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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183783
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
G03G15/20 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097483
(22)【出願日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100182453
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 英明
(72)【発明者】
【氏名】染矢 幸通
(72)【発明者】
【氏名】古市 祐介
(72)【発明者】
【氏名】足立 知哉
(72)【発明者】
【氏名】島田 浩幸
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA14
2H033BA15
2H033BA19
2H033BA20
2H033BA21
2H033BA25
2H033BB03
2H033BB05
2H033BB06
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB15
2H033BB29
2H033BB30
2H033BB33
(57)【要約】
【課題】回転体の表面に対する分離部材の押し込みを抑制する。
【解決手段】第一の回転体21と、第一の回転体21の外周面に接触し、未定着画像を担持する記録媒体Pを通過させるニップ部Nを形成する第二の回転体22と、抵抗発熱体56を有し、第一の回転体21を加熱する加熱体23と、第一の回転体21の内側に配置され、第二回転体22との間に第一の回転体21を挟んでニップ部Nを形成するニップ形成部材24と、ニップ部Nを通過する記録媒体P記第一の回転体21から分離する分離部材28と、を備える定着装置であって、分離部材28は、第一回転体21の外周面に対して非接触に配置され記録媒体Pを第一の回転体21から分離する分離部28aと、第一の回転体21の外周面に接触する接触部28bと、を有し、接触部28bは、第一の回転体21を介してニップ形成部材24に接触可能な位置に配置される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の回転体と、
前記第一の回転体の外周面に接触し、未定着画像を担持する記録媒体を通過させるニップ部を形成する第二の回転体と、
抵抗発熱体を有し、前記第一の回転体を加熱する加熱体と、
前記第一の回転体の内側に配置され、前記第二回転体との間に前記第一の回転体を挟んで前記ニップ部を形成するニップ形成部材と、
前記ニップ部を通過する前記記録媒体を前記第一の回転体から分離する分離部材と、
を備える定着装置であって、
前記分離部材は、前記第一回転体の外周面に対して非接触に配置され前記記録媒体を前記第一の回転体から分離する分離部と、前記第一の回転体の外周面に接触する接触部と、を有し、
前記接触部は、前記第一の回転体を介して前記ニップ形成部材に接触可能な位置に配置されることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記接触部は、前記記録媒体が通過しない非通過領域において前記第一回転体の外周面に接触する請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記ニップ形成部材は、前記ニップ部において前記加熱体を前記第一の回転体の内周面に接触させるように保持する請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記第一の回転体の内周面に接触する前記加熱体の面は、平面である請求項3に記載の定着装置。
【請求項5】
前記ニップ形成部材は、記録媒体通過方向における前記ニップ部の中央よりも下流側において、前記加熱体よりも前記第二の回転体側へ突出する請求項3に記載の定着装置。
【請求項6】
前記接触部が前記第一の回転体を介して接触する前記ニップ形成部材の接触面は、前記第一の回転体の長手方向に渡って凹凸が無い面である請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項7】
前記接触部は、前記第一の回転体の長手方向における前記抵抗発熱体が配置される領域以外の領域において、前記第一の回転体の外周面に接触する請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項8】
前記第一の回転体は、前記第二の回転体の回転に伴って従動回転する請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項9】
前記第一の回転体は、樹脂製の基材を有する請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項10】
前記第一の回転体と前記第二の回転体とを互いに圧接させる加圧部材と、
前記加圧部材による前記第一の回転体と前記第二の回転体の圧接状態を解除する脱圧機構と、
を備える請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項11】
前記接触部は、弾性材料により構成される請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項12】
前記第一の回転体の外径は、前記第二の回転体の外径よりも大きい請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項13】
前記第一の回転体と前記第二の回転体とを互いに圧接させる加圧部材を備え、
前記加圧部材は、前記第二の回転体を前記第一の回転体へ加圧する請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項14】
前記分離部の先端と前記第一の回転体の外周面との間隔は、前記第一の回転体の長手方向における中央側よりも端部側において小さい請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項15】
前記第一の回転体は、基材と、前記基材よりも外周側に設けられる表層と、を有し、前記表層と前記基材との間に弾性層を有しない請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項16】
前記加熱体は、前記第一の回転体の長手方向に渡って配列される複数の抵抗発熱体を有する請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項17】
請求項1に記載の定着装置を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタなどの電子写真方式の画像形成装置においては、用紙などの記録媒体にトナー画像を定着させる定着装置が搭載されている。
【0003】
斯かる定着装置は、ベルト又はローラなどの一対の回転体を備えており、これらの回転体によって記録媒体を挟持しながら搬送することにより、記録媒体を加熱及び加圧して記録媒体上のトナー画像を定着させる。しかしながら、記録媒体が回転体同士の間を通過する際、回転体に対して記録媒体が貼り付くことがある。そのため、定着装置においては、回転体から記録媒体を分離する分離部材を備えるものがある。分離部材は、その先端部が回転体の表面に接近するように配置されており、回転体同士の間を通過した記録媒体が分離部材の先端部に接触することにより、記録媒体が回転体から分離される。
【0004】
分離部材が安定した分離機能を発揮するには、分離部材の先端と回転体の表面(外周面)との間の間隔が一定に維持されることが好ましい。そのため、従来の定着装置においては、分離部材の一部を回転体の表面に接触させ、回転体の表面位置が変動しても、その変動に対して分離部材の先端が追随して変位できるようにしている。
【0005】
このように、従来の構成においては、分離部材の一部を回転体の表面に接触させることにより、分離部材の先端と回転体の表面との間の間隔が一定に維持されるようにしているが、メンテナンス作業中に作業者が誤って分離部材を強く押すなどして、分離部材が回転体の表面に押し付けられると、回転体の表面が傷付く虞がある。
【0006】
そのため、例えば特許文献1(特開2013-186394号公報)においては、回転体としてのベルトの両端を保持するフランジに、ベルトに対する分離部材の押し込みを規制する腕状の規制部を設ける構成が提案されている。これにより、作業者が誤って分離部材を強く押しても、規制部によってベルトの表面に対する分離部材の押し込みが規制されるため、ベルト表面の傷つきを防止できるとしている。
【0007】
しかしながら、腕状の規制部をフランジに設ける構成は、フランジに使用される材料及びコストなどの観点から、規制部の強度を十分に確保しにくいといった課題がある。そして、万が一、規制部が分離部材から受ける荷重に耐えられずに破損した場合は、分離部材が回転体の表面に押し込まれて、回転体の表面が傷付く虞がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上の事情から、本発明においては、回転体の表面に対する分離部材の押し込みを抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、第一の回転体と、前記第一の回転体の外周面に接触し、未定着画像を担持する記録媒体を通過させるニップ部を形成する第二の回転体と、抵抗発熱体を有し、前記第一の回転体を加熱する加熱体と、前記第一の回転体の内側に配置され、前記第二回転体との間に前記第一の回転体を挟んで前記ニップ部を形成するニップ形成部材と、前記ニップ部を通過する前記記録媒体を前記第一の回転体から分離する分離部材と、を備える定着装置であって、前記分離部材は、前記第一回転体の外周面に対して非接触に配置され前記記録媒体を前記第一の回転体から分離する分離部と、前記第一の回転体の外周面に接触する接触部と、を有し、前記接触部は、前記第一の回転体を介して前記ニップ形成部材に接触可能な位置に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、回転体の表面に対する分離部材の押し込みを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の一形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
図2】本実施形態に係る定着装置の側面断面図である。
図3】本実施形態に係る定着装置の斜視図である。
図4】本実施形態に係る定着装置の分解斜視図である。
図5】本実施形態に係る定着ベルトの断面図である。
図6】本実施形態に係るヒータの平面図である。
図7】本実施形態に係るヒータに給電部材としてのコネクタが接続された状態を示す斜視図である。
図8】定着ベルトの変形を説明するための図である。
図9】定着ベルトに対する分離板の押し込みを抑制するための構成を示す図である。
図10】本実施形態に係るニップ形成部材のガイド部の構成を示す斜視図である。
図11】本実施形態に係る分離板の接触部の位置を示す平面図である。
図12】ニップ形成部材のガイド部が定着ベルトの長手方向に渡って連続する面を有する例を示す図である。
図13】分離板の先端を中央よりも両端部側において定着ベルトに接近させた例を示す図である。
図14】ニップ形成部材をヒータよりも加圧ローラ側へ突出させた例を示す図である。
図15】加圧ローラが定着ベルト側へ加圧される例を示す図である。
図16】定着ベルトと加圧ローラの圧接状態を解除する脱圧機構を示す図である。
図17】ヒータを保持しないニップ形成部材を備える定着装置の例を示す図である。
図18】ハロゲンヒータの構成を示す図である。
図19】弾性層を有しない定着ベルトの断面図である。
図20】複数の抵抗発熱体を有するヒータの平面図である。
図21】上記実施形態とは異なる定着装置の構成を示す図である。
図22】上記実施形態とは異なる定着装置の構成を示す図である。
図23】上記実施形態とは異なる定着装置の構成を示す図である。
図24】上記実施形態とは異なる画像形成装置の構成を示す図である。
図25図24に示される定着装置の構成を示す図である。
図26図25に示されるヒータの平面図である。
図27図25に示されるヒータ及びニップ形成部材の斜視図である。
図28図25に示されるヒータに対するコネクタの取付方法を示す図である。
図29図24に示される定着装置が備える温度センサとサーモスタットの配置を示す図である。
図30図28に示されるフランジの溝部を示す図である。
図31】上記実施形態とは異なる定着装置の構成を示す図である。
図32図31に示されるヒータ、第1高熱伝導部材、ニップ形成部材の斜視図である。
図33】第1高熱伝導部材の配置を示すヒータの平面図である。
図34】第1高熱伝導部材の配置の他の例を示すヒータの平面図である。
図35】第1高熱伝導部材の配置のさらに別の例を示すヒータの平面図である。
図36】拡大分割領域を示すヒータの平面図である。
図37】上記実施形態とは異なる定着装置の構成を示す図である。
図38図37に示されるヒータ、第1高熱伝導部材、第2高熱伝導部材、ニップ形成部材の斜視図である。
図39】第1高熱伝導部材及び第2高熱伝導部材の配置を示すヒータの平面図である。
図40】第1高熱伝導部材及び第2高熱伝導部材の配置の他の例を示すヒータの平面図である。
図41】第2高熱伝導部材の配置のさらに別の例を示すヒータの平面図である。
図42】上記実施形態とは異なる定着装置の構成を示す図である。
図43】グラフェンの原子結晶構造を示す図である。
図44】グラファイトの原子結晶構造を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面に基づき、本発明について説明する。なお、本発明を説明するための各図面において、同一の機能もしくは形状を有する部材及び構成部品などの構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付すことにより一度説明した後ではその説明を省略する。
【0013】
図1は、本発明の実施の一形態に係る画像形成装置の概略構成図である。ここで、本明細書中における「画像形成装置」には、プリンタ、複写機、ファクシミリ、印刷機、又は、これらのうちの二つ以上を組み合わせた複合機などが含まれる。また、以下の説明で使用する「画像形成」とは、文字及び図形などの意味を持つ画像を形成するだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を形成することも意味する。まず、図1を参照して、本実施形態に係る画像形成装置の全体構成及び動作について説明する。
【0014】
図1に示されるように、本実施形態に係る画像形成装置100は、用紙などのシート状の記録媒体に画像を形成する画像形成部200と、記録媒体に画像を定着させる定着部300と、記録媒体を画像形成部200へ供給する記録媒体供給部400と、記録媒体を装置外へ排出する記録媒体排出部500を備えている。
【0015】
画像形成部200には、作像ユニットとしての4つのプロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkと、各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkが備える感光体2に静電潜像を形成する露光装置6と、記録媒体に画像を転写する転写装置8が設けられている。
【0016】
各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkは、カラー画像の色分解成分に対応するイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの異なる色のトナー(現像剤)を収容している以外、基本的に同じ構成である。具体的に、各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkは、表面に画像を担持する像担持体としての感光体2と、感光体2の表面を帯電させる帯電部材3と、感光体2の表面に現像剤としてのトナーを供給してトナー画像を形成する現像装置4と、感光体2の表面を清掃するクリーニング部材5を備えている。
【0017】
転写装置8は、中間転写ベルト11と、一次転写ローラ12と、二次転写ローラ13を備えている。中間転写ベルト11は、無端状のベルト部材であり、複数の支持ローラによって張架されている。一次転写ローラ12は、中間転写ベルト11の内側に4つ設けられている。各一次転写ローラ12が中間転写ベルト11を介して各感光体2に接触することにより、中間転写ベルト11と各感光体2との間に一次転写ニップが形成されている。二次転写ローラ13は、中間転写ベルト11の外周面に接触し、二次転写ニップを形成している。
【0018】
定着部300においては、定着装置20が設けられている。定着装置20は、無端状のベルトから成る定着ベルト21と、定着ベルト21に対向する対向部材としての加圧ローラ22などを備えている。定着ベルト21と加圧ローラ22は、それぞれの外周面において互いに接触し、ニップ部(定着ニップ)を形成する。
【0019】
記録媒体供給部400には、記録媒体としての用紙Pを収容する給紙カセット14と、給紙カセット14から用紙Pを送り出す給紙ローラ15が設けられている。以下、「記録媒体」を「用紙」として説明するが、「記録媒体」は紙(用紙)に限定されない。「記録媒体」は、紙(用紙)だけでなくOHPシート又は布帛、金属シート、プラスチックフィルム、あるいは炭素繊維にあらかじめ樹脂を含浸させたプリプレグシートなども含む。また、「用紙」には、普通紙以外に、厚紙、はがき、封筒、薄紙、塗工紙(コート紙及びアート紙など)、トレーシングペーパなども含まれる。
【0020】
記録媒体排出部500には、用紙Pを画像形成装置外に排出する一対の排紙ローラ17と、排紙ローラ17によって排出された用紙Pを載置する排紙トレイ18が設けられている。
【0021】
次に、図1を参照しつつ本実施形態に係る画像形成装置100の印刷動作について説明する。
【0022】
画像形成装置100において印刷動作が開始されると、各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkの感光体2及び転写装置8の中間転写ベルト11が回転を開始する。また、給紙ローラ15が、回転を開始し、給紙カセット14から用紙Pが送り出される。送り出された用紙Pは、一対のタイミングローラ16に接触することにより静止し、用紙Pに転写される画像が形成されるまで用紙Pの搬送が一旦停止される。
【0023】
各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkにおいては、まず、帯電部材3によって、感光体2の表面を均一な高電位に帯電させる。次いで、原稿読取装置によって読み取られた原稿の画像情報、あるいは端末からプリント指示されたプリント画像情報に基づいて、露光装置6が、各感光体2の表面(帯電面)に露光する。これにより、露光された部分の電位が低下して各感光体2の表面に静電潜像が形成される。そして、この静電潜像に対して現像装置4がトナーを供給し、各感光体2上にトナー画像が形成される。各感光体2上に形成されたトナー画像は、各感光体2の回転に伴って一次転写ニップ(一次転写ローラ12の位置)に達すると、回転する中間転写ベルト11上に順次重なり合うように転写される。かくして、中間転写ベルト11上にフルカラーのトナー画像が形成される。なお、画像形成装置100においては、各プロセスユニット1Y,1M,1C,1Bkのいずれか一つを使用して単色画像を形成したり、いずれか2つ又は3つのプロセスユニットを用いて2色又は3色の画像を形成したりすることもできる。また、感光体2から中間転写ベルト11へトナー画像が転写された後は、クリーニング部材5によって各感光体2上の残留トナーなどが除去される。
【0024】
中間転写ベルト11上に転写されたトナー画像は、中間転写ベルト11の回転に伴って二次転写ニップ(二次転写ローラ13の位置)へ搬送され、タイミングローラ16によって搬送されてきた用紙P上に転写される。その後、用紙Pは、定着装置20へと搬送され、定着ベルト21と加圧ローラ22によって用紙P上のトナー画像が加熱及び加圧されることにより、トナー画像が用紙Pに定着される。そして、用紙Pは、記録媒体排出部500へ搬送され、排紙ローラ17によって排紙トレイ18へ排出される。これにより、一連の印刷動作が終了する。
【0025】
続いて、図2図7に基づき、本実施形態に係る定着装置の構成について詳しく説明する。
【0026】
図2に示されるように、本実施形態に係る定着装置20は、定着ベルト21及び加圧ローラ22のほか、ヒータ23と、ニップ形成部材24と、ステー25と、温度センサ27と、分離板28などを備えている。
【0027】
定着ベルト21は、用紙Pの未定着トナー担持面に接触して未定着トナー(未定着画像)を用紙Pに定着する回転体(第一の回転体又は定着部材)であり、可撓性を有する無端状のベルトにより構成される。定着ベルト21の直径は、例えば15~120mmになるように設定されている。本実施形態においては、定着ベルト21の内径が25mmに設定されている。
【0028】
図5に示されるように、本実施形態に係る定着ベルト21は、その内周面側から外周面側に向かって順に、基材210、弾性層211、離型層212が積層され、その全体の厚さが1mm以下に設定されている。基材210は、層厚が30~50μmであって、ニッケル、ステンレスなどの金属材料、あるいはポリイミドなどの樹脂材料により形成されている。弾性層211は、層厚が100~300μmであって、シリコーンゴム、発泡性シリコーンゴム、フッ素ゴムなどのゴム材料により形成されている。定着ベルト21が弾性層211を有していることにより、ニップ部における定着ベルト21表面の微小な凹凸が形成されなくなるため、用紙P上のトナー画像に熱が均一に伝わりやすくなる。離型層212は、層厚が10~50μmであって、PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、PES(ポリエーテルサルファイド)などの材料により形成されている。定着ベルト21が、離型層212を有していることにより、トナー(トナー画像)に対する離型性(剥離性)が確保される。
【0029】
図2に示されるように、加圧ローラ22は、定着ベルト21の外周面に対向して配置される回転体(第二の回転体又は対向部材)である。
【0030】
加圧ローラ22は、例えば、外径が25mmに設定されたローラであり、中空の鉄製芯材220と、この芯材220の外周面に設けられる弾性層221と、弾性層221の外周面に設けられる離型層222を有している。弾性層221は、例えば厚みが3.5mmであり、シリコーンゴムなどにより形成される。離型層222は、例えば厚みが40μm程度であり、フッ素樹脂などにより形成される。
【0031】
ヒータ23は、定着ベルト21を加熱する加熱体である。図2に示されるように、ヒータ23は、定着ベルト21の内側に配置され、定着ベルト21の内周面に接触している。また、本実施形態に係るヒータ23は、面状又は板状のヒータであり、定着ベルト21の長手方向(用紙搬送方向に交差する用紙幅方向)に渡って長手状に延在している。
【0032】
図6に示されるように、ヒータ23は、一方向(図6中の矢印X方向)に伸びる板状の基材55を有している。基材55は、その長手方向Xが定着ベルト21の長手方向又は加圧ローラ22の軸方向を向くように配置される。基材55の表面には、2つの抵抗発熱体56が、基材55の長手方向Xへ伸び、基材55の短手方向Yに並んで配置されている。なお、ここでいう「短手方向」とは、基材55の抵抗発熱体56が設けられる面に沿って長手方向Xとは直交する方向であり、定着ベルト21の長手方向、加圧ローラ22の軸方向、用紙が搬送される用紙搬送方向と同じ方向を意味する。
【0033】
図6に示されるように、基材55の長手方向Xの一端側には、一対の電極部58が設けられている。各電極部58は、給電線59を介して各抵抗発熱体56に接続されている。一方、各抵抗発熱体56の電極部58に接続される端とは反対側の端は、別の給電線59を介して互いに接続されている。各抵抗発熱体56及び各給電線59は、絶縁性を確保するため、絶縁層57によって覆われている。これに対し、各電極部58は、後述の給電端子としてのコネクタが接続できるように、絶縁層57によって覆われておらず露出している。
【0034】
基材55は、アルミナ又は窒化アルミなどのセラミック、ガラス、マイカ、ポリイミドなどの耐熱性と絶縁性に優れる材料によって構成される。また、基材55は、ステンレス(SUS)、鉄又はアルミニウムなどの金属材料(導電性材料)の上に絶縁層を形成したものであってもよい。特に、基材55の材料が、アルミニウム、銅、銀、グラファイト、グラフェンなどの高熱伝導材料である場合は、ヒータ23の均熱性が向上し、画像品質を高めることができる。絶縁層57は、アルミナ又は窒化アルミなどのセラミック、ガラス、マイカ、ポリイミドなどの耐熱性と絶縁性に優れる材料によって構成される。抵抗発熱体56は、例えば、銀パラジウム(AgPd)及びガラス粉末などを調合したペーストを基材55の表面にスクリーン印刷などにより塗工し、その後、基材55を焼成することによって形成される。また、抵抗発熱体56の材料として、銀合金(AgPt)又は酸化ルテニウム(RuO)などの抵抗材料を用いることも可能である。また、電極部58及び給電線59は、銀(Ag)もしくは銀パラジウム(AgPd)をスクリーン印刷するなどにより形成される。
【0035】
図2に戻って、本実施形態においては、抵抗発熱体56が、基材55の加圧ローラ22側の面に設けられている。また、これとは反対に、抵抗発熱体56が、基材55の加圧ローラ22側とは反対側の面に設けられていてもよい。その場合、各抵抗発熱体56の熱が基材55を介して定着ベルト21に伝達されるため、基材55は窒化アルミニウムなどの熱伝導率の高い材料によって構成されることが好ましい。
【0036】
ニップ形成部材24は、定着ベルト21の内側に配置され、加圧ローラ22との間に定着ベルト21を挟んでニップ部Nを形成する部材である。ニップ形成部材24は、加圧ローラ22側の面にヒータ23を保持しており、ヒータ23と加圧ローラ22との間で定着ベルト21が加圧されることにより、定着ベルト21と加圧ローラ22との間にニップ部Nが形成される。ニップ形成部材24は、ヒータ23の熱によって高温になりやすいため、耐熱性の材料によって構成されることが好ましい。例えば、ニップ形成部材24が、LCP又はPEEKなどの低熱伝導性の耐熱性樹脂によって構成される場合は、ニップ形成部材24の耐熱性を確保しつつ、ヒータ23からニップ形成部材24への伝熱が抑制されるので、定着ベルト21を効率的に加熱できる。
【0037】
また、図2に示されるように、ニップ形成部材24は、定着ベルト21をガイドするガイド部24aを有している。ガイド部24aは、定着ベルト21の内周面に倣って円弧状の断面形状を有し、ニップ部Nを通過する用紙Pの通紙方向(記録媒体通過方向)Aにおけるニップ部Nの中央Mよりも上流側と下流側にそれぞれ配置されている。本実施形態においては、ガイド部24aがニップ形成部材24と一体に構成されているが、ガイド部24aはニップ形成部材24と別体であってもよい。
【0038】
ステー25は、ニップ形成部材24を支持する支持部材である。図2に示されるように、ステー25によってニップ形成部材24の加圧ローラ22側の面とは反対の面が定着ベルト21の長手方向に渡って支持されることにより、ニップ形成部材24及びヒータ23が加圧ローラ22の加圧力によって撓むのが抑制され、定着ベルト21と加圧ローラ22との間に均一な幅のニップ部Nが形成される。ステー25は、その剛性を確保するため、SUS又はSECCなどの鉄系金属材料によって構成されることが好ましい。
【0039】
温度センサ27は、ヒータ23の温度を検知する温度検知部材である。温度センサ27としては、サーモパイル、サーモスタット、サーミスタ、又はNCセンサなどの公知の温度センサを適用可能である。図2に示されるように、本実施形態においては、温度センサ27が、ヒータ23の加圧ローラ22側とは反対側の面に接触するように配置されている。また、温度センサ27は、接触式の温度センサに限らず、ヒータ23に対して接触せず、ヒータ23近傍の雰囲気温度を検知する非接触式の温度センサであってもよい。
【0040】
分離板28は、ニップNよりも用紙搬送方向下流側に配置され、定着ベルト21の表面からニップ部N通過後の用紙Pを分離する分離部材である。図2に示されるように、分離板28は、定着ベルト21の外周面に対して非接触に配置される分離部28aと、定着ベルト21の外周面に接触する接触部28bと、定着装置の側壁部33(図4参照)に取り付けられる支軸部28cとを有している。
【0041】
分離部28aは、ニップ部Nよりも通紙方向下流側において定着ベルト21の表面(外周面)に接近して配置される板状の部分であり、ニップ部N通過後の用紙Pに接触して、用紙Pを定着ベルト21の表面から分離する。また、分離部28aは、種々の幅サイズの用紙を分離できるように、最大幅の用紙が通過する最大通紙領域(最大記録媒体通過領域)よりも大きい範囲に渡って配置されている。一方、接触部28bは、ニップ部Nよりも通紙方向下流側において、定着ベルト21の外周面に接触する部分である。支軸部28cは、分離板28の長手方向両端部に設けられ、上記側壁部33に設けられる孔部33c(図4参照)に挿入される部分である。支軸部28cが側壁部33の孔部33cに回転可能に挿入されることにより、分離板28(分離部28aの先端部)は、定着ベルト21の外周面に対して接近離間する方向に変位可能に支持される。また、図2に示されるように、支軸部28cには、トーションスプリングなどの付勢部材としてのバネ29が取り付けられている。このバネ29によって分離板28が定着ベルト21の外周面に接近する方向へ付勢されていることにより、接触部28bは、基本的に定着ベルト21の外周面に接触した状態で保持される。なお、分離板28を定着ベルト21に対して接触させるように付勢する付勢部材は、トーションスプリングなどのばねのほか、磁石、あるいは錘などの他の部材により構成されてもよい。
【0042】
図3及び図4に示されるように、本実施形態に係る定着装置20は、矩形枠状に形成された装置フレーム30を備えている。装置フレーム30は、一対の側壁部33及び前壁部34を一体に有する第一の装置フレーム31と、後壁部35を有する第二の装置フレーム32と、によって構成されている。第一の装置フレーム31と第二の装置フレーム32は、一対の側壁部33に設けられた複数の係合突起33aが後壁部35に設けられた複数の係合孔35aに係合することにより組み付けられる。
【0043】
定着ベルト21及び加圧ローラ22などの各種構成部材は、一対の側壁部33によって支持される。そのため、各側壁部33には、加圧ローラ22の回転軸などを挿通させるための挿通溝33bが設けられている。挿通溝33bは、その一端側(後壁部35側)で開口し、これとは反対側の端では開口しない突き当て部が形成されている。この突き当て部には、加圧ローラ22の回転軸を回転可能に支持する軸受36が設けられている。加圧ローラ22が各側壁部33によって支持された状態では、加圧ローラ22の軸方向の一端に設けられる駆動伝達部材としての駆動伝達ギヤ37が、側壁部33よりも外側に露出した状態で配置される。これにより、定着装置20が画像形成装置本体に搭載されると、駆動伝達ギヤ37が画像形成装置本体に設けられているギヤに連結され、駆動源からの駆動力を伝達可能な状態となる。また、駆動伝達ギヤ37に代えて、駆動伝達ベルトを張架するプーリやカップリング機構などの駆動伝達部材を用いてもよい。
【0044】
定着ベルト21の長手方向の両端には、定着ベルト21を回転可能に保持する回転保持部材としての一対のベルト保持部材26(図4参照)が取り付けられる。一対のベルト保持部材26は、定着ベルト21の内側に挿入される円筒状又はC字状の保持部26aを有している。これらの保持部26aが、それぞれ定着ベルト21の両端内側に挿入されることにより、定着ベルト21が回転可能に保持される。また、各ベルト保持部材26にはガイド溝26bが形成されている。図4に示されるように、一対のベルト保持部材26と、定着ベルト21、ステー25、ニップ形成部材24、及びヒータ23が組み付けられた状態において、各ベルト保持部材26のガイド溝26bを各側壁部33の挿通溝33bの縁に沿わせながら挿入することにより、各ベルト保持部材26が各側壁部33に組み付けられる。これにより、定着ベルト21、ステー25、ニップ形成部材24及びヒータ23は、各側壁部33によって支持された状態となる。また、各ベルト保持部材26が、後壁部35との間に設けられた加圧部材としての一対の加圧ばね38によって付勢されることにより、定着ベルト21が加圧ローラ22へ加圧され、ニップ部が形成される。
【0045】
図7は、ヒータ23に給電部材としてのコネクタ40が接続された状態を示す斜視図である。
【0046】
図7に示されるように、コネクタ40は、樹脂製のハウジング41と、ハウジング41に設けられた複数のコンタクト端子42と、各コンタクト端子42に接続された給電用のハーネス43を有している。各コンタクト端子42は、板バネなどの弾性変形可能な部材によって構成されている。
【0047】
図7に示されるように、コネクタ40は、ヒータ23及びニップ形成部材24を一緒に挟むようにして取り付けられる。これにより、ヒータ23及びニップ形成部材24は、コネクタ40によって一緒に保持される。また、この状態において、コネクタ40の各コンタクト端子42の先端(接触部42a)が、それぞれ対応する電極部58に弾性的に接触(圧接)することにより、各コンタクト端子42と各電極部58とが電気的に接続される。これにより、コネクタ40を介して画像形成装置本体の電源からヒータ23(各抵抗発熱体56)へ給電可能な状態となる。
【0048】
本実施形態に係る定着装置20は、次のように動作する。
【0049】
画像形成装置において印刷動作が開始されると、上記駆動伝達ギヤ37を介して加圧ローラ22に駆動力が伝達され、加圧ローラ22が回転駆動する。そして、加圧ローラ22の駆動力が定着ベルト21に伝達されることにより、定着ベルト21が従動回転する。また、ヒータ23への給電が開始され、ヒータ23の発熱により定着ベルト21が加熱される。このとき、温度センサ27によってヒータ23の温度が検知され、その検知された温度に基づいてヒータ23の発熱量が制御されることにより、定着ベルト21の温度が画像を定着可能な温度(定着温度)となるように維持される。そして、図2に示されるように、未定着画像(トナー画像)を担持する用紙Pが、定着ベルト21と加圧ローラ22との間(ニップ部N)に搬送されることにより、用紙Pが加熱及び加圧され、トナー画像が用紙Pに定着される。
【0050】
また、トナー画像が定着された用紙Pは、定着ベルト21と加圧ローラ22との間(ニップ部N)を通過すると、分離板28に接触することにより、定着ベルト21から分離されて排出される。詳しくは、用紙Pの先端が分離板28の分離部28aの先端に接触した後、用紙Pが分離部28aに沿って搬送されることにより、用紙Pが定着ベルト21の外周面から分離される。
【0051】
ここで、定着ベルト21は可撓性を有する部材により構成されているため、基本的にニップ部N以外の箇所においては定着ベルト21が変形可能な状態にある。そのため、定着ベルト21の回転が停止した静止状態となると、図8における実線にて示されるように、定着ベルト21は図の上下方向へ広がるように変形する。一方、定着ベルト21が加熱され、定着ベルト21の回転が開始されてから十分に時間が経過した状態となると、定着ベルト21が図8における破線にて示されるように円形に近い形状となる。すなわち、定着ベルト21は、静止時における変形状態から回転を開始すると、時間が経過するにつれて、徐々に安定した円形状となる。
【0052】
このように、定着ベルト21は、静止時から通常回転時に移行するにあたって回転軌跡が変化する。この回転軌道の変化に伴って、分離板28と定着ベルト21との間の間隔が変化すると、分離板28の分離機能が安定して発揮されなくなるため、本実施形態においては、分離板28の一部(接触部28b)を定着ベルト21の外周面に接触させている。これにより、定着ベルト21の回転軌道が変化しても、分離板28(接触部28b)がその変化に追随して変位するので、分離板28(分離部28aの先端)と定着ベルト21との間の間隔を一定に維持でき、分離機能を安定して発揮できるようになる。なお、本実施形態においては、接触部28bが分離板28の長手方向の両端側のみに設けられているため(図3図4参照)、接触部28bは定着ベルト21の長手方向の両端部側における回転軌道の変化に追随して変位する。しかしながら、定着ベルト21の回転軌跡の変化は、定着ベルト21の長手方向全体に渡って同じように生じるため、接触部28bの追随によって、分離板28は定着ベルト21の中央側における回転軌道の変化にも追随でき、分離板28の分離機能を安定して発揮できる。
【0053】
ところで、定着処理中に用紙が定着装置内でジャム化して詰まった場合、定着装置を含む画像形成装置の駆動を停止し、サービスマン又はユーザーなどの作業者によって、詰まった用紙の除去処理が行われることがある。その除去処理中に、作業者が誤って分離板を強く押すと、分離板の接触部が定着ベルトの表面に押し込まれ、定着ベルトの表面を傷付ける虞がある。
【0054】
そこで、本実施形態に係る定着装置においては、上記のような分離板の押し込みによる定着ベルトの損傷を防止するため、次のような対策を講じている。
【0055】
図9は、本実施形態において、定着ベルト21に対する分離板28の押し込みを抑制するための構成を示す図である。
【0056】
図9に示されるように、本実施形態においては、分離板28の接触部28bを、定着ベルト21を介してニップ形成部材24に接触可能な位置に配置している。ここで、「接触可能な位置」とは、分離板28が定着ベルト21に対して接近する方向(定着ベルト21の内径方向)へ変位した際に、分離板28の接触部28bが定着ベルト21を介してニップ形成部材24に接触できる位置を意味する。従って、接触部28bは、常に定着ベルト21を介してニップ形成部材24に接触している状態でなくてもよい。例えば、定着ベルト21の回転中に定着ベルト21の内周面とニップ形成部材24の間に隙間が生じる場合は、接触部28bが定着ベルト21を介してニップ形成部材24に接触していなくてもよい(図8参照)。
【0057】
また、本実施形態においては、定着ベルト21を介して分離板28の接触部28bと対向する位置に、ニップ形成部材24のガイド部24aが配置されている。このため、分離板28が定着ベルト21に対して接近する方向に変位すると、分離板28の接触部28bが定着ベルト21を介してニップ形成部材24のガイド部24aに接触する。
【0058】
また、図10に示されるように、本実施形態においては、ニップ形成部材24のガイド部24aが、定着ベルト21の長手方向(矢印X方向)に渡って等間隔に複数配置されている。このため、接触部28bは、これらのガイド部24aのうち、少なくとも1つに対して接触可能な位置に配置される(図11参照)。なお、接触部28bを、隣り合うガイド部24a同士の間の間隔D(図11参照)よりも大きく形成し、2つ以上のガイド部24aに対して接触部28bが接触するようにしてもよい。
【0059】
このように、本実施形態においては、分離板28の接触部28bが、定着ベルト21を介してニップ形成部材24に接触可能な位置に配置されているため、詰まった用紙の除去処理時に作業者が誤って分離板28を定着ベルト21側へ強く押しても、接触部28bがニップ形成部材24に接触し、ニップ形成部材24よって分離板28が支持される。これにより、定着ベルト21に対する分離板28の押し込みが抑制されるので、分離板28の押し込みによる定着ベルト21の損傷を防止できるようになる。
【0060】
また、本実施形態においては、上記特許文献1に記載されるような、腕状の規制部をフランジから伸ばして形成する構成に比べて、分離板28を支持する部分(ガイド部24a)の強度を確保しやすい。すなわち、本実施形態においては、ガイド部24aが分離板28から荷重を受けると、その荷重はニップ形成部材24の本体部(ヒータ23を保持する部分)によって受け止められるので、ガイド部24aの破損及び変形が生じにくい。このため、本実施形態に係る構成によれば、定着ベルト21に対する分離板28の押し込みをより確実に防止できるようになる。
【0061】
また、本実施形態に係る構成によれば、既存の部材であるニップ形成部材24を用いて分離板28の押し込みを抑制できるため、新たな部材を追加する必要が無く、低コストで分離板28の押し込みによる定着ベルト21の損傷を防止できる。
【0062】
分離板28を構成する材料は、特に限定されず、例えば、樹脂材料又は金属材料などが用いられる。ただし、分離板28の接触部28bは、定着ベルト21の外周面に接触するので、弾性材料により構成されることが好ましい。接触部28b(特に接触面)が、弾性材料によって構成される場合は、接触部28bの接触による定着ベルト21の外周面の摩耗を抑制でき長寿命化を図れる。また、接触部28bがニップ形成部材24に対して押圧された場合に、押圧荷重を分散させることができ、定着ベルト21の凹みの発生も防止できる。接触部28bに用いられる弾性材料としては、樹脂などの発泡材又は不織布などが挙げられ、摩擦係数が小さい弾性材料が好ましい。
【0063】
また、図11において、定着装置20を通過する用紙の通紙領域(記録媒体の通過領域)をWとすると、接触部28bは、通紙領域Wの外側、すなわち用紙が通過しない非通紙領域(記録媒体が通過しない非通過領域)において定着ベルト21の外周面に接触することが好ましい。接触部28bが非通紙領域において定着ベルト21の外周面に接触することにより、通紙領域における定着ベルト21の外周面の摩耗及び傷付きを回避でき、画像ムラなどの定着不良の発生を防止できる。なお、定着装置20が異なる幅サイズの用紙を通紙可能に構成されている場合は、最大通紙領域以外の領域(非通紙領域)で接触部28bが定着ベルト21の外周面に接触するように配置されることが好ましい。
【0064】
また、接触部28bは、回転時に定着ベルト21の内周面がニップ形成部材24と接触しない位置に配置されることが好ましい。これにより、定着ベルト21の内周面がニップ形成部材24に接触することによる定着ベルト21の摩耗を抑制でき、定着ベルト21の長寿命化を図れると共に、定着ベルト21の摩耗箇所とそれ以外の箇所における定着ムラによる画像不良の発生を防止できるようになる。
【0065】
また、定着ベルト21の長手方向におけるヒータ23の抵抗発熱体56が配置される領域をZ(図10参照)とすると、図11に示されるように、接触部28bは、ヒータ23の抵抗発熱体56が配置される領域Z以外の領域において定着ベルト21の外周面に接触することが好ましい。これにより、定着ベルト21が抵抗発熱体56によって加熱される領域(領域Z)の熱が、接触部28bを介して分離板28に奪われるのを回避できるため、定着ベルト21の局部的な温度低下による定着不良の発生を防止できる。
【0066】
本実施形態においては、ニップ形成部材24が有する複数のガイド部24aのうち、少なくとも1つに対して分離板28の接触部28bを接触させるようにしているが、図12に示される例のように、複数のガイド部24aを定着ベルト21の長手方向(矢印X方向)に渡って連続させ、凹凸の無い曲面部240を形成してもよい。そして、この長手方向に渡って凹凸の無い曲面部240に対して接触部28bを接触させてもよい。この場合、接触部28bが接触する箇所において、定着ベルト21の内周面がガイド部24aのエッジに接触しないため、エッジとの接触による定着ベルト21の摩耗及び損傷を抑制できる。
【0067】
また、分離板28(分離部28a)の先端と定着ベルト21の外周面との間の間隔は、定着ベルト21の長手方向に渡って一定である場合のほか(図11参照)、図13に示される例のように、変化してもよい。図13に示される例においては、分離部28aの先端280が、定着ベルト21の長手方向(矢印X方向)における中央側よりも両端部側において、定着ベルト21の外周面に対して接近するように凹曲線状に形成されている。この場合、分離部28aの先端280と定着ベルト21の外周面との間隔が、定着ベルト21の長手方向における中央側よりも両端部側において小さくなる(e1>e2)。一般的に、用紙は定着ベルト21の長手方向のおける中央側よりも両端部側において分離しにくい傾向にあるため、図13に示される例のように、分離部28aの先端280を定着ベルト21の両端部側において近づける(間隔を小さくする)ことにより、両端部側における分離性を向上させることができる。
【0068】
また、分離性を向上させるため、図14に示される例のように、ニップ形成部材24(特に図中の丸枠で囲まれる部分)をヒータ23よりも加圧ローラ22側へ突出させてもよい。この例においては、ヒータ23が収容されるニップ形成部材24の凹部241をヒータ23の厚さよりも深く形成し、凹部241の開口縁(丸枠で囲まれる部分)をヒータ23よりも加圧ローラ22側へ突出させている。このような構成とすることにより、通紙方向Aにおけるニップ部Nの中央Mよりも下流側において、定着ベルト21の軌道が加圧ローラ22側へ膨らむように変形する(曲率が大きくなる)ため、用紙が定着ベルト21から分離されやすくなる。
【0069】
本実施形態においては、図4に示される加圧ばね38によって、定着ベルト21が加圧ローラ22に加圧される構成であるが、これとは反対に、加圧ローラ22が定着ベルト21に加圧される構成としてもよい。例えば、図15に示される例のように、加圧ローラ22を、加圧部材としての加圧ばね39及び加圧レバー45によって定着ベルト21側へ加圧してもよい。加圧ローラ22が定着ベルト21へ加圧される構成の場合は、ニップ形成部材24及びヒータ23のそれぞれの位置が固定されるため、定着ベルト21の位置が安定する。これにより、定着ベルト21と分離板28との相対的な位置関係も安定するため、分離板28の分離機能も安定しやすくなる。
【0070】
また、図16に示される例のように、定着装置20は、定着ベルト21と加圧ローラ22の圧接状態を解除する脱圧機構44を備えていてもよい。この場合、カム部材46を回転させることにより加圧レバー45を加圧方向とは反対方向に押し動かし、定着ベルト21と加圧ローラ22の圧接状態を解除する。このような脱圧機構44があることにより、定着ベルト21及び加圧ローラ22が圧接状態で放置されることによる定着ベルト21の塑性変形及び加圧ローラ22の弾性層の圧縮永久歪を防止できる。また、ジャム処理時においては、定着ベルト21と加圧ローラ22の圧接状態を解除することにより、ニップ部Nに挟まった用紙の除去作業も行いやすくなる。
【0071】
上記実施形態においては、ヒータ23を保持するニップ形成部材24に対して分離板28を接触させる構成を例に挙げて説明したが、本発明は、図17に示されるようなヒータを保持しないニップ形成部材24を備える定着装置60にも適用可能である。
【0072】
図17に示される定着装置60は、定着ベルト21と、加圧ローラ22、ニップ形成部材24と、ステー25と、分離板28のほか、ニップ形成部材24に保持されない加熱体としてのハロゲンヒータ51を備えている。
【0073】
図18に示されるように、ハロゲンヒータ51は、石英ガラスなどから成るガラス管48と、ガラス管48内に収容されるフィラメント47とを有するフィラメントランプである。フィラメント47は、直線状の直線部47aと、コイル状に密に巻回された密巻部47bを有しており、この密巻部47bが、給電されたときに発熱する抵抗発熱体となる。ハロゲンヒータ51は、定着ベルト21の内側で定着ベルト21に対して非接触に配置されており(図17参照)、ハロゲンヒータ51が発熱すると、ハロゲンヒータ51から放出される輻射熱によって定着ベルト21が加熱される。
【0074】
このようなヒータを保持しないニップ形成部材24を備える定着装置60においても、上記実施形態と同じように、分離板28を(定着ベルト21を介して)ニップ形成部材24に接触可能な位置に配置することにより、既存の部材を用いて定着ベルト21に対する分離板28の押し込みを抑制でき、定着ベルト21の損傷を防止できるようになる。また、本発明は、電磁誘導加熱方式などの他の非接触式の加熱体を用いる定着装置にも適用可能である。
【0075】
このように、本発明は、ニップ形成部材24が加熱体を保持しない構成にも適用可能であるが、上記実施形態のようなニップ形成部材24がヒータ23を保持し、ヒータ23がニップ部Nを加熱する構成においては、一般的に定着ベルトの変形が生じやすいため、本発明を適用する必要性が大きくなる。定着ベルトの変形が生じると、定着ベルトの回転軌道が変動するため、分離板の先端と定着ベルトの表面との間の間隔を一定に維持するために分離板の一部を定着ベルトに接触させる必要がある。しかしながら、分離板の一部を定着ベルトに接触させると、分離板の一部が定着ベルトの表面に強く押し込まれる虞が生じる。
【0076】
上記実施形態に係る定着装置において、定着ベルトの変形が生じやすい理由としては次のようなものがある。
【0077】
まず、上記実施形態においては、図2に示されるように、ニップ形成部材24によって保持されるヒータ23がニップ部Nを加熱するように構成されているため、定着動作が終了し、ヒータ23の発熱が停止した場合に、ニップ部Nとそれ以外の部分とにおいて定着ベルト21の温度低下速度(冷却速度)にばらつきが発生する。すなわち、定着ベルト21の回転が停止した場合、ニップ部Nにおいては、ヒータ23に残る熱の影響により定着ベルト21の温度低下が遅くなるのに対し、ニップ部N以外の箇所においては、定着ベルト21がヒータ23に残る熱の影響を受けないので定着ベルト21の温度低下が速くなる。このように、上記実施形態においては、ヒータ23がニップ部Nに配置されていることにより、定着動作終了後の定着ベルト21の温度低下速度にばらつきが生じ、このばらつきが原因で定着ベルト21の塑性変形が生じやすくなる。
【0078】
また、上記実施形態においては、定着ベルト21に対するヒータ23の接触面が平面であるため、定着ベルト21がヒータ23と加圧ローラ22との間で挟まれて放置された場合に、定着ベルト21の変形が生じやすくなる。すなわち、基本的に円形状又は円筒形状の定着ベルト21に対して平面状のヒータ23が接触するため、ニップ部Nにおける定着ベルト21の変形が大きくなり、定着ベルト21の塑性変形が生じやすくなる。さらに、定着ベルト21の基材が樹脂製である場合は、基材が金属製である場合に比べて剛性が低くなるため、定着ベルト21の塑性変形がより一層生じやすくなる。
【0079】
また、上記実施形態のように、定着ベルト21が加圧ローラ22に対して従動回転する構成であることも、定着ベルト21の変形が生じやすくなる原因となる。定着ベルト21が従動回転する場合、定着ベルト21とその内側に配置される部材との隙間を大きく確保する必要があるが、隙間を大きく確保すると、定着ベルト21の変形(回転軌道の変動)が大きくなる。
【0080】
また、定着ベルト21の外径が加圧ローラ22の外径よりも大きい場合も、定着ベルト21の変形が生じやすくなる原因となる。定着ベルト21の外径を加圧ローラ22の外径よりも大きくすると、ニップ部Nの幅が広がり、ニップ部Nに配置されるヒータ23の幅を広げることができ、生産性(単位時間あたりのプリント枚数)を向上させることができる。しかしながら、ニップ部Nの幅が広がると、ニップ部Nにおける定着ベルト21の変形が大きくなるため、定着ベルト21の塑性変形が生じやすくなる。
【0081】
また、上記実施形態とは異なるが、定着ベルト21が弾性層を有しないベルト部材により構成される場合も、定着ベルト21の変形が生じやすくなる。図19に示されるように、定着ベルト21が、基材210と、基材210よりも外周側に設けられる表層(離型層)212から成り、表層212と基材210との間にゴム層などの弾性層を有しない場合は、弾性層を有する定着ベルトに比べて、断熱性が低く、ヒータから定着ベルト表面(外周面)への熱伝導率が良くなる。しかしながら一方で、定着ベルト21の剛性が低くなるため、定着ベルト21の塑性変形が生じやすくなる。
【0082】
以上のように、定着ベルトの変形が生じやすくなる理由は様々あるが、特に、このような理由を有する構成においては、本発明を適用することにより、大きな効果を期待できる。すなわち、定着ベルトの変形に起因して分離板と定着ベルトの間の間隔が変動しやすい構成においても、本発明を適用することにより、分離板の先端と定着ベルトの表面との間の間隔を一定に維持できると共に、既存の部材を用いて定着ベルトの表面に対する分離板の押し込みも抑制でき、定着ベルトの損傷を防止できるようになる。
【0083】
また、本発明において、加熱体は、図6に示されるような基材55の長手方向Xに渡って連続して配置される抵抗発熱体56を有するヒータ23に限らず、図20に示されるような基材55の長手方向Xに渡って配列される複数の抵抗発熱体56を有するヒータ23であってもよい。図20に示される例においては、各抵抗発熱体56が給電線59を介して電極部58に対し電気的に並列に接続されている。
【0084】
このような複数の抵抗発熱体56を有するヒータ23は、生産性を向上させるため、ニップの幅を広くする構成に好適である。しかしながら一方で、ニップ部Nの幅を広くすると、定着ベルトの塑性変形が生じやすくなるので、本発明を適用することが好ましい。これにより、分離板の先端と定着ベルトの表面との間の間隔を一定に維持できると共に、定着ベルトの表面に対する分離板の押し込みも抑制できるようになる。
【0085】
また、本発明は、図21図23に示されるような構成の定着装置にも適用可能である。以下、図21図23に示される各定着装置の構成について説明する。なお、図21図23に示される構成において、図2に示される上記実施形態の定着装置20と共通する構成の部分については、同一の符号を付すことによりその説明を省略する。
【0086】
図21に示される定着装置20は、上記図2に示される定着装置20と比べて、ヒータ23の温度を検知する温度センサ27の位置が異なる。それ以外の部分は、同じ構成である。図21に示される定着装置20においては、温度センサ27が通紙方向におけるニップ部Nの中央Mよりも通紙方向上流側(ニップ入口側)に配置されている。一方、図2に示される定着装置20においては、温度センサ27が、ニップ部Nの中央Mに配置されている。図21に示されるように、温度センサ27がニップ部Nの中央Mよりも通紙方向上流側に配置されている場合は、温度センサ27によってニップ入口側の温度を精度良く検知できる。ニップ入口側においては、ニップ部Nに進入する用紙Pによって定着ベルト21の熱が特に奪われやすい領域であるため、温度センサ27によってニップ入口側の温度を精度良く検知することにより、画像の定着性を確保でき、定着オフセット(トナー画像を十分に加熱できない状態)の発生を効果的に抑制できる。
【0087】
次に、図22に示される実施形態においては、ヒータ23によって定着ベルト21を加熱する加熱用のニップ部N1と、用紙Pを通過させる定着用のニップ部N2が、それぞれ別の位置に形成されている。具体的に、本実施形態においては、定着ベルト21の内側に、ヒータ23とニップ形成部材68が別々の位置に配置され、ヒータ23とニップ形成部材68に対してそれぞれ別の加圧ローラ69,70が定着ベルト21を介して押し当てられることにより、加熱用のニップ部N1と定着用のニップ部N2が形成されている。この場合、加熱用のニップ部N1において定着ベルト21が加熱され、定着用のニップ部N2において定着ベルト21の熱が用紙Pへ付与されることにより、未定着画像が用紙Pに定着される。
【0088】
続いて、図23に示される定着装置20は、上記図22に示される定着装置において、ヒータ23側の加圧ローラ69が省略され、ヒータ23が定着ベルト21の曲率に合わせて円弧状に形成された例である。それ以外は、図22に示される構成と同じである。この場合、ヒータ23が円弧状に形成されていることにより、定着ベルト21とヒータ23とのベルト回転方向の接触長さを確保し、定着ベルト21を効率良く加熱できる。
【0089】
また、本発明に係る画像形成装置は、図1に示されるカラー画像形成装置に限らず、図24に示されるような構成の画像形成装置にも適用可能である。以下、本発明を適用可能な他の実施形態に係る画像形成装置の構成について説明する。
【0090】
図24に示される画像形成装置100は、感光体ドラムなどから成る画像形成手段80と、一対のタイミングローラ81などから成る用紙搬送部と、給紙装置82と、定着装置83と、排紙装置84と、読取部85を備えている。給紙装置82は複数の給紙トレイを備え、それぞれの給紙トレイが異なるサイズの用紙を収容する。
【0091】
読取部85は原稿Qの画像を読み取る。読取部85は、読み取った画像から画像データを生成する。給紙装置82は、複数の用紙Pを収容し、搬送路へ用紙Pを送り出す。タイミングローラ81は搬送路上の用紙Pを画像形成手段80へ搬送する。
【0092】
画像形成手段80は、用紙Pにトナー画像を形成する。具体的には、画像形成手段80は、感光体ドラムと、帯電ローラと、露光装置と、現像装置と、補給装置と、転写ローラと、クリーニング装置と、除電装置を含む。定着装置83は、トナー画像を加熱及び加圧して、用紙Pにトナー画像を定着させる。トナー画像の定着された用紙Pは、搬送ローラなどにより排紙装置84へ搬送される。排紙装置84は、画像形成装置100の外部に用紙Pを排出する。
【0093】
次に、図25に基づき、本実施形態に係る定着装置83について説明する。なお、図25に示される構成において、図2に示される上記実施形態の定着装置20と共通する構成の部分については、同一の符号を付すことによりその説明を省略する。
【0094】
図25に示されるように、定着装置83は、定着ベルト21と、加圧ローラ22と、ヒータ23と、ニップ形成部材24と、ステー25と、温度センサ27と、分離板28などを備えている。
【0095】
定着ベルト21と加圧ローラ22との間にニップ部Nが形成される。ニップ部Nのニップ幅は10mm、定着装置83の線速は240mm/sである。
【0096】
定着ベルト21は、ポリイミドの基体と離型層とを備え、弾性層を有していない。離型層は、例えばフッ素樹脂から成る耐熱性のフィルム材によって形成される。定着ベルト21の外径は約24mmである。
【0097】
加圧ローラ22は、芯金と弾性層と離型層とを含む。加圧ローラ22の外径は24~30mmであり、弾性層の厚みは3~4mmである。
【0098】
ヒータ23は、基材と、断熱層と、抵抗発熱体などを含む導体層と、絶縁層とを含み、全体の厚みが1mmに設定される。また、ヒータ23の用紙搬送方向の幅は13mmである。
【0099】
図26に示されるように、ヒータ23の導体層は、複数の抵抗発熱体56と、給電線59と、電極部58A~58Cを備えている。複数の抵抗発熱体56は、ヒータ23の長手方向(矢印X方向)に互いに間隔をあけて配置されている。ここで、各抵抗発熱体56同士の間の部分を、「分割領域」と称すると、図26の拡大図に示されるように、各抵抗発熱体56の間は、それぞれ分割領域Bが形成されている(図26においては、拡大図の範囲のみで分割領域Bを図示しているが、実際は全ての抵抗発熱体56同士の間に分割領域Bが設けられている)。また、図26において、矢印Y方向は、ヒータ23の長手方向Xに交差又は直交する方向(長手交差方向)で、基材55の厚み方向と異なる方向である。また、矢印Y方向は、複数の抵抗発熱体56の配列方向に交差する方向(配列交差方向)、又は、基材55の抵抗発熱体56が設けられた面に沿う方向でヒータ23の短手方向、あるいは、定着装置に通紙される用紙の搬送方向と同じ方向でもある。
【0100】
また、複数の抵抗発熱体56により、中央の発熱部50Bと、これとは独立して発熱可能な両端側の発熱部50A,35Cが構成されている。例えば、3つの電極部58A~58Cのうち、図26の左端の電極部58Aと中央の電極部58Bに通電すると、両端側の発熱部50A,35Cが発熱する。また、両端の電極部58A,58Cに通電すると、中央の発熱部50Bが発熱する。例えば、小サイズ用紙に定着動作を行う場合は、中央の発熱部50Bのみを発熱させ、大サイズ用紙に定着動作を行う場合は、全ての発熱部50A~35Cを発熱させることにより、用紙のサイズに応じた加熱が可能である。
【0101】
また、図27に示されるように、本実施形態に係るニップ形成部材24は、ヒータ23を収容して保持する凹部241を有している。凹部241は、ニップ形成部材24のヒータ23側に形成されている。また、凹部241は、ヒータ23とほぼ同じサイズの矩形(長方形)に形成された面(底面)24fと、その面24fの外郭を形成する4つの辺に沿って面24fと交差するように設けられた4つの壁部(側面)24b,24c,24d,24eにより構成されている。なお、図27において、右側の壁部24eは、図示省略されている。また、ヒータ23の長手方向X(抵抗発熱体56の配列方向)に対して交差する一対(左右)の壁部24d,24eのうち、一方の壁部を省略し、凹部241がヒータ23の長手方向の一端部において開口するように構成してもよい。
【0102】
図28に示されるように、本実施形態に係るヒータ23及びニップ形成部材24は、コネクタ86によって保持される。コネクタ86は、樹脂製(例えばLCP)のハウジングと、ハウジング内に設けられた複数のコンタクト端子などを有している。
【0103】
コネクタ86は、ヒータ23及びニップ形成部材24に対して、ヒータ23の長手方向X(抵抗発熱体56の配列方向)とは交差する方向に取り付けられる(図28のコネクタ86からの矢印方向参照)。また、コネクタ86は、ヒータ23の長手方向X(抵抗発熱体56の配列方向)におけるいずれか一方の端部側であって、加圧ローラ22の駆動モータが設けられる側とは反対側において、ヒータ23及びニップ形成部材24に取り付けられる。なお、コネクタ86のニップ形成部材24に対する取り付け時に、コネクタ86とニップ形成部材24のうちの一方に設けられた凸部が、他方に設けられた凹部に係合し、凸部が凹部内を相対移動する構成としてもよい。
【0104】
コネクタ86が取り付けられた状態においては、ヒータ23とニップ形成部材24がその表側と裏側からコネクタ86によって挟まれるようにして保持される。この状態において、各コンタクト端子がヒータ23の各電極部に接触(圧接)されることにより、コネクタ86を介して各抵抗発熱体56と画像形成装置に設けられた電源とが電気的に接続される。これにより、電源から各抵抗発熱体56へ電力が供給可能な状態となる。
【0105】
また、図28に示されるフランジ87は、定着ベルト21の長手方向における両端部に設けられ、定着ベルト21の両端部を内側から保持するベルト保持部材である。フランジ87は、ステー25の両端に挿入され、定着装置のフレーム部材である一対の側板に固定される。
【0106】
図29は、本実施形態に係る温度センサ27と、通電遮断部材であるサーモスタット88の配置を示す図である。
【0107】
図29に示されるように、本実施形態に係る温度センサ27は、定着ベルト21の長手方向(矢印X方向)における中央Xm側と端部側のそれぞれの内周面に対向するように配置されている。また、これらの温度センサ27のうちいずれか一方は、ヒータ23の抵抗発熱体同士間の上記分割領域B(図26参照)に対応する位置に配置される。
【0108】
また、定着ベルト21の中央Xm側と端部側においては、通電遮断部材としてのサーモスタット88が定着ベルト21の内周面に対向するように配置されている。各サーモスタット88は、定着ベルト21の内周面の温度又は内周面近傍の雰囲気温度を検知する。サーモスタット88によって検知された温度があらかじめ設定された閾値を超えた場合は、ヒータ23への通電が遮断される。
【0109】
また、図29及び図30に示されるように、定着ベルト21の両端部を保持するフランジ87には、スライド溝87aが設けられている。スライド溝87aは、定着ベルト21の加圧ローラ22に対する接離方向に延在する。スライド溝87aには定着装置の筐体の係合部が係合する。この係合部がスライド溝87a内を相対移動することにより、定着ベルト21は加圧ローラ22に対する接離方向へ移動可能に構成されている。
【0110】
また、本発明は、次のような構成の定着装置にも適用可能である。
【0111】
図31は、本発明を適用可能な別の実施形態に係る定着装置の概略構成図である。
【0112】
図31に示される定着装置20は、回転体あるいは定着部材としての定着ベルト21と、対向回転体あるいは加圧部材としての加圧ローラ22と、加熱体としてのヒータ23と、加熱体保持部材としても機能するニップ形成部材24と、支持部材としてのステー25と、温度検知部材としての温度センサ(サーミスタ)27と、第1高熱伝導部材89と、分離板28とを備えている。定着ベルト21は、無端状のベルトから成る。加圧ローラ22は、定着ベルト21の外周面に接触して、定着ベルト21との間にニップ部Nを形成する。ヒータ23は、定着ベルト21を加熱する。ニップ形成部材24は、ヒータ23を保持する。ステー25は、ニップ形成部材24を支持する。温度センサ27は、第1高熱伝導部材89の温度を検知する。分離板28は、ニップ部Nを通過した用紙Pを定着ベルト21から分離する。すなわち、本実施形態に係る定着装置20は、上記図2に示される定着装置と比べて、第1高熱伝導部材89を備えている以外、基本的に同じ構成である。なお、図31の紙面に直交する方向は、定着ベルト21、加圧ローラ22、ヒータ23、ニップ形成部材24、ステー25、第1高熱伝導部材89及び分離板28の長手方向であり、以下、この方向を単に長手方向と呼ぶ。また、この長手方向は搬送される用紙の幅方向、定着ベルト21のベルト幅方向、そして、加圧ローラ22の軸方向でもある。
【0113】
ここで、本実施形態におけるヒータ23は、上記図26に示されるヒータと同じように、複数の抵抗発熱体56が、ヒータ23の長手方向に互いに間隔をあけて配置されている。しかしながら、複数の抵抗発熱体56が互いに間隔をあけて配置される構成においては、抵抗発熱体56同士の間隔である分割領域Bにおけるヒータ23の温度が、抵抗発熱体56が配置される部分に比べて低くなる傾向にある。このため、分割領域Bにおいては、定着ベルト21の温度も低くなり、定着ベルト21の温度が長手方向に渡って不均一になる虞がある。
【0114】
そのため、本実施形態においては、分割領域Bにおける温度落ち込みを抑制して、定着ベルト21の長手方向の温度ムラを抑制するために、上記第1高熱伝導部材89を設けている。以下、第1高熱伝導部材89についてより詳細に説明する。
【0115】
図31に示されように、第1高熱伝導部材89は、図の左右方向において、ヒータ23とステー25との間に配置され、特にヒータ23とニップ形成部材24との間に挟まれる。つまり、第1高熱伝導部材89の一方の面は、ヒータ23の基材55の裏面に接触し、第1高熱伝導部材89の他方の面(一方の面とは反対側の面)は、ニップ形成部材24に接触している。
【0116】
ステー25は、ヒータ23などの厚み方向に延在する二つの垂直部25aの接触面25a1をニップ形成部材24に接触させ、ニップ形成部材24、第1高熱伝導部材89、ヒータ23を支持する。長手交差方向(図31の上下方向)において、接触面25a1は抵抗発熱体56が設けられる範囲よりも外側に設けられる。これにより、ヒータ23からステー25への伝熱を抑制でき、ヒータ23が定着ベルト21を効率よく加熱できる。
【0117】
図32に示されるように、第1高熱伝導部材89は、一定の厚みを有する板状の部材であり、例えば、その厚みが0.3mm、長手方向の長さが222mm、長手交差方向の幅が10mmに設定される。本実施形態においては、第1高熱伝導部材89が単一の板材により構成されるが、複数の部材からなってもよい。なお、図32においては、図31に記載のガイド部24aが省略されている。
【0118】
第1高熱伝導部材89は、ニップ形成部材24の凹部241に嵌め込まれ、その上からヒータ23が取り付けられることで、ニップ形成部材24とヒータ23とに挟み込まれて保持される。本実施形態においては、第1高熱伝導部材89の長手方向の幅がヒータ23の長手方向の幅と略同じに設定されている。第1高熱伝導部材89及びヒータ23は、凹部241の長手方向と交差する方向に配置される両側壁(長手方向規制部)24d,24eによって、長手方向の移動が規制される。このように、第1高熱伝導部材89の定着装置内における長手方向の位置ずれが規制されることにより、長手方向の狙いの範囲に対して熱伝導効率を向上させることができる。また、第1高熱伝導部材89及びヒータ23は、凹部241の長手方向に配置される両側壁(配列交差方向規制部)24b,24cによって、長手交差方向の移動が規制される。
【0119】
第1高熱伝導部材89が配置される長手方向(矢印X方向)の範囲は、図32に示される範囲に限らない。例えば、図33に示されるように、抵抗発熱体56が配置される長手方向の範囲のみに第1高熱伝導部材89が配置されてもよい(図33におけるハッチング部参照)。また、図34に示される例のように、長手方向(矢印X方向)の間隔(分割領域)Bに対応する位置で、その全域のみに第1高熱伝導部材89を配置することもできる。なお、図34においては、便宜上、抵抗発熱体56と第1高熱伝導部材89が図34の上下方向にずらして示されているが、両者は長手交差方向(矢印Y方向)のほぼ同じ位置に配置される。また、第1高熱伝導部材89は、抵抗発熱体56の長手交差方向(矢印Y方向)の一部に渡って配置されてもよいし、図35に示される例のように、第1高熱伝導部材89が抵抗発熱体56の長手交差方向(矢印Y方向)の全体に渡って配置されていてもよい。さらに、図35に示されるように、第1高熱伝導部材89を、長手方向の間隔Bに対応する位置に加えて、その間隔Bを間にはさむ両側の抵抗発熱体56にまたがって配置することもできる。この「第1高熱伝導部材89を両側の抵抗発熱体56にまたがって配置する」とは、第1高熱伝導部材89が両側の抵抗発熱体56と長手方向の位置が少なくとも一部重なることを意味する。また、第1高熱伝導部材89は、ヒータ23の全ての間隔Bに対応する位置に配置されてもよいし、図35に示される例のように、一部の間隔B(この場合1箇所)に対応する位置だけ配置されてもよい。ここで、「第1高熱伝導部材89が間隔Bに対応する位置に配置される」とは、間隔Bと第1高熱伝導部材89の少なくとも一部が長手方向において重なることを意味する。
【0120】
加圧ローラ22の加圧力により、第1高熱伝導部材89はヒータ23とニップ形成部材24との間に挟み込まれてこれらの部材に密着する。第1高熱伝導部材89がヒータ23に接触することにより、ヒータ23の長手方向の熱伝導効率が向上する。そして、第1高熱伝導部材89が、長手方向において、ヒータ23の間隔Bに対応する位置に配置されることにより、間隔Bにおける熱伝導効率を向上させることができ、間隔Bへ伝達される熱量を増やし、間隔Bにおける温度を上昇させることができる。これにより、ヒータ23の長手方向の温度ムラを抑制でき、定着ベルト21の長手方向の温度ムラを抑制できる。その結果、用紙に定着される画像の定着ムラ及び光沢ムラを抑制できる。また、間隔Bにおいて十分な定着性能を確保するために、ヒータ23の発熱量を多くする必要が無くなり、定着装置の省エネ化を実現できる。特に、抵抗発熱体56が配置される長手方向全域に渡って第1高熱伝導部材89が配置される場合は、ヒータ23による主な加熱領域(つまり、通紙される用紙の画像形成領域)全域において、ヒータ23の伝熱効率を向上させ、ヒータ23ひいては定着ベルト21の長手方向の温度ムラを抑制できる。
【0121】
さらに、第1高熱伝導部材89とPTC特性を有する抵抗発熱体56との組み合わせにより、小サイズ用紙通紙時の非通紙領域による過昇温をより効果的に抑制できる。このPTC特性とは、温度が高くなると抵抗値が高くなる(一定電圧をかけた場合に、ヒータ出力が下がる)特性である。すなわち、抵抗発熱体56がPTC特性を有していることにより、非通紙領域における抵抗発熱体56の発熱量を効果的に抑制できると共に、第1高熱伝導部材89によって、温度が上昇した非通紙領域の熱量を通紙領域へ効率的に伝達できるので、これらの相乗効果により非通紙領域による過昇温を効果的に抑制できる。
【0122】
また、間隔Bの周辺においても、間隔Bの発熱量が小さいことによりヒータ23の温度が低くなるため、第1高熱伝導部材89を配置することが好ましい。例えば、図36に示される間隔Bの周辺の領域を含む拡大分割領域Cに対応する位置に、第1高熱伝導部材89を配置することにより、間隔B及びその周辺における長手方向の熱伝達効率を向上させ、ヒータ23の長手方向の温度ムラをより効果的に抑制できる。また、第1高熱伝導部材89が、全ての抵抗発熱体56が配置される領域の長手方向全体に渡って配置されている場合は、ヒータ23(定着ベルト21)の長手方向の温度ムラをより確実に抑制できる。
【0123】
続いて、定着装置のさらに別の実施形態について説明する。
【0124】
図37に示される定着装置20は、ニップ形成部材24と第1高熱伝導部材89との間に第2高熱伝導部材90を有している。第2高熱伝導部材90は、ニップ形成部材24、ステー25、第1高熱伝導部材89などの部材の積層方向(図37における左右方向)において、第1高熱伝導部材89と異なる位置に設けられる。より詳しくは、第2高熱伝導部材90は、第1高熱伝導部材89に重ね合わせされて設けられる。また、本実施形態においては、上記図31に示される実施形態と同じように、温度センサ(サーミスタ)27が設けられているが、図37は、温度センサ27が配置されていない断面を示している。
【0125】
第2高熱伝導部材90は、基材55よりも熱伝導率の高い部材、例えばグラフェン又はグラファイトにより構成される。本実施形態においては、第2高熱伝導部材90が、厚み1mmのグラファイトシートにより構成される。また、第2高熱伝導部材90は、アルミニウム、銅、銀などの板材により構成されてもよい。
【0126】
図38に示されるように、第2高熱伝導部材90は、ニップ形成部材24の凹部241に複数配置され、各第2高熱伝導部材90同士の間には長手方向の間隔が介在している。ニップ形成部材24の第2高熱伝導部材90が設けられる部分には、その他の部分よりも一段深い窪みが形成されている。第2高熱伝導部材90は、長手方向の両側において、ニップ形成部材24との間に隙間が設けられている。これにより、第2高熱伝導部材90からニップ形成部材24への伝熱が抑制され、ヒータ23によって定着ベルト21が効率的に加熱される。なお、図38においては、図37に記載のガイド部24aが省略されている。
【0127】
図39に示されるように、第2高熱伝導部材90(ハッチング部参照)は、長手方向(矢印X方向)において、間隔Bに対応する位置で、隣り合う抵抗発熱体56の少なくとも一部に重なる位置に配置されている。特に、本実施形態においては、第2高熱伝導部材90が、間隔B全域に渡って配置されている。なお、図39(及び後述の図41)においては、第1高熱伝導部材89が、全ての抵抗発熱体56が配置される領域の長手方向全体に渡って配置されている場合を示しているが、第1高熱伝導部材89の配置範囲はこれに限らない。
【0128】
本実施形態のように、第1高熱伝導部材89に加えて、長手方向の間隔Bに対応する位置で、隣り合う抵抗発熱体56の少なくとも一部に重なる位置に第2高熱伝導部材90が配置されていることにより、間隔Bにおける長手方向の熱伝達効率をより一層向上させ、ヒータ23の長手方向の温度ムラをより効果的に抑制できる。また、最も好ましくは、図40に示されるように、間隔Bに対応する位置でその全域にのみ第1高熱伝導部材89及び第2高熱伝導部材90を設ける。これにより、間隔Bに対応する位置において、その他の領域と比較して特に熱伝達効率を向上させることができる。なお、図40においては、便宜上、抵抗発熱体56と第1高熱伝導部材89及び第2高熱伝導部材90が、図の上下方向にそれぞれずらして示されているが、これらは長手交差方向(矢印Y方向)のほぼ同じ位置に配置される。ただし、これに限るものではなく、第1高熱伝導部材89及び第2高熱伝導部材90は、抵抗発熱体56の長手交差方向の一部に配置されていてもよいし、長手交差方向の全体を覆うようにして配置されていてもよい。
【0129】
また、第1高熱伝導部材89及び第2高熱伝導部材90の両方が上記グラフェンシートにより構成されてもよい。この場合、グラフェンの面に沿う所定の方向、つまり、厚み方向ではなく長手方向に熱伝導率の高い第1高熱伝導部材89及び第2高熱伝導部材90を形成できる。このため、ヒータ23及び定着ベルト21の長手方向の温度ムラを効果的に抑制できる。
【0130】
グラフェンは薄片状の粉体である。グラフェンは、図43に示されるように、炭素原子の平面状の六角形格子構造から成る。グラフェンシートとは、シート状のグラフェンであり、通常、単層である。また、グラフェンシートは、炭素の単一層に不純物を含んでいてもよいし、フラーレン構造を有するものであってもよい。フラーレン構造は、一般的に、同数の炭素原子が5員環および6員環でかご状に縮環した多環体を形成して成る化合物として認識されており、例えば、C60、C70およびC80フラーレン又は3配位の炭素原子を有する他の閉じたかご状構造である。
【0131】
グラフェンシートは、人工物であり、例えば化学気相蒸着(CVD)法により作製され得る。
【0132】
グラフェンシートには市販品を用いることができる。グラフェンシートの大きさ、厚み、あるいは後述するグラファイトシートの層数などは、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)によって測定される。
【0133】
また、グラフェンを多層化したグラファイトは大きな熱伝導異方性を持つ。グラファイトは、図44に示すように、炭素原子の縮合六員環層面が平面状に広がった層を有し、この層が何重にも重なった結晶構造を有する。この結晶構造における炭素原子間は、層内での隣接する炭素原子同士は共有結合をなし、層間の炭素原子同士はファン・デル・ワールス結合をなす。そして、共有結合はファン・デル・ワールス結合に比べてその結合力が大きく、層内での結合と層間での結合とでは大きな異方性を持つ。つまり、第1高熱伝導部材89あるいは第2高熱伝導部材90をグラファイトにより構成することにより、第1高熱伝導部材89あるいは第2高熱伝導部材90における長手方向の伝熱効率が厚み方向(つまり、部材の積層方向)に比べて大きくなり、ニップ形成部材24への伝熱を抑制できる。従って、ヒータ23の長手方向の温度ムラを効率よく抑制するとともに、ニップ形成部材24側へ流出する熱を最小限に抑えることができる。また第1高熱伝導部材89あるいは第2高熱伝導部材90をグラファイトにより構成することにより、700度程度まで酸化しない優れた耐熱性を第1高熱伝導部材89あるいは第2高熱伝導部材90に持たせることができる。
【0134】
グラファイトシートの物性や寸法は、第1高熱伝導部材89あるいは第2高熱伝導部材90に求められる機能に応じて適宜変更できる。例えば、高純度のグラファイトあるいは単結晶グラファイトを用いる、あるいは、グラファイトシートの厚みを大きくすることにより、その熱伝導の異方性を高めることができる。また、定着装置を高速化するために、厚みの小さいグラファイトシートを用いて定着装置の熱容量を小さくしてもよい。また、ニップ部N及びヒータ23の幅が大きい場合には、それに合わせて第1高熱伝導部材89あるいは第2高熱伝導部材90の長手方向の幅を大きくしてもよい。
【0135】
機械的強度を高める観点から、グラファイトシートの層数は11以上であることが好ましい。またグラファイトシートは部分的に単層と多層の部分とを含んでいてもよい。
【0136】
第2高熱伝導部材90は、長手方向において、間隔B(さらに拡大分割領域C)に対応する位置で、隣り合う抵抗発熱体56の少なくとも一部に重なる位置に設けられればよく、図39の配置に限らない。例えば、図41に示される例のように、第2高熱伝導部材90Aは、長手交差方向(矢印Y方向)において、基材55よりも長手交差方向の両側へ飛び出して設けられていてもよい。また、第2高熱伝導部材90Bは、長手交差方向において、抵抗発熱体56が設けられる範囲に設けられていてもよい。また、第2高熱伝導部材90Cは、間隔Bの一部に設けられていてもよい。
【0137】
また、図42に示される別の実施形態においては、第1高熱伝導部材89とニップ形成部材24との間に厚み方向(図42における左右方向)の隙間が設けられている。つまり、ヒータ23、第1高熱伝導部材89、及び第2高熱伝導部材90が配置されるニップ形成部材24の凹部241(図38参照)の一部の領域に、断熱層としての逃げ部24gが設けられている。逃げ部24gは、第2高熱伝導部材90(図42においては図示省略)が設けられる部分以外の長手方向の一部の領域に設けられる。また、逃げ部24gは、ニップ形成部材24の凹部241の深さをその他の部分よりも深くすることにより形成されている。これにより、ニップ形成部材24と第1高熱伝導部材89との接触面積を最小限にとどめることができるので、第1高熱伝導部材89からニップ形成部材24への伝熱が抑制され、ヒータ23によって定着ベルト21を効率的に加熱できるようになる。なお、長手方向の第2高熱伝導部材90が設けられる断面においては、上記図37に示される実施形態のように、第2高熱伝導部材90がニップ形成部材24に接触する。
【0138】
また、本実施形態においては、逃げ部24gが、長手交差方向(図42における上下方向)において、抵抗発熱体56が設けられた範囲全域に渡って設けられている。これにより、第1高熱伝導部材89からニップ形成部材24への伝熱が効果的に抑制され、ヒータ23による定着ベルト21の加熱効率が向上する。なお、断熱層として、逃げ部24gのように空間を設ける構成の他、ニップ形成部材24よりも熱伝導率の低い断熱部材を設ける構成であってもよい。
【0139】
また、本実施形態においては、第2高熱伝導部材90を第1高熱伝導部材89とは異なる部材として設けたが、これに限らない。例えば、第1高熱伝導部材89の間隔Bに対応する部分を、その他の部分よりも厚みを大きくすることにより、第1高熱伝導部材89が第2高熱伝導部材90の機能を兼ねるようにしてもよい。
【0140】
以上、本発明を適用可能な他の定着装置及び画像形成装置の構成について説明したが、斯かる構成の定着装置及び画像形成装置においても本発明を適用することにより、上記実施形態と同様の効果を得られる。すなわち、本発明を適用することにより、分離板の先端と定着ベルトの表面との間の間隔を一定に維持できると共に、既存の部材を用いて定着ベルトの表面に対する分離板の押し込みも抑制できるようになる。
【0141】
以上説明した本発明の態様をまとめると、本発明には、少なくとも下記の構成を備える加熱装置、定着装置、画像形成装置が含まれる。
【0142】
[第1の構成]
第1の構成は、第一の回転体と、前記第一の回転体の外周面に接触し、未定着画像を担持する記録媒体を通過させるニップ部を形成する第二の回転体と、抵抗発熱体を有し、前記第一の回転体を加熱する加熱体と、前記第一の回転体の内側に配置され、前記第二回転体との間に前記第一の回転体を挟んで前記ニップ部を形成するニップ形成部材と、前記ニップ部を通過する前記記録媒体を前記第一の回転体から分離する分離部材と、を備える定着装置であって、前記分離部材は、前記第一回転体の外周面に対して非接触に配置され前記記録媒体を前記第一の回転体から分離する分離部と、前記第一の回転体の外周面に接触する接触部と、を有し、前記接触部は、前記第一の回転体を介して前記ニップ形成部材に接触可能な位置に配置される定着装置である。
【0143】
[第2の構成]
第2の構成は、前記第1の構成において、前記接触部は、前記記録媒体が通過しない非通過領域において前記第一回転体の外周面に接触する定着装置である。
【0144】
[第3の構成]
第3の構成は、前記第1又は第2の構成において、前記ニップ形成部材は、前記ニップ部において前記加熱体を前記第一の回転体の内周面に接触させるように保持する定着装置である。
【0145】
[第4の構成]
第4の構成は、前記第3の構成において、前記第一の回転体の内周面に接触する前記加熱体の面は、平面である構成の定着装置である。
【0146】
[第5の構成]
第5の構成は、前記第3又は第4の構成において、前記ニップ形成部材は、記録媒体通過方向における前記ニップ部の中央よりも下流側において、前記加熱体よりも前記第二の回転体側へ突出する定着装置である。
【0147】
[第6の構成]
第6の構成は、前記第1から第5のいずれか1つの構成において、前記接触部が前記第一の回転体を介して接触する前記ニップ形成部材の接触面は、前記第一の回転体の長手方向に渡って凹凸が無い定着装置である。
【0148】
[第7の構成]
第7の構成は、前記第1から第6のいずれか1つの構成において、前記接触部は、前記第一の回転体の長手方向における前記抵抗発熱体が配置される領域以外の領域において、前記第一の回転体の外周面に接触する定着装置である。
【0149】
[第8の構成]
第8の構成は、前記第1から第7のいずれか1つの構成において、前記第一の回転体は、前記第二の回転体の回転に伴って従動回転する定着装置である。
【0150】
[第9の構成]
第9の構成は、前記第1から第8のいずれか1つの構成において、前記第一の回転体は、樹脂製の基材を有する定着装置である。
【0151】
[第10の構成]
第10の構成は、前記第1から第9のいずれか1つの構成において、前記第一の回転体と前記第二の回転体とを互いに圧接させる加圧部材と、前記加圧部材による前記第一の回転体と前記第二の回転体の圧接状態を解除する脱圧機構と、を備える定着装置である。
【0152】
[第11の構成]
第11の構成は、前記第1から第10のいずれか1つの構成において、前記接触部は、弾性材料により構成される定着装置である。
【0153】
[第12の構成]
第12の構成は、前記第1から第11のいずれか1つの構成において、前記第一の回転体の外径は、前記第二の回転体の外径よりも大きい定着装置である。
【0154】
[第13の構成]
第13の構成は、前記第1から第12のいずれか1つの構成において、前記第一の回転体と前記第二の回転体とを互いに圧接させる加圧部材を備え、前記加圧部材は、前記第二の回転体を前記第一の回転体へ加圧する定着装置である。
【0155】
[第14の構成]
第14の構成は、前記第1から第13のいずれか1つの構成において、前記分離部の先端と前記第一の回転体の外周面との間隔は、前記第一の回転体の長手方向における中央側よりも端部側において小さい定着装置である。
【0156】
[第15の構成]
第15の構成は、前記第1から第14のいずれか1つの構成において、前記第一の回転体は、基材と、前記基材よりも外周側に設けられる表層と、を有し、前記表層と前記基材との間に弾性層を有しない定着装置である。
【0157】
[第16の構成]
第16の構成は、前記第1から第15のいずれか1つの構成において、前記加熱体は、前記第一の回転体の長手方向に渡って配列される複数の抵抗発熱体を有する定着装置である。
【0158】
[第17の構成]
第17の構成は、前記第1から第16のいずれか1つの構成の定着装置を備える画像形成装置である。
【符号の説明】
【0159】
20 定着装置
21 定着ベルト(第一の回転体)
22 加圧ローラ(第二の回転体)
23 ヒータ(加熱体)
24 ニップ形成部材
28 分離板(分離部材)
28a 分離部
28b 接触部
56 抵抗発熱体
38 加圧ばね(加圧部材)
39 加圧ばね(加圧部材)
44 脱圧機構
100 画像形成装置
N ニップ部
P 用紙(記録媒体)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0160】
【特許文献1】特開2013-186394号公報
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