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特開2023-183072化学成分判定装置、化学成分判定方法、化学成分判定プログラムおよび記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183072
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】化学成分判定装置、化学成分判定方法、化学成分判定プログラムおよび記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/00 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
G01N27/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096485
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】申 ウソク
(72)【発明者】
【氏名】増田 佳丈
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AB07
2G060AB11
2G060AB17
2G060AB18
2G060AB21
2G060AB26
2G060AE19
2G060HC13
(57)【要約】
【課題】化学センサが検出した試料のセンサ信号を用いて、当該試料に含まれる化学成分およびその濃度を一度に判定する。
【解決手段】化学成分判定装置1は、候補となる化学成分の数がn個の試料から複数の化学センサが検出したセンサ信号が入力される入力層10と、中間層20と、基準値y0および前記試料に関連する化学成分値y(t=1~n)を機械学習して出力する出力層30と、前記試料に関連する化学成分の濃度s(t=1~n)を計算する濃度計算部40と、を含む。このとき以下を満たす。
Σi=0 n yi=1
yt / y0=st
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
候補となる化学成分の数がn個の試料から複数の化学センサが検出したセンサ信号が入力される入力層と、
中間層と、
基準値y0および前記試料に関連する化学成分値y(t=1~n)を機械学習して出力する出力層と、
前記試料に関連する化学成分の濃度s(t=1~n)を計算する濃度計算部と、
を含み、
Σi=0 n yi=1
yt / y0=st
であることを特徴とする化学成分判定装置。
【請求項2】
前記化学センサはガスセンサであることを特徴とする請求項1に記載の化学成分判定装置。
【請求項3】
前記化学センサは前記試料のニオイを検出することを特徴とする請求項2に記載の化学成分判定装置。
【請求項4】
化学センサが検出したセンサ信号値を対数化および/または標準化する前処理部をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の化学成分判定装置。
【請求項5】
前記複数の化学センサは、前記入力層から前記中間層のノードへの重みの標準偏差がより大きいものとして、化学センサの候補の中から選ばれたものであることを特徴とする請求項1に記載の化学成分判定装置。
【請求項6】
入力層と、中間層と、出力層と、濃度計算部と、を含む化学成分判定装置を用いて試料の化学成分および前記化学成分の濃度を判定する方法であって、
前記入力層に、候補となる化学成分の数がn個の試料から複数の化学センサが検出したセンサ信号を入力するステップと、
前記出力層から、基準値y0および前記試料に関連する化学成分値y(t=1~n)を機械学習して出力するステップと、
濃度計算部を用いて、前記試料に関連する化学成分の濃度s(t=1~n)を計算するステップと、
を含み、
Σi=0 n yi=1
yt / y0=st
であることを特徴とする化学成分判定方法。
【請求項7】
入力層と、中間層と、出力層と、濃度計算部と、を含む化学成分判定装置を用いて試料の化学成分および前記化学成分の濃度を判定する方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記方法は、
前記入力層に、候補となる化学成分の数がn個の試料から複数の化学センサが検出したセンサ信号を入力するステップと、
前記出力層から、基準値y0および前記試料に関連する化学成分値y(t=1~n)を機械学習して出力するステップと、
濃度計算部を用いて、前記試料に関連する化学成分の濃度s(t=1~n)を計算するステップと、
を含み、
Σi=0 n yi=1
yt / y0=st
であることを特徴とする化学成分判定プログラム。
【請求項8】
入力層と、中間層と、出力層と、濃度計算部と、を含む化学成分判定装置を用いて試料の化学成分および前記化学成分の濃度を判定する方法をコンピュータに実行させるプログラムを記録した記録媒体であって、
前記方法は、
前記入力層に、候補となる化学成分の数がn個の試料から複数の化学センサが検出したセンサ信号を入力するステップと、
前記出力層から、基準値y0および前記試料に関連する化学成分値y(t=1~n)を機械学習して出力するステップと、
濃度計算部を用いて、前記試料に関連する化学成分の濃度s(t=1~n)を計算するステップと、
を含み、
Σi=0 n yi=1
yt / y0=st
であることを特徴とする記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学成分判定装置、化学成分判定方法、化学成分判定プログラムおよび記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスに含まれるニオイを判定する先行技術として、PID(Photo Ionization Detector:光イオン化式検知器)と半導体ガスセンサを検出器に用い、クロマトカラムでニオイ成分を分離しモニタする手法がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された技術では、得られた波形をニューラルネットワークに入力してニオイを判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-139914
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術は、ニオイの質および強度を、それぞれ別個のニューラルネットワークを用いて判定している。すなわちこの技術では、ニオイの質および強度を一度に判定することはできない。さらにここで出力される強度は、段階的(不連続的)な飛び飛びの値であり、濃度のような連続的な値ではない。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、化学センサが検出した試料のセンサ信号を用いて、当該試料に含まれる化学成分およびその濃度を一度に判定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の化学成分判定装置は、候補となる化学成分の数がn個の試料から複数の化学センサが検出したセンサ信号が入力される入力層と、中間層と、基準値y0および試料に関連する化学成分値y(t=1~n)を機械学習して出力する出力層と、試料に関連する化学成分の濃度s(t=1~n)を計算する濃度計算部と、を含み、
Σi=0 n yi=1
yt / y0=st
である。
【0007】
ある実施の形態では、化学センサはガスセンサであってもよい。
【0008】
ある実施の形態では、化学センサは試料のニオイを検出してもよい。
【0009】
ある実施の形態では、化学成分判定装置は、化学センサが検出したセンサ信号値を対数化および/または標準化する前処理部をさらに含んでもよい。
【0010】
ある実施の形態では、複数の化学センサは、入力層から中間層のノードへの重みの標準偏差がより大きいものとして、化学センサの候補の中から選ばれたものであってもよい。
【0011】
本発明の別の態様は、化学成分判定方法である。この方法は、入力層と、中間層と、出力層と、濃度計算部と、を含む化学成分判定装置を用いて試料の化学成分および化学成分の濃度を判定する方法であって、入力層に、候補となる化学成分の数がn個の試料から複数の化学センサが検出したセンサ信号を入力するステップと、出力層から、基準値y0および試料に関連する化学成分値y(t=1~n)を機械学習して出力するステップと、濃度計算部を用いて、試料に関連する化学成分の濃度s(t=1~n)を計算するステップと、を含み、
Σi=0 n yi=1
yt / y0=st
である。
【0012】
本発明のさらに別の態様は、化学成分判定プログラムである。このプログラムは、入力層と、中間層と、出力層と、濃度計算部と、を含む化学成分判定装置を用いて試料の化学成分および化学成分の濃度を判定する方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、入力層に、候補となる化学成分の数がn個の試料から複数の化学センサが検出したセンサ信号を入力するステップと、出力層から、基準値y0および試料に関連する化学成分値y(t=1~n)を機械学習して出力するステップと、濃度計算部を用いて、試料に関連する化学成分の濃度s(t=1~n)を計算するステップと、を含み、
Σi=0 n yi=1
yt / y0=st
である方法をコンピュータに実行させる。
【0013】
本発明のさらに別の態様は、記録媒体である。この記録媒体は、入力層と、中間層と、出力層と、濃度計算部と、を含む化学成分判定装置を用いて試料の化学成分および化学成分の濃度を判定する方法をコンピュータに実行させるプログラムを記録した記録媒体であって、入力層に、候補となる化学成分の数がn個の試料から複数の化学センサが検出したセンサ信号を入力するステップと、出力層から、基準値y0および試料に関連する化学成分値y(t=1~n)を機械学習して出力するステップと、濃度計算部を用いて、試料に関連する化学成分の濃度s(t=1~n)を計算するステップと、を含み、
Σi=0 n yi=1
yt / y0=st
である方法をコンピュータに実行させるプログラムを記録する。
【0014】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を装置、方法、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、化学センサが検出した試料のセンサ信号から、当該試料に含まれる化学成分および当該化学成分の濃度を一度に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の実施の形態に係る化学成分判定装置の機能ブロック図である。
図2】第4の実施の形態に係る化学成分判定装置の機能ブロック図である。
図3】第6の実施の形態に係る化学成分判定方法の処理を示すフローチャートである。
図4】検証実験系の模式図である。
図5】実験1のニオイ2に対するセンサ応答を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施の形態及び変形例では、同一又は同等の構成要素、部材には同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示す。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要でない部材の一部は省略して表示する。また、第1、第2などの序数を含む用語が多様な構成要素を説明するために用いられるが、こうした用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0018】
[第1の実施の形態]
図1に、第1の実施の形態に係る化学成分判定装置1の機能ブロック図を示す。化学成分判定装置1は、入力層10と、中間層20と、出力層30と、濃度計算部40と、を含む。入力層10、中間層20および出力層30によってニューラルネットワークが形成される。以下では混乱のない限り、ニューラルネットワークでデータを表す記号とノードを表す記号に同じものを用いることもある。例えば同じxという記号を用いて、データxと表したり、ノードxと表したりすることがある。
【0019】
図1の例では、候補となる化学成分の数がn個の試料を対象とする。化学成分判定装置1には、m個の異なる化学センサ101、102、103、…、10mが接続されている。化学センサ101、102、103、…、10mの各々は、上記の成分1、2、3、…、nに対して一定の感度を持つことが望ましい。
【0020】
入力層10には、化学センサ101、102、103、…、10mが検出したセンサ信号x、x、x、…、xが入力される。ただし、図1で入力層10の中にxで示されるものはバイアスノードである。バイアスノードを除けば、入力層のノード数mは、化学センサの数m(すなわち化学センサからのセンサ信号の数m)に等しい。
【0021】
入力層10に入力されたセンサ信号x、x、x、…、xは、中間層20の各ノードb、b、b、…、bに渡される。中間層20の層の数および各中間層のノードの数(この例ではk)は、機械学習の精度や計算コストに応じて、任意の好適なものを選んでよい。中間層20の各ノードは、ReLUなどの活性化関数を用いて、値b、b、b、…、bをそれぞれz、z、z、…、zに変換してもよい。図のzはバイアスノードである。
【0022】
出力層30は、入力層10に入力されたセンサ信号x、x、x、…、xから機械学習された当該試料に関連する化学成分値y、y、y、…、yおよび基準値yを出力する。基準値yについては後述する。ここで、出力層のノード数(n+1)は、候補となる化学成分の数nに1を足したものである点に注意する。
【0023】
濃度計算部40は、当該試料に関連する化学成分の濃度s、s、s、…、sを計算する。ここで、当該試料に関連する化学成分値y(t=1~n)と濃度s(t=1~n)は以下を満たす。
Σi=0 n yi=1 (1)
yt / y0=st (2)
ここで、yおよびy(t=1~n)は、(1)および(2)より以下のように求められることに注意する。
y0=1/(1+Σt=1 n st) (3)
yt= st /(1+Σt=1 n st) (4)
【0024】
このように化学成分判定装置1は、化学センサ101、102、103、…、10mが検出した試料のセンサ信号x、x、x、…、xから、当該試料に含まれる化学成分値y(t=1~n)および当該化学成分の濃度s(t=1~n)を一度に判定する。
【0025】
本実施の形態の特徴の1つは、出力層に活性化関数を置いて分類・識別を行うだけでなく、回帰も同時に行えるニューラルネットワークである点にある。従来の一般的な回帰モデルでは、教師データとして入力する濃度値が、そのまま出力される濃度値に対応する。この場合、化学成分の種類の識別を行うことはできない。これに対し本実施の形態は、出力層に新たに基準値のノードを設けることにより、化学成分の種類の識別と濃度の予測とを同時に行うことができるという顕著な利点を持つ。
【0026】
本実施の形態によれば、化学センサが検出した試料のセンサ信号を用いて、当該試料に含まれる化学成分およびその濃度を一度に判定する装置を実現することができる。
【0027】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態では、試料はガスである。この場合、候補となる化学成分は、例えば候補1がアンモニア、候補2が硫化水素、候補3がLPガス、…、候補nがエタノール、といったようにガス成分である。試料のガスは、これらのガス成分のいずれかを1種類のみを含む純粋なガスであってもよいし、これらのガス成分の複数を含む混合ガスであってもよい。この場合化学センサ101、102、103、…、10mはガスセンサであってもよい。例えばガスセンサは一般的な市販のガスセンサであってもよい。ガスセンサ101、102、103、…、10mの各々は、試料のガス成分1、2、3、…、nに対して、一定の感度を持つことが望ましい。
【0028】
本実施の形態によれば、ガスセンサが検出した試料ガスのセンサ信号を用いて、当該試料ガスに含まれる成分ガスおよびその濃度を一度に判定することができる。
【0029】
[第3の実施の形態]
第3の実施の形態では、化学センサは試料のニオイを検出する。例えば第2の実施の形態の例であれば、化学成分判定装置1に接続された化学センサ101、102、103、…、10mの各々は、アンモニア、硫化水素、LPガス、…、エタノールのニオイを検出してもよい。
【0030】
本実施の形態は、ニオイの識別が求められる分野、例えば、呼気計測による疾患スクリーニング、におい計測による食品の鮮度評価、室内空気質評価、などに有効に適用することができる。
【0031】
[第4の実施の形態]
図2に、第4の実施の形態に係る化学成分判定装置2の機能ブロック図を示す。化学成分判定装置2は、入力層10と、中間層20と、出力層30と、濃度計算部40と、前処理部50と、を含む。すなわち化学成分判定装置2は、図1の化学成分判定装置1に対して、前処理部50をさらに含む。化学成分判定装置2のその他の構成は、化学成分判定装置1の構成と共通する。以下、化学成分判定装置1と相違する点について焦点を当てて説明する。
【0032】
前処理部50は、化学センサ101、102、103、…、10mが検出したセンサ信号値を対数化および/または標準化する。
【0033】
化学センサ101、102、103、…、10mの中には、一部のデータに対してのみ非常に大きなセンサ応答値を示すものがある。このようなデータをそのまま使うと、計算上の誤差が大きくなる可能性がある。これに対し、例えば10を底として元のデータを対数化することにより、極端に大きな応答値を緩和することができる。
【0034】
さらに化学センサ101、102、103、…、10mは、センサ毎に平均的な応答の大小が異なる。このとき、得られる出力が、応答の大きいセンサに偏ったものとなる可能性がある。これに対し、例えば元のデータを、平均が0で標準偏差が1の標準化データに変換することにより、極端に大きな応答の偏りを緩和することができる。
【0035】
このように化学センサから取得したデータを対数化データ、標準化データまたはその両方に変換する処理を行うことにより、機械学習の結果をより正確なものとすることができる。すなわち本実施の形態によれば、試料に含まれる化学成分およびその濃度をより正確に判定することができる。
【0036】
[第5の実施の形態]
第5の実施の形態では、化学センサを、入力層から中間層のノードへの重みの標準偏差がより大きいものとして化学センサの候補の中から選ばれたものとする。例えば、最初に多数の化学センサの候補を用いてニューラルネットワークを構成した後、各センサデータの入力層から中間層のノードへの重み同士を比較する。その結果、重みの標準偏差がより大きいものを所定の数だけ実際に使用する化学センサとして選び、残りの化学センサは使用しない、といった使い方ができる。この場合、重みの標準偏差が大きいほど、対応する化学センサの寄与が大きいと考えられる。従って、重みの標準偏差が大きいものを実際に使用する化学センサとして選ぶことにより、精度をあまり損なうことなく、化学センサの数を削減することができる。
【0037】
本実施の形態によれば、化学センサの数を削減することができるので、構成全体をコンパクトにし、コストを削減することができる。
【0038】
[第6の実施の形態]
図3に、第6の実施の形態に係る化学成分判定方法の処理フローを示す。この方法は、入力層と、中間層と、出力層と、濃度計算部と、を含む化学成分判定装置を用いて、試料の化学成分および前記化学成分の濃度を判定する方法である。この方法は、ステップS10と、ステップS20と、ステップS30と、を含む。
【0039】
ステップS10で本方法は、入力層に、候補となる化学成分の数がn個の試料から複数の化学センサが検出したセンサ信号x、x、x、…、xを入力する。
【0040】
ステップ20で本方法は、ステップS10で入力されたセンサ信号x、x、x、…、xから機械学習された当該試料に関連する化学成分値y、y、y、…、yおよび基準値yを出力層から出力する。
【0041】
ステップS30で本方法は、濃度計算部を用いて、当該試料に関連する化学成分の濃度s、s、s、…、sを計算する。ここで、当該試料に関連する化学成分値y(t=1~n)と濃度s(t=1~n)は以下を満たす。
Σi=0 n yi=1
yt / y0=st
y0=1/(1+Σt=1 n st)
ただし、
yt= st /(1+Σt=1 n st)
【0042】
本実施の形態によれば、化学成分判定装置を用いて、試料に含まれる化学成分および当該化学成分の濃度を一度に判定する処理を実行することができる。
【0043】
[第7の実施の形態]
本実施の形態は、入力層と、中間層と、出力層と、濃度計算部と、を含む化学成分判定装置を用いて、試料の化学成分および前記化学成分の濃度を判定する方法をコンピュータに実行させる化学成分判定プログラムである。このプログラムは、ステップS10と、ステップS20と、ステップS30と、を含む方法をコンピュータに実行させる。
【0044】
ステップS10で当該方法は、入力層に、候補となる化学成分の数がn個の試料から複数の化学センサが検出したセンサ信号x、x、x、…、xを入力する。
【0045】
ステップ20で当該方法は、ステップS10で入力されたセンサ信号x、x、x、…、xから機械学習された当該試料に関連する化学成分値y、y、y、…、yおよび基準値yを出力層から出力する。
【0046】
ステップS30で当該方法は、濃度計算部を用いて、当該試料に関連する化学成分の濃度s、s、s、…、sを計算する。ここで、当該試料に関連する化学成分値y(t=1~n)と濃度s(t=1~n)は以下を満たす。
Σi=0 n yi=1
yt / y0=st
ただし、
y0=1/(1+Σt=1 n st)
yt= st /(1+Σt=1 n st)
【0047】
本実施の形態によれば、試料に含まれる化学成分および当該化学成分の濃度を一度に判定する処理を実行するプログラムをソフトウェアに実装することができる。
【0048】
[第8の実施の形態]
本実施の形態は、入力層と、中間層と、出力層と、濃度計算部と、を含む化学成分判定装置を用いて、試料の化学成分および前記化学成分の濃度を判定する方法をコンピュータに実行させる化学成分判定プログラムを記録した記録媒体である。この記録媒体に記録されたプログラムは、ステップS10と、ステップS20と、ステップS30と、を含む方法をコンピュータに実行させる。
【0049】
ステップS10で当該方法は、入力層に、候補となる化学成分の数がn個の試料から複数の化学センサが検出したセンサ信号x、x、x、…、xを入力する。
【0050】
ステップ20で当該方法は、ステップS10で入力されたセンサ信号x、x、x、…、xから機械学習された当該試料に関連する化学成分値y、y、y、…、yおよび基準値yを出力層から出力する。
【0051】
ステップS30で当該方法は、濃度計算部を用いて、当該試料に関連する化学成分の濃度s、s、s、…、sを計算する。ここで、当該試料に関連する化学成分値y(t=1~n)と濃度s(t=1~n)は以下を満たす。
Σi=0 n yi=1
yt / y0=st
ただし、
y0=1/(1+Σt=1 n st)
yt= st /(1+Σt=1 n st)
【0052】
本実施の形態によれば、試料に含まれる化学成分および当該化学成分の濃度を一度に判定する処理を実行するプログラムを実装したソフトウェアを記録媒体に記録することができる。
【0053】
[検証実験]
本発明者らは、本技術による効果を検証するために以下の5つの実験を行った。図4に、このときの実験系の模式図を示す。本実験では、化学成分判定装置はノートPCで実現している。化学センサにはフィガロ技研社製の8個のガスセンサモジュールを使用した。これらの仕様は表1の通りである。
【表1】
[実験1]
試料は、表2に示す物質と濃度とを使用した。以下では混乱のない限り、物質1、物質2、…、物質9に代えて、ニオイ1、ニオイ2、…、ニオイ9等と表すこともある。
【表2】
本実験では、試料に60%RH(水蒸気)を含ませることによって表2の濃度に調整しながら、常に総流量500mL/分で試料ガスを流し、その流路から上記8個のセンサを搭載したガスセンサシステムにて200mL/分を吸引してセンサに暴露した。センサシグナルの抵抗値を5秒毎に取得した。
【0054】
図5に、一例として、ニオイ2に対するセンサ応答を示す。各ガス濃度のフロー区間の最後の1分間の13個のデータを用いてRgとし、各ガス濃度導入直前をRaとして、各ガス濃度当たり13個のセンサ応答値Ra/Rgを取得した。
【0055】
本実験で用いたニューラルネットワークは以下の通りである。入力層のノード数は8とした(センサの数、ただしバイアスノードを除く)。中間層は2層とし、1層目のノード数は20(バイアスを除く)で活性化関数はReLUとし、2層目のノード数は30(バイアスを除く)で活性化関数は同じくReLUとした。出力層のノード数は10とし(ニオイ成分数に1を足した数)、活性化関数はソフトマックス、エポック数は10000、バッチサイズは100とした。
【0056】
全データ429点をランダムに8:2に分割し、前者を訓練データ、後者をテストデータとし、訓練データから作成した判別器でテストデータを判定した。
【0057】
判定の基準として、以下の3つを設定した。
1)出力値の最大濃度のガス種が、本来のガスと一致する。
2)本来とは異なるガス種も共存すると出力されたとしても、その濃度が本来のガス種の1/10以下である。
3)本来のガス種の濃度が、正しい値の±20%以内である。
1)は、ニオイ種が正しいかどうかの判定で、ニオイ種の分類に相当する。以下、1)の該当率を「ガス種判定率」とする。2)は、本来と異なるニオイ種が無視できない濃度値で存在しないかどうかを示す基準である。3)は、本来のニオイ種の濃度値が正しく反映されているかどうかを示す基準である。特に3)の±20%以内は、ガスセンサそのものの精度の指標としてよく使われる値である。
【0058】
表3に判定結果を示す。
【表3】
【0059】
ガス種の分類に相当するガス種判定率は96.5%で、概ね正しく判定できていることが示された。ガス濃度の回帰に相当する濃度予測精度は53.5%であり、これも概ね半数以上はガスセンサの精度の指標を満たしている。なお、ガス種判定率よりも濃度予測精度が低いのは、基準3)を満たさない割合が多いことによる。テストデータの3)を満たすものと満たさないものとで区分し、それぞれ上位と下位合わせて20%のデータを除外した濃度の平均を求めたところ、前者は2.3ppm、後者は0.39ppmであった。一般に、濃度が低くなるとセンサシグナルが小さくなり精度が低下する傾向にあるため、これが影響したものと考えられる。
【0060】
さらに、各ニオイに関し4種の濃度(ニオイ7を除く)の評価を実施した。次に、各濃度におけるセンサ応答値の中間値に相当する架空のセンサ応答値を作成し、これを中間値の濃度のセンサ応答値と仮定して、判別器に入力して出力された濃度値が中間値の濃度と一致するかどうかを検討した。表4に、一例として、テストデータに用いられたニオイ4の各濃度に対するセンサ応答値x1~x8の平均を示す。
【表4】
【0061】
表5に、センサ応答がニオイ4の濃度0.18ppm~0.72ppmの区間で比例関係にあると仮定して、この中間値に相当するニオイ4の濃度とセンサ応答値x1~x8を示す。
【表5】
【0062】
表6に、表5の値を判別器に代入して出力されたy値を式(1)~(4)に代入して濃度値に変換した結果を示す。3点ともに、判定の基準1)、2)、3)の全てを満たしていることが分かる。
【表6】
【0063】
[実験2]
計測データは実験1と同じだが、ニューラルネットワークの条件の一部を以下のように変更して結果の改善を試みた。
【0064】
入力層のノード数は8(センサの数、ただしバイアスノードを除く)とし、出力層のノード数は10(ニオイ成分数に1を足した数)で活性化関数がソフトマックスとした点は、実験1と同じである。変更したのは中間層の2層で、1層目、2層目ともにノード数64(バイアスノードを除く)とし、エポック数5000、バッチサイズ32とした点である(活性化関数は同じくReLU)。
【0065】
センサ応答値は、前処理として底10の対数化を行った後に入力層に入力した。
【0066】
表7に結果を示す。
【表7】
【0067】
ガス種の分類に相当するガス種判定率は95.3%(基準1)の該当率)、ガス濃度の回帰に相当する濃度予測精度は41.9%(基準1)、2)、3)の該当率)であった。このように開発したニューラルネットワークの一部条件を変更し、前処理を行ったが、実験1と概ね同等の結果が得られた。また、底10の対数化を行ったことで、計算量の低減ができる。
【0068】
なお、ガス種判定率よりも濃度予測精度が低いのは、基準3)を満たさない割合が多いことによる。テストデータの基準3)を満たすものと満たさないものとで区分し、それぞれ上位と下位合わせて20%のデータを除外した濃度の平均を求めたところ、前者は2.6ppm、後者は0.51ppmであった。一般に、濃度が低くなるとセンサシグナルが小さくなり精度が低下する傾向にあるため、これが影響したものと考えられる。
【0069】
さらに、実験2でも、各濃度におけるセンサ応答値の中間値に相当する架空のセンサ応答値を作成し、これを中間値の濃度のセンサ応答値と仮定して、判別器に入力して出力された濃度値が中間値の濃度と一致するかどうかを検討した。ただし本実験では、濃度が1点しかないニオイ7を除く全てのニオイについて検討した。表8に判定結果を示す。
【表8】
【0070】
ガス種の分類に相当するガス種判定率は91.7%(基準1)の該当率)、ガス濃度の回帰に相当する濃度予測精度は50.0%(基準1)、2)、3)の該当率)で、表7と概ね同じ結果が得られた。
【0071】
この場合も、ガス種判定率よりも濃度予測精度が低いのは、基準3)を満たさない割合が多いことによる。基準3)を満たすものと満たさないものとで区分し、それぞれ上位と下位合わせて20%のデータを除外した濃度の平均を求めたところ、前者は2.7ppm、後者は0.52ppmであり、濃度が低くなるとセンサシグナルが小さくなり精度が低下する傾向にあるため、中央値の取得においても影響を受けたものと考えられる。
【0072】
[実験3]
計測データは実験1と同じで、ニューラルネットワークの条件も実験2と同じである。
【0073】
センサ応答値は、前処理として標準化を行った後に入力層に入力した。
【0074】
表9に結果を示す。
【表9】
【0075】
ガス種の分類に相当するガス種判定率は96.5%(基準1)の該当率)、ガス濃度の回帰に相当する濃度予測精度は64.0%(基準1)、2)、3)の該当率)であった。このように開発したニューラルネットワークの一部条件を変更し、前処理を行ったことにより、実験1より結果が改善したことが分かる。
【0076】
なお、ガス種判定率よりも濃度予測精度が低いのは、基準3)を満たさない割合が多いことによる。テストデータの基準3)を満たすものと満たさないものとで区分し、それぞれ上位と下位合わせて30%のデータを除外した濃度の平均を求めたところ、前者は1.1ppm、後者は0.46ppmであった。一般に、濃度が低くなるとセンサシグナルが小さくなり精度が低下する傾向にあるため、これが影響したものと考えられる。
【0077】
さらに、実験3でも、各濃度におけるセンサ応答値の中間値に相当する架空のセンサ応答値を作成し、これを中間値の濃度のセンサ応答値と仮定して、判別器に入力して出力された濃度値が中間値の濃度と一致するかどうかを検討した。ただし本実験では、濃度が1点しかないニオイ7を除く全てのニオイについて検討した。表10に判定結果を示す。
【表10】
【0078】
ガス種の分類に相当するガス種判定率は100%(基準1)の該当率)、ガス濃度の回帰に相当する濃度予測精度は54.2%(基準1)、2)、3)の該当率)で、表9と概ね同じ結果が得られた。
【0079】
この場合も、ガス種判定率よりも濃度予測精度が低いのは、基準3)を満たさない割合が多いことによる。基準3)を満たすものと満たさないものとで区分し、それぞれ上位と下位合わせて20%のデータを除外した濃度の平均を求めたところ、前者は2.2ppm、後者は0.42ppmであり、濃度が低くなるとセンサシグナルが小さくなり精度が低下する傾向にあるため、中央値の取得においても影響を受けたものと考えられる。
【0080】
[実験4]
計測データは実験1と同じだが、ニューラルネットワークの条件の一部を以下のように変更して結果の改善を試みた。
【0081】
入力層のノード数は8(センサの数、ただしバイアスノードを除く)とし、出力層のノード数は10(ニオイ成分数に1を足した数)で活性化関数がソフトマックスとした点は、実験1と同じである。変更したのは中間層の2層で、1層目、2層目ともにノード数64(バイアスノードを除く)とし、エポック数5000、バッチサイズ32とした点である(活性化関数は同じくReLU)。
【0082】
センサ応答値は、前処理として底10の対数化を行い、さらに標準化を行った後に入力層に入力した。
【0083】
表11に結果を示す。
【表11】
【0084】
ガス種の分類に相当するガス種判定率は100%(基準1)の該当率)、ガス濃度の回帰に相当する濃度予測精度は76.7%(基準1)、2)、3)の該当率)であった。このように開発したニューラルネットワークの一部条件を変更し、前処理を行ったことにより、実験1より結果が改善したことが分かる。
【0085】
なお、ガス種判定率よりも濃度予測精度が低いのは、基準3)を満たさない割合が多いことによる。テストデータの基準3)を満たすものと満たさないものとで区分し、それぞれ上位と下位合わせて20%のデータを除外した濃度の平均を求めたところ、前者は1.6ppm、後者は0.20ppmであった。一般に、濃度が低くなるとセンサシグナルが小さくなり精度が低下する傾向にあるため、これが影響したものと考えられる。
【0086】
さらに、実験4でも、各濃度におけるセンサ応答値の中間値に相当する架空のセンサ応答値を作成し、これを中間値の濃度のセンサ応答値と仮定して、判別器に入力して出力された濃度値が中間値の濃度と一致するかどうかを検討した。ただし本実験では、濃度が1点しかないニオイ7を除く全てのニオイについて検討した。表12に判定結果を示す。
【表12】
【0087】
ガス種の分類に相当するガス種判定率は100%(基準1)の該当率)、ガス濃度の回帰に相当する濃度予測精度は66.7%(基準1)、2)、3)の該当率)で、表6と概ね同じ結果が得られた。
【0088】
この場合も、ガス種判定率よりも濃度予測精度が低いのは、基準3)を満たさない割合が多いことによる。基準3)を満たすものと満たさないものとで区分し、それぞれ上位と下位合わせて20%のデータを除外した濃度の平均を求めたところ、前者は1.9ppm、後者は0.34ppmであり、濃度が低くなるとセンサシグナルが小さくなり精度が低下する傾向にあるため、中央値の取得においても影響を受けたものと考えられる。
【0089】
[実験5]
開発したニューラルネットワークの条件は実験4と同じ、計測データは実験1と同じであるが、8個のセンサの中から5個を選んで実行した点が実験1および4と異なる。
【0090】
選択した5個のセンサは、実験4のニューラルネットワークにおいて、入力層の各ノードから中間層1層の64個のノードへの重みの標準偏差の大きいTGS2600、TGS2602、TGS2603、TGS2620、TGS2444である。表13に判定結果を示す。
【表13】
【0091】
ガス種の分類に相当するガス種判定率は96.5%(基準1)の該当率、ガス濃度の回帰に相当する濃度予測精度は74.4%(基準1)、2)、3)の該当率)で、表6の8個のセンサにおける判定結果と遜色のない結果が得られた。
【0092】
さらに、実験5でも、各濃度におけるセンサ応答値の中間値に相当する架空のセンサ応答値を作成し、これを中間値の濃度のセンサ応答値と仮定して、判別器に入力して出力された濃度値が中間値の濃度と一致するかどうかを検討した。本実験でも、濃度が1点しかないニオイ7を除く全てのニオイについて検討した。表14に判定結果を示す。
【表14】
【0093】
ガス種の分類に相当するガス種判定率は100%(基準1)の該当率、ガス濃度の回帰に相当する濃度予測精度は75%(基準1)、2)、3)の該当率)で、表7の8個のセンサにおける判定結果と遜色のない結果が得られた。
【0094】
以上、本発明の実施例を基に説明した。これらの実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0095】
化学成分を判定することが必要となる産業分野に広く利用できる。特にニオイの識別にニーズのある分野、例えば、呼気計測による疾患スクリーニング、におい計測による食品の鮮度評価、室内空気質評価、などに有用である。
【符号の説明】
【0096】
1・・化学成分判定装置、
2・・化学成分判定装置、
10・・入力層、
20・・中間層、
30・・出力層部、
40・・濃度計算部、
50・・前処理部、
101・・化学センサ、
102・・化学センサ、
103・・化学センサ、
10m・・化学センサ、
S10・・入力層にセンサ信号を入力するステップ、
S20・・基準値および化学成分値を出力層から出力するステップ、
S30・・濃度計算部を用いて化学成分の濃度を計算するステップ。
図1
図2
図3
図4
図5