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特開2023-182537特にマイクロリソグラフィ用の、光学構成要素および光学系
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  • 特開-特にマイクロリソグラフィ用の、光学構成要素および光学系 図1
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  • 特開-特にマイクロリソグラフィ用の、光学構成要素および光学系 図10
  • 特開-特にマイクロリソグラフィ用の、光学構成要素および光学系 図11
  • 特開-特にマイクロリソグラフィ用の、光学構成要素および光学系 図12
  • 特開-特にマイクロリソグラフィ用の、光学構成要素および光学系 図13
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182537
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】特にマイクロリソグラフィ用の、光学構成要素および光学系
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/08 20060101AFI20231219BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
G02B5/08 A
G03F7/20 502
G02B5/08 D
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023085155
(22)【出願日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】10 2022 113 164.5
(32)【優先日】2022-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141553
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 信彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151987
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 信行
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー エルクスマイアー
(72)【発明者】
【氏名】マルティン ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】ニルス ルント
(72)【発明者】
【氏名】コンラート ヴォルケ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】光学構成要素および光学系を提供すること
【解決手段】光学構成要素は、電磁放射線が当たったときに第1の波長依存反射率曲線を呈する第1の層の系210と、電磁放射線が当たったときに第2の波長依存反射率曲線を呈する少なくとも1つの第2の層の系220と、を備え、第1の層の系210と第2の層の系220は異なる光学面上に配置されており、第1の反射率曲線および第2の反射率曲線の波長依存性は、第1の層の系210と少なくとも1つの第2の層の系220の結果的な合計反射率について、波長に関して線形または一定である所望の反射率曲線からの相対偏差が、指定された波長範囲内で5%以下となるように、少なくとも部分的に互いを補償する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁放射線が当たったときに第1の波長依存反射率曲線を呈する第1の層の系(210、710、810、910、1010)と、
電磁放射線が当たったときに第2の波長依存反射率曲線を呈する少なくとも1つの第2の層の系(220、720、820、920、1020)と、を備え、
前記第1の層の系(210、710、810、910、1010)と前記第2の層の系(220、720、820、920、1020)は異なる光学面上に配置されており、
前記第1の反射率曲線および前記第2の反射率曲線の波長依存性は、前記第1の層の系(210、710、810、910、1010)と前記少なくとも1つの第2の層の系(220、720、820、920、1020)の結果的な合計反射率について、波長に関して線形または一定である所望の反射率曲線からの相対偏差が、指定された波長範囲内で5%以下となるように、少なくとも部分的に互いを補償する、
光学構成要素。
【請求項2】
前記第1の反射率曲線および前記第2の反射率曲線の前記波長依存性は、前記第1の層の系(210、710、810、910、1010)と前記少なくとも1つの第2の層の系(220、720、820、920、1020)の前記結果的な合計反射率について、前記波長に関して線形または一定である所望の反射率曲線からの前記相対偏差が、前記指定された波長範囲内で3%以下、特に2%以下となるように、少なくとも部分的に互いを補償することを特徴とする、請求項1に記載の光学構成要素。
【請求項3】
前記第1の層の系(210、710、810、910、1010)と前記少なくとも1つの第2の層の系(220、720、820、920、1020)の結果的な合計反射率は、5%の最大相対変動を除いては、特に3%の最大相対変動を除いては、より特定的には2%の最大相対変動を除いては、前記指定された波長範囲内で一定であることを特徴とする、請求項1または2に記載の光学構成要素。
【請求項4】
前記指定された波長範囲内での前記結果的な反射率曲線についての前記反射率の最大変動は、前記第1の波長依存反射率曲線についてのおよび前記第2の波長依存反射率曲線についての、前記指定された波長範囲内での前記反射率のそれぞれの最大変動よりも小さいことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学構成要素。
【請求項5】
前記第1の層の系(210、710、810、910、1010)の前記第1の反射率曲線において、前記波長の関数としての前記反射率は、前記指定された波長範囲内で、最大反射率に対して少なくとも5%、特に少なくとも10%変動することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学構成要素。
【請求項6】
前記光学構成要素は第3の波長依存反射率曲線を有する少なくとも1つの第3の層の系(730、830、930、1030)を更に備えることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学構成要素。
【請求項7】
前記第1の層の系(710、810、910、1010)、前記第2の層の系(720、820、920、1020)、および前記第3の層の系(730、830、930、1030)の結果的な合計反射率について、前記指定された波長範囲内での所望の線形反射率曲線からの相対偏差は5%以下、特に3%以下、より特定的には2%以下であることを特徴とする、請求項6に記載の光学構成要素。
【請求項8】
前記指定された波長範囲は所与の動作波長λ0について、0.95λ0~1.05λ0、特に0.9λ0~1.1λ0、より特定的には0.8λ0~1.2λ0、より特定的には0.7λ0~1.3λ0にわたることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の光学構成要素。
【請求項9】
前記光学構成要素は少なくとも1つのビームスプリッタを備えることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の光学構成要素。
【請求項10】
前記光学構成要素は光学系の光ビーム経路からの成分ビームを出力結合するための出力結合素子を備えることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の光学構成要素。
【請求項11】
前記光学構成要素は光学系の光ビーム経路内で成分ビームを偏向させるための偏向素子を備えることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の光学構成要素。
【請求項12】
前記光学構成要素は100nm~700nmの範囲の動作波長用に設計されていることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の光学構成要素。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の光学構成要素を備える、特にマイクロリソグラフィ用の、光学系。
【請求項14】
前記光学構成要素はレーザー光源内に配置されていることを特徴とする、請求項13に記載の光学系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2022年5月24日にドイツ特許商標庁に出願されたドイツ特許出願DE第102022113164.5号の優先権を主張する。ドイツ特許出願DE第102022113164.5号の内容は、参照により本特許出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は光学構成要素および光学系に関する。本発明は例えばレーザー光源に有利に適用できるが、他の用途にも適用可能であり、特にマイクロリソグラフィ投影露光装置に使用できる。
【背景技術】
【0003】
微細構造の電子構成要素を製造するためにマイクロリソグラフィが使用される。マイクロリソグラフィプロセスは、照射デバイスと投影レンズとを有する、投影露光装置として知られる装置で行われる。照射デバイスによって照射されるマスク(=レチクル)の像は、この場合投影レンズによって、投影レンズの像面内に配置されている感光性層(フォトレジスト)でコーティングされた基板(例えばシリコンウエハ)上に、構造の感光性コーティングにマスク構造を転写する目的で投影される。
【0004】
DUV範囲(例えば250nm未満、特に200nm未満の動作波長)で動作するように設計された投影露光装置では、エキシマレーザー、特に248nmの動作波長のフッ化クリプトンエキシマレーザー、または193nmの動作波長のフッ化アルゴンエキシマレーザーの形態のレーザー光源が、典型的に使用される。
【0005】
投影露光装置の開発の領域における既存の課題はとりわけ、より一層小さい構造のマイクロリソグラフィ製造およびウエハ上のその位置決めの正確度に関する、より一層厳しい要件に関連するものである。
【0006】
光学構成要素において、例えば前述のレーザー光源においてだけでなく照射デバイスにおいて、投影レンズにおいて、または他の光学系においても生じる問題として、それぞれの周囲条件によって(例えば、電磁放射線、イオン、等が照射されることによって)生じる構成要素の材料の劣化がそれぞれの光学特性の変化をもたらし、そしてこの変化には当該構成要素を含む光学系の性能の低下が付随することが挙げられる。
【0007】
例えば、周囲条件によっては、例えば前述のレーザー光源などの光学系で使用されるビームスプリッタにおいて、波長に依存する反射曲線または透過曲線に望まれない変化が生じるが、この変化は-図13の単なる例示的な図表に示されているように-反射または透過の挙動への影響という点で、最終的には当該構成要素に入射する電磁放射線の有効波長のシフトに対応している。光学構成要素は原則として、光学系のそれぞれの動作波長(例えば193nm)に合わせて設計されており、したがって有効波長がこのようにシフトする場合にはもはやその最適な挙動を示さず、その結果その光学系の性能も損なわれ、例えば前述のレーザー光源の例では、それぞれ供給される光源出力に望まれない変動が生じる。
【0008】
従来技術については、例として欧州特許第EP 3 111 257号を参照するに過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第EP 3 111 257号
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、上記した問題を少なくともある程度回避しつつ、使用条件が変化してもできるだけ安定した動作を可能にする、光学構成要素および光学系を提供することである。
【0011】
この目的は、独立特許請求項1の特徴に従う光学構成要素、および代替の独立特許請求項13の特徴に従う光学系によって達成される。
【0012】
本発明によれば、光学構成要素は、
- 電磁放射線が当たったときに第1の波長依存反射率曲線を呈する第1の層の系と、
- 電磁放射線が当たったときに第2の波長依存反射率曲線を呈する少なくとも1つの第2の層の系と、を備え、
- 第1の層の系と第2の層の系は異なる光学面上に配置されており、
- 第1の反射率曲線および第2の反射率曲線の波長依存性は、第1の層の系と少なくとも1つの第2の層の系の結果的な合計反射率について、波長に関して線形または一定である所望の反射率曲線からの相対偏差が、指定された波長範囲内で5%以下となるように、少なくとも部分的に互いを補償する。
【0013】
特に、本発明は、構成要素の異なる光学面上に存在する層の系のそれぞれの波長依存反射率曲線を、当該の層の系のそれぞれの反射率挙動に、例えば構成要素の周囲の事物によっておよび特に汚染または劣化によって引き起こされるドリフトが生じる場合であっても、光学構成要素の結果的な合計反射率挙動が少なくともほぼ一定を維持するか、または少なくとも波長に関して所望の線形反射率曲線からの逸脱がごく僅かとなるように設計する、という概念に基づいている。
【0014】
言い換えれば、本発明は、構成要素の少なくとも2つの光学面上に位置する層の系を、それぞれの波長依存反射率曲線-これは当該の個々の層の系の各々に対して意図的に許容されている-が、少なくとも部分的に互いを補償して、その結果、当該の層の系またはそれぞれの光学構成要素の全体について、光学系の性能の観点から問題となる反射挙動のスペクトルドリフトがもはや生じなくなるか、または生じはするが小さい程度となるように、互いに整合させる、という手法をとる。
【0015】
意図的な可逆的構造変化と、これらに伴う、前述の層の系の個々の層の系ごとの反射挙動のスペクトルシフトと、を可能にする本発明により、結果として、劣化または汚染のリスクの観点から比較的問題のある周囲条件(例えば、100nm~700nmの波長範囲内、特に100nm~400nmの波長範囲内、これは電磁放射線として比較的高エネルギーであることおよびそれぞれの光学系内に任意に存在する雰囲気に起因する)の場合であっても、ならびに特にまた、これらの周囲条件が経時的に変動する場合であっても、常に安定したほぼ一定の動作を保証することが可能になるが、その理由は、上記したように、当該の層の系が、動作中の上記変化の影響の観点において、ある意味互いに対して「競合(pitted)」しているためである。
【0016】
本発明によれば、実際には一定の動作波長を有する光学系(例えばレーザー光源)の場合でさえ、それぞれの波長依存反射率曲線に関連する相互補償を行うことから、光学構成要素の異なる表面上にそれぞれの層設計を構築するための出費が増加する、という欠点が、意図的に許容されるが、その理由は、その見返りにかかる構築によって、冒頭で述べた反射挙動における有効波長のシフトの意味における、劣化または可逆的な構造変化の影響に対応できるからである。
【0017】
第2の層の系の反射率はゼロに等しくすることもでき、その場合、指定された波長範囲内での結果的な反射率は、第1の層の系の反射率に相当する。
【0018】
ある実施形態によれば、第1の反射率曲線および第2の反射率曲線の波長依存性は、第1の層の系と少なくとも1つの第2の層の系の結果的な合計反射率について、波長に関して線形または一定である所望の反射率曲線からの相対偏差が、指定された波長範囲内で3%以下、特に2%以下となるように、少なくとも部分的に互いを補償する。
【0019】
ある実施形態によれば、第1の層の系と少なくとも1つの第2の層の系の結果的な合計反射率は、5%の最大相対変動を除いては、特に3%の最大相対変動を除いては、より特定的には2%の最大相対変動を除いては、指定された波長範囲内で一定である。
【0020】
ある実施形態によれば、指定された波長範囲内での結果的な反射率曲線についての反射率の最大変動は、第1の波長依存反射率曲線についてのおよび第2の波長依存反射率曲線についての、指定された波長範囲内での反射率のそれぞれの最大変動よりも小さい。
【0021】
第1の層の系の第1の反射率曲線において、波長の関数としての反射率は、ある実施形態によれば、特定の波長範囲内で、最大反射率に対して少なくとも5%、特に少なくとも10%変動する。
【0022】
ある実施形態によれば、光学構成要素は、第3の波長依存反射率曲線を有する少なくとも1つの第3の層の系を更に備える。
【0023】
第1の層の系、第2の層の系、および第3の層の系の結果的な合計反射率について、指定された波長範囲内での所望の線形反射率曲線からの相対偏差は、ある実施形態によれば5%以下、特に3%以下、より特定的には2%以下である。
【0024】
ある実施形態によれば、指定された波長範囲は所与の動作波長λ0について、0.95λ0~1.05λ0、特に0.9λ0~1.1λ0、より特定的には0.8λ0~1.2λ0、より特定的には0.7λ0~1.3λ0にわたる。
【0025】
ある実施形態によれば、光学構成要素は少なくとも1つのビームスプリッタを備える。
【0026】
ある実施形態によれば、光学構成要素は、光学系の光ビーム経路からの成分ビームを出力結合するための出力結合素子を備える。
【0027】
ある実施形態によれば、光学構成要素は、光学系の光ビーム経路内で成分ビームを偏向させるための偏向素子を備える。
【0028】
ある実施形態によれば、光学構成要素は100nm~700nmの範囲の動作波長用に設計されている。
【0029】
更に、本発明は、上記した特徴に従う光学構成要素を含む、特にマイクロリソグラフィ用の、光学系にも関する。特に、光学構成要素はレーザー光源内に配置することができる(ただし、本発明はこれに限定されない)。
【0030】
本発明の更なる実施形態が本明細書および従属請求項から明らかである。
【0031】
以下では本発明を添付の図に示す例示的な実施形態に基づいて更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の基礎となる概念を説明するための図表である。
図2】本発明を実現可能なビームスプリッタの可能な基本構造の概略図である。
図3a】本発明の可能な実施形態を説明するための図表である。
図3b】本発明の可能な実施形態を説明するための図表である。
図4】本発明の可能な実施形態を説明するための図表である。
図5】本発明の可能な実施形態を説明するための図表である。
図6】本発明の可能な実施形態を説明するための図表である。
図7】本発明を実現可能な例示的な光学構成要素の概略図である。
図8】本発明を実現可能な例示的な光学構成要素の概略図である。
図9】本発明を実現可能な例示的な光学構成要素の概略図である。
図10】本発明を実現可能な例示的な光学構成要素の概略図である。
図11】DUVにおいて動作するように設計されたマイクロリソグラフィ投影露光装置の可能な構造を説明するための概略図である。
図12】本発明の例示的な応用例を示す概略図である。
図13】従来技術の場合に生じる問題を説明するための図表である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について、図3a~図6の図表、更に図2および図7図10の概略図を参照して説明する。
【0034】
以下に記載する実施形態に共通するのは-光学構成要素または同構成要素を備える光学系の動作中に劣化に起因して生じる光学性能の変化を回避するという目的によれば-、当該光学構成要素の異なる表面上に位置する少なくとも2つの層の系が、それらのそれぞれの波長依存反射率挙動に関して、劣化または構造変化の影響の点で、光学構成要素の少なくとも部分的な補償効果および全体的なほぼ一定の反射率挙動が得られるように、互いに整合されることである。
【0035】
これを行うにあたり、本発明は特に-図13の図表に基づいて冒頭で既に説明したように-例えばビームスプリッタのような光学構成要素の材料の劣化が最終的には、光学構成要素の反射挙動への影響という点で、有効波長のシフトに対応している、という発想から出発しており、このシフトは、適切な対策がなければ、当該光学構成要素(当然ながら当初はそれぞれの光学系の特定の動作波長を標的とする様式で構築されている)の性能の障害を伴う。本発明によれば、これらの状況に対して、当該光学構成要素について求められる構成要素全体に関する実質的にプラトー形状の波長依存反射率曲線によって、-特定の(例えば193nmの)動作波長のみへの使用が意図されているにも関わらず-比較的大きな波長範囲にわたってさえも対処がなされるが、その理由は、図1に示すように、このプラトー形状の曲線の結果、前述の劣化関連の有効波長のシフトが、もはや光反射挙動の障害をもたらさなくなるからである。
【0036】
図2図10を参照して様々な実施形態に基づいて以下に記載するように、反射挙動の観点での光学構成要素の実質的に一定の性能は、本発明によれば、光学構成要素の異なる表面に位置する少なくとも2つの層の系が、ある意味対照的な波長依存反射率曲線を有し、その結果、それらのそれぞれの劣化効果に関して「互いに対して競合する(pitted against one another)」、または相互補償の意味において互いに整合されることによって、全体的に達成される。
【0037】
特に(ただし本発明はこれに限定されないが)、本発明に係る概念は例えば、特にマイクロリソグラフィ用のレーザー光源または他の光学系において使用されるような、光ビームスプリッタの形態の光学構成要素において実現することができる。図2の純粋に概略的な図によれば、そのようなビームスプリッタ200を、第1の層の系210と第2の層の系220とから構成することができ、図2は更に、強度I0の入射光ビームについて、反射強度成分IRと透過強度成分ITの両方が発生することを示している。ビームスプリッタ200に生じる全体としての反射率とこれに対応する全体としての透過率はいずれも、2つの層の系210、220のそれぞれの特性から構成され、全体的な反射率は光学的損失を無視した場合、以下として現れる。
【0038】
【数1】
この場合、r1およびr2は、第1の層の系210および第2の層の系220のそれぞれの部分的な反射率を示す。
【0039】
本発明に係る概念の例示的な実現のために、図3aはここで、第1の層の系210に関する可能な波長依存反射率曲線を示し、図3bは、本発明による所望の補償効果を得るのに適した、第2の層の系220に関する波長依存反射率曲線を示す。図3a~図3bから明らかなように、個々の波長依存反射率曲線の有意な変動は、プロセスにおいて明確に「許容」されているが、ただしこれらの波長依存変動(この特定の例に存在する中間の極値を含む)は、互いに正確に逆行してまたは相補的に動いている。
【0040】
図4は、例えば光ビームスプリッタのような光学構成要素の2つの層の系の、本発明による互いとの整合の更なる例を示しており、第2の層の系の反射率曲線(破線を用いて図示されている)はここでもやはり、第1の層の系の反射率曲線(実線を用いて図示されている)に対して正確に逆行して動いている。
【0041】
具体的な例示的実施形態を説明するために、表1に第1層の系の可能な層設計を示し、表2に所望の補償効果を得るのに適した第2の層の系の好適な層設計を示す。
【0042】
表1:
【表1】
【0043】
表2:
【表2】
【0044】
この点に関して、図5は対応する波長依存反射率曲線を示しており、理想的な補償効果にとって所望の標的プロファイルと、特定の層設計によって実際に実現された実際のプロファイルの両方が、第2の層の系について示されている。図5から明らかなように、結果的な全体としての反射率について、約160nm~240nmの比較的広い波長範囲にわたって、ほぼプラトー形状の曲線が達成されている。
【0045】
更なる具体的な例示的実施形態として、表3に第1の層の系の更なる可能な層設計を示し、表4に、本発明による補償効果を得るのに適した、相応に整合させた第2の層の系の層設計を示す。
【0046】
表3:
【表3】
【0047】
表4:
【表4】
【0048】
図5と類似の様式で、図6は、表3~表4の例示的な実施形態に関する、それぞれの波長依存反射率曲線を示す。
【0049】
本発明は、光学構成要素上に2つの相互に整合した層の系を実現することに限定されない。図7は、2つの部分的構成要素701、702で構成される光学構成要素700を単なる概略図で示しており、部分的構成要素701はここでもやはり光ビームスプリッタであり、部分的構成要素702はミラーである。その結果、構成要素700は、光学的効果を有する合計3つの表面またはこれらの表面に存在する層の系710、720、730を利用可能であり、これらの表面または層の系は、本発明による補償効果を得る目的で、それらのそれぞれの波長依存反射率曲線に関して、互いに整合させることができる。
【0050】
図8には更なる応用例として、光学的効果を有する3つの表面または層の系810、820、830がそれらの表面に位置している、光学構成要素800が示されている。この場合、光学構成要素800は、(層の系830で反射され層の系820を透過した部分に対して)偏向ミラーとして、または、(層の系830を透過した部分に対して)出力結合素子として、選択的に振る舞う。この場合、特定の使用シナリオに応じて、例えば層の系820および830を、本発明によれば、各々の場合におけるそこを透過する部分の比率が十分に広い波長範囲にわたって一定を維持するように、互いに整合させることができる。
【0051】
図9は、各々がビームスプリッタの形態の2つの部分的構成要素901、902で構成される光学構成要素900の更なる例を、概略図で示している。その結果、本発明による補償効果を得る目的で、光学的効果を有する合計4つの表面またはそれらの表面に位置する層の系910、920、930および940が利用可能となる。
【0052】
更なる可能な例示的応用例として、図10には、偏向または出力結合素子の形態の光学構成要素1000が示されており、この場合3つの異なる光学面またはそれらの表面に位置する層の系1010、1020、1030が利用可能であるが、そのうち層の系1010は、示されたビーム経路に従って2回通過される。図10に示すように、光学構成要素1000を使用して、(層の系1020を透過した部分および層の系1030を透過した部分に対応する)2つの異なる成分ビームを出力結合することができる。更に、特定の使用シナリオに応じて、3つの層の系の全てを、さもなければこれらの層の系のうちの2つだけを、本発明に従う様式で、それらの波長依存反射率曲線に関して互いに整合させることができる。
【0053】
図11は、DUVにおいて動作するように設計されたマイクロリソグラフィ投影露光装置1100の原理的に可能な構造を示す。
【0054】
図11に係る投影露光装置1100は、照射デバイス1110と投影レンズ1120とを備える。照射デバイス1110は、例えば193nmの動作波長用のArFエキシマレーザーの形態の(さもなければ、248nmの動作波長用のKrFエキシマレーザーの形態の)レーザー光源、および更に平行光ビームを生成するビーム成形光学ユニットを備える、光源ユニット1105からの光で、構造を有するマスク(レチクル)1115を照射する役割を果たす。この場合、レーザー光源は、本発明に従う様式で設計することができる。
【0055】
照射デバイス1110は、とりわけ図示した例では、偏向ミラー1112を備える光学ユニット1111を備える。光学ユニット1111は例えば、様々な照明設定(すなわち、照射デバイス1110の瞳面における強度分布)を得るための、回折光学素子(DOE)およびズームアキシコン系を備えることができる。光混合デバイス(図示せず)は、光学ユニット1111の光伝搬方向下流のビーム経路内に位置しており、この光混合デバイスは例えば、それ自体知られている様式で、光混合を達成するのに適した微小光学素子からなる構成と、レンズ素子群1113とを有することができ、その下流にはレチクルマスキング系(REMA)を有する視野面があり、このレチクルマスキング系は、光伝搬方向下流に配設されたREMAレンズ1114によって、更なる視野面内に配置された構造を有するマスク(レチクル)1115上に結像され(imaged)、以ってレチクル上の照射領域が画定される。投影レンズ1120によって、構造を有するマスク1115が、感光層(フォトレジスト)を備えた基板上にまたはウエハ1130上に結像される。特に、投影レンズ1120は液浸動作用に設計することができ、この場合、液浸媒体は、ウエハまたはその感光層の、光伝搬方向に関して上流に位置する。更に、投影レンズ1120は例えば、0.85よりも大きい、特に1.1よりも大きい開口数NAを有することができる。
【0056】
図12aは、本発明の例示的な応用例として、ビームスプリッタ1211が中に挿入されているレーザー1210を、純粋に概略的に示す。例として、ビームスプリッタは、光パルスストレッチャにおいて、さもなければ成分ビームを出力結合する目的で、例えばビーム測定の目的で、使用することもできる。図12bは、本発明の例示的な応用例として、ビームスプリッタ1221が中に挿入されている(例えばウエハ検査用の)顕微鏡1220を、同じく純粋に概略的に示す。
【0057】
本発明はまた特定の実施形態に基づいて説明されているが、例えば個々の実施形態の特徴の組合せおよび/または交換による、多数の変形形態および代替の実施形態が、当業者には明らかであろう。したがって、本発明にはそのような変形形態および代替の実施形態が付随的に包含され、本発明の範囲は添付の請求項およびその等価物の意味の範囲内においてのみ限定されることは、当業者にとっては言うまでもない。
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2023-09-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁放射線が当たったときに第1の波長依存反射率曲線を呈する第1の層の系(210、710、810、910、1010)と、
電磁放射線が当たったときに第2の波長依存反射率曲線を呈する少なくとも1つの第2の層の系(220、720、820、920、1020)と、を備え、
前記第1の層の系(210、710、810、910、1010)と前記第2の層の系(220、720、820、920、1020)は異なる光学面上に配置されており、
前記第1の反射率曲線および前記第2の反射率曲線の波長依存性は、前記第1の層の系(210、710、810、910、1010)と前記少なくとも1つの第2の層の系(220、720、820、920、1020)の結果的な合計反射率について、波長に関して線形または一定である所望の反射率曲線からの相対偏差が、指定された波長範囲内で5%以下となるように、少なくとも部分的に互いを補償する、
光学構成要素。
【請求項2】
前記第1の反射率曲線および前記第2の反射率曲線の前記波長依存性は、前記第1の層の系(210、710、810、910、1010)と前記少なくとも1つの第2の層の系(220、720、820、920、1020)の前記結果的な合計反射率について、前記波長に関して線形または一定である所望の反射率曲線からの前記相対偏差が、前記指定された波長範囲内で3%以下、特に2%以下となるように、少なくとも部分的に互いを補償することを特徴とする、請求項1に記載の光学構成要素。
【請求項3】
前記第1の層の系(210、710、810、910、1010)と前記少なくとも1つの第2の層の系(220、720、820、920、1020)の結果的な合計反射率は、5%の最大相対変動を除いては、特に3%の最大相対変動を除いては、より特定的には2%の最大相対変動を除いては、前記指定された波長範囲内で一定であることを特徴とする、請求項1または2に記載の光学構成要素。
【請求項4】
前記指定された波長範囲内での前記結果的な反射率曲線についての前記反射率の最大変動は、前記第1の波長依存反射率曲線についてのおよび前記第2の波長依存反射率曲線についての、前記指定された波長範囲内での前記反射率のそれぞれの最大変動よりも小さいことを特徴とする、請求項1または2に記載の光学構成要素。
【請求項5】
前記第1の層の系(210、710、810、910、1010)の前記第1の反射率曲線において、前記波長の関数としての前記反射率は、前記指定された波長範囲内で、最大反射率に対して少なくとも5%、特に少なくとも10%変動することを特徴とする、請求項1または2に記載の光学構成要素。
【請求項6】
前記光学構成要素は第3の波長依存反射率曲線を有する少なくとも1つの第3の層の系(730、830、930、1030)を更に備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の光学構成要素。
【請求項7】
前記第1の層の系(710、810、910、1010)、前記第2の層の系(720、820、920、1020)、および前記第3の層の系(730、830、930、1030)の結果的な合計反射率について、前記指定された波長範囲内での所望の線形反射率曲線からの相対偏差は5%以下、特に3%以下、より特定的には2%以下であることを特徴とする、請求項6に記載の光学構成要素。
【請求項8】
前記指定された波長範囲は所与の動作波長λ0について、0.95λ0~1.05λ0、特に0.9λ0~1.1λ0、より特定的には0.8λ0~1.2λ0、より特定的には0.7λ0~1.3λ0にわたることを特徴とする、請求項1または2に記載の光学構成要素。
【請求項9】
前記光学構成要素は少なくとも1つのビームスプリッタを備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の光学構成要素。
【請求項10】
前記光学構成要素は光学系の光ビーム経路からの成分ビームを出力結合するための出力結合素子を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の光学構成要素。
【請求項11】
前記光学構成要素は光学系の光ビーム経路内で成分ビームを偏向させるための偏向素子を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の光学構成要素。
【請求項12】
前記光学構成要素は100nm~700nmの範囲の動作波長用に設計されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の光学構成要素。
【請求項13】
請求項1または2に記載の光学構成要素を備える、特にマイクロリソグラフィ用の、光学系。
【請求項14】
前記光学構成要素はレーザー光源内に配置されていることを特徴とする、請求項13に記載の光学系。
【外国語明細書】