(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183210
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20231220BHJP
C23C 14/22 20060101ALI20231220BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20231220BHJP
H01L 21/203 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C23C14/06 A
C23C14/22 F
C23C14/34 R
H01L21/203 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096719
(22)【出願日】2022-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白井 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】築田 宗一朗
【テーマコード(参考)】
4K029
5F103
【Fターム(参考)】
4K029AA06
4K029AA07
4K029AA24
4K029BA58
4K029BB07
4K029BC03
4K029BD01
4K029CA06
4K029CA08
4K029CA15
4K029DA04
4K029DA08
4K029DC03
4K029DC34
4K029DC35
4K029DC39
4K029EA00
4K029EA03
4K029EA05
4K029EA08
4K029EA09
4K029JA02
4K029JA06
5F103AA08
5F103BB22
5F103DD01
5F103GG01
5F103HH03
5F103HH04
5F103NN01
5F103NN10
(57)【要約】
【課題】ターゲット液面での皮膜の成長を抑制しつつ、ターゲットから入射する高エネルギー粒子の影響による膜質の変化を抑制できる成膜方法を提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係る成膜方法は、減圧雰囲気に維持されたチャンバ内に設置された基板に窒素ラジカルを供給し、液相状態のガリウムターゲットに200V以下の放電電圧と磁場を印加することで生成されたマグネトロンプラズマによって前記ガリウムターゲットをスパッタし、前記基板上に窒化ガリウム膜を形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧雰囲気に維持されたチャンバ内に設置された基板に窒素ラジカルを供給し、
液相状態のガリウムターゲットに200V以下の放電電圧と磁場を印加することで生成されたマグネトロンプラズマによって前記ガリウムターゲットをスパッタし、前記基板上に窒化ガリウム膜を形成する
成膜方法。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜方法であって、
前記ガリウムターゲットの表面に漏洩する磁場の強度は、0.06テスラ以上である
成膜方法。
【請求項3】
請求項2に記載の成膜方法であって、
前記減圧雰囲気は、圧力が0.1Pa以上1Pa以下のアルゴンガス雰囲気であり、
前記窒素ラジカルの供給源にラジカルガンが用いられ、前記圧力に対する前記ラジカルガンに供給される窒素ガスの分圧比は、5%以上25%以下である
成膜方法。
【請求項4】
請求項3に記載の成膜方法であって、
前記放電電圧は、150V以下である
成膜方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載の成膜方法であって、
前記液相材料のガリウムターゲットは、金属製の容器に収容され、
前記磁気回路を前記容器の中心に対して偏心した回転軸のまわりに回転させながら、前記ガリウムターゲットをスパッタする
成膜方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1つに記載の成膜方法であって、
前記液相材料のガリウムターゲットは、金属製の容器に収容され、
前記基板を前記容器の中心に対して偏心した回転軸のまわりに回転させながら、前記ガリウムターゲットをスパッタする
成膜方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1つに記載の成膜方法であって、
前記窒化ガリウム膜にドーピングされる不純物元素からなるターゲット材料をスパッタしながら、前記ガリウムターゲットをスパッタする
成膜方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1つに記載の成膜方法であって、
前記基板を300℃以上900℃以下で加熱しながら、前記ガリウムターゲットをスパッタする
成膜方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1つに記載の成膜方法であって、
前記放電電圧の電源は、直流電源および高周波電源の少なくとも1つを含む
成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタ法により基板上に窒化ガリウム膜を形成する成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカルガンを用いた反応性スパッタリング法が知られている。例えば特許文献1には、ラジカルガン部の放出口から真空槽内に配置された基板に窒素ラジカルを照射しながら金属ガリウムのターゲットをプラズマによってスパッタすることで、基板上に窒化ガリウム薄膜を形成するスパッタ装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/167715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マグネトロンスパッタリング法で形成された膜には、ターゲットから入射する反跳イオンなどの高エネルギー粒子の影響によるダメージが生じやすく、比抵抗等の膜質変化の原因となっている。これを防ぐため、例えば、磁場強度を上げたりスパッタ電源に高周波を重畳したりして高密度プラズマを形成し、放電電圧を下げることで、基板に入射する粒子のエネルギーを下げる手法が採用される。
【0005】
一方、ガリウムターゲットはプラズマの熱で溶解し、その液面がスパッタされる。このような液相状態の金属(以下、液体金属ともいう)の反応性マグネトロンスパッタを行う場合、プラズマ密度が上がると反応性ガスとターゲット液面での反応性が高まり、その反応生成物である皮膜が液面に堆積する。この皮膜は絶縁性であるため、プラズマに曝されることで帯電し、これが原因で異常放電や液面の突沸といった現象を引き起こすおそれがある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、ターゲット液面での皮膜の成長を抑制しつつ、ターゲットから入射する高エネルギー粒子の影響による膜質の変化を抑制できる成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に係る成膜方法は、
減圧雰囲気に維持されたチャンバ内に設置された基板に窒素ラジカルを供給し、
液相状態のガリウムターゲットに200V以下の放電電圧と磁場を印加することで生成されたマグネトロンプラズマによって前記ガリウムターゲットをスパッタし、前記基板上に窒化ガリウム膜を形成する。
【0008】
本発明の成膜方法においては、反応性の高い窒素ラジカルを用いた反応性マグネトロンスパッタ法を採用することで、チャンバ内への窒素導入量を低減してガリウムターゲットの液面への反応生成物である皮膜の成長を抑制する。また、ガリウムターゲットを200V以下の放電電圧でスパッタすることで、ターゲットから基板へ向けて入射する反跳イオンのエネルギーを低減し、当該粒子の影響による膜質の変化を抑制する。
【0009】
前記ガリウムターゲットの表面に漏洩する磁場の強度は、0.06テスラ以上であってもよい。
チャンバ内への窒素導入量の低減効果によりターゲット液面での皮膜の成長が抑制されるため、磁場強度の増加によりプラズマ密度を向上させることができる。
【0010】
前記減圧雰囲気は、圧力が0.1Pa以上1Pa以下のアルゴンガス雰囲気であってもよい。前記窒素ラジカルの供給源にラジカルガンが用いられてもよく、前記圧力に対する前記ラジカルガンに供給される窒素ガスの分圧比は、5%以上25%以下であってもよい。
【0011】
前記液相材料のガリウムターゲットは、金属製の容器に収容され、前記磁気回路を前記容器の中心に対して偏心した回転軸のまわりに回転させながら、前記ガリウムターゲットがスパッタされてもよい。
【0012】
前記液相材料のガリウムターゲットは、金属製の容器に収容され、前記基板を前記容器の中心に対して偏心した回転軸のまわりに回転させながら、前記ガリウムターゲットがスパッタされてもよい。
【0013】
前記窒化ガリウム膜にドーピングされる不純物元素からなるターゲット材料をスパッタしながら、前記ガリウムターゲットがスパッタされてもよい。
【0014】
前記基板を300℃以上900℃以下で加熱しながら、前記ガリウムターゲットがスパッタされてもよい。
【0015】
前記放電電圧の電源は、直流電源および高周波電源の少なくとも1つを含んでもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ターゲット液面での皮膜の成長を抑制しつつ、ターゲットから入射する高エネルギー粒子の影響による膜質の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスパッタ装置を示す一概略側面図である。
【
図2】上記スパッタ装置を示す他の概略側面図である。
【
図3】上記スパッタ装置におけるガリウムターゲットのスパッタ源を示す要部拡大断面図である。
【
図4】上記スパッタ装置を用いた一実験結果を示す図であって、放電電圧と比抵抗値の相関を示すグラフである。
【
図5】上記スパッタ装置を用いた一実験結果を示す図であって、放電電圧と比抵抗分布の相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0019】
図1および
図2は、本発明の一実施形態に係るスパッタ装置100を示す概略構成図である。図においてX軸、Y軸およびZ軸は相互に直交する3軸であり、X軸およびY軸は水平方向、Z軸は高さ方向をそれぞれ示している。
図1はY軸方向から見たスパッタ装置100の概略側面図であり、
図2はX軸方向から見たスパッタ装置100の概略側面図である。
【0020】
本実施形態のスパッタ装置100は、基板W上に窒化ガリウム(GaN)膜をエピタキシャル成長させる成膜装置として構成される。
【0021】
[全体構成]
スパッタ装置100は、チャンバ10と、基板支持部20と、第1スパッタ源30と、反応ガス源40と、第2スパッタ源70と、制御部80とを備える。
【0022】
(チャンバ)
チャンバ10は金属製であり、内部に成膜室11を形成する。チャンバ10は、真空ポンプ12に接続されており、成膜室11を減圧雰囲気に維持可能に構成される。チャンバ10は、典型的にはグランド電位に接続される。チャンバ10には図示せずとも、チャンバ10の外部と内部との間で基板Wの搬出入を行うためのゲートバルブが設けられる。
【0023】
(基板支持部)
基板支持部20は、チャンバ10の天面に設置される。基板支持部20は、成膜室11に配置される基板ホルダ21を有する。基板ホルダ21は円筒形状を有し、その下端の開口端部には基板Wの成膜面をチャンバ10の底部に向けた状態で基板Wの周縁部を支持する環状の爪部22が設けられる。
【0024】
基板支持部20はさらに、基板ホルダ21をZ軸まわりに回転させる回転軸23a(第2の回転軸)を有するモータ23を有する。モータ23はチャンバ10の外側(大気)に設置され、回転軸23aは、真空シール機能を備えた回転導入機構24を介して基板ホルダ21に接続される。回転軸23aは、基板ホルダ21をその軸心のまわりに回転させることが可能なように基板ホルダ21の上面中心部に接続される。基板ホルダ61は、グランド電位に接続される。
【0025】
なお、基板Wとしては、半導体基板が用いられる。半導体基板としては、窒化ガリウム基板、サファイア基板、シリコン基板等が挙げられる。基板Wの大きさは特に限定されず、本実施形態では、8インチウエハが用いられる。
【0026】
基板支持部20はさらに、基板Wを所定温度に加熱可能な加熱部25を有する。加熱部25は、例えば、抵抗加熱式ヒータやランプヒータであり、基板ホルダ21内(例えばチャンバ10の天面)に静止状態で配置され、基板Wの裏面全域を加熱可能に構成される。上記所定温度は、基板W上に堆積した窒化ガリウム膜がエピタキシャル成長するのに必要な温度(例えば、300℃以上900℃以下)であれば特に限定されず、本実施形態では600℃である。
【0027】
(反応ガス源)
反応ガス源40は、窒素ラジカル47を生成するラジカルガンである。反応ガス源40は、反応筒41と、反応筒41の周囲に設けられたコイル42と、反応筒41およびコイル42を収容する収容部43とを有する。
【0028】
収容部43はチャンバ10の底部に設置され、収容部43の内部は成膜室11と連通する。収容部43の外側(大気)には、反応筒41の内部に反応ガスを供給するガス源44と、コイル42へ高周波電力を入力する高周波電源45とがそれぞれ設置される。コイル42は高周波電源が入力されることで反応筒41の内部に交番磁場を形成し、反応筒41内に供給された反応ガスを活性化させて窒素ラジカル47を生成する。反応ガスの供給量は特に限定されず、例えば、10sccmである。高周波電源45の周波数および電力は特に限定されず、例えば、周波数が13.56MHz、電力は400Wである。
【0029】
生成された窒素ラジカル47は、収容部43の開口部46を通って成膜室11へ放出される。反応筒41の開口部は基板支持部20に向けて配置されており、反応筒41から放出された窒素ラジカル47は、基板支持部20に支持された基板Wの成膜面へ照射される。
【0030】
反応ガスは、典型的には、窒素(N2)である。これ以外にも、窒化水素、酸化窒素などの窒素を含む他のガスが採用可能である。
【0031】
(第1スパッタ源)
第1スパッタ源30は、基板W上へガリウムのスパッタ粒子38を供給し、窒素ラジカル47との反応を経て、基板W上へ窒化ガリウム膜を形成するスパッタ源である。第1スパッタ源30は、チャンバ10の底部に設置される。第1スパッタ源30は、ターゲット材料T1を収容可能な凹部32が表面に形成された容器31と、容器31の背面に対向して配置された磁気回路50と、磁気回路50をZ軸方向に平行な軸まわりに回転させることが可能な回転機構60とを有する。
【0032】
容器31は、ターゲット材料T1よりも融点が高い金属材料で形成された円盤状に形成される。容器31は、ターゲット材料T1との濡れ性が比較的良好な材料で形成されるのが好ましい。本実施形態では、ターゲット材料T1が金属ガリウム(Ga)であり、容器31はステンレス鋼で形成される。容器31は、チャンバ10の底部に設けられた円筒状の防着板33の内部に設置される。
【0033】
図3は、第1スパッタ源30の要部の拡大断面図である。凹部32は、典型的には円形の凹部であり、容器31の成膜室11に面する表面31aに形成される。凹部32の中心は、容器31の中心(中心軸C1)と一致する。容器31は、底壁部311と周壁部312とを有し、凹部32はこれら底壁部311と周壁部312との間に形成される。凹部32の大きさは特に限定されず、例えば直径が約100mm(4インチ)、深さが約5mmである。
【0034】
容器31は、基板支持部20とZ軸方向に対向する位置に配置される。
図1に示すように、容器31の中心(中心軸C1)は、基板ホルダ21の回転軸23a(中心軸C3)とは偏心した位置に配置される。本実施形態では、中心軸C1と中心軸C3との間の水平距離をX、基板Wの半径をaとしたとき、X<aの関係を満たすように中心軸C1,C3が設定される。これにより、中心軸C1上に基板Wを配置できる。
【0035】
図3に示すように凹部32の隅部321に相当する底壁部311と周壁部312との境界部は、角部ができないように曲面で形成されるのが好ましい。これにより、凹部32の隅部321と液相のターゲット材料T1(液体金属)との間に空隙が形成されにくくなり、当該空隙を原因とする異常放電(スプラッシュ)の発生を抑制することができる。
図3において隅部321の曲率半径は、例えば2mm以上である。また、底壁部311と周壁部312との間のなす角は、120°以上の鈍角であるのが好ましい。これにより、凹部32の隅部321と液体金属との濡れ性が高まるため、上記空隙の形成が抑制される。
【0036】
容器32の表面31aとは反対側の背面(裏面)31bは、平坦面で形成される。容器32の背面31bは、銅などの熱伝導性に優れたバッキングプレート34(
図1参照)に接合されてもよい。接合方法は特に限定されず、例えば、ろう接、溶接等の適宜の手法が採用可能である。バッキングプレート34には、冷却媒体が循環する冷却通路が設けられてもよい。あるいは、容器31の底壁部311および周壁部312の内部に、冷却媒体が循環する冷却通路が設けられてもよい。これにより、スパッタ成膜時に形成されるプラズマP1(
図1)の熱から容器31を保護することができる。
【0037】
容器31はさらに、スパッタ電源35に接続されることで、スパッタ電極(スパッタカソード)を構成する。スパッタ電源35は、高周波電源(RF)であるが、これに代えて又はこれに加えて、直流電源(DC)が用いられてもよい。容器31は、バッキングプレート34を介してスパッタ電源35に接続されてもよい。高周波電源の周波数および電力は特に限定されず、例えば、周波数が13.56MHz、電力は80Wである。
【0038】
なお
図1に示すように、スパッタ源30は、成膜室11にスパッタガスを供給するガス源37を有する。スパッタガスは、プラズマを形成するためのガスであり、典型的には、アルゴン(Ar)である。スパッタガスの導入位置は特に限定されず、例えば、防着板33と容器31との間にスパッタガスが導入される。スパッタガスの導入量は特に限定されず、例えば、60sccmである。
【0039】
また、容器31の凹部32の周囲には、グランド電位に接続されたシールド板36が配置される。シールド板36は凹部32の開口径よりやや小さい内径を有する環状の金属板である。シールド板36は、
図2に示すように凹部31の表面31aとの間に間隙Gを介して凹部31の表面31aに対向配置される。
【0040】
シールド板36は、容器31の表面31aをプラズマP1から遮蔽することで、プラズマP1によるスパッタから表面31aを保護するシールド部として機能する。また、シールド板36が凹部32の開口径より小さい内径を有することにより、容器31とターゲット材料T1との界面における異常放電を抑えることができる。間隙Gの大きさは、容器31との導通を回避できる大きさであれば特に限定されず、本実施形態では、1mm以上1.5mm以下の範囲で異常放電の発生回数を大幅に削減できたことが確認された。
【0041】
磁気回路50は、容器31の背面31bに対向して配置される。磁気回路50は、チャンバ10の外部(大気)に配置される。磁気回路50は、容器31の表面31a側に磁場B1を形成する磁石部51と、磁石部51を支持するヨーク52と、磁石部51およびヨーク52を収容する収容部53とを有する。
【0042】
磁石部51は、複数の磁石で構成される。例えば
図2に示すように、磁石部51は、第1磁石部51aと、第1磁石部51aを中心として環状に配置された複数の第2磁石部51bとを有する。第1磁石部51aと第2磁石部51bは、容器31の背面31bに対向する磁極が互いに異なり、例えば、第1磁石51aがN極に、第2磁石部51bがS極とされる。これら第1磁石51aおよび第2磁石51bとの間に形成される磁力線は、容器31の表面31a側に漏洩し、その漏洩磁場B1が凹部32の直上にマグネトロン放電(プラズマP1)を発生させる磁場成分を形成する。
【0043】
ヨーク52は、円盤形状を有し、高透磁率の磁性材料で形成される。ヨーク52の直径は特に限定されず、例えば3インチである。第1磁石51aはヨーク52の中心に配置され、第2磁石51bは、ヨーク52の中心と同心的に配置される。ヨーク52の中心は、磁気回路50の中心(中心軸C2)と一致し、容器51の中心(中心軸C1)に対して偏心した位置に配置されている。
【0044】
回転機構60は、磁気回路50を支持する回転台61と、回転台61に接続される回転軸62a(第1の回転軸)を有しこの回転軸62aのまわりに磁気回路50を回転させる駆動モータ62とを有する。駆動モータ62は、磁気回路50の収容部53の外側に配置され、回転軸62aは収容部53の底部を貫通して回転台61に接続される。
【0045】
回転軸62aは、容器31の中心軸C1上に配置される。つまり、回転軸62aは、磁気回路50の中心軸C2とは偏心した位置に配置される。このため、駆動モータ62によって磁気回路50は、容器51の中心に対して偏心回転する。中心軸C1と中心軸C2との間の偏心量ΔCは特に限定されず、例えば10mm以上20mm以下である。
【0046】
以上のように磁気回路50を容器31に対して偏心回転させることが可能に構成されることにより、磁気回路50の回転によりターゲット材料T1の表面(液面)に形成される磁場が液面に対して相対的に移動し、プラズマP1の分布を周期的に変化させる。これによりターゲット材料T1のエロージョン領域が拡大するため、液面への反応生成物(皮膜)の成長を抑えることができる。
【0047】
[第2スパッタ源]
第2スパッタ源70は、窒化ガリウム膜にドーピングされる不純物元素のスパッタ粒子79を基板Wへ供給するスパッタ源である。
図2に示すように、第2スパッタ源70は、第1スパッタ源30と同様に、チャンバ10の底部に設置される。第2スパッタ源70は、ターゲット材料T2を支持するバッキングプレート72と、バッキングプレート72の背面に対向して配置された磁気回路73とを有する。
【0048】
ターゲット材料T2は、窒化ガリウム膜に添加される不純物元素を構成する金属または半金属材料であり、円板状あるいは矩形板状に形成される。ターゲット材料T2の種類は、形成する窒化ガリウム膜の導電型(本実施形態ではn型)によって任意に設定可能であり、本実施形態ではシリコン(Si)である。なお材料としてはこれ以外にも、ゲルマニウム(Ge)やマグネシウム(Mg)などが用いられてもよい。ターゲット材料T2は、チャンバ10の底部に設けられた円筒状の防着板71の内部に設置される。
【0049】
バッキングプレート72は、銅などの熱伝導性に優れた金属材料で形成され、チャンバ10の底部に配置される。バッキングプレート72は、ろう接、溶接等の適宜の手法を用いてターゲット材料T2の背面に接合される。バッキングプレート72には、冷却媒体が循環する冷却通路が設けられてもよい。
【0050】
磁気回路73は、バッキングプレート72の背面に対向して配置される。磁気回路73は、チャンバ10の外部(大気)に配置される。磁気回路73は、ターゲット材料T2の表面に磁場B2を形成する磁石部74と、磁石部74を支持するヨーク75と、磁石部74およびヨーク75を収容する収容部76とを有する。
【0051】
磁石部74は、第1スパッタ源30における磁石部51と同様に構成される。磁石部74により形成される磁力線は、ターゲット材料T2の表面側に漏洩し、その漏洩磁場B2がターゲット材料T2の直上にマグネトロン放電(プラズマP2)を発生させる磁場成分を形成する。
【0052】
なお、磁気回路73はバッキングプレート72の背面に対して固定的に配置されてもよいし、第1スパッタ源30と同様に回転可能に配置されてもよいし、例えばY軸方向に沿って揺動可能に配置されてもよい。
【0053】
バッキングプレート72はさらに、スパッタ電源77に接続されることで、スパッタ電極(スパッタカソード)を構成する。スパッタ電源77は、高周波電源(RF)であるが、これに限られず、直流電源(DC)であってもよい。
【0054】
第2スパッタ源70は、成膜室11にスパッタガスを供給するガス源78を有する。スパッタガスは、プラズマを形成するためのガスであり、典型的には、アルゴン(Ar)である。スパッタガスの導入位置は特に限定されず、例えば、防着板71とターゲット材料T2との間にスパッタガスが導入される。
【0055】
(制御部)
制御部80は、チャンバ10の外部(大気)に設置され、基板支持部20、第1スパッタ源30、反応ガス源40、第2スパッタ源70等のスパッタ装置100の動作を統括的に制御する。制御部80は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等のコンピュータに用いられるハードウェア要素および必要なソフトウェアにより実現され得る。CPUに代えて、またはこれに加えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のPLD(Programmable Logic Device)、あるいは、DSP(Digital Signal Processor)、その他ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等が用いられてもよい。
【0056】
[成膜方法]
続いて以上のように構成される本実施形態のスパッタ装置100の典型的な動作について説明する。
【0057】
基板支持部20の基板ホルダ21に基板Wが支持された後、真空ポンプ12により成膜室11が所定の圧力(例えば0.3Pa)に排気される。成膜室11が所定の圧力に到達すると、加熱部25によって基板Wを所定温度に加熱しながらモータ23を駆動し、基板ホルダ21および基板Wを所定回転数で回転させる。なお基板Wの回転数は、目的とする面内分布の膜厚が得られる大きさに任意に調整される。
【0058】
反応ガス源40においては、反応筒41に反応ガス(窒素ガス)が供給されるとともにコイル42に高周波電源が入力されることで窒素ラジカル47が生成され、生成された窒素ラジカル47は、基板Wへ向けて照射される。
【0059】
第1スパッタ源30においては、ガス源37から成膜室11へスパッタガスが供給されるとともに、容器31に高周波電力が印加されることにより、容器31と基板ホルダ21との間にスパッタガス(Ar)のプラズマP1が形成される。プラズマP1の密度は、容器31の表面31a側に漏洩する磁気回路50の磁場B1が電界と直交する領域で最大となり、主としてこの最大密度のプラズマ領域において容器31の凹部32に収容されたターゲット材料T1がスパッタされる(マグネトロンスパッタリング)。
【0060】
金属ガリウムであるターゲット材料T1はプラズマP1の熱で溶融し、プラズマP1により生成されたArイオンによりターゲット材料Tの表面(液面)がスパッタされる。スパッタされたターゲット粒子38(
図1)は基板Wに向けて飛散し、基板Wの成膜面(下面)上で窒素ラジカル47と反応する。ターゲット粒子38と窒素ラジカル47との反応生成物である窒化ガリウム粒子は、基板Wの熱でエピタキシャル成長することで、基板W上に窒化ガリウム膜が形成される。
【0061】
一方、第2スパッタ源70においては、ガス源78から成膜室11へスパッタガスが供給されるとともに、バッキングプレート72に高周波電力が印加されることにより、スパッタガス(Ar)のプラズマP2が形成される。プラズマP2の密度は、ターゲット材料T2の表面側に漏洩する磁気回路73の磁場B2が電界と直交する領域で最大となり、主としてこの最大密度のプラズマ領域においてターゲット材料T2がスパッタされる(マグネトロンスパッタリング)。スパッタされたターゲット粒子79(
図2)は基板Wに向けて飛散し、基板Wの成膜面(下面)上に形成される窒化ガリウム膜に添加される。第2ターゲット材料T2のスパッタレートは、窒化ガリウム膜の比抵抗が目標値となるように最適化される。
【0062】
ここで、マグネトロンスパッタリング法で形成された膜には、ターゲットから入射する反跳イオンなどの高エネルギー粒子の影響によるダメージが生じやすく、比抵抗等の膜質変化の原因となっている。本実施形態では第1スパッタ源30が基板Wの中心からオフセットした位置に対向配置されるため、基板Wの中心部よりもその周縁部側に第1スパッタ源30からの高エネルギー粒子がより多く入射する。このため、基板中央よりも基板周縁部の方が膜質変化(例えば比抵抗値の増加)を生じさせやすい。
【0063】
高エネルギー粒子の影響による膜のダメージを防ぐため、例えば、磁場強度を上げたりスパッタ電源に高周波を重畳したりして高密度プラズマを形成し、放電電圧を下げることで、基板に入射する粒子のエネルギーを下げる手法が知られている。ところが本実施形態では、ガリウムターゲットはプラズマの熱で溶解し、その液面がスパッタされる。このような液相状態の金属(以下、液体金属ともいう)の反応性マグネトロンスパッタを行う場合、プラズマ密度が上がると反応性ガスとターゲット液面での反応性が高まり、その反応生成物である皮膜が液面に堆積する。この皮膜は絶縁性であるため、プラズマに曝されることで帯電し、これが原因で異常放電や液面の突沸といった現象を引き起こすおそれがある。
【0064】
このような問題を解決するため、本実施形態の成膜方法は、減圧雰囲気に維持されたチャンバ11内(成膜室11)に設置された基板Wに窒素ラジカル47を供給し、液相状態のガリウムターゲット(ターゲット材料T1)に200V以下の放電電圧と磁場を印加することで生成されたマグネトロンプラズマによってガリウムターゲット(ターゲット材料T1)をスパッタし、基板W上に窒化ガリウム膜を形成する。
【0065】
すなわち本実施形態においては、反応性の高い窒素ラジカル47を用いた反応性マグネトロンスパッタ法が採用することで、チャンバ11内への窒素導入量を低減してガリウムターゲットの液面への反応生成物である皮膜の成長を抑制する。また、ターゲット材料T1を200V以下の放電電圧でスパッタすることで、ターゲット材料T1から基板Wへ向けて入射する反跳イオンのエネルギーを低減し、当該粒子の影響による膜質の変化を抑制する。これによりターゲット液面での皮膜の成長を抑制しつつ、ターゲット材料T1から入射する高エネルギー粒子の影響による膜質の変化を抑制できる。
【0066】
なお、膜質とは、成膜される窒化ガリウムの結晶性、導電特性などの膜特性をいい、本実施形態では、比抵抗の面内分布をいう。第2スパッタ源70は、ターゲット材料T2をスパッタすることで窒化ガリウム膜に不純物元素を添加し、当該窒化ガリウム膜の比抵抗を目標値に調整する。
【0067】
また、放電電圧とは、プラズマP1とターゲット材料T1との間の電位差(所謂Vdc)をいい、典型的には、スパッタ電源35からの投入電圧をいう。この電位差を所定電圧(200V)以下にすることで、ターゲット材料T1から基板Wへ向けて入射する反跳イオン等の粒子のエネルギーを制限し、これにより基板Wに形成される窒化ガリウム膜の膜質の変化を抑制する。上記所定電圧は、好ましくは150V以下、より好ましくは120V以下である。
【0068】
この際、ターゲット材料T1の表面(液面)に漏洩する磁場(漏洩磁場)B1の強度は、0.06テスラ(600ガウス)以上であることが好ましい。これによりプラズマP1の密度が高まるため、安定したスパッタ成膜を実現できる。放電電圧は磁場B1の強度で調整でき、典型的には、放電電圧を低くしたい場合には磁場B1の強度を増大させる。例えば、放電電圧が200V付近の場合の磁場B1の強度は0.06テスラ、150V付近の場合の磁場B1の強度は0.08テスラ、放電電圧が120V付近の場合の磁場B1の強度は0.1テスラである。磁場強度は、例えば、磁石部51を構成する磁石材料の種類、あるいは、容器31と磁気回路50との間の距離で調整される。以下、磁場B1の強度を、磁気回路50の磁場強度ともいう。
【0069】
一方、窒素ラジカル47を生成するための窒素ガスの導入量は、成膜室11の圧力が0.1Pa以上1Pa以下のアルゴン雰囲気である場合、当該圧力に対するラジカルガンに供給される窒素ガスの分圧比で例示すれば、5%以上25%以下である。窒素ガスの分圧比が5%未満の場合は、目的とする組成の窒化ガリウム膜を形成するのが難しい。また、窒素ガスの分圧比が25%を超えると、ガリウムターゲット(ターゲット材料T1)の液面に反応生成物である皮膜が成長しやすく、異常放電の発生を抑えられなくなる。
【0070】
なお、窒素ガスの分圧比は、磁気回路50の磁場強度に応じて調整するのが好ましい。例えば磁気回路50の磁場強度が高い場合は、プラズマP1の密度増大により窒素との反応性が高くなる結果、ガリウムターゲットの液面にその反応生成物からなる皮膜が成長しやすくなる(異常放電が発生しやすくなる)。このため、磁気回路50の磁場強度が比較的高い場合は、磁気回路50の磁場強度が比較的低い場合よりも、窒素ガスの供給量の上限は低く設定されてもよい。また、磁気回路50の磁場強度が低い場合は、上記皮膜の成長は抑えられるものの、ガリウムとの反応性が低下するため、目的とする組成の窒化ガリウム膜が得られにくくなる。このため、磁気回路50の磁場強度が比較的低い場合は、磁気回路50の磁場強度が比較的高い場合よりも、窒素ガスの供給量の下限は高く設定されてもよい。
【0071】
[実験例]
以下、本実施形態のスパッタ装置100を用いて行った実験例について説明する。
【0072】
(実験例1)
第1スパッタ源30の磁場強度を0.10テスラ(1000ガウス)、放電電圧を112V、磁気回路50の回転数を10rpm(偏心量ΔCは10mm)、反応ガス源40における窒素供給量(窒素ガスの分圧比)を11%としてガリウムターゲット(ターゲット材料T1)をスパッタし、基板W上に窒化ガリウム膜を形成した。
なお、第2スパッタ源70のスパッタ条件、基板Wの温度および回転数については各実験例において共通とした。
【0073】
続いて、形成された窒化ガリウム膜の比抵抗値およびその面内分布を測定した。比抵抗値の測定点は、基板Wの端部(基板端)およびその中心(基板中央)とし、基板端は、基板Wの周縁端部から15mmの位置とした。比抵抗値は、膜厚とシート抵抗値との積から算出した。膜厚の測定方法は、走査電子顕微鏡(SEM)による測長とし、シート抵抗値の測定には4端子法を採用した。
【0074】
測定の結果を表1に示す。基板端の比抵抗値は345μΩcm、基板中央の比抵抗値は341μΩcm、それらの平均値は343μΩcmであり、比抵抗値の面内分布は0.6%であった。
【0075】
(実験例2)
第1スパッタ源30の磁場強度を0.08テスラ(800ガウス)、放電電圧を143Vとした以外は、実験例1と同一の条件で基板W上に窒化ガリウム膜を形成した。形成された窒化ガリウム膜について実験例1と同様な手法で比抵抗値およびその面内分布を測定した。測定の結果を表1に示す。基板端の比抵抗値は344μΩcm、基板中央の比抵抗値は330μΩcm、それらの平均値は337μΩcmであり、比抵抗値の面内分布は2.1%であった。
【0076】
(実験例3)
第1スパッタ源30の磁場強度を0.06テスラ(600ガウス)、放電電圧を177V、窒素ガス分圧比を15%とした以外は、実験例1と同一の条件で基板W上に窒化ガリウム膜を形成した。形成された窒化ガリウム膜について実験例1と同様な手法で比抵抗値およびその面内分布を測定した。測定の結果を表1に示す。基板端の比抵抗値は380μΩcm、基板中央の比抵抗値は345μΩcm、それらの平均値は363μΩcmであり、比抵抗値の面内分布は4.8%であった。
【0077】
(実験例4)
第1スパッタ源30の磁場強度を0.04テスラ(400ガウス)、放電電圧を214V、窒素ガス分圧比を17%とした以外は、実験例1と同一の条件で基板W上に窒化ガリウム膜を形成した。形成された窒化ガリウム膜について実験例1と同様な手法で比抵抗値およびその面内分布を測定した。測定の結果を表1に示す。基板端の比抵抗値は443μΩcm、基板中央の比抵抗値は339μΩcm、それらの平均値は391μΩcmであり、比抵抗値の面内分布は13.3%であった。
【0078】
【0079】
図4は、上記実験例1~4の測定結果から得られた放電電圧と比抵抗値の相関を示すグラフである。また
図5は、上記実験例1~4の測定結果から得られた放電電圧と比抵抗分布の相関を示すグラフである。
表1、
図3および
図4に示すように、放電電圧が200V以下である実験例1~3においては、比抵抗値の面内分布がいずれも5%以下(基板端と基板中央における比抵抗値の差が僅か)であった。このことから、放電電圧を200V以下とすることにより、基板Wに対するプラズマP1中のイオンの入射エネルギーを低減できることが確認された。
【0080】
一方、放電電圧が200Vを超える実験例4においては、基板端と基板中央における比抵抗値の差が実験例1~3もはるかに大きく、面内分布も10%を超えることが確認された。このことは、200Vを超える放電電圧では、基板に入射する高エネルギー粒子の影響で窒化ガリウム膜の膜質の変動が避けられないことを示している。
【0081】
また、実験例1~3の結果にも示されているように、放電電圧が低いほど基板端と基板中央との間の比抵抗値の差が小さくなり、窒化ガリウム膜の比抵抗値分布が向上することが確認された。これらの結果から、ガリウムターゲットの放電電圧は200V以下が好ましく、150V以下がより好ましく、120V以下であることが最も好ましい。なお放電電圧の下限は、プラズマP1を安定に形成できる電圧であれば特に制限されず、例えば100Vである。
【0082】
さらに、磁気回路50の磁場強度を高めてプラズマ密度を増加させ放電電圧を低下することで、安定したスパッタ成膜を実現できる。また、磁場強度の上昇に伴って窒素ガス分圧比を低下させることで、プラズマ密度の増加に伴うターゲット液面上での反応生成物(皮膜)の成長を抑制でき、これにより異常放電(アーク放電あるいはスプラッシュ)の発生を抑えることができる。
【0083】
窒素ガス分圧比の上限および下限は、磁場強度の大きさとの関係で決めることができる。例えば表2に示すように、磁場強度が0.08テスラと比較的高い場合は、窒素ガス分圧比は5%以上21%以下であるのが好ましい。窒素ガス分圧比が5%未満の場合は、窒素ラジカル47の生成量が少なすぎて窒化ガリウム膜を安定に形成できない。一方、窒素ガス分圧比が21%を超えると、窒素ラジカル47の生成量が多すぎてガリウムターゲットの液面に反応生成物(皮膜)が成長し、異常放電が起きやすくなる。
なお表2において記号「〇」、「△」、「×」は、形成される膜の組成の種類を示しており、「〇」は窒化ガリウム膜、「△」はガリウムと窒化ガリウムの混在膜、「×」はガリウム膜である(「-」は未実施)。
【0084】
【0085】
また表2に示す実験結果においては、磁場強度が0.06テスラの場合の窒素ガス分圧比は8%以上21%以下であることが好ましく、以下同様に、0.05テスラの場合は15%以上24%以下、0.04テスラの場合は21%以上25%以下であることがそれぞれ好ましい。
【0086】
表2の実験結果は、反応ガス源40(ラジカルガン)における高周波電源40の電力が400Wである場合を示しているが、当該電力が0Wの場合、すなわち窒素ラジカルに代えて窒素ガスを成膜室11へ供給したときの磁場強度と形成される膜の特性との関係を表3に示す。
【0087】
【0088】
表3に示すように、反応性ガスとして窒素ラジカルの代わりに窒素ガスを用いた場合、窒化ガリウム膜を安定に形成できる窒素ガス分圧比は非常に限定的となり、窒素ガス分圧比の厳密な制御が必要とされる。これに対して、窒素ラジカルを反応性ガスに用いる本実施形態によれば、窒素ガス分圧比の調整の自由度(ロバスト性)が高められるとともに、磁場強度が0.05テスラ以上の場合は21%以下の窒素ガス分圧比であっても安定して窒化ガリウム膜を形成することができる(表2参照)。
【0089】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0090】
例えば以上の実施形態では、第1スパッタ源30における磁気回路50を容器31に対して偏心回転させながらガリウム(ターゲット材料T1)をスパッタ成膜するようにしたが、これに限られず、磁気回路50を回転させずにガリウムをスパッタ成膜するようにしてもよい。
【0091】
また以上の実施形態では、成膜方法として、第1スパッタ源30と第2スパッタ源70とを用いたコスパッタ(多元スパッタ)を例に挙げて説明したが、第2スパッタ源70は省略されてもよい。このような成膜方法においては、窒化ガリウム膜の膜質としては、例えば窒化ガリウム膜の結晶性を評価対象とすることができ、放電電圧を200V以下にすることで窒化ガリウム膜の結晶性の変化を抑えることができる。
【符号の説明】
【0092】
10……チャンバ
11…成膜室
20…基板支持部
21…基板ホルダ
23a…回転軸(第2の回転軸)
25…加熱部
30…第1スパッタ源
31…容器
32…凹部
40…反応ガス源
50…磁気回路
60…回転機構
62a…回転軸(第2の回転軸)
70…第2スパッタ源
100…スパッタ装置
P1,P2…プラズマ
T1,T2…ターゲット材料
W…基板