(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182536
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】炭素繊維複合材
(51)【国際特許分類】
C08J 5/06 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
C08J5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085125
(22)【出願日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2022095871
(32)【優先日】2022-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩原 利夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 諒
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AB10
4F072AB29
4F072AD03
4F072AD28
4F072AD42
4F072AG03
4F072AH02
4F072AH04
4F072AH21
4F072AL11
(57)【要約】
【課題】電磁波遮蔽性を有し、耐衝撃性に優れる炭素繊維複合材の提供。
【解決手段】
炭素繊維を少なくとも1層及びカーボンナノチューブ不織布を少なくとも1層有する炭素繊維複合材であって、
該炭素繊維複合材中の炭素繊維及びカーボンナノチューブ不織布の少なくとも1層に熱硬化性樹脂を含浸または熱硬化性樹脂フィルムを積層したものである、炭素繊維複合材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を少なくとも1層及びカーボンナノチューブ不織布を少なくとも1層有する炭素繊維複合材であって、
該炭素繊維複合材中の炭素繊維及びカーボンナノチューブ不織布の少なくとも1層に熱硬化性樹脂を含浸または熱硬化性樹脂フィルムを積層したものである、炭素繊維複合材。
【請求項2】
炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸または熱硬化性樹脂フィルムを積層した熱硬化性樹脂含有炭素繊維プリプレグを少なくとも1層
及び
カーボンナノチューブ不織布に熱硬化性樹脂を含浸または熱硬化性樹脂フィルムを積層した熱硬化性樹脂含有カーボンナノチューブ不織布プリプレグを少なくとも1層
有する、請求項1に記載の炭素繊維複合材。
【請求項3】
炭素繊維複合材中の、[熱硬化性樹脂含有炭素繊維プリプレグの層の数/熱硬化性樹脂含有カーボンナノチューブ不織布プリプレグの層の数]の比が0.5~10である、請求項2に記載の炭素繊維複合材。
【請求項4】
カーボンナノチューブ不織布が、多層カーボンナノチューブ単独、単層カーボンナノチューブ単独、あるいは多層カーボンナノチューブと単層カーボンナノチューブの混合物からなる不織布である、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材。
【請求項5】
カーボンナノチューブ不織布が、多層カーボンナノチューブ不織布と、単層カーボンナノチューブ不織布を積層したカーボンナノチューブ不織布である請求項1~4のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材。
【請求項6】
カーボンナノチューブ不織布が厚さ1mm以下で通気度が0.5cm3/cm2・s以下、比抵抗が0.005Ω・cm以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維複合材に関するものであり、特に、ミリ波やテラヘルツ帯の電磁波などを用いる高速通信機器、二酸化炭素排出量の削減、燃費の向上を目的とした軽量化車両、コネクテッドカーなどに有用な、電磁波遮蔽性を有し、耐衝撃性に優れる炭素繊維複合材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、強化繊維とマトリックス樹脂とからなる繊維強化複合材料は、軽量でありながら、強度や剛性などの力学特性、耐熱性及び耐食性に優れているため、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に応用されてきた。
そして、自動車分野などでは、電動化の進展に伴い、更なる燃費向上のため、繊維強化複合材料のより一層の軽量化と耐衝撃性の両立が求められている。
【0003】
また、近年、ミリ波やテラヘルツ帯の電磁波を利用する5Gや6Gなどの高速通信が今後実用化に向け検討されている。電磁波を通信に利用するワイヤレス機器が増加しており、増え続ける電磁波は、電子機器が周囲からの電磁波に干渉を受けて誤動作をする危険性や、自ら発する電磁波により情報漏洩してしまう危険性がある。また、急速に進展している自動車などの自動運転を推進するためには、低周波数の電磁波からミリ波までの様々な電磁環境において電磁波の送受信が正しく行われなければならない。
そこで、電磁波遮蔽対策が重要な技術課題となっており、マイクロ波・ミリ波・テラヘルツ波に対して優れた電磁波遮蔽性能を持った電磁波遮蔽材料が望まれている。電磁波利用の高度化により、電磁波遮蔽材料の薄膜化、軽量化、大面積化など新しい機能性に対するニーズも高まっている。
【0004】
強化繊維として炭素繊維を使用した樹脂含浸炭素繊維強化複合材料は、金属に比べ軽量のため、電動車などの燃費向上に金属の代替材料として検討され一部では実用化されている。
しかし、樹脂含浸炭素繊維強化複合材料は、金属に比べ強靭性や電磁波遮蔽性が不十分のため、車体構造材料としての利用には限界がある。
【0005】
電磁波遮蔽材料として金属材料の他、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブなど、導電性高分子、誘電性酸化物などを用いた電磁波遮蔽技術が数多く提案されている。中でも炭素によって作られるカーボンナノチューブは有望な電磁波遮蔽材料として注目されている。
カーボンナノチューブを用いた電磁波遮蔽材料としては、樹脂中にカーボンナノチューブを分散させたペースト材料(特許文献1)や、水溶液に分散させた水性塗料(特許文献2)などがあるが、いずれも取り扱いが難しいうえに、電磁波遮蔽性能が十分でなく実用に耐えるレベルではない。使用しているカーボンナノチューブは微細な繊維状のため、比表面積が大きく多量に樹脂に分散できないことから、カーボンナノチューブを用いた電磁波遮蔽材料は電気伝導性も不十分である。
また、荷電紡糸で形成されたカーボンナノチューブのシートを用いた電磁波遮蔽材料(特許文献3)があるが、強度が弱く、取り扱い難い問題点がある。
カーボンナノチューブのシートにヒドロニウムイオンや塩酸などのプロトン化剤を添加し、さらに強磁性材料である鉄やコバルトなどを加えて伝導性を向上させた電磁波遮蔽材料(特許文献4)が開示されているが、プロトン化剤が強酸性の化合物であり取り扱いが問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-144000号公報
【特許文献2】特開2012-174833号公報
【特許文献3】特開2008-218859号公報
【特許文献4】特許第6182176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、優れた電磁波遮蔽性と耐衝撃性を併せ持った炭素繊維複合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、以下の炭素繊維複合材が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、以下の炭素繊維複合材を提供するものである。
[1]
炭素繊維を少なくとも1層及びカーボンナノチューブ不織布を少なくとも1層有する炭素繊維複合材であって、
該炭素繊維複合材中の炭素繊維及びカーボンナノチューブ不織布の少なくとも1層に熱硬化性樹脂を含浸または熱硬化性樹脂フィルムを積層したものである、炭素繊維複合材。
[2]
炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸または熱硬化性樹脂フィルムを積層した熱硬化性樹脂含有炭素繊維プリプレグを少なくとも1層
及び
カーボンナノチューブ不織布に熱硬化性樹脂を含浸または熱硬化性樹脂フィルムを積層した熱硬化性樹脂含有カーボンナノチューブ不織布プリプレグを少なくとも1層
有する、[1]に記載の炭素繊維複合材。
[3]
炭素繊維複合材中の、[熱硬化性樹脂含有炭素繊維プリプレグの層の数/熱硬化性樹脂含有カーボンナノチューブ不織布プリプレグの層の数]の比が0.5~10である、[2]に記載の炭素繊維複合材。
[4]
カーボンナノチューブ不織布が、多層カーボンナノチューブ単独、単層カーボンナノチューブ単独、あるいは多層カーボンナノチューブと単層カーボンナノチューブの混合物からなる不織布である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材。
[5]
カーボンナノチューブ不織布が、多層カーボンナノチューブ不織布と、単層カーボンナノチューブ不織布を積層したカーボンナノチューブ不織布である[1]~[4]のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材。
[6]
カーボンナノチューブ不織布が厚み1mm以下で通気度が0.5cm3/cm2・s以下、比抵抗が0.005Ω・cm以下である[1]~[5]のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材。
【発明の効果】
【0010】
本発明の炭素繊維複合材は、優れた電磁波遮蔽性と耐衝撃性を兼備するものであり、プロトン化剤等の強酸性化合物を使用せず、取り扱い性にも優れる。したがって、本発明の炭素繊維複合材は、ミリ波以上の高周波帯の電磁波を利用する高速通信機器に有用な材料であり、また材料自体が軽量のため、軽量化及び低燃費化可能な車体構造材料又は車載材料としても有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明の炭素繊維複合材は、炭素繊維を少なくとも1層及びカーボンナノチューブ不織布を少なくとも1層有し、該炭素繊維複合材中の炭素繊維及びカーボンナノチューブ不織布の少なくとも1層に熱硬化性樹脂を含浸または熱硬化性樹脂フィルムを積層したものである。好ましくは、炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸または熱硬化性樹脂フィルムを積層した熱硬化性樹脂含有炭素繊維プリプレグを少なくとも1層及びカーボンナノチューブ不織布に熱硬化性樹脂を含浸または熱硬化性樹脂フィルムを積層した熱硬化性樹脂含有カーボンナノチューブ不織布プリプレグを少なくとも1層有するものである。
【0012】
<炭素繊維>
本発明に用いる炭素繊維としては、アクリル系、ピッチ系およびレーヨン系等の炭素繊維が挙げられ、特に引張強度の高いアクリル系の炭素繊維が好ましく用いられる。
【0013】
かかるアクリル系の炭素繊維は、例えば、次に述べる工程を経て製造することができる。アクリロニトリルを主成分とするモノマーから得られるポリアクリロニトリルを含む紡糸原液を、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法、または溶融紡糸法により紡糸する。紡糸後の凝固糸は、製糸工程を経て、プリカーサーとし、続いて耐炎化および炭化などの工程を経て炭素繊維を得ることができる。
【0014】
炭素繊維の形態や配列については限定されず、例えば、一方向に引き揃えて配列された連続繊維、単一のトウ、平織、朱子織、綾織などの織物、ニット、不織布、マットおよび組紐などの繊維構造物を用いることができる。これらの中でも、一方向に引き揃えて配列された連続繊維の形態又は、平織、朱子織、綾織などの織物の形態のものが好ましく、かかる炭素繊維により層を形成されるものであることが好ましい。ここで連続繊維とは平均10mm以上の長さを有する繊維を示す。
これら炭素繊維の連続繊維、織物のために、炭素繊維の表面をサイジング剤処理した炭素繊維でもよい。サイジング剤としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂などが挙げられ、サイジング剤処理の方法としては、これら樹脂の少なくとも1種を溶剤に溶解したもので、あらかじめ炭素繊維表面を処理する方法が挙げられる。
本発明に用いる炭素繊維は、目付が好ましくは1~1000g/m2であり、より好ましくは10~800g/m2であり、更に好ましくは100~500g/m2である。炭素繊維の目付が1g/m2以上であると機械的強度が強く耐衝撃性、電磁波遮蔽性に優れ好ましい。一方、炭素繊維の目付が1000g/m2以下であると適度な柔軟性を有し、また、適度な空孔率を有するため熱硬化性樹脂が含浸して投錨効果を発現し、熱硬化性樹脂との接着性に優れるものとなるため好ましい。
【0015】
また、炭素繊維は1種のみを使用しても2種類以上を併用してもよい。炭素繊維に、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、PBO繊維、液晶ポリエステル繊維、高強力ポリエチレン繊維、アルミナ繊維および炭化ケイ素繊維などから選ばれる他の強化繊維を組み合わせたものでもよいが、この場合、炭素繊維の割合は5質量%以上、好ましくは10~100質量%である。
【0016】
炭素繊維は、引張弾性率が200~440GPaの範囲であることが好ましい。この範囲であると炭素繊維複合材が剛性及び強度が高くこれらのバランスも良好であるため好ましい。より好ましい引張弾性率は、230~400GPaの範囲内であり、さらに好ましくは260~370GPaの範囲内である。
【0017】
炭素繊維の引張伸度は、0.8~3.0%の範囲であることが好ましい。炭素繊維の引張伸度がこの範囲であると炭素繊維複合材の引張強度、引張弾性率及び耐衝撃性に優れ、これらのバランスも良好となるため好ましい。より好ましい炭素繊維の引張伸度は、1.0~2.5%であり、さらに好ましくは1.2~2.3%の範囲である。
【0018】
ここで、炭素繊維の引張弾性率、引張伸度は、JIS R 7606:2000に従い測定された値である。
【0019】
本発明において用いられる炭素繊維は、一つの繊維束中のフィラメント数が2500~50000本の範囲であるものが好ましい。フィラメント数が2500本以上であれば、強度に優れるため好ましい。また、フィラメント数が50000本以下であれば、後記の熱硬化性樹脂が繊維間に適度に含浸しやすくなるため好ましい。炭素繊維の一つの繊維束中のフィラメント数は、より好ましくは2800~40000本の範囲である。
【0020】
炭素繊維の市販品としては、“トレカ(登録商標)”クロスCO6343、“トレカ(登録商標)”クロスCK6244C(以上、東レ株式会社製)、“PYROFIL(登録商標)”TR3110M、“PYROFIL(登録商標)”TR6110M(以上、三菱ケミカル株式会社製)などが代表的な織物として挙げられる。
【0021】
<カーボンナノチューブ不織布>
本発明で使用するカーボンナノチューブ不織布は、直径が50nm以下で、長さが2mm以下、好ましくは10~500μmの、単層から多層のカーボンナノチューブ繊維が絡み合ったものであり、不織布自体の厚さが1mm以下であるものが好ましい。本発明で使用するカーボンナノチューブ不織布は、カーボンナノチューブ繊維が単層カーボンナノチューブからなるものであっても、多層カーボンナノチューブ繊維からなるものであっても、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブが混在するものであってもよい。また、カーボンナノチューブ不織布は、多層カーボンナノチューブ不織布と、単層カーボンナノチューブ不織布とを積層したものであってもよい。
本発明で使用するカーボンナノチューブ不織布は、目付が好ましくは1~1000g/m2であり、より好ましくは2~500g/m2であり、更に好ましくは5~100g/m2である。カーボンナノチューブ不織布の目付が1g/m2以上であると機械的強度が強く耐衝撃性、電磁波遮蔽性に優れ好ましい。一方、カーボンナノチューブ不織布の目付が1000g/m2以下であると電磁波遮蔽性と柔軟性のバランスに優れるため好ましい。
電気伝導性を高めるため、通気度は0.5cm3/cm2・s以下であり、比抵抗は0.005Ω・cm以下、好ましくは0.003Ω・cm以下である、導電性の高いカーボンナノチューブ不織布が好ましい。
カーボンナノチューブ不織布は、公知の方法で得られたカーボンナノチューブ繊維、例えば、メタンガス等の炭化水素ガスを用いたプラズマ炉で紡糸したカーボンナノチューブ繊維や、カーボンナノチューブを溶解して細孔より紡糸したカーボンナノチューブ繊維を絡み合わせたものである。
【0022】
通気度はカーボンナノチューブ繊維の絡み合いやカーボンナノチューブ不織布の厚さをカーボンナノチューブ不織布への押圧などにより調整できる。本明細書において、通気度とは、JIS R 3420に準じて測定した、フラジール形試験機を用いたクロスの通気性の値である。
通気度が好ましくは0.5cm3/cm2・s以下、より好ましくは0.1cm3/cm2・s以下、更に好ましくは0.05cm3/cm2・s以下のカーボンナノチューブ不織布は、電気伝導性も良好で広範囲の周波数(10kHz~300GHz)で優れた電磁波遮蔽性能を有するため好ましい。
【0023】
上記した特性を有するカーボンナノチューブ不織布としては、例えば以下の市販品が挙げられる。
(1)CNTM10 Tortech社製
厚さ32μm、通気度0.04cm3/cm2・s、比抵抗2.22E-03(Ω・cm)
(2)CNTM30 Tortech社製
厚さ78μm、通気度0.01cm3/cm2・s、比抵抗1.51E-03(Ω・cm)
(3)MIRALON(登録商標) Huntsman社製
厚さ20μm、通気度0.05cm3/cm2・s、比抵抗3.5E-03(Ω・cm)
(4)単層カーボンナノチューブ不織布 株式会社名城ナノカーボン製
厚さ50μm、通気度0.01cm3/cm2・s、比抵抗1.82E-04(Ω・cm)
【0024】
<熱硬化性樹脂>
炭素繊維及び/又はカーボンナノチューブ不織布のバインダーとなる熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、アリル化エポキシ樹脂、アリル化ポリフェニレンエーテル樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂、シクロペンタジエン・スチレン共重合樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂及びポリエステル樹脂の一群から選択される熱硬化性樹脂である。
中でも、本発明で使用する熱硬化性樹脂としては、下記に示すエポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂及びシアネートエステル樹脂から選ばれる1種以上が好ましい。
【0025】
エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のグリシジル基を有するエポキシ樹脂が好ましく例示される。
本発明に用いられるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂、N,N,O-トリグリシジル-m-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-p-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-4-アミノ-3-メチルフェノール、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-メチレンジアニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-2,2’-ジエチル-4,4’-メチレンジアニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジル-o-トルイジンなどのグリシジルアミン型エポキシ樹脂、レゾルシンジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレートなどを挙げることができる。
これらのエポキシ樹脂は、単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0026】
熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合はエポキシ樹脂の硬化剤を併用することが好ましく、エポキシ樹脂の硬化剤としては、活性水素を有するフェノール性水酸基又はアミノ基を有し、エポキシ樹脂と架橋構造を形成する硬化剤であれば使用可能である。フェノール性水酸基を有する硬化剤としては、フェノール性水酸基を有するフェノール樹脂であればいかなる構造のものでも使用可能である。アミノ基を有する硬化剤としては、高耐熱性かつ高弾性率のエポキシ樹脂硬化物が得られる芳香族アミン硬化剤が好ましい。かかる芳香族アミン硬化剤としては具体的には、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジイソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジ-t-ブチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジエチル-5,5’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジ-t-ブチル-5,5’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジ-t-ブチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジ-t-ブチル-5,5’-ジイソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラ-t-ブチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン等の固体状の芳香族アミン硬化剤;2,2’-ジエチルジアミノジフェニルメタン;2,4-ジエチル-6-メチル-m-フェニレンジアミン、4,6-ジエチル-2-メチル-m-フェニレンジアミン等のジエチルトルエンジアミン;4,4’-メチレンビス(N-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(N-エチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(N-sec-ブチルアニリン)、N,N’-ジ-sec-ブチル-p-フェニレンジアミン等の液状の芳香族アミン硬化剤、または固体状および液状芳香族アミン硬化剤の混合物が挙げられる。
そのなかでも3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジイソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタンが特に好ましい。
フェノール性水酸基を有するフェノール樹脂の配合量は、エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基1モル当量に対して、フェノール性水酸基のモル当量が好ましくは0.1~2.0、より好ましくは0.2~1.8、特に好ましくは0.4~1.5となる量である。該当量が0.1未満では未反応のエポキシ基が残存し、密着性の低下が発生するおそれがあり、2.0を超えると未反応のフェノール性水酸基が残存し、高温保管時の強度劣化が発生するおそれがある。
また、芳香族アミン硬化剤の配合量は、エポキシ基1モル当量に対して、芳香族アミン硬化剤中の全アミノ基の当量が好ましくは0.7~1.5、より好ましくは0.7~1.2、更に好ましくは0.7~1.1、特に好ましくは0.85~1.05となる量である。該当量が0.7未満では未反応のエポキシ基が残存し、ガラス転移温度が低下したり、密着性が低下したりするおそれがあり、1.5を超えると硬化物が硬く脆くなり、リフロー時又は温度サイクル時にクラックが発生するおそれがある。
エポキシ樹脂の硬化剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
ビスマレイミド樹脂としては、下記の式(1)又は式(2)で示されるビスマレイミド樹脂が耐熱性や低弾性、強靭性、接着性に優れていることから好適に使用される。
【0028】
【化1】
(式(1)中、Aはダイマー酸骨格由来の炭化水素基を示す。)
【化2】
(式(2)中、Bは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、Xは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であり、少なくとも1つはダイマー酸骨格由来の炭化水素基である。nは1~100である。)
【0029】
ダイマー酸とは、植物系油脂などの天然物を原料とする炭素数18の不飽和脂肪酸の二量化によって生成された、炭素数36のジカルボン酸を主成分とする液状の二塩基酸であり、ダイマー酸は単一の骨格ではなく、複数の構造を有し、何種類かの異性体が存在する。ダイマー酸の代表的なものは直鎖型、単環型、芳香族環型、多環型という名称で分類される。本明細書において、ダイマー酸骨格とは、ダイマー酸のカルボキシ基を1級アミノメチル基で置換した構造を有するダイマージアミンから誘導される基をいい、ダイマー酸骨格由来の炭化水素基をその平均構造として-C36H70-と表記する場合がある。
【0030】
代表的な式(1)のビスマレイミド樹脂として、SLK-6895;商品名、信越化学工業(株)製がある。
【0031】
式(2)中、Bは独立して環状構造を有する4価の有機基を示し、中でも下記構造式で示される4価の有機基のいずれかであることが好ましい。
【化3】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(2)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【0032】
また、式(2)中、Xは独立して炭素数6~200、好ましくは8~100、より好ましくは10~50の2価炭化水素基である。中でも、前記2価炭化水素基中の水素原子の1個以上が、炭素数6~200、好ましくは8~100、より好ましくは10~50のアルキル基又はアルケニル基で置換されている分岐状2価炭化水素基であることが好ましい。分岐状2価炭化水素基としては、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和炭化水素基のいずれでもよく、分子鎖の途中に脂環式構造又は芳香族環構造を有していてもよい。
式(2)中のXの少なくとも1つはダイマー酸骨格由来の炭化水素基である。
【0033】
式(2)において、nは1~100であり、好ましくは1~60であり、より好ましくは1~50である。nが大きすぎると溶解性や流動性が低下し、積層や含浸などの成形性に劣るおそれがある。
【0034】
代表的な式(2)のビスマレイミド樹脂として、式(4)のビスマレイミド樹脂(SLK-3000;商品名、信越化学工業(株)製)がある。
【化4】
【0035】
式(1)と式(2)のビスマレイミド樹脂をそれぞれ単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
代表的なビスマレイミド樹脂としては、上記したSLK-6895(信越化学工業(株)製)、SLK-3000(信越化学工業(株)製)の他に、SLK-2000シリーズ(信越化学工業(株)製)などがある。
【0036】
熱硬化性樹脂としてビスマレイミド樹脂を使用する場合は、硬化触媒として、ビスマレイミド樹脂の反応開始剤を併用することが好ましい。ビスマレイミド樹脂の反応開始剤としては、架橋反応を促進するものであれば特に制限されるものではないが、例えば、イミダゾール類、有機リン系化合物、第3級アミン類、第4級アンモニウム塩類、三弗化ホウ素アミン錯体、オルガノホスフィン類、オルガノホスホニウム塩等のイオン触媒;ジアリルパーオキシド、ジアルキルパーオキシド、パーオキシドカーボネート、ヒドロパーオキシド等の有機過酸化物;アゾイソブチロニトリル等のラジカル重合開始剤などが挙げられる。
これらのなかでも、有機過酸化物が好ましく、有機過酸化物としては、ジクミルパーオキシド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-アミルパーオキシベンゾエート、ジベンゾイルパーオキシド、ジウラロイルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキシド、ジベンゾイルパーオキシド等が挙げられる。
反応開始剤は、ビスマレイミド樹脂100質量部に対して、0.05~10質量部配合することが好ましく、0.1~5質量部配合することがより好ましい。
反応開始剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
シアネートエステル樹脂は、1分子中に2個以上のシアナト基を有するシアネートエステル化合物である。
1分子中に2個以上のシアナト基を有するシアネートエステル化合物としては、一般に公知のものが使用できるが、下記式(5)で示されるシアネートエステル化合物が好ましい。
【化5】
式(5)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示し、R
3は、それぞれ独立に下記式からなる群から選択される2価の連結基であり、p=0~10の数である。
【化6】
上記式中のR
4は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基である。
【0038】
シアネートエステル樹脂の具体例としては、次のシアネートエステル化合物が挙げられる。例えば、ビス(4-シアナトフェニル)メタン、ビス(3-メチル-4-シアナトフェニル)メタン、ビス(3,5-ジメチル-4-シアナトフェニル)メタン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン、1,3-ジシアナトベンゼン、1,4-ジシアナトベンゼン、2-tert-ブチル-1,4-ジシアナトベンゼン、2,4-ジメチル-1,3-ジシアナトベンゼン、2,5-ジ-tert-ブチル-1,4-ジシアナトベンゼン、テトラメチル-1,4-ジシアナトベンゼン、1,3,5-トリシアナトベンゼン、2,2’-ジシアナトビフェニル、4,4’-ジシアナトビフェニル、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジシアナトビフェニル、1,3-ジシアナトナフタレン、1,4-ジシアナトナフタレン、1,5-ジシアナトナフタレン、1,6-ジシアナトナフタレン、1,8-ジシアナトナフタレン、2,6-ジシアナトナフタレン、2,7-ジシアナトナフタレン、1,3,6-トリシアナトナフタレン、ビス(4-シアナトフェニル)エーテル、4,4’-(1,3-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェニルシアネート、ビス(4-シアナトフェニル)チオエーテル、トリス(4-シアナト-フェニル)ホスフィン、ビスフェノールE型シアネートエステル、フェノールノボラック型シアネート、クレゾールノボラック型シアネート、ビス(3-エチル-4-シアナトフェニル)メタン、ビス(4-シアナトフェニル)スルホン、1,1,1-トリス(4-シアナトフェニル)エタン、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、ジアリルビスフェノールA型シアネートエステル、ジアリルビスフェノールF型シアネートエステル、ビフェニルアラルキル型シアネートエステル、ジシクロペンタジエンノボラック型シアネート、ナフタレン環含有シアネートエステル、アラルキル型シアネートエステル、複素環型シアネートエステル等が挙げられる。これらのシアネートエステル化合物は1種または2種以上混合して用いることができる。中でも好ましいシアネートエステル化合物は、ビス(4-シアナトフェニル)メタン、ビス(3-メチル-4-シアナトフェニル)メタン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン、フェノールノボラック型シアネートエステルである。更に好ましいシアネートエステル化合物は、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン、フェノールノボラック型シアネートエステルである。また、シアネートエステル化合物は1種単独で使用しても複数種のものを併用しても構わない。
【0039】
シアネートエステル化合物の粘度は、300Pa・s以下であることが、流動性に優れ、また炭素繊維やカーボンナノチューブ不織布への含浸性に優れて均一に硬化しやすい点で好ましい。
なお、シアネートエステル化合物の粘度は、JIS K7117-1:1999に記載の方法で、室温(23~30℃)においてB型回転粘度計を用いて測定した値である。
【0040】
熱硬化性樹脂としてシアネートエステル樹脂を使用する場合はシアネートエステル樹脂の硬化剤を併用することが好ましく、シアネートエステル樹脂の硬化剤としては、シアネートエステル化合物と反応するものであればよく、一般に公知のものが使用でき、例えば、フェノール系硬化剤等が挙げられる。フェノール系硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂、アラルキル型フェノール樹脂、トリフェノールアルカン型フェノール樹脂、ビフェニル骨格含有アラルキル型フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、脂環式フェノール樹脂、複素環型フェノール樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂、レゾルシノール型フェノール樹脂、アリル基含有フェノール樹脂、ビスフェノールA型樹脂、ビスフェノールF型樹脂等のビスフェノール型フェノール樹脂等が挙げられる。
シアネートエステル樹脂の硬化剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
フェノール系硬化剤の配合量は、シアネートエステル樹脂100質量部に対して、0.5~20質量部であることが好ましく、より好ましくは1~10質量部である。
また、シアネートエステル樹脂の硬化を促進する目的で一般に公知の硬化促進剤を併用してもよい。硬化促進剤としては、リン系化合物、第3級アミン化合物、イミダゾール化合物が挙げられる。硬化促進剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。硬化促進剤の配合量は、シアネートエストエル樹脂100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.2~5.5質量部である。
【0041】
<熱硬化性樹脂含有炭素繊維プリプレグ>
本発明の炭素繊維複合材を構成する熱硬化性樹脂含有炭素繊維プリプレグは、上記した炭素繊維に、上記した熱硬化性樹脂を含浸または熱硬化性樹脂フィルムを積層したものであり、好ましくはエポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂及びシアネートエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含浸またはエポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂及びシアネートエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂フィルムを積層したものである。
エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂及びシアネートエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂は、炭素繊維100質量部に対し10~200質量部含有することが好ましい。
また、熱硬化性樹脂含有炭素繊維プリプレグ中の炭素繊維の含有量は50質量%以上であるものが好ましく、60質量%以上であるものがより好ましい。熱硬化性樹脂含有炭素繊維プリプレグ中の熱硬化性樹脂の含有量は5~50質量%であるものが好ましく、10~40質量%であるものがより好ましい。
熱硬化性樹脂含有炭素繊維プリプレグは、後記の方法により製造したものを用いてもよいし、市販の“PYROFIL(登録商標)”TR3110-381GMX、“PYROFIL(登録商標)”TR6110H331GMP(以上、三菱ケミカル株式会社製)などを使用してもよい。
【0042】
<熱硬化性樹脂含有カーボンナノチューブ不織布プリプレグ>
本発明の炭素繊維複合材を構成する熱硬化性樹脂含有カーボンナノチューブ不織布プリプレグは、上記したカーボンナノチューブ不織布に、上記した熱硬化性樹脂を含浸または熱硬化性樹脂フィルムを積層したものであり、好ましくはエポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂及びシアネートエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含浸またはエポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂及びシアネートエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂フィルムを積層したものである。
エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂及びシアネートエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂は、カーボンナノチューブ不織布100質量部に対し10~200質量部含有することが好ましい。
また、熱硬化性樹脂含有カーボンナノチューブ不織布プリプレグ中のカーボンナノチューブ不織布の含有量は50質量%以上であるものが好ましく、70質量%以上であるものがより好ましい。熱硬化性樹脂含有カーボンナノチューブ不織布プリプレグ中の熱硬化性樹脂の含有量は5~50質量%であるものが好ましく、10~30質量%であるものがより好ましい。
熱硬化性樹脂含有カーボンナノチューブ不織布プリプレグは、後記の方法により製造したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0043】
本発明の炭素繊維複合材は、更に以下の成分を任意成分として含んでいてもよい。
<熱可塑性樹脂>
上記した熱硬化性樹脂に加えて、さらに熱可塑性樹脂を炭素繊維及び/又はカーボンナノチューブ不織布に含浸してもよく、熱可塑性樹脂を含む熱硬化性樹脂フィルムを炭素繊維及び/又はカーボンナノチューブ不織布に積層してもよい。熱可塑性樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、フッ素樹脂などが代表例として例示される。特に溶剤可溶性の熱可塑性樹脂が炭素繊維やカーボンナノチューブ不織布に含浸させるために好ましいものである。
熱可塑性樹脂を添加する場合は、熱硬化性樹脂100質量部に対し0~50質量部である。
【0044】
<カップリング剤>
本発明においては、炭素繊維やカーボンナノチューブ不織布と樹脂との濡れや接着強度を向上させるため、カップリング剤を使用することができる。
【0045】
カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタンやアルミニウムなどのアルコキシド系化合物が挙げられる。なかでもシランカップリング剤が好ましく、好ましいシランカップリング剤としては、例えば一般式Y-Si-X3で表される化合物をあげることができる。ここで、Yは例えばアミノ基、エポキシ基、水酸基、カルボキシル基、ビニル基、メタクリル基、メルカプト基で代表される官能基を有する有機基、Xはアルコキシ基で代表される加水分解性の官能基である。
具体的には、例えばγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノベンジルトリエトキシシラン、γ-アミノフェニルトリエトキシシランなどを代表例としてあげることができる。
かかるカップリング剤の使用量としては、熱硬化性樹脂100質量部に対して0.5~20質量部の範囲が適当である。
【0046】
また、カップリング剤の代わりに熱硬化性樹脂との濡れ性を改善するために、炭素繊維、カーボンナノチューブ繊維の表面を熱硬化性樹脂の希釈溶液で表面処理することも可能である。
【0047】
<無機材料>
本発明の一部を構成する炭素繊維又はカーボンナノチューブ不織布の繊維が絡み合っている隙間に導電性の高い無機材料、例えば、無機粉体、無機繊維又は金属粒子を詰め込むことで電気伝導性をより一層高めることができるとともに10~300GHzの周波数帯域での電磁波遮蔽性能を向上させることが可能となる。
無機粉体としてはカーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイト、シリカ、酸化亜鉛、アルミナ、ボロンナイトライド、窒化アルミニウム、カーボン短繊維及びアルミナ短繊維などが代表的なものである。また、金属粒子としては、銅、鉄、銀、金などが挙げられ、またはこれら金属で表面コートした樹脂粒子を添加してもよい。
【0048】
また、カーボンナノチューブ不織布や炭素繊維の熱伝導性をより高めるために、シリカ、酸化亜鉛、アルミナ、ボロンナイトライド、窒化アルミニウム、カーボン短繊維、アルミナ短繊維、石英繊維、ガラス繊維などの無機粒子や無機繊維を使用してもよい。これらを使用することでカーボンナノチューブ不織布の熱伝導性を50~80W/mKとすることができる。
【0049】
無機材料の形状は特に限定されないが、平均粒径は0.5μm~30μmのものが放熱性や電気伝導性の面から好ましいものである。
なお、無機材料の平均粒径は、レーザー回折法で測定したD50値である。
また、無機材料としてカーボンナノチューブを使用する場合、例えば、カーボンナノチューブの平均直径は0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることが更に好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。平均直径とは、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択したカーボンナノチューブ100本の直径(外径)を測定して求めた値である。
【0050】
無機材料は、炭素繊維又はカーボンナノチューブ不織布に対して直接散布してもよいし、熱硬化性樹脂に無機材料を分散させたものを炭素繊維又はカーボンナノチューブ不織布に含浸させてもよい。
無機材料の炭素繊維又はカーボンナノチューブ不織布への散布方法は、任意の方法で散布することができるが、例えば、無機材料をプレス装置やラミネーターにより炭素繊維又はカーボンナノチューブ不織布へ詰め込む方法、無機材料を任意の溶媒へ分散させ、分散液をスプレーにより炭素繊維又はカーボンナノチューブ不織布へ吹きかけた後に、溶媒を乾燥して除去する方法、またはこれらの方法を組み合わせることなどが挙げられる。
分散液の溶媒には、任意の溶媒を用いることができるが、揮発性の高い溶媒が好ましく、例えば、水、エタノール及びイソプロピルアルコールなどのアルコール、アセトン、トルエン、炭化水素系溶媒、シリコーン系溶媒などが挙げられる。分散液の濃度は、無機材料100質量部に対し、0.1~100質量部が好ましい。
【0051】
無機材料を炭素繊維又はカーボンナノチューブ不織布に散布して固定化する場合、固定化量は、炭素繊維又はカーボンナノチューブ不織布100質量部に対し0.01~100質量部が好ましい。
無機材料を熱硬化性樹脂に分散させたものを炭素繊維又はカーボンナノチューブ不織布に含浸または熱硬化性樹脂フィルムとして積層する場合、熱硬化性樹脂100質量部に対し5~60質量部が好ましく、10~50質量部がより好ましい。
【0052】
<製造方法>
本発明の炭素繊維複合材は、
熱硬化性樹脂を含浸または熱硬化性樹脂フィルムを積層した熱硬化性樹脂含有カーボンナノチューブ不織布プリプレグを作製し、該熱硬化性樹脂含有カーボンナノチューブ不織布プリプレグと炭素繊維とを積層する方法、
熱硬化性樹脂を含浸または熱硬化性樹脂フィルムを積層した熱硬化性樹脂含有炭素繊維プリプレグを作製し、該熱硬化性樹脂炭素繊維プリプレグとカーボンナノチューブ不織布とを積層する方法、または、
前記熱硬化性樹脂含有炭素繊維プリプレグ及び前記熱硬化性樹脂含有カーボンナノチューブ不織布プリプレグをそれぞれ作製し、これらを積層する方法のいずれかの方法で製造できる。
熱硬化性樹脂含有炭素繊維プリプレグの製造方法としては、例えば、熱硬化性樹脂を溶媒に溶解して低粘度化し、炭素繊維に含浸させる湿式法、熱硬化性樹脂を加熱することで低粘度化し、炭素繊維に含浸させる溶融圧延法が挙げられる。
熱硬化性樹脂含有カーボンナノチューブ不織布プリプレグの製造方法としては、熱硬化性樹脂を溶媒に溶解して低粘度化し、カーボンナノチューブ不織布に含浸させる湿式法、熱硬化性樹脂を加熱することで低粘度化し、カーボンナノチューブ不織布に含浸させる溶融圧延法が挙げられる。
また、熱硬化性樹脂のワニスをコーターなどでフィルム化した熱硬化性樹脂フィルムを作製し、炭素繊維又はカーボンナノチューブ不織布の両面に熱硬化性樹脂フィルムを積層してプリプレグとしてもよい。
【0053】
湿式法では、溶媒として揮発性の溶媒を用いることが好ましく、炭素繊維又はカーボンナノチューブ不織布に熱硬化性樹脂を含浸させた後、溶媒を除去することで未硬化状態の熱硬化性樹脂が含浸されたプリプレグを作製する。
溶媒としては、アニソール、シクロヘキサノン、テトラリン、メシチレン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル等が挙げられるが、熱硬化性樹脂によりこれに限定するものではない。これらを1種又は2種以上使用してもよい。溶媒の配合量は5~95質量%が好ましい。
プリプレグ内に溶媒が残存した場合、成形時に悪影響を与え、作業環境が悪化するなどの問題点がある。このため、プリプレグに残存する溶媒量としては1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下である。溶媒の除去方法としては使用する溶媒の沸点にもよるが、80℃~150℃で10分から1時間程度の熱処理が好ましく、この熱処理により溶媒の除去を容易に達成できる。
【0054】
溶融圧延法は溶媒を取り除く工程が特に必要がなく、作業効率も比較的良好であるなど、様々な点から有利である。溶融圧延法では、炭素繊維又はカーボンナノチューブ不織布をバーなどで必要幅に拡幅させて、その両面又は片面に、フィルム化した熱硬化性樹脂を配置し、ラミネートし、加熱・加圧することで未硬化状態の熱硬化性樹脂が含浸されたプリプレグを作製する。
【0055】
炭素繊維(熱硬化性樹脂含有炭素繊維プリプレグ)及びカーボンナノチューブ不織布(熱硬化性樹脂含有カーボンナノチューブ不織布プリプレグ)は、それぞれを1層ずつ有する限り任意の枚数で任意の順番で積層すればよいが、特に炭素繊維及びカーボンナノチューブ不織布の両方に熱硬化性樹脂を含有する場合は、炭素繊維複合材中の、[熱硬化性樹脂含有炭素繊維プリプレグの層の数/熱硬化性樹脂含有カーボンナノチューブ不織布プリプレグの層の数]の比が0.5~10であることが好ましく、1.0~3.0であることがより好ましい。
熱硬化性樹脂含有炭素繊維プリプレグ(又は炭素繊維)及び熱硬化性樹脂含有カーボンナノチューブ不織布プリプレグ(又はカーボンナノチューブ不織布)を積層し、例えば、以下の成形方法1)~4)により、成形することにより、所望の形状を有する炭素繊維複合材とすることができる。
1)プレス成形
プリプレグを金型に積層し圧力をかけながら加熱硬化する方法で大量生産に適した方法である。
2)オートクレーブ成形
成形型にプリプレグを積層して、バギングフィルムを被せて減圧し、オートクレーブ内で圧力をかけて加熱硬化する方法である。
3)オーブン成形
成形型にプリプレグを積層しバギングフィルムを被せて減圧し、真空圧で加熱硬化する方法である。
4)シートラップ成形
マンドレルにプリプレグを巻き付けテーピングした後、加熱硬化して脱芯する方法である。
【0056】
上記成形方法における加熱硬化条件は、例えば、温度は120~250℃の範囲が好ましく、140~200℃の範囲がより好ましく、時間は0.2~10hrが好ましく、0.4~5hrがより好ましい。
また、プレス成形における加圧条件は、例えば、圧力1~10MPaの範囲が好ましく、3~8MPaの範囲がより好ましい。
【0057】
このような成形方法で加工して各種部品を製造することができる。
本発明の炭素繊維複合材は軽量で電磁波遮蔽性や耐衝撃性に優れていることから、自動車、ドローン、船舶や航空機などの車体や構造部材として使用することができる。また、本発明の炭素繊維複合材は電磁波を発生する自動車用バッテリーなどの収納容器、モーター部材、DC/DCコンバーター封止材など電磁波遮蔽性が要求される部材としても適したものである。
更に、本発明の炭素繊維複合材はミリ波以上の高周波を使用し電磁波遮蔽性や耐熱性が要求される通信機器の部材や収納容器としても利用できる。
カーボンナノチューブ不織布は両端に電圧をかけることで容易に発熱することから、本発明の炭素繊維複合材は発熱体として多方面の用途に使用できる。
【実施例0058】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
本発明の実施例、比較例で使用した材料は以下の通りである。
【0059】
(1)ビスマレイミド樹脂
・(A―1)
下記式で示されるビスマレイミド樹脂(SLK-3000、信越化学工業(株)製、数平均分子量5200)
【化7】
【0060】
・(A―2)
下記式で示されるビスマレイミド樹脂(SLK-6895、信越化学工業(株)製、数平均分子量689)
【化8】
【0061】
(2)エポキシ樹脂
・(A-3)
エポキシ樹脂(ZX-1059、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合品)
【0062】
(3)熱可塑性樹脂
・(A-4)
ポリエーテルスルホン(スミカエクセルPES5003P、住友化学(株)製)
【0063】
<樹脂フィルムの調製>
樹脂フィルム(1)
ビスマレイミド樹脂(A-1)100質量部と硬化触媒(ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」、日油(株)製)1質量部とを混合し、ビスマレイミド樹脂組成物を得た。このビスマレイミド樹脂組成物の含有量が50質量%となるようにシクロヘキサノン溶媒を添加し、ビスマレイミド樹脂組成物のシクロヘキサノン溶液(1)を得た。ビスマレイミド樹脂組成物のシクロヘキサノン溶液(1)を離型処理された厚さ38μmのPETフィルム上にローラーコーターで塗布し、100℃で10分間乾燥させて厚さ30μmの未硬化樹脂フィルム(1)を調製した。
樹脂フィルム(2)
ビスマレイミド樹脂(A-2)100質量部と硬化触媒(ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」、日油(株)製)1質量部とを含むビスマレイミド樹脂組成物100質量部に、カーボンナノチューブ粉体 ZEONANO SG101(ゼオンナノテクノロジー(株)製)を5質量部添加し、自転公転ミキサーを用いて2000rpmで5分間混合し、ビスマレイミド樹脂組成物を得た。このビスマレイミド樹脂組成物の含有量が50質量%となるようにシクロヘキサノン溶媒を添加し、ビスマレイミド樹脂組成物のシクロヘキサノン溶液(2)を得た。離型処理された厚さ38μmのPETフィルム上にローラーコーターで塗布し、100℃で10分間乾燥させて厚さ30μmの未硬化樹脂フィルム(2)を調製した。
樹脂フィルム(3)
エポキシ樹脂(A-3)100質量部と芳香族アミン硬化剤(カヤハードAA、日本化薬株式会社製)38.3質量部(エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基1モル当量に対して芳香族アミン硬化剤中の全アミノ基の当量が1.0となる量)とを混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物の含有量が50質量%となるようにトルエンを添加し、エポキシ樹脂組成物のトルエン溶液(1)を得た。
エポキシ樹脂組成物のトルエン溶液(1)を離型処理された厚さ38μmのPETフィルム上にローラーコーターで塗布し、120℃で10分間乾燥させて厚さ30μmの未硬化樹脂フィルム(3)を調製した。
樹脂フィルム(4)
エポキシ樹脂(A-3)100質量部と芳香族アミン硬化剤(カヤハードAA、日本化薬株式会社製)38.3質量部(エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基1モル当量に対して芳香族アミン硬化剤中の全アミノ基の当量が1.0となる量)と(A-4)ポリエーテルスルホン20質量部とを加熱混練りしてエポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物の含有量が50質量%となるようにトルエンを添加し、エポキシ樹脂組成物のトルエン溶液(2)を得た。
エポキシ樹脂組成物のトルエン溶液(2)を離型処理された厚さ38μmのPETフィルム上にローラーコーターで塗布し、120℃で10分間乾燥させて厚さ30μmの未硬化樹脂フィルム(4)を調製した。
【0064】
<カーボンナノチューブ不織布>
不織布(1)CNTM30 (Tortech社製:多層カーボンナノチューブ)
厚さ:78μm
通気度:0.01cm3/cm2・s
比抵抗:1.51E-03(Ω・cm)
不織布(2)CNTM10 (Tortech社製:多層カーボンナノチューブ)
厚さ:32μm
通気度:0.04cm3/cm2・s
比抵抗:2.22E-03(Ω・cm)
不織布(3)単層カーボンナノチューブ不織布(株式会社名城ナノカーボン製)
厚さ:50μm
通気度:0.01cm3/cm2・s
比抵抗:1.82E-04(Ω・cm)
不織布(4)
0.3gのCNTM30の両面に、単層カーボンナノチューブ粉体(ZEONANO SG101、ゼオンナノテクノロジー(株)製、平均直径:3nm)を1g散布し、カーボンナノチューブ不織布(3)を得た。0.3gのCNTM30に対して固定化された単層カーボンナノチューブ粉体は0.03gであった。
厚さ:72μm
通気度:0.01cm3/cm2・s
比抵抗:3.0E-03(Ω・cm)
不織布(5)
0.3gのCNTM30を、単層カーボンナノチューブ溶液(EC1.5P(NMP溶液)、(株)名城ナノカーボン製)20gに25℃で30分間含浸し、200℃で5分の条件で乾燥して、単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ不織布を調製した。
厚さ:75μm
通気度:0.02cm3/cm2・s
比抵抗:2.4E-03(Ω・cm)
【0065】
<カーボンナノチューブ不織布のプリプレグ>
[参考例1]
厚さ78μm、10cm角のカーボンナノチューブ不織布(1)0.23gの両面に、10cm×10cmに切り出した厚さ30μm、重量0.3gの樹脂フィルム(1)を1枚ずつ配置し、80℃で1分間の条件でラミネートし、次いで150℃で15分間プレスして、カーボンナノチューブ不織布を用いたプリプレグ(CNT1)を調製した。
【0066】
[参考例2]
参考例1において、カーボンナノチューブ不織布(1)の代わりに、厚さ32μm、10cm角のカーボンナノチューブ不織布(2)0.10gを用いた以外は参考例1と同様にして、カーボンナノチューブ不織布を用いたプリプレグ(CNT2)を調製した。
【0067】
[参考例3]
参考例1において、カーボンナノチューブ不織布(1)の代わりに、厚さ50μm、10cm角のカーボンナノチューブ不織布(3)1.5gを用いた以外は参考例1と同様にして、カーボンナノチューブ不織布を用いたプリプレグ(CNT3)を調製した。
【0068】
[参考例4]
参考例1において、カーボンナノチューブ不織布(1)の代わりに、カーボンナノチューブ不織布(4)0.22gを用いた以外は参考例1と同様にして、カーボンナノチューブ不織布を用いたプリプレグ(CNT4)を調製した。
【0069】
[参考例5]
参考例1において、カーボンナノチューブ不織布(1)の代わりに、カーボンナノチューブ不織布(5)0.23gを用いた以外は参考例1と同様にして、カーボンナノチューブ不織布を用いたプリプレグ(CNT5)を調製した。
【0070】
[参考例6]
参考例1において、樹脂フィルム(1)の代わりに樹脂フィルム(2)を用いた以外は参考例1と同様にして、カーボンナノチューブ不織布を用いたプリプレグ(CNT6)を調製した。
【0071】
[参考例7]
カーボンナノチューブ不織布(1)を上記で調製したエポキシ樹脂組成物のトルエン溶液(1)に含浸して120℃で30分間乾燥してカーボンナノチューブ不織布を用いたプリプレグ(CNT7)を調製した。
【0072】
[参考例8]
カーボンナノチューブ不織布(1)を上記で調製したエポキシ樹脂組成物のトルエン溶液(2)に含浸して120℃で30分間乾燥してカーボンナノチューブ不織布を用いたプリプレグ(CNT8)を調製した。
【0073】
カーボンナノチューブ不織布を用いたプリプレグCNT1~8について、厚さをマイクロメータで測定し、見かけの比抵抗を渦電流法抵抗測定器(NAPSON社製)で測定した。その結果を表1に示す。
【表1】
【0074】
<炭素繊維プリプレグ>
(1)TR3110 381GMX (三菱ケミカル(株)製)
炭素繊維目付:200g/m2
エポキシ樹脂含有量:40wt%
厚さ:220μm
(2)TR6110H331GMP (三菱ケミカル(株)製)
炭素繊維目付:280g/m2
エポキシ樹脂含有量:40wt%
厚さ:320μm
【0075】
実施例及び比較例で作製したシートに対して、下記の方法により特性を測定・評価し、その結果を表2及び表3に記載した。
厚さ
シートの厚さはマイクロメータで測定した。
比抵抗
シートの比抵抗は渦電流法抵抗測定器(NAPSON社製)で測定した。
【0076】
電磁波遮蔽特性
電磁波遮蔽特性(SE)は次式で定義される。
【数1】
80GHzのSE値が大きいほど、電磁波遮蔽特性(SE)に優れ、低周波数から高周波数の広い周波数帯域で遮蔽効果を示す。
【0077】
衝撃強度
衝撃強度は、測定方法:JIS K7211に準拠して、パンクチャー衝撃試験で測定した。
まず、炭素繊維プリプレグ(1)を2層に積層し、200℃で30分間加熱硬化させて厚さ400μmの炭素繊維プリプレグ(1)の硬化物を作製した。この炭素繊維プリプレグ(1)の硬化物の衝撃試験値Iを測定した。
続いて、実施例又は比較例で作製した各シートの衝撃試験値IIを測定した。
衝撃試験値I及びIIから、衝撃試験値の強度比=衝撃試験値II/衝撃試験値Iにより算出した。
【0078】
[実施例1]
参考例1で製造したカーボンナノチューブ不織布プリプレグ(CNT1)の上面及び下面それぞれに、炭素繊維プリプレグ(1)を1枚ずつ配し、3層に積層し、200℃の温度に設定した加熱プレスで7.0MPaの圧力で加圧し、30分間硬化させ3層構造の炭素繊維複合材(電磁波遮蔽シート1)を得た。
この電磁波遮蔽シート1の電磁波遮蔽特性と衝撃試験強度比を表2に示す。
【0079】
[実施例2]
炭素繊維プリプレグ(1)の上面及び下面それぞれに、参考例1で製造したカーボンナノチューブ不織布プリプレグ(CNT1)を1枚ずつ配し、3層に積層後、該3層の最上面及び最下面のそれぞれに、炭素繊維プリプレグ(1)を更に1枚ずつ配し、5層に積層し、200℃の温度に設定した加熱プレスで7.0MPaの圧力で加圧し、30分間硬化させ5層構造の炭素繊維複合材(電磁波遮蔽シート2)を得た。
電磁波遮蔽シート2の電磁波遮蔽特性と衝撃試験強度比を表2に示す。
【0080】
[実施例3]
参考例1で製造したカーボンナノチューブ不織布プリプレグ(CNT1)の上面及び下面それぞれに、炭素繊維プリプレグ(2)を1枚ずつ配し、3層に積層し、200℃の温度に設定した加熱プレスで7.0MPaの圧力で加圧し、30分間硬化させ3層構造の炭素繊維複合材(電磁波遮蔽シート3)を得た。
電磁波遮蔽シート3の電磁波遮蔽特性と衝撃試験強度比を表2に示す。
【0081】
[実施例4]
参考例2で製造したカーボンナノチューブ不織布プリプレグ(CNT2)の上面及び下面それぞれに、炭素繊維プリプレグ(1)を1枚ずつ配し、3層に積層し、200℃の温度に設定した加熱プレスで7.0MPaの圧力で加圧し、30分間硬化させ3層構造の炭素繊維複合材(電磁波遮蔽シート4)を得た。
電磁波遮蔽シート4の電磁波遮蔽特性と衝撃試験強度比を表2に示す。
【0082】
[実施例5]
実施例1と同様に、参考例3で製造したカーボンナノチューブ不織布プリプレグ(CNT3)の上面及び下面それぞれに、炭素繊維プリプレグ(1)を1枚ずつ配し、3層に積層し、200℃の温度に設定した加熱プレスで7.0MPaの圧力で加圧し、30分間硬化させ3層構造の炭素繊維複合材(電磁波遮蔽シート5)を得た。
電磁波遮蔽シート5の電磁波遮蔽特性と衝撃試験強度比を表2に示す。
【0083】
[実施例6]
炭素繊維プリプレグ(1)の上面に、参考例1で製造したカーボンナノチューブ不織布プリプレグ(CNT1)を1枚配し、2層に積層し、200℃の温度に設定した加熱プレスで7.0MPaの圧力で加圧し、30分間硬化させ2層構造の炭素繊維複合材(電磁波遮蔽シート6)を得た。
電磁波遮蔽シート6の電磁波遮蔽特性と衝撃試験強度比を表2に示す。
【0084】
[実施例7~11]
参考例1で製造したカーボンナノチューブ不織布プリプレグ(CNT1)の代わりに、参考例4~8で製造したそれぞれのカーボンナノチューブ不織布プリプレグ(CNT4~CNT8)をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして、200℃の温度に設定した加熱プレスで7.0MPaの圧力で加圧し、30分間硬化させ3層構造の炭素繊維複合材(電磁波遮蔽シート7~11)をそれぞれ得た。
電磁波遮蔽シート7~11の電磁波遮蔽特性と衝撃試験強度比を表2に示す。
【0085】
[実施例12]
炭素繊維プリプレグ(1)の上面に、カーボンナノチューブ不織布(1)を1枚配し、2層に積層し、200℃の温度に設定した加熱プレスで7.0MPaの圧力で加圧し、30分間硬化させ2層構造の炭素繊維複合材(電磁波遮蔽シート12)を得た。
電磁波遮蔽シート12の電磁波遮蔽特性(80GHzにおける値)は80(dB)、衝撃試験強度比は1.1であった。
【0086】
[比較例1]
炭素繊維プリプレグ(1)を2層に積層し、200℃で30分間の条件で加熱硬化させ、厚さ400μmのシート状硬化物(シート13)を作製した。
【0087】
[比較例2]
参考例1で作製したカーボンナノチューブ不織布プリプレグ(CNT1)を2層に積層し、200℃で30分間の条件で加熱硬化させ、厚さ270μmのシート状硬化物(シート14)を作製した。
【0088】
[比較例3]
カーボンナノチューブ不織布(1)をシート15とした。
【0089】
[比較例4]
カーボンナノチューブ不織布(2)をシート16とした。
【0090】
【0091】
【0092】
実施例1~12に示すように、実施例1~12の電磁波遮蔽シートは、比較例1の2層炭素繊維プリプレグからなるシートとの衝撃試験強度比が1.0以上であり、耐衝撃性に優れることが明らかである。また、実施例1~12の電磁波遮蔽シートは、比較例2の2層カーボンナノチューブ不織布プリプレグからなるシートとの比較においても同等以上の耐衝撃性を示す。そして、実施例1~12の電磁波遮蔽シートは、80GHzにおける電磁波遮蔽特性も比較例1、2に比べ、優れている。
本発明の炭素繊維複合材は、炭素繊維単独の電磁波遮蔽シートより電磁波遮蔽特性を低下させることなく、衝撃強度が向上し、信頼性の高い電磁波遮蔽シートとなる。