乱流が発生し、記録ヘッド4内の液体(インクQと洗浄液Rとの混合液)の攪拌効率が向上することで、メンテナンス性能がさらに向上する効果がある。
【0032】
次に、ヘッドドライバ510が、洗浄液Rを循環させるように圧電素子45を動作させる構成について説明する。
図10に示すように、本実施形態では、ノズル面47に供給流路43及び共通液室42を介して互いに接続された複数のノズル48を有している。
ここでは連結された2つのノズル48について、一方を排出側ノズル48A、他方を吸入側ノズル48Bとして区別して説明する。同様に、それぞれの供給流路43を供給流路43A、43Bとし、各供給流路43A、43Bに設けられた圧電素子45A、45Bとして示している。
【0033】
本実施形態では、説明の簡単化を目的として、排出側ノズル48Aと吸入側ノズル48Bとは同一のノズル列Naにあって互いに隣接したノズルであるとして説明するが、以降に述べるような循環を実現可能であるならば離間した2つのノズルを利用しても良い。
【0034】
図10、
図11に、ヘッドドライバ510による排出側ノズル48Aの駆動電圧VAと、吸入側ノズル48Bの駆動電圧VBと、をそれぞれ示す。
図10に矢印で示すように、駆動電圧VAが正の方向に上昇すると、圧電素子45Aが伸長して供給流路43Aの圧力が上昇し、排出側ノズル48AからインクQが排出される方向へと変動する。
同時に、ヘッドドライバ510が駆動電圧VBを低下させると、圧電素子45Bは収縮して、吸入側ノズル48Bに洗浄液Rが流れ込む方向に移動する。
【0035】
ヘッドドライバ510は、このような駆動電圧VAによる排出側ノズル48AからのインクQの排出と、吸入側ノズル48Bへの洗浄液Rの流入とを同時に行うことで、圧電素子45A、45Bによる振動の付与の他、
図10に矢印Cで示すような循環方向の流れを生じさせて洗浄液RとインクQとの置換をさらに促進する。
このように、ヘッドドライバ510は、ノズル列Naにおいて互いに隣接する排出側ノズル48Aと吸入側ノズル48Bとで逆方向の駆動波形を印加することで洗浄液Rを循環させるように動作する。
【0036】
なお、ここで言う「逆方向の駆動波形」とは、
図11に示す駆動電圧VAと駆動電圧VBとの比較から明らかなように、時間軸について互いに逆向きの波形を例示したが、かかる構成や形状に限定されるものではない。
例えば
図11に破線で示したように、時刻t1、t2で区切られた任意の区間において、駆動電圧VAの傾きと駆動電圧VBの傾きとが互いに絶対値が等しく符号が正負逆符号であれば、排出側ノズル48AにおいてはインクQを排出するように、吸入側ノズル48Bにおいては洗浄液Rを吸入するように動作する。このことから、洗浄液Rを循環させるためには破線で示された一定の区間内において、圧電素子45Aと圧電素子45Bとが互いに逆方向の変化をするように駆動電圧を変動させれば良いと言える。
【0037】
また、周期性を備えた駆動電圧VA、VBを用いる場合には、
図12に示すように駆動電圧VAと駆動電圧VBとは互いに逆位相であることがより好ましい。
このような構成とすれば、連続する圧電素子45A、45Bの振動に合わせてかかる循環が生じるので、洗浄液RとインクQとの置換がより促進されるためである。
【0038】
また、
図13に示したように、ノズル列NAを構成するノズルのうち、ノズル列NAにおいて所定範囲内の複数のノズルを1まとまりのノズル群とし、同一の駆動電圧VAで制御するとともに、ノズル群と隣接する他のノズル群においては駆動電圧VAとは逆方向の駆動電圧VBで制御することで洗浄液Rを循環させるように動作するとしても良い。
このように、複数のノズル48を1つのノズル群46として扱うこととすれば、互いに隣接するノズル群46同士に備えられた圧電素子45が逆方向に変動するように駆動電圧Vを調整することで、
図10で示したのと同様の循環が、複数のノズル48間で生じることとなる。
【0039】
かかる構成とすれば、複数のノズル48を含むノズル群46に対して互いに同時に吸入あるいは排出の動きをさせることができて、記録ヘッド4内において複数の循環流が生じて、洗浄液RとインクQとの攪拌をより効率的に行うことができるので、メンテナンスの高速化に寄与する。
【0040】
これらノズル群46の組み合わせは任意であり、例えばノズル列の中央で範囲を2分するとしても良いし、より多くの複数範囲に分割してそれぞれに異なる駆動波形を入力しても良い。
また、キャップ部材21に保持された洗浄液Rと記録ヘッド4内のインクQの循環を効率的に行える波形であれば、駆動電圧の波形も自由に設定されて構わない。
【0041】
さらに、上述した循環させるような駆動電圧を印加することに加えて、ヘッドドライバ510は、かかる駆動電圧VA、VBを所定の時間経過後に循環方向が逆方向となるように、駆動電圧VA、VBの正負を途中で入れ替えることとしても良い。
このように動作させる場合には、区間t1~t2で示す最初の動作ではインクQの排出動作を行っていた排出側ノズル48Aが、区間t3~t4で示す逆転区間では洗浄液Rの吸入を行うこととなる。また、吸入側ノズル48Bについても同様に、区間t1~t2においては吸入動作を行い、区間t3~t4では排出動作を行うこととなる。
【0042】
このように、上述の構成に加えて所定時間経過後に循環方向が逆転するような構成とすれば、循環方向が逆転する際に大きな乱流が生じやすく、かかる乱流によってケーキングをさらに効率よく解消することができる。
【0043】
<1>
本実施形態におけるメンテナンス装置である維持回復機構20は、内部に配置された圧電素子45の収縮によって液滴を吐出する複数のノズル48が配列されたノズル列Na、Nbを有する記録ヘッド4と、ノズル列Na、Nbが形成されたノズル形成面47を覆うように記録ヘッド4に着脱可能なキャップ部材21と、ノズル形成面47と、キャップ部材21とによって囲まれた空間に充填された洗浄液Rに振動を付与するヘッドドライバ510と、キャップ部材21が記録ヘッド4に装着され洗浄液Rが充填された状態で、ヘッドドライバ510を制御して洗浄液Rを振動させてノズル48の洗浄を行うメンテナンス手段として機能する制御部500と、を有し、ヘッドドライバ510は前記空間に充填された洗浄液Rをノズル48を介して記録ヘッド4内に引き込むように動作させることを特徴とする。
かかる構成によれば、液体吐出ヘッドのノズル詰まりを短期間で解消することができる。
【0044】
<2>
本実施形態における維持回復機構20は、<1>で述べた構成に加えて、ヘッドドライバ510は、異なる駆動波形を組み合わせて圧電素子45を振動させることを特徴とする。
かかる構成によれば、ランダムな波形によって振動が生じるから、ケーキングをより早く除去できて液体吐出ヘッドのノズル詰まりを短期間で解消することができる。
【0045】
<3>
本実施形態における維持回復機構20は、内部に配置された圧電素子45の収縮によって液滴を吐出する複数のノズル48が配列されたノズル列Na、Nbを有する記録ヘッド4と、ノズル列Na、Nbが形成されたノズル形成面47を覆うように記録ヘッド4に着脱可能なキャップ部材21と、ノズル形成面47と、キャップ部材21とによって囲まれた空間に充填された洗浄液Rに振動を付与するヘッドドライバ510と、キャップ部材21が記録ヘッド4に装着され洗浄液Rが充填された状態で、ヘッドドライバ510を制御して洗浄液Rを振動させてノズル48の洗浄を行うメンテナンス手段として機能する制御部500と、を有し、ヘッドドライバ510は、洗浄液Rを循環させるように動作させる。
かかる構成によれば、液体吐出ヘッドのノズル詰まりを短期間で解消することができる。
【0046】
<4>
本実施形態における維持回復機構20は、<3>で述べた構成に加えて、ヘッドドライバ510は、ノズル列Na、Nbにおいて互いに隣接するノズル48で逆方向の駆動波形を圧電素子45に印加することで洗浄液Rを循環させるように動作することを特徴とする。
かかる構成によれば、隣り合うノズル間で洗浄液Rが循環するように流れて、洗浄液RとインクQとの置換が促進されて液体吐出ヘッドのノズル詰まりを短期間で解消することができる。
【0047】
<5>
本実施形態における維持回復機構20は、<3>で述べた構成に加えて、ヘッドドライバ510は、ノズル列Na、Nbにおいて所定範囲内の複数のノズルを1まとまりとするノズル群46を同一の駆動波形で制御するとともに、ノズル群46と隣接する他のノズル群において前記駆動波形とは逆方向の駆動波形で制御することで洗浄液Rを循環させるように動作する。
かかる構成によれば、隣り合うノズル群の間で洗浄液Rが循環するように流れて、洗浄液RとインクQとの置換が促進されて液体吐出ヘッドのノズル詰まりを短期間で解消することができる。
【0048】
<6>
本実施形態における維持回復機構20は、<3>乃至<5>で述べた構成に加えて、ヘッドドライバ510は、洗浄液Rの循環方向を所定の条件によって切り替えるように制御する。
かかる構成によれば、洗浄液RとインクQとの置換が促進されて液体吐出ヘッドのノズル詰まりを短期間で解消することができることに加え、循環方向が変化するときにより大きな乱流が生じるので、さらにケーキングの除去を高速に行うことができる。
【0049】
この発明の実施の形態に記載された効果は、発明から生じる好適な効果を列挙したに過ぎず、発明による効果は「実施の形態に記載されたもの」に限定されるものではない。
また、ヘッドドライバ510は、上記のいくつかの制御の中から組み合わせて圧電素子45の動作を制御し、記録ヘッド4のメンテナンスを行っても良い。
【符号の説明】
【0050】
1…主ガイド部材
4…液体吐出ヘッド
20…メンテナンス装置(維持回復機構)
21…キャップ部材
45…圧電素子
46…ノズル群
47…ノズル形成面
48…ノズル
100…画像形成装置
500…制御装置(メンテナンス手段)
510…振動付与手段(ヘッドドライバ)
C…循環方向
Na,Nb…ノズル列
R…洗浄液
【先行技術文献】
【特許文献】
【0051】
【特許文献1】特許第6314632号公報
【特許文献2】特許第5698567号公報
【特許文献3】特開2020-026129号公報