(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181877
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】液位制御装置、移動体、液位制御方法及び液位制御プログラム
(51)【国際特許分類】
G21F 3/00 20060101AFI20231218BHJP
B64G 1/66 20060101ALI20231218BHJP
B64G 1/16 20060101ALI20231218BHJP
B64G 1/54 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
G21F3/00 E
G21F3/00 Z
B64G1/66 B
B64G1/16
B64G1/54 600
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095252
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 昂太郎
(57)【要約】
【課題】軽量な構造で機器を放射線から防護することができる液位制御装置、移動体、液位制御方法及び液位制御プログラムを得ること。
【解決手段】液位制御装置10は、放射線の飛来方向に関する情報を受け付ける受付部と、受け付けた飛来方向に関する情報に基づいて、機器16の周囲に設けられかつ液体を格納可能な複数のタンク20、22、24、26のうち機器16に対して飛来方向に位置するタンクの液位が上がるように複数のタンク20、22、24、26の液位を制御する液位制御部と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の飛来方向に関する情報を受け付ける受付部と、
受け付けた前記飛来方向に関する情報に基づいて、機器の周囲に設けられかつ液体を格納可能な複数のタンクのうち前記機器に対して前記飛来方向に位置するタンクの液位が上がるように前記複数のタンクの液位を制御する液位制御部と、
を有する液位制御装置。
【請求項2】
前記液位制御部は、配管で相互に連通された前記複数のタンクのうち前記飛来方向に位置するタンクへ他のタンクから液体を移送する処理を行う、
請求項1に記載の液位制御装置。
【請求項3】
前記受付部は、前記複数のタンクの液位に関する情報をさらに受け付け、
前記液位制御部は、前記複数のタンクのうち、前記機器に対して前記飛来方向に位置するタンクの液位が基準液位以上の場合には、前記複数のタンクに格納された前記液体を移動させず、前記機器に対して前記飛来方向に位置するタンクの液位が基準液位よりも少ない場合には、前記複数のタンクのうち前記飛来方向に位置するタンクへ他のタンクから液体を移送する処理を行う、
請求項2に記載の液位制御装置。
【請求項4】
前記液位制御部は、前記機器に対して前記飛来方向に位置するタンクが複数存在する場合には、前記飛来方向に位置する少なくとも一つのタンクへ液体を移送する処理を行う、
請求項3に記載の液位制御装置。
【請求項5】
前記液位制御部は、前記飛来方向に位置する複数のタンクのうち、前記機器に対してより広範囲に前記放射線を遮蔽可能なタンクに優先して前記液体を移送する処理を行う、
請求項4に記載の液位制御装置。
【請求項6】
前記液位制御部は、前記飛来方向に位置する複数のタンクの全ての液位が基準液位以上になるように液体を移送する処理を行う、
請求項4に記載の液位制御装置。
【請求項7】
請求項1~請求項6の何れか一項に記載された液位制御装置と、
前記機器と、
前記複数のタンクと、
を有する移動体。
【請求項8】
請求項3~請求項6の何れか一項に記載された液位制御装置と、
前記飛来方向を検出可能な方向センサと、
前記機器と、
前記複数のタンクと、
前記複数のタンクの液位をそれぞれ検出可能な液位センサと、
前記配管とポンプとを含んで構成され、前記複数のタンク間で前記液体を移送可能な液体移送装置と、
を有する移動体。
【請求項9】
前記複数のタンクは、前記機器が複数搭載された室において、少なくとも前記複数の機器に対して前記放射線が飛来する可能性のある方向の端部に設けられている、
請求項8に記載の移動体。
【請求項10】
前記室は、乗員を搭載可能に構成されている、
請求項9に記載の移動体。
【請求項11】
前記複数のタンクのうち、少なくとも一つのタンクは、前記液体を前記タンクの外部へ排出可能な排出部を備えている、
請求項10に記載の移動体。
【請求項12】
月面を走行するローバとされている、
請求項11に記載の移動体。
【請求項13】
月極域を走行するローバとされ、
前記複数のタンクは、ローバ前側の端部に配設された前側タンクと、ローバ後側の端部に配設された後側タンクと、ローバ幅方向左側の端部に配設された左側タンクと、ローバ幅方向右側の端部に配設された右側タンクと、を含んで構成されている、
請求項12に記載の移動体。
【請求項14】
放射線の飛来方向に関する情報を受け付け、
受け付けた前記飛来方向に関する情報に基づいて、機器の周囲に設けられかつ液体を格納可能な複数のタンクのうち前記機器に対して前記飛来方向に位置するタンクの液位が上がるように前記複数のタンクの液位を制御する
処理をコンピュータが実行する液位制御方法。
【請求項15】
放射線の飛来方向に関する情報を受け付け、
受け付けた前記飛来方向に関する情報に基づいて、機器の周囲に設けられかつ液体を格納可能な複数のタンクのうち前記機器に対して前記飛来方向に位置するタンクの液位が上がるように前記複数のタンクの液位を制御する
処理をコンピュータに実行させる液位制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液位制御装置、移動体、液位制御方法及び液位制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、原子力発電所で重大事故が発生した場合に、機器を放射線から防護する放射線遮蔽冷却システムが開示されている。この放射線遮蔽冷却システムにおいて、機器は、水密容器の内部空間に配置されている。重大事故が発生すると、この水密容器に冷却水が供給されることで、機器を放射線から防護する構成とされている。この放射線遮蔽冷却システムにおいて、機器は全方位を水で囲まれる構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、月面における太陽光からの放射線量は、地上における太陽光からの放射線量よりも多いことが知られている。このため、月面を走行するローバに搭載される機器には、耐放射線性又は防護が要求される。
【0005】
しかしながら、鉛等の遮蔽物質を機器の周囲に常設する構成や、上記特許文献1に記載された技術のように、機器の全方位を囲う一つの容器に水を満たす構成は、ローバの重量化を招く。月面を走行するローバは、その質量が打ち上げコストやミッション成立性に直結するため、上記特許文献1に記載された放射線遮蔽システムは、質量において改善の余地がある。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、軽量な構造で機器を放射線から防護することができる液位制御装置、移動体、液位制御方法及び液位制御プログラムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る液位制御装置は、放射線の飛来方向に関する情報を受け付ける受付部と、受け付けた前記飛来方向に関する情報に基づいて、機器の周囲に設けられかつ液体を格納可能な複数のタンクのうち前記機器に対して前記飛来方向に位置するタンクの液位が上がるように前記複数のタンクの液位を制御する液位制御部と、を有する。
【0008】
請求項1に記載の本発明によれば、受付部によって、放射線の飛来方向に関する情報が受け付けられる。そして、この飛来方向に関する情報を基に、液位制御部によって、機器の周囲に設けられた複数のタンクの液位が制御される。
【0009】
ここで、複数のタンクの液位は、機器に対して飛来方向に位置するタンクの液位が上がるように制御される。放射線は、タンク内の液体によって遮蔽されるため、機器に対して飛来方向に位置するタンクの液位が上昇することにより、機器に対する放射線の遮蔽性が高められる。このように、機器の周囲に設けられた複数のタンクの液位を制御することにより、随時放射線の飛来方向に対して選択的に遮蔽性を高めることができるため、常に機器の全方位を遮蔽する構造と比較して、軽量な構造で機器を放射線から防護することができる。
【0010】
請求項2に係る液位制御装置は、請求項1に記載の発明において、前記液位制御部は、配管で相互に連通された前記複数のタンクのうち前記飛来方向に位置するタンクへ他のタンクから液体を移送する処理を行う。
【0011】
請求項2に記載の本発明によれば、配管で相互に連通された複数のタンクのうち飛来方向に位置するタンクへ他のタンクから液体が移送される。つまり、複数のタンク間で液体が移送されるため、別のタンクから複数のタンクそれぞれへ液体を供給する構成と比較して、簡素な構成で機器を放射線から防護することができる。
【0012】
請求項3に係る液位制御装置は、請求項2に記載の発明において、前記受付部は、前記複数のタンクの液位に関する情報をさらに受け付け、前記液位制御部は、前記複数のタンクのうち、前記機器に対して前記飛来方向に位置するタンクの液位が基準液位以上の場合には、前記複数のタンクに格納された前記液体を移動させず、前記機器に対して前記飛来方向に位置するタンクの液位が基準液位よりも少ない場合には、前記複数のタンクのうち前記飛来方向に位置するタンクへ他のタンクから液体を移送する処理を行う。
【0013】
請求項3に記載の本発明によれば、受付部によって、複数のタンクの液位に関する情報が受け付けられる。機器に対して飛来方向に位置するタンクの液位が基準液位以上の場合には、複数のタンクに格納された液体は移動されない。一方、機器に対して飛来方向に位置するタンクの液位が基準液位よりも少ない場合には、他のタンクから配管を通って飛来方向に位置するタンクへ液体が移送される。ただし、基準液位とは、機器の大きさや機器とタンクとの位置関係等を考慮して、所定の防護効果を得るために予め設定された任意の液位のことを指すものとする。本発明によれば、所定の防護効果を得るために飛来方向に位置するタンクの液体が不足している場合にのみ、このタンクに液体が移送される。よって、移送にかかるエネルギ消費が抑制される。
【0014】
請求項4に係る液位制御装置は、請求項3に記載の発明において、前記液位制御部は、前記機器に対して前記飛来方向に位置するタンクが複数存在する場合には、前記飛来方向に位置する少なくとも一つのタンクへ液体を移送する処理を行う。
【0015】
請求項4に記載の本発明によれば、飛来方向に位置する複数のタンクのうち、少なくとも一つのタンクに液体が移送される。これにより、複数のタンクに跨る方向から放射線が飛来した場合であっても、放射線を減衰させることができる。
【0016】
請求項5に係る液位制御装置は、請求項4に記載の発明において、前記液位制御部は、前記飛来方向に位置する複数のタンクのうち、前記機器に対してより広範囲に前記放射線を遮蔽可能なタンクに優先して前記液体を移送する処理を行う。
【0017】
請求項5に記載の本発明によれば、飛来方向に位置する複数のタンクのうち、機器に対してより広範囲に放射線を遮蔽可能なタンクに優先して液体が移送される。よって、早期に効率よく機器を放射線から防護することができる。また、液体が不足した場合であっても、最適な液体の配置によって、効率よく機器を防護することができる。
【0018】
請求項6に係る液位制御装置は、請求項4に記載の発明において、前記液位制御部は、前記飛来方向に位置する複数のタンクの全ての液位が基準液位以上になるように液体を移送する処理を行う。
【0019】
請求項6に記載の本発明によれば、飛来方向に位置する複数のタンクの液位が全て基準以上であれば、液体は移動されず、飛来方向に位置する複数のタンクのうち少なくとも一つのタンクの液位が基準液位よりも少ない場合には、この基準液位よりも少ない液位のタンクに液体が移送され、飛来方向に位置する全てのタンクの液位が基準水位以上となる。よって、機器に対する遮蔽性がより一層向上される。
【0020】
請求項7に係る移動体は、請求項1~請求項6の何れか一項に記載された液位制御装置と、前記機器と、前記複数のタンクと、を有する。
【0021】
請求項7に記載の本発明によれば、機器の周囲には、液体を格納可能な複数のタンクが設けられている。まず、液位制御装置の受付部によって、放射線の飛来方向に関する情報が受け付けられる。そして、この飛来方向に関する情報を基に、液位制御装置の液位制御部によって、機器の周囲に設けられた複数のタンクの液位が制御される。
【0022】
ここで、複数のタンクの液位は、機器に対して飛来方向に位置するタンクの液位が上がるように制御される。放射線は、タンク内の液体によって遮蔽されるため、飛来方向に位置するタンクの液位が上昇することにより、機器に対する放射線の遮蔽性が高められる。
【0023】
このように、機器の周囲に設けられた複数のタンクの液位を制御することにより、随時放射線の飛来方向に対して選択的に遮蔽性を高めることができるため、常に機器の全方位を遮蔽する構造と比較して、軽量な構造で機器を放射線から防護することができる。
【0024】
請求項8に係る移動体は、請求項3~請求項6の何れか一項に記載された液位制御装置と、前記飛来方向を検出可能な方向センサと、前記機器と、前記複数のタンクと、前記複数のタンクの液位をそれぞれ検出可能な液位センサと、前記配管とポンプとを含んで構成され、前記複数のタンク間で前記液体を移送可能な液体移送装置と、を有する。
【0025】
請求項8に記載の本発明によれば、方向センサによって、放射線の飛来方向が検出される。また、液位センサによって、複数のタンクの液位がそれぞれ検出される。そして、液位制御装置の受付部によって、これらの放射線の飛来方向に関する情報及び複数のタンクの液位に関する情報が受け付けられる。
【0026】
機器に対して飛来方向に位置するタンクの液位が基準液位以上の場合には、複数のタンクに格納された液体は移動されない。一方、機器に対して飛来方向に位置するタンクの液位が基準液位よりも少ない場合には、配管とポンプとを備えた液体移送装置によって他のタンクから飛来方向に位置するタンクへ液体が移送される。本発明によれば、所定の防護効果を得るために飛来方向に位置するタンクの液体が不足している場合にのみ、このタンクに液体が移送される。よって、エネルギ消費を抑えることができる。また、複数のタンク間で液体が移送されるため、別のタンクから複数のタンクそれぞれへ液体を供給する構成と比較して、簡素な構成で機器を放射線から防護することができる。
【0027】
請求項9に係る移動体は、請求項8に記載の発明において、前記複数のタンクは、前記複数の機器が搭載された室において、少なくとも前記機器に対して前記放射線が飛来する可能性のある方向の端部に設けられている。
【0028】
請求項9に記載の本発明によれば、複数のタンクは、室において放射線が飛来する可能性のある方向の端部に設けられているため、この方向から飛来してきた放射線は、複数のタンクによって遮蔽され、室内空間への侵入が抑制される。よって、例えば室内に複数の機器を搭載した場合であっても、それぞれの機器に遮蔽部材又は遮蔽装置を設ける必要がなく、複数の機器を一括で防護できる。
【0029】
請求項10に係る移動体は、請求項9に記載の発明において、前記室は、乗員を搭載可能に構成されている。
【0030】
請求項10に記載の本発明によれば、室において放射線が飛来する可能性のある方向の端部に複数のタンクが設けられているため、複数のタンクによって放射線が遮蔽され、室内にいる乗員を放射線から防護することができる。
【0031】
請求項11に係る移動体は、請求項10に記載の発明において、前記複数のタンクのうち、少なくとも一つのタンクは、前記液体を前記タンクの外部へ排出可能な排出部を備えている。
【0032】
請求項11に記載の本発明によれば、液体移送装置を用いて排出部が設けられたタンクへ液体を移送することにより、複数のタンクに格納された液体を排出部から排出することができる。これにより、複数のタンクに格納された液体を放射線遮蔽以外の用途に活用することができる。
【0033】
請求項12に係る移動体は、請求項11に記載の発明において、月面を走行するローバとされている。
【0034】
請求項12に記載の本発明によれば、ローバに搭載された複数のタンクに液体が格納されている。月面における太陽光からの放射線量は、地上における太陽光からの放射線量よりも多いため、月面を走行するローバに搭載される機器には、耐放射線性又は防護が要求される。また、月面を走行するローバは、その質量が打ち上げコストやミッション成立性に直結する。本発明によれば、機器の周囲に設けられた複数のタンクの液位を制御することにより、随時放射線の飛来方向に対して選択的に遮蔽性を高めることができる。このため、常に機器の全方位を遮蔽する構造と比較して、軽量な構造で機器を放射線から防護することができる。さらに、例えばタンクに水を格納する場合、乗員の生活用水として活用することができる。よって、月面探査のミッションにおける打ち上げコストを低減しかつミッション成立性を向上させることができる。
【0035】
請求項13に係る移動体は、請求項12に記載の発明において、月極域を走行するローバとされ、前記複数のタンクは、ローバ前側の端部に配設された前側タンクと、ローバ後側の端部に配設された後側タンクと、ローバ幅方向左側の端部に配設された左側タンクと、ローバ幅方向右側の端部に配設された右側タンクと、を含んで構成されている。
【0036】
請求項13に記載の本発明によれば、ローバ前方から飛来する放射線は、ローバ前側の端部に配設された前側タンクによって遮蔽される。また、ローバ後方から飛来する放射線は、ローバ後側の端部に配設された後側タンクによって遮蔽される。さらに、ローバ幅方向の左側から飛来する放射線は、左側タンクによって遮蔽される。さらにまた、ローバ幅方向の右側から飛来する放射線は、右側タンクによって遮蔽される。
【0037】
月極域では、太陽高が低いため、放射線はローバに対して常に水平方向から入射する。よって、ローバの前後左右方向にそれぞれタンクを配設して各液位を制御することにより、ローバの太陽光に対する向きが変化しても、常に何れかのタンクによって放射線が遮蔽される。したがって、機器の全方位にタンクを設ける構造と比較して、軽量な構造で機器を防護することができる。
【0038】
請求項14に係る液位制御方法は、放射線の飛来方向に関する情報を受け付け、受け付けた前記飛来方向に関する情報に基づいて、機器の周囲に設けられかつ液体を格納可能な複数のタンクのうち前記機器に対して前記飛来方向に位置するタンクの液位が上がるように前記複数のタンクの液位を制御する処理をコンピュータが実行する。
【0039】
請求項14に記載の本発明によれば、放射線の飛来方向に関する情報が受け付けられる。そして、この飛来方向に関する情報を基に、機器の周囲に設けられた複数のタンクの液位が制御される。ここで、複数のタンクの液位は、機器に対して飛来方向に位置するタンクの液位が上がるように制御される。放射線は、タンク内の液体によって遮蔽されるため、飛来方向に位置するタンクの液位が上昇することにより、機器に対する放射線の遮蔽性が高められる。このように、機器の周囲に設けられた複数のタンクの液位を制御することにより、随時放射線の飛来方向に対して選択的に遮蔽性を高めることができるため、常に機器の全方位を遮蔽する構造と比較して、軽量な構造で機器を放射線から防護することができる。
【0040】
請求項15に係る液位制御プログラムは、放射線の飛来方向に関する情報を受け付け、受け付けた前記飛来方向に関する情報に基づいて、機器の周囲に設けられかつ液体を格納可能な複数のタンクのうち前記機器に対して前記飛来方向に位置するタンクの液位が上がるように前記複数のタンクの液位を制御する処理をコンピュータに実行させる。
【0041】
請求項15に記載の本発明によれば、放射線の飛来方向に関する情報が受け付けられる。そして、この飛来方向に関する情報を基に、機器の周囲に設けられた複数のタンクの液位が制御される。ここで、複数のタンクの液位は、機器に対して飛来方向に位置するタンクの液位が上がるように制御される。放射線は、タンク内の液体によって遮蔽されるため、飛来方向に位置するタンクの液位が上昇することにより、機器に対する放射線の遮蔽性が高められる。このように、機器の周囲に設けられた複数のタンクの液位を制御することにより、随時放射線の飛来方向に対して選択的に遮蔽性を高めることができるため、常に機器の全方位を遮蔽する構造と比較して、軽量な構造で機器を放射線から防護することができる。
【発明の効果】
【0042】
以上説明したように、請求項1に記載の本発明に係る液位制御装置は、軽量な構造で機器を放射線から防護することができるという優れた効果を有する。
【0043】
請求項2に記載の本発明に係る液位制御装置は、より一層軽量な構造で機器を防護することができるという優れた効果を有する。
【0044】
請求項3に記載の本発明に係る液位制御装置は、効率よく機器を防護することができるという優れた効果を有する。
【0045】
請求項4に記載の本発明に係る液位制御装置は、複数のタンクに跨る方向から放射線が飛来した場合であっても、放射線を減衰させることができるという優れた効果を有する。
【0046】
請求項5に記載の本発明に係る液位制御装置は、より一層効率よく機器を防護することができるという優れた効果を有する。
【0047】
請求項6に記載の本発明に係る液位制御装置は、機器に対する遮蔽性をより一層向上させることができるという優れた効果を有する。
【0048】
請求項7に記載の本発明に係る移動体は、移動体に搭載された機器を軽量な構造で放射線から防護することができるという優れた効果を有する。
【0049】
請求項8に記載の本発明に係る移動体は、簡素な構成で効率よく機器を防護することができるという優れた効果を有する。
【0050】
請求項9に記載の本発明に係る移動体は、室内を広く遮蔽することができるという優れた効果を有する。
【0051】
請求項10に記載の本発明に係る移動体は、乗員を放射線から防護することができるという優れた効果を有する。
【0052】
請求項11に記載の本発明に係る移動体は、液体を放射線遮蔽以外の用途に活用することができるという優れた効果を有する。
【0053】
請求項12に記載の本発明に係る移動体は、月面探査のミッションにおける打ち上げコストを低減しかつミッション成立性を向上させることができるという優れた効果を有する。
【0054】
請求項13に記載の本発明に係る移動体は、月面探査のミッションにおける打ち上げコストをより一層低減しかつミッション成立性をより一層向上させることができるという優れた効果を有する。
【0055】
請求項14に記載の本発明に係る液位制御方法は、軽量な構造で機器を放射線から防護することができるという優れた効果を有する。
【0056】
請求項15に記載の本発明に係る液位制御プログラムは、軽量な構造で機器を放射線から防護することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】本実施形態に係る液位制御装置が搭載されたローバの内部におけるタンク及び機器の配置を示す平面概略図である。
【
図2】
図1に示される液位制御装置を含んで構成された液位制御システムのハードウエア構成を示すブロック図である。
【
図3】
図1に示される液位制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】
図2に示されるCPUが実行する放射線抑制処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図1に示されるローバの前方側から太陽光が入射する場合について説明する図である。
図5(A)は、太陽光に対するローバの向きを示す図である。
図5(B)は、
図1のX-X線で切断した断面をローバ後方側から見た断面図であり、
図5(A)に示される場合の水の移送について説明する図である。
【
図6】
図1に示されるローバの左側から太陽光が入射する場合について説明する図である。
図6(A)は、太陽光に対するローバの向きを示す図である。
図6(B)は、
図1のY-Y線で切断した断面をローバの右側から見た断面図であり、
図6(A)に示される場合の水の移送について説明する図である。
【
図7】
図1に示されるローバの左前方側から太陽光が入射する場合について説明する図である。
図7(A)は、
図1のX-X線で切断した断面をローバ後方側から見た断面図である。
図7(B)は、
図1のY-Y線で切断した断面をローバの右側から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、
図1~
図7を用いて、本発明の一実施形態に係る液位制御装置10を含む液位制御システム12が搭載されたローバ14について説明する。なお、各図に適宜示される矢印FR、矢印UP、矢印LH、矢印RHは、それぞれローバ14の前方側、上方側、左右方向(幅方向)左側及び左右方向(幅方向)右側を示している。また、以下の説明で特記なく前後、上下、左右、内外の方向を用いる場合は、ローバ前後方向の前後、ローバ上下方向の上下、ローバ左右方向(幅方向)の左右及びローバの室内外をそれぞれ示すものとする。以下、ローバ14の全体構成について説明した後、液位制御装置10について詳述する。
【0059】
〔ローバ14の全体構成〕
図1には、本実施形態に係る液位制御装置10が搭載された移動体としてのローバ14の概略平面図が示されている。ローバ14は、月M(
図5(A)参照)の極域P(以下、「月極域P」と称す。)の探査ミッションにおいて使用される有人の月面与圧ローバとされている。
【0060】
ローバ14は、幅方向中央部かつ前後方向中央部に、2つの機器としての半導体機器16を備えている。なお、半導体機器16の数及び配置は上記に限定されるものではない。
【0061】
ローバ14は、乗員としてのクルー(図示省略)を搭載可能な室18を備えている。ローバ14の室18の内部において、前端部には前側タンク20が配設されており、後端部には後側タンク22が配設されている。また、室18の内部において、左端部には左側タンク24が配設されており、右端部には右側タンク26が配設されている。
【0062】
前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26は、それぞれ水W(
図5(B)参照)を格納可能な略直方体状の容器とされている。前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26の少なくとも一つのタンクには、水Wが格納されている。水Wは、ローバ14のクルー(図示省略)の生活用水とされている。
【0063】
前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26は、半導体機器16を囲うように平面視で略矩形状に並んで配設されている。より詳細には、前側タンク20は、室18の前壁部18Aに沿って幅方向及び上下方向に延設されている。後側タンク22は、室18の後壁部18Bに沿って幅方向及び上下方向に延設されている。左側タンク24は、室18の左壁部18Cに沿って前後方向及び上下方向に延設されている。右側タンク26は、室18の右壁部18Dに沿って前後方向及び上下方向に延設されている。
【0064】
前側タンク20は、水W(
図5(B)参照)を前側タンク20から排出可能な排出部30を備えている。なお、排出部30は、前側タンク20に限らず、後側タンク22、左側タンク24又は右側タンク26に設けられていてもよい。また、排出部30は、複数設けられていてもよい。例えば、前側タンク20に複数設けられていてもよい。また、例えば、前側タンク20及び後側タンク22にそれぞれ設けられていてもよい。
【0065】
前側タンク20と左側タンク24とは、一対の液体移送装置32によって接続されている。一対の液体移送装置32のうち、一方の液体移送装置32は、前側タンク20から左側タンク24へ水W(
図5(B)参照)を移送可能に構成されており、他方の液体移送装置32は、左側タンク24から前側タンク20へ水Wを移送可能に構成されている。
【0066】
同様に、前側タンク20と右側タンク26とは、一対の液体移送装置32によって接続されている。この一対の液体移送装置32のうち、一方の液体移送装置32は、前側タンク20から右側タンク26へ水Wを移送可能に構成されており、他方の液体移送装置32は、右側タンク26から前側タンク20へ水Wを移送可能に構成されている。
【0067】
また同様に、後側タンク22と左側タンク24とは、一対の液体移送装置32によって接続されている。この一対の液体移送装置32のうち、一方の液体移送装置32は、後側タンク22から左側タンク24へ水Wを移送可能に構成されており、他方の液体移送装置32は、左側タンク24から後側タンク22へ水Wを移送可能に構成されている。
【0068】
さらに同様に、後側タンク22と右側タンク26とは、一対の液体移送装置32によって接続されている。この一対の液体移送装置32のうち、一方の液体移送装置32は、後側タンク22から右側タンク26へ水Wを移送可能に構成されており、他方の液体移送装置32は、右側タンク26から後側タンク22へ水Wを移送可能に構成されている。なお、隣接するタンク同士が一対の液体移送装置32で接続された構成に限らず、例えば前側タンク20と後側タンク22とが一対の液体移送装置32によって接続されていてもよい。また、液体移送装置32は一対に限らず、例えば双方向に液体を移送可能な一つの装置で構成されていてもよい。
【0069】
各液体移送装置32は、水W(
図5(B)参照)を汲み上げ可能なポンプ34と、水Wが流通される配管36と、バルブ(図示省略)とを含んで構成されている。前側タンク20と左側タンク24、前側タンク20と右側タンク26、後側タンク22と左側タンク24、後側タンク22と右側タンク26とは、それぞれ各配管36によって連通されている。なお、液体移送装置の構成については、上記に限定されるものではない。
【0070】
また、前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26には、それぞれ格納された水Wの水位を検知可能な液位センサとしての水位センサ38が設けられている。
【0071】
さらに、ローバ14の前壁部18A、後壁部18B、左壁部18C及び右壁部18Dの室外側には、それぞれ方向センサとしての太陽センサ40が設けられている。太陽センサ40は、太陽光の強度及び飛来方向を検出可能なセンサとされている。ローバ14は、室外側の4面にそれぞれ太陽センサ40を備えており、これにより、太陽光の飛来方向を検知可能に構成されている。なお、方向センサは上記のような太陽センサ40に限らず、放射線の飛来方向を検知可能に構成されていればよい。
【0072】
(液位制御装置10)
ローバ14は、前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26の各水位を制御する液位制御装置10を備えている。まず、
図2を用いて、液位制御装置10を含んで構成される液位制御システム12のハードウエア構成について簡単に説明する。
【0073】
液位制御装置10は、CPU(Central Processing Unit)42、ROM(Read-Only Memory)44、RAM(Random Access Memory)46、ストレージ48及び入出力I/F(入出力インタフェース)50を含んで構成されている。各構成は、バス52を介して互いに通信可能に接続されている。
【0074】
CPU42は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU42は、ROM44又はストレージ48からプログラムを読み出し、RAM46を作業領域としてプログラムを実行する。CPU42は、ROM44又はストレージ48に記録されているプログラムに従って、上記各構成の制御および各種の演算処理を行う。
【0075】
ROM44は、各種プログラムおよび各種データを格納する。RAM46は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ48は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)により構成され、各種プログラム及び各種データを格納する。
【0076】
入出力I/F50は、太陽センサ40、水位センサ38及び液体移送装置32と電気的に接続されている。
【0077】
図3に示されるように、液位制御装置10は、機能構成として、受付部60、タンク特定部62、水位判定部64及び水位制御部66を含んで構成されている。なお、各機能構成は、CPU42がROM44に記憶された液位制御プログラムを読み出し、実行することにより実現される。
【0078】
受付部60は、4つの太陽センサ40から、各太陽センサ40によって計測された太陽光の強度及び飛来方向に関する情報を受け付ける。また、受付部60は、4つの水位センサ38から、前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26の各水位センサ38によって計測された水位に関する情報を受け付ける。
【0079】
タンク特定部62は、各太陽センサ40によって計測された太陽光の強度及び飛来方向に関する情報を基に、前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26のうち、半導体機器16に対して放射線の飛来方向に位置するタンクを特定する。
【0080】
一例として、
図5(A)に示されるように、月極域Pを走行するローバ14の前方に太陽Sが位置する場合、太陽光はローバ14に対して前方から飛来する。この場合、タンク特定部62は、前側タンク20(
図1参照)を飛来方向に位置するタンクとして特定する。
【0081】
また、別の例として、
図6(A)に示されるように、月極域Pを走行するローバ14の左側に太陽Sが位置する場合、太陽光はローバ14に対して左側から飛来する。この場合、タンク特定部62は、左側タンク24(
図1参照)を飛来方向に位置するタンクとして特定する。
【0082】
さらに、別の例として、例えばローバ14の左前方から(
図1の矢印Tの方向から)放射線が飛来する場合、タンク特定部62は、前側タンク20及び左側タンク24を飛来方向に位置するタンクとして特定する。
【0083】
水位判定部64は、受付部60で受け付けられた前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26の各水位に関する情報を基に、タンク特定部62で特定された飛来方向に位置するタンクの水位が基準水位以上であるか否かを判定する。
【0084】
前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26の各基準水位は、各タンクと2つの半導体機器16との位置関係、放射線の飛来方向、半導体機器16の大きさ等を考慮して、2つの半導体機器16の全体を遮蔽可能な水位として予め設定された任意の水位とされている。
【0085】
水位制御部66は、水位判定部64で判定された結果を基に、飛来方向に位置するタンクの水位が基準水位以上の場合には、水Wを移動させない。
【0086】
一方、飛来方向に位置するタンクの水位が基準水位よりも少ない場合には、水位制御部66は、液体移送装置32のポンプ34及びバルブ(図示省略)を制御し、飛来方向に位置するタンクの水位が上がるように、前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26の水位を制御する。一例として、ローバ14の前方側から放射線が飛来する場合、水位制御部66は、
図5(B)に示されるように、飛来方向に位置する前側タンク20の水位が上がるように左側タンク24から前側タンク20へ水Wを移送可能な液体移送装置32及び右側タンク26から前側タンク20へ水Wを移送可能な液体移送装置32を作動させる。なお、左側タンク24のみ又は右側タンク26のみから前側タンク20へ水Wを移送してもよい。
【0087】
水位制御部66は、飛来方向に位置するタンクの水位が目標水位に到達するまで水Wを移送させる。この目標水位は、一例として、基準水位よりも高く設定されており、ローバ14の走行等によって水面が揺れた場合であっても、2つの半導体機器16全体を十分に遮蔽可能な水位として予め設定された任意の水位とされている。
【0088】
ここで、半導体機器16に対して飛来方向に位置するタンクが複数存在する場合には、水位制御部66は、水量が足りる限り、飛来方向に位置する複数のタンクの全ての水位が基準水位以上になるように水Wを移送する処理を行う。また、水位制御部66は、半導体機器16に対してより広範囲に放射線を遮蔽可能なタンクに優先して液体を移送する処理を行う。
【0089】
例えば、ローバ14の左前方から(
図1の矢印Tの方向から)放射線が飛来する場合、
図7(A)及び
図7(B)に示されるように、前側タンク20及び左側タンク24の両方の水位が基準水位以上になるように、水位制御部66は、前側タンク20及び左側タンク24に水Wを移送する処理を行う。具体的には、
図7(A)に示されるように、右側タンク26から前側タンク20へ水Wを移送する処理を行い、
図7(B)に示されるように、後側タンク22から左側タンク24へ水Wを移送する処理を行う。
【0090】
ここで、
図1の矢印Tの方向から放射線が飛来する場合、前側タンク20は、左側タンク24よりも、半導体機器16に対してより広範囲に放射線を遮蔽することができる。よって、
図1の矢印Tの方向から放射線が飛来する場合、水位制御部66は、前側タンク20に優先して水を移送する処理を行う。ただし、ここでいう優先して移送するとは、前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26に格納された水Wの総水量が、飛来方向に位置する前側タンク20及び左側タンク24の両方の水位を基準水位以上にするのに不足している場合に、先に前側タンク20に水Wを移送すること又は前側タンク20への送水量を多くすること等を指す。なお、水位制御部66は、水Wの総水量の如何を問わず、飛来方向に位置する複数のタンクに同時に又は等しく水Wを移送する処理を行ってもよい。
【0091】
(本実施形態の作用及び効果)
次に、
図4のフローチャートを用いて、CPU42で実行される本実施形態に係る液位制御処理について説明し、その説明を通して本実施形態の作用及び効果について説明する。このフローチャートは、例えばローバ14が進行方向を変えたタイミング、排出部30から水が排出されたタイミング及びその他所定の時間間隔において随時実行される。なお、実行のタイミングについては上記に限定されるものではない。
【0092】
ステップS100では、CPU42は、4つの太陽センサ40から、各太陽センサ40によって計測された太陽光の強度及び飛来方向に関する情報を受け付ける。
【0093】
ステップS102では、CPU42は、太陽光の強度及び飛来方向に関する情報を基に、半導体機器16に対して放射線の飛来方向に位置するタンクを特定する。
【0094】
ステップS104では、CPU42は、4つの水位センサ38から、前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26の各水位センサ38によって計測された水位に関する情報を受け付ける。
【0095】
ステップS106では、CPU42は、前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26の各水位に関する情報を基に、飛来方向に位置するタンクの水位が基準水位以上であるか否かを判定する。
【0096】
ステップS106において、飛来方向に位置するタンクの水位が基準水位以上であると判定した場合には、CPU42は、水Wを移動させずに処理を終了する。
【0097】
ステップS106において、飛来方向に位置するタンクの水位が基準水位よりも少ないと判定した場合には、CPU42は、ステップS108に移行する。
【0098】
ステップS108において、CPU42は、液体移送装置32のポンプ34及びバルブ(図示省略)を制御し、飛来方向に位置するタンクの水位が上がるように、前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26の水位を制御する。つまり、飛来方向に位置するタンクへ他のタンクから水Wを注入する。
【0099】
例えば、ローバ14の前方側から放射線が飛来する場合、CPU42は、
図5(B)に示されるように、左側タンク24及び右側タンク26から前側タンク20へ水を移送する。このとき、CPU42は、前側タンク20の水位に関する情報を基に、目標水位まで水を移送して処理を終了する。
【0100】
月面における太陽光からの放射線量は、地上における太陽光からの放射線量よりも多いため、月面を走行するローバ14に搭載される半導体機器16には、耐放射線性又は防護が要求される。また、月面を走行するローバ14は、その質量が打ち上げコストやミッション成立性に直結する。
【0101】
本実施形態に係る液位制御装置10及びローバ14によれば、例えば
図5(A)に示されるようにローバ14の前方から放射線が飛来する場合、2つの半導体機器16に対して放射線の飛来方向に位置する前側タンク20の水位が上昇される。具体的には、水位制御部66によって液体移送装置32のポンプ34及びバルブ(図示省略)が制御され、左側タンク24及び右側タンク26から前側タンク20へ水Wが移送される。よって、ローバ14の前方から飛来する放射線は、前側タンク20に格納された水Wによって遮蔽される。
【0102】
また、
図6(A)に示されるように、ローバ14の左側から放射線が飛来する場合、ローバ14の左側から飛来する放射線は、左側タンク24に格納された水Wによって遮蔽される。同様に、ローバ14の後方から飛来する放射線は、後側タンク22の水位を基準水位以上にすることにより十分に遮蔽され、ローバ14の右側から飛来する放射線は、右側タンク26の水位を基準水位以上にすることにより十分に遮蔽される。
【0103】
月極域Pでは、太陽高が低いため、放射線はローバ14に対して常に水平方向から入射する。よって、ローバ14の前後左右方向に前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26を配設して各水位を制御することにより、ローバ14の太陽光に対する向きが変化しても、常に前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26の少なくとも一つのタンクによって放射線が遮蔽される。
【0104】
このように、半導体機器16の周囲に設けられた前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26の水位を制御することにより、随時放射線の飛来方向に対して選択的に遮蔽性を高めることができる。このため、常に半導体機器16の全方位を遮蔽する構造と比較して、軽量な構造で半導体機器16を放射線から防護することができる。これにより、トータルドーズ効果による機器の劣化及び故障のリスクを抑制することができる。よって、本実施形態に係るローバ14によれば、月面探査のミッションにおける打ち上げコストを低減しかつミッション成立性を向上させることができる。
【0105】
また、前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26に格納された水Wの総水量が、何れかのタンクの基準水位未満の水量にならない限り、半導体機器16の劣化を抑制する防護壁を形成することができる。よって、半導体機器16の全方位に水Wを配置する構成と比較して、少量の水Wで放射線抑制の機能を維持することができる。
【0106】
さらに、前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26に格納された水Wの総水量が一つのタンクの基準水位未満になった場合であっても、放射線の飛来方向に位置するタンクに水Wを移送することで、この水Wを利用した最大限の防護効果を得ることができる。つまり、異常時等で水Wが十分に確保できない場合であっても効果的に半導体機器16を防護することができる。
【0107】
さらにまた、本実施形態に係る液位制御装置10によれば、半導体機器16に対して飛来方向に位置するタンクの水位が基準水位以上の場合には、前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26に格納された水Wは移動されない。よって、所定の防護効果を得るために飛来方向に位置するタンクの水位が不足している場合にのみ、この飛来方向に位置するタンクに水Wが移送される。よって、移送にかかるエネルギ消費が抑制される。また、前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26の間で水Wが移送されるため、別で設けられたタンクから前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26へ水Wを供給する構成と比較して、簡素な構成で機器を放射線から防護することができる。
【0108】
また、本実施形態に係る液位制御装置10によれば、前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26のうち、複数のタンクに跨る方向から放射線が飛来した場合であっても、放射線を減衰させることができる。
【0109】
さらに、飛来方向に位置する複数のタンクのうち、機器に対してより広範囲に放射線を遮蔽可能なタンクに優先して水Wが移送されるため、早期に効率よく半導体機器16を放射線から防護することができる。また、前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26全ての水位を基準水位以上にするには水Wが不足している場合であっても、最適な水Wの配置によって、効率よく半導体機器16を防護することができる。
【0110】
さらにまた、飛来方向に位置する複数のタンクのうち少なくとも一つのタンクの水位が基準水位よりも低い場合には、この基準水位よりも低いタンクに水Wが移送され、飛来方向に位置する全てのタンクの水位が基準水位以上となる。よって、半導体機器16に対する遮蔽性がより一層向上される。
【0111】
また、前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26は、室18において、放射線が飛来する可能性のある前後方向及び左右方向の端部にそれぞれ設けられている。このため、放射線は、飛来方向に位置する前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26の少なくとも一つのタンクによって遮蔽され、室18の内部空間への侵入が抑制される。よって、室18の内部に搭載された2つの半導体機器16は、それぞれの半導体機器16に遮蔽部材又は遮蔽装置を設けずに済み、一括で防護される。また、室18の内部にいるクルー(図示省略)を放射線から防護することができる。
【0112】
さらに、液体移送装置32を用いて排出部30が設けられたタンクへ水Wを移送することにより、前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26に格納された水Wを排出部30から排出することができる。これにより、前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26に格納された水Wをクルーの生活用水として活用することができる。
【0113】
さらにまた、略直方体状の4つの前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26は、平面視で略矩形状に並んで配設されている。よって、複数の円弧状のタンクが平面視で円形状に並んで配設されている場合と比較して、タンクの壁を薄くすることができるため、より一層軽量化することができる。また、タンク自体の価格を抑えることができる。さらに、略直方体状に形成されたローバ14内に効率よく配設することができる。
【0114】
また、略直方体状のタンク3つで平面視略三角形状に半導体機器16を囲う構成と比較して、スペース効率よくかつ少量の水Wで効果的に機器を防護することができる。さらに、5つ以上タンクを設ける場合と比較して、簡素な構成で半導体機器16を防護することができる。
【0115】
さらに、例えば複数のタンクをターンテーブルの上に固定して半導体機器16の周囲で回転させ、残水量の多いタンクを放射線の飛来方向に配置する構成と比較すると、回転機構を必要とせずに済む。このため、総水量が少なくなった場合であっても、効果的に機器を防護することができる。さらに、一つのタンクをターンテーブルの上に固定して半導体機器16の周囲で回転させ、放射線の飛来方向に配置する構成と比較すると、ミッション中に必要な十分量の水Wを前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26に分散させて効率よくローバ14に搭載することができる。
【0116】
〔上記実施形態の補足説明〕
上記実施形態では、月極域Pを走行するローバ14に液位制御装置10が搭載されているものとして説明したが、これに限らない。例えば、月の他の領域を走行するローバに液位制御装置10を搭載してもよく、地球上を走行する車両に液位制御装置10を搭載してもよい。また、例えば原子力発電所において使用される移動体に液位制御装置10を搭載してもよい。
【0117】
また、上記実施形態では、前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26には、クルー(図示省略)の生活用水である水Wが格納されているものとして説明したが、これに限らず、水素原子を含有する他の液体が格納されていてもよい。
【0118】
さらに、上記実施形態では、前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26間で水Wが移送されるものとして説明したが、これに限らない。例えば、別のタンクを設けて、この別のタンクと前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26をそれぞれ液体移送装置32で接続してもよい。
【0119】
さらにまた、上記実施形態では、隣接する他のタンクから飛来方向に位置するタンクへ水Wを移送する制御として説明したが、これに限らない。例えばローバ14の前方から放射線が飛来する場合、後側タンク22から左側タンク24又は右側タンク26を介して前側タンク20へ水Wを移送する制御としてもよい。
【0120】
また、上記実施形態では、それぞれ略直方体状の4つの前側タンク20、後側タンク22、左側タンク24及び右側タンク26が平面視で略矩形状に並んで配設されているものとして説明したが、タンクの形状、個数、配置等はこれに限らない。例えば、タンクは、平面視略L字状又は平面視円弧状に形成されていてもよい。また、ローバ14は、2つ以上のタンクを含んで構成されていればよい。タンクを3つ以上設けることにより、設計次第で、複数のタンクに跨る方向から放射線が飛来した場合にも半導体機器16を確実に防護することができる。さらに例えば、月極域P以外を走行するローバや地球上を走行する車両において、上端部に設けられたルーフ又は下端部に設けられたフロアにタンクを配設してもよい。
【0121】
さらに、上記実施形態では、半導体機器16に対して飛来方向に位置するタンクの水位が基準水位以上の場合には、水位制御部66は、水Wを移動させないものとして説明した。これに限らず、飛来方向に位置するタンクの水位が基準水位以上であっても、例えば目標水位まで水Wを移送する制御としてもよい。
【0122】
さらにまた、上記実施形態では、飛来方向に位置する全てのタンクの水位が基準水位以上となるように水Wを移送するものとして説明したが、これに限らない。例えば、飛来方向に位置するタンクが複数存在する場合、少なくとも一つのタンクへ水Wが移送されればよい。これにより、例えば水Wが不足している場合や、移送エネルギを節約したい場合等においても、所定の防護効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0123】
10 液位制御装置
14 ローバ
16 半導体機器(機器)
18 室
20 前側タンク
22 後側タンク
24 左側タンク
26 右側タンク
30 排出部
32 液体移送装置
34 ポンプ
36 配管
38 水位センサ(液位センサ)
40 太陽センサ(方向センサ)
60 受付部
66 水位制御部(液位制御部)
P 月極域
T 飛来方向
W 水(液体)