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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182220
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】生産システム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/418 20060101AFI20231219BHJP
   B24B 49/02 20060101ALI20231219BHJP
   B24B 5/04 20060101ALI20231219BHJP
   B24B 5/10 20060101ALI20231219BHJP
   B24B 47/22 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
B24B49/02 A
B24B49/02 B
B24B5/04
B24B5/10
B24B47/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095700
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼本 仁志
(72)【発明者】
【氏名】澤田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】岩井 英樹
(72)【発明者】
【氏名】安藤 善昭
(72)【発明者】
【氏名】若園 賀生
【テーマコード(参考)】
3C034
3C043
3C100
【Fターム(参考)】
3C034AA01
3C034AA05
3C034BB74
3C034CA04
3C034CB01
3C034DD20
3C043AA03
3C043AB05
3C043CC03
3C043DD01
3C043DD03
3C100AA22
3C100AA27
3C100AA59
3C100BB12
3C100BB13
3C100BB15
3C100BB19
3C100CC02
(57)【要約】
【課題】工作物にばらつきがある場合であっても、加工コストを低減することができる生産システムを提供する。
【解決手段】生産システム1を構成するデータ処理装置7は、空走動作S3aの移動距離L2,L12が一定となるように、形状測定装置3により測定された工作物Wの形状情報に基づいて空走動作S3aの開始位置X2,X12を決定し、かつ、決定した空走動作S3aの開始位置X2,X12を指令情報として下流加工設備4に出力する。下流加工設備4は、対象の工作物Wに対する機械加工処理において、データ処理装置7から取得した指令情報に基づいて空走動作S3aの開始位置X2,X12を変更する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物に対して前記工作物の形状を変化させる加工を行う上流加工設備と、
前記上流加工設備による加工後の前記工作物の形状を測定する形状測定装置と、
前記上流加工設備により加工された前記工作物に対して工具による機械加工処理を行う下流加工設備と、
前記形状測定装置により測定された前記工作物の形状情報を取得し、前記下流加工設備が測定対象の前記工作物に対して前記機械加工処理を行う前に、前記工作物の前記形状情報に基づき得られた指令情報を前記下流加工設備に出力するデータ処理装置と、
を備え、
前記下流加工設備による前記機械加工処理は、
所定速度にて、前記工作物と前記工具とが離間した開始位置から、前記工作物に対して前記工具を相対的に接近させて、前記工作物と前記工具とを接触させる空走動作と、
前記空走動作の後に、前記空走動作における前記所定速度と同一速度にて前記工作物に対して前記工具を相対的に移動させて、前記工作物に対して前記工具による実機械加工を行う実機械加工動作と、
を含み、
前記データ処理装置は、前記空走動作の移動距離が一定となるように、前記工作物の前記形状情報に基づいて前記空走動作の前記開始位置を決定し、かつ、決定した前記空走動作の前記開始位置を前記指令情報として前記下流加工設備に出力し、
前記下流加工設備は、対象の前記工作物に対する前記機械加工処理において、前記データ処理装置から取得した前記指令情報に基づいて前記空走動作の前記開始位置を変更する、生産システム。
【請求項2】
前記データ処理装置は、前記工作物の前記形状情報に応じた加工能率を決定し、かつ、決定した加工能率を前記指令情報として前記下流加工設備に出力し、
前記下流加工設備は、対象の前記工作物に対して、前記データ処理装置から取得した前記加工能率にて前記機械加工処理を行う、請求項1に記載の生産システム。
【請求項3】
前記データ処理装置は、前記工作物の前記形状情報および前記工作物の目標形状から得られた前記工作物の加工取代が大きいほど前記加工能率を低くし、前記加工取代が小さいほど前記加工能率を高くする、請求項2に記載の生産システム。
【請求項4】
前記データ処理装置は、前記加工取代が所定の最小値より小さい場合には、前記工作物をNG品として廃棄対象品と決定し、
前記下流加工設備は、対象の前記工作物に対して前記機械加工処理を行わずに前記廃棄対象品として処理する、請求項3に記載の生産システム。
【請求項5】
前記データ処理装置は、前記加工取代が所定の最大値より大きい場合には、前記工作物をNG品として廃棄対象品と決定する、または、前記工作物をNG品として前記上流加工設備による再加工を行う対象品と決定し、
前記下流加工設備は、対象の前記工作物に対して前記機械加工処理を行わずに前記廃棄対象品または前記再加工を行う対象品として処理する、請求項3に記載の生産システム。
【請求項6】
前記加工能率が高いほど工具修正または工具交換に伴う工具コストが高くなる関係を有し、
前記データ処理装置は、前記加工取代が大きいほど前記加工能率を低くすることにより、前記加工取代が大きいほど単位加工取代当たりの前記工具コストを低くする、請求項3に記載の生産システム。
【請求項7】
前記工具修正または前記工具交換のインターバルは、前記加工能率および前記加工取代に基づいて決定される、請求項6に記載の生産システム。
【請求項8】
前記データ処理装置は、
前記形状測定装置により測定された前記工作物の前記形状情報に基づいて前記加工能率および前記加工取代を決定し、
決定した前記加工能率および前記加工取代に基づいて前記工具修正または前記工具交換のタイミングを最適化し、
最適化した前記工具修正または前記工具交換の前記タイミングを前記指令情報として前記下流加工設備に出力し、
前記下流加工設備は、最適化した前記タイミングにて前記工具修正または前記工具交換を実行する、請求項7に記載の生産システム。
【請求項9】
前記データ処理装置は、
前記形状測定装置により測定された前記工作物の前記形状情報に基づいて前記加工能率を決定し、
決定した前記加工能率に基づいて仮想空間において前記機械加工処理を行った場合の前記工作物の加工結果を推定し、
決定した前記加工能率および推定した前記加工結果に基づいて前記下流加工設備における加工条件を最適化し、
最適化した前記加工条件を前記指令情報として前記下流加工設備に出力し、
前記下流加工設備は、最適化した前記加工条件にて前記機械加工処理を実行する、請求項2に記載の生産システム。
【請求項10】
前記工作物は、断面形状が円形の外周面または内周面を有し、
前記形状測定装置は、前記工作物の形状として、前記工作物の前記外周面または前記内周面の径寸法を測定し、
前記下流加工設備は、前記工作物の前記外周面または前記内周面を前記工具としての砥石車により研削を行う研削盤である、請求項1~9のいずれか1項に記載の生産システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生産システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、サイバーフィジカル型生産システムが記載されている。この生産システムは、仮想世界における仮想生産状態を生成し、仮想生産状態に基づいて生産ラインの生産条件を満たすように自律的に生産指令値を修正し、修正された生産指令値に基づいて生産ラインを稼働する。生産条件としては、ツールコスト、電力量、停止時間、品質などが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献2】特開2020-177580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
工作物に対して複数の加工を施す生産ラインを構成する加工設備のうち、工具による機械加工処理を施す加工設備においては、工作物と工具とが離間した位置から接触するまでの間、徐々に工作物と工具とを接近させ、接触後において実機械加工を行う。特に、加工設備のうち研削加工や仕上切削加工を行う加工設備において、他の加工設備に比べて、研削加工や仕上切削加工における工作物と工具との相対移動速度は極めて遅い。
【0005】
そして、研削加工や仕上切削加工においては、加工速度(例えば、粗研速度)で移動している最中に工作物と工具とが接触するようにしている。そこで、工作物と工具とが接触する前に、加工速度に切り替えている。
【0006】
また、研削加工や仕上切削加工の対象の工作物の素材形状には、ばらつきがある。そのため、素材形状が大径の工作物の場合には、高速移動時(例えば、空研移動時)に工作物と工具とを近づけすぎて接触するおそれがある。この状態を避けるために、加工速度での移動開始位置から工作物と工具とが接触する位置までの空走距離を十分に確保している。一般には、空走距離は、工作物の素材形状のばらつきを考慮して、工作物のばらつきのうち最大形状に合わせた距離に設定する。空走距離における工作物と工具との相対移動速度は、加工速度であるため、例えば研削加工や仕上切削加工を行う際の速度である。そのため、素材形状が小径の工作物の場合には、空走距離が長くなり、加工していない無駄時間が長くなってしまう。その結果、時間を考慮した加工コストが高くなってしまう。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、工作物にばらつきがある場合であっても、加工コストを低減することができる生産システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、工作物に対して前記工作物の形状を変化させる加工を行う上流加工設備と、
前記上流加工設備による加工後の前記工作物の形状を測定する形状測定装置と、
前記上流加工設備により加工された前記工作物に対して工具による機械加工処理を行う下流加工設備と、
前記形状測定装置により測定された前記工作物の形状情報を取得し、前記下流加工設備が測定対象の前記工作物に対して前記機械加工処理を行う前に、前記工作物の前記形状情報に基づき得られた指令情報を前記下流加工設備に出力するデータ処理装置と、
を備え、
前記下流加工設備による前記機械加工処理は、
所定速度にて、前記工作物と前記工具とが離間した開始位置から、前記工作物に対して前記工具を相対的に接近させて、前記工作物と前記工具とを接触させる空走動作と、
前記空走動作の後に、前記空走動作における前記所定速度と同一速度にて、前記工作物に対して前記工具を相対的に移動させて、前記工作物に対して前記工具による実機械加工を行う実機械加工動作と、
を含み、
前記データ処理装置は、前記空走動作の移動距離が一定となるように、前記工作物の前記形状情報に基づいて前記空走動作の前記開始位置を決定し、かつ、決定した前記空走動作の前記開始位置を前記指令情報として前記下流加工設備に出力し、
前記下流加工設備は、対象の前記工作物に対する前記機械加工処理において、前記データ処理装置から取得した前記指令情報に基づいて前記空走動作の前記開始位置を変更する、生産システム。
【発明の効果】
【0009】
上記生産システムにおいては、上流加工設備、下流加工設備を備える。下流加工設備においては、上流加工設備により加工された工作物に対して工具による機械加工処理を行う場合に、空走動作を行った後に、実機械加工動作を行う。ここで、上流加工設備は、工作物の形状を変化させる加工を行う。そのため、下流加工設備における実機械加工動作は、上流加工設備により加工された工作物の形状に応じた動作となる。
【0010】
ここで、生産システムは、形状測定装置と、データ処理装置とを備える。形状測定装置は、上流加工設備による加工後の工作物の形状を測定する。データ処理装置は、形状測定装置により測定された工作物の形状情報を取得し、下流加工設備が測定対象の工作物に対して機械加工処理を行う前に、当該工作物の形状情報に基づき得られた指令情報を下流加工設備に出力する。
【0011】
そして、データ処理装置は、空走動作の移動距離が一定となるように、工作物の形状情報に基づいて空走動作の開始位置を決定し、決定した空走動作の開始位置を指令情報として下流加工設備に出力する。下流加工設備は、データ処理装置から指令情報を取得することにより、対象の工作物に対して空走動作の開始位置を変更している。つまり、上流加工設備による加工後の工作物の形状にばらつきがあるとしても、下流加工設備における空走動作の移動距離は常に一定となる。従って、空走動作が長くなることによる加工コストの増大を抑制できる。
【0012】
以上のごとく、上記態様によれば、工作物にばらつきがある場合であっても、加工コストを低減することができる生産システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】生産システムの構成を示す図である。
図2】生産システムを構成する下流加工設備の例としての研削盤を示す図である。
図3】研削盤における機械加工処理(研削加工処理)を示すフローチャートである。
図4】研削盤における機械加工処理(研削加工処理)における砥石車のX軸位置の変化を示す図である。
図5】研削盤における機械加工処理(研削加工処理)における砥石車のX軸位置の変化を示す図である。
図6】データ処理装置の処理を示すフローチャートである。
図7図6のS13の処理に関し、形状測定装置による測定寸法に応じた下流加工設備の処理を示す図である。
図8】研削盤の工具修正のインターバルを説明するための図である。
図9】下流加工設備の処理を示すフローチャートである。
図10】変形態様の生産システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態)
1.生産システム1の構成
生産システム1の構成について図1を参照して説明する。生産システム1は、複数の生産設備2~5と、管理装置6と、データ処理装置7とを備える。複数の生産設備2~5は、例えば、工作物Wを生産するための生産設備であって、工作物Wに対して順次処理を実行する。
【0015】
生産設備2~5は、例えば、上流加工設備2、形状測定装置3、下流加工設備4、検査装置5である。ただし、生産システム1は、少なくとも、上流加工設備2、形状測定装置3、下流加工設備4を備えていれば良く、その他の生産設備を備えることは任意である。
【0016】
上流加工設備2は、工作物Wに対して、工作物Wの形状を変化させる加工を行う。上流加工設備2は、例えば、旋盤、マシニングセンタ、歯切り装置、研削盤などの除去加工(切削加工、研削加工など)を行う加工装置、鍛造や鋳造などを行う加工装置、熱処理を施す熱処理設備、表面処理を施す設備、レーザ加工装置などである。
【0017】
形状測定装置3は、上流加工設備2による加工後の工作物Wの形状を測定する。例えば、工作物Wが、断面形状が円形の外周面または内周面を有する場合には、形状測定装置3は、工作物Wの形状として、工作物Wの外周面または内周面の径寸法を測定する。形状測定装置3は、接触式、非接触式のいずれを採用しても良い。工作物Wの形状は、上記の場合に限られず任意の形状とすることができ、形状測定装置3は、工作物Wの形状に応じた寸法などを測定する。
【0018】
下流加工設備4は、上流加工設備2により加工された工作物Wに対して工具Tによる機械加工処理を行う。特に、下流加工設備4は、形状測定装置3により測定された工作物Wの形状情報などを考慮して、工作物Wに対して機械加工処理を行う。下流加工設備4は、例えば、旋盤、マシニングセンタ、歯切り装置、研削盤(研磨盤を含む意味で用いる)などの除去加工(切削加工、研削加工)や研磨加工を行う加工装置(工作機械)である。
【0019】
検査装置5は、下流加工設備4による加工後の工作物Wの形状を検査する。検査装置5は、例えば、形状測定装置3と同様に工作物Wの寸法を測定したり、工作物Wの表面性状(面粗さ、真円度、円筒度など)を測定したり、工作物Wにおける加工変質層の有無などを検査する。検査装置5の検査項目は、任意に設定することができる。
【0020】
管理装置6は、例えば、生産計画を格納する。管理装置6は、生産計画を生成する機能を有するようにしても良い。生産計画には、例えば、工作物Wごとの生産期日(納期)、工作物Wの工程情報、各工程の実行スケジュールなどの管理データが含まれている。管理装置6への管理データの入力は、管理者により行われる。
【0021】
データ処理装置7は、管理装置6における生産計画に基づいて、生産設備2~5のそれぞれの稼働に関して生産設備2~5のそれぞれに対する指令情報を決定し、生産設備2~5のそれぞれに対して指令情報を出力する。さらに、データ処理装置7は、生産設備2~5のそれぞれから取得した情報に基づいて、他の生産設備2~5のそれぞれに指令情報を決定することもできる。例えば、データ処理装置7は、上流側の生産設備2~5の情報を用いて、下流側の生産設備2~5に対する指令情報を決定することができる。つまり、データ処理装置7は、生産設備2~5が相互に関連を有する事項について、生産設備2~5のそれぞれに対して連携しながら動作させるように制御することができる。
【0022】
例えば、データ処理装置7は、管理装置6から生産計画を取得し、かつ、上流加工設備2の稼働状態情報を取得して、形状測定装置3に対して測定種別や測定の開始タイミングなどを指令することができる。
【0023】
また、データ処理装置7は、形状測定装置3により測定された工作物Wの形状情報を取得して、下流加工設備4に対する加工条件などの指令情報を決定し、下流加工設備4に当該指令情報を出力することができる。例えば、データ処理装置7は、取得した工作物Wの形状情報に基づいて、下流加工設備4が測定対象の当該工作物Wに対して機械加工処理を行う前に、工作物Wの形状情報に基づき得られた指令情報を下流加工設備4に出力して、下流加工設備4に対して当該指令情報に応じた動作を行わせる。
【0024】
また、データ処理装置7は、サイバーフィジカル型生産システム(CPPS)における仮想空間の処理を実現するための装置として機能させることもできる。この場合、データ処理装置7は、現実世界における生産設備2~5の動作を仮想空間においてリアルタイムに実行し、当該処理結果を用いて現実世界における生産設備2~5の動作をリアルタイムに制御することができる。例えば、データ処理装置7は、上流加工設備2および形状測定装置3から取得した結果、下流加工設備4の加工条件などに基づいて、下流加工設備4の加工条件の最適化処理を行って、下流加工設備4に対して最適化された加工条件を出力することができる。
【0025】
また、データ処理装置7は、管理装置6から生産計画を取得し、かつ、下流加工設備4の稼働状態情報を取得して、検査装置5に対して検査種別や検査の開始タイミングなどを指令情報として決定し、決定した指令情報を検査装置5に出力することができる。
【0026】
また、データ処理装置7は、サーバやクラウドコンピュータなどのように、生産設備2~5の装置本体とは別体に構成しても良い。この他に、データ処理装置7は、一部機能をサーバやクラウドコンピュータなどとして構成し、他の機能を生産設備2~5の組込みシステムとして構成することもできる。また、データ処理装置7は、生産設備2~5と独立して構成するのではなく、生産設備2~5のそれぞれの組込みシステムとして構成しても良い。
【0027】
2.下流加工設備4の構成
下流加工設備4の構成の例について図2を参照して説明する。本形態では、下流加工設備4は、円筒研削盤を例にあげる。下流加工設備4は、図2においては、砥石台トラバース型円筒研削盤を例に挙げるが、テーブルトラバース型円筒研削盤を適用できるし、他の構成の研削盤を適用することもできる。
【0028】
下流加工設備4としての研削盤は、ベッド21、工作物支持台22、トラバースベース23、砥石台24を備える。工作物支持台22は、ベッド21の上面に設けられており、例えば、軸状の工作物Wの一端を支持する主軸台、および、他端を支持する心押台により構成される。また、工作物支持台22を構成する主軸台および心押台は、工作物WをCw軸回りに回転可能とする。
【0029】
トラバースベース23は、ベッド21の上面に、工作物Wの軸方向に平行な方向(Z軸方向)に移動可能に構成されている。砥石台24は、トラバースベース23の上面に、工作物Wに対して接近離間する方向(X軸方向)に移動可能に構成されている。また、砥石台24は、工具Tとしての砥石車をCt軸回りに回転駆動する。生産設備2としての研削盤は、工作物Wと工具Tとしての砥石車とを相対移動することにより、工作物Wを研削加工する。本形態では、工作物Wは、円筒外周面を有しており、下流加工設備4としての研削盤は、工具Tとしての砥石車により工作物Wの外周面を研削加工する。
【0030】
3.下流加工設備4による機械加工処理
図2に示す下流加工設備4である研削盤による機械加工処理、すなわち研削加工処理について、図3図5を参照して説明する。本形態においては、研削盤は、研削加工としての複数種類の加工工程(空研工程、粗研工程、精研工程、微研工程、スパークアウト工程など)を実行する。ただし、下流加工設備4は、1種類の機械加工工程を実行するようにしても良い。
【0031】
図4(a)と図5(a)とが対応し、図4(b)と図5(b)とが対応する。図4(a)および図5(a)は、上流加工設備2による加工後の工作物Wの外径が小さな値Daの場合であり、図4(b)および図5(b)は、当該工作物Wの外径が大きな値Dbの場合である。
【0032】
図3に示すように、機械加工処理(研削加工処理)は、工具Tである砥石車を工作物Wに接近させるための早送り前進工程S1を行う(図4のt0→t1、t10→t11)。図4(a)(b)に示すように、早送り前進工程S1では、砥石車の中心CtのX軸位置が、X0からX1へ早送りで移動する。早送り前進工程S1において、砥石車の中心CtのX軸位置がX1に到達すると、空研工程S2が開始される(図4のt1→t2、t11→t12)。
【0033】
空研工程S2は、早送り前進工程S1に比べて、砥石車の移動速度を遅くする。図4(a)および図5(a)に示すように、工作物Wの外径Daの場合には、空研工程S2では、砥石車の中心CtのX軸位置が、X1からX2へ空研速度で移動する。空研工程S2において、砥石車の中心CtのX軸位置がX2に到達すると、粗研工程S3が開始される(図4のt2→t4)。
【0034】
図5(a)に示すように、砥石車の中心CtのX軸位置がX1に位置するとき、砥石車は、T(t1)で示す位置に位置する。砥石車の中心CtのX軸位置がX2に位置するとき、砥石車は、T(t2)で示す位置に位置する。そして、工作物Wの外径Daの場合には、空研工程S2においては、砥石車の最も工作物W側の点Pが、点P(t1)から点P(t2)へ、X軸方向の距離L0だけ移動する。点P(t1)は、工作物WからL1だけX軸方向に離れた位置に位置する。点P(t2)は、工作物WからL2だけX軸方向に離れた位置に位置する。
【0035】
図4(b)および図5(b)に示すように、工作物Wの外径Dbの場合には、空研工程S2では、砥石車の中心CtのX軸位置が、X1からX12へ空研速度で移動する。空研工程S2において、砥石車の中心CtのX軸位置がX12に到達すると、粗研工程S3が開始される(図4のt12→t14)。
【0036】
図5(b)に示すように、砥石車の中心CtのX軸位置がX1に位置するとき、砥石車は、T(t11)で示す位置に位置する。砥石車の中心CtのX軸位置がX12に位置するとき、砥石車は、T(t12)で示す位置に位置する。そして、工作物Wの外径Dbの場合には、空研工程S2においては、砥石車の最も工作物W側の点Pが、点P(t11)から点P(t12)へ、X軸方向の距離L10だけ移動する。点P(t11)は、工作物WからL11だけX軸方向に離れた位置に位置する。点P(t12)は、工作物WからL12だけX軸方向に離れた位置に位置する。
【0037】
図5(b)に示す中心点X12は、図5(a)に示す中心点X2よりも、工作物Wの中心Cw側に位置する。点P(t12)、点P(t2)との関係も同様である。詳細には、図5(a)における点P(t2)と外径Daの工作物Wとの離間距離L2と、図5(b)における点P(t12)と外径Dbの工作物Wとの離間距離L12とが、同一となる。
【0038】
つまり、距離L2と距離L12とが同一となるように、粗研工程S3の開始位置X2,X12が、工作物Wの外径Da,Dbに応じた位置に設定されている。そして、図4(b)および図5(b)に示す距離L10が、図4(a)および図5(a)に示す距離L0よりも短い。
【0039】
空研工程S2に続いて行われる粗研工程S3は、空研工程S2に比べて、砥石車の移動速度を遅くする。ただし、本形態においては、図4(a)に示すように工作物Wの外径Daが小さい場合には、図4(b)に示すように工作物Wの外径Dbが大きい場合に比べて、砥石車の移動速度を速くしている。つまり、工作物Wの外径が大きいほど、粗研工程S3における加工能率を低くしている。
【0040】
粗研工程S3では、図3に示すように、まず、空走動作S3aが行われる(t2→t3、t12→t13)。空走動作S3aは、砥石車の中心CtのX軸位置を、工作物Wと砥石車とが離間した開始位置X2,X12から工作物Wに対して砥石車を相対的に接近させて、工作物Wと砥石車とを接触させる動作である。
【0041】
図4(a)および図5(a)においては、空走動作S3aは、砥石車の中心CtのX軸位置がX2からX3へ、距離L2だけ移動する動作である。砥石車の中心CtのX軸位置がX3に位置するとき、砥石車は、T(t3)で示す位置に位置する。このとき、砥石車の最も工作物W側の点P(t3)は、工作物Wに接触している。工作物Wの外径Daの場合には、空走動作S3aでは、砥石車の中心CtのX軸位置が、X2からX3へ所定の粗研速度で移動する。
【0042】
一方、図4(b)および図5(b)においては、空走動作S3aは、砥石車の中心CtのX軸位置がX12からX13へ、距離L12だけ移動する動作である。砥石車の中心CtのX軸位置がX13に位置するとき、砥石車は、T(t13)で示す位置に位置する。このとき、砥石車の最も工作物W側の点P(t13)は、工作物Wに接触している。そして、距離L2と距離L12とは同一である。工作物Wの外径Dbの場合には、空走動作S3aでは、砥石車の中心CtのX軸位置が、X12からX13へ所定の粗研速度で移動する。
【0043】
本形態においては、工作物Wの外径が大きいほど、空走動作S3aにおける砥石車の相対移動速度を遅くしている。つまり、工作物Wの外径Dbの場合の所定の粗研速度は、工作物Wの外径Daの場合の所定の粗研速度よりも遅い。距離L2と距離L12が同一であるため、空走動作S3aに要する時間は、工作物Wの外径Dbの場合の方が、工作物Wの外径Daの場合よりも長い。ただし、空走動作S3aにおける砥石車の相対移動速度を同一としても良い。
【0044】
次に、粗研工程S3として、空走動作S3aに続いて、実機械加工動作の1つとしての粗研動作S3bが行われる(t3→t4、t13→t14)。粗研動作S3bは、空走動作S3aの後に、工作物Wに対して砥石車を相対的に移動させて、工作物Wに対して砥石車による実機械加工(実研削加工)を行う動作である。
【0045】
図4(a)(b)に示すように、粗研動作S3bにおいては、砥石車の中心CtのX軸位置がX3からX4へ、または、X13からX4へ、所定の粗研速度で移動する。つまり、工作物Wの外径Daの場合の粗研動作S3bにおける所定の粗研速度は、外径Daの場合の空走動作S3aにおける所定の粗研速度と同一速度である。また、工作物Wの外径Dbの場合の粗研動作S3bにおける所定の粗研速度は、外径Dbの場合の空走動作S3aにおける所定の粗研速度と同一速度である。換言すると、空走動作S3aから粗研動作S3bに亘って、砥石車と工作物Wとの相対移動速度は一定とされる。
【0046】
ここで、工作物Wの外径が大きな値であるDbの場合における空走動作S3aの開始時刻t12および粗研動作S3bの開始時刻t13は、工作物Wの外径が小さな値であるDaの場合の開始時刻t2,t3に比べて早いタイミングとなる。そして、工作物Wの外径が大きな値であるDbの場合には、工作物Wの外径が小さな値であるDaの場合に比べて、粗研動作S3bにおける砥石車の相対移動距離(X13→X4)が長くなる。
【0047】
本形態においては、工作物Wの外径が大きいほど、砥石車の相対移動速度を遅くしており、すなわち加工能率を低くしている。そのため、工作物Wの外径が大きな値であるDbの場合の粗研動作S3bの終了時刻t14は、工作物Wの外径が小さな値であるDaの場合の終了時刻t4に比べて、遅くなっている。ただし、粗研動作S3bにおける砥石車の相対移動距離、および、砥石車の相対移動速度に応じて、粗研動作S3bの終了時刻は変化する。
【0048】
続いて、粗研動作S3bにおいて、工作物Wが所定の粗研寸法に到達すると(砥石車のX軸位置がX4に到達すると)、実機械加工動作の1つとして、粗研工程S3に比べて砥石車の移動速度を遅くする精研工程S4が行われる(t4→t5、t14→t15)。精研工程S4においては、砥石車の中心CtのX軸位置がX4からX5へ移動する。
【0049】
続いて、精研工程S4において、工作物Wが所定の精研寸法に到達すると(砥石車のX軸位置がX5に到達すると)、実機械加工動作の1つとして、砥石車の移動速度をさらに遅くする微研工程S5が行われる(t5→t6、t15→t16)。微研工程S5においては、砥石車の中心CtのX軸位置がX5からX6へ移動する。
【0050】
続いて、微研工程S5において、工作物Wが所定の微研寸法に到達すると(砥石車のX軸位置がX6に到達すると)、実機械加工動作の1つとして、砥石車の移動を停止した状態でスパークアウト工程S6が行われる(t6→t7、t16→t17)。スパークアウト工程S6では、砥石車のX軸方向移動を行わないため、砥石車の中心CtのX軸位置の開始位置X5と終了位置X6は一致する。スパークアウト工程S6を終えると、早送り後退工程S7が行われる(t7→t8、t17→t18)。
【0051】
4.データ処理装置7の処理
データ処理装置7の処理について図6図8を参照して説明する。ここでは、データ処理装置7の処理のうち、下流加工設備4に関する処理について説明する。
【0052】
図6に示すように、データ処理装置7は、形状測定装置3から工作物Wの形状情報を取得する(S11)。続いて、データ処理装置7は、取得した工作物Wの形状情報に基づいて加工取代ΔGを決定する(S12)。加工取代ΔGは、工作物Wの形状情報および工作物Wの目標形状から得られる。
【0053】
続いて、データ処理装置7は、工作物Wの形状情報に基づいて加工能率を決定する(S13)。データ処理装置7は、工作物Wの形状情報に代えて加工取代ΔGに基づいて加工能率を決定しても良いし、形状情報および加工取代ΔGに基づいて加工能率を決定しても良い。さらに、データ処理装置7は、加工能率の決定と同時に、NG品であるか否かの決定を行うようにしても良い(S13)。
【0054】
ステップS13の処理は、図7に示すように分類される。データ処理装置7には、例えば、工作物Wの所定の寸法として、小さい順に、最小値D1,中間値D2,最大値D3が記憶されている。また、データ処理装置7には、工作物Wの加工取代ΔGの所定値として、小さい順に、最小値ΔG1,中間値ΔG2,最大値ΔG3が記憶されている。ただし、分類数を少なくしても良いし、多くしても良い。
【0055】
工作物Wの測定寸法Dが最小値D1より小さい場合、すなわち、加工取代ΔGが最小値ΔG1より小さい場合には、機械加工処理を行った場合に、工作物Wを所望の精度とすることができないおそれがある。そこで、この場合、対象の工作物Wが、NG品として、特に廃棄対象品として決定される。この場合、下流加工設備4は、対象の工作物Wに対して機械加工処理を行わずに、対象の工作物Wを加工前にNG品、特に廃棄対象品として排出することになる。
【0056】
工作物Wの測定寸法Dが最小値D1と同一または最小値D1より大きい場合、すなわち、加工取代ΔGが最小値ΔG1と同一または最小値ΔG1より大きい場合には、測定寸法Dまたは加工取代ΔGに応じた加工能率が決定される。測定寸法Dが大きいほど、すなわち、加工取代ΔGが大きいほど、加工能率を低くし、測定寸法Dが小さいほど、すなわち、加工取代ΔGが小さいほど、加工能率を高くする。下流加工設備4は、対象の工作物Wに対して、決定された加工能率にて機械加工処理を行うことになる。
【0057】
具体的には、工作物Wの測定寸法Dが最小値D1と同一または最小値D1より大きく、かつ、中間値D2より小さい場合、すなわち、加工取代ΔGが最小値ΔG1と同一または最小値ΔG1より大きく、かつ、中間値ΔG2より小さい場合には、加工能率を「高」に決定する。この場合、下流加工設備4は、対象の工作物Wに対して粗研動作S3b(図3に示す)の加工能率を「高」として機械加工処理を行うことになる。
【0058】
工作物Wの測定寸法Dが中間値D2と同一または中間値D2より大きく、かつ、最大値D3より小さい場合、すなわち、加工取代ΔGが中間値ΔG2と同一または中間値ΔG2より大きく、かつ、最大値ΔG3より小さい場合には、加工能率を「低」に決定する。この場合、下流加工設備4は、対象の工作物Wに対して粗研動作S3b(図3に示す)の加工能率を「低」として機械加工処理を行うことになる。
【0059】
加工取代ΔGが大きい場合(中間値ΔG2以上の場合)には、加工取代ΔGが小さい場合(中間値ΔG2より小さい場合)よりも、加工能率を低くしている。この理由は、加工取代ΔGが大きくなることに伴う工具コストが高くなることは避けられないが、単位加工取代当たりの工具修正または工具交換に伴う工具コストを低くすることで、総合的な工具コストの高騰を抑制するためである。仮に、加工時間の長期化を抑制することを目的とするためには、加工取代ΔGが大きいほど、加工能率を高くすることが必要となる。しかし、本形態では、加工時間が長期化したとしても、総合的な工具コストの高騰を抑制するために、加工能率を低くしている。
【0060】
工作物Wの測定寸法Dが最大値D3と同一または最大値D3より大きい場合、すなわち、加工取代ΔGが最大値ΔG3と同一または最大値ΔG3より大きい場合には、対象の工作物WをNG品として決定するか、もしくは、加工能率を「低」に決定する。NG品として決定される場合、下流加工設備4は、対象の工作物Wに対して機械加工処理を行わずに、対象の工作物Wを加工前にNG品として排出することになる。ここでのNG品としては、廃棄対象品としても良いし、上流加工設備2による再加工を行う対象品としても良い。加工能率が「低」に決定される場合には、下流加工設備4は、対象の工作物Wに対して粗研動作S3b(図3に示す)の加工能率を「低」として機械加工処理を行うことになる。
【0061】
図6に示すように、加工能率またはNG品の決定(S13)に続いて、空走動作S3aの開始位置X2,X12を決定する(S14)。空走動作S3aの開始位置X2,X12は、図4および図5にて示したように、工作物Wの形状情報としての測定寸法Dに応じて決定される。つまり、空走動作S3aの開始位置X2,X12は、空走動作S3aの移動距離L2,L12が工作物Wの測定寸法Dのばらつきに関わらず一定となるように決定される。下流加工設備4は、対象の工作物Wに対する機械加工処理において、決定された空走動作S3aの開始位置X2,X12に変更する。
【0062】
続いて、データ処理装置7は、工作物Wの形状情報、決定された加工能率に基づいて、仮想空間において機械加工処理を行った場合の工作物Wの加工結果を推定する(S15)。このとき、データ処理装置7は、下流加工設備4の機械情報や機械加工処理の各種条件などをさらに用いて、工作物Wの加工結果を推定することもできる。推定される加工結果は、例えば、工作物Wの加工精度などを含む。また、推定される加工結果には、工具Tである砥石車の状態を含むようにしても良い。
【0063】
続いて、データ処理装置7は、決定した加工能率および推定した加工結果などに基づいて、下流加工設備4における加工条件を最適化する(S16)。データ処理装置7は、さらに生産計画を用いて加工条件を最適化することもできる。最適化された加工条件には、加工能率などを含む。
【0064】
続いて、データ処理装置7は、決定した加工能率および加工取代ΔGに基づいて、工具修正または工具交換のタイミングを最適化する(S17)。データ処理装置7は、これまでの機械加工処理の実績を考慮して、当該タイミングの最適化を行う。
【0065】
工具修正に関する処理について、図8を参照して説明する。下流加工設備4である研削盤を構成する工具Tである砥石車は、工作物Wの研削加工を繰り返すことにより、砥石車の表面が摩耗した状態となったり、荒れた状態になったりする。砥石車などの工具Tの表面状態の悪化は、工作物Wの表面性状の悪化や工作物Wにおける加工変質層の生成などのように、工作物Wの加工精度が低下する原因となる。
【0066】
そこで、工具Tである砥石車の表面状態を良好な状態とするために、工具Tの修正として、ツルーイングおよびドレッシングを行う。ツルーイングは、形直し作業であり、研削加工によって砥石車が摩耗した場合に所望形状に成形する作業である。ドレッシングは、目直し(目立て)作業であり、砥粒の突き出し量を調整したり、砥粒の切刃を創成したりする作業である。ドレッシングは、目つぶれ、目詰まり、目こぼれなどを修正する作業である。なお、ツルーイングとドレッシングとは、特段区別することなく実施される場合がある。
【0067】
図8においては、加工能率を3種類「高」「中」「低」に設定した場合に、工作物Wの加工取代ΔGの合計値に対して、工具修正指標値の変化を示す。工具修正指標値は、工作物Wの機械加工処理を実施することに伴い大きくなり、工具修正を実施することに伴い最小値になる。工具修正指標値がThに達した場合に、工具修正を実施する。
【0068】
加工能率が高いほど、対象の工作物Wに対する機械加工処理時間が短くなり、加工能率が低いほど、対象の工作物Wに対する機械加工処理時間が長くなる。また、加工能率が高いほど、工作物Wの加工精度が悪くなるのに対して、加工能率が低いほど工作物Wの加工精度が良好になる。
【0069】
工具修正指標値は、例えば、工作物Wの表面粗さに対応する値とすることができる。一般に、CBN砥粒などの超砥粒を用いる砥石車による研削加工の場合には、工作物Wの機械加工処理の実施に伴って、工作物Wの表面粗さは大きくなる。この場合、工具修正指標値は、表面粗さそのものとすることができる。また、アルミナ系砥粒などを用いる普通砥石による研削加工の場合には、工作物Wの機械加工処理の実施に伴って、工作物Wの表面粗さは小さくなる。この場合、工具修正指標値は、表面粗さの逆数とすることができる。上記のように、工具修正指標値は、研削加工の種類に応じた任意の値を設定することができる。なお、本形態では、工具修正指標値は、工作物Wの機械加工処理の実施に伴い大きくなるように変化することとしたが、工作物Wの機械加工処理の実施に伴い小さくなるように変化するように設定することもできる。
【0070】
図8に示すように、破線にて示す加工能率が「高」の場合には、工作物Wの加工取代ΔGの合計値に対して工具修正の頻度が高くなっている。加工能率が「高」の場合の工具修正のインターバルは、ΔInt_hiとなる。一点鎖線にて示す加工能率が「低」の場合には、工作物Wの加工取代ΔGの合計値に対して工具修正の頻度が低くなっている。加工能率が「低」の場合の工具修正のインターバルは、ΔInt_lowとなる。ΔInt_lowは、ΔInt_hiよりも長い時間となる。
【0071】
二点鎖線にて示す加工能率が「中」の場合には、工作物Wの加工取代ΔGの合計値に対する工具修正の頻度が、「高」の場合よりも低く、「低」の場合よりも高くなっている。加工能率が「中」の場合の工具修正のインターバルは、ΔInt_midとなる。ΔInt_midは、ΔInt_hiよりも長い時間となり、ΔInt_lowよりも短い時間となる。このように、工具修正のインターバルは、加工能率および加工取代ΔGに基づいて決定されている。
【0072】
また、砥石車などの工具Tにおいて、工具修正を実施可能な回数は、例えば所定回数に設定されている。工具修正が所定回数に達した工具Tは、工具交換の対象となる。従って、工具修正のインターバルが短いほど、工具交換のインターバルが短くなり、工具修正のインターバルが長いほど、工具交換のインターバルが長くなる関係を有する。このように、工具交換のインターバルは、加工能率および加工取代ΔGに基づいて決定されている。そして、加工能率が高いほど、工具修正または工具交換に伴う工具コストが高くなる関係を有する。
【0073】
続いて、データ処理装置7は、得られた各種情報を下流加工設備4に対する指令情報として、下流加工設備4に出力する(S18)。例えば、データ処理装置7が下流加工設備4へ出力する指令情報は、加工能率、空走動作S3aの開始位置X2,X12、最適化された加工条件、最適化された工具修正または工具交換のタイミングなどを含む。ただし、指令情報は、少なくとも空走動作S3aの開始位置X2,X12を含むようにすれば良い。また、指令情報には、最適化された加工条件、最適化された工具修正または工具交換のタイミングについては、含まないようにしても良い。
【0074】
5.下流加工設備4の処理
次に、下流加工設備4の処理について図9を参照して説明する。ここでは、特にデータ処理装置7から取得した指令情報に関する処理である。
【0075】
下流加工設備4は、データ処理装置7から指令情報を取得する(S21)。続いて、下流加工設備4は、指令情報が、対象の工作物WをNG品とする情報であるか否かを判定する(S22)。対象の工作物WがNG品の場合には(S22:Yes)、下流加工設備4は、NG品対応を行う(S23)。対象の工作物WがNG品として廃棄対象品と決定されている場合には、下流加工設備4は、当該工作物Wに対する機械加工処理を行わず、廃棄対象品として処理する。対象の工作物WがNG品として上流加工設備2による再加工を行う対象品と決定されている場合には、下流加工設備4は、対象の工作物Wに対して機械加工処理を行わずに再加工を行う対象品として処理する。NG品対応を行った後には、後述するステップS28の処理へ進む。
【0076】
一方、対象の工作物WがNG品でない場合には(S22:No)、下流加工設備4は、対象の工作物Wに対して機械加工処理(研削加工処理)を行う(S24)。このとき、下流加工設備4は、空走動作S3aの開始位置X2,X12に基づいて、機械加工処理を行う。つまり、下流加工設備4は、決定された空走動作S3aの開始位置X2,X12に変更された加工条件にて機械加工処理を行う。従って、空走動作S3aの移動距離L2,L12が、工作物Wに関わらず一定となる。
【0077】
また、指令情報に図7に示すように加工能率が含まれる場合には、下流加工設備4は、指令情報に含まれる加工能率にて機械加工処理を行う。また、指令情報に最適化された加工条件が含まれる場合には、下流加工設備4は、指令情報に含まれる最適化された加工条件にて機械加工処理を行う。
【0078】
続いて、下流加工設備4は、対象の工作物Wの機械加工処理を終了すると(S24)、工具修正または工具交換の要否を判定する(S25)。具体的には、データ処理装置7からの指令情報に最適化された工具修正または工具交換のタイミングが含まれている場合において、下流加工設備4は、現在状態が、最適化された当該タイミングに到達したか否かを判定する。仮に、指令情報に最適化された工具修正または工具交換のタイミングが含まれていない場合には、下流加工設備4は、現在状態が、予め設定された工具修正または工具交換のタイミングに到達したか否かを判定する。
【0079】
続いて、工具修正または工具交換が必要であると判定された場合には(S26:Yes)、下流加工設備4は、工具修正または工具交換を実行する(S27)。つまり、最適化されたタイミングにて、工具修正または工具交換が実行される。一方、工具修正または工具交換が不要であると判定された場合には(S27:No)、工具修正および工具交換を実行することなく次の処理(S28)に進む。
【0080】
続いて、下流加工設備4は、次の工作物Wが有るか否かを判定し(S28)、次の工作物Wが有る場合には(S28:Yes)、ステップS21から処理を繰り返す。従って、工作物Wごとに最適な機械加工処理を実行する。次の工作物Wが無い場合には(S28:No)、処理を終了する。
【0081】
6.変形態様
上述した生産システム1の変形態様としての生産システム1’の構成について、図10を参照して説明する。生産システム1’においては、管理装置6’が、上流加工設備2、検査装置5およびデータ処理装置7’との間で、データの送受信を行うようにしても良い。この場合、データ処理装置7’が、形状測定装置3および下流加工設備4との間で、データの送受信を行うことになる。データ処理装置7’と、形状測定装置3および下流加工設備4との間における機能は、上記機能と同様である。
【0082】
7.効果
本形態の生産システム1,1’においては、上流加工設備2および下流加工設備4を備える。下流加工設備4においては、上流加工設備2により加工された工作物Wに対して工具Tによる機械加工処理を行う場合に、空走動作S3aを行った後に、実機械加工動作を行う。ここで、上流加工設備2は、工作物Wの形状を変化させる加工を行う。そのため、下流加工設備4における実機械加工動作は、上流加工設備2により加工された工作物Wの形状に応じた動作となる。
【0083】
ここで、生産システム1,1’は、形状測定装置3と、データ処理装置7,7’とを備える。形状測定装置3は、上流加工設備2による加工後の工作物Wの形状を測定する。データ処理装置7,7’は、形状測定装置3により測定された工作物Wの形状情報を取得し、下流加工設備4が測定対象の工作物Wに対して機械加工処理を行う前に、当該工作物Wの形状情報に基づき得られた指令情報を下流加工設備4に出力する。
【0084】
そして、データ処理装置7,7’は、空走動作S3aの移動距離L2,L12が一定となるように、工作物Wの形状情報に基づいて空走動作S3aの開始位置X2,X12を決定し、決定した空走動作S3aの開始位置X2,X12を指令情報として下流加工設備4に出力する。下流加工設備4は、データ処理装置7,7’から指令情報を取得することにより、対象の工作物Wに対して空走動作S3aの開始位置X2,X12を変更している。つまり、上流加工設備2による加工後の工作物Wの形状にばらつきがあるとしても、下流加工設備4における空走動作S3aの移動距離L2,L12は常に一定となる。従って、空走動作S3aが長くなることによる加工コストの増大を抑制できる。このように、工作物Wにばらつきがある場合であっても、加工コストを低減することができる。
【0085】
また、データ処理装置7,7’は、工作物Wの形状情報に応じた加工能率を決定し、かつ、決定した加工能率を指令情報として下流加工設備4に出力し、下流加工設備4は、対象の工作物Wに対して、データ処理装置7,7’から取得した加工能率にて機械加工処理を行う。従って、工作物Wの形状に応じて加工能率を調整することにより、加工コストの増大を抑制することができる。
【0086】
ここで、加工取代ΔGが大きいほど、工具コストが高くなる可能性がある。そこで、データ処理装置7,7’は、工作物Wの形状情報および工作物Wの目標形状から得られた工作物の加工取代ΔGが大きいほど加工能率を低くし、加工取代ΔGが小さいほど加工能率を高くする。このように、加工取代ΔGと加工能率との関係にすることで、工具こすとの高騰を抑制することができる。ただし、加工取代ΔGと加工能率の関係は、上記のようにする場合に限られない。
【0087】
より具体的には、加工能率が高いほど工具修正または工具交換に伴う工具コストが高くなる関係を有し、データ処理装置7,7’は、加工取代ΔGが大きいほど加工能率を低くすることにより、加工取代ΔGが大きいほど単位加工取代当たりの工具コストを低くすることができる。
【0088】
特に、工具修正または工具交換のインターバルは、加工能率および加工取代に基づいて決定される。このように工具修正または工具交換のインターバルが決定されることで、加工能率が高いほど、工具修正または工具交換に伴う工具コストが高くなる関係となる。
【0089】
加工能率と工具コストとの関係を有する構成としては、例えば、生産システム1,1’が以下のように構成される。すなわち、データ処理装置7,7’は、形状測定装置3により測定された工作物Wの形状情報に基づいて加工能率および加工取代ΔGを決定し、決定した加工能率および加工取代ΔGに基づいて工具修正または工具交換のタイミングを最適化し、最適化した工具修正または工具交換のタイミングを指令情報として下流加工設備4に出力する。下流加工設備4は、最適化したタイミングにて工具修正または工具交換を実行する。
【0090】
また、データ処理装置7,7’は、加工取代ΔGが所定の最小値ΔG1より小さい場合には、工作物WをNG品として廃棄対象品と決定し、下流加工設備4は、対象の工作物Wに対して機械加工処理を行わずに廃棄対象品として処理する。加工前に廃棄対象品とすることで、下流加工設備4による不要な加工を行うことを抑制できる。その結果、全体としての加工コスト低減を図ることができる。
【0091】
また、データ処理装置7,7’は、加工取代ΔGが所定の最大値ΔG3より大きい場合には、工作物WをNG品として廃棄対象品と決定する、または、工作物WをNG品として上流加工設備2による再加工を行う対象品と決定する。この場合、下流加工設備4は、対象の工作物Wに対して機械加工処理を行わずに廃棄対象品または再加工を行う対象品として処理する。加工前に廃棄対象品または再加工対象品とすることで、下流加工設備4による高負荷の加工を行うことを抑制できる。その結果、全体としての加工コスト低減を図ることができる。
【0092】
また、データ処理装置7,7’は、形状測定装置3により測定された工作物Wの形状情報に基づいて加工能率を決定し、決定した加工能率に基づいて仮想空間において機械加工処理を行った場合の工作物の加工結果を推定し、決定した加工能率および推定した加工結果に基づいて下流加工設備4における加工条件を最適化し、最適化した加工条件を指令情報として下流加工設備4に出力するようにしても良い。この場合、下流加工設備4は、最適化した加工条件にて機械加工処理を実行する。このように、リアルタイムで加工条件の最適化を行うことで、より高精度に工作物Wの機械加工処理を行うことができる。
【0093】
また、工作物Wは、断面形状が円形の外周面または内周面を有し、形状測定装置3は、工作物Wの形状として、工作物Wの外周面または内周面の径寸法を測定し、下流加工設備4は、工作物Wの外周面または内周面を工具Tとしての砥石車により研削を行う研削盤としても良い。ただし、生産システム1,1’は、当該構成に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0094】
1,1’ 生産システム
2 上流加工設備
3 形状測定装置
4 下流加工設備
7,7’ データ処理装置
W 工作物
T 工具(砥石車)
S3a~S6 機械加工処理
S3a 空走動作
S3b~S6 実機械加工動作
X2,X12 空走動作の開始位置
L2,L12 空走動作の移動距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10