IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リコーの特許一覧

特開2023-18297液体吐出ヘッド装置、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018297
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド装置、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20230201BHJP
   B41J 2/145 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
B41J2/01 203
B41J2/145
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122321
(22)【出願日】2021-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】平野 裕理
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA07
2C056EB08
2C056EB13
2C056EB37
2C056EB45
2C056EC08
2C056EC35
2C056EC71
2C056EC77
2C056FA10
2C056FA13
2C056HA22
2C057AF30
2C057AG14
2C057AG16
2C057AM13
2C057AM25
2C057AN01
2C057AN05
(57)【要約】
【課題】ノズル切り替え位置でのピッチずれを良好に抑制することができる液体吐出ヘッド装置、液体吐出ヘッド装置、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】2つの液体吐出ヘッドのうちの一方の液体吐出ヘッドのノズル列の一部と他方の液体吐出ヘッドのノズル列の一部とが重複する重複領域内で液体吐出動作を行う有効なノズルを一方の液体吐出ヘッドのノズルから他方の液体吐出ヘッドのノズルへと切り替えるノズル切替位置が、自己気流等によるノズルから吐出された液体の吐出曲がり量(θ(α,βch))を考慮に入れて算出された一方の液体吐出ヘッドの着弾位置Xc(A,βch)と他方の液体吐出ヘッドの着弾位置Xc(B,βch)との差が最小となるノズル位置に設定されている。
【選択図】図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルがそれぞれ配列された2つの液体吐出ヘッドのうちの一方の液体吐出ヘッドにおけるノズル列のヘッド長手方向範囲を他方の液体吐出ヘッドにおけるノズル列のヘッド長手方向範囲と一部重複させるように、該2つの液体吐出ヘッドがヘッド長手方向に対して直交する方向にずらして配置され、
前記一部重複させる重複領域内で液体吐出動作を行う有効なノズルを前記一方の液体吐出ヘッドのノズルから前記他方の液体吐出ヘッドのノズルへと切り替えるノズル切替位置を設定する液体吐出ヘッド装置であって、前記ノズル切替位置は、下記式1の関係を満たす一方の液体吐出ヘッドAの重複領域内の各ノズルの着弾位置(XcA,βch)と、下記式1の関係を満たす他方の液体吐出ヘッドBの重複領域内の各ノズルの着弾位置(Xc(B,βch))との差|Xc(B,βch)-Xc(A,βch)|が最小となるノズル位置であることを特徴とする液体吐出ヘッド装置。

Xc(α,βch)
=Xn(α,βch)+d×tanθ(α,βch)・・・(式1)

α:一方の液体吐出ヘッドAと他方の液体吐出ヘッドBとを識別するラベル(AまたはB)
β:ヘッド長手方向一端側からのノズル番号(1,2,・・・,N(N=重複領域内のノズル数))
θ(α,βch):重複領域内の各ノズルの吐出曲がり量
Xn(α,βch):重複領域内の各ノズルのヘッド長手方向の位置
d:ノズルと吐出対象との距離
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出ヘッド装置において、
前記ノズルと吐出対象との距離dが変更されたとき、前記ノズル切替位置の設定を行うことを特徴とする液体吐出ヘッド装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド装置において、
前記一方の液体吐出ヘッドAの重複領域内のノズルピッチと、前記他方の液体吐出ヘッドBの重複領域内のノズルピッチとが互いに異なることを特徴とする液体吐出ヘッド装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド装置において、
下記式2を満たすように、各液体吐出ヘッドの重複領域内の各ノズルのノズル位置を設定したことを特徴とする液体吐出ヘッド装置。
tanθfit(Xn(α,βch))
=(Xd(α,βch)-Xn(α,βch))/d・・・(式2)
α:一方の液体吐出ヘッドAと他方の液体吐出ヘッドBとを識別するラベル(AまたはB)
β:ノズル番号(1,2,・・・,N(N=重複領域内のノズル数))
θfit(Xn(α,βch)):設定ノズル位置における吐出曲がり量
Xn(α,βch):設定ノズル位置
Xd(α,βch):着弾ピッチが一定なるように設定された目標着弾位置
d:ノズルと吐出対象との距離
【請求項5】
請求項4に記載の液体吐出ヘッド装置において、
前記一方の液体吐出ヘッドAの重複領域内のノズルから吐出された液体の吐出対象上での着弾ピッチと、前記他方の液体吐出ヘッドBの重複領域内のノズルから吐出された液体の被対象体上での着弾ピッチとが互いに異なることを特徴とする液体吐出ヘッド装置。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか一項に記載の液体吐出ヘッド装置を含むことを特徴とする液体吐出ユニット。
【請求項7】
請求項1乃至5いずれか一項に記載の液体吐出ヘッド装置、又は、請求項6に記載の液体吐出ユニットを備えることを特徴とする液体を吐出する装置。
【請求項8】
複数のノズルがそれぞれ配列された2つの液体吐出ヘッドのうちの一方の液体吐出ヘッドにおけるノズル列のヘッド長手方向範囲を他方の液体吐出ヘッドにおけるノズル列のヘッド長手方向範囲と一部重複させるように、該2つの液体吐出ヘッドがヘッド長手方向に対して直交する方向にずらして配置され、
前記一部重複させる重複領域内で液体吐出動作を行う有効なノズルを前記一方の液体吐出ヘッドのノズルから前記他方の液体吐出ヘッドのノズルへと切り替えるノズル切替位置が設定される液体吐出ヘッド装置の前記ノズル切替位置を設定するために、コンピュータに実行されるプログラムであって、
前記一方の液体吐出ヘッドAの各ノズルの着弾位置(Xc(A,βch))を下記(式3)で求める工程と、
前記他方の液体吐出ヘッドBの各ノズルの着弾位置(Xc(B,βch))を下記(式3)で求める工程と、
|Xc(B,βch)-Xc(A,βch)|を算出する工程と、
|Xc(B,βch)-Xc(A,βch)|が最小となるノズル位置をノズル切替位置に設定する工程とを前記コンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。

Xc(α,βch)
=Xn(α,βch)+d×tanθ(α,βch)・・・(式3)
α:一方の液体吐出ヘッドAと他方の液体吐出ヘッドBとを識別するラベル(AまたはB)
β:ノズル番号(1,2,・・・,N(N=重複領域内のノズル数))
θ(α,βch):ノズルから吐出された液体の曲がり量
Xn(α,βch):重複領域内の各ノズルのノズル位置
d:ノズルと吐出対象との距離
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド装置、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のノズルがそれぞれ配列された2つの液体吐出ヘッドのうちの一方の液体吐出ヘッドにおけるノズル列を他方の液体吐出ヘッドにおけるノズル列と一部重複させるように配置された液体吐出ヘッド装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、一方の記録ヘッド(液体吐出ヘッド)のノズル列のノズルピッチがP1で配列され、他方の記録ヘッドのノズル列のノズルピッチがP2(<P1)で配列されたライン記録ヘッド(液体吐出ヘッド装置)が開示されている。この特許文献1には、このライン記録ヘッドを組み立てた後の記録検査工程において、一方の記録ヘッドと他方の記録ヘッドとの重複領域内で液体吐出動作を行う有効なノズルを一方の記録ヘッドのノズルから他方の記録ヘッドのノズルへと切り替えるノズル切替位置を設定する。具体的には、ノズル切替位置を1つずつずらして記録材(記録材)上にドット記録を行い、一方の記録ヘッドと他方の記録ヘッドとの切り替え地点が作業者の目視により区別できない程度になっているときのノズル切替位置に設定する。これによれば、記録ヘッド間で高精度な位置合わせを行わなくても、ノズル切替位置での着弾ピッチずれによる記録ムラが抑制される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ノズル切替位置での着弾ピッチずれに改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明は、複数のノズルがそれぞれ配列された2つの液体吐出ヘッドのうちの一方の液体吐出ヘッドにおけるノズル列のヘッド長手方向範囲を他方の液体吐出ヘッドにおけるノズル列のヘッド長手方向範囲と一部重複させるように、該2つの液体吐出ヘッドがヘッド長手方向に対して直交する方向にずらして配置され、前記一部重複させる重複領域内で液体吐出動作を行う有効なノズルを前記一方の液体吐出ヘッドのノズルから前記他方の液体吐出ヘッドのノズルへと切り替えるノズル切替位置を設定する液体吐出ヘッド装置であって、前記ノズル切替位置は、下記式1の関係を満たす一方の液体吐出ヘッドAの重複領域内の各ノズルの着弾位置(XcA,βch)と、下記式1の関係を満たす他方の液体吐出ヘッドBの重複領域内の各ノズルの着弾位置(Xc(B,βch))との差|Xc(B,βch)-Xc(A,βch)|が最小となるノズル位置であることを特徴とするものである。

Xc(α,βch)
=Xn(α,βch)+d×tanθ(α,βch)・・・(式1)

α:一方の液体吐出ヘッドAと他方の液体吐出ヘッドBとを識別するラベル(AまたはB)
β:ヘッド長手方向一端側からのノズル番号(1,2,・・・,N(N=重複領域内のノズル数))
θ(α,βch):重複領域内の各ノズルの吐出曲がり量
Xn(α,βch):重複領域内の各ノズルのヘッド長手方向の位置
d:ノズルと吐出対象との距離
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ノズル切替位置での着弾ピッチずれを良好に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ヘッドユニットを記録材の法線方向から見た平面図。
図2】ヘッドユニットの記録部毎に設けられている一方の記録ヘッドと他方の記録ヘッドとのヘッド配置を示す説明図。
図3】ヘッド幅方向に沿って隣り合って並べされる2つの記録ヘッドのノズルピッチの関係を示す説明図。
図4】ヘッドユニットを搭載するインクジェット記録装置の制御系のハードウェア構成を示すブロック図。
図5】ヘッドユニットのヘッド駆動部のハードウェア構成を示すブロック図。
図6】一方の記録ヘッドと他方の記録ヘッドとの間のノズル切替位置の設定について説明する図。
図7】記録ヘッドの各ノズル5から吐出されるインク滴の吐出方向を示す模式図。
図8】吐出曲がり量について説明する図。
図9】記録ヘッドの各ノズルの吐出曲がり量の一例を示すグラフ。
図10】一方の記録ヘッドと他方の記録ヘッドとのオーバーラップ領域における各ノズルの吐出曲がり量について説明する図。
図11】本実施形態の各記録ヘッドのバーニアノズルについて説明する図。
図12】一方の記録ヘッドのバーニアノズルと、他方の記録ヘッドのバーニアノズルとの座標差をプロットしたグラフ。
図13】各記録ヘッドのバーニアノズル吐出曲がり量を示すグラフ。
図14図13に示す吐出曲がり量がある場合にノズル番号10chをノズル切替位置に設定したときの着弾ピッチを示すグラフ。
図15図13に示す吐出曲がり量から算出した着弾座標に基づき、求めた各バーニアノズルにおける着弾位置ずれを示すグラフ。
図16】本実施形態と従来技術との着弾ピッチを比較したグラフ。
図17】ノズル切替位置の設定の制御フロー図。
図18】幅方向各位置における吐出曲がり量の求めた方について説明する図。
図19】他方の記録ヘッドのバーニアノズルのノズル座標の設定について説明する図。
図20】液体を吐出する装置の他の一例についての要部平面説明図。
図21】同装置の要部側面説明図。
図22】液体吐出ユニットの他の一例についての要部平面説明図。
図23】液体吐出ユニットの更に他の一例についての正面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る液体吐出ヘッドを、液体を吐出する装置である画像形成装置としてのインクジェット記録装置の液体吐出ヘッド装置を備える液体吐出ユニットたるヘッドユニットに適用した一実施形態について説明する。
【0009】
まず、本実施形態におけるヘッドユニットについて説明する。
図1は、ヘッドユニット4を記録材P0の法線方向から見た平面図である。
記録材P0は、例えば用紙であり、ロール紙(連続用紙)又はカット紙等でもよい。また、用紙以外の様々な媒体でもよい。記録材P0は、図1に矢印で示す搬送方向に沿って搬送される。ヘッドユニット4は、記録材P0の記録面に、所定の距離を保って対向するように支持されている。
【0010】
ヘッドユニット4は、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各インク(液体)に対応して設けられた色毎の液体吐出ヘッド装置としてのK記録部2K、C記録部2C、M記録部2M及びY記録部2Yを備えている。すなわち、ヘッドユニット4は、4つの液体吐出ヘッド装置を組み合わせて構成されている。
【0011】
各色の記録部2K,2C,2M,2Yには、図1に示すように、ヘッド幅方向である記録材幅方向(搬送方向に対して直交する方向)に沿って、液体吐出ヘッドとしての記録ヘッド3Aおよび記録ヘッド3Bが千鳥状に並べて配置されている。なお、本実施形態では、説明の都合上、図1中左側から数えて偶数番目の記録ヘッドを一方の記録ヘッド3Aとし、奇数番目の記録ヘッドを他方の記録ヘッド3Bとして説明するが、一方の記録ヘッド3Aと他方の記録ヘッド3Bの構成や機能に違いはない。
【0012】
ヘッドユニット4が、搬送される記録材の位置に同期して、各色の記録部2K,2C,2M,2Yのノズルからインク滴の吐出を行うことで、記録材P0上にカラー画像が形成される。なお、ヘッドユニット4に搭載される記録部の数、記録部に配置される記録ヘッドの数、記録部から吐出するインクの色などは、任意に設定することができる。したがって、例えば、ヘッドユニット4は、ブラック単体の記録部2Kのみを備え、ブラック単色で記録を行うヘッドユニットであってもよい。
【0013】
図2は、ヘッドユニット4の記録部毎に設けられている一方の記録ヘッド3Aと他方の記録ヘッド3Bとのヘッド配置を示す説明図である。
一方の記録ヘッド3Aおよび他方の記録ヘッド3Bには、複数のノズル5がヘッド幅方向に沿って配列されたノズル列を有する。本実施形態では、ノズル列が1列である例で説明するが、2以上のノズル列が記録材搬送方向に並べてられた構成であってもよい。また、ノズル列は、そのノズル列方向がヘッド幅方向に対して傾斜するように配置されてもよい。
【0014】
また、本実施形態の1つの記録部上には、図2に示すように、ヘッド幅方向に沿って隣り合って並べされる2つの記録ヘッド3A,3Bのうちの一方の記録ヘッド3Aが他方の記録ヘッド3Bと部分的に重複(オーバーラップ)するように配置されている。このように記録ヘッド3A,3Bを配置することで、記録部全体におけるヘッド幅方向の記録範囲(ノズル5から吐出されるインクによって画像を記録できる範囲)を広げることができる。その結果、記録材P0の幅方向にわたる記録範囲を備えた記録部を得て、ライン型のヘッドユニット4を実現できるので、ヘッドユニット4を走査することなく記録材P0に対してワンパスで画像を形成することができる。
【0015】
図3は、ヘッド幅方向に沿って隣り合って並べされる2つの記録ヘッド3A,3Bのノズルピッチの関係を示す説明図である。
図3(a)は、記録ヘッド3A,3Bに設けられるノズル列が、ノズル5が通常ピッチP1で配列された第一ノズル群としての通常領域と、ノズル5が通常ピッチP1よりも狭いノズルピッチP2で配列された第二ノズル群としての狭領域とが存在するものである。ノズル列の大部分が通常領域であるが、ノズル列の一端側のみに狭領域が設けられている。なお、狭領域に代えて、ノズル5が通常ピッチP1よりも広いピッチで配列された広領域を採用してもよい。
【0016】
また、図3(a)の構成は、通常ピッチP1も、狭いノズルピッチP2も、記録ヘッド3Aと記録ヘッド3Bとの間では同じピッチとなるように設定されている。そのため、記録ヘッド3A及び記録ヘッド3Bとしては、お互いに同一構成のものを用いることができる。したがって、記録部は、1種類の記録ヘッドを用意するだけで製造することができ、記録ヘッド3A及び記録ヘッド3Bがそれぞれ異なる構成である場合のものと比べて、製造コストを少なく抑えることができる。
【0017】
また、図3(b)に示すように、記録ヘッド3A,3Bに設けられるノズル列が、通常ピッチP1の通常領域と、通常ピッチよりもノズルピッチが狭い狭領域と、通常ピッチよりもノズルピッチが広い広領域とで構成してもよい。図3(b)では、記録ヘッド3A,3Bの記録材幅方向一端側(図中左側)が広領域、記録材幅方向他端側(図中右側)が狭領域となっている。記録ヘッド3Aと記録ヘッド3Bとのオーバーラップ領域において、一方の記録ヘッド3Aが広領域、他方の記録ヘッド3Bが狭領域となっている。
【0018】
このように、本実施形態では、一方の記録ヘッド3Aと他方の記録ヘッド3Bとのオーバーラップ領域において、一方の記録ヘッド3Aのノズルピッチと他方の記録ヘッド3Bのノズルピッチとが異なるように構成されている。
【0019】
図4は、上述したヘッドユニット4を搭載するインクジェット記録装置1の制御系のハードウェア構成を示すブロック図である。
インクジェット記録装置1は、上述したヘッドユニット4のほか、制御部600、搬送駆動部710、操作表示部720及び入出力インタフェース730が、バスライン740を介して相互に接続されて構成されている。
【0020】
ヘッドユニット4には、各色の記録部2K,2C,2M,2Yに配置されている記録ヘッド3A,3Bを駆動するヘッド駆動部20が備わっている。ヘッド駆動部20は、制御部600から入力される制御信号に応じて、各記録部2K,2C,2M,2Yの各記録ヘッド3A,3Bにおけるアクチュエータとしての電気機械変換素子である各圧電素子を変形動作させる駆動波形を生成する。この駆動波形が各記録部2K,2C,2M,2Yの各記録ヘッド3A,3Bの各圧電素子に入力されることで、ノズル5に連通する圧力室内の液体が加圧されて吐出エネルギーが印加され、対応するノズル5からインクが吐出される。
【0021】
制御部600は、CPU(Central Processing Unit)610、記憶部620、RAM(Random Access Memory)630及びROM(Read Only Memory)640を有する。CPU610は、ROM640に記憶された各種制御用のプログラム及び設定データを読み出してRAM630に記憶させて実行し、各種演算処理を行う。また、CPU610は、インクジェット記録装置1の全体動作を制御する。このROM640には、後述するように一方の記録ヘッド3Aと他方の記録ヘッド3Bとの間のノズル切替位置の設定を行うノズル切替位置の設定プログラムが記憶されている。
【0022】
記憶部620には、入出力インタフェース730を介して入力されるプリントジョブ(画像記録命令)及びプリントする画像データ(画像情報)が記憶される。また、この記憶部620には、後述する各ノズルのインク滴の曲がり量である吐出曲がり量θ、ノズルから吐出されたインク滴の記録材への着弾位置を算出するための計算式が記憶されている。また、計算により算出された着弾位置に基づいて設定されるノズル切替位置なども記憶されている。
【0023】
搬送駆動部710は、制御部600から供給される制御信号に基づいて、搬送用モータに駆動信号を供給し、所定の速度及びタイミングで記録材P0を搬送する。
操作表示部720は、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイ等の表示装置と、操作キー及び表示装置の画面に重ねられて配置されたタッチパネル等の入力装置とを備える。操作表示部720は、表示装置に各種情報を表示させ、また、入力装置に対するユーザの入力操作に対応する操作信号を制御部600に供給する。
入出力インタフェース730は、外部装置800と制御部600との間のデータの送受信を媒介する。
バスライン740は、制御部600と他の構成部との間で、信号の送受信を行うための経路である。
【0024】
図5は、ヘッドユニット4のヘッド駆動部20のハードウェア構成を示すブロック図である。
なお、図5では、図の簡略化のため、1つの記録ヘッド3Aだけが示され、他の記録ヘッドは省略されている。
【0025】
ヘッド駆動部20は、記録ヘッド3A上のノズル5-1~5-n(「n」は当該記録ヘッド3A上のノズル数である)ごとに対応した駆動波形補正部21-1~21-nを備えている。また、ヘッド駆動部20は、ヘッド制御部22と、基本駆動波形生成部23と、駆動波形補正情報保持部24も備えている。
【0026】
ヘッド制御部22は、制御部600から入力される画像データを、各記録部2K,2C,2M,2Yの各記録ヘッド3Aおよび記録ヘッド3Bの各ノズル5-1~5-nの制御信号に変換する。
基本駆動波形生成部23は、ヘッド制御部22から入力される制御信号に基づいて、画像パターン、搬送速度、及び、温湿度等の印字環境に応じて、リファレンスとなる吐出動作を可能とする基本駆動波形を生成する。
駆動波形補正情報保持部24は、補正が必要なノズルのノズル番号を示す情報、及び、補正量を示す情報を記憶する。
【0027】
駆動波形補正部21-1~21-nは、基本駆動波形生成部23から供給される駆動電圧の基本駆動波形を、駆動波形補正情報保持部24から読み出した補正情報に基づいて補正し、ノズル5-1~5-nにそれぞれ対応する各圧電素子に供給する。これにより、ノズル5-1~5-nをそれぞれ個別に異なる吐出特性を与えることができ、それぞれのノズル5-1~5-nから適切なインク吐出が可能となる。
【0028】
なお、本実施形態では、ノズル毎に異なる吐出特性を与えているが、それに限らない。すなわち、ノズル列単位で吐出特性を与えてもよいし、ピッチの異なる領域単位で吐出特性を与えるでも良い。どの単位で吐出特性を与えるかは、装置のメモリや印加電圧の負荷などの制約により決めても良い。
【0029】
図6は、一方の記録ヘッド3Aと他方の記録ヘッド3Bとの間のノズル切替位置の設定について説明する図である。
図6(b)は、一方の記録ヘッド3Aおよび他方の記録ヘッド3Bの各ノズルから吐出されたインク滴の記録材への着弾位置を示している。図中下側の黒ドットが、記録ヘッド3Aのインクの着弾位置を示しており、図中上側のドットが、記録ヘッド3Bのインクの着弾位置を示している。
【0030】
図6(b)に示すように、記録ヘッド3Bの着弾位置と記録ヘッド3Aの着弾位置との差ΔC(以下、着弾位置ずれという)が最小となるノズルをノズル切替位置の設定する(図中矢印E)。設定されたノズル切替位置より端側(記録ヘッド3Bは、図中左側、記録ヘッド3Aは、右側)の領域T3,T4のノズルについては、駆動を停止する。
【0031】
図6(c)は、設定されたノズル切替位置で各記録ヘッドを駆動制御したときに記録材に吐出されるインクの着弾位置を示している。
図6(c)に示すように、ノズル切替位置よりも図中左側の領域が、一方の記録ヘッド3Aのノズルからインク滴が吐出される。ノズル切替位置よりも図中右側の領域が他方の記録ヘッド3Bのノズルからインク滴が吐出される。
【0032】
ノズル切替位置の設定を、次のようにして設定した場合、ノズル切替位置で着弾ピッチが大きくなり、記録材上の画像に記録材の地肌が縦スジ状に露出した印写スジが目立つおそれがある。すなわち、一方の記録ヘッド3Aと他方の記録ヘッド3Bとの間で記録材幅方向位置のずれが最小となるノズルを特定し、その特定したノズルをノズル切替位置に設定した場合である。
【0033】
これは、一般的に記録ヘッドからインクを吐出際に自己気流が発生する。その自己気流によってノズルから吐出されたインク滴は、ノズル面に垂直な方向に平行に吐出せず、ノズル面に垂直な方向に対して曲がってしまう。その結果、自己気流の影響で、一方の記録ヘッド3Aのノズルと他方の記録ヘッド3Bのノズルとの間で幅方向位置ずれが最小となるノズルをノズル切替位置に設定しても、ノズル切替位置で、着弾滴ピッチが大きくなる。これにより、記録材上の画像に記録材の地肌が露出した印写スジが目立つ場合があった。
【0034】
そこで、本実施形態では、自己気流によるインク滴の曲がり量(以下、吐出曲がり量θという)を考慮にいれて、ノズル切替位置の設定を行うようにした。以下、図面を用いて具体的に説明する。なお、以下の説明では、記録材の幅方向(記録ヘッドの長手方向)をX方向、記録材の搬送方向(記録ヘッドの短手方向)をY方向、ノズル面に垂直な方向をZ方向として説明する。X方向の原点は、ノズル面の幅方向一端とし、Y方向の原点は、ノズル面の記録材搬送方向上流側端部とする。また、Z方向の原点は、ノズル面とする。
また、以下の説明では、簡易化のため、自己気流以外での吐出曲がりを起こす因子を無視し、設計図からのノズルの位置ズレは無いものとする。
【0035】
図7は、記録ヘッドの各ノズル5から吐出されるインク滴Sの吐出方向を示す模式図である。
図7に示すように、一般的に、記録ヘッドの複数のノズル5から同時にインク滴Sを吐出させる際には、吐出時に発生する自己気流によって記録ヘッドの端部側のノズル5から吐出されたインク滴が、X方向内側に向かって大きく曲がってしまう場合が多い。記録ヘッドの端側ほど、吐出曲がり量の絶対値が大きくなる。
【0036】
図8は、吐出曲がり量θについて説明する図である。
本実施形態では、図8に示すように、Z方向(ノズル面(XY平面)に垂直な方向)と、インク滴Sの吐出方向とのなす角度を、吐出曲がり量θとして定義する。吐出曲がり量θが正の時はノズル5に対してインク滴SがX軸方向正側(幅方向他端側)へ吐出されていることを示し、吐出曲がり量θが負の時はノズル5に対してインク滴SがX軸方向負側(幅方向一端側)へ吐出されていることを示す。
【0037】
図9は、記録ヘッドの各ノズルの吐出曲がり量θの一例を示すグラフである。
なお、図9に示す横軸は、ノズル番号を示しており、幅方向一端のノズル番号を1[ch]とし、幅方向他端のノズル番号をn[ch](n=記録ヘッドのノズル数)としている。
【0038】
図9に示すように、幅方向一端のノズル(1[ch])から吐出したインク滴は、+X方向に大きく曲がり、幅方向他端のノズル(n[ch])から吐出したインク滴は、-X方向に大きく曲がっている。一方、幅方向中央付近のノズルから吐出されたインク滴については、ほとんど曲がっていないことがわかる。
【0039】
図10は、一方の記録ヘッド3Aと他方の記録ヘッド3Bとのオーバーラップ領域における各ノズルの吐出曲がり量θについて説明する図である。
一方の記録ヘッド3Aの他方の記録ヘッド3Bに重複するオーバーラップ領域は、記録ヘッド3Aの幅方向他端側となる。そのため、一方の記録ヘッド3Aのオーバーラップ領域のノズル(以下、バーニアノズルという)から吐出されたインク滴は、自己気流によって-X方向に曲がる。一方、他方の記録ヘッド3Bの一方の記録ヘッド3Aに重複するオーバーラップ領域は、記録ヘッド3Bの幅方向一端側となる。そのため、他方の記録ヘッド3Bのバーニアノズルから吐出されたインク滴は、+X方向に曲がる。
このように、一方の記録ヘッド3Aのバーニアノズルから吐出されるインク滴の曲がり方向と、他方の記録ヘッド3Bのバーニアノズルから吐出されるインク滴の曲がり方向とが互いに異なることになる。
【0040】
以下、本実施形態の具体的一例について、説明する。
図11は、本実施形態の各記録ヘッド3A,3Bのオーバーラップ領域のノズル(バーニアノズル)について説明する図である。
本実施形態においては、各記録ヘッド3A,3Bのバーニアノズルの数Nは、50であり、一方の記録ヘッド3Aのバーニアノズルは、幅方向一端側から(A,1ch)、(A,2ch)、(A,3ch)・・・・(A,N=50ch)とする。また、一方の記録ヘッド3Aの各バーニアノズルの座標(X方向位置)は、Xn(A,βch)とする。ただし、βは、バーニアノズルのノズル番号(1ch、2ch・・・Nch)である。また、一方の記録ヘッド3Aの各バーニアノズルから吐出されたインク滴の着弾位置の座標(X方向の位置)を、Xc(A,βch)とする。
【0041】
他方の記録ヘッド3Bのバーニアノズルは、幅方向一端側から(B,1ch)、(B,2ch)、(B,3ch)・・・・(B,N=50ch)とする。また、他方の記録ヘッド3Bの各バーニアノズルの座標は、Xn(B,βch)とする。また、他方の記録ヘッド3Bの各バーニアノズルから吐出されたインク滴の着弾位置の座標を、Xc(B,βch)とする。
【0042】
また、本実施形態では、一方の記録ヘッド3Aのバーニアノズルのノズルピッチを、通常領域のノズルピッチ(通常ピッチP1)よりも広いノズルピッチP3=(P1+Δ)としている。また、他方の記録ヘッド3Bのバーニアノズルのノズルピッチを、通常ピッチP1よりも狭いノズルピッチP2=(P1-Δ)としている。
【0043】
本実施形態では、通常ピッチP1を42.33[μm](600dpi)とし、一方の記録ヘッド3AのバーニアノズルのノズルピッチP3を42.33+0.55=42.88[μm]とした。また、他方の記録ヘッド3BのバーニアノズルのノズルピッチP2を42.33-0.55=41.78[μm]とした。また、ノズル面から記録材までの距離dを、1.3[mm]とした。なお、本実施形態では、バーニアノズルの数N=50にしているが、バーニアノズルの数Nは、バーニアノズルのピッチや、各記録ヘッドの座標の要求精度、許容できる着弾ズレ等を考慮して決定されるのが一般的である。
【0044】
ここで、他方の記録ヘッド3Bの1番目のバーニアノズル(B,1ch)が、一方の記録ヘッド3Aの1番目のバーニアノズル(A,1ch)に対してX方向に+10umズレているとする。つまりXn(B,1ch)-Xn(A,1ch)=10[um]である。このときについて、吐出曲がり量θを考慮せずに切り替え位置を設定する場合(以下、参照例とする)と、本実施形態のノズル切替位置の設定とについて説明する。
【0045】
まず、吐出曲がり量θを考慮していない参照例のノズル切替位置設定について説明する。
図12は、一方の記録ヘッド3Aのバーニアノズルと、他方の記録ヘッド3Bのバーニアノズルとの座標差(|Xn(B,βch)-Xn(A,βch)|)をプロットしたグラフである(β=1ch,2ch...50ch)。
【0046】
参照例は、自己気流による吐出曲がりを考慮していないため、図12に示す一方の記録ヘッド3Aのバーニアノズルと他方の記録ヘッド3Bのバーニアノズルとの座標差がそのまま互いに隣り合う着弾滴の座標差(着弾位置ずれ)となる。すなわち、|Xc(B,βch)-Xc(A,βch)|=|Xn(B,βch)-Xn(A,βch)|である。
【0047】
そのため、参照例は図12に示すように、|Xn(B,βch)-Xn(A,βch)|が最小のノズル番号10chのバーニアノズルが、ノズル切替位置に設定される。すなわち、一方の記録ヘッド3Aでは、ノズル番号11~50chのバーニアノズルが非駆動、他方の記録ヘッド3Bは、ノズル番号1~10chのバーニアノズルが非駆動となる。
【0048】
しかし、実際には、図13に示すように、各記録ヘッド3A、3Bのバーニアノズルから吐出したインク滴は、自己気流によりX方向に曲がる。
【0049】
図14は、図13に示す吐出曲がり量θがある場合に、ノズル番号10chをノズル切替位置に設定したときの着弾ピッチを示すグラフである。
図14に示すように、ノズル番号10chのバーニアノズルから吐出したインク滴の着弾位置と、ノズル番号11chのバーニアノズルから吐出したインク滴の着弾位置との差(着弾ピッチ)が、120[μm]近くとなっている。このように、ノズル切替位置の着弾ピッチが、他の位置の着弾ピッチ(約42.33[μm])に対して大きくずれてしまう。その結果、参照例の方法でノズル切替位置の設定を行うと、ノズル切替位置において、大きな着弾ピッチずれが発生し、印写スジが発生してしまう。
【0050】
次に、本実施形態のノズル切替位置の設定について説明する。
本実施形態では、予め各記録ヘッドについて、吐出曲がり量θを調査(図9参照)し、調査した各ノズル番号の吐出曲がり量θは、制御部600の記憶部620に記憶されている(図4参照)。
【0051】
制御部600は、この記憶部620に記憶されている各ノズル番号の吐出曲がり量θに基づいて、各記録ヘッド3A、3Bの各バーニアノズルから吐出されたインク滴の着弾座標の算出を行う。制御部600は、バーニアノズルから吐出されたインク滴の着弾座標の算出を、下記式1を用いて行う。
Xc(α,βch)
=Xn(α,βch)+d×tanθ(α,βch)・・・(式1)
α:隣り合う2つの記録ヘッド3A、3Bを識別するためのラベル
(一方の記録ヘッド3A:A,他方の記録ヘッド3B:B)
d:ノズル面から記録材までの距離
【0052】
各バーニアノズルの座標(Xn(α,βch))は、次のように求めることができる。まず、記録ヘッド3Aと記録ヘッド3Bとを組み合わせて記録部を製造した後に、一方の記録ヘッド3Aの幅方向一端のバーニアノズル(A,1ch)の他方の記録ヘッドの幅方向一端のバーニアノズル(B,1ch)に対するX方向のズレ量を計測する。
【0053】
他方の記録ヘッド3Bのノズル番号1chのバーニアノズルの座標は、X方向の基準位置に対して予め決められた値を加算することで求められる。2ch以降のバーニアノズルについては、一つ前のバーニアノズルの座標に対してノズルピッチP2(P1(42.33)-Δ(0.55)=41.78)を加算することで求めることができる。
【0054】
一方の記録ヘッド3Aのノズル番号1chのバーニアノズルの座標は、X方向の基準位置に対して予め決められた値を加算した後、計測したX方向のズレ量を加算もしくは減算して求める。計測したX方向のズレ量が+なら加算し、計測したX方向のズレ量が-なら減算する。2ch以降のバーニアノズルについては、一つ前のバーニアノズルの座標に対してノズルピッチP3(P1(42.33)+Δ(0.55)=42.88[μm])を加算することで求めることができる。
【0055】
各記録ヘッド3A,3Bのバーニアノズルの座標(Xn(α,βch))は、製造段階で予め求め、求めたバーニアノズルの座標が記憶部620に記憶されている。なお、ノズル切替位置の設定の際に各記録ヘッド3A,3Bのバーニアノズルの座標(Xn(α,βch))を算出してもよい。この場合は、計測した一方の記録ヘッド3Aの一番目のバーニアノズル(A,1ch)の他方の記録ヘッド一番目のバーニアノズル(B,1ch)に対するX方向のズレ量を記憶部620に記憶しておく。
【0056】
制御部600は、式1を用いて算出された各記録ヘッド3A、3Bの各バーニアノズルにおける着弾座標(Xc(A,βch),Xc(B,βch))に基づいて、各バーニアノズルについて着弾位置ずれ(|Xc(B,βch)-Xc(A,βch)|)を算出する。そして、制御部600は、算出した複数の着弾位置ずれのうち、最小の着弾位置ずれのノズル番号βを特定し、そのノズル番号βをノズル切替位置に設定する。
【0057】
図15は、図13に示す吐出曲がり量θから算出した着弾座標に基づき、求めた各バーニアノズルにおける着弾位置ずれを示すグラフである。
図15に示すように、バーニアノズルのノズル番号31chの着弾位置ずれが最小となっている。よって、この場合は、ノズル番号31chのバーニアノズルをノズル切替位置に設定する。
【0058】
図16は、本実施形態と参照例との着弾ピッチを比較したグラフである。
図16に示すように、本実施形態では、ノズル切替位置(ノズル番号31ch)における着弾ピッチ(ノズル番号31chの着弾位置と、ノズル番号32chの着弾位置との差)が、他の位置の着弾ピッチと大きく異なることがない。このように、本実施形態は、参照例に比べて、ノズル切替位置での着弾ピッチずれを大幅に改善することができる。
【0059】
また、本実施形態では、計算で各バーニアノズルの着弾位置(座標)を求めて、ノズル切替位置を設定するため、記録材上へのドット記録を行わずに、ノズル切替位置を設定できる。これにより、記録材およびインクを消費することなく、ノズル切替位置を設定できる。また、制御部600が自動でノズル切替位置の設定を行うので、作業者の目視によるノズル切替位置の設定を不要にでき、作業者の作業負担を軽減できる。また、作業の目視によりノズル切替位置を設定する場合に比べて、より着弾ピッチずれが抑制されるノズル切替位置に設定することができる。
【0060】
さらに、本実施形態では、自己気流による吐出曲がり量を考慮に入れて各バーニアノズルの着弾位置を求めることで、精度よく各バーニアノズルの着弾位置を求めることができ、ノズル切替位置での着弾ピッチのずれを大幅に改善することができる。
【0061】
また、本実施形態では、一方の記録ヘッド3Aのバーニアノズルのノズルピッチと他方の記録ヘッド3Bのバーニアノズルのノズルピッチとが異なるように構成している。このような構成とすることで、記録ヘッド3Aと記録ヘッド3Bとを高精度に位置決めしなくても、オーバーラップ領域において、同じノズル番号のバーニアノズル間のX方向のズレ量を、ノズル番号毎に異ならせることができる。これにより、着弾位置ずれの量がノズル番号毎に異なりやすくなる。その結果、各ノズル番号の着弾位置ずれのうち、最小の着弾位置ずれのずれ量を良好に少なくできる。よって、ノズル切替位置でのピッチずれを良好に抑制でき、印写スジの発生を良好に抑制できる。
【0062】
図17は、ノズル切替位置の設定の制御フロー図である。
記録材の種類が変更されたときや時間経過で吐出曲がりばらつきが増えた場合等のとき、ユーザーは、操作表示部720を操作してノズル面と記録材との距離dを変更する。例えば、記録材が紙から布に変更されたときは、距離dを大きくする。また、時間経過で吐出曲がりばらつきが増えた場合は、距離dを小さくして吐出曲がり起因の印写スジを目立たなくする。
ユーザーが操作表示部720を操作してノズル面と記録材との距離dを変更したときは、式1からわかるように着弾位置(Xc(α,βch))が変わる。従って、制御部600は、ノズル面と記録材との距離dが変更されたとき(S1のYES)、ノズル切替位置の設定を開始する。
【0063】
まず、制御部600は、記憶部620に記憶された一方の記録ヘッド3Aの各バーニアノズルの吐出曲がり量(θ(A,βch))、バーニアノズルの座標(Xn(A,βch))を読み出す。そして、読み出した一方の記録ヘッド3Aの各バーニアノズルの吐出曲がり量およびバーニアノズルの座標と、変更されたノズル面と記録材の距離dと、上記式1とを用いて一方の記録ヘッド3Aの各バーニアノズルの着弾位置(Xc(A,βch))を算出する(S12)。
【0064】
次に、制御部600は、記憶部620に記憶された他方の記録ヘッド3Bの各バーニアノズルの吐出曲がり量(θ(B,βch))、バーニアノズルの座標(Xn(B,βch))を読み出す。そして、読み出した他方の記録ヘッドの各バーニアノズルの吐出曲がり量およびバーニアノズルの座標と、変更されたノズル面と記録材の距離dと、上記式1とを用いて他方の記録ヘッド3Bの各バーニアノズルの着弾位置(Xc(B,βch))を算出する(S13)。
【0065】
次に、制御部600は、各バーニアノズルについて、着弾位置ずれ(|Xc(B,βch)-Xc(A,βch)|)を算出する(S14)。そして、求めた複数の着弾位置ずれのうち、最小の着弾位置ずれのノズル番号βを特定し、この特定したノズル番号βをノズル切替位置として、記憶部620に記憶する。
制御部600は、このようなノズル切替位置設定制御を、各色の記録部2K,2C,2M,2Yにおけるすべてのオーバーラップ領域について行う。
【0066】
このように、本実施形態では、ノズル面と記録材との距離dを変更したときに自動でノズル切替位置設定制御が行われることで、常に最適なノズル切替位置に設定することができる。
【0067】
記録ヘッドの幅方向端部付近のノズルから吐出されたインク滴の吐出曲がり量θの値は大きい。また、図11に示すように、一方の記録ヘッド3Aのインク滴の曲がり方向と、他方の記録ヘッド3Bのインク滴の曲がり方向は互いに異なる。従って、各記録ヘッドのバーニアノズルのノズルピッチが一定の場合、記録ヘッドの端部付近のバーニアノズルの着弾位置ずれは大きくなり、着弾位置ずれが最小となるバーニアノズルがどうしても内側(中央寄り)になってしまう。そのため、ノズル切替位置での着弾ピッチのずれを十分に抑制するには、オーバーラップ領域を長くしてバーニアノズル数を多くする必要がある。その結果、記録部を構成する記録ヘッドの数が多くなるおそれがあり、部品点数の増加による装置のコストアップにつながるおそれがある。
【0068】
ただし、バーニアノズルの吐出曲がり量プロファイルが記録ヘッド間でそれほど差が無く、さらにノズル面と記録材との間の距離dが変更されないインクジェット記録装置の場合は、次の構成としてノズル切替位置を記録ヘッドの端部付近にできる。すなわち、着弾ピッチがほぼ一定となるように、各バーニアノズルのノズル座標(位置)を吐出曲がり量θを考慮して設定する構成である。具体的には、一方の記録ヘッド3Aのバーニアノズルから吐出されるインク滴の着弾ピッチが、例えば、42.33+0.55=42.88[μm]となるように各バーニアノズルを配置する。他方の記録ヘッド3Bのバーニアノズルから吐出されるインク滴の着弾ピッチが、42.33-0.55=41.78[μm]となるように各バーニアノズルを配置するのである。以下、吐出曲がり量θを考慮したバーニアノズルの座標(位置)の設定について、変形例として説明する。
【0069】
[変形例]
まず、各バーニアノズルのノズル位置(座標)を求めるために、幅方向(X方向)各位置における吐出曲がり量θfitを求める。
図18は、幅方向(X方向)各位置における吐出曲がり量θfitの求めた方について説明する図である。
まず、図18(a)に示すように、各記録ヘッド3A,3Bについて、記録材にドットを記録するなどにして、各ノズルの吐出曲がり量θを調査し、図18(a)に示す各ノズル番号と吐出曲がり量θとの関係を示すプロファイルを得る。次に、図18(b)に示すように、図18(a)のプロファイルに基づいて、横軸をノズル番号から、各ノズルのノズル座標(Xn(α,βch))に変換し、ノズル座標と吐出曲がり量θとの関係を示すプロファイルを得る。この図18(b)に示すノズル座標と吐出曲がり量θとの関係を示すプロファイル(データセット)に関して、ノズルの座標間をフィッテイング関数(N次関数)で近似し、図18(c)に示すように、X方向各位置における吐出曲がり量θfit(α,x)を得る。
【0070】
次に、各記録ヘッド3A,3Bについて、各バーニアノズルの目標着弾座標(Xd(α,βch))を得る。まず、記録ヘッドにおけるノズル番号1chのバーニアノズルから吐出されるインク滴の目標着弾座標(Xd(α,1ch))は、記録材の幅方向一端を基準(図19参照)とし、この基準から予め決められた値を加算することで求めることができる。
【0071】
2ch以降の目標着弾座標については、一つ前の目標着弾座標に対して所定の着弾ピッチを加算することで求めることができる。一方の記録ヘッドに関しては、所定の着弾ピッチとして(P1―Δ)を加算し、他方の記録ヘッド3Bに関しては、所定の着弾ピッチとして(P1+Δ)を加算する。
【0072】
図19は、他方の記録ヘッド3Bのバーニアノズルのノズル座標(Xn(B,βch))の設定について説明する図である。
図19に示すように、バーニアノズルから吐出したインク滴が吐出曲がり量曲がって記録材に着弾したときの着弾ピッチが、P1+Δとなるようにノズル座標に設定する。
【0073】
具体的には、図18(c)に示すX方向各位置における吐出曲がり量θfit(α,x)と、各目標着弾位置(Xd(α,βch))とを用いて、下記式2を満たす各バーニアノズルの座標(Xn(α,βch))を特定する。
tanθfit(Xn(α,βch))
=(xd(α,βch)-Xn(α,βch))/d・・・(2)
上記θfit(Xn(α,βch))は、X方向各位置における吐出曲がり量θfit(α,X)から求められるノズル座標における吐出曲がり量である。
【0074】
具体的には、バーニアノズルの座標Xn(α,βch)を適当に設定する。そして、設定したバーニアノズルの座標における吐出曲がり量θfit(Xn(α,βch))をX方向各位置における吐出曲がり量θfit(α,X)から求める。適当に設定したバーニアノズルの座標Xn(α,βch)、算出した吐出曲がり量θfit(Xn(α,βch))、予め決められたノズル面と記録材との距離dおよび予め決められた目標着弾位置Xd(α,βch)とから式(2)を満たしているか否かを判定する。満たしていなければ、バーニアノズルの座標Xn(α,βch)を変更して、再度、式(2)を満たしているか否か判定し、満たしていれば、このバーニアノズルの座標Xn(α,βch)に設定する。
【0075】
このようにして、すべてのバーニアノズルについて、式(2)を満たすバーニアノズルの座標を求め、各バーニアノズルの座標が、求めた座標となるように、各記録ヘッド3A,3Bを製造するのである。
【0076】
このようにして製造された一方の記録ヘッド3Aのバーニアノズルから吐出されたインク滴の着弾ピッチは、約(P1―Δ)となり、他方の記録ヘッド3Bのバーニアノズルから吐出されたインク滴の着弾ピッチは、約(P1+Δ)となる。
【0077】
例えば、P1=42.33[μm](600dpi)、Δ=0.55[μm]、d=1.3[mm]、Xn(B,1ch)-Xn(A,1ch)=10[um]のとき、着弾位置ずれ(|Xc(B,βch)-Xc(A,βch)|)は、図12に示した結果と同一となる。すなわち、最小の着弾位置ずれとなるノズル番号が、10chとなる。従って、この変形例では、ノズル切替位置を、ノズル番号10chのバーニアノズルに設定でき、ノズル切替位置を、記録ヘッド端部付近のバーニアノズルに設定できる。これにより、バーニアノズルの数を減らすことが可能となり、オーバーラップ領域の長さの低減を図ることができる。よって、記録部を構成する記録ヘッドの数の増大を抑制することができ、装置のコストアップを抑制することが可能となる。
【0078】
この変形例においては、既に各記録ヘッドの各バーニアノズルの着弾位置はわかっている。従って、ノズル切替位置の設定に際して、式1を用いて各記録ヘッドの各バーニアノズルの着弾位置を算出する必要はない。この変形例1では、一方の記録ヘッド3Aの一番目のバーニアノズル(A,1ch)と、他方の記録ヘッド3Bの一番目のバーニアノズル(B,1ch)とのX方向のズレ量(Xn(B,1ch)-Xn(A,1ch))を計測する。その計測値を用いて、記録ヘッド3Aまたは3Bの各バーニアノズルの目標着弾位置を修正した後、各バーニアノズルについて、着弾位置ずれ(|Xc(B,βch)-Xc(A,βch)|)を算出する。そして、算出した各ノズル番号の着弾位置ずれのうち、最小の着弾位置ずれとなるノズル番号のバーニアノズルをノズル切替位置に設定する。この変形例では、上述したようにノズル面と記録材との間の距離dが変更されないため、工場出荷時にノズル切替位置の設定を行い、設定したノズル切替位置を記憶部620に記憶する。
【0079】
なお、この変形例も、上記式2が、上記式1の移項式であることからもわかるように、各バーニアノズルから吐出されたインク滴の着弾位置Xc(α,βch)は、式1の関係を満たす。よって、この変形例2においても、ノズル切替位置は、上記式1の関係を満たす一方の液体吐出ヘッドのバーニアノズルの着弾位置(Xc(A,βch))と、上記式1の関係を満たす他方の液体吐出ヘッドBのバーニアノズルの着弾位置(Xc(B,βch))と差|Xc(B,βch)-Xc(A,βch)|が最小となるノズル位置となっている。
【0080】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置の他の一例について、図20及び図21を参照して説明する。
図20は同装置の要部平面説明図、図21は同装置の要部側面説明図である。
この装置は、シリアル型装置であり、主走査移動機構493によって、キャリッジ403は主走査方向に往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を含む。ガイド部材401は、左右の側板491A、491Bに架け渡されてキャリッジ403を移動可能に保持している。そして、主走査モータ405によって、駆動プーリ406と従動プーリ407間に架け渡したタイミングベルト408を介して、キャリッジ403は主走査方向に往復移動される。
【0081】
このキャリッジ403には、本発明に係る液体吐出ヘッド装置404及びヘッドタンク441を一体にした液体吐出ユニット440を搭載している。液体吐出ユニット440の液体吐出ヘッド装置404は、上述した実施形態のヘッドユニット4と同様、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する記録部を備える。また、液体吐出ヘッド装置404における各色の記録部は、上述した実施形態の記録部2K,2C,2M,2Yと同様、複数のノズルからなるノズル列を備えた記録ヘッド3A,3Bが千鳥状に配置されている。また、各色の記録部は、そのノズル列方向は主走査方向と直交する副走査方向(ヘッド長手方向)に沿っており、吐出方向を下方に向けて装着されている。
【0082】
液体吐出ヘッド装置404の外部に貯留されている液体を液体吐出ヘッド装置404に供給するための供給機構494により、ヘッドタンク441には、液体カートリッジ450に貯留されている液体が供給される。
【0083】
供給機構494は、液体カートリッジ450を装着する充填部であるカートリッジホルダ451、チューブ456、送液ポンプを含む送液ユニット452等で構成される。液体カートリッジ450はカートリッジホルダ451に着脱可能に装着される。ヘッドタンク441には、チューブ456を介して送液ユニット452によって、液体カートリッジ450から液体が送液される。
【0084】
この装置は、用紙410を搬送するための搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動するための副走査モータ416を含む。
【0085】
搬送ベルト412は用紙410を吸着して液体吐出ヘッド装置404に対向する位置で搬送する。この搬送ベルト412は、無端状ベルトであり、搬送ローラ413と、テンションローラ414との間に掛け渡されている。吸着は静電吸着、あるいは、エアー吸引などで行うことができる。
【0086】
そして、搬送ベルト412は、副走査モータ416によってタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して搬送ローラ413が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。
【0087】
さらに、キャリッジ403の主走査方向の一方側には搬送ベルト412の側方に液体吐出ヘッド装置404の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。
【0088】
維持回復機構420は、例えば液体吐出ヘッド装置404のノズル面(ノズルが形成された面)をキャッピングするキャップ部材421、ノズル面を払拭するワイパ部材422などで構成されている。
【0089】
主走査移動機構493、供給機構494、維持回復機構420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
【0090】
このように構成したこの装置においては、用紙410が搬送ベルト412上に給紙されて吸着され、搬送ベルト412の周回移動によって用紙410が副走査方向に搬送される。
【0091】
そこで、キャリッジ403を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド装置404を駆動することにより、停止している用紙410に液体を吐出して画像を形成する。
【0092】
このように、この装置では、本発明に係る液体吐出ヘッドを備えているので、高画質画像を安定して形成することができる。
【0093】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの他の例について図22を参照して説明する。
図22は同ユニットの要部平面説明図である。
【0094】
この液体吐出ユニットは、前記液体を吐出する装置を構成している部材のうち、側板491A,491B及び背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493と、キャリッジ403と、液体吐出ヘッド装置404で構成されている。
【0095】
なお、この液体吐出ユニットの例えば側板491Bに、前述した維持回復機構420、及び供給機構494の少なくともいずれかを更に取り付けた液体吐出ユニットを構成することもできる。
【0096】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの更に他の例について図23を参照して説明する。
図23は同ユニットの正面説明図である。
【0097】
この液体吐出ユニットは、流路部品444が取付けられた液体吐出ヘッド装置404と、流路部品444に接続されたチューブ456で構成されている。
【0098】
なお、流路部品444はカバー442の内部に配置されている。流路部品444に代えてヘッドタンク441を含むこともできる。また、流路部品444の上部には液体吐出ヘッド装置404と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。
【0099】
本願において、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッド装置又は液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0100】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0101】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0102】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0103】
前記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録材、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0104】
前記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス、壁紙や床材などの建材、衣料用のテキスタイルなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0105】
また、「液体」は、インク、処理液、DNA試料、レジスト、パターン材料、結着剤、造形液、又は、アミノ酸、たんぱく質、カルシウムを含む溶液及び分散液なども含まれる。
【0106】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0107】
また、「液体を吐出する装置」には、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液をノズルから噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0108】
「液体吐出ユニット」とは、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体である。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
【0109】
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
【0110】
例えば、液体吐出ユニットとして、図21で示した液体吐出ユニット440のように、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
【0111】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
【0112】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、図16で示したように、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
【0113】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
【0114】
また、液体吐出ユニットとして、図23で示したように、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。
【0115】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものする。
【0116】
また、「液体吐出ヘッド」は、使用するアクチュエータが限定されるものではない。例えば、前記実施形態で説明したような圧電素子(積層型圧電素子を使用するものでもよい。)以外にも、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものでもよい。
【0117】
また、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【0118】
最後に、上述の実施形態は、一例として提示したものであり、本発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な各実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことも可能である。このような実施の形態及び実施の形態の変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0119】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様1)
複数のノズルがそれぞれ配列された2つの記録ヘッドなどの液体吐出ヘッドのうちの一方の液体吐出ヘッドにおけるノズル列のヘッド長手方向範囲を他方の液体吐出ヘッドにおけるノズル列のヘッド長手方向範囲と一部重複させるように、2つの液体吐出ヘッドがヘッド長手方向に対して直交する方向にずらして配置され、一部重複させる重複領域内で液体吐出動作を行う有効なノズルを一方の液体吐出ヘッドのノズルから他方の液体吐出ヘッドのノズルへと切り替えるノズル切替位置を設定する記録部2などの液体吐出ヘッド装置であって、ノズル切替位置は、上記式1の関係を満たす一方の液体吐出ヘッドAの重複領域内の各ノズルの着弾位置(XC(A,βch))と、上記式1の関係を満たす他方の液体吐出ヘッドBの重複領域内の各ノズルの着弾位置(XC(B,βch))と差|Xc(B,βch)-Xc(A,βch)|が最小となるノズル位置に設定されていることを特徴とするものである。
態様1は、式1に示すように、自己気流等によるノズルから吐出された液体の吐出曲がり量(θ(α,βch))を考慮に入れて算出された一方の液体吐出ヘッドAの着弾位置Xc(A,βch)と他方の液体吐出ヘッドの着弾位置Xc(B,βch)との差が最小となるノズル位置が、ノズル切替位置に設定されている。よって、Xc(A,βch)とXc(B,βch)との差が最小でないノズル位置を、ノズル切替位置に設定したものに比べて、ノズル切替位置での着弾ピッチずれによる記録ムラが抑制される。
【0120】
(態様2)
態様1において、ノズルと吐出対象との距離dが変更されたとき、ノズル切替位置の設定を行う。
これによれば、実施形態で説明したように、常に最適なノズル切替位置に設定することができる。
【0121】
(態様3)
態様1または2において、一方の液体吐出ヘッドAの重複領域内のノズルピッチと、他方の液体吐出ヘッドBの重複領域内のノズルピッチとが互いに異なる。
これによれば、実施形態で説明したように、各ノズル番号の着弾位置ずれのうち、最小の着弾位置ずれのずれ量を良好に少なくできる。よって、ノズル切替位置でのピッチずれを良好に抑制でき、印写スジの発生を良好に抑制できる。
【0122】
(態様4)
態様1または2において、上記式2を満たすように、各液体吐出ヘッドの重複領域内の各ノズルのノズル位置を設定した。
これによれば、変形例で説明したように、|Xc(B,βch)-Xc(A,βch)|が最小となるノズル番号を、吐出曲がりにより着弾ピッチが一定でないものに比べて、若いノズル番号にでき重複領域内のノズル数を少なくすることが可能となる。これにより、重複領域を短くすることができる。
【0123】
(態様5)
態様4において、一方の液体吐出ヘッドAの重複領域内のノズルから吐出された液体の吐出対象上での着弾ピッチと、他方の液体吐出ヘッドBの重複領域内のノズルから吐出された液体の被対象体上での着弾ピッチとが互いに異なる。
これによれば、各ノズル番号の着弾位置ずれのうち、最小の着弾位置ずれのずれ量を良好に少なくできる。よって、ノズル切替位置でのピッチずれを良好に抑制でき、印写スジの発生を良好に抑制できる。
【0124】
(態様6)
ヘッドユニット4などの液体吐出ユニットは、態様1乃至5いずれかの記録部2などの液体吐出ヘッド装置を含む。
これによれば、吐出対象およびインクを消費することなく、ノズル切替位置を設定できる。また、作業者の目視によるノズル切替位置の設定を不要にでき、作業者の作業負担を軽減できる。また、ノズル切替位置でのピッチずれを良好に抑制できる。
【0125】
(態様7)
インクジェット記録装置などの液体を吐出する装置は、態様1乃至5いずれかの記録部2などの液体吐出ヘッド装置、又は、態様7のヘッドユニット4などの液体吐出ユニットを備える。
これによれば、吐出対象およびインクを消費することなく、ノズル切替位置を設定できる。また、作業者の目視によるノズル切替位置の設定を不要にでき、作業者の作業負担を軽減できる。また、ノズル切替位置でのピッチずれを良好に抑制できる。
【0126】
(態様8)
複数のノズルがそれぞれ配列された2つの液体吐出ヘッドのうちの一方の液体吐出ヘッドにおけるノズル列のヘッド長手方向範囲を他方の液体吐出ヘッドにおけるノズル列のヘッド長手方向範囲と一部重複させるように、2つの液体吐出ヘッドがヘッド長手方向に対して直交する方向にずらして配置され、一部重複させる重複領域内で液体吐出動作を行う有効なノズルを一方の液体吐出ヘッドのノズルから他方の液体吐出ヘッドのノズルへと切り替えるノズル切替位置が設定される液体吐出ヘッド装置のノズル切替位置を設定するために、CPU610などのコンピュータに実行されるプログラムであって、一方の液体吐出ヘッドAの各ノズルの着弾位置(Xc(A,βch))を上記式1で求める工程と、他方の液体吐出ヘッドBの各ノズルの着弾位置(XC(B,βch))を上記式1で求める工程と、|Xc(B,βch)-Xc(A,βch)|を算出する工程と、|Xc(B,βch)-Xc(A,βch)|が最小となるノズル位置をノズル切替位置に設定する工程とを前記コンピュータに実行させる。
これによれば、ノズル切替位置でのピッチずれを良好に抑制できる。
【符号の説明】
【0127】
1 :インクジェット記録装置
2 :記録部
3A :一方の記録ヘッド
3B :他方の記録ヘッド
4 :ヘッドユニット
5 :ノズル
404 :液体吐出ヘッド装置
440 :液体吐出ユニット
600 :制御部
610 :CPU
620 :記憶部
P0 :記録材
P1 :通常ピッチ
S :インク滴
【先行技術文献】
【特許文献】
【0128】
【特許文献1】特開2000-190484号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23