(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182180
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】メタン燃焼触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/44 20060101AFI20231219BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20231219BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B01J23/44 A ZAB
B01J37/04 102
B01D53/86 280
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095648
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】オリジネイト弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】阿部 秀喜
(72)【発明者】
【氏名】久保 仁志
(72)【発明者】
【氏名】加藤 俊祐
(72)【発明者】
【氏名】菊原 俊司
【テーマコード(参考)】
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
4D148AA18
4D148AB01
4D148BA06X
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4G169FA02
4G169FA06
4G169FB05
4G169FB14
4G169FB24
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】ジルコニアを担体としPt、Pdを触媒金属とするメタン燃焼触媒について、触媒粒子のシンタリングを抑制し耐久性に優れるものを提供する。
【解決手段】本発明は、ジルコニア担体に、Pt、Pdの少なくともいずれかの金属又はこれらの合金からなる触媒粒子が担持されてなるメタン燃焼触媒に関する。本発明に係るメタン燃焼触媒は、前記ジルコニア担体がシリカを含んでいる。そして、本発明のメタン燃焼触媒について任意に複数の領域を分析したときにおける、必須金属濃度基準のSi濃度(C
Si)とZr濃度(C
Zr)との比(C
Si/C
Zr)の変動係数(CV値)が30%以下である。本発明では、微細なシリカが均一に分散したことで、ジルコニア担体のシンタリングを抑制し、これにより触媒粒子のシンタリングによる活性低下を低減している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニア担体に、Pt、Pdの少なくともいずれかの金属又はこれらの合金からなる触媒粒子が担持されてなるメタン燃焼触媒において、
前記ジルコニア担体は、シリカを含み、
前記メタン燃焼触媒について任意に複数の領域を分析したときにおける、必須金属濃度基準のSi濃度(CSi)とZr濃度(CZr)との比(CSi/CZr)の変動係数(CV値)が30%以下であることを特徴とするメタン燃焼触媒。
【請求項2】
前記Si濃度の平均値が1質量%以上12質量%以下である請求項1記載のメタン燃焼触媒。
【請求項3】
700℃で加熱したとき、前記ジルコニア担体を構成するジルコニアの結晶子径の増加率が30%以下となる請求項1又は請求項2記載のメタン燃焼触媒。
【請求項4】
触媒全体質量に対する前記触媒粒子の担持量が、3質量%以上20質量%以下である請求項1又は請求項2記載のメタン燃焼触媒。
【請求項5】
請求項1又は請求項2記載のメタン燃焼触媒の製造方法であって、
ジルコニア粉末とシリカ粒子とを混合してジルコニア担体を製造する担体調製工程と、前記ジルコニア担体に触媒粒子を担持する担持工程と、を含み、
前記担体調製工程は、粒径3nm以上10nm以下のシリカ粒子とジルコニア粉末とを粉砕しつつ混合する工程であり、
前記粉砕は、前記ジルコニア粉末の粒径減少率が50%以上となるまで前記ジルコニア粉末を粉砕するメタン燃焼触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種ガスに含まれるメタンを酸化除去するための触媒に関する。詳しくは、ジルコニア担体にPt、Pdが担持されたメタン燃焼触媒であって、耐久性が従来よりも優れたものに関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガス、都市ガス等の燃料による排ガスには、二酸化炭素、窒素酸化物等に加えて、メタン等の未燃焼炭化水素成分が含まれている。これらはいずれも環境汚染の要因といえるが、これまでは二酸化炭素が温室効果による影響が最も大きいという理由で排出削減の対象となってきた。しかし、最近になって、二酸化炭素に加えてメタンについても排出規制の議論が高まっている。メタンは、大気中の濃度が二酸化炭素より低いものの、1分子当たりの温室効果が二酸化炭素よりも高い。そのためメタンは、二酸化炭素に次ぐ温室効果ガスとされており、昨年末の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)における合意のもと2030年までに30%の削減目標が掲げられている。
【0003】
各種のガスに含まれる汚染物質の削減方法としては、浄化触媒による処理が良く知られている。メタンの除去についても、メタンを酸化・燃焼させるメタン触媒として、ジルコニア(ZrO2)やアルミナ(Al2O3)等の無機酸化物担体に、触媒粒子としてPt及び/又はPdを担持した触媒が有効であるとされている(特許文献1~3)。特に、ジルコニア担体は、メタン燃焼触媒に高い初期活性を付与することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-225343号公報
【特許文献2】特開2014-91119号公報
【特許文献3】特表2019-534777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、触媒の技術開発における課題としては、初期の触媒活性の向上と共に長期にわたって活性が維持されるよう耐久性の確保が挙げられている。この点はメタン燃焼触媒も同様であるが、メタン燃焼触媒においては特に耐久性の確保が重要となっている。メタンは反応性が低いことから、有効に燃焼させるためには反応温度を比較的高温とすることが必要である。そして、触媒の活性低下の要因は、高温下での触媒粒子の移動・凝集によるシンタリングにあることが知られている。従って、反応温度の高温化傾向は、触媒粒子の移動とシンタリングを促進することから、メタン燃焼触媒は耐久性が低くなる。
【0006】
これまでのメタン燃焼触媒に関する検討について、初期活性に関しては、上記した担体となる無機酸化物や触媒粒子を構成する材料の最適化についての検討例が多い。一方、耐久性については十分な検討がなされておらず、触媒金属(触媒粒子)の担持量の増加が主な対応であった。
【0007】
しかしながら、触媒金属の担持量の増加は、当然にメタン燃焼触媒のコスト増の要因となる。最近では貴金属の地金価格は上昇の一途にあり、とりわけPdは価格高騰が顕著となっている。上記したように、メタン排出量の減少が急務となりメタン燃焼触媒の需要増加が見込まれる現状ではコストの問題は大きい。また、触媒金属の担持量の増加という対策は、シンタリングにより失活した触媒粒子の補填のためであって、シンタリングを直接抑制する対応策といえない。
【0008】
本発明は、以上のような背景のもとになされたものであり、メタン燃焼触媒について、高温下の触媒粒子のシンタリングの問題に直接的に対応することを目的とする。この目的において、本発明は、ジルコニアを担体としPt及び/又はPdを触媒金属とし、耐久性が改善されたメタン燃焼触媒及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題解決のため、ジルコニア担体に触媒粒子(Pt、Pd)を担持するメタン燃焼触媒を検討対象とし、ジルコニア担体の微細構造の改良の観点から活性低下を抑制する手法について検討した。ジルコニア担体を対象とするのは、シリカ等の他の無機酸化物に対し、ジルコニア担体が初期活性において特に有効だからである。そして、この検討において、本発明者等は、触媒粒子のシンタリングが進行する要因として、ジルコニア担体にもシンタリングが生じており、これが触媒粒子のシンタリングに関与しているとの考察に至った。
【0010】
この考察に基づくメタン燃焼触媒の活性低下の機構について
図1を用いて説明する。ジルコニア担体は、ジルコニア粒子の集合体であり、触媒金属は個々のジルコニア粒子上に吸着・担持されている(
図1(a))。メタン燃焼時において、ジルコニア粒子がそのままの状態であれば、個々のジルコニア粒子上で触媒粒子が移動しシンタリングしても、他のジルコニア粒子にまで触媒粒子が移動することは困難であり、これ以上のシンタリングは生じ難い(
図1(b))。しかし、メタン燃焼時にジルコニア粒子のもシンタリングが生じている場合、触媒粒子の移動範囲は広がり、触媒粒子の更なるシンタリングを生じさせる(
図1(c))。かかる触媒粒子の更なるシンタリングは、触媒活性を一層低下させることとなる。
【0011】
本発明者等による検証によれば、上記の考察におけるジルコニア粒子のシンタリングは、後述するように実際に発現する現象である。そこで、本発明者等は、触媒粒子のシンタリングの直接的な抑制には、担体であるジルコニア粒子のシンタリングの抑制が有効であると考えその手法を検討した。その結果、ジルコニア粒子間に他の無機酸化物であるシリカ(SiO
2)を配置し、このシリカをスペーサーとしてジルコニア粒子のシンタリングを抑制することに想到した(
図1(d))。
【0012】
但し、上記のシリカによるスペーサーの配置が有効であるとしても、その分散状態に偏りやがあると十分な効果を得ることはできない。局所的にスペーサーがない領域ではジルコニア粒子のシンタリングが生じ、当該領域における触媒粒子のシンタリングが生じるからである。本発明者等は更なる検討を行い、ジルコニア粒子のスペーサーとなるシリカの好適に分散するための担体の調製方法と、メタン燃焼触媒における最適な分散状態を見出し本発明に想到した。
【0013】
上記課題を解決する本発明は、ジルコニア担体に、Pt、Pdの少なくともいずれかの金属又はこれらの合金からなる触媒粒子が担持されてなるメタン燃焼触媒において、前記ジルコニア担体は、シリカを含み、前記メタン燃焼触媒について任意に複数の領域を分析したときにおける、必須金属濃度基準のSi濃度(CSi)とZr濃度(CZr)との比(CSi/CZr)の変動係数(CV値)が30%以下であることを特徴とするメタン燃焼触媒である。以下、本発明に係るメタン燃焼触媒及びその製造方法について詳細に説明する。
【0014】
A.本発明に係るメタン燃焼の構成
上記のとおり、本発明に係るメタン燃焼触媒は、Pt及び/又はPdからなる触媒粒子が、所定の構成のジルコニア担体に担持された触媒である。以下、各構成について説明する。
【0015】
(I)触媒粒子(触媒金属)
本発明に係るメタン燃焼の触媒粒子は、Pt及び/又はPdからなる。Pt及びPdは、ジルコニア担体との協働によりメタンの酸化・燃焼の反応に対して活性を有する。担持される触媒粒子は、Ptのみであっても良いしPdのみであっても良い。また、Pt及びPdの双方を担持しても良く、その場合にはPtとPdとが合金化して触媒粒子を形成していても良いし、Pt粒子とPd粒子が分散して担持されていてもよい。触媒粒子の粒径は、3nm以上15nm以下であるものが好ましい。
【0016】
Pt及び/又はPdからなる触媒粒子の担持量は、触媒全体の質量基準で3質量%以上20質量%以下とすることが好ましい。3質量%以下では必要な活性が得られない。また、20質量%を超えても初期活性の大きな向上はみられず、触媒のコスト増の要因となる。本発明においては、触媒粒子の担持量の増大に依ることなく耐久性の確保をすることができることから、必要となる初期活性を得るために前記範囲内において担持量を設定することができる。尚、担持量の基準となる触媒全体の質量とは、ジルコニア担体と触媒金属との合計である。本発明に係るメタン触媒を後述するハニカム等の支持体に支持させた場合、この支持体は触媒には含まれない。
【0017】
(II)ジルコニア担体
「ジルコニア担体」とは、ジルコニア(ZrO2)を主成分(70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましく、99質量%以上が特に好ましい。)とする無機酸化物からなる担体である。ジルコニア担体は、ジルコニアのみからなり後述するシリカ以外を含まない担体が適用できる。また、ジルコニアに貴金属(白金、イリジウム等)以外の金属又はその化合物を触媒特性に影響を及ぼさない範囲でドープした無機酸化物担体もジルコニア担体として適用することができる。更に、ジルコニア担体には、10質量%以下のHf等の不可避不純物が含まれることもある。
【0018】
触媒の担体は、一般的には、触媒粒子を適切な分散状態に保持するという機能を有する。本発明におけるジルコニア担体は、この担体本来の機能を有する共に、触媒粒子(Pt、Pd)にメタン燃焼活性を発揮させる重要な作用も有する。担体としてジルコニアが必須とする理由は明確ではないが、ジルコニアの適用は他の無機酸化物に対して明確にメタン燃焼活性を発揮させる。
【0019】
そして、本発明に係るメタン燃焼触媒のジルコニア担体は、シリカ(SiO2)を含む。シリカは、ジルコニア担体中で分散し、ジルコニア粒子の一部又は全部を被覆する。このシリカが上記したように、ジルコニア粒子のシンタリングを抑制する。シンタリング抑制のためにジルコニア担体に添加する無機酸化物としてシリカが適用されるのは、シリカは耐熱性が高いためメタン燃焼の高温雰囲気下での変化・変質が少なく、ジルコニア粒子のシンタリング抑制作用を維持できるからである。また、シリカはジルコニア担体とのなじみが良好であり、ジルコニア粒子の集合体であるジルコニア担体に混合しても、ジルコニア粒子同士を分離させることなく担体を維持することができる。つまり、シリカはジルコニア担体においてシンタリング抑制のスペーサーとして機能すると共にバインダーとしても作用し得ることから、最適な添加剤となる。
【0020】
本発明に係るメタン燃焼触媒では、ジルコニア担体中のシリカが均一に分散した状態にある。シリカに均一分散を要求するのは、上記のとおり、ジルコニア粒子のシンタリングの抑制効果を均等にするためである。本発明においては、シリカの分散状態の要件として、シリカに由来するSiの濃度分布を規定しており、具体的には、任意に触媒の複数の領域を分析したときにおける、Si濃度(CSi)とZr濃度(CZr)との比(CSi/CZr)の変動係数(CV値)を30%以下とする。この要件について、Si濃度の基準をZr濃度にするのは、本発明における担体は基本的にジルコニアとシリカとからなり、ジルコニアに由来するZrが担体の主要元素だからである。また、触媒の複数領域についてのSi濃度比(CSi/CZr)を測定するのは、シリカの分散の均一性を確認するためである。更に、この均一性を各測定領域について得られたSi濃度比(CSi/CZr)の変動係数(CV値)で判定するのは、担体へのシリカの添加量(Si濃度)は、後述のとおり、ある程度の幅が許容されていることを考慮し、シリカの添加量の大小を考慮することなくSi濃度の均一性を評価するためである。尚、変動係数CVは、各測定領域のSi濃度比(CSi/CZr)の平均値と標準偏差を、それぞれCav、ρavとしたとき、“CV=(ρav/Cav)×100”で算出される。また、ここで説明したSi濃度比に関するCSi/CZrの変動係数については、28%以下がより好ましい。
【0021】
本発明のSi濃度(CSi)及びZr濃度(CZr)は、必須金属濃度基準による濃度である。必須金属濃度基準の濃度とは、本発明に係るメタン燃焼触媒に必須的に含まれる金属である、Pt及び/又はPd、Zr、Siの4種の元素の濃度の合計を100%としたときの濃度である。尚、本発明では半金属であるSiも金属として扱うこととする。Si濃度比(CSi/CZr)に関する変動係数の測定の具体的な態様としては、シリカの分散状態の均一性を統計的に評価するため、測定領域として少なくとも5箇所以上を任意に設定するのが好ましい。各測定領域におけるSi濃度(CSi)とZr濃度(CZr)の測定方法としては、電子線プローブマイクロ分析(EPMA)、エネルギー分散型X線分析(EDX)、蛍光X線分析(FRX)、X線光電子分光分析(XPS)等の各種の分析方法が適用可能であり、各分析方法に応じたスキームで元素濃度を分析する。これらの分析法においては、測定領域の倍率を500倍以上5000倍以下程度としつつ、1箇所あたりの分析面積を0.5μm2以上10μm2以下に設定するのが好ましい。また、支持体に形成されたメタン燃焼触媒について分析を行う場合には、支持体に支持された状態で分析しても良いし、支持体からメタン燃焼触媒を剥離・採取して分析を行っても良い。
【0022】
本発明に係るメタン燃焼触媒は、上記のようにして測定・算出されるSi濃度比(CSi/CZr)の変動係数が30%以下であることを要する。30%を超える場合は、シリカの分散の均一性に欠けることから、ジルコニア粒子のシンタリング抑制が効果的に発現し難い。尚、この変動係数は小さければ小さい程好ましい(均一性がある)が、これをゼロとすることは相当に困難であるので3%程度を下限値とするのが好ましい。
【0023】
また、ジルコニア担体中のシリカの含有量は、触媒中のSi濃度に関連する。本発明に係るメタン燃焼触媒のSi濃度は、1質量%以上12質量%以下とするのが好ましい。シリカが均一にジルコニア担体中で分散していると仮定すると、シリカのサイズはその含有量に比例する。触媒においては、触媒粒子(Pt、Pd)は、シリカの表面にも吸着担持されることとなる。そのため、Si濃度が高い、即ち、シリカ含有量が多くなると、シリカに担持される触媒粒子の割合が増加する。シリカは触媒活性(初期活性)においては、触媒粒子に有効な作用がないことから、シリカに担持される触媒粒子の割合が増加すると、触媒活性が低下することとなる。そこで、触媒中のSi濃度については、12質量%以下とすることが好ましい。一方、Si濃度が低過ぎると、ジルコニア担体にシリカが不足する領域が生じていることとなり、Si濃度比(CSi/CZr)の変動係数が30%を超え、ジルコニア粒子のシンタリングが生じ得る。そのため、Si濃度については、1質量%以上とすることが好ましい。Si濃度は、2質量%以上10質量%以下がより好ましく、3質量%以上8質量%以下が更に好ましい。尚、Si濃度は、上記と同様に必須金属濃度基準であり、その平均値が上記範囲内にあることが好ましい。また、Si濃度は、上述したSi濃度比(CSi/CZr)の変動係数を測定する際に複数領域で測定されている。従って、その結果を利用してSi濃度の平均値を求めても良い。
【0024】
本発明に係るメタン燃焼触媒は、以上説明したシリカを含むジルコニア担体にPt及び/又はPdからなる触媒粒子を担持させることで構成される。ジルコニア担体の形態は、メタン燃焼触媒の形態に応じたものが採用される。ここで、メタン燃焼触媒の形態としては、適宜の支持体にジルコニア担体を固定して触媒粒子を担持させたものが特に広く使用されている。この触媒の形態における支持体としては、板形状、筒形状、球形状、ハニカム形状のいずれかの形状の支持体が知られている。支持体の構成材料は、金属製、セラミック製が知られている。かかる形態のメタン燃焼触媒においては、シリカを含むジルコニア粒子をスラリー(いわゆるウオッシュコート)にする。このスラリーを支持体に塗布・固定してジルコニア担体を形成することができる。
【0025】
尚、本発明に係るメタン燃焼触媒は、粒状、顆粒状、ペレット状、タブレット状のいずれかの形状としても良い。このようなメタン燃焼触媒においては、ジルコニア担体の形態は、同様の粒状、顆粒状、ペレット状、タブレット状のものとなる。
【0026】
B.本発明に係るメタン燃焼触媒の物性
本発明に係るメタン燃焼触媒は、上記したシリカを適切な状態で分散させたジルコニア担体を適用することで、高温下にあっても担体のシンタリングが抑制されている。このシンタリング抑制の作用は、本発明に係るメタン燃焼触媒の物性に特徴的な挙動をもたらす。即ち、本発明に係るメタン燃焼触媒は、700℃の高温で加熱したとき、ジルコニア担体を構成するジルコニアの結晶子径の増加率が30%以下であるものが好ましい。結晶子径は、多結晶体であるジルコニア粒子を構成する結晶の径であって、単結晶とみなすことのできる最大領域の単位寸法である。ジルコニア粒子の結晶子径は、高温下でのシンタリングにより増加することから、本発明はこのときの結晶子径の増加率が30%以下に抑制されているのが好ましい態様となる。
【0027】
上記結晶子径の増加率を700℃での加熱後で判定するのは、メタン燃焼触媒の使用温度を考慮しつつ、ジルコニア粒子のシンタリングが生じやすい温度だからである。また、結晶子径及びその増加率は、メタン燃焼触媒について室温及び700℃加熱後の触媒のX線回折分析(XRD)を行うことで測定できる。XRDによって得られる回折パターンに基づき、任意の結晶面の回折ピークを選定してその回折ピークの半価幅を測定し、Scherrerの式に基づき算出することができる。尚、この結晶子径の増加率を測定するとき、触媒の加熱時間は1時間以上5時間以下で設定するのが好ましい。
【0028】
また、ジルコニア粒子のシンタリングの抑制は、本発明に係るメタン燃焼触媒の比表面積の挙動にも影響を及ぼす。上記の結晶子径の増加率と同様に、本発明に係るメタン燃焼触媒は650℃で加熱したときの比表面積の減少率が30%以下となる。比表面積の測定に関しては、BET法等のガス吸着法等の公知の手段が適用できる。尚、本発明に係るメタン燃焼触媒において、ジルコニア担体の好ましい比表面積は、60m2/g以上150m2/g以下であり、より好ましくは70m2/g以上110m2/g以下とする。この比表面積の好ましい範囲は、触媒の形態に依ることはなく、上記したペレット状等の形態や支持体上のウオッシュコートの形態であっても前記の比表面積であることが好ましい。そして、これらの好ましい比表面積を基準とし、650℃での加熱後の比表面積の減少率が30%以下となるものが好ましい。
【0029】
C.本発明に係るメタン燃焼触媒の製造方法
次に、本発明に係る触媒の製造方法について説明する。本発明に係るメタン燃焼触媒は、基本的工程は従来のジルコニア担体にPt等を担持したメタン燃焼触媒と同様の製造方法で製造される。つまり、ジルコニア担体を調製し、この担体に触媒金属の化合物溶液を吸着させて触媒粒子を担持することでメタン燃焼触媒は製造できる。ジルコニア担体の調製とは、ジルコニア粉末を適宜の溶媒でスラリー化する工程であり、必要に応じてこのスラリーを支持体に塗布・固定する工程である。ここで、本発明に係るメタン燃焼触媒は、上記した要件を具備するようにシリカが均一分散されたジルコニア担体を適用する。本発明に係るメタン燃焼触媒の製造方法においては、シリカ粒子を添加し均一に分散させる点に特徴を有する。そして、この特徴はジルコニア担体の調製の工程で行うこととなる。以下、支持体に担持されたメタン燃焼触媒を中心に、本発明に係るメタン燃焼触媒の製造方法について詳細に説明する。
【0030】
(1)ジルコニア担体の調製工程
ジルコニア担体の調製では、ジルコニア粉末を水等の分散媒に混合してスラリーを作製する。この混合工程では、通常、ボールミル等の湿式粉砕装置等を用いてジルコニア粉末の粉砕と分散媒への分散を同時に行う。そして、本発明に係るメタン燃焼触媒のジルコニア担体の特徴となるシリカ粒子の混合と均一分散は、この混合工程で行う。
【0031】
上記したとおり、本発明に係るメタン燃焼触媒は、シリカが均一に分散したジルコニア担体で構成される。このシリカの均一分散を達成するための手段としては、混合工程で添加するシリカ粒子の粒径と粉砕装置による混合及び粉砕の条件を好適化することが挙げられる。
【0032】
混合工程で添加するシリカ粒子の粒径については、10nm以下の比較的微小粒径とすることが必要である。10nmを超えるシリカ粒子を添加してもジルコニア粉末のシンタリングの抑制効果は薄くなる。シリカ粒子の粒径が大きくなると、ジルコニア粉末に広範囲でシリカが行きわたりにくくなる。混合工程でシリカ粒子も粉砕されることになるが、これを考慮しても大粒径のシリカ粒子を広範囲に分散させることは困難である。また、シリカの分散範囲を広げるべくその添加量を増大させると、シリカに担持される触媒粒子が増加するので活性が低下するおそれがある。そのため、担体調製の段階から微細なシリカ粒子を添加することで均一分散を図ることが必要となる。尚、シリカの粒径の下限値については、製造可能な限界を考慮し1nm程度が下限となる。本発明で使用できる上記粒径のシリカ粒子としては、市販のシリカゾルを使用することができる。また、この工程におけるシリカ粒子の添加量は、メタン燃焼触媒のSi濃度を上記した好適範囲にするため、ジルコニア粉末に対して2質量%以上15質量%以下とするのが好ましく、3質量%以上12質量%以下とするのがより好ましい。
【0033】
ジルコニア担体のシリカの均一分散は、上記粒径のシリカ粒子の添加に加えて、混合・粉砕を十分に行うことが必要である。この混合・粉砕の条件としては、粉砕前後のジルコニア粉末の平均粒径を基準として、粒径減少率が50%以上になるまで粉砕を行うことが必要である。粒径減少率は、粉砕前のジルコニア粉末の平均粒径rsとし、粉砕後のジルコニア粉末の平均粒径rpとしたとき、“(rs-rp)/rs×100”とする。このような粒径を半分以下にする徹底した粉砕により、シリカ粒子とジルコニア粉末との接触面積を増やしつつ、各所におけるジルコニアに対するシリカ濃度(Si濃度)の均一化を図る。粉砕における粒径減少率については、55%以上がより好ましく、60%以上が更に好ましい。また、粒径減少率の上限は、80%とするのが好ましい。粒径減少率が80%を超える粉砕をしても、担体中のシリカの均一性に大きな改善は見られない。
【0034】
尚、本発明でジルコニア担体の原料として粉砕するジルコニア粉末の粒径については、平均粒径が3μm以上8μm以下のものが好ましい。また、原料となるジルコニア粉末は、前記平均粒径を具備すると共に、粒径分布として2μm以上12μm以下の範囲内にあるジルコニア粉末で構成されているものが好ましい。
【0035】
担体の調製工程では、上記混合工程を経て作製されたスラリーを支持体に塗布し、乾燥等により固定することでジルコニア担体が形成される。スラリーの支持体への塗布は、エアブロー、スプレー、ディッピング等各種の公知の方法が適用できる。
【0036】
また、スラリーを支持体に塗布した後は、乾燥及び/又は焼成を行うことが好ましい。スラリーの分散媒を除去すると共にシリカを含むジルコニア粉末を支持体に固定するためである。このときの乾燥温度としては、80℃以上150℃以下とするのが好ましい。また、焼成温度としては、400℃以上600℃以下とするのが好ましい。
【0037】
尚、ここまでは支持体上にジルコニア担体を形成する方法を説明したが、メタン燃焼触媒の形態としては、ペレット状、粒状等のものもある。これらの形態のメタン燃焼触媒のための担体については、上記のようにしてシリカを均一に分散させたスラリーからジルコニア粉末を分離し、適宜の方法で造粒・成型してペレット状等の所望形状にすればよい。ペレット状等の触媒製造でも、シリカの均一な分散のために一旦は湿式処理されたジルコニア粉末を使用することが好ましい。
【0038】
(2)触媒金属(Pt、Pd)の担持工程
以上で作製されたジルコニア担体へのPt及び/又はPdの担持は、各金属の金属塩溶液の含浸処理による。
【0039】
ジルコニア担体に含浸するPtの金属塩溶液としては、硝酸白金水溶液、塩化白金水溶液、酢酸白金水溶液の他、白金錯体溶液であるテトラアンミン白金塩水溶液、ジニトロジアンミン白金-アンモニア水溶液、ジニトロジアンミン白金-エタノールアミン溶液、ジニトロジアンミン白金-硝酸水溶液等が挙げられる。これらの白金塩溶液のうち、好ましいのは、ジニトロジアンミン白金-硝酸水溶液、ジニトロジアンミン白金-エタノールアミン溶液、硝酸白金水溶液である。
【0040】
Pdの金属塩溶液としては、硝酸パラジウム溶液、塩化パラジウム溶液、ジニトロジアンミンパラジウム-硝酸水溶液等が挙げられる。これらのパラジウム塩溶液のうち、好ましいのは、硝酸パラジウム溶液、ジニトロジアンミンパラジウム-硝酸水溶液である
【0041】
金属塩溶液の含浸処理は、PtとPdの双方を担持する場合には、それぞれの金属塩溶液を同時にジルコニア担体に含浸させても良いし、別々に含浸させても良くその順序は限定されない。金属塩溶液の含浸方法には特に制限はなく、スプレー、滴下、ディッピングの何れでも良い。
【0042】
Pd及び/又はPdの金属塩溶液の含浸後は、適宜に乾燥処理を行った後に焼成する。乾燥処理の温度は、80℃以上150℃以下とするのが好ましい。そして、焼成温度としては、400℃以上600℃以下とするのが好ましい。
【0043】
以上の焼成処理により、ジルコニア担体にPt及び/又はPdが担持され、本発明に係るメタン燃焼触媒を得ることができる。
【0044】
(D)本発明に係るメタン燃焼触媒によるメタンの燃焼方法
以上説明した本発明に係るメタン燃焼触媒を適用するメタン燃焼方法は、基本的には従来法と同様となる。本発明に係るメタン燃焼方法における対象としては、メタンと共に硫黄酸化物を含む燃焼排ガスである。また、メタン及び硫黄酸化物の他、エタンやプロパン等の他の炭化水素や一酸化炭素、酸素、含酸素化合物、窒素酸化物などの可燃性成分が含まれていても差し支えない。
【0045】
各種ガス中のメタン燃焼においては、本発明に係るメタン燃焼触媒を備えた燃焼装置に処理対象ガスを通過させてメタン燃焼触媒に接触させる。燃焼装置については公知のものが適用でき、例えば、固定床流通型反応装置等が適用できる。こうした燃焼装置における触媒の使用量は、ガス時間当たり空間速度(GHSV)で設定されることが一般的である。本発明においては、空間速度は、メタンの燃焼率確保のため、80,000h-1以下とすることが好ましい。空間速度を低くすることで触媒活性は向上するので、空間速度は低ければ低い程好ましい。但し、触媒活性と経済性及び圧力損失を考慮すると、空間速度は1,000h-1以上とするのが好ましい。
【0046】
各種ガスの浄化のためのメタン燃焼触媒の加熱温度、即ち、反応温度は、反応温度を250℃以上500℃以下とする。反応温度は、300℃以上450℃以下がより好ましい。
【発明の効果】
【0047】
以上の通り本発明は、ジルコニア担体にPt等の貴金属粒子が担持されたメタン燃焼触媒について、その活性低下の要因の一つとして、担体を構成するジルコニア粒子のシンタリングであることを明らかにする。そして、ジルコニア担体のシンタリングの抑制のため、シリカを好適な状態で分散させることを提案する。本発明に係るメタン燃焼触媒によれば、初期活性を良好にすると共に耐久性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】従来のジルコニア担体を適用するメタン燃焼触媒の活性低下の機構及び本発明におけるシリカ添加の効果を説明する図。
【
図2】第1実施形態の実施例1、比較例1のメタン燃焼触媒のXRD回折プロファイル。
【
図3】第1実施形態の実施例1、比較例1のメタン燃焼試験の結果(初期活性、650℃耐久後)を示すグラフ。
【
図4】第1実施形態の比較例2、3のメタン燃焼試験の結果(初期活性、650℃耐久後)を示すグラフ。
【
図5】第1実施形態の比較例4、5のメタン燃焼試験の結果(初期活性、650℃耐久後)を示すグラフ。
【
図6】第1実施形態の実施例1、比較例1のメタン燃焼触媒のTEM像。
【発明を実施するための形態】
【0049】
第1実施形態:以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態では、シリカゾルを添加してジルコニア担体を調製したスラリーを製造し、これを支持体に塗布後、PtとPdを担持してメタン燃焼触媒を製造した(実施例1)。そして、このメタン燃焼触媒におけるシリカの分散状態(Si濃度分布)を確認した後にメタンの燃焼試験を行った。
【0050】
平均粒径3.29μmのジルコニア粉末100gを、水300mL及び粉砕媒体であるジルコニアボール(径1mm)と共にボールミルに投入し、更に、市販の粒径5nmのシリカゾルを添加して攪拌・粉砕をした。シリカゾルの添加量は、ジルコニア粉末に対して4質量%となるようにした。粉砕処理は、回転数40rpmで10時間の攪拌を行いジルコニア担体のスラリーを製造した。
【0051】
こうして製造したスラリーについて、粒度分布測定機にて粒度測定を行い、所定の平均粒径になっていることを確認した。尚、粉砕後のジルコニア粉末の平均粒径は1.26μmあった(粒径減少率61.7%)。尚、粉砕前後の粒度分布については、粒径2μm~12μmの粉末で構成されていたジルコニア粉末が粒径0.4μm~2μmとなった。
【0052】
次に、支持体(メタルハニカム:18mmφ×長さ50mm)に、上記で作製したジルコニアスラリーをエアブローで塗布した。スラリーの塗布量は、支持体容量基準で120g/Lとした。その後、120℃で10分間のガス乾燥をした後、電気炉にて500℃で60分焼成してメタルハニカムに支持されたジルコニア担体を製造した。
【0053】
そして、上記ジルコニア担体にPtとPdを担持した。金属塩溶液はジニトロジアンミン白金(2g/L)と硝酸パラジウム(8g/L)の混合溶液を用いた。金属塩溶液の含浸は、支持体の両端から行うこととし、一方の端部からエアブローで塗布し風乾(30分)させた後、他方の端部からも塗布・乾燥させた。各触媒金属の担持量は、触媒全体(ジルコニア担体と触媒金属)に対してPt1.5質量%、Pd6.2質量%とした。最後に500℃で60分焼成してメタン燃焼触媒を得た。
【0054】
比較例1:上記の実施例1に対する比較例として、シリカ添加のないジルコニア担体にPt及びPdを担持したメタン燃焼触媒を製造した(比較例1)。上記の担体の調製工程において、ボールミルによるジルコニア粉末の粉砕処理の際にシリカゾルに替えてバインダーとしてジルコニアゾル(ZrO(NO3)2)を添加し、実施例1と同様の条件で担体のスラリーを作製した。その後は、実施例1と同じ工程でPt、Pdを担持してメタン燃焼触媒を製造した。
【0055】
比較例2:実施例1に対する比較例として、実施例1と同じ粒径5nmのシリカゾルをジルコニア粉末に添加しつつ粉砕条件を変更してジルコニア担体を製造した(比較例2)。この比較例の粉砕条件は、回転数40rpmで0.5時間とした。粉砕により製造したスラリーについて、ジルコニア粒子の平均粒径を測定した結果、平均粒径は2.59μmあった(粒径減少率21.3%)。また、粉砕後の粒度分布は、1μm~5μmのジルコニア粉末で構成されていた。その後、実施例1と同様にしてPt、Pdを担持してメタン燃焼触媒を製造した。
【0056】
比較例3:この比較例は、ジルコニア粉末の混合・粉砕の際に添加するシリカとして粒径12nmのシリカゾルを用いた(比較例3)。この点以外は実施例1と同様にしてジルコニア担体スラリーを製造した。そして、実施例1と同様にしてPt、Pdを担持してメタン燃焼触媒を製造した。
【0057】
比較例4:この比較例は、ジルコニア粉末の混合・粉砕の際に添加するシリカとして粒径200nmのシリカゾルを用いた。この点以外は実施例1と同じ粉砕条件でジルコニア担体スラリーを製造した。そして、実施例1と同様にしてPt、Pdを担持してメタン燃焼触媒を製造した。
【0058】
比較例5:この比較例は、ジルコニア粉末の混合・粉砕の際に添加するシリカとして粒径400nmのシリカゾルを用いた。この点以外は実施例1と同じ粉砕条件でジルコニア担体スラリーを製造した。そして、実施例1と同様にしてPt、Pdを担持してメタン燃焼触媒を製造した。
【0059】
シリカの分散状態の検討
以上で製造した実施例1及び比較例1~比較例5のメタン燃焼触媒について、ジルコニア担体中のシリカの分散状態を検討した。ここでは、各メタン燃焼触媒について任意に9箇所の測定領域(面積1.0μm2)を設定し、各測定領域をEPMAで定量分析した。
【0060】
EPMA分析では、Pt、Pd、Si、Zrの必須元素とジルコニアやシリカ等に由来するO等の非金属元素の他、Fe、Cr等の金属元素が検出された。Fe等の金属元素の検出は、支持体であるメタルハニカムに由来し、Fe等はメタン燃焼触媒を構成する金属元素ではない。本発明では、メタン燃焼触媒に含まれるSiの濃度や分散状態を正確に評価するため、Pt、Pd、Si、Zrの必須元素の濃度の合計を基準としている。本実施形態でも、測定されたSi濃度及びZr濃度を、必須金属濃度基準の濃度に換算した。そして、9箇所の測定領域のSi濃度(CSi)とZr濃度(CZr)に基づき、これらの比(CSi/CZr)を求めた。更に、前記比率CSi/CZrの平均値、標準偏差を算出し、CSi/CZrの変動係数を得た。以上の結果の例として、実施例1のメタン燃焼触媒について行った分析結果を表1に示す。尚、実施例1のメタン燃焼触媒のSi濃度は、平均3.4質量%であった。
【0061】
【0062】
高温加熱前後のジルコニア粒子の結晶子径の測定
実施例1及び比較例1~比較例5のメタン燃焼触媒について、製造直後と700℃で加熱後のXRD分析(X線源:Cu
kα線)を行った。700℃の加熱は、大気中で電気炉にて2時間加熱した。実施例1と比較例1のメタン燃焼触媒の各段階におけるX線回折パターンを
図2に示す。そして、この回折パターンに基づき、ジルコニア粒子の結晶子径を算出した。ジルコニア粒子の結晶子径の算出は、付近に重畳ピークが生じ難い2θ=71.38°付近の(-104)面のピークの半値幅を測定して算出した。
【0063】
実施例1及び比較例1~比較例5のメタン燃焼触媒について評価・測定したシリカの分散状態(CSi/CZr)と、製造直後(Fresh)及び700℃で加熱後のジルコニア粒子の結晶子径と増加率を表2に示す。
【0064】
【0065】
表2から、比較例1のシリカ添加がないメタン燃焼触媒は、高温加熱によりジルコニア粒子の結晶子径の増加率が63.7%となっており、ジルコニアのシンタリングが発生することが確認された。これに対して、実施例1のシリカを添加したメタン燃焼触媒では、CSi/CZrの変動係数が30%以下であり、触媒中にシリカが均一に分散しているといえる。そして、実施例1では、ジルコニア粒子の結晶子径の増加率は14.8%と大幅に低くなっている。このことから、ジルコニア担体へシリカを添加することで、スペーサーとしての作用によるシンタリングの抑制効果が発現することが確認された。
【0066】
但し、ジルコニア担体にシリカを添加するとしても、シリカ添加時の混合・粉砕条件が実施例1と異なり、粉砕後のジルコニア粉末の粒径減少率が50%未満となった比較例2では、CSi/CZrの変動係数が30%を超えることとなる。この比較例2においても、高温加熱により結晶子径の増加率が大きくなっておりシンタリングが生じることとなる
【0067】
更に、ジルコニア担体に添加するシリカの粒径が10nmを超えた場合でも、CSi/CZrの変動係数が30%を超えて触媒中のシリカの分散状態は不均一となっている(比較例3)。粉砕条件を実施例1と同等に適切にしたとしても、シリカの粒径が大きいと分散性が劣ることとなる。その結果、高温加熱による結晶子径の増加率が大きくなっている。これは、シリカの粒径が200nm(比較例4)、400nm(比較例5)でも同様である。
【0068】
以上から、ジルコニア担体のシンタリング抑制には、適切な粒径のシリカの添加に加えて、粉砕条件の調整によりジルコニア粉末の粒径減少率を好適に高めることが必要であることが確認された。そして、ジルコニア担体へのシリカの適切な添加は、高温下でのジルコニア粒子のシンタリングを抑制できると考えられる。
【0069】
メタン燃焼試験(初期活性と耐久性の評価)
次に、実施例1及び比較例1~比較例5のメタン燃焼触媒について、性能評価のためのメタン燃焼試験を行った。この評価試験では、固定床型の反応装置にメタン燃焼触媒をセットし、試験ガスを流通させてメタン転化率を測定した。試験条件は、下記の通りとした。
・試験ガス組成
CH4:1000ppm
O2:15%
H2O:10%
N2:バランス
・圧力:0.36MPa
・空間速度(GHSV):30,000h-1
・反応温度(触媒温度):300℃~450℃
・試験時間:24時間
【0070】
メタン燃焼触媒の初期活性は、各反応温度にて試験ガスを触媒に通過させ、1時間後の排出ガスの組成を分析してメタン転化率を測定した。メタン転化率の測定では、排出ガスをFID式THCガス分析計でメタン濃度を分析した。そして、測定値から下記式によりメタン転化率を算出した。
【0071】
【0072】
一方、耐久性の評価試験では、上記の初期活性の評価後のメタン燃焼触媒を試験装置にセットした後、触媒を650℃とし上記の試験ガスを2時間通過させて触媒を劣化(650℃耐久)させた。その後、上記と同様にして各試験温度におけるメタン転化率を測定した。
【0073】
本実施形態で製造した実施例1及び比較例1~比較例5のメタン燃焼触媒についてのメタン燃焼試験の結果を
図3~
図5に示す。また、これらの試験結果から得られた、初期状態(Fresh)及び650℃耐久後の90%浄化温度(メタン添加率が90%になる温度)を纏めたものを表3に示す。
【0074】
【0075】
図3及び表3を参照しつつ、シリカ添加の有無において相違する実施例1及び比較例1のメタン燃焼触媒を対比すると、初期活性に関しては実施例1(シリカ添加有)と比較例1(シリカ添加無)は同じであるといえる。しかし、650℃耐久後の両触媒についてみると、実施例1のメタン燃焼触媒の方が高いメタン添加率を示している。90%浄化温度は、実施例1(シリカ添加有)が385℃で比較例1(シリカ添加無)は404℃である。よって、ジルコニア担体へのシリカの添加により耐久性が向上することが確認された。
【0076】
ここで、実施例1及び比較例1のメタン燃焼触媒の650℃耐久後の状態を確認した結果を示す。
図6は、各触媒の650℃耐久後のTEM像を示す。これらのTEM像は、初期状態(650℃耐久前)は同じジルコニア粉末で製造された触媒を同じ倍率で撮像したものである。
図6から比較例のジルコニア粒子は粗大化していることが確認でき、比較例1では高温加熱によりジルコニア粒子がシンタリングしていることが伺える。
【0077】
次に、比較例2~比較例5のメタン燃焼触媒について検討する。上記のとおり、ジルコニア粉末へのシリカの混合・粉砕が不十分である場合(比較例2)や添加するシリカの粒径が粗大である場合(比較例3~5)においては、ジルコニア担体におけるシリカの分散状態に関連するC
Si/C
Zrの変動係数が30%を超えている。
図4と表4を参照すると、これら比較例2~比較例5のメタン燃焼触媒は、初期活性は実施例1と差はないが、650℃耐久後の90%浄化温度の上昇幅が大きくなっている。ジルコニア担体を備えるメタン燃焼触媒にとって、シリカの添加は有効である。しかしながら、その作用を有効にするには、シリカの分散状態の好適化(粉砕条件の好適化、添加するシリカの微細化)が肝要であることが確認された。
【0078】
初期活性及び650℃耐久後のジルコニア担体の比表面積の変化
上記のメタン燃焼試験においては、実施例1及び比較例1~比較例5のメタン燃焼触媒の初期状態(Fresh)と650℃耐久・燃焼試験後の状態について、ジルコニア担体の比表面積を測定している。比表面積の測定は、BET法にて測定した。この結果を表4に示す。
【0079】
【0080】
表4において、比較例1のシリカ添加のない触媒は、他の触媒(シリカ添加有)に対して製造後の比表面積が低い。いずれの触媒も担体として使用したジルコニア粉末は同じであるが、Pt、Pdを担持する際の金属塩溶液が酸性であるので、シリカ添加がないジルコニア粉末は酸により浸食され細孔の閉塞等が生じたと考えられる。もっとも、上記燃焼試験における初期活性をみるに、この比表面積の変化はシンタリングのような触媒活性に直接的に影響を及ぼす程の変化ではない。しかし、比較例1のメタン燃焼触媒は、650℃耐久後に比表面積が大きく減少し、ジルコニア粒子のシンタリングによるものといえる。一方、比較例2、3については、シリカ添加により製造後の比表面積は実施例1と同等であるが、650℃耐久後に比表面積が大きく減少している。シリカ添加があってもその分散状態の適正化がないと、ジルコニア粒子のシンタリングが抑制されないと考えられる。
【0081】
第2実施形態:本実施形態では、ジルコニア担体へのシリカの添加量を変化させてメタン燃焼触媒を製造し、その初期活性及び耐久性を評価した。
【0082】
第1実施形態の実施例1のメタン燃焼触媒の製造工程において、担体スラリー調製の際に実施例1と同じシリカゾル(粒径5nm)を使用した。そして、ジルコニア粉末に対して2質量%(実施例2)、8質量%(実施例3)、15質量%(実施例4)添加して担体スラリーを調製した。その後、実施例1と同じ工程にてPt、Pdを担持してメタン燃焼触媒を製造した。そして、第1実施形態と同じ試験条件で初期活性と650℃耐久後のメタン燃焼試験を行った。この評価結果として、各触媒における90%浄化温度を表5に示す。表5には実施例1の結果も示している。
【0083】
【0084】
表5から、基本的に、ジルコニア担体へのシリカ(5nm)の添加は、90%浄化温度を低温側にシフトさせるので、適切なシリカ添加は耐久性向上に寄与することが分かる。もっとも、シリカ添加量が多い場合、初期活性及び耐久後の90%浄化温度がやや高温となる(実施例4)。初期活性を重視しつつ耐久性とのバランスを考慮するならば、シリカ添加量を15%より低くしてSi濃度をより好適化するのが適切と考えられる。
【0085】
また、シリカ添加量2%の実施例2は、耐久後の90%浄化温度がやや高めとなり、初期状態の90%浄化温度との温度差も比較的大きい。更に、実施例2は、CSi/CZrの変動係数が30%に迫っている。シリカ添加量が少ない場合には、均一にシリカを分散させるため、より徹底した粉砕が必要であると考えられる。また、シリカ添加量を実施例2よりやや高め(3質量%以上)とすることもより好ましいと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係るメタン燃焼触媒は、初期活性を従来技術と同等以上としつつ耐久性の向上が図られている。本発明によれば、メタン燃焼触媒について、触媒金属の担持量を増加させることなく耐久性の確保が可能となり、メタン燃焼触媒の低コスト化に寄与することができる。本発明に係るメタン燃焼触媒は、天然ガス、都市ガス等の燃料による排ガスの浄化装置や空気清浄システムの他、メタン燃焼時の熱を利用するSOFC(固体電解質形燃料電池)のオフガス、ガスセンサー等の幅広い用途に供することができる。