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特開2023-182398複合圧力容器及び複合圧力容器の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182398
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】複合圧力容器及び複合圧力容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/06 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
F17C1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095983
(22)【出願日】2022-06-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/水素利用等高度化先端技術開発/非FW/分割プリフォームおよび新規樹脂(REDOX硬化型樹脂)による高圧水素タンクの革新的ハイレート製造プロセスの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】内野 孝久
(72)【発明者】
【氏名】鵜澤 潔
(72)【発明者】
【氏名】平山 紀夫
(72)【発明者】
【氏名】坂田 憲泰
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BA01
3E172BB05
3E172BC03
3E172BC04
3E172BD03
3E172CA13
3E172DA36
(57)【要約】
【課題】十分な強度を担保しつつ、製造コストを抑えた複合圧力容器及び複合圧力容器の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の態様1に係る複合圧力容器は、円筒状のシリンダ部10と、シリンダ部10の軸方向の両端に配置されるドーム部20と、を備え、シリンダ部10の軸方向に沿う断面視において、シリンダ部10とドーム部20との境界の軌跡である境界線Bのうち、シリンダ部10の径方向の外側の端部が、シリンダ部10の径方向の内側の端部に対して、シリンダ部10の軸方向においてドーム部20よりもシリンダ部10の側に位置し、シリンダ部10の軸方向に沿う断面視において、境界線Bの60%以上は、境界において内圧により発生する主応力の方向ベクトルに対して、±15°以内の角度をなしている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のシリンダ部と、
前記シリンダ部の軸方向の両端に配置されるドーム部と、
を備え、
前記シリンダ部の軸方向に沿う断面視において、前記シリンダ部と前記ドーム部との境界の軌跡である境界線のうち、前記シリンダ部の径方向の外側の端部が、前記シリンダ部の径方向の内側の端部に対して、前記シリンダ部の軸方向において前記ドーム部よりも前記シリンダ部の側に位置し、
前記シリンダ部の軸方向に沿う断面視において、前記境界線の60%以上は、前記境界において内圧により発生する主応力の方向ベクトルに対して、±15°以内の角度をなしている、
複合圧力容器。
【請求項2】
前記断面視において、前記境界の60%以上の領域では、前記境界において内圧により発生する主応力の方向ベクトルが、前記シリンダ部の軸方向に対して、±5°以上の角度をなしている、
請求項1に記載の複合圧力容器。
【請求項3】
前記シリンダ部の体積の60%以上において、前記シリンダ部を形成する材料の積層方向が、前記シリンダ部の周方向に沿う、
請求項1又は2に記載の複合圧力容器。
【請求項4】
前記境界を覆う補強層を、前記複合圧力容器の前記シリンダ部と前記ドーム部の境界線の径方向の外側及び内側の少なくともいずれかに備える、
請求項1又は2に記載の複合圧力容器。
【請求項5】
前記シリンダ部、前記ドーム部及び前記補強層が、繊維強化複合材料によって形成されている、
請求項4に記載の複合圧力容器。
【請求項6】
前記補強層の体積の60%以上において、前記繊維強化複合材料の積層方向が、前記シリンダ部の軸方向に対して±50°以内である、
請求項5に記載の複合圧力容器。
【請求項7】
請求項1に記載の複合圧力容器の製造方法であって、
前記シリンダ部と前記ドーム部とを、コキュア法、コボンド法、レジントランスファーモールディング法、後接着等の方法で一体化する、
複合圧力容器の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の複合圧力容器の製造方法であって、
前記シリンダ部と前記ドーム部の形状を、それぞれ個別にプリプレグもしくは繊維からなる中間素材を積層することによって形成する積層工程と、
前記積層工程において形成された前記シリンダ部と前記ドーム部と組み合わせる組み合わせ工程と、
前記組み合わせ工程において組み合わされた前記シリンダ部と前記ドーム部とを接着等の方法で一体化させる一体化工程と、
を備える、
複合圧力容器の製造方法。
【請求項9】
円筒状のシリンダ部と、
前記シリンダ部の軸方向の両端に配置されるドーム部とを接合する複合圧力容器の製造方法であって、
前記シリンダ部と前記ドーム部との境界において内圧により発生する主応力の方向ベクトルを求める工程と、
前記シリンダ部の軸方向に沿う断面視において、前記境界の軌跡である境界線のうち、前記シリンダ部の径方向の外側の端部が、前記シリンダ部の径方向の内側の端部に対して、前記シリンダ部の軸方向において前記ドーム部よりも前記シリンダ部の側に位置するように前記シリンダ部と前記ドーム部の接合部を形成する工程とを有し、
前記境界線の60%以上が、前記主応力の方向ベクトルに対して、±15°以内の角度をなすように、前記シリンダ部と前記ドーム部の接合部を形成することとを特徴とする、
複合圧力容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合圧力容器及び複合圧力容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素等の気体を貯蔵するために、圧力容器が用いられることがある。
特許文献1では、ライナーの変形を回避することができる高圧タンクの製造方法が開示されている。
特許文献2では、安定した形状のライナーを簡単に形成することができる高圧タンクの製造方法が開示されている。
特許文献3では、分割体同士間の位置ずれを防止することができる高圧タンクの製造方法及び高圧タンクが開示されている。
特許文献4では、繊維シートの巻終りの端部が剥がれるのを抑制することが可能な高圧タンクの製造方法が開示されている。
特許文献5では、引張強度及び疲労強度を両立できる高圧タンク及びその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-121750号公報
【特許文献2】特開2021-127775号公報
【特許文献3】特開2021-113569号公報
【特許文献4】特開2021-110367号公報
【特許文献5】特開2020-169656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧力容器を量産品に適用する(例えば、燃料電池車の水素タンク)需要がある。従来の圧力容器は、十分な強度を担保するために、フィラメントワインディング法などにより炭素繊維などを繊維の切れ目が少なくなるように巻き付けようにして、材料を一体成型することによって製造されている。この方法によっては、製造に長い時間を要したり、材料の量に無駄が生じたりすることから、生産性や製造コストに課題がある。そこで、圧力容器の製造コストを抑えるために、圧力容器を部位ごとに分割して形成することが求められている。しかしながら、分割した部品の境界に十分な強度を担保することについて課題がある。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、十分な強度を担保しつつ、製造コストを抑えた複合圧力容器及び複合圧力容器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1>本発明の態様1に係る複合圧力容器は、円筒状のシリンダ部と、前記シリンダ部の軸方向の両端に配置されるドーム部と、を備え、前記シリンダ部の軸方向に沿う断面視において、前記シリンダ部と前記ドーム部との境界の軌跡である境界線のうち、前記シリンダ部の径方向の外側の端部が、前記シリンダ部の径方向の内側の端部に対して、前記シリンダ部の軸方向において前記ドーム部よりも前記シリンダ部の側に位置し、前記シリンダ部の軸方向に沿う断面視において、前記境界線の60%以上は、前記境界において内圧により発生する主応力の方向ベクトルに対して、±15°以内の角度をなしている。
【0007】
この発明によれば、シリンダ部の軸方向に沿う断面視において、シリンダ部とドーム部との境界の軌跡である境界線のうち、シリンダ部の径方向の外側の端部が、シリンダ部の径方向の内側の端部に対して、シリンダ部の軸方向においてドーム部よりもシリンダ部の側に位置する。
【0008】
ここで、複合圧力容器の内圧が上昇すると、シリンダ部が拡径するように作用する。これに対し、ドーム部は、シリンダ部が拡径することを抑えるように作用する。このとき、シリンダ部とドーム部との境界が上述したように形成されていることで、複合圧力容器の内圧が上昇した時、シリンダ部とドーム部との境界において複合圧力容器の半径方向(厚さ方向)に対しては圧縮応力が生じる。したがって、複合圧力容器の内圧の上昇が、シリンダ部とドーム部とを剥離させるように作用しないようにすることができる。よって、複合圧力容器をシリンダ部とドーム部とに分割して形成した場合であっても、複合圧力容器の半径方向応力に対しては十分な強度を担保することができる。さらに、複合圧力容器を部位ごとに分割して形成することで、製造コストを抑えた複合圧力容器とすることができる。
【0009】
更に、シリンダ部とドーム部との境界が上述したように形成されていることで、前記境界は、シリンダ部の軸方向に対して傾斜した状態となる。これにより、シリンダ部とドーム部との接合面を大きくすることができる。よって、シリンダ部とドーム部との接合部に作用する軸方向の引張応力に対する接着強度を向上することができる。
【0010】
また、境界線の60%以上は、境界において内圧により発生する、シリンダ部の軸方向に沿う断面視における主応力の方向ベクトルに対して、±15°以内の角度をなしている。これにより、シリンダ部とドーム部との境界において発生するせん断ひずみを十分に小さくすることができる。よって、シリンダ部とドーム部との境界の強度を向上することができる。
【0011】
<2>本発明の態様2に係る複合圧力容器は、態様1に係る複合圧力容器において、前記断面視において、前記境界の60%以上の領域では、前記境界において内圧により発生する主応力の方向ベクトルが、前記シリンダ部の軸方向に対して、±5°以上の角度をなしている。
【0012】
ここで、上述したように、シリンダ部とドーム部との境界線の60%以上は、境界において内圧により発生する主応力の方向ベクトルに対して、±15°以内の角度をなしている。このとき、主応力の方向ベクトルがシリンダ部の軸方向に対して±5°以下の角度となると、上述の条件を満たすドーム部とシリンダ部との境界線は、シリンダ部の軸方向と平行に近い状態となる。よって、ドーム部とシリンダ部との接合部が必要以上に長くなる。したがって、ドーム部とシリンダ部とを分割して成形することの作用効果を享受できなくなる。これに対し、シリンダ部の軸方向に沿う断面視において、ドーム部とシリンダ部の境界の60%以上の領域では、境界近傍において内圧により発生する主応力の方向ベクトルが、シリンダ部の軸方向に対して、±5°以上の角度をなしている。よって、上述の問題が生じないようにすることができる。
【0013】
<3>本発明の態様3に係る複合圧力容器は、態様1又は態様2に係る複合圧力容器において、前記シリンダ部の体積の60%以上において、前記シリンダ部を形成する材料の積層方向が、前記シリンダ部の周方向に沿う。
【0014】
この発明によれば、シリンダ部の体積の60%以上において、シリンダ部を形成する材料の積層方向が、シリンダ部の周方向に沿う。これにより、材料を、シリンダ部の軸方向の広い範囲に分布させることが可能になり、シリンダ部の端部において、材料の積層方向がシリンダ部の周方向に沿う部位の割合を十分に設け易くすることができる。したがって、シリンダ部の端部において、シリンダ部を形成する材料の繊維の断面が生じにくくすることができる。よって、シリンダ部を、内圧に耐えやすい構造とすることができる。
【0015】
ここで、シリンダ部を形成する材料の積層方向がシリンダ部の軸方向に沿っていると、シリンダ部の剛性が高くなる。結果として、シリンダ部とドーム部との境界において、複合圧力容器の内圧により発生する主応力の方向ベクトルの向きを調整できない問題がある。シリンダ部を形成する材料の積層方向をシリンダ部の周方向とすることで、シリンダ部の剛性を調整しやすくすることができる。よって、複合圧力容器の内圧により発生する主応力の方向ベクトルの向きを調整しやすくすることができる。
【0016】
<4>本発明の態様4に係る複合圧力容器は、態様1から態様3のいずれか1つに係る複合圧力容器において、前記境界を覆う補強層を、前記複合圧力容器の前記シリンダ部と前記ドーム部の境界線の径方向の外側及び内側の少なくともいずれかに備える。
【0017】
ここで、シリンダ部とドーム部との境界には、シリンダ部の軸方向に沿って発生する引張応力が作用する。前記引張応力は、シリンダ部とドーム部との接合面がはがれる原因となる。前記接合面がはがれると、その部位から接合部にはく離やき裂が発生し、複合圧力容器の信頼性が低下する。
【0018】
これに対し、境界を覆う補強層を、複合圧力容器のシリンダ部とドーム部の境界線の径方向の外側及び内側の少なくともいずれかに備える。これにより、シリンダ部とドーム部との境界において、シリンダ部の軸方向に沿って発生する引張応力に対応することができる。したがって、シリンダ部とドーム部との接合面がはがれることを防ぐことができる。よって、よりシリンダ部とドーム部とのに境界における強度を向上し、複合圧力容器の信頼性を向上することができる。
【0019】
<5>本発明の態様5に係る複合圧力容器は、態様1から態様4のいずれか1つに係る複合圧力容器において、前記シリンダ部、前記ドーム部及び前記補強層が、繊維強化複合材料によって形成されている。
【0020】
この発明によれば、シリンダ部、ドーム部及び補強層が、繊維強化複合材料によって形成されている。これにより、十分な強度を有する複合圧力容器とすることができる。
【0021】
<6>本発明の態様6に係る複合圧力容器は、態様4又は態様5に係る複合圧力容器において、前記補強層の体積の60%以上において、前記繊維強化複合材料の積層方向が、前記シリンダ部の軸方向に対して±50°以内である。
【0022】
この発明によれば、補強層の体積の60%以上において、繊維強化複合材料の積層方向が、シリンダ部の軸方向に対して±50°以内である。これにより、補強層を、シリンダ部の軸方向に生じる引張応力に耐えやすい構造とすることができる。よって、境界における引張応力への耐久性を向上することができる。
【0023】
<7>本発明の態様7に係る複合圧力容器の製造方法は、態様1から態様6のいずれか1つに係る複合圧力容器の製造方法であって、前記シリンダ部と前記ドーム部とを、コキュア法、コボンド法、レジントランスファーモールディング法、後接着等の方法で一体化する。
【0024】
この発明によれば、シリンダ部とドーム部とを、コキュア、コボンド、レジントランスファーモールディング法、後接着等の方法で一体化する。
シリンダ部とドーム部とを、コキュア、コボンド、レジントランスファーモールディング法によって一体化する場合、すなわち、シリンダ部とドーム部とを同時に硬化させることにより一体化する場合は、硬化後のシリンダ部とドーム部と接着剤により一体化する場合と比較して、シリンダ部とドーム部との接合面を機械加工によって整形することを不要とすることができる。よって、少ない工程で複合圧力容器を製造することができる。この態様は、例えば、量産車(例えば、燃料電池車)に適用され、大量生産を必要とする複合圧力容器において、顕著な効果をもたらす。
【0025】
シリンダ部とドーム部とを、後接着により一体化する場合、すなわち、硬化後のシリンダ部とドーム部と接着剤により一体化する場合は、シリンダ部とドーム部とを同時に硬化させて一体化する場合と比較して、高度な技術を必要とせず、製造を容易にすることができる。この態様は、例えば、飛行機用や、水素ステーション貯蔵用等、大きな容量を必要とする複合圧力容器において、顕著な効果をもたらす。
【0026】
<8>本発明の態様8に係る複合圧力容器の製造方法は、態様1から態様6のいずれか1つに係る複合圧力容器の製造方法であって、前記シリンダ部と前記ドーム部の形状を、それぞれ個別にプリプレグもしくは繊維からなる中間素材を積層することによって形成する積層工程と、前記積層工程において形成された前記シリンダ部と前記ドーム部と組み合わせる組み合わせ工程と、前記組み合わせ工程において組み合わされた前記シリンダ部と前記ドーム部とを接着等の方法で一体化させる一体化工程と、を備える。
【0027】
この発明によれば、組み合わせ工程において組み合わされたシリンダ部とドーム部とを接着等の方法で一体化させる一体化工程を備える。これにより、シリンダ部とドーム部とを個別に成形した後に、互いに組み合わせて一体化することができる。よって、シリンダ部とドーム部とを同時に成形する場合と比較して、製造コストを抑えることができる。
【0028】
<9>本発明の態様9に係る複合圧力容器の製造方法は、円筒状のシリンダ部と、前記シリンダ部の軸方向の両端に配置されるドーム部とを接合する複合圧力容器の製造方法であって、前記シリンダ部と前記ドーム部との境界において内圧により発生する主応力の方向ベクトルを求める工程と、前記シリンダ部の軸方向に沿う断面視において、前記境界の軌跡である境界線のうち、前記シリンダ部の径方向の外側の端部が、前記シリンダ部の径方向の内側の端部に対して、前記シリンダ部の軸方向において前記ドーム部よりも前記シリンダ部の側に位置するように前記シリンダ部と前記ドーム部の接合部を形成する工程とを有し、前記境界線の60%以上が、前記主応力の方向ベクトルに対して、±15°以内の角度をなすように、前記シリンダ部と前記ドーム部の接合部を形成することとを特徴とする。
【0029】
この発明によれば、境界線の60%以上が、主応力の方向ベクトルに対して、±15°以内の角度をなすように、シリンダ部とドーム部の接合部を形成する。これにより、シリンダ部とドーム部との境界において発生するせん断ひずみを十分に小さくすることができる。よって、シリンダ部とドーム部との境界の強度を向上することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、十分な強度を担保しつつ、製造コストを抑えた複合圧力容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に係る複合圧力容器の断面斜視図である。
図2】本発明に係る複合圧力容器の、シリンダ部とドーム部との境界周辺の断面正面図である。
図3】本発明に係る複合圧力容器の、シリンダ部とドーム部との境界周辺における主応力ベクトルの分布の第1例である。
図4】本発明に係る複合圧力容器の、シリンダ部とドーム部との境界周辺における主応力ベクトルの分布の第2例である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る複合圧力容器100を説明する。複合圧力容器100は、例えば、高圧水素タンクに用いられる。具体的には、複合圧力容器100は、例えば、飛行機用や、水素ステーション貯蔵用等、大きな容量を必要とする用途に用いられる。複合圧力容器100は、燃料電池車をはじめとする量産車用等、大量生産を必要とする用途に用いられてもよい。
【0033】
(複合圧力容器100の構造について)
図1に示すように、複合圧力容器100は、シリンダ部10と、ドーム部20と、補強層30と、を備える。
シリンダ部10は、円筒状の部材である。シリンダ部10は、例えば車載用であれば、内径が100mm~500mmである。シリンダ部10は、例えば、軸方向の長さが200mm~2000mmである。
【0034】
ドーム部20は、ドーム状の部材である。ドーム部20は、シリンダ部10の軸方向の両端に配置される。これにより、シリンダ部10とドーム部20とによって閉塞された空間を形成する。複合圧力容器100は、前記空間の内部に、水素などを貯蔵して用いる。図1に示すように、ドーム部20には、例えば、前記空間から水素などを充填したり取り出したりするために、口金21が設けられてもよい。また、容器の内側には気密を保持するための金属製や樹脂製のライナー40が用いられてもよい。更に、ドーム部20と口金21を一体化した構造としてもよい。
図2に示すように、シリンダ部10とドーム部20とは、境界線Bにおいて接合される。境界線Bは、シリンダ部10の軸方向に沿う断面視における、シリンダ部10とドーム部20との境界の軌跡をいう。境界線Bの詳細については後述する。
【0035】
補強層30は、シリンダ部10とドーム部20との境界を覆う部材である。補強層30は、シリンダ部10とドーム部20の境界線Bの、シリンダ部10の径方向における外側及び内側の少なくともいずれかに設けられる。本実施形態において、補強層30は、図2に示すように、境界線Bの径方向の外側に、シリンダ部10の軸方向を中心とした周方向全体を覆うようにして設けられる。
【0036】
(複合圧力容器100の材料及び積層方法について)
本実施形態において、シリンダ部10、ドーム部20及び補強層30は、繊維強化複合材料によって形成されている。ドーム部20については金属材料としてもよい。例えば、ドーム部20は、口金21と一体化した上で、金属材料によって形成されてもよい。繊維強化複合材料には、例えば、エポキシ樹脂をはじめとした任意の樹脂を、炭素繊維やガラス繊維をはじめとした任意の繊維素材によって強化したものである。具体的には、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)や、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)が好適に用いられる。
【0037】
本実施形態において、シリンダ部10、ドーム部20及び補強層30は、上述した繊維強化複合材料を適宜積層することによって形成される。具体的には、シリンダ部10、ドーム部20及び補強層30は、炭素繊維やガラス繊維をはじめとした任意の繊維素材、又はプリプレグをフープ巻き又はヘリカル巻きによって積層することで形成される。本実施形態では、繊維素材は線状である。また、プリプレグはシート状である。繊維強化複合材料が積層されているとは、線状の繊維素材又はシート状のプリプレグが、軸方向に複数回巻き回されている状態をいう。このとき、線状の繊維素材又はシート状のプリプレグは、すこしずつずらされて巻き回されてもよい。このとき、繊維素材又はプリプレグの積層方向は、繊維素材又はプリプレグが並ぶ軸方向ではなく、繊維素材又はプリプレグが巻き回されている周方向である。
【0038】
ここで、フープ巻きとは、繊維素材又はプリプレグをシリンダ部10の周方向に沿うように巻き付けることをいう。より具体的には、ここで述べるフープ巻きとは、繊維素材又はプリプレグを、シリンダ部10の軸方向に対して70°を超える角度をもって巻き付けることをいう。またヘリカル巻きとは、繊維素材又はプリプレグを、シリンダ部10の軸方向に対して少なくとも70°以下の角度をもって巻き付けることをいう。ヘリカル巻きには主にシリンダ部10に適用する高角度ヘリカル巻きと、ドーム部20を含んで適用する低角度ヘリカル巻きがあるが、本発明における高角度ヘリカル巻きはフープ巻きと同意である。
【0039】
フープ巻きは、シリンダ部10の内側から外側に向けた圧力によって生じるフープ応力に対して有効な積層方法である。低角度ヘリカル巻きは、内圧によって生じるシリンダ部10の軸方向における引張応力に対して有効な積層方法である。シリンダ部10、ドーム部20、及び補強層30を形成する際は、各部位において必要とされる性能を適宜考慮の上、積層方法を選択する。
なお、シリンダ部10、ドーム部20、及び補強層30を形成する際、繊維素材又はプリプレグの積層方法を適宜選択し、各部位の強度を設計及び調整することによって、複合圧力容器100において、後述する主応力Sの方向を調整することが好ましい。
【0040】
シリンダ部10は、例えば、一方向プリプレグのテープワインディングやフィラメントワインディング等によって形成される。本実施形態において、シリンダ部10の体積の60%以上は、フープ巻きによって形成される。言い換えれば、シリンダ部10の体積の60%以上において、繊維素材又はプリプレグの積層方向が、シリンダ部10の周方向に沿うように形成される。なお、シリンダ部10の軸方向において、繊維素材又はプリプレグの積層方向は一様であることが好ましい。このようにすることで、シリンダ部10とドーム部20の境界における繊維の不連続部を抑制することが可能となり、複合圧力容器100の内側から外側に向けた圧力に耐えやすい構造とすることに寄与する。
【0041】
ドーム部20の成形方法については特に規定はされないが、例えばドーム形状の型を用いて、自動ファイバープレースメント機(AFP)によってテーププリプレグをレイアップすることによって成形するなどの方法がある。長さ10~50mmに切断したカットプリプレグを金型に充填し、モールド成形する方法などもある。また、プレス成形、スピニング成形、鋳造などの方法により、金属材料で成形してもよい。ドーム部20は口金21と一体成形としてもよい。
【0042】
補強層30は、例えば、一方向もしくは適当な角度に配向したプリプレグテープをシリンダ部10とドーム部20に重なるようにワインディングする方法などによって形成することができる。本実施形態において、補強層30の体積の60%以上において、繊維素材の積層方向が、シリンダ部10の軸方向に対して±50°以内であるように形成される。すなわち、補強層30の体積の60%以上は、シリンダ部10の軸方向に対して±50°以下の角度をもったヘリカル層によって形成される。これにより、補強層30を、シリンダ部10の軸方向に生じる引張応力に耐えやすい構造とすることに寄与する。補強層30の一部に金属材料を併用してもよい。
【0043】
(境界線Bについて)
次に、境界線Bについて説明する。上述したように、シリンダ部10とドーム部20とは個別に形成され、接合される。シリンダ部10とドーム部20とを接合する時には、シリンダ部10とドーム部20との境界に接合面が生じる。境界線Bは、シリンダ部10の軸方向に沿う断面視における、シリンダ部10とドーム部20との接合面である。複合圧力容器100において、境界線Bは、上述したシリンダ部10及びドーム部20の、繊維素材の積層方向の違いを目視する事によって識別可能である。
【0044】
本実施形態において、シリンダ部10とドーム部20とは、シリンダ部10の軸方向の端部がドーム部20の内側に嵌合するようにして組み合わされる。これにより、境界線Bは、次のように形成される。すなわち、境界線Bのうち、シリンダ部10の径方向の外側の端部が、シリンダ部10の径方向の内側の端部に対して、シリンダ部10の軸方向においてドーム部20よりもシリンダ部10の側に位置するように形成される。
【0045】
本実施形態において、境界線Bは、直線状もしくは折線状もしくは曲線状となるように形成される。直線と曲線の組み合わせも含まれる。以下、シリンダ部10の軸方向に対する、境界線Bの傾斜角度を、傾斜角A1と呼称する。ここで、シリンダ部10の内周面は、シリンダ部10の軸方向と平行である。このため、傾斜角A1は、図2に示すように、シリンダ部10の軸方向に沿う断面視において、シリンダ部10の内周面に対する境界線Bの傾斜角度としてもよい。境界線Bが、折線状や曲線状である場合は、各位置における傾斜角A1が定義される。
【0046】
ここで、複合圧力容器100に貯蔵された気体の圧力(すなわち、内圧)によって、複合圧力容器100を内側から押し広げるように力が作用すると、シリンダ部10及びドーム部20の板厚の内部において応力が発生する。
図3は、シリンダ部10及びドーム部20の周辺の、シリンダ部10の軸方向に沿う断面視である。図3は、前記断面視において、内圧によって発生した主応力の方向ベクトルの解析結果を視覚的に表示したものである。なお、前記解析は、シリンダ部10とドーム部20との間に境界を設けない条件により行っている。つまり、前記解析は、シリンダ部10とドーム部20とが一体に成形されたものとして行っている。図3に示すように、シリンダ部10とドーム部20との境界において内圧により発生する主応力の方向ベクトルを、主応力Sと呼称する。図3においては、主応力Sを矢印によって示す。前記矢印の大きさは、主応力Sの大きさを表す。前記矢印の位置は、主応力Sが発生した位置を表す。具体的には、主応力Sが発生した位置は、前記矢印の中点であるとする。
【0047】
本実施形態において、境界線Bの傾斜角A1と、主応力Sの方向とは、次のような関係となっている。すなわち、境界線Bの60%以上は、主応力Sの方向に対して、±15°以内の角度をなしている。ここで、境界線Bの60%以上とは、図3に示すように、任意の断面において二次元的に表示される境界線Bの60%以上をいうものとする。つまり、複合圧力容器100の、シリンダ部10とドーム部20との境界においては、周方向の全体において同様の関係となっているものとする。
【0048】
境界線Bの方向と主応力Sの方向との角度の比較は、例えば、以下のように行う。
境界線Bにおいて、等間隔に10点を設定する。この10点には、境界線Bの端縁が含まれない(端縁を含めると等間隔に12点設定する)。境界線Bが直線である場合、各点における境界線Bの方向は、直線の延在方向である。境界線Bが曲線である場合、各点における境界線Bの方向は、曲線(円弧)の接線方向である。各点における境界線Bの方向と、主応力Sとの方向を比較する。なお、主応力Sの方向は、各点において生じる主応力Sの方向とする。この方向は、例えば、対象とする複合圧力容器100をソフトウェア上でモデル化し、解析することで求めることができる。
そして6点以上で、境界線Bの方向が、主応力Sの方向に対して、±15°以内の角度である場合、境界線Bの60%以上は、主応力Sの方向に対して、±15°以内の角度をなしているとする。
【0049】
図3に示す解析結果においては、第1領域SA1と、第2領域SA2と、において、主応力Sの方向が一様となっている。ここで、第1領域SA1において、主応力Sの方向は、シリンダ部10の軸方向と平行か、あるいは略平行となっている。このため、第1領域SA1において上述の条件を満たす境界線Bを設けることが難しい。これに対し、第2領域SA2においては、シリンダ部10の軸方向に対して角度を有している。このため、図3に示す解析結果においては、第2領域における主応力Sの方向に沿うように境界線Bを設けることが好ましい。
【0050】
本実施形態において、複合圧力容器100における境界線Bの位置、すなわち、シリンダ部10とドーム部20との境界部の位置は、次の条件を満たす位置に設けられる。すなわち、内圧によって発生する主応力Sの方向ベクトルが、シリンダ部10の軸方向に対して、±5°以上の角度を成す位置に設けられる。具体的には、ドーム部20とシリンダ部10との境界部は、図3に示す断面視における、ドーム部20とシリンダ部10の境界部の60%以上の領域において、上述の条件を満たす位置に設けられる。
【0051】
図4は、境界線Bを折線状とした例である。図4に示す例においては、主応力Sの方向がシリンダ部10の内側と外側では異なっている。このため、これに合わせて境界線Bを設定することによって、シリンダ部10とドーム部20との境界の接着層におけるせん断応力を、より効果的に低減することが可能となる。境界線Bは、曲線状とすることも可能である。
【0052】
上述したように、シリンダ部10、ドーム部20、及び補強層30を形成する際は、繊維強化複合材料の積層方法を適宜選択し、各部位の強度を調整することによって、主応力Sの方向を調整することが可能である。主応力Sの方向及び境界線Bの傾斜角A1を設定する際は、上記を考慮した上で設定することが好ましい。
【0053】
本実施形態において、上述したドーム部20とシリンダ部10との境界部の位置と、境界線Bの傾斜角A1の大きさと、の条件を両立させるために、シリンダ部10と及びドーム部20における繊維強化複合材料の積層方向を適宜変更することによって、主応力Sの方向を調整することが好ましい。
【0054】
表1は、ドーム部20とシリンダ部10との境界部の位置を一定として、境界線Bの傾斜角A1を変化させた場合における、シリンダ部10とドーム部20との接合部に生じるせん断ひずみを比較したものである。なお、表1に示す比較を行った接合部における、主応力Sの方向は、シリンダ部10の軸方向に対して28°である。
このとき、表1に示すように、傾斜角A1が30°である場合、すなわち、図2に示す断面において、境界線Bと主応力Sの方向との角度が15°以下となった場合において、他の条件よりも著しくせん断ひずみが改善されることがわかる。
【0055】
【表1】
【0056】
(複合圧力容器100の製造方法について)
次に、本実施形態に係る複合圧力容器100の製造方法について説明する。複合圧力容器100は、シリンダ部10、ドーム部20、及び補強層30を接合することによって製造される。
具体的には、複合圧力容器100の製造方法は、積層工程と、組み合わせ工程と、一体化工程と、を備える。
【0057】
積層工程は、シリンダ部10とドーム部20の形状を、それぞれ個別に繊維強化複合材料の中間原料となるプリプレグもしくは繊維からなる中間素材を積層することによって形成する工程である。ドーム部20を金属材料とする場合は、プレス成形、スピニング成形、鋳造などの方法により形成する。
組み合わせ工程は、積層工程において形成されたシリンダ部10とドーム部20と組み合わせる工程である。
一体化工程は、組み合わせ工程において組み合わされたシリンダ部10とドーム部20とを一体化させる工程である。一体化工程においては、例えば、コキュア法、コボンド法、レジントランスファーモールディング法、後接着等の方法が好適に用いられる。
【0058】
コキュア法とは、シリンダ部10、ドーム部20、及び補強層30の接着及び硬化を、1回の加熱硬化処理で完了する方法である。すなわち、一体化工程においてコキュア法を執る場合、まず、積層工程において原料を積層させる。次に、硬化前の状態であるシリンダ部10とドーム部20とを、組み合わせ工程において組み合わせる。そして、一体化工程において加熱硬化処理することによって、複合圧力容器100を製造する。シリンダ部10、ドーム部20、及び補強層30は、複合材料の母材樹脂によって接合される。必要に応じて、それぞれの部位の間に接着剤を介してもよい。
【0059】
コボンド法とは、例えば、あらかじめ硬化、成形したシリンダ部10に対して、ドーム部20および補強層30のプリプレグを積層し、その後、加熱硬化することでこれらを一体化して複合圧力容器100を製造する方法である。必要に応じてそれぞれの部位の間に接着剤を介してもよい。また、あらかじめ硬化、成形する部位については、ドーム部20、シリンダ部10とドーム部20などのそのほかの組み合わせでもよい。
【0060】
レジントランスファーモールディング法とは、成形型の中にシリンダ部10、ドーム部20、及び補強層30の繊維成形体(プリフォーム)やプリプレグを配置した後、前記成形型の内部に樹脂を流し込んで浸透させてから、硬化させる方法である。すなわち、一体化工程においてレジントランスファーモールディング法を執る場合、まず、積層工程において原料である繊維成形体(プリフォーム)やプリプレグを積層させる。次に、硬化前の状態であるシリンダ部10とドーム部20とを、組み合わせ工程において組み合わせた状態で、成形型に配置する。そして、一体化工程において成形型の内部に樹脂を流し込んで浸透させてから、硬化させることによって、複合圧力容器100を製造する。
【0061】
後接着とは、硬化後のシリンダ部10とドーム部20とを、接着剤によって一体化する方法である。すなわち、一体化工程において後接着を執る場合、まず、積層工程において原料を積層させる。次に、加熱硬化処理等の方法によって、シリンダ部10とドーム部20とをそれぞれ個別に硬化させる。また、シリンダ部10とドーム部20との接合面を、機械加工等によって整形する。その後、組み合わせ工程において、シリンダ部10とドーム部20との位置を適宜合わせながら組み合わせる。そして、一体化工程において、接着剤によってシリンダ部10とドーム部20と接着する。その後、補強層30をシリンダ部10とドームとの接合面の周囲に巻き付けるように配置して接着することで、複合圧力容器100を製造する。なお、接着剤には、例えば、エポキシ樹脂などが好適に用いられる。
【0062】
そのほか、熱可塑性樹脂を母材とする複合材料を適用する場合は、シリンダ部10、ドーム部20、及び補強層30を一体化する際に、超音波や局所加熱、全体加熱などの種々の溶着法を適用することも可能である。
【0063】
以上説明したように、本実施形態に係る複合圧力容器100によれば、シリンダ部10の軸方向に沿う断面視において、シリンダ部10とドーム部20との境界の軌跡である境界線Bのうち、シリンダ部10の径方向の外側の端部が、シリンダ部10の径方向の内側の端部に対して、シリンダ部10の軸方向においてドーム部20よりもシリンダ部10の側に位置する。
【0064】
ここで、複合圧力容器100の内圧が上昇すると、シリンダ部10が拡径するように作用する。これに対し、ドーム部20は、シリンダ部10が拡径することを抑えるように作用する。このとき、シリンダ部10とドーム部20との境界が上述したように形成されていることで、複合圧力容器100の内圧が上昇した時、シリンダ部10とドーム部20との境界において複合圧力容器100の半径方向(厚さ方向)に対しては圧縮応力が生じる。したがって、複合圧力容器100の内圧の上昇が、シリンダ部10とドーム部20とを剥離させるように作用しないようにすることができる。よって、複合圧力容器100をシリンダ部10とドーム部20とに分割して形成した場合であっても、複合圧力容器100の半径方向応力に対しては十分な強度を担保することができる。さらに、複合圧力容器100を部位ごとに分割して形成することで、製造コストを抑えた複合圧力容器100とすることができる。
【0065】
更に、シリンダ部10とドーム部20との境界が上述したように形成されていることで、前記境界は、シリンダ部10の軸方向に対して傾斜した状態となる。これにより、シリンダ部10とドーム部20との接合面を大きくことができる。よって、シリンダ部10とドーム部20との接合部に作用する軸方向の引張応力に対する接着強度を向上することができる。
【0066】
また、境界線Bの60%以上は、境界において内圧により発生する、シリンダ部10の軸方向に沿う断面視における主応力Sの方向ベクトルに対して、±15°以内の角度をなしている。これにより、シリンダ部10とドーム部20との境界において発生するせん断ひずみを十分に小さくすることができる。よって、シリンダ部10とドーム部20との境界の強度を向上することができる。
【0067】
ここで、上述したように、シリンダ部10とドーム部20との境界線Bの60%以上は、境界において内圧により発生する主応力Sの方向ベクトルに対して、±15°以内の角度をなしている。このとき、主応力Sの方向ベクトルがシリンダ部10の軸方向に対して±5°以下の角度となると、上述の条件を満たすドーム部20とシリンダ部10との境界線Bは、シリンダ部10の軸方向と平行に近い状態となる。よって、ドーム部20とシリンダ部10との接合部が必要以上に長くなる。したがって、ドーム部20とシリンダ部10とを分割して成形することの作用効果を享受できなくなる。これに対し、シリンダ部10の軸方向に沿う断面視において、ドーム部20とシリンダ部10の境界の60%以上の領域では、境界近傍において内圧により発生する主応力Sの方向ベクトルが、シリンダ部10の軸方向に対して、±5°以上の角度をなしている。よって、上述の問題が生じないようにすることができる。
【0068】
また、シリンダ部10の体積の60%以上において、シリンダ部10を形成する材料の積層方向が、シリンダ部10の周方向に沿う。これにより、材料を、シリンダ部10の軸方向の広い範囲に分布させることが可能になり、シリンダ部10の端部において、材料の積層方向がシリンダ部10の周方向に沿う部位の割合を十分に設け易くすることができる。したがって、シリンダ部10の端部において、シリンダ部10を形成する材料の繊維の断面が生じにくくすることができる。よって、シリンダ部10を、内圧に耐えやすい構造とすることができる。
【0069】
ここで、シリンダ部10を形成する材料の積層方向がシリンダ部10の軸方向に沿っていると、シリンダ部10の剛性が高くなる。結果として、シリンダ部10とドーム部20との境界において、複合圧力容器100の内圧により発生する主応力Sの方向ベクトルの向きを調整できない問題がある。シリンダ部10を形成する材料の積層方向をシリンダ部10の周方向とすることで、シリンダ部10の剛性を調整しやすくすることができる。よって、複合圧力容器100の内圧により発生する主応力Sの方向ベクトルの向きを調整しやすくすることができる。
【0070】
ここで、シリンダ部10とドーム部20との境界には、シリンダ部10の軸方向に沿って発生する引張応力が作用する。前記引張応力は、シリンダ部10とドーム部20との接合面がはがれる原因となる。前記接合面がはがれると、その部位から接合部にはく離やき裂が発生し、複合圧力容器100の信頼性が低下する。
【0071】
これに対し、境界を覆う補強層30を、複合圧力容器100のシリンダ部10とドーム部20の境界線Bの径方向の外側及び内側の少なくともいずれかに備える。これにより、シリンダ部10とドーム部20との境界において、シリンダ部10の軸方向に沿って発生する引張応力に対応することができる。したがって、シリンダ部10とドーム部20との接合面がはがれることを防ぐことができる。よって、よりシリンダ部10とドーム部20とのに境界における強度を向上し、複合圧力容器100の信頼性を向上することができる。
【0072】
また、シリンダ部10、ドーム部20及び補強層30が、繊維強化複合材料によって形成されている。これにより、十分な強度を有する複合圧力容器100とすることができる。
【0073】
また、補強層30の体積の60%以上において、繊維強化複合材料の積層方向が、シリンダ部10の軸方向に対して±50°以内である。これにより、補強層30を、シリンダ部10の軸方向に生じる引張応力に耐えやすい構造とすることができる。よって、境界における引張応力への耐久性を向上することができる。
【0074】
また、シリンダ部10とドーム部20とを、コキュア、コボンド、レジントランスファーモールディング法、後接着等の方法で一体化する。
シリンダ部10とドーム部20とを、コキュア、コボンド、レジントランスファーモールディング法によって一体化する場合、すなわち、シリンダ部10とドーム部20とを同時に硬化させることにより一体化する場合は、硬化後のシリンダ部10とドーム部20と接着剤により一体化する場合と比較して、シリンダ部10とドーム部20との接合面を機械加工によって整形することを不要とすることができる。よって、少ない工程で複合圧力容器100を製造することができる。この態様は、例えば、量産車(例えば、燃料電池車)に適用され、大量生産を必要とする複合圧力容器100において、顕著な効果をもたらす。
【0075】
シリンダ部10とドーム部20とを、後接着により一体化する場合、すなわち、硬化後のシリンダ部10とドーム部20と接着剤により一体化する場合は、シリンダ部10とドーム部20とを同時に硬化させて一体化する場合と比較して、高度な技術を必要とせず、製造を容易にすることができる。この態様は、例えば、飛行機用や、水素ステーション貯蔵用等、大きな容量を必要とする複合圧力容器100において、顕著な効果をもたらす。
【0076】
また、組み合わせ工程において組み合わされたシリンダ部10とドーム部20とを接着等の方法で一体化させる一体化工程を備える。これにより、シリンダ部10とドーム部20とを個別に成形した後に、互いに組み合わせて一体化することができる。よって、シリンダ部10とドーム部20とを同時に成形する場合と比較して、製造コストを抑えることができる。
【0077】
また、境界線の60%以上が、主応力の方向ベクトルに対して、±15°以内の角度をなすように、シリンダ部とドーム部の接合部を形成する。これにより、シリンダ部とドーム部との境界において発生するせん断ひずみを十分に小さくすることができる。よって、シリンダ部とドーム部との境界の強度を向上することができる。
【0078】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、本実施形態において、ドーム部20に設けられるとして説明した口金21は、シリンダ部10に設けられてもよい。
【0079】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0080】
10 シリンダ部
20 ドーム部
21 口金
30 補強層
40 ライナー
100 複合圧力容器
B 境界線
S 主応力
図1
図2
図3
図4