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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183010
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】シラン処理石英ガラス繊維
(51)【国際特許分類】
   C03C 25/40 20060101AFI20231220BHJP
   C03C 25/1095 20180101ALI20231220BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20231220BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20231220BHJP
   D03D 15/267 20210101ALI20231220BHJP
   D06M 13/41 20060101ALI20231220BHJP
   D06M 13/513 20060101ALI20231220BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20231220BHJP
   B29K 105/06 20060101ALN20231220BHJP
【FI】
C03C25/40
C03C25/1095
B29B11/16
D03D1/00 A
D03D15/267
D06M13/41
D06M13/513
H05K1/03 610T
B29K105:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096362
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】糸川 肇
(72)【発明者】
【氏名】安田 成紀
【テーマコード(参考)】
4F072
4G060
4L033
4L048
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AB09
4F072AB28
4F072AB29
4F072AC15
4F072AD23
4F072AE01
4F072AF14
4F072AF15
4F072AF23
4F072AF29
4F072AG03
4F072AH02
4F072AH31
4F072AH49
4F072AJ22
4F072AL13
4G060BA04
4G060BA05
4G060BC07
4G060BC12
4G060BD15
4G060CB33
4L033AA09
4L033AB01
4L033AC12
4L033AC15
4L033BA76
4L033BA96
4L048AA03
4L048AA48
4L048AB07
4L048AC09
4L048BA01
4L048CA00
4L048CA01
4L048DA43
4L048EB00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高周波帯での誘電正接及び強度に優れるシラン処理石英ガラス繊維を提供する。
【解決手段】SiO2含有量が95質量%以上である石英ガラス繊維の式(1)で表されるメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物による表面処理物であって、式(1)の有機ケイ素化合物が水に溶解しており、式(2)で表されるジメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物の含有量が、式(1)の有機ケイ素化合物100質量部あたり1質量部未満であるシラン処理液による表面処理物であるシラン処理石英ガラス繊維。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2含有量が95質量%以上である石英ガラス繊維の下記式(1)で表されるメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物による表面処理物であって、
下記式(1)で表されるメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物が水に溶解しており、下記式(2)で表されるジメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物の含有量が、下記式(1)で表されるメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物100質量部あたり1質量部未満であるシラン処理液による表面処理物であるシラン処理石英ガラス繊維。
【化1】
(式中、R1は、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~20のアリール基を表し、Meは、メチル基を表し、m1およびm2は、1~3の整数を表し、n1およびn2は、1~12の整数を表す。)
【請求項2】
請求項1記載のシラン処理石英ガラス繊維を含有するシラン処理石英ガラスクロス。
【請求項3】
メタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物が、石英ガラスクロスに対して、0.01~0.5質量%付着している請求項2記載のシラン処理石英ガラスクロス。
【請求項4】
10GHzにおける誘電正接が、シラン処理前と比較して1倍未満である請求項2又は3記載のシラン処理石英ガラスクロス。
【請求項5】
40GHzにおける誘電正接が、シラン処理前と比較して1倍未満である請求項2又は3記載のシラン処理石英ガラスクロス。
【請求項6】
引張強度が、シラン処理前と比較して1.3倍以上である請求項2又は3記載のシラン処理石英ガラスクロス。
【請求項7】
請求項2又は3記載のシラン処理石英ガラスクロスと、該シラン処理石英ガラスクロスに含浸されたマトリックス樹脂とを含むプリプレグ。
【請求項8】
請求項7記載のプリプレグを含有するプリント配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン処理石英ガラス繊維に関し、さらに詳述すると、高周波帯での誘電正接と強度に優れるシラン処理石英ガラス繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、スマートフォン等の情報端末の高性能化、高速通信化に伴い、使用されるプリント配線板において、高密度化、極薄化とともに、低誘電化、低誘電正接化が著しく進行している。このプリント配線板の絶縁材料としては、ガラス繊維が用いられている。ガラス繊維の中でも、特に、ガラスクロスは、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂(以下、「マトリックス樹脂」という。)に含浸させて得られるプリプレグを積層して加熱加圧硬化させた積層板に広く使用されている。
【0003】
基板における信号の伝送ロスは、Edward A.Wolff式:伝送損失∝√ε×tanδが示すように、誘電率(ε)および誘電正接(tanδ)が小さい材料ほど改善されることが知られており、特に、上記の式より、伝送損失に対しては、誘電正接の寄与が大きいことが知られている。そのため、ガラスクロスにおいては、低い誘電正接が求められ、特許文献1~4では、Dガラス、NEガラス、Lガラス、石英ガラス等の誘電特性が向上されたガラスクロスが提案されている。
【0004】
しかし、今後の5G、6G用通信用途等において、十分な伝送速度性能を達成する観点から、これら低誘電率・低誘電正接である低誘電特性ガラスクロスでも、なお改善の必要性がある。また、特に、6Gでは、より高周波領域の電波を用いて通信を行うため、10GHzや40GHzでも、低誘電率・低誘電正接である低誘電特性ガラスクロスが求められる。
【0005】
また、今後の5G、6G用通信用途等向けの基板の需要は、これまで以上に高まっており、生産性を向上させるために、基板の製造ラインの速度アップが望まれている。
しかし、基板原料であるガラスクロスの強度が低いために、ガラスクロスへの樹脂の塗工が、基板の生産の上で律速になっている。特に、石英ガラスクロスは、SiO2量が多く、誘電正接は多成分ガラスより優れているものの、硬くてもろいため、強度が低い。
上記から、ガラスクロス、特に、石英ガラスクロスについて、さらなる誘電正接の低下と強度アップが望まれている。
【0006】
一般的に、ガラス繊維は、表面のSiOH基に対してシランカップリング処理を施すことによって強度を上昇させることができる。その際に、表面のSiOH基は、シランカップリング剤と反応するものの、シランカップリング剤も少なからず極性基を含んでおり、結果としてシラン処理後のガラス繊維は、処理前と比較して誘電正接は変化しない、もしくは上昇してしまう。特に、石英ガラス繊維は、誘電正接が非常に小さいために、シランカップリング剤自体の誘電正接の悪影響が非常に大きい。
しかし、石英ガラス繊維の誘電正接に悪影響を与えずに強度を上昇させるようなシランカップリング剤は、これまで開発されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5-170483号公報
【特許文献2】特開2009-263569号公報
【特許文献3】特開2009-19150号公報
【特許文献4】特開2006-282401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ガラス繊維、特にガラスクロスに対しては、巻取時や製織時等の機械的な磨耗による毛羽や糸切れの発生を防止するため、ガラス繊維束の紡糸時や整経時に、サイズ剤で被覆処理が施され、シラン処理前に加熱分解処理、いわゆるヒートクリーニング処理によってサイズ剤を完全に除去することが行われている。この際に得られる脱サイズガラスクロスが、ガラスクロス自体の物性を決定する。そのため、この脱サイズガラスクロスの誘電正接を悪化させずに強度を上昇させるようなシランカップリング剤が求められている。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、高周波帯での誘電正接および強度に優れるシラン処理石英ガラス繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、メタクリルアミド基を含有する所定の有機ケイ素化合物で石英ガラス繊維を表面処理することで、石英ガラス繊維の低い誘電正接をさらに低下させ、かつ強度を上昇させることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
1. SiO2含有量が95質量%以上である石英ガラス繊維の下記式(1)で表されるメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物による表面処理物であって、
下記式(1)で表されるメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物が水に溶解しており、下記式(2)で表されるジメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物の含有量が、下記式(1)で表されるメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物100質量部あたり1質量部未満であるシラン処理液による表面処理物であるシラン処理石英ガラス繊維、
【化1】
(式中、R1は、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~20のアリール基を表し、Meは、メチル基を表し、m1およびm2は、1~3の整数を表し、n1およびn2は、1~12の整数を表す。)
2. 1記載のシラン処理石英ガラス繊維を含有するシラン処理石英ガラスクロス、
3. メタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物が、石英ガラスクロスに対して、0.01~0.5質量%付着している2記載のシラン処理石英ガラスクロス、
4. 10GHzにおける誘電正接が、シラン処理前と比較して1倍未満である2又は3記載のシラン処理石英ガラスクロス、
5. 40GHzにおける誘電正接が、シラン処理前と比較して1倍未満である2又は3記載のシラン処理石英ガラスクロス、
6. 引張強度が、シラン処理前と比較して1.3倍以上である2又は3記載のシラン処理石英ガラスクロス、
7. 2又は3記載のシラン処理石英ガラスクロスと、該シラン処理石英ガラスクロスに含浸されたマトリックス樹脂とを含むプリプレグ、
8. 7記載のプリプレグを含有するプリント配線基板
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高周波数帯での誘電正接がさらに低下し、かつ強度に優れるシラン処理石英ガラス繊維を提供することができる。このシラン処理石英ガラス繊維を含有する石英ガラスクロスは、5G、6G用通信用途等向けの基板の伝送損失を高周波帯で安定して低下させることができるだけではなく、基板製造のライン速度をこれまで以上に上昇させることができ、5G、6G用通信用途等向けの基板の需要に応えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
[1]シラン処理石英ガラス繊維
本発明のシラン処理石英ガラス繊維は、SiO2含有量が95質量%以上である石英ガラス繊維が、所定のメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物を含む所定のシラン処理液によって表面処理されたものである。なお、本発明において、「シランカップリング剤」は、「有機ケイ素化合物」に含まれる。
【0014】
(1)石英ガラス繊維
(1-1)ガラス組成
本発明で用いられる石英ガラス繊維は、SiO2組成量が、95質量%以上が好ましく、誘電正接等の電気特性や熱膨張等の物理特性の面から、99.9質量%以上のQガラスがより好ましい。SiO2組成量が95質量%未満だと、多成分の影響が大きくなって、誘電正接および誘電率に悪影響を与えるために不適である。石英ガラスとしては、合成石英ガラスおよび溶融石英ガラスのいずれでもよい。なお、SiO2以外の成分としては、Al23、CaO、MgO、B23、Na2O等が挙げられる。
【0015】
(1-2)繊維の種類
本発明において、石英ガラス繊維とは、石英ガラスフィラメント、石英ガラスストランド、石英ガラスチョップドストランド、石英ガラスヤーンを含むものをいう。
【0016】
(1-2-1)石英ガラスフィラメント
石英ガラスフィラメントは、石英ガラスヤーンを構成するもので、石英ガラスインゴットを引き伸ばして得られる細い糸状の単繊維である。
石英ガラスフィラメントの製造方法は特に制限されず、従来公知の製造方法を採用することができ、例えば、直径50~500mmの石英ガラスインゴットを1700~2300℃にて溶融させ、糸状になったものを巻き取ることで、直径200±100μmの石英糸を得ることができる。溶融温度がこの範囲であれば安定的に延伸化が可能である。
【0017】
石英糸は、強度が非常に弱いため、巻き取るためにコーティング剤をコーティングすることが好ましい。コーティング剤としては、UV硬化可能で、硬化性に優れたアクリレート系樹脂が好ましい。コーティング膜の厚さは特に限定されないが、例えば、十分な補強効果が得られることから5μm以上が好ましい。
生産性を上げるために、石英ガラスインゴットの溶融からコーティングまでの間に冷却を行うことができる。冷却方法としては、特に限定されないが、例えば、水冷や空冷などがあり、両方行う方が効果的である。
【0018】
石英フィラメントは、前記石英糸を再延伸して得ることができるが、その方法は特に制限されず、例えば、酸素と水素の混合火炎にて1700~2300℃で直径2~15μmへ再延伸することで得ることができる。
【0019】
(1-2-2)石英ガラスストランド
石英ガラスストランドは、石英ガラスフィラメントを集束したものである。
石英ストランドを構成するガラスフィラメントの本数は、複数本であれば特に制限されず、例えば、石英フィラメントを20~400本集束して製造できる。この場合、ストランドを集束させるために、集束剤を用いることが好ましい。集束剤は、澱粉を主原料とし、機能性付与のため、柔軟剤や潤滑剤を配合することができる。なお、集束剤組成物は、一般に、サイズ剤と呼称される。
【0020】
(1-2-3)石英ガラスチョップドストランド
石英ガラスチョップドストランドは、石英ガラスストランドを切断したものである。
切断方法は特に制限されず、例えば、従来公知の切断装置を用いて所定の長さに切断する方法を採用することができる。
【0021】
(1-2-4)石英ガラスヤーン
石英ガラスヤーンは、石英ガラスストランドに撚りをかけたものである。
石英ガラスヤーンは、上記で作製したストランドに撚りをかけることで得られる。撚りの頻度としては、特に限定されないが、例えば、25mmあたり0.1~5.0回/25mmが好ましい。
【0022】
(2)シラン処理液
本発明で用いられるシラン処理液(以下、処理液という場合がある。)は、下記式(1)で表されるメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物(以下、化合物(1)という。)を含有し、下記式(2)で表されるジメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物(以下、化合物(2)という。)を実質的に含有しない水溶液である。
なお、本発明において、実質的に含有しないとは、化合物(2)の含有量が、化合物(1)100質量部あたり1質量部未満であることをいうが、0.5質量部未満が好ましく、0質量部がより好ましい。
【0023】
【化2】
【0024】
式中、R1は、それぞれ独立して、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~20、好ましくは炭素数6~10、より好ましくは炭素数6~8のアリール基を表し、Meは、メチル基を表し、m1およびm2は、1~3の整数を表し、n1およびn2は、1~12の整数を表す。
【0025】
1の炭素数1~10のアルキル基としては、直鎖状、分枝状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル基等が挙げられる。
炭素数6~20のアリール基の具体例としては、フェニル、α-ナフチル、β-ナフチル基等が挙げられる。
これらの中でも、R1としては、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0026】
m1およびm2は、1~3の整数を表すが、2または3が好ましく、n1およびn2は、1~12の整数を表すが、原料調達の観点から、1~8の整数が好ましく、1~4の整数がより好ましく、3がさらに好ましい。
【0027】
したがって、化合物(1)としては、R1がメチル基またはエチル基であり、n1が3であるものが好ましく、R1がメチル基であり、n1が3であるものが特に好ましい。また、化合物(2)としては、R1がメチル基またはエチル基であり、n2が3であるものが好ましく、R1がメチル基であり、n2が3であるものが特に好ましい。
【0028】
化合物(1)の具体例としては、メタクリルアミドメチルトリメトキシシラン、メタクリルアミドメチルメチルジメトキシシラン、メタクリルアミドメチルトリエトキシシラン、メタクリルアミドメチルメチルジエトキシシラン、3-メタクリルアミドプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリルアミドプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリルアミドプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリルアミドプロピルメチルジエトキシシラン、4-メタクリルアミドブチルトリメトキシシラン、4-メタクリルアミドブチルメチルジメトキシシラン、4-メタクリルアミドブチルトリエトキシシラン、4-メタクリルアミドブチルメチルジエトキシシラン、8-メタクリルアミドオクチルトリメトキシシラン、8-メタクリルアミドオクチルメチルジメトキシシラン、8-メタクリルアミドオクチルトリエトキシシラン、8-メタクリルアミドオクチルメチルジエトキシシラン、12-メタクリルアミドドデシルトリメトキシシラン、12-メタクリルアミドドデシルメチルジメトキシシラン、12-メタクリルアミドドデシルトリエトキシシラン、12-メタクリルアミドドデシルメチルジエトキシシラン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは、1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、下記式で表される化合物が好ましく、製造や水溶液調製の観点から、化合物(1-1)および化合物(1-3)が特に好ましい。なお、下記式中、Meは、メチル基、Etは、エチル基を表す。
【0029】
【化3】
【0030】
化合物(1)の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の製造方法を採用することができる。例えば、特許第3561501号公報に記載されている方法に従って、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステルと3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノアルキルアルコキシシランとを重合禁止剤およびアミド化触媒の存在下、100~200℃程度の温度で反応させることで得ることができる。得られた化合物(1)は、後工程で減圧蒸留などによって精製することが好ましい。
【0031】
3-アミノプロピルトリメトキシシランに代表される公知のアミノ基含有シランは、水溶液に分散させた際の安定性には優れているものの、石英ガラス繊維に処理した際の強度上昇率が小さく、末端の極性基である一級アミンの影響で石英ガラス繊維の誘電正接を悪化させてしまう。また、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランに代表される公知のメタクリル基含有シランは、石英ガラス繊維に処理した際の強度上昇率が大きいものの、末端の極性基であるカルボニル基の影響で石英ガラス繊維の誘電正接を悪化させてしまう。また、水溶液に分散させた際の安定性も、アミノ基含有シランに劣る。
【0032】
これに対し、本発明で用いられる化合物(1)は、アミノ基が二級アミンであり、一級アミンと比較して極性が小さく、石英ガラス繊維に処理した際に、石英ガラス繊維表面のSiOH基と二級アミンおよびカルボニル基が安定な環状構造を取ってお互いの双極子を打ち消しあい、石英ガラス繊維の誘電正接を低下させることができると考えらえる。また、メタクリル基を含有することで、石英ガラス繊維に処理した際の強度上昇率が大きく、かつアミノ基を含有することで水溶液に分散させたときの安定性にも優れている。上記のように、化合物(1)であれば、石英ガラス繊維の誘電正接をさらに低下させて、かつ強度を上昇させることができる。
【0033】
なお、特開平5-25219号公報では、同様のメタクリルアミド基を含有したシランカップリング剤で処理されたガラス繊維を用いた積層板は、耐熱性など各種特性に優れるとの報告がある。しかし、該シランカップリング剤は、アミノプロピルトリエトキシシランに対し、メタクリロイルクロリドを1当量反応させた化合物と、2当量反応させた化合物の混合物を用いている。2当量反応させた化合物は、上記の安定した環状構造を形成することができない過剰なメタクリル基が存在するため、誘電正接が悪化する。また、2当量反応させた化合物は、疎水性が高いため、処理溶液の貯蔵安定性の低さに問題がある。
すなわち、本発明で用いられるメタクリルアミド基を含有する有機ケイ素化合物は、アミノ基とメタクリル基の割合(モル)が1:1であることを特徴とする。
【0034】
上述したとおり、本発明で用いられる処理液は、化合物(2)を実質的に含有しないものであるが、化合物(2)の具体例としては、N,N-ジメタクリルアミドメチルトリメトキシシラン、N,N-ジメタクリルアミドメチルメチルジメトキシシラン、N,N-ジメタクリルアミドメチルトリエトキシシラン、N,N-ジメタクリルアミドメチルメチルジエトキシシラン、3-(N,N-ジメタクリルアミド)プロピルトリメトキシシラン、3-(N,N-ジメタクリルアミド)プロピルメチルジメトキシシラン、3-(N,N-ジメタクリルアミド)プロピルトリエトキシシラン、3-(N,N-ジメタクリルアミド)プロピルメチルジエトキシシラン、4-(N,N-ジメタクリルアミド)ブチルトリメトキシシラン、4-(N,N-ジメタクリルアミド)ブチルメチルジメトキシシラン、4-(N,N-ジメタクリルアミド)ブチルトリエトキシシラン、4-(N,N-ジメタクリルアミド)ブチルメチルジエトキシシラン、8-(N,N-ジメタクリルアミド)オクチルトリメトキシシラン、8-(N,N-ジメタクリルアミド)オクチルメチルジメトキシシラン、8-(N,N-ジメタクリルアミド)オクチルトリエトキシシラン、8-(N,N-ジメタクリルアミド)オクチルメチルジエトキシシラン、12-(N,N-ジメタクリルアミド)ドデシルトリメトキシシラン、12-(N,N-ジメタクリルアミド)ドデシルメチルジメトキシシラン、12-(N,N-ジメタクリルアミド)ドデシルトリエトキシシラン、12-(N,N-ジメタクリルアミド)ドデシルメチルジエトキシシラン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの化合物が含まれる場合、1種が単独で含まれる場合もあれば、2種以上の複数種が含まれる場合もある。
これらの中でも化合物(2)として代表的なものは、下記式で表されるものであり、特に、化合物(2-1)または化合物(2-3)である。なお、下記式中、Meは、メチル基、Etは、エチル基を表す。
【0035】
【化4】
【0036】
本発明で用いられる処理液において、化合物(1)は水に溶解している。シラン処理液中の化合物(1)の含有量は、0.05~1質量%が好ましく、0.1~1質量%がより好ましい。含有量が0.05質量%未満だと、ガラスクロスのシラノール基に対する化合物(1)の量が不十分であり、ガラスクロスの強度を十分に向上させることができない場合がある。含有量が1質量%を超えると、処理液の貯蔵安定性を損ね、さらに、ガラスクロスが剛直となるため、基板材料の生産性を低下させる場合がある。
【0037】
本発明で用いられる処理液は、化合物(1)の分散性をさらに高めるために、水溶液を酸性にすることが好ましい。酸性に調整するための酸としては、ギ酸、酢酸、クエン酸等の有機酸、塩酸等の無機酸などが挙げられる。酸を使用する場合、その添加量は、組成物全体の0.001~0.5質量%が好ましく、0.01~0.1質量%がより好ましい。
【0038】
本発明の処理液には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、有機溶媒を加えることができる。また、石英ガラス繊維との密着性、接着性向上のために、化合物(1)以外のアルコキシ基含有有機ケイ素化合物、シラザン化合物等を添加することができる。
【0039】
本発明で用いられる処理液は、化合物(1)、必要により酸およびその他の化合物等と、水とを混合し、化合物(1)を水に溶解して調製することができる。
【0040】
[2]シラン処理石英ガラス繊維の製造方法
本発明のシラン処理石英ガラス繊維は、上述した石英ガラス繊維を上述したシラン処理液で表面処理することで得ることができる。
【0041】
本発明において、石英ガラス繊維の表面処理の方法は特に限定されず、従来公知の方法から適宜選択すればよいが、生産性や環境負荷の観点から、上記処理液を石英ガラス繊維に塗布する方法が好適である。
処理液の塗布方法は特に限定されないが、処理液中に石英ガラス繊維を浸漬させる方法、ロールコートによる処理等が挙げられる。
【0042】
処理液で石英ガラス繊維を処理した後は、乾燥することが好ましい。乾燥方法としては、特に限定されないが、例えば、熱風乾燥、赤外線、ホットロールによる乾燥方法等が挙げられる。乾燥条件も特に限定されないが、例えば、90~150℃で30秒~30分が好適であり、このような乾燥条件であれば水分を蒸発させ、化合物(1)と石英ガラス繊維の表面のSiOH基を反応させることができ、石英ガラス繊維の誘電正接をさらに低下させることができる。
【0043】
石英ガラス繊維に対する化合物(1)の付着量は、0.01~0.5質量%が好ましく、より好ましくは0.05~0.4質量%である。このような範囲であれば石英ガラス繊維の誘電正接を低下させつつ、強度を上昇させることができる。
付着量が0.01質量%未満であると、石英ガラス繊維の表面のSiOH基に対して化合物(1)が不足するために誘電正接を低下させることができずに強度も上昇しない場合がある。0.5質量%を超えて付着させると、表面のSiOH基に対して化合物(1)が過剰になり、誘電正接が悪化するだけではなく、石英ガラス繊維から柔軟性が失われてしまう。なお、本発明において、石英ガラス繊維に対する化合物(1)の付着量は、JIS R 3420に記載の強熱減量によって測定することができる。
【0044】
[3]シラン処理石英ガラスクロス
本発明のシラン処理石英ガラスクロスは、上記シラン処理石英ガラス繊維を含有する。
本発明のシラン処理石英ガラスクロスとしては、上記シラン処理石英ガラス繊維を含有する限り、織組織、織密度等は特に制限されず、例えば、平織りクロス、朱子織クロス、扁平クロス等が挙げられる。中でも、平織り石英ガラスクロスが、誘電正接や強度の効果を確認する上で好適である。
【0045】
[4]シラン処理石英ガラスクロスの製造方法
本発明のシラン処理石英ガラスクロスの製造方法は特に制限されないが、例えば、(1)石英ガラスクロスをシラン処理液で表面処理して製造する方法、(2)シラン処理石英ガラス繊維を製織等して製造する方法などが挙げられる。
【0046】
(1)石英ガラスクロスを表面処理する製造方法
(1-1)石英ガラスクロス
石英ガラスクロスとしては、シラン処理石英ガラスクロスについて例示したものと同じものを挙げることができる。
【0047】
本発明で用いられる石英ガラスクロスは、上述した石英ガラスヤーンを製織することで得られる。本発明で用いられる石英ガラスクロスの目付量は、特に限定されず、従来公知の範囲で適宜選択することができるが、例えば、10~100g/m2が好ましい。
【0048】
製織方法も特に限定されず、従来公知の方法を採用することができるが、例えば、エアージェット織機、ウォータージェット織機、レピア織機、シャトル織機等による製織方法が挙げられる。エアージェット織機などで製織を行う場合は、更なる潤滑性を得るために、PVAや澱粉を二次サイズ剤として付着させることができる。
【0049】
製織された後の石英ガラスクロスの表面には、上記のサイズ剤が付着しており、このままでは、残存したサイズ剤によって誘電特性が悪化する場合がある。また、石英ガラスクロスに対するシラン処理が不十分になり、プリプレグに用いた際に、樹脂との接着不良が発生する場合がある。そこで、付着したサイズ剤を除去するために、製織後、脱油処理することが好ましい。
【0050】
脱油処理としては特に限定されず、従来公知の方法を採用することができ、例えば、水や有機溶剤により洗浄する方法、有機物を燃焼させて除去するヒートクリーニングと呼ばれる方法等が挙げられるが、より確実に脱油を行える点で、ヒートクリーニングが一般的である。
このヒートクリーニングも特に限定されず、従来公知の方法を採用することができ、例えば、フロー式やバッチ式の加熱炉を用いて行う方法等が挙げられる。フロー式は、高温で一気にサイズ剤を焼き飛ばすため、石英ガラスクロスの強度低下やサイズ剤の焼け残りの問題があることから、300~400℃で有機物をゆっくり燃焼させて除去するバッチ式が一般的である。
【0051】
(1-2)シラン処理液
シラン処理液としては、石英ガラス繊維の表面処理に用いたものと同じものを用いることができる。
【0052】
(1-3)表面処理方法
表面処理方法としては、石英ガラス繊維の表面処理と同様に行うことができる。また、石英ガラスクロスに対する化合物(1)の付着量も、石英ガラス繊維を表面処理する場合と同様である。
【0053】
(2)シラン処理石英ガラス繊維を製織する製造方法
(2-1)シラン処理石英ガラス繊維
シラン処理石英ガラス繊維としては、上述したものを用いることができる。
【0054】
(2-2)クロスの種類
クロスの種類としては、シラン処理石英ガラスクロスについて例示したものと同じものを挙げることができる。
【0055】
(2-3)製織方法
製織方法としては、石英ガラスクロスについて例示した方法と同じ方法を挙げることができる。なお、サイズ剤の使用や、脱油処理等は、必要に応じて、従来公知の方法に従って採用することができる。
【0056】
[5]シラン処理石英ガラス不織布
本発明のシラン処理石英ガラス不織布は、上記シラン処理石英ガラス繊維を含有する。
本発明のシラン処理石英ガラス不織布としては、上記シラン処理石英ガラス繊維を含有する限り特に制限されず、従来公知の形態から適宜選択することができる。
【0057】
[6]シラン処理石英ガラス不織布の製造方法
本発明のシラン処理石英ガラス不織布の製造方法は特に制限されないが、例えば、(1)石英ガラス不織布をシラン処理液で表面処理して製造する方法、(2)シラン処理石英ガラス繊維を抄造等して製造する方法などが挙げられる。
【0058】
(1)石英ガラス不織布を表面処理する製造方法
(1-1)石英ガラス不織布
石英ガラス不織布としては、上記石英ガラス繊維を含有する限り特に制限されず、従来公知の形態から適宜選択することができる。
【0059】
本発明で用いられる石英ガラス不織布の目付量は、特に限定されず、従来公知の範囲で適宜選択することができるが、例えば、10~100g/m2が好ましい。
【0060】
石英ガラス不織布の製造方法も特に限定されず、従来公知の方法を採用することができ、例えば、所定の長さに切断した石英ガラス繊維を用いてカード機等でウェブを形成する乾式抄造法、所定の長さに切断した石英ガラス繊維を水中に分散させて抄造することによりウェブを形成する湿式抄造法などが挙げられる。
【0061】
乾式抄造法では、例えば、石英ガラス繊維として、上述したガラスストランドを用いて、裁断機等で、好ましくは10~100mm、より好ましくは20~70mmの長さに裁断した後、カード機等により開繊してウェブ化し、得られたウェブを、水流で交絡させる方法、バインダーで接着する方法、繊維同士を熱融着させる方法等により加工して不織布とすることができる。
また、湿式抄造法では、例えば、石英ガラス繊維として、上述したガラスストランドを上記と同様に裁断して水中に分散させ、これをネット等に漉き上げてウェブ化し、バインダー等で接着加工して不織布とすることができる。
なお、ウェブ化、加工等の条件は、従来公知の範囲から適宜選択することができる。
また、得られた不織布を脱油処理する場合は、石英ガラスクロスで説明した処理と同様に行うことができる。
【0062】
(1-2)シラン処理液
シラン処理液としては、石英ガラス繊維の表面処理に用いたものと同じものを用いることができる。
【0063】
(1-3)表面処理方法
表面処理方法としては、石英ガラス繊維の表面処理と同様に行うことができる。また、石英ガラス不織布に対する化合物(1)の付着量も、石英ガラス繊維を表面処理する場合と同様である。
【0064】
(2)シラン処理石英ガラス繊維を抄造する製造方法
(2-1)シラン処理石英ガラス繊維
シラン処理石英ガラス繊維としては、上述したものを用いることができる。
【0065】
(2-2)不織布の種類
不織布の種類としては、シラン処理石英ガラス不織布について説明したものと同じものを挙げることができる。
【0066】
(2-3)抄造方法
抄造方法としては、石英ガラス不織布について例示した方法と同じ方法を挙げることができる。なお、裁断、ウェブ化、加工等の条件は、必要に応じて、従来公知の範囲で適宜選択することができる。
【0067】
[7]特性
本発明のシラン処理石英ガラスクロスおよびシラン処理石英ガラス不織布は、10GHzにおける誘電正接が、シラン処理前と比較して、1倍未満が好ましく、1.0倍未満がより好ましく、0.9倍以下がさらに好ましい。また、40GHzにおける誘電正接も、シラン処理前と比較して、1倍未満が好ましく、1.0倍未満がより好ましく、0.9倍以下がさらに好ましい。
なお、本発明のシラン処理ガラス繊維の誘電正接も上記と同じものとする。
【0068】
さらに、本発明のシラン処理石英ガラスクロスおよびシラン処理石英ガラス不織布は、クロスまたは不織布質量(g/mm2)あたりの引張強度が、シラン処理前と比較して、1.3倍以上が好ましく、1.4倍以上がより好ましい。このような表面処理ガラスクロスは、プリプレグ化する際の加工性に優れる。なお、上記引張強度は、JIS R 3420の引張強さの測定方法に準拠して測定することができる。
【0069】
[8]プリプレグ
本発明のプリプレグは、上記シラン処理ガラスクロスまたはシラン処理ガラス不織布と、このシラン処理ガラスクロスまたはシラン処理ガラス不織布に含浸されたマトリックス樹脂とを含む。
本発明のシラン処理石英ガラス繊維は、低誘電正接であるため、これを用いることにより、例えば、より誘電特性が向上したプリント基板用プリプレグが得られる。
プリプレグの製造方法としては、特に限定されず、一般的なガラスクロス含有基板やフィルム、プリプレグ等の製造方法を適用することができる。
【0070】
[9]プリント配線基板
本発明のプリント配線基板は、上記プリプレグを含有する。
本発明のシラン処理石英ガラス繊維は、低誘電正接であるため、これを用いることにより、より誘電特性が向上したプリント基板が得られる。そのため、本発明のプリント基板は、例えば、10GHz以上の電気信号を伝送する回路を有する電子部品に好適に用いることができる。
プリント基板の製造方法としては特に限定されず、一般的なプリント基板の製造方法を適用することができる。
【実施例0071】
以下、製造例、合成例、実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記式中、Meはメチル基、Etはエチル基を表す。
【0072】
[1]石英ガラスクロスまたは不織布の製造
[製造例1]
澱粉3.0質量%、牛脂0.5質量%、乳化剤0.1質量%、残り水を含むガラス繊維用集束剤を調製した。
SiO2の含有割合が99.9質量%以上の石英ガラスインゴットを加熱延伸して、直径5.3μmの石英ガラスフィラメントからなる石英ガラス繊維を作製し、上記の石英ガラス繊維集束剤をアプリケーターにて塗布した後に、集束機により集束し、巻き取って、石英ガラスフィラメント本数200本の石英ガラスストランドを作製した。
巻き取った石英ガラスストランドに24T/mの撚りを掛け、石英ガラスヤーンを作製した。
得られた石英ガラスヤーンに、二次集束剤として、PVA1.5質量%、澱粉1.5質量%を含む水溶液を塗布した後に、津田駒工業(株)製エアージェット織機ZAX9200iを用いて、IPC規格1078の織密度で石英ガラス平織りクロスを製造した。
得られた製織後の石英ガラス平織りクロスをネムス(株)製電気炉B80×85×200-3Z12-10を用いて400℃で72時間加熱してサイズ剤を除去し、脱サイズ石英ガラス平織りクロスを得た(目付量42g/m2)。
【0073】
[製造例2]
澱粉3.0質量%、牛脂0.5質量%、乳化剤0.1質量%、残り水を含むガラス繊維用集束剤を調製した。
SiO2の含有割合が99.9質量%以上の石英ガラスインゴットを加熱延伸して、直径13.2μmの石英ガラスフィラメントからなる石英ガラス繊維を作製し、上記の石英ガラス繊維集束剤をアプリケーターにて塗布した後に、集束機により集束し、巻き取って、石英ガラスフィラメント本数280本の石英ガラスストランドを作製した。
巻き取った石英ガラスストランドに24T/mの撚りを掛け、石英ガラスヤーンを作製した。
得られた石英ガラスヤーンに、二次集束剤として、PVA1.5質量%、澱粉1.5質量%を含む水溶液を塗布した後に、ドルニエ社製レピア織機を用いて、IPC規格4581の織密度で石英ガラス朱子織クロスを製造した。
得られた製織後の石英ガラス朱子織クロスをネムス(株)製電気炉B80×85×200-3Z12-10を用いて400℃で72時間加熱してサイズ剤を除去し、脱サイズ石英ガラス朱子織クロスを得た(目付量306g/m2)。
【0074】
[製造例3]
SiO2の含有割合が99.9質量%以上の石英ガラスインゴットを加熱延伸して、直径5.3μmの石英ガラスフィラメントからなる石英ガラス繊維を作製し、石英ガラス繊維集束剤をアプリケーターにて塗布した後に、集束機により集束し、巻き取って石英ガラスフィラメント本数200本の石英ガラスストランドを作製した。
得られた石英ガラスストランドを、方向を揃えて、長さ50mmにセラミクス製の刃を取り付けた裁断機を用いて裁断した。
得られた裁断した石英ガラスストランドを目付量を30g/m2に設定して別個にカード機(サンプルローラカード30-300DR、大和機工(株)製)にかけて開繊し、カードウェブを作製した。
得られたカードウェブを50メッシュのプラスチックネットからなる搬送ベルト上に供給し、搬送ベルトを約7m/分で走行させた。搬送ベルトの走行経路に配置されたウォーター・ジェット処理装置(水圧力最高16MPa、川之江造機(株)製)で、高圧液体柱状流による交絡処理を行った。ウォーター・ジェット処理装置は、ノズル細孔を孔径0.08~0.1mm、間隔0.6~1.0mmで横一列に配設させたものを、搬送ベルトの走行方向に対して垂直に3列で設置し、ウォーター・ジェット処理装置のノズル細孔とカードウェブの表面との距離を2cmに設置し、3列の水流噴射機から水圧1.0~5.0MPaで水流を噴射させた。
上記の方法で交絡させたシートをスルードライヤー方式の乾燥機を用い、120℃で1分間乾燥させ、ネムス(株)製電気炉B80×85×200-3Z12-10を用いて400℃で72時間加熱してサイズ剤を除去し、脱サイズ石英ガラス不織布を得た。
【0075】
[比較製造例1]
澱粉3.0質量%、牛脂0.5質量%、乳化剤0.1質量%、残り水を含むガラス繊維用集束剤を調製した。
SiO2の含有割合が53質量%のEガラスインゴットを加熱延伸して、直径5.3μmのEガラスフィラメントからなるEガラス繊維を作製し、上記のガラス繊維集束剤をアプリケーターにて塗布した後に、集束機により集束し、巻き取ってEガラスフィラメント本数200本のEガラスストランドを作製した。
巻き取ったEガラスストランドに24T/mの撚りを掛け、Eガラスヤーンを作製した。
得られたEガラスヤーンに、二次集束剤として、PVA1.5質量%、澱粉1.5質量%を含む水溶液を塗布した後に、津田駒工業(株)製エアージェット織機ZAX9200iを用いて、IPC規格1078の織密度でEガラスクロスを製造した。
得られたEガラスクロスをネムス(株)製電気炉B80×85×200-3Z12-10を用いて400℃で72時間加熱してサイズ剤を除去し、脱サイズEガラスクロスを得た(目付量48g/m2)。
【0076】
[2]有機ケイ素化合物の合成
[合成例1]
特許第3561501号公報を参考に、下記式で表されるメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物(1-1)を得た。
【0077】
【化5】
【0078】
[合成例2]
特許第3561501号公報を参考に、下記式で表されるメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物(1-3)を得た。
【0079】
【化6】
【0080】
[比較合成例1]
特開平5-25219号公報を参考に、下記平均式で表されるメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物とジメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物との混合物(3-1)を得た。
【0081】
【化7】
【0082】
[3]シラン処理石英ガラスクロスの製造
[実施例1]
合成例1で得られたメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物(1-1)0.2質量%、酢酸0.1質量%を含むシラン処理水溶液を調製した。
得られたシラン処理水溶液に対して、製造例1で得られた脱サイズ石英ガラス平織りクロスを含浸し、ヤマト科学(株)製送風定温恒温器DKN602で110℃にて10分乾燥させてシラン処理を行った。
【0083】
[実施例2]
合成例1で得られたメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物(1-1)1質量%、酢酸0.1質量%を含むシラン処理水溶液を調製した以外は実施例1と同様にしてシラン処理を行った。
【0084】
[実施例3]
合成例1で得られたメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物(1-1)0.1質量%、酢酸0.1質量%を含むシラン処理水溶液を調製した以外は実施例1と同様にしてシラン処理を行った。
【0085】
[実施例4]
合成例2で得られたメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物(1-3)0.2質量%、酢酸0.1質量%を含むシラン処理水溶液を調製した以外は実施例1と同様にしてシラン処理を行った。
【0086】
[実施例5]
製造例2で得られた脱サイズ石英ガラス朱子織クロスを用いた以外は実施例1と同様にしてシラン処理を行った。
【0087】
[実施例6]
製造例3で得られた脱サイズ石英ガラス不織布を用いた以外は実施例1と同様にしてシラン処理を行った。
【0088】
[比較例1]
比較合成例1で得られたメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物(3-1)0.2質量%、酢酸0.1質量%を含むシラン処理水溶液を調製した以外は実施例1と同様にしてシラン処理を行った。
【0089】
[比較例2]
KBM-903(商品名、信越化学工業(株)製)0.2質量%を含むシラン処理水溶液を調製した以外は実施例1と同様にしてシラン処理を行った。
【0090】
[比較例3]
KBM-503(商品名、信越化学工業(株)製)0.2質量%、酢酸0.1質量%を含むシラン処理水溶液を調製した以外は実施例1と同様にしてシラン処理を行った。
【0091】
[比較例4]
比較製造例1で得られた脱サイズEガラスクロスを用いた以外は実施例1と同様にしてシラン処理を行った。
【0092】
[4]特性評価
実施例および比較例で得られたガラスクロスまたは不織布について、下記方法で評価を行った。誘電正接および引張強度は、シラン処理前後のガラスクロスまたは不織布について測定した。結果を下記表1および2に記載する。
【0093】
1.誘電正接の測定
ガラスクロスまたは不織布の10GHzおよび40GHzの誘電正接は、(株)エーイーティー製空洞共振器(TE011モード)を用いて測定した。なお、ガラスクロスまたは不織布の厚みは理論膜厚を用いて測定しており、ガラスクロスまたは不織布の理論膜厚は、下記式:
理論膜厚t(μm)=目付量(g/m2)/比重(g/cm3
から算出した。
2.引張強度
(株)島津製作所製オートグラフAGS-Xを用いて、JIS R 3420の引張強さの測定方法にしたがって測定した。
3.有機ケイ素化合物の付着量
JIS R 3420の強熱減量の測定方法にしたがって測定した。
4.基板の信頼性評価
SLK-3000(商品名;信越化学工業(株)製)100質量部にジクミルパーオキシド(商品名:パークミルD、日油(株)製)2質量部を加え、溶剤としてトルエンに入れ、撹拌機で予備混合して樹脂ワニスを調製した。
作製した樹脂ワニスに、実施例および比較例で得られたシラン処理ガラスクロスまたは不織布(シラン処理ガラス繊維)を含浸させ、110℃で10分間乾燥させることでプリプレグを作製した。その際、樹脂ワニスの付着量は55質量%になるように調整した。その後、作製したプリプレグを3枚積層し、真空減圧プレス機を用いて150℃で1時間、さらに180℃で2時間のステップキュアを行うことで硬化させ、基板を作製した。
得られた基板をイオン交換水にて1時間煮沸後に、260℃のはんだ浴に30秒浸漬した。基板をはんだ浴から取り出し、目視観察した。膨れの生じなかったものを「〇」、膨れの生じたものを「×」として評価した。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
表1に示されるとおり、実施例1~6のメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物で処理した石英ガラス繊維であれば、シラン処理によって石英ガラスクロスおよび石英ガラス不織布の誘電正接を10GHz、40GHzの周波数においてさらに低下させることができ、強度も1.3倍以上とすることができる。
比較例1の化合物3-1では、強度に問題はないが、メタクリル基がアミノ基に対して過剰であるため、誘電正接が悪化した。
比較例2のアミノ基含有のKBM-903では、誘電正接が悪化するだけではなく、強度の上昇率も1.3倍未満と不十分である。
比較例3のメタクリル基含有のKBM-503では、十分な強度上昇率ではあるものの、誘電正接が悪化してしまう。
また、比較例4のEガラスでは、本発明のメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物を用いても、Eガラス自体の誘電正接が大きすぎるため、メタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物の低誘電正接化効果が発揮されない。
本発明のメタクリルアミド基含有有機ケイ素化合物で処理した石英ガラス繊維をプリプレグ、基板化した際も、比較例1~3のシランカップリング剤と同様に十分な信頼性が得られる。
【0097】
本発明によれば、高周波数帯で石英ガラス繊維の誘電正接をさらに低下させ、かつ強度に優れるシラン処理石英ガラス繊維を提供することができる。このシラン処理石英ガラス繊維からなる石英ガラスクロスおよび石英ガラス不織布は、5G、6G用通信用途等向けの基板の伝送損失を高周波帯で安定して低下させることができるだけではなく、基板製造のライン速度をこれまで以上に上昇させることができ、5G、6G用通信用途等向けの基板の需要に応えることができるという著大な効果を奏する。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。