IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 進和テック株式会社の特許一覧 ▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧 ▶ 国立大学法人東京工業大学の特許一覧

<>
  • 特開-フィルタ及びフィルタの製造方法 図1
  • 特開-フィルタ及びフィルタの製造方法 図2
  • 特開-フィルタ及びフィルタの製造方法 図3
  • 特開-フィルタ及びフィルタの製造方法 図4
  • 特開-フィルタ及びフィルタの製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182323
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】フィルタ及びフィルタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/28 20060101AFI20231219BHJP
   B01D 53/26 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B01D53/28
B01D53/26 230
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095857
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000193047
【氏名又は名称】進和テック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】小森 陽介
(72)【発明者】
【氏名】奥山 一博
(72)【発明者】
【氏名】原岡 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 貴士
(72)【発明者】
【氏名】榊原 圭太
(72)【発明者】
【氏名】松本 英俊
【テーマコード(参考)】
4D052
【Fターム(参考)】
4D052AA08
4D052CE00
4D052DB01
4D052GA04
4D052GB12
4D052GB13
4D052HA00
4D052HA02
4D052HA03
4D052HA18
4D052HA32
4D052HA33
4D052HA39
4D052HB02
(57)【要約】
【課題】省スペースで高い吸湿性能を有し、且つ低温で熱再生可能なフィルタを提供すること。
【解決手段】一実施形態によれば、無機系粉末材料と、セルロースナノファイバとを含む基材からなるフィルタが提供される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機系粉末材料と、
セルロースナノファイバとを含む基材からなるフィルタ。
【請求項2】
前記基材は、気体が通過可能な複数の貫通孔を画定する隔壁を備える請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記基材は、前記無機系粉末材料と、前記セルロースナノファイバとからなり、
前記基材に占める前記無機系粉末材料の質量割合は、97.0%~99.5%の範囲内にあり、
前記基材に占める前記セルロースナノファイバの質量割合は、0.5%~3.0%の範囲内にある請求項1又は2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記無機系粉末材料は、平均アスペクト比が5未満の無機粒子と、平均アスペクト比が5~100の範囲内にある無機繊維とを含み、
前記無機粒子のメジアン径D50は1μm~500μmの範囲内にある請求項1又は2に記載のフィルタ。
【請求項5】
前記無機系粉末材料に占める前記無機粒子の質量割合は、80%~99%の範囲内にある請求項4に記載のフィルタ。
【請求項6】
前記無機系粉末材料に占める前記無機繊維の質量割合は、2.0%~7.0%の範囲内にある請求項5に記載のフィルタ。
【請求項7】
デシカントフィルタである請求項1又は2に記載のフィルタ。
【請求項8】
無機系粉末材料と、セルロースナノファイバとを含むスラリーを調製することと、
前記スラリーを混練して押出成形用組成物を得ることと、
前記押出成形用組成物を、ダイスに設けられた押出孔から押し出して、未乾燥状態の押出成形体を得ることと、
未乾燥状態の前記押出成形体を乾燥することと
を含むフィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ及びフィルタの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、デシカントフィルタとしては、基材に対してゼオライト等の除湿剤を担持させたものが知られている。基材としては、例えば、無機粉末、補強用の無機繊維及びバインダ成分と、溶媒とを含む成形材料を、押出成形してなるものが用いられている。
【0003】
デシカントフィルタの使用に伴い、除湿剤に対して多量の水分が吸着されると、デシカントフィルタによる吸湿性能が低下する。そこで、吸湿性能を復元させるべく、例えば、デシカントフィルタに対して高温の熱風の吹き付けが行われる。これにより、除湿剤に対して吸着された水分の少なくとも一部が放出されるため、デシカントフィルタが再生される。
【0004】
デシカントフィルタは、例えば、オフィスビル、各種店舗、工場及び車載用などの空調用途で使用されている。車載用など、設置スペースが限られた用途でデシカントフィルタが用いられる場合、より高い省スペース性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-022785号公報
【特許文献2】特開2019-181391号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「脱臭フィルタの技術動向」今野貴博「空気清浄第52巻第2号」43~47頁 平成26年7月31日発行
【非特許文献2】Isogai A. et. al., Sen'i Gakkaishi, 46 (8): 324 (1990).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、省スペースで高い吸湿性能を有し、且つ熱再生可能なデシカントフィルタを検討する中で、セルロースナノファイバに着目した。
【0008】
木材、草、竹及び稲ワラ等の植物の主成分は,セルロース、ヘミセルロース及びリグニンである。これらの植物組織は、セルロース分子の超微細な集合体が積層して形成されている。セルロースナノファイバは、この植物組織を機械的な処理等で取り出したものである。
【0009】
セルロースナノファイバは、鋼鉄の5倍の強度を有していながら、その軽さは鋼鉄の5分の1しかない。セルロースナノファイバは、高強度及び軽量であることに加えて、高弾性、低熱膨張、安全安心な天然物及び再生型資源であるといった優れた特徴を有することが広く知られている。また、セルロースナノファイバは、高い比表面積を有することから、水蒸気に対する高い吸着性能を発揮する。このように、セルロースナノファイバは、優れた特性を有する材料である。
【0010】
一方で、セルロースナノファイバ単体をデシカント材として使用する場合、その製造には大きな製造コストが掛かる傾向にある。例えば、セルロースナノファイバの製造工程においては、木材チップからの粉末化、粉末からの繊維化、及び、繊維化に続く表面酸化処理又はグラインダでの磨砕の繰り返しにより、目的の繊維径まで微細化する。これら工程は、基本的に湿式での処理である。それ故、セルロースナノファイバは、水等に分散したスラリーの状態で得られる。
【0011】
セルロースナノファイバ単体をデシカント材として使用する場合は、上記処理により得られたスラリーをt-ブタノール等を用いた遠心分離及び上澄み除去を繰り返して脱水した後、更に凍結乾燥する必要がある。この凍結乾燥工程が、特に設備面及び処理時間の観点から、大きな製造コストが掛かる要因となりうる。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、省スペースで高い吸湿性能を有し、且つ低温で熱再生可能なフィルタ、並びに、当該フィルタを凍結乾燥工程無しで製造することが可能な、フィルタの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一実施形態によれば、無機系粉末材料と、セルロースナノファイバとを含む基材からなるフィルタが提供される。
【0014】
他の実施形態によれば、無機系粉末材料と、セルロースナノファイバとを含むスラリーを調製することと、スラリーを混練して押出成形用組成物を得ることと、押出成形用組成物を、ダイスに設けられた押出孔から押し出して、未乾燥状態の押出成形体を得ることと、未乾燥状態の押出成形体を乾燥することとを含むフィルタの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、省スペースで高い吸湿性能を有し、且つ低温で熱再生可能なフィルタ、並びに、当該フィルタを凍結乾燥工程無しで製造することが可能な、フィルタの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る一例のフィルタを概略的に示す斜視図。
図2】実施例に係るフィルタ表面を200倍の倍率で観察した走査型電子顕微鏡画像。
図3】実施例に係るフィルタ表面を400倍の倍率で観察した走査型電子顕微鏡画像。
図4】実施例1及び比較例1に係る、フィルタの吸湿性能評価の結果示すグラフ。
図5】実施例1、並びに比較例2及び3に係る、フィルタの吸湿性能評価の結果示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、全ての図面を通じて同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0018】
(第1実施形態)
第1実施形態によれば、無機系粉末材料と、セルロースナノファイバとを含む基材からなるフィルタが提供される。実施形態に係るフィルタは、デシカントフィルタであり得る。当該フィルタは、例えば、オフィスビル、店舗、工場及び車載用などの用途を含む、公知の除湿調湿装置用のフィルタとして使用することができる。
【0019】
基材の形状は特に制限されず、例えば、ハニカム型、コルゲート型、プリーツ型及びペレット型のうちのいずれかであり得る。基材は、例えば押出成形により製造される。基材の製造方法は、後述する第2実施形態において詳述する。
【0020】
基材は、水蒸気を含む気体が通過可能な貫通孔を有していることが好ましい。当該気体が基材の壁面と接することにより、基材中に含まれる水蒸気等のガス状物質がセルロースナノファイバに吸着される。セルロースナノファイバの単位質量あたりの比表面積は大きいため、セルロースナノファイバを含む基材による水分の吸着効率は優れている。また、セルロースナノファイバに吸着した水蒸気は、例えば100℃以下で加熱することにより脱着するため、実施形態に係るフィルタは低温で熱再生可能である。
【0021】
(1)無機系粉末材料
無機系粉末材料は、基材としての成形性を発現させるために使用される。基材が無機系粉末材料を含むことにより、当該基材は押出成形により製造可能となりうる。また、無機系粉末材料は吸湿作用を有し得る。
【0022】
無機系粉末材料は、例えば、無機粒子及び無機繊維の双方を含むことが好ましい。本願明細書及び特許請求の範囲において、無機粒子は、平均アスペクト比が5未満の無機化合物からなる粒子であり、無機繊維は、平均アスペクト比が5~100の無機化合物からなる粒子である。
【0023】
無機粒子としては、例えば、乾燥固結性を有する粘土鉱物全般を使用することができる。乾燥固結性とは、水で練って乾燥すると、ペースト時に形作られた形状のまま固まる性質を指す。無機粒子は、複数の粒子を含む粉末状であり得る。
【0024】
無機粒子のメジアン径D50は、例えば、1μm~500μmの範囲内にある。
【0025】
無機粒子は、メジアン径が40μm~50μmの範囲内にある第1無機粒子と、メジアン径が60μm~80μmの範囲内にある第2無機粒子とを含むことが好ましい。この場合、成型時の粘性及び安定性を得ることができる。第1無機粒子と第2無機粒子との混合比は、例えば、1:1~2:1の範囲内とする。第1無機粒子と第2無機粒子とは、互いに同一種類の組成を有する無機粒子であってもよく、互いに異なる組成を有する無機粒子であってもよい。
【0026】
無機粒子の例は、セピオライト、カオリン、ゼオライト、アロフェン、スメクタイト及びハロイサイトからなる群より選択される少なくとも一種を含む。中でも、成形性及びコストの観点から、無機粒子としてはセピオライト及びカオリンの双方を含むことが好ましい。セピオライトは熱伝導性及び耐熱性に優れているため、吸湿後のフィルタを熱再生する際に高い耐久性を発揮するため好ましい。また、カオリンを用いることで成形時に混合物の粘性を発現させることができる。カオリンによると、乾燥された基材を割れにくくする効果も得られる。無機粒子がセピオライト及びカオリンを含む場合、カオリンの質量に対するセピオライトの質量の比は、一例によれば、2.0~5.0の範囲内にある。
【0027】
無機繊維は、例えば、基材に含まれる無機粒子、及び、セルロースナノファイバをつなぐバインダとして機能し得る。無機繊維は、乾燥後の基材の収縮及び割れを抑制することができる。
【0028】
無機繊維の長手方向の長さ(繊維長)は、例えば、10μm~20000μmの範囲内にある。無機繊維の短手方向の長さ(繊維径)は、例えば、50μm~200μmの範囲内にある。無機繊維の繊維長及び繊維径は、後述するSEM観察により決定することができる。
【0029】
無機繊維の例は、ガラス繊維、ロックウール、アルミナ繊維、ウォラストナイト及びチタン酸カリウム繊維からなる群より選択される少なくとも一種を含む。中でも、粘土鉱物同士の成形性を上げる観点で、無機繊維はガラス繊維を含むことが好ましい。
【0030】
基材に占める無機系粉末材料の質量割合は、例えば97.0%~99.5%の範囲内にあり、好ましくは98.0%~99.0%の範囲内にある。基材中の無機系粉末材料の質量割合が過剰に低いと、成型性を損なう可能性があるため好ましくない。基材中の無機系粉末材料の質量割合が過剰に高いと、吸着性能を損なう可能性があるため好ましくない。
【0031】
無機系粉末材料に占める無機粒子の質量割合は、例えば、80%~99%の範囲内にあり、好ましくは90%~98%の範囲内にある。無機系粉末材料に占める無機粒子の質量割合が過剰に少ない場合、無機繊維が過剰量で含まれ得る。この場合、成型後の比表面積及び吸湿能力の低下を生じる可能性があるため好ましくない。無機系粉末材料に占める無機粒子の質量割合が過剰に多い場合、無機繊維の含有量が少ない。この場合、繋ぎとしての無機繊維が不足し、基材の脆性が高まるため好ましくない。また、製造時における粘性が不足するため成形性に劣る可能性がある。
【0032】
無機系粉末材料に占める無機繊維の質量割合は、2.0%~7.0%の範囲内にあり得る。
【0033】
(2)セルロースナノファイバ
セルロースナノファイバは、綿状、塊状、又は、微細繊維状でありうる。セルロースナノファイバは、高い比表面積を有するため、水蒸気に対する高い吸着性能を発揮する。実施形態に係る基材はセルロースナノファイバを含むため、単位体積当たりに吸着可能な水分量が多い。即ち、基材は、省スペースで高い吸湿性能を有する。また、セルロースナノファイバは、十分な粘度および接着性を有しているため、基材に含まれる成分のバインダとしても機能し得る。
【0034】
セルロースナノファイバの単位質量あたりの比表面積は、50m2/g以上500m2/g以下の範囲内にあることが好ましい。セルロースナノファイバの比表面積は、例えば、以下の方法で測定できる。Micromeritics社製の高機能比表面積/細孔径分布測定装置ASAP2020を用いて測定温度20℃の条件で水蒸気吸着実験を行う。そして、得られる吸着等温線から比表面積を求める。
【0035】
セルロースナノファイバの平均直径は、例えば、1nm以上80nm以下である。セルロースナノファイバの平均繊維長は、例えば、100nm以上10μm以下である。セルロースナノファイバの平均直径及び平均繊維長は、後述するSEM観察により測定できる。
【0036】
セルロースナノファイバの結晶化度は、一般的には高いほど好ましく、本実施形態においては例えば20%~95%の範囲内にある。セルロースナノファイバの結晶性が高いほど、その利用性に優れており、また、複合化した材料の物性にも影響を与えにくいため好ましい。結晶化度は、非特許文献2に従って、X線回折により算出することができる。但し、この結晶化度は、セルロース以外の非晶質のヘミセルロース及びリグニン由来の回折パターンを除去していない、見かけ上の値である。
【0037】
セルロースナノファイバを分散させた水分散液における沈降速度は、0.1重量%濃度にて、30分間に亘り自然沈降させた後に沈降評価分散サンプルの液面から5mmの位置での光透過率を測定することにより評価する。実施形態に係るフィルタが含むセルロースナノファイバは、上記条件で測定される光透過率が、例えば5%~90%の範囲内にあり、好ましくは5%~50%の範囲内にある。光透過率がこの範囲内にあるセルロースナノファイバを使用することにより、セルロースナノファイバの解繊が進んでいるため比表面積が大きくなる利点がある。
【0038】
セルロースナノファイバは、セルロースのほか一部が改質されたセルロースも包含する。例えば、セルロース分子中の水酸基の一部がアルデヒド基、カルボキシル基などに酸化されたもの、硝酸エステル、酢酸エステル、リン酸エステルなどのようにエステル化されたもの、メチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、カルボキシメチルエーテルなどのようにエーテル化されたものなど、他の置換基に置換されたものを含む。
【0039】
基材に占めるセルロースナノファイバの質量割合は、例えば、0.5%~3.0%の範囲内にあり、好ましくは1.0%~2.0%の範囲内にある。セルロースナノファイバの含有量がこの範囲内にある場合、優れた吸湿性能が得られる上、基材の成形性が損なわれにくいため好ましい。
【0040】
セルロースナノファイバの製造方法について説明する。実施形態に係るセルロースナノファイバは、湿潤状態のパルプ繊維を解繊して得られたセルロースナノファイバ分散液を凍結乾燥することにより製造されたものでありうる。当該製造方法によれば、比表面積が大きい綿状又は塊状のセルロースナノファイバを製造することができる。
【0041】
セルロースナノファイバの原料となるパルプ繊維は、特に限定されず、広葉樹、針葉樹等の木材パルプ;藁、バガス、ケナフ、竹、葦、楮、亜麻などの非木材パルプ;サルファイトパルプ、脱墨パルプなどの古紙パルプ;グランドパルプ、加圧式砕木パルプ、リファイナー砕木パルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ、ケミメカニカルパルプ、ケミグランドパルプ(CGP)などの機械パルプから適宜選択して用いることができる。
【0042】
上述のパルプをホモジナイザー、ミルなどによって粉砕して、粉末状のセルロース(パルプ繊維)を得る。
【0043】
粉末状のセルロースは、必要に応じて、水に分散させた後、酸化触媒と、共酸化剤とを添加して、酸化反応を行ってもよい。酸化触媒としては、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO)などのN‐オキシル化合物等があげられる。また、共酸化剤は、例えば、アルカリ金属次亜ハロゲン酸塩などが挙げられる。但し、酸化反応を行わなくても、前述の比表面積を有するセルロースナノファイバを製造することはできる。
【0044】
次いで、粉末状のセルロースに水を添加し、湿潤状態で解繊を行う。本発明においてセルロースナノファイバの解繊は、機械的に行うことが好ましい。解繊方法としては、例えば、ボールミル、ジェットミルなどを用いることができ、中でもジェットミルで解繊することが好ましい。
【0045】
次いで解繊後のセルロースナノファイバを凍結乾燥することにより、綿状ないし塊状であり、また、多孔質のセルロースナノファイバを得ることができる。更に当該セルロースナノファイバを分散し、微細化することにより微細繊維状のセルロースナノファイバを得ることができる。
【0046】
実施形態に係る基材からなるフィルタの一例を、図面を参照しながら説明する。図1は、実施形態に係るフィルタを概略的に示す斜視図である。図1に示すフィルタ1は、ハニカム型の基材からなるフィルタである。
【0047】
フィルタ1としての基材は、気体が通過可能な複数の貫通孔3を画定する隔壁2を備える。隔壁2は、前述した無機系粉末材料及びセルロースナノファイバから構成されうる。隔壁2の厚さは特に限定されないが、例えば1mm以下である。隔壁2には、1μm~500μmの細孔、及び、1Å~1000Åの微細孔が形成されていてもよい。複数の貫通孔3が伸びる方向と直交する面に沿った、フィルタ1断面において、それぞれの貫通孔3の一辺の長さは、例えば、2mm~10mmの範囲内にある。
【0048】
それぞれの貫通孔について、当該貫通孔が伸びる方向と直交する方向についての断面形状は、特に制限はなく、例えば、六角形若しくは四角形などの多角形、又は、円形などであり得る。
【0049】
水分等のガス状物質を含む空気は、複数の貫通孔3を通過する。このとき、当該空気が隔壁2と接することで、水分等のガス状物質が無機系粉末材料及びセルロースナノファイバに吸着される。
【0050】
フィルタ1の外寸は特に制限されないが、例えば、複数の貫通孔3が伸びる方向と直交する方向についてのフィルタ1断面は、一辺が50mm~300mmの正方形又は矩形であり得る。複数の貫通孔3が伸びる方向についてのフィルタ1の長さは、例えば、30mm~500mmであり得る。
【0051】
<SEM観察>
以下、実施形態に係る基材からなるフィルタを走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)を用いて観察する方法について説明する。
【0052】
SEM観察を行う場合、基材の断面を観察する。基材の断面を得るには、例えば、基材をハンドソーで切り出した後、得られた断片を必要に応じてハンマーで粉砕する。こうして、断面を有する基材断片を用意し、これをSEMステージ上にセットする。観察倍率は200倍~400倍の範囲内とする。
【0053】
SEM観察により、基材が無機系粉末材料及びセルロースナノファイバを含むか否かを確認することができる。また、無機繊維の平均アスペクト比、及び、セルロースナノファイバの平均直径及び平均繊維長を測定することができる。無機繊維の平均アスペクト比を測定する場合には、まず、視野内に存在する無機繊維を任意に10個以上選択する。このとき、1つの視野内に無機繊維が10個以上存在しない場合には、観察箇所を変えて、1枚以上の他の画像を用意する。選択した個々の無機繊維について、アスペクト比をSEMの測長機能を使用して求め、これらの単純平均した値を算出する。こうして算出された値を、無機繊維の平均アスペクト比とする。
【0054】
また、セルロースナノファイバの平均直径及び平均繊維長を測定する際も、上述の無機繊維と同様に、まず、10個以上のセルロースナノファイバを任意に選択する。次いで、選択した各繊維について、繊維径及び繊維長を測定する。そして、各繊維について測定した繊維径及び繊維長の値を、それぞれ単純平均して、平均繊維径及び平均繊維長を求める。
【0055】
図2は、後述する実施例1において製造したハニカム型フィルタの断面の一部を200倍の倍率で観察したSEM画像である。図3は、図2にて観察したハニカム型フィルタの断面の一部を400倍の倍率で観察したSEM画像である。図2及び図3に示すように、何れの倍率でもセルロースナノファイバ11及びガラス繊維12を観察することが可能である。
【0056】
(第2実施形態)
第2実施形態によれば、第1実施形態に係るフィルタの製造方法が提供される。フィルタの製造方法は、無機系粉末材料と、セルロースナノファイバとを含むスラリーを調製することと、スラリーを混練して押出成形用組成物を得ることと、押出成形用組成物を、ダイスに設けられた押出孔から押し出して、未乾燥状態の押出成形体を得ることと、未乾燥状態の押出成形体を乾燥することとを含む。
【0057】
(スラリーの調製)
まず、無機系粉末材料と、セルロースナノファイバとを含むスラリーを調製する。スラリーは、無機系粉末材料及びセルロースナノファイバに加えて、適切な溶媒を更に含む。無機系粉末材料及びセルロースナノファイバとしては、第1実施形態において説明したものを使用することができる。
【0058】
溶媒としては、例えば、水、並びに、メタノール、エタノール及びプロピルアルコール等の炭素数1~4のアルコールなどが挙げられる。
【0059】
スラリー中の溶媒量は、適宜調整することが可能であるが、例えば、無機系粉末材料及びセルロースナノファイバからなる原料粉末100重量部に対して、30重量部~60重量部とする。
【0060】
(押出成形用組成物の作製)
スラリーの調製後に、当該スラリーを混練して押出成形用組成物を得る。混練は、例えばニーダーを用いて行う。ニーダーとしては、例えば、双腕式ニーダー、又は、ニーダーブレード及びルーダースクリューを備えるニーダールーダー等を用いることができる。
【0061】
一例として双腕式ニーダーを用いる場合、材料同士の摩擦による発熱を抑制し、且つ押出しに適した水分量を維持する観点から、ニーダーブレード回転数は10rpm~40rpmの範囲内とすることが好ましい。混練時間は、同様の観点から、1分間~15分間とすることが好ましい。
【0062】
(押出成形)
次いで、得られた押出成形用組成物を押出成形に供して、未乾燥状態の押出成形体を得る。押出成形を行うための押出成形機としては、ハニカム型などの所望の基材形状を得るための押出孔を有するダイスを備えたものを使用する。押出成形機の種類は特に制限がなく、例えば、プランジャ式又はスクリュー式の押出成形機を使用することができる。
【0063】
押出成形に際して、オーガスクリューとパグスクリューとを備えた真空押出成形機を用いて円柱形状の丸棒を作製した後、プランジャ式押出成形機を用いて、所望の基材形状に押出成形を行ってもよい。
【0064】
真空押出成形機におけるオーガスクリューの回転数は、押出成形物表面の平滑性を高める観点から、5rpm~20rpmの範囲内であることが好ましい。また、真空押出成形機におけるパグスクリューの回転数は、押出成形物表面の平滑性を高める観点から、10rpm~30rpmの範囲内であることが好ましい。
【0065】
真空押出成形機では、減圧することにより、投入した材料の真空脱気を行う。その際のゲージ圧は、押出成形体の曲げ強度を高める観点から、-0.010MPa~-0.100MPaであることが好ましい。押出成形物を得る工程における押出成形時の温度は、押出成形物の可塑性が変化するのを抑制する観点から、押出成形物の温度が好ましくは15℃~45℃となるように冷水ジャケット等を用いて制御することが好ましい。
【0066】
プランジャ式押出成形機の押出圧力は、例えば7MPa~12MPaの範囲内とする。押出前進速度は、例えば3mm/s~12mm/sの範囲内とする。
【0067】
(乾燥工程)
押出成形の後、未乾燥状態の押出成形体を乾燥させることにより、乾燥された押出成形体、即ち基材を得ることができる。乾燥工程は、押出成形体を十分に乾燥させることができれば特に制限されないが、例えば5日~10日に亘り行う。乾燥時の温度は、例えば室温とする。乾燥時の湿度は、例えば55%RHとする。
【0068】
本実施形態に係るフィルタの製造方法では、無機系粉末材料及びセルロースナノファイバを含む基材を押出成形によって製造することができるため、凍結乾燥工程を行うこと無しに、セルロースナノファイバを含む基材を作製することができる。それ故、凍結乾燥工程を行う場合と比較して、製造時間を短縮することができると共に、設備面での製造コストも低減することができる。
【実施例0069】
(実施例1)
メジアン径が43μmのセピオライト粉末(第1無機粒子)を25重量部、メジアン径が72μmのセピオライト粉末(第2無機粒子)を20重量部、メジアン径が128μmのカオリンを15重量部、及び、セルロースナノファイバを固形分として含む水分散液(固形分濃度1%~5%)を35重量部の割合で混合してスラリーを調製した。
【0070】
使用したセルロースナノファイバの単位質量あたりの比表面積は、109m2/gであった。セルロースナノファイバの結晶化度は36%であった。セルロースナノファイバとしては、上述した条件で測定される光透過率が20%のものを使用した。
【0071】
更に、調製したスラリーを双腕式ニーダーにより混練して押出成形用組成物を得た。
【0072】
得られた押出成形用組成物を、オーガスクリューとパグスクリューとを備えた真空押出成形機を用いて円柱形状の丸棒を成形した。次いで、この丸棒をプランジャ式押出成形機を用いて押出成形に供した。プランジャ式押出成形機の出口ダイスには、押出後に得られる基材として、47個の貫通孔を有するハニカム型構造体を形成可能な押出孔が設けられていた。それ故、得られる押出成形体は、47個の貫通孔を有するハニカム型の構造体であった。
【0073】
押出後に得られた未乾燥状態の押出成形体を、25℃、55%RHの環境下で7日間に亘り乾燥させて、目的の基材を得た。
【0074】
(比較例1)
セルロースナノファイバを固形分として含む水分散液に代えて、水を使用したことを除いて、実施例1と同様の方法で基材を作製した。比較例1に係る基材はセルロースナノファイバを含んでいなかった。
【0075】
(比較例2)
セルロース紙で構成されており、直径が54mmの円柱形状を有するハニカム型基材を用意した。この基材は、無機系粉末材料を含む構造体ではない。ハニカム型基材が有する複数の貫通孔のそれぞれに対してセルロースナノファイバを充填して、充填型フィルタを作製した。セルロースナノファイバの充填量は、合計で1gであった。
【0076】
(比較例3)
不織布にセルロースナノファイバを紡糸した後、プリーツ加工を施してプリーツ型フィルタを作製した。
【0077】
<フィルタの吸湿性能評価>
各例にて作製したフィルタに対して、70℃の空気を0.32m/secの速度で15分間に亘って通気して再生し、フィルタの準備を行った。次いで、相対湿度50%の空気を0.1m/sの速度で供給して、フィルタ通気後の空気の温度及び相対湿度を測定して絶対吸着量を算出した。
【0078】
各例についての吸湿性能評価の結果を下記表1、並びに図4及び図5にまとめる。表1では、各例について、経過時間に対する累積での水蒸気吸着量を示している。なお、表1中、CNFはセルロースナノファイバを指す。
【0079】
【表1】
【0080】
図4は、実施例1及び比較例1に係る、経過時間に対する水蒸気吸着量の推移を示すグラフである。図5は、実施例1と比較例2及び3とに係る、経過時間に対する水蒸気吸着量の推移を示すグラフである。図4及び図5に示すグラフでは、横軸に経過時間(分)を示しており、縦軸に水蒸気吸着量(g/L)を示している。
【0081】
図4には、いずれも、押出成形により製造した実施例1及び比較例1に係るフィルタ基材についての吸湿性能評価の結果を示している。図4から明らかなように、無機系粉末材料のみならずセルロースナノファイバを含む実施例1は、フィルタの単位体積当たりに吸着される水蒸気が多く、経過時間の増大に伴って多くの水蒸気を吸着することができた。
【0082】
図5には、押出成形により製造したハニカム型基材に係る実施例1、充填型基材に係る比較例2、及び、プリーツ型基材に係る比較例3についての吸湿性能評価の結果を示している。図5から明らかなように、ハニカム型基材に係る実施例1では、基材自体が、セルロースナノファイバも無機系粉末材料も含まない比較例2及び3に係るフィルタと比較して、優れた吸湿性能を示した。
【0083】
また、実施例1に係るハニカム型基材は、セルロースナノファイバを含んでいたため、70℃~100℃程度の穏やかな条件でフィルタを熱再生することができた。これに対して、比較例1に係るハニカム型基材はセルロースナノファイバを含んでいなかったため、熱再生に要する温度及び/又は時間が実施例1と比較して高く、省エネルギー性に劣っていた。
【0084】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0085】
1…フィルタ、2…隔壁、3…貫通孔、11…セルロースナノファイバ、12…ガラス繊維。
図1
図2
図3
図4
図5