(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183472
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】診察シミュレータ
(51)【国際特許分類】
G16H 10/20 20180101AFI20231221BHJP
【FI】
G16H10/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097002
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】520354795
【氏名又は名称】株式会社ビーライズ
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】波多間 俊之
(72)【発明者】
【氏名】林 健司
(72)【発明者】
【氏名】石原 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】服部 稔
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 勇
(72)【発明者】
【氏名】蓮沼 直子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信也
(72)【発明者】
【氏名】粟井 和夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 之紀
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA04
(57)【要約】
【課題】ユーザが容易に症例データを作成、追加することができる診察シミュレータを提供する。
【解決手段】診察シミュレータ1は、健常者の状態を表す健常者データHD及び患者の症例を表す症例データCDが格納される症例データベース121と、症例データCDに基づいて、診察に係る被験者の選択項目及び選択項目に対して患者から得られる診察情報を、画像情報及び音声情報の少なくともいずれかによって被験者に提示する提示部21と、提示部21の動作を制御する制御部11と、を備える。また、症例データCDは、健常者データHDとの差分データである。制御部11は、診察情報が症例データCDに格納されている場合、症例データCDの診察情報を提示部21に提示させ、診察情報が症例データCDに格納されていない場合、健常者データHDの診察情報を提示部21に提示させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
健常者の状態を表す健常者データ及び患者の症例を表す症例データが格納される症例データベースと、
前記症例データに基づいて、診察に係る被験者の選択項目及び前記選択項目に対して患者から得られる診察情報を、画像情報及び音声情報の少なくともいずれかによって前記被験者に提示する提示部と、
前記提示部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記症例データは、前記健常者データとの差分データであり、
前記制御部は、
前記診察情報が前記症例データに格納されている場合、前記症例データの前記診察情報を前記提示部に提示させ、
前記診察情報が前記症例データに格納されていない場合、前記健常者データの前記診察情報を前記提示部に提示させる、
ことを特徴とする診察シミュレータ。
【請求項2】
健常者の状態を表す健常者データ及び患者の症例を表す症例データが格納される症例データベースと、
前記症例データに基づいて、診察に係る被験者の選択項目及び前記選択項目に対して患者から得られる診察情報を、画像情報及び音声情報の少なくともいずれかによって前記被験者に提示する提示部と、
前記提示部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
患者の症例を表す前記健常者データとの差分データを外部記憶手段から取得して、
前記健常者データの複製データに前記差分データを上書きして前記症例データを作成する、
ことを特徴とする診察シミュレータ。
【請求項3】
シミュレーションを行う診察項目は、問診及び身体診察を含み、
前記身体診察は、視診、触診及び器具診察を含み、
前記症例データは、前記身体診察の項目ごとに予め定められた診察部位の前記診察情報を含む、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の診察シミュレータ。
【請求項4】
前記症例データは、症例ごとに作成された症例フォルダに格納され、
前記症例フォルダは、前記身体診察の項目ごとのサブフォルダである診察フォルダを有し、
前記診察フォルダは、前記診察部位ごとのサブフォルダである部位フォルダを有し、
前記診察部位の前記診察情報は、前記部位フォルダに格納されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の診察シミュレータ。
【請求項5】
前記症例データは、症例ごとに作成された症例フォルダに格納され、
前記症例フォルダは、前記診察情報のデータ種別ごとのサブフォルダであるデータ種別フォルダを有し、
前記診察情報は、データ種別ごとに分類されて前記データ種別フォルダに格納されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の診察シミュレータ。
【請求項6】
前記症例データに格納され、前記問診の内容を表す問診応答データは、前記被験者の質問である前記選択項目及び前記質問に対する患者の応答である前記診察情報をテキストデータとして記録したテキスト形式ファイルである、
ことを特徴とする請求項3に記載の診察シミュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診察シミュレータに関し、より詳細には被験者に対して仮想的に症例を提示して診察行為のシミュレーションを行う診察シミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療行為に係る能力の向上を目的としたシミュレーション技術が種々開発されている。例えば、特許文献1では、身体診察、手技等を行うための患者のシミュレータが提案されている。
【0003】
シミュレーション技術を活用した診察シミュレータは、模擬患者を準備することなく所定の症例の診察を体験できること、仮想現実(VR:Virtual Reality)技術の発達によって臨場感のあるシミュレーションが可能となってきたこと等から、活用が拡がっている。また、近年ではOSCE(Objective Structured Clinical Examination:客観的臨床能力試験)においても医療面接、身体診察等のシミュレーションの活用が拡がっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
診察シミュレータは、症例に関するデータを予め準備することにより症例を体験することができるので、診察シミュレータの活用による医師等の被験者の能力向上が期待される。特許文献1のような身体診察を含むシミュレータに係る症例データは、シミュレーションに用いる画像、音声、動画等の形式の異なる多くのデータを含むデータセットとなる。よって、個々の症例データの構造は複雑で、症例データのデータサイズは大きなものとなる。したがって、従来の診察シミュレータでは、ユーザである医師等が症例データを作成し、診察シミュレータで取り扱う症例を追加することは難しい。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、ユーザが容易に症例データを作成、追加することができる診察シミュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の観点に係る診察シミュレータは、
健常者の状態を表す健常者データ及び患者の症例を表す症例データが格納される症例データベースと、
前記症例データに基づいて、診察に係る被験者の選択項目及び前記選択項目に対して患者から得られる診察情報を、画像情報及び音声情報の少なくともいずれかによって前記被験者に提示する提示部と、
前記提示部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記症例データは、前記健常者データとの差分データであり、
前記制御部は、
前記診察情報が前記症例データに格納されている場合、前記症例データの前記診察情報を前記提示部に提示させ、
前記診察情報が前記症例データに格納されていない場合、前記健常者データの前記診察情報を前記提示部に提示させる。
【0008】
この発明の第2の観点に係る診察シミュレータは、
健常者の状態を表す健常者データ及び患者の症例を表す症例データが格納される症例データベースと、
前記症例データに基づいて、診察に係る被験者の選択項目及び前記選択項目に対して患者から得られる診察情報を、画像情報及び音声情報の少なくともいずれかによって前記被験者に提示する提示部と、
前記提示部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
患者の症例を表す前記健常者データとの差分データを外部記憶手段から取得して、
前記健常者データの複製データに前記差分データを上書きして前記症例データを作成する。
【0009】
また、シミュレーションを行う診察項目は、問診及び身体診察を含み、
前記身体診察は、視診、触診及び器具診察を含み、
前記症例データは、前記身体診察の項目ごとに予め定められた診察部位の前記診察情報を含む、
こととしてもよい。
【0010】
また、前記症例データは、症例ごとに作成された症例フォルダに格納され、
前記症例フォルダは、前記身体診察の項目ごとのサブフォルダである診察フォルダを有し、
前記診察フォルダは、前記診察部位ごとのサブフォルダである部位フォルダを有し、
前記診察部位の前記診察情報は、前記部位フォルダに格納されている、
こととしてもよい。
【0011】
また、前記症例データは、症例ごとに作成された症例フォルダに格納され、
前記症例フォルダは、前記診察情報のデータ種別ごとのサブフォルダであるデータ種別フォルダを有し、
前記診察情報は、データ種別ごとに分類されて前記データ種別フォルダに格納されている、
こととしてもよい。
【0012】
また、前記症例データに格納され、前記問診の内容を表す問診応答データは、前記被験者の質問である前記選択項目及び前記質問に対する患者の応答である前記診察情報をテキストデータとして記録したテキスト形式ファイルである、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、症例データを健常者データとの差分データとして構成するので、ユーザが容易に症例データを作成し、追加することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係る診察シミュレータの機能ブロック図である。
【
図2】症例データベースに格納される症例データの構成を示す図である。
【
図3】身体診察の診察部位の例を示す図であり、(A)は視診の診察部位、(B)は聴診の診察部位を示す図である。
【
図4】実施の形態に係る診察シミュレーションの流れを示すフローチャートである。
【
図5】VR空間上に提示される患者及び選択項目の例を示す図である。
【
図6】診察シミュレーションにおける問診の流れを示すフローチャートである。
【
図8】診察シミュレーションにおける身体診察の流れを示すフローチャートである。
【
図9】変形例に係る症例データベースに格納される症例データの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図を参照しつつ、本発明に係る実施の形態について説明する。本実施の形態では、仮想現実(VR:Virtual Reality)技術を用いて、被験者である医学生、研修医等に、仮想的に所定の症例の患者を医療面接(問診)及び身体診察させる診察シミュレータ1について説明する。
【0016】
図1のブロック図に示すように、診察シミュレータ1は、制御ユニット10、提示部21、操作部22を備えている。また、制御ユニット10は、制御部11、記憶部12、通信部13を備える。
【0017】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等から構成されており、診察シミュレータ1全体の動作を制御する。また、制御部11は、制御部11のROM、記憶部12等に記憶されている各種動作プログラム及びデータをRAMに読み込んでCPUを動作させることにより、
図1に示される制御部11の各機能を実現させる。これにより、制御部11は、データ取得部111、出力制御部112、入力制御部113として動作する。
【0018】
データ取得部111は、通信部13を介して接続された記憶媒体、外部コンピュータ等から、症例に係るデータである症例データCD-n(nは症例の番号を示す数)を取得する。以下、個々の症例に関するデータを症例データCD-n、症例データ一般を症例データCDという。取得する症例データCDは、各症例において患者に表れる症状に係る画像、音声等のデータ、問診時の応答を表すテキストデータ等を含む。また、症例データCDは、健常者の状態を示すデータ(以下、健常者データHDという。)に対する差分データとして構成される。より具体的には、症例データCDは、少なくとも各症例について健常者と異なる画像、音声、応答に係る診察情報等を含むデータセットとして構成されている。
【0019】
出力制御部112は、後述する提示部21を制御して、症例データCDの画像、テキスト等の視覚情報、音声等の聴覚情報を被験者に提示させる。
【0020】
入力制御部113は、後述する操作部22を制御して、被験者による診察項目選択等の入力に係る情報を取得する。
【0021】
通信部13は、制御ユニット10と提示部21、操作部22とを接続し、被験者からの入力情報の受信、提示部21への出力情報の送信等を行う。また、通信部13は、制御ユニット10と記憶媒体、外部コンピュータ、ネットワークを介したサーバ等の外部記憶手段とを接続し、症例データCDのインポート等、データの送受信を行う。通信部13は、これらの機器と有線接続されることとしてもよいし、無線接続されることとしてもよい。例えば、制御ユニット10と提示部21及び操作部22とは無線接続され、制御ユニット10と外部コンピュータとは有線接続されるように構成することができる。
【0022】
記憶部12は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリであり、診察シミュレータ1を動作させるためのプログラム、データ等を記憶する。また、記憶部12は、健常者データHD及び症例データCDを格納する症例データベース121を有する。健常者データHD及び症例データCDは、予め記憶部12の症例データベース121に格納されていてもよいし、診察シミュレーションの実行時にインポートされてもよい。
【0023】
症例データベース121に格納される健常者データHD及び個々の症例データCD-nは、
図2に示すように、上位フォルダである症例フォルダに、各症例に関するデータが格納されるように構成されている。症例フォルダには、問診における被験者の質問に係る選択項目及びこれに対する患者の応答(診察情報)を含む問診応答データが格納される。問診の内容を表す問診応答データは、提示部21に提示される質問項目と応答の文字情報を保存するものであり、例えばcsv形式、txt形式、json形式等のテキスト形式ファイルである。本実施の形態では、問診応答データを一般的なcsv形式とすることにより、医師等の医療従事者が容易に症例データCD-nを作成、追加することができる。
【0024】
また、症例フォルダには、聴診、触診、器具診察等、身体診察の項目ごとのサブフォルダである診察フォルダが格納される。診察フォルダには、身体診察の種類によって選択可能な各部位に対応するサブフォルダである部位フォルダが格納される。部位フォルダは、身体診察の対象として予め定められた部位(
図3(A)、(B))ごとに設けられ、その部位を診察することによって得られる情報に係る画像データ、音声データ等の診察情報が格納される。
【0025】
健常者データHDの問診応答データは、診察シミュレータ1において想定される全ての質問と応答に係る診察情報とを含む。また、健常者データHDは、診察シミュレータ1において想定される全ての種類の身体診察に係る診察フォルダ、部位フォルダを有し、各部位フォルダには、診察結果を示す診察情報が格納される。
【0026】
症例データCD-nの問診応答データは、健常者データHDの問診応答データに対する差分データであり、各症例において特徴的な質問と応答に係る情報を含み、健常者と同様の応答等の情報は除外されていてもよい。これにより、症例データCD-nの作成が容易になるので、医師等のユーザが追加の症例データCD-nを容易に作成、追加することができる。また、症例データCD-nのデータサイズを小さくするとともに、症例データCD-nの追加、更新の際の処理時間、通信時間を削減することができる。
【0027】
提示部21は、モニタ、プロジェクタ等の映像出力装置を含み、被験者に対して患者の姿、問診及び身体診察における選択項目等を画像情報(視覚情報)として提示する。また、提示部21は、スピーカ等の音声出力装置を含み、被験者の診察行為によって得られる診察情報を画像情報及び音声情報(聴覚情報)の少なくともいずれかで被験者に提示する。本実施の形態に係る提示部21は、ヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD31という。)である。
【0028】
HMD31は、被験者に画像情報を提示する液晶パネル、有機EL(Electro-Luminescence)等の表示用デバイスと、被験者に音声情報を提示するスピーカとを備え、被験者の頭部に装着されて、提示部21として機能する。
【0029】
操作部22は、提示部21に提示される選択項目から、被検者の選択入力を受け付け、選択入力に係る情報を制御部11へ送信する。
【0030】
本実施の形態に係る操作部22は、HMD31に画像情報として提示される3次元空間上で入力項目の選択等を行うハンドコントローラ(以下、コントローラ32という。)であり、通信部13を介して制御ユニット10に接続される。本実施の形態では、被験者が手に持って操作するコントローラ32を用い、VR空間の中で被験者自身の手と同じ位置に仮想的な手を表示する。これにより、被験者は自身の手を動かすように患者に対して聴診、打診等の身体診察に係る操作を直感的に行うことができる。
【0031】
続いて、
図4のフローチャートに基づいて診察シミュレータ1を用いた診察シミュレーションについて説明する。
【0032】
まず、準備ステップとして、症例データCDのインポートを行う(ステップS11)。本実施の形態に係る症例データベース121には、予め健常者データHDが格納されている。また、症例データベース121には、予め症例データCDが格納されていてもよいが、本実施の形態に係る症例データベース121には、初期状態において症例データCDは格納されていないものとする。
【0033】
症例データCDのインポートは、制御ユニット10と記憶媒体、コンピュータ、サーバ等の外部記憶手段とを接続することによって行う。症例データCDの読み込みに係る操作方法は特に限定されないが、例えば、被験者が提示部21であるHMD31を装着し、操作部22であるコントローラ32を操作することにより行う。データ取得部111は、接続された記憶媒体等から個々の症例データCD-nを読み込む。上述したように症例データCD-nは、健常者データHDに対する差分データであり、各症例において特徴的な情報である問診時の応答、身体診察で得られる情報等を含む。これにより、症例データCD-nのデータサイズを小さくし、通信時間を削減することができる。
【0034】
データ取得部111は、読み込んだ症例データCD-nを記憶部12の症例データベース121に格納する。症例データCDの読み込みが完了した後、被験者は、HMD31を装着するとともに、コントローラ32を手に持って、診察シミュレーションを開始する(ステップS12)。
【0035】
続いて診察ステップとして、予め選択されている症例に係る症例データCD-nに基づいて、患者の氏名、年齢、性別、主訴等の基本情報が被験者に提示される(ステップS13)。これらの基本情報は、HMD31に文字情報として表示される。本実施の形態では、シミュレーションを行う症例は予め設定されていることとしたが、準備ステップにおいて、被験者が選択することとしてもよい。この場合、出力制御部112は症例データベース121に格納されている症例データCDに係る症例のリストをHMD31に表示する。そして、被験者は表示された症例のリストからシミュレーションを行う症例をコントローラ32で選択することとすればよい。
【0036】
被験者は、基本情報を確認した後、HMD31に表示された項目から患者の呼び込みを選択して、診察を開始する(ステップS14)。患者がVR空間上の診察室に呼び込まれると、
図5に示すように、被験者の行為に係る選択項目が、HMD31に表示される。以下、被験者の行為に係る選択項目は、HMD31に表示され、被験者はコントローラ32を用いて表示された項目を選択入力することにより、診察に係る行為を選択する。
【0037】
一般的に診察は、問診(ステップS15)を行った後に身体診察(ステップS16)を行うという順序で進められる。本実施の形態に係る診察シミュレータ1では、被験者が、HMD31に表示される問診及び各種身体診察に係る選択項目から診察行為を選択して、シミュレーションを進める。
【0038】
図6は、問診(ステップS15)の詳細な流れを示すフローチャートである。問診のシミュレーションにおいて、出力制御部112は健常者データHDの症例フォルダに格納されている問診応答データに基づいて、問診に係る質問項目をテキストデータとしてHMD31に表示させる(ステップS21)。質問等の選択項目は、被験者の取り得る行為をカテゴリごとにまとめた階層構造となっている。これにより、HMD31に選択項目を表示した際、被験者が選択項目を選択し易くなっている。
【0039】
被験者は、表示された選択項目のいずれかを選択することで、患者に質問を行う(ステップS22)。
図7に示すように、問診応答データには、質問に係る選択項目及びそれに対する応答である診察情報の組ごとに識別番号(ID)が付与されている。また、各症例データCD-nは、主に当該症例に特徴的な応答とこれに関する質問との組が記録された差分データであるので、症例データCD-nには含まれない選択項目及び応答の組が存在する。出力制御部112は、症例データCD-nの問診応答データに、ステップS22で選択された項目に係るデータが存在するか否か検索する(ステップS23)。データが存在する場合(ステップS24のYES)、出力制御部112は、症例データCD-nの問診応答データから対応する応答をHMD31に提示させる(ステップS25)。
【0040】
出力制御部112は、例えば
図7におけるID152のように、症例データCD-nに含まれない識別番号の選択項目及び応答については(ステップS24のNO)、健常者データHDに格納されている問診応答データを参照して、応答をHMD31に提示させる(ステップS26)。
【0041】
問診を継続する場合(ステップS27のNO)、被験者はステップS21~S26を繰り返して問診を行う。問診を終了する場合(ステップS27のYES)、被験者はHMD31に表示される選択項目を選択することにより、問診を終了し身体診察を行う(ステップS16)。
【0042】
図8は、身体診察(ステップS16)の詳細な流れを示すフローチャートである。
図8のフローチャートに示す身体診察において、出力制御部112は、聴診、触診等の診察項目をHMD31に表示させる(ステップS31)。被験者は、コントローラ32を用いて、HMD31に表示された診察項目から診察を行う項目を選択する(ステップS32)。診察項目が選択されると、出力制御部112は、選択した診察項目ごとに予め設定された診察部位の選択項目をHMD31に表示させる(ステップS33)。
【0043】
被験者は、コントローラ32を操作して、HMD31に表示された診察部位を選択する(ステップS34)。出力制御部112は、症例データCD-nから選択された診察部位に対応する診察情報を読み出す。より具体的には、出力制御部112は、症例データCD-nの診察フォルダから、選択された診察部位の部位フォルダを検索する(ステップS35)。
【0044】
症例データCD-nは、健常者データHDとの差分データとなっているので、症例データCD-nの症例フォルダに選択された診察部位の部位フォルダが存在しない場合がある。選択された診察部位の部位フォルダが存在する場合(ステップS36のYES)、出力制御部112は、部位フォルダに格納されている診察情報を読み出し、HMD31に提示させる(ステップS37)。また、選択された診察部位の部位フォルダが存在しない場合(ステップS36のNO)、出力制御部112は、健常者データHDから選択された診察部位に係る診察情報を読み出し、HMD31に提示させる(ステップS38)。
【0045】
上述したように、選択項目に対応する問診の応答、身体診察の結果等の診察情報は、テキスト、画像、音声等で提示される。診察情報の形式は、診察の種類、部位等によって異なる。例えば、胸部の聴診に係る情報は、音声情報として症例データCDに格納されており、出力制御部112は、音声情報をHMD31のスピーカを介して聴覚情報として提示する。また、視診に係る情報は、静止画情報、動画情報等として症例データCDに格納されており、出力制御部112は、静止画情報、動画情報等をHMD31のモニタ、スピーカを介して視覚情報、聴覚情報として提示する。これにより、診察の臨場感を高めるとともに、症例に係る詳細な情報を提示することができる。
【0046】
身体診察を継続する場合(ステップS39のNO)、被験者はステップS31~S38を繰り返し、各種の身体診察を行う。被験者がHMD31に表示される選択項目から終了を選択した場合、予め設定された所定の時間が経過した場合等、終了条件が充足されると(ステップS39のYES)、診察シミュレーションは終了する。
【0047】
以上説明したように、本実施の形態に係る診察シミュレータ1によれば、個々の症例を表す症例データCD-nを健常者データHDに対する差分データとして構成するので、新たな症例を追加する際、症例データCD-nの作成が容易となる。したがって、医師等のユーザが、診察シミュレータ1へ容易に症例を追加することが可能となる。これにより、多様な症例の診察シミュレーションを行うことができる。また、症例データCD-nのデータサイズを小さくすることができるので、診察シミュレータ1への症例データCD-nのインポートに要する時間を削減することができる。また、症例データベース121のデータ容量を小さくすることができるので、症例データベース121に格納可能な症例データCD-nの数、すなわちシミュレーション可能な症例数を増加させることができる。
【0048】
また、本実施の形態に係る症例データCDは、症例フォルダに問診応答データ及び診察フォルダが格納され、各診察フォルダに診察情報が格納されるという簡素な構造となっている。したがって、ユーザがより容易に症例データCD-nを作成することができる。
【0049】
また、本実施の形態に係る診察シミュレータ1は、VR技術を用いて仮想的に診察を行うこととしている。これにより、被験者は、時間、場所等に拘束されず、臨場感のある診察シミュレーションを行うことが可能となる。
【0050】
本実施の形態では、制御部11及び記憶部12を備える制御ユニット10は、提示部21、操作部22と無線接続されることとしたが、これに限られない。例えば、制御ユニット10は、提示部21であるHMD31又は操作部22であるコントローラ32に内蔵されることとしてもよい。これにより、診察シミュレータ1の構成を簡素化できるので、診察シミュレータ1を容易に持ち運ぶことができる。したがって、小規模の病院、大学等の教育機関等に診察シミュレータ1を搬送し、手軽に診察シミュレーションを行うことができる。
【0051】
また、本実施の形態に係る症例データベース121は、症例データCD-nを健常者データHDとの差分データとして格納することとしたが、これに限られない。例えば、症例データベース121のデータ容量が十分大きい場合、制御部11は、患者の症例を表す健常者データHDとの差分データ、すなわち上記実施の形態に係る症例データCD-nに相当するデータをインポートし、健常者データHDの複製データに、インポートした差分データを上書きすることにより、全ての選択項目及び診察情報に係るデータを有する症例データCD-nを作成することとしてもよい。これにより、症例データCD-nの作成を容易にし、インポート処理を効率化するとともに、差分データに含まれない項目が選択された場合の処理を簡素化、高速化することができる。
【0052】
また、本実施の形態では、健常者データHD及び症例データCD-nは、症例フォルダに診察フォルダ、部位フォルダ等が格納された階層構造であることとしたが、これに限られない。例えば、
図9に示すように、テキストデータ、動画データ(mp4ファイル)、画像データ(jpegファイル)等データ種別ごとのフォルダであるデータ種別フォルダを設け、データ種別フォルダに診察情報を格納することとしてもよい。上述の実施の形態と同様に、テキストデータ、動画データ、画像データ等のデータフォーマットは特に限定されず、例えば、テキストデータとしてcsvファイル、動画データとしてmp4ファイル、画像データとしてjpegファイルを用いることができる。また、jpegファイルとpngファイルのように、同じデータ種別で異なる複数のファイルフォーマットを用いることとしてもよい。
【0053】
上記のように、データ種別ごとのフォルダ構成とする場合、問診における質問、身体診察における診察項目及び部位ごとに、対応するデータ種別の診察情報が予め付与されたID、ファイル番号等によって関連付けられていることとすればよい。そして、診察シミュレータ1は、被験者の診察行為に対応するデータ種別のフォルダから選択された診察情報を被験者に提示することとすればよい。これにより、健常者データHD及び症例データCD-nの構造がより簡素になり、ユーザが容易に健常者データHDとの差分データである症例データCD-nを作成することが可能となる。
【0054】
本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される種々の変更によって得られる実施の形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、医学分野における臨床能力向上のためのトレーニングに好適である。特に、医師免許取得前の医学生、臨床経験の少ない研修医等の臨床能力向上に好適である。
【符号の説明】
【0056】
1 診察シミュレータ、10 制御ユニット、11 制御部、111 データ取得部、112 出力制御部、113 入力制御部、12 記憶部、121 症例データベース、13 通信部、21 提示部、22 操作部、31 HMD、32 コントローラ、HD 健常者データ、CD 症例データ