(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182219
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】生産システム
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20231219BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20231219BHJP
B23Q 41/00 20060101ALN20231219BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G06Q50/04
B23Q41/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095699
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼本 仁志
(72)【発明者】
【氏名】澤田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】岩井 英樹
(72)【発明者】
【氏名】安藤 善昭
(72)【発明者】
【氏名】若園 賀生
【テーマコード(参考)】
3C042
3C100
5L049
【Fターム(参考)】
3C042RG01
3C042RG06
3C042RJ01
3C100AA07
3C100AA16
3C100AA23
3C100AA27
3C100BB12
3C100BB14
3C100BB15
3C100BB17
3C100BB19
5L049CC04
(57)【要約】
【課題】工具コストおよび労働コストを考慮して、最適な生産を実現することができる生産システムを提供する。
【解決手段】生産システム1は、作業者の操作または管理により、工具Tを用いて工作物Wを加工するように構成された生産設備2と、生産設備2の稼働に関して生産設備2に指令する指令装置6とを備える。工具Tによる加工能率が高いほど1つの工作物Wの生産に要するタクトタイムT_tactが短くなる関係を有し、加工能率が高いほど工具修正または工具交換に伴う工具コストCtoolが高くなる関係を有し、作業者の労働時間に応じて労働コストCpersonが設定されている。指令装置6は、工具コストCtoolおよび労働コストCpersonを含む総コストCtotalを低くするようにタクトタイムT_tactを決定するタクトタイム決定部12と、決定されたタクトタイムT_tactにて生産するように生産設備2に指令する指令部13とを備える。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者の操作または管理により、工具を用いて工作物を加工するように構成された生産設備と、
前記生産設備の稼働に関して前記生産設備に指令する指令装置と、
を備え、
前記工具による加工能率が高いほど1つの前記工作物の生産に要するタクトタイムが短くなる関係を有し、前記加工能率が高いほど工具修正または工具交換に伴う工具コストが高くなる関係を有し、かつ、前記作業者の労働時間に応じて労働コストが設定されており、
前記指令装置は、
前記工具コストおよび前記労働コストを含む総コストを低くするように前記タクトタイムを決定するタクトタイム決定部と、
決定された前記タクトタイムにて生産するように前記生産設備に指令する指令部と、
を備える、生産システム。
【請求項2】
前記タクトタイム決定部は、
前記工作物の目標生産数量、および、前記目標生産数量の前記工作物を生産するための目標完了時刻に基づいて、前記目標完了時刻までに前記目標生産数量の前記工作物を生産するための前記タクトタイムの目標値である目標タクトタイムを算出し、
前記目標タクトタイムに基づいて前記タクトタイムを決定する、請求項1に記載の生産システム。
【請求項3】
前記作業者は、労働時間の規定終業時刻が設定された労働形態の者であり、
前記目標完了時刻は、前記規定終業時刻である、請求項2に記載の生産システム。
【請求項4】
前記作業者の就業時間のうち前記規定終業時刻の前において、前記工具コストの時間増加率が前記労働コストの時間増加率より大きく、
前記タクトタイムは、所定最短時間から所定最長時間までの範囲にて設定可能に構成されており、
前記タクトタイム決定部は、算出された前記目標タクトタイムが前記所定最長時間より長い場合には、前記タクトタイムを前記所定最長時間に決定する、請求項3に記載の生産システム。
【請求項5】
前記タクトタイム決定部は、算出された前記目標タクトタイムが前記所定最短時間より短い場合には、前記タクトタイムを前記所定最短時間に決定する、請求項4に記載の生産システム。
【請求項6】
前記作業者は、労働時間の規定終業時刻が設定された労働形態の者であり、
前記作業者の就業時間のうち前記規定終業時刻の前において、前記工具コストの時間増加率が前記労働コストの時間増加率より大きく、
前記作業者の就業時間のうち前記規定終業時刻の後において、前記工具コストの時間増加率が前記労働コストの時間増加率より小さく、
前記タクトタイム決定部は、前記規定終業時刻の前および後のいずれもにおいて、前記工具コストおよび前記労働コストを含む前記総コストを低くするように前記タクトタイムを決定する、請求項1または2に記載の生産システム。
【請求項7】
前記目標完了時刻は、生産計画において前記生産設備による次の生産の開始時刻である、請求項2に記載の生産システム。
【請求項8】
前記タクトタイム決定部は、
前記目標生産数量および前記目標完了時刻を含む初期生産計画に基づいて、前記目標タクトタイムを算出し、
現在の前記目標生産数量および前記目標完了時刻を逐次取得し、
取得した現在の前記目標生産数量および前記目標完了時刻の少なくとも一方が変更された場合に、変更された前記目標生産数量および前記目標完了時刻を含む変更後生産計画に基づいて、前記目標タクトタイムを再算出し、
再算出された前記目標タクトタイムに基づいて前記タクトタイムをリアルタイムに再決定する、請求項2に記載の生産システム。
【請求項9】
前記タクトタイム決定部は、1つまたは所定数量の前記工作物を加工する度に、現在の前記目標生産数量および前記目標完了時刻を取得する、請求項8に記載の生産システム。
【請求項10】
前記タクトタイムは、前記工作物の目標品質を満たす所定最短時間から所定最長時間までの範囲にて設定可能に構成されている、請求項1または2に記載の生産システム。
【請求項11】
前記工具修正または前記工具交換のインターバルは、前記加工能率に基づいて決定される、請求項1または2に記載の生産システム。
【請求項12】
前記生産設備は、前記工具としての砥石車を用いて前記工作物を研削加工する研削盤であり、
前記砥石車は、前記加工能率に基づいて前記工具修正または前記工具交換の前記インターバルが決定される、請求項11に記載の生産システム。
【請求項13】
前記指令部は、決定された前記タクトタイムに対応する前記加工能率を前記生産設備に指令する、請求項1または2に記載の生産システム。
【請求項14】
複数の前記生産設備は、機械加工の処理、前記機械加工の前処理、前記機械加工の後処理のそれぞれを実行し、
前記機械加工を実行する前記生産設備は、
前記工具修正または前記工具交換を実行し、
1つの前記工作物の前記機械加工の処理に要する単位加工時間を加工条件の指令データに含み、
前記指令装置は、前記生産設備による各処理を実際にまたはシミュレーションにて実行することにより、前記タクトタイムと前記単位加工時間との関係を取得し、
前記指令部は、決定された前記タクトタイムに対応する前記単位加工時間を、前記機械加工を実行する前記生産設備に指令する、請求項1または2に記載の生産システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生産システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の複合加工機が担当する加工を、複合加工機の稼働時間、工作物の生産数量、単位数量あたりの加工時間に応じて決定することが記載されている。このように複数の複合加工機が担当する加工を状況に応じて決定することにより、生産数量の増減に対応できる。
【0003】
特許文献2には、生産条件を満たすように自律的に生産指令値を修正することにより稼働可能な生産ラインを有するサイバーフィジカル型生産システムが記載されている。この生産システムは、例えば、研削加工処理、熱処理および検査処理によって生じる生産コストを合算したコストが基準コストを満たすように、生産ラインの稼働条件を決定する。具体例として、生産コストに含まれるツールコストとして、研削盤、熱処理炉および検査機の構成部品(例えば、砥石車、炉、検査用カメラなど)の交換費用や再生費用などが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-305709号公報
【特許文献2】特開2020-177580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コストには、設備に関するコストの他に、作業者の労働コストがある。一般に、生産設備において高い加工能率で工作物の加工を行った場合には、工具にかかる加工負荷が高くなり、工具の消耗速度が速い。そのため、高い加工能率で工作物の加工を行うと、工具コストが高くなる。一方、加工能率を低くすると、1つの工作物の加工に要する時間が長くなる。そのため、生産計画にて設定されている工作物の目標生産数量の加工を行うために時間を要する。その結果、作業者の労働形態にもよるが、作業者の労働時間が長くなり、労働コストが高くなる場合がある。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、工具コストおよび労働コストを考慮して、最適な生産を実現することができる生産システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、作業者の操作または管理により、工具を用いて工作物を加工するように構成された生産設備と、
前記生産設備の稼働に関して前記生産設備に指令する指令装置と、
を備え、
前記工具による加工能率が高いほど1つの前記工作物の生産に要するタクトタイムが短くなる関係を有し、前記加工能率が高いほど工具修正または工具交換に伴う工具コストが高くなる関係を有し、かつ、前記作業者の労働時間に応じて労働コストが設定されており、
前記指令装置は、
前記工具コストおよび前記労働コストを含む総コストを低くするように前記タクトタイムを決定するタクトタイム決定部と、
決定された前記タクトタイムにて生産するように前記生産設備に指令する指令部と、
を備える、生産システムにある。
【発明の効果】
【0008】
上記態様によれば、加工能率を高くすると、工具にかかる負荷が高くなるため、工具修正または工具交換に伴う工具コストが高くなる。加工能率を高くすると、1つの工作物の生産に要するタクトタイムが短くなるため、作業者の労働時間が短くなり、労働コストが高くなることはない。一方、加工能率を低くすると、1つの工作物の生産に要するタクトタイムが長くなるため、作業者の労働時間が長くなり、労働コストが高くなる可能性がある。ただし、加工能率を低くすると、工具にかかる負荷が小さくなるため、工具修正または工具交換に伴う工具コストが低くなる。このように、工具コストと労働コストとは、加工能率に対して相反する関係を有する。
【0009】
そこで、指令装置を構成するタクトタイム決定部が、工具コストおよび労働コストを含む総コストを用いて、総コストが低くなるようなタクトタイムを決定している。そして、指令装置を構成する指令部が、決定されたタクトタイムにて加工するように生産設備に指令している。従って、総コストが低くなるような加工能率にて工作物の加工を行うことができ、最適な生産を実現することができる。
【0010】
以上のごとく、上記態様によれば、工具コストおよび労働コストを考慮して、最適な生産を実現することができる生産システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態1における生産システムの構成を示す図である。
【
図2】生産システムを構成する加工装置の例としての研削盤を示す図である。
【
図3】研削盤における機械加工処理(研削加工処理)を示すフローチャートである。
【
図4】研削盤における機械加工処理(研削加工処理)における砥石車のX軸位置の変化を示す図である。
【
図5】加工装置の工具修正のインターバルを説明するための図である。
【
図6】加工能率に応じたタクトタイムおよび単位加工時間について説明する図である。
【
図7】時間経過に伴う工具コスト、労働コスト、および、総コストを示す図である。
【
図8】生産システムを構成する指令装置による処理を示すフローチャートである。
【
図9】指令装置が指令情報を生成する際に用いるデータを示す図である。
【
図10】指令装置が指令情報を生成する際に用いるデータの他の例を示す図である。
【
図11】加工能率の決定を説明するための図であって、現在から時間経過に伴う工具コスト、労働コスト、総コスト、および、決定した対象を示す図である。
【
図12】加工能率の決定を説明するための図であって、現在から時間経過に伴う工具コスト、労働コスト、総コスト、および、決定した対象を示す図である。
【
図13】加工能率の決定を説明するための図であって、現在から時間経過に伴う工具コスト、労働コスト、総コスト、および、決定した対象を示す図である。
【
図14】加工能率の決定を説明するための図であって、現在から時間経過に伴う工具コスト、労働コスト、総コスト、および、決定した対象を示す図である。
【
図15】実施形態2における生産システムを構成する指令装置による処理を示すフローチャートである。
【
図16】加工能率の決定を説明するための図であって、現在から時間経過に伴う工具コスト、労働コスト、総コスト、および、決定した対象を示す図である。
【
図17】実施形態3において、加工能率の決定を説明するための図であって、現在から時間経過に伴う工具コスト、労働コスト、総コスト、および、決定した対象を示す図である。
【
図18】実施形態4における生産システムを構成する指令装置による処理を示すフローチャートである。
【
図19】加工能率の決定を説明するための図であって、現在から時間経過に伴う工具コスト、労働コスト、総コスト、および、決定した対象を示す図である。
【
図20】加工能率の決定を説明するための図であって、現在から時間経過に伴う工具コスト、労働コスト、総コスト、および、決定した対象を示す図である。
【
図21】加工能率の決定を説明するための図であって、現在から時間経過に伴う工具コスト、労働コスト、総コスト、および、決定した対象を示す図である。
【
図22】加工能率の決定を説明するための図であって、現在から時間経過に伴う工具コスト、労働コスト、総コスト、および、決定した対象を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1)
1.生産システム1の構成
生産システム1の構成について
図1を参照して説明する。生産システム1は、複数の生産設備2,3,4と、管理装置5と、指令装置6とを備える。複数の生産設備2,3,4は、例えば、工作物Wを生産するための生産設備であって、工作物Wに対して順次処理を実行する。
【0013】
生産設備2は、工作物Wに対して、機械加工を実行する加工装置である。生産設備2は、例えば、旋盤、マシニングセンタ、歯切り装置、研削盤などの除去加工(切削加工、研削加工)を行う加工装置(工作機械)である。従って、加工装置である生産設備2は、作業者の操作または管理により、工具Tを用いて工作物Wを加工するように構成されている。工具Tは、切削工具や砥石車などである。
【0014】
作業者の操作とは、例えば、生産設備2の操作画面や操作ボタンなどの操作である。操作には、工作物Wの各個の操作が必要な場合や、複数の工作物Wに対する一連の操作に対して1回の操作で足りる場合などがある。後者は、例えば、連続生産の開始ボタンの操作などである。また、作業者の管理には、生産設備2の正常稼働確認や、副資材などの補充などを含む。ただし、操作と管理を特段区別する必要はなく、「作業者の操作または管理により」とは、「作業者の従事により」を意味する。
【0015】
生産設備3は、加工装置である生産設備2の前処理を実行する設備である。つまり、生産設備3は、加工装置である生産設備2の工作物Wの素材を生成する。前処理を実行する生産設備3は、例えば、旋盤、マシニングセンタ、歯切り装置などの除去加工を行う加工装置、鍛造や鋳造などを行う加工装置、熱処理を施す熱処理設備、表面処理を施す設備、レーザ加工装置などである。
【0016】
生産設備4は、加工装置である生産設備2により加工された工作物Wに対して、後処理を実行する。生産設備4は、後処理として、例えば、仕上加工、検査処理などを行う。なお、生産設備2,3,4のそれぞれは、1台により構成されるようにしても良いし、複数台により構成されるようにしても良い。生産設備3,4は、作業者の操作または管理により稼働するように構成しても良いし、作業者の操作または管理によらずに稼働するように構成しても良い。
【0017】
生産設備2~4は、少なくとも駆動装置および検出装置などを備えており、駆動装置は制御データに基づいて駆動し、検出装置は検出データを得る。また、生産設備2~4のそれぞれは、駆動装置の制御データ、駆動装置の駆動データ、検出装置の検出データの少なくも1つに基づいて生産設備2~4のそれぞれの状態を演算する演算装置を備えるようにしても良い。
【0018】
例えば、演算装置は、制御データ、駆動データ、検出データの少なくとも1つに基づいて、工作物Wの品質の推定、工具修正や工具交換の時期の推定、生産設備2~4のそれぞれの稼働状況データの生成、生産設備2~4のそれぞれの異常原因の推定などの少なくとも1つを行う。演算装置による演算は、生産設備2~4のそれぞれの生産処理に対してリアルタイムに行うようにしても良いし、非リアルタイムに行うようにしても良い。また、演算装置は、生産設備2~4の組込みシステムとしても良いし、生産設備2~4とは別ユニットとしても良く、例えばエッジコンピュータやクラウドコンピュータなどとしても良い。なお、生産設備2~4は、演算装置を備えないことも可能である。
【0019】
管理装置5は、生産計画を格納する。管理装置5は、生産計画を生成する機能を有するようにしても良い。生産計画には、例えば、工作物Wごとの生産期日(納期)、工作物Wの工程情報、各工程の実行スケジュールなどの管理データが含まれている。管理装置5への管理データの入力は、管理者により行われる。
【0020】
指令装置6は、生産設備2~4のそれぞれの稼働に関して、生産設備2~4のそれぞれに指令する。具体的には、指令装置6は、生産設備2~4のそれぞれから設備データを取得する。設備データは、生産設備2~4の稼働に関するデータであって、例えば、制御データ、駆動データ、検出データ、演算データ、個々の工作物Wの生産完了データなどの少なくとも1つを含む。さらに、指令装置6は、管理装置5から管理データを取得する。
【0021】
指令装置6は、設備データおよび管理データに基づいて、生産設備2~4のそれぞれの稼働条件に関する指令データを生成し、生産設備2~4のそれぞれに指令データを出力する。特に、指令装置6は、生産設備2~4が稼働している状態において、リアルタイムに演算を行って、リアルタイムに生産設備2~4に指令する。つまり、指令装置6は、サイバーフィジカル型生産システム(CPPS)における仮想空間の処理を実現するための装置として機能させることができる。この場合、指令装置6は、現実世界における生産設備2~4の動作を仮想空間においてリアルタイムに実行し、当該処理結果を用いて現実世界における生産設備2~4の動作をリアルタイムに制御することができる。また、指令装置6は、生産設備2~4の設備データを集計することにより集計データを生成し、管理装置5へ出力する。
【0022】
指令装置6は、上記の一部の機能を実現するために、取得部11、タクトタイム決定部12、指令部13、集計データ出力部14を備える。取得部11は、生産設備2~4のそれぞれから設備データを取得する。タクトタイム決定部12は、取得部11にて取得した設備データおよび管理装置5から取得した管理データに基づいて、1つの工作物Wの生産に要するタクトタイムT_tactを決定する。特に、本形態においては、タクトタイム決定部12は、工具コストCtoolおよび労働コストCpersonを含む総コストCtotalを考慮してタクトタイムT_tactを決定する。なお、総コストCtotalには、工具コストCtoolおよび労働コストCpersonに加えて、電気代などの生産設備2~4の稼働に必要な設備稼働コストなどを含むようにしても良い。
【0023】
指令部13は、タクトタイム決定部12にて決定されたタクトタイムT_tactにて工作物Wの生産を行うように、加工装置を構成する生産設備2に指令する。集計データ出力部14は、生産設備2~4の稼働に関するデータを集計して集計データを生成し、集計データを管理装置5に出力する。集計データには、例えば、稼働実績として、工作物Wの生産開始終了時刻、設備停止時間、生産中の制御データ、駆動データ、検出データ、工具修正および工具交換の回数、工具修正および工具交換の実行時刻などの少なくとも1つが含まれる。
【0024】
2.生産設備2の構成
加工装置である生産設備2の構成の例について
図2を参照して説明する。本形態では、生産設備2は、円筒研削盤を例にあげる。生産設備2は、
図2においては、砥石台トラバース型円筒研削盤を例に挙げるが、テーブルトラバース型円筒研削盤を適用できるし、他の構成の研削盤を適用することもできる。
【0025】
生産設備2としての研削盤は、ベッド21、工作物支持台22、トラバースベース23、砥石台24を備える。工作物支持台22は、ベッド21の上面に設けられており、例えば、軸状の工作物Wの一端を支持する主軸台、および、他端を支持する心押台により構成される。また、工作物支持台22を構成する主軸台および心押台は、工作物Wを回転可能とする。
【0026】
トラバースベース23は、ベッド21の上面に、工作物Wの軸方向に平行な方向(Z軸方向)に移動可能に構成されている。砥石台24は、トラバースベース23の上面に、工作物Wに対して接近離間する方向(X軸方向)に移動可能に構成されている。また、砥石台24は、工具Tとしての砥石車を回転駆動する。生産設備2としての研削盤は、工作物Wと工具Tとしての砥石車とを相対移動することにより、工作物Wを研削加工する。
【0027】
3.生産設備2の処理
図2に示す生産設備2である研削盤による機械加工処理、すなわち研削加工処理について、
図3および
図4を参照して説明する。
図4において、(a)および(b)は、機械加工の少なくとも一部の工程における加工能率が異なる。加工能率とは、単位時間当たりの工作物Wの除去体積に相当する。
【0028】
図4(a)は、加工能率が高い場合であって、特に、粗研工程S3における工具Tである砥石車の移動速度が速い状態を示す。
図4(b)は、加工能率が低い場合であって、特に、粗研工程S3における工具Tである砥石車の移動速度が遅い状態を示す。(a)および(b)において、他の工程は同一である。なお、本形態においては、加工能率を高くする工程は、粗研工程S3のみを例に挙げるが、他の工程も加工能率を変化させる対象とすることもできる。
【0029】
機械加工処理(研削加工処理)は、工具Tである砥石車を工作物Wに接近させるための早送り前進工程S1を行う(t0→t1)。早送り前進工程S1では、砥石車のX軸位置が、X0からX1へ早送りで移動する。早送り前進工程S1において、砥石車のX軸位置がX1に到達すると、空研工程S2が行われる(t1→t2)。空研工程S2では、砥石車の移動速度を早送り前進工程S1よりも低速にし、砥石車を工作物Wに接近させる。
【0030】
続いて、空研工程S2において、工作物Wが所定の空研寸法に到達すると(砥石車のX軸位置がX2に到達すると)、粗研工程S3が行われる(t2→t3、t2→t13)。粗研工程S3では、砥石車の移動速度を空研工程S2よりも低速にし、砥石車を工作物Wに接触させた後に、粗研削(荒加工とも称する)を行う。
図4(a)に示すように、加工能率が高い場合には、粗研工程S3の時間が短くなり、
図4(b)に示すように、加工能率が低い場合には、粗研工程S3の時間が長くなる。
【0031】
続いて、粗研工程S3において、工作物Wが所定の粗研寸法に到達すると(砥石車のX軸位置がX3に到達すると)、精研工程S4が行われる(t3→t4、t13→t14)。精研工程S4では、砥石車の移動速度を粗研工程S3よりも低速にし、仕上加工の一部として精研削を行う。
【0032】
続いて、精研工程S4において、工作物Wが所定の精研寸法に到達すると(砥石車のX軸位置がX4に到達すると)、微研工程S5が行われる(t4→t5、t14→t15)。微研工程S5では、砥石車の移動速度を精研工程S4よりも低速にし、仕上加工の他の一部として微研削を行う。
【0033】
続いて、微研工程S5において、工作物Wが所定の微研寸法に到達すると(砥石車のX軸位置がX5に到達すると)、スパークアウト工程S6が行われる(t5→t6、t15→t16)。スパークアウト工程S6では、砥石車のX軸位置X5,X6は一致する。スパークアウト工程S6を終えると、早送り後退工程S7が行われる(t6→t7、t16→t17)。
【0034】
図4(a)に示すように、加工能率が高いほど、1つの工作物Wの機械加工処理に要する時間(t0→t7)が短くなる。一方、
図4(b)に示すように、加工能率が低いほど、1つの工作物Wの機械加工処理に要する時間(t0→t17)が長くなる。
【0035】
4.工具修正に関する説明
図2に示す生産設備2である研削盤を構成する工具Tである砥石車は、工作物Wの研削加工を繰り返すことにより、砥石車の表面が摩耗した状態となったり、荒れた状態になったりする。砥石車などの工具Tの表面状態の悪化は、工作物Wの表面性状の悪化や工作物Wにおける加工変質層の生成などのように、工作物Wの加工精度が低下する原因となる。
【0036】
そこで、工具Tである砥石車の表面状態を良好な状態とするために、工具Tの修正として、ツルーイングおよびドレッシングを行う。ツルーイングは、形直し作業であり、研削加工によって砥石車が摩耗した場合に所望形状に成形する作業である。ドレッシングは、目直し(目立て)作業であり、砥粒の突き出し量を調整したり、砥粒の切刃を創成したりする作業である。ドレッシングは、目つぶれ、目詰まり、目こぼれなどを修正する作業である。なお、ツルーイングとドレッシングとは、特段区別することなく実施される場合がある。
【0037】
工具修正に関する処理について、
図5を参照して説明する。
図5においては、加工能率を3種類「高」「中」「低」に設定した場合に、工作物Wの生産数量に対して、工具修正指標値の変化を示す。工具修正指標値は、工作物Wの機械加工を実施することに伴い大きくなり、工具修正を実施することに伴い最小値になる。工具修正指標値がThに達した場合に、工具修正を実施する。
【0038】
工具修正指標値は、例えば、工作物Wの表面粗さに対応する値とすることができる。一般に、CBN砥粒などの超砥粒を用いる砥石車による研削加工の場合には、工作物Wの生産数量の増加に伴って、工作物Wの表面粗さは大きくなる。この場合、工具修正指標値は、表面粗さそのものとすることができる。また、アルミナ系砥粒などを用いる普通砥石による研削加工の場合には、工作物Wの生産数量の増加に伴って、工作物Wの表面粗さは小さくなる。この場合、工具修正指標値は、表面粗さの逆数とすることができる。上記のように、工具修正指標値は、研削加工の種類に応じた任意の値を設定することができる。なお、本形態では、工具修正指標値は、工作物Wの生産数量の増加に伴い大きくなるように変化することとしたが、工作物Wの生産数量の増加に伴い小さくなるように変化するように設定することもできる。
【0039】
ここで、
図3および
図4にて説明したように、研削盤、旋盤、マシニングセンタなどのように、工具Tにより工作物Wに対して切削加工や研削加工を行う加工装置においては、加工能率を変更することができる。加工能率とは、上述したように、単位時間当たりの工作物Wの除去体積に相当する。つまり、加工能率が高いほど、対象の工作物Wに対する機械加工時間が短くなり、加工能率が低いほど、対象の工作物Wに対する機械加工時間が長くなる。また、加工能率が高いほど、工作物Wの加工精度が悪くなるのに対して、加工能率が低いほど工作物Wの加工精度が良好になる。なお、加工精度の例として、表面粗さなどが挙げられる。
【0040】
図5に示すように、破線にて示す加工能率が「高」の場合には、工作物Wの生産数量に対して工具修正の頻度が高くなっている。加工能率が「高」の場合の工具修正のインターバルは、ΔInt_hiとなる。一点鎖線にて示す加工能率が「低」の場合には、工作物Wの生産数量に対して工具修正の頻度が低くなっている。加工能率が「低」の場合の工具修正のインターバルは、ΔInt_lowとなる。ΔInt_lowは、ΔInt_hiよりも長い時間となる。
【0041】
二点鎖線にて示す加工能率が「中」の場合には、工作物Wの生産数量に対する工具修正の頻度が、「高」の場合よりも低く、「低」の場合よりも高くなっている。加工能率が「中」の場合の工具修正のインターバルは、ΔInt_midとなる。ΔInt_midは、ΔInt_hiよりも長い時間となり、ΔInt_lowよりも短い時間となる。このように、工具修正のインターバルは、加工能率に基づいて決定されている。
【0042】
また、砥石車などの工具Tにおいて、工具修正を実施可能な回数は、例えば所定回数に設定されている。工具修正が所定回数に達した工具Tは、工具交換の対象となる。従って、工具修正のインターバルが短いほど、工具交換のインターバルが短くなり、工具修正のインターバルが長いほど、工具交換のインターバルが長くなる関係を有する。このように、工具交換のインターバルは、加工能率に基づいて決定されている。
【0043】
5.タクトタイムT_tactの説明
タクトタイムT_tactは、1つの工作物Wの生産に要する時間である。詳細には、タクトタイムT_tactは、n個の工作物Wの生産に要する総時間を、nで除算した値である。n個の工作物Wの生産に要する総時間には、(1)n個の工作物Wの機械加工処理に要する時間に加えて、(2)n個の工作物Wの搬入および搬出処理に要する時間、(3)n個の工作物Wの生産の際に実施される工具Tの修正および交換に要する時間、(4)n個の工作物Wの生産の際に生産設備2~4が停止した時間などの少なくとも1つが含まれる。
【0044】
そして、加工能率が高いほど、1つの工作物Wの機械加工処理に要する時間が短くなる関係を有し、加工能率が低いほど、1つの工作物Wの機械加工処理に要する時間が長くなる関係を有する。一方、加工能率が高いほど、工具修正のインターバルおよび工具交換のインターバルが短くなるため、1つの工作物Wの生産において工具修正および工具交換に要する時間が長くなる関係を有し、加工能率が低いほど、1つの工作物Wの生産において工具修正および工具交換に要する時間が短くなる関係を有する。
【0045】
一般に、1つの工作物Wの生産において、加工能率を高くすることに伴う機械加工処理に要する時間の短縮時間は、加工能率を高くすることに伴う工具修正または工具交換に要する時間の延長時間よりも大きい。従って、加工能率が高いほどタクトタイムT_tactが短くなる関係を有し、反対に、加工能率が低いほどタクトタイムT_tactが長くなる関係を有する。
【0046】
図6に示すように、加工能率が「高」の場合には、タクトタイムT_tactは、Ttact_minとなり、例えば、80secとなる。加工能率が「中」の場合には、タクトタイムT_tactは、Ttact_midとなり、例えば、100secとなる。加工能率が「低」の場合には、タクトタイムT_tactは、Ttact_maxとなり、例えば、120secとなる。また、加工能率が「高」「中」「低」のそれぞれの場合における1つの工作物Wの機械加工処理に要する時間である「単位加工時間」は、Tmc_min(例えば、40sec)、Tmc_mid(例えば、60sec)、Tmc_max(例えば、80sec)となる。
【0047】
なお、
図6の例示時間は、タクトタイムT_tactのうち、単位加工時間以外の時間を同一としているが、実際には変動する。ただし、変動要素は、工具修正および工具交換の他に、生産設備2の停止時間などを含み、非常に複雑である。そこで、
図6においては、例えば、実測やシミュレーションなどを用いて得られた結果を示している。
【0048】
6.工具コストCtool、労働コストCpersonおよび総コストCtotalの説明
工具コストCtool、労働コストCpersonおよび総コストCtotalについて、
図7を参照して説明する。工具コストCtoolは、機械加工に伴う工具の消耗量に相当する。工具修正の頻度および工具交換の頻度が高いほど、工具の消耗量が大きくなる。つまり、工具コストCtoolは、工具修正または工具交換に伴うコストである。具体的には、
図7に示すように、工具コストCtoolは、工作物Wの生産を継続している間において、工具修正の頻度および工具交換の頻度が高いほど高くなり、工具修正の頻度および工具交換の頻度が低いほど低くなる。
【0049】
さらに、工具修正および工具交換のタイミングは、加工能率に応じて異なる。従って、加工能率が高いほど、工具修正または工具交換に伴う工具コストCtoolが高くなる関係を有し、加工能率が低いほど、工具修正または工具交換に伴う工具コストCtoolが低くなる関係を有する。
図7に示すように、工具コストCtoolの時間増加率は、加工能率が「高」である工具コストCtool1、加工能率が「中」である工具コストCtool2、加工能率が「低」である工具コストCtool3の順となる。
【0050】
また、労働コストCpersonは、作業者の労働時間に応じて設定されている。例えば、
図7の実線に示す作業者は、労働時間について、規定始業時刻Tw_startおよび規定終業時刻Tw_fin(定時刻)が設定された労働形態の者である。この作業者の労働コストCpersonは、就業時間のうち規定始業時刻Tw_startから規定終業時刻Tw_fin(定時刻)までは、一定コストとなる。ただし、この作業者は、就業時間のうち規定終業時刻Tw_finの後においては、残業労働時間が長くなるほど労働コストCpersonが高くなっている。
【0051】
なお、作業者の中には、労働コストCpersonが一定コストとなる時間を有さずに、労働時間が長くなるほど労働コストCpersonが高くなる関係を有する労働形態の者も存在する。この作業者は、いわゆるパートタイマー労働形態に相当する。
【0052】
ここで、
図7に示すように、作業者の就業時間のうち規定終業時刻Tw_finの前において、工具コストCtool1,Ctool2,Ctool3の時間増加率は、労働コストCpersonの時間増加率よりも大きい。さらに、作業者の就業時間のうち規定終業時刻Tw_finの後においても、工具コストCtool1,Ctool2,Ctool3の時間増加率は、労働コストCpersonの時間増加率よりも大きい。
【0053】
そして、総コストCtotalは、少なくとも、工具コストCtoolおよび労働コストCpersonを含む。
図7に示すように、生産設備2の稼働時間が長くなるほど、総コストCtotalは高くなる。加工能率が高いほど、総コストCtotalが高くなる。つまり、総コストCtotalの時間増加率は、大きい順に、加工能率が「高」である総コストCtotal1、加工能率が「中」である総コストCtotal2、加工能率が「低」である総コストCtotal3となる。さらに、規定終業時刻Tw_finの後には、規定終業時刻Tw_finの前に比べて、総コストCtotal1,Ctotal2,Ctotal3の時間増加率が大きくなる。上述したように、総コストCtotal,Ctotal1,Ctotal2,Ctotal3には、工具コストCtoolおよび労働コストCpersonに加えて、電気代などの生産設備2~4の稼働に必要な設備稼働コストなどを含むようにしても良い。
【0054】
7.指令装置6の処理
指令装置6の処理について
図8および
図9を参照して説明する。ここでは、指令装置6は、作業者による1日における始業から終業までの処理について説明する。ただし、指令装置6の処理の対象期間は、作業者の始業および終業とは関わりなく、任意の期間としても良い。例えば、対象期間は、1週間、数週間、1か月、数か月などのように複数日を含む期間としたり、0時~24時までの時間帯、午前や午後の任意の時間帯としたりしても良い。例えば、作業者が交代勤務制であって、生産設備2~4を連続稼働するような場合には、上記のような任意の所定期間とすることができる。
【0055】
指令装置6のタクトタイム決定部12は、まず、管理装置5より、工作物Wの目標生産数量Ntarを取得する(S11)。目標生産数量Ntarは、例えば、1日における始業から終業までに生産する工作物Wの数量である。続いて、指令装置6のタクトタイム決定部12は、管理装置5より、目標生産数量Ntarの工作物Wを生産するための目標完了時刻の1つである規定終業時刻Tw_finを取得する(S12)。規定終業時刻Tw_finは、当該作業者の労働形態において設定された労働時間の規定終業時刻である。
【0056】
続いて、指令装置6のタクトタイム決定部12は、目標生産数量Ntar、および、目標完了時刻に基づいて、目標完了時刻までに目標生産数量Ntarの工作物Wを生産するためのタクトタイムT_tactの目標値である目標タクトタイムTtar_tactを算出する(S13)。本形態では、目標完了時刻は、規定終業時刻Tw_finであるため、指令装置6のタクトタイム決定部12は、規定終業時刻Tw_finまでに、目標生産数量Ntarの工作物Wを生産するための目標タクトタイムTtar_tactを算出する。目標タクトタイムTtar_tactは、例えば、規定終業時刻Tw_finから現在時刻Tnowを減算して、減算した値(Tw_fin-Tnow)を目標生産数量Ntarで除算することにより得られる。
【0057】
続いて、指令装置6のタクトタイム決定部12は、目標タクトタイムTtar_tactに基づいて、タクトタイムT_tactを決定する(S14)。タクトタイムT_tactの決定は、
図9を参照する。
【0058】
ここで、タクトタイムT_tactは、所定最短時間Ttact_minから、所定最長時間Ttact_maxまでの範囲にて設定可能に構成されている。タクトタイムT_tactの設定可能な範囲は、工作物Wの目標品質を満たす範囲とされている。
【0059】
本形態では、タクトタイムT_tactは、所定最短時間Ttact_min、所定最長時間Ttact_max、所定中間時間Ttact_midの3種類の中から選択される。所定最短時間Ttact_min、所定最長時間Ttact_max、所定中間時間Ttact_midは、
図6にて説明したように、加工能率が「高」「中」「低」のそれぞれに応じたタクトタイムT_tactに相当する。ただし、タクトタイムT_tactは、任意の数に設定可能としても良い。
【0060】
図9に示すように、指令装置6のタクトタイム決定部12は、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産が、規定終業時刻Tw_finの前に終了する場合には、総コストCtotalを低くするように、タクトタイムT_tactを決定する。目標生産数量Ntarの工作物Wの生産が規定終業時刻Tw_finの前に終了する場合とは、目標タクトタイムTtar_tactが所定最短時間Ttact_min以上となる場合である。
【0061】
詳細には、算出された目標タクトタイムTtar_tactが所定最長時間Ttact_max以上の場合には、タクトタイムT_tactを所定最長時間Ttact_maxに決定する。この場合、加工能率は「低」に相当する。また、算出された目標タクトタイムTtar_tactが、所定最長時間Ttact_maxより短く、所定中間時間Ttact_mid以上の場合には、タクトタイムT_tactを所定中間時間Ttact_midに決定する。この場合、加工能率は「中」に相当する。また、算出された目標タクトタイムTtar_tactが、所定中間時間Ttact_midより短く、所定最短時間Ttact_min以上の場合には、タクトタイムT_tactを所定最短時間Ttact_minに決定する。この場合、加工能率は「高」に相当する。
【0062】
また、指令装置6のタクトタイム決定部12は、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産が、規定終業時刻Tw_finの後に終了できない場合には、出来る限り最短時間で生産できるようにタクトタイムT_tactを決定する。目標生産数量Ntarの工作物Wの生産が規定終業時刻Tw_finの前に終了しない場合とは、目標タクトタイムTtar_tactが所定最短時間Ttact_minより短くなる場合である。
【0063】
詳細には、算出された目標タクトタイムTtar_tactが所定最短時間Ttact_minより短い場合には、タクトタイムT_tactを所定最短時間Ttact_minに決定する。この場合、加工能率は「高」に相当する。
【0064】
図8に示すように、指令装置6のタクトタイム決定部12がタクトタイムT_tactを決定した後には(S14)、指令装置6の指令部13が、決定されたタクトタイムT_tactにて生産するように生産設備2への指令を行う(S15)。ここで、生産設備2は、加工能率を加工条件の指令データに含むように設定されている。従って、指令部13による指令情報は、
図9に示すように、例えば、加工能率である「高」「中」「低」などの情報である。生産設備2は、指令装置6の指令部13から指令情報である加工能率について指令された場合には、指令された加工能率にて工作物Wの生産を行う。
【0065】
続いて、指令装置6の取得部11が、生産設備2より、工作物Wごとの加工結果情報を取得する(S16)。加工結果情報は、当該1つの工作物Wの加工に関する生産設備2の各種情報を含む。加工結果情報には、例えば、1つの工作物Wを加工したこと、加工した工作物Wの推定品質、工具修正や工具交換の推定時期、生産設備2の稼働状況データ、生産設備2の推定異常原因などの少なくとも1つを含む。加工結果情報に、生産設備2より得られた制御データ、駆動データ、検出データそのものなどを含むようにしても良い。
【0066】
続いて、指令装置6は、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産を終了したか否かを判定する(S17)。生産を終了していない場合には(S17:No)、指令装置6は、S11から処理を繰り返す。つまり、指令装置6は、S11~S16の処理を工作物Wごとに行う。従って、指令装置6のタクトタイム決定部12は、1つの工作物Wを加工する度に、現在の目標生産数量Ntarおよび目標完了時刻としての規定終業時刻Tw_finを逐次取得し、目標タクトタイムTtar_tactを再算出する。例えば、生産計画が変更されることにより目標生産数量Ntarが変更された場合には、変更後の目標生産数量Ntarに基づいて目標タクトタイムTtar_tactが再算出される。そして、タクトタイム決定部12は、再算出された目標タクトタイムTtar_tactに基づいて、タクトタイムT_tactをリアルタイムに再決定する。
【0067】
一方、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産を終了した場合には(S17:Yes)、指令装置6の集計データ出力部14が、複数の工作物Wに関するデータを集計し、当該集計データを管理装置5へ出力する(S18)。集計データには、取得部11が取得した情報を含み、さらに、タクトタイム決定部12が決定したタクトタイムT_tact、指令部13が生産設備2へ指令した指令情報を含むようにしても良い。
【0068】
上記においては、指令装置6の指令部13が生産設備2へ指令する指令情報を、加工能率とした。この他に、
図10に示すように、指令情報を、単位加工時間Tmc_max,Tmc_mid,Tmc_minとしても良い。この場合、生産設備2は、単位加工時間Tmc_max,Tmc_mid,Tmc_minを加工条件の指令データに含む。さらに、指令装置6は、
図6に示すように、生産設備2~4による各処理を実際にまたはシミュレーションにて実行することにより、タクトタイムTtact_max,Ttact_mid,Ttact_minと、単位加工時間Tmc_max,Tmc_mid,Tmc_minとの関係を取得する。タクトタイムTtact_max,Ttact_mid,Ttact_minと、単位加工時間Tmc_max,Tmc_mid,Tmc_minとの関係は、
図10に示す通りである。また、これらの関係は、
図6と同様である。
【0069】
そして、指令装置6の指令部13は、タクトタイム決定部12にて決定されたタクトタイムT_tactに対応する単位加工時間Tmc_max,Tmc_mid,Tmc_minを、生産設備2に指令する。生産設備2は、指令装置6の指令部13から指令情報である単位加工時間Tmc_max,Tmc_mid,Tmc_minについて指令された場合には、指令された単位加工時間Tmc_max,Tmc_mid,Tmc_minにて工作物Wの生産を行う。
【0070】
8.タクトタイム決定部12の具体的処理
タクトタイム決定部12の具体的処理、すなわち、
図8のS14の処理について、
図11~
図14を参照して説明する。
【0071】
第一例について、
図11を参照して説明する。第一例は、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産が規定終業時刻Tw_finの前に終了する場合であって、目標タクトタイムTtar_tactが所定最長時間Ttact_maxより長い場合である。
【0072】
図11の白丸印にて、工具コストCtool1,Ctool2,Ctool3を示す線上に、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産が終了するタイミングを示す。加工能率が「高」の場合には、規定終業時刻Tw_finまで時間を十分に残した状態で、生産が終了する。一方、加工能率が「低」の場合には、規定終業時刻Tw_finの前であって、規定終業時刻Tw_finに非常に近い時刻に、生産が終了する。工具コストCtool1,Ctool2,Ctool3を示す線上の各白丸印より、加工能率が「低」「中」「高」の順に高コストとなっていく。
【0073】
また、総コストCtotal1,Ctotal2,Ctotal3を示す線上にも同様に、白丸印にて、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産が終了するタイミングを示す。総コストCtotal1,Ctotal2,Ctotal3を示す線上の各白丸印において、加工能率が「低」の場合が最も低コストとなる。従って、加工能率を「低」とすることにより、規定終業時刻Tw_finの前までに目標生産数量Ntarの工作物Wの生産を終了させることができ、かつ、総コストCtotalを低コストにすることができる。この場合、
図11の矢印にて示すように、タクトタイムT_tactは、加工能率が「低」に対応する所定最長時間Ttact_maxに決定される。
【0074】
第二例について、
図12を参照して説明する。第二例は、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産が規定終業時刻Tw_finの前に終了する場合であって、目標タクトタイムTtar_tactが所定最長時間Ttact_maxより短く、所定中間時間Ttact_midより長い場合である。
【0075】
図12の白四角印にて、工具コストCtool1,Ctool2,Ctool3を示す線上に、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産が終了するタイミングを示す。加工能率が「高」「中」の場合には、規定終業時刻Tw_finの前までに、生産が終了する。一方、加工能率が「低」の場合には、規定終業時刻Tw_finの前に生産が終了しない。ただし、工具コストCtool1,Ctool2,Ctool3を示す線上の各白丸印より、加工能率が「低」「中」「高」の順に高コストとなっていく。
【0076】
また、総コストCtotal1,Ctotal2,Ctotal3を示す線上にも同様に、白四角印にて、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産が終了するタイミングを示す。総コストCtotal1,Ctotal2,Ctotal3を示す線上の各白四角印において、規定終業時刻Tw_finの前に生産が終了するものの中で、加工能率が「中」の場合が最も低コストとなる。従って、加工能率を「中」とすることにより、規定終業時刻Tw_finの前までに目標生産数量Ntarの工作物Wの生産を終了させることができ、かつ、総コストCtotalを低コストにすることができる。この場合、
図12の矢印にて示すように、タクトタイムT_tactは、加工能率が「中」に対応する所定中間時間Ttact_midに決定される。規定終業時刻Tw_finの前までに生産を終了させることにより、従業員に対する残業代が発生することを防止できる。
【0077】
第三例について、
図13を参照して説明する。第三例は、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産が規定終業時刻Tw_finの前に終了する場合であって、目標タクトタイムTtar_tactが所定中間時間Ttact_midより短く、所定最短時間Ttact_minより長い場合である。
【0078】
図13の白三角印にて、工具コストCtool1,Ctool2,Ctool3を示す線上に、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産が終了するタイミングを示す。加工能率が「高」の場合には、規定終業時刻Tw_finまでに、生産が終了する。一方、加工能率が「中」「低」の場合には、規定終業時刻Tw_finの前に生産が終了しない。ただし、工具コストCtool1,Ctool2,Ctool3を示す線上の各白丸印より、加工能率が「低」「中」「高」の順に高コストとなっていく。
【0079】
また、総コストCtotal1,Ctotal2,Ctotal3を示す線上にも同様に、白三角印にて、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産が終了するタイミングを示す。総コストCtotal1,Ctotal2,Ctotal3を示す線上の各白三角印において、規定終業時刻Tw_finの前に生産が終了するものは、加工能率が「高」のみとなる。従って、加工能率を「高」とすることにより、規定終業時刻Tw_finの前までに目標生産数量Ntarの工作物Wの生産を終了させることができ、かつ、総コストCtotalを低コストにすることができる。この場合、
図13の矢印にて示すように、タクトタイムT_tactは、加工能率が「高」に対応する所定最短時間Ttact_minに決定される。規定終業時刻Tw_finの前までに生産を終了させることにより、従業員に対する残業代が発生することを防止できる。
【0080】
第四例について、
図14を参照して説明する。第四例は、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産が規定終業時刻Tw_finの前に終了しない場合である。従って、目標タクトタイムTtar_tactが所定最短時間Ttact_minより短い場合である。
【0081】
図14の黒丸印にて、工具コストCtool1,Ctool2,Ctool3を示す線上に、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産が終了するタイミングを示す。加工能率が「高」「中」「低」のいずれの場合にも、規定終業時刻Tw_finの前までに生産を終了することができない。工具コストCtool1,Ctool2,Ctool3を示す線上の各黒丸印より、加工能率が「低」「中」「高」の順に高コストとなっていく。
【0082】
また、総コストCtotal1,Ctotal2,Ctotal3を示す線上にも同様に、黒丸印にて、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産が終了するタイミングを示す。総コストCtotal1,Ctotal2,Ctotal3を示す線上の各黒丸印において、規定終業時刻Tw_finの後ではあるものの、できるだけ早く生産を終了できるものは、加工能率を「高」とする場合となる。従って、加工能率を「高」とすることにより、規定終業時刻Tw_finの後であって、延長時間を最短とすることができる。この場合、
図14の矢印にて示すように、タクトタイムT_tactは、加工能率が「高」に対応する所定最短時間Ttact_minに決定される。規定終業時刻Tw_finの後であるため、従業員に対する残業代が発生するが、残業代を最小限に抑制することができる。
【0083】
9.効果
本形態の生産システム1は、
図1に示すように、作業者の操作または管理により、工具Tを用いて工作物Wを加工するように構成された生産設備2と、生産設備2の稼働に関して生産設備2に指令する指令装置6とを備える。ここで、工具Tによる加工能率が高いほど1つの工作物Wの生産に要するタクトタイムT_tactが短くなる関係を有し、加工能率が高いほど工具修正または工具交換に伴う工具コストCtoolが高くなる関係を有し、かつ、作業者の労働時間に応じて労働コストCpersonが設定されている。指令装置6は、
図11~
図13に示すように、工具コストCtoolおよび労働コストCpersonを含む総コストCtotalを低くするようにタクトタイムを決定するタクトタイム決定部12と、決定されたタクトタイムT_tactにて生産するように生産設備2に指令する指令部13とを備える。
【0084】
つまり、
図5に示すように、加工能率を高くすると、工具Tにかかる負荷が高くなるため、工具修正または工具交換に伴う工具コストCtoolが高くなる。また、加工能率を高くすると、1つの工作物Wの生産に要するタクトタイムT_tactが短くなるため、作業者の労働時間が短くなり、労働コストCpersonが高くなることはない。一方、加工能率を低くすると、1つの工作物Wの生産に要するタクトタイムT_tactが長くなるため、作業者の労働時間が長くなり、労働コストCpersonが高くなる可能性がある。ただし、加工能率を低くすると、工具Tにかかる負荷が小さくなるため、工具修正または工具交換に伴う工具コストCtoolが低くなる。このように、工具コストCtoolと労働コストCpersonとは、加工能率に対して相反する関係を有する。
【0085】
そこで、
図11~
図13に示すように、指令装置6を構成するタクトタイム決定部12が、工具コストCtoolおよび労働コストCpersonを含む総コストCtotalを用いて、総コストCtotalが低くなるようなタクトタイムT_tactを決定している。そして、指令装置6を構成する指令部13が、決定されたタクトタイムT_tactにて加工するように生産設備2に指令している。従って、総コストCtotalが低くなるような加工能率にて工作物Wの加工を行うことができ、最適な生産を実現することができる。このように、生産システム1によれば、工具コストCtoolおよび労働コストCpersonを考慮して、最適な生産を実現することができる。
【0086】
また、
図8に示すように、タクトタイム決定部12は、工作物Wの目標生産数量Ntar、および、目標生産数量Ntarの工作物Wを生産するための目標完了時刻(本形態では、例えば、規定終業時刻Tw_fin)に基づいて、目標完了時刻までに目標生産数量Ntarの工作物Wを生産するためのタクトタイムT_tactの目標値である目標タクトタイムTtar_tactを算出し、目標タクトタイムTtar_tactに基づいてタクトタイムT_tactを決定する。このように、目標生産数量Ntarおよび目標完了時刻に基づいて算出された目標タクトタイムTtar_tactを用いることで、タクトタイムT_tactを適切に設定することができる。
【0087】
また、本形態においては、
図7に示すように、作業者は、労働時間の規定終業時刻Tw_finが設定された労働形態の者である。そして、目標完了時刻は、規定終業時刻Tw_finとしている。従って、目標生産数量Ntarの工作物の生産が規定終業時刻Tw_finの前までに終了するように、目標タクトタイムTtar_tactが算出される。その結果、タクトタイムT_tactは、規定終業時刻Tw_finを考慮した適切な時間に設定可能となる。
【0088】
また、
図7に示すように、作業者の就業時間のうち規定終業時刻Tw_finの前において、工具コストCtoolの時間増加率が労働コストCpersonの時間増加率より大きい。
図9および
図10に示すように、タクトタイムT_tactは、所定最短時間Ttact_minから所定最長時間Ttact_maxまでの範囲にて設定可能に構成されている。
図9および
図10に示すように、タクトタイム決定部12は、算出された目標タクトタイムTtar_tactが所定最長時間Ttact_maxより長い場合には、タクトタイムT_tactを所定最長時間Ttact_maxに決定する。
【0089】
算出されたタクトタイムT_tactが所定最長時間Ttact_maxより長い場合であるため、目標生産数量Ntarの生産を規定終業時刻Tw_finまでに終了できる。この場合において、タクトタイムT_tactを所定最長時間Ttact_maxに決定しているため、加工能率を設定可能な範囲のうち最も低くしていることになる。従って、工具コストCtoolを最小限に抑制することができる。そして、
図7に示すように、規定終業時刻Tw_finの前においては、工具コストCtoolの時間増加率が労働コストCpersonの時間増加率よりも高い。従って、規定終業時刻Tw_finの前において、総コストCtotalとしても最小限に抑制することができる。
【0090】
また、
図9および
図10に示すように、タクトタイム決定部12は、算出された目標タクトタイムTtar_tactが所定最短時間Ttact_minより短い場合には、タクトタイムT_tactを所定最短時間Ttact_minに決定する。算出された目標タクトタイムTtar_tactが所定最短時間Ttact_minより短い場合であるため、目標生産数量Ntarの生産を規定終業時刻Tw_finまでに終了できないこととなる。この場合において、タクトタイムT_tactを所定最短時間Ttact_minに決定しているため、加工能率を設定可能な範囲のうち最も高くしていることになる。従って、作業者の労働時間について、規定終業時刻Tw_finからの延長時間を短くすることができる。作業者の労働時間の延長に伴う、追加コストを抑制することができる。
【0091】
また、
図8に示すように、タクトタイム決定部12は、1つまたは所定数量の工作物Wを加工する度に、現在の目標生産数量Ntarおよび目標完了時刻の1つである規定終業時刻Tw_finを取得する。つまり、1つまたは所定数量の工作物Wを加工する度に取得した新しい情報に基づいて、タクトタイムT_tactが決定される。従って、種々の事情により状況が変化した場合であっても、変化した状況に適切に対応したタクトタイムT_tactによる生産を実現できる。
【0092】
また、タクトタイムT_tactは、工作物Wの目標品質を満たす所定最短時間Ttact_minから所定最長時間Ttact_maxまでの範囲にて設定可能に構成されている。従って、タクトタイムT_tactを上記のような範囲に設定することにより、工作物Wの品質を所望の目標品質とすることができる。
【0093】
また、
図5に示すように、工具修正または工具交換のインターバルは、加工能率に基づいて決定される。そのため、工具修正または工具交換に伴う工具コストCtoolは、加工能率に応じたものとなる。
【0094】
また、
図2に示すように、本形態では、生産設備2は、工具Tとしての砥石車を用いて工作物Wを研削加工する研削盤としている。そして、
図5に示すように、砥石車は、加工能率に基づいて工具修正または工具交換のインターバルが決定される。工具Tを研削盤の砥石車とする場合には、工具修正および工具交換に伴う工具コストCtoolが、加工能率に応じたものとなることが顕著である。
【0095】
また、
図9に示すように、指令部13は、決定されたタクトタイムT_tactに対応する加工能率を生産設備2に指令するようにしても良い。また、
図10に示すように、指令部13は、決定されたタクトタイムTtact_min,Ttact_mid,Ttact_maxに対応する単位加工時間Tmc_min,Tmc_mid、Tmc_maxを生産設備2に指令するようにしても良い。
【0096】
特に、後者の場合において、生産システム1が以下のように構成される場合に採用される。すなわち、複数の生産設備2~4は、機械加工の処理、機械加工の前処理、機械加工の後処理のそれぞれを実行する。機械加工を実行する生産設備2は、工具修正または工具交換を実行し、1つの工作物Wの機械加工処理に要する単位加工時間を加工条件の指令データに含む。そして、指令装置6は、
図6に示すように、生産設備2~4による各処理を実際にまたはシミュレーションにて実行することにより、タクトタイムTtact_min,Ttact_mid,Ttact_maxと単位加工時間Tmc_min,Tmc_mid,Tmc_maxとの関係を取得する。そして、上記のように、指令部13は、決定されたタクトタイムTtact_min,Ttact_mid,Ttact_maxに対応する単位加工時間Tmc_min,Tmc_mid、Tmc_maxを生産設備2に指令する。
【0097】
このように、生産設備2~4による各処理を実際にまたはシミュレーションにて実行することにより、他の生産設備3,4を考慮した上で、単位加工時間Tmc_min,Tmc_mid、Tmc_maxが決定される。従って、単位加工時間Tmc_min,Tmc_mid、Tmc_maxは、生産設備2~4における種々の要因を含む時間に設定できる。その結果、最適な生産を実現することができる。
【0098】
また、
図8に示すように、指令装置6は、S11~S16の処理を工作物Wごとに行っている。ここで、目標生産数量Ntarは、生産状況に応じて変化することがある。例えば、素材の入荷が遅れたり早まったり、特急品の加工が必要になったりすることにより、目標生産数量Ntarが変化することがある。このような場合には、生産システム1は、最初の時点では、初期の目標生産数量Ntarおよび初期の目標完了時刻を含む初期生産計画に基づいて、目標タクトタイムTtar_tactを算出する。そして、算出された目標タクトタイムTtar_tactにて生産を開始する。
【0099】
そして、指令装置6は、初期計画に基づいて生産を行っている最中に、都度、現在の目標生産数量Ntarおよび現在の目標完了時刻である規定終業時刻Tw_finを逐次取得する。そして、指令装置6は、取得した現在の目標生産数量Ntarおよび目標完了時刻Tw_finの少なくとも一方が変更された場合に、変更された目標生産数量Ntarおよび目標完了時刻Tw_finを含む変更後生産計画に基づいて、目標タクトタイムTtar_tactを再算出する。そして、指令装置6は、再算出された目標タクトタイムTtar_tactに基づいてタクトタイムT_tactをリアルタイムに再決定する。従って、生産状況の変更に応じて、最適な生産を実現することができる。
【0100】
(実施形態2)
実施形態2の生産システム1の処理について
図15および
図16を参照して説明する。上述した実施形態1においては、目標完了時刻の例として、規定終業時刻Tw_finとした。この他に、実施形態2として、目標完了時刻を、生産計画において生産設備2による次の生産の開始時刻Ts_nextとすることもできる。
【0101】
例えば、現在時刻Tnowにおいて、規定終業時刻Tw_finよりも前に、次の生産の開始時刻Ts_nextが到来する場合には、現在生産中の工作物Wを次の生産の開始時刻Ts_nextの前までに終了することが求められる。また、次の生産は、次の生産の開始時刻Ts_nextにならなければ開始することができないとする。そうすると、現在の生産をあまりに早く終了させると、作業者の労働が存在しなくなることがある。そこで、生産システム1は、以下のように処理を行う。
【0102】
図15に示すように、指令装置6のタクトタイム決定部12は、まず、管理装置5より、工作物Wの目標生産数量Ntarを取得する(S21)。続いて、指令装置6のタクトタイム決定部12は、管理装置5より、目標生産数量Ntarの工作物Wを生産するための目標完了時刻の1つである規定終業時刻Tw_fin、および、他の1つである次の生産の開始時刻Ts_nextのうち、早い方を取得する(S22)。規定終業時刻Tw_finが、次の生産の開始時刻Ts_nextよりも早い場合には、実施形態1と同様の処理となる。そこで、本形態では次の生産の開始時刻Ts_nextが、規定終業時刻Tw_finよりも早い時刻であるとして説明する。
【0103】
続いて、指令装置6のタクトタイム決定部12は、目標生産数量Ntar、および、目標完了時刻である次の生産の開始時刻Ts_nextに基づいて、次の生産の開始時刻Ts_nextまでに目標生産数量Ntarの工作物Wを生産するためのタクトタイムT_tactの目標値である目標タクトタイムTtar_tactを算出する(S23)。続いて、指令装置6のタクトタイム決定部12は、目標タクトタイムTtar_tactに基づいて、タクトタイムT_tactを決定する(S24)。タクトタイムT_tactの決定は、実施形態1と同様である。
【0104】
指令装置6のタクトタイム決定部12がタクトタイムT_tactを決定した後には(S24)、指令装置6の指令部13が、決定されたタクトタイムT_tactにて生産するように生産設備2への指令を行う(S25)。続いて、指令装置6の取得部11が、生産設備2より、工作物Wごとの加工結果情報を取得する(S26)。
【0105】
続いて、指令装置6は、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産を終了したか否かを判定する(S27)。生産を終了していない場合には(S27:No)、指令装置6は、S21から処理を繰り返す。つまり、指令装置6は、S21~S26の処理を工作物Wごとに行う。従って、指令装置6のタクトタイム決定部12は、1つの工作物Wを加工する度に、現在の目標生産数量Ntar、および、目標完了時刻としての次の生産の開始時刻Ts_nextまたは規定終業時刻Tw_finを逐次取得し、目標タクトタイムTtar_tactを再算出する。そして、タクトタイム決定部12は、再算出された目標タクトタイムTtar_tactに基づいて、タクトタイムT_tactをリアルタイムに再決定する。
【0106】
一方、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産を終了した場合には(S27:Yes)、指令装置6の集計データ出力部14が、複数の工作物Wに関するデータを集計し、当該集計データを管理装置5へ出力する(S28)。
【0107】
第一例では、
図16の白丸印にて示すように、加工能率が「高」「中」「低」のいずれの場合にも、現在の生産が、次の生産の開始時刻Ts_nextの前までに終了する。この場合、タクトタイムT_tactは、総コストCtotalが最も低コストとなる加工能率「低」に対応する所定最長時間Ttact_maxに決定される。第二例では、
図16の白四角印にて示すように、加工能率が「高」「中」の場合に、現在の生産が、次の生産の開始時刻Ts_nextの前までに終了する。この場合、タクトタイムT_tactは、加工能率が「高」「中」のうちで総コストCtotalが最も低コストとなる加工能率「中」に対応する所定中間時間Ttact_midに決定される。第三例では、
図16の白三角印にて示すように、加工能率が「高」の場合のみに、現在の生産が、次の生産の開始時刻Ts_nextの前までに終了する。この場合、タクトタイムT_tactは、加工能率「高」に対応する所定最短時間Ttact_minに決定される。
【0108】
目標生産数量Ntarおよび次の生産の開始時刻Ts_nextは、生産状況に応じて変化することがある。例えば、素材の入荷が遅れたり早まったり、特急品の加工が必要になったりすることにより、目標生産数量Ntarまたは次の生産の開始時刻Ts_nextが変化することがある。このような場合には、生産システム1は、最初の時点では、初期の目標生産数量Ntarおよび初期の目標完了時刻を含む初期生産計画に基づいて、目標タクトタイムTtar_tactを算出する。そして、算出された目標タクトタイムTtar_tactにて生産を開始する。
【0109】
そして、指令装置6は、初期計画に基づいて生産を行っている最中に、都度、現在の目標生産数量Ntarおよび現在の目標完了時刻Ts_next,Tw_finを逐次取得する。そして、指令装置6は、取得した現在の目標生産数量Ntarおよび目標完了時刻Ts_next,Tw_finの少なくとも一方が変更された場合に、変更された目標生産数量Ntarおよび目標完了時刻Ts_next,Tw_finを含む変更後生産計画に基づいて、目標タクトタイムTtar_tactを再算出する。そして、指令装置6は、再算出された目標タクトタイムTtar_tactに基づいてタクトタイムT_tactをリアルタイムに再決定する。従って、生産状況の変更に応じて、最適な生産を実現することができる。
【0110】
本形態では、就業時間として規定始業時刻Tw_startから規定終業時刻Tw_fin(定時刻)が設定された労働形態の者について説明した。この他に、例えば、3交代制などにおいて24時間連続生産を実施する場合のように、作業者単位に関わらない生産形態においても適用可能である。
【0111】
(実施形態3)
実施形態3の生産システム1の処理について
図17を参照して説明する。実施形態1,2においては、労働コストCpersonが、就業時間のうち規定始業時刻Tw_startから規定終業時刻Tw_fin(定時刻)までは、一定コストであった。本形態では、
図17の太実線にて示すように、例えばパートタイマー労働形態のように、就業時間において、規定始業時刻Tw_startから規定終業時刻Tw_finまでの間、労働時間が長くなるほど労働コストCpersonが高くなる関係を有する労働形態の者を対象とする。
【0112】
図17に示すように、作業者の就業時間のうち規定終業時刻Tw_finの前において、工具コストCtool1,Ctool2,Ctool3の時間増加率は、労働コストCpersonの時間増加率よりも大きいものとする。また、作業者の就業時間は、規定終業時刻Tw_finで終了し、規定終業時刻Tw_finの後は存在しないものとする。
【0113】
本形態では、生産システム1は、実施形態1において
図11~
図13を参照して第一例~第三例と実質同様の処理を行う。
図17において、第一例は白丸印にて示し、第二例は白四角印にて示し、第三例は白三角印にて示す。第一例では、指令装置6のタクトタイム決定部12は、タクトタイムT_tactを、加工能率が「低」に対応する所定最長時間Ttact_maxに決定する。第二例では、指令装置6のタクトタイム決定部12は、タクトタイムT_tactを、加工能率が「中」に対応する所定中間時間Ttact_midに決定する。第三例では、指令装置6のタクトタイム決定部12は、タクトタイムT_tactを、加工能率が「高」に対応する所定最短時間Ttact_minに決定する。この場合も、実施形態1と同様の効果を奏する。
【0114】
(実施形態4)
実施形態4の生産システム1の処理について
図18~
図22を参照して説明する。実施形態1においては、目標完了時刻を規定終業時刻Tw_finとした。本形態では、目標完了時刻を、目標生産数量Ntarの工作物Wを生産完了させるための目標生産完了時刻Ttar_finとする。
【0115】
さらに、本形態では、
図19~
図22の太実線にて示すように、作業者は、労働時間の規定終業時刻Tw_finが設定された労働形態の者である。そして、実施形態1と同様に、作業者の就業時間のうち規定終業時刻Tw_finの前において、工具コストCtool1~Ctool3の時間増加率が労働コストCpersonの時間増加率より大きい。一方、実施形態1とは異なり、作業者の就業時間のうち規定終業時刻Tw_finの後においては、工具コストCtool1~Ctool3の時間増加率が労働コストCpersonの時間増加率より小さい。
【0116】
指令装置6の処理について
図18を参照して説明する。ここでは、指令装置6は、作業者による1日における始業から終業までの処理について説明する。
【0117】
指令装置6のタクトタイム決定部12は、まず、管理装置5より、工作物Wの目標生産数量Ntarを取得する(S31)。続いて、指令装置6のタクトタイム決定部12は、管理装置5より、目標生産数量Ntarの工作物Wを生産するための目標完了時刻の1つである目標生産完了時刻Ttar_finを取得する(S32)。続いて、指令装置6のタクトタイム決定部12は、目標生産数量Ntar、および、目標生産完了時刻Ttar_finに基づいて、目標生産完了時刻Ttar_finまでに目標生産数量Ntarの工作物Wを生産するためのタクトタイムT_tactの目標値である目標タクトタイムTtar_tactを算出する(S33)。
【0118】
続いて、指令装置6のタクトタイム決定部12は、目標タクトタイムTtar_tact内で、総コストCtotalが低くなるようにタクトタイムT_tactを決定する(S34)。続いて、指令装置6の指令部13が、決定されたタクトタイムT_tactにて生産するように生産設備2への指令を行う(S35)。
【0119】
続いて、指令装置6の取得部11が、生産設備2より、工作物Wごとの加工結果情報を取得する(S36)。続いて、指令装置6は、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産を終了したか否かを判定する(S37)。生産を終了していない場合には(S37:No)、指令装置6は、S31から処理を繰り返す。一方、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産を終了した場合には(S37:Yes)、指令装置6の集計データ出力部14が、複数の工作物Wに関するデータを集計し、当該集計データを管理装置5へ出力する(S38)。
【0120】
タクトタイム決定部12の具体的処理、すなわち、
図18のS34の処理について、
図19~
図22を参照して説明する。第一例は、
図19に示すように、加工能率が「高」「中」「低」のいずれもにおいて、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産が規定終業時刻Tw_finの前に終了する。この場合、実施形態1の第一例(
図9)と同様に、
図19の矢印にて示すように、タクトタイムT_tactは、総コストCtotalが低コストとなる加工能率が「低」に対応する所定最長時間Ttact_maxに決定される。
【0121】
第二例は、
図20は、加工能率が「高」「中」の場合に、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産が規定終業時刻Tw_finの前に終了する。また、加工能率が「高」「中」「低」のいずれもにおいて、目標生産完了時刻Ttar_finの前に生産が完了する。この場合、総コストCtotalは、加工能率が「中」となる場合が最も低コストとなる。従って、
図20の矢印にて示すように、タクトタイムT_tactは、総コストCtotalが低コストとなる加工能率が「中」に対応する所定中間時間Ttact_midに決定される。
【0122】
第三例は、
図21は、加工能率が「高」の場合のみに、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産が規定終業時刻Tw_finの前に終了する。また、加工能率が「高」「中」「低」のいずれもにおいて、目標生産完了時刻Ttar_finの前に生産が完了する。この場合、総コストCtotalは、加工能率が「高」となる場合が最も低コストとなる。従って、
図21の矢印にて示すように、タクトタイムT_tactは、総コストCtotalが低コストとなる加工能率が「高」に対応する所定最短時間Ttact_minに決定される。
【0123】
第四例は、
図22は、加工能率が「高」「中」「低」のいずれもにおいて、目標生産数量Ntarの工作物Wの生産が規定終業時刻Tw_finの前に終了しない。ただし、加工能率が「高」「中」「低」のいずれもにおいて、目標生産完了時刻Ttar_finの前に生産が完了する。この場合、総コストCtotalは、加工能率が「高」となる場合が最も低コストとなる。従って、
図22の矢印にて示すように、タクトタイムT_tactは、総コストCtotalが低コストとなる加工能率が「高」に対応する所定最短時間Ttact_minに決定される。
【0124】
第一例~第四例において、目標生産完了時刻Ttar_finの前に生産が完了する場合には、作業者の規定終業時刻Tw_finの前後に関わらず、工具コストCtoolおよび労働コストCpersonを含む総コストCtotalが低コストとなるように、タクトタイムT_tactが決定される。
【符号の説明】
【0125】
1 生産システム
2,3,4 生産設備
6 指令装置
12 タクトタイム決定部
13 指令部
T 工具
W 工作物
T_tact タクトタイム
Ctool,Ctool1,Ctool2,Ctool3 工具コスト
Cperson 労働コスト
Ctotal,Ctotal1,Ctotal2,Ctotal3 総コスト