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  • 特開-貴金属の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183841
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】貴金属の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20231221BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20231221BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20231221BHJP
   C22B 3/18 20060101ALI20231221BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20231221BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20231221BHJP
   B09B 3/80 20220101ALI20231221BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B3/10
C22B3/06
C22B3/18
C22B3/44
C22B3/22
B09B3/80 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097612
(22)【出願日】2022-06-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/バイオ分離・還元ナノ粒子化技術による貴金属回収・高付加価値化の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】飯島 遥
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 峻平
(72)【発明者】
【氏名】樋上 晃裕
(72)【発明者】
【氏名】小西 康裕
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 範三
【テーマコード(参考)】
4D004
4K001
【Fターム(参考)】
4D004AA50
4D004AC05
4D004BA05
4D004CA18
4D004CA22
4D004CA35
4D004CA37
4D004CA41
4D004CB05
4D004CB31
4D004CC03
4D004CC07
4D004CC11
4D004CC12
4D004CC15
4D004DA03
4D004DA06
4K001AA01
4K001AA04
4K001AA41
4K001BA22
4K001DB04
4K001DB05
4K001DB06
4K001DB16
4K001DB17
4K001HA10
4K001HA12
(57)【要約】
【課題】貴金属および卑金属を含む原料から、pH0といった強酸性の環境下であっても、貴金属を効率よく回収することが可能な貴金属の製造方法を提供する。
【解決手段】卑金属を溶解させた卑金属溶出液および貴金属含有原料を生成する卑金属溶解工程と、前記貴金属含有原料に含まれる前記貴金属を溶出させた貴金属溶出液を生成する貴金属溶解工程と、前記貴金属溶出液を30℃以上、100℃以下の範囲に加熱する加熱工程と、加熱した後の前記貴金属溶出液に酵母を加えて、前記酵母に前記貴金属溶出液に含まれる貴金属イオンを選択的に吸着させる貴金属吸着工程と、前記貴金属イオンが吸着された前記酵母の分散液に還元剤を加えて、ナノ粒子化した貴金属を分離する貴金属分離工程と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属および卑金属を含む原料を過酸化水素または塩化第二鉄を含む塩酸に浸漬して、前記卑金属の少なくとも一部を溶解させた卑金属溶出液および固相残渣である貴金属含有原料を生成する卑金属溶解工程と、
前記卑金属溶出液に硝酸を添加した混合酸液と前記貴金属含有原料とを反応させるか、王水と前記貴金属含有原料とを反応させるかの、いずれか一方または両方によって、前記貴金属含有原料に含まれる前記貴金属を溶出させた貴金属溶出液を生成する貴金属溶解工程と、
前記貴金属溶出液を30℃以上、100℃以下の範囲に加熱する加熱工程と、
加熱した後の前記貴金属溶出液に酵母を加えて、前記酵母に前記貴金属溶出液に含まれる貴金属イオンを選択的に吸着させる貴金属吸着工程と、
前記貴金属イオンが吸着された前記酵母の分散液に還元剤を加えて、ナノ粒子化した貴金属を分離する貴金属分離工程と、を有することを特徴とする貴金属の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程の後工程であって、前記加熱工程で加熱した前記貴金属溶出液を60℃未満まで冷却する冷却工程を更に有することを特徴とする請求項1に記載の貴金属の製造方法。
【請求項3】
前記酵母は、サッカロマイセス属、ジゴサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、デバリオマイセス属、カンジダ属のうち、いずれか1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の貴金属の製造方法。
【請求項4】
前記貴金属は、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムのうち、いずれか1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の貴金属の製造方法。
【請求項5】
前記還元剤は、ヒドラジン及びその塩、水素化ホウ素塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、酒石酸塩、ホスフィン酸及びその塩、ギ酸及びその塩、酢酸及びその塩、プロピオン酸及びその塩、シュウ酸及びその塩、アスコルビン酸及びその塩、リン酸及びその塩、次亜リン酸及びその塩、クエン酸及びその塩、遷移金属塩、グリシン、ジメチルアミンボラン、ホルムアルデヒドのうち、いずれか1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の貴金属の製造方法。
【請求項6】
前記貴金属分離工程で分離される貴金属は、貴金属ナノ粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載の貴金属の製造方法。
【請求項7】
前記原料は、回路基板であることを特徴とする請求項1または2に記載の貴金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、貴金属および卑金属を含む材料から卑金属を分離して貴金属を製造する貴金属の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貴金属(Au,Ag,Pt,Pd,Rh,Ir,Ru,Os)、および卑金属(Cu,Fe,Ni,Sn,Al,Zn,Cr等)を含む廃棄物(原料)から貴金属を回収する貴金属のリサイクルが行われている。例えば、廃棄されたスマートホンやパソコンの回路基板には、配線などに金や銀などの貴金属が用いられており、これらの単位重量当たりの含有量は、天然鉱石に含まれる含有量よりも多いこともある。近年、貴金属価格の高騰により、こうした貴金属を含む廃棄物から貴金属を効率的に取り出す方法が複数提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、非鉄金属を製錬する炉本体に貯留された熔体に向けて開口するパイプから、有価金属を含有する可燃物と酸素富化空気とを、熔体の湯面に吹き込むことによって、有価金属を回収する方法が開示されている。
また、例えば、特許文献2には、貴金属を含む廃棄物を塩酸および硝酸からなる王水に浸漬して、貴金属を王水に溶解して貴金属溶液として回収する貴金属回収方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、こうした特許文献1のように、製錬所で廃棄物を融解する方法では、廃棄物中に含まれる樹脂成分や重金属成分が製錬操業に悪影響を及ぼすという課題があった。また、近年では廃棄物の有価金属の割合が減少しており、処理のためのエネルギーコストが大きく、更には燃料の使用量の増加により二酸化炭素の排出量が増加するなど、環境負荷の増大も課題である。
【0005】
また、特許文献2では、貴金属を王水で溶解する際に、廃棄物に卑金属、例えば回路基板に多く用いられるCuが含まれている場合、このCuと王水に含まれる塩化ニトロシルとが反応して、有害な窒素酸化物(NOx)が発生するため、窒素酸化物の処理を行う設備が必要になり、処理コストが高くなるという課題があった。
【0006】
一方、特許文献3には、貴金属イオンを含むpH4未満の液体中に、サッカロマイセス属のパン酵母(Saccharomyces cerevisiae)を投入し、酵母細胞表面に貴金属イオンを吸着することで、貴金属を選択的に回収する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5761258号公報
【特許文献2】特開平6-158190号公報
【特許文献3】特許第6586690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3に開示された貴金属の分離方法は、pHが1.4程度であり、より強酸性の環境(例えばpH0)において、貴金属を効率よく吸着させることが難しいという課題があった。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、貴金属および卑金属を含む原料から、pH0といった強酸性の環境下であっても、貴金属を効率よく回収することが可能な貴金属の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態の貴金属の製造方法は、以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1は、貴金属および卑金属を含む原料を過酸化水素または塩化第二鉄を含む塩酸に浸漬して、前記卑金属の少なくとも一部を溶解させた卑金属溶出液および固相残渣である貴金属含有原料を生成する卑金属溶解工程と、前記卑金属溶出液に硝酸を添加した混合酸液と前記貴金属含有原料とを反応させるか、王水と前記貴金属含有原料とを反応させるかの、いずれか一方または両方によって、前記貴金属含有原料に含まれる前記貴金属を溶出させた貴金属溶出液を生成する貴金属溶解工程と、前記貴金属溶出液を30℃以上、100℃以下の範囲に加熱する加熱工程と、加熱した後の前記貴金属溶出液に酵母を加えて、前記酵母に前記貴金属溶出液に含まれる貴金属イオンを選択的に吸着させる貴金属吸着工程と、前記貴金属イオンが吸着された前記酵母の分散液に還元剤を加えて、ナノ粒子化した貴金属を分離する貴金属分離工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
態様1によれば、貴金属溶解工程で得られた貴金属溶出液を、液温が30℃以上、100℃以下の範囲になるように加熱することによって、後工程である貴金属吸着工程において、酵母に対する貴金属の吸着率を大きく高めることが可能になる。これにより、貴金属吸着工程において、酵母と貴金属溶出液との接触時間を短縮して、効率的で低コストに貴金属を製造することが可能になる。
【0012】
(2)本発明の態様2は、態様1の貴金属の製造方法において、前記加熱工程の後工程であって、前記加熱工程で加熱した前記貴金属溶出液を60℃未満まで冷却する冷却工程を更に有することを特徴とする。
【0013】
(3)本発明の態様3は、態様1または2の貴金属の製造方法において、前記酵母は、サッカロマイセス属、ジゴサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、デバリオマイセス属、カンジダ属のうち、いずれか1種または2種以上を含むことを特徴とする。
【0014】
(4)本発明の態様4は、態様1から3のいずれか1つの貴金属の製造方法において、前記貴金属は、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムのうち、いずれか1種または2種以上を含むことを特徴とする。
【0015】
(5)本発明の態様5は、態様1から4のいずれか1つの貴金属の製造方法において、前記還元剤は、ヒドラジン及びその塩、水素化ホウ素塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、酒石酸塩、ホスフィン酸及びその塩、ギ酸及びその塩、酢酸及びその塩、プロピオン酸及びその塩、シュウ酸及びその塩、アスコルビン酸及びその塩、リン酸及びその塩、次亜リン酸及びその塩、クエン酸及びその塩、遷移金属塩、グリシン、ジメチルアミンボラン、ホルムアルデヒドのうち、いずれか1種または2種以上を含むことを特徴とする。
【0016】
(6)本発明の態様6は、態様1から5のいずれか1つの貴金属の製造方法において、前記貴金属分離工程で分離される貴金属は、貴金属ナノ粒子であることを特徴とする。
【0017】
(7)本発明の態様7は、態様1から6のいずれか1つの貴金属の製造方法において、前記原料は、回路基板であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、貴金属および卑金属を含む原料から、pH0といった強酸性の環境下であっても、貴金属を効率よく回収することが可能な貴金属の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る貴金属の製造方法を段階的に示したフローチャートである。
図2】検証例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を適用した一実施形態である貴金属の製造方法について図面を参照して説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る貴金属の製造方法を段階的に示したフローチャートである。
本実施形態の貴金属の製造方法では、例えば電子機器の回路基板(貴金属および卑金属を含む原料)から貴金属を分離させて貴金属を製造する一連の手順を説明する。
なお、本実施形態での貴金属とは、Au,Ag,Pt,Pd,Rh,Ir,Ru,Osの8元素である。また、本実施形態での卑金属とは、Cu、およびCuよりもイオン化傾向が大きい金属であり、代表例としては、Cu,Fe,Ni,Sn,Al,Zn,Cr等が挙げられる。
また、原料の一例である電子機器の回路基板は、例えば、はんだ付け箇所や配線にAu、Agなどの貴金属、およびCuなどの卑金属が含まれている。
【0022】
本実施形態に係る貴金属の製造方法によって、回路基板(原料)から貴金属を製造する際には、まず、回路基板を耐酸性の反応容器に投入する。回路基板は、反応促進のため、例えば、1cm角以上、5cm角以下に予め破砕しておくことが好ましい。また、反応容器には、塩酸(HCl)を入れておく。用いる塩酸は、例えば、HCl濃度5mol/L程度の希塩酸であればよい。
【0023】
次に、この希塩酸に回路基板を浸漬させた反応容器内に、所定の速度で過酸化水素水を添加して攪拌する(卑金属溶解工程S1)。過酸化水素水は、例えば過酸化水素(H)濃度が30質量%以上、36質量%以下のものを用いればよい。
【0024】
こうした過酸化水素水の添加によって、回路基板に含まれる卑金属のうち、その主成分である銅は酸化されて、希塩酸に溶解される。なお、銅よりもイオン化傾向が大きく、さらに水素よりもイオン化傾向が大きい卑金属は、希塩酸によって溶解される。
【0025】
卑金属溶解工程S1における、希塩酸に対する過酸化水素水の添加速度は、例えば、添加後の全液量に対して0.17質量%/min以上、5.3質量%/min以下の範囲にすることが好ましい。添加速度が0.17質量%/min以上であれば、酸化雰囲気が長時間維持され、卑金属の酸化が十分に進行し、その結果、卑金属が希塩酸に十分に溶解され、回路基板に残留する未溶解の卑金属を少なくすることができる。一方、添加速度を5.3質量%/min以下にすることによって、酸化に寄与しない余剰の過酸化水素を抑制して、処理コストを低減することができる。
【0026】
卑金属溶解工程S1では、窒素(N)を含まない酸化剤を添加した希塩酸を用いて銅などの卑金属を溶解するため、貴金属を溶解可能な硝酸を含む王水で卑金属を溶解する際に発生する窒素酸化物(NOx)ガスが発生することが無い。
【0027】
一方、回路基板に含まれる貴金属は、共存する卑金属が溶解しても、過酸化水素水を添加した希塩酸に溶解すること無く回路基板に留まる。
こうした過酸化水素水の添加は、卑金属の溶解で生じる発泡が完全に無くなるまで行えばよい。卑金属溶解工程S1によって、回路基板に含まれる卑金属、例えばCuは、全量の70質量%以上が溶解され、卑金属溶解液が生成される。
【0028】
この後、卑金属の少なくとも一部を溶解した固相残渣である回路基板(貴金属含有原料)と、卑金属溶解液(液相)とを、例えば濾別によって固液分離を行ってもよい。これにより、貴金属と未溶解の卑金属とを含む回路基板(貴金属含有原料)と、卑金属溶解液とが得られる。なお、卑金属溶解液(液相)は、次工程である貴金属溶解工程S2で用いてもよく、また、例えば、還元剤の添加によって還元を行うことにより、Cuなどの卑金属を単離することもできる。
【0029】
次に、卑金属溶解工程S1によって得られた卑金属溶解液に対して硝酸を添加した混合酸液、または王水を用いて、卑金属溶解工程S1で得られた回路基板(貴金属含有原料)に含まれる貴金属を溶解する(貴金属溶解工程S2)。王水としては、例えば濃塩酸と濃硝酸とを3:1の体積比で混合した混液であればよい。濃塩酸と濃硝酸とを混合することによって、貴金属を酸化させる塩化ニトロシル(NOCl)が生じる。
【0030】
また、卑金属溶解工程S1において得られた卑金属溶解液を用いる場合、この卑金属溶解液に添加された塩酸のうち、未反応の塩酸が残っている場合、硝酸だけを添加しても塩化ニトロシルを生じることとなり、これにより貴金属を溶解させることができる。
【0031】
なお、卑金属溶解工程S1の別な実施形態として、貴金属溶解工程の前工程である卑金属溶解工程で用いる酸化剤として、過酸化水素に代えて、酸化剤として塩化第二鉄(FeCl)を用いることもできる。この場合、例えば、希塩酸に回路基板を浸漬させた反応容器内に、所定の速度で塩化第二鉄水溶液を添加して攪拌する。塩化第二鉄水溶液は、例えば塩化第二鉄濃度が20質量%以上、50質量%以下のものを用いればよい。
【0032】
こうした塩化第二鉄水溶液の添加によって、第二鉄イオンが酸化剤として作用して、回路基板に含まれる卑金属を溶解させることができる。
【0033】
この後、貴金属含有原料(固相残渣)である回路基板と卑金属溶解液とを固液分離してから回路基板を王水に浸漬したり、卑金属溶解液に硝酸を添加した混合酸液に回路基板を浸漬することによって、貴金属が溶解される。この時、回路基板に含まれる卑金属は卑金属溶解工程において少なくともその一部が可溶性の塩化物として取り除かれる。
【0034】
貴金属溶解工程S2では、卑金属溶解工程S1の溶解残渣である回路基板を、上述した混合酸液や、王水に浸漬、攪拌することにより、回路基板に含まれるAuなどの貴金属が溶解し、貴金属溶出液が生成される。なお、卑金属溶解工程S1で溶解されなかった卑金属が溶解残渣である回路基板に残留している場合、この貴金属溶解工程S2において貴金属と共に溶解される。
【0035】
この貴金属溶解工程S2では、混合酸液や王水の液温を、例えば60℃以上、80℃以下の範囲に保てばよい。また、攪拌時間は、例えば1時間以上、3時間以下の範囲であればよい。
なお、貴金属溶解工程S2では、卑金属溶解工程S1の溶解残渣である回路基板を、混合酸液および王水の両方を用いて溶解することもできる。
【0036】
貴金属溶解工程S2では、例えば、回路基板に含まれるAuが塩化ニトロシルと反応して可溶性の塩化金酸を生じる際に窒素酸化物が発生する。また、回路基板にCuが残留している場合、Cuが塩化ニトロシルと反応する際にも窒素酸化物が発生する。
【0037】
しかしながら、一般的に回路基板に含まれるAuなどの貴金属は、回路パターンを形成するCuなどの卑金属と比較して、その使用量(含有量)は少なく、貴金属の溶解に係る窒素酸化物の発生量は少ない。一方、貴金属よりも使用量の多いCuなどの卑金属の大部分は、上述した卑金属溶解工程S1において窒素酸化物を発生させずに溶解されており、貴金属溶解工程S2に移行する未溶解の卑金属の量は大幅に低減されている。
【0038】
よって、本実施形態の貴金属の製造方法では、前処理として卑金属溶解工程S1を行っているため、貴金属溶解工程S2で発生する窒素酸化物の発生量は、卑金属溶解工程S1を行なわない場合と比較して、大幅に低減される。
【0039】
次に、貴金属溶解工程S2で得られた貴金属溶出液を、液温が30℃以上、100℃以下の範囲になるように加熱する(加熱工程S3)。加熱温度は、30℃以上であればよく、好ましくは60℃以上、より好ましくは90℃以上である。加熱温度の上限は、貴金属溶出液の沸騰を防止するために、100℃以下にする。こうした貴金属溶出液の加熱は、例えば、ヒータを用いて行えばよい。
【0040】
こうした加熱工程S3によって、貴金属溶出液を加熱することによって、後工程である貴金属吸着工程S5において、酵母に対する貴金属イオンの吸着率を大きく高めることが可能になる。
【0041】
次に、加熱工程S3によって、30℃以上、100℃以下の範囲に加熱された貴金属溶出液を、60℃未満まで冷却する(冷却工程S4)。冷却温度は、60℃未満であればよく、好ましくは40℃未満、より好ましくは30℃未満である。
【0042】
こうした冷却工程S4によって、加熱工程S3で加熱された貴金属溶出液を冷却することによって、後工程である貴金属吸着工程S5において、高温環境による酵母の活性の低下を防止することができる。
なお、こうした冷却工程S4は、必ずしも行う必要は無く、例えば、液温が60℃程度を保った貴金属溶出液を用いて、後工程である貴金属吸着工程S5を行ってもよい。
【0043】
次に、加熱工程S3によって加熱され、必要に応じて冷却工程S4で冷却された貴金属溶出液に対して、酵母を加えて攪拌し、貴金属溶出液に含まれる貴金属イオンを酵母に吸着させる(貴金属吸着工程S5)。この貴金属吸着工程S5では、貴金属溶出液に含まれる貴金属イオンと酵母とが接触することにより、酵母に貴金属イオンが吸着される。
【0044】
貴金属吸着工程S5で用いられる酵母は、貴金属イオンを吸着できる酵母であればいずれの酵母でもよい。本実施形態で適用可能な酵母は、例えば、サッカロマイセス属(Saccharomyces)やカンジダ属(Candida)、トルロプシス属(Torulopsis)、ジゴサッカロマイセス属(Zygosaccharomyces)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、ピチア属(Pichia)、ヤロウィア属(Yarrowia)、ハンセヌラ属(Hansenula)、クルイウェロマイセス属(Kluyveromyces)、デバリオマイセス属(Debaryomyces)、ゲオトリクム属(Geotrichum)、ウィッケルハミア属(Wickerhamia)、フェロマイセス属(Fellomyces)、スポロボロマイセス属(Sporobolomyces)の酵母であり、この中でも特にサッカロマイセス属、ジゴサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属やデバリオマイセス属に属する酵母が好ましい。
【0045】
サッカロマイセス属の酵母は出芽酵母の代表的な酵母であって、例えば、S. bayanusであり、S. boulardiiであり、S. bulderiであり、S. cariocanusであり、S. cariocusであり、S. cerevisiaeであり、S. chevalieriであり、S. dairenensisであり、S. ellipsoideusであり、S. florentinusであり、S. kluyveriであり、S. martiniaeであり、S. monacensisであり、S. norbensisであり、S. paradoxusであり、S. pastorianusであり、S. spencerorumであり、S. turicensisであり、S. unisporusであり、S. uvarumであり、S. zonatusであり得る。
【0046】
ジゴサッカロマイセス属は耐塩性の酵母であって、味噌や醤油などから分離される酵母であり、例えばZ. rouxiiであり得る。シゾサッカロマイセス属の酵母は分裂酵母であり、例えばS. cryophilusであり、S. japonicusであり、S. octosporusであり、S. pombeであり得る。また、好ましい酵母として受託番号NITE BP-01780(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター)で寄託されたデバリオマイセス属の酵母(Debaryomyces hansenii)も例示できる。
【0047】
貴金属イオンと酵母との接触は貴金属溶出液中で行われる。酵母は生菌でもよく、また吸着機能が発揮される限り死菌であってもよい。貴金属溶出液に酵母を加えた液体は酵母の機能が発揮される環境であればよい。
【0048】
貴金属溶出液に酵母を加えた液体のpHや温度は特に限定されるものではない。例えば、pHは0以上、7以下の強酸性~中性であればよい。また、温度は10℃以上、45℃以下、好ましくは20℃以上、35℃以下である。貴金属溶出液に酵母を加えて、反応、処理、操作を行う時間は、酵母の菌体密度や貴金属イオンの濃度によっても異なるが、例えば10分から48時間程度であればよい。このような時間、貴金属イオンと酵母とを接触させることで、貴金属イオンは酵母に吸着される。
また、貴金属溶出液に酵母を加えた液体は、更に攪拌することも好ましい。撹拌によって、貴金属イオンが酵母表面に拡散する速度を高めることができる。
【0049】
貴金属溶出液に酵母を加えた液体に含まれる貴金属イオンの濃度は、適宜設定することができる。貴金属溶出液中の貴金属イオン濃度は、酵母の菌体濃度によっても異なるが、例えば、0.01mmol/L以上、100mmol/L以下であり、好ましくは0.1mmol/L以上、10mmol/L以下であればよい。こうした貴金属イオン濃度は、貴金属溶出液に酵母を加える際に、例えばイオン交換水を加えることによって調整することができる。
【0050】
また、貴金属溶出液に酵母を加えた液体に含まれる酵母の濃度は、適宜設定することができる。貴金属溶出液中の酵母濃度は、貴金属イオン濃度によっても異なるが、例えば、5g/L以上、100g/L以下の範囲であればよい。
【0051】
次に、貴金属吸着工程S5で得られた、貴金属イオンが吸着された酵母を液体から分離する(酵母分離工程S6)。この酵母分離工程S6では、例えば遠心分離によって、貴金属イオンが吸着された酵母を沈殿させて液体と分離すればよい。この後、分離した貴金属イオンが吸着された酵母を更に水洗することが好ましい。
【0052】
次に、貴金属が吸着された酵母に水を加えて分散させて酵母の分散液を生成し、この分散液に還元剤を添加することによってナノ粒子化した貴金属を分離する(貴金属分離工程S7)。この貴金属分離工程S7では、溶液のpHが7以上になるように調整してもよい。貴金属が吸着された酵母の分散液に還元剤を添加した後の溶液のpHの一例として、7以上、14以下であってもよい。また、この溶液の液温は、10℃以上、90℃以下の範囲であればよい。こうした貴金属分離工程S7で得られる貴金属は、ナノ粒子化されたものとして得られる。
【0053】
貴金属をナノ粒子化させる還元剤は、例えば、ヒドラジン及びその塩、水素化ホウ素塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、酒石酸塩、ホスフィン酸及びその塩、ギ酸及びその塩、酢酸及びその塩、プロピオン酸及びその塩、シュウ酸及びその塩、アスコルビン酸及びその塩、リン酸及びその塩、次亜リン酸及びその塩、クエン酸及びその塩、遷移金属塩、グリシン、ジメチルアミンボラン、ホルムアルデヒドのうち、いずれか1種または2種以上を含むものを用いることができる。
【0054】
貴金属分離工程S7において、貴金属が吸着された酵母に還元剤を加えて、貴金属の還元過程で平均粒子径がナノサイズ(1nm以上、100nm以下)の貴金属ナノ粒子が形成される。この時、pH7以上にすれば、還元剤による貴金属の還元能力がより一層発揮され、貴金属ナノ粒子をより効率的に形成することができる。
【0055】
この後、例えば、超音波を照射することによって、酵母と、生成した貴金属ナノ粒子とを分離することができる。また、アルカリ添加により酵母細胞を破砕して貴金属ナノ粒子を分離し、酵母やその断片を濾過などで取り除き、貴金属ナノ粒子の分散液とすることもできる。さらに貴金属ナノ粒子のペーストとして用いる場合は、貴金属ナノ粒子を酵母から分離することなく、酵母に担持したまま貴金属ナノ粒子ペーストとして用いることができる。
【0056】
以上のように、本実施形態の貴金属の製造方法によれば、貴金属溶解工程S2で得られた貴金属溶出液を、液温が30℃以上、100℃以下の範囲になるように加熱する(加熱工程S3)ことによって、後工程である貴金属吸着工程S5において、酵母に対する貴金属の吸着率を大きく高めることが可能になる。
これにより、貴金属吸着工程S5において、酵母と貴金属溶出液との接触時間を短縮して、効率的で低コストに貴金属を製造することが可能になる。
【0057】
また、加熱工程S3によって貴金属溶出液を、60℃未満まで冷却(冷却工程S4)すれば、貴金属吸着工程S5において、高温環境で酵母の活性を低下させることを防止して、効率的に酵母に貴金属を吸着させることができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態を説明したが、こうした実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0059】
本発明の効果を検証した。
一辺が1cm以上、5cm以下の角形となるように破砕したAuを含む廃基板を、濃度50質量%の王水に浸漬して、金属成分を溶解させた。この後、固液分離を行い、貴金属溶出液を得た。
【0060】
(本発明例1)
貴金属溶出液を30℃で1時間加熱した(加熱工程)。その後、液温が25℃になるまで放冷した(冷却工程)。
こうして得られた、加熱処理を行った貴金属溶出液この溶液に濃度が5.0×1014cells/m3となるようパン酵母を投入し、貴金属溶出液に含まれるAuイオンを酵母にバイオ吸着させた。酵母の代表菌であるSaccharomyces cerevisiaeは、オリエンタル酵母工業株式会社製の食用に市販されているものを用いた。そして、パン酵母を投入して5分後に、遠心分離によって酵母を分離した後、上澄み溶液に含まれる金属濃度を測定した。
【0061】
(本発明例2)
貴金属溶出液を60℃で1時間加熱した(加熱工程)こと以外は、本発明例1と同様の条件である。
【0062】
(本発明例3)
貴金属溶出液を90℃で1時間加熱した(加熱工程)こと以外は、本発明例1と同様の条件である。
【0063】
(本発明例4)
本発明例1で得られた酵母を分離後の上澄み溶液を、再度90℃で1時間加熱したこと以外は、本発明例1と同様の条件である。
【0064】
(比較例1)
貴金属溶出液を、加熱工程および冷却工程を経ずに、そのままパン酵母を投入したこと以外は本発明例1と同様の条件である。なお、加熱しない貴金属溶出液の液温は10℃以下であった。
【0065】
(比較例2)
加熱工程および冷却工程を経ずにパン酵母を投入した貴金属溶出液を、パン酵母を投入して60分後に、遠心分離によって酵母を分離したこと以外は比較例1と同様の条件である。
【0066】
以上の本発明例1-3、および比較例1、2のAu吸着率を表1に示す。
また、実施例1において、吸着された金属の選択性を図2に示す。
なお、金属イオンの吸着率は、酵母投入前の貴金属溶出液をフィルターろ過した後、ICP発光分光分析により、液中の金属の濃度を測定した。その後、酵母投入後の貴金属溶出液を採取し、フィルターろ過した後、ICP発光分光分析により金属濃度を測定した。この酵母投入前後の液中の金属濃度の減少度合いを吸着率とした。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示す結果によれば、本発明例のように、貴金属溶出液を予め30℃以上に加熱することによって、貴金属溶出液の加熱を行わない比較例と比べて、酵母に吸着されるAuの吸着率が、大きく高められることが確認できた。特に、貴金属溶出液を90℃まで加熱した本発明例3、4では、酵母に吸着されるAuの吸着率がいずれも80%以上となった。
また、図2に示す結果によれば、酵母にはAuが他の卑金属等よりも選択的に吸着されることが確認できた。
図1
図2