(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184344
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】フェロセン化合物の定量方法
(51)【国際特許分類】
G01N 31/00 20060101AFI20231221BHJP
C07F 17/02 20060101ALN20231221BHJP
【FI】
G01N31/00 V
C07F17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098441
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 和浩
【テーマコード(参考)】
2G042
4H050
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BC08
2G042BD16
2G042CB01
2G042EA08
4H050AA05
4H050AD00
(57)【要約】
【課題】ガス中のフェロセン化合物を定量する方法を提供する。
【解決手段】気体試料中のフェロセン化合物の定量方法であって、気体試料に酸化性ガスを混合し、混合ガスを得る工程(A)と、混合ガスを固気分離する工程(B)と、工程(B)で分離された固体中に含まれている鉄元素の量を測定する工程(C)と、工程(C)で測定した鉄元素の量を用いて気体試料中のフェロセン化合物を定量評価する工程(D)とを含む、フェロセン化合物の定量方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体試料中のフェロセン化合物の定量方法であって、
気体試料に酸化性ガスを混合し、混合ガスを得る工程(A)と、
前記混合ガスを固気分離する工程(B)と、
前記工程(B)で分離された固体中に含まれている鉄元素の量を測定する工程(C)と、
前記工程(C)で測定した前記鉄元素の量を用いて前記気体試料中のフェロセン化合物を定量評価する工程(D)と、
を含む、フェロセン化合物の定量方法。
【請求項2】
前記フェロセン化合物がビスメチルシクロペンタジエニル鉄である、請求項1に記載のフェロセン化合物の定量方法。
【請求項3】
前記工程(B)では、メンブレンフィルターを用いて前記固気分離を行う、請求項1に記載のフェロセン化合物の定量方法。
【請求項4】
前記工程(C)では、蛍光X線分析法を用いて前記メンブレンフィルターに捕捉された固体中の鉄元素の量を測定する、請求項3に記載のフェロセン化合物の定量方法。
【請求項5】
前記メンブレンフィルターの形状が平膜状である、請求項4に記載のフェロセン化合物の定量方法。
【請求項6】
前記メンブレンフィルターの厚さが1mm未満である、請求項4に記載のフェロセン化合物の定量方法。
【請求項7】
前記メンブレンフィルターの孔径が0.1μm以上0.5μm以下である、請求項3に記載のフェロセン化合物の定量方法。
【請求項8】
前記メンブレンフィルターが、セルロース、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネートおよびポリエーテルスルホンからなる群より選択される少なくとも一種を含む材料からなる、請求項3に記載のフェロセン化合物の定量方法。
【請求項9】
前記酸化性ガスが、酸素、オゾン、亜酸化窒素、一酸化窒素および二酸化窒素からなる群より選択される少なくとも一種からなる、請求項1に記載のフェロセン化合物の定量方法。
【請求項10】
前記工程(D)では、検量線法により前記気体試料中のフェロセン化合物の濃度を求める、請求項1~9の何れかに記載のフェロセン化合物の定量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェロセン化合物の定量方法に関し、特にはガス中に含まれているフェロセン化合物の定量方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フェロセン化合物は、添加剤、触媒、化合物の合成材料等の各種用途に用いられている。また、近年では、気相成長法を用いた窒化物半導体層の形成などの半導体製造の分野において、鉄ドープを行う際のドーパント材料としてビスシクロペンタジエニル鉄((C5H5)2Fe)やビスメチルシクロペンタジエニル鉄((CH3C5H4)2Fe)等のフェロセン化合物が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、例えばビスシクロペンタジエニル鉄やビスメチルシクロペンタジエニル鉄等のフェロセン化合物をドーパント材料として用いた半導体製造などにおいては、排ガス処理に用いられる除害装置の能力確認等の観点から、ガス中に含まれているフェロセン化合物を定量する技術、特にはガス中に含まれている微量のフェロセン化合物を定量する技術が求められている。
【0004】
ここで、ビスシクロペンタジエニル鉄やビスメチルシクロペンタジエニル鉄などのフェロセン化合物を定量する技術に関し、例えば特許文献2には溶液中のフェロセン化合物の濃度を測定する技術が開示されているものの、ガス中のフェロセン化合物を定量する方法は確立されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-246195号公報
【特許文献2】特開2015-1400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、ガス中のフェロセン化合物を定量する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、フェロセン化合物を含む気体試料に酸化性ガスを混合し、フェロセン化合物を酸化分解して酸化鉄等の鉄含有化合物の固体として析出させ、析出した固体中の鉄元素の量を測定すれば、気体試料中のフェロセン化合物を定量評価できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、[1]本発明のフェロセン化合物の定量方法は、気体試料中のフェロセン化合物の定量方法であって、気体試料に酸化性ガスを混合し、混合ガスを得る工程(A)と、前記混合ガスを固気分離する工程(B)と、前記工程(B)で分離された固体中に含まれている鉄元素の量を測定する工程(C)と、前記工程(C)で測定した前記鉄元素の量を用いて前記気体試料中のフェロセン化合物を定量評価する工程(D)とを含むことを特徴とする。このように、気体試料に酸化性ガスを混合して得た混合ガスを固気分離し、固体中に含まれている鉄元素の量を測定すれば、気体試料中のフェロセン化合物を定量することができる。
【0009】
[2]上記[1]に記載のフェロセン化合物の定量方法において、前記フェロセン化合物はビスメチルシクロペンタジエニル鉄であることが好ましい。ビスメチルシクロペンタジエニル鉄は、水に対する溶解度が低く、且つ、空気中で酸化され難い化合物であるため、水への溶解や空気中での酸化分解などの処理を経て誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法や比色分析法により定量分析を行うことが困難であるところ、本発明の定量方法を用いれば容易に定量分析を行うことができる。
【0010】
[3]上記[1]または[2]に記載のフェロセン化合物の定量方法において、前記工程(B)では、メンブレンフィルターを用いて前記固気分離を行うことが好ましい。メンブレンフィルターを用いれば、工程(A)における酸化性ガスとの混合によって生じた固体を容易かつ良好に捕集し、工程(C)における鉄元素の量の測定に供することができる。
【0011】
[4]上記[3]に記載のフェロセン化合物の定量方法において、前記工程(C)では、蛍光X線分析法を用いて前記メンブレンフィルターに捕捉された固体中の鉄元素の量を測定することが好ましい。蛍光X線分析法を用いれば、固体中の鉄元素の量を簡易かつ高精度で測定することができる。
【0012】
[5]上記[4]に記載のフェロセン化合物の定量方法において、前記メンブレンフィルターの形状が平膜状であることが好ましい。メンブレンフィルターの形状が平膜状であれば、蛍光X線分析法を用いた測定を容易に行うことができる。
【0013】
[6]上記[4]または[5]に記載のフェロセン化合物の定量方法において、前記メンブレンフィルターの厚さが1mm未満であることが好ましい。メンブレンフィルターの厚さが1mm未満であれば、X線を内部まで十分に入射させることができるので、蛍光X線分析法による鉄元素の量の測定を良好に行うことができる。
なお、本発明において、「メンブレンフィルターの厚さ」は、マイクロメーターを用いて測定することができる。
【0014】
[7]上記[3]~[6]の何れかに記載のフェロセン化合物の定量方法において、前記メンブレンフィルターの孔径が0.1μm以上0.5μm以下であることが好ましい。メンブレンフィルターの孔径が上記上限値以下であれば、工程(A)における酸化性ガスとの混合によって生じた固体を良好に捕捉することができる。また、メンブレンフィルターの孔径が上記下限値以上であれば、固気分離時の圧力損失が大きくなるのを抑制することができる。
なお、本発明において、「メンブレンフィルターの孔径」は、バブルポイントテストによって測定することができる。
【0015】
[8]上記[3]~[7]の何れかに記載のフェロセン化合物の定量方法において、前記メンブレンフィルターが、セルロース、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネートおよびポリエーテルスルホンからなる群より選択される少なくとも一種を含む材料からなることが好ましい。上記材料からなるメンブレンフィルターを用いれば、混合ガス中に含まれている未反応の酸化性ガスによりメンブレンフィルターが劣化するのを抑制することができる。
【0016】
[9]上記[1]~[8]の何れかに記載のフェロセン化合物の定量方法において、前記酸化性ガスが、酸素、オゾン、亜酸化窒素、一酸化窒素および二酸化窒素からなる群より選択される少なくとも一種からなることが好ましい。これらの酸化性ガスを用いれば、メンブレンフィルターなどの固気分離に用いられる部材の劣化を抑制しつつ、気体試料をより良好に酸化処理することができる。
【0017】
[10]上記[1]~[9]の何れかに記載のフェロセン化合物の定量方法において、前記工程(D)では、検量線法により前記気体試料中のフェロセン化合物の濃度を求めることが好ましい。検量線法を用いれば気体試料中のフェロセン化合物の濃度を容易に求めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、気体試料中のフェロセン化合物を定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例および比較例において用いた実験装置の概略構成を示す説明図である。
【
図2】実施例および比較例において作成した検量線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明のフェロセン化合物の定量方法は、気体試料中に含まれているフェロセン化合物の定量、特には気体試料中に含まれている微量のフェロセン化合物の蒸気の定量に用いることができる。
【0021】
(フェロセン化合物の定量方法)
本発明のフェロセン化合物の定量方法は、分析対象の気体試料に酸化性ガスを混合し、混合ガスを得る工程(A)と、混合ガスを固気分離する工程(B)と、分離された固体中に含まれている鉄元素の量を測定する工程(C)と、測定された鉄元素の量を用いて気体試料中のフェロセン化合物を定量評価する工程(D)とを含む。
なお、本発明のフェロセン化合物の定量方法は、工程(A)~(D)以外に、気体試料を前処理する工程等の任意の工程を更に含んでいてもよい。
【0022】
<気体試料>
ここで、分析対象となる気体試料は、通常、フェロセン化合物および不活性ガスを含み、任意に、液滴や固体粒子等の非ガス状成分や、空気、水蒸気、還元性ガス等のその他のガス(フェロセン化合物および不活性ガス以外のガス)を更に含んでいてもよい。
【0023】
[フェロセン化合物]
気体試料に含まれるフェロセン化合物としては、特に限定されることなく、例えば、ビスシクロペンタジエニル鉄(フェロセン);ビスメチルシクロペンタジエニル鉄、ビスエチルシクロペンタジエニル鉄、ビスイソプロピルシクロペンタジエニル鉄、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)鉄(デカメチルフェロセン)等のビスアルキルシクロペンタジエニル鉄;等が挙げられる。
気体試料は、フェロセン化合物を1種類のみ含んでいてもよいし、2種類以上含んでいてもよい。
【0024】
上述した中でも、気体試料に含まれるフェロセン化合物としては、ビスメチルシクロペンタジエニル鉄、ビスエチルシクロペンタジエニル鉄、ビスイソプロピルシクロペンタジエニル鉄が好ましく、ビスメチルシクロペンタジエニル鉄がより好ましい。これらのフェロセン化合物は、半導体製造におけるドーパント材料等として有用である一方、水に対する溶解度が低く、且つ、空気中で酸化され難い化合物である。従って、これらのフェロセン化合物は、空気中で酸化分解させて定量したり、水に溶解させて水溶液の状態としてから誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法や比色分析法により定量したりするのが困難である。しかし、本発明の定量方法を用いれば、これらのフェロセン化合物も容易に定量分析を行うことができる。
【0025】
そして、気体試料に含まれるフェロセン化合物の濃度は、気体状の試料として存在し得る濃度であれば特に限定されるものではないが、例えば0.1ppm以上100ppm以下である。フェロセン化合物の濃度が上記下限値以上であれば、容易に定量することができる。また、フェロセン化合物の濃度が上記上限値以下であれば、固化して配管等に付着することにより分析精度が低下するのを抑制することができる。なお、本発明の定量方法を用いれば、フェロセン化合物の濃度が1ppm未満という低濃度であっても、良好に定量することができる。
【0026】
[不活性ガス]
不活性ガスとしては、フェロセン化合物に対して不活性なガスであれば特に限定されず、例えば、窒素;二酸化炭素;ヘリウム、アルゴン等の希ガス;などが挙げられる。
気体試料は、不活性ガスを1種類のみ含んでいてもよいし、2種類以上含んでいてもよい。
【0027】
<工程(A)>
工程(A)では、気体試料と、酸化性ガスとを混合し、気体試料中のフェロセン化合物を酸化分解させて酸化鉄等の鉄含有化合物の固体として析出させる。そして、工程(A)では、酸化鉄等の鉄含有化合物の固体を含む混合ガスを得る。
なお、工程(A)では、酸化性ガスに加え、空気や水蒸気などの酸化性ガス以外のガスを気体試料に混合してもよい。
【0028】
[酸化性ガス]
ここで、酸化性ガスとしては、空気よりも酸化力が強ければ、任意のガスを用いることができる。中でも、工程(B)における固気分離に用いられる部材(例えば、メンブレンフィルター等)の劣化を抑制しつつ、気体試料をより良好に酸化処理する観点からは、酸化性ガスは、酸素、オゾン、亜酸化窒素、一酸化窒素および二酸化窒素からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
なお、酸化性ガスは、酸素を含むガスであってもよいし、酸素を含まない酸素非含有ガスであってもよいが、酸化性ガスが酸素を含む場合、酸化性ガス中の酸素濃度は、25体積%以上であることが好ましく、50体積%以上であることがより好ましい。
【0029】
[混合]
気体試料と、酸化性ガスと、任意に混合される酸化性ガス以外のガスとの混合は、特に限定されることなく、インラインミキサー、ガス混合機などの任意の気体混合装置を用いて行うことができる。
【0030】
ここで、気体試料に混合する酸化性ガスの量は、気体試料中のフェロセン化合物を酸化分解し得る量であれば特に限定されないが、例えば、気体試料に対する体積比で、0.5倍以上とすることが好ましく、1倍以上とすることがより好ましく、10倍以下とすることが好ましく、5倍以下とすることがより好ましい。酸化性ガスの量が上記下限値以上であれば、気体試料中のフェロセン化合物を十分に酸化分解させることができる。また、酸化性ガスの量が上記上限値以下であれば、工程(B)における固気分離を容易に行うことができる。
また、気体試料と、酸化性ガスと、酸化性ガス以外のガスとの合計量に対する酸化性ガスの量の割合は、特に限定されないが、例えば30体積%以上であることが好ましく、50体積%以上であることがより好ましい。
【0031】
そして、気体試料と、酸化性ガスと、任意に混合される酸化性ガス以外のガスとを混合する順番および条件は、特に限定されることなく、任意の順番および条件とすることができる。
例えば、混合温度は、特に限定されることなく、10℃以上35℃以下とすることができる。また、混合時の圧力は、特に限定されることなく、ゲージ圧で-100KPa以上250KPa以下とすることができる。更に、混合時間は、特に限定されることなく、10秒以上30分以下とすることができる。
【0032】
<工程(B)>
工程(B)では、工程(A)で得られた混合ガスを固気分離し、微粒子等の形態で混合ガス中に存在している鉄含有化合物を捕集する。
なお、工程(B)において捕集した固体は、任意に乾燥等の処理を施してから、工程(C)へと供することができる。
【0033】
[固気分離]
ここで、固気分離は、特に限定されることなく、サイクロン、ろ過器などの任意の固気分離装置を用いて行うことができる。中でも、工程(A)における酸化性ガスとの混合によって生じた固体を容易かつ良好に捕集する観点からは、ろ過器を用いることが好ましく、ろ過材としてメンブレンフィルターを備えるろ過器を用いることがより好ましい。
【0034】
ここで、混合ガス中に含まれている未反応の酸化性ガスによりメンブレンフィルターが劣化するのを抑制する観点からは、メンブレンフィルターとしては、セルロース、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネートおよびポリエーテルスルホンからなる群より選択される少なくとも一種を含む材料からなるメンブレンフィルターを用いることが好ましく、耐酸化力が大きいポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む材料からなるメンブレンフィルターを用いることがより好ましい。
【0035】
また、メンブレンフィルターの孔径は、特に限定されることなく、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましく、0.5μm以下であることが好ましく、0.3μm以下であることがより好ましい。メンブレンフィルターの孔径が上記上限値以下であれば、混合ガス中の固体を良好に捕捉することができる。また、メンブレンフィルターの孔径が上記下限値以上であれば、固気分離時の圧力損失が大きくなるのを抑制することができる。
【0036】
[乾燥]
任意に実施し得る、捕集した固体の乾燥は、特に限定されることなく、乾燥炉などの既知の乾燥装置を用いて行うことができる。
ここで、乾燥温度は、例えば40℃以上60℃以下とすることができる。また、乾燥時間は、30分以上60分以下とすることができる。
【0037】
<工程(C)>
工程(C)では、工程(B)において混合ガスから分離された固体中に含まれている鉄元素の量、即ち、フェロセン化合物に由来する鉄元素の量を測定する。
【0038】
ここで、固体中の鉄元素の量の測定方法としては、特に限定されることなく、例えば、工程(B)で捕集した固体を酸性溶液等に溶解させてICP発光分光分析法により測定する方法や、蛍光X線分析法などが挙げられる。
なお、ICP発光分光分析法を用いる場合、固体中の鉄元素の量は、工程(B)で捕集した固体を溶解させて得た試料溶液の量と、ICP発光分光分析法で測定した試料溶液中の鉄元素の濃度とを乗じることにより求めることができる。また、蛍光X線分析法を用いる場合、固体中の鉄元素の量は、工程(B)で捕集した固体の質量に蛍光X線分析法で測定した固体中の鉄元素の濃度を乗じることにより求めることができる。
【0039】
中でも、固体中の鉄元素の量の測定方法としては、捕集した固体にX線を照射し、発生する蛍光X線の強度を測定することにより鉄元素の量を求める蛍光X線分析法を用いることが好ましい。蛍光X線分析法を用いれば、捕集した固体中にフェロセン化合物に由来する鉄含有化合物以外の物質が含まれている場合であっても、鉄元素の量を簡易かつ高精度で測定することができる。また、蛍光X線分析法を用いれば、鉄含有化合物中に含まれている鉄の価数の影響を受けることなく、鉄元素の量を測定することができる。更に、蛍光X線分析法を用いれば、試料溶液を調製する必要が無いので、鉄含有化合物が溶媒に溶解し難い化合物であっても容易に測定することができる。
【0040】
ここで、工程(C)において蛍光X線分析法により鉄元素の量を求める場合、上述した工程(B)では、メンブレンフィルターを用いて固気分離を行うことが好ましい。工程(B)においてメンブレンフィルターを用いて固気分離を行えば、固体を捕捉したメンブレンフィルターに対してX線を照射することにより、容易に鉄元素の量を求めることができるからである。
【0041】
また、工程(B)においてメンブレンフィルターを用いて固気分離を行い、更に工程(C)において蛍光X線分析法により鉄元素の量を求める場合には、メンブレンフィルターの形状は、平膜状であることが好ましい。メンブレンフィルターの形状が平膜状であれば、蛍光X線分析法を用いた測定を容易に行うことができる。
【0042】
更に、工程(B)においてメンブレンフィルターを用いて固気分離を行い、更に工程(C)において蛍光X線分析法により鉄元素の量を求める場合には、メンブレンフィルターの厚みは、1mm未満であることが好ましく、0.3mm以下であることがより好ましい。メンブレンフィルターの厚さが1mm未満であれば、X線を内部まで十分に入射させることができるので、蛍光X線分析法による鉄元素の量の測定を良好に行うことができる。
なお、メンブレンフィルターの厚みは、通常、0.05mm以上である。
【0043】
<工程(D)>
工程(D)では、工程(C)で測定した鉄元素の量を用いて気体試料中のフェロセン化合物を定量評価する。
【0044】
[定量評価]
ここで、気体試料中のフェロセン化合物の定量評価は、気体試料中のフェロセン化合物の濃度の値(絶対値)を求めることにより行ってもよい。また、除害装置の能力比較や、除害装置の破過検出等を目的として気体試料中のフェロセン化合物の定量評価を行う場合には、基準となる気体試料との間、或いは、複数の異なる気体試料の間で工程(C)において測定される鉄元素の量を比較してフェロセン化合物の濃度の大小を相対評価することにより、定量評価を行ってもよい。
【0045】
なお、工程(C)で測定した鉄元素の量から気体試料中のフェロセン化合物の濃度の値(絶対値)を求める場合、フェロセン化合物の濃度は、工程(A)において気体試料中のフェロセン化合物が全て酸化分解されると共に工程(B)において鉄含有化合物が全て捕集されたと仮定し、鉄元素の量をフェロセン化合物の量に換算して、酸化性ガスと混合されて固気分離に供された気体試料の量で除すことにより求めてもよい。但し、各装置の壁面や配管等へのフェロセン化合物の付着、および、固気分離の際に分離されずに気体側に残留する微粒子等の固体の存在を考慮すると、正確性の観点からは、フェロセン化合物の濃度は、検量線法により求めることが好ましい。検量線法を用いれば、気体試料中のフェロセン化合物の濃度が低い場合であっても、正確に定量することができる。
【0046】
ここで、気体試料中のフェロセン化合物の濃度と、工程(C)で測定される鉄元素の量との関係を示す検量線は、例えば、定量分析の対象の気体試料に対して工程(A)~工程(C)を行うのと同じ分析系においてフェロセン化合物の濃度が既知の標準気体試料に対して工程(A)~工程(C)を実施することにより、作成することができる。
【実施例0047】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実験装置)
以下の実施例および比較例で用いる実験装置として、
図1に示す実験装置100を準備した。
ここで、
図1に示す実験装置100は、酸化性ガスとしての酸素を混合部60に供給する酸素ライン10と、気体試料を混合部60に供給する気体試料ライン50と、気体試料および酸素を混合する混合部60と、混合部60で得られた混合ガスをメンブレンフィルター71で固気分離するろ過器70とを備えている。また、実験装置100は、気体試料を調製する機構として、恒温槽41内に設置されてフェロセン化合物としてのビスメチルシクロペンタジエニル鉄(MeCp
2Fe)を貯留する貯留部40と、不活性ガスとしての窒素を貯留部40へと供給する窒素ライン30と、貯留部40から流出した窒素およびビスメチルシクロペンタジエニル鉄を含むガスに混合部60の手前で空気を供給する空気ライン20とを備えており、貯留部40内のビスメチルシクロペンタジエニル鉄は窒素に同伴して貯留部40から流出し、任意に空気と混合されて、窒素と、ビスメチルシクロペンタジエニル鉄と、任意の空気とを含む気体試料となる。なお、酸素ライン10、空気ライン20および窒素ライン30には、それぞれ、マスフローコントローラー11,21,31が設けられている。また、酸素ライン10、窒素ライン30および気体試料ライン50には、それぞれ、弁12,32,51が設けられている。
【0049】
(実施例1)
図1に示す実験装置において、恒温槽の温度を25℃とし、表1に示す流量で酸素、空気および窒素を3時間流した。なお、使用したメンブレンフィルター(Merck社製、オムニポア;孔径0.2μm、厚さ0.065mm、PTFE製の平膜状メンブレンフィルター)は、設置前に重量を測定しておいた。
そして、メンブレンフィルターを回収し、乾燥した後、重量測定および蛍光X線分析装置(リガク社製、PrimusIV)による蛍光X線分析を行い、メンブレンフィルターに捕捉された固体の重量および固体中の鉄元素の濃度を測定した。そして、鉄元素の重量(Fe重量)を求めた。また、窒素および空気の流量と、貯留部内のビスメチルシクロペンタジエニル鉄の減少量とから、ビスメチルシクロペンタジエニル鉄、窒素および空気を含む気体試料のMeCp
2Fe濃度を算出した。
表1に示す各流量で測定を2回繰り返し、横軸が気体試料のMeCp
2Fe濃度で、縦軸が固体中の鉄元素の重量(Fe重量)であるグラフに測定結果をプロットし、最小二乗法を用いて検量線を作成した。得られたグラフを
図2に示す。
得られた検量線の決定係数R
2は0.9964であった。
【0050】
(比較例1)
酸化性ガスである酸素を使用せず、空気および窒素を表1に示す流量で3時間流した以外は実施例1と同様にして、測定、並びに、グラフおよび検量線の作成を行った。得られたグラフを
図2に示す。
得られた検量線の決定係数R
2は0.8207であった。
【0051】
【0052】
酸化性ガスである酸素を使用した実施例1では、決定係数R2が0.99以上の直線性に優れる検量線が得られ、酸素を使用しなかった比較例1と比較し、測定点のばらつきが少なかった。
そのため、本発明の定量方法によればフェロセン化合物を良好に定量できることが分かる。
【0053】
(実施例2)
図1に示す実験装置において、恒温槽の温度を25℃とし、表2に示す流量で酸素、窒素および任意の空気を1時間流した。なお、使用したメンブレンフィルター(Merck社製、オムニポア;孔径0.2μm、厚さ0.065mm、PTFE製の平膜状メンブレンフィルター)は、設置前に重量を測定しておいた。
そして、メンブレンフィルターを回収し、乾燥した後、重量測定および蛍光X線分析装置(リガク社製、PrimusIV)による蛍光X線分析を行い、メンブレンフィルターに捕捉された固体の重量および固体中の鉄元素の濃度を測定した。そして、鉄元素の重量(Fe重量)を求めた。結果を表2に示す。
次に、求められた鉄元素の重量(Fe重量)について、実施例1で検量線を作成する際のガスの流量および流通時間に合わせた補正値を算出し、実施例1で作成した検量線を使用し、算出した鉄元素の重量(Fe重量)の補正値から気体試料中のMeCp
2Fe濃度を求めた。なお、補正値は、実施例1で検量線を作成する際の気体試料の流量と流通時間との乗算値を、鉄元素の重量(Fe重量)を求めた際の気体試料の流量と流通時間との乗算値で除した値を鉄元素の重量(Fe重量)に乗ずることによって求めることができる。
そして、窒素および空気の流量と、貯留部内のビスメチルシクロペンタジエニル鉄の減少量とから求めた気体試料のMeCp
2Fe濃度の理論値と比較した。
結果を表2に示す。
【0054】
【0055】
表2より、気体試料中のフェロセン化合物の濃度および酸化性ガスとしての酸素の流量を変動させた場合であっても、本発明の定量方法によればフェロセン化合物を良好に定量できることが分かる。