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特開2023-182996超音波診断装置および超音波診断装置の制御方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182996
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】超音波診断装置および超音波診断装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
A61B8/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096332
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】越野 理子
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DD01
4C601DD18
4C601EE09
4C601EE10
4C601GB04
4C601GB06
4C601GB18
4C601JB34
4C601JC02
4C601JC05
4C601JC06
4C601JC10
4C601JC20
4C601KK02
4C601KK31
4C601KK42
4C601KK45
4C601KK46
(57)【要約】
【課題】複数の超音波画像を参照することにより病変部の検診カテゴリまたは診断カテゴリを判定し且つ判定の根拠を正確に把握することができる超音波診断装置および超音波診断装置の制御方法を提供する。
【解決手段】同一の病変部を撮影した複数の超音波画像に基づいて判定手順メモリに格納された判定手順の複数の分岐における経路選択のための判断項目に対する前記病変部の性状を識別し、複数の超音波画像から判定手順の複数の分岐における性状の識別に寄与する少なくとも1つの超音波画像を根拠画像として抽出し、識別された性状を判断項目に当てはめて判定手順の複数の分岐における経路選択を行うことにより病変部の検診カテゴリまたは診断カテゴリを判定し、検診カテゴリまたは診断カテゴリが判定される際の判定手順における経路と抽出された根拠画像をモニタに表示する。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の分岐を有する定められた判定手順に従って病変部の検診カテゴリまたは診断カテゴリを判定する超音波診断装置であって、
前記判定手順が格納された判定手順メモリと、
同一の病変部を撮影した複数の超音波画像に基づいて前記判定手順メモリに格納された前記判定手順の前記複数の分岐における経路選択のための判断項目に対する前記病変部の性状を識別する識別部と、
前記複数の超音波画像から前記識別部による前記判定手順の前記複数の分岐における前記性状の識別に寄与する少なくとも1つの超音波画像を根拠画像として抽出する抽出部と、
前記識別部により識別された前記性状を前記判断項目に当てはめて前記判定手順の前記複数の分岐における経路選択を行うことにより前記病変部の前記検診カテゴリまたは前記診断カテゴリを判定する判定部と、
モニタと、
前記判定部により前記検診カテゴリまたは前記診断カテゴリが判定される際の前記判定手順における経路と前記抽出部により抽出された前記根拠画像を前記モニタに表示する表示制御部と
を備える超音波診断装置。
【請求項2】
前記複数の超音波画像は、前記病変部を撮影した動画を構成する画像である請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記複数の超音波画像のそれぞれは、前記病変部の全体または一部が撮影された画像である請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記複数の超音波画像は、前記病変部を撮影した動画を構成する画像から間引きされた画像、補間された画像、または、合成された画像である請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記抽出部は、前記根拠画像において、前記識別部による前記性状の識別に寄与する部分を囲む囲み線を形成し、
前記表示制御部は、前記根拠画像上に、前記囲み線を重畳表示する請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記抽出部は、前記根拠画像に基づいて、前記識別部による前記性状の識別に寄与する部分の寄与率が色の濃淡または色の違いにより表されたヒートマップを形成し、
前記表示制御部は、前記ヒートマップを前記モニタに表示する請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記表示制御部は、前記抽出部により1つの前記分岐に対して複数の前記根拠画像が抽出された場合に、前記複数の前記根拠画像を並べて前記モニタに表示する請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
ユーザが入力操作を行うための入力装置を備え、
前記表示制御部は、前記抽出部により1つの前記分岐に対して複数の前記根拠画像が抽出された場合に、前記入力装置を介した前記ユーザの入力操作に基づいて、前記複数の前記根拠画像を順次前記モニタに表示する請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記表示制御部は、前記モニタに表示される前記根拠画像に、前記複数の前記根拠画像のいずれであるかを表すページ番号をオーバーレイ表示する請求項8に記載の超音波診断装置。
【請求項10】
前記識別部は、前記病変部のサイズを測定し、
前記表示制御部は、前記識別部により測定された前記サイズを前記モニタに表示する請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項11】
前記識別部は、前記判断項目毎に、識別された前記性状が現れている領域が前記病変部全体の領域に対して占める割合を算出し、
前記表示制御部は、前記識別部により算出された前記割合を前記モニタに表示する請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項12】
前記判定部は、前記病変部の性状に基づいて前記判定手順の前記複数の分岐における経路選択の確度を算出する確度算出部を含み、
前記表示制御部は、前記確度算出部により算出された前記確度を前記モニタに表示する請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項13】
前記判定手順の前記複数の分岐のいずれかに複数の前記検診カテゴリまたは前記診断カテゴリが対応している場合に、前記判定部は、前記確度算出部により算出された前記確度を定められたしきい値と比較することにより、前記病変部の前記検診カテゴリまたは前記診断カテゴリを判定する請求項12に記載の超音波診断装置。
【請求項14】
超音波プローブと、前記被検体に対し前記超音波プローブを用いて超音波ビームの送受信を行うことにより前記同一の病変部を撮影した前記複数の超音波画像を生成する画像生成部を備える請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項15】
複数の分岐を有する定められた判定手順に従って病変部の検診カテゴリまたは診断カテゴリを判定する超音波診断装置の制御方法であって、
同一の病変部を撮影した複数の超音波画像に基づいて前記判定手順の前記複数の分岐における経路選択のための判断項目に対する前記病変部の性状を識別する工程と、
前記複数の超音波画像から前記性状の識別に寄与する少なくとも1つの超音波画像を根拠画像として抽出する工程と、
識別された前記性状を前記判断項目に当てはめて前記複数の分岐における経路選択を行うことにより前記病変部の前記検診カテゴリまたは前記診断カテゴリを判定する工程と、
前記検診カテゴリまたは前記診断カテゴリが判定される際の前記判定手順における経路と抽出された前記根拠画像をモニタに表示するする工程とを含む
超音波診断装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置および超音波診断装置の制御方法に係り、特に、複数の分岐を有する定められた判定手順に従って病変部の検診カテゴリまたは診断カテゴリを判定する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療分野において、超音波画像を利用した超音波診断装置が実用化されている。一般に、超音波診断装置は、振動子アレイを内蔵する超音波プローブと、超音波プローブに接続される装置本体とを備えており、超音波プローブから被検体に向けて超音波ビームを送信し、被検体からの超音波エコーを超音波プローブで受信し、その受信信号を電気的に処理することにより超音波画像が生成される。
【0003】
被検体の病変部が撮像された超音波画像等の画像に基づいて、病変部の良悪性を判断することにより、被検体に対する検査の支援を行う装置が特許文献1に開示されている。
所定の検査手順に従って、順次判断の選択肢が示され、計測ツール等の各種のツールにより取得された病変部の情報を参照することにより、判断が実行され、検査手順の全体をツリー状に示した図の上に、それぞれの判断の履歴が太線により表示される。さらに、ツールにより取得され且つ判断の根拠となる病変部の計測値等の情報が、それぞれの判断に対応して表示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-342028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、病変部の良悪性を判断するために、動画として表される複数の超音波画像を参照することが多く、この場合には、判断の履歴と共に病変部の計測値等の情報を表示しても、判断の根拠を正確に把握することができないおそれがある。
【0006】
本発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたものであり、複数の超音波画像を参照することにより病変部の検診カテゴリまたは診断カテゴリを判定し且つ判定の根拠を正確に把握することができる超音波診断装置および超音波診断装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下の構成により、上記目的を達成することができる。
〔1〕 複数の分岐を有する定められた判定手順に従って病変部の検診カテゴリまたは診断カテゴリを判定する超音波診断装置であって、
判定手順が格納された判定手順メモリと、
同一の病変部を撮影した複数の超音波画像に基づいて判定手順メモリに格納された判定手順の複数の分岐における経路選択のための判断項目に対する病変部の性状を識別する識別部と、
複数の超音波画像から識別部による判定手順の複数の分岐における性状の識別に寄与する少なくとも1つの超音波画像を根拠画像として抽出する抽出部と、
識別部により識別された性状を判断項目に当てはめて判定手順の複数の分岐における経路選択を行うことにより病変部の検診カテゴリまたは診断カテゴリを判定する判定部と、
モニタと、
判定部により検診カテゴリまたは診断カテゴリが判定される際の判定手順における経路と抽出部により抽出された根拠画像をモニタに表示する表示制御部と
を備える超音波診断装置。
【0008】
〔2〕 複数の超音波画像は、病変部を撮影した動画を構成する画像である〔1〕に記載の超音波診断装置。
〔3〕 複数の超音波画像のそれぞれは、病変部の全体または一部が撮影された画像である〔1〕または〔2〕に記載の超音波診断装置。
〔4〕 複数の超音波画像は、病変部を撮影した動画を構成する画像から間引きされた画像、補間された画像、または、合成された画像である〔2〕または〔3〕に記載の超音波診断装置。
【0009】
〔5〕 抽出部は、根拠画像において、識別部による性状の識別に寄与する部分を囲む囲み線を形成し、
表示制御部は、根拠画像上に、囲み線を重畳表示する〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の超音波診断装置。
〔6〕 抽出部は、根拠画像に基づいて、識別部による性状の識別に寄与する部分の寄与率が色の濃淡または色の違いにより表されたヒートマップを形成し、
表示制御部は、ヒートマップをモニタに表示する〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の超音波診断装置。
【0010】
〔7〕 表示制御部は、抽出部により1つの分岐に対して複数の根拠画像が抽出された場合に、複数の根拠画像を並べてモニタに表示する〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の超音波診断装置。
〔8〕 ユーザが入力操作を行うための入力装置を備え、
表示制御部は、抽出部により1つの分岐に対して複数の根拠画像が抽出された場合に、入力装置を介したユーザの入力操作に基づいて、複数の根拠画像を順次モニタに表示する〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の超音波診断装置。
〔9〕 表示制御部は、モニタに表示される根拠画像に、複数の根拠画像のいずれであるかを表すページ番号をオーバーレイ表示する〔8〕に記載の超音波診断装置。
【0011】
〔10〕 識別部は、病変部のサイズを測定し、
表示制御部は、識別部により測定されたサイズをモニタに表示する〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の超音波診断装置。
〔11〕 識別部は、判断項目毎に、識別された性状が現れている領域が病変部全体の領域に対して占める割合を算出し、
表示制御部は、識別部により算出された割合をモニタに表示する〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の超音波診断装置。
【0012】
〔12〕 判定部は、病変部の性状に基づいて判定手順の複数の分岐における経路選択の確度を算出する確度算出部を含み、
表示制御部は、確度算出部により算出された確度をモニタに表示する〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の超音波診断装置。
〔13〕 判定手順の複数の分岐のいずれかに複数の検診カテゴリまたは診断カテゴリが対応している場合に、判定部は、確度算出部により算出された確度を定められたしきい値と比較することにより、病変部の検診カテゴリまたは診断カテゴリを判定する〔12〕に記載の超音波診断装置。
〔14〕 超音波プローブと、被検体に対し超音波プローブを用いて超音波ビームの送受信を行うことにより同一の病変部を撮影した複数の超音波画像を生成する画像生成部を備える〔1〕~〔13〕のいずれかに記載の超音波診断装置。
【0013】
〔15〕 複数の分岐を有する定められた判定手順に従って病変部の検診カテゴリまたは診断カテゴリを判定する超音波診断装置の制御方法であって、
同一の病変部を撮影した複数の超音波画像に基づいて判定手順の複数の分岐における経路選択のための判断項目に対する前記病変部の性状を識別する工程と、
複数の超音波画像から性状の識別に寄与する少なくとも1つの超音波画像を根拠画像として抽出する工程と、
識別された性状を判断項目に当てはめて複数の分岐における経路選択を行うことにより病変部の検診カテゴリまたは診断カテゴリを判定する工程と、
検診カテゴリまたは診断カテゴリが判定される際の判定手順における経路と抽出された根拠画像をモニタに表示するする工程とを含む
超音波診断装置の制御方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、識別部により、同一の病変部を撮影した複数の超音波画像に基づいて判定手順メモリに格納された判定手順の複数の分岐における経路選択のための判断項目に対する病変部の性状を識別し、抽出部により、複数の超音波画像から識別部による判定手順の複数の分岐における性状の識別に寄与する少なくとも1つの超音波画像を根拠画像として抽出し、検診カテゴリまたは診断カテゴリが判定される際の判定手順における経路と抽出部により抽出された根拠画像をモニタに表示するので、複数の超音波画像を参照することにより病変部の検診カテゴリまたは診断カテゴリを判定し且つ判定の根拠を正確に把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態1における送受信回路の内部構成を示すブロック図である。
図3】実施の形態1における画像生成部の内部構成を示すブロック図である。
図4】実施の形態1において用いられる判定手順を示す図である。
図5】1つの断面において測定部により測定される病変部の最大径を示す図である。
図6】他の断面において測定部により測定される病変部の最大径を示す図である。
図7】測定部により測定される病変部の縦横比を示す図である。
図8】楕円形の形状を有する病変部を概略的に示す図である。
図9】多角形の形状を有する病変部を概略的に示す図である。
図10】分葉状の形状を有する病変部を概略的に示す図である。
図11】不整形の形状を有する病変部を概略的に示す図である。
図12】実施の形態1の動作を表すフローチャートである。
図13】実施の形態1に従って経路と根拠画像が示された判定手順を示す図である。
図14】囲み線を含む根拠画像が表示された判定手順の一部を示す図である。
図15】根拠画像とヒートマップが並べて表示された判定手順の一部を示す図である。
図16】根拠画像とヒートマップが順次表示される判定手順の一部を示す図である。
図17】複数の根拠画像が並べて表示された判定手順の一部を示す図である。
図18】複数の根拠画像が順次表示される判定手順の一部を示す図である。
図19】病変部のサイズが表示された判定手順の一部を示す図である。
図20】識別された病変部の性状が現れている領域が病変部全体の領域に対して占める割合が表示された判定手順の一部を示す図である。
図21】「くびれ」および「かど」の個数が表示された判定手順の一部を示す図である。
図22】実施の形態1の変形例の動作を表すフローチャートである。
図23】実施の形態2に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
図24】経路選択の確度が表示された判定手順の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「同一」、「同じ」は、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含むものとする。
【0017】
[実施の形態1]
図1に、本発明の実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示す。超音波診断装置は、超音波プローブ10と、装置本体20を備えている。超音波プローブ10と装置本体20は、互いに図示しないケーブルを介して有線接続されている。
【0018】
超音波プローブ10は、振動子アレイ11と、振動子アレイ11に接続された送受信回路12を有している。
【0019】
装置本体20は、超音波プローブ10の送受信回路12に接続された画像生成部21を有し、画像生成部21に、表示制御部22およびモニタ23が順次接続され、画像生成部21に画像メモリ24が接続されている。
画像メモリ24には、識別部25および抽出部26がそれぞれ接続され、識別部25に抽出部26が接続されている。また、識別部25に判定部27が接続され、識別部25、抽出部26および判定部27がそれぞれ表示制御部22に接続されている。また、識別部25、抽出部26および判定部27に判定手順メモリ32が接続されている。
【0020】
画像生成部21、表示制御部22、画像メモリ24、識別部25、抽出部26、判定部27および判定手順メモリ32に、本体制御部28が接続されており、本体制御部28に、入力装置29が接続されている。また、超音波プローブ10の送受信回路12が、本体制御部28に接続されている。
画像生成部21、表示制御部22、識別部25、抽出部26、判定部27、判定手順メモリ32および本体制御部28により、プロセッサ30が構成されている。
【0021】
超音波プローブ10の振動子アレイ11は、1次元または2次元に配列された複数の超音波振動子を有している。これらの振動子は、それぞれ送受信回路12から供給される駆動信号に従って超音波を送信し、且つ、被検体からの反射波を受信してアナログの受信信号を出力する。各振動子は、例えば、PZT(Lead Zirconate Titanate:チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミック、PVDF(Poly Vinylidene Di Fluoride:ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電素子およびPMN-PT(Lead Magnesium Niobate-Lead Titanate:マグネシウムニオブ酸鉛-チタン酸鉛固溶体)に代表される圧電単結晶等からなる圧電体の両端に電極を形成することにより構成される。
【0022】
送受信回路12は、本体制御部28による制御の下で、振動子アレイ11から超音波を送信し且つ振動子アレイ11により取得された受信信号に基づいて音線信号を生成する。送受信回路12は、図2に示されるように、振動子アレイ11に接続されるパルサ13と、振動子アレイ11に順次直列に接続された増幅部14、AD(Analog Digital)変換部15およびビームフォーマ16を有している。
【0023】
パルサ13は、例えば、複数のパルス発生器を含んでおり、本体制御部28からの制御信号に応じて選択された送信遅延パターンに基づいて、振動子アレイ11の複数の振動子から送信される超音波が超音波ビームを形成するようにそれぞれの駆動信号を、遅延量を調節して複数の振動子に供給する。このように、振動子アレイ11の振動子の電極にパルス状または連続波状の電圧が印加されると、圧電体が伸縮し、それぞれの振動子からパルス状または連続波状の超音波が発生して、それらの超音波の合成波から、超音波ビームが形成される。
【0024】
送信された超音波ビームは、例えば、被検体の部位等の対象において反射され、超音波エコーが、超音波プローブ10の振動子アレイ11に向かって伝搬する。このように振動子アレイ11に向かって伝搬する超音波エコーは、振動子アレイ11を構成するそれぞれの振動子により受信される。この際に、振動子アレイ11を構成するそれぞれの振動子は、伝搬する超音波エコーを受信することにより伸縮して、電気信号である受信信号を発生させ、これらの受信信号を増幅部14に出力する。
【0025】
増幅部14は、振動子アレイ11を構成するそれぞれの振動子から入力された信号を増幅し、増幅した信号をAD変換部15に送信する。AD変換部15は、増幅部14から送信された信号をデジタルの受信データに変換し、これらの受信データをビームフォーマ16に送信する。ビームフォーマ16は、本体制御部28からの制御信号に応じて選択された受信遅延パターンに基づいて設定される音速または音速の分布に従い、AD変換部15により変換された各受信データに対してそれぞれの遅延を与えて加算することにより、いわゆる受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理により、AD変換部15で変換された各受信データが整相加算され且つ超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号が取得される。
【0026】
装置本体20の画像生成部21は、図3に示されるように、信号処理部41、DSC(Digital Scan Converter:デジタルスキャンコンバータ)42および画像処理部43が順次直列に接続された構成を有している。
信号処理部41は、超音波プローブ10の送受信回路12から送出された音線信号に対し、超音波の反射位置の深度に応じて距離による減衰の補正を施した後、包絡線検波処理を施すことにより、被検体内の組織に関する断層画像情報である超音波画像信号(Bモード画像信号)を生成する。
【0027】
DSC42は、信号処理部41で生成された超音波画像信号を通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像信号に変換(ラスター変換)する。
画像処理部43は、DSC42から入力される超音波画像信号に階調処理等の各種の必要な画像処理を施した後、超音波画像を表す信号を表示制御部22および画像メモリ24に出力する。このようにして画像生成部21により生成された超音波画像を表す信号を、単に、超音波画像と呼ぶこととする。
【0028】
画像メモリ24は、本体制御部28の制御の下、画像生成部21により生成された超音波画像を保存するメモリである。例えば、画像メモリ24は、被検体の乳房に対する診断に対応して画像生成部21により生成された複数フレームの超音波画像を保持することができる。
【0029】
画像メモリ24としては、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disc Drive:ハードディスクドライブ)、SSD(Solid State Drive:ソリッドステートドライブ)、FD(Flexible Disc:フレキシブルディスク)、MOディスク(Magneto-Optical disc:光磁気ディスク)、MT(Magnetic Tape:磁気テープ)、RAM(Random Access Memory:ランダムアクセスメモリ)、CD(Compact Disc:コンパクトディスク)、DVD(Digital Versatile Disc:デジタルバーサタイルディスク)、SDカード(Secure Digital card:セキュアデジタルカード)、USBメモリ(Universal Serial Bus memory:ユニバーサルシリアルバスメモリ)等の記録メディアを用いることができる。
【0030】
判定手順メモリ32は、病変部の良悪性に基づいて、標準化された複数の検診カテゴリのいずれに該当するかを判定するための定められた判定手順が格納されたメモリである。例えば、図4に示されるような、乳腺に形成された腫瘤の検診カテゴリを判定するための判定手順が判定手順メモリ32に格納されている。この判定手順は、JABTS(the Japanese Association of Breast and Thyroid Sonology:日本乳腺甲状腺超音波医学会)により作成されたガイドラインに示されているもので、それぞれの判断項目に従って経路が分かれる複数の分岐を有している。
判定手順メモリ32としては、例えば、フラッシュメモリ、HDD、SSD、FD、MOディスク、MT、RAM、CD、DVD、SDカード、USBメモリ等を用いることができる。
【0031】
JABTSは、検診カテゴリ1-5を次のように規定している。
検診カテゴリ1:異常所見なし
検診カテゴリ2:所見があるが精密検査不要
検診カテゴリ3:良性であるが悪性を否定できない
検診カテゴリ4:悪性の疑い
検診カテゴリ5:悪性
【0032】
例えば、最初の分岐B1では、超音波画像における腫瘤内部からの超音波エコーに関して、嚢胞性パターン(無エコー)、混合性パターン(充実性部分と液状部分を有する)、充実性パターンの3つの判断項目が設定されている。
そして、腫瘤は、超音波エコーの性状に基づいて嚢胞性パターンが選択された場合に、検診カテゴリ2に属すると判定され、混合性パターンが選択された場合に、検診カテゴリ3、4に属するが、腫瘍の最大径が5mm以下の場合は、検診カテゴリ2に属すると判定される。
【0033】
また、分岐B1において、充実性パターンが選択されると、さらに、超音波エコーの性状に応じて、「最大径が2cm以下で十分に縦横比の小さい全周性に境界明瞭平滑なもの」等に該当する場合は、検診カテゴリ2に属すると判定され、該当しない場合は、次の分岐B2に進む。
分岐B2においては、境界部高エコー像および乳腺境界線の断裂が判断項目として設定されており、少なくとも一方に該当する場合は、腫瘤は、検診カテゴリ4、5に属すると判定される。境界部高エコー像および乳腺境界線の断裂のいずれにも該当しない場合は、微細・点状高エコーを複数有するか否かに応じて、また、腫瘍の最大径と腫瘤の縦横比に応じて、検診カテゴリの判定がなされることとなる。さらに、腫瘤の形状に応じて、検診カテゴリが調整される場合もある。
【0034】
ここで、腫瘍の径は、例えば図5に示されるように、腫瘍Nの最大寸法を含む断面において、腫瘍Nの最大長さL1と、最大長さL1に直交する線上における最大幅L3を測定し、さらに、図6に示されるように、腫瘍Nの最大寸法を含む断面に直交する断面における最大径L2を測定して、L1×L2×L3[mm]と表す。なお、これらの最大長さL1、最大径L2および最大幅L3は、境界部高エコー部分Hを含めた寸法が測定される。
また、腫瘤の縦横比は、例えば図7に示されるように、境界部高エコー部分を含めずに、被検体の体表(皮膚)と平行な方向における腫瘤Mの横径Wと、横径Wに直交する方向における縦径Dを測定し、縦径Dを横径Wで除した値で表すことができる。
【0035】
さらに、腫瘤の形状は、境界部高エコー部分を含めた形状が「くびれ」および「かど」を有するか否かに応じて、例えば図8に示されるような円形または楕円形(くびれ無し、かど無し)、図9に示されるような多角形(くびれ無し、かど有り)、図10に示されるような分葉形(くびれ有り、かど無し)、図11に示されるような不整形(くびれ有り、かど有り)に分類される。
【0036】
識別部25は、判定手順メモリ32から判定手順を読み出し、画像生成部21により生成され且つ画像メモリ24に保存された複数の超音波画像を解析することにより、図4に示されるような判定手順の複数の分岐における経路選択のための判断項目に対する病変部の性状を識別する。上記の判定手順において例示された「嚢胞性パターン」、「混合性パターン」、「充実性パターン」、「境界部高エコー像」、「乳腺境界線の断裂」、「微細・点状高エコー」、「腫瘍の最大径」、「腫瘤の縦横比」、「腫瘤の形状」、「くびれ」、「かど」等が、識別部25により識別される病変部の性状に対応している。
【0037】
識別部25における病変部の性状の識別は、テンプレートマッチングと、Adaboost(Adaptive Boosting)、SVM(Support Vector Machine)またはSIFT(Scale-Invariant Feature Transform)等の特徴量を利用した画像解析技術と、深層学習等の機械学習技術を利用して学習された判定モデルと、の少なくとも1つを用いて実行することができる。なお、判定モデルは、例えば、病変領域を含む乳房の学習用超音波画像を用いて学習した学習済みモデルである。
識別部25により、病変部の境界が判定され、境界に基づいて、病変部の最大径および縦横比等のサイズの測定も行われる。
【0038】
識別部25が解析する複数の超音波画像は、被検体の同一の病変部を撮影した動画を構成するものであってもよく、複数の超音波画像のそれぞれは、病変部の全体または一部が撮影された画像である。
また、識別部25は、病変部を撮影した動画を構成する複数の超音波画像をそのまま解析してもよく、あるいは、動画を構成する複数の超音波画像から間引きされた画像、動画を構成する複数の超音波画像に対して補間された画像、または、動画を構成する複数の超音波画像から合成された画像を解析することもできる。
識別部25による病変部の性状の識別結果は、識別部25から抽出部26および判定部27に送出される。
【0039】
抽出部26は、識別部25から病変部の性状の識別結果を受け取り、画像生成部21により生成され且つ画像メモリ24に保存された複数の超音波画像の中から、識別部25による判定手順の複数の分岐における識別に寄与する少なくとも1つの超音波画像を根拠画像として抽出する。すなわち、図4に示される判定手順の複数の分岐において、病変部の性状が判断項目に該当するか否かを判断する際に、その判断を最もよく表している超音波画像、判断の決め手となる超音波画像が抽出される。
このとき、例えば、複数の超音波画像に対して、判定手順の分岐に対応する各性状と判断した確からしさ(likelihood)をそれぞれスコア化して記録しておき、スコアが最も高い性状、または、複数の超音波画像のスコアの平均値、中央値、最頻値等が最も高い性状を分岐の経路として選択し、且つ、選択された経路に対応する性状のスコアが最も高い超音波画像を根拠画像として抽出する。
抽出される超音波画像は、1枚に限るものではなく、抽出部26は、複数の超音波画像を根拠画像として抽出することもできる。
【0040】
判定部27は、識別部25から病変部の性状の識別結果を受け取り、判定手順メモリ32に格納されている判定手順の複数の分岐において、識別部25により識別された病変部の性状を、それぞれの分岐に対応する判断項目に当てはめて、判定手順の経路選択を行うことにより、病変部の検診カテゴリを判定する。
【0041】
表示制御部22は、本体制御部28の制御の下、画像生成部21から送出された超音波画像に所定の処理を施し、モニタ23に、超音波画像を表示する。
また、表示制御部22は、識別部25に格納されている判定手順をモニタ23に表示し、判定手順に重畳させて、判定部27により検診カテゴリが判定される際の判定手順における経路と、抽出部26により抽出された根拠画像をモニタ23に表示する。
モニタ23は、表示制御部22の制御の下、超音波画像、判定手順等を表示するものであり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display:液晶ディスプレイ)、有機ELディスプレイ(Organic Electroluminescence Display)等のディスプレイ装置を有している。
【0042】
本体制御部28は、予め記憶している制御プログラム等に基づいて、装置本体20の各部および超音波プローブ10の送受信回路12の制御を行う。
また、図示しないが、本体制御部28に、本体側格納部が接続されている。本体側格納部は、制御プログラム等を記憶している。また、本体側格納部としては、例えば、フラッシュメモリ、RAM、SDカード、SSD等を用いることができる。
【0043】
入力装置29は、ユーザが入力操作を行うためのものであり、例えば、キーボード、マウス、トラックボール、タッチパッド、および、モニタ23に重ねて配置されたタッチセンサ等の装置により構成される。
【0044】
なお、画像生成部21、表示制御部22、識別部25、抽出部26、判定部27および本体制御部28を有するプロセッサ30は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)、および、CPUに各種の処理を行わせるための制御プログラムから構成されるが、FPGA(Field Programmable Gate Array:フィードプログラマブルゲートアレイ)、DSP(Digital Signal Processor:デジタルシグナルプロセッサ)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit:アプリケーションスペシフィックインテグレイテッドサーキット)、GPU(Graphics Processing Unit:グラフィックスプロセッシングユニット)、その他のIC(Integrated Circuit:集積回路)を用いて構成されてもよく、もしくはそれらを組み合わせて構成されてもよい。
【0045】
また、プロセッサ30の画像生成部21、表示制御部22、識別部25、抽出部26、判定部27および本体制御部28は、部分的にあるいは全体的に1つのCPU等に統合させて構成することもできる。
【0046】
次に、図12に示されるフローチャートを参照して、実施の形態1に係る超音波診断装置の動作について説明する。
まず、ステップS1において、識別部25により、判定手順メモリ32から判定手順が読み出され、被検体の同一の病変部が撮影され且つ画像メモリ24に保存された複数の超音波画像の解析が行われ、判定手順のそれぞれの分岐に設定されている判断項目に対する病変部の性状が識別される。
例えば、病変部が、図4に示される判定手順の最初の分岐B1に設定されている3つの判断項目、すなわち、嚢胞性パターン、混合性パターン、充実性パターンのいずれに該当するかが判断される。
【0047】
次に、ステップS2において、抽出部26により、判定手順メモリ32から判定手順が読み出され、ステップS1で行われた判定手順の複数の分岐における病変部の性状の識別に寄与する少なくとも1つの超音波画像が根拠画像として抽出される。抽出部26は、ステップS1において、識別部25により解析が行われた複数の超音波画像の中から、病変部の性状が判断項目に該当するか否かを判断する際に、その判断を最もよく表している超音波画像を根拠画像として抽出する。
例えば、複数の超音波画像に対して、判定手順の分岐に対応する各性状と判断した確からしさ(likelihood)をそれぞれスコア化し、スコアが最も高い性状、または、複数の超音波画像のスコアの平均値、中央値、最頻値等が最も高い性状を分岐の経路として選択し、且つ、選択された経路に対応する性状のスコアが最も高い超音波画像を根拠画像として抽出する。
識別部25による識別に最も寄与する超音波画像が複数存在する場合には、根拠画像を1枚の超音波画像に限定することなく、複数の超音波画像が根拠画像として抽出される。
【0048】
根拠画像が抽出されると、ステップS3に進み、判定手順の複数の分岐のすべてに対してステップS1における病変部の性状の識別およびステップS2における根拠画像の抽出が終了したか否かが判定される。
病変部の性状の識別および根拠画像の抽出がまだなされていない分岐が残っている場合には、ステップS1に戻り、判定手順における次の分岐に対して、識別部25により、病変部の性状の識別が行われ、さらに、ステップS2において、抽出部26により、根拠画像の抽出が行われる。
このようにして、ステップS3において、すべての分岐に対して病変部の性状の識別および根拠画像の抽出が終了するまで、ステップS1~S3が繰り返される。
【0049】
そして、ステップS3において、すべての分岐に対する病変部の性状の識別および根拠画像の抽出が終了したと判定されると、ステップS4に進み、判定部27により、判定手順メモリ32から判定手順が読み出され、判定手順に従って病変部の検診カテゴリが判定される。このとき、判定部27は、判定手順の複数の分岐において、識別部25により識別された病変部の性状を、それぞれの分岐に対応する判断項目に当てはめて、判定手順の経路選択を行うことにより、病変部の検診カテゴリを判定することができる。
【0050】
このようにして病変部の検診カテゴリが判定されると、ステップS5に進み、図13に示されるように、表示制御部22により、検診カテゴリの判定に使用された判定手順がモニタ23に表示され、さらに、判定部27により検診カテゴリが判定される際の経路と抽出部26により抽出された根拠画像とが判定手順に重畳表示される。
なお、識別部25により判定された病変部の境界を根拠画像に重畳表示することができる。
図13では、判定部27により検診カテゴリが判定される際の経路が、太線により強調表示され、被検体の病変部が検診カテゴリ4、5に属すると判定されたことが分かる。
判定の経路は、太線に限るものではなく、特定の色を付した線により強調表示することもできる。
【0051】
また、図13に示される例では、最初の分岐B1において、病変部が、3つの判断項目、嚢胞性パターン、混合性パターン、充実性パターンのうち充実性パターンに該当すると判断されているが、この判断を最もよく表している超音波画像が抽出部26により抽出され、根拠画像U1として判定手順における分岐B1の近傍に表示されている。
同様に、分岐B2において、病変部が、境界部高エコー像および乳腺境界線の断裂の少なくとも一方に該当すると判断されているが、この判断を最もよく表している超音波画像が抽出部26により抽出され、根拠画像U2として判定手順における分岐B2の近傍に表示されている。
【0052】
このように、識別部25により、被検体の同一の病変部を撮影した複数の超音波画像に基づいて判定手順の複数の分岐における判断項目に対する病変部の性状が識別され、抽出部26により、複数の超音波画像から識別部25による性状の識別に寄与する少なくとも1つの超音波画像が根拠画像として抽出され、表示制御部22により、検診カテゴリが判定される際の判定手順における経路と抽出部26により抽出された根拠画像がモニタ23に表示されるので、ユーザの熟練度に関わらず、複数の超音波画像から病変部の検診カテゴリを判定し且つ判定の根拠を正確に把握することが可能となる。
【0053】
なお、抽出部26は、識別部25から受け取った病変部の性状の識別結果に基づき、複数の超音波画像の中から抽出した根拠画像において、識別部25による識別に寄与する部分を囲む囲み線を形成し、図14に示されるように、表示制御部22により、根拠画像U1上に、囲み線Eを重畳表示することもできる。また、囲み線Eの代わりに、識別に寄与する部分の境界線を根拠画像U1上に重畳表示してもよい。
また、抽出部26は、根拠画像U1に基づいて、識別部25による識別に寄与する部分の寄与率が色の濃淡または色の違いにより表されたヒートマップを形成してもよい。図15に示されるように、表示制御部22により、根拠画像U1に並べてヒートマップU1Hをモニタ23に表示することができる。
【0054】
ヒートマップU1Hを根拠画像U1に並べて表示する代わりに、入力装置29を介したユーザの入力操作に基づいて、図16に示されるように、根拠画像U1とヒートマップU1Hを交互に表示するようにしてもよい。
このように、囲み線Eを根拠画像U1上に重畳表示する、または、ヒートマップU1Hを表示することにより、ユーザは、識別部25による識別に寄与する部分を直感的に把握することができる。
【0055】
また、判定手順のそれぞれの分岐において、抽出部26により、識別部25における識別に寄与する複数の根拠画像が抽出された場合は、例えば図17に示されるように、分岐の近傍に、対応する複数の根拠画像U1aおよびU1bを並べて表示することができる。
あるいは、入力装置29を介したユーザの入力操作に基づいて、抽出部26により抽出された複数の根拠画像を順次モニタ23に表示してもよい。この場合、例えば図18に示されるように、現在表示されている根拠画像U1mが、抽出部26により抽出されたn枚の根拠画像のいずれであるか、すなわち、何枚目であるかを表すページ番号m/nを根拠画像U1mにオーバーレイ表示することもできる。
このように、複数の根拠画像を順次表示すれば、モニタ23が大きな表示スペースを有しない場合であっても、複数の根拠画像を表示することができ、また、ページ番号をオーバーレイ表示することで、ユーザは、複数の根拠画像を把握しやすくなる。
さらに、ユーザの入力操作によらずに、複数の根拠画像を自動的に一定の時間間隔で順次表示してもよい。
【0056】
図4に示される判定手順のように、複数の分岐には、病変部のサイズが判断項目として設定されることがあるため、図19に示されるように、識別部25により測定された病変部のサイズ、例えば腫瘍の最大径および腫瘤の縦横比を判定手順に重畳させてモニタ23に表示することができる。
また、腫瘍の領域と腫瘤の領域を画像上に表示し、表示された領域をユーザが入力装置29を介して修正することができるように構成し、識別部25が、修正された領域に基づいて腫瘍の最大径、腫瘤の縦横比を再度測定することで、測定値を補正するようにしてもよい。例えば、表示された領域の輪郭線がユーザにより修正されると、修正された領域に基づいて識別部25により腫瘍の最大径、腫瘤の縦横比の測定値が補正され、補正された測定値に基づいて判定部27により改めて検診カテゴリが判定される。なお、補正された腫瘍の最大径、腫瘤の縦横比は、判定手順に重畳されてモニタ23に表示される。
【0057】
さらに、識別部25は、判定手順に設定された判断項目毎に、識別された病変部の性状が現れている領域が病変部全体の領域に対して占める割合を算出することができる。例えば、識別部25は、被検体の同一の病変部が撮影され且つ解析対象となった複数の超音波画像に基づいて、三次元画像を作成し、例えば、病変部の境界部において、「粗造」と認められる領域が病変部全体の領域に対して、どの程度の割合を占めるかを算出する。算出された割合は、図20に示されるように、判定手順に重畳させてモニタ23に表示することができる。
なお、三次元画像を作成する代わりに、例えば、第1枚目のフレームにおいて、粗造部分が2cm、それ以外が8cm、第2枚目のフレームにおいて、粗造部分が1.5cm、それ以外が7cm等と、それぞれのフレームに対して粗造部分と他の部分の長さを算出し、すべてのフレームにおける粗造部分の長さの和と他の部分の長さの和の割合を算出してモニタ23に表示してもよい。
【0058】
また、上述したように、腫瘤の形状は、境界部高エコー部分を含めた形状が「くびれ」および「かど」を有するか否かに応じて分類され、例えば図11に示されるような不整形は、「くびれ」および「かど」の双方を有しているが、不整形であると認定するためには、「くびれ」および「かど」の個数を確認することが望まれる。そこで、識別部25により、複数の超音波画像から、病変部が有する「くびれ」および「かど」のそれぞれの個数を算出し、図21に示されるように、判定手順に重畳させてモニタ23に表示することができる。
【0059】
このように、識別部25による解析に基づいて、病変部のサイズ、識別された病変部の性状が現れている領域が病変部全体の領域に対して占める割合、「くびれ」および「かど」の個数をモニタ23に表示することで、ユーザは、判定手順の複数の分岐における経路選択の根拠をより詳細に把握することが可能となる。
【0060】
なお、上記の実施の形態1では、図12に示されるように、ステップS1において、識別部25により、複数の超音波画像に対して病変部の性状が識別され、ステップS2において、性状の識別に寄与する根拠画像が抽出されるが、これに限るものではない。
例えば、図22のフローチャートに示されるように、まず、ステップS6において、複数の超音波画像のすべてに対して、識別部25に予め保存されているすべての性状項目の判定を行い、この判定に伴って、続くステップS7において、個々の性状項目を最もよく表す少なくとも1つの超音波画像を根拠画像として抽出してもよい。
【0061】
このようにして、すべての性状項目の判定と根拠画像の抽出が行われると、実施の形態1と同様に、ステップS4に進んで、判定部27により、判定手順に従って病変部の検診カテゴリが判定され、さらに、ステップS5において、表示制御部22により、判定手順がモニタ23に表示され、検診カテゴリが判定される際の経路と根拠画像とが判定手順に重畳表示される。
【0062】
[実施の形態2]
図23に、実施の形態2に係る超音波診断装置の構成を示す。この超音波診断装置は、超音波プローブ10に装置本体20Aを接続したものである。装置本体20Aは、図1に示した実施の形態1に係る超音波診断装置の装置本体20において、判定部27および本体制御部28の代わりに判定部27Aおよび本体制御部28Aを用いたもので、その他の構成は、実施の形態1における装置本体20と同様である。
【0063】
判定部27Aは、内部に確度算出部31を含んでおり、確度算出部31が表示制御部22に接続されている。
画像生成部21、表示制御部22、画像メモリ24、識別部25、抽出部26および判定部27Aに、本体制御部28Aが接続されており、本体制御部28Aに、入力装置29が接続されている。また、超音波プローブ10の送受信回路12が、本体制御部28Aに接続されている。
画像生成部21、表示制御部22、識別部25、抽出部26、判定部27Aおよび本体制御部28Aにより、プロセッサ30Aが構成されている。
【0064】
確度算出部31は、識別部25により識別された病変部の性状を、それぞれの分岐に対応する判断項目に当てはめて、判定手順の経路選択を行う際に、分岐毎に経路選択の確度を算出する。
確度算出部31における確度の算出は、例えば、深層学習等の機械学習技術を利用して学習された判定モデルを用いて実行することができる。なお、判定モデルは、例えば、乳房が撮影された学習用超音波画像における乳腺領域(セグメンテーション)を学習した学習済みモデルである。
【0065】
例えば、図13に示される判定手順の最初の分岐B1において、病変部が、3つの判断項目、嚢胞性パターン、混合性パターン、充実性パターンのそれぞれに該当する確度が、確度算出部31により算出される。そして、図24に示されるように、表示制御部22により、嚢胞性パターンに該当する確度X%、混合性パターンに該当する確度Y%、充実性パターンに該当する確度Z%が、判定手順に重畳してモニタ23に表示される。
これにより、ユーザは、判定手順のそれぞれの分岐における経路選択の根拠をより詳細に把握することができる。
【0066】
また、例えば、図13に示される判定手順の分岐B2において、病変部が、境界部高エコー像および乳腺境界線の断裂の少なくとも一方に該当する場合は、検診カテゴリ4、5に属すると判定される。このように、1つの分岐に複数の検診カテゴリが対応している場合には、確度算出部31により算出された経路選択の確度を、定められたしきい値と比較することにより、対応する複数の検診カテゴリのいずれであるかを判定することもできる。
例えば、分岐B2において、境界部高エコー像および乳腺境界線の断裂の少なくとも一方に該当する確度が、定められたしきい値以下であれば、検診カテゴリ4に属し、定められたしきい値より大きければ、検診カテゴリ5に属すると判定することが可能となる。
【0067】
上記の実施の形態1および2では、超音波プローブ10が送受信回路12を有しているが、装置本体20、20Aが送受信回路12を有するように構成することもできる。また、装置本体20、20Aが画像生成部21を有しているが、超音波プローブ10が画像生成部21を有していてもよい。さらに、図3に示された、画像生成部21を構成する信号処理部41、DSC42および画像処理部43のうち、信号処理部41のみを超音波プローブ10が有し、装置本体20、20AがDSC42および画像処理部43を有するように構成してもよい。
また、実施の形態1および2における装置本体20、20Aとしては、据え置き型の装置本体を用いることもでき、また、携帯型、ハンドヘルド型のコンパクトな装置本体を用いることもできる。
【0068】
上記の実施の形態1および2においては、判定手順メモリ32に格納された判定手順に従って乳腺における病変部の検診カテゴリを判定しているが、これに限るものではなく、甲状腺に関する検診カテゴリを判定する判定手順を判定手順メモリ32に格納することで、同様にして、複数の分岐を有する定められた判定手順に従って甲状腺における病変部の検診カテゴリを判定することができる。
さらに、検診カテゴリの判定だけでなく、診断カテゴリの判定を行うための判定手順を判定手順メモリ32に格納することで、診断カテゴリの判定に対しても、同様にして、この発明を適用することができる。
【0069】
JABTSは、診断カテゴリI-Vを次のように規定している。
診断カテゴリI:正常
診断カテゴリII:正常または炎症細胞
診断カテゴリIIIa:良性の細胞であるが悪性を否定できない
診断カテゴリIIIb:悪性の可能性が高いが良性を否定できない
診断カテゴリIV:悪性の疑い
診断カテゴリV:悪性
【0070】
この発明に係る超音波診断装置を用いることにより、検診カテゴリと同様に、ユーザの熟練度に関わらず、複数の超音波画像から乳腺または甲状腺における病変部の診断カテゴリを判定し且つ判定の根拠を正確に把握することが可能となる。
【符号の説明】
【0071】
10 超音波プローブ、11 振動子アレイ、12 送受信回路、13 パルサ、14 増幅部、15 AD変換部、16 ビームフォーマ、20 装置本体、21 画像生成部、22 表示制御部、23 モニタ、24 画像メモリ、25 識別部、26 抽出部、27,27A 判定部、28,28A 本体制御部、29 入力装置、30,30A プロセッサ、31 確度算出部、32 判定手順メモリ、41 信号処理部、42 DSC、43 画像処理部、B1,B2 分岐、M 腫瘤、N 腫瘍、H 境界部高エコー部分、L1,L2 最大長さ、L3 最大幅、W 横径、D 縦径、U1,U1a,U1b,U1m,U2 根拠画像、E 囲み線、U1H ヒートマップ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
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図20
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図22
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図24