(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183051
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】複合体及びその製造方法、分散剤、電極、イオン交換膜-電極接合体並びに固体電解質形電解装置
(51)【国際特許分類】
C25B 11/052 20210101AFI20231220BHJP
C25B 11/065 20210101ALI20231220BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20231220BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20231220BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20231220BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20231220BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20231220BHJP
B01J 37/34 20060101ALI20231220BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20231220BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C25B11/052
C25B11/065
C25B11/081
C25B11/032
C25B9/23
C25B1/23
C25B9/00 Z
B01J37/34 ZAB
B01J37/04 102
B01J37/02 101C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096436
(22)【出願日】2022-06-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合機構「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2排出削減・有効利用実用化技術開発/次世代FT反応と液体合成燃料一貫製造プロセスに関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兼古 寛之
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA22C
4G169BB08C
4G169BC31A
4G169BC32A
4G169BC32B
4G169BC33A
4G169BC71A
4G169BC72A
4G169BC75A
4G169BE17C
4G169CB02
4G169CB81
4G169CC29
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EA08
4G169EB18Y
4G169EC28
4G169FA02
4G169FA06
4G169FB05
4G169FB15
4G169FB45
4G169FB58
4G169FC01
4G169FC08
4K011AA23
4K011AA68
4K011BA02
4K011BA06
4K011DA11
4K021AA09
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC15
(57)【要約】
【課題】COを含む合成ガスの生産効率及び電流密度が高い複合体及びその製造方法、電極、イオン交換膜-電極接合体及び電解装置、並びに、被毒抑制に優れる分散剤を提供する。
【解決手段】金、銀、銅、ロジウム、パラジウム、及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を担体に担持させた複合体の製造方法であって、溶媒、アルキルアンモニウム基を含む樹脂、前記金属を含む金属化合物、及びハロゲン化物を混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合液に、紫外線を照射する照射工程と、前記照射工程を経た混合液に、前記担体を添加する担持工程とを有する複合体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金、銀、銅、ロジウム、パラジウム、及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を担体に担持させた複合体の製造方法であって、
溶媒、アルキルアンモニウム基を含む樹脂、前記金属を含む金属化合物、及びハロゲン化物を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合液に、紫外線を照射する照射工程と、
前記照射工程を経た混合液に、前記担体を添加する担持工程と
を有する複合体の製造方法。
【請求項2】
前記担体100質量部に対する前記金属化合物中の金属の質量が、15質量部以上40質量部未満である請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項3】
前記アルキルアンモニウム基が、下記式(1)で表される請求項1又は2に記載の複合体の製造方法。
【化1】
〔式(1)中、R
1~R
3は、各々独立に、炭素数1~5のアルキル基である。*は結合部位を表す。〕
【請求項4】
前記樹脂は、前記アルキルアンモニウム基を側鎖に有する請求項1~3のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。
【請求項5】
前記アルキルアンモニウム基は、前記側鎖の末端に位置する請求項4に記載の複合体の製造方法。
【請求項6】
前記担体は、炭素を含む請求項1~5のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の複合体の製造方法で製造された複合体。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の複合体の製造方法に用いられ、アルキルアンモニウム基を含む樹脂を含有する分散剤。
【請求項9】
請求項7に記載の複合体を含む触媒層と、ガス拡散層とを有する電極。
【請求項10】
前記電極は、カソードである請求項9に記載の電極。
【請求項11】
請求項10に記載の電極と、固体電解質と、アノードとを有するイオン交換膜-電極接合体。
【請求項12】
前記固体電解質が、陰イオン交換膜である請求項11に記載のイオン交換膜-電極接合体。
【請求項13】
請求項10に記載の電極を構成するカソードと、
前記カソードと一対の電極を構成するアノードと、
前記カソードと前記アソードとの間に接触状態にて介在する固体電解質と、
前記カソードと前記アノードとの間に電圧を印加する電圧印加部と
を有する固体電解質形電解装置。
【請求項14】
前記固体電解質が、陰イオン交換膜である請求項13に記載の固体電解質形電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、複合体及びその製造方法、分散剤、電極、イオン交換膜-電極接合体並びに固体電解質形電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素は化石燃料などからエネルギーを取り出した際に排出される。大気中の二酸化炭素濃度の上昇は地球温暖化の原因の一つと言われる。二酸化炭素は極めて安定な物質であるため、従来は利用する道がほとんどなかった。しかしながら地球温暖化が深刻になりつつあるという時代の要請もあり、二酸化炭素を他の物質に変換し再び資源化するための、新たな技術が求められている。例えば、気相の二酸化炭素を直接還元することができる二酸化炭素還元型装置の開発、特に、二酸化炭素還元触媒の開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、二酸化炭素還元触媒を得るために、分散処理された担体及びAg(I)イオンを含む溶液中に還元剤を添加し、化学還元反応によって担体上にAgナノ粒子を直接析出するプロセスによって触媒を合成することが開示されている。
特許文献2では、Ag(I)イオンを含む溶液中で電極基材に還元的電位を印加し、金属Agによるメッキ処理を施すことによって電極触媒を合成することが開示されている。
非特許文献1では、AgをAlと合金化した後に強酸エッチング処理するプロセスによって触媒の直径を5nm以下のサイズまで微細化し、高い活性点密度を確保している。
更に、特許文献3及び非特許文献2では、Ag(I)イオンを含む溶液に光を照射することによって、Agナノ粒子を合成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/130078号
【特許文献2】特開2017-51914号公報
【特許文献3】特開2010-209407号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Q. Lu, J. Rosen, Y. Ahou, G. S. Hutchings, Y. C. Kimmel, J. G. Chen, F. Jiao, Nature Communications, 2014, 5, 3242.
【非特許文献2】L. Shui, G. Zhang, B. Hu, X. Chen, M. Jin, G. Zhou, N. Li, M. Muhler, B. Peng, Journal of Energy Chemistry, 2019, 36, 37-46.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
CO2還元においては、CO2還元触媒の活性点の密度が還元反応速度に強く寄与している。一般的に、金属触媒の粒子径は小さいほど活性点密度は高くなる。特許文献1及び2の手法では、粒径が十分小さい(1nm以下)Agナノ粒子を合成することが困難であった。
非特許文献1に記載の手法はコストが高くかかり、また、大量合成が困難という課題があった。これに対し、Agナノ粒子を安価に大量合成可能な技術として、Ag化合物が光分解することを利用し、溶液中で光を照射することによってAgナノ粒子を合成する技術がある。特許文献3および非特許文献2は、この光照射の手法を用いているが、溶液中のAgナノ粒子は凝集化しやすいことから、ポリビニルピロリドンや多価カルボン酸といった表面保護剤(分散剤)を添加する必要があり、これら表面保護剤は触媒反応においてCO2還元反応の妨げとなる表面被毒を引き起こすという課題があった。
【0007】
本開示の技術は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、本開示の技術の課題は、COを含む合成ガスの生産効率及び電流密度が高い複合体及びその製造方法、電極、イオン交換膜-電極接合体及び電解装置、並びに、被毒抑制に優れる分散剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
<1> 金、銀、銅、ロジウム、パラジウム、及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を担体に担持させた複合体の製造方法であって、
溶媒、アルキルアンモニウム基を含む樹脂、前記金属を含む金属化合物、及びハロゲン化物を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合液に、紫外線を照射する照射工程と、
前記照射工程を経た混合液に、前記担体を添加する担持工程と
を有する複合体の製造方法。
【0009】
<2> 前記担体100質量部に対する前記金属化合物中の金属の質量が、15質量部以上40質量部未満である<1>に記載の複合体の製造方法。
<3> 前記アルキルアンモニウム基が、下記式(1)で表される<1>又は<2>に記載の複合体の製造方法。
【0010】
【0011】
式(1)中、R1~R3は、各々独立に、炭素数1~5のアルキル基である。*は結合部位を表す。
【0012】
<4> 前記樹脂は、前記アルキルアンモニウム基を側鎖に有する<1>~<3>のいずれか1つに記載の複合体の製造方法。
<5> 前記アルキルアンモニウム基は、前記側鎖の末端に位置する<4>に記載の複合体の製造方法。
<6> 前記担体は、炭素を含む<1>~<5>のいずれか1つに記載の複合体の製造方法。
【0013】
<7> <1>~<6>のいずれか1つに記載の複合体の製造方法で製造された複合体。
<8> <1>~<6>のいずれか1項に記載の複合体の製造方法に用いられ、アルキルアンモニウム基を含む樹脂を含有する分散剤。
【0014】
<9> <7>に記載の複合体を含む触媒層と、ガス拡散層とを有する電極。
<10> 前記電極は、カソードである<9>に記載の電極。
【0015】
<11> <10>に記載の電極と、固体電解質と、アノードとを有するイオン交換膜-電極接合体。
<12> 前記固体電解質が、陰イオン交換膜である<11>に記載のイオン交換膜-電極接合体。
【0016】
<13> <10>に記載の電極を構成するカソードと、
前記カソードと一対の電極を構成するアノードと、
前記カソードと前記アソードとの間に接触状態にて介在する固体電解質と、
前記カソードと前記アノードとの間に電圧を印加する電圧印加部と
を有する固体電解質形電解装置。
<14> 前記固体電解質が、陰イオン交換膜である<13>に記載の固体電解質形電解装置。
【発明の効果】
【0017】
本開示の技術によれば、COを含む合成ガスの生産効率及び電流密度が高い複合体及びその製造方法、電極、イオン交換膜-電極接合体及び電解装置、並びに、被毒抑制に優れる分散剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態で好適に用いられるイオン交換膜-電極接合体の模式図である。
【
図2】本実施形態で好適に用いられる固体電解質形電解装置の模式図である。
【
図3】実施例1で製造した複合体を含む触媒スラリーのTEM画像である。
【
図4】実施例3で製造した複合体を含む触媒スラリーのTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「A~B」及び「C~D」が記載されている場合、「A~D」及び「C~B」の数値範囲も、本開示の範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は、特に断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
【0020】
<複合体の製造方法>
本開示の実施形態に係る複合体の製造方法は、金、銀、銅、ロジウム、パラジウム、及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を担体に担持させた複合体の製造方法であって、
溶媒、アルキルアンモニウム基を含む樹脂、前記金属を含む金属化合物、及びハロゲン化物を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合液に、紫外線を照射する照射工程と、
前記照射工程を経た混合液に、前記担体を添加する担持工程と
を有する。
【0021】
本開示の実施形態に係る複合体は、金、銀、銅、ロジウム、パラジウム、及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を、二酸化炭素の還元反応の触媒作用を示す触媒金属として有する。既述のように、CO2還元においては、CO2還元触媒の活性点の密度が還元反応速度に強く寄与し、金属触媒の粒子径が小さいほど活性点密度が高くなり易い。
本開示の実施形態に係る複合体の製造方法においては、当該触媒金属を含む金属化合物、溶媒、アルキルアンモニウム基を含む樹脂、及びハロゲン化物を含む混合溶液に紫外線照射を行うことで、金属触媒の粒子径を従来になく小さくすることができる。
【0022】
このようにすることで、本開示の実施形態に係る複合体は被毒作用を抑制することができる。かかる理由は定かでないが、複合体の製造過程で用いる混合溶液中のアルキルアンモニウム基を含む樹脂が分散剤の機能を有する一方、当該樹脂の吸着力が弱すぎず、強すぎないためと考えられる。そのため、触媒金属粒子の凝集が抑制され、金属触媒の小粒径化が促されると共に、当該樹脂がCO2還元反応を妨げにくいと考えられる。その結果、本開示の実施形態に係る複合体を電解装置の触媒層に適用することで、COを含む合成ガスの生産効率及び電流密度を高めることができると考えられる。
以下、本実施形態にかかる複合体の製造方法の各工程について、詳細に説明する。
【0023】
〔混合工程〕
混合工程は、溶媒、アルキルアンモニウム基を含む樹脂、金属を含む金属化合物、及びハロゲン化物を混合する工程である。
アルキルアンモニウム基を含む樹脂、金属を含む金属化合物、及びハロゲン化物を溶媒中で混合することで、金属化合物とハロゲン化物との反応性を高め、また、アルキルアンモニウム基を含む樹脂の分散機能を高めることができる。
ここで、金属化合物を構成する金属は、金、銀、銅、ロジウム、パラジウム、及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属である。
【0024】
(溶媒)
混合工程で用いる溶媒は、特に制限されず、アルコール、水、ケトン、エーテル等を用いることができる。中でも、原料(樹脂、金属化合物、及びハロゲン化物)に対する溶解性の観点から、アルコールが好ましく、特に炭素数1~3のアルコールを用いることが好ましい。
【0025】
(アルキルアンモニウム基を含む樹脂)
アルキルアンモニウム基を含む樹脂は、本開示の実施形態に係る複合体の製造方法において、分散剤として機能し、樹脂の一部に少なくとも1つのアルキルアンモニウム基を含む。アルキルアンモニウム基は、樹脂が線状樹脂である場合における主鎖片末端又は両末端に結合していてもよいし、樹脂の側鎖に結合していてもよい。金属化合物及びハロゲン化物の分散効果を高めつつ、被毒作用をより抑制する観点から、樹脂は、アルキルアンモニウム基を側鎖に有することが好ましく、アルキルアンモニウム基は、樹脂の側鎖の末端に位置することがより好ましい。
【0026】
アルキルアンモニウム基は、窒素原子に結合する3つのアルキル基のうちの2つ以上が互いに結合した環状であってもよいし、3つが個々に窒素原子に結合する非環状であってもよい。本開示の実施形態に係る複合体を電解装置の触媒層に適用したときに、COを含む合成ガスの生産効率及び電流密度をより向上する観点から、アルキルアンモニウム基は、非環状であることが好ましい。非環状のアルキルアンモニウム基は、下記式(1)で表されることが好ましい。
【0027】
【0028】
式(1)中、R1~R3は、各々独立に、炭素数1~5のアルキル基である。*は樹脂への結合部位を表す。
R1~R3で表されるアルキル基は、各々独立に、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
【0029】
なお、アルキルアンモニウム基を含む樹脂は、対イオンを含んでいてもよく、対イオンは、例えば、OH-、Cl-等が挙げられる。
【0030】
樹脂は、特に制限されず、種々の樹脂を用いることができる。
本開示の実施形態に係る複合体を電解装置の触媒層に適用したときに、触媒層を構成する樹脂との親和性を高める観点から、アルキルアンモニウム基を含む樹脂の樹脂部分は、触媒層を構成する樹脂と同じであることが好ましく、アイオノマーであることがより好ましく、イオン交換樹脂であることが更に好ましい。すなわち、アルキルアンモニウム基を含む樹脂は、アルキルアンモニウム基を含むアイオノマーであることが好ましく、アルキルアンモニウム基を含むイオン交換樹脂であることがより好ましい。
【0031】
酸化炭素還元用の陰極に用いられるイオン交換樹脂は、主に第四級アルキルアンモニウム塩による基(アルキルアンモニウム基)がイオン交換基として用いられる。アルキルアンモニウム基も金属ナノ粒子表面に対する保護作用があり、ナノ粒子の凝集を抑制する分散剤として機能し得る。また、反応物であるCO2の吸着作用による供給能があり、また生成物であるOH-の輸送能も有していることから、触媒表面の被毒を引き起こしにくい。
【0032】
混合工程におけるアルキルアンモニウム基を含む樹脂の配合量は特に制限されないが、金属ナノ粒子に対する保護作用を十分に得る観点から、金属化合物100質量部に対し1~1000質量部であることが好ましく、5~500質量部であることがより好ましい。
【0033】
(金属を含む金属化合物)
金属を含む金属化合物は、触媒金属の原料であり、本実施形態における金属(触媒金属)は、金、銀、銅、ロジウム、パラジウム、及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属である。
金属酸化物は、本実施形態における金属の無機酸塩又は有機酸塩であることが好ましく、無機酸塩であることがより好ましい。具体的には、例えば、炭酸金属塩、硝酸金属塩、硫酸金属塩等が挙げられる。
以上の中でも、二酸化炭素還元反応の反応効率の観点から、金属化合物を構成する金属は、金、銀、銅及び白金が好ましく、銀、金及び銅がより好ましく、銀が更に好ましい。
金属化合物は、1種のみ配合してもよいし、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0034】
(ハロゲン化物)
ハロゲン化物は、感光剤として機能し、例えば、アルカリ金属の塩化物、臭化物等を用いることができる。中でも、アルカリ金属の塩化物であることが好ましく、塩化ナトリウム及び塩化カリウムがより好ましく、塩化ナトリウムが更に好ましい。
ハロゲン化物は、1種のみ配合してもよいし、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
混合工程におけるハロゲン化物の配合量は特に制限されないが、金属粒子の肥大化を抑制する観点から、金属化合物100質量部に対し0.0001~10質量部であることが好ましく、0.001~1質量部であることがより好ましい。
【0035】
〔照射工程〕
照射工程は、混合工程で得られた混合液に、紫外線を照射する工程である。
本工程により金属化合物は還元され、金属粒子が得られる。アルキルアンモニウム基を含む樹脂の存在下で金属化合物が還元されるため、金属粒子の凝集が抑制され、小粒径化することができる。
金属粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡等の写真観察等によって複合体を観察することにより、測定することができる。
【0036】
溶媒に吸収されずに金属ハロゲン化物を十分光分解可能な光を供給する観点から、紫外線の波長は200~380nmであることが好ましく、250~380nmであることがより好ましく、300~380nmであることが更に好ましい。照射時間は金属ハロゲン化物の光分解が完了できる時間を確保しつつ、金属ナノ粒子の凝集を抑制する観点から、10秒~60分であることが好ましく、20秒~45分であることがより好ましく、30秒~30分であることが更に好ましい。
【0037】
〔担持工程〕
担持工程は、照射工程を経た混合液に担体を添加する工程である。
本工程により、触媒金属粒子が担体に担持される。
本実施形態に係る担体は特に制限されない。例えば、炭素、チタン、ステンレス鋼、ニッケル等を用いることができる。中でも、炭素が好ましく、担体は炭素を含むことが好ましい。炭素は一般的に導電性を有し、担体が炭素を含むことで、二酸化炭素還元型の装置に備えられる電極におけるガス拡散層の成分として用いることができる。
【0038】
(炭素)
炭素は、例えば、カーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ミディアムサーマルカーボンブラック等)、活性炭、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、グラフェンナノプレートレット、ナノポーラスカーボン等の炭素が挙げられ、中でも、カーボンブラックが好ましい。さらに構造としては多孔質構造であることが好ましい。多孔質構造の炭素としては、グラフェンに代表される多孔質炭素材料が挙げられる。
【0039】
カーボンブラックの形状、大きさ、グレード等には制限はないが、DBP吸油量(ジブチルフタレート吸油量)は、50~500ml/100gであることが好ましく、100~300ml/100gであることがより好ましく、100~200ml/100gであることが更に好ましい。また、一次粒子径は、5~200nmであることが好ましく、10~100nmであることがより好ましく、10~50nmであることが更に好ましい。
カーボンブラックのDBP吸油量は、JIS K 6217-4:2001(オイル吸収量の求め方)によって求められ、一次粒子径は、例えばレーザー回折式粒度分布測定によって求められる。
カーボンブラックは市販品でもよく、例えば、Vulcan(登録商標) XC-72(キャボット社製)、デンカブラック HS-100(デンカ社製)、ケッチェンブラックEC-600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)、Conductex-7055 Ultra(Birla Carbon社製)等が挙げられる。
【0040】
担体は、担体100質量部に対する金属化合物中の金属の質量が、15質量部以上40質量部未満となるように混合液に添加することが好ましい。
金属の質量が上記範囲となることで、本開示の実施形態に係る複合体を電解装置の触媒層に適用したときに、COを含む合成ガスの生産効率及び電流密度をより向上することができる。
担体100質量部に対する金属化合物中の金属の質量は、18~38質量部であることがより好ましく、20~36質量部であることが更に好ましい。
【0041】
<複合体>
本開示の実施形態に係る複合体は、金、銀、銅、ロジウム、パラジウム、及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属(触媒金属)を担体に担持させた複合体であって、本開示の実施形態に係る複合体の製造方法で製造されてなる。そのため、本開示の実施形態に係る複合体に含まれる金属粒子は凝集が抑制されており、CO2還元触媒として活性点密度が高い。よって、本開示の実施形態に係る複合体をCO2還元型の電解装置に用いることで、COを含む合成ガスの生産効率及び電流密度を高めることができる。
【0042】
本開示の実施形態に係る複合体において、担体100質量部に対する金属(触媒金属)の質量は、15質量部以上40質量部未満であることが好ましい。
金属の質量が上記範囲となることで、本開示の実施形態に係る複合体を電解装置の触媒層に適用したときに、COを含む合成ガスの生産効率及び電流密度をより向上することができる。
担体100質量部に対する金属の質量は、18~38質量部であることがより好ましく、20~36質量部であることが更に好ましい。
【0043】
<分散剤>
本開示の実施形態に係る分散剤は、本開示の実施形態に係る複合体の製造方法に用いられ、アルキルアンモニウム基を含む樹脂を含有する。
アルキルアンモニウム基を含む樹脂は、本開示の実施形態に係る複合体の製造方法の混合工程の説明において記載したアルキルアンモニウム基を含む樹脂と同じであり、好ましい態様も同じである。すなわち、式(1)で表されるアルキルアンモニウム基を樹脂の側鎖の末端に有する樹脂であることが好ましく、樹脂はアイオノマーであることが好ましく、イオン交換樹脂であることがより好ましい。
分散剤は、アルキルアンモニウム基を含む樹脂を、1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
本開示の実施形態に係る分散剤は、アルキルアンモニウム基を含む樹脂以外の成分を更に含んでいてもよいが、被毒抑制を高める観点から、分散剤中のアルキルアンモニウム基を含む樹脂の含有量は、80~100質量%であることが好ましく、90~100質量%であることがより好ましく、95~100質量%であることが更に好ましい。
【0044】
<電極>
本実施形態に係る電極は、本実施形態に係る複合体を含む触媒層と、ガス拡散層とを有する。
本実施形態に係る電極は、本実施形態に係る複合体を含む触媒層を備えることで、COを含む合成ガスの生産効率及び電流密度が高い。
本実施形態に係る電極は、カソード(陰極)であることが好ましい。以下、カソードである本実施形態に係る電極を、本実施形態に係るカソードと称することがある。
【0045】
〔触媒層〕
触媒層は、本実施形態に係る複合体を少なくとも含み、更に、アイオノマーを含んでいてもよい。
アイオノマーは、触媒層中において結着樹脂として機能し、本実施形態に係る複合体を分散し、固定化し得るマトリックス樹脂(連続相)であると共に、電解によって生じたイオンを伝達させ、CO2電解効率を向上させる機能も有する。また、アイオノマーは、電気分解によって生じたイオンの伝達効率を向上する観点から、導電性であることが好ましく、高分子電解質であることがより好ましい。高分子電解質はイオン交換樹脂であることが更に好ましい。イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂であってもよいし、陰イオン交換樹脂であってもよいが、陰イオン交換樹脂であることが好ましい。
特に陰イオン交換樹脂を用いた場合には、陰イオン交換樹脂自体が二酸化炭素吸着能を有することとなり、イオン交換樹脂のイオン伝達のし易さと併せて二酸化炭素の電解効率を大きく向上させることが可能となる。
【0046】
陽イオン交換樹脂としては、例えば、スルホン基を有するフッ素樹脂、スルホン基を有するスチレン-ジビニルベンゼン共重合が挙げられる。また、市販品も用いることができ、例えば、Nafion(Chemours社製)、Aquivion(Solvay Specialty Polymers社製)、DIAION(三菱ケミカル社製)、Fumasep(FUMATECH社製)等が挙げられる。
陰イオン交換樹脂としては、例えば、4級アンモニウム基、1級アミノ基、2級アミノ基、及び3級アミノ基からなる群より選択される1つ以上のイオン交換基を有する樹脂が挙げられる。市販品も用いることができ、例えば、Sustainion(Dioxide Materials社製)、Fumasep(FUMATECH社製)、PENTION(Xergy社製)、DURION(Xergy社製)、NEOSEPTA(アストム社製)、TOYOPEARL(東ソー社製)等が挙げられる。
【0047】
陰イオン交換樹脂は、導電性を向上する観点から、塩基点密度が、乾燥状態で、2.0~5.0mmol/cm3であることが好ましく、2.5mmol/cm3以上、4.5mmol/cm3未満であることがより好ましく、2.9mmol/cm3以上、4.5mmol/cm3未満であることが更に好ましい。
陰イオン交換樹脂の塩基点密度は、陰イオン交換樹脂について1H NMR測定を行った際のシグナルの積分値から得ることができる。
また、陰イオン交換樹脂について、乾燥状態とは、陰イオン交換樹脂中の自由水の含有量が、樹脂1gあたり0.01g以下であることを意味し、例えば、真空中において加熱することにより陰イオン交換樹脂を乾燥状態にすることができる。
【0048】
本実施形態に係るカソード(陰極)を、後述するイオン交換膜-電極接合体及び固体電解質形電解装置で用いる場合は、導電性向上の観点から、アイオノマーは、固体電解質(イオン交換膜)と同じ樹脂を用いることが好ましい。
【0049】
触媒層中の本実施形態に係る複合体の含有量は、COを含む合成ガスの生産効率及び電流密度をより向上する観点から、5~90質量%であることが好ましく、10~80質量%であることがより好ましく、15~60質量%であることが更に好ましい。
【0050】
〔ガス拡散層〕
ガス拡散層は、例えば、カーボン紙若しくは不織布、又は金属メッシュを含む。例えば、グラファイトカーボン、ガラス状カーボン、チタン、SUS鋼等が挙られる。
【0051】
<イオン交換膜-電極接合体>
本実施形態に係るイオン交換膜-電極接合体は、本実施形態に係るカソードと、固体電解質と、アノードとを有する。
本実施形態に係るイオン交換膜-電極接合体は、本実施形態に係る複合体を含むカソードを備えているため、COを含む合成ガスの生産効率及び電流密度が高い。
【0052】
図1は、本実施形態で好適に用いられるイオン交換膜-電極接合体の模式図である。
図1には、ガス拡散層10と、触媒層20と、固体電解質30と、アノード40とを有するイオン交換膜-電極接合体50が示されている。触媒層20は、複数の本実施形態に係る複合体24と、アイオノマー22を含む。ガス拡散層10と触媒層20との組み合わせにより、本実施形態に係るカソード(陰極)が構成される。
図1に示されるように、ガス拡散層10を通じて二酸化炭素(CO
2)が触媒層20に供給され、還元反応により一酸化炭素(CO)が生成する。
以下、
図1において符号を省略して説明する。
【0053】
〔固体電解質〕
本実施形態に係るイオン交換膜-電極接合体は、固体電解質を有する。
固体電解質は、高分子膜を用いることができる。高分子は、種々のアイオノマーを用いることができ、陽イオン交換樹脂であってもよいし、陰イオン交換樹脂であってもよいが、陰イオン交換樹脂であることが好ましい。すなわち、固体電解質は、陰イオン交換膜であることが好ましい。また、上述した触媒層に用いられるアイオノマーと同一の陰イオン交換樹脂を用いることがより好ましい。
固体電解質は、陽イオン交換膜、又は陰イオン交換膜として市販されている製品を用いてもよい。
また、固体電解質に陰イオン交換膜を用いた場合には、塩基点密度が、乾燥状態で、0.5~5.0mmol/cm3であることが好ましく、2.5mmol/cm3以上、4.5mmol/cm3未満であることがより好ましく、2.9mmol/cm3以上、4.5mmol/cm3未満であることが更に好ましい。
【0054】
陽イオン交換膜としては、例えば、フッ素樹脂母体にスルホン基を導入した強酸性陽イオン交換膜、Nafion117、Nafion115、Nafion212、Nafion350(Chemrous社製)、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体母体にスルホン基を導入した強酸性陽イオン交換膜、ネオセプタCSE(アストム社製)等を用いることができる。
陰イオン交換膜としては、例えば、4級アンモニウム基、1級アミノ基、2級アミノ基、及び3級アミノ基からなる群より選択される1つ以上のイオン交換基を有する陰イオン交換膜が挙げられる。具体的には、例えば、ネオセプタ(登録商標)ASE、AHA、ACS、AFX(アストム社製)、セレミオン(登録商標)AMVN、DSVN、AAV、ASVN、AHO(旭硝子社製)等が挙げられる。
【0055】
二酸化炭素の還元反応は、本実施形態に係るカソード(陰極)での還元反応は、固体電解質の種類に応じて異なる。固体電解質として陽イオン交換膜を使用した場合には、下記反応式(1)と反応式(2)の還元反応が起き、固体電解質として陰イオン交換膜を使用した場合には、下記反応式(3)と反応式(4)の還元反応が起きる。
【0056】
CO2+2H-+2e-→CO+H2O (1)
2H++2e-→H2 (2)
H2O+CO2+2e-→CO+2OH- (3)
2H2O+2e-→H2+2OH- (4)
【0057】
〔アノード〕
アノードでの酸化反応は、固体電解質の種類に応じて異なる。固体電解質として陽イオン交換膜を使用した場合には、下記反応式(5)の酸化反応が起き、固体電解質として陰イオン交換膜を使用した場合には、下記反応式(6)の酸化反応が起きる。
【0058】
2H2O→O2+4H++4e- (5)
4OH-→O2+2H2O+4e- (6)
【0059】
アノードは、ガス拡散層を含むガス拡散電極である。
ガス拡散層は、例えば、金属メッシュを含む。アノードの電極材料には、例えば、Ir、IrO2、Ru、RuO2、Co、CoOx、Cu、CuOx、Fe、FeOx、FeOOH、FeMn、Ni、NiOx、NiOOH、NiCo、NiCe、NiC、NiFe、NiCeCoCe、NiLa、NiMoFe、NiSn、NiZn、SUS、Au、Ptを挙げることができる。
【0060】
<固体電解質形電解装置>
本実施形態に係る固体電解質形電解装置は、既述の本実施形態に係るカソードと、カソードと一対の電極を構成するアノードと、カソードとアソードとの間に接触状態にて介在する固体電解質と、カソードとアノードとの間に電圧を印加する電圧印加部とを有する。
本実施形態に係る固体電解質形電解装置は、本実施形態に係る複合体を含むカソード(陰極)を備えているため、COを含む合成ガスの生産効率及び電流密度が高い。
【0061】
図2は、本実施形態で好適に用いられる固体電解質形電解装置の模式図である。
図2には、本実施形態に係るカソード(陰極)200と、カソード200と一対の電極を構成するアノード(陽極)400と、カソード200とアノード400との間に接触状態にて介在する固体電解質300と、カソード200とアノード400との間に電圧を印加する電圧印加部700とを有する固体電解質形電解装置800が示されている。
図2に示す固体電解質形電解装置800は、更に、カソード集電板100と、アノード集電板500と、電解液600を有する。
既述の本実施形態に係るカソードが、カソード200として用いられる。また、固体電解質300は、
図1における固体電解質30と同じであり、固体電解質300は陰イオン交換膜であることが好ましい。アノード400は、
図1におけるアノード40と同じである。
カソード200と、固体電解質300と、アノード400の詳細は既述のとおりである。
以下、カソード200、固体電解質300及びアノード400以外の各要素について、符号を省略して説明する。
【0062】
〔カソード集電板〕
カソード集電板(陰極集電板)としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、ステンレス鋼(SUS)、ニッケルメッキ鋼、真鍮等の金属材料が挙げられ、中でも加工し易さとコストの点から銅が好ましい。カソード集電板の形状は、材質が金属材料の場合は、例えば、金属箔、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチングメタル、発泡メタル等が挙げられる。
【0063】
カソード集電板には、カソードに二酸化炭素を含む原料ガスを供給するためのガス供給孔及び一酸化炭素を含む生成ガスを回収するためのガス回収孔が設けられていてもよい。ガス供給孔及びガス回収孔を有することにより、カソードに均一且つ効率よく原料ガスを送り込み生成ガス(未反応原料ガスを含む)を排出することができる。ガス供給孔及びガス回収孔は、各々独立に1つのみ又は2つ以上備えられていてもよい。また、ガス供給孔及びガス回収孔の形状、場所、大きさ等は限定されず、適宜設定される。加えて、カソード集電板が通気性のあるものである場合には、ガス供給孔およびガス回収孔は必ずしも必要無い。
なお、カソードが電子を伝達する役割を備えている場合には、カソード集電板は必ずしも必要でない。
【0064】
〔アノード集電板〕
アノード集電板(陽極集電板)は、アノードからの電子を受け取るべく、電気伝導性を有すると共に、アノードを支持する剛性を備えていることが好ましい。かかる観点から、アノード集電板は、例えば、チタン(Ti)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、ステンレス鋼(SUS)、ニッケルメッキ鋼、真鍮等の金属材料を好適に用いることができる。
【0065】
アノード集電板には、アノードに原料ガス(H2O等)を送り込むためのガス流路が設けられていてもよい。アノード集電板がガス流路を有することにより、アノードに均一且つ効率よく原料ガスを送り込むことができる。なお、ガス流路の数、形状、場所、大きさ等は限定されず、適宜設定される。
【0066】
〔電圧印加部〕
電圧印加部は、カソード集電板とアノード集電板に電圧を印加することを通じ、カソードとアノードとの間に電圧を印加する役割を担う。ここで、両集電板は導電体であるため、カソードに電子を供給する一方、アノードからの電子を受け取ることになる。また、電圧印加部には、適切な電圧を印加するために、図示しない制御部が電気的に接続されていてもよい。
【0067】
〔電解液〕
電解液は、pH5以上の水溶液が好ましい。
例えば、炭酸塩水溶液、炭酸水素塩水溶液(例えば、KHCO3水溶液)、硫酸塩水溶液、ホウ酸塩水溶液、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液などが挙げられる。
【0068】
(反応ガス供給部)
本実施形態に係る固体電解質形電解装置には、図示しない反応ガス供給部が、固体電解質形電解装置の外側に備えられていてもよい。すなわち、カソードが備える触媒層に反応ガスであるCO2が供給されればよく、図示しない配管などを介して反応ガス供給部からガス供給孔に反応ガスが供給されてもよいし、カソード集電板の、カソードとの接触面とは反対側の面に反応ガスが吹付けられるように設けられていてもよい。また、この反応ガスは、工場から排出される工場排出ガスを用いることが、環境面から好適である。
【0069】
〔CO生成方法〕
次に、本実施形態に係る固体電解質形電解装置を用いたCO生成方法について説明する。
まず、図示しない反応ガス供給部によって、原料としての反応ガスであるCO2が気相状態にて固体電解質形電解装置へ供給される。このとき、CO2は、例えば、カソード集電板に設けられたガス供給孔を介してカソードに供給される。
次に、カソードに供給されたCO2は、カソードが有する触媒層に接触することにより、固体電解質として陽イオン交換膜を使用した場合には、既述の反応式(1)及び反応式(2)の還元反応が起き、固体電解質として陰イオン交換膜を使用した場合には、既述の反応式(3)及び反応式(4)の還元反応が起きることで、COとH2を少なくとも含んだ合成ガスが生成される。
次に、生成されたCOとH2を含んだ合成ガスは、例えば、カソード集電板に設けられたガス回収孔を介して図示しないガス回収装置に送られ、所定のガス毎に回収されることとなる。
【実施例0070】
次に実施例により本開示の技術を具体的に説明するが、本開示の技術はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
【0071】
<複合体の製造1>
〔実施例1〕
(混合工程)
ガラスビーカーに、溶媒として10mLのエタノール;アルキルアンモニウム基を含む樹脂(分散剤)として直鎖状アルキルアンモニウム基をイオン交換基に有するイオン交換樹脂;金属を含む金属化合物として0.1mol/LのAgNO3水溶液を0.48mL;及びハロゲン化物として0.1質量%のNaCl水溶液10μLを添加して混合し、混合液を得た。
なお、直鎖状アルキルアンモニウム基は、式(1)で表され、R1~R3がメチル基である。
【0072】
(照射工程)
混合液の入ったビーカー上部からLED光源による紫外光(出力0.2 W、波長365nm)を20分間照射した。
【0073】
(担持工程)
紫外線照射をした混合液に、平均粒子径30nmのカーボンブラック担体18mg及び陰イオン交換樹脂5mgを加え、超音波処理を10分行った。なお、陰イオン交換樹脂は、乾燥状態で塩基点密度が2.8mmol/cm3(1H NMR測定によるシグナルの積分値から得られた値)であった。
その後、混合液を、10kPa(絶対圧)の減圧環境の真空室内で10分間暴露して触媒スラリーを得た。担体100質量部に対するAgの質量は29質量部である。
【0074】
〔実施例2〕
実施例1と同じ混合工程及び照射工程を進めた後、担持工程において、カーボンブラックの代わりに、カーボンブラックに以下の液相還元プロセスによって予めAg粒子を担持した複合体を36mg(内、Ag15mg)加えた。
【0075】
(液相還元プロセス)
ビーカー内において、100mLのエタノールにカーボンブラック0.1gを混合し、超音波処理を10分行った後、10kPa(絶対圧)の減圧環境の真空室内で10分間暴露した。その後、0.1mol/LのAgNO3溶液11.7mLと2.3mol/Lのホスフィン酸ナトリウム溶液1mLを混合し、15℃で16時間の攪拌を行うことで硝酸銀を還元した。反応終了後、得られた触媒スラリーを蒸留水で洗浄し遠心分離機により回収し、60℃で一晩真空乾燥し複合体粉末を得た。
【0076】
〔実施例3〕
実施例1の複合体の製造において、アルキルアンモニウム基を含む樹脂(分散剤)として、直鎖状アルキルアンモニウム基をイオン交換基に有するイオン交換樹脂に代えて、環状アルキルアンモニウム基をイオン交換基に有するイオン交換樹脂を用いた他は同様にして、実施例3の複合体を製造した。
【0077】
〔比較例1〕
実施例1の複合体の製造において、分散剤として、直鎖状アルキルアンモニウム基をイオン交換基に有するイオン交換樹脂5mgに代えて、ポリビニルピロリドン2mgを用いた他は同様にして、比較例1の複合体を製造した。
【0078】
<分散剤の分散効果>
図3に実施例1で製造した複合体を含む触媒スラリーの透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示し、
図4に実施例3で製造した複合体を含む触媒スラリーの透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示した。
図3及び
図4中に示される黒い粒子がAg粒子である。
図3と
図4との比較から、アルキルアンモニウム基を含む樹脂として、式(1)で表される直鎖状アルキルアンモニウム基を含む樹脂を用いた場合に、高い分散効果が得られ、金属粒子(Ag粒子)の粒子径を小さくすることができることが確認された。
【0079】
<固体電解質形電解装置の製造1>
〔実施例1〕
スプレーコーターを用いて、実施例1で得た触媒スラリーをカーボンペーパー上に塗布し、陰極とした。膜厚約30μmの陰イオン交換膜(塩基点密度2.8mmol/cm3)と、酸化イリジウムを担持したチタンメッシュ陽極とを貼り合わせ、イオン交換膜-電極接合体とした。陽極は電解液(0.5mol/L KHCO3水溶液)槽に接する構造とした。
【0080】
〔実施例2~3及び比較例1〕
実施例1の固体電解質形電解装置の製造において、触媒スラリーを、実施例1の触媒スラリーから、実施例2~3及び比較例1のいずれかの触媒スラリーに変更した他は同様にして、実施例2~3及び比較例1の固体電解質形電解装置を製造した。
【0081】
<固体電解質形電解装置の評価1>
実施例1~3及び比較例1の各固体電解質形電解装置を用いて、純CO2を陰極に供給し、陰極の印加電位は銀/塩化銀参照電極に対して-1.8Vとして、CO2を電気分解し、COを生成する際のCO生成電流密度[mA/cm2]を測定した。
結果を表1に示す。
許容範囲は、CO選択率が80%以上、かつCO生成電流密度が100mA/cm2以上である。
【0082】
【0083】
表1からわかるように、アルキルアンモニウム基を有するイオン交換樹脂を分散剤として用いた場合(実施例1~3)では、90%以上の高いCO選択率を示した。一方、ポリビニルピロリドンを分散剤として用いた場合(比較例1)では、Ag触媒の被毒が発生し、CO選択率は比較的低い結果となった。
さらに、直鎖状アルキルアンモニウム基を有するイオン交換樹脂を分散剤として用いた場合(実施例1及び2)では、環状アルキルアンモニウム基(実施例3)を用いた場合よりも高いCO生成電流密度を示した。
直鎖状アルキルアンモニウム基を分散剤として用いることで、高い活性点密度を有するAgナノ粒子が得られ、かつ表面被毒することなくCO2還元反応速度の向上効果が得られたものと推測される。さらに、液相還元プロセスによって調製したAgも加わることで(実施例2)、さらに活性点密度の高い触媒を合成できたものと推測される。
【0084】
<複合体の製造2>
〔実施例4~7〕
実施例1の複合体の製造において、カーボンブラック担体18mgに代えて、担体100質量部に対する金属化合物(AgNO3)中の金属の質量が表2の「Ag担持量」欄に示す量となるように変更した他は同様にして、実施例4~7の複合体を含む触媒スラリーを得た。
【0085】
<固体電解質形電解装置の製造2>
〔実施例4~7〕
実施例1の固体電解質形電解装置の製造において、触媒スラリーを、実施例1の触媒スラリーから、実施例4~7のいずれかの触媒スラリーに変更した他は同様にして、実施例4~7の固体電解質形電解装置を製造した。
【0086】
<固体電解質形電解装置の評価2>
実施例4~7の各固体電解質形電解装置を用いて、純CO2を陰極に供給し、陰極の印加電位は銀/塩化銀参照電極に対して-1.8Vとして、CO2を電気分解し、COを生成する際のCO生成電流密度[mA/cm2]を測定した。
結果を表2に示す。なお、表2には、参考のため、実施例1の評価結果も示した。
許容範囲は、CO選択率が80%以上、かつCO生成電流密度が100mA/cm2以上である。
【0087】
【0088】
表2からわかるように、担体100質量部に対する金属化合物(AgNO3)中の金属の質量(以下、Ag比率と称する)が概ね15質量部以上40質量部未満の場合に、特に高いCO選択率と電流密度となることが分かった。Ag比率が低い場合は活性点密度が不十分となる一方、高すぎる場合は凝集が進行し分散性が失われるためであると推測される。