(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181999
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】焼結体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/486 20060101AFI20231218BHJP
C01G 25/00 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
C04B35/486
C01G25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096919
(22)【出願日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2022095300
(32)【優先日】2022-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吹上 拓
(72)【発明者】
【氏名】土屋 聡
(72)【発明者】
【氏名】月森 貴史
(72)【発明者】
【氏名】樋口 祐哉
(72)【発明者】
【氏名】永山 仁士
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA05
4G048AB01
4G048AB05
4G048AC08
4G048AD03
4G048AE06
(57)【要約】
【課題】持続可能な開発目標(SDGs)に資するとともに、高い耐衝撃性を有する、ジルコニア焼結体及びその製造方法の少なくともいずれかを提供する。
【解決手段】イットリウム以外の安定化元素を4.5mol%以上15.5mol%以下含み、かつ、前記安定化元素がセリウムを0mol%以上8.5mol%以下含み、ジルコニアの立方晶相を含まず、単斜晶相率が70%以下であるジルコニア焼結体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリウム以外の安定化元素を4.5mol%以上15.5mol%以下含み、かつ、前記安定化元素がセリウムを0mol%以上8.5mol%以下含み、ジルコニアの立方晶相を含まず、単斜晶相率が70%以下であるジルコニア焼結体。
【請求項2】
前記安定化元素がセリウムを2.5mol%以上8.5mol%以下含む、請求項1に記載のジルコニア焼結体。
【請求項3】
前記焼結体のX線回折パターンにおいて、ジルコニアの正方晶相の(004)面に対応する回折線の回折角の2θ=73.0°からのシフト量の絶対値△θ(004)tが0.3°以上であり、なおかつ、ジルコニアの正方相晶の(400)面に対応する回折線の回折角の2θ=74.2°からのシフト量の絶対値△θ(400)tが0.1°以下である、請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体。
【請求項4】
前記安定化元素がさらにマグネシウム又はカルシウムを含む、請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体。
【請求項5】
前記安定化元素がマグネシウムを含む、請求項4に記載のジルコニア焼結体。
【請求項6】
実測密度が5.50g/cm3以上6.30g/cm3以下である、請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体。
【請求項7】
着色剤を含む、請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体。
【請求項8】
Cr、Mn、Fe、Co、及びNiの群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を、0wt%を超え5wt%以下含有する、請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体。
【請求項9】
イットリウム以外の安定化元素を4.5mol%以上15.5mol%以下含み、前記安定化元素はセリウムを2.5mol%以上8.5mol%以下含む、ジルコニア粉末。
【請求項10】
焼焼結可能温度が1020℃以上1300℃未満である、請求項9に記載のジルコニア粉末。
【請求項11】
焼結可能温度が1020℃以上1200℃以下である、請求項9又は10に記載のジルコニア粉末。
【請求項12】
請求項9又は10に記載の粉末を使用する、ジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項13】
請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体を含む部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、SDGsに資するとともに高い耐衝撃性を有する焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス材料は高強度かつ化学的及び熱的にも安定な材料であり、その中でも高い審美性を備えるジルコニアをマトリックスとする焼結体(以下、「ジルコニア焼結体」ともいう。)ため、近年構造材料や装飾材料としての普及が進んでいる。近年では、曲げ強度等の静的な荷重に対する強度に加え、耐衝撃性などの動的な荷重に対する強度も求められている。
【0003】
例えば特許文献1には主にセリウムとイットリウムを安定化元素とし、焼結温度1450℃から1550℃として作製したジルコニア焼結体が高い耐衝撃性を発現することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2にはジルコニアに立方晶SrxNbO3を分散させることで、破壊靭性を向上させ、落下耐性が改善されることが報告されている。しかしながら特許文献2に記載の実施例では、ジルコニアの安定化元素として酸化イットリウムを3mol%含むものが記載されており、その焼結温度は1450℃以上と高温である。
【0005】
一般に、ジルコニア焼結体は、ジルコニア粉末を焼結することで得られる。焼結体を緻密化して高強度とするため、イットリウムを含むジルコニアの焼結温度は1300℃以上、高いものでは1500℃を超える高温であることが一般的である。しかしながら、このような高温での焼結では多大なエネルギーを消費する他、当該エネルギーの産生に伴い多量の二酸化炭素を排出する。持続可能な開発目標(「SDGs」ともいう。)では温室効果ガスの削減目標が設定されており、温室効果ガスである二酸化炭素排出量の削減が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-091602号公報
【特許文献2】特表2019-501855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2に記載の発明は1450℃以上の高温での焼結を必要とする。
【0008】
これに対し、本開示では、1300℃未満の低温の焼結温度であっても、十分に高い密度及び機械的強度を有し、かつ、高い落球強度を示すなど、耐衝撃性に優れる焼結体を作製し、構造材料や装飾材料として適した焼結体を見出した。
【0009】
本開示は、SDGsに資するとともに、高い耐衝撃性を有する、ジルコニア焼結体及びその製造方法の少なくともいずれかを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は特許請求の範囲のとおりであり、また、本開示の要旨は以下のとおりである。
[1] イットリウム以外の安定化元素を4.5mol%以上15.5mol%以下含み、かつ、前記安定化元素がセリウムを0mol%以上8.5mol%以下含み、ジルコニアの立方晶相を含まず、単斜晶相率が70%以下であるジルコニア焼結体。
[2] 前記安定化元素がセリウムを2.5mol%以上8.5mol%以下含む、上記[1]に記載の焼結体。
[3] 前記焼結体のX線回折パターンにおいて、ジルコニアの正方晶相の(004)面に対応する回折線の回折角の2θ=73.0°からのシフト量の絶対値△θ(004)tが0.3°以上であり、なおかつ、ジルコニアの正方相晶の(400)面に対応する回折線の回折角の2θ=74.2°からのシフト量の絶対値△θ(400)tが0.1°以下である、上記[1]又は[2]に記載の焼結体。
[4] 前記安定化元素がさらにマグネシウム又はカルシウムを含む、上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の焼結体。
[5] 前記安定化元素がマグネシウムを含む、上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の焼結体。
[6] 実測密度が5.50g/cm3以上6.30g/cm3以下である、上記[1]乃至[5]のいずれかに記載の焼結体。
[7] 着色剤を含む、上記[1]乃至[6]のいずれかに記載の焼結体。
[8] Cr、Mn、Fe、Co、及びNiの群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を0wt%を超え5wt%以下含有する、上記[1]乃至[7]のいずれかに記載の焼結体。
[9] イットリウム以外の安定化元素を4.5mol%以上15.5mol%以下含み、前記安定化元素はセリウムを2.5mol%以上8.5mol%以下含む、ジルコニア粉末。
[10] 焼結可能温度が1020℃以上1300℃未満である、上記[9]に記載の粉末。
[11] 焼結可能温度が1020℃以上1200℃以下である、上記[9]又は[10]に記載の粉末。
[12] 上記[9]乃至[11]のいずれかに記載の粉末を使用する、焼結体の製造方法。
[13] 上記[1]乃至[8]のいずれかに記載の焼結体を含む、部材。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】デュポン式落球試験機を使用した落球試験の様子を示す模式図
【
図2】落球試験後の撃芯部(凹部の形成)の一例を示す模式図
【
図3】落球試験後の従来の焼結体の撃芯部付近の一例を示す模式図
【
図4】落球試験における測定試料の配置の一例を示す模式図
【
図5】落球試験により破壊の態様の一例を示す模式図 (a)破壊が生じた状態 (b)破壊が生じていない状態
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の焼結体について、実施形態の一例を示して説明する。本実施形態における各用語は以下の通りである。また、本明細書において数値の上限及び下限は、任意の組合せとすることができる。
【0013】
本実施形態において、「ジルコニア焼結体」とは、ジルコニアをマトリックスとする焼結体をいう。「ジルコニア粉末」とは、ジルコニアをモル比で50%を超えて含有する粉末組成物をいう。
【0014】
耐衝撃性を評価する確認する好ましい方法として、例えば、JIS K 5600 5-3に準拠したデュポン式落球試験機を使用し、室温下、300gの落下重りを、所定の落下高さから落下させる落球試験(以下、単に「落球試験」ともいう。)、が挙げられる。
【0015】
図1はデュポン式落球試験機を使用した落球試験を示す模式図である。
図1に示すように、落球試験において、測定試料(101)は保護テープ(107)を裏面に貼付し、円筒状の落球試験機の試料台(106)に配置され、固定用テープ(105)をその側面に貼付されることで試料台に固定されている。落下重りは、重り(104)と打ち型(ポンチ:punch;102)からなり、打ち型(102)は測定試料(101)の表面に配置されている。落球試験は、該打ち型から落下高さに相当する高さ(
図1中、両矢印部に相当する高さ;200mm)から重り(104)を投下させることで行えばよい。打ち型(102)は球状(半球状)の先端を備えた円柱形状を有している。重り(104)をデュポン式落球試験機のガイド(103a,103b)に沿って落とすことで、打ち型(102)を介して測定試料(101)に所望の衝撃力を印加することができる。
【0016】
図2は落球試験後の本実施形態の粉末から得られる焼結体の外観を示す模式図である。
図2で示すように、本実施形態の粉末から得られる焼結体は、落球試験によって落下重り(打ち型)による衝撃力が印加された領域(以下、「撃芯部」ともいう。)に衝撃痕が形成されたことが確認できる。
図2における衝撃痕は、撃芯部付近に凹部が形成された状態を示しており、塑性変形領域を有することが目視で確認できる。なお、図示はしていないが凹部付近に、亀裂などの脆性破壊に基づく欠陥を有していてもよい。これに対し、
図3は、落球試験後の従来の焼結体(301)の外観を示す模式図である。
図3で示すように、従来の焼結体は、撃芯部での衝撃痕の形成が確認できず、亀裂など脆性破壊に基づく欠陥(302)のみが発生している。
【0017】
塑性変形領域の存否は、目視及び光学顕微鏡による観察の少なくともいずれか、更には目視、により確認すればよい。光学顕微鏡による観察における観察倍率として、1~100倍、好ましくは10~50倍が例示できる。
【0018】
なお、図示はしていないが、破壊靭性が高い従来の焼結体は、落球試験前後でその外観に変化はなく、衝撃痕を確認することができない。一方、塑性変形領域を有する焼結体においては、脆性破壊に先立ち塑性変形が生じる。そのため、衝撃痕を確認することができない場合、衝撃痕が確認できるまで落下高さを高くして繰り返し落球試験を行い、凹部の形成等の衝撃痕の形成を確認することで、塑性変形領域の存否を確認することもできる。
【0019】
時計や携帯電子機器の外装材などの装飾部品として許容される耐衝撃性を備えた塑性変形領域の有無を評価するため、本実施形態において、300gの落下重りを、所定の落下高さから落下する落球試験によって塑性変形領域の有無を確認することが好ましい。
【0020】
本実施形態における落球試験は、JIS K 5600 5-3に準拠したデュポン式落球試験機を使用し、室温下(20~30℃)で行うことができる。落球試験の条件として、以下の条件が挙げられる。
【0021】
落下重り : (形状)半径6.35mmの球状の先端を備えた円柱状の打ち型
(質量)300g
落球高さ : 150mm
測定試料 : 縦40mm×横30mm×厚み2mmの板状であり、両表面の表面粗さRaが0.02μm以下である焼結体
測定試料(401)は、試料片の飛散防止のため、落球試験機の試料台(403)と、測定試料の一方の表面(縦40mm×横30mmの面;主面)を両面テープ(保護テープ)(404)で固定して、測定試料を配置する。配置後の測定試料を固定した面と対になる主面の縦方向に沿って固定用テープ(402)を貼付し、測定試料を固定する(
図4)。固定後の測定試料に対して落球試験を実施すればよい。
【0022】
落球試験により形成される衝撃痕の深さとして、例えば、
図2に示す焼結体の厚み[mm](203)に対する衝撃痕の最深部の深さ[mm](204)が、0%を超え3.5%以下、更には0.5%以上3%以下であること、が挙げられる。なお、
図2における衝撃痕(凹部)の深さ(204)は深さを強調して示している。
【0023】
以下、本実施形態の焼結体について説明する。
【0024】
本実施形態の焼結体は、イットリウム以外の安定化元素を4.5mol%以上15.5mol%以下含み、かつ、前記安定化元素がセリウムを0mol%以上8.5mol%以下含み、ジルコニアの立方晶相を含まず、単斜晶相率が70%以下であるジルコニア焼結体、である。
【0025】
本実施形態の焼結体は、イットリウム以外の安定化元素を酸化物換算として4.5mol%以上15.5mol%以下含む(すなわち、イットリウム以外の安定化元素の含有量が、酸化物換算で4.5mol%以上15.5mol%以下である)。本実施形態の焼結体は、主として単斜晶ジルコニアからなる安定化元素含有ジルコニア、を含む。ジルコニアが安定化元素を含有しない場合、焼結後、破壊靭性を発現する要因となる正方晶ジルコニアを含む焼結体が得られ難い。本実施形態の焼結体は、セラミックス焼結体であり、更に主としてジルコニアからなる、いわゆるジルコニア焼結体である。
【0026】
安定化元素は、ジルコニアを安定化させる元素であり、アルカリ土類金属や希土類元素を挙げることができる。本実施形態の焼結体は、安定化元素として、イットリウム以外の安定化元素を少なくとも1種含む。該安定化元素はイットリウム以外の元素のみであることが好ましく、すなわち、イットリウムを含まないことが好ましい。イットリウムはレアメタルと呼称される希少性の高い元素であり、ジルコニアが普及するにつれてイットリウムの供給性が問題となる。SDGsでは「2030年までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する」事がターゲットとして設定されており、材料開発にも持続可能な資源利用が求められている。したがって、イットリウムを含まないことで、SDGsに定められる持続可能な資源利用に資する。
【0027】
該安定化元素は、セリウム、マグネシウム、及び、カルシウムの群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。本実施形態の焼結体の靭性を向上させるため、安定化元素はセリウムを含むことが好ましく、実施形態の焼結体の低温焼結性を向上させるため、安定化元素はマグネシウムまたはカルシウムを含むことが好ましい。
【0028】
本実施形態のジルコニア焼結体は、イットリウム以外の安定化元素を2種類以上含んでいてもよく、より好ましくは、セリウムと、セリウム及びイットリウム以外の1種類以上の安定化元素と、を含む。例えば、本実施形態の焼結体に含まれるジルコニアは、低温焼結性を向上させるため、セリウムとマグネシウム、又は、セリウムとカルシウムを含むことが好ましい。
【0029】
安定化元素の含有量(以下、「安定化元素量」ともいう。)は、ジルコニアが部分安定化される量であればよい。安定化元素量は、酸化物換算で4.5mol%以上15.5mol%以下である。安定化元素量は、6mol%以上15.5mol%以下、6mol%以上14mol%以下、6mol%以上12mol%以下、7mol%以上12mol%以下、8mol%以上12mol%以下、又は、8mol%以上10mol%以下、であることがより好ましい。
【0030】
本実施形態において、安定化元素量は、ジルコニア及び酸化物換算した安定化元素の合計に対する、酸化物換算した安定化元素の合計の割合(mol%)である。例えば、セリウム及びマグネシウムを含有するジルコニアを含む焼結体、又は、セリウム及びマグネシウム安定化ジルコニア粉末における安定化元素量は、セリウムを酸化物CeO2、及び、マグネシウムを酸化物MgOと換算して、{(CeO2+MgO)/(CeO2+MgO+ZrO2)}×100(mol%)として求めることができる。
【0031】
本開示において、安定化元素の酸化物換算は、セリウムをCeO2、マグネシウムをMgO、カルシウムをCaOとすればよい。
【0032】
本実施形態の焼結体は、上述の安定化元素量を満たしていればよく、本実施形態においてはセリウムの含有量は0mol%以上8.5mol%以下であり、0mol%超8.5mol%以下が好ましく、2.5mol%以上8.5mol%以下がより好ましい。すなわち、本実施形態の焼結体はイットリウム以外の安定化元素の含有量が、酸化物換算で4.5mol%以上15.5mol%以下であり、該安定化元素が少なくともセリウムを含まない焼結体であってもよく、イットリウム以外の安定化元素の含有量が、酸化物換算で4.5mol%以上15.5mol%以下であり、該安定化元素が少なくともセリウムを含み、なおかつ、セリウムの含有量が0mol%超8.5mol%以下であってもよい。セリウム量が8.5mol%を超えると、立方晶相が生成しやすく、所望の機械的特性が得られにくくなる。セリウム以外の安定化元素量は0mol%以上12mol%以下である事が好ましく、0mol%以上10mol%以下、1mol%以上10mol%以下、又は、1.5mol%以上10mol%以下である事がより好ましく、2mol%以上9mol%以下、2mol%以上7mol%以下、又は、5mol%以上7mol%以下である事が好ましい。
【0033】
本実施形態における各安定化元素の含有量は、ジルコニア量及び酸化物換算した安定化元素量の合計に対する、酸化物換算した各安定化元素の割合(mol%)である。
【0034】
安定化元素はジルコニアに固溶していることが好ましく、本実施形態の粉末は、未固溶の安定化元素を含まないことが好ましい。本実施形態の焼結体において、その粉末X線回折パターンにおいて、安定化元素の酸化物および安定化元素を含む複数の金属元素の複合酸化物の少なくともいずれかの化合物のピークを有さないことにより、未固溶の安定化元素を含まないとみなせばよい。
【0035】
本実施形態の焼結体は、添加剤由来の成分を含んでいてもよい。添加剤由来の成分は、顔料成分であってもよい。これにより、本実施形態の焼結体がジルコニア本来の色調とは異なる色調を呈色するほか、機械特性が向上する。本実施形態に含まれる添加剤は、ジルコニアを着色する機能を有する元素及びその化合物の少なくともいずれかを含むものや、ジルコニアの機械的強度や透光性を変化させる機能を有する元素及びその化合物の少なくともいずれかを含むものが挙げられる。
【0036】
ジルコニアの機械的強度や透光性を変化させる機能を有する元素は、例えば、アルミニウム(Al)やチタン(Ti)が挙げられる。ジルコニアを着色する機能を有する元素は、例えば、金属元素、更には遷移金属元素であることが好ましい。具体的な添加剤として、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)及び亜鉛(Zn)、の群から選ばれる1種以上であることがより好ましく、クロム、鉄、コバルト、マンガン及びニッケルの群から選ばれる1以上であることがさらに好ましい。なお、添加剤に含まれる元素は、上記したTiがジルコニアの機械的強度や透光性を変化させる機能及びジルコニアを着色する機能を兼ね備えるように、ジルコニアの物性や特性を変化させる複数の機能を有していてもよい。すなわち、添加剤は、ジルコニアの物性や特性を変化させる複数の機能を有する元素を含みうる。
【0037】
本実施形態の焼結体に含まれる添加剤は、ペロブスカイト構造又はスピネル構造を有する金属酸化物を含んでいてもよく、ペロブスカイト構造又はスピネル構造を有する遷移金属酸化物であることが好ましい。
【0038】
ペロブスカイト構造を有する金属酸化物は、ABO3で表され、なおかつ、Aが、カルシウム、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及びビスマス(Bi)の群から選ばれる1以上であり、Bがバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及びアルミニウム(Al)の群から選ばれる1以上である酸化物が挙げられる。
【0039】
スピネル構造を有する金属酸化物は、AB2O4で表され、なおかつ、A及びBが、それぞれ、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ビスマス、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及びアルミニウムの群から選ばれる1以上である酸化物が挙げられ、好ましくは、AB2O4で表される酸化物が挙げられる。具体的なスピネル構造を有する金属酸化物として、CoAl2O4、Fe3O4及びMn3O4(すなわち、Fe2+Fe3+
2O4及びMn2+Mn3+
2O4)の群から選ばれる少なくともいずれか、好ましくはCoAl2O4及びMn3O4の少なくともいずれかが例示できる。
【0040】
本実施形態の焼結体は、添加剤の含有量が少ないほど、耐衝撃性が向上しやすい。本実施形態の焼結体は添加剤を含まなくてもよい(添加剤の含有量が0質量%であってもよい)。一方、本実施形態の焼結体は、添加剤を含み、添加剤の含有量は0質量%を超え、0.001質量%以上であることが好ましい。添加剤の含有量は任意であるが、添加剤の含有量の上限として、例えば、5質量%以下、3質量%未満、2.5質量%以下、2.0質量%以下、1.5質量%以下、1.0質量%以下又は0.7質量%以下であることが挙げられる。添加剤の含有量は、本実施形態の焼結体の質量に対する、酸化物換算した添加剤の合計質量の割合、として求めることができる。本実施形態の酸化物換算における添加剤は、例えば、クロムはCrO2、コバルトはCoO、鉄はFe2O3、マンガンはMnO2、亜鉛はZnO、ニッケルはNiOとするただし、これらの元素は、焼結体中で必ずしも前記した酸化物および該酸化物を形成する酸化数を有せずともよい。
【0041】
本実施形態の焼結体は、添加剤としてアルミナ(Al2O3)を含んでいてもよい。本実施形態の焼結体は、アルミナ含有量は0質量%を超え5質量%未満が挙げられる。耐衝撃性を向上させる観点からは、アルミナを含まないこと(アルミナ含有量が0質量%であること)が好ましい。アルミナ含有量は、ジルコニア、酸化物換算した安定化元素、及びAl2O3換算したアルミニウムの合計量に対する、Al2O3換算したアルミニウムの質量割合、として求めればよい。焼結体が顔料Mを含む場合のアルミナ含有量は、ジルコニア、酸化物換算した安定化元素、酸化物換算した顔料MxOy及びAl2O3換算したアルミニウムの合計量に対する、Al2O3換算したアルミニウムの質量割合、として求めることができる。
【0042】
本実施形態の焼結体は、アルミナの他、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)、酸化ガリウム(Ga2O3)、酸化ゲルマニウム(GeO2)などの添加剤を含んでいても良い。このような添加剤を含むことで、所望の機械的特性を有する焼結体を得ることができる。
【0043】
本実施形態の焼結体は、ハフニア(HfO2)等の不可避不純物を含んでいてもよいが、安定化元素、ジルコニア、アルミナ、必要に応じて添加剤及び不可避不純物以外は含まないことが好ましい。本実施形態において、焼結体の各成分の含有量の算出は、ハフニア(HfO2)をジルコニア(ZrO2)とみなしてこれらの値を算出すればよい。
【0044】
例えば、本実施形態の焼結体が、顔料成分として、それぞれ、ABO3又はAB2O4で表される複合酸化物、アルミナ及びシリカを含み、なおかつ、安定化元素としてマグネシウム及びセリウムを含むジルコニア焼結体である場合、各成分の含有量は以下のように求めればよい。以下の式において、HfO2の質量はZrO2の項に含まれているものとする。
【0045】
顔料成分量[質量%]={(ABO3+AB2O4)/(MgO+Ce2O+ZrO2
+Al2O3+SiO2+ABO3+AB2O4)}×100
アルミナ量[質量%]={Al2O3/(MgO+Ce2O+ZrO2
+Al2O3+SiO2+ABO3+AB2O4)}×100
シリカ量[質量%]={SiO2/(MgO+Ce2O+ZrO2
+Al2O3+SiO2+ABO3+AB2O4)}×100
安定化元素量[mol%]={(MgO+Ce2O)/
(MgO+Ce2O+ZrO2)}×100
マグネシウム量[mol%]={(MgO)/
(MgO+Ce2O+ZrO2)}×100
セリウム量[mol%]={(Ce2O)/
(MgO+Ce2O+ZrO2)}×100
本実施形態の焼結体は、仮焼体や焼結体の前駆体として使用することができ、装飾品、時計や筐体などのアクセサリーのカバー用途、携帯電話などの携帯電子機器の外装部材など、比較的高い耐衝撃性が要求される部材の原料粉末に適している。
【0046】
本実施形態の焼結体は、密度が高いことが好ましく、下記の方法で測定される実測密度として5.50g/cm3以上、5.60g/cm3以上、5.70g/cm3以上、又は5.80g/cm3以上であり、かつ、6.50g/cm3未満、6.40g/cm3以下、6.30g/cm3以下、又は6.20g/cm3以下であることが挙げられ、5.50g/cm3以上6.50g/cm3未満、5.70g/cm3以上6.40g/cm3以下、又は、5.80g/cm3以上6.20g/cm3以下が好ましい。焼結体の密度がこの範囲にあることで、焼結体の単斜晶相率が高くなりにくく、強度が向上しやすくなる。
【0047】
本実施形態において、実測密度はJIS R 1634に準拠した方法(いわゆる、アルキメデス法)により算出することができ、アルキメデス法で求まる体積に対する、質量測定により求まる質量として算出される値である。
【0048】
本実施形態の焼結体のジルコニアの結晶相は、立方晶相を含まず、少なくとも正方晶を含むことが好ましく、正方晶相と、単斜晶相と、からなっていてもよい。
【0049】
本実施形態において、焼結体のX線回折(以下、「XRD」ともいう。)パターンは、一般的な結晶性解析X線回折装置(例えば、装置名:UltimaIV、RIGAKU社製)により測定することができる。
【0050】
測定条件として、以下の条件が挙げられる。
【0051】
線源 :CuKα線(λ=1.5418Å)
管電圧 :45kV
管電流 :40mA
測定モード :連続スキャン
スキャンスピード:4°/分
ステップ幅 :0.02°
測定範囲 :2θ=20°~80°
ゴニオメータ :半径185mm
本実施形態の焼結体は、ジルコニアの立方晶相を含まない。ジルコニアの立方晶相を含まないとは、上記のX線回折測定において、2θ=74.2°の正方晶ジルコニアの(004)面に対応する回折線(以下、「回折線B」ともいう。)の強度に対する2θ=73.8°の立方晶の(400)面に対応する回折線(以下、「回折線A」ともいう。)の強度比A/Bが0.05以下であることをいう。
【0052】
(単斜晶相率)
本実施形態の焼結体の単斜晶相率は、70%以下であり、65%以下又は50%以下であることが例示できる。これにより、焼結体の動的な強度、すなわち、後述する落球強度が向上する。単斜晶相率は、0%以上、10%以上、20%以上、又は、30%以上であることが挙げられ、0%以上70%以下、20%以上65%以下、又は、30%以上50%以下であることが好ましい。単斜晶相率は、以下のように算出される。
【0053】
すなわち、上記XRD測定において、正方晶ジルコニア及び立方晶ジルコニアの(111)面に相当する2θ=30.0°付近の回折線の回折強度I(111)t,c、単斜晶ジルコニアの(11―1)面に相当する2θ=28°付近の回折線の回折強度I(11―1)m、及び、単斜晶ジルコニアの(111)面に相当する2θ=31.0°付近の回折線の回折強度I(111)mから、以下の式によって算出される。
【0054】
単斜晶相率(%)={I(11―1)m+I(111)m}/
[{I(11―1)m+I(111)m}+I(111)t,c]×100
(ピークシフト量)
また、正方晶ジルコニアには、上記XRD測定において、回折線Bと、2θ=74.2°には正方晶ジルコニアの(004)面に対応する回折線(以下、「回折線C」ともいう。)が存在する。本実施形態のジルコニア焼結体では、安定化元素の固溶により、これらの回折線の回折角は、上記の2θの位置からそれぞれピークシフトする。回折線B及び回折線Cのシフト量の絶対値△θ(400)t及び△θ(004)tは、それぞれ以下のように算出される。
【0055】
△θ(400)t=[{(測定された回折線Bの2θ)°-73.0°}の絶対値]
△θ(004)t=[{(測定された回折線Cの2θ)°-74.2°}の絶対値]
本実施形態のジルコニア焼結体の△θ(400)tは0.2°以上が好ましく、0.3°以上がより好ましい。なおかつ、本実施形態のジルコニア焼結体の△θ(004)tは0.15°以下が好ましく、0.1°以下がより好ましい。本実施形態の焼結体は、このようなピークシフトを示すことで、イットリウムを含まず、かつ低温で焼結可能であり、更には高い靭性及び耐衝撃性を有する焼結体となる。θ(400)tの値は1.0°以下、又は、0.8°以下であることが例示でき、θ(004)tの値は、0°以上、又は、0.01°以上であることが例示できる。また、θ(400)tの値は0.2°以上1.0°以下、又は0.3°以上0.8°以下であることが好ましく、θ(004)tの値は、0°以上0.15°以下、又は0.01°以上0.1°以下であることが好ましい。
【0056】
本実施形態の焼結体の形状は、例えば、球状、略球状、楕円状、円板状、円柱状、立方体状、直方体状、多面体状及び略多面体状の群から選ばれる少なくともいずれかが挙げられる。更に、各種用途等、所期の目的を達成するための任意の形状であればよい。
【0057】
本実施形態の焼結体は、落球破壊エネルギー(以下、「落球強度」ともいう。)が0.4J以上、さらには0.5J以上であることが好ましい。落球強度は耐衝撃性を示す指標のひとつであり、この値が高いほど耐衝撃性が高くなる。焼結体の落球強度として、例えば、10J以下、5J以下、2J以下又は1J以下が挙げられる。また、落球強度は0.4J以上10J以下、0.4J以上5J以下、0.5J以上2J以下、又は0.5J以上1J以下であることが挙げられる。
【0058】
落球強度(J)= 落下重り質量(g)×落下高さ(mm)×重力加速度(m/s2)×106
重力加速度として、9.8m/s2を使用すればよい。
【0059】
落球強度は、落球高さを以下に示す任意の高さとすること以外は、上述の落球試験と同様な方法により測定することができる。
【0060】
落球高さ : 50~500mm
破壊の判定は、測定試料が2以上に分割された状態をもって破壊が生じているとみなすことができる(
図5(a))。一方、一端から他端まで達していない亀裂が生じた場合(
図5(b))は、破壊が生じていないとみなせばよい。特定の落下高さにおける落球試験で破壊が生じなかった場合、破壊が生じるまで、落下高さを500mmまで一定の高さずつ(例えば、50mmずつ)高くして繰り返し落球試験を行い、同様に目視による観察を行えばよい。若しくは、落球高さの代わりに落下重りの重さを変更して繰り返し落球試験を行ってもよい。例えば、落球高さが500mmに達しても破壊が生じなかった場合、落下重りの質量を300gから500gに変更して、再度500mmの落下高さにて落球試験を行うことで、より高い落球強度まで測定が可能である。
【0061】
本実施形態の焼結体は、従来の焼結体、特に構造材料、光学材料、歯科用材料等のジルコニア焼結体の用途に適用できるが、装飾品、時計や筐体などのアクセサリーのカバー用途、携帯電話などの携帯電子機器の外装部材など、比較的高い耐衝撃性が要求される部材として使用することができる。
【0062】
以下、本実施形態の焼結体の製造方法について説明する。
【0063】
本実施形態の焼結体は、上記の要件を満たす焼結体が得られればその製造方法は任意である。本実施形態の焼結体の製造方法の一例として、安定化元素源と、ジルコニアとを含む成形体を焼結する工程、を有する製造方法が例示できる。
【0064】
上記の工程(以下、「焼結工程」ともいう。)に供する成形体は、安定化元素源と、ジルコニアとを含む成形体(圧粉体)である。成形体は本実施形態の焼結体が得られるものであれば限定されず、目的とする焼結体と同様な組成であればよい。
【0065】
安定化元素源は、イットリウム以外の安定化元素を含む化合物であればよく、アルカリ土類金属や希土類元素若しくはこれらの前駆体となる、アルカリ土類金属や希土類元素を一種類以上含む化合物であればよい。安定化元素源は、セリウム、マグネシウム、及び、カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む化合物であることが好ましい。
【0066】
成形体における安定化元素源の含有量は、目的とする焼結体の安定化元素量と同等であればよい。
【0067】
成形体は、アルミナ源を含んでいてもよい。アルミナ源は、アルミナ(Al2O3)及びその前駆体となるアルミニウム(Al)を含む化合物の少なくともいずれかであり、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、水酸化アルミニウム及びアルミナの群から選ばれる1以上が挙げられ、アルミナであることが好ましい。
【0068】
成形体におけるアルミナ源の含有量は、目的とする焼結体のアルミナ含有量と同等であればよい。
【0069】
形状安定性の改善のため、成形体は結合剤を含んでいてもよい。結合剤は、セラミックスの成形に使用される有機バインダーであればよく、例えば、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ワックス及び可塑剤の群から選ばれる1以上が挙げられる。結合剤の含有量として、成形体の体積に占める結合剤の割合が25容量%以上65容量%以下であることが例示できる。なお、本実施形態において、「容量%」は「体積%」と同義である。また、成形体100質量%中、結合剤が0質量%を超え10質量%以下であることが例示できる。
【0070】
成形体の形状は、焼結による収縮を考慮し、目的に応じた任意の形状であればよく、例えば、球状、略球状、楕円状、円板状、円柱状、立方体状、直方体状、多面体状及び略多面体状の群から選ばれる少なくともいずれかが挙げられる。
【0071】
成形体の製造方法は任意であり、ジルコニウム及び安定化元素源、並びに、必要に応じて添加剤(例えば、顔料源及びアルミナ源の少なくともいずれか)、を任意の方法で混合した混合物(以下、「原料組成物」ともいう)を、成形することが挙げられる。また、ジルコニア及び安定化元素源に代わり、又は、ジルコニア及び安定化元素源に加え、安定化元素含有ジルコニアを使用してもよい。成形体の製造に供する原料組成物は、目的とする成形体と同様な組成を有していればよく、例えば、イットリウム以外の安定化元素を4.5mol%以上15.5mol%含み、前記安定化元素はセリウムを2.5mol%以上8.5mol%以下含む、ジルコニア粉末、が挙げられる。該粉末は、これを使用することを特徴とする焼結体の製造方法、好ましくは該粉末を使用することを特徴とする本実施形態の焼結体の製造方法、に使用できる。
【0072】
ジルコニアとして、安定化元素含有ジルコニアを使用する場合、ジルコニアに安定化元素を含有させる方法は任意である。例えば、本実施形態におけるイットリウム以外の安定化元素を4.5mol%以上15.5mol%含み、前記安定化元素はセリウムを2.5mol%以上8.5mol%以下含むジルコニア粉末の製造方法の一例として、水和ジルコニアゾルと、目的とする安定化元素含有量と同等の安定化元素源とを混合し、乾燥、仮焼及び水洗する方法が挙げられる。
【0073】
上記で得られたジルコニア粉末を、粉砕工程に供してもよい。粉砕方法は任意であり、湿式粉砕及び乾式粉砕の少なくともいずれかであればよく、湿式粉砕であることが好ましい。具体的な湿式粉砕として、ボールミル、振動ミル及び連続式媒体撹拌ミルの群から選ばれる1以上が例示でき、ボールミルであることが好ましい。
【0074】
ボールミルによる粉砕条件として、例えば、仮焼粉末及び溶媒を混合して、スラリー質量に対する仮焼粉末の質量割合が30質量%以上60質量%以下であるスラリーとし、該スラリーを直径lmm以上15mm以下のジルコニアボールを粉砕媒体として、10時間以上100時間以下、粉砕することが挙げられる。
【0075】
湿式粉砕後、任意の方法で乾燥して本実施形態の粉末とすればよい。乾燥条件として、大気中、110℃~130℃が例示できる。
【0076】
粉末の操作性を向上させるため、本実施形態の粉末の製造方法において、粉末を顆粒化する工程(以下、「顆粒化工程」ともいう。)を含んでいてもよい。顆粒化は任意の方法であるが、粉末と溶媒とを混合したスラリーを噴霧造粒すること、が挙げられる。該溶媒は水及びアルコールの少なくともいずれか、好ましくは水である。顆粒化された粉末(以下、「粉末顆粒」ともいう。)は、平均顆粒径が30μm以上80μm以下、更には50μm以上60μm以下であること、及び、嵩密度が1.00g/cm3以上1.50g/cm3以下、更には1.10g/cm3以上1.45g/cm3以下であることが挙げられる。
【0077】
成形体及び粉末は、必要に応じ、添加剤を含んでいてもよく、すなわち、顔料源を含んでいてもよい。顔料源は、顔料及びその前駆体の少なくともいずれかであればよい。顔料の前駆体としては、ジルコニアを着色する機能を有する元素を含む化合物が挙げられ、例えば金属元素を含む化合物が好ましく、金属の、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、蓚酸塩、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩、塩化物、フッ化物、臭化物及びヨウ化物の群から選ばれる1以上が例示でき、好ましく金属の酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物及び炭酸塩の群から選ばれる1以上が挙げられる。具体的な顔料及びその前駆体として、酸化クロム、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化鉄及び酸化コバルトの群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0078】
顔料が遷移金属A及びBを含みペロブスカイト構造又はスピネル構造を有する金属複合酸化物である場合、当該顔料は、例えば当該金属複合酸化物を構成する遷移金属A及びBそれぞれの、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、蓚酸塩、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩、塩化物、フッ化物、臭化物及びヨウ化物の群から選ばれる1以上を必要に応じて混合し、大気雰囲気、1200℃~1500℃で焼成することで得ることができる。
【0079】
顔料源は市販されているものを使用してもよく、好ましい顔料源として、CoAl2O4、Fe2O3及びZnOの群から選ばれる1以上、更にはCoAl2O4、Fe2O3及びZnOが例示できる。
【0080】
成形方法は、混合粉末を圧粉体としうる公知の成形方法であればよく、好ましくは一軸加圧成形、等方加圧成形、射出成形、押出成形、転動造粒及び鋳込み成形の群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは一軸加圧成形及び等方加圧成形の少なくともいずれか、更に好ましくは冷間静水圧プレス処理及び一軸加圧成形(粉末プレス成形)の少なくいずれかである。
【0081】
成形体を焼結する前に、仮焼工程に供して仮焼体としてもよい。仮焼工程は、成形体を粉末の焼結温度未満で熱処理すればよく、例えば、大気中、800℃以上1020℃未満で熱処理すればよい。
【0082】
焼結工程は、成形体を焼結して焼結体を得る。焼結方法は任意であり、常圧焼結、加圧焼結、真空焼結等、公知の焼結方法が例示できる。好ましい焼結方法として常圧焼結が挙げられ、焼結方法は常圧焼結のみであることが好ましい。これにより、本実施形態の焼結体を、いわゆる常圧焼結体として得ることができる。常圧焼結とは、焼結時に成形体(又は仮焼体)に対して外的な力を加えず、単に加熱することによって焼結する方法である。焼結雰囲気及び温度は特に限定されないが、例えば、大気中、焼結温度は1020℃以上又は1100℃以上であり、かつ、1300℃未満、1250℃以下、又は、1200℃以下での常圧焼結が挙げられる。焼結温度が1300℃未満であることで、焼結に必要なエネルギーを低減するとともに、該エネルギーの産生に伴う二酸化炭素の排出量が削減される。
【0083】
本実施形態のジルコニア粉末またはその成形体(圧粉体)は、焼結可能温度が1020℃以上又は1100℃以上であり、かつ、1300℃未満、1250℃以下、又は、1200℃以下であることが好ましい。また、焼結可能温度は1020℃以上1300℃未満、1020℃以上1250℃以下、1100℃以上1250℃以下、又は、1100℃以上1200℃以下であることが好ましい。
【0084】
焼結可能温度とは、粉末が焼結可能である焼結温度をいい、粉末が焼結可能であるとは、焼結工程中の最高温度である焼結温度(「保持温度」ともいう)にて温度保持を行う焼結プロファイルによって焼結したときに、焼結体の実測密度が5.50g/cm3以上となり、かつ割れや亀裂を有しない焼結体が得られることをいう。すなわち、例えば大気中、常圧焼結、昇温速度100℃/hr、保持温度1200℃、保持時間2時間、降温速度200℃/hrでの焼結で、実測密度が5.50g/cm3以上となり、かつ割れや亀裂を有しない焼結体が得られる粉末は、1200℃で焼結可能である。
【0085】
ここで、焼結雰囲気、焼結方法、及び焼結プロファイルの詳細は、本実施形態の焼結体が得られれば特に限定されないが、例えばそれぞれ以下の条件が挙げられる。
【0086】
焼結雰囲気:酸化雰囲気
焼結方法 :常圧焼結
昇温速度 :20℃/hrから700℃/hr
保持温度 :1020℃以上1300℃未満
保持時間 :1分以上20時間以内
降温速度 :20℃/hrから1000℃/hr
【実施例0087】
以下、実施例により本実施形態を具体的に説明する。しかしながら、本実施形態はこれら実施例に限定されるものではない。
【0088】
(X線回折ピーク)
一般的なX線回折装置(装置名:UltimaIV、RIGAKU社製)を使用し、焼結体試料の焼肌面のXRD測定を行い、XRDパターンを得た。XRD測定の条件は以下の通りである。
【0089】
線源 :CuKα線(λ=1.5418Å)
管電圧 :45kV
管電流 :40mA
測定モード :連続スキャン
スキャンスピード:4°/分
ステップ幅 :0.02°
測定範囲 :2θ=26°~33°、72°~76°
ゴニオメータ :半径185mm
上記の測定条件により、単斜晶相率、△θ(004)t、△θ(400)tを算出した。単斜晶相率は、2θ=28の回折強度I(11―1)m、2θ=30.0の回折強度I(111)t,c及び2θ=31の回折強度I(111)mより、以下の式により算出した。
【0090】
単斜晶相率(%)=(I(11-1)m+I(111)m)/(I(111)m+I(111)t,c+I(111)m)×100
(BET比表面積)
一般的な流動式比表面積自動測定装置(装置名:フローソーブIII2305、島津製作所社製)、及び吸着ガスとして窒素を使用し、粉末試料のBET比表面積を測定した。測定に先立ち、粉末試料は大気中、250℃で30分間の脱気処理を施し、前処理した。
【0091】
(焼結体密度)
焼結体試料の実測密度は質量測定で測定された質量に対する、アルキメデス法で測定される体積の割合(g/cm3)として求めた。なお、JIS R 1634では開気孔率が10%以上であるような低密度の試料では正確な密度が測定できず、このような試料には当該測定方法は適用できないとされている。このため、本実施形態においては開気孔率が10%以上であるような低密度の試料に関しては「測定不可」とした。測定に先立ち、乾燥後の焼結体の質量を測定した後,焼結体を水中に配置し、これを1時間煮沸し、前処理とした。理論密度(g/cm3)は、焼結体のジルコニアの結晶相が全て正方晶であるとみなし、かつ、該ジルコニアの単位格子体積(cm3)に対する単位格子質量(g)から求めた。単位格子体積は、本実施形態の粉末から得られる焼結体を以下の条件で測定した粉末X線回折パターンにおける、正方晶(004)面に相当するXRDピーク及び正方晶(220)面に相当するXRDピークのピークトップの2θとブラッグの式を使用して面間隔を求め、ここから算出した格子定数より求めればよい。
【0092】
(落球試験)
JIS K 5600 5-3に準拠したデュポン式落球試験機(装置名:H-50、東洋精機社製)を使用した落球試験により、焼結体試料の耐衝撃性を確認した。試験条件を以下に示す。
【0093】
落下重り : (形状)半径6.35mmの球状の先端を備えた円柱状の打ち型
(質量)300g、すなわちSUS製、横80mm×厚み20mm×高さ30mmの直方体状の質量300gの重り
落球高さ : 150mm
測定試料 : 縦40mm×横30mm×厚み2mmの板状であり、両表面(縦40mm×横30mmの面;主面)の表面粗さがRa≦0.02μmの焼結体
測定試料は、試料片の飛散防止のため、落球試験機の試料台と、測定試料の一方の表面(縦40mm×横30mmの面)を両面テープで固定して、測定試料を配置した。配置後の測定試料の固定した面と対になる面の縦方向に沿ってテープを貼付し、測定試料を固定した)。固定後の測定試料の中央付近に落下重りが落ちるように、打ち型を配置し、落球試験を実施した。落下重り投下後の測定試料の状態を目視で確認し、測定試料に破壊が発生するまで、繰り返し落球高さを変更して、落球試験を行った。各落球高さにおける落球エネルギーを以下の式から求め、破壊が発生した落球高さにおける落球エネルギーを、落球破壊エネルギーとした。
【0094】
落球エネルギー(J)= 落下重り質量(g)×落下高さ(mm)×重力加速度(9.8m/s2)×106
破壊の判定は、測定試料が2以上に分断された状態をもって破壊が生じているとみなした。なお、チッピングのような極微小な破片が生じ、測定試料が板状形状を維持している状態は破壊とはみなさなかった。特定の落下高さにおける落球試験で破壊が生じなかった場合、破壊が生じるまで、落下高さを50mmから500mmまで50mmずつ高くして落球試験を繰り返した。落球高さが500mmに達しても破壊が生じなかった場合、落下重りの質量を300gから500g、500gから1kgに変更して、再度500mmの落下高さにて落球試験を行った。すなわち、測定試料は、破壊が発生した試験回の直前に行った試験における落球エネルギーを付与しても、破壊が発生しない。落下重りの質量が1kgで落下高さ500mmの落球試験において破壊が生じなかった測定試料については、便宜的に、落球破壊エネルギーを>5J(5J超)とした。
【0095】
実施例1
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。マグネシウム含有量が2.0mol%、及び、セリウム含有量が5.0mol%となるように、塩化マグネシウムおよび塩化セリウム7水和物を、それぞれ、水和ジルコニアゾルに添加及び混合した。混合後、大気中で乾燥し、大気中、1000℃で2時間仮焼して、マグネシウム及びセリウム安定化ジルコニア仮焼粉末を得た。得られた仮焼粉末を純水で水洗及び乾燥したのち、これを純水に添加してスラリーとし、これを、直径2mmのジルコニア製ボールを粉砕媒体としたボールミルで、24時間、粉砕混合した。粉砕混合後のスラリーを、乾燥し、マグネシウム含有量が2.0mol%及びセリウム含有量が5.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアからなる本実施例のジルコニア粉末を得た。
【0096】
得られた粉末を縦40mm×横30mmの板状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、板状の成形体を得た。また、Φ25mmの円柱状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、円柱状の成形体を得た。得られた成形体を以下の条件で焼結して、マグネシウム含有量が2.0mol%及びセリウム含有量が5.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアからなる本実施例のジルコニア焼結体を得た。
焼結方法 : 常圧焼結
焼結雰囲気 : 大気雰囲気
焼結温度 : 1200℃
焼結時間 : 2時間
【0097】
実施例2
焼結温度を1150℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で、本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0098】
実施例3
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。マグネシウム含有量が5.0mol%、及び、セリウム含有量が5.0mol%となるように、塩化マグネシウムおよび塩化セリウム7水和物を、それぞれ、水和ジルコニアゾルに添加及び混合した。混合後、大気中で乾燥し、大気中、1000℃で2時間仮焼して、マグネシウム及びセリウム安定化ジルコニア仮焼粉末を得た。得られた仮焼粉末を純水で水洗及び乾燥したのち、これを純水に添加してスラリーとし、これを、直径2mmのジルコニア製ボールを粉砕媒体としたボールミルで、24時間、粉砕混合した。粉砕混合後のスラリーを、乾燥し、マグネシウム含有量が5.0mol%及びセリウム含有量が5.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアからなるジルコニア粉末を得た。
【0099】
得られた粉末を縦40mm×横30mmの板状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、板状の成形体を得た。また、Φ25mmの円柱状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、円柱状の成形体を得た。得られた成形体を以下の条件で焼結して、マグネシウム含有量が5.0mol%及びセリウム含有量が5.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアからなる本実施例のジルコニア焼結体を得た。
焼結方法 : 常圧焼結
焼結雰囲気 : 大気雰囲気
焼結温度 : 1200℃
焼結時間 : 2時間
【0100】
実施例4
焼結温度を1150℃としたこと以外は実施例3と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0101】
実施例5
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。マグネシウム含有量が9.0mol%、及び、セリウム含有量が5.0mol%となるように、塩化マグネシウムおよび塩化セリウム7水和物を、それぞれ、水和ジルコニアゾルに添加及び混合した。混合後、大気中で乾燥し、大気中、1000℃で2時間仮焼して、マグネシウム及びセリウム安定化ジルコニア仮焼粉末を得た。得られた仮焼粉末を純水で水洗及び乾燥したのち、これを純水に添加してスラリーとし、これを、直径2mmのジルコニア製ボールを粉砕媒体としたボールミルで、24時間、粉砕混合した。粉砕混合後のスラリーを、乾燥し、マグネシウム含有量が9.0mol%及びセリウム含有量が5.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアからなるジルコニア粉末を得た。
【0102】
得られた粉末を縦40mm×横30mmの板状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、板状の成形体を得た。また、Φ25mmの円柱状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、円柱状の成形体を得た。得られた成形体を以下の条件で焼結して、マグネシウム含有量が9.0mol%及びセリウム含有量が5.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアからなる本実施例のジルコニア焼結体を得た。
焼結方法 : 常圧焼結
焼結雰囲気 : 大気雰囲気
焼結温度 : 1200℃
焼結時間 : 2時間
【0103】
実施例6
実施例3と同様なジルコニア粉末を使用し、Mn3O4含有量が0.4質量%となるようにMn3O4を添加したのち、GdMnO3含有量が0.2質量%となるようにGdMnO3を添加した混合粉末を作製し、混合粉末を純水に添加してスラリーとし、これを、直径2mmのジルコニア製ボールを粉砕媒体としたボールミルで、24時間、粉砕混合した。粉砕混合後のスラリーを、乾燥し、マグネシウム含有量が5.0mol%及びセリウム含有量が5.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアを母体として、Mn3O4含有量が0.4質量%及びGdMnO3含有量が0.2質量%含む本実施例のジルコニア粉末を得た。
【0104】
得られた粉末を縦40mm×横30mmの板状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、板状の成形体を得た。また、Φ25mmの円柱状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、円柱状の成形体を得た。得られた成形体を以下の条件で焼結して、マグネシウム含有量が5.0mol%及びセリウム含有量が5.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアを母体として、Mn3O4含有量を0.4質量%及びGdMnO3含有量を0.2質量%含む本実施例のジルコニア焼結体を得た。
焼結方法 : 常圧焼結
焼結雰囲気 : 大気雰囲気
焼結温度 : 1200℃
焼結時間 : 2時間
【0105】
実施例7
焼結温度を1150℃としたこと以外は実施例6と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0106】
実施例8
焼結温度を1150℃としたこと、及び、焼結時間を4時間としたこと以外は実施例6と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0107】
実施例9
実施例1と同様なジルコニア粉末を使用し、Mn3O4含有量が0.4質量%となるようにMn3O4を添加したこと、GdMnO3含有量が0.2質量%となるようにGdMnO3を添加した混合粉末を作製し、混合粉末を純水に添加してスラリーとし、これを、直径2mmのジルコニア製ボールを粉砕媒体としたボールミルで、24時間、粉砕混合した。粉砕混合後のスラリーを、乾燥し、マグネシウム含有量が2.0mol%及びセリウム含有量が5.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアを母体として、Mn3O4含有量が0.4質量%及びGdMnO3含有量が0.2質量%含む本実施例のジルコニア粉末を得た。
【0108】
得られた粉末を縦40mm×横30mmの板状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、板状の成形体を得た。また、Φ25mmの円柱状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、円柱状の成形体を得た。得られた成形体を以下の条件で焼結して、マグネシウム含有量が2.0mol%及びセリウム含有量が5.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアを母体として、Mn3O4含有量が0.4質量%及びGdMnO3含有量が0.2質量%含む本実施例のジルコニア焼結体を得た。
焼結方法 : 常圧焼結
焼結雰囲気 : 大気雰囲気
焼結温度 : 1200℃
焼結時間 : 2時間
【0109】
実施例10
焼結温度を1150℃としたこと以外は実施例9と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0110】
実施例11
焼結温度を1150℃としたこと、及び、焼結時間を4時間としたこと以外は実施例9と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0111】
実施例12
実施例1と同様なジルコニア粉末を使用し、Mn3O4含有量が0.4質量%となるようにMn3O4を添加したこと、GdMnO3含有量が0.2質量%となるようにGdMnO3を添加した混合粉末を作製し、混合粉末を純水に添加してスラリーとし、これを、直径2mmのジルコニア製ボールを粉砕媒体としたボールミルで、24時間、粉砕混合した。粉砕混合後のスラリーを、乾燥し、マグネシウム含有量が7.0mol%及びセリウム含有量が5.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアを母体として、Mn3O4含有量が0.4質量%及びGdMnO3含有量が0.2質量%含む本実施例のジルコニア粉末を得た。
【0112】
得られた粉末を縦40mm×横30mmの板状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、板状の成形体を得た。また、Φ25mmの円柱状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、円柱状の成形体を得た。得られた成形体を以下の条件で焼結して、マグネシウム含有量が7.0mol%及びセリウム含有量が5.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアを母体として、Mn3O4含有量が0.4質量%及びGdMnO3含有量が0.2質量%含む本実施例のジルコニア焼結体を得た。
焼結方法 : 常圧焼結
焼結雰囲気 : 大気雰囲気
焼結温度 : 1200℃
焼結時間 : 2時間
【0113】
実施例13
焼結温度を1150℃としたこと以外は実施例12と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0114】
実施例14
焼結温度を1150℃としたこと、及び、焼結時間を4時間としたこと以外は実施例13と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0115】
比較例1
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。マグネシウム含有量が2.0mol%、及び、セリウム含有量が9.0mol%となるように、塩化マグネシウムおよび塩化セリウム7水和物を、それぞれ、水和ジルコニアゾルに添加及び混合した。混合後、大気中で乾燥し、大気中、1000℃で2時間仮焼して、マグネシウム及びセリウム安定化ジルコニア仮焼粉末を得た。得られた仮焼粉末を純水で水洗及び乾燥したのち、これを純水に添加してスラリーとし、これを、直径2mmのジルコニア製ボールを粉砕媒体としたボールミルで、24時間、粉砕混合した。粉砕混合後のスラリーを、乾燥し、マグネシウム含有量が2.0mol%及びセリウム含有量が9.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアからなるジルコニア粉末を得た。
【0116】
得られた粉末を縦40mm×横30mmの板状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、板状の成形体を得た。また、Φ25mmの円柱状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、円柱状の成形体を得た。得られた成形体を以下の条件で焼結して、マグネシウム含有量が2.0mol%及びセリウム含有量が9.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアからなる本実施例のジルコニア焼結体を得た。
焼結方法 : 常圧焼結
焼結雰囲気 : 大気雰囲気
焼結温度 : 1200℃
焼結時間 : 2時間
【0117】
比較例2
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。マグネシウム含有量が8.0mol%、及び、セリウム含有量が8.0mol%となるように、塩化マグネシウムおよび塩化セリウム7水和物を、それぞれ、水和ジルコニアゾルに添加及び混合した。混合後、大気中で乾燥し、大気中、1000℃で2時間仮焼して、マグネシウム及びセリウム安定化ジルコニア仮焼粉末を得た。得られた仮焼粉末を純水で水洗及び乾燥したのち、これを純水に添加してスラリーとし、これを、直径2mmのジルコニア製ボールを粉砕媒体としたボールミルで、24時間、粉砕混合した。粉砕混合後のスラリーを、乾燥し、マグネシウム含有量が8.0mol%、及び、セリウム含有量が8.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアからなるジルコニア粉末を得た。
【0118】
得られた粉末を縦40mm×横30mmの板状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、板状の成形体を得た。また、Φ25mmの円柱状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、円柱状の成形体を得た。得られた成形体を以下の条件で焼結して、マグネシウム含有量が8.0mol%、及び、セリウム含有量が8.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアからなる本実施例のジルコニア焼結体を得た。
焼結方法 : 常圧焼結
焼結雰囲気 : 大気雰囲気
焼結温度 : 1200℃
焼結時間 : 2時間
【0119】
比較例3
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。マグネシウム含有量が8.0mol%、及び、セリウム含有量が2.0mol%となるように、塩化マグネシウムおよび塩化セリウム7水和物を、それぞれ、水和ジルコニアゾルに添加及び混合した。混合後、大気中で乾燥し、大気中、1000℃で2時間仮焼して、マグネシウム及びセリウム安定化ジルコニア仮焼粉末を得た。得られた仮焼粉末を純水で水洗及び乾燥したのち、これを純水に添加してスラリーとし、これを、直径2mmのジルコニア製ボールを粉砕媒体としたボールミルで、24時間、粉砕混合した。粉砕混合後のスラリーを、乾燥し、マグネシウム含有量が8.0mol%、及び、セリウム含有量が2.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアからなるジルコニア粉末を得た。
【0120】
得られた粉末を縦40mm×横30mmの板状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、板状の成形体を得た。また、Φ25mmの円柱状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、円柱状の成形体を得た。得られた成形体を以下の条件で焼結して、マグネシウム含有量が8.0mol%、及び、セリウム含有量が2.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアからなる本実施例のジルコニア焼結体を得た。
焼結方法 : 常圧焼結
焼結雰囲気 : 大気雰囲気
焼結温度 : 1200℃
焼結時間 : 2時間
【0121】
比較例4
焼結温度を1150℃としたこと、及び、焼結時間を4時間としたこと以外は比較例3と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0122】
比較例5
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。マグネシウム含有量が2.0mol%、及び、セリウム含有量が2.0mol%となるように、塩化マグネシウムおよび塩化セリウム7水和物を、それぞれ、水和ジルコニアゾルに添加及び混合した。混合後、大気中で乾燥し、大気中、1000℃で2時間仮焼して、マグネシウム及びセリウム安定化ジルコニア仮焼粉末を得た。得得られた仮焼粉末を純水で水洗及び乾燥したのち、これを純水に添加してスラリーとし、これを、直径2mmのジルコニア製ボールを粉砕媒体としたボールミルで、24時間、粉砕混合した。粉砕混合後のスラリーを、乾燥し、マグネシウム含有量が2.0mol%、及び、セリウム含有量が2.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアからなるジルコニア粉末を得た。
【0123】
得られた粉末を縦40mm×横30mmの板状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、板状の成形体を得た。また、Φ25mmの円柱状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、円柱状の成形体を得た。得られた成形体を以下の条件で焼結して、マグネシウム含有量が2.0mol%、及び、セリウム含有量が2.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアからなる本実施例のジルコニア焼結体を得た。
焼結方法 : 常圧焼結
焼結雰囲気 : 大気雰囲気
焼結温度 : 1200℃
焼結時間 : 2時間
【0124】
比較例6
焼結温度を1150℃としたこと、及び、焼結時間を4時間としたこと以外は比較例5と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0125】
比較例7
比較例1と同様なジルコニア粉末を使用し、Mn3O4含有量が0.4質量%となるようにMn3O4を添加したのち、GdMnO3含有量が0.2質量%となるようにGdMnO3を添加した混合粉末を作製し、混合粉末を純水に添加してスラリーとし、これを、直径2mmのジルコニア製ボールを粉砕媒体としたボールミルで、24時間、粉砕混合した。粉砕混合後のスラリーを、乾燥し、マグネシウム含有量が2.0mol%及びセリウム含有量が9.0mol%であるマグネシウム及びセリウム安定化ジルコニアを母体として、Mn3O4含有量が0.4質量%及びGdMnO3含有量が0.2質量%含む本実施例のジルコニア粉末を得た。
【0126】
得られた粉末を縦40mm×横30mmの板状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、板状の成形体を得た。また、Φ25mmの円柱状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、円柱状の成形体を得た。得られた成形体を以下の条件で焼結して、マグネシウム含有量が2.0mol%及びセリウム濃度が9.0mol%であるマグネシア及びセリウム安定化ジルコニアを母体として、Mn3O4含有量が0.4質量%及びGdMnO3含有量が0.2質量%含む本実施例のジルコニア焼結体を得た。
焼結方法 : 常圧焼結
焼結雰囲気 : 大気雰囲気
焼結温度 : 1200℃
焼結時間 : 2時間
【0127】
比較例8
安定化元素として9.0mol%のマグネシウムを含むジルコニア焼結体(東ソー社製 TZ-9Mg)を、縦40mm×横30mmの板状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、板状の成形体を得た。また、Φ25mmの円柱状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、円柱状の成形体を得た。得られた成形体を以下の条件で焼結して本比較例のジルコニア焼結体とした。
焼結方法 : 常圧焼結
焼結雰囲気 : 大気雰囲気
焼結温度 : 1550℃
焼結時間 : 2時間
【0128】
比較例9
焼結温度を1200℃としたこと以外は比較例8と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0129】
比較例10
安定化元素として12.0mol%のセリウムを含むジルコニア焼結体(東ソー社製 TZ-12Ce)を、縦40mm×横30mmの板状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、板状の成形体を得た。また、Φ25mmの円柱状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、円柱状の成形体を得た。得られた成形体を以下の条件で焼結して本比較例のジルコニア焼結体とした。
焼結方法 : 常圧焼結
焼結雰囲気 : 大気雰囲気
焼結温度 : 1550℃
焼結時間 : 2時間
【0130】
比較例11
焼結温度を1200℃としたこと以外は比較例10と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0131】
比較例12
安定化元素として3.0mol%のイットリウムを含むジルコニア焼結体(東ソー社製 TZ-3YS)を、縦40mm×横30mmの板状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、板状の成形体を得た。また、Φ25mmの円柱状の金型に充填し、成形圧力50MPaでの一軸加圧、及び、成形圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、円柱状の成形体を得た。得られた成形体を以下の条件で焼結して本比較例のジルコニア焼結体とした。
焼結方法 : 常圧焼結
焼結雰囲気 : 大気雰囲気
焼結温度 : 1500℃
焼結時間 : 2時間
【0132】
比較例13
焼結温度を1200℃としたこと以外は比較例12と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0133】
上記の実施例及び比較例の評価結果について、下表に示す。
【0134】
【0135】
上表において、実測密度の項目については、開気孔率が10%以上であるような低密度の試料は「測定不可」とした。M相率の項目は各実施例及び比較例の単斜晶相率を意味する。△θ(400)t及び△θ(004)tの項目については、単斜晶相のピークが大きく、シフト後の正方晶相のピークとの識別が難しい試料は「測定不可」とした。落球強度の項目については、焼結時に割れが発生した、又は、緻密化が十分進行せず試料が崩壊したなど、落球試験による耐衝撃性評価を行うまでもなく焼結体が容易に破壊した試料は「測定不可」とした。
【0136】
実施例の焼結体はいずれも、1200℃以下の低温でも実測密度が5.50g/cm3以上6.30g/cm3以下である焼結体を得ることができた。また、単斜晶相率が70%以下であること、さらに△θ(400)tが0.3よりも大きく、低温でも安定化元素が十分に固溶していることがわかる。さらに強度比A/Bが0.05よりも小さい事から立方晶を含まない焼結体であり、実際に落球強度を測定すると比較例のものよりも高い耐衝撃性を示した。よって1300℃以下の焼結温度であっても、十分に緻密化が進行し、構造材料や装飾材料として適し、かつ高い耐衝撃性を示す焼結体を作成可能であった。これにより持続可能性が高く、かつ耐衝撃性に優れた、構造材料や装飾材料として適した焼結体及びその製造方法の少なくともいずれかを提供することが出来る。