(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183441
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】シリコンポーラス層及びポーラスシリコンナノワイヤーを備えるシリコンナノ構造とナノカーボンとの複合体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20231221BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20231221BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231221BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231221BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/62 Z
C01B33/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096957
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎也
(72)【発明者】
【氏名】石井 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】▲曽▼我 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】リ カイヒン
【テーマコード(参考)】
4G072
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072BB04
4G072BB15
4G072GG02
4G072HH01
4G072JJ02
4G072JJ18
4G072KK20
4G072NN27
4G072TT01
4G072TT08
4G072UU30
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA12
5H050BA16
5H050CA17
5H050CB11
5H050DA09
5H050DA10
5H050EA10
5H050FA13
5H050FA16
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA06
(57)【要約】
【課題】
ポーラス構造及びシリコンナノワイヤーを組み合わせた構造およびシリコンナノワイヤーがポーラス層上に結合された構造を備えるシリコンナノ構造と、ナノカーボンとの複合体によって、膨張抑制および電気的ロスを防ぐことでき、さらに粉体であり、高容量化された複合体を提供すること。
【解決手段】
複数の第1のポーラス4を有するシリコンポーラス層2と、シリコンポーラス層2に連続的に結合した、複数の第2のポーラス6を有する1つ以上のポーラスシリコンナノワイヤー3を備える、シリコンナノ構造1と、ナノカーボンとの複合体である。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1のポーラスを有するシリコンポーラス層と、前記シリコンポーラス層に連続的に結合した、複数の第2のポーラスを有する1つ以上のポーラスシリコンナノワイヤーを備えることを特徴とするシリコンナノ構造と、ナノカーボンとの複合体。
【請求項2】
前記ポーラスシリコンナノワイヤーは、離間した部分を有するポーラスシリコンナノワイヤーの集まりであることを特徴とする請求項1に記載のシリコンナノ構造と、ナノカーボンとの複合体。
【請求項3】
前記第1のポーラスの孔径は、平均空孔が1nm~100nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコンナノ構造と、ナノカーボンとの複合体。
【請求項4】
前記第2のポーラスの孔径は、平均空孔が1nm~200nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコンナノ構造と、ナノカーボンとの複合体。
【請求項5】
前記ポーラスシリコンナノワイヤーの直径は、1~1000nmであることを特徴とする請求項3に記載のシリコンナノ構造と、ナノカーボンとの複合体。
【請求項6】
前記ポーラスシリコンナノワイヤーの直径は、1~1000nmであることを特徴とする請求項4に記載のシリコンナノ構造と、ナノカーボンとの複合体。
【請求項7】
前記シリコンポーラス層の厚みは1~100μmであることを特徴とする請求項5に記載のシリコンナノ構造と、ナノカーボンとの複合体。
【請求項8】
前記シリコンポーラス層の厚みは1~100μmであることを特徴とする請求項6に記載のシリコンナノ構造と、ナノカーボンとの複合体。
【請求項9】
前記シリコンナノ構造はさらに銀を含むことを特徴とする請求項1に記載のシリコンナノ構造と、ナノカーボンとの複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンポーラス層及びポーラスシリコンナノワイヤーを備えるシリコンナノ構造とナノカーボンとの複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、電気自動車や「Society 5.0」に向けた情報取得デバイスの自律分散化(IoT)に向けて必須なデバイスとして需要な年々高まっている。高性能化には、リチウムイオン電池の負極材料に理論容量が大きい結晶シリコンを適用することが求められている。しかし、シリコンとリチウムとの合金化により体積が増加し剥離することがこれまで実用化の妨げになってきた。
【0003】
その解決には、ナノ構造化が鍵であることはこれまでに多く示されているが、半導体の分野で開発されてきたナノシリコンは高い性能を示し、様々な構造・手法が存在しても、従来技術をそのまま負極材料への適用は難しい。
【0004】
従来のナノ構造では、粉体状であるため導電助剤等必要で、シリコンとの膨張係数の違いからサイクル特性が減少する問題があった。さらに、ナノ構造同士の結合がなく、高抵抗になっていた。一方で、ポーラス化したアモルファスシリコンで高容量化・高サイクル化の報告があるが、構造がアモルファスで膜状であることから、電気的ロスや体積ロスの問題がある(
図16(a)、(b)参照)。ナノワイヤー構造には、基板(例えばCu基板)が残存するという問題があった(同図(c)参照)。
【0005】
また、サイクル特性を改善させるため炭素や酸素、その他金属と複合したシリサイドを形成した研究が報告がされている。しかし、シリサイドの形成はサイクル特性の向上にはつながるが、放電容量の低下が問題となる。
【0006】
特許文献1には、ナノ構造化として多孔質および非孔質の構造体の多層ナノポーラスシリコンワイヤのようなシリコンナノワイヤーが記載されている。非特許文献1には、結晶シリコンを用いた場合、サイクル特性が20サイクルで大幅に劣化していることが記載されている。
【0007】
一方、負極材料を負極とするときの成形性の観点からは、負極材料は粉体であるべきであり、負極材料はさらに高容量化されるべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Y. Liu, T. Matsumura, N. Imanishi, A. Hirano, T. Ichiwaka, Y. Takeda, Electrochem. Solid-State Lett. 8 (2005) A599.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明では、ポーラス構造及びシリコンナノワイヤーを組み合わせた構造およびシリコンナノワイヤーがポーラス層上に結合された構造を備えるシリコンナノ構造と、ナノカーボンとの複合体を提供する。その複合体によって膨張抑制および電気的ロスを防ぐことでき、さらに粉体であり、高容量化されたシリコンナノ構造と、ナノカーボンとの複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
(1)複数の第1のポーラスを有するシリコンポーラス層と、シリコンポーラス層に連続的に結合した、複数の第2のポーラスを有する1つ以上のポーラスシリコンナノワイヤーを備えるシリコンナノ構造と、ナノカーボンとの複合体である。
第1のポーラス及び/又は第2のポーラス並びに複数の第1のポーラス及び/又は複数の第2のポーラスは、ポーラス構造を形成すると言うことができる。
(2)ポーラスシリコンナノワイヤーは、離間した部分を有するポーラスシリコンナノワイヤーの集まりであることを特徴とする(1)に記載のシリコンナノ構造と、ナノカーボンとの複合体である。
(3)第1のポーラスの孔径は、平均空孔が1nm~100nmであることを特徴とする(1)又は(2)に記載のシリコンナノ構造と、ナノカーボンとの複合体である。
(4)第2のポーラスの孔径は、平均空孔が1nm~200nmであることを特徴とする(1)~(3)の何れか一つに記載のシリコンナノ構造と、ナノカーボンとの複合体である。
(5)ポーラスシリコンナノワイヤーの直径は、10~1000nmであることを特徴とする(1)~(4)の何れか一つに記載のシリコンナノ構造と、ナノカーボンとの複合体である。
(6)シリコンポーラス層の厚みは1~100μmであることを特徴とする(1)~(5)の何れか一つに記載のシリコンナノ構造と、ナノカーボンとの複合体である。
(7)シリコンナノ構造はさらに銀を含むことを特徴とする(1)~(6)の何れか一つに記載のシリコンナノ構造と、ナノカーボンとの複合体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるシリコンナノ構造とナノカーボンとの複合体(以下、単に「シリコンナノ構造・ナノカーボン複合体」という場合がある)によれば、膨張抑制および電気的ロスを防ぎ、二次電池の負極材料とすることができる。また、ナノカーボンがカーボンナノチューブであるときは、「シリコンナノ構造・カーボンナノチューブ複合体」と、カーボンナノチューブがさらに単層カーボンナノチューブであるときは、「シリコンナノ構造・単層カーボンナノチューブ複合体」という場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)本発明の一つの実施形態であるシリコンナノ構造・ナノカーボン複合体を構成するシリコンナノ構造、(b)シリコンナノ構造のうちポーラスシリコンナノワイヤー構造への固体電荷質の導入、(c)ナノワイヤー構造でのSiとLi
+の界面抵抗の低減を、それぞれ模式的に示す図(断面図)である。
【
図2】非破壊・高容量化のメカニズムについて(a)ポーラス構造の場合、(b)ナノワイヤー構造の場合を、それぞれ示す図(断面図)である。
【
図3】シリコンナノ構造・単層カーボンナノチューブ複合体の複合構造を模式的に示す図(断面図)である。
【
図4】シリコンナノ構造の製造方法の概要を(a)銀の作製(無電解メッキ法)、(b-1´)シリコンナノワイヤーの作製(金属補助化学エッチング)、(b-2)ポーラス層の形成に分けて、それぞれ模式的に示す図(断面図)である。
【
図5】シリコンナノ構造の製造方法(ツーステップ)の各工程について、シリコンのタイプ、実験条件、エッチング時間を示す図である。
【
図6】シリコンナノ構造の製造方法(ツーステップ)の各工程を示す図である。
【
図7】(a)シリコンナノ構造の製造方法(ワンステップ)の各工程について、シリコンのタイプ、実験条件、プレーティング時間/エッチング時間を示す図である。
【
図8】シリコンナノ構造の製造方法(別のワンステップ)の各工程を示す図である。
【
図9】ツーステップによる(a)シリコンポーラス層とそれに連続的に結合したポーラスシリコンナノワイヤー、(b)ポーラスシリコンナノワイヤー(拡大図)、(c)シリコンポーラス層(拡大図)、(d)ポーラスシリコンナノワイヤーの表面のそれぞれのSEM像を、示す図である。
【
図10】ワンステップによる(a)シリコンポーラス層とそれに連続的に結合したポーラスシリコンナノワイヤー、(b)(a)をポーラスシリコンナノワイヤーに向かってみたSEM像を、それぞれ示す図である。
【
図11】シリコンナノ構造・単層カーボンナノチューブ複合体のSEM像を示す図である。
【
図12】サイクル特性評価のセルの構成を模式的に示す図である。
【
図13】シート状のシリコンナノ構造・単層カーボンナノチューブ複合体の外観を示す図である。
【
図14】シリコンナノ構造・単層カーボンナノチューブ複合体の(a)サイクル特性評価の測定結果、(b)(a)についてサイクル数と容量(mAh/g)を示す図である。
【
図15】銀含有シリコンナノ構造・単層カーボンナノチューブ複合体の(a)サイクル特性評価の測定結果、(b)(a)についてサイクル数と容量(mAh/g)を示す図である。
【
図16】従来のシリコンナノ構造例について(a)ナノ粒子(粉体の場合)、(b)ナノワイヤー(粉体の場合)、(c)ナノワイヤー(配向している場合)を、それぞれ模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0015】
本発明におけるナノカーボンとしては、導電性にすぐれ、比表面積が大きく、シリコンナノ構造との混合が容易である必要がある。またシリコンナノ構造の体積変化に追随して構造変化が可能であり、更にそのような構造変化の際にも電子伝導パスを維持することが可能な柔軟性も求められる。具体的には、下記のようなナノカーボンが利用可能である。
単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン等である。
ところで、以下では主にシリコンナノ構造・ナノカーボン複合体のうち、シリコンナノ構造・カーボンナノチューブ複合体を例として説明を行う。シリコンナノ構造・カーボンナノチューブ複合体は結着材フリーで自立膜にできるという特徴を有するためである。
【0016】
図1(a)に示すように、シリコンナノ構造・カーボンナノチューブ複合体7(
図3)を構成するシリコンナノ構造1は、複数の第1のポーラス4を有するシリコンポーラス層2と、シリコンポーラス層2に連続的に結合した、複数の第2のポーラス6を有する離間したポーラスシリコンナノワイヤー3、3´を備える。ポーラスシリコンナノワイヤー(以下、「シリコンナノワイヤー」と言う場合がある)3、3´は、シリコンポーラス層2に対して略垂直に結合しているため、ポーラスシリコンナノワイヤー3、3´の長さLにより、ポーラスシリコンナノワイヤー層13を形成することになる。
【0017】
第1のポーラス4は、シリコンポーラス層2の表面でシリコンポーラス層2からその外側に向けて開口する開口部を有している。
図1(a)は断面図であるため、第1のポーラス4のうち一つのものは、シリコンポーラス層2中の空孔のように見えるが、上記のように開口部を有している。第2のポーラス6についても同様である。
【0018】
電解質21に例えばLi
+が含まれている場合には、シリコンナノ構造1をリチウムイオン電池の負極として使用することができる。
図2(a)、(b)に示すように、Li
+は、シリコンポーラス層2やポーラスシリコンナノワイヤー3、3´の材料であるシリコンに吸われて、LiSiの合金ができて充電され、シリコンが膨張することになり、リチウムイオン電池にとって、特性の劣化が起こるため、極めて不都合である。
【0019】
図2(a)に示すポーラス構造のように、開口部4aを有する第1のポーラス(細孔)4(開口部6aを有する第2のポーラス6)の場合、シリコンポーラス層の一部分2a(ポーラスシリコンナノワイヤーの一部分3a)がLi
+を吸って膨張しても、膨張したシリコンポーラス層の一部分2a(ポーラスシリコンナノワイヤーの一部分3a)は、第1のポーラス4(第2のポーラス6)を充填することになり、シリコンポーラス層の一部分2a(ポーラスシリコンナノワイヤーの一部分3a)は破壊されない。そのように破壊されないので、シリコンポーラス層の一部分2a(ポーラスシリコンナノワイヤーの一部分3a)についてLi
+の高容量化が可能となる。
【0020】
図2(b)に示すように、シリコンナノワイヤー構造の場合の非破壊・高容量化のメカニズムは以下のようである。ポーラスシリコンナノワイヤー3、3´の間には、シリコンナノワイヤー間空隙10が形成される。シリコンナノワイヤー間空隙10が、ポーラス構造で説明した第1のポーラス4と同様なメカニズムで、シリコンナノワイヤー構造が非破壊・高容量化のメカニズムを実現するのである。したがって、離間した部分を有するポーラスシリコンナノワイヤーの集まりの離間した部分については、その離間した部分が大きい程非破壊・高容量化には優位となる。さらに、ポーラスシリコンナノワイヤー3´、3は、第2のポーラス6を備えることによる非破壊・高容量化を実現することができる。
【0021】
具体的には、充電前には、第2のポーラス6、シリコンナノワイヤー間空隙10を合わせた空隙率が100%であるが、充電後には、その空隙率は0%となるので、空間のロスがない。充電による膨潤終了時には、第2のポーラス6とシリコンナノワイヤー間空隙10が充填されるからである。
【0022】
第1のポーラス4は、シリコンがリチウムを吸収し膨張・剥離を防止の観点から、その孔径は平均空孔が1nm~100nmが好ましく、5~30nmがなお好ましい。第2のポーラス6は、シリコンがリチウムを吸収し膨張・剥離を防止の観点から、その孔径は平均空孔が1nm~200nmが好ましく、5~30nmがなお好ましい。
【0023】
シリコンポーラス層2は、シリコンナノワイヤーを支持しつつ膜として維持するための観点から、その厚みtは1~100μmが好ましく、1~50μmがなお好ましい。
ポーラスシリコンナノワイヤーの直径Dは、表面積増大と膨張剥離防止の観点から、直径Dは10~1000nmが好ましく、50~500nmがなお好ましい。
【0024】
図1(a)に示すように、シリコンナノ構造1が、ポーラスシリコンナノワイヤー3(3´)に対して反対側のシリコンポーラス層2の表面に電極基板20を備えると、電極基板20までの電流経路を確保することができる。なぜならば、ポーラスシリコンナノワイヤー3(3´)内のシリコンそれぞれは結合され、シリコンポーラス層2とポーラスシリコンナノワイヤー3(3´)は連続的に結合されているからである。すなわち様々なナノ構造が複合されることにより、ナノ構造の破壊が防がれ、ナノ構造の破壊による電気的ロスを低減することができるのである。
【0025】
図1(b)に示すように、電解質21が固体電解質である場合には、固体電解質がシリコンナノワイヤー間空隙10に導入される。固体電解質に含まれるLi
+はシリコンに吸われてLiSiの合金ができるので、充填された第2のポーラス6の部分にLi
+が拡散し充電することができる。
【0026】
図1(c)に示したように、シリコンとLi
+の界面に低抵抗化材料を形成することによって、界面抵抗の低減をしてもよい。低抵抗化材料としては、Al
2O
3やTiO
2等の公知の材料を使用することができる。
【0027】
図3に示すように、シリコンナノ構造・カーボンナノチューブ複合体7は、シリコンナノ構造(PSiNW)1とカーボンナノチューブ8を含む、シリコンナノ構造1とカーボンナノチューブ8との複合体7である。
図3では、カーボンナノチューブ8として単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を使用した態様を示している。複数の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)8は、複数のシリコンナノ構造(PSiNW)1に絡み合っている。そのため、シリコンナノ構造(PSiNW)1は単層カーボンナノチューブ(SWCNT)8の集電体となり、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)8がシリコンナノ構造(PSiNW)1から剥離することが防がれる。
【0028】
シリコンナノ構造1は、
図4(a)に示す無電解メッキ法により銀の作製を行い、次いで、同(b)に示す金属援用化学エッチングにより、シリコンナノワイヤー(構造)の作製を行ことにより製造することができる。銀を作製する工程では、シリコンウエハーをフッ化水素(HF)と硝酸銀(AgNo
3)溶液に浸漬する。その溶液では同(a)に示す主反応が起こり、シリコンウエハーの表面にAgが吸着し(同図(a-1)、(a-3))、その表面を上側から見たSEM写真では、同図(a-2)のように観察することができた。
【0029】
シリコンナノワイヤーを作製する工程では、
図4(b)に示す主反応が起こり、Ag
+によるシリコンの酸化が起こる。すなわち、シリコンと銀の酸化還元反応によりシリコンを部分的に酸化させることができ、酸化された部分ではシリコンは消失するので、消失せず残った部分がナノワイヤーを形成する(同図(b-1))、そのナノワイヤーを側面から見たSEM写真では、同図(b-2)のようにシリコンナノワイヤーを観察することができた。この場合、エッチング方向はp(100)基板では垂直方向となる。
【0030】
図4(b-1)を模式的に示す同図(b-1´)に対して、以下の処理を行うことによって、シリコンポーラス層2を形成することができる。シリコンポーラス層2は銀の厚さが薄くなることで形成される。エッチングの進行によって銀の厚さが薄くなり約5nm程度になると、シリコンポーラス層2が形成される。
【実施例0031】
(シリコンナノ構造の製造)
シリコンナノ構造1の製造には、ツーステップとワンステップによる方法があって、ツーステップとは、シリコンナノワイヤー形成とシリコンポーラス層の形成を、条件を変化させて構造を作成する方法である。一方、ワンステップはシリコンナノワイヤーとシリコンポーラス層を同一条件で行う方法である。換言すれば、ワンステップは、一つの溶液で銀が減ったときにポーラス化し、ツーステップは、ポーラス化溶液を用いて強制的にポーラス化させている。
【0032】
図5に示すように、ツーステップでシリコンナノ構造1を製造する工程には、銀粒子の作製の工程、シリコンナノワイヤー配列の作成の工程及びシリコン基板からのシリコンナノワイヤー配列薄膜の分離の工程を備えもの(ツーステップ1)と、ツーステップ1にさらにシリコンナノワイヤー配列薄膜からの銀の除去の工程を備えるもの(ツーステップ2)がある。それぞれの工程のシリコンのタイプ、実験条件及びエッチング時間は、
図5に示すようであった。全ての工程でシリコンのタイプはn-type、抵抗率は≦0.001Ω*CM、厚み200μm、面方位100であった。ツーステップ1とツーステップ2を対比すると、除去されずシリコンナノワイヤー配列薄膜に残っていた銀の量は触媒量(非常に微量)であった。
【0033】
銀粒子の作製の工程では、実験条件はH2O:40ml、HF:10ml、AgNO3:120mgでエッチング時間は≧15s(30s)、シリコンナノワイヤー配列の作成の工程では、実験条件はH2O:400ml、HF:100ml、H2O2:9ml~80mlでエッチング時間は≧10min(10min)、シリコン基板からのシリコンナノワイヤー配列薄膜の分離の工程では、実験条件はH2O:40ml、HF:8ml、H2O2:8.35mlでエッチング時間は5min、シリコンナノワイヤー配列薄膜からの銀の除去の工程では、実験条件はHNO3:10ml、H2O:50mlでエッチング時間は20minsであった。なお、エッチング時間の()内は、実施例の時間を表す。
【0034】
図6(a)にはシリコンウエハー、同図(b)~(e)には銀粒子の作製の工程~シリコン基板からのシリコンナノワイヤー配列薄膜の分離の工程、同図(f)、(g)にはシリコンナノワイヤー配列薄膜からの銀の除去の工程をそれぞれ示す。
【0035】
図6(a)に示すように、ワンステップでシリコンナノ構造を製造する工程は、銀粒子の作製の工程及びシリコンナノワイヤーの作製とシリコン基板からのシリコンナノワイヤー分離の工程を備える。全ての工程でシリコンのタイプはn-type、抵抗率は≦0.001Ω*CM、厚み200μm、面方位100であった。
【0036】
銀粒子の作製の工程では、実験条件はH2O:40ml、HF:10ml、AgNO3:120mgでエッチング時間は≧15s(30s)、シリコンナノワイヤーの作製とシリコン基板からのシリコンナノワイヤー分離の工程では、実験条件はH2O:400ml、HF:100ml、H2O2:80mlでエッチング時間は≧10minsであった。
【0037】
図6(a)にはシリコンウエハー、同(b)~(d)には銀粒子の作製の工程~シリコン基板からのシリコンナノワイヤー配列薄膜の分離の工程((ツーステップ1)、同(f)、(g)(ツーステップ2としての追加の工程)にはシリコンナノワイヤー配列薄膜からの銀の除去の工程をそれぞれ示す。
【0038】
シリコンナノ構造1の製造をワンステップで行う場合と、ツーステップで行う場合を対比すると以下のようである。ワンステップで行う場合、ポーラスシリコンナノワイヤーの長さLが10μm以下になる。ツーステップで行う場合で、長いものは表面積が大きくなり、リチウムイオンの固相-液相移動に伴う抵抗が小さくなるので、高出力が用途に適している。一方、短いものはリチウムイオンの挿入・脱離に伴う構造崩壊が起きづらく、長寿命化に有利である。
【0039】
ツーステップの製造法(
図6)において、シリコンナノワイヤー配列の作成の工程でH
2O:400ml、HF:100ml、H
2O
2:50.1ml、エッチング時間は10min、シリコン基板からのシリコンナノワイヤー配列薄膜の分離の工程でH
2O:40ml、HF:8ml、H
2O
2:8.35ml、エッチング時間は5minとしてシリコンナノ構造11(実験例1)を製造した。
また、ワンステップの製造法(
図7)において、銀粒子の作製の工程でエッチング時間30secs、シリコンナノワイヤーの作製とシリコン基板からのシリコンナノワイヤー分離の工程でエッチング時間は10minとしてシリコンナノ構造21(実験例2)を製造した。
【0040】
シリコンナノ構造11において、銀の除去を行わなかったシリコンナノ構造31(実験例3)を製造した。すなわちシリコンナノ構造31(実験例3)は触媒量の銀を含む。
【0041】
(シリコンナノ構造の構造分析)
金属援用エッチングにより製造したシリコンナノ構造11(実験例1)に対してSEM像を取得した。
【0042】
図9(a)に示すシリコンナノ構造11(実験例1)は、厚みd1(t)が5.48μmのシリコンポーラス層12と、厚みd2が3.23μmのポーラスシリコンナノワイヤー層23を備える。なお、ポーラスシリコンナノワイヤー層23の厚みd2は、ポーラスシリコンナノワイヤーの長さが最長と推定されるL1のところの厚みとした。同図(b)に示すポーラスシリコンナノワイヤー13の直径d3は75.3nmであった。同図(c)に示す第1のポーラス14の開口部の直径d4は、16.9nmであり、複数観察された第1のポーラス間の間隔d5は、7.30nmであった。同図(d)に示すように、第2のポーラスは、白っぽい領域のポーラスシリコンナノワイヤーのシリコン組織の間の黒っぽい領域である、例えば第2のポーラス16として観察することができた。第2のポーラス16の開口部の直径は、10nmのスケールと対比すると、数nm~10nmであった。
【0043】
図10(a)に示すシリコンナノ構造21(実験例2)は、厚みd7(t)が1.818μmのシリコンポーラス層12´と、厚みd8が8.455μmのポーラスシリコンナノワイヤー層23´を備える。なお、ポーラスシリコンナノワイヤー層23´の厚みd8は、ポーラスシリコンナノワイヤーの長さが最長と推定されるL2のところの厚みとした。なお長さL2のポーラスシリコンナノワイヤー周辺に長さ4.092のμmポーラスシリコンナノワイヤーが観察されたが、SEM像を測定するときにポーラスシリコンナノワイヤーが壊れて短くなっていたものと思われる。同図(b)では、例えば、長さL2の先端を頂上とする略山型に観察された、ポーラスシリコンナノワイヤーの集まりが黒っぽくなっていた。そして、複数の略山型のポーラスシリコンナノワイヤーの集まりの谷に該当する部分は白っぽくなり、その部分はシリコンポーラス層12´のポーラスシリコンナノワイヤー側の表面に該当していた。
【0044】
(シリコンナノ構造・単層カーボンナノチューブ複合体の製造)
シリコンナノ構造11(実験例1):単層カーボンナノチューブ=1:2(質量比)として、シリコンナノ構造・単層カーボンナノチューブ複合体17(実施例1)を次のようにして製造した。作用電極を作製するために、シリコンナノ構造11と単層カーボンナノチューブ(名城ナノカーボン(EC2.0)をポリフッ化ビニリデンバインダー(10wt%)とエタノールに分散させた。 得られたスラリーをCu箔に貼り付け、使用前に80°Cで少なくとも2時間真空乾燥しました。
【0045】
シリコンナノ構造31(実験例3):単層カーボンナノチューブ=1:2(質量比)として、シリコンナノ構造・単層カーボンナノチューブとの複合体27(実施例2)を次のようにして製造した。作用電極を作製するために、シリコンナノ構造31(実験例3)と単層カーボンナノチューブをポリフッ化ビニリデンバインダー(10wt%)とエタノールに分散させた。 得られたスラリーをCu箔に貼り付け、使用前に80°Cで少なくとも2時間真空乾燥した。実施例1、2では、集電体との一体構造の観点から、カーボンナノチューブとして単層カーボンナノチューブを使用したが、前述したように、多層カーボンチューブ、さらには、カーボンナノファイバー、グラフェン等を使用することができる。
【0046】
本発明に係る電極組成(シリコンナノ構造:ナノカーボン)については、電極内の導電性の維持という観点からはカーボンの割合が高い方が望ましく、電極全体のエネルギー密度を向上させるという観点からはシリコンナノ構造の割合が高い方が望ましい。これらのバランスを考慮すると、シリコンナノ構造:ナノカーボンの質量比は、9:1~1:9が好ましく、4:1~1:4がより好ましく、2:1~1:2がさらに好ましい。
【0047】
図11のSEM像に示すように、シリコンナノ構造・単層カーボンナノチューブ複合体17(実施例1、PSiNW)では、複数の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は網目状を形成し、その網目状のSWCNTはPSiNWと絡み合っていることが分かる。
【0048】
(負極電極の作成)
シリコンナノ構造・単層カーボンナノチューブ複合体17(実施例1):PVDF(ポリフッ化ビニリデン)=9:1(質量比)で各成分組成を十分によく混合して負極電極(WE、実施例3)を作成した。活物質量としては0.186mgであり、電極全体としては0.207mgであった。また、実施例3においてシリコンナノ構造・単層カーボンナノチューブ複合体17(実施例1)の代わりにシリコンナノ構造・単層カーボンナノチューブ複合体27(実施例2)を用いて負極電極(WE、実施例4)を作成した。活物質量としては0.060mgであり、電極全体としては0.0667mgであった。
【0049】
一方、Si(シリコンナノ構造11、実験例1):カーボンブラック:PVDF(ポリフッ化ビニリデン)=6:3:1(体積比)で各成分組成を十分によく混合して負極電極(WE、実験例4)を作成した。活物質量としては0.792mgであり、電極全体としては、1.980mgであった。
【0050】
図12に示すように、サイクル特性評価のためのセル30の構成は、上部ハウジング32、下部ハウジング34と押圧部31を備える。上部ハウジング32は上部フランジ32a、貫通孔32b、押圧部31は押圧ピン31a、下部ハウジング34は下部フランジ34aとピン34bをそれぞれ有する。分離ガラスファイバーフィルター35を間に挟んだCE(金属Li、陽極電極)40とWE(作成した電極、負極電極)41は、押圧ピン31aによって、CEの上側にセットされた押圧ブロック33が、下方に押圧されることにより、下部ハウジング34の上面に固定される。セル30に対する通電(充電、放電)は導線38、39を通じて行われる。
【0051】
セル30から取り出された、実施例3のWE(作成した電極、負極電極)は、
図13に示したように、ピンセット50で摘まめるような略円形の黒色平膜状のもの51であった。
【0052】
(負極電極のサイクル特性)
押圧ブロック33の下方への押圧は、ピン34bに蝶ナット41を螺合することによって行った。押圧部31の上部ハウジング32への押圧はOリング36、上部フランジ32aの下部フランジ34aへの押圧は、Oリング37を介した。サイクル特性は、1M LiPF6(EC(エチレンカーボネート):DEC(ジエチルカーボネート)=1:1(質量比))を電位液として評価した。
【0053】
実施例3の負極電極特性は定電流充放電測定により評価した。具体的にはセル30に対して200mA/gでの放電‐充電を3サイクル行った後、1000mA/gでの放電‐充電サイクルを100サイクルを行うことによってサイクル特性を評価した。
図14(a)に示すように、1000mA/gでの充電(リチウム放出過程)については、充電1サイクル目の容量は1551.6mAhg
-1、50サイクル目の充電は1839.9mAhg
-1、そして100サイクル目の容量は1965.6mAhg
-1であった。充電された容量を比較すると、50サイクル目の容量/1サイクル目の放電=1839.9mAhg
-1/1551.6mAhg
-1=1.19、100サイクル目の容量/50サイクル目の放電=1965.6mAhg
-1/1551.6mAhg
-1=1.07である。すなわち特性維持率については100%を超えた。
【0054】
さらに、放電(リチウム吸蔵過程)と充電(リチウム放出過程)の結果からクーロン効率(充電容量/放電容量)を算出した結果については次のようである。セルを構築した直後の充放電(200mA/g)では、初回サイクルにおける放電容量が8132.8mAhg-1、充電容量2384.0mAhg-1であり、クーロン効率は29.3%と低いものであったが、この値は2サイクル目に解消され、200mA/gでの充放電2サイクル目におけるクーロン効率は69.8%(放電容量が3281.5mAhg-1、充電容量2292.1mAhg-1)まで改善した。これは初回サイクルでは、外部電源から与えられた電気量の一部が、シリコンナノワイヤーや単層カーボンナノチューブにおける電解液の分解反応(SEI被膜形成反応)に使われたためだと考えられる。2サイクル目以降でクーロン効率が改善したのは、1サイクル目で形成されたSEI被膜が電解液の分解を抑制する絶縁膜として機能したためだと考えられる。また、このSEI被膜は強固であり、3サイクル目以降のクーロン効率は高い水準で遷移する。具体的には1000mA/gの充放電においては、100サイクルのクーロン効率の平均値は95.7%であり、100サイクル目におけるクーロン効率は97.3%(放電容量1965.5mAhg-1、充電容量1912.6mAhg-1)であった。
【0055】
実施例4の負極電極のサイクル特性も、セル30に対して1000mA/gで充電した後、放電を行うサイクルを1サイクルとして、100サイクルを行うことによって評価した。
図15(a)に示すように、充電については、充電1サイクル目の容量は552.7mAhg
-1、50サイクル目の充電は415.3mAhg
-1、そして100サイクル目の容量は498.7mAhg
-1であった。充電された容量を比較すると、50サイクル目の容量/1サイクル目の放電=415.3mAhg
-1/552.7mAhg
-1=0.75、100サイクル目の容量/1サイクル目の放電=498.7mAhg
-1/552.7mAhg
-1=0.9である。すなわち特性維持率については90%であった。
【0056】
図15(b)から次のことが分かった。カーボンナノチューブが集電体とシリコンナノ構造を固定化の役割を果たし、シリコンナノ構造が膨張・剥離なしにリチウムの吸収・放出を行えている。また、集電体のカーボンナノチューブに様々な地点で接触しているため抵抗増加が抑制されている。一方で、銀を除去するために酸化膜が形成され、そのために容量値が減少することが分かった。
【0057】
実施例3、4の負極電極共に従来技術と比較すると次のことが言える。シリコンナノ構造と集電体の密着性が課題で、従来密着性の向上のために、結着材が用いられてきた。集電体であるカーボンナノチューブとシリコンナノ構造が密着した構造であり電気的ロスが小さい。
特に実施例4については次のようであった。表面が完全にシリコンであるため、酸化膜が形成された実施例3と比べ高い容量を示した。
2次電池の高容量化は電気自動車などの高出力なデバイスへの展開が期待できる。また高容量化によって電池自体の小型化が可能でありIoTデバイスやドローン市場への展開も見込める。