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特開2023-183920ソレノイド、およびソレノイドの吸引力カーブ調整方法
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  • 特開-ソレノイド、およびソレノイドの吸引力カーブ調整方法 図1
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  • 特開-ソレノイド、およびソレノイドの吸引力カーブ調整方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023183920
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】ソレノイド、およびソレノイドの吸引力カーブ調整方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/16 20060101AFI20231221BHJP
   F16K 31/06 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
H01F7/16 N
H01F7/16 E
F16K31/06 305E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097727
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】酢谷 淳一
【テーマコード(参考)】
3H106
5E048
【Fターム(参考)】
3H106DB02
3H106DB23
3H106DB32
3H106EE07
3H106GA13
5E048AA08
5E048AD02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ソレノイドの吸引力全体を下げることなく、高電流域の吸引力カーブの勾配を低下させるソレノイド及びソレノイドの吸引力カーブを調整する方法を提供する。
【解決手段】磁性材料により構成された管状の固定磁極、固定磁極21と同軸上に配置され、磁性材料により構成された管状の後部磁極22及び非磁性材料により構成され、固定磁極と同軸上に配置されるとともに固定磁極と後部磁極とを繋ぐ管状の非磁性パイプ23を有し、固定磁極と同軸上に配置され、当該軸方向に摺動可能な可動鉄心5を内包するソレノイド1であって、可動鉄心を摺動範囲の最も固定磁極側に位置させたときにおける可動鉄心の後端部に対応する位置であり、かつ、後部磁極の外周面に溝22eが形成されてい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料により構成された管状の固定磁極、前記固定磁極と同軸上に配置され磁性材料により構成された管状の後部磁極、および非磁性材料により構成され前記固定磁極と同軸上に配置されるとともに前記固定磁極と前記後部磁極を繋ぐ管状の非磁性パイプを有し、前記固定磁極と同軸上に配置され当該軸方向に摺動可能な可動鉄心を内包するソレノイドであって、
前記可動鉄心を摺動範囲の最も固定磁極側に位置させたときにおける前記可動鉄心の後端部に対応する位置であり、かつ前記後部磁極の外周面に溝が形成されていることを特徴とするソレノイド。
【請求項2】
前記溝は、前記可動鉄心を摺動範囲の最も固定磁極側に位置させたときの、前記可動鉄心の後部磁極側端部の位置を基準として、固定磁極側に2mm、その反対側に3mmの範囲内に、前記溝の幅方向の中央部が位置するように形成されることを特徴とする請求項1に記載のソレノイド。
【請求項3】
前記溝が形成された部分の後部磁極の厚みが1.5mm~2mmとなるように、前記溝の深さを調整することを特徴とする請求項1または2に記載のソレノイド。
【請求項4】
前記溝の幅が0.5mm~2mmであることを特徴とする請求項1または2に記載のソレノイド。
【請求項5】
前記溝の幅が0.5mm~2mmであることを特徴とする請求項3に記載のソレノイド。
【請求項6】
磁性材料により構成された管状の固定磁極、前記固定磁極と同軸上に配置され磁性材料により構成された管状の後部磁極、および非磁性材料により構成され前記固定磁極と同軸上に配置されるとともに前記固定磁極と前記後部磁極を繋ぐ管状の非磁性パイプを有し、前記固定磁極と同軸上に配置され当該軸方向に摺動可能な可動鉄心を内包する、ソレノイドに対し、
前記可動鉄心を摺動範囲の最も固定磁極側に位置させたときにおける前記可動鉄心の後端部に対応する位置であり、かつ前記後部磁極の外周面に溝を形成することによって、ソレノイドの高電流域の吸引力カーブの勾配を低下させることを特徴とするソレノイドの吸引力カーブ調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソレノイド、およびソレノイドの吸引力カーブ調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、流体の流量制御などに、ソレノイドと呼ばれる電磁弁が用いられる。従来のソレノイドとして、例えば特許文献1記載のソレノイドが挙げられる。特許文献1記載のソレノイドは、非磁性材料からなる非磁性パイプ(特許文献1では円筒状部材)を、磁性材料からなる固定磁極(特許文献1ではステータ)および後部磁極(特許文献1ではヨーク)で挟んだ構造のチューブ(特許文献1ではインナハウジング)と、チューブの外周側に配置されたコイルと、チューブの内部に収容された磁性体の可動鉄心(特許文献1ではプランジャ)とを含む。チューブとコイルは、磁性材料で形成されるケースに覆われている。
【0003】
ソレノイドは、チューブの外周側に配置されたコイルに電流を流してチューブと可動鉄心に磁気回路を形成し、その電流を制御することによって可動鉄心の位置を制御して、可動鉄心に連結されたロッドを動かし、それによって弁を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-38780号公報
【特許文献2】特開平11-108230号公報
【特許文献3】特開2011-220401号公報
【特許文献4】特開2020-125800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
顧客の仕様変更などに伴い、ソレノイド自体の磁気特性を変化させることなく、構成部品の全部あるいは一部を設計変更する場合がある。しかしながら、設計変更前後で磁気特性(吸引力)が変化しないように調整できたとしても、吸引力カーブの形状、特に高電流域のカーブの勾配を調整できないことがある。この高電流域のカーブの勾配が、設計変更前後で異なると、電磁弁全体の制御が困難になるなどの不都合が生じる場合がある。
【0006】
特許文献2には、ソレノイドの吸引力特性の勾配を調整する方法として、ばねのオフセット荷重を調整する方法や、調整プレートを変更する方法が記載されている。しかし、これらの方法では、特許文献2の図37からもわかるように、高電流域だけでなく、吸引力全体を下げてしまうという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、ソレノイドの吸引力全体を下げることなく、高電流域の吸引力カーブの勾配を低下させることができるソレノイドおよびソレノイドの吸引力カーブを調整する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らはソレノイドの電流印加時の磁束密度のシミュレーションを行ったところ、可動鉄心の後部磁極側端部近傍の後部磁極に磁束が集中しており、当該後部磁極の厚みを調整して、その部分に磁束をさらに集中させることによって、高電流域の吸引力カーブの勾配を低下させることができることを知見した。
【0009】
なお、特許文献3や特許文献4には、後部磁極の外周部に溝を有しているソレノイドが記載されている。これらの溝は、主に非磁性部の抜けや脱落、磁性部と非磁性部の同軸性確保を目的としており、非磁性部付近に設けられている。非磁性部付近は磁束密度が低く、磁束が集中していないので、非磁性部付近に溝を設けても高電流域の吸引力カーブの勾配を低下させる効果を得ることはできない。
【0010】
本発明のソレノイドは、磁性材料により構成された管状の固定磁極、前記固定磁極と同軸上に配置され磁性材料により構成された管状の後部磁極、および非磁性材料により構成され前記固定磁極と同軸上に配置されるとともに前記固定磁極と前記後部磁極を繋ぐ管状の非磁性パイプを有し、前記固定磁極と同軸上に配置され当該軸方向に摺動可能な可動鉄心を内包するソレノイドであって、前記可動鉄心を摺動範囲の最も固定磁極側に位置させたときにおける前記可動鉄心の後端部に対応する位置であり、かつ前記後部磁極の外周面に溝が形成されていることを特徴とする。
【0011】
ある実施形態において、前記溝は、前記可動鉄心を摺動範囲の最も固定磁極側に位置させたときの、前記可動鉄心の後部磁極側端部の位置を基準として、固定磁極側に2mm、その反対側に3mmの範囲内に、前記溝の幅方向の中央部が位置するように形成される。
【0012】
ある実施形態において、前記溝が形成された部分の後部磁極の厚みが1.5mm~2mmとなるように、前記溝の深さを調整する。
【0013】
ある実施形態において、前記溝の幅が0.5mm~2mmである。
【0014】
また、本発明のソレノイドの吸引力カーブ調整方法は、磁性材料により構成された管状の固定磁極、前記固定磁極と同軸上に配置され磁性材料により構成された管状の後部磁極、および非磁性材料により構成され前記固定磁極と同軸上に配置されるとともに前記固定磁極と前記後部磁極を繋ぐ管状の非磁性パイプを有し、前記固定磁極と同軸上に配置され当該軸方向に摺動可能な可動鉄心を内包するソレノイドに対し、前記可動鉄心を摺動範囲の最も固定磁極側に位置させたときにおける前記可動鉄心の後端部に対応する位置であり、かつ前記後部磁極の外周面に溝を形成することによって、ソレノイドの高電流域の吸引力カーブの勾配を低下させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ソレノイドの吸引力全体を下げることなく、高電流域の吸引力カーブの勾配を低下させることができるソレノイドおよびソレノイドの吸引力カーブを調整する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るソレノイドの縦断面図である。
図2図1のII部分の拡大図である。
図3】本発明の一実施形態に係るソレノイドの電流印加時における磁束密度のシミュレーションの結果を示す断面図である。
図4】(a)は本発明の一実施形態に係るソレノイドの吸引力カーブを示す図、(b)は(a)の高電流域の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のソレノイドの実施形態の一例について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1は本発明のソレノイドの一例を示す縦断面図である。ソレノイド1は、軸線Lに沿って配置されている。以下の説明では、軸線Lに平行な方向を軸方向D1とし、軸線Lに垂直な方向を方向D2と呼ぶ。各図において、軸方向D1の矢印方向(図1の下方向)を前方向または前部といい、軸方向D1の矢印方向と反対方向(図1の下方向)を後方向または後部という場合がある。
【0019】
ソレノイド1は、軸線Lを中心とした略円筒状のチューブ2と、チューブ2を取り囲むように配置されるソレノイドコイル3と、ソレノイドコイル3を取り囲むように配置されるケース4と、を備えている。チューブ2の内部には、可動鉄心5が収容されている。ソレノイド1は、ソレノイドコイル3に電流を流すことにより、可動鉄心5がチューブ2の内周面に案内されながら軸方向D1に移動するように構成されている。
【0020】
チューブ2は、磁性材料により構成された管状の固定磁極21と、磁性材料により構成された管状の後部磁極22と、非磁性材料により構成された管状の非磁性パイプ23とを有する。固定磁極21、後部磁極22、および非磁性パイプ23は、互いに同軸上に配置され、溶接等で一体的に接合されている。
【0021】
固定磁極21の材料としては、炭素量の少ない炭素鋼が好ましく、S10Cなど鉄材全般を使用することができる。固定磁極21は、その後端の周縁部から後方向へ突出する円環状部21aを備えている。円環状部21aはテーパー面21bを有している。円環状部21aの内部には可動鉄心5の前部が配置される。また、固定磁極21の外周面の後端には、第1凹部21cが形成されている。第1凹部21cは、固定磁極21の全周に亘って形成されており、非磁性パイプ23が嵌め込まれる。固定磁極21は、軸線Lに沿って固定磁極21を貫通する貫通孔21dを備えており、全体として管状(円筒状)の部材である。
【0022】
後部磁極22は、固定磁極21と軸方向D1に空隙を介して配置される。後部磁極22の材料としては、炭素量の少ない炭素鋼が好ましく、S10C(炭素鋼)など鉄材全般を使用することができる。後部磁極22は、チューブ2の後部を構成する後部22aと、後部22aから前方向へ延びる長筒部22bと、を備えている。長筒部22bの外周面は、後部22aの外周面と面一となっている。長筒部22bの内周面は、可動鉄心5の外周面に摺動可能に接触し、可動鉄心5を軸方向D1に案内する。後部磁極22は、長筒部22bの外周面の前端に形成された第2凹部22cを備えている。第2凹部22cは、後部磁極22の全周に亘って形成されており、非磁性パイプ23が嵌め込まれる。
【0023】
後部磁極22は、後部22aを貫通するネジ孔22dを備えている。ネジ孔22dには、ネジ25が挿入される。ネジ25と可動鉄心5の間には、不図示のばねの一方端が可動鉄心5の後端に、他方端がネジ25の先端に接触するように挿入されている。当該ばねとネジ25の回転によって可動鉄心5を押圧する力を調整することができ、これにより、ソレノイド1の吸引力を調整することができる。なお、ネジ25は必ずしも設ける必要はなく、ネジ25を設けない場合にはネジ孔22dを設けなくてもよい。また、前述の不図示のばねも必ずしも設けなくてもよい。
【0024】
また、後部磁極22は、長筒部22bの外周面に溝22eが形成されている。溝22eは後部磁極22の全周に亘って形成されている。溝22eの詳細については後述する。
【0025】
非磁性パイプ23の材料としては、SUS304などの非磁性ステンレスを使用することができる。非磁性パイプ23は、円筒状の部材であり、軸方向D1の両端がそれぞれ固定磁極21の第1凹部21cと後部磁極22の第2凹部22cに嵌め込まれる。非磁性パイプ23の外周面は、固定磁極21の外周面および長筒部22bの外周面と面一となっている。
【0026】
ソレノイドコイル3は、ボビン31と、コイル線32と、外装モールド33と、を備える。ボビン31は、略円筒状に形成されている本体部分と、本体部分の軸方向D1の両端に形成されているフランジと、を有する。コイル線32は、ボビン31の2つのフランジの間における本体部分に巻き付けられている。コイル線32には不図示の制御装置が接続されて、制御した電流が流される。外装モールド33は、ボビン31とともにコイル線32を収容する。ソレノイドコイル3の後端には、蓋部材34が設けられている。
【0027】
ケース4は、円筒状のケース本体4aと、ケース本体4aの前端に形成されたフランジ4bと、ケース本体4aの後端の周縁部から後方向へ突出する折り曲げ部4cとを備えている。ケース4の材料としては、炭素量の少ない炭素鋼が好ましく、S10C(炭素鋼)など鉄材全般を使用することができる。ケース本体4aは、ソレノイドコイル3を介してチューブ2を覆っている。フランジ4bは、ケース本体4aと例えば鍛造で一体成形されている。折り曲げ部4cは、径方向D2内側に折り曲げられて蓋部材34を固定している。これにより、ソレノイドコイル3がケース4とチューブ2との間に封止される。
【0028】
可動鉄心5は、磁性材料で構成される。可動鉄心5の材料としては、炭素量の少ない炭素鋼が好ましく、S10C(炭素鋼)など鉄材全般を使用することができる。また、可動鉄心5の外周面は、樹脂で被覆されてもよい。可動鉄心5は柱状または筒状をなしている。本発明において、可動鉄心5の軸方向D1の矢印方向(前方向)の端部を前端部といい、可動鉄心5の軸方向D1の矢印方向と反対方向(後方向)の端部を後端部という。可動鉄心5は、前端部から後方向へ延びるピン穴5aを備える。ピン穴5aにはロッド51の後部が挿入され、可動鉄心5とロッド51は一体となっている。可動鉄心5の軸方向D1の移動に伴ってロッド51も軸方向D1へ移動し、ロッド51は、不図示のスプールを押圧する。可動鉄心5の前端部にはスペーサー52が配置されている。
【0029】
本発明のソレノイド1は、後部磁極22の長筒部22bの外周面側、具体的には、可動鉄心5を摺動範囲の最も固定磁極21側(軸方向D1の矢印方向)に位置させたときにおける後端部に対応する位置であり、かつ前記後部磁極22の外周面に溝22eが形成されている。この位置付近は、後述の通り、電流印加時に磁束が集中する部分であるが、この部分に溝22eを形成することによって、長筒部22bの当該部分の厚みが薄くなり、当該部分にさらに磁束が集中して磁束が流れにくくなる。これによって、高電流域では溝を設けていないものに比べて吸引力が低下する。この構造によれば、高電流域では溝22e付近で電流印可により発生した磁束が流れにくくなることによって吸引力が低下するが、低電流域では溝22e付近でも磁束は問題なく流れるため、特許文献1のように吸引力全体を低下させることはない。以下、これについて詳述する。
【0030】
本発明の特徴は、高電流域のみで吸引力カーブの勾配を低くするために、高電流域のみで磁束を集中させ、磁束が流れにくくなる部分を作ることが有効である、ということを知見したことである。発明者は、電流印加時のソレノイドの磁束密度の分布についてシミュレーションを行った。結果を図3に示す。図3(a)は溝22eを設けていないもの、図3(b)は溝22eを設けたものであり、それぞれ、固定磁極21、後部磁極22、可動鉄心5、ケース4、蓋部材34の断面右半分の磁束密度分布を示している。なお、図3においては、非磁性パイプ23は省略している。また、図3(b)では溝22e以外は図3(a)と同じなので符号は省略してある。図3に示すとおり、固定磁極21の円環状部21aの先端が最も磁束が集中しており、次いで、可動鉄心5の後端部に対応する位置の後部磁極22の長筒部22b(点線囲み部分)に磁束が集中している。後部磁極22の長筒部22bの先端部、後部磁極22の後端部、ケース折り曲げ部4c、固定磁極21の前端部、ケースのフランジ4b付近は磁束密度が低くなっている。なお、図3(a)、(b)では、フランジ4bは鍔部を省略して記載している。
【0031】
電流印加時、低電流域では、磁束が集中している部分も集中していない部分も問題なく磁束が流れるが、高電流域になるにつれて、磁束が集中している部分は磁束が流れにくくなる。よって、磁束が集中している部分の厚みを薄くすることによって、その部分により磁束を集中させれば、高電流域でさらに多くの磁束が発生してもそれ以上の磁束が流れないという磁束量の上限値が存在するようになる。図3(b)のように、溝22eを設け、可動鉄心5の後部磁極22側端部近傍の、後部磁極22(長筒部22b)の厚みを薄くし、溝22eの近傍にさらに磁束を集中させて当該上限値を下げることによって、高電流域の吸引力カーブの勾配を低くすることができる。図3(b)では図3(a)の状態に比べて溝22e近傍にさらに磁束が集中していることが表れている。
【0032】
以下、溝22eを設けたことの効果についてさらに詳しく説明する。図4(a)は、設計変更前の吸引力カーブと設計変更後の吸引力カーブを比較したグラフであり、図4(b)は高電流域の拡大図である。グラフの破線は設計変更前のソレノイドの吸引力カーブを示し、灰色実線は設計変更後、溝22eを設けていないソレノイド、黒色実線は可動鉄心5の後端部に対応する位置の後部磁極22(長筒部22b)の外周面に溝22eを設けたソレノイドの吸引力カーブである。設計変更前のソレノイドと設計変更後のソレノイドの最も大きな違いは、設計変更前のソレノイドが固定鉄心、可動鉄心、後部磁極、ケースの磁性材に純鉄を用いているのに対し、設計変更後の灰色実線のソレノイドは磁性材に低酸素鋼を用いてコストダウンを図ったものであることである。その他、細かな寸法等の違いはあるが、それらは磁気特性に大きな影響を与えるものではないと考えられる。設計変更後の灰色実線のソレノイドは、溝22eを除いて図1と同様の構造であり、ソレノイド構造の各種条件を調整することによって低電流域の吸引力を設計変更前のソレノイドに合わせている。
【0033】
図4(a)、(b)からわかるように、溝22eを設けていないソレノイド(灰色実線)は高電流域のカーブが合っていない。この高電流域のカーブの勾配が合わないと、電磁弁全体の制御が困難になるなどの不都合が生じるため、高電流域のカーブの勾配を低くする、すなわち、高電流域のカーブを図4(b)の矢印の方向に調整する必要がある。本発明では、上述の通り溝22eを設けることにより、吸引力カーブを図2の黒色実線のようにすることができ、吸引力全体を下げることなく、高電流域の勾配だけを低下させることができる。すなわち、設計変更前の吸引力カーブとほぼ一致させることができる。
【0034】
なお、溝22eは、図1では、断面が矩形状の溝であるが、このような形状に限られない。可動鉄心5の後端部に対応する位置の後部磁極22(長筒部22b)の外周面が凹んで当該部分が薄くなっていればどのような形状でもよいが、溝22eの断面が矩形状であれば、溝加工しやすく、溝22eの寸法管理が容易である。ただし、凹むのは外周面側で、内周面側は可動鉄心5の摺動面に当たるため、可動鉄心5の後端部に対応する位置の後部磁極22(長筒部22b)の内周面全体が固定磁極21の円環状部21aの内周面と面一である必要がある。
【0035】
図2は、図1のII部分の拡大図である。前記の通り、溝22eは、可動鉄心5を摺動範囲の最も固定磁極21側(軸方向D1の矢印方向)に位置させたとき(図1の状態のとき)、前記可動鉄心5の後端部に対応する位置であり、かつ前記後部磁極22の外周面に形成する。前記「可動鉄心5の後端部に対応する位置」とは、可動鉄心5の後端部の位置(図2のh)を基準として、固定磁極21側あるいはその反対外に幾分ずれる場合も含まれる。例えば、図2のような位置に溝22eを形成した場合も含まれる。好ましくは、可動鉄心5の後部磁極22側端部の位置(図2のh)を基準として、固定磁極21側に2mm、その反対側に3mmの範囲内に、溝22eの幅方向の中央部が位置するように形成する。さらに、後部磁極22の角部Cは、可動鉄心5を最も後部磁極22側まで摺動可能となるようにヌスミ加工が入っていることがあり、後述の厚みwの管理が難しくなるため、当該ヌスミ加工部を避けることが好ましい。溝22eの幅方向の中央部の位置が、固定磁極21側において2mmを超えると磁束を集中させる効果が少なくなり好ましくない。前述の特許文献3および4においては具体的な寸法の記載はないものの、2mmを超えていると考えられる。少なくともこれらの特許文献において溝部は可動鉄心の後端部に対応する位置よりもかなり非磁性部に近い位置に設けられており、非磁性部付近に電流印加時に磁束が集中するとは考えにくく、これらの溝部では高電流域の吸引力カーブの勾配を低下させることはできない。
【0036】
溝22eの幅(図2の幅g)は0.5mm~2mmであることが好ましい。0.5mm以上で効果的に磁束量の上限値を下げることができる。1.5mm以下であれば1回の加工で溝22eが形成できるのでコスト面で好ましい。また、溝22eの深さは、後部磁極22(長筒部22b)の厚みwが1.5~2mmとなるように、溝22eの深さを調整することが好ましい。厚みwが2mm以下で効果的に磁束量の上限値を下げることができ、1.5mmを下回ると高電流域の吸引力が下がりすぎてしまう。
【0037】
なお、図4(a)、(b)の黒色実線のソレノイドの溝22eは、図1、2のものと同様、断面が矩形状であり、その位置は、上記距離hが1.5mm、幅gが1mm、厚みwが1.825mmである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のソレノイドは、全体の吸引力を下げることなく、吸引力カーブの高電流域の勾配を低下させることができる、という点で産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0039】
1 ソレノイド
2 チューブ
21 固定磁極
22 後部磁極
22b 長筒部
22e 溝
23 非磁性パイプ
3 ソレノイドコイル
31 ボビン
4 ケース
5 可動鉄心
51 ロッド
52 スペーサー
図1
図2
図3
図4