(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182997
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】検知システム及び検知方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20231220BHJP
G01N 37/00 20060101ALN20231220BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096334
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】522239030
【氏名又は名称】株式会社イクスフロー
(71)【出願人】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100142734
【弁理士】
【氏名又は名称】安 裕 希
(72)【発明者】
【氏名】小林 遼
(72)【発明者】
【氏名】石澤 直也
(72)【発明者】
【氏名】塩野 博文
(72)【発明者】
【氏名】中谷 英幸
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058GB02
2G058GB10
(57)【要約】
【課題】流路における液体の送液状態を精度よく検知できる検知システムを提供する。
【解決手段】流体デバイスは、少なくとも一部が流路に露出し、流路の液体が流れる方向において互いに間隔を開けて配置された2つの電極を含む電極対を有し、検知システムは、電極対に交流電圧を印加するように構成された回路部と、2つの電極の間における電気的特性の変化を表す信号を出力するように構成された信号検出部と、信号検出部から出力される信号に基づいて、流路の電極対が設けられた位置における送液状態を判定するように構成された判定部と、を備え、判定部は、電極対が設けられた位置において、送液状態が、液体の通過前、液体の通過中、又は、液体の通過後の3つの状態のいずれにあるかを判定する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体デバイスに設けられた流路における送液状態を検知する検知システムであって、
前記流体デバイスは、少なくとも一部が前記流路に露出し、前記流路の液体が流れる方向において互いに間隔を開けて配置された2つの電極を含む電極対を有し、
前記電極対に交流電圧を印加するように構成された回路部と、
前記2つの電極の間における電気的特性の変化を表す信号を出力するように構成された信号検出部と、
前記信号検出部から出力される信号に基づいて、前記流路の前記電極対が設けられた位置における送液状態を判定するように構成された判定部と、
を備え、
前記判定部は、前記電極対が設けられた位置において、前記送液状態が、液体の通過前、液体の通過中、又は、液体の通過後の3つの状態のいずれにあるかを判定する、検知システム。
【請求項2】
前記回路部は、前記2つの電極のうち上流側の電極に接続された交流電源と、前記2つの電極のうち下流側の電極に接続されたコンデンサと、前記交流電源及び前記コンデンサに対して直列に接続された抵抗器と、を含み、前記2つの電極が互いに電気的に接続された場合にRC直列回路として作用し、
前記信号検出部は、前記抵抗器の端子間又は前記2つの電極の間の電圧を検出信号として出力し、
前記判定部は、前記検出信号の振幅に基づいて、前記送液状態を判定する、
請求項1に記載の検知システム。
【請求項3】
前記判定部は、
前記検出信号の振幅がゼロである場合に、前記送液状態が液体の通過前であると判定し、
前記検出信号の振幅の最大値が所定の閾値を超えている場合に、前記送液状態が液体の通過中であると判定し、
前記検出信号の振幅の最大値が前記所定の閾値を下回った場合に、前記送液状態が液体の通過後であると判定する、
請求項2に記載の検知システム。
【請求項4】
前記信号検出部は、さらに、前記上流側の電極における電位を参照信号として出力し、
前記参照信号及び前記検出信号を重ねて表示する表示部をさらに備える
請求項3に記載の検知システム。
【請求項5】
前記2つの電極の各々は、短冊状に形成された部分を含み、前記2つの電極は、短冊状の部分の長辺が互いに平行、且つ、前記流路の幅方向と平行になるように配置されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の検知システム。
【請求項6】
流体デバイスに設けられた流路における送液状態を検知する検知方法であって、
前記流体デバイスは、少なくとも一部が前記流路に露出し、前記流路の液体が流れる方向において互いに間隔を開けて配置された2つの電極を含む電極対を有し、
前記電極対に交流電圧を印加するように構成された回路部において前記2つの電極の間における電気的特性の変化を表す信号を出力する工程と、
前記信号に基づいて、前記流路の前記電極対が設けられた位置における送液状態を判定する工程と、
を含み、
前記判定する工程は、前記電極対が設けられた位置において、前記送液状態が、液体の通過前、液体の通過中、又は、液体の通過後の3つの状態のいずれにあるかを判定する、検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体デバイスにおける液体の検知システム及び検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、体外診断分野における試験の高速化、高効率化、および集積化、又は、検査機器の超小型化を目指したμ-TAS(Micro-Total Analysis Systems)の開発などが注目を浴びており、世界的に活発な研究が進められている。
【0003】
μ-TASは、少量の試料で測定、分析が可能なこと、持ち運びが可能となること、低コストで使い捨て可能なこと等、従来の検査機器に比べて優れている。
更に、高価な試薬を使用する場合や少量多検体を検査する場合において、有用性が高い方法として注目されている。
【0004】
μ-TASの構成要素として、流路と、該流路上に配置されるポンプとを備えたデバイスが報告されている(非特許文献1)。このようなデバイスでは、該流路へ複数の溶液を注入し、ポンプを作動させることで、複数の溶液を流路内で混合する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Jong Wook Hong, Vincent Studer, Giao Hang, W French Anderson and Stephen R Quake,Nature Biotechnology 22, 435 - 439 (2004)
【発明の概要】
【0006】
本発明の第1の実施態様に従えば、流体デバイスに設けられた流路における送液状態を検知する検知システムであって、前記流体デバイスは、少なくとも一部が前記流路に露出し、前記流路の液体が流れる方向において互いに間隔を開けて配置された2つの電極を含む電極対を有し、前記電極対に交流電圧を印加するように構成された回路部と、前記2つの電極の間における電気的特性の変化を表す信号を出力するように構成された信号検出部と、前記信号検出部から出力される信号に基づいて、前記流路の前記電極対が設けられた位置における送液状態を判定するように構成された判定部と、を備え、前記判定部は、前記電極対が設けられた位置において、前記送液状態が、液体の通過前、液体の通過中、又は、液体の通過後の3つの状態のいずれにあるかを判定する、検知システムが提供される。
【0007】
本発明の第2の実施態様に従えば、流体デバイスに設けられた流路における送液状態を検知する検知方法であって、前記流体デバイスは、少なくとも一部が前記流路に露出し、前記流路の液体が流れる方向において互いに間隔を開けて配置された2つの電極を含む電極対を有し、前記電極対に交流電圧を印加するように構成された回路部において前記2つの電極の間における電気的特性の変化を表す信号を出力する工程と、前記信号に基づいて、前記流路の前記電極対が設けられた位置における送液状態を判定する工程と、を含み、前記判定する工程は、前記電極対が設けられた位置において、前記送液状態が、液体の通過前、液体の通過中、又は、液体の通過後の3つの状態のいずれにあるかを判定する、検知方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態の流体デバイスの斜視図である。
【
図4】
図4は、第1基板を接合面側から見た模式図である。
【
図5】
図5は、第2基板を接合面側から見た模式図である。
【
図6】
図6は、一実施形態の検知システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、一実施形態の回路部の構成を示す図である。
【
図8】
図8は、一実施形態の検知システムの動作を説明するための模式図である。
【
図9】
図9は、一実施形態の検知システムにおける動作実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態に係る検知システム及び検知方法について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、各図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0010】
以下の説明において参照する図面は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、及び位置関係を概略的に示しているに過ぎない。即ち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、及び位置関係のみに限定されるものではない。また、図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0011】
(流体デバイスの構成)
図1は、一実施形態の流体デバイスの斜視図である。
本実施形態の流体デバイス10は、例えば、検体試料に含まれる検出対象である試料物質を免疫反応および酵素反応などにより検出するデバイスを含む。試料物質は、例えば、核酸、DNA、RNA、ペプチド、タンパク質、細胞外小胞体などの生体分子である。流体デバイス10は、検体試料を含む液体を内部に流通させ、所定の試薬と混合して反応させる。しかしながら、本実施形態に係る流体デバイス10の用途はこれに限定されるものではない。また、本実施形態において流体デバイス10の内部に流通させる液体は、導電性を有している。
【0012】
図2は、
図1のA-A断面拡大図である。
図3は、
図1のB-B断面拡大図である。
図1~
図3に示すように、流体デバイス10は、液体を流通させるための流路13が内部形成された筐体10aと、流路13に設けられた1つ以上の電極対14とを備える。各電極対14は、各々の少なくとも一部が流路13に露出するように配置された2つの電極14a,14bを含む。各電極対14において、2つの電極14a,14bは、流路13における液体が流れる方向(流路13の長手方向)において互いに間隔を開けて配置されている。
【0013】
本実施形態において、筐体10aは、樹脂材料により形成されたリジッド基板である第1基板11及び第2基板12により形成されている。第1基板11と第2基板12とは、それぞれの接合面11a,12aにおいて互いに接合されている。
【0014】
図4は、第1基板11を接合面11a側から見た模式図である。
図5は、第2基板12を接合面12a側から見た模式図である。
図5に示すように、第2基板12の接合面12aの一部には、流路13となる凹部が形成されており、第1基板11と第2基板12とを接合することにより凹部がシールされる。なお、流路13のパターンは、
図5に示すパターンに限定されず、流体デバイス10の用途等に応じて適宜設計すれば良い。また、流路13となる凹部を、第1基板11側に形成しても良い。
【0015】
図4に示すように、第1基板11の接合面11aのうち、流路13に対応する位置には、1つ以上(
図4においては3つ)の電極対14が設けられている。これらの電極対14は、流路13における液体の送液状態を検知する際に使用される。
【0016】
ここで、流体デバイス10を使用した試験においては、希釈液や試薬と検体試料との混合、加熱、廃液など様々な処理が行われる。そのため、規定された液体同士を規定された量だけ混合するなどといった正確な処理を行うためには、流路13内の所定のポイントにおいて、液体が達したのか、液体が通過している最中なのか、或いは、既に液体が通過した後なのか、という送液状態を、必要なタイミングで正確に把握することが重要になる。各電極対14は、流路13において送液状態を検知すべきポイントに設けられている。
【0017】
各電極14a,14bは、好ましくは短冊状に形成された部分を含む。この場合、電極14a,14bは、短冊状の部分の長辺が互いに平行、且つ、長辺が流路13の幅方向(短手方向)と平行になるように配置される。
【0018】
本実施形態において、各電極14a,14bの一部は、流路13の外側に延在している。第1基板11には、流路13の外側に延在する電極14a,14bの部分と外部の配線との導通を取るための貫通孔15が形成されている。また、各貫通孔15に、電極14a,14bと導通する導電材16を充填しても良い。
【0019】
第1基板11には、流路13と連通する貫通孔17,18が形成されている。これらの貫通孔17,18は、それぞれ、検体試料又は試薬を含む液体を流路13に注入するための注入孔、及び、流路13から液体を排出するための排出孔としてして使用することができる。もちろん、貫通孔17,18の位置及び形状は
図1に示すものに限定されず、流体デバイス10の用途等に応じて適宜形成すれば良い。また、貫通孔17,18のいずれか又は両方を第2基板12側に設けても良い。
【0020】
また、第1基板11又は第2基板12に、流路13と連通する貫通孔をさらに形成し、この貫通孔にゴムやエラストマー樹脂等の弾性材料からなるダイアフラム部材を配置することにより、バルブやバルブポンプを形成しても良い。或いは、試薬を流路13に注入するための1つ以上の貫通孔を第1基板11又は第2基板12にさらに設けても良い。
【0021】
また、第1基板11の接合面11a又は第2基板12の接合面12aの一部に凹部を設け、流路13を流通する液体を引き込んで所定の反応を生じさせる処理基板をこの凹部に配置しても良い。処理基板には、例えば、DNAアレイチップ、電界センサ、加熱ヒータ、クロマトグラフィーを行う素子など設けられていても良い。
【0022】
第1基板11及び第2基板12は、好ましくは、レーザ溶着により接合可能な熱可塑性樹脂材料により形成される。具体的には、第1基板11及び第2基板12に使用可能な材料として、結晶性樹脂の汎用樹脂(ポリプロピレン;PP、ポリ塩化ビニル;PVCなど)、エンジニアリングプラスチック(ポリエチレンテレフタレート;PET、シクロオレフィンポリマー;COP、シクロオレフィンコポリマー;COCなど)、スーパーエンジニアリングプラスチック(ポリフェニレンサルファイド;PPS、ポリエーテルエーテルケトン;PEEKなど)、並びに非結晶性樹脂の汎用樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合合成樹脂;ABS、ポリメタクリル;,PMMAなど)、エンジニアリングプラスチック(ポリカーボネート;PC、ポリフェニレンエーテル;PPEなど)、スーパーエンジニアリングプラスチック(ポリエーテルサルフォン;PESなど)、が例示される。
【0023】
第1基板11及び第2基板12をレーザ溶着により接合する場合、第1基板11及び第2基板12のいずれか一方はレーザに対する透過性を有する材料により形成され、他方はレーザに対する吸収性を有する材料により形成される。本実施形態においては、第1基板11がレーザに対する透過性を有する材料により形成され、第2基板12がレーザに対する吸収性を有する材料により形成されている。
【0024】
(流体デバイスの製造方法)
本実施形態に係る流体デバイス10は次のようにして製造することができる。
まず、第1基板11及び第2基板12を用意する。第1基板11及び第2基板12は、射出成型技術を用いて作製しても良いし、樹脂の板材を切削することにより作製しても良い。
【0025】
次に、第1基板11の接合面11aに電極14a,14bを形成する。電極14a,14bは、例えば、印刷技術(例えばスクリーン印刷)を用いて導電性ペーストを塗布することで形成することができる。或いは、型を用いて金属箔を第1基板11に押し付ける、所謂箔押し技術により電極14a,14bを形成しても良い。電極14a,14b用の金属箔としては、導電性及び基板への密着性の観点から、好ましくは金箔を用いることができる。箔押し技術を用いる場合、バインダー等を用いることなく、ドライプロセスで電極14a,14bを形成できるので、流路13を流通する液体への不純物の溶出といった不具合を防止することができる。また、後の工程で第1基板11と第2基板12とを接合する際にレーザ溶着を採用する場合であっても、金属箔により電極14a,14bが形成されていれば、レーザによる電極14a,14bの断線を防止できるという利点もある。
【0026】
続いて、第1基板11の接合面11aと第2基板12の接合面12aとを接合する。第1基板11と第2基板12とを接合する方法は特に限定されないが、接合面11a,12aに物質を介在させずに両者を接合でき、工数や部品点数を低減できるという観点で、溶着を採用することが好ましい。また、流路13のパターンに合わせて接合面11a,12aを確実に溶着し、流路13のシール性を向上できるという観点で、レーザ溶着を採用することが好ましい。
【0027】
さらに、必要に応じて第1基板11の貫通孔15に導電材16を充填したり、ダイアフラム部材を配置したりする。それにより、流体デバイス10が完成する。
【0028】
(検知システムの構成)
図6は、一実施形態の検知システムの概略構成を示すブロック図である。
図6に示す検知システム1は、流体デバイス10に設けられた流路13を流通する液体の送液状態を検知するためのシステムである。
図6に示すように、検知システム1は、流体デバイス10と、流体デバイス10の流路13に設けられた電極対14に交流電圧を印加するように構成された回路部20と、回路部20において発生した電圧を検出して信号を出力するように構成された信号検出部30とを備える。また、検知システム1は、信号検出部30から出力される信号を表示するように構成された表示部40をさらに備えても良い。検知システム1は、信号検出部30から出力される信号に基づいて、流路における送液状態を判定するように構成された判定部50をさらに備えても良い。
【0029】
図7は、回路部20の構成を示す図である。本実施形態において、回路部20は、交流電源21と、コンデンサ22と、交流電源21及びコンデンサ22に対して直列に配置された抵抗器23とを含む。なお、コンデンサ22は可変コンデンサであっても良く、抵抗器23は可変抵抗器であっても良い。この回路部20は、電極対14ごとに設けられる。
【0030】
交流電源21は接地されており、また、交流電源21の出力は接続端子24aを介して、電極対14のうち上流側の電極14aに接続されている。コンデンサ22は、接続端子24bを介して、電極対14のうち下流側の電極14bに接続されている。ここで、上流側とは、流路13を流れる液体の上流側、即ち、液体の注入孔(
図1においては貫通孔17)に近い側のことである。流路13に導電性を有する液体が流れ、電極14aと電極14bとが液体を介して電気的に接続された場合に、回路部20はRC直列回路として作用する。
【0031】
信号検出部30は、抵抗器23の端子電圧(Ch2)を検出信号として出力する。この抵抗器23の端子電圧を計測することにより、電極対14を流れる電流の変化を検知することができる。また、信号検出部30は、交流電源21の出力、即ち、上流側の電極14aにおける電位(Ch1)を参照信号として出力する。このような信号検出部30は、A/D変換器や、A/D変換器及び増幅器を含む回路のほか、一般的なオシロスコープや、パーソナルコンピュータのUSB端子に接続して使用される所謂USBオシロスコープ等を用いて構成することができる。
【0032】
表示部40は、液晶又は有機EL等の表示ディスプレイであり、信号検出部30から出力された参照信号及び検出信号の波形を表示する。
【0033】
判定部50は、信号検出部30から出力された検出信号に基づいて、流路13の電極対14が設けられた位置における送液状態を判定する。具体的には、電極対14の位置における送液状態が、液体の通過前、液体の通過中、及び、液体の通過後のいずれであるかを判定する。このような判定部50は、CPU(Central Processing Unit)などの演算部、及び、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、レジスタなどの記憶部を備えるコンピュータにおいて、判定部の機能を実行させるためのプログラムを記憶部に格納し、演算部に実行させることにより実現することができる。また、判定部50による判定結果を表示部40に表示させても良い。
【0034】
(検知システムの動作)
図8は、検知システム1の動作を説明するための模式図である。
図9は、検査システム1における動作実験の結果を示すグラフであり、信号検出部30から出力される参照信号及び検出信号を表している。この実験においては、送液状態の判定対象である液体2として、1%ウシ血清アルブミン(BSA)加リン酸緩衝食塩水(PBS)を流体デバイス10の流路13に流した。
【0035】
検知システム1において、流体デバイス10の流路13における送液状態は、次のようにして検知される。
まず、流体デバイス10の各電極対14に対し、
図7に示す回路部20を接続する。続いて、交流電源21の動作をオンにすることにより、電極対14に交流電圧を印加し、抵抗器23の端子電圧(検出信号:Ch2)の測定を開始する。そして、交流電圧、コンデンサの容量及び抵抗値(インピーダンス)、並びに、信号検出部30の設定値(後述する閾値等)を調整する。調整方法については後述する。この際、印加電圧の確認のため、上流側の電極14aにおける電位(参照信号:Ch1)も測定しても良い。実験においては、
図9の(a)の参照信号で示されるように、交流電源21の出力値(振幅の最大値)を1.0V、周期を1.0msとし、抵抗器23の抵抗値を10kΩとした。
【0036】
この状態で、流体デバイス10における試験を開始し、流体デバイス10の流路13に液体2を導入する。それにより、
図8の(a)に示すように、流路13に設けられた電極対14の位置に液体2が接近し、さらに、
図8の(b)に示すように、液体2が上流側の電極14aに達する。この状態においては、電極対14に未だ電流が流れていないため、検出信号の振幅はゼロのままである(
図9の(a)参照)。従って、判定部50は、当該電極対14の位置における送液状態を、液体2の通過前と判定する。
【0037】
その後、
図8の(c)に示すように、液体2が下流側の電極14bに達すると、電極14aと電極14bとが電気的に接続される。それにより、電極対14に電流が流れ、検出信号の振幅が変化する。判定部50は、検出信号の振幅がゼロから変化したことを受け、当該電極対14の位置に液体2が達したことを検知する。そして、判定部50は、例えば
図9の(b)に示すように、検出信号の振幅の最大値が所定の閾値Thを超えている場合に、当該電極対14の位置における送液状態を、液体2の通過中と判定する。
【0038】
その後、
図8の(d)に示すように、液体2が電極14aを通過し終えると、電極14aと電極14bとの間における電流が減少し、検出信号の振幅が小さくなる。そして、判定部50は、検出信号の振幅の最大値が上記所定の閾値Thを下回った場合に、当該電極対14の位置における送液状態を、液体2の通過後と判定する。
【0039】
図8の(e)に示すように、液体が電極14bを通過し終えた場合であっても、例えば
図9の(c)に示すように、少なくともある程度の間、検出信号の振幅はゼロにはならない。従って、判定部50は、当該電極対14の位置において液体2の通過前の状態と通過後の状態とを区別することができる。
【0040】
次に、検知システム1における各種値の調整方法について説明する。
電極対14に印加される交流電圧の値は特に限定されないが、好ましくは、振幅の最大値が0.1~5V程度となるように調整することができる。また、回路部20のインピーダンス及び閾値Thは、流路13を流れる液体2の組成、流路13の幅、電極対14における電極間距離等に応じて適宜調整することができる。ここで、送液前の状態では電極対14は絶縁されているため、検出信号の値は理論的にはゼロとなる。これを踏まえ、液体の通過中(
図8の(c)参照)には、例えば印加電圧の50%以上の電圧応答を検出でき、液体の通過後(
図8の(e)参照)には、例えば印加電圧の5~20%程度の応答電圧を検出できるように、抵抗値を設定することができる。また、閾値Thについては、液体の通過中における応答電圧と液体の通過後の応答電圧との間の値(一例として、印加電圧の30%程度)に設定することができる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態によれば、流体デバイスの流路に1つ以上電極対を設けることにより、各電極対の位置における送液状態を検知することが可能となる。
【0042】
また、本実施形態によれば、電極対に交流電圧を印加するので、検出信号の振幅を観察することにより、各電極対の位置において液体が通過中であるか否かだけでなく、液体の通過前の状態と通過後の状態とを区別して検知することができる。即ち、
・液体の通過前:流体デバイス内部で混合する流路に検体又は試薬が導入されていないことや、流体デバイス内部に液体が漏れていないことを保証することが可能となる。
・液体が通過中:流体デバイス内部の送液が正常に行われていることを保証することが可能となる。また流路内に意図しない気泡の入り込みの有無を検知することが可能となる。
・液体の通過後:液体が確実に移送されたことを検知することを保証することが可能となる。また流体デバイスの使用済か否かの確認が可能となる。
【0043】
ここで、仮に電極対に直流電圧を印加するとした場合、流路を流れる液体が電気分解されてしまうおそれがある。この場合、電気分解により気泡の発生し、流体デバイスの制御性が低下してしまう、試薬の濃度が変化して試験精度が低下してしまう、といった影響を及ぼす可能性がある。この点、本実施形態によれば、電極対に交流電圧を印加するので、液体が電気分解されるおそれはない。従って、上述したような電気分解に起因する影響を防ぐことができる。
【0044】
また、本実施形態によれば、各電極を、短冊状の部分を含む形状に形成し、該短冊状の部分の長辺が流路の幅方向と平行(即ち、液体の流れ方向と概ね垂直)になるように配置するので、流路に沿って流れる液体を感度良く検知することができる。また、各電極対において2つの電極を、短冊状の部分の長辺が互いに平行となるように配置するので、流路に沿って流れる液体の送液状態を安定的に検知することができる。
【0045】
上記実施形態においては、抵抗器23の端子電圧を検出信号として出力し、この検出信号の振幅に基づいて送液状態を判定することとしたが、検出信号の種類や判定方法はこれに限定されない。例えば、電極対14における2つの電極14a、14bの間の電圧を検出信号として出力しても良いし、抵抗器23の端子間又は電極対14の電極間を流れる電流を検出信号として出力しても良い。また、交流電圧又は交流電流の検出信号の振幅ではなく、位相を評価することにより、送液状態を判定しても良い。例えば、
図9の(a)~(c)に示すように、送液状態が変化すると、参照信号に対して検出信号に位相の変化が生じるため、このような変化に基づいて送液状態を判定することができる。つまり、電極対14に交流電圧を印加した場合における2つの電極14a、14bの間の電気的特性の変化を表す信号であれば、本実施形態による送液状態の判定に用いることができる。
【0046】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、他の様々な形で実施することができる。例えば、実施形態に示した全構成要素からいくつかの構成要素を除外して形成しても良いし、上記実施形態に示した構成要素を適宜組み合わせて形成しても良い。
【符号の説明】
【0047】
1…検知システム、2…液体、10…流体デバイス、10a…筐体、11…第1基板、11a・12a…接合面、12…第2基板、13…流路、14…電極対、14a・14b…電極、15…貫通孔、16…導電材、17・18…貫通孔、20…回路部、21…交流電源、22…コンデンサ、23…抵抗器、24a・24b…接続端子、30…信号検出部、40…表示部、50…判定部