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特開2023-183400アルカリ金属イオン電池用オキソ酸系正極活物質の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183400
(43)【公開日】2023-12-27
(54)【発明の名称】アルカリ金属イオン電池用オキソ酸系正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20231220BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231220BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 C
C01B25/45 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097035
(22)【出願日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2022096683
(32)【優先日】2022-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】永田 裕
(72)【発明者】
【氏名】秋本 順二
(72)【発明者】
【氏名】片岡 邦光
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050EA08
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA12
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA14
5H050HA15
(57)【要約】
【課題】アルカリ金属イオン電池用オキソ酸系正極活物質を低コストで量産性よく簡易に得られる製造方法の提供。
【解決手段】アルカリ金属イオン電池用オキソ酸系正極活物質の製造方法であってオキソ酸のアルカリ金属塩と遷移金属塩とを水及び/又はアルコールを含有する溶媒中で反応させて沈殿物を得、得られた沈殿物を固液分離にて回収する工程及び前記沈殿物を加熱して加熱物を得る工程を含み前記遷移金属塩はそのアニオンの共役酸の最終pKaが7.0以下であり前記オキソ酸のアルカリ金属塩はアルカリ金属(AM)含有量に対する水素(H)含有量の割合(H/AM比)がモル比で0以上0.33以下であり前記オキソ酸のアルカリ金属塩と前記遷移金属塩とを反応させる際のオキソ酸のアルカリ金属塩に対する遷移金属塩の割合はモル比で0.7以上1.3以下であり前記反応を0.8気圧以上1.2気圧以下の圧力下で0℃以上100℃未満の温度で行う方法。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属イオン電池用オキソ酸系正極活物質の製造方法であって、
オキソ酸のアルカリ金属塩と遷移金属塩とを、水及び/又はアルコールを含有する溶媒中で反応させて沈殿物を得、得られた沈殿物を固液分離にて回収する工程、及び
前記沈殿物を加熱して加熱物を得る工程、を含み、
前記遷移金属塩は、そのアニオンの共役酸の最終pKaが7.0以下であり、
前記オキソ酸のアルカリ金属塩は、アルカリ金属(AM)含有量に対する水素(H)含有量のモル比(H/AM比)が0以上0.33以下であり、
前記オキソ酸のアルカリ金属塩と前記遷移金属塩とを反応させる際のオキソ酸のアルカリ金属塩に対する遷移金属塩のモル比が0.7以上1.3以下であり、
前記反応を0.8気圧以上1.2気圧以下の圧力下で0℃以上100℃未満の温度で行う、方法。
【請求項2】
前記アニオンの共役酸の最終pKaが2.5以上7.0以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルカリ金属イオン電池用オキソ酸系正極活物質の製造方法であって、
オキソ酸と遷移金属塩とを、水及び/又はアルコールを含有する溶媒中で反応させて反応生成物を得、得られた反応生成物をアルカリ金属水酸化物とさらに反応させて沈殿物を得、得られた沈殿物を固液分離又は溶媒留去することで回収する工程、及び
前記沈殿物を加熱して加熱物を得る工程、を含み、
前記遷移金属塩は、そのアニオンの共役酸の第一pKaが5.0以上であり、
前記反応を0.8気圧以上1.2気圧以下の圧力下で0℃以上100℃未満の温度で行う、方法。
【請求項4】
前記アニオンの共役酸の第一pKaが6.3以上11.0以下である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
アルカリ金属イオン電池用オキソ酸系正極活物質の製造方法であって、
オキソ酸の一水素塩と遷移金属塩とを、水及び/又はアルコールを含有する溶媒中で反応させて反応生成物を得、得られた反応生成物をアルカリ金属水酸化物とさらに反応させて沈殿物を得、得られた沈殿物を固液分離又は溶媒留去することで回収する工程、及び
前記沈殿物を加熱して加熱物を得る工程、を含み、
前記遷移金属塩は、そのアニオンの共役酸の最終pKaが7.0以下であり、
前記反応を0.8気圧以上1.2気圧以下の圧力下で0℃以上100℃未満の温度で行う、方法。
【請求項6】
前記アニオンの共役酸の最終pKaが2.5以上7.0以下である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
アルカリ金属イオン電池用オキソ酸系正極活物質の製造方法であって、
オキソ酸のアルカリ金属塩と遷移金属塩とを、水及び/又はアルコールを含有する溶媒中で反応させて溶媒を留去し、得られた溶媒留去物を回収する工程、及び
前記溶媒留去物を加熱して加熱物を得る工程、を含み、
前記遷移金属塩は、そのアニオンの共役酸の最終pKaが7.0以下であり、
前記オキソ酸のアルカリ金属塩は、アルカリ金属(AM)含有量に対する水素(H)含有量のモル比(H/AM比)が0以上0.33以下であり、
前記オキソ酸のアルカリ金属塩と前記遷移金属塩とを反応させる際のオキソ酸のアルカリ金属塩に対する遷移金属塩のモル比が0.7以上1.3以下であり、
前記反応を0.8気圧以上1.2気圧以下の圧力下で0℃以上100℃未満の温度で行う、方法。
【請求項8】
前記オキソ酸が、リン酸、ケイ酸、ホウ酸、硫酸、及びこれらの複合酸からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記オキソ酸が、リン酸及びケイ酸の少なくとも一方を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記遷移金属塩が、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、及びバナジウム(V)からなる群から選択される少なくとも一種の金属を含む塩である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記沈殿物を得る工程で前記溶媒に可溶性炭素源を加えて、前記加熱物を得る工程で炭素を被覆した加熱物を得る、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記溶媒留去物を得る工程で前記溶媒に可溶性炭素源を加えて、前記加熱物を得る工程で炭素を被覆した加熱物を得る、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属イオン電池用オキソ酸系正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属イオン電池は、正極と負極との間を、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、及び/又はカリウム(K)といったアルカリ金属のイオンが移動し、それにより充電及び放電を行う二次電池である。アルカリ金属イオン電池のうち、特にリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高く、高電圧を安定して供給できる。そのためパソコン、携帯電話等の情報関連機器を始めとする様々な分野で広く使用されている(特許文献1参照)。またリチウム不足が懸念されるなか、リチウムイオン二次電池の代替としてナトリウムイオン二次電池やカリウムイオン二次電池が提案されている(特許文献2及び3参照)。
【0003】
近年、電気自動車またはハイブリッド自動車向けに高出力かつ高容量のリチウムイオン二次電池の開発が急ピッチで進められている。そのようなリチウムイオン二次電池に向けて、安定性が高く、かつ資源の制約が非常に小さい、アルカリ金属及び遷移金属を含むオキソ酸系正極活物質の利用が注目を集めている。そのような状況下で、リン酸鉄リチウム(LiFePO)や、エネルギー密度向上のためLiFePOのFeをMnに置き換えたリン酸マンガンリチウム(LiMnPO)といったオリビン型リン酸塩系活物質、あるいはケイ酸鉄リチウム(LiFeSiO)やケイ酸マンガンリチウム(LiMnSiO)といったケイ酸系活物質等のオキソ酸系正極活物質の開発が進められている。
【0004】
具体的には、非特許文献1には、LiMnPOの製造方法がまとめられており、ゾルゲル法、固相法、水熱合成法、スプレー熱分解法、及びポリオール合成法が紹介されている。特許文献4には、LiMPO(M=Mn、Fe、Co、Ni)の製造方法として、水溶性金属塩に対して水溶性Li塩とリン酸を多量に加える溶液合成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2668678号公報
【特許文献2】特開2014-216299号公報
【特許文献3】特開2019-102197号公報
【特許文献4】特許第5245084号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T.A. Wani et al., A comprehensive review of LiMnPO4 based ca thode materials for lithium-ion batteries: current strategies to improve its performance, Journal of Energy Storage 44 (2021) 103307
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、オキソ酸系正極活物質の開発が進められているものの、いずれの材料も水熱合成や高温合成等の手法で製造されており、活物質としての性能と量産性を両立することはできていない。例えば、非特許文献1で開示されるゾルゲル法は、アルコキシド原料などの高価な原料を用いる必要があり、量産性に劣る。固相法では原料を高温焼成する必要があるため、得られた活物質が粗粒化し、高い容量特性を得る上で問題がある。水熱法は、オートクレーブ等の高価で複雑な装置を用いる必要があり、量産性に劣る。そのため、これらの手法では、高い電池特性と量産性を両立させることは困難である。さらに特許文献1に開示されている製造方法では、過剰の原料を使用するため、コスト面で課題がある。
【0008】
本発明者らは、このような従来の問題点に鑑みて鋭意検討を行った。その結果、遷移金属塩のアニオンの共役酸の酸解離定数とオキソ酸又はその塩の共役酸の酸解離定数の差による酸塩基反応を利用した液相合成法により、アルカリ金属イオン電池用オキソ酸系正極活物質を低コストで量産性よく簡易に得ることができるとの知見を得た。
【0009】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、アルカリ金属イオン電池用オキソ酸系正極活物質を低コストで量産性よく簡易に得ることができる製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記(1)~(12)の態様を包含する。なお本明細書において、「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0011】
(1)アルカリ金属イオン電池用オキソ酸系正極活物質の製造方法であって、
オキソ酸のアルカリ金属塩と遷移金属塩とを、水及び/又はアルコールを含有する溶媒中で反応させて沈殿物を得、得られた沈殿物を固液分離にて回収する工程、及び
前記沈殿物を加熱して加熱物を得る工程、を含み、
前記遷移金属塩は、そのアニオンの共役酸の最終pKaが7.0以下であり、
前記オキソ酸のアルカリ金属塩は、アルカリ金属(AM)含有量に対する水素(H)含有量のモル比(H/AM比)が0以上0.33以下であり、
前記オキソ酸のアルカリ金属塩と前記遷移金属塩とを反応させる際のオキソ酸のアルカリ金属塩に対する遷移金属塩のモル比が0.7以上1.3以下であり、
前記反応を0.8気圧以上1.2気圧以下の圧力下で0℃以上100℃未満の温度で行う、方法。
【0012】
(2)前記アニオンの共役酸の最終pKaが2.5以上7.0以下である、上記(1)の方法。
【0013】
(3)アルカリ金属イオン電池用オキソ酸系正極活物質の製造方法であって、
オキソ酸と遷移金属塩とを、水及び/又はアルコールを含有する溶媒中で反応させて反応生成物を得、得られた反応生成物をアルカリ金属水酸化物とさらに反応させて沈殿物を得、得られた沈殿物を固液分離又は溶媒留去することで回収する工程、及び
前記沈殿物を加熱して加熱物を得る工程、を含み、
前記遷移金属塩は、そのアニオンの共役酸の第一pKaが5.0以上であり、
前記反応を0.8気圧以上1.2気圧以下の圧力下で0℃以上100℃未満の温度で行う、方法。
【0014】
(4)前記アニオンの共役酸の第一pKaが6.3以上11.0以下である、上記(3)の方法。
【0015】
(5)アルカリ金属イオン電池用オキソ酸系正極活物質の製造方法であって、
オキソ酸の一水素塩と遷移金属塩とを、水及び/又はアルコールを含有する溶媒中で反応させて反応生成物を得、得られた反応生成物をアルカリ金属水酸化物とさらに反応させ
て沈殿物を得、得られた沈殿物を固液分離又は溶媒留去することで回収する工程、及び前記沈殿物を加熱して加熱物を得る工程、を含み、
前記遷移金属塩は、そのアニオンの共役酸の最終pKaが7.0以下であり、
前記反応を0.8気圧以上1.2気圧以下の圧力下で0℃以上100℃未満の温度で行う、方法。
【0016】
(6)前記アニオンの共役酸の最終pKaが2.5以上7.0以下である、上記(5)の方法。
【0017】
(7)アルカリ金属イオン電池用オキソ酸系正極活物質の製造方法であって、
オキソ酸のアルカリ金属塩と遷移金属塩とを、水及び/又はアルコールを含有する溶媒中で反応させて溶媒を留去し、得られた溶媒留去物を回収する工程、及び
前記溶媒留去物を加熱して加熱物を得る工程、を含み、
前記遷移金属塩は、そのアニオンの共役酸の最終pKaが7.0以下であり、
前記オキソ酸のアルカリ金属塩は、アルカリ金属(AM)含有量に対する水素(H)含有量のモル比(H/AM比)が0以上0.33以下であり、
前記オキソ酸のアルカリ金属塩と前記遷移金属塩とを反応させる際のオキソ酸のアルカリ金属塩に対する遷移金属塩のモル比が0.7以上1.3以下であり、
前記反応を0.8気圧以上1.2気圧以下の圧力下で0℃以上100℃未満の温度で行う、方法。
【0018】
(8)前記オキソ酸が、リン酸、ケイ酸、ホウ酸、硫酸、及びこれらの複合酸からなる群から選択される少なくとも一種である、上記(1)~(7)のいずれかの方法。
【0019】
(9)前記オキソ酸が、リン酸及びケイ酸の少なくとも一方を含む、上記(1)~(7)のいずれかの方法。
【0020】
(10)前記遷移金属塩が、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、及びバナジウム(V)からなる群から選択される少なくとも一種の金属を含む塩である、上記(1)~(7)のいずれかの方法。
【0021】
(11)前記沈殿物を得る工程で前記溶媒に可溶性炭素源を加えて、前記加熱物を得る工程で炭素を被覆した加熱物を得る、上記(1)~(6)のいずれかの方法。
【0022】
(12)前記溶媒留去物を得る工程で前記溶媒に可溶性炭素源を加えて、前記加熱物を得る工程で炭素を被覆した加熱物を得る、上記(7)の方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、アルカリ金属イオン電池用オキソ酸系正極活物質を低コストで量産性よく簡易に得ることができる製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】正極活物質のX線回折パターンを示す図である(実施例1、6~8、11、比較例1及び2)。
図2】正極活物質のX線回折パターンを示す図である(実施例12~14)。
図3】正極活物質のX線回折パターンを示す図である(実施例2、3及び5)。
図4】正極活物質のX線回折パターンを示す図である(実施例17~21)。
図5】正極活物質のX線回折パターンを示す図である(実施例22及び23)。
図6】コインセルの充放電曲線を示す(実施例1)。
図7】コインセルの充放電曲線を示す(実施例6)。
図8】コインセルの充放電曲線を示す(実施例9)。
図9】コインセルの充放電曲線を示す(実施例8)。
図10】コインセルの充放電曲線を示す(比較例1)。
図11】コインセルの充放電曲線を示す(実施例5)。
図12】コインセルの充放電曲線を示す(実施例2)。
図13】コインセルの充放電曲線を示す(実施例16)。
図14】正極活物質のX線回折パターンを示す図である(実施例24、27、30、比較例1及び2)。
図15】正極活物質のX線回折パターンを示す図である(実施例25、28、31、比較例1及び2)。
図16】正極活物質のX線回折パターンを示す図である(実施例32~34、比較例1及び2)。
図17】正極活物質のX線回折パターンを示す図である(実施例28、比較例1及び2)。
図18】正極活物質のX線回折パターンを示す図である(実施例26、35~37)。
図19】正極活物質のX線回折パターンを示す図である(実施例38~40)。
図20】コインセルの充放電曲線を示す(実施例24)。
図21】コインセルの充放電曲線を示す(実施例25)。
図22】コインセルの充放電曲線を示す(実施例26)。
図23】コインセルの充放電曲線を示す(実施例27)。
図24】コインセルの充放電曲線を示す(実施例28)。
図25】コインセルの充放電曲線を示す(実施例30)。
図26】コインセルの充放電曲線を示す(実施例31)。
図27】コインセルの充放電曲線を示す(実施例32)。
図28】コインセルの充放電曲線を示す(実施例33)。
図29】コインセルの充放電曲線を示す(実施例34)。
図30】コインセルの充放電曲線を示す(実施例35)。
図31】コインセルの充放電曲線を示す(実施例36)。
図32】コインセルの充放電曲線を示す(実施例37)。
図33】コインセルの充放電曲線を示す(実施例38)。
図34】コインセルの充放電曲線を示す(実施例39)。
図35】コインセルの充放電曲線を示す(実施例40)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の具体的実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0026】
<<1.正極活物質の製造>>
本実施形態は、アルカリ金属イオン電池用オキソ酸系正極活物質の製造方法を対象とする。オキソ酸系正極活物質は、アルカリ金属(AM)と遷移金属(M)を含むオキソ酸塩化合物を主成分とする材料であり、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池、及び/又はカリウムイオン二次電池といったアルカリ金属イオン電池の正極に用いられる。なかでも、結晶構造中にXO四面体(XはP、S、Si等)からなるポリアニオン骨格を有するポリアニオン系材料は酸化還元電位が高く、かつ電気化学的安定性に優れるため、次世代正極材料として注目を集めている。
【0027】
オキソ酸系正極活物質としてオリビン型リン酸塩系化合物、フッ化リン酸塩系化合物、リン酸リチウムバナジウム、フッ化リン酸リチウムバナジウム、硫酸塩系化合物、ケイ酸塩系化合物、ホウ酸塩系化合物等の化合物が挙げられる。具体的には、アルカリ金属をAM(AMはLi、Na、及びKからなる群から選択される少なくとも一種)として、AMMPO(M=Fe、Mn、Co、Ni等)、AM-xMPOF(M=Fe、Co;0≦x≦2)、AM(PO、AMVPOF、AM(PO、AMFeSOF、AMMSiO(M=Fe、Mn、Co、Ni等)、AMMBO(M=Fe、Mn等)、AMNi(PO、AMCr(PO、NaCr(PO、AMCo(PO、AMCoP、AM(P、AM(PO、AM(PO、AMFe(SO、AM(PO、並びにこれらの混合物及び固溶体からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。これらのなかでも、オリビン型リン酸塩系化合物(AMMPO;AM=Li、Na、及びKからなる群から選択される少なくとも一種、M=Fe、Mn、Co、及びNiからなる群から選択される少なくとの一種)及び/又はケイ酸塩系化合物(AMMSiO;AM=Li、Na、及びKからなる群から選択される少なくとも一種、M=Fe、Mn、Co、及びNiからなる群から選択される少なくとの一種)が特に好ましい。
【0028】
本実施形態の製造方法は、オキソ酸又はその塩と遷移金属塩とを溶媒中で反応させて沈殿物を得る工程と、得られた沈殿物を加熱する工程と、を含む。具体的には、下記第1~4のいずれかの態様を包含する。各態様について以下に説明する。
【0029】
<第1の態様>
第1の態様における製造方法では、オキソ酸のアルカリ金属塩と遷移金属塩とを、水及び/又はアルコールを含有する溶媒中で反応させて沈殿物を得、得られた沈殿物を固液分離にて回収する工程(反応回収工程)、及び回収した沈殿物を加熱して加熱物を得る工程(加熱工程)、を含む。また反応に用いる遷移金属塩は、そのアニオンの共役酸の最終pKaが7.0以下である。オキソ酸のアルカリ金属塩は、アルカリ金属(AM)含有量に対する水素(H)含有量のモル比(H/AM比)が0以上0.33以下であり、オキソ酸のアルカリ金属塩と前記遷移金属塩とを反応させる際のオキソ酸のアルカリ金属塩に対する遷移金属塩のモル比は0.7以上1.3以下である。また反応を0.8気圧以上1.2気圧以下の圧力下で0℃以上100℃未満の温度で行う。各工程について以下に詳細に説明する。
【0030】
(反応回収工程)
第1の態様における反応回収工程では、アルカリ金属、遷移金属、及びオキソ酸を含む化合物(アルカリ金属及び遷移金属のオキソ酸塩、またはその水和物)を1段階反応で作製する。具体的には、まずオキソ酸のアルカリ金属塩(オキソ酸アルカリ金属塩)と遷移金属塩とを溶媒中で反応させる。この反応は、オキソ酸アルカリ金属塩の酸解離定数と遷移金属塩のアニオンの共役酸の酸解離定数との差による酸塩基反応である。反応の際にオキソ酸アルカリ金属塩に含まれるアルカリ金属イオンと遷移金属塩に含まれる遷移金属イオンの交換が起こる。そしてそれに伴い、アルカリ金属及び遷移金属のオキソ酸塩、またはその水和物を含む沈殿物が生成する。
【0031】
例えば、オキソ酸アルカリ金属塩がリン酸リチウム(LiPO)であり、かつ遷移金属塩が、マンガン(Mn)等の2価金属(M)の硝酸塩(M(NO)である場合には、下記(1)式に示す反応が右方向に進行する。その結果、リチウム(Li)及び遷移金属(M)のリン酸塩化合物(LiMPO)が生成するとともに、副生物として硝酸リチウム(LiNO)が生じる。またリン酸ナトリウム(NaPO)と遷移金属塩化物(MCl)との反応では、下記(2)式に示す反応が右方向に進行する。その結果、ナトリウム(Na)及び遷移金属(M)のリン酸塩化合物(NaMPO)が生成するととともに、副生物として塩化ナトリウム(NaCl)が生じる。
【0032】
【化1】
【0033】
【化2】
【0034】
上記(1)又は(2)式の反応において、リン酸塩化合物(LiMPO,NaMPO)は難溶性であるため、溶媒中では沈殿物として存在する。一方で副生物(LiNO,NaCl)は易溶性であるため、溶媒に溶解している。したがって、後続する回収工程で溶媒から沈殿物を固液分離により回収することで、沈殿物たるリン酸塩化合物(LiMPO,NaMPO)またはその水和物を得ることができる。
【0035】
オキソ酸のアルカリ金属塩(オキソ酸アルカリ金属塩)は、正極活物質を構成するオキソ酸及びアルカリ金属の原料である。オキソ酸アルカリ金属塩に含まれるオキソ酸及びアルカリ金属として、所望の正極活物質が得られる限り、その種類は限定されない。オキソ酸として、リン酸、ケイ酸、ホウ酸、硫酸、炭酸、カルボン酸、及び硝酸等が挙げられ、このなかでもリン酸、ケイ酸、ホウ酸、硫酸、及びこれらの複合酸からなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、リン酸及びケイ酸の少なくとも一方を含む酸が特に好ましい。またアルカリ金属として、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、及びカリウム(K)からなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、リチウム(Li)及びナトリウム(Na)の一方又は両方が特に好ましい。
【0036】
オキソ酸アルカリ金属塩は、そのアルカリ金属(AM)含有量に対する水素(H)含有量のモル比(H/AM比)が0以上0.33以下に限定される。すなわちオキソ酸アルカリ金属塩は水素を含んでもよく、あるいは含まなくてもよい。しかしながら、水素を含む場合は、アルカリ金属含有量に対する水素含有量の割合(モル比)は0.33以下に限定される。水素を過剰に含むオキソ酸アルカリ金属塩、例えばLiHPOなどの化合物を原料に用いると、アルカリ金属(Li等)が不足し、所望組成の正極活物質を得ることが困難になる恐れがある。H/AM比は0以上0.2以下が好ましく、0以上0.1以下がより好ましい。H/AM比はゼロ(0)であってもよい。
【0037】
遷移金属塩は、正極活物質を構成する遷移金属の原料である。遷移金属塩に含まれる遷移金属として、所望の正極活物質が得られる限り、その種類は限定されない。しかしながら、遷移金属は、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、及びバナジウム(V)からなる群から選択される少なくとも一種の金属を含むことが好ましい。また遷移金属塩は、遷移金属以外の成分を含んでもよい。例えば、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、及びカルシウム(Ca)からなる群から選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0038】
第1の態様において、遷移金属塩は、そのアニオンの共役酸の最終pKaが7.0以下に限定される。ここでpKaは、室温(25℃)下での水溶液中の酸解離定数(Ka)の負の常用対数(-log10Ka)である。また最終pKaは、アニオンの共役酸の最終段階での電離(最大解離段)における酸解離定数である。すなわち電離が1段階のみ起こる場合には、その電離段階における酸解離定数である。また電離が多段階で起こる場合には、最終電離段階(最大解離段)における酸解離定数である。例えば、アニオンの共役酸がpK1のみをもつときは、これが最終pKaに相当する。一方でアニオンの共役酸がpK1、pK2、及びpK3をもつときには、pK3が最終pKaに相当する。
【0039】
最終pKaが7.0以下の条件で反応させることで、アルカリ金属と遷移金属とが置換した所望組成のオキソ酸系正極活物質を得ることができる。例えば、オキソ酸がリン酸である場合、リン酸の第二pKaは7.2である。したがって遷移金属塩のアニオンの共役酸の最終pKaが7.0以下であれば、このアニオンがアルカリ金属(Li、Na等)と塩を形成しやすくなる。これに対して最終pKaが7.0超であると、アニオンとアルカリ金属の塩が形成し難くなる。最終pKaは7.0以下であれば、特に限定されない。具体的には、遷移金属塩は、硝酸塩、塩化物、硫酸塩、及び酢酸塩からなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。しかしながら最終pKaが過度に小さいと、反応が早すぎるため副生物が生じる恐れがある。最終pKaは2.5以上7.0以下が好ましい。なお各種化合物のpKaを下記表1にまとめて示す。
【0040】
【表1】
【0041】
反応に際し、オキソ酸アルカリ金属塩に対する遷移金属塩のモル比は0.7以上1.3以下に限定される。これにより所望組成の正極活物質を得ることが可能になる。モル比が0.7未満であるとアルカリ金属量が過多となり、アルカリ金属リッチの異相が生成する恐れがある。またモル比が1.3以上であると、遷移金属量が過多となり、遷移金属リッチの異相が生成する恐れがある。モル比は0.8以上1.2以下が好ましく、0.9以上1.1以下がより好ましい。
【0042】
反応は、水及び/又はアルコールを含有する溶媒中で行う。溶媒は水であってよく、アルコールであってよく、あるいは水及びアルコールの混合溶媒であってもよい。溶媒がアルコールである場合には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等の低級アルコールが好ましい。
【0043】
所望の正極活物質が得られる限り、オキソ酸アルカリ金属塩と遷移金属塩との反応手法は限定されない。しかしながら、好適には、オキソ酸アルカリ金属塩を含む溶媒と遷移金属塩を含む溶媒を別個に作製し、後者(遷移金属塩を含む溶媒)を前者(オキソ酸アルカリ金属塩を含む溶媒)に滴下する。反応の過度に速い進行が抑制されるため、均一な反応生成物を得ることができる。また均一反応を促すため溶媒を撹拌したり、あるいは遷移金属の酸化を抑制するためアルゴン(Ar)などの不活性ガスを用いたバブリングを行ったりしてもよい。
【0044】
反応は、0.8気圧以上1.2気圧以下の圧力下0℃以上100℃未満の範囲内の温度で行う。本実施形態の製造方法によれば、水熱合成で必要とされるオートクレーブ等の高価で複雑な装置を用いる必要なく、常温及び常圧近傍の条件で反応を行うことが可能である。そのため、所望の正極活物質を量産性よく得ることができる。圧力は0.9気圧以上1.1気圧以下が好ましく、0.95気圧以上1.05気圧以下がより好ましい。また反応温度が過度に低いと、必要とされる反応時間が長くなり、サイクルタイムが長時間化する恐れがある。反応温度が過度に高いと、反応が急速に進行して、所望組成の活物質を得る上で制御が困難になる恐れがある。反応温度は5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
【0045】
次に、オキソ酸アルカリ金属塩と遷移金属塩との反応により得た沈殿物を溶媒から固液分離により回収する。これによりアルカリ金属及び遷移金属のオキソ酸塩、またはその水和物からなる沈殿物を溶媒及び副生物から分離回収できる。沈殿物の回収は、ろ過、及び遠心分離等の固液分離手法で行えばよい。また副生物をより確実に除去するために、回収後の沈殿物を洗浄してもよい。洗浄は、回収した沈殿物の上に、水及び/又はアルコールを注ぐ手法や、回収した沈殿物を水及び/又はアルコールに分散させた後に再度回収する手法が挙げられる。
【0046】
(加熱工程)
加熱工程では、得られた沈殿物を加熱して加熱物(正極活物質)を得る。加熱により沈殿物の結晶性が向上する。また沈殿物が水和している場合には、沈殿物の脱水化を促すことができる。さらに反応回収工程で溶媒に可溶性炭素源を加えた場合には、可溶性炭素源の炭化を促し、炭素を被覆した加熱物を得ることができる。そして、これらにより良好な特性をもつ正極活物質を得ることができる。
【0047】
最適加熱温度は、原料の種類によって異なるため、これを一概に決めることはできない。しかしながら、加熱温度が過度に低いと、結晶化、脱水化及び炭化が不十分になる恐れがある。また加熱温度が過度に高いと、最終的に得られる焼成物(正極活物質)の粒成長が進行して特性が劣化する恐れがある。加熱温度は100℃以上1000℃以下が好ましく、200℃以上800℃以下がより好ましく、300℃以上700℃以下がさらに好ましい。加熱保持時間は1時間以上100時間以下が好ましく、2時間以上50時間以下がより好ましく、3時間以上20時間以下がさらに好ましい。所望の正極活物質が得られる限り、加熱雰囲気は限定されない。しかしながら、アルゴン(Ar)等の不活性ガス雰囲気、または真空雰囲気が好ましい。特に、溶媒に可溶性炭素源を加えた場合には、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気下で加熱して、可溶性炭素源を炭化させる。
【0048】
(後処理工程)
必要に応じて、加熱物に、解砕や分級等の後処理を施してもよい。解砕は、アトライタやボールミル等の公知の解砕機を用いて行えばよい。また分級は、篩分級や気流分級等の公知の分級機を用いて行えばよい。このようにして、正極活物質を得ることができる。
【0049】
<第2の態様>
第2の態様における製造方法は、オキソ酸と遷移金属塩とを、水及び/又はアルコールを含有する溶媒中で反応させて反応生成物を得、得られた反応生成物をアルカリ金属水酸化物とさらに反応させて沈殿物を得、得られた沈殿物を溶媒から回収する工程(反応回収工程)、及び回収した沈殿物を加熱して加熱物を得る工程(加熱工程)、を含む。また遷移金属塩は、そのアニオンの共役酸の第一pKaが5.0以上である。さらに反応を0.8気圧以上1.2気圧以下の圧力下で0℃以上100℃未満の温度で行う。
【0050】
第2の態様における反応回収工程では、アルカリ金属、遷移金属、及びオキソ酸を含む化合物(アルカリ金属及び遷移金属のオキソ酸塩、またはその水和物)を2段階反応で作製する。具体的には、まずオキソ酸と遷移金属塩とを溶媒中で反応させる。この反応は、オキソ酸の酸解離定数と遷移金属塩のアニオンの共役酸の酸解離定数との差による酸塩基反応である。反応の際にオキソ酸に含まれる水素イオン(プロトン)と遷移金属塩に含まれる遷移金属イオンの交換が起こる。そしてそれに伴い、遷移金属の水素オキソ酸塩、またはその水和物を含む沈殿物が生成する。
【0051】
例えば、オキソ酸がリン酸(HPO)であり、かつ遷移金属塩が、マンガン(Mn)等の2価金属(M)の炭酸塩(MCO)である場合には、下記(3)式に示す反応が右方向に進行する。その結果、遷移金属の一水素リン酸塩化合物(MHPO)とともに、副生物として炭酸ガス(CO)と水(HO)が生じる。
【0052】
【化3】
【0053】
上記(3)式の反応は炭酸ガス(CO)の生成を伴う。そのため逆反応が抑制され、反応の右方向への進行が促進される。またリン酸塩化合物(MHPO)は難溶性であるため、溶媒中で沈殿物として存在する。
【0054】
次いで、アルカリ金属水酸化物(LiOH等)を溶媒に加えると、下記(4)式に示すように遷移金属の一水素リン酸塩化合物に含まれる水素イオン(プロトン)とアルカリ金属水酸化物に含まれるアルカリ金属イオン(Li+等)の交換が起こる。その結果、アルカリ金属及び遷移金属のオキソ酸塩、またはその水和物を含む沈殿物が生じる。
【0055】
【化4】
【0056】
オキソ酸は、正極活物質を構成するオキソ酸の原料である。オキソ酸として、所望の正極活物質が得られる限り、その種類は限定されない。オキソ酸として、リン酸、ケイ酸、ホウ酸、硫酸、炭酸、カルボン酸、及び硝酸等が挙げられ、このなかでも、リン酸、ケイ酸、ホウ酸、硫酸、及びこれらの複合酸からなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、リン酸及びケイ酸の少なくとも一方を含む酸が特に好ましい。
【0057】
遷移金属塩は、正極活物質を構成する遷移金属の原料である。遷移金属塩に含まれる遷移金属として、所望の正極活物質が得られる限り、その種類は限定されない。遷移金属は、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、及びバナジウム(V)からなる群から選択される少なくとも一種の金属を含むことが好ましい。また遷移金属塩は、遷移金属以外の成分を含んでもよい。例えば、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、及びカルシウム(Ca)からなる群から選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0058】
第2の態様において、遷移金属塩は、そのアニオンの共役酸の第一pKaが5.0以上に限定される。ここで第一pKaは、アニオンの共役酸の第一段階での電離(最小解離段)における酸解離定数である。すなわち電離が1段階のみ起こる場合には、その電離段階における酸解離定数である。また電離が多段階で起こる場合には、最初の電離段階(最小解離段)における酸解離定数である。例えば、アニオンの共役酸がpK1のみをもつときは、これが第一pKaに相当する。一方でアニオンの共役酸がpK1、pK2、及びpK3をもつときには、pK1が第一pKaに相当する。
【0059】
第一pKaを5.0以上の条件で反応させることで、水素イオン(プロトン)と遷移金属イオンの交換が起こり、所望組成のオキソ酸系正極活物質を得ることができる。第一pKaは5.0以上であれば、特に限定されない。しかしながら第一pKaが過度に大きいと、反応が早すぎて副生物が生じる恐れがある。第一pKaは6.3以上11.0以下が好ましい。具体的には、遷移金属塩は、炭酸塩、アセチルアセトナート、及びアルコキシドからなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。
【0060】
所望の正極活物質が得られる限り、オキソ酸と遷移金属塩との反応手法は限定されない。しかしながら、好適には、オキソ酸を含む溶媒と遷移金属塩を含む溶媒を別個に作製し、後者(遷移金属塩を含む溶媒)を前者(オキソ酸を含む溶媒)に滴下する。反応の過度に速い進行が抑制されるため、均一な反応生成物を得ることができる。また均一反応を促すため溶媒を撹拌したり、あるいは遷移金属の酸化を抑制するためアルゴン(Ar)などの不活性ガスを用いたバブリングを行ったりしてもよい。
【0061】
オキソ酸、遷移金属塩、及びアルカリ金属水酸化物の配合量は、特に限定されない。しかしながら、それぞれの配合量は、過不足無く、所望のアルカリ金属及び遷移金属のオキソ酸塩を得るために必要な量(当量)近傍とすることが好ましい。例えば、オキソ酸と遷移金属塩の割合は、モル比で100:80~100:120が好ましく、100:90~100:110がより好ましい。また遷移金属塩とアルカリ金属水酸化物の割合は、モル比で100:80~100:120が好ましく、100:90~100:110がより好ましい。
【0062】
反応に用いる溶媒、反応温度、反応圧力、及び沈殿物の溶媒からの回収手段については、第1の態様に準じる。また加熱工程、及び後処理工程についても第1の態様に準じる。ただし、第2の態様においては、反応時に副生成物が生じないことがある。そのような場合には固液分離法の代わりに溶媒留去により沈殿物を回収してもよい。
【0063】
<第3の態様>
第3の態様における製造方法は、オキソ酸の一水素塩と遷移金属塩とを、水及び/又はアルコールを含有する溶媒中で反応させて反応生成物を得、得られた反応生成物をアルカリ金属水酸化物とさらに反応させて沈殿物を得、得られた沈殿物を溶媒から固液分離又は溶媒留去することで回収する工程(反応回収工程)、及び回収した沈殿物を加熱して加熱物を得る工程(加熱工程)、を含む。また遷移金属塩は、そのアニオンの共役酸の最終pKaが7.0以下である。さらに反応を0.8気圧以上1.2気圧以下の圧力下で0℃以上100℃未満の温度で行う。
【0064】
第3の態様における反応回収工程では、アルカリ金属、遷移金属、及びオキソ酸を含む化合物(アルカリ金属及び遷移金属のオキソ酸塩、またはその水和物)を2段階反応で作製する。具体的には、まずオキソ酸の一水素塩(オキソ酸一水素塩)と遷移金属塩とを溶媒中で反応させる。オキソ酸一水素塩はオキソ酸の酸性塩であり、置換できる水素原子を1個もつ。オキソ酸一水素塩として、例えばリン酸水素二ナトリウム(NaHPO)やリン酸二アンモニウム((NHHPO)が挙げられる。この反応は、オキソ酸一水素塩の酸解離定数と遷移金属塩のアニオンの共役酸の酸解離定数との差による酸塩基反応である。反応の際にオキソ酸一水素塩に含まれるナトリウムやアンモニウム等のイオンと遷移金属塩に含まれる遷移金属イオンの交換が起こる。そしてそれに伴い、遷移金属の水素オキソ酸塩、またはその水和物を含む沈殿物が生成する。
【0065】
例えば、オキソ酸一水素塩がリン酸水素二ナトリウム(NaHPO)であり、かつ遷移金属塩が、マンガン(Mn)等の2価金属(M)の硝酸塩(M(NO)である場合には、下記(5)式に示す反応が右方向に進行する。その結果、遷移金属の一水素リン酸塩化合物(MHPO)が生成するとともに、副生物として硝酸ナトリウム(NaNO)が生じる。またリン酸二アンモニウム((NHHPO)と遷移金属塩化物(MCl)との反応では、下記(6)式に示す反応が右方向に進行する。その結果、遷移金属の一水素リン酸塩化合物(MHPO)が生成するとともに、副生物として塩化アンモニウム(NHCl)が生じる。
【0066】
【化5】
【0067】
【化6】
【0068】
上記(5)及び(6)式におけるリン酸塩化合物(MHPO)は難溶性であるため、溶媒中で沈殿物として存在する。また副生物(NaNO、NHCl)は易溶性であるため、溶媒に溶解している。
【0069】
次いで、アルカリ金属水酸化物(LiOH等)を溶媒に加えると、下記(7)式に示すように遷移金属の一水素リン酸塩化合物に含まれる水素イオン(プロトン)とアルカリ金属水酸化物に含まれるアルカリ金属イオン(Li等)の交換が起こる。その結果、アルカリ金属及び遷移金属のオキソ酸塩、またはその水和物を含む沈殿物が生じる。
【0070】
【化7】
【0071】
オキソ酸の一水素塩(オキソ酸一水素塩)は、正極活物質を構成するオキソ酸の原料である。オキソ酸として、所望の正極活物質が得られる限り、その種類は限定されない。オキソ酸として、リン酸、ケイ酸、ホウ酸、硫酸、炭酸、カルボン酸、及び硝酸等が挙げられ、このなかでも、リン酸、ケイ酸、ホウ酸、硫酸、及びこれらの複合酸からなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、リン酸及びケイ酸の少なくとも一方を含む酸が特に好ましい。
【0072】
遷移金属塩は、正極活物質を構成する遷移金属の原料である。遷移金属塩に含まれる遷移金属として、所望の正極活物質が得られる限り、その種類は限定されない。遷移金属は、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、及びバナジウム(V)からなる群から選択される少なくとも一種の金属を含むことが好ましい。また遷移金属塩は、遷移金属以外の成分を含んでもよい。例えば、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、及びカルシウム(Ca)からなる群から選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0073】
第3の態様において、遷移金属塩は、そのアニオンの共役酸の最終pKaが7.0以下に限定される。最終pKaが7.0以下の条件で反応させると、遷移金属塩のアニオンがナトリウムやアンモニウムと塩を形成し易くなる。そのため、ナトリウムイオンやアンモニウムイオンと遷移金属イオンの交換が起こり、所望組成のオキソ酸系正極活物質を得ることができる。最終pKaは7.0以下であれば、特に限定されない。しかしながら最終pKaが過度に小さいと、反応が早すぎて副生物が生じる恐れがある。最終pKaは2.5以上7.0以下が好ましい。具体的には、遷移金属塩は、硝酸塩、塩化物、硫酸塩、及び酢酸塩からなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。
【0074】
所望の正極活物質が得られる限り、オキソ酸一水素塩と遷移金属塩との反応手法は限定されない。しかしながら、好適には、オキソ酸を含む溶媒と遷移金属塩を含む溶媒を別個に作製し、後者(遷移金属塩を含む溶媒)を前者(オキソ酸一水素塩を含む溶媒)に滴下する。反応の過度に速い進行が抑制されるため、均一な反応生成物を得ることができる。また均一反応を促すため溶媒を撹拌したり、あるいは遷移金属の酸化を抑制するためアルゴン(Ar)などの不活性ガスを用いたバブリングを行ったりしてもよい。
【0075】
オキソ酸一水素塩、遷移金属塩、及びアルカリ金属水酸化物の配合割合は、特に限定されない。しかしながら、それぞれの配合量は、過不足無く、所望のアルカリ金属及び遷移金属のオキソ酸塩を得るために必要な量(当量)近傍とすることが好ましい。例えば、オキソ酸一水素塩と遷移金属塩の割合は、モル比で100:80~100:120が好ましく、100:90~100:110がより好ましい。また遷移金属塩とアルカリ金属水酸化物の割合は、モル比で100:80~100:120が好ましく、100:90~100:110がより好ましい。
【0076】
反応に用いる溶媒、反応温度、反応圧力、及び沈殿物の溶媒からの回収手段については、第1の態様に準じる。また加熱工程、及び後処理工程についても第1の態様に準じる。ただし、第3の態様においては固液分離法の代わりに溶媒留去により沈殿物を回収してもよい。
【0077】
<第4の態様>
第4の態様における製造方法では、オキソ酸のアルカリ金属塩と遷移金属塩とを、オキソ酸のアルカリ金属塩と遷移金属塩とを、水及び/又はアルコールを含有する溶媒中で反応させて溶媒を留去し、得られた溶媒留去物を回収する工程(反応回収工程)、及び回収した溶媒留去物を加熱して加熱物を得る工程(加熱工程)、を含む。また反応に用いる遷移金属塩は、そのアニオンの共役酸の最終pKaが7.0以下である。オキソ酸のアルカリ金属塩は、アルカリ金属(AM)含有量に対する水素(H)含有量のモル比(H/AM比)が0以上0.33以下であり、オキソ酸のアルカリ金属塩と前記遷移金属塩とを反応させる際のオキソ酸のアルカリ金属塩に対する遷移金属塩のモル比は0.7以上1.3以下である。また反応を0.8気圧以上1.2気圧以下の圧力下で0℃以上100℃未満の温度で行う。各工程について以下に詳細に説明する。
【0078】
(反応回収工程)
第4の態様における反応回収工程では、アルカリ金属、遷移金属、及びオキソ酸を含む化合物(アルカリ金属及び遷移金属のオキソ酸塩、またはその水和物)を1段階反応で作製する。具体的には、まずオキソ酸のアルカリ金属塩(オキソ酸アルカリ金属塩)と遷移金属塩とを溶媒中で反応させる。この反応は、オキソ酸アルカリ金属塩の酸解離定数と遷移金属塩のアニオンの共役酸の酸解離定数との差による酸塩基反応である。反応の際にオキソ酸アルカリ金属塩に含まれるアルカリ金属イオンと遷移金属塩に含まれる遷移金属イオンの交換が起こる。そしてそれに伴い、遷移金属のオキソ酸塩及び遷移金属塩のアニオンとアルカリ金属の塩、またはその水和物を含む沈殿物が生成する。
【0079】
例えば、オキソ酸アルカリ金属塩がメタケイ酸リチウム(LiSiO)であり、かつ遷移金属塩が、マンガン(Mn)等の2価金属(M)の酢酸塩(M(OAc))である場合には、下記(8)式に示す反応が右方向に進行する。その結果、遷移金属(M)のケイ酸塩化合物(MSiO)が生成するとともに、副生物として酢酸リチウム(LiOAc)が生じる。溶媒を留去したのちに、溶媒留去物を熱処理することで、ケイ酸塩化合物(MSiO)と酢酸リチウム(LiOAc)が反応し、下記(9)式に示す反応が右方向に進行する。その結果、リチウム(Li)及び遷移金属(M)のケイ酸塩化合物(LiMSiO)が生成する。
【0080】
【化8】
【0081】
【化9】
【0082】
オキソ酸のアルカリ金属塩(オキソ酸アルカリ金属塩)は、正極活物質を構成するオキソ酸及びアルカリ金属の原料である。オキソ酸アルカリ金属塩に含まれるオキソ酸及びアルカリ金属として、所望の正極活物質が得られる限り、その種類は限定されない。オキソ酸として、リン酸、ケイ酸、ホウ酸、硫酸、炭酸、カルボン酸、ゲルマン酸、チタン酸、バナジン酸及び硝酸等が挙げられ、このなかでもリン酸、ケイ酸、ホウ酸、硫酸、ゲルマン酸、チタン酸、バナジン酸及びこれらの複合酸からなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、リン酸、チタン酸、バナジン酸及びケイ酸の少なくとも一種を含む酸が特に好ましい。またアルカリ金属として、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、及びカリウム(K)からなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、リチウム(Li)及びナトリウム(Na)の一方又は両方が特に好ましい。
【0083】
オキソ酸アルカリ金属塩は、そのアルカリ金属(AM)含有量に対する水素(H)含有量のモル比(H/AM比)が0以上0.33以下に限定される。すなわちオキソ酸アルカリ金属塩は水素を含んでもよく、あるいは含まなくてもよい。しかしながら、水素を含む場合は、アルカリ金属含有量に対する水素含有量の割合(モル比)は0.33以下に限定される。水素を過剰に含むオキソ酸アルカリ金属塩、例えばLiHPOなどの化合物を原料に用いると、アルカリ金属(Li等)が不足し、所望組成の正極活物質を得ることが困難になる恐れがある。H/AM比は0以上0.2以下が好ましく、0以上0.1以下がより好ましい。H/AM比はゼロ(0)であってもよい。
【0084】
遷移金属塩は、正極活物質を構成する遷移金属の原料である。遷移金属塩に含まれる遷移金属として、所望の正極活物質が得られる限り、その種類は限定されない。しかしながら、遷移金属は、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、及びバナジウム(V)からなる群から選択される少なくとも一種の金属を含むことが好ましい。また遷移金属塩は、遷移金属以外の成分を含んでもよい。例えば、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、及びカルシウム(Ca)からなる群から選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0085】
第4の態様において、遷移金属塩は、そのアニオンの共役酸の最終pKaが7.0以下に限定される。ここでpKaは、室温(25℃)下での水溶液中の酸解離定数(Ka)の負の常用対数(-log10Ka)である。また最終pKaは、アニオンの共役酸の最終段階での電離(最大解離段)における酸解離定数である。すなわち電離が1段階のみ起こる場合には、その電離段階における酸解離定数である。また電離が多段階で起こる場合には、最終電離段階(最大解離段)における酸解離定数である。例えば、アニオンの共役酸がpK1のみをもつときは、これが最終pKaに相当する。一方でアニオンの共役酸がpK1、pK2、及びpK3をもつときには、pK3が最終pKaに相当する。
【0086】
最終pKaが7.0以下の条件で反応させることで、アルカリ金属と遷移金属とが置換した所望組成のオキソ酸系正極活物質を得ることができる。例えば、オキソ酸がメタケイ酸である場合、メタケイ酸の第一pKaは9.86であり、第二pKaは13.1である。したがって遷移金属塩のアニオンの共役酸の最終pKaが7.0以下であれば、このアニオンがアルカリ金属(Li、Na等)と塩を形成しやすくなる。最終pKaは7.0以下であれば、特に限定されない。具体的には、遷移金属塩は、硝酸塩、塩化物、硫酸塩、及び酢酸等のカルボン塩からなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。しかしながら最終pKaが過度に小さいと、反応が早すぎるため副生物が生じる恐れがある。最終pKaは2.5以上7.0以下が好ましい。
【0087】
反応に際し、オキソ酸アルカリ金属塩に対する遷移金属塩のモル比は0.7以上1.3以下に限定される。これにより所望組成の正極活物質を得ることが可能になる。モル比が0.7未満であるとアルカリ金属量が過多となり、アルカリ金属リッチの異相が生成する恐れがある。またモル比が1.3以上であると、遷移金属量が過多となり、遷移金属リッチの異相が生成する恐れがある。モル比は0.8以上1.2以下が好ましく、0.9以上1.1以下がより好ましい。
【0088】
反応は、水及び/又はアルコールを含有する溶媒中で行う。溶媒は水であってよく、アルコールであってよく、あるいは水及びアルコールの混合溶媒であってもよい。溶媒がアルコールである場合には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等の低級アルコールが好ましい。
【0089】
所望の正極活物質が得られる限り、オキソ酸アルカリ金属塩と遷移金属塩との反応手法は限定されない。しかしながら、好適には、オキソ酸アルカリ金属塩を含む溶媒と遷移金属塩を含む溶媒を別個に作製し、後者(遷移金属塩を含む溶媒)を前者(オキソ酸アルカリ金属塩を含む溶媒)に滴下する。反応の過度に速い進行が抑制されるため、均一な反応生成物を得ることができる。また均一反応を促すため溶媒を撹拌したり、あるいは遷移金属の酸化を抑制するためアルゴン(Ar)などの不活性ガスを用いたバブリングを行ったりしてもよい。
【0090】
反応は、0.8気圧以上1.2気圧以下の圧力下0℃以上100℃未満の範囲内の温度で行う。本実施形態の製造方法によれば、水熱合成で必要とされるオートクレーブ等の高価で複雑な装置を用いる必要なく、常温及び常圧近傍の条件で反応を行うことが可能である。そのため、所望の正極活物質を量産性よく得ることができる。圧力は0.9気圧以上1.1気圧以下が好ましく、0.95気圧以上1.05気圧以下がより好ましい。また反応温度が過度に低いと、必要とされる反応時間が長くなり、サイクルタイムが長時間化する恐れがある。反応温度が過度に高いと、反応が急速に進行して、所望組成の活物質を得る上で制御が困難になる恐れがある。反応温度は5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
【0091】
次に、オキソ酸アルカリ金属塩と遷移金属塩との反応により得た沈殿物を含む溶媒を留去し、得られた溶媒留去物を回収する。
【0092】
(加熱工程)
加熱工程は、第1の態様に準じる。
【0093】
(後処理工程)
後処理工程は、第1の態様に準じる。
【0094】
第1~第4の態様において、沈殿物または溶媒留去物を得る工程で溶媒に可溶性炭素源を加えてもよい。あるいは、得られた沈殿物または溶媒留去物を、可溶性炭素源を加えた溶媒に再分散させてもよい。これにより、加熱物を得る工程で炭素を被覆した加熱物(正極活物質)を得ることができる。炭素被覆により正極活物質の導電性が向上するため、正極活物質を含む電池の放電容量を高めることが可能になる。
【0095】
炭素源として、加熱工程で炭素被膜を得られるものであれば、特に限定されない。例えば、糖類や有機化合物が挙げられる。糖類として、グリセルアルデヒド、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖;マルトース、スクロース、ラクトース、トレハロース、ショ糖、セロビオース、ツラノース等の二糖;フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖等のオリゴ糖;セルロース、デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、ペクチン、グルコマンナン、デキストリン等の多糖が挙げられる。また有機化合物として、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等のポリエーテル類、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、ポリ酢酸ビニル、グリセリン、アスコルビン酸、クエン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、ジイソシアネート化合物を挙げることができる。
【0096】
炭素源の添加量は、正極活物質の特性向上の観点から調整すればよい。炭素源の添加量が過度に少ないと、導電性向上の効果を十分に発揮させることが困難になる。また添加量が過度に多いと、正極活物質に含まれるアルカリ金属(Li、Na、K)によるイオン伝導を阻害する恐れがある。炭素源の添加量は、加熱工程で得られる加熱物(アルカリ金属及び遷移金属のオキソ酸塩)に対して1質量%以上50質量%以下が好ましく、5質量%以上40質量%以下がより好ましく、10質量%以上30質量%以下がさらに好ましい。
【0097】
本実施形態の製造方法では溶液法により正極活物質を合成する。そのため固相法とは異なり、微細な微粒子からなる正極活物質を得ることができる。また常温及び常圧近傍の条件で反応させることが可能であるため、水熱合成で必要とされるオートクレーブ等の高価で複雑な装置を用いる必要がない。さらにゾルゲル法で必要とされる高価な原料を用いる必要が無い。したがって、アルカリ金属イオン電池用オキソ酸系正極活物質を低コストで量産性よく簡易に得ることができる。
【0098】
本実施形態の製造方法で得られた正極活物質は、リチウム(Li)イオン二次電池、ナトリウム(Na)イオン二次電池、またはカリウム(K)イオン二次電池といったアルカリ金属イオン二次電池の正極に用いることができる。すなわち、正極活物質に含まれるアルカリ金属がリチウムを含む場合には、この正極活物質をリチウムイオン二次電池に適用できる。アルカリ金属がナトリウムまたはカリウムを含む場合には、正極活物質をナトリウムイオン二次電池またはカリウムイオン二次電池に適用できる。
【0099】
正極活物質以外のアルカリ金属イオン二次電池の構成は公知の態様とすればよい。例えば、正極活物質と、必要に応じて導電材、結着材、溶剤、及び添加材を混合して正極合材を作製し、得られた正極合材を正極集電体上に成形して正極を作製すればよい。導電材として、天然黒鉛、人造黒鉛、及び膨張黒鉛等の黒鉛;アセチレンブラックやケッチェンブラック等のカーボンブラック系材料が例示される。結着材として、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロビレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、及びポリアクリル酸が例示される。溶剤として、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤が例示される。添加材として、活性炭や粘度調整剤が例示される。正極集電体として、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属箔、エキスパンドメタル、パンチングメタルが例示される。また正極合材の成形手法として、プレス成形、シート成形、及び塗布が例示される。
【0100】
アルカリ金属イオン二次電池の構成は公知の態様とすればよい。例えば、正極、負極、電解質、及びセパレータを含む電池の基本要素を外装材に封入した態様が例示される。負極は、例えば、負極活物質と、必要に応じて導電材、結着材、溶剤、及び添加材を混合して負極合材を作製し、得られた負極合材を負極集電体上に成形して作製すればよい。
【0101】
リチウムイオン二次電池用負極活物質として、金属リチウム;ケイ素及びスズ等の金属または半金属;酸化ケイ素、酸化チタン、酸化スズ等の金属酸化物または半金属酸化物;LiTiO1、LiTiO、TiNb等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛や非黒鉛質炭素等の炭素材料が例示される。ナトリウムイオン二次電池用負極活物質として、CuO、SnO、及びCuSnOが例示される。カリウムイオン二次電池用負極活物質として、金属カリウム;カリウム合金;ケイ素;ケイ素含有化合物;金属酸化物;炭素材料が挙げられる。負極集電体として、銅、ニッケル、ステンレス、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属または合金の箔または膜が例示される。また導電材、結着材、溶剤及び添加材は、正極と同様のものを用いればよい。
【0102】
電解質として、非水系電解質や固体電解質を用いることができる。非水系電解質は、アルカリ金属塩とこのアルカリ金属塩を溶解する有機溶媒とからなる。リチウムイオン二次電池用アルカリ金属塩として、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(FSO、LiN(CFSO、及びこれらの複合塩が例示される。ナトリウムイオン二次電池用アルカリ金属塩として、NaPF、NaBF、NaClO、NaN(CFSO、NaN(SO、NaN(SOF)、NaAsF、NaCFSO、NaBF(C)、及びこれらの複合塩が例示される。カリウムイオン二次電池用アルカリ金属塩として、ハロゲン化カリウム(KCl、KBr、KI等)、KClO、KBF、KPF、KAsF、CKNO、及びこれらの複合塩が例示される。また有機溶媒として、エチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン等のイオウ化合物、リン酸トリエチル等のリン化合物が例示される。固体電解質として、LiPO、KHPO、及びKZr(PO等の酸化物系固体電解質;LiS-P等の硫化物系固体電解質;ポリエチレンオキシド等の有機固体電解質が例示される。
【0103】
セパレータとして、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂、ガラス、またはセラミックからなる多孔質のシートやフイルム、あるいは不織布が例示される。
【0104】
電池の形状も公知の態様とすればよい。例えば、円筒型電池、ラミネートフィルム電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池(コインセル)、ボタン型電池が例示される。
【実施例0105】
本発明を、以下の実施例を用いて更に詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0106】
(1)正極活物質の製造
[実施例1](第1の態様)
LiOH水溶液を撹拌しながら、LiOHに対して1/3当量のHPO水溶液を滴下した。なお本明細書において、当量はモル当量を意味する。これによりLiPOの沈殿物が生成した。さらに水溶液中での濃度が約10質量%となるように糖を加えて室温で2時間撹拌した後、初段の生成物LiPOに対して1当量のMn(NO水溶液を撹拌しながら滴下し、さらに室温で16時間撹拌した。これによりLiPOが変化し、LiMnPOまたはその水和物の微粉末からなる沈殿物が生成した。得られた沈殿物をろ過により回収した後に10%糖水溶液を用いて洗浄し、さらに乾燥した。
【0107】
次いで、乾燥後の微粉末に、アルゴン(Ar)雰囲気下600℃で9時間の熱処理を施した。このようにして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。なお実施例1で用いた遷移金属塩(Mn(NO)のアニオンの共役酸(HNO)の最終pKa(pK1)は-1.80である。
【0108】
[実施例2](第1の態様)
Mn(NO水溶液の代わりにCo(NO水溶液を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0109】
[実施例3](第1の態様)
Mn(NO水溶液の代わりにNi(NO水溶液を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0110】
[実施例4](第1の態様)
Mn(NO水溶液の代わりにFeCl水溶液を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。なお実施例4で用いた遷移金属塩(FeCl)のアニオンの共役酸(HCl)の最終pKa(pK1)は-3.70である。
【0111】
[実施例5](第1の態様)
FeClを滴下して水溶液中にLiFePO沈殿物が生成する際に、水溶液をアルゴン(Ar)ガスでバブリングした。またFeCl滴下前に加える糖の添加量を変え、水溶液中濃度が3質量%となるように調整した。それ以外は実施例4と同様にして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0112】
[実施例6](第1の態様)
LiOH水溶液を撹拌しながら、LiOHに対して1/3当量のHPO水溶液を滴下した。これによりLiPOの沈殿物が生成した。さらに室温で1時間撹拌した後、MnCl、FeCl及びMgClの混合水溶液を滴下し、さらに室温で16時間撹拌した。この際、MnCl、FeCl及びMgClの添加量は、初段の生成物LiPOに対して、それぞれ0.9、0.05、及び0.05当量となるように調整した。またMnCl等を滴下する前に糖を加えずに反応させた。これによりLiPOが変化し、LiMn0.9Fe0.05Mg0.05POまたはその水和物の微粉末からなる沈殿物が生成した。得られた沈殿物を濃度15質量%の糖水溶液に分散させ、1時間撹拌した後にろ過により回収し、さらに乾燥した。
【0113】
次いで、乾燥後の微粉末に、アルゴン(Ar)雰囲気下600℃で9時間の熱処理を施した。このようにして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0114】
[実施例7](第1の態様)
LiOH水溶液を撹拌しながら、LiOHに対して1/3当量のHPO水溶液を滴下した。これによりLiPOの沈殿物が生成した。さらに水溶液中での濃度が約3質量%となるように糖を加えて室温で2時間撹拌した後、初段の生成物LiPOに対して1当量のMnCl水溶液を撹拌しながら滴下した。これによりLiPOが変化し、LiMnPO微粉末またはその水和物からなる沈殿物が生成した。得られた沈殿物をろ過により回収した後に、糖を加えた水溶液に分散させて懸濁液を得た。糖の添加量は、最終生成物LiMnPOに対して20質量%となるように調整した。沈殿物を分散させた懸濁液を1時間撹拌した後に、溶媒(水)を減圧下で留去して粉末を得た。
【0115】
得られた粉末にアルゴン(Ar)雰囲気下600℃で9時間の熱処理を施した。このようにして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0116】
[実施例8](第1の態様)
LiOH水溶液を撹拌しながら、LiOHに対して1/3当量のHPO水溶液を滴下した。これによりLiPOの沈殿物が生成した。さらに室温で1時間撹拌した後、初段の生成物LiPOに対して1当量のMn(OAc)(酢酸マンガン)水溶液を撹拌しながら滴下した。これによりLiPOが変化し、LiMnPO微粉末またはその水和物からなる沈殿物が生成した。得られた沈殿物をろ過により回収した後に、糖を加えた水溶液に分散させて懸濁液を得た。糖の添加量は、最終生成物LiMnPOに対して20質量%となるように調整した。沈殿物を分散させた懸濁液を1時間撹拌した後に、溶媒(水)を加熱留去して粉末を得た。
【0117】
得られた粉末にアルゴン(Ar)雰囲気下600℃で9時間の熱処理を施した。このようにして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。なお実施例8で用いた遷移金属塩(Mn(OAc))のアニオンの共役酸(HOAc)の最終pKa(pK1)は4.76である。
【0118】
[実施例9](第1の態様)
Mn(OAc)水溶液の添加量を0.95当量とした。それ以外は実施例8と同様にして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0119】
[実施例10](第1の態様)
Mn(OAc)水溶液の添加量を1.05当量とした。それ以外は実施例8と同様にして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0120】
[実施例11](第1の態様)
Mn(OAc)をMn(NOに変更した。それ以外は実施例8と同様にして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0121】
[実施例12](第2の態様)
PO水溶液を撹拌しながら、HPOに対して1当量のMnCOを少量ずつ加え、さらに50℃で6時間撹拌した後に糖を加えた。糖の添加量は、最終生成物LiMnPOに対して20質量%となるように調整した。MnCO添加によりMnHPOが生成した。次いで、糖を加えた水溶液に、初段の生成物MnHPOに対して1当量のLiOH水溶液を滴下してLiMnPOの懸濁液を得た。得られた懸濁液から溶媒(水)を減圧下で留去して粉末を得た。
【0122】
得られた粉末にアルゴン(Ar)雰囲気下600℃で9時間の熱処理を施した。このようにして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。なお実施例8で用いた遷移金属塩(MnCO)のアニオンの共役酸(HCO)の第一pKa(pK1)は6.35である。
【0123】
[実施例13](第3の態様)
PO水溶液に、HPOに対して2当量のNaOHを滴下し、さらに濃度が約3質量%となるように糖を加えた後に室温で2時間撹拌した。NaOH添加によりNaHPOが生成した。その後、初段の生成物NaHPOに対して1当量のMn(NO水溶液を滴下し、さらに16時間撹拌した後にろ過により沈殿物を回収した。Mn(NO添加によりMnHPOが生成した。回収した沈殿物を、糖を加えた水溶液に分散させて懸濁液を得た。糖の添加量は、最終生成物LiMnPO4に対して10質量%となるように調整した。得られた懸濁液に、生成物MnHPOに対して1当量のLiOH水溶液を滴下し、さらに1時間撹拌した後に溶媒(水)を減圧下で留去して粉末を得た。
【0124】
得られた粉末にアルゴン(Ar)雰囲気下600℃で9時間の熱処理を施した。このようにして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0125】
[実施例14](第3の態様)
(NHHPO水溶液に、濃度が約3質量%となるように糖を加えた後に室温で2時間撹拌した。その後、(NHHPOに対して1当量のMnCl水溶液を滴下し、さらに16時間撹拌した後にろ過により沈殿物を回収した。MnCl添加によりMnHPOが生成した。回収した沈殿物を、糖を加えた水溶液に分散させて懸濁液を得た。糖の添加量は、最終生成物LiMnPOに対して20質量%となるように調整した。得られた懸濁液に、生成物MnHPOに対して1当量のLiOH水溶液を滴下し、さらに1時間撹拌した後に溶媒(水)を減圧下で留去して粉末を得た。
【0126】
得られた粉末にアルゴン(Ar)雰囲気下600℃で9時間の熱処理を施した。このようにして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0127】
[実施例15](第1の態様)
LiHPO、LiSiO、及びLiOH・HOをモル比で1.5:0.5:4の割合で混合し、得られた混合物にアルゴン(Ar)雰囲気下900℃で10時間の熱処理を施した。これによりLi6.51.5Si0.5組成の処理物を得た。次いで、得られた処理物を水に分散させ、2.17当量のCo(NO水溶液を滴下した。さらに室温で16時間撹拌した後にろ過により沈殿物を回収した。回収した沈殿物を濃度10質量%の糖水溶液中に分散させてからろ過により粉末を回収した。
【0128】
回収した粉末を乾燥した後にアルゴン(Ar)雰囲気下600℃で9時間の熱処理を施した。このようにして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0129】
[実施例16](第1の態様)
2.17当量のCo(NO水溶液の代わりに2当量のNi(OAc)水溶液を滴下した。それ以外は実施例15と同様にして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0130】
[実施例17](第1の態様)
試薬のNaPO(HO)12を水に溶解させてNaPO水溶液を準備した。次いで、準備したNaPO水溶液に、NaPOに対して1当量のMn(NO水溶液を滴下し、さらに16時間撹拌した後にろ過により沈殿物を回収した。回収した沈殿物を、濃度10質量%の糖水溶液に分散させた。沈殿物を加えた水溶液を1時間撹拌した後にろ過により粉末を回収した。
【0131】
回収した粉末を乾燥した後にアルゴン(Ar)雰囲気下600℃で9時間の熱処理を施した。このようにして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0132】
[実施例18](第1の態様)
NaPO水溶液に、NaPOに対して1当量のMn(OAc)水溶液を滴下し、さらに16時間撹拌した後にろ過により沈殿物を回収した。
【0133】
回収した粉末を乾燥した後にアルゴン(Ar)雰囲気下600℃で9時間の熱処理を施した。このようにして、正極活物質を作製した。
【0134】
[実施例19](第1の態様)
NaPO水溶液に、NaPOに対して1当量のMn(OAc)水溶液を滴下し、さらに16時間撹拌した後にろ過により沈殿物を回収した。回収した沈殿物を、糖を加えた水溶液に分散させた。糖の添加量は、最終生成物NaMnPOに対して20質量%となるように調整した。沈殿物を分散させた懸濁液を1時間撹拌した後に、溶媒(水)を加熱留去して粉末を得た。
【0135】
得られた粉末にアルゴン(Ar)雰囲気下600℃で9時間の熱処理を施した。このようにして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0136】
[実施例20](第2の態様)
LiOH水溶液の代わりにNaOH水溶液を滴下した。それ以外は実施例12と同様にして表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0137】
[実施例21](第3の態様)
LiOH水溶液の代わりにNaOH水溶液を滴下した。それ以外は実施例13と同様にして表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0138】
[実施例22](第3の態様)
MnCl水溶液の代わりにCoCl水溶液を滴下した。またLiOH水溶液の代わりにNaOH水溶液を滴下した。それ以外は実施例14と同様にして表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0139】
[実施例23](第1の態様)
Mn(OAc)水溶液の代わりにNi(OAc)水溶液を滴下した。それ以外は実施例18と同様にして正極活物質を作製した。
【0140】
[比較例1]
Mn(NO水溶液滴下後の反応物を耐圧容器に入れ、180℃ホットスターラー上で16時間加熱撹拌した。それ以外は実施例11と同様にして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0141】
[比較例2]
PO水溶液の滴下量をLiOHに対して1当量とした。それ以外は実施例8と同様にして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0142】
(2)評価
実施例1~23、比較例1及び2で得られた正極活物質について、各種特性の評価を以下の手順で行った。
【0143】
<XRD>
正極活物質をX線回折法にて分析して生成相を評価した。X線回折測定は以下の条件で行った。
【0144】
X線回折装置:Rigaku SmartLab II
線源:Cu kα1
管電圧:40kV
管電流:30mA
スキャン速度:2°/分
スキャン範囲:5°~90°
【0145】
<充放電特性>
正極活物質を用いて正極及び電池(コインセル)を作製し、得られた電池の充放電特性を評価した。正極の作製は以下の手順で行った。まずアルゴン(Ar)ガス雰囲気のグローブボックス内で、正極活物質、導電材たるケッチェンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)、及びPTFEを質量比で8:1:1の割合で混合した。
次いで、得られた混合物を直径10mmのアルミメッシュ上にプレス成形して正極を作製した。プレス成形は、直径10mmのペレットが得られる錠剤成型機を用いて、圧力400MPaの条件で行った。さらに、得られた正極、電解液(シグマアルドリッチ社製,1mol/l LiPF/EC-DEC(50:50vol%))、及び負極としてのLi金属で構成されるコインセル(宝泉株式会社)を作製した。
【0146】
次いで、充放電装置(アスカ電子株式会社製ACD-M01A、または北斗電工株式会社製HJ1001SD8)を用いてコインセルの充放電特性を評価した。評価は、下記表2に示す電圧範囲及び電流値にて、25℃で定電流-定電圧充電、定電流放電試験を繰り返した。
【0147】
(3)評価結果
<XRD>
実施例1~3、5~8、11~14、17~23、比較例1及び2のサンプルのX線回折(XRD)パターンを、図1~5に示す。なお図1~5には、ICSD(無機結晶データベース)に収録されるLiMnPO、LiNiPO、LiCoPO、LiFePO、NaMnPO、及びNaCoPOのデータに基づき作成したXRDパターンをICSD番号とともに併せて示す。
【0148】
比較例2以外のXRDパターンは、各ピーク位置がいずれも標準データベースのピーク位置と一致していた。このことから、比較例2以外のサンプルは、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO、LiFePO、NaMnPO、及びNaCoPOの結晶を有していることが分かった。
【0149】
これに対して、比較例2のサンプルは、そのXRDパターンのピーク位置が標準データベースのピーク位置とは一致していなかった。したがって、比較例2では所望組成の正極活物質を得られていないことが分かった。これは、原料LiOHとHPOの配合割合を1:1としたため、オキソ酸アルカリ金属塩の水素量が過剰になったためと考えられる。
【0150】
<充放電特性>
実施例1、2、5、6、8、9、16及び比較例1で作製したコインセルの充放電曲線を図6~13に示す。また実施例1、2、4~16、及び比較例1で作製したコインセルについて求めた放電容量を下記表2に示す。なお下記表2で示される放電容量は、単位質量当たりの正極活物質についての1サイクル目の値である。
【0151】
比較例1のコインセルは、初回放電容量が32mAh/gと比較的小さかった。これは、粒子径が大きくなり、粒子内部の抵抗が大きくなったためと推測される。
【0152】
これに対して、実施例1、2、4~16のコインセルは、初回放電容量が71~160mAh/gと比較的高かった。特に第1の態様で作製したLiMPO4組成(M=Mn、Co、Ni、Fe)のコインセル(実施例1、2、4~11)は、初回放電容量が114mAh/g以上であった。
【0153】
【表2】
【0154】
(4)正極活物質の製造
[実施例24](第1の態様)
アルゴン(Ar)ガスフロー下でメタケイ酸(HSiO)懸濁水を撹拌しながら、HSiOに対して2当量の水酸化ナトリウム(NaOH水)溶液を滴下し、50℃で2時間撹拌した。なお本明細書において、当量はモル当量を意味する。これによりケイ酸ナトリウム(NaSiO)溶液が生成した。室温に戻した後、初段の生成物NaSiOに対して1当量の塩化マンガン(MnCl)水溶液を撹拌しながら滴下し、さらに室温で一晩撹拌した。これによりNaSiOが変化し、ケイ酸マンガン(MnSiO)またはその水和物の微粉末からなる沈殿物が生成した。得られた沈殿物を遠心分離により回収した後に水に分散し、MnSiOに対して2当量の水酸化リチウム(LiOH)と最終生成物の理論重量に対して20質量%の糖を添加し、さらに1時間撹拌して懸濁液を得た。得られた懸濁液の溶媒を減圧にて留去して粉末を得た。得られた粉体をアルゴン(Ar)雰囲気下で600℃、9時間の熱処理を施した。このようにして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0155】
[実施例25](第1の態様)
実施例24のHSiOの代わりに酸化ゲルマニウム(GeO)を用いたこと、水酸化リチウム(LiOH)の代わりに酢酸リチウム(LiOAc)を用いたこと以外は、実施例24と同様の操作により表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0156】
[実施例26](第1の態様)
アルゴン(Ar)ガスフロー下でKTiO(OCCO水溶液を撹拌しながら、KTiO(OCCOに対して4当量の水酸化カリウム(KOH)水溶液を滴下し、50℃で2時間撹拌した。これによりチタン酸カリウム(KTiO)懸濁液が生成した。室温に戻した後、初段の生成物KTiOに対して1当量の塩化マンガン(MnCl)水溶液を撹拌しながら滴下し、さらに室温で一晩撹拌した。これによりKTiOが変化し、チタン酸マンガン(MnTiO)またはその水和物の微粉末からなる沈殿物が生成した。得られた沈殿物を遠心分離により回収した後に水に分散し、MnTiOに対して3当量の水酸化リチウム(LiOH)と最終生成物の理論重量に対して20質量%の糖を添加し、さらに、酸素をバブリングしながら、2時間撹拌して懸濁液を得た。得られた懸濁液の溶媒を減圧にて留去して粉末を得た。得られた粉体をアルゴン(Ar)雰囲気下で800℃、9時間の熱処理を施した。このようにして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0157】
[実施例27](第4の態様)
アルゴン(Ar)ガスフロー下でメタケイ酸(HSiO)懸濁水を撹拌しながら、HSiOに対して2当量の水酸化リチウム(LiOH)水溶液を滴下し、50℃で2時間撹拌した。これによりメタケイ酸リチウム(LiSiO)溶液が生成した。室温に戻した後、初段の生成物LiSiOに対して1当量の酢酸マンガン(Mn(OAc))水溶液を撹拌しながら滴下し、さらに室温で一晩撹拌した。これによりLiSiOが変化し、ケイ酸マンガン(MnSiO)またはその水和物の微粉末とMnSiOに対して2当量の酢酸リチウム(LiOAc)を含む懸濁液が生成した。得られた懸濁液に最終生成物の理論重量に対して20質量%の糖を添加し、さらに1時間撹拌した。懸濁液の溶媒を減圧にて留去して得た粉体を得た。得られた粉体をアルゴン(Ar)雰囲気下で600℃、9時間の熱処理を施した。このようにして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0158】
[実施例28](第4の態様)
実施例27のHSiOの代わりに酸化ゲルマニウム(GeO)を用いたこと以外は、実施例27と同様の操作により表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0159】
[実施例29](第4の態様)
実施例28の水酸化リチウム(LiOH)の代わりに水酸化ナトリウム(NaOH)を用いたこと以外は、実施例28と同様の操作により表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0160】
[実施例30](第4の態様)
実施例27の1当量の酢酸マンガン(Mn(OAc))の代わりに、0.8当量の酢酸マンガン(Mn(OAc))と0.2当量の乳酸鉄(Fe(C)を用いたこと以外は、実施例27と同様の操作により表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0161】
[実施例31](第4の態様)
実施例28の1当量の酢酸マンガン(Mn(OAc))の代わりに、0.8当量の酢酸マンガン(Mn(OAc))と0.2当量の乳酸鉄(Fe(C)を用いたこと以外は、実施例28と同様の操作により表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0162】
[実施例32](第4の態様)
実施例28の酸化ゲルマニウム(GeO)の代わりに、0.8当量の酸化ゲルマニウム(GeO)と0.2当量のメタケイ酸(HSiO)を用いたこと以外は、実施例28と同様の操作により表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0163】
[実施例33](第4の態様)
実施例28の酸化ゲルマニウム(GeO)の代わりに、0.5当量の酸化ゲルマニウム(GeO)と0.5当量のメタケイ酸(HSiO)を用いたこと以外は、実施例28と同様の操作により表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0164】
[実施例34](第4の態様)
実施例28の酸化ゲルマニウム(GeO)の代わりに、0.2当量の酸化ゲルマニウム(GeO)と0.8当量のメタケイ酸(HSiO)を用いたこと以外は、実施例28と同様の操作により表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0165】
[実施例35](第4の態様)
アルゴン(Ar)ガスフロー下でチタン酸イソプロピル(Ti(OiPr))のエタノール溶液を撹拌しながら、Ti(OiPr)に対して2当量の水酸化リチウム(LiOH)水溶液を滴下し、50℃で2時間撹拌した。これによりチタン酸リチウム(LiTiO)懸濁液が生成した。室温に戻した後、初段の生成物LiTiOに対して1当量の酢酸マンガン(Mn(OAc))水溶液を撹拌しながら滴下し、さらに室温で一晩撹拌した。これによりLiTiOが変化し、チタン酸マンガン(MnTiO)またはその水和物の微粉末と酢酸リチウム(LiOAc)を含む懸濁液が生成した。得られた懸濁液に最終生成物の理論重量に対して20質量%の糖を添加し、さらに1時間撹拌した。懸濁液の溶媒を減圧にて留去して得た粉体を得た。得られた粉体をアルゴン(Ar)雰囲気下で800℃、9時間の熱処理を施した。このようにして、表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0166】
[実施例36](第4の態様)
実施例35の水酸化リチウム(LiOH)を2当量から3当量に変更したこと、酢酸マンガン(Mn(OAc))水溶液を滴下した後、酸素をバブリングしながら一晩撹拌したこと以外は、実施例35と同様の操作により表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0167】
[実施例37](第1の態様)
実施例26の1当量の塩化マンガン(MnCl)の代わりに、0.75当量の塩化マンガン(MnCl)と0.25当量の塩化鉄(FeCl)を用いたこと以外は、実施例26と同様の操作により表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0168】
[実施例38](第4の態様)
実施例27のメタケイ酸(HSiO)の代わりに、酸化バナジウム(V)を用い、酸化バナジウム(V)に対して6当量の水酸化リチウム(LiOH)を用い、酢酸マンガン(Mn(OAc))の代わりに酸化バナジウム(V)に対して0.5当量のジヒドロキシビス乳酸チタン(Ti(OH)(OCCHOHCH)を用い、熱処理温度を600℃から800℃に変更したこと以外は、実施例27と同様の操作により表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0169】
[実施例39](第1の態様)
実施例26の水酸化カリウム(KOH)を4当量から5当量に変更したこと、1当量の塩化マンガン(MnCl)の代わりに1当量の塩化バナジウム(VCl)を用いたこと、酸素のバブリングをアルゴン(Ar)ガスフローに変更したこと以外は、実施例26と同様の操作により表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0170】
[実施例40](第4の態様)
実施例38の水酸化リチウム(LiOH)を6当量から4当量に変更したこと、ジヒドロキシビス乳酸チタン(Ti(OH)(OCCHOHCH)を0.5当量から0.25当量に変更し、熱処理温度を800℃から600℃に変更したこと以外は、実施例38と同様の操作により表面にカーボンを被覆した正極活物質を作製した。
【0171】
(5)評価
実施例24~40で得られた正極活物質について、各種特性(XRD、充放電特性)の評価を上記(2)と同様の手順で行った。
【0172】
(6)評価結果
<XRD>
実施例24~40のサンプルのX線回折(XRD)パターンを、図14~19に示す。なお、図14~17には、ICSD(無機結晶データベース)に収録されるLiMnSiO、LiMnGeO、NaMnGeOのデータに基づき作成したXRDパターンをICSD番号とともに併せて示す。
【0173】
実施例24~40のXRDパターンは、各ピーク位置がいずれも標準データベースまたは論文のピーク位置と一致していた。このことから、実施例24~40のサンプルは、LiMnSiO、LiMnGeO、NaMnGeO、LiMnFeSiO、LiMnTiO、LiTiVの結晶を有していることが分かった。
【0174】
<充放電特性>
実施例24~28、30~40の正極活物質を用いて作製したコインセルの充放電曲線を図20~35に示す。また実施例24~28、30~40の正極活物質を用いて作製したコインセルについて求めた放電容量を下記表3に示す。なお下記表3で示される放電容量は、単位質量当たりの正極活物質の単位質量当たりについての1サイクル目の値である。
【0175】
実施例24~28、30~40のコインセルは、初回放電容量が52~300mAh/gと比較的高かった。
【0176】
【表3】
【0177】
以上の結果から、本実施形態の製造方法によれば、アルカリ金属イオン電池用オキソ酸系正極活物質を低コストで量産性よく簡易に得られることを理解できる。
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