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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183060
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】グラフェン含有塗料組成物及び塗膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20231220BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20231220BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096460
(22)【出願日】2022-06-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/超長寿命グラフェン被覆鋼材および塗料の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】716002448
【氏名又は名称】株式会社仁科マテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100145089
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】久保 利隆
(72)【発明者】
【氏名】清水 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】仁科 勇太
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038EA011
4J038GA01
4J038HA026
4J038KA06
4J038NA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】紫外線による樹脂の劣化が抑制されると共に、樹脂が劣化した場合でも剥離が生じる範囲が限定される塗膜を形成可能な塗料組成物を提供する。
【解決手段】本発明の一側面に係るグラフェン含有塗料組成物は、表面が化学修飾されたグラフェン、樹脂、及び溶媒を含み、固形分中の前記グラフェンの含有量が、10質量%以上95質量%以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が化学修飾されたグラフェン、
樹脂、及び
溶媒
を含み、
固形分中の前記グラフェンの含有量が、10質量%以上95質量%以下である
グラフェン含有塗料組成物。
【請求項2】
前記グラフェンが、その表面を、官能基を付与されたアミン又はアミドで化学修飾されたものである、請求項1に記載のグラフェン含有塗料組成物。
【請求項3】
前記官能基が、炭素数1から20のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基及び芳香族炭化水素基、並びにヘテロ元素を含む前記いずれかの官能基からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載のグラフェン含有塗料組成物。
【請求項4】
前記グラフェンが、10nm以下の平均厚さ、及び300nm以上30μm以下の平均粒径を有する、請求項1に記載のグラフェン含有塗料組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のグラフェン含有塗料組成物で形成された塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン含有塗料組成物及び塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基体の保護や美観の向上を目的として、該基体上に塗料を適用し、塗膜を形成することが行われている。塗料により形成される塗膜のうち、樹脂を含むものは、太陽光等の紫外線を含む光に晒されることによって樹脂が劣化し、変色や剥離を生じることが知られている。こうした樹脂の劣化を抑制するため、樹脂自体の主鎖の結合強度を高めることや、紫外線透過率の低い成分を、樹脂とは別に塗料組成物中に添加すること等の対策が講じられている。
【0003】
また、塗料においては、形成される塗膜の特性改善のために、種々の成分を添加する試みがなされており、例えば、エポキシ樹脂に、塗料固形分の総量の0.01~0.2wt%の変性グラフェンと、塗料固形分の総量の70wt%の酸化亜鉛とを添加した塗料組成物が報告されている(特許文献1)。
【0004】
さらに、樹脂に対してグラフェンないし薄片状カーボンを添加する技術としては、窒素原子に結合したアリーレン基を構造中に含む修飾グラフェンを添加するもの(特許文献2)、並びに薄片状カーボンと、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを添加するもの(特許文献3)も報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2022-519146号公報
【特許文献2】特開2020-138898号公報
【特許文献3】特開2021-155294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、紫外線による樹脂の劣化を抑制する対策が講じられた塗料組成物や、グラフェンないし薄片状カーボンを含む塗料組成物及び樹脂組成物は種々報告されている。しかし、塗料組成物で形成した塗膜は、紫外線が降り注ぐ屋外環境に長期間にわたって置かれることが多く、樹脂の劣化を完全に防ぐことはできない。そして、こうした塗膜では、樹脂の劣化が進行すると、広範囲にわたって剥離が生じて基体が露出し、保護機能や美観が喪失してしまうことが問題であった。
【0007】
そこで本発明は、紫外線による樹脂の劣化が抑制されると共に、樹脂が劣化した場合でも剥離が生じる範囲が限定される塗膜を形成可能な塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前述の目的を達成するために種々の検討を行った結果、表面が化学修飾されたグラフェンを、塗料組成物中に多量に含有させることで該目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一側面は、表面が化学修飾されたグラフェン、樹脂、及び溶媒を含み、固形分中の前記グラフェンの含有量が、10質量%以上95質量%以下であるグラフェン含有塗料組成物である。
【0010】
また、本発明の他の一側面は、前記グラフェン含有塗料組成物で形成された塗膜である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、紫外線による樹脂の劣化が抑制されると共に、樹脂が劣化した場合でも剥離が生じる範囲が限定される塗膜を形成可能な塗料組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】表面が化学修飾されたグラフェン、黒鉛、酸化グラフェン及び二酸化チタンの各材料について、その濃度と波長340nmの光の透過率との関係を示すグラフ
図2】グラフェンを多量に含む塗膜が、粒子形状を有する他の添加材を含むものに比べて、樹脂が劣化した際に剥離する範囲が限定される様子を示す模式図
図3】表面が化学修飾されたグラフェンの含有量が異なる樹脂について、紫外線の照射時間と紫外線照射前からの吸光度の変化との関係を示すグラフ
図4】各種添加成分を含むポリビニルアルコール製の塗膜に水中で超音波を照射した際の、塗膜消失までの時間を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を、一実施形態に基づいて詳細に説明するが、本発明は該実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本発明の一実施形態は、下記[1]から[5]の各態様を含む。
[1]表面が化学修飾されたグラフェン、樹脂、及び溶媒を含み、固形分中の前記グラフェンの含有量が、10質量%以上95質量%以下であるグラフェン含有塗料組成物。
[2]前記グラフェンが、その表面を、官能基を付与されたアミン又はアミドで化学修飾されたものである、前記[1]に記載のグラフェン含有塗料組成物。
[3]前記官能基が、炭素数1から20のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基及び芳香族炭化水素基、並びにヘテロ元素を含む前記いずれかの官能基からなる群から選択される少なくとも1種である、前記[2]に記載のグラフェン含有塗料組成物。
[4]前記グラフェンが、10nm以下の平均厚さ及び300nm以上30μm以下の平均粒径を有する、前記[1]から[3]のいずれかに記載のグラフェン含有塗料組成物。
[5]前記[1]から[4]のいずれかに記載のグラフェン含有塗料組成物で形成された塗膜。
【0015】
[グラフェン含有塗料組成物の構成]
本発明の一側面に係るグラフェン含有塗料組成物は、表面が化学修飾されたグラフェン、樹脂、及び溶媒を含み、固形分中の前記グラフェンの含有量が、10質量%以上95質量%以下である。
【0016】
(グラフェン)
グラフェンは、塗料組成物から形成された塗膜において、外部から照射される紫外線を遮蔽して樹脂の劣化を抑制すると共に、樹脂に対する広い接着面積を確保して、樹脂が劣化した場合でも、剥離する塗膜の範囲を限定し、基体の露出を抑制する。
【0017】
グラフェンは、表面が化学修飾されたものである。表面の化学修飾により、グラフェン同士の凝集が抑制されて樹脂及び溶媒に対する分散性が向上し、多量のグラフェンを含有しても、均一性が高く、かつ適度な粘度を有する塗料組成物が得られる。また、塗料組成物で形成される塗膜が、平滑性の高いものとなる。
【0018】
グラフェンの表面を化学修飾している官能基の種類は特に限定されないが、グラフェン表面への結合力が良好な点で、官能基を付与されたアミン又はアミドが好ましい。アミン又はアミドに付与されている官能基としては、グラフェン同士の凝集抑制作用に優れる点で、炭素数が1から20であるアルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基、並びにヘテロ元素を含む前記いずれかの官能基からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。前記各官能基の炭素数は、4から20であることがより好ましい。また、アミン又はアミドに付与されている官能基は、紫外線による樹脂の劣化抑制作用を向上させる点で、アルキル、芳香環等の紫外線吸収部位を有するものが好ましい。
【0019】
グラフェン表面の化学修飾は、官能基を持つ分子をグラフェンの表面に適用し、反応させて行うことができる。グラフェンの表面に適用する分子が持つ官能基の種類は特に限定されないが、グラフェン表面への付着性が良好な点で、水素原子が官能基で置換されたアミノ基が好ましい。アミノ基を有する分子がグラフェン表面と反応すると、アミンまたはアミドを形成する。化学修飾の具体的な操作としては、例えば、市販のグラフェンを、アミノ基を有する分子を含む溶媒中に投入して該分子と反応させ、固液分離して得られた固形分をアルコール等の溶媒で洗浄して未反応の前記分子を除去した後、減圧乾燥することが挙げられる。この操作においては、グラフェンとアミノ基を有する分子との反応を促進するため、グラフェンを投入した溶媒を加熱してもよい。
【0020】
グラフェンの寸法も特に限定されないが、樹脂が劣化した際の塗膜の剥離を効果的に抑制できる点で、10nm以下の平均厚さ、及び300nm以上30μm以下の平均粒径を有するものが好ましい。樹脂が劣化した際の基体露出抑制作用を高める点からは、グラフェンの平均厚さは7nm以下がより好ましく、5nm以下がさらに好ましい。また、同じ理由から、グラフェンの平均粒径は、500nm以上20μm以下がより好ましく、1μm以上15μm以下がさらに好ましい。なお、グラフェンの平均厚さの下限は、単層グラフェンの厚さからみて、0.33nmとなる。
【0021】
前述の表面が化学修飾されたグラフェンは、図1に示す紫外線遮蔽性能を有する。図1に示されるグラフは、N,N-ジメチルホルムアミド、ポリメタクリル酸メチル及びアニソールの混合物中に分散した前記グラフェンについて、その濃度と波長340nmの光の透過率との関係を示している。図1中には、グラフェンと同じ炭素系材料である黒鉛及び酸化グラフェン、並びに紫外線遮蔽材として慣用されている二酸化チタンについての測定結果も併せて示している。グラフから判るように、表面が化学修飾されたグラフェンは、他の材料に比べて、同じ濃度での紫外線遮蔽性能に優れるものといえる。
【0022】
グラフェンの含有量は、塗料組成物に含まれる固形分中の10質量%以上95質量%以下とする。グラフェンを固形分中に10質量%以上含むことで、紫外線による樹脂の劣化が抑制され、かつ樹脂が劣化した場合でも、基体の露出が抑制される塗膜を形成することができる。樹脂が劣化した場合の塗膜の剥離、及びこれに起因する基体の露出を効果的に抑制する点からは、グラフェンの含有量は、固形分中の20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。他方、グラフェンの含有量が固形分中の95質量%以下であることで、柔軟性及び耐衝撃性に優れる塗膜を形成することができる。柔軟性及び耐衝撃性により優れた塗膜を形成する点からは、グラフェンの含有量は、固形分中の90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましい。以上の理由から、グラフェンの含有量は、固形分中の20質量%以上90質量%以下が好ましく、30質量%以上85質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
(樹脂)
樹脂の種類は特に限定されず、塗膜を形成できるものであればよい。一例として、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、及びケイ素樹脂等が挙げられる。
【0024】
樹脂の量も、塗膜が形成可能なものであれば特に限定されず、その種類や、塗料組成物中に含有される他の成分の種類及び量等に応じて適宜決定すればよい。一例として、固形分中の1質量%以上90質量%以下が挙げられる。
【0025】
(溶媒)
溶媒の種類は特に限定されず、塗料組成物の固形分であるグラフェン及び樹脂、並びに必要に応じて添加される他の成分を分散可能であると共に、所期の可使時間が得られるものであればよい。一例として、エタノール及びイソプロパノール等のアルコール溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン及びアニソール等のエーテル溶媒、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン溶媒、酢酸メチル及び酢酸エチル等のエステル溶媒、トルエン等の芳香族炭化水素溶媒、並びに水等が挙げられる。
【0026】
溶媒の量も、均一な塗膜が形成可能なものであれば特に限定されず、その種類や、塗料組成物中に含有される他の成分の種類及び量等に応じて適宜決定すればよい。一例として、固形分100質量部に対して10質量部以上300質量部以下が挙げられる。
【0027】
(その他の添加材及び添加剤)
塗料組成物は、上述した各成分の他、必要に応じて、顔料、分散剤、消泡剤、増粘剤及び可塑剤等の各種添加材ないし添加剤を含有してもよい。添加材ないし添加剤を含有する場合、その総量は、固形分全体の20質量%以下であることが好ましい。
【0028】
[グラフェン含有塗料組成物の製造方法]
上述したグラフェン含有塗料組成物は、これに含まれる各成分を所定の割合で混合することで製造される。混合方法は特に限定されず、ボールミル、撹拌羽根式ミキサー及び振とう式ミキサー等の、塗料組成物の調製に通常使用される装置を用いて実施すればよい。これらのうち、塗料組成物中への気泡の混入を抑制できる点で、減圧下での混合が可能な装置を用いることが好ましい。
【0029】
[グラフェン含有塗料組成物を用いた塗膜の形成方法]
本発明の他の一側面に係る塗膜は、基体の表面に、上述したグラフェン含有塗料組成物を適用し、溶媒を揮発させることで得られる。グラフェン含有塗料組成物の基体表面への適用方法は特に限定されず、刷毛ないしローラーによる塗布及び吹付け等の慣用されている方法を採用すればよい。
【0030】
形成された塗膜は、構成成分であるグラフェンの紫外線遮蔽作用により、樹脂の劣化が抑制されたものとなる。加えて、前記塗膜は、グラフェンを多量に含むことにより、グラフェンと樹脂との総接着面積が広くなり、樹脂が劣化した場合でも、剥離する塗膜の範囲が限定され、基体の露出が抑制される。図2は、グラフェンを多量に含む塗膜2が、粒子形状を有する他の添加材を含むものに比べて、樹脂21が劣化した際に剥離する範囲が限定される様子を模式的に示すものである。グラフェンを多量に含む塗膜では、図2(a)に示されるように、個々のグラフェン薄片22aの表面側に位置する樹脂21が劣化して剥離しても、該各グラフェン薄片22aと、その裏側(基体側)に位置する樹脂21との接着面積が広いために接着強度が高くなり、塗膜2の表面に露出したグラフェン薄片22aの剥離が抑制される。このため、剥離が生じる範囲は、塗膜2の表面近傍のみに限定される。他方、粒子形状の添加材を含む塗膜では、図2(b)に示されるように、添加材粒子22bの表面側に位置する樹脂21が劣化して剥離すると、その裏側に位置する樹脂21との接着面積が狭く、接着強度が低いため、風雨等によって添加剤粒子22bの剥離が生じる。すると、新たに露出した樹脂21が紫外線等の劣化因子に晒されて劣化することとなり、塗膜2の剥離が止まらないため、基体1が露出することとなる。
【実施例0031】
以下、実施例に基づいて本発明の各実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0032】
(参考例1)
本参考例、並びに後述する参考例2及び比較例1では、表面が化学修飾されたグラフェンが、紫外線による樹脂の劣化を抑制する作用を有することを、実験的に確認した。
【0033】
[表面が化学修飾されたグラフェンの作製]
グラフェン(株式会社仁科マテリアル製、厚さ:1~数nm、平均粒径:数μm)1gを、炭素数4~20のアルキル鎖、アルケニル鎖及び芳香族構造を有するアミン30g中に投入し、マグネチックスターラーで攪拌しながら150℃に24時間保持して、グラフェンとアミンとを反応させた。反応後の溶液をろ過し、ろ紙上に残ったグラフェンをエタノールで十分に洗浄した後、減圧乾燥することで、表面が化学修飾されたグラフェンを得た。
【0034】
[試料の作製]
アルキド樹脂及びトルエンの混合物(アルキド樹脂:トルエン=2:1の質量比)に、上述した表面が化学修飾されたグラフェンを、アルキド樹脂に対して0.5質量%の量で混合し、シート状に成形して、参考例1に係る試料を作製した。
【0035】
(参考例2)
表面が化学修飾されたグラフェンの混合量を、アルキド樹脂に対して1質量%とした以外は参考例1と同様にして、参考例2に係る試料を作製した。
【0036】
(比較例1)
表面が化学修飾されたグラフェンを混合しなかった以外は参考例1と同様にして、比較例1に係る試料を作製した。
【0037】
<樹脂の劣化抑制作用の確認>
参考例1及び2、並びに比較例1に係る試料について、シートの片面全体に波長330nmの紫外線を照射しながら、所定時間毎に該シート上の30箇所について吸光度を測定し、その平均値を算出することで、樹脂が吸収した紫外線量を評価した。各試料中に含まれるアルキド樹脂は、紫外線を受けると変色し、吸光度が変化するものである。このため、各試料の吸光度を測定し、その経時変化を確認することで、樹脂が吸収した紫外線量を見積もることができる。各試料について得られた、紫外線の照射時間と紫外線照射前からの吸光度の変化との関係を、図3に示す。
【0038】
図3から、表面が化学修飾されたグラフェンの混合により、樹脂の紫外線吸収量が抑制されること、及び前記グラフェンの混合量が増加するほど、樹脂が吸収する紫外線量は減少することが判る。この結果から、表面が化学修飾されたグラフェンを含む塗料組成物により、紫外線による樹脂の劣化が抑制された塗膜が得られるといえる。
【0039】
(実施例1)
本実施例、並びに後述する実施例2から8及び比較例1から18では、表面が化学修飾されたグラフェンが、塗膜中の樹脂が劣化した際の基体の露出を抑制する作用を有することを、実験的に確認した。
ポリビニルアルコール(アズワン株式会社製、PV-217)及び蒸留水の混合物に、参考例1にて作製した表面が化学修飾されたグラフェンを、固形分中の含有量が10質量%となる量で混合し、塗料組成物を調製した。得られた塗料組成物を、ガラス基板上に塗布して乾燥し、実施例1に係る塗膜を作製した。得られた塗膜の厚さは50μmであった。
【0040】
(実施例2から8)
固形分中のグラフェンの含有量をそれぞれ、20質量%(実施例2)、40質量%(実施例3)、50質量%(実施例4)、70質量%(実施例5)、80質量%(実施例6)、90質量%(実施例7)及び95質量%(実施例8)とした以外は実施例1と同様にして、実施例2から8に係る塗膜をそれぞれ作製した。
【0041】
(比較例2から9)
表面が化学修飾されたグラフェンに代えて、市販の微粒子状黒鉛(アズワン株式会社製、3-8530-03、平均粒径10μm)を用いた以外は実施例1から8と同様にして、比較例2から9に係る塗膜をそれぞれ作製した。
【0042】
(比較例10から17)
表面が化学修飾されたグラフェンに代えて、市販の微粒子状二酸化チタン(株式会社高純度化学研究所製、TIO21PB)を用いた以外は実施例1から8と同様にして、比較例10から17に係る塗膜をそれぞれ作製した。使用した酸化チタンは、塗料の紫外線遮蔽成分として慣用されているものである。
【0043】
(比較例18)
塗料組成物調製時に、表面が化学修飾されたグラフェンを混合しなかった以外は実施例1と同様にして、比較例18に係る塗膜を作製した。
【0044】
<樹脂劣化時の基体の露出抑制作用の評価>
実施例1から8及び比較例2から18に係る塗膜を形成したガラス基板を、それぞれ水道水中に浸し、超音波洗浄機(株式会社エス・エヌ・ディ製、US-600S)を用いて超音波を照射した。超音波の照射開始から、ガラス基板上からの塗膜の消失が目視確認されるまでの時間を計測し、これを比較することで、樹脂劣化時の基体の露出抑制作用を評価した。各塗膜に含まれるポリビニルアルコールは水溶性の樹脂であるため、水中での超音波の照射により、溶出することとなる。このとき、ガラス基板上に残存する時間の長い塗膜は、樹脂劣化時の基体の露出抑制作用に優れるものと評価できる。各塗膜について得られた塗膜消失までの時間を、図4に示す。
【0045】
図4から、表面が化学修飾されたグラフェンを固形分中に10質量%以上含む塗料組成物で形成された塗膜は、樹脂が劣化した場合でも基体の露出を抑制可能なものといえる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、紫外線による樹脂の劣化が抑制されると共に、樹脂が劣化した場合でも剥離が生じる範囲が限定される塗膜を形成可能な塗料組成物を提供することができる。このため、本発明は、インフラ用途の構造物や機械、部品、乗り物等の、長期間の耐久性が求められる塗膜の形成に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 基体
2 塗膜
21 樹脂
22a グラフェン薄片
22b 添加剤粒子
図1
図2
図3
図4