(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182373
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】半導体受光素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/10 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
H01L31/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095932
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】守谷 美彦
(72)【発明者】
【氏名】中野 雅之
【テーマコード(参考)】
5F149
5F849
【Fターム(参考)】
5F149AA02
5F149AB07
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(57)【要約】
【課題】受光感度が高く、かつ、ESD耐圧の高い半導体受光素子を提供する。
【解決手段】n型InP基板110と、n型InGaAs光吸収層130と、InP窓層140と、を有し、InP窓層140内に、n型InGaAs光吸収層130の上部にまで到達するp型不純物拡散領域150が形成された半導体受光素子100において、n型InGaAs光吸収層130は、厚みを2.2μm以上とし、かつ、n型不純物によるキャリア密度を2.5×10
15/cm
3以上とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型InP基板と、
前記n型InP基板上のn型InGaAs光吸収層と、
前記n型InGaAs光吸収層上のInP窓層と、を有し、
前記InP窓層内に、前記n型InGaAs光吸収層の上部にまで到達するp型不純物拡散領域が形成された半導体受光素子であって、
前記n型InGaAs光吸収層は、厚みが2.2μm以上であり、かつ、n型不純物によるキャリア密度が2.5×1015/cm3以上であることを特徴とする半導体受光素子。
【請求項2】
前記n型InGaAs光吸収層の前記n型不純物によるキャリア密度が6.0×1015/cm3以上である、請求項1に記載の半導体受光素子。
【請求項3】
前記p型不純物拡散領域に含まれるp型不純物がZnである、請求項1に記載の半導体受光素子。
【請求項4】
前記n型InGaAs光吸収層に含まれるn型不純物がSiである、請求項1に記載の半導体受光素子。
【請求項5】
前記n型InGaAs光吸収層は、前記厚みが2.7μm以上3.5μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の半導体受光素子。
【請求項6】
n型InP基板上にn型InGaAs光吸収層を形成する光吸収層形成工程と、
前記n型InGaAs光吸収層上にInP窓層を形成する窓層形成工程と、
前記InP窓層内に、前記n型InGaAs光吸収層の上部にまで到達するp型不純物拡散領域を形成する拡散領域形成工程と、を含む半導体受光素子の製造方法であって、
前記光吸収層形成工程において形成する前記n型InGaAs光吸収層は、厚みを2.2μm以上とし、かつ、n型不純物によるキャリア密度を2.5×1015/cm3以上とすることを特徴とする半導体受光素子の製造方法。
【請求項7】
前記拡散領域形成工程は、前記窓層形成工程によって前記InP窓層を形成した後、MOCVD炉内で前記InP窓層の表面側からp型不純物を拡散させる、請求項6に記載の半導体受光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体受光素子およびその製造方法に関し、特に赤外領域を受光波長とする半導体受光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体受光素子は広く利用されており、光ファイバ向けフォトダイオード及び赤外線センサーは、赤外領域を受光波長とする半導体受光素子の代表例である。
【0003】
例えば、特許文献1には、n型InP基板と、前記n型InP基板の上に積層されるn型InP緩和層と、前記n型InP緩和層の上に積層されるi型(n型)InGaAs光吸収層と、前記i型(n型)InGaAs光吸収層の上に積層されるn型InPキャップ層と、前記n型InPキャップ層よりp型不純物をイオン注入することにより形成され、前記i型(n型)InGaAs光吸収層とpn接合を形成するp型不純物領域と、を有する半導体受光素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された発明は光通信システム用途であり、その課題は高速応答性を高めることであった。光通信システム用以外の用途である赤外線センサー用途に用いられる受光素子は、高いESD耐圧(静電耐圧ともいう)を有すると共に高い受光感度が求められる。
【0006】
そこで本発明は、受光感度を維持しながら、ESD耐圧の高い半導体受光素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明者らは半導体受光素子における光吸収層のキャリア密度及びその厚さに着目し、本発明を完成するに至った。すなわち、半導体受光素子のInGaAs光吸収層の膜厚を薄くした場合では、得られるESD耐圧が増加するが、受光感度の低下が大きかった。これに対して特定の厚さ以上のInGaAs光吸収層にn型不純物を特定のキャリア密度以上となるようにドープすると、ESD耐圧を1500V以上に大きく改善でき、受光感度の低下は限定的であることを本発明者らは見い出した。こうして、受光感度をあまり下げることなく、ESD耐圧を大きく改善できることを本発明者らは知見した。すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
【0008】
<1>n型InP基板と、
前記n型InP基板上のn型InGaAs光吸収層と、
前記n型InGaAs光吸収層上のInP窓層と、を有し、
前記InP窓層内に、前記n型InGaAs光吸収層の上部にまで到達するp型不純物拡散領域が形成された半導体受光素子であって、
前記n型InGaAs光吸収層は、厚みが2.2μm以上であり、かつ、n型不純物によるキャリア密度が2.5×1015/cm3以上であることを特徴とする半導体受光素子。
【0009】
<2>前記n型InGaAs光吸収層の前記n型不純物によるキャリア密度が6.0×1015/cm3以上である、上記<1>に記載の半導体受光素子。
【0010】
<3>前記p型不純物拡散領域に含まれるp型不純物がZnである、上記<1>又は<2>に記載の半導体受光素子。
【0011】
<4>前記n型InGaAs光吸収層に含まれるn型不純物がSiである、上記<1>~<3>のいずれかに記載の半導体受光素子。
【0012】
<5>前記n型InGaAs光吸収層の前記厚みが2.7μm以上3.5μm以下である、上記<1>~<4>のいずれかに記載の半導体受光素子。
【0013】
<6>n型InP基板上にn型InGaAs光吸収層を形成する光吸収層形成工程と、
前記n型InGaAs光吸収層上にInP窓層を形成する窓層形成工程と、
前記InP窓層内に、前記n型InGaAs光吸収層の上部にまで到達するp型不純物拡散領域を形成する拡散領域形成工程と、を含む半導体受光素子の製造方法であって、
前記光吸収層形成工程において形成する前記n型InGaAs光吸収層は、厚みを2.2μm以上とし、かつ、n型不純物によるキャリア密度を2.5×1015/cm3以上とすることを特徴とする半導体受光素子の製造方法。
【0014】
<7>前記拡散領域形成工程は、前記窓層形成工程によって前記InP窓層を形成した後、MOCVD炉内で前記InP窓層の表面側からp型不純物を拡散させる、上記<6>に記載の半導体受光素子の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、受光感度が高く、かつ、ESD耐圧の高い半導体受光素子およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に従う半導体受光素子の模式断面図である。
【
図2】本発明の具体的態様に従う半導体受光素子の模式断面図である。
【
図3】本発明による製造方法の一実施形態を説明する半導体受光素子の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による実施形態の説明に先立ち、以下の点について予め説明する。
【0018】
<半導体組成>
まず、本明細書において元素組成比を明示せずに単に「InGaAs」と表記する場合は、III族元素であるIn(インジウム)及びGa(ガリウム)とV族元素であるAs(ヒ素)との組成比が1:1であり、III族元素InとGaとの比率は不定の任意の化合物を意味するものとする。ただし、「InGaAs」は、InとGaの合計に対して5%(モル濃度、以下同じ)以内のAlを含んでいてもよいし、Asに対して5%以内のP(リン)、Sb(アンチモン)を含んでいてもよい。また、単に「InP」と表記する場合でも、In及びP以外のIII族元素及びV族元素を5%以下で含むことができる。なお、III-V族元素の組成比の値は、フォトルミネッセンス測定及びX線回折測定などによって測定することができる。
【0019】
<導電型>
また、本明細書において、電気的にp型として機能する層をp型半導体層(「p型層」と略称する場合がある。)と称し、電気的にn型として機能する層をn型半導体層(「n型層」と略称する場合がある。)と称する。一方、Si、Zn、S、Sn、Mg等の特定の不純物を意図的には添加しない場合、「i型」又は「アンドープ」と言う。アンドープのIII-V族化合物半導体層には、製造過程における不可避的な不純物の混入はあってよい。具体的には、p型不純物とn型不純物の両方のドーパント濃度が低く、例えばキャリア密度が2.5×1015/cm3未満である場合を「アンドープ」であるとして、本明細書では取り扱うものとする。Si、Sn、S、Te、Mg、Zn等の不純物濃度の値は、SIMS分析によるものとする。
【0020】
<半導体層の厚さ>
半導体受光素子に設けられる各半導体層の厚さのそれぞれは、走査型電子顕微鏡及び透過型電子顕微鏡による成長層の断面観察から算出できる。
【0021】
<キャリア密度>
キャリア密度を求めるためには、各層のキャリア密度をエッチングCV(ECV)測定装置により求める。ECV測定装置は、例えばナノメトリクス社製ECV Proを使用できる。コンタクト層、窓層の各層をウエットエッチングにより順次除去することで、コンタクト層、窓層、光吸収層の各層の表面を露出させた状態で、ECV測定装置の装置メーカー指定の電解液を使用して電圧を印加しCV測定を実施した。そのCV測定結果からキャリア密度を計算した。
なお、本明細書におけるn型不純物によるキャリア密度とは、p型不純物拡散前(拡散領域形成工程前)における測定値であり、p型不純物拡散後の半導体受光素子においては拡散の影響を受けていないp型不純物拡散領域以外の領域におけるキャリア密度であるものとする。
n型InGaAs光吸収層において、n型不純物がSi、S、Se、Teのいずれか1種以上の場合には、n型不純物の活性化率が100%に近く、n型不純物濃度とn型不純物によるキャリア密度との差は10%未満となる。本発明では、SIMSによるn型InGaAs光吸収層の厚さ方向の平均でのn型不純物濃度を、n型不純物によるキャリア密度とすることがある。
p型不純物の拡散においてはp型不純物とn型不純物とのコドープ状態となるため、SIMSによる各層のn型不純物濃度をn型不純物によるキャリア密度と見なす場合、SIMS測定はp型不純物拡散領域の内と外のどちらに対して行ってもよい。本発明では、p型不純物の拡散された部分も含めてn型不純物が意図的に添加されたInGaAs光吸収層全体をn型InGaAs光吸収層と表現する。
【0022】
<P型不純物拡散領域におけるp型不純物濃度>
P型不純物拡散領域におけるp型不純物濃度について、以下、p型不純物がZnである場合を例に説明する。Zn拡散領域におけるZn濃度は、Zn拡散領域の中心部に対して、深さ方向にSIMS(二次イオン質量分析法、Secondary Ion Mass Spectrometry)により求め、各層における深さ方向のZn濃度プロファイルをもとに、各層における平均Zn濃度を求める。なお、p型不純物としてZnを用いる場合、SIMS分析では、母材がInPの場合とInGaAsの場合とで、Znの検出率(イオン化率)に違いがある。そこで、Znについては元素濃度の絶対値を補正するために、InP層中のZn濃度は、Zn濃度が既知のInPに対する分析結果を用いることとし、InGaAs層中のZn濃度は、Zn濃度が既知のInGaAsに対する分析結果を用いて、それぞれ濃度を補正する。
【0023】
以下、
図1を参照して、本発明の一実施形態に従う半導体受光素子を説明する。本発明の一実施形態に従う半導体受光素子100は、n型InP基板110と、n型InP基板110上のn型InGaAs光吸収層130と、n型InGaAs光吸収層130上のInP窓層140と、を少なくとも有する。そして、このInP窓層140内に、n型InGaAs光吸収層130の上部にまで到達するp型不純物拡散領域150が形成されている。ここで、この半導体受光素子100におけるn型InGaAs光吸収層130は、厚みが2.2μm以上であり、かつ、キャリア密度が2.5×10
15/cm
3以上である。以下、各構成の詳細を順次説明する。
【0024】
<n型InP基板>
n型InP基板110は一般的に入手可能なものを用いることができる。n型InP基板110のn型不純物の代表例はS(硫黄)及びSn(スズ)である。n型InP基板110のキャリア密度は特に制限されず、例えば1.0×1018/cm3以上9.0×1018/cm3のものを採用すればよい。基板の厚み、基板の直径及び基板の面方位も特に制限されない。
【0025】
<n型InGaAs光吸収層>
n型InP基板110上にn型InGaAs光吸収層130が設けられる。n型InGaAs光吸収層130は、厚さを2.2μm以上とし、かつ、n型不純物によるキャリア密度を2.5×1015/cm3以上にする。n型InGaAs光吸収層130の厚さを2.2μmよりも薄くすればESD耐圧を少し向上できたとしても、量子効率が下がるために受光感度が下がってしまう。そこで本発明に従う半導体受光素子100では、n型InGaAs光吸収層130の厚さを2.2μm以上と通常の厚さよりも大きくしつつ、n型InGaAs光吸収層130のn型不純物によるキャリア密度を2.5×1015/cm3以上と高くすることにより、受光感度を高めつつ、優れたESD耐圧を得ることができる。なお、ここでいうn型InGaAs光吸収層130のn型不純物によるキャリア密度は、Zn拡散工程前のn型InGaAs光吸収層130のキャリア密度であり、Zn拡散工程後はZnが拡散されていない領域(p型不純物拡散領域150以外の領域)におけるキャリア密度を意味する。上述のとおり、n型InGaAs光吸収層130のSIMSによる厚さ平均Si濃度をn型不純物によるキャリア密度と見なしてよい。InGaAs光吸収層130にドープするn型不純物としては、Si、Ge、Sn、Pb、S、Se、Teを用いることができる。望ましくは、原料ガスの入手が容易で、MOCVDでのInGaAs光吸収層130の成長中に拡散しないSi、S、Se、Teを用いることができる。最も好ましくはSiである。
【0026】
-組成比-
ここで、n型InGaAs光吸収層130の組成比をInx1Ga(1-x1)Asと表記する。この場合、n型InP基板110上でエピタキシャル成長できる限りIn組成比x1は特に制限されないものの、52.18≦x1≦54.47とすることが好ましく、52.75≦x1≦53.89とすることがより好ましい。InP基板の格子定数とInGaAs層の格子定数をほぼ整合させることができ、膜界面近傍の応力が小さくなり、InGaAs層にスリップやクロスハッチなどの欠陥が生じにくくなるためである。なお、n型InGaAs光吸収層130のn型不純物は、例えばSiを用いればよい。また、n型InGaAs光吸収層130の組成比の代わりに、InGaAs層のInP基板に対する格子不整合度を採用してもよい。格子不整合度は、InP基板110およびその上のInGaAs光吸収層130の(400)面に対するX線による2θ-ωスキャン(ディフラクトメーターカーブ)の測定によって、横軸2θ、縦軸回折X線強度のグラフから得ることができる。InP基板の回折ピーク位置2θInPとInGaAs層の回折ピーク位置2θInGaAsから、Braggの回折式を用いて、それぞれの格子定数aInP、aInGaAsを求め、格子定数差をΔa=aInP-aInGaAsとすると、Δa/aInPによって格子不整合度を評価できる。より簡便には、2θ-ωスキャンの測定結果において、InP基板の回折ピーク位置を基準にInGaAsの回折ピーク位置との回折角度差Δ2θ=2θInP-2θInGaAsを用いて、格子不整合度を評価できる。Δ2θが±200arcsec以下が好ましく、±100arcsec以下がさらに好ましい。格子不整合度が小さいほど、InP基板上のInGaAs層にスリップやクロスハッチなどの欠陥が生じにくくなる。また、エピ基板の反りも小さくなり、その後のプロセス加工時の取り扱いも容易となり、SiN膜などの成膜後のエピ基板の割れなども抑制できる。
【0027】
-厚さ-
n型InGaAs光吸収層130の厚さとは、p型不純物の拡散を考慮しない厚さをいい、p型不純物拡散前のn型InGaAs光吸収層130の厚さである。n型InGaAs光吸収層130の厚さは前述のとおり2.2μm以上であり、2.7μm以上であることが好ましく、2.75μm以上にすることがより好ましい。一方、半導体受光素子100のESD耐圧を確保するためには、n型InGaAs光吸収層130の厚さを3.5μm以下にすることが好ましく、3.45μm以下にすることがより好ましい。n型InGaAs光吸収層130の厚さが薄いと受光感度が低下してしまう弊害がある。また、厚さが厚すぎると、InGaAs層130やその上のInP窓層140にスリップやクロスハッチが入りやすくなってしまう。さらに、InP基板上へのInGaAs層の成膜時の成長時間が長くなり、製造のスループットが落ちてしまうことや、製造コストの増加につながってしまう。
【0028】
-キャリア密度-
n型InGaAs光吸収層130のn型不純物によるキャリア密度は前述のとおり2.5×1015/cm3以上であり、3.0×1015/cm3以上とすることが好ましい。ESD耐圧を高めるためには当該キャリア密度を6.0×1015/cm3以上にすることがより好ましい。n型不純物によるキャリア密度が1.0×1016/cm3以下であれば、受光感度を維持しつつ、ESD耐圧を高めることができる。n型InGaAs光吸収層130のn型不純物によるキャリア密度が低すぎるとESD耐圧を高める効果が薄い。逆にn型不純物によるキャリア密度が高すぎると、受光感度が低下してしまう。
【0029】
<InP窓層>
n型InGaAs光吸収層130上には、InP窓層140が設けられる。InP窓層140はアンドープであってもよいが、Siなどのn型不純物がドーパントされていることが好ましく、そのn型不純物によるキャリア密度を5.0×1015/cm3以上1.1×1016/cm3以下にすることが好ましい。なおここでいうInP窓層140のn型不純物によるキャリア密度はInGaAs光吸収層130と同様に、Zn拡散工程前におけるキャリア密度を指す。InP窓層140の厚さは特に制限されないが、例えば0.5μm~2μmとすることができる。なお、InP窓層140は、InPであることが好ましいが、n型InGaAs光吸収層130が吸収する波長を透過するのに十分なバンドギャップを有していれば、InPに他のIII族やV族の元素が数%混在してもよい。
【0030】
<p型不純物拡散領域>
半導体受光素子100のInP窓層140内にはp型不純物拡散領域150が形成され、p型不純物拡散領域150はn型InGaAs光吸収層130の上部にまで到達する。より具体的には、p型不純物拡散領域150は
図1に示すように、InP窓層140の面内方向の一部において、InP窓層140の最表面からn型InGaAs光吸収層130の表層部まで設けられる。便宜状、ここではp型不純物拡散領域150のうち、InP窓層140に形成された部分を窓層内拡散領域152と称し、n型InGaAs光吸収層130に形成された部分を光吸収層内拡散領域151と称することにする。
【0031】
ここで、p型不純物拡散領域150はn型InGaAs光吸収層130の上部にまで「到達」するとは、少なくともInP窓層140とn型InGaAs光吸収層130との界面からn型InP基板110側へ、n型InGaAs光吸収層130内を0.30μmまでよりも深い位置までp型不純物拡散領域150のp型不純物が拡散していることを意味する。そして、p型不純物の濃度が1.0×1018/cm3以上であれば、p型不純物が拡散しているものとする。n型InGaAs光吸収層130にはn型不純物がドーピングされており、InP窓層140にもn型不純物がドーピングされている。そのためp型不純物拡散領域150の光吸収層内拡散領域151と窓層内拡散領域152はp型不純物とn型不純物のコドープ状態となる。なお、p型不純物拡散領域のp型不純物がZnであることが好ましい。
【0032】
p型不純物拡散領域150を形成する面内方向の大きさは特に制限されないが、上面視で円形に形成する場合は例えば10μmφ以上450μmφ以下とすることができる。また、p型不純物拡散領域150の形状は、円形に限らず、三角形、四角形、五角形などの多角形状でも良い。なお、p型不純物拡散領域150の面積が小さいほど本願発明の効果を得やすい。このため、p型不純物拡散領域150の面積は159050μm2以下が好ましく、129600μm2以下がより好ましく、62500μm2以下がさらに好ましい。面積の下限は実用上また量産上100μm2以上が好ましい。
【0033】
以上説明した半導体受光素子100は、n型InGaAs光吸収層の厚さ及びn型InGaAs光吸収層のn型不純物によるキャリア密度が適正化されているため、優れた受光感度及びESD耐圧を両立することができる。
【0034】
次に
図2を参照して、本発明に従う半導体受光素子に適用可能な具体的態様を説明する。以下では、参照符号下二桁が共通な構成は既述の実施形態で説明したものと同様の構成であるため、重複する説明を省略する。
図3を参照する場合も同様に、共通する構成の重複説明を省略する。
【0035】
<バッファ層>
半導体受光素子200は、n型InP基板210とn型InGaAs光吸収層230と間にバッファ層220を有してもよい。バッファ層220はInPであることが好ましく、アンドープであることが好ましい。バッファ層220の厚みを0.3μm以上1.0μm以下とすることができる。
【0036】
<キャップ層>
p型不純物拡散領域250の上面の一部、例えば縁部には、コンタクト層を兼ねたキャップ層260を設けることが好ましい。キャップ層260はZn拡散工程前においてキャリア密度を5.0×1015/cm3未満とすることが好ましく、キャリア密度が2.5×1015/cm3未満のアンドープのInGaAsを用いることがより好ましい。また、キャップ層260の厚さは50nm以上0.2μm以下とすることができる。キャップ層260の組成比をInx2Ga(1-x2)Asと表記する場合、キャップ層のIn組成比x2は特に制限されないものの、52.18≦x2≦54.47とすることが好ましく、52.75≦x2≦53.89とすることがより好ましい。InP基板の格子定数とInGaAs層の格子定数をほぼ整合させることができ、膜界面近傍の応力が小さくなり、InGaAs層にスリップやクロスハッチなどの欠陥が生じにくくなるためである。また、後述する拡散領域形成工程においてキャップ層260にp型不純物を拡散させてp型化し、キャップ層260をp型コンタクト層として用いることによって、p型電極280との接触抵抗を下げることができる。
【0037】
<ARコート層>
InP窓層240上のキャップ層260以外の部分には、反射防止のためのARコート層270を設けることができる。ARコート層270にはSiNを用いることが好ましく、厚さを0.1μm以上0.5μm以下とすることができる。
【0038】
キャップ層260に接する部分にはp型電極280を設けることができ、n型InP基板210の裏面にはn型電極290を設けることができる。いずれも厚さを0.5μm以上4.0μm以下とすることができる。p型電極280には、キャップ層側から順にTi(チタン)/Pt(白金)/Au(金)、n型電極にはAuGe合金などを用いることができる。電極の形状は用途に応じて適宜設計すればよく、例えば、円形、三角形、四角形、五角形などの多角形状でも良く、
図2の図示例は一例に過ぎない。また、p型電極280には、電流を流すためのワイヤー接続用にボンディングパッドを設けても良い。
【0039】
半導体受光素子200をセンサー用途で用いることを考慮すると、半導体受光素子200の全体厚さを100μm以上300μm以下とすることが好ましく、幅及び奥行きを500μm程度とすることが好ましく、受光部を上面視で円形に形成する場合は受光部の直径を例えば10μmφ以上450μmφ以下とすることができる。また、受光部の形状は、p型不純物拡散領域の内側に受光部を設けるので、P型不純物拡散領域150の形状と相似形状であってよく、円形に限らず、三角形、四角形、五角形などの多角形状でも良い。
【0040】
図3に模式的に図示したステップA~ステップDを参照する。本発明の一実施形態に従う半導体受光素子300の製造方法は、n型InP基板310上にn型InGaAs光吸収層330を形成する光吸収層形成工程と、n型InGaAs光吸収層330上にInP窓層340を形成する窓層形成工程と、InP窓層340内に、n型InGaAs光吸収層330の上部にまで到達するp型不純物拡散領域350を形成する拡散領域形成工程と、を含む。そして、光吸収層形成工程において形成するn型InGaAs光吸収層330の厚みを2.2μm以上とし、かつ、n型不純物によるキャリア密度を2.5×10
15/cm
3以上とする。
【0041】
半導体層の各層は、MOCVD法を用いて形成することが好ましい。拡散領域形成工程(ステップD)は、窓層形成工程によってInP窓層340を形成した後、MOCVD炉を用いてInP窓層340の表面側からp型不純物を拡散させることが好ましい。拡散領域形成工程(ステップD)の前にキャップ層360を形成する工程と、キャップ層を部分的に除去してInP窓層340の一部を露出させる工程を含み、拡散領域形成工程(ステップD)ではキャップ層360にもp型不純物を拡散させるようにして良い。
【0042】
拡散領域形成工程の好ましい態様について、p型不純物としてZnを採用した例を具体的に説明する。半導体層をすべてエピタキシャル成長させた後、エピタキシャル層の最表面から所望の領域にのみ、MOCVD法によってZnを拡散させる。すなわち、InP窓層340が半導体層の最上層の場合はInP窓層340の表面からZnを拡散させ、(図示しない)キャップ層が半導体層の最上層の場合はキャップ層の表面からZnを拡散させる。所望の領域にのみZnを拡散させるためには、まずCVD法によって誘電体薄膜(SiO2、SiON、SiN膜等)を成膜し、レジストを用いたフォトリソグラフィによって誘電体薄膜を所定の形状でパターン形成し、パターン形成された誘電体薄膜をZn拡散時のマスク370として用いることができる。その後、エピタキシャル層の最表面から、キャップ層が設けられる場合はキャップ層を経つつ、InP窓層340及びn型InGaAs光吸収層330へZnを拡散させることができる。また、キャップ層360はZnを拡散させることによってp型化させ、p型コンタクト層として好適に用いることができる。
【0043】
この場合、n型InGaAs光吸収層330中のZn濃度は、InP窓層340とn型InGaAs光吸収層330の界面付近でZn濃度ピークが見られ、当該界面からn型InP基板310側に向かうにしたがってZn濃度が漸減する。InGaAs光吸収層330中のZnピーク濃度は、SIMS測定した場合、1.0×1019/cm3以上5.0×1019/cm3以下とすることができる。また、n型InGaAs光吸収層330のうちの光吸収層内拡散領域351中のZn平均濃度は8.0×1018/cm3以上4.0×1019/cm3とすることができ、好ましくは9.0×1018/cm3以上3.0×1019/cm3である。なお、この光吸収層内拡散領域351中のZn平均濃度の値はn型InGaAs光吸収層330中において、InP窓層340とn型InGaAs光吸収層330との界面からZn濃度が1.0×1018/cm3となるまでの深さ方向範囲の平均値である。前述のとおり、各半導体層にSiなどのn型不純物をドープした領域の一部にZnを拡散させることになるので、InP窓層340へZn拡散させた窓層内拡散領域352およびn型InGaAs光吸収層330へZn拡散させた光吸収層内拡散領域351は、Znとn型不純物(例えばSi)のコドープ状態となる。
【0044】
また、拡散領域形成工程においては、MOCVD法の代わりに、石英管封止法を用いてもp型不純物拡散領域350を形成できるし、イオン注入法でp型不純物拡散領域350を形成してもよい。
【0045】
なお、
図3に図示しない電極はスパッタ法、電子ビーム蒸着法、抵抗加熱法などで形成することができる。
図3に図示しないARコート層はCVD法、塗布法などで形成することができる。
【0046】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例0047】
<実施例1>
前掲の
図2を参照する。n型InP基板(厚さ:625μm、キャリア密度:3.0×10
18/cm
3)上にMOCVD法を用いて、アンドープInPバッファ層、n型InGaAs光吸収層、n型InP窓層、アンドープのInGaAsキャップ層を順次成膜した。各層の組成、ドーパント、キャリア密度、厚さの諸条件を下記表1に示す。なお、各層のキャリア密度はZn拡散を行う前にECV測定装置(ナノメトリクス社製ECV Pro)により求めた。次いで、キャップ層にマスク形成してエッチングした後、CVD法によってSiN膜(厚さ:0.2μm)を成膜し、レジストを用いたフォトリソグラフィによってパターン形成し、MOCVD法を用いてZnを拡散させてキャップ層からn型InP窓層、n型InGaAs光吸収層へとZnを拡散させた。Zn源としてはDEZn(ジエチル亜鉛)を用いた。最後に、p型電極及びn型電極をそれぞれ形成して、実施例1に係る半導体受光素子を作成した。
【0048】
【0049】
なお、InGaAsキャップ層におけるZn拡散領域の中央におけるSIMS測定による厚さ方向平均Zn濃度は5.0×1019/cm3であり、InP窓層におけるZn拡散領域中央での厚さ方向平均Zn濃度は5.0×1018/cm3であった。また、Zn拡散領域中央における深さ方向において、Zn濃度が1.0×1018/cm3以下になるまでの深さ位置は、InP窓層とInGaAs光吸収層の界面から距離0.33μmの位置であった。
【0050】
<実施例2>
実施例1ではInGaAs光吸収層のZn拡散前のキャリア密度が3.0×1015/cm3であったところ、これを1.0×1016/cm3に変えた以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る半導体受光素子を作製した。
【0051】
<比較例1>
実施例1ではInGaAs光吸収層のZn拡散前のキャリア密度が3.0×1015/cm3であったところ、これを3.0×1014/cm3に変えた以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る半導体受光素子を作製した。
【0052】
<比較例2>
比較例1ではInGaAs光吸収層の厚さが2.8μmであったところ、これを2.55μmに変えた以外は比較例1と同様にして、比較例2に係る半導体受光素子を作製した。
【0053】
<比較例3>
比較例1ではInGaAs光吸収層の厚さが2.8μmであったところ、これを3.45μmに変えた以外は比較例1と同様にして、比較例3に係る半導体受光素子を作製した。
【0054】
(評価1:受光感度)
実施例1、2及び比較例1~3のそれぞれに対して、以下のようにして、波長1060nm、1460nm、1550nmのそれぞれの受光感度を測定した。
【0055】
暗室内に設置されたプローバーに作製した半導体受光素子をセットし、プローブの針をp型電極パッドに当てる。n型電極はプローバーステージと導通を取る。まず、光源が何もない状態で、p型電極およびn型電極に所定の逆電圧を印加しp型電極とn型電極との間に流れる電流(逆電流)を測定する。これにより暗電流が得られる。続いて、p型電極およびn型電極に所定の逆電圧を印加した状態で、波長1060nm、1460nm、1550nmのレーザー光源をそれぞれ用い、レンズで集光して半導体受光素子の受光部内に照射し、光照射下における逆電流を測定する。これにより光電流が得られる。また、別途、受光感度が既知の受光素子を用いてレーザー光の照射パワーを測定する。以上のとおりにして得られる測定値から、次式により受光感度を求めることができる。
[受光感度](A/W)=([光電流]-[暗電流])/[照射パワー]
光源の波長を変えて上記測定を行うことにより各波長における受光感度を得ることができる。
なお、波長1060nm、1460nm、1550nmのそれぞれの波長における量子効率100%の場合の受光感度([波長]/1240nm)の値は、それぞれ0.855、1.178、1.25であるため、これらの値が各波長における受光感度の最大値である。表1における受光感度は、それぞれの波長において量子効率が77~82%、80~86%、78~85%の範囲内であり、十分に高い受光感度であるといえる。
【0056】
(評価2:ESD耐圧)
実施例1、2及び比較例1~3のそれぞれに対して、ESD耐圧を測定した。なお、実施例1、2及び比較例1~3のウエハ面内9か所から1チップずつ選んでサンプルを9個取得し、TOステムに1チップずつ銀ペーストおよびAuワイヤーでTOステムと導通を取って、ESD耐圧測定用のテストサンプルを作成した。平均値をESD耐圧の値として採用した。
ESD耐圧の測定はJEITA ED-4701/304Aの人体モデル静電破壊試験の試験方法に従って実施した。
ESD耐圧測定には、静電破壊自動測定装置(阪和電子工業(株)製HED-S5000)を用いた。校正サンプルをセットして、装置の校正を実施した。
ついで、テストサンプルをセットし、開始電圧100V、終了電圧4000V、電圧ステップ100V、電圧印加回数3回、インターバル時間0.5秒とし、印加モードは、正電圧印加→負電圧印加の条件とした。測定時の周囲温度は25℃であった。
試験電圧を3回印加後に-5Vの電圧印加時の電流を測定した。合否判定基準を1μAとして、1μA未満であれば印加電圧を100V増加させ、再び、試験電圧を印加する。-5Vの電圧印加時の電流が1μAを超えた際に印加した電圧をESD耐圧の値とした。
具体的には、テストサンプルに対して、初めに試験電圧を+100Vとして0.5秒毎に3回印加した。なお、テストサンプルは、各試験電圧を印加した後に放電回路によって毎回放電される。その後、-5Vを印加した際の電流を測定した。1μA未満であれば合格と判定される。合格すれば、次に、試験電圧を-100Vとして0.5秒毎に3回印加したのち、-5V印加時の電流を測定した。1μA未満であれば合格と判定される。合格すれば、次は試験電圧を+200Vとして同様に3回印加して-5Vでの電流を測定した。合格すれば次は試験電圧を-200Vとして同様に行う。これを-5V印加時の電流が1μAを超えるまで、試験電圧の絶対値を100Vづつ増加させ続けた。
【0057】
以上の実施例1、2及び比較例1~3の作製条件及び測定結果を表2に示す。
【0058】
【0059】
上記表2より、本発明条件を満足する光吸収層を形成することにより、受光感度をほとんど下げることなく、優れたESD耐圧が得られたことを確認できる。