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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183625
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】成膜方法及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20231221BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20231221BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
H01L21/316 X
H01L21/31 B
C23C16/455
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097230
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】尾谷 宗之
(72)【発明者】
【氏名】松原 輝
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
5F058
【Fターム(参考)】
4K030AA11
4K030AA14
4K030BA10
4K030BA22
4K030BA42
4K030BA43
4K030BA44
4K030BA46
4K030DA08
4K030EA04
4K030EA06
4K030FA10
4K030GA06
4K030HA01
5F045AA06
5F045AA15
5F045AB31
5F045AB32
5F045AC07
5F045AC11
5F045AC15
5F045AC16
5F045AC17
5F045AD06
5F045AD07
5F045BB19
5F045DP15
5F045DP27
5F045EE19
5F045EK07
5F045EM10
5F058BA09
5F058BC02
5F058BC03
5F058BF27
5F058BF29
5F058BF37
(57)【要約】
【課題】良好な段差被覆性と高い生産性を両立できる技術を提供する。
【解決手段】本開示の一態様による成膜方法は、(a)凹部を表面に有する基板を準備する工程と、(b)前記表面に有機系原料ガスを供給し、前記凹部に前記有機系原料ガスを吸着させる工程と、(c)前記表面に酸素含有ガスを供給し、前記凹部に吸着した前記有機系原料ガスを酸化させる工程と、(d)前記工程(c)の後に、前記表面に脱水剤を含む第1ガスを供給する工程と、を有する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)凹部を表面に有する基板を準備する工程と、
(b)前記表面に有機系原料ガスを供給し、前記凹部に前記有機系原料ガスを吸着させる工程と、
(c)前記表面に酸素含有ガスを供給し、前記凹部に吸着した前記有機系原料ガスを酸化させる工程と、
(d)前記工程(c)の後に、前記表面に脱水剤を含む第1ガスを供給する工程と、
を有する、成膜方法。
【請求項2】
前記工程(b)と、前記工程(c)と、前記工程(d)とをこの順に複数回繰り返す、
請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記工程(c)は、前記表面にHOが吸着することを含み、
前記工程(d)は、前記表面に吸着したHOを脱離させることを含む、
請求項1に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記第1ガスは、不活性ガスを含む、
請求項1に記載の成膜方法。
【請求項5】
(e)前記工程(c)と前記工程(d)との間に、前記表面に不活性ガスを供給する工程を有する、
請求項1に記載の成膜方法。
【請求項6】
前記脱水剤は、THFガスである、
請求項1に記載の成膜方法。
【請求項7】
前記基板は、真空容器内に設けられる回転テーブルの上に周方向に沿って配置され、
前記真空容器内には、前記回転テーブルの上方に前記回転テーブルの回転方向に沿って、前記工程(b)を実施する吸着領域と、前記工程(c)を実施する酸化領域と、前記工程(d)を実施する脱水領域とが設けられ、
前記吸着領域に前記有機系原料ガスが供給され、前記酸化領域に前記酸素含有ガスが供給され、前記脱水領域に前記第1ガスが供給された状態で、前記回転テーブルが回転することにより、前記工程(b)、前記工程(c)及び前記工程(d)が実施される、
請求項1に記載の成膜方法。
【請求項8】
真空容器と、
前記真空容器内にガスを供給するガス供給部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
(a)凹部を表面に有する基板を準備する工程と、
(b)前記表面に有機系原料ガスを供給し、前記凹部に前記有機系原料ガスを吸着させる工程と、
(c)前記表面に酸素含有ガスを供給し、前記凹部に吸着した前記有機系原料ガスを酸化させる工程と、
(d)前記工程(c)の後に、前記表面に脱水剤を含む第1ガスを供給する工程と、
を実行するように前記ガス供給部を制御するよう構成される、
成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成膜方法及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原料ガスを吸着させる前に、原料ガスの吸着性を制御可能な添加ガスを供給してOH基の量を調整しながら原子層堆積法による成膜を行う技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-212246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、良好な段差被覆性と高い生産性を両立できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様による成膜方法は、(a)凹部を表面に有する基板を準備する工程と、(b)前記表面に有機系原料ガスを供給し、前記凹部に前記有機系原料ガスを吸着させる工程と、(c)前記表面に酸素含有ガスを供給し、前記凹部に吸着した前記有機系原料ガスを酸化させる工程と、(d)前記工程(c)の後に、前記表面に脱水剤を含む第1ガスを供給する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、良好な段差被覆性と高い生産性を両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態に係る成膜装置の構成例を示す断面図である。
図2図2は、図1の成膜装置の内部構成を示す斜視図である。
図3図3は、図1の成膜装置の内部構成を示す平面図である。
図4図4は、回転テーブルの周方向に沿った真空容器の断面図である。
図5図5は、回転テーブルの半径方向に沿った真空容器の断面図である。
図6図6は、実施形態に係る成膜装置の別の構成例を示す平面図である。
図7図7は、実施形態に係る成膜方法の一例を示すフローチャートである。
図8図8は、実施形態に係る成膜方法の一例を示す概略図である。
図9図9は、従来の成膜方法を示す概略図である。
図10図10は、シリコン酸化膜の埋め込み特性の評価方法を示す図である。
図11図11は、シリコン酸化膜の埋め込み特性の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付の図面を参照しながら、本開示の限定的でない例示の実施形態について説明する。添付の全図面中、同一又は対応する部材又は部品については、同一又は対応する参照符号を付し、重複する説明を省略する。
【0009】
〔成膜装置〕
図1図5を参照し、実施形態に係る成膜装置について説明する。図1図3に示されるように、成膜装置は、ほぼ円形の平面形状を有する扁平な真空容器1と、真空容器1内に設けられ、真空容器1の中心に回転中心を有する回転テーブル2と、を備える。真空容器1は、有底の円筒形状を有する容器本体12と、容器本体12の上面に対して、例えばOリング等のシール部材13(図1)を介して気密に着脱可能に配置される天板11とを有する。
【0010】
回転テーブル2は、中心部にて円筒形状のコア部21に固定される。コア部21は、鉛直方向に伸びる回転軸22の上端に固定される。回転軸22は真空容器1の底部14を貫通し、その下端が回転軸22(図1)を鉛直軸回りに回転させる駆動部23に取り付けられる。回転軸22及び駆動部23は、上面が開口した筒状のケース体20内に収納される。ケース体20はその上面に設けられたフランジ部分が真空容器1の底部14の下面に気密に取り付けられ、ケース体20の内部雰囲気と外部雰囲気との気密状態が維持される。
【0011】
回転テーブル2の表面には、図2及び図3に示されるように回転方向(周方向)に沿って複数(図示の例では5枚)の基板Wを載置するための円形状の凹部24が設けられる。図3には、便宜上1個の凹部24だけに基板Wを示す。基板Wは、例えば半導体ウエハであってよい。凹部24は、基板Wの直径よりも僅かに大きい内径と、基板Wの厚さにほぼ等しい深さとを有する。基板Wが凹部24に収容されると、基板Wの表面と回転テーブル2の表面(基板Wが載置されない領域)とが同じ高さになる。凹部24の底面には、基板Wの裏面を支持して基板Wを昇降させるための例えば3本の昇降ピンが貫通する貫通孔(いずれも図示せず)が形成される。
【0012】
図2及び図3は、真空容器1内の構造を説明する図であり、説明の便宜上、天板11の図示を省略する。図2及び図3に示されるように、回転テーブル2の上方には、例えば石英からなる反応ガスノズル31,32,33及び分離ガスノズル41,42が真空容器1の周方向(図3の矢印Aで示される回転テーブル2の回転方向)に互いに間隔をおいて配置される。図示の例では、後述の搬送口15から時計回り(回転テーブル2の回転方向)に、反応ガスノズル33、分離ガスノズル41、反応ガスノズル31、分離ガスノズル42及び反応ガスノズル32がこの順番で設けられる。反応ガスノズル31,32,33及び分離ガスノズル41,42は、それぞれ基端部であるガス導入ポート31a,32a,33a,41a,42a(図3)が容器本体12の外周壁に固定される。反応ガスノズル31,32,33及び分離ガスノズル41,42は、真空容器1の外周壁から真空容器1内に導入され、容器本体12の半径方向に沿って回転テーブル2に対して水平に伸びるように取り付けられる。
【0013】
反応ガスノズル31,32には、回転テーブル2に向かって開口する複数の吐出孔31h,32h(図4)が、反応ガスノズル31,32の長さ方向に沿って間隔をあけて設けられる。反応ガスノズル33にも同様に、回転テーブル2に向かって開口する複数の吐出孔(図示せず)が、反応ガスノズル33の長さ方向に沿って間隔をあけて設けられる。
【0014】
分離ガスノズル42には、回転テーブル2に向かって開口する複数の吐出孔42h(図4)が、分離ガスノズル42の長さ方向に沿って間隔をあけて設けられる。分離ガスノズル41にも同様に、回転テーブル2に向かって開口する複数の吐出孔(図示せず)が、分離ガスノズル41の長さ方向に沿って間隔をあけて設けられる。
【0015】
反応ガスノズル31には、有機系原料ガス供給部111から有機系原料ガスが導入される。有機系原料ガス供給部111は、有機系原料ガス供給経路111aと、有機系原料ガス源111bと、流量制御器111cと、バルブ111dとを備える。有機系原料ガス供給経路111aは、真空容器1の外部に設けられる。有機系原料ガス供給経路111aは、反応ガスノズル31に接続される。有機系原料ガス供給経路111aには、ガスの流通方向の上流側から下流側に向かって順に、有機系原料ガス源111b、流量制御器111c及びバルブ111dが設けられる。これにより、有機系原料ガス源111bの有機系原料ガスは、バルブ111dにより供給タイミングが制御されると共に、流量制御器111cにより所定の流量に調整される。有機系原料ガスは、有機系原料ガス供給経路111aから反応ガスノズル31に流入し、反応ガスノズル31から真空容器1内に吐出される。流量制御器111cは、例えばマスフローコントローラであってよい。
【0016】
有機系原料ガスは、例えば金属元素と炭素元素と水素元素とを含むガスであってよい。金属元素は、例えばAl(アルミニウム)、Ti(チタン)、Sr(ストロンチウム)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)であってよい。有機系原料ガスは、例えばトリス(ジメチルアミノ)シクロペンタジエニルジルコニウムガスであってよい。
【0017】
反応ガスノズル31は、真空容器1の周方向に互いに間隔をおいて複数設けられてもよい。この場合、有機系原料ガス供給部111は複数の反応ガスノズル31に有機系原料ガスを導入するように構成される。反応ガスノズル31の下方領域は、有機系原料ガスを基板Wに吸着させるための吸着領域P1となる。
【0018】
反応ガスノズル32には、酸素含有ガス供給部112から酸素含有ガスが導入される。酸素含有ガス供給部112は、酸素含有ガス供給経路112aと、酸素含有ガス源112bと、流量制御器112cと、バルブ112dとを備える。酸素含有ガス供給経路112aは、真空容器1の外部に設けられる。酸素含有ガス供給経路112aは、反応ガスノズル32に接続される。酸素含有ガス供給経路112aには、ガスの流通方向の上流側から下流側に向かって順に、酸素含有ガス源112b、流量制御器112c及びバルブ112dが設けられる。これにより、酸素含有ガス源112bの酸素含有ガスは、バルブ112dにより供給タイミングが制御されると共に、流量制御器112cにより所定の流量に調整される。酸素含有ガスは、酸素含有ガス供給経路112aから反応ガスノズル32に流入し、反応ガスノズル32から真空容器1内に吐出される。流量制御器112cは、例えばマスフローコントローラであってよい。
【0019】
酸素含有ガスは、有機系原料ガスを酸化させるガスである。酸素含有ガスは、例えば水素(H)と酸素(O)の混合ガス、Oガス、水蒸気(HOガス)、オゾン(O)ガス、HとOの混合ガス、一酸化窒素(NO)ガス、亜酸化窒素(NO)ガス、二酸化窒素(NO)ガス、一酸化炭素(CO)ガス、二酸化炭素(CO)ガスであってよい。
【0020】
反応ガスノズル32は、真空容器1の周方向に互いに間隔をおいて複数設けられてもよい。この場合、酸素含有ガス供給部112は複数の反応ガスノズル32に酸素含有ガスを導入するように構成される。反応ガスノズル32の下方領域は、吸着領域P1において基板Wに吸着した有機系原料ガスを酸化させるための酸化領域P2となる。
【0021】
反応ガスノズル33には、酸素含有ガス供給部113から酸素含有ガスが導入される。酸素含有ガス供給部113は、酸素含有ガス供給経路113aと、酸素含有ガス源113bと、流量制御器113cと、バルブ113dとを備える。酸素含有ガス供給経路113aは、真空容器1の外部に設けられる。酸素含有ガス供給経路113aは、反応ガスノズル33に接続される。酸素含有ガス供給経路113aには、ガスの流通方向の上流側から下流側に向かって順に、酸素含有ガス源113b、流量制御器113c及びバルブ113dが設けられる。これにより、酸素含有ガス源113bの酸素含有ガスは、バルブ113dにより供給タイミングが制御されると共に、流量制御器113cにより所定の流量に調整される。酸素含有ガスは、酸素含有ガス供給経路113aから反応ガスノズル33に流入し、反応ガスノズル33から真空容器1内に吐出される。流量制御器113cは、例えばマスフローコントローラであってよい。
【0022】
酸素含有ガスは、例えば酸素含有ガス源112bから導入される酸素含有ガスと同じであってよい。この場合、酸素含有ガス源113bは酸素含有ガス源112bと共通のガス源であってもよい。
【0023】
反応ガスノズル33の上方には、プラズマ発生源(図示せず)が設けられもよい。この場合、反応ガスノズル33から真空容器1内に導入される酸素含有ガスからプラズマを生成できるので、基板Wの表面を酸化させる作用を大きくできる。
【0024】
反応ガスノズル33は、真空容器1の周方向に互いに間隔をおいて複数設けられてもよい。この場合、酸素含有ガス供給部113は複数の反応ガスノズル33に酸素含有ガスを導入するように構成される。反応ガスノズル33の下方領域は、吸着領域P1において基板Wに吸着した有機系原料ガスを酸化させるための酸化領域P3となる。
【0025】
分離ガスノズル41には、分離ガス供給部114から分離ガス及び脱水剤が導入される。分離ガス供給部114は、分離ガス供給経路114aと、分離ガス源114bと、流量制御器114cと、バルブ114dと、脱水剤供給経路114eと、脱水剤源114fと、流量制御器114gと、バルブ114hとを備える。分離ガス供給経路114aは、真空容器1の外部に設けられる。分離ガス供給経路114aは、分離ガスノズル41に接続される。分離ガス供給経路114aには、ガスの流通方向の上流側から下流側に向かって順に、分離ガス源114b、流量制御器114c及びバルブ114dが設けられる。これにより、分離ガス源114bの分離ガスは、バルブ114dにより供給タイミングが制御されると共に、流量制御器114cにより所定の流量に調整される。分離ガスは、分離ガス供給経路114aから分離ガスノズル41に流入し、分離ガスノズル41から真空容器1内に吐出される。流量制御器114cは、例えばマスフローコントローラであってよい。
【0026】
脱水剤供給経路114eは、真空容器1の外部に設けられる。脱水剤供給経路114eは、バルブ114dの下流側において分離ガス供給経路114aに接続される。脱水剤供給経路114eには、ガスの流通方向の上流側から下流側に向かって順に、脱水剤源114f、流量制御器114g及びバルブ114hが設けられる。これにより、脱水剤源114fの脱水剤は、バルブ114hにより供給タイミングが制御されると共に、流量制御器114gにより所定の流量に調整される。脱水剤は、脱水剤供給経路114eから分離ガス供給経路114aを介して分離ガスノズル41に流入し、分離ガスと共に分離ガスノズル41から真空容器1内に吐出される。流量制御器114gは、例えばマスフローコントローラであってよい。
【0027】
分離ガスは、例えば不活性ガスであってよい。不活性ガスは、例えばヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、アルゴン(Ar)ガス等の希ガスであってよい。不活性ガスは、例えば窒素(N)ガスであってもよい。
【0028】
脱水剤は、基板Wの表面に吸着した水分を脱離させるためのガスである。脱水剤は、例えばテトラヒドロフラン(THF)ガス、ジメチルアミンガスであってよい。
【0029】
分離ガスノズル41は、真空容器1の周方向に互いに間隔をおいて複数設けられてもよい。この場合、分離ガス供給部114は複数の分離ガスノズル41に分離ガス及び脱水剤を導入するように構成される。分離ガス供給部114は、分離ガスと脱水剤とを異なる分離ガスノズル41に導入するように構成されてもよい。分離ガスノズル41の下方領域は、有機系原料ガスと酸素含有ガスとの混合を抑制するための分離領域D1となる。分離領域D1は、脱水剤によりHOを脱離させるための脱水領域としても機能する。
【0030】
分離ガスノズル42には、分離ガス供給部115から分離ガスが導入される。分離ガス供給部115は、分離ガス供給経路115aと、分離ガス源115bと、流量制御器115cと、バルブ115dとを備える。分離ガス供給経路115aは、真空容器1の外部に設けられる。分離ガス供給経路115aは、分離ガスノズル42に接続される。分離ガス供給経路115aには、ガスの流通方向の上流側から下流側に向かって順に、分離ガス源115b、流量制御器115c及びバルブ115dが設けられる。これにより、分離ガス源115bの分離ガスは、バルブ115dにより供給タイミングが制御されると共に、流量制御器115cにより所定の流量に調整される。分離ガスは、分離ガス供給経路115aから分離ガスノズル42に流入し、分離ガスノズル42から真空容器1内に吐出される。流量制御器115cは、例えばマスフローコントローラであってよい。
【0031】
分離ガスは、例えば分離ガス源114bから導入される分離ガスと同じであってよい。この場合、分離ガス源115bは分離ガス源114bと共通のガス源であってもよい。
【0032】
分離ガスノズル42は、真空容器1の周方向に互いに間隔をおいて複数設けられてもよい。この場合、分離ガス供給部115は複数の分離ガスノズル42に分離ガスを導入するように構成される。分離ガスノズル42の下方領域は、有機系原料ガスと酸素含有ガスとの混合を抑制するための分離領域D2となる。
【0033】
図2及び図3を参照すると、真空容器1内には2つの凸状部4が設けられている。凸状部4は、分離ガスノズル41,42と共に分離領域D1,D2を構成するため、後述のとおり、回転テーブル2に向かって突出するように天板11の裏面に取り付けられる。凸状部4は、頂部が円弧状に切断された扇型の平面形状を有し、内円弧が突出部5(後述)に連結し、外円弧が真空容器1の容器本体12の内周面に沿うように配置される。
【0034】
図4は、反応ガスノズル31から反応ガスノズル32まで回転テーブル2の同心円に沿った真空容器1の断面を示す。図4に示されるように、天板11の裏面に凸状部4が取り付けられる。このため、真空容器1内には、凸状部4の下面である平坦な低い天井面(第1の天井面44)と、第1の天井面44の周方向両側に位置する、第1の天井面44よりも高い天井面(第2の天井面45)とが存在する。第1の天井面44は、頂部が円弧状に切断された扇型の平面形状を有する。また、図示のとおり、凸状部4には周方向中央において、半径方向に伸びるように形成された溝部43が形成され、分離ガスノズル42が溝部43内に収容される。もう一つの凸状部4にも同様に溝部43が形成され、溝部43に分離ガスノズル41が収容される。第2の天井面45の下方の空間には、反応ガスノズル31,32がそれぞれ設けられる。反応ガスノズル31,32は、第2の天井面45から離間して基板Wの近傍に設けられる。図4に示されるように、凸状部4の右側の第2の天井面45の下方の空間48aに反応ガスノズル31が設けられ、左側の第2の天井面45の下方の空間48bに反応ガスノズル32が設けられる。
【0035】
第1の天井面44は、狭い空間である分離空間Hを回転テーブル2に対して形成する。分離ガスノズル42の吐出孔42hから分離ガスが供給されると、分離ガスは分離空間Hを通して空間48a,48bへ向かって流れる。分離空間Hの容積は空間48a,48bの容積よりも小さいため、分離ガスにより分離空間Hの圧力を空間48a,48bの圧力に比べて高くできる。すなわち、空間48a,48bの間に圧力の高い分離空間Hが形成される。分離空間Hから空間48a,48bへ流れ出る分離ガスは、吸着領域P1からの有機系原料ガスと、酸化領域P2からの酸素含有ガスとに対するカウンターフローとして働く。したがって、吸着領域P1からの有機系原料ガスと、酸化領域P2からの酸素含有ガスとが分離空間Hにより分離される。よって、真空容器1内において有機系原料ガスと酸素含有ガスとが混合して反応することを抑制できる。
【0036】
回転テーブル2の上面に対する第1の天井面44の高さh1は、成膜の際の真空容器1内の圧力、回転テーブル2の回転速度、分離ガスの流量等を考慮し、分離空間Hの圧力を空間48a,48bの圧力に比べて高くするのに適した高さに設定される。
【0037】
一方、天板11の下面には、回転テーブル2を固定するコア部21の外周を囲む突出部5(図2及び図3)が設けられる。突出部5は、凸状部4における回転中心の側の部位と連続し、その下面が第1の天井面44と同じ高さに形成される。
【0038】
先に参照した図1は、図3のI-I'線に沿った断面図であり、第2の天井面45が設けられている領域を示す。一方、図5は、第1の天井面44が設けられる領域を示す断面図である。図5に示されるように、扇型の凸状部4の周縁(真空容器1の外縁側の部位)には、回転テーブル2の外端面に対向するようにL字型に屈曲する屈曲部46が形成される。屈曲部46は、凸状部4と同様に、分離領域D1,D2の両側から反応ガスが侵入することを抑制し、有機系原料ガスと酸素含有ガスとの混合を抑制する。扇型の凸状部4は天板11に設けられ、天板11が容器本体12から取り外せるようになっていることから、屈曲部46の外周面と容器本体12との間には僅かに隙間がある。屈曲部46の内周面と回転テーブル2の外端面との隙間、及び屈曲部46の外周面と容器本体12との隙間は、例えば回転テーブル2の上面に対する第1の天井面44の高さと同様の寸法に設定される。
【0039】
容器本体12の内周壁は、分離領域D1,D2においては、屈曲部46の外周面と接近して垂直面に形成される(図5)。一方、容器本体12の内周壁は、分離領域D1,D2以外の部位においては、例えば回転テーブル2の外端面と対向する部位から底部14に亘って外方に窪んでいる(図1)。以下、説明の便宜上、概ね矩形の断面形状を有する窪んだ部分を排気領域Eと記す。具体的には、吸着領域P1に連通する排気領域を第1排気領域E1とし、酸化領域P2に連通する領域を第2排気領域E2とする。第1排気領域E1及び第2排気領域E2の底部には、図1図3に示されるように、それぞれ第1排気口61及び第2排気口62が形成される。第1排気口61及び第2排気口62は、図1に示されるようにそれぞれ排気管63を介して真空ポンプ64に接続される。排気管63には、圧力制御器65が設けられる。
【0040】
回転テーブル2と真空容器1の底部14との間の空間には、図1及び図5に示されるようにヒータユニット7が設けられ、回転テーブル2を介して回転テーブル2上の基板Wが、プロセスレシピで決められた温度に加熱される。回転テーブル2の周縁付近の下方には、円環状のカバー部材71が設けられる(図5)。カバー部材71は、回転テーブル2の上方空間から第1排気領域E1及び第2排気領域E2に至るまでの雰囲気とヒータユニット7が置かれている雰囲気とを区画して回転テーブル2の下方領域へのガスの侵入を抑制する。カバー部材71は、回転テーブル2の外縁及び外縁よりも外周側を下方から臨むように設けられた内側部材71aと、内側部材71aと真空容器1の内周面との間に設けられた外側部材71bと、を備える。外側部材71bは、分離領域D1,D2において凸状部4の外縁に形成された屈曲部46の下方にて、屈曲部46と近接して設けられる。内側部材71aは、回転テーブル2の外縁下方(及び外縁よりも僅かに外側の部分の下方)において、ヒータユニット7を全周に亘って取り囲んでいる。
【0041】
ヒータユニット7が配置される空間よりも回転中心の側の部位における底部14は、回転テーブル2の下面の中心部付近におけるコア部21に接近するように上方に突出して突出部12aをなす。突出部12aとコア部21との間は狭い空間になっており、また底部14を貫通する回転軸22の貫通孔の内周面と回転軸22との隙間が狭くなっていて、これら狭い空間はケース体20に連通する。ケース体20には、パージガスを狭い空間内に供給してパージするためのパージガス供給管72が設けられる。真空容器1の底部14には、ヒータユニット7の下方において周方向に所定の角度間隔で、ヒータユニット7の配置空間をパージするための複数のパージガス供給管73が設けられる。図5には、一つのパージガス供給管73を示す。ヒータユニット7と回転テーブル2との間には、ヒータユニット7が設けられた領域へのガスの侵入を抑制するために、外側部材71bの内周壁(内側部材71aの上面)から突出部12aの上端との間を周方向に亘って覆う蓋部材7aが設けられる。蓋部材7aは、例えば石英により形成される。
【0042】
真空容器1の天板11の中心部には、分離ガス供給管51が接続される。分離ガス供給管51は、天板11とコア部21との間の空間52に分離ガスを供給する。空間52に供給された分離ガスは、突出部5と回転テーブル2との狭い隙間50を介して回転テーブル2の基板載置領域の側の表面に沿って周縁に向けて吐出される。隙間50は、分離ガスにより空間48a,48bよりも高い圧力に維持され得る。したがって、隙間50により、吸着領域P1に供給される有機系原料ガスと酸化領域P2に供給される酸素含有ガスとが、中心領域Cを通って混合することが抑制される。すなわち、隙間50(又は中心領域C)は分離空間H(又は分離領域D1,D2)と同様に機能する。
【0043】
真空容器1の側壁には、図2及び図3に示されるように、外部の搬送アーム10と回転テーブル2との間で基板Wの受け渡しを行うための搬送口15が形成される。搬送口15は、図示しないゲートバルブにより開閉される。回転テーブル2の下方には、基板Wの受け渡し位置に対応する部位に、凹部24を貫通して基板Wを裏面から持ち上げるための受け渡し用の昇降ピン及びその昇降機構(いずれも図示せず)が設けられる。
【0044】
成膜装置には、制御部100が設けられる。制御部100は、図1に示されるように、装置全体の動作のコントロールを行うためのコンピュータを含む。制御部100のメモリ内には、制御部100の制御の下に、後述する成膜方法を成膜装置に実施させるプログラムが格納されている。プログラムは、後述の成膜方法を実行するようにステップ群が組まれている。プログラムは、ハードディスク、コンパクトディスク、光磁気ディスク、メモリカード、フレキシブルディスク等の媒体102に記憶されており、所定の読み取り装置により記憶部101へ読み込まれ、制御部100内にインストールされる。
【0045】
図6を参照し、実施形態に係る成膜装置の別の構成例について説明する。図6は、実施形態に係る成膜装置の別の構成例を示す平面図である。
【0046】
図6に示される成膜装置は、真空容器1の周方向において分離ガスノズル41と反応ガスノズル31との間に脱水剤ノズル34が設けられる点で、図1図5に示される成膜装置と異なる。以下、図1図5に示される成膜装置と異なる点を中心に説明する。
【0047】
脱水剤ノズル34は、基端部であるガス導入ポート34aが容器本体12の外周壁に固定される。脱水剤ノズル34は、真空容器1の外周壁から真空容器1内に導入され、容器本体12の半径方向に沿って回転テーブル2に対して水平に伸びるように取り付けられる。
【0048】
脱水剤ノズル34には、脱水剤供給部116から脱水剤が導入される。脱水剤供給部116は、脱水剤供給経路116aと、脱水剤源116bと、流量制御器116cと、バルブ116dとを備える。脱水剤供給経路116aは、真空容器1の外部に設けられる。脱水剤供給経路116aは、脱水剤ノズル34に接続される。脱水剤供給経路116aには、ガスの流通方向の上流側から下流側に向かって順に、脱水剤源116b、流量制御器116c及びバルブ116dが設けられる。これにより、脱水剤源116bの脱水剤は、バルブ116dにより供給タイミングが制御されると共に、流量制御器116cにより所定の流量に調整される。脱水剤は、脱水剤供給経路116aから脱水剤ノズル34に流入し、脱水剤ノズル34から真空容器1内に吐出される。流量制御器116cは、例えばマスフローコントローラであってよい。
【0049】
脱水剤ノズル34は、真空容器1の周方向に互いに間隔をおいて複数設けられてもよい。この場合、脱水剤供給部116は複数の脱水剤ノズル34に脱水剤を導入するように構成される。
【0050】
図6に示される成膜装置では、脱水剤ノズル34に脱水剤が導入され、かつ分離ガスノズル41に脱水剤が導入されない形態を示すが、図1図5に示される成膜装置と同様に、脱水剤ノズル34及び分離ガスノズル41に脱水剤が導入される形態であってもよい。この場合、脱水剤ノズル34と分離ガスノズル41の両方から脱水剤を供給できるので、基板Wの表面に吸着したHOを脱離させる効果が高まる。
【0051】
〔成膜方法〕
図7及び図8を参照し、実施形態に係る成膜方法について説明する。図7は、実施形態に係る成膜方法の一例を示すフローチャートである。図8は、実施形態に係る成膜方法の一例を示す概略図である。実施形態に係る成膜方法は、図7に示される工程S1~S5を含む。
【0052】
工程S1では、凹部を表面に有する基板Wを準備する。基板Wは、例えば半導体ウエハであってよい。凹部は、例えばトレンチ、ホールであってよい。
【0053】
工程S2は、工程S1の後に実施される。工程S2では、基板Wの表面に有機系原料ガスを供給し、凹部に有機系原料ガスを吸着させる。有機系原料ガスは、例えば金属元素と炭素元素と水素元素とを含むガスであってよい。金属元素は、例えばAl、Ti、Sr、Zr、Hfであってよい。有機系原料ガスは、例えばトリス(ジメチルアミノ)シクロペンタジエニルジルコニウムガスであってよい。工程S2の後に、基板Wの表面に不活性ガスを供給する工程を実施してもよい。この場合、凹部に吸着していない有機系原料ガスが排気されやすい。
【0054】
工程S3は、工程S2の後に実施される。工程S3では、基板Wの表面に酸素含有ガスを供給し、凹部に吸着した有機系原料ガスを酸化させる。これにより、基板Wの凹部の上面及び内面にシリコン酸化膜が形成される。酸素含有ガスは、有機系原料ガスを酸化させるガスである。酸素含有ガスは、例えばHとOの混合ガス、Oガス、HOガス、Oガス、HとOの混合ガス、NOガス、NOガス、NOガス、COガス、COガスであってよい。工程S3では、凹部に吸着した有機系原料ガスと酸素含有ガスとが反応することにより、二酸化炭素(CO)、水(HO)等が発生する。COは排気されやすく、凹部の上面及び内面にほとんど残存しない。これに対し、HOは排気されにくいため、HOの一部は凹部の上面及び内面に残存して吸着する。例えば、図8(a)に示されるように基板Wの表面にHOが残存して吸着する。
【0055】
工程S4は、工程S3の後に実施される。工程S4では、基板Wの表面に脱水剤を含む第1ガスを供給する。脱水剤は、基板Wの表面に吸着した水分を脱離させるためのガスである。脱水剤は、例えばTHFガス、ジメチルアミンガスであってよい。工程S4では、脱水剤により凹部の上面及び内面に吸着したHOが脱離する。例えば、図8(a)に示されるように基板Wの表面にTHFガスが供給されると、図8(b)に示されるようにTHFガスが基板Wの表面に吸着したHOに作用し、図8(c)に示されるように基板Wの表面に吸着したHOが脱離しTHFガスと共に排気される。このため、図8(d)に示されるように基板WにはHOが除去された表面が形成される。第1ガスは、不活性ガスを含んでもよい。この場合、脱水剤により脱離したHOが凹部の上面及び内面から排気されやすい。不活性ガスの流量は、例えば脱水剤の流量よりも大きくてもよい。この場合、脱水剤により脱離したHOが凹部の上面及び内面からより排気されやすい。
【0056】
工程S5は、工程S4の後に実施される。工程S5では、工程S2~工程S4が設定回数実施されたか否かを判定する。実施回数が設定回数に達していない場合、工程S2~工程S4を再度実施する。一方、実施回数が設定回数に達している場合、処理を終了する。工程S5の設定回数は、例えば1回であってもよく、2回以上であってもよい。以下、工程S2~工程S4を含むサイクルをALDサイクルと称する。
【0057】
ところで、有機系原料ガスは、HOが吸着する表面では吸着量が多くなる性質を有する。このため、2回目以降のALDサイクルの工程S2では、凹部の上面及び内面においてHOの吸着量が異なると、HOの吸着量に応じて有機系原料ガスの吸着量にばらつきが生じて段差被覆性が悪化する。HOが吸着する表面で有機系原料ガスの吸着量が多くなる理由は、以下のように考えられる。
【0058】
図9は、従来の成膜方法を示す概略図である。従来の成膜方法は、前述した工程S4を有していない。従来の成膜方法では、工程S2と工程S3とを設定回数に達するまで繰り返す。以下、有機系原料ガスが金属元素としてZrを含むZr系原料ガスであり、酸素含有ガスがOガスであり、不活性ガスがNガスである場合を例示して従来の成膜方法を説明する。
【0059】
まず、基板Wの表面にZr系原料ガスを供給し、基板Wの表面にZr系原料ガスを吸着させる。次に、図9の(a)に示されるように、Zr系原料ガスが吸着した基板Wの表面にOガスを供給する。このとき、基板Wの表面に吸着したZr系原料ガスとOガスとが反応することにより、HO、CO、NO等が発生する。次に、図9の(b)に示されるように、基板Wの表面にNガスを供給する。これにより、Zr系原料ガスとOガスとの反応で発生したHO、CO、NO等が排気される。このとき、HOはCOやNOと比べて排気されにくいため、HOの一部が基板Wの表面に残存して吸着する。次に、図9の(c)に示されるように、HOが表面に残存した基板WにZr系原料ガスを供給する。Zr系原料ガス等の有機系原料ガスはOH基をもつ表面に吸着する性質を有する。このため、OH基をもつHOが吸着した表面にZr系原料ガスが供給されると、基板Wの表面のHOとZr系原料ガスとが反応してZr系原料ガスが吸着すると共に、Zr系原料ガスにOH基が生成される。Zr系原料ガスに生成されたOH基は、別のZr系原料ガスと反応して表面にZr系原料ガスが更に吸着する。このように、1回のALDサイクルにおいて、HOが吸着した表面には2回のALDサイクルに相当するZr系原料ガスが吸着する。このため、HOが吸着する表面では、HOが吸着していない表面よりも膜厚が厚くなると考えられる。次に、図9(d)に示されるように、基板Wの表面に不活性ガスの一例であるNガスを供給する。これにより、基板Wの表面における反応で生じた副生成物が排気される。
【0060】
実施形態に係る成膜方法では、有機系原料ガスを酸化させた後、基板Wの表面に脱水剤を供給し、凹部の上面及び内面に吸着するHOを脱離させる。このため、2回目以降のALDサイクルにおいて、凹部の上面及び内面への有機系原料ガスの吸着量にばらつきが生じることを抑制できる。その結果、良好な段差被覆性が得られる。
【0061】
また、実施形態に係る成膜方法では、酸素含有ガスをパージする際に供給されるガスとして、従来の不活性ガスに代えて、脱水剤を含む第1ガスを用いる。これにより、1回のALDサイクルの時間を延ばすことなく、凹部の上面及び内面への有機系原料ガスの吸着量にばらつきが生じることを抑制できる。このため、良好な段差被覆性と高い生産性を両立できる。
【0062】
これに対し、酸素含有ガスをパージする際に供給されるガスとして不活性ガスのみを用いる場合、不活性ガスにより凹部の内面下部から脱離したHOは、凹部内から排気される際に凹部の内面上部や凹部の上面に再吸着する場合がある。これにより、凹部の内面下部よりも凹部の内面上部や凹部の上面におけるHOの吸着量が多くなる。このため、凹部の内面上部や凹部の上面への有機系原料ガスの吸着量が、凹部の内面下部への有機系原料ガスの吸着量よりも多くなる。その結果、良好な段差被覆性が得られない。凹部の内面上部や凹部の上面に再吸着したHOを脱離させるためには、長い時間を要するため、生産性が低下する。
【0063】
また、基板Wに熱エネルギーを与えて凹部の上面及び内面に吸着したHOを脱離させる方法も考えられる。この場合、HOが吸着した領域に選択的に熱エネルギーを与えることは容易ではなく、熱エネルギーが与えられた領域と熱エネルギーが与えられなかった領域との間で膜質に差が生じる場合がある。また、熱エネルギーを与える場合、基板Wの温度が高くなる。このため、熱エネルギーを与えた後に基板Wの冷却が行われる。このため、生産性が低下する。
【0064】
次に、図1図5に示される成膜装置において実施形態に係る成膜方法を実施し、基板Wの表面に形成された凹部にシリコン酸化膜を成膜する場合について説明する。
【0065】
まず、ゲートバルブを開き、外部から搬送アーム10により搬送口15を介して基板Wを回転テーブル2の凹部24内に受け渡す。基板Wの受け渡しは、凹部24が搬送口15に臨む位置に停止したときに凹部24の底面の貫通孔を介して真空容器1の底部側から昇降ピンが昇降することにより行われる。このような基板Wの受け渡しを、回転テーブル2を間欠的に回転させて行い、回転テーブル2の5つの凹部24内にそれぞれ基板Wを載置する。
【0066】
続いてゲートバルブを閉じ、真空ポンプ64により到達可能真空度にまで真空容器1内を排気する。その後、分離ガスノズル41、42から分離ガスを所定流量で吐出し、分離ガス供給管51から分離ガスを所定流量で吐出し、パージガス供給管72からパージガスを所定流量で吐出する。分離ガスノズル41から分離ガスと共に脱水剤を所定流量で吐出してもよい。また、圧力制御器65により真空容器1内を予め設定した処理圧力に制御する。次いで、回転テーブル2を時計回りに回転させながらヒータユニット7により基板Wを加熱する。回転テーブル2の回転速度は、例えば1rpm以上5rpmであってよく、一例では3rpmである。基板Wの温度は、例えば200℃以上300℃以下であってよく、一例では275℃である。
【0067】
続いて、反応ガスノズル31から有機系原料ガスを供給し、反応ガスノズル33から酸素含有ガスを供給する。また、分離ガスノズル41から分離ガスのみを供給している場合には、分離ガスノズル41から分離ガスと共に脱水剤を供給する。
【0068】
回転テーブル2の回転により、基板Wは、吸着領域P1、分離領域D2、酸化領域P3及び分離領域D1をこの順番で繰り返し通過する。
【0069】
吸着領域P1では、反応ガスノズル31から供給される有機系原料ガスが基板Wの凹部の上面及び内面に吸着する。分離領域D2では、基板Wの凹部に吸着していない有機系原料ガスが排気される。酸化領域P3では、反応ガスノズル33から供給される酸素含有ガスにより、基板Wの凹部の上面及び内面に吸着した有機系原料ガスが酸化される。これにより、基板Wの凹部の上面及び内面にシリコン酸化膜が形成される。有機系原料ガスが酸化される際には、副生成物としてHOが生成され、生成されたHOはシリコン酸化膜の表面に吸着しうる。分離領域D1では、分離ガスノズル41から供給される脱水剤によりシリコン酸化膜の表面に吸着したHOが脱離する。
【0070】
回転テーブル2の回転により基板Wが吸着領域P1に再び至ると、反応ガスノズル31から供給される有機系原料ガスが基板Wの凹部の上面及び内面に吸着する。このとき、基板Wの凹部の上面及び内面に吸着したHOが脱離しているので、基板Wの凹部の上面及び内面への有機系原料ガスの吸着量のばらつきが小さくなる。
【0071】
続けて、基板Wが酸化領域P3を通過する際、反応ガスノズル33から供給される酸素含有ガスにより基板Wの凹部の上面及び内面に吸着した有機系原料ガスが酸化され、シリコン酸化膜が更に形成される。このとき、シリコン酸化膜の膜厚分布は、基板Wの凹部の上面及び内面に吸着した有機系原料ガスの密度が反映される。このため、良好な段差被覆性が得られる。
【0072】
続けて、基板Wが再び分離領域D1に至ると、分離ガスノズル41から供給される脱水剤によりシリコン酸化膜の表面に吸着したHOが脱離する。
【0073】
この後、上述のプロセスが繰り返されると、良好な段差被覆性を有するシリコン酸化膜が凹部の上面及び内面に形成される。
【0074】
なお、上記の例では、反応ガスノズル33から酸素含有ガスを供給し、かつ反応ガスノズル32から酸素含有ガスを供給しない場合を説明したが、これに限定されない。例えば、反応ガスノズル32及び反応ガスノズル33から酸素含有ガスを供給してもよい。この場合、基板Wの表面を酸化させる作用が大きくなるので、不純物濃度の低いシリコン酸化膜を形成できる。また、例えば反応ガスノズル33に代えて、反応ガスノズル32から酸素含有ガスを供給してもよい。
【0075】
以上に説明したように、実施形態に係る成膜方法によれば、有機系原料ガスを酸化させた後、基板Wの表面に脱水剤を供給し、凹部の上面及び内面に吸着するHOを脱離させる。このため、2回目以降のALDサイクルにおいて、凹部の上面及び内面への有機系原料ガスの吸着量にばらつきが生じることを抑制できる。その結果、良好な段差被覆性が得られる。
【0076】
また、実施形態に係る成膜方法によれば、酸素含有ガスをパージする際に供給されるガスとして、従来の不活性ガスに代えて、脱水剤を含む第1ガスを用いる。これにより、1回のALDサイクルの時間を延ばすことなく、凹部の上面及び内面への有機系原料ガスの吸着量にばらつきが生じることを抑制できる。このため、良好な段差被覆性と高い生産性を両立できる。
【0077】
また、実施形態に係る成膜方法によれば、回転テーブル2を一定の速度で回転させ、基板Wを吸着領域P1、酸化領域P3及び分離領域D1を通過させることにより、基板Wに対して工程S2~S4が実施される。このため、1つの工程、例えば工程S4の時間を他の工程S2,S3の時間よりも長くすることは容易ではない。実施形態に係る成膜方法によれば、工程S4の時間を延ばすことなく凹部の上面及び内面に吸着したHOを脱離させることができる。このため、実施形態に係る成膜方法は、前述した実施形態に係る成膜装置において特に有効である。ただし、実施形態に係る成膜方法は、基板Wを1枚ずつ処理する枚葉式の装置や、複数の基板Wに対して一度に処理を行うバッチ式の装置にも適用できる。
【0078】
〔実施例〕
実施形態に係る成膜装置において、基板の表面に形成された凹部にシリコン酸化膜を成膜する場合に良好な段差被覆性が得られることを確認した実施例について説明する。実施例では、以下に示される条件1~4により凹部にシリコン酸化膜を成膜し、該シリコン酸化膜の段差被覆性及びオーバハングを評価した。
【0079】
図10は、シリコン酸化膜の埋め込み特性の評価方法を示す図である。図10は、凹部Rに形成されたシリコン酸化膜Fのオーバハング及び段差被覆性を説明する図である。
【0080】
オーバハングは、凹部Rの上面に成膜されたシリコン酸化膜Fの膜厚をT1、凹部Rの内面上部に成膜されたシリコン酸化膜Fの膜厚をT2としたとき、T1/T2で算出される値である。オーバハングが100%に近づくほど、凹部Rの上面に成膜されたシリコン酸化膜Fの膜厚T1と、凹部Rの内面上部に成膜されたシリコン酸化膜Fの膜厚T2との差が小さく、良好なオーバハングであることを意味する。
【0081】
段差被覆性は、凹部Rの内面上部に成膜されたシリコン酸化膜Fの膜厚をT2、凹部Rの内面下部に成膜されたシリコン酸化膜Fの膜厚をT3としたとき、T3/T2で算出される値である。段差被覆性が100%に近づくほど、凹部Rの内面上部に成膜されたシリコン酸化膜Fの膜厚T2と、凹部Rの内面下部に成膜されたシリコン酸化膜Fの膜厚T3との差が小さく、良好な段差被覆性であることを意味する。
【0082】
(条件1)
条件1では、基板が載置された回転テーブル2を回転させながら、各ノズルからガスを供給することにより凹部にシリコン酸化膜を成膜した。具体的には、反応ガスノズル31から有機系原料ガスの一例であるジルコニウム含有ガスを供給し、反応ガスノズル33から酸素含有ガスの一例であるオゾンガスを供給し、分離ガスノズル42から分離ガスの一例である窒素ガスを供給した。また、分離ガスノズル41から脱水剤の一例であるTHFガスを1slmの流量で供給すると共に、分離ガスノズル41から分離ガスの一例である窒素ガスを3slmの流量で供給した。また、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)により基板の断面を観察し、断面画像に基づいてシリコン酸化膜のオーバハング及び段差被覆性を算出した。
【0083】
(条件2)
条件2では、条件1に対し、分離ガスノズル41から供給される窒素ガスの流量を3slmから5slmに変更して凹部にシリコン酸化膜を成膜した。その他の条件については、条件1と同じである。また、条件1と同様に、TEMにより基板の断面を観察し、断面画像に基づいてシリコン酸化膜のオーバハング及び段差被覆性を算出した。
【0084】
(条件3)
条件3では、条件1に対し、分離ガスノズル41から供給される窒素ガスの流量を3slmから10slmに変更して凹部にシリコン酸化膜を成膜した。その他の条件については、条件1と同じである。また、条件1と同様に、TEMにより基板の断面を観察し、断面画像に基づいてシリコン酸化膜のオーバハング及び段差被覆性を算出した。
【0085】
(条件4)
条件4では、条件1に対し、分離ガスノズル41からTHFガスを供給することなく、窒素ガスのみを供給して凹部にシリコン酸化膜を成膜した。その他の条件については、条件1と同じである。また、条件1と同様に、TEMにより基板の断面を観察し、断面画像に基づいてシリコン酸化膜のオーバハング及び段差被覆性を算出した。
【0086】
図11は、シリコン酸化膜の埋め込み特性の評価結果を示す図である。図11は、条件1~4において凹部に成膜したシリコン酸化膜のオーバハング及び段差被覆性の算出結果を示す図である。
【0087】
図11に示されるように、条件1~3では、条件4に比べてオーバハング及び段差被覆性が100%に近い値を示すことが分かる。この結果から、分離ガスノズル41からTHFガス及び窒素ガスを供給することで、良好なオーバハング及び良好な段差被覆性が得られることが示された。
【0088】
また、図11に示されるように、条件3では、条件1,2よりもオーバハング及び段差被覆性が100%に近い値を示すことが分かる。この結果から、分離ガスノズル41から供給される窒素ガスの流量を増やすことにより、オーバハング及び段差被覆性が更に改善することが示された。
【0089】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 真空容器
2 回転テーブル
100 制御部
P1 吸着領域
P2 酸化領域
P3 酸化領域
D1 脱水領域
W 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11