(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182015
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】半導体装置、半導体装置の製造方法、太陽電池、太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/0224 20060101AFI20231219BHJP
H01L 31/0687 20120101ALI20231219BHJP
【FI】
H01L31/04 260
H01L31/06 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095367
(22)【出願日】2022-06-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽光発電主力電源化推進技術開発/太陽光発電の新市場創造技術開発/移動体用太陽電池の研究開発(超高効率モジュール技術開発)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】牧田 紀久夫
(72)【発明者】
【氏名】水野 英範
【テーマコード(参考)】
5F151
5F251
【Fターム(参考)】
5F151AA01
5F151AA03
5F151AA05
5F151AA08
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5F251GA20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】半導体装置や太陽電池の信頼性が向上する接合構造を有する半導体装置や太陽電池、およびそれらの製造方法の提供である。
【解決手段】シリコン層を含み、第1接合面を有する第1半導体素子SB1と、第1接合面と対向する第2接合面を有する第2半導体素子SB2と、第1接合面と第2接合面との間に位置し、第1半導体素子SB1と第2半導体素子SB2とを電気的に接続する複数の導電性ナノ粒子23と、を備え、複数の導電性ナノ粒子23は、シリコン層内に入り込んでいる、半導体装置または太陽電池である。また、第1半導体素子SB1と第2半導体素子SB2とを準備して、第1半導体素子SB1の第1接合面上に複数の導電性ナノ粒子23を配置し、当該複数の導電性ナノ粒子23をシリコン層内に入り込ませた後、複数の導電性ナノ粒子23を介して第1接合面に第2接合面を対向させて押圧する、半導体装置または太陽電池の製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン層を含み、第1接合面を有する第1半導体素子と、
前記第1接合面と対向する第2接合面を有する第2半導体素子と、
前記第1接合面と前記第2接合面との間に位置し、前記第1半導体素子と前記第2半導体素子とを電気的に接続する複数の導電性ナノ粒子と、を備え、
前記複数の導電性ナノ粒子は、前記シリコン層内に入り込んでいる、半導体装置。
【請求項2】
前記複数の導電性ナノ粒子のそれぞれは、パラジウム、金、銀、白金、ニッケル、アルミニウム、インジウム、酸化インジウム、亜鉛、酸化亜鉛、銅のいずれかを含有する、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記複数の導電性ナノ粒子の露出高さは20nm以下であり、前記シリコン層内に入り込んでいる高さは5nm以上である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の半導体装置を備える太陽電池であって、前記第1半導体素子のシリコン層が、結晶シリコンまたはアモルファスシリコンの半導体材料を含み、前記第2半導体素子が、GaAs、AlGaAs、InGaP、AlGaInP、InGaAsP、InGaAs、カルコゲナイド系、ペロブスカイト系、有機系のうち1以上の半導体材料を含む、太陽電池。
【請求項5】
(a)シリコン層を含み、第1接合面を有する第1半導体素子を準備する工程、
(b)第2接合面を有する第2半導体素子を準備する工程、
(c)前記第1接合面上に複数の導電性ナノ粒子を配置する工程、
(d)前記(c)工程の後、複数の導電性ナノ粒子を前記シリコン層内に入り込ませる工程、
(e)前記(d)工程の後、前記複数の導電性ナノ粒子を介して前記第1接合面に前記第2接合面を対向させて押圧する工程、
を備える、半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記複数の導電性ナノ粒子として、パラジウム、金、銀、白金、ニッケル、アルミニウム、インジウム、酸化インジウム、亜鉛、酸化亜鉛、銅のいずれかの粒子を使用する、請求項5に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記複数の導電性ナノ粒子の露出高さを20nm以下、前記シリコン層内に入り込ませる高さを5nm以上とする、請求項5に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法を含む太陽電池の製造方法であって、前記第1半導体素子のシリコン層として、結晶シリコンまたはアモルファスシリコンの半導体材料を使用し、前記第2半導体素子として、GaAs、AlGaAs、InGaP、AlGaInP、InGaAsP、InGaAs、カルコゲナイド系、ペロブスカイト系、有機系のうち1以上の半導体材料を使用する、太陽電池の製造方法。
【請求項9】
前記工程(d)において、金属アシスト化学エッチング法により導電性ナノ粒子を前記シリコン層内に入り込ませる、請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記工程(d)において、金属アシスト化学エッチング法により導電性ナノ粒子を前記シリコン層内に入り込ませる、請求項8に記載の太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置およびその製造方法、また太陽電池およびその製造方法に関し、例えば、複数の太陽電池セルを積層するために使用される接合層に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置として、互いに異なる半導体材料から構成される第1半導体素子と第2半導体素子とを電気的に接続しながら積層した半導体装置が知られている。例えば、そのような半導体装置として、多接合太陽電池がある。多接合太陽電池は、複数のセルを積層することにより、高性能化を図ることができる太陽電池である。例えば、高効率なGaAs系太陽電池をトップセル(受光側)、低コストなSi系太陽電池をボトムセル(非受光側)とした多接合太陽電池は、高効率かつ低コストな太陽電池が実現できるものとして期待されている。そして、その製法としては、トップセルとボトムセルとを結晶成長技術を用いて積層する方法や、接合技術を用いて機械的に積層する方法(メカニカルスタック法)がある。
【0003】
例えば、メカニカルスタック法として、Pdなどの導電性ナノ粒子を接合界面上に配列させ、それらを介在させてトップセルとボトムセルとを接合した接合技術(以下、スマートスタック技術という)がある(特許文献1、非特許文献1)。また、このスマートスタック技術に関しては、さらに接合面の表面処理の検討も行われている(非特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H. Mizuno, et al., Japanese Journal of Applied Physics 55, 025001 (2016)
【非特許文献2】K. Makita, et al.,35th European Photovoltaic Solar Energy Conference and Exhibition,(2018), p20-22.
【非特許文献3】K. Makita, et al., Progress in Photovoltaics, Research and Applications, 28, (2020), p16-24.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記文献等に記載のスマートスタック技術においては、導電性ナノ粒子によって、トップセルとボトムセルとを電気的に接続するものであるが、接合構造によって電池性能や半導体装置の品質は左右されるため、接合構造は重要であり、引いては半導体装置や太陽電池の信頼性にも繋がる。
本発明は、半導体装置や太陽電池の信頼性が向上する接合構造を有する半導体装置や太陽電池、およびそれらの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明者らは、鋭意研究の結果、第1半導体素子と第2半導体素子とを電気的に接続する導電性ナノ粒子が、第1半導体素子のシリコン層に入り込むことで、第1半導体素子と第2半導体素子との電気的接続が良好となること、また、安定した接合構造となることを見出した。このことは、引いては電池性能や半導体装置の品質向上にも繋がるものである。具体的には、以下の構成を採用した。
(1)一実施の形態における半導体装置は、シリコン層を含み、第1接合面を有する第1半導体素子と、前記第1接合面と対向する第2接合面を有する第2半導体素子と、前記第1接合面と前記第2接合面との間に位置し、前記第1半導体素子と前記第2半導体素子とを電気的に接続する複数の導電性ナノ粒子と、を備え、前記複数の導電性ナノ粒子は、前記シリコン層内に入り込んでいる、半導体装置である。
(2)また、一実施の形態における太陽電池は、前記(1)に記載の半導体装置を備える太陽電池であって、前記第1半導体素子のシリコン層が、結晶シリコンまたはアモルファスシリコンの半導体材料を含み、前記第2半導体素子が、GaAs、AlGaAs、InGaP、InGaAsP、AlGaInP、InGaAs、カルコゲナイド系、ペロブスカイト系、有機系のうち1以上の半導体材料を含む、太陽電池である。
【0008】
(3)一実施の形態における半導体装置の製造方法は、(a)シリコン層を含み、第1接合面を有する第1半導体素子を準備する工程、(b)第2接合面を有する第2半導体素子を準備する工程、(c)前記第1接合面上に複数の導電性ナノ粒子を配置する工程、(d)前記(c)工程の後、複数の導電性ナノ粒子を前記シリコン層内に入り込ませる工程、(e)前記(d)工程の後、前記複数の導電性ナノ粒子を介して前記第1接合面に前記第2接合面を対向させて押圧する工程、を備える、半導体装置の製造方法である。
(4)また、一実施の形態における太陽電池の製造方法は、前記(3)に記載の半導体装置の製造方法を含む太陽電池の製造方法であって、前記第1半導体素子のシリコン層として、結晶シリコンまたはアモルファスシリコンの半導体材料を使用し、前記第2半導体素子として、GaAs、AlGaAs、InGaP、InGaAsP、AlGaInP、InGaAs、カルコゲナイド系、ペロブスカイト系、有機系のうち1以上の半導体材料を使用する、太陽電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
一実施の形態によれば、半導体装置や太陽電池の信頼性が向上する接合構造を有する半導体装置や太陽電池、およびそれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の半導体装置(多接合太陽電池)の構成図である。
【
図2】多接合太陽電池の製造方法を説明する模式図である。
【
図3】金属アシスト化学エッチング(MACE)法の原理を説明する図である。
【
図4】別実施形態1(実施例)の多接合太陽電池の構成図である。
【
図5】別実施形態2の多接合太陽電池の構成図である。
【
図6】別実施形態3の多接合太陽電池の構成図である。
【
図9】多接合太陽電池の電圧と電流密度との関係を示した図である。
【
図10】多接合太陽電池のMACE処理後のSi表面における原子間力顕微鏡(AFM)写真である(実施例)。
【
図11】多接合太陽電池のMACE処理なし(A)とBHF処理あり(B)のSi表面における原子間力顕微鏡写真である(比較例)。
【
図12】各多接合太陽電池(サンプルA―C)の写真である。
【
図13】各多接合太陽電池(サンプルA―C)の窒素ブロー後の写真である。
【
図14】サンプルAのTEM像およびエネルギー分散型X線分光法(TEM-EDX)による分析結果を示した図である(実施例)。
【
図15】サンプルBのTEM像およびエネルギー分散型X線分光法(TEM-EDX)による分析結果を示した図である(比較例)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ詳しく説明する。なお、図中同一符号は同一又は相当部分を示す。なお、本明細書中、数値範囲を示す場合は、上限および下限を含むものとする。
【0012】
(実施形態1)
本実施の形態における技術的思想は、互いに異なる半導体材料から構成される第1半導体素子と第2半導体素子とを電気的に接続しながら積層する半導体装置に幅広く適用することができるが、以下では、太陽電池を例に挙げて、この技術的思想を説明する。
図1には、本実施の形態の半導体装置(多接合太陽電池)の構成図を示す。
図1において、多接合太陽電池1は、ボトムセルの太陽電池素子SB1とトップセルの太陽電池素子SB2とを有する。ここで、太陽電池素子SB1は、シリコンセルから構成されている。一方、太陽電池素子SB2は、GaAsセルから構成されている。多接合太陽電池は異なる性質のセルを組み合わせる太陽電池であり、太陽光が直接入射する上層の透明な「トップセル」と、下層の「ボトムセル」で構成し、異なる材料を組み合わせることで幅広い波長の光を利用でき、変換効率を高められるメリットがある。なお、明細書中、太陽電池素子のことを、単にセルという場合がある。
【0013】
ボトムセルの太陽電池素子SB1は、p型電極11が形成されたp型シリコン基板13とp型基板13上に形成されたn型シリコン層15とを有している。そして、トップセルの太陽電池素子SB2は、光吸収層として機能するp型GaAs層17と、p型GaAs層17上に形成されたn型GaAs層19と、n型GaAs層19上に形成されたn型電極21とを有している。太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2とは、
図1に示すように、複数の導電性ナノ粒子23により接合される。これにより、太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2とは、機械的に接合されるとともに、電気的に接続される。例えば、導電性ナノ粒子23としては、パラジウム(Pd)からなるナノ粒子を使用することができる。
【0014】
このような多接合太陽電池1において、太陽電池素子SB2の上方から可視光や赤外光を含む太陽光が照射されると、太陽電池素子SB2の構成要素であるn型GaAs層19に太陽光が照射され、n型GaAs層19と、n型GaAs層19の下層に位置するp型GaAs層17に入射する。このとき、n型GaAs層19とp型GaAs層17は、1.42eVのバンドギャップを有することから、太陽光のうち、1.42eV以上の光エネルギーを有する光は吸収される。具体的には、GaAs層(n型GaAs層19とp型GaAs層17)の価電子帯に存在する電子が、太陽光から供給される光エネルギーを受け取って伝導帯に励起される。これにより、伝導帯に電子が蓄積されるとともに価電子帯に正孔が生成される。このようにして、太陽電池素子SB2に太陽光が照射されることにより、太陽光に含まれる1.42eV以上の光エネルギーを有する光によって、GaAs層の伝導帯に電子が励起されるとともに、GaAs層の価電子帯に正孔が生成される。そして、pn接合部の一方を構成するn型GaAs層19の伝導帯は、pn接合部の他方を構成するp型GaAs層17の伝導帯よりも電子的に見てエネルギーが低い位置にある。このことから、伝導帯に励起された電子は、n型GaAs層19に移動して、n型GaAs層19に電子が蓄積される。一方、価電子帯に存在する正孔は、p型GaAs層17に移動して、p型GaAs層17に正孔が蓄積する。この結果、p型GaAs層17とn型GaAs層19との間に起電力(V1)が生じる。
【0015】
一方、太陽光のうち、1.42eVよりも小さな光エネルギーを有する光は、GaAs層で吸収されずに、GaAs層を透過する。これにより、
図1において、太陽光のうち、1.42eVよりも小さな光エネルギーを有する光は、太陽電池素子SB2の下層に配置されている太陽電池素子SB1に入射する。このとき、n型シリコン層15とp型シリコン基板13は、1.12eVのバンドギャップを有することから、太陽光のうち、1.42eVよりも小さく、かつ、1.12eV以上の光エネルギーを有する光は吸収される。具体的には、シリコン層(n型シリコン層15とp型シリコン基板13)の価電子帯に存在する電子が、太陽光から供給される光エネルギーを受け取って伝導帯に励起される。これにより、伝導帯に電子が蓄積されるとともに価電子帯に正孔が生成される。このようにして、太陽電池素子SB1に太陽光が照射されることにより、1.42eVよりも小さく、かつ、1.12eV以上の光エネルギーを有する光によって、シリコン層の伝導帯に電子が励起されるとともに、シリコン層の価電子帯に正孔が生成される。この結果、p型シリコン基板13に正孔が蓄積される一方、伝導帯に存在する電子は、n型シリコン層15に蓄積する。この結果、p型シリコン基板13とn型シリコン層15との間に起電力(V2)が生じる。
【0016】
ここで、太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2は、複数の導電性ナノ粒子23で直列接続されている。つまり、太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2は、直列接続されていることになる。この結果、直列接続されている太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2からなる多接合太陽電池1には、起電力(V1)と起電力(V2)を合わせた起電力が生じる。そして、例えば、n型電極21とp型電極11との間に負荷を接続すると、n型電極21から負荷を通ってp型電極11に電子が流れる。言い換えれば、p型電極11から負荷を通ってn型電極21に電流が流れる。このようにして、多接合太陽電池1を動作させることにより、負荷を駆動することができる。
【0017】
そして、多接合太陽電池1によれば、太陽光に含まれる光エネルギーの大きな光とともに光エネルギーの小さな光も吸収して電気エネルギーに変換することができるため、光電変換効率を向上させることができる。すなわち、多接合太陽電池1によれば、単一の太陽電池では利用することができない光エネルギーの小さな光も利用することができることから、太陽光の利用効率を向上できる点で優れている。
【0018】
次に、本実施の形態の多接合太陽電池1の特徴について説明する。
この多接合太陽電池1は、太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2とを接合する導電性ナノ粒子23が、シリコン層、この例ではn型シリコン層15の内部に入り込んでいる接合構造を有していることを特徴としている。これにより、太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2との接合における導電性と機械的接合強度の両方の作用効果を奏することができる。以下に、多接合太陽電池の構造について詳述する。
【0019】
(太陽電池素子SB1)
太陽電池素子SB1は、p型電極11が形成されたp型シリコン基板13とp型シリコン基板13上に形成されたn型シリコン層15を有し、シリコンセルとも称される。p型電極11としては、例えば銀膜やアルミニウム膜から構成される。ボトムセルとしては、長波長領域を吸収する安価なシリコン(シリコンセル)がよい。例えば、単結晶シリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコン、アモルファスシリコンなどがある。そして、太陽電池素子SB1では、例えば、バンドギャップは 1.12eVであり、太陽光のうち1.12eV以上の光エネルギーを有する光が吸収される。
【0020】
太陽電池素子SB1は、以下の方法により作製する。まず、p型シリコン基板13を準備する。そして、当該p型シリコン基板13の表面を洗浄した後、p型シリコン基板13の片側面にn型シリコン層15を、例えば熱拡散法あるいはイオン注入法により形成する。この際、n型シリコン層15の表面全面または一部には、熱拡散時の高温処理により、またはイオン注入法では注入されたドーパント材料を活性化するためのアニール熱処理により、酸化領域25(SiO
2)が1nm-20nm程度、n型シリコン層15上に形成される。最後に、p型電極11を、例えばスパッタリング法により形成し、
図1に示すような層構造を形成する。
【0021】
(太陽電池素子SB2)
太陽電池素子SB2は、p型GaAs層17と、p型GaAs層17上に形成されたn型GaAs層19と、n型GaAs層19上に形成されたn型電極21とを有している。n型電極21としては、例えばAuGeNi/Au、TiAu/Auなどの合金膜から構成される。トップセルとしては、短波長領域を吸収する高効率なGaAsセルの他に、CIGS(Cu,In,Ga,Se)層(CIGS系セル)、InGaP層(InGaP系セル)などでもよい。太陽電池素子SB2では、例えばGaAsセルでは、バンドギャップは1.42eVであり、太陽光のうち、1.42eV以上の光エネルギーを有する光が吸収される。
【0022】
太陽電池素子SB2は、以下の方法により作製する。まず、通常のプロセスを使用することにより、表面を洗浄したGaAs基板(図示せず)上にp型GaAs層17、n型GaAs層19などの太陽電池素子SB2の積層構造を形成する。積層構造は、例えば、有機金属結晶成長法(MOCVD:Metal Oraganic Chemical Vapour Deposition)、分子線結晶成長法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)などの結晶成長法を用いて形成することが可能である。そして、n型GaAs層19上に、n型電極21を、電子ビーム蒸着法により形成する。なお、n型電極21の形成方法は、他の方法でもよく、例えば、直流マグネトロンスパッタリング法や抵抗加熱蒸着法、スクリーン印刷法、電着法などを用いてもよい。n型電極21は、光が透過する領域を確保するためにグリッド状に加工されている。その後、ELO(Epitaxial lift off)法を使用することにより、太陽電池素子SB2をGaAs基板から分離する。これにより、太陽電池素子SB2の積層構造を形成できる。このようにして、太陽電池素子SB2に接合面となる界面が形成されるが、ELO法によりGaAs基板から分離された面であるので導電性ナノ粒子23による接合に適した平坦性が担保される。
なお、前記太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2は、上記方法に限らず、公知の方法により作製される。また、太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2は、どちらを先に作製しても構わない。
【0023】
(導電性ナノ粒子23)
導電性ナノ粒子23は、太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2とを電気的に接続するものである。導電性ナノ粒子23は、太陽電池素子SB1側のn型シリコン層15の内部に入り込んでおり、安定的に保持される。導電性ナノ粒子23としては、例えば、パラジウムの他に、金、銀、白金、ニッケル、アルミニウム、インジウム、亜鉛、銅などの金属ナノ粒子や、酸化インジウム、酸化亜鉛のいずれかを用いるとよい。導電性ナノ粒子23のサイズは、良好な導電性とナノ粒子による光の吸収・散乱の抑制等を考慮して、直径10-500nmであることが好ましく、より好ましくは直径10-100nmである。また、導電性ナノ粒子23の間隔は、導電性ナノ粒子23の平均直径の2倍以上10倍以下とすることができる。これにより、複数の導電性ナノ粒子23による導電性を確保することができるとともに、接合部分における透光性も充分に確保することができる。
【0024】
また、導電性ナノ粒子23の形状は、導電性を確保できればよく、例えば、球状に限らず、四角柱や円柱などの柱状や、細線状、繊維状、不定形状などでもよい。導電性ナノ粒子23の形状の制御は、例えば後述するブロック共重合体の組成等を調整することにより制御可能である。
そして、本実施の形態の多接合太陽電池1においては、導電性ナノ粒子23が、太陽電池素子SB1側のn型シリコン層15の内部に入り込んでいることで、太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2との電気的接続が良好となり、また、安定した、接合強度に優れた接合構造が可能となる。したがって、本実施形態によれば、接合強度と良好な電池特性の両方を兼ね備えた太陽電池の提供が可能となる。
【0025】
(太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2との接合方法)
図2および
図3に基づいて、太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2との接合方法について説明する。まず、通常のスマートスタック技術に従い、ブロック共重合体を用いて導電性ナノ粒子23の微小配列パターンを作製後、塩化物溶液で処理して導電性ナノ粒子23を析出させ、アルゴンプラズマで処理することにより、
図2(B)に示すように、導電性ナノ粒子23配列を形成する。以下に一例を示す。
接合対象の一方である太陽電池素子SB1の表面(n型シリコン層15の表面)にブロック共重合体からなる薄膜(図示せず)を形成する。具体的には、トルエンやオルトキシレンなどの有機溶媒に溶解させた疎水性部分であるポリスチレンと親水性部分であるポリ-2-ビニルピリジンからなるブロック共重合体をスピンコーティング法やディップコーティング法を使用してn型シリコン層15の表面に塗布する。これにより、ブロック共重合体の相分離に起因して、n型シリコン層15の表面には、ポリ-2-ビニルピリジンブロックがパターン化される。すなわち、n型シリコン層15の表面には、親水性のドメイン領域が形成される。次に、太陽電池素子SB1をNa
2PdCl
4に代表される金属イオン塩を溶解させた水溶液に浸す。これにより、ピリジンとの化学相互作用を介して、金属イオン(Pd
2+)をポリ-2-ビニルピリジンブロックからなるパターンの中に取り込むことができる。つまり、金属イオン(Pd
2+)は、上述した親水性ドメイン領域に選択的に析出する。そして、充分な水洗後、太陽電池素子SB1に対して、例えば、アルゴンプラズマ等を用いることにより、ブロック共重合体の除去処理と金属イオンの還元処理を行なう。この結果、パターンを保持した状態で、導電性ナノ粒子23の規則的な配列を形成できる(
図2(B))。なお、導電性ナノ粒子23の形状の制御は、ブロック共重合体の重合度を変えることにより可能である。例えばポリスチレン:ポリ-2-ビニルピリジン=133000:132000の重合度とした場合は導電性ナノ粒子の直径サイズが50nmであるが、ポリスチレン:ポリ-2-ビニルピリジン=135000:53000とポリ-2-ビニルピリジンを少なくした場合には導電性ナノ粒子の直径サイズは25nmと小さく制御できる。
【0026】
次に、エッチング液(例えば、過酸化水素(H
2O
2)/フッ化水素(HF)溶液)に太陽電池素子SB1全体を浸漬すると、導電性ナノ粒子23が接触している部分のみが選択的に浸食(エッチングともいう)され、
図2(C)に示すように、導電性ナノ粒子23が沈下して酸化領域25を貫通しn型シリコン層15内に入り込む。なお、浸漬に限らず、エッチング液を太陽電池素子SB1表面に滴下、塗布しても良い。この手法は、金属アシスト化学エッチング(MACE:Metal assisted chemical etching)法といい、原理を
図3に示す。なお、
図3は、単に原理を説明するための模式図である。式(1)および(2)に示すように、シリコン(Si)の酸化反応によってできる電子と過酸化水素の分解によってできる正孔が導電性金属である導電性ナノ粒子23を介在して反応し、酸化反応を促進し、エッチング領域27が形成される。そして、式(3)に示すように、二酸化ケイ素はフッ化水素と反応しエッチング残渣物であるSiF
6となって排出される。
H
2O
2+2H
+→2H
2O+2h
+ (1)
Si+2H
2O → SiO
2+4H
++4e
- (2)
SiO
2+2HF
2
-+2HF → SiF
6
2-+2H
2O (3)
【0027】
その後、接合対象の他方である太陽電池素子SB2を導電性ナノ粒子23が配置された太陽電池素子SB1上に重ねた後、適切な加圧処理(例えば、5N/cm
2)を施すことにより、太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2とを接合する(
図2(D))。このようにして、導電性ナノ粒子23により太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2との接合が実現される。
【0028】
通常のスマートスタック技術を用いて、シリコンセルとGaAsセルから構成されている多接合太陽電池を作製する場合、非特許文献2-3に示されるように、シリコンセル表面における酸化領域の存在により、特にセル間の接合抵抗が大きくなり、太陽電池の特性に影響を与えることが問題となっていた。
しかしながら、本実施形態によれば、導電性ナノ粒子23が酸化領域25を貫通して、下側の低抵抗のn型シリコン層15内にまで入り込んでいることで、酸化領域25の影響を受けることはなく、セル間の接合抵抗を改善できる。特に、MACE法によれば、導電性ナノ粒子23が接触している領域だけが選択的に侵食されることで、容易に導電性ナノ粒子23をn型シリコン層15内に入り込ませることができる。これにより、導電性ナノ粒子23がいわゆるアンカー効果によって、安定した、接合強度に優れた接合構造が形成される。したがって、半導体装置や太陽電池の信頼性を向上させることができる。
【0029】
また、MACE法(MACE処理ともいう)では、エッチング液による処理時間(浸漬時間)や液量、エッチング液の組成(例えば、H2O2とHFとのモル比)、エッチング液の濃度を制御することで導電性ナノ粒子23の沈下高さを調整することが可能である。例えば、処理時間を長くしたり、H2O2/HF溶液の濃度を高くしたりすることで、エッチング領域27の範囲が大きくなる(深くなる)。酸化領域25はH2O2/HF溶液だけでも一部エッチングされるが、Pdなどの導電性ナノ粒子の直下領域ではMACEの効果により選択的にエッチングが高速で進行する。そして、導電性ナノ粒子23は酸化領域25を完全に貫通する。このとき、n型シリコン層15内深さ5nm以上に位置するようにするのが望ましい。
【0030】
スマートスタック技術では導電性ナノ粒子の高さに規定されて、接合界面に空気あるいは粘着剤が存在する。ここで、空気、粘着剤などは低屈折率であるために、接合界面において光反射による光学的損失が生じてしまう。しかしながら、導電性ナノ粒子23をシリコンセル内に深く入り込ませることで、この空気、粘着剤の実効的な厚さを減じて光学的損失を低減することが可能である。例えば、太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2との間隔H(
図1、接合ギャップともいう。)が20nm以下、好ましくは10nm以下であれば光反射損失を10%以下にすることが可能である。この間隔Hは導電性ナノ粒子23の露出高さに相当し、当該露出高さを制御することで光学的損失の低減が可能となる。また、導電性ナノ粒子23の形状、サイズ、密度を変えることでも、間隔Hを実効的に制御することができる。そして、導電性ナノ粒子23の沈下が深い方が、導電性ナノ粒子23が、より安定してシリコン層に保持されるため、導電性ナノ粒子23の全体高さのうち半分以上沈下するように制御すると好適である。また、間隔Hは限りなく0(ゼロ)に近い方が良く、0(ゼロ)とすることも可能である。
【0031】
(実施形態2)
図4には、別実施形態の半導体装置(多接合太陽電池)の構成図を示す。
図1に示した多接合太陽電池1は、シリコンセルとGaAsセルとの2接合から構成される太陽電池であったが、3接合以上の太陽電池にも上記接合構造は適用できる。
図4の多接合太陽電池3は、ボトムセルの太陽電池素子SB3とミドルセルの太陽電池素子SB4とトップセルの太陽電池素子SB5とを有し、太陽電池素子SB3はシリコンセルから構成されており、太陽電池素子SB4はGaAsセルから構成されており、太陽電池素子SB5はInGaPセルから構成されている。具体的には、太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5は、InGaPとGaAsの2接合素子であり、太陽電池素子SB3はTOPCon (Tunnel Oxide Passivated Contact) シリコンセルと称されるもので、薄膜酸化層を介在してコンタクト層であるシリコン層(アモルファスあるいは多結晶シリコン)を形成し、電流損失を低減した高効率が特徴のシリコンセルである。
【0032】
太陽電池素子SB3は、例えば、アルミニウム膜または銀膜などからなるp型電極31が形成されたp型シリコン層(アモルファスあるいは多結晶シリコン)30と、p型シリコン層30上に形成されたSiOxトンネル層32と光吸収層となるp型シリコン基板33とp型シリコン基板33上に形成されたSiOxトンネル層32とn型シリコン層(アモルファスあるいは多結晶シリコン)35とを有している。また、多接合太陽電池1(
図1)と同様に、n型シリコン層35の表面全面または一部には、10nm程度の酸化領域25が生じている。このようにして、太陽電池素子SB3が構成されている。
【0033】
太陽電池素子SB3は、以下の方法により作製する。すなわち、表面を洗浄したp型シリコン基板33の両側にSiOx酸化膜からなる薄膜トンネル層(SiOxトンネル層32)を形成し、その後導電性の多結晶あるいはアモルファスシリコン層(p型シリコン層30、n型シリコン層35)を両面に形成し、最後に裏面にp型電極31として銀膜あるいはアルミニウム膜を形成することにより得られる。
【0034】
そして、太陽電池素子SB4は、コンタクト層として機能するp型GaAs層37と、p型GaAs層上に形成された光吸収層として機能するp型GaAs層39と、p型GaAs層39上に形成されたn型GaAs層41とを有している。このようにして、太陽電池素子SB4が構成されている。
【0035】
また、太陽電池素子SB5は、光吸収層として機能するp型InGaP層43と、p型InGaP43層上に形成されたn型InGaP層45と、n型InGaP層45上に形成されたn型電極(例えば、AuGeNi/AuあるいはTi/Auの合金電極)47とを有している。このようにして、太陽電池素子SB5が構成されている。ここで、太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5とは、1つの半導体チップに形成されており、太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5は、半導体チップに形成されるトンネル層49によって接合されるとともに電気的にも直列接続されることになる。例えば、トンネル層は、太陽電池素子SB4のn型GaAs層41と太陽電池素子SB5のp型InGaP層43とに挟まれる縮退した半導体層から構成される。これにより、太陽電池素子SB4のn型GaAs層41と太陽電池素子SB5のp型InGaP層43とは電気的に接続されることになる。
【0036】
なお、太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5は通常のプロセスを使用することにより作製される。すなわち、表面を洗浄したGaAs基板上に順次エピタキシャル成長した後、ELO法で太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5との積層構造をGaAs基板から分離して形成される。
【0037】
一方、太陽電池素子SB3は、太陽電池素子SB4や太陽電池素子SB5と結晶構造が基本的に異なることから、結晶成長で一括形成ができない。このため、太陽電子素子SB3は、太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5とが形成された半導体基板とは別の半導体基板に形成される。
【0038】
そして、
図2に示す方法により、太陽電池素子SB3上に導電性ナノ粒子23の配列を形成し、次いで導電性ナノ粒子23が接触している部分のみを選択的に浸食させる。その後、太陽電池素子SB3が形成された半導体チップと、太陽電池素子SB4および太陽電池素子SB5が形成された半導体チップとを、重ね合わせて加圧処理する。これにより、太陽電池素子SB3と太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5は複数の導電性ナノ粒子23により機械的に接合されるとともに、電気的に接続される。ここで、太陽電池素子SB3と太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5とは異なるバンドギャップを有しており、実施形態1で説明したように、各太陽電池素子において起電力が生じ、多接合太陽電池3全体として、各起電力の合計の起電力が生じる。本実施形態によっても、実施形態1と同様の作用効果を奏することができる。
【0039】
(実施形態3)
図5には、別実施形態の半導体装置(多接合太陽電池)の構成図を示す。多接合太陽電池5は、ボトムセルの太陽電池素子SB1とミドルセルの太陽電池素子SB4とトップセルの太陽電池素子SB5とを有し、太陽電池素子SB1はシリコンセルから構成されており、太陽電池素子SB4はGaAsセルから構成されており、太陽電池素子SB5はInGaPセルから構成されている。すなわち、太陽電池素子SB1は
図1の多接合太陽電池1の太陽電池素子SB1と同様の構成であり、太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5は、
図4の多接合太陽電池3の太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5と同様の構成であるため、説明は省略する。これら太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5の作製、太陽電池素子SB1上への導電性ナノ粒子23の配列および導電性ナノ粒子23の接触部分の浸食、太陽電池素子SB1と、太陽電池素子SB4および太陽電池素子SB5との接合等は、上記した実施形態と同様の方法で行われる。このことは、以下の実施形態にも共通する。本実施形態によっても、実施形態1等と同様の作用効果を奏することができる。ここで、太陽電池素子SB1は裏面障壁(BSF:Back Surface Field)型シリコンと称されるもので、p型シリコン基板13のp型電極11に近い側を高濃度のp型層にすることにより電極近傍での電子の損失を低減し、高効率が可能なシリコンセルである。
【0040】
(実施形態4)
図6には、別実施形態の半導体装置(多接合太陽電池)の構成図を示す。多接合太陽電池7は、ボトムセルの太陽電池素子SB6とミドルセルの太陽電池素子SB4とトップセルの太陽電池素子SB5とを有し、太陽電池素子SB6はシリコンセルから構成されており、太陽電池素子SB4はGaAsセルから構成されており、太陽電池素子SB5はInGaPセルから構成されている。
【0041】
太陽電池素子SB6は、例えば、アルミニウム膜または銀膜などからなるp型電極51が形成されたp型アモルファスシリコン層53と、p型アモルファスシリコン層53上に形成されたi型アモルファスシリコン層55とi型アモルファスシリコン層55上に形成された光吸収層となるn型シリコン基板57とn型シリコン基板57上に形成されたi型アモルファスシリコン層55とi型アモルファスシリコン層55上に形成されたn型アモルファスシリコン層61とを有している。また、多接合太陽電池1(
図1)と同様に、n型アモルファスシリコン層61の表面全面または一部には、酸化領域25が生じている。このようにして、太陽電池素子SB6が構成されている。
【0042】
太陽電池素子SB6は、以下の方法により作製する。すなわち、表面を洗浄したn型シリコン基板57の両側にi型アモルファスシリコン層55を形成し、その後導電性のアモルファスシリコン層(p型アモルファスシリコン層53、n型アモルファスシリコン層61)を両面に形成し、最後に裏面にp型電極51として銀膜あるいはアルミニウム膜を形成することにより得られる。
【0043】
太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5は、
図4および
図5の多接合太陽電池3、5の太陽電池素子SB4および太陽電池素子SB5と同様の構成であるため、説明は省略する。本実施形態によっても、実施形態1等と同様の作用効果を奏することができる。太陽電池素子SB6は、ヘテロ接合型(HIT: Heterojunction with Intrinsic Thin-layer)シリコンセルあるいはヘテロジャンクション接合型(HJT:Hetero Junction Technology)シリコンセルと称されるもので、セルコンタクト層であるp型アモルファスシリコン層53およびn型アモルファスシリコン層61がi型アモルファスシリコン層55等を介して形成されていることにより電流損失が低減され、高効率が得られるシリコンセルである。
なお、トップセルやミドルセルとなる太陽電池素子の構成材料としては、GaAs、InGaPなどに限らず、AlGaAs、InGaAsP、AlInGaPやInGaAs、カルコゲナイド系(Cu(In,Ga)Se
2(CIGS))、ペロブスカイト系、有機系などの材料を用いても良い。また、ボトムセルのシリコンセルも、その構造は多岐にわたるが、接合面となるトップシリコン層は酸化領域が形成されていることは共通であり、本技術が適用できることは明らかである。
【実施例0044】
以下に示す方法により、
図4に示した多接合太陽電池3を作製した。
まず、太陽電池素子SB3を以下の方法により作製した。
p型シリコン基板33の表面を希フッ化水素酸系エッチャントにより表面処理し、その後、化学酸化法により薄膜のSiOxトンネル層32を両面に1nm程度形成した。ここでは、濃硝酸溶液中にp型シリコン基板33を漬けることにより酸化膜を形成したが、CVD法等を用いて酸化することも可能である。その後、p型シリコン層(アモルファス)30、n型シリコン(アモルファス)層35を化学気相堆積法(CVD法:Chemical Vapor Deposition)により100nm形成し、その後800℃でアニールすることによりアモルファス層の多結晶化を行った。最後に、p型電極31となるアルミニウム膜を、スパッタリング法を用いて厚さ500nm程度形成した。なお、太陽電池素子SB3は、プロセスは直径4インチ、厚さ300μmで行い、最終的に1cm角程度に切削しボトムセルとした。
次に、太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5を以下の方法により作製した。表面をエタノール溶液により洗浄したp型GaAs基板上に、剥離層を介在してp型GaAs層37、p型GaAs層39、n型GaAs層41、トンネル層49、p型InGaP層43、n型InGaP層45を順次に、分子線結晶成長法(Molecular Beam Epitaxy法)を用いて形成し(Riber社製分子線エピタキシー装置(Compact 21 solid source MBE)を使用、成長温度は550℃)、その後電子線蒸着装置(サンユー電子株式会社製、SVC-700LEB/4G、成膜レートは2-4オングストローム/秒)を用いてAuGeNi/Auからなるn型電極47を形成した。ここで、剥離層はELO工程において基板から剥離するために必要なもので、AlAs層50nmを適用した。太陽電池素子SB4、SB5は、プロセスは直径2インチ、厚さは約350μm(GaAs基板は約340μm)で行い、最終的に4mm角に切断しトップセルとして適用した。切断されたトップセルは、その後HF溶液(溶液濃度20質量%)中に12時間浸漬し、GaAs基板から剥離して太陽電池SB4とSB5からなる素子が得られた。なお、剥離された太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5の厚さは合計で、4μm程度であった。
【0045】
次に、太陽電池素子SB3上に、以下の方法により導電性ナノ粒子23の配列を形成した。 導電性ナノ粒子23としてのPdナノ粒子は、ブロック共重合体としてポリスチレン-ポリ-2-ビニルピリジンを薄膜化し、それをテンプレートとして用いることにより太陽電池素子SB3上に配列させた。すなわち、総分子量265000g/molのポリスチレン-ポリ-2-ビニルピリジン(ポリスチレン分子量:133000g/mol、ポリ-2-ビニルピリジン分子量:132000g/mol)の0.5質量%オルトキシレン溶液を太陽電池素子SB3上にスピンコーティングし、薄膜形成した。次に、太陽電池素子SB3を1mMのNa2PdCl4水溶液に2分間浸した。水洗後、この太陽電池素子SB3をアルゴンプラズマ処理(Diener社製プラズマ装置(Femto)を使用、50W、2分間処理)することにより、有機分子で覆われていない平均サイズ(直径)50nmのPdナノ粒子を整列配置させた。本配置におけるパラジウムナノ粒子間の平均配列間隔は100nmであった。
【0046】
次に、太陽電池素子SB3にMACE処理を行い、Pdナノ粒子が接触している部分のみを選択的に浸食させることで、Pdナノ粒子を沈下させた(
図2(C)を参照)。この処理は、エッチング液として、H
2O
2/HF溶液(30質量%濃度のH
2O
2溶液、50質量%濃度のHF溶液を用いて、溶液比がH
2O
2:HF:H
2O=1:1:10とした)を用いて、Pdナノ粒子を配置した太陽電池素子SB3をエッチング液(25℃)に1分間浸漬することで行った。その後、太陽電池素子SB3全体を水洗してエッチング液を取り除いた。
次いで、太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5とをPdナノ粒子を配置した太陽電池素子SB3上に重ねた後、分銅を用いて加重(5N/cm
2)を室温で2時間程度施すことにより、太陽電池素子SB3と太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5とを接合した。この太陽電池をサンプルAとした。
【0047】
また、比較のために、
図7に示した多接合太陽電池8と
図8に示した多接合太陽電池9も作製した。多接合太陽電池8(
図7)は、導電性ナノ粒子23(Pdナノ粒子)の配列を形成した後(
図2(B)を参照)、MACE処理(
図2(C))を行わずに、太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5とを導電性ナノ粒子23が配置された太陽電池素子SB3上に重ねた後、加圧処理(5N/cm
2)を施すことにより、太陽電池素子SB3と太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5とを接合したものである。それ以外の条件は、多接合太陽電池3の作製方法と同様とした。この太陽電池をサンプルBとした。
【0048】
また、多接合太陽電池9(
図8)は、以下の方法により作製した。シリコンセル表面の酸化領域の存在により、セル間の接合抵抗が大きくなり、太陽電池の特性に影響を与えることについては上述したが、多接合太陽電池9は、酸化領域を取り除く処理を行ったものである。
まず、太陽電池素子SB3と太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5とを、多接合太陽電池3の場合と同様の方法により作製した。次に、導電性ナノ粒子23(Pdナノ粒子)の配列を形成する前に、太陽電池素子SB3の表面に形成されている酸化領域25を、バッファードHF溶液(フッ酸とフッ化アンモニウムの混合液、BHF溶液ともいう)を用いて、一部または全部除去した(太陽電池素子SB7)。具体的には、BHF溶液(ダイキン工業株式会社製、BHF63)を用いて、太陽電池素子SB3をBHF溶液(25℃)中に1分間浸漬した(BHF処理)。
【0049】
その後、水洗し、多接合太陽電池3の場合と同様の方法により導電性ナノ粒子23の配列を形成した(
図2(B)を参照)。そして、MACE処理を行わずに、太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5とを導電性ナノ粒子23が配置された太陽電池素子SB7上に重ねた後、加圧処理(5N/cm
2)を施すことにより、太陽電池素子SB7と太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5とを接合した。この太陽電池をサンプルCとした。
【0050】
図9には、上記方法により作製したサンプルA-Cの太陽電池の電流電圧特性(I-Vカーブ)を示す。この測定は、I-Vシミュレータ装置(分光計器株式会社製、モデル38A042Y)を用いて、AM(エアマス)1.5Gの疑似太陽光を照射して行った。
また、
図9の電流電圧特性から、サンプルA-Cの短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(V)、曲線因子(%)、発電効率(%)を抽出した結果を表1に示す。
【表1】
【0051】
サンプルAとサンプルCの太陽電池では、良好な電池性能を示す結果となった。特に、サンプルAの太陽電池は、全ての項目において、優れた電池特性を示した。サンプルCの太陽電池ではBHF処理を経るものの、酸化領域が一部残っていることも考えられ、特性が劣化している可能性がある。一方、サンプルAの太陽電池では、MACE処理によりPdナノ粒子が酸化領域を貫通し、n型シリコン層35に入り込んでいることにより導電性が良好となる。このように、サンプルAの太陽電池は、特に、酸化領域の影響がないことにより十分に低い接合抵抗が得られ、30%を超える高い発電効率が得られた。短絡電流についても、他のサンプルに比べて1mA/cm2増加した。これは、MACE法によりPdナノ粒子の露出高さが減じられ、太陽電池素子SB3と太陽電池素子SB4との間隔(H)が10nm以下になったために接合界面での反射損失が低減されたことによる。これによりサンプルAの太陽電池素子SB3の光電流が増加し、多接合電池としての電流整合レベルが増加したと考えられる。一方、サンプルBの太陽電池では、酸化領域25の影響によって接合部分の抵抗が高くなり、S字状のカーブ形状となった。
【0052】
図10には、サンプルAのMACE処理後のSi表面における原子間力顕微鏡(AFM)写真を示す。
図10(A)は上面から観察したものであり、
図10(B)は斜面の方向より3次元的に表示している。
図11(A)にはサンプルBのPdナノ粒子配列後のSi表面におけるAFM写真(左)および光学顕微鏡写真(右)を示し、
図11(B)にはサンプルCのPdナノ粒子配列後のSi表面におけるAFM写真(左)および光学顕微鏡写真(右)を示す。原子間力顕微鏡観察は、顕微鏡装置(株式会社島津製作所製、SPM9600)を用いて行った。
【0053】
サンプルAの太陽電池(
図10)では、導電性ナノ粒子23(Pdナノ粒子)の配列は明瞭であり、MACE処理による影響により若干Pdナノ粒子の析出は認められるが(X部分)、大きな異常析出はなかった。一方、サンプルCの太陽電池(
図11(B))では、BHF処理によって、シリコン層に凹凸や表面欠陥が発生することで、一様の導電性ナノ粒子23(Pdナノ粒子)の配列が阻害され、特に表面欠陥が誘起されることでPdナノ粒子の高さ100nmを超える異常析出(Y部分)が生じた。ここで、MACE法(サンプルA)では導電性ナノ粒子23の配列後に処理を行うことから、導電性ナノ粒子23のない部分は理想的には浸食されず、導電性ナノ粒子23の直下部分のみが一様に浸食されて沈下する。したがって、全体的な導電性ナノ粒子23の平滑性は保たれ、凹凸の程度は、BHF処理(サンプルC)の場合に比べて小さくなる。なお、サンプルBの太陽電池(
図11(A))では、BHF処理やMACE処理などの表面処理は行わないことから、導電性ナノ粒子23(Pdナノ粒子)の配列は一様であった。
【0054】
次に、サンプルA-Cの太陽電池について、接合強度や安定性を比較する観点から、外観観察、窒素ブローによる観察を行った。まず、外観観察は、実体顕微鏡を用いて行った。また、窒素ブローによる観察は、以下の方法により行った。すなわち、先の細いパイプガラス管(直径1mm)を用意し、窒素ガス(圧力5Kg/cm
2)をガラス管から5秒程度各サンプルの接合部分に吹きかけた。表2には、サンプルA-Cの太陽電池を評価した結果を示す。なお、表2中、太陽電池性能については、表1の結果から判断した。
【表2】
【0055】
図12(A)-(C)には、各サンプルA-Cの太陽電池の外観写真(上面)を示す。サンプルA(
図12(A))とサンプルBの太陽電池(
図12(B))においては、特に異常は認められなかったが、サンプルCの太陽電池においては、
図12(C)に示すように、接合していない箇所(ボイド)が浮いて見えており、空気が侵入している箇所が認められた。また、窒素ブローによる観察では、
図13に示すように、サンプルA(
図13(A))とサンプルB(
図13(B))の太陽電池においては、特に異常は認められなかったが、サンプルC(
図13(C))の太陽電池においては、飛散、剥離等の破損が発生した。セルの接合は、Pdナノ粒子によって行われるため、Pdナノ粒子の高さが一様であると接合強度はよくなるところ、サンプルCでは、
図11(B)に示すように、Pdナノ粒子の異常析出が生じたことから、接合強度が低下したものと思われる。
【0056】
図14には、サンプルAのTEM(透過電子顕微鏡)像(A)およびエネルギー分散型X線分光法による分析結果(B)を示し、
図15には、サンプルBのTEM像(A)およびエネルギー分散型X線分光法による分析結果(B)を示す。TEM像は、透過電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、H-9500、加速電圧200kV)で測定した。また、エネルギー分散型X線分光法は、電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEM-ARM200F、加速電圧200kV)で測定した。
図14に示すように、Pdナノ粒子をTEMで拡大観察すると、数nm程度のPdナノ粒子が凝集したドメイン構造体になっている。サンプルAの太陽電池では、ドメインを構成するPdナノ粒子が接合ギャップ(8nm)よりも下のn型シリコン層(多結晶)まで入り込んでいる様子(10nm以上)が観測される。なお、周囲のPdナノ粒子が存在しない酸化領域は、MACE工程時のHF:H
2O
2溶液により直接にエッチングされているが、微視的には薄膜で残存していると考えられる。
【0057】
そして、サンプルAのエネルギー分散型X線分光法のデータでは、Pd信号がn型シリコン層(多結晶)中においても観測され、Pdナノ粒子が侵襲している様子が確認された。一方、サンプルBの太陽電池では、シリコンセルの表面には厚さ10nm程度の酸化領域が存在し、Pdナノ粒子はn型シリコン層(多結晶)中に侵襲することなく接合ギャップのみに存在していることが観測された。エネルギー分散型X線分光法のPd信号も、サンプルAと違い接合ギャップのみに観測された。なお、図示してはいないが、サンプルCにおいては、BHF処理により酸化領域は除去されているが、Pdナノ粒子は接合ギャップにのみ観測されていた。サンプルAにおいては、Pdナノ粒子がn型シリコン層(多結晶)内部に入り込んでいるため、酸化領域の影響を受けないことで接合抵抗が低減され、またいわゆるアンカー効果によって接合強度に優れた接合構造が形成される。サンプルBでは、シリコン半導体の表面酸化領域により、接合抵抗が増大し電池性能が劣化する。サンプルCでは、BHF処理によりシリコン表面の酸化領域が除去されるが、前述した表面欠陥によるPdの異常析出により接合強度の劣化を生じる。したがって、本実施例によれば、容易に、接合強度に優れた接合構造を有する、電池性能に優れた高効率な多接合太陽電池の提供が可能となり、太陽電池の信頼性を向上させることができる。
【0058】
なお、上記した実施例によれば、酸化領域を除去処理することなく、導電性ナノ粒子23をシリコン層に沈下させたが、酸化領域を除去する工程を加えて、その後、導電性ナノ粒子23を沈下させる工程を行うこととしても良い。すなわち、酸化領域の有無については特に限定されることなく、導電性ナノ粒子23がシリコン層に入り込んでいれば上記した実施例と同様の作用効果を有する。
【0059】
また、上記した実施形態では、半導体装置として多接合太陽電池の例を挙げたが、例えば、Si半導体素子と複数の半導体素子と直列に接合配置したような光集積素子あるいはシリコンフォトニクス素子においても適用可能である。