(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183505
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
H01J37/20 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097052
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小辻 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】横須賀 俊之
(72)【発明者】
【氏名】川野 源
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA03
5C101EE65
5C101EE68
5C101FF02
5C101FF15
5C101FF25
5C101FF49
(57)【要約】
【課題】荷電粒子線の制御に影響を与えることなく、除電あるいは帯電制御を可能にする。
【解決手段】荷電粒子線装置は、連結部材13を介して試料室14に取り付けられるプラズマ生成装置11と、プラズマ生成装置で発生したプラズマをステージの方向に導く中空部を備えるガイド12と、ステージ7に電圧を印加する第1の電圧源15と、プラズマ生成装置及びガイドを所定の電位とする第2の電圧源16とを有し、ガイドは、荷電粒子線が通過する対物レンズ5の開口を避けて、その先端が対物レンズとステージとの間に位置するように配置される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置するステージを備える試料室と、
前記試料に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子線光学系と、
連結部材を介して前記試料室に取り付けられるプラズマ生成装置と、
前記プラズマ生成装置で発生したプラズマを前記ステージの方向に導く中空部を備えるガイドと、
前記ステージに電圧を印加する第1の電圧源と、
前記プラズマ生成装置及び前記ガイドを所定の電位とする第2の電圧源とを有し、
前記荷電粒子線光学系は、前記荷電粒子線を前記試料上に集束させる対物レンズを備え、
前記ガイドは、前記荷電粒子線が通過する前記対物レンズの開口を避けて、その先端が前記対物レンズと前記ステージとの間に位置するように配置される荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記ガイドの先端から前記試料に照射されるプラズマまたは前記プラズマによって生じた荷電粒子により前記試料が除電される、または前記試料の帯電が制御される荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記第2の電圧源による前記プラズマ生成装置及び前記ガイドの電位は、前記第1の電圧源による前記ステージの電位と等しくされる荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記連結部材は、前記プラズマ生成装置を前記試料室から電気的に絶縁する荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記対物レンズはアウトレンズ型対物レンズであって、
前記ガイドの先端は、前記アウトレンズ型対物レンズの下磁路と前記ステージとの間に配置される荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記ガイドの先端に、軸対称である中空の電極部材が接続され、
前記対物レンズは軸対称構造であり、
前記電極部材の中心軸と前記対物レンズの中心軸とは一致するように配置される荷電粒子線装置。
【請求項7】
試料を載置するステージと前記ステージに対向して配置されるトラップ板とを備える試料室と、
前記試料に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子線光学系と、
連結部材を介して前記試料室に取り付けられるプラズマ生成装置と、
前記プラズマ生成装置で発生したプラズマを前記ステージの方向に導く中空部を備えるガイドと、
前記ステージに電圧を印加する第1の電圧源と、
前記プラズマ生成装置及び前記ガイドを所定の電位とする第2の電圧源とを有し、
前記荷電粒子線光学系は、前記荷電粒子線を前記試料上に集束させる対物レンズを備え、前記トラップ板は前記対物レンズと前記ステージとの間に配置され、
前記ガイドは前記トラップ板と接続されるとともに、前記トラップ板の前記ステージに対向する面に照射口が設けられ、前記ガイドの前記中空部と前記照射口とは前記トラップ板の内部空間で介してつながっている荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記トラップ板の前記照射口から前記試料に照射されるプラズマまたは前記プラズマによって生じた荷電粒子により前記試料が除電される、または前記試料の帯電が制御される荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項7において、
前記ステージは静電チャックにより前記試料を固定する荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項7において、
前記トラップ板は、前記荷電粒子線が通過する通過孔が設けられ、前記トラップ板の前記ステージに対向する面に、前記通過孔を挟んで前記内部空間につながる第1の照射口と第2の照射口とが設けられ、
前記第1の照射口と前記第2の照射口とは、前記ステージの移動方向に沿って設けられる荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項7において、
前記トラップ板は、前記荷電粒子線が通過する通過孔が設けられ、前記照射口は、前記通過孔に対して同心円弧状とされる荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項7において、
前記連結部材は、前記プラズマ生成装置を前記試料室から電気的に絶縁する荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体パターンの微細化および高集積化に伴って、パターンの僅かな形状差がデバイスの動作特性に影響を及ぼす。そのため、デバイスのパターンの形状管理のニーズが高まっている。これに起因して、半導体の検査・計測のために用いられる荷電粒子線装置としての走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)は、高感度・高精度計測が従来に増して求められている。走査電子顕微鏡は、電子を磁場、電界レンズを用いて制御し、試料上を電子でスキャンする。電子ビームスキャンにより試料からは2次電子が放出される。試料から放出された2次電子を検出器において検出し、その信号波形を生成し、例えばピーク(パターンエッジ)間の寸法を測定することが可能に構成される。
【0003】
半導体製造プロセスにおけるウェハ検査において、異物や欠陥などの早期発見は歩留まり向上に繋がるため、欠陥検出を目的としたウェハの全面検査のニーズが高まっているものの、全面検査はスループットの低下に繋がるという問題がある。スループットを上げるため、大電流による低倍率撮像で、広範囲の視野を一度に撮像する検査が考えられるが、低倍率化することで試料の帯電の影響が顕在化し、撮像画像に歪や輝度ムラなどが生じるおそれがある。このように試料の帯電は、SEMの計測精度の低下の原因となるので、帯電を効果的に除去することが求められる。
【0004】
帯電の影響を低減する方法としては、試料を導体でコーティングして帯電を抑制する手法や、照射する一次電子の電圧調整による二次電子のイールド制御などが知られている。しかし、これらの方法は、インライン検査に適用することは難しい。また材料やSEMの撮像条件が帯電状態にも影響するため、試料の材料やパターンに対して個々に調整することは困難で現実的ではない。そのため試料に依存しない帯電除去・帯電制御が必要となる。
【0005】
特許文献1は、試料帯電防止用イオンの生成及び汚染除去用プラズマの生成を行う帯電汚染防止装置を設け、当該装置から選択的にイオンあるいはプラズマを放出して被測定物などに照射することにより、対象の帯電防止および汚染除去を行っている。このとき、放出されるイオンあるいはプラズマは、導入管を用いて試料の電子線の照射位置に向けて放出されている。
【0006】
特許文献2はSEMの一次電子ビーム照射によって生じる帯電量のむらを防止するチャージアップ抑制手段として、プラズマ照射方式のプレチャージユニットを設けている。プレチャージユニットのバイアス電位を0Vにすることにより、ガス圧によりしみだしたプラズマを試料基板に照射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-149449号公報
【特許文献2】特開2014-112087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2では、プレチャージユニットのバイアス電圧を制御することでプラズマ照射を可能にしているが、試料近傍までプラズマを伝搬させる手法については考慮されていない。特許文献1では導入管を用いてプラズマまたはイオンを帯電部位近傍まで伝搬させているが、SEMでは電子ビームを磁場レンズや電界レンズで制御している。しかしながら、導入管を試料付近に挿入することは、SEM内の電子ビームを制御する磁場や電場に影響を与えるおそれがある。
【0009】
本発明は、上記のような課題を鑑みてなされたものであり、荷電粒子線の制御に影響を与えることなくプラズマまたはプラズマによって生じた荷電粒子による除電あるいは帯電制御を可能とする荷電粒子線装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施の形態である荷電粒子線装置は、試料を載置するステージを備える試料室と、試料に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子線光学系と、連結部材を介して試料室に取り付けられるプラズマ生成装置と、プラズマ生成装置で発生したプラズマをステージの方向に導く中空部を備えるガイドと、ステージに電圧を印加する第1の電圧源と、プラズマ生成装置及びガイドを所定の電位とする第2の電圧源とを有し、荷電粒子線光学系は、荷電粒子線を試料上に集束させる対物レンズを備え、ガイドは、荷電粒子線が通過する対物レンズの開口を避けて、その先端が対物レンズとステージとの間に位置するように配置される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、荷電粒子線の制御に影響を与えることなく、除電あるいは帯電制御が可能な荷電粒子線装置を提供することができる。
【0012】
本明細書において開示される主題の、少なくとも一つの実施の詳細は、添付されている図面と以下の記述の中で述べられる。開示される主題のその他の特徴、態様、効果は、以下の開示、図面、請求項により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1に係る荷電粒子線装置の概略図である。
【
図2】プラズマによる試料の除電動作を説明するための図である。
【
図3A】プラズマの挙動を説明するための図である。
【
図3B】プラズマの挙動を説明するための図である。
【
図4】ステージ近傍の電場を説明するための図である。
【
図5】ガイドによる二次電子への影響を説明するための図である。
【
図6】ガイドによる二次電子への影響を説明するための図である。
【
図8】帯電により発生する絶縁破壊を説明するための図である。
【
図9】実施例2に係る荷電粒子線装置の概略図である。
【
図10】照射口から吹き出されたプラズマまたは荷電粒子により除電する様子を示す模式図である。
【
図13】実施例3におけるガイドの先端構造を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
【0015】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【実施例0016】
図1を参照して、実施例1に係る荷電粒子線装置を説明する。この荷電粒子線装置は、一例として、電子銃1と、コンデンサレンズ3と、偏向器4と、対物レンズ5とを含む電子線光学系(荷電粒子線光学系)PSを備える。電子線光学系PSの下方には、試料6を載置するためのステージ7を内部に備える試料室14が設置される。
【0017】
電子銃1によって発生・加速された電子線2(一次電子線)は、コンデンサレンズ3によって集束され、更に対物レンズ5によってステージ7上の試料6上に集束される。偏向器4(走査偏向器)は、試料6の電子線走査領域上で電子線2を走査させる。電子線2を試料6上で走査させながら照射することによって、試料6内で励起された電子が二次電子10として試料6から放出される。放出された二次電子10は、二次電子検出器8により検出され、二次電子検出器8に接続された演算部(図示せず)がその検出信号を画像化する。
【0018】
二次電子検出器8の前段(入射面側)には、エネルギーによる信号電子の分別を可能とするエネルギーフィルタ9が備えられている。エネルギーフィルタ9に印加する電圧を変化させた際の検出信号の変化から、試料6の帯電状態を推定することが可能である。
【0019】
試料6を走査する電子線2(一次電子線)のエネルギーは、電子銃1の加速電圧と電圧源(第1の電圧源)15からステージ7に印加される電圧(リターディング電圧)で決定される。放出される二次電子10の量は、入射される一次電子のエネルギーと関係しており、一次電子2の電子流と二次電子10の電子流の大小関係により、試料6表面の帯電状態が変化する。試料6の帯電量は、試料6の材料特性や形状などによっても変化する。また、試料6の帯電量も、試料6の表面全体において一様ではなく、材料特性や形状などにより、試料6の表面の位置によって変化する分布を有する。
【0020】
本実施の形態の荷電粒子線装置は、プラズマを生成するプラズマ生成装置11を備え、試料6の帯電を除去するため、プラズマ生成装置11から生成したプラズマまたはプラズマによって生じた電子、イオンなどの荷電粒子を試料6が載置されるステージ7に向けて放出する。プラズマ生成装置11は試料室14側にプラズマまたは荷電粒子を試料6に導くガイド12を備えている。ガイド12は、金属によって構成され、プラズマや荷電粒子を移動させるための中空部が設けられている。プラズマや荷電粒子は、中空部を通り、ガイド12の先端から放出される。
【0021】
プラズマ生成装置11は、試料室14の壁面に、絶縁スペーサを有する連結部材13により取り付けられる。絶縁スペーサは、例えばセラミクスなどの絶縁材料から構成され、プラズマ生成装置11を、試料室14から電気的に絶縁する役割を有する。プラズマ生成装置11が試料室14から絶縁されていることにより、プラズマ生成装置11の動作状態にかかわらず、試料室14の電位を安定に維持することができる。さらに、プラズマ生成装置11に接続される電圧源(第2の電圧源)16によって、プラズマ生成装置11およびガイド12の電位は任意に制御可能とされている。なお、電圧源16とは別に、プラズマ生成装置11はプラズマを発生させるための高周波電源(図示せず)などを備えている。
【0022】
図2を参照して、このプラズマ生成装置11からのプラズマPZによる試料6の除電動作について説明する。プラズマPZ中には電子と正イオンとが含まれており、通常は電気的に中性状態である。ここで、試料6が正に帯電していたとして、試料6に対してプラズマPZを照射すると、プラズマPZ中の電子により試料6の正電荷が中和される。その結果、プラズマPZ中の電子が減少し、プラズマPZ中の電荷バランスが崩れ、プラズマPZを介して、最終的には接地電位点まで電流が流れることで試料6が除電される。試料6が負に帯電していた場合もそれぞれの極性が逆になることによって、試料6は同様に除電される。
【0023】
ガイド12の機能について説明する。プラズマ生成装置11で生成されたプラズマPZには指向性がないので、ガイド12がない場合、プラズマPZは、プラズマPZ自身による電界と自然拡散とにより、プラズマ生成装置11から試料室14内に拡散されることになる。電場などが働かなければ、プラズマPZは試料室14内に拡散する。プラズマPZが試料6の帯電が生じさせる電界に引き寄せられることによって試料6の電荷を除去(除電)することができるものの、電子線光学系PS内には、電子線2を制御するためのコンデンサレンズ3などが配置されており、試料室14の内部には電界の分布が存在する。このような電界の分布は、プラズマPZの挙動に影響を与える。コンデンサレンズ3などが与える電界の影響が大きい場合、プラズマPZによる除電動作に影響が生じる場合がある。また、試料6の帯電電荷が与える電界分布より大きな電位を持つ構造物があれば、プラズマPZ中の荷電粒子は当該構造物に引き寄せられることによって、プラズマPZは試料6の帯電を十分に除電することができなくなる。
【0024】
これに対し、ガイド12を設けることによって、プラズマPZを試料6の近傍に導くことができる。ガイド12は金属製であるため、ガイド12内はその長さ方向において同電位となり、外部の電界の影響を受けることなく、試料6にプラズマPZを照射することができる。この結果、プラズマPZ中の電子または正イオンが、試料6の帯電電荷を中和することで、試料6の帯電電荷が除去される。試料6の帯電電荷は、プラズマPZを介してガイド12に除電電流Irとして流れることで除電される。
【0025】
ここで、ステージ7はリターディング電圧が印加可能に構成されている。リターディング電圧は、電子線2の電子を減速させるための電圧である。電子銃1から照射された電子線2は、コンデンサレンズ3や対物レンズ5などで集束され、試料6に照射される。電子銃1から照射される電子線2の加速電圧は、分解能向上を目的に高電圧化が進んでいる。試料6へ照射される電子線2のエネルギーが大きい場合、試料6の表面から発生する二次電子10の発生効率が悪くなり、試料6への帯電が進行する。また、試料6によっては、高エネルギーの電子が照射されるとダメージを受ける場合がある。そのため、試料6へ照射される前に電子を減速させる電圧(リタ―ディング電圧)が、ステージ7に印加される。これにより、画像の高分解能化を図りつつ、試料6へのダメージや帯電を防ぐことができる。リターディング電圧はステージ7に接続された電圧源15によって印加される。
【0026】
図3Aを用いて、ステージ7にリターディング電圧が印加された状態での、ガイド12の先端から放出されたプラズマPZの挙動について説明する。
図3Aに示すように、プラズマ生成装置11で生成されたプラズマPZはガイド12内を通ってステージ7上の試料6の近傍に移動する。プラズマ生成装置11からガイド12先端までは電気的に接続されており、同電位となっているため、プラズマPZはステージ7の電場には影響されない。しかし、電圧源15によりリターディング電圧が印加されているために、ガイド12の先端とステージ7との間のギャップに等電位線EPLにより表される電位差(ポテンシャル)が発生する。このため、この電位差を超えることのできない電子は、ステージ7に到達することができず、試料6の帯電の除去に寄与することができない。
【0027】
一方、電圧源16によりプラズマ生成装置11及びガイド12にステージ7と同じ電圧を印加すると、ガイド12とステージ7とを略同電位にすることが可能となり、ガイド12の先端付近において
図3Bに示すような電位分布(等電位線EPL1)が得られ、プラズマ生成装置11及びガイド12とステージ7との間の電位差がなくなり、プラズマPZをガイド12の先端から試料6に照射し、除電を効果的に実行することが可能となる。
【0028】
このように金属製のガイド12を用いることでリターディング電圧が印加されたステージ7に対してもプラズマを照射することができる。しかし、電圧が印加された金属製の構造物を試料の近傍に挿入することは、電子線2を制御する電子線光学系PSの電場に影響を与える可能性がある。
【0029】
図4を用いて、ステージ7近傍の電場について説明する。電子線子光学系PSで集束された電子線2は対物レンズ5で集束され、試料6上を走査する。電子線光学系PSの各種レンズは軸対称構造を取っている。また、対物レンズ5のブースター電極5A部には二次電子10を引き上げるための電圧が印加されている。そのため、ステージ7近傍には
図4に示すような等電位線EPL2により電子を上向きに引き上げる電界が形成される。
【0030】
図5を用いて、ガイド12をステージ7と対物レンズ5との間に挿入することによる、二次電子10への影響を説明する。
図5では、ガイド12を電子線2が通過する対物レンズ5の開口内にガイド12の先端が位置するように配置した例を示している。電子線光学系PSで形成される電場は、電子線2の軌道を制御するレンズが光軸を中心軸とする軸対称な形状であるため、光軸に対して軸対称となる。一方、ガイド12は試料室14に設置されたプラズマ生成装置11から挿入されており、光軸に対して非対称となる。このため、ガイド12が光軸近傍まで配置されている場合、ガイド12の先端部が形成する電界が等電位線EPL2に影響する。すなわち、光軸に対して軸対称に形成されている電界に歪みを与える。電界の歪みは二次電子10の軌道に影響を与え、二次電子検出器8の検出率などにも影響するため、画像の歪みなどが発生するおそれがある。
【0031】
電界の歪みを防ぐには、等電位線EPL2にガイド12の電界が干渉しないようにガイド12を配置すればよい。具体的には、ガイド12を電子線2が通過する対物レンズ5の開口を避けて、その先端が対物レンズ5とステージ7との間に位置するように配置する。ブースター電極5Aなどによって形成される等電位線EPL2は対物レンズ5の下磁路5Bがシールドとなり、ステージ7と下磁路5Bの間に入り込んでこない。そのため、
図6で示すように、ガイド12の先端位置を等電位線EPL2の入り込みが少ない、下磁路5Bとステージ7との間に配置することで、電界歪みの発生を防ぐことが可能となる。
【0032】
さらに、
図7に示すように対物レンズ5内やその他の構成部品の間から挿入してもよい。
図7の例では、対物レンズ5の電極にガイド12を通す穴を開けて、対物レンズ5とは電気的に絶縁された状態でガイド12を配置している。この場合も、ガイド12を金属製にすることで電場の影響を受けることなく、ステージ7近傍までプラズマまたは荷電粒子を導入することが可能になる。ガイド12の先端は対物レンズ5の電界に影響を与えないよう、その先端は下磁路5Bとステージ7との間に配置されている。
【0033】
本実施例では対物レンズ5として作動距離を長くとれるアウトレンズ型対物レンズを使用した荷電粒子線装置の例を示しているが、例えばセミインレンズ型対物レンズであってもよい。この場合も、ガイド12の先端を、電子線2が通過する対物レンズの開口を避けて配置することで、電子線光学系PSに形成される電界に影響を与えることを回避できる。
【0034】
なお、本実施例では、プラズマ生成装置11で生成したプラズマにより試料6に生じた帯電の除去を行う例を説明した。しかしながら、プラズマ生成装置11からのプラズマは拡散の過程で電子もしくはイオンどちらかの荷電粒子のバランスが崩れる場合がある。例えば、プラズマは構造物壁面では荷電粒子の移動度の差でシースを形成するなど、荷電粒子の分布が異なる領域を形成することによって電気的中性が損なわれる場合がある。すなわち、正電荷の荷電粒子の数と負電荷の荷電粒子の数との間のバランスが崩れ、電気的中性が保たれない場合がある。それでも、電子とイオンとが試料に照射できていれば除電や帯電制御は問題なく行える。したがって、上述のように、ガイド12とステージ7とを略同電位とするのみならず、プラズマ生成装置11及びガイド12とステージ7との間にあえて電位差を与えて、この電位差によりプラズマに含まれる電子または正イオンを選択的に照射して、帯電制御を行うことも可能である。
実施例1では、対物レンズ5の前述の実施の形態では、ガイド12の先端を光軸が通過する対物レンズの開口を避けて配置することによってガイド12とステージ7との間に形成される電場が対物レンズ5の磁路によってシールドされ、電子線光学系PSの電界歪みを防ぐ構成について説明した。実施例2では試料6の浮き上がり防止のためのトラップ板を備えた荷電粒子線装置の例を示す。
荷電粒子線装置において、静電チャックによりウェハを固定し、搬送している。電子線の照射やウェハが持ち込んだ帯電で、静電チャックから試料が浮き上がるおそれがある。このため、ステージ7と同電位となるトラップ板17がステージ7と対向するように設けられている。ところが、試料6に帯電18が生じると、帯電18により電位差により、帯電量の大きさによっては絶縁破壊19が生じるおそれがある。絶縁破壊19の防止には、トラップ板17と試料6との間の電位差を抑制する必要があり、試料6を除電する必要がある。
また、通常、ステージ7とトラップ板17とは同電位とされているが、プラズマ生成装置11に接続された電圧源16を用いることでバイアス電圧を与えたプラズマを照射することができる。また、ステージ7との電位差によりプラズマに含まれる電子またはイオンを選択的に試料6に照射して帯電制御を行ってもよい。