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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182934
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】回転角度検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20231220BHJP
   G01B 7/30 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
G01D5/245 110W
G01B7/30 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096206
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】佐川 正憲
【テーマコード(参考)】
2F063
2F077
【Fターム(参考)】
2F063AA36
2F063BA08
2F063CA34
2F063GA52
2F077AA27
2F077AA43
2F077CC02
2F077CC07
2F077CC09
2F077DD05
2F077JJ02
2F077JJ23
2F077NN03
2F077NN17
2F077NN24
2F077PP11
2F077QQ15
2F077QQ17
(57)【要約】
【課題】シャフトの絶対角を複数回転にわたって検出することが可能な設置スペースが小さい回転角度検出装置を提供する。
【解決手段】回転角度検出装置2は、ステアリングシャフト11と一体に回転するターゲット31と、ステアリングシャフト11の回転に伴ってステアリングシャフト11と異なる回転速度で回転する従動ギヤ33と、ターゲット31が接近したときに出力信号が変化する第1のセンサ35と、従動ギヤ33の1回転以内の回転角度を検出する第2のセンサ36と、第1のセンサ35の出力信号及び従動ギヤ33の回転角度に基づいてステアリングシャフト11の絶対角を算出する演算部4とを備える。第1のセンサ35の出力信号は、従動ギヤ33の回転周期と異なる周期で変化し、演算部4は、第1のセンサ35の出力信号が変化したときの従動ギヤ33の回転角度により、そのときのステアリングシャフト11の絶対角を検出する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非回転部材に対して回転するシャフトの絶対角を複数回転にわたって検出する回転角度検出装置であって、
前記シャフトと一体に回転する少なくとも一つのターゲットと、
前記シャフトの回転に伴って前記シャフトと異なる回転速度で回転する回転部材と、
前記ターゲットが接近したときに出力信号が変化する第1のセンサと、
前記回転部材の1回転以内の回転角度を検出する第2のセンサと、
前記第1のセンサの出力信号及び前記第2のセンサによって検出された前記回転部材の回転角度に基づいて前記シャフトの絶対角を算出する演算部とを備え、
前記シャフトの回転時に前記第1のセンサの出力信号が前記回転部材の回転周期と異なる周期で変化し、
前記演算部は、前記第1のセンサの出力信号が変化したときの前記回転部材の回転角度により、そのときの前記シャフトの絶対角を検出する、
回転角度検出装置。
【請求項2】
前記シャフトの外周に設けられて前記シャフトと一体に回転する駆動ギヤを有し、
前記回転部材は、前記駆動ギヤに噛み合って回転する従動ギヤである、
請求項1に記載の回転角度検出装置。
【請求項3】
前記従動ギヤのピッチ円径が前記駆動ギヤのピッチ円径の2分の1よりも小さい、
請求項2に記載の回転角度検出装置。
【請求項4】
前記非回転部材に固定されたケース部材を備え、
前記ケース部材に形成された開口部から前記回転部材の一部が突出し、当該突出した前記回転部材の一部が前記駆動ギヤに噛み合っている、
請求項2又は3に記載の回転角度検出装置。
【請求項5】
前記ターゲットは、前記シャフトに固定された磁石であり、
前記第1のセンサは、前記ターゲットが接近したときにパルス信号を出力する磁界スイッチである、
請求項1に記載の回転角度検出装置。
【請求項6】
前記非回転部材に固定されたケース部材を備え、
前記ケース部材に形成された窓部に前記第1のセンサの一部が収容されている、
請求項5に記載の回転角度検出装置。
【請求項7】
前記回転部材の中心部に磁石が固定されており、
前記第2のセンサは、前記回転部材の回転軸に対して垂直な2方向の磁界の強度を検出可能な磁界センサである、
請求項1に記載の回転角度検出装置。
【請求項8】
前記シャフトは、車両の操舵部材に連結されたステアリングシャフトであり、
前記操舵部材の中立位置の近傍で前記第1のセンサの出力信号が変化する、
請求項1に記載の回転角度検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転するシャフトの絶対角を複数回転にわたって検出する回転角度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両の操舵部材に連結されたステアリングシャフトの回転角を検出する装置として、特許文献1に記載の回転角度検出装置が知られている。この回転角度検出装置は、ステアリングシャフトに固定された主歯車と、主歯車に噛み合って回転する第1歯車及び第2歯車と、第1歯車に取り付けられた磁石と、第2歯車に取り付けられた磁石と、第1歯車に取り付けられた磁石の磁界を検出する第1磁気検出素子と、第2歯車に取り付けられた磁石の磁界を検出する第2磁気検出素子とを備えている。第1歯車と第2歯車とは、ピッチ円径及び歯数が互いに異なり、ステアリングシャフトの回転に伴って異なる速度で回転する。これにより、ステアリングシャフトの回転数に応じて第1歯車及び第2歯車の相対的な回転角の関係が変化するので、多回転するステアリングシャフトの絶対角度を検出することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-56078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の回転角度検出装置は、回転角の検出対象のシャフトの外周に第1歯車及び第2歯車が配置されるので、設置スペースが大きくなってしまう。特に、特許文献1に記載の回転角度検出装置が車両に搭載されてステアリングシャフトの回転角度を検出するために用いられる場合には、設置スペースの大きさにより車両搭載上の問題が発生するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、設置スペースが小さい回転角度検出装置を提供することにある。また、本発明のさらなる目的は、低コスト化が可能な回転角度検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成することを目的として、非回転部材に対して回転するシャフトの絶対角を複数回転にわたって検出する回転角度検出装置であって、前記シャフトと一体に回転する少なくとも一つのターゲットと、前記シャフトの回転に伴って前記シャフトと異なる回転速度で回転する回転部材と、前記ターゲットが接近したときに出力信号が変化する第1のセンサと、前記回転部材の1回転以内の回転角度を検出する第2のセンサと、前記第1のセンサの出力信号及び前記第2のセンサによって検出された前記回転部材の回転角度に基づいて前記シャフトの絶対角を算出する演算部とを備え、前記シャフトの回転時に前記第1のセンサの出力信号が前記回転部材の回転周期と異なる周期で変化し、前記演算部は、前記第1のセンサの出力信号が変化したときの前記回転部材の回転角度により、そのときの前記シャフトの絶対角を検出する、回転角度検出装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回転角度検出装置の設置スペースを小さくすることができる。また、本発明によれば、回転角度検出装置を低コスト化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る回転角度検出装置によって操舵角が検出される車両用ステアリング装置の概略構成図である。
図2】回転角度検出装置のセンサ部をステアリングシャフト及び非回転部材としての取付ステーと共に示す構成図である。
図3】センサ部を示す斜視図である。
図4】センサ部の分解斜視図である。
図5図4とは異なる方向から見たセンサ部の分解斜視図である。
図6】(a)は、駆動ギヤをその軸方向から見た構成図である。(b)は、従動ギヤを磁石と共にその軸方向から見た構成図である。
図7】ステアリングシャフトの絶対角の検出範囲における従動ギヤの回転角度及び第1のセンサの出力信号を示すグラフである。
図8】演算部のCPUが実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図9】本発明の第2の実施の形態に係るセンサ部及びステアリングシャフトを示す斜視図である。
図10】センサ部の内部をステアリングシャフトの断面と共に示す構成図である。
図11】センサ部の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る回転角度検出装置2によって操舵角が検出される車両用ステアリング装置1の概略構成図である。車両用ステアリング装置1は、運転者が操舵操作する操舵部材であるステアリングホイール10と、ステアリングホイール10に連結されたステアリングシャフト11と、車幅方向に沿って進退移動可能に支持されたラックシャフト12と、ラックシャフト12の両端部に取り付けられた一対のボールジョイント13と、一対のボールジョイント13によってそれぞれラックシャフト12に対して揺動可能に連結された一対のタイロッド14と、ステアリングホイール10の操舵操作を補助する操舵補助力をステアリングシャフト11に付与する操舵補助装置15と、を有している。
【0010】
ステアリングシャフト11は、回転角度検出装置2による回転角度の検出対象のシャフトである。操舵補助装置15は、回転角度検出装置2によって検出される回転角度(操舵角)や、ステアリングホイール10に付与される操舵トルクに応じた操舵補助力をステアリングシャフト11に付与する。
【0011】
ステアリングシャフト11は、長手方向の一方の端部がステアリングホイール10に連結され、長手方向の他方の端部にピニオンギヤ111が設けられている。ラックシャフト12には、ピニオンギヤ111に噛み合うラックギヤ121が設けられている。ステアリングホイール10が操舵操作されると、ステアリングホイール10と共にステアリングシャフト11が回転し、ラックシャフト12が車幅方向に移動する。これにより、左右の転舵輪16,17が転舵される。
【0012】
回転角度検出装置2は、ステアリングシャフト11の近傍に取り付けられたセンサ部3と、演算部4と、センサ部3と演算部4とを接続するケーブル20とを有している。演算部4は、CPU(演算処理装置)40と、不揮発性メモリを有して構成された記憶部400とを有している。記憶部400には、CPU40が実行するプログラム401、及び後述する関係情報402が記憶されている。
【0013】
図2は、回転角度検出装置2のセンサ部3をステアリングシャフト11及び非回転部材としての取付ステー18と共に示す構成図である。図3は、センサ部3を示す斜視図である。図4は、センサ部3の分解斜視図である。図5は、図4とは異なる方向から見たセンサ部3の分解斜視図である。
【0014】
センサ部3は、ステアリングシャフト11と一体に回転するターゲット31と、ステアリングシャフト11の外周に設けられてステアリングシャフト11と一体に回転する駆動ギヤ32と、ステアリングシャフト11の回転に伴ってステアリングシャフト11と異なる回転速度で回転する回転部材としての従動ギヤ33と、従動ギヤ33の中心部に固定された磁石34と、ターゲット31が接近したときに出力信号が変化する第1のセンサ35と、従動ギヤ33の1回転以内の回転角度を検出する第2のセンサ36と、第1のセンサ35及び第2のセンサ36が実装された基板37と、複数のコネクタピン381~384を有する端子部38と、ボルト19によって取付ステー18に固定されるケース部材39とを有している。
【0015】
取付ステー18は、例えば車体のステアリングメンバの一部であるが、ケース部材39の取付対象はこれに限らず、車体に対して回転しない様々な非回転部材にケース部材39を取り付けることが可能である。回転角度検出装置2は、ステアリングシャフト11の絶対角を複数回転にわたって検出する。本実施の形態では、ステアリングホイール10が中立位置(車両が直進する位置)であるときのステアリングシャフト11の回転角度を0°とし、ステアリングシャフト11がステアリングホイール10と共に右方向及び左方向にそれぞれ3回転する範囲内(-1080°から1080°までの範囲)で、回転角度検出装置2がステアリングシャフト11の絶対角を検出可能な場合について説明する。
【0016】
本実施の形態では、図2に示すように、ステアリングシャフト11の外周面11aに二つのターゲット31が周方向等間隔に固定されている。つまり、ステアリングシャフト11の回転軸線Oを中心として、二つのターゲット31が180°ごとに固定されている。ただし、ターゲット31の数は、これに限らず、三つ以上でもよいし、一つでもよい。すなわち、少なくとも一つのターゲット31がステアリングシャフト11に固定されていればよい。
【0017】
また、本実施の形態では、ターゲット31が、ステアリングシャフト11の外周面11a側の面31aとその反対側の面31bとが異なる磁性を有する2極磁石であり、第1のセンサ35は、ターゲット31が接近したときにパルス信号を出力する磁界スイッチである。ターゲット31としては、例えばフェライト、ネオジウム、サマリウムコバルト、又はアルニコ磁石を用いることができる。第1のセンサ35としては、例えばホール素子を用いることができる。なお、複数の磁極を有してステアリングシャフト11に外嵌されるリング磁石をターゲット31として用いてもよい。
【0018】
図6(a)は、駆動ギヤ32をその軸方向から見た構成図である。図6(b)は、従動ギヤ33を磁石34と共にその軸方向から見た構成図である。駆動ギヤ32及び従動ギヤ33は、非磁性体からなり、より具体的には射出成型された樹脂からなる。従動ギヤ33は、駆動ギヤ32に噛み合い、ステアリングシャフト11の回転に伴って駆動ギヤ32よりも速い回転速度で回転する。従動ギヤ33は、歯数が駆動ギヤ32よりも少なく、従動ギヤ33のピッチ円径Pは、駆動ギヤ32のピッチ円径Pの2分の1よりも小さい。本実施の形態では、駆動ギヤ32の歯数が55、従動ギヤ33の歯数が26であり、駆動ギヤ32と従動ギヤ33とのギヤ比(駆動ギヤ32の歯数÷従動ギヤ33の歯数)が約2.1である。
【0019】
磁石34は、N極34NとS極34Sとが従動ギヤ33の直径方向に並ぶ2極磁石であり、例えばフェライト、ネオジウム、サマリウムコバルト、又はアルニコ磁石からなる。第2のセンサ36は、従動ギヤ33の回転軸に対して垂直な2方向の磁界の強度を検出可能な磁界センサであり、磁石34に対向して配置されている。第2のセンサ36としては、例えばホール素子や、GMR(Giant Magneto Resistive effect)素子、あるいはTMR(Tunneling Magneto Resistive)素子などを用いることができる。
【0020】
図5に示すように、従動ギヤ33の回転軸をZ軸とし、第2のセンサ36が検出可能な磁界の2方向をX軸及びY軸としたとき、X軸、Y軸、及びZ軸は互いに直交する。演算部4は、磁石34が発生するX軸方向及びY軸方向の磁界の向き及び強度の検出結果を第2のセンサ36から取得して、従動ギヤ33の1回転以内の回転角度を算出することが可能である。演算部4は、ステアリングホイール10が中立位置であるときの従動ギヤ33の角度を0°として、従動ギヤ33の回転角度を算出する。
【0021】
基板37は、例えばガラスエポキシ等の平板状の誘電体を基材とするプリント基板であり、ケース部材39に収容されている。端子部38は、基板37に接続された第1乃至第4のコネクタピン381~384と、樹脂からなる固定部材385とを有している。第1乃至第4のコネクタピン381~384は、固定部材385に固定され、基板37の端部に沿って一列に並んでいる。第1乃至第4のコネクタピン381~384と、第1のセンサ35及び第2のセンサ36とは、基板37に形成された不図示の配線パターンによって接続されている。第1のコネクタピン381は、例えば電源ピンであり、第2のコネクタピン382は、例えば電気的に接地されたグランドピンである。第3のコネクタピン383は、例えば第1のセンサ35の出力信号を演算部4に送信する信号ピンであり、第4のコネクタピン384は、例えば第2のセンサ36の出力信号を演算部4に送信する信号ピンである。
【0022】
ケース部材39は、樹脂製のケース本体391及びケース蓋体392を有し、ケース本体391とケース蓋体392とが例えば接着や超音波溶着によって接合されている。ケース本体391には、従動ギヤ33の中心部に設けられたボス部331が嵌合する凹部391aが形成されている。従動ギヤ33は、ボス部331が凹部391aに嵌合されることにより、ケース部材39に対して回転可能に支持されている。
【0023】
また、ケース本体391には、コネクタハウジング部391b及びフランジ部391cが形成されている。コネクタハウジング部391bは、端子部38と共にケース部材39のコネクタ部390を構成する。コネクタハウジング部391bには、ケーブル20のコネクタ部が嵌合し、端子部38の第1乃至第4のコネクタピン381~384には、ケーブル20の導線が電気的に接続される。フランジ部391cには、ケース部材39を取付ステー18に固定するためのボルト19を挿通させるボルト挿通孔391dが形成されている。ボルト挿通孔391dは、金属製のカラー391eによって補強されている。
【0024】
ケース蓋体392には、従動ギヤ33の一部を突出させるためのスリット状の開口部392a、及び第1のセンサ35の一部を収容する窓部392bが形成されている。従動ギヤ33は、周方向の一部が開口部392aからケース部材39の外部に突出し、この突出した一部が駆動ギヤ32に噛み合っている。第1のセンサ35は、その一部が窓部392bに収容されることによりターゲット31との最短距離が短くなっており、ターゲット31の接近を検出する際の検出精度が高められている。
【0025】
演算部4は、第1のセンサ35の出力信号及び第2のセンサ36によって検出された従動ギヤ33の回転角度に基づいて、所定の角度範囲(本実施の形態では-1080°から1080°まで)におけるステアリングシャフト11の絶対角を演算する。ステアリングシャフト11の絶対角は、ステアリングホイール10が中立位置であるときからのステアリングシャフト11の回転数に360を乗じた積に、第2のセンサ36によって検出した従動ギヤ33の1回転以内の回転角度をギヤ比で除した値を加えることにより求めることができる。
【0026】
前述のように、駆動ギヤ32と従動ギヤ33とは歯数が異なるので、ステアリングシャフト11の回転時には、第1のセンサ35の出力信号が従動ギヤ33の回転周期と異なる周期で変化する。また、駆動ギヤ32と従動ギヤ33とのギヤ比は、整数倍ではなく非整数倍であり、ステアリングホイール10の中立位置から右方向への1~3回転目及び左方向への1~3回転目のそれぞれにおいて、第1のセンサ35の出力信号が変化するときの従動ギヤ33の回転角度が異なる。このため、第1のセンサ35の出力信号が変化したときに第2のセンサ36によって検出される従動ギヤ33の回転角度により、そのときのステアリングシャフト11の回転数を求めることができる。
【0027】
ここで、ステアリングシャフト11の回転数は、正又は負の整数値であり、ステアリングホイール10の中立位置から右方向へのステアリングシャフト11の1回転(360°回転)が完了したときを1とし、同方向への2回転(720°回転)が完了したときを2とする。また、ステアリングホイール10の中立位置から左方向へのステアリングシャフト11の1回転(-360°回転)が完了したときを-1とし、同方向に2回転(-720°回転)が完了したときを-2とする。
【0028】
演算部4は、第1のセンサ35の出力信号が変化したときの従動ギヤ33の回転角度に基づいて、記憶部400に記憶された関係情報402を参照し、そのときのステアリングシャフト11の絶対角を検出する。関係情報402には、ステアリングホイール10の中立位置から右方向への1~3回転目及び左方向への1~3回転目のそれぞれにおいて、第1のセンサ35の出力信号が変化するときの従動ギヤ33の回転角度の情報が示されている。
【0029】
ここで、演算部4が所定の角度範囲においてステアリングシャフト11の絶対角を算出可能であるためのギヤ比及びターゲット31の角度間隔の条件について、式(1)~(3)を参照して説明する。式(1)~(3)において、αは駆動ギヤ32と従動ギヤ33とのギヤ比であり、Ψはステアリングシャフト11の周方向におけるターゲット31の角度間隔(本実施の形態では180°)であり、Nはステアリングシャフト11の回転角度が0°から所定の角度範囲における絶対値の最大値(本実施の形態では1080°)までの間のステアリングシャフト11の回転数(本実施の形態では3)である。
【0030】
ステアリングシャフト11がステアリングホイール10の中立位置からn回転したときの従動ギヤ33の回転量Rは、式(1)で与えられる。
【数1】
【0031】
この際の回転量Rに対する第1のセンサ35の出力信号の中立位置からの角度のズレ量Δθは、式(2)で与えられる。
【数2】
【0032】
第1のセンサ35の出力信号によってステアリングシャフト11の絶対角を検出するためには、このΔθが従動ギヤ33の1回転の範囲内(±180°の範囲内)にある必要がある。したがって、α、Ψ、及びNを、式(3)を満たすように設定する必要がある。
【数3】
【0033】
図7は、本実施の形態において、ステアリングシャフト11の絶対角の検出範囲(-1080°から1080°まで)における従動ギヤ33の回転角度及び第1のセンサ35の出力信号を示すグラフである。第1のセンサ35の出力信号については、第1のセンサ35とターゲット31とが近接状態にあるときの第1のセンサ35の出力信号を1とし、近接状態にないときの出力信号を0としている。
【0034】
このグラフに示すように、第1のセンサ35の出力信号が0から1に立ち上がる時の従動ギヤ33の回転角度は、ステアリングシャフト11の回転数によってそれぞれ異なる。図7に示す例では、第1のセンサ35の出力信号が0から1に立ち上がる時の従動ギヤ33の回転角度が、ステアリングシャフト11の回転角度が0より大きい範囲ではステアリングシャフト11の回転角度が大きいほど大きく、ステアリングシャフト11の回転角度が0より小さい範囲ではステアリングシャフト11の回転角度が小さい(-1080°に近い)ほど小さく(-180°に近く)なっている。これにより、演算部4は、ステアリングシャフト11の絶対角を演算することが可能である。
【0035】
また、本実施の形態では、図7に示すように、ステアリングホイール10の中立位置の近傍で第1のセンサ35の出力信号が変化する。図7に示す例では、ステアリングホイール10が中立位置にあるときに第1のセンサ35の出力信号が1であり、中立位置から左右何れの方向にステアリングホイール10が操舵操作された場合にも、第1のセンサ35の出力信号が0に変化することにより、そのときのステアリングシャフト11の絶対角を検出することができる。これにより、車両の起動スイッチ(例えばイグニッションスイッチ)がオン状態となって演算部4やセンサ部3に電力が供給され、車両が走行し始めてから、速やかにステアリングシャフト11の絶対角を検出することが可能である。なお、第1のセンサ35の出力信号は、操舵角の絶対値が0°から90°までの間で少なくとも1回変化することが望ましい。
【0036】
また、本実施の形態では、図7に示すように、従動ギヤ33が1回転する間に少なくとも1回は第1のセンサ35の出力信号が変化するので、ステアリングホイール10が右方向又は左方向に大きく回転している状態で車両の起動スイッチがオン状態となり、車両が走行を始めた場合でも、ステアリングシャフト11の絶対角が検出できないまま長い距離を走行してしまうことが抑制される。
【0037】
図8は、車両の起動スイッチがオン状態となった後に演算部4のCPU40が実行する処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理において、CPU40はまず、第1のセンサ35の出力信号が変化するのを待ち(ステップS1)、第1のセンサ35の出力信号が変化したら、第2のセンサ36の検出結果に基づいてそのときの従動ギヤ33の回転角度を算出する(ステップS2)。そして、求めた従動ギヤ33の回転角度に基づいて関係情報402を参照してステアリングシャフト11の回転数を求め(ステップS3)、求めた回転数と従動ギヤ33の回転角度とからステアリングシャフト11の絶対角を検出する(ステップS4)。そして、このステアリングシャフト11の絶対角の検出結果の情報を外部に出力する(ステップS5)。
【0038】
これ以降、CPU40は、所定の制御周期ごとに第1のセンサ35の出力信号が変化したか否かを判定し(ステップS6)、前回の制御周期から第1のセンサ35の出力信号が変化していれば、ステップS2からS5までの処理と同様の処理をステップS7からS10として実行する。一方、CPU40は、前回の制御周期から第1のセンサ35の出力信号が変化していなければ、第2のセンサ36の検出結果に基づいて従動ギヤ33の回転角度を算出し(ステップS11)、前回の制御周期もしくはそれより前の制御周期において求めた最新のステアリングシャフト11の回転数とステップS11で算出した従動ギヤ33の回転角度とからステアリングシャフト11の絶対角を検出し(ステップS12)、ステアリングシャフト11の絶対角の検出結果の情報を外部に出力する(ステップS13)。
【0039】
なお、ステップS1及びステップS6の処理における第1のセンサ35の出力信号の変化は、0から1への立ち上がりでもよく、1から0への立ち下りでもよく、その両方でもよい。CPU40がステップS1又はステップS6の処理を実行する時間間隔(上記の制御周期)は、ステアリングホイール10が素早く回転操作されたときの第1のセンサ35の出力信号のパルス幅よりも短く設定されている。ステップS5、S10、及びS13の処理におけるステアリングシャフト11の絶対角の検出結果の出力先は、例えば操舵補助装置15であるが、これに限らず、例えば車両の挙動を安定化させるための制御を行うスタビリティ制御装置等であってもよい。
【0040】
以上説明した第1の実施の形態によれば、上記した従来の回転角度検出装置のようにシャフトの外周に第1歯車及び第2歯車が配置され場合に比較して、設置スペースを小さくすることが可能となる。また、従動ギヤ33及び第2のセンサ36がそれぞれ一つでよいため、低コスト化も可能となる。
【0041】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態に係る回転角度検出装置について説明する。第2の実施の形態に係る回転角度検出装置は、センサ部3Aの構成が、第1の実施の形態のセンサ部3とは異なっている。以下、このセンサ部3A及び回転角度の検出対象のシャフトであるステアリングシャフト11Aの構成について、図9乃至図11を参照して説明する。なお、図9乃至図11において、第1の実施の形態について説明したものと共通する構成要素については、図2乃至図5に付したものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0042】
図9は、センサ部3Aをステアリングシャフト11Aに取り付けた状態を示す斜視図である。図10は、センサ部3Aの内部をステアリングシャフト11Aの断面と共に示す構成図である。図11は、センサ部3Aの分解斜視図である。
【0043】
第1の実施の形態では、駆動ギヤ32がケース部材39の外部に配置されていたが、本実施の形態では、センサ部3Aのケース部材39Aに駆動ギヤ32Aが保持されている。ケース部材39Aは、ケース本体391A及びケース蓋体392Aを有しており、ケース本体391Aとケース蓋体392Aとの間に、第1のセンサ35、第2のセンサ36、及び端子部38が実装された基板37、ならびに従動ギヤ33が収容されている。
【0044】
駆動ギヤ32Aは、例えば樹脂からなり、リング状の基体部321と、基体部321の外周に設けられた歯車部322と、基体部321の内周に設けられた複数の係止突起323とを一体に有している。駆動ギヤ32Aの基体部321及び歯車部322は、ケース本体391Aの駆動ギヤ収容部391f及びケース蓋体392Aの駆動ギヤ収容部392cに収容されている。駆動ギヤ収容部391f,392cは、それぞれがステアリングシャフト11Aを囲む環状に形成されている。
【0045】
ステアリングシャフト11Aには、駆動ギヤ32Aの複数の係止突起323がそれぞれ係合する複数の係合溝112が形成されており、係合溝112に係止突起323が係合することにより駆動ギヤ32Aがステアリングシャフト11Aに対して回り止めされる。係合溝112は、ステアリングシャフト11Aの軸方向に対して平行に延在している。ステアリングシャフト11Aにセンサ部3Aを取り付ける際には、駆動ギヤ収容部391f,392cの内側にステアリングシャフト11Aを挿入し、複数の係合溝112のそれぞれに複数の係止突起323を係合させる。
【0046】
センサ部3Aの第1のセンサ35及び第2のセンサ36の出力信号は、第1の実施の形態と同様、演算部4に送信され、これらの出力信号に基づいてステアリングシャフト11Aの絶対角が検出される。ケース蓋体392Aには、第2のセンサ36の一部を収容する窓部392dが、駆動ギヤ収容部392cの周方向の一部に形成されている。
【0047】
この第2の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の効果が得られる。また、センサ部3Aのケース部材39Aに駆動ギヤ32Aが保持されているため、ステアリングシャフト11Aへのセンサ部3Aの取り付けが容易となる。
【0048】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した第1及び第2の実施の形態から把握される技術思想について、各実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0049】
[1]非回転部材(取付ステー18)に対して回転するシャフト(ステアリングシャフト11,11A)の絶対角を複数回転にわたって検出する回転角度検出装置(2)であって、前記シャフト(11,11A)と一体に回転する少なくとも一つのターゲット(31)と、前記シャフト(11,11A)の回転に伴って前記シャフト(11,11A)と異なる回転速度で回転する回転部材(従動ギヤ33)と、前記ターゲット(31)が接近したときに出力信号が変化する第1のセンサ(35)と、前記回転部材(33)の1回転以内の回転角度を検出する第2のセンサ(36)と、前記第1のセンサ(35)の出力信号及び前記第2のセンサ(36)によって検出された前記回転部材(33)の回転角度に基づいて前記シャフト(11,11A)の絶対角を算出する演算部(4)とを備え、前記シャフト(11,11A)の回転時に前記第1のセンサ(35)の出力信号が前記回転部材(33)の回転周期と異なる周期で変化し、前記演算部(4)は、前記第1のセンサ(35)の出力信号が変化したときの前記回転部材(33)の回転角度により、そのときの前記シャフト(11,11A)の絶対角を検出する、回転角度検出装置(2)。
【0050】
[2]前記シャフト(11,11A)の外周に設けられて前記シャフト(11,11A)と一体に回転する駆動ギヤ(32)を有し、前記回転部材(33)は、前記駆動ギヤ(32)に噛み合って回転する従動ギヤ(33)である、上記[1]に記載の回転角度検出装置(2)。
【0051】
[3]前記従動ギヤ(33)のピッチ円径(P)が前記駆動ギヤ(32)のピッチ円径(P)の2分の1よりも小さい、上記[2]に記載の回転角度検出装置(2)。
【0052】
[4]前記非回転部材(18)に固定されたケース部材(39,39A)を備え、前記ケース部材(39,39A)に形成された開口部(392a)から前記回転部材(33)の一部が突出し、当該突出した前記回転部材(33)の一部が前記駆動ギヤ(32)に噛み合っている、上記[2]又は[3]に記載の回転角度検出装置(2)。
【0053】
[5]前記ターゲット(31)は、前記シャフト(11,11A)に固定された磁石であり、前記第1のセンサ(35)は、前記ターゲット(31)が接近したときにパルス信号を出力する磁界スイッチである、上記[1]に記載の回転角度検出装置(2)。
【0054】
[6]前記非回転部材(18)に固定されたケース部材(39,39A)を備え、前記ケース部材(39,39A)に形成された窓部(392b)に前記第1のセンサ(35)の一部が収容されている、上記[5]に記載の回転角度検出装置(2)。
【0055】
[7]前記回転部材(33)の中心部に磁石(34)が固定されており、前記第2のセンサ(36)は、前記回転部材(33)の回転軸に対して垂直な2方向の磁界の強度を検出可能な磁界センサである、上記[1]に記載の回転角度検出装置(2)。
【0056】
[8]前記シャフト(11,11A)は、車両の操舵部材(ステアリングホイール10)に連結されたステアリングシャフトであり、前記操舵部材(10)の中立位置の近傍で前記第1のセンサ(35)の出力信号が変化する、上記[1]に記載の回転角度検出装置(2)。
【0057】
以上、本発明の第1及び第2の実施の形態を説明したが、上記した各実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない限り適宜変形して実施することが可能であり、例えば次のように変形することができる。
【0058】
上記の実施の形態では、回転部材としての従動ギヤ33が駆動ギヤ32に噛み合って回転する場合について説明したが、回転部材としてはこれに限らず、例えばベルト駆動により、ステアリングシャフト11の回転に伴ってステアリングシャフト11と異なる回転速度で回転するものであってもよい。また、回転角度の検出対象のシャフトとしては、ステアリングシャフト11に限らず、例えば車両用や産業機械用の各種のシャフトを回転角度の検出対象にすることが可能である。
【0059】
また、上記の実施の形態では、ターゲット31が2極磁石である場合について説明したが、これに限らず、ターゲット31が例えば金属製の突起であり、第1のセンサ35が例えば静電容量型の近接スイッチであってもよい。つまり、第1のセンサ35は、ステアリングシャフト11の回転によってターゲット31がステアリングシャフト11と第1のセンサ35との間を通過するときに出力信号が変化するものであればよく、例えば光学式のものであってもよい。第1のセンサ35が光学式のものである場合、ターゲット31としては例えば反射材を用いることができる。
【符号の説明】
【0060】
11,11A…ステアリングシャフト(シャフト) 18…取付ステー(非回転部材)
2…回転角度検出装置 3,3A…センサ部
32…駆動ギヤ 33…従動ギヤ
34…磁石 35…第1のセンサ
36…第2のセンサ 39,39A…ケース部材
392a…開口部 392b…窓部
4…演算部 P,P…ピッチ円径
図1
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図11